紅の趣5
地面から、無数の土が勢いよく噴き出た。
土と砂塵は、3人の男の周囲を瞬く間に覆ってしまう。
一瞬で見えなくなった。
「…この!」
サネツグに向け、男が飛び出す。手には短剣。男は剣を振り下ろす。
サネツグは少し低く構え、左手を出す。短剣の降ろす先は左手。
(斬られる)
ハルはそう思った。だが次の瞬間、剣は左手に乗っかった形で止まった。
いや。
止まったのではない。
軌道そのものが、歪んでいた。
次の瞬間。
パキン、と乾いた音がした。
刀身に亀裂が走る。
そして、砕けた。
文字の羅列。円状の陣が再びサネツグの頭上に展開された。
男は後退り、見るからに震えていた。
後方の砂塵が散った。残りの2人の姿が露わになる。
「退け。大人しく」
サネツグが短く言った。
「こりゃ本物だ」
「あぁ、理式師相手じゃ分が悪い」
3人がヒソヒソと目配りをしながら話し合った。
「俺らが欲しいのはラベルだけなんだ」
一人が言った。
「あのガキのだ、アンタに用はねぇ」
彼ははハルを指差した。だがサネツグは微動だにしない。
「掃除の邪魔だ。失せろ」
「テメェ…」
危ない。思わず本音が出そうになった。男はコホンと咳をし、今度は温和な笑みを作る。
「荒らしたりしないからさ。ちょっと押さえつけるだけ。それでいいだろ?」
ハルはトライシクルの裏に潜んでいた。存在自体はバレているが、鞄から短刀を持ち出すのにはうってつけだ。
サネツグは、嗤った。
「ハハハ。まだ気づかないのか?」
「あぁ?」
男の目線があからさまに挑戦的になる。
「ここにいることすら、迷惑なんだよ」
一瞬の出来事だった。
男が砕けた刀を振る。しかし、刀の軌道が僅かに逸れた。
「……?」
もう一度。やはり届かない。
がむしゃらに振られた刀はサネツグの横を通り、空を切る。
「何だ……?」
サネツグは静かに言った。
「流れを変えただけだ」
「流れ?」
「力の向き、足の運び、武器の軌道。全部、少しずつな」
男が後退する。その横から、別の男が走り込んだ。
サネツグはそちらを見る。
「二人目」
男が拳を握り殴りかかる。
足元に文字の円が浮かんだ。
男の身体が、ふっと横へ流れる。
「うわっ!」
男はその場で体勢を崩し、尻餅をついた。
「な、何をした!」
「倒しただけだ」
サネツグは答える。
「怪我はしてないだろ」
男は自分の身体を確認する。確かに、何も起きていない。
「……こいつ」
三人目が距離を取った。
サネツグは工具箱を持ったまま平然としている。
男は周囲を見回す。
「三人だぞ」
「知ってる」
「なら――!」
三人が同時に動いた。
1人は折れた刀を振り、1人は拳を握り締め、1人は石を拾い投げつける。
三方向から迫る。
ハルが思わず息を呑む。
だが。
サネツグは一歩も動かなかった。
「整流」
紅い光が広がる。
三人の動きが、同時にずれた。
刀は空へ。拳は横へ。石は地面へ。
互いの動線が完全に噛み合わなくなる。
「な……」
「どうなってる……」
3人は動けない。重力に抑えつけられたかのように、完全に動きが止まっている。
サネツグは三人の間を歩く。
「お前らは、自分の力で動いている。俺は、その結果だけを少し変えている」
男が再び石を拾おうとする。
しかし、拾おうとすると腕が自然に上へ向いてしまう。
「くそっ!」
反対へ。今度は下へ流れる。
「無駄だ。俺が解除するまで、狙った方向には動かせない」
拳を握った男も試す。
踏み出そうとすると、足が止まる。
「動けねぇ!」
「動けないんじゃない」
サネツグは首を横に振る。
「動こうとした方向を変えられてるだけだ」
そして、紅い光が消える。
三人の動きが戻る。
だが、誰も構え直さなかった。掃除屋1人に敵わないことを認めながら。
サネツグは三人を見る。
「もう終わりだ」
「……殺さないのか?」
男が尋ねる。
サネツグは不思議そうな顔をした。
「なんで殺すんだ?俺たちはお前らを襲った」
「そうだな。だが、俺は勝った」
サネツグは即答した。
「それで十分だろ」
男は黙った。
「殺し合いがしたいわけでもない」
男達は、何も言えなかった。
彼らはハルを少しだけ見やると、視線を戻した。
3人は帰って行った。
ハルはサネツグを見つめる。
「……すごい」
「何が?」
「誰も傷つけてない」
「当たり前だ。死体の片付けは面倒だからな」
「理式って、ああいうものなのか?」
サネツグは少し考えた。
「……こういうのもある」
「でも、もっと凄い技もあるんだろ?」
「ある」
「じゃあ、教えてくれ」
サネツグはハルを見る。
「無理」
「なんで?」
「面倒だ」
即答だった。
サネツグはしゃがみ込み、刀の破片を一つずつ拾い始める。
「仕事を増やしやがって……。なんでよりによって俺のところで……」
ぶつぶつと文句を言いながら、破片を工具箱へ放り込んでいく。
やがて、顔を上げた。
「何してる。早く帰れ」
「え?」
「また襲われたらどうする。さっさと消えろ」
サネツグは手を振って追い払う。
ハルは渋々、鞄を持ち上げた。
その時だった。
「おい」
サネツグがトライシクルを指差す。
落ち葉はすっかり剥がれ、車体が丸見えになっていた。
「それ、どうする気だ?」
ハルは振り返る。
「ここに置いておく」
サネツグが瞬きをする。
「乗れ」
「え?」
「速く」
「いや、でも――」
「いいから乗れ」
サネツグは立ち上がり、ハルの背中を押した。
「ちょっ……!」
「京都まで歩く気か? そんな目立つもん置いていったら、盗られるぞ」
ハルは仕方なくトライシクルにまたがった。
サネツグは少し離れ、工具箱を片手に持ったまま手を振る。
「じゃあな、少年」
ハルが振り返る。
サネツグは、気だるそうな顔だった。
「……死ぬなよ」
「え?」
「俺が助けたんだ。無駄にするな」
ぶっきらぼうな言葉だった。
ハルは少し黙った。
そして、アクセルへ手を掛ける。
エンジンが唸った。トライシクルがゆっくり動き出す。
「……助けてくれて、ありがとう」
サネツグは答えなかった。
ただ、片手を上げる。
ハルはそのまま森を抜けていく。
向かい風が頬を冷たく撫でた。
少しずつ、サネツグの姿が遠ざかっていく。
ハルは一度だけ振り返った。
(あの理式……格好良かったな)
そして前を向く。
トライシクルは、京都へ向かって走り去っていった。
サネツグは、見えなくなるまでその背中を眺めていた。
やがて、手を下ろす。
「……ラベル、か」
小さく呟く。
「ってことは、紅燐祭だな」
少しだけ苦笑する。
「ハハ……面倒なことになってんな」
サネツグは工具箱を持ち直し、散らかった地面へ視線を落とした。
「さて……これ、全部片付けんのかよ」
深いため息。
再び、刀の破片を拾い始めた。
ーーー
『一、紅燐祭期間 文月五日~一二日 ノ 一週間とする』
今日は文月七日。ハルが参加してから2日目だった。
あまり時間はない。
紅剣はない。
今の自分にあるのは、この短刀だけ。
「……まあ、やるしかないか」
トライシクルの速度を落とす。
今度はもっと京都に近い所に隠した。
「これでいいな」
森林の中、草木に囲まれて滅多に見つからないだろう。
ハルは再び道に出た。
城門が近づいてくる。昨日も通った、南門だ。
昨日とは違い、今朝は人の列が少ない。
ハルはそのまま南門を抜け、京都へ入った。
相変わらず、人が多い。
武器を持った人間。理式師らしい者。傭兵。貴族らしき服装の人間。
昨日よりも、少しだけ街の見方が変わっていた。
ここにいる人間の多くが、紅燐祭の参加者なのだ。
「さて…どうするかな」
ハルはあたりを見渡す。
その時だった。
「おい」
背後から声がした。
ハルが振り返る。
そこに、一人の青年が立っていた。
黒髪。
くすんだ緑色の外套。
腰には短剣。
穏やかな顔をしている。
「昨日、参加登録しただろ」
「……誰だ?」
青年は少し笑った。
「アサギ・ガクだ」
「何の用だ?」
ガクはハルを上から下まで見る。
そして、あっさりと言った。
「お前、素人だろ」
ハルの眉が動く。
「……そう見えるか?」
「見える」
即答だった。
「歩き方。武器の持ち方。周囲を見る回数。全部。それに」
ガクはハルの腰を見る。
「ラベルを持ってない」
ハルは身構える。
(来た)
今朝もそうだった。
紅燐祭の参加者は、ラベルを狙ってくる。
「俺は持ってない」
「知ってる」
「……じゃあ何だ?」
ガクは少しだけ首を傾けた。
「仲間にならないか?」
「……は?」
予想していなかった。
「ラベルをよこせ、とかじゃないのか?」
「持ってないんだろ?」
「そうだけど」
「じゃあ奪う意味がない」
ガクは当然のように言った。
「俺たちは今、四人で組んでる。もう一人くらい増えても困らない」
ハルは疑うような目でガクを見る。
「紅燐祭で一番危ないのは、強い奴じゃない」
「……?」
「自分が強いと思ってる奴だ」
その言葉に、ハルは少し黙った。
「話だけでも聞いてみないか?」
ガクはそう言って、歩き始めた。
「来るなら来い」
ハルは少し迷った。
「……分かった」
意を決して、ハルも歩き出した。
広場から少し離れた場所。
古い建物の陰に、三人の人間がいた。
一人はゴビー。
ハルを見るなり、目を丸くした。
「マジかよ」
「知り合いか?」
ガクが聞く。
ゴビーは笑った。
「よう、坊主」
ゴビーは手を上げる。
「まさかお前、俺らと組むってのか?」
「話を聞くだけだ」
「ハハハ!」
ゴビーは腹を抱えて笑った。
「何がおかしいんだよ」
「いや、別に」
ゴビーは涙を拭う。
「お前、見る目がねぇなぁ」
「どういう意味だ」
「こいつら、理式師一人もいねぇぞ」
ハルはガクを見る。
ガクは肩をすくめた。
「いない」
「……本当に?」
「本当に。でもだからこそ、俺の話を聞く価値があるだろう。特に、素人には」
ゴビーの笑いが収まる。ガクが鋭い目つきでハルを見据えた。
「俺たちは、理式師様に全部任せるなんて芸当はできねぇ」
ゴビーが言う。
「じゃあ、どうやって戦うんだ?」
「役割分担だ」
ガクが静かに答えた。
横にいた青年が口を開く。
「俺はカイ」
短い言葉だった。
黒髪。細身。腰には長剣。
ハルを見る目は、あまり友好的ではない。
「よろしく」
「……よろしく」
隣には少女がいた。
茶色の短髪。
腰には工具。
「私はミナ」
ミナはハルを見て、首を傾げた。
「子供?」
「そうだけど」
「若……」
「悪いか?」
「別に」
ミナは肩をすくめる。
「死ななきゃいいんじゃない?」
「縁起でもないな」
「紅燐祭だからな」
隣でゴビーが笑いなばら言った。
ハルは四人を見回した。
「で、どんな話をしてくれるんだ?」
ハルは佇まいを整え、ガクを見やる。
「俺たちは、ラベルを奪い合わない」
ガクが勝ち誇った表情で言う。
「でも、ラベルを集めないと優勝できないだろ」
「そうだな」
ガクは頷いた。
「だが、我々は余計な敵を増やさない」
ハルは黙って聞いている。
「互いに揉める必要もねぇ。必要なら協力する」
ゴビーは指を一本立てた。
「互いに利用するだけだ」
「利用?」
「ああ」
ゴビーは笑った。
「俺たち聖人じゃねぇ。仲良しこよしでもねぇ」
そして、ガクを見る。
「ただ、ガクのやり方は至極単純だ」
ガクが続ける。
「一緒にいる方が生き残れるなら、一緒にいる。それだけだ」
ハルは少し考えた。
「……それ、悪くないな」
ガクが笑った。
「だろ?」
ゴビーが突然、手を叩いた。
「決まりだな」
「何が?」
「参加だよ、新入り」
「昼に郊外に出かける。ハル君もついてきて損はない」
ガクはハルとゴビーを交互に見やった。
「確かに。それならやる価値はある。どうせ何も考えていなかったんだ」
ハルは言った。
「俺らの名前」
ゴビーは少し困った顔をした。
「……小僧に言ってみりゃいい」
「そうだな。仲間なのだし」
ガクは一度だけ息を吸った。
「開凡組」
ハルは目を瞬く。
「かい……ぼん?」
「凡人を開放する」
ガクは静かに言った。
「理式師じゃなくてもいい。貴族じゃなくてもいい。特別な血筋じゃなくてもいい」
ゴビーが笑う。
「俺らみたいな普通の人間でも、生き残れるってことだ」
ハルはその名前を頭の中で繰り返した。
開凡組。
「おかしな意味だな」
「だろ?」
ハルとゴビーは互いを見遣って笑った。
ガクが少し不満げな表情をしている。
何気ない日常と言われるものだったのかもしれない。
でも。そう意識しない限り、消えるのはあっという間なのだ。
---
昼。
五人は京都の西門を出た。
西側には広大な森林が広がっていた。
旧文明時代の道路は途中で途切れ、木々がその上から覆い被さっている。
「西には何があるんだ?」
ハルが聞く。
「森」
ゴビーが答える。
「それは見れば分かる」
「機械人間もいる」
「……そっち先に言えよ」
ミナが歩きながら小さな地図を広げる。
「この辺りは比較的、機械人間の目撃数が多い」
「だから、ここで探す」
ガクが言った。
しばらく歩く。
「おぉ、キノコがあるじゃねぇか」
ゴビーが木のそばでかがみ込んだ。
ハルとガクが足を止めた。
「へぇ、珍しい。食えるのか?」
ガクがキノコを覗き込んだ。
「それ毒だぞ」
ハルは脇で言った。
「毒?」
「村の近くでよく採れた。食べた奴は皆死んだ」
次の瞬間、ゴビーが盛大に噴き出す。
「ガクさん、そんなことも知らんかったのか?」
「だが見た目は綺麗だ」
鳥の声。風。木々の揺れる音。
「いた」
前を歩いていたカイが静かに声を発した。
全員が動きを止める。
木々の向こう。
機械人間が一体。こちらに向かって歩いてくる。
胸には赤い金属板。23。
ハルの表情が変わった。
「……あいつ」
昨日見た機械人間だった。
「知ってるのか?」
ガクが聞く。
「ああ。昨日見つけた」
「戦った?」
「いや」
ガクはしゃがむ。
五人は思い思いに森の両脇に潜んだ。
23号は一定の速度で歩いている。
そして、ハルらの場所を通り過ぎた。
誰も不用意には近づかない。皆息を殺している。
「追うぞ」
やがて、ガクが口を開いた。
ガクとカイが先頭、他は後ろから少しずつ進む。
23号は森の奥へ進み続けた。
木々の間に、巨大な岩壁が見えてきた。
その中央に暗い穴がある。
23号が闇に吸い寄せられるように中へ入っていく。
「……洞窟?」
ハルが呟く。
ミナが地図を見る。
「こんな場所、記録にない」
ゴビーの顔から笑みが消えた。
「おかしいな」
「何が?」
「23号が、わざわざ洞窟に入った」
「それが?」
「巣穴がある機械人間なんて、聞いたことあるか?」
「普通はない」
ミナが答える。
全員が洞窟を見る。
ガクが言った。
「俺とカイが行く」
「大丈夫か?」
ハルが聞くと、ガクは軽く笑った。
「ちょっと様子を見るだけだ」
ガクとカイが洞窟へ近づく。
ハルは待つ。ゴビーも動かない。ミナは地図を握っている。
数分が経った。緑が揺れ、小鳥が鳴いている。
そして。
「うわあああああっ!」
ハルが立ち上がった。
「まさか」
ゴビーが腕を掴む。
「待て」
ゴビーの声は低かった。
洞窟から音がする。金属音。
何かが地面を引きずる音。
そして。また悲鳴。ガクのものかカイのものか、判別できないぐらい奥から聞こえた。
「助けないのか?」
ゴビーは洞窟を見た。
「……勝算がねぇ」
「二人がいる」
「だからだ」
「二人は死ぬかもしれないんだぞ?」
「覚悟の上だ」
ゴビーは吐き捨てた。
ハルは洞窟を見る。
「じゃあ見捨てるのか」
「違う」
ゴビーは短く答えた。
「俺たちまで入ったら、全滅する」
ミナが唇を噛む。
「でも……」
ハルは立ち上がった。
「俺は行く」
「坊主」
「敵はいくつか、どのくらいか。情報がないと駄目だ」
ハルは短刀を抜いた。
「私も行く」
ミナも地図を畳んだ。
ゴビーがため息をつく。
「馬鹿二人かよ」
「ゴビーは?」
「俺はここにいる」
ハルが振り返る。
「なんで?」
「帰ってくる場所を守る」
ハルは少しだけ驚いた。それでも洞窟へと足を進める。
「死ぬなよ」
「分かった」
ハルとミナは洞窟へ走った。
---
洞窟の中。
暗い。明かりはない。
ミナが小さなランプを取り出す。
「足元、気をつけて」
「分かった」
二人は黙って奥へ進む。
金属音が聞こえる。
まだ戦っている。近い。
「ガク!カイ!」
返事はない。
さらに奥へ。
やがて、壁に何かが見えた。
ハルがランプを向ける。
「……何だ、これ」
壁一面に、赤い金属板が埋め込まれている。
ラベルだった。
一枚。
二枚。
十枚。それ以上。
「……これ」
その瞬間。
奥から金属音。
ハルが振り返る。
暗闇の中に二つの赤い光。
一つ。
また一つ。
さらに一つ。
無数の光が浮かび上がる。
「……機械人間」
ミナの声が震える。
それも、一体ではない。
五体。十体。それ以上。
洞窟の奥には、機械人間が群れていた。
まるで巣だった。
その中心。
洞窟の片隅に影があった。
ガクが膝をついている。
カイは立っていたが、追い詰められた格好だった。
23号がハルらの前に立っている。
そして。
その背後には、さらに機械人間がいた。
ハルは息を呑む。
「……こんなに」
ミナが震える声で言った。
「機械人間の巣…?」
ハルは短刀を構えた。23号の赤い光がハルを捉える。
コツ。コツ。一歩ずつ近づいてくる。
その瞬間、カイの足が少しだけ動いた。
「お、俺は…剣の腕には自信がある」
「おい」
ハルは呼び止めたが無駄だった。
カイは剣を抜いて23号目掛けて突進した。
「はぁぁぁぁ!」
「よせ!」
カイが跳躍し、23号目掛けて剣を振ろうとした。
しかし聞こえたのは斬撃ではなく、肉が潰れる鈍い音だった。
23号の腕がカイごと地面に叩き潰した。
カイの胴体がハルとミナの目の前に激突する。
「カイ!」
カイの顔面が潰れていた。血が地面に勢いよく垂れ、もはや顔の識別すら困難だった。
「そんな…」
ミナがその場で崩れ落ちた。顔を両手で覆っている。
「おいミナ」
「嘘…嫌だよ、私…こんなところで…」
嗚咽混じりの声。ハルは舌打ちした。
昨日とは違う。数が多すぎる。
逃げ場は狭い。
ここで逃げれば、他の仲間を見捨てることになる。
「立て。黙って殺されたいのか?」
ハルはミナに言った。だが代わりに、金属音が重なる。
目の前の機械人間が、一斉に動き出した。
来る。
紅燐祭。機械人間を倒すだけの大会ではない。
命を懸けた闘いだった。
執筆の狙い
まだまだ頑張ります。誤字とかは多分ないでしょう。