かき氷を忘れた高校生
日が脇腹を刺し月を示し始める時に人は恋をするのであろう。夕方とまではいかず、その時間には名前がないのであろう。少なくとも私はそう思い続けている。駅のホーム、隣に据える君を見ている私はその横顔の儚たるや感動すら感じられる絶望を奥歯で噛み締めている。
「明日は部活来るの?」
いつもより素っ気なく聞いたつもりだった。
「梅田はどうするん?」
君はそんな私を見透かす様に意地悪い声で言った。
「中井が行くなら行くつもり」
遠い目で言った。言ったつもりだ。そうしてる中でも君は私のことを見ているのだろう。笑顔を左側から溢れんばかり感じていた私は電車遅延の放送を聞き安堵の声を漏らそうとして困惑していた。気まずい雰囲気を私が作り出しているのだと私自身が一番自覚しているのにも関わらず。
名を中井美花と言う。私が密かに愛してたまらない人物だ。多分。
翌日のことはよく覚えていない。翌々日、ネットニュースを見ていた。「高校生路地裏にて死亡。制服から〇〇高校のニ年生、学生証より名前は中井美花、顔面は見分けがつかないほどの出血、打撲。左腕と両目、右耳が失われている状態。いずれも発見には至らず。犯人は〜・・・」。あぁ、死んだか。目を通し思うことはそのくらいだった。
私と中井は共に死にたがりであった。中井の親は、父は海外赴任をして母は出張気味であったため一人になることが多かった。私と中井は病んでいた。共に学校内では明るく振る舞っていたが、たちまち日が沈めば、気分は深く深く核の部分に優しく触れていった。中井もそうであったのだろう。私は毎日のように中井の家に赴き共に手首、腕を切り合った。リストカットっていう言葉に当てはめたくなかったが、悔しくとも典型的なそれであった。切り合っている中井の顔はこの上ないほど満面の笑顔で私に優しく溶け合おうとする。付き合っているとか、そんな関係でない。互いにその核に壁を隔て合っているというのが一番言語化に間違っていない表現だ。とろりとソフトクリームが溶けているような目に流れるバニラを私が身を中井に寄せるようにし、舐めると中井は
「舐めてや」
腕を私の目の前に置くようにした。一緒に舐めた。舐められるのは結構気持ちがいいのだと思った。中井も同じことを思ったのだろう。
「私、梅田のこと好きや」
狂ったような笑顔に君は借り物の言葉だと私は見抜いていた。
「僕は嫌いだ、」
本心でないことを言わないでくれ、そういつも口に出そうとしてやめておく。流れ作業であり非凡な人間が黒く身を包みただ電車で鉄の板を見ているだけとそう変わりはない。
いつの日か忘れてしまった。けどその日は腕を切ることはなかった。
「ねえ、今日うちにアイスあるんやけど食べへん?」
「今日はしないの?」
「今日はええかな。ちゃうことしたくなってん。」
アスファルトに日が若干照っていた。手を繋ぐか繋がないかを迷わせる距離に君を置いている様で私はあまりいい気がしなかった。
血の乾いた匂いに私は中井の部屋を狭めた気がする。二人羽織の様な体勢で座っていた。中井は私の傷の跡を頬で感じるように、または唇でそれを確かめるように。
高校一年生の私にそう、、、あまり充実感というものは感じることはできなかった。地元の少しばかり良い私立中学に進学をし、周りの勉強の雰囲気に飲まれるようにして勉強をしていた。私は勉強というものに好かれていたようであまり勉強で苦労した覚えはない。部活動も卒なくこなしているつもりであったが、人間と関わるのがどうも下手であった。その時からであろうか、県外の高校に行きたいと母に打ち明けたのは。食後にテーブルを母は拭いていた。「何言うてん」と母は冗談を受け流すかのようであったが、私の目を見るなり「殺す気かいな」って。私は少しばかり、母が恐れていたことと成ろうとしているのか、困惑より少しばかりの期待に「悲しい」と嘘を吐き部屋へ戻って行った。
初めから少しわかっていた節がある。家には父がおらず母が女手一本で私を育ててくれていた。昼はある会社の事務員をして、夜中にまで残業をしてやっと私と母の生活が成り立つような、そんな生活であった。だから、高校生になった私は母の役に立てばと思いアルバイトを始めていた。その時の私の腕は傷一つもなく、酷く綺麗であった。
話はまた、変わりゆくものへとなってしまった。中井と始めて会ったのは高校二年、始業式の日。典型的な恋愛漫画などでみられるような、横顔の美しく見える席だった。窓越しへ見える背景は背景として掠めていた。それほど。麗しさであったか。腕は二の腕のあたりにまで白いガタガタとしている直線になりかけているものが浮き出ていた。いつまで見つめていただろう。君が私を見ていることさえ気づかなかった。
「ねえ、」
「ごめん、つい、、、」
「梅田、ちさ、どんな字をしてるの。」
「あ、えっと、、、笑止千万の千に、沙羅双樹の沙。」
「私、中井美花、美しい花って書く。ねえ、女の子みたいな名前だね。」
「母親が男の子の名前を考え付かなかったらしいからね。」
目を少し細めて静かに笑う君は両手を口元へ隠して笑う。今振り返って解る。君をこの時どうにかしてやろうと、、、?
「さっき私のこれ見たよね。」
左腕を少し揺らしていた。
「ごめん、」
「ええの、ええの。けど誰にも言わんといて。」
誰にも言わなくとも誰の目から見てもその切り傷は目立って仕方がないであろう。自己紹介も一通り終えてチャイムが鳴る。
友達ができた。中井ではなく。後ろの席に座っていた、確か高森春人と言ったはず。あまり好きではなかった。けれど面白いやつだった。常にクラスの中心へ私も共に連れて行ってくれていた。底抜けに明るい人間だった。私の思うに、私を影として春人は光をより目立つように仕向けていたのだろう。
6月頃か。恋愛の相談を受けた。こちらは余り憶えていなかった。思い出そうとしても何故か思い出せなかった。甲高い声と大声で笑うところが嫌いだった。どんな性格の子が好きかとか下らない事を聞いてきたのは憶えていた。
中井との絡みはあまりなかった。
私は一番に教室について、本を読むのが楽しみであった。ただその日は少し違った。私の学校は初めに来た人が自らのクラスの教室の鍵を開けるようになっていた。私はいつも鍵を職員室まで取りに行っていたがその日は既に鍵がなかった。誰かが取ったのか、そんな風にしか思っていなかったが。
やけにガラガラという音が煩く私の耳を巡っている。目にしたものに私は嬉しさを隠しきれずにいてしまった。そう言えば鍵を取りに職員室に行く途中、少し変な目で見られていたな。
教室の真ん中には首を吊った高森がいた。
こちらを睨んでいるようだ。いやそんなはずはない。彼は死んでいる、しかし私はやけに彼の目をくり抜きたいという欲求に駆られてしまった。そこから先はあまり覚えていない。私はやけに他人事と思わせる様で担任へ事実を伝えていた。そこに感情を匂わせることはなかった。担任と共に教室へ向かうとそこに佐藤、あぁ、佐藤と言ったな。佐藤紗奈。私に恋愛相談を持ちかけた人間のこと。彼女はやはり自分が大好きだったのだろう。私には人間のそれが見受けられないと思ってしまう。言葉を自らのために選んでいるようで吐き気がした。横向きに倒れている椅子が鳴るはずもないガタンという音がまたした気がする。担任は警察への電話をしたが救急車への電話をすべきか私に聞いてくるほどの焦り具合であり少し滑稽だなと俯瞰して見れてしまっていた。
葬式になり私はまた嫌悪感を覚えたことがある。それは二年生になってまだたかだか3、4ヶ月の人間にこれほどまで涙を流す行為だ。高森に対しての何か馬鹿にしている行為であると思えてしょうがなかった。
十一月になってしまった。もう高森の名を出して「あの頃は、、、」と言ってしまう浅はかな人間であったのかと失望を覚えた時だった。けど中井。彼女だけは昨日であったかのようにそれを語る。
死ねと言えば死にそうな男であったな。今でもそう思う。中井もかと言われればそれは少し違うだろう。目の玉の味はあまり分からない。食感は何か牡蠣か、けど少しほろほろとしていたか。柔らかいレバーが一番いい表現か。何となく今日かと思っていたよ。
私は晩餐を食べようかと待っていたが「それ」は私の目の前へ出なかった。それもそうか。彼女の左腕は殺した日に食べてしまったから。筋張っていたなぁ。
生き方はまた人それぞれである。私も私自身で生きてはダメであったと今わかった。
最期の言葉はそれであった。
執筆の狙い
最後に向かってだだだだーっと駆け足(駆け足どころかジェットエンジンみたいに)なってしまったのは申し訳ないです、、、;;
めっちゃくちゃダラダラと書いてしまったせいで終わりの方の書き方が少し変わっているのが違和感なのもご了承いただけると嬉しいです、、、
自分の中で葛藤してこのままじゃダメだとそうでないと梅田が私をも殺してしまうだろうと思って、、、
飽き性なのを治さねばならないですね、、、
やっぱ高校生の恋愛って難しいっ!!
それだけです。私が言いたいことは。