作家でごはん!鍛練場
テル

紅の趣4

朝。

トライシクルのエンジン音だけが、静かな森へ響いていた。

ハルは学院を振り返らない。

振り返る意味など、今はなかった。

(紅剣を取り返す)

その一つだけを胸に、舗装の割れた旧道を走る。

(強くなって、証明する。あれは俺のものだ)

やがて森が途切れた。

目の前に広がったのは、人の海だった。

「……すげぇ」

思わず声が漏れる。

巨大な城壁が京都を囲んでいる。

人の波が城門に押し寄せ、長蛇の列を作っていた。

ハルはトライシクルを止め、降りる。

トライシクルを草の中に置き、落ち葉で覆い隠す。

廃車とも思われないだろう。

そして鞄を持ったまま人の列に近づき、城門との距離を確かめる。指を指しながら。

「人が、ざっと100人ぐらいか」

列をだるそうに並んでいる人々がハルを怪訝そうに見ているが、そんなことは気にしない。

人の列に並び、吸い込まれるように門に入っていく。

「うわぁ…」

遠くまで続く瓦屋根の海。その合間を縫うように白銀の塔が天へ伸びている。


路地では子供たちが走り回り、商人たちが大声で客を呼び込んでいる。

義手を付けた男。

片目を機械へ換えた女。

背中に巨大な荷物を背負った旅人。

誰もが武器を持ち、誰もがどこか警戒している。

「ここが……京都か」

村しか知らないハルには、それだけで別世界だった。

人混みを進むと周囲の会話が耳へ入る。

「今年は誰が優勝すると思う?」

「やっぱり学院の連中じゃねぇか」

「いや、貴族連中も来てるらしい」

「賞金だけで一生遊べる」

「紅燐祭だからな。

(紅燐祭)

学院で聞いた名前だ。

機械人間を倒し、その成果を競う祭。

だが、街の熱気は祭というより戦争前夜だった。

誰も笑っていない。

武器屋には長蛇の列。

薬屋には怪我人が絶えず出入りしている。

鎧を調整する鍛冶師。

弾丸を箱買いする傭兵。

命を賭ける祭。
そんな空気が街中を覆っていた。

「……本気なんだな。」

ハルは小さく呟いた。

その時だった。

「ぐぅぅ……」

腹が鳴った。思わず腹を押さえる。

露店では焼きたての団子の甘い香りと香辛料の刺激臭が入り混じり、鉄を叩く音、客引きの声、子どもたちの笑い声が絶え間なく耳へ飛び込んできた。

屋台から漂う焼き肉の香りが鼻をくすぐる。

串焼きだった。

ハルは串焼きの値札を見る、

「高ぇ」

懐へ手を入れる。銅貨が2枚。

学院を出る時、荷物は貰った。

短刀も貰った。それと、銅貨だけ。

旅は腹が減る。

「……金、稼がないとな」

そう呟いた時だった。

広場の一角に、大勢の人が集まっているのが見えた。

近付いてみると、そこには大きな木製の掲示板が立っていた。

風にめくられながら、無数の紙が貼られている。
『荷運び募集』
『護衛依頼』
『迷子猫捜索』
『倉庫整理』
『害獣駆除』

「依頼……?」
ハルは一枚一枚眺める。その中に目を引く紙があった。

『倉庫への荷物運搬 報酬・銀貨一枚』
「これなら俺でもできそうだ」

薪割り。水汲み。荷運び。

村では毎日の仕事だった。

ハルは依頼書を手に取り、深く息を吸った。

「まずは金だな」

ーーー

小店が無機質に立ち並んでいる通りに、ハルは荷物を運んだ。

「荷物、運びました!」

鞄を3つ、手や肩で抱えながら、ハルは言った。

店の裏から扉が開く音がする。出てきたのは、老人だった。

「兄ちゃんが運んでくれたのか」

老人が声を掛けてきた。

「ええ。依頼があったので」

老人は腰から銀貨を2枚取り出し、ハルに渡した。

ハルは鞄を地面に置き、銀貨を受け取る。

「あの、紅燐祭の会場ってどこですか」

ハルの質問に対し、老人はかすかに怪訝な表情を見せた。

「京都の中央に広場がある。そこだ」

「ありがとう」

「おい」

歩き出そうとしたハルに、老人は言葉を続ける。

「まさか、参加するのか?」

「ああ、そうです」

「餓鬼の遊びじゃねぇ、やめときな」

老人の声が明らかに低くなる。ハルは聞く耳を持たず歩く。

「約束がある」

「あんたとは格が違ぇ」

「それが?」

「死人が、出るぞ」

ハルは一瞬だけ足を止めたが、気にせず歩き出した。

心は歩いている。それを確かめるように、足は止めない。

---

人混みを避けながら、串焼きの店に戻ってきた。

「すみません、これください」

店に近づき、串焼きを指差す。

「銅貨2枚だ」

正面で、店主の明るそうな声が響いた。ハルは銅貨を店主に手渡しで渡す。

残りの金は、銀貨2枚だ。

包とともに、店主は串焼きを渡した。

「あの、紅燐祭ってどんな感じですか」

店主は一瞬だけ止まった。文字通り。

「やべぇな」

それだけ。店主は遠くを見るように言った。

「誰でも、参加できますか?」

「制度上は。だが参加者は歴戦の傭兵か、理式師だらけだ。素人は、まずリタイアだ」

「上位入賞とかは?」

「理式師家系の貴族で埋められてる。努力でどうこうできる世界じゃねぇ」

ハルはそれだけ聞いて、店を去った。

「うま」

通りを歩きながら、ハルは串焼きを凄まじい勢いで消費する。

香ばしい匂いが、鉄の匂いと共に鼻腔に入ってくる。

すると、巨大な広場へ出た。

広場だけ、極端に人が少なくなっている。静粛そのものだった。

石碑には無数の名前。

優勝者。準優勝者。上位入賞者。

百年以上積み重ねられた名前だった。

「これ全部……」

ハルは見上げる。

その最上段だけ、空白。

今年の勝者が刻まれる場所だった。

広場の中央には巨大な石碑が立っている。

周囲には人が少しいた。

刀を帯びた者。鎧を着た者。理式師らしき者。

老人、子供。全員が強そうに見えた。

受付らしい幕舎へ向かう。

机の向こうに座る女性が顔を上げた。

「参加希望?」

「はい」

女性は紙を差し出した。

「名を」

「草薙・ハル」

筆が止まる。

一瞬だけ。本当に一瞬だけ。

「漢字表記?」

「まあ」

再び筆が動く。

「所属を」

ハルが困る。

灰灯?

言っていいやつか?

村?

もうない。

旅人?

違う気がする。

「無所属です」

受付は頷いた。

聞こえていたのか、周囲から密かな笑い声。

「無所属かよ」

「今年もいるんだな」

「三日持てばいい方だ」

ハルの顔が少し曇った。耳を塞ぎたかったが、そんな恥ずかしいことはしたくなかった。

「次」

受付が指差した。

巨大な石碑。

「触れて」

「は?」

「参加登録よ」

ハルは石碑を見る。

近くで見ると妙だった。

小さくて紅い、透き通る石が埋め込まれている。

生き物みたいだ。

ぎこちなく触れる。

石が光った。

それも、ただの紅ではない。

思わず見とれてしまうような、真紅だった。

周囲が騒ぐ。
「おい。今の見たか」

「反応したぞ」

受付の目が細くなる。

「え?」

柱の中に何か見えた。

一瞬だけ。

赤い空。燃える都市。無数の機械。

そして。剣を持った男の背中。父に似ていた。

気づいた時には光は消えていた。

「あの、今の見えましたか?」

「は?」

受付は固まった。ハルの言葉を口の中で転がしている。明らかに、処理できていない。

「もういいです」

ハルはくるりと周り、歩き始めた。

「あの、傍に説明が書いてありますので、確認してくださいねー」

受付が背後でそう言った。

広場の脇、大きな銀杏の木の根元に、ひっそりと佇む木製の掲示板があった。

(それにしても、案外楽に参加できたな。ちょっとあっさりか)

ハルは、その掲示板を覗き込む。

『一、紅燐祭期間 文月五日~一二日 ノ 一週間とする』

今は、六日だ。

「もう始まってるのかよ…」

どうやら、完全に出遅れているらしい。それにしても、順次参加型だとは。ラカールもひと事ぐらい言えばいいものだ。

『二、本大会ハ京都及ビソノ周囲ニ存在スル機械人間ノ撃破数ヲ競ウ大会デアル』

(読みずれぇ…)

『三、機械人間ノ撃破数ニ応ジテ優勝者、準優勝者、上位入賞者ガ決定サレル』

『四、機械人間ノラベル保持ガ撃破ノ証デアル。最終日マデ保有シテオクコト』

ラベル。村でラカールがハルに見せたものだ。

胸に貼られた金属板である。 33号。村を襲った機体。正確には、33号型であったか。

『五、禁止事項ハナシ』

一通り読み終えると、あたりには人の話し声でざわついていた。

「俺の組入んねぇか?」

「協力すりゃ、上位入賞間違いなしだぜ」

その瞬間、背後から地面を踏む音がした。

ハルが咄嗟に振り返ると、中年で愛想の良い男が立っていた。

「坊主お前、初参加だろ?」

「あぁ、そうだが」

男は舐め回すような視線でハルを見た。

「俺はゴビーっていうんだ。名前は?」

「草薙ハルだ」

「ほう、いい名前じゃねぇか」

ゴビーはそう言って少し笑った。

「お前さん、俺と組まねぇか?」

早速の勧誘である。周囲の人間がやろうとしていることも、ゴビーはハルにやっている。

「いや…」

「俺は経験者だ。俺についていけば、まともに戦えるようになる。悪い話じゃねぇ、やってみろ」

「でも、揉めるんじゃないですか?」

「揉めるだ?」

ゴビーはハルに顔を寄せた。興味深いものを見るように。

「たとえば、2人で一体の機械人間と倒した時.どちらがラベルに所有権があるか、絶対揉めますよね」

ゴビーの動きが止まった。代わりに何度か瞬きする。ハルは思わず後ずさった。

「そりゃそうだ」

そう言った瞬間、ゴビーは大声で笑った。

「素人でそれだけ読み取れるとは大したもんだ。だが、こう言われたらどうする?」

「どう?」

ゴビーはわざとらしく真顔になる。

「自分の取り分を守るための、相互防衛だ、とな」

「相互防衛?」

「紅燐祭に、禁止事項はない」

『五、禁止事項ハナシ』

ハルは少しだけ考えた。ほんの少しだけ。

「つまり、他参加者に取り分を奪われないための、同盟?」

「慧眼だな」

「でも、それは信頼できる人間と組んだ方が良くないですか?俺みたいな素人とわざわざ組む意味がわかりません」

ゴビーは肩に手をやった。納得したような表情ではない。

「違う。素人だからだ」

「は?」

「素人は変な癖がねぇ」

「癖? 何の?」

「理式師は過信する。傭兵は裏切る。貴族は謀略ばかり考える。陰謀、駆け引き、殺し合い……俺はそういうのは御免だ」

しばらく黙ったあと、ゴビーは口元を吊り上げた。

「俺のラベル保有数、知りたいか?」

「いくつだ?」

「十六枚だ」

胸を張る。

「じゃあ、一人で十分じゃないですか」

「十分だ」

ゴビーはあっさり頷いた。

「だったら――」

「ただな」

ゴビーはハルの肩を軽く叩いた。

「祭りってのは、保険があった方が長生きできる。俺はその保険が欲しいだけだ」

「保険?」

「囮でもいい。荷物持ちでもいい。見張りでもいい。役に立ちゃ何でもいい」

ハルは眉をひそめた。

「それって仲間じゃなくて、便利屋じゃないですか」

「違いが分かるほど、この祭りは優しくねぇ」

ゴビーは笑う。

「まあ、嫌なら断れ」

「断ります」

即答だった。

「そうか」

意外なほどあっさりと、ゴビーは引き下がる。

「機械人間は外にいる。また会うかもな」

それだけ言い残し、彼は人混みの中へ消えていった。

ハルはしばらくその背中を目で追った。

やがて完全に見えなくなると、小さく頭をかく。

「……変な人だったな」

紅燐祭。

まずは一体。

(機械人間を倒さなければ、何も始まらない)

そう心に決め、城門へ向かって歩き出す。

誰にも知られていない少年。

武器も紅剣も失った。

残ったのは、一本の短刀だけ。それでも。父を探すため。紅剣を取り戻すため。母に顔向けするため。

草薙ハルは、京都の外へと足を踏み出した。

---

京都の喧騒は、城門を抜けた途端、嘘のように消えた。
乾いた風が草を揺らす。崩れた道路。傾いた電柱。灰色の空。

人の気配はない。
『機械人間は外にいる』

ゴビーの別れ際の言葉が脳裏をよぎる。

本当かどうかは分からない。だが、街中を機械人間が歩いているとも思えなかった。

ハルは短刀の柄へ手を添え、一歩ずつ歩く。

その時だった。
コツ――足音。

(人か……?)

耳を澄ます。
違う。

一定だ。

乱れがない。まるで決められた拍子を刻むような音だった。

ハルは反射的に身を低くし、崩れた瓦礫へ身を滑り込ませる。

息を殺す。そっと覗く。

二十メートルほど先。

一体の機械人間が、こちらへ背を向けて歩いていた。

「……いた」
思わず短刀を握り直す。

今なら近づける。

神代の声が脳裏に蘇る。

『実力を証明してみせろ』
(静かに近づき、背後から砕く)

足を踏み出した。

草を踏む音すら殺しながら。

機械人間は気付かない。

距離が縮まる。

十五メートル。十二メートル。十メートル。

(いける)

その瞬間だった。

機械人間の動きが止まる。

ギィ……

ゆっくりと首だけが回った。

ハルの背筋が凍る。

反射的に草むらへ身を投げ込んだ。

身体を地面へ押しつける。

息を止める。

視線だけを動かす。

胸には紅い金属板。
『23』

機械人間は何も言わない。

ただ周囲を見渡している。

そして。ゆっくりと顔がこちらへ向いた。
(……まずい)


ハルはさらに身体を低くする。

ほとんどうつ伏せだった。

目だけは合わせない。

見られている。そう感じた。

汗が頬を伝う。背中も。手のひらも。

コツ……コツ……再び足音。近付いてくる。

だが違った。

一定の距離を保ったまま、その場を巡回しているだけだった。

数秒。いや、一分ほどだったかもしれない。

やがて足音が遠ざかる。

ハルはようやく肺いっぱいに息を吸った。

「……っ、はぁ」

思わず漏れた吐息に、自分で驚き、慌てて口を押さえる。

静寂。もう足音はない。

(23号型か……33より旧式なのか。それとも、数字が小さい方が強いのか)

分からない。

だが、一つだけ分かったことがある。

勝てない。
今の自分では。

ハルは静かに立ち上がる。

短刀を鞘へ戻した。

「……違う」

今じゃない。勝てる時に勝つ。

そのために、生き残る。

「待ってろよ、No.23」

自然と口角が上がる。

本人も気付いていなかった。

ハルは足音一つ立てないよう、静かに後退していった。

ーーー

トライシクルを隠した場所。
ハルは草をかき分ける。
葉を払い、土を払う。
やがて指先が硬いものに触れた。
古びたタイヤ。
錆びついた車体。
ひび割れたメーター。
「……あった」
ラカールから譲り受けたトライシクルだった。
誰にも見つからなかったらしい。
「ふん。やっぱり盗られなかったか」
荷袋から一枚の布を取り出す。
毛布代わりにもならない薄さだったが、それでもないよりはましだった。
トライシクルに背を預け、ゆっくり腰を下ろす。
夜風が森を抜ける。
木々が小さく鳴った。
ハルは空を見上げる。
満天の星だった。
人の営みなど知る由もないように、静かに瞬いている。
「……村の方が、まだ寝やすかったな」
ぽつりと漏らす。
自然と、故郷の景色が浮かんだ。
薪を割った高台。
東に広がる、瓦礫に埋もれた湖。
錆びた漁船が、いつも何隻か浮かんでいた。
魚など、とっくにいない。
それでも人は潜った。
昔の金貨。
旧文明の遺物。
そんな夢みたいなものを探して。
カルの笑い声。
「いつか村を出るんだ」
あいつは、何度もそう言っていた。
酒場。
皿を洗う自分。
忙しそうに動き回る母。
「ハル、それお願い」
その声も。
もう聞こえない。
全部、なくなった。
ハルは目を閉じる。
ラカール。
紅い刃。
母の亡骸。
そして──
紅燐柱の中で見た、あの男。
「……ハハ」
乾いた笑いが漏れる。
「父さんに……似てたな」

ーーー

「おい」
誰かの声で目が覚めた。
ハルはゆっくりと瞼を開く。
逆光の中、一人の青年が立っていた。
黒い作業着。
手には古びた工具箱。
眠たそうな目。
整えられてはいるが、どこか無造作な黒髪。
「そこ」
青年が足元を指さした。
「俺の仕事場なんだけど」
「……仕事場?」
ハルは辺りを見回す。
木々。
草。
瓦礫。
トライシクル。
どう見ても森だった。
青年はため息をつく。
「瓦礫を片付けてる」
「掃除屋ってこと?」
「そんなもんだ」
興味もなさそうに答える。
そして視線だけがハルへ向いた。
眠そうだった目が、一瞬で冷える。
「それより。」
一拍。
「お前、死にたいのか?」
「……は?」
あまりにも突然だった。
ハルは思わず聞き返す。
「この辺は機械人間がうろついてる」
青年は淡々と言う。
「野盗もいる。野宿するなら駅跡にしろ」
駅跡。
ラカールと野宿した場所だ。
「死にたいっていうより——」
青年は少し考える。
「死んでも構わないと思ってる奴の寝方だ」
ハルは思わず吹き出した。
「あはは。」
「そんな大げさな」
腰の短刀を軽く叩く。
「武器もある」
トライシクルを見る。
「逃げる足もある。まぁ、考えが甘かったのは認め——」
「しっ。」
青年が指を立てた。
空気が止まる。
ガサ……
右。
ガサッ……
左。
草が揺れる。
一つじゃない。三つ。
囲まれている。
青年の目から眠気が消えた。
木の陰から男が現れる。
一人。
また一人。
さらに一人。
三人。腰には剣。服装は傭兵崩れ。
「何の用だ」
青年が静かに言う。
「用があるのはお前じゃねぇ。」
先頭の男が笑う。
「あのガキだ」
ハルは短刀へ手を掛ける。
(四人。囲まれた)
ラカールはいない。
アオミもいない。
助けはない。
トライシクルまで走れば——
「刺客か?」
男たちは瞬きを何度かし、そして吹き出した。
「違ぇよ」
一人が懐から紙を取り出す。
広げる。
そこには少年の似顔絵。
「紅燐祭の参加者だろ?似顔絵描きがいてな。受付で見かけた顔は全部売ってくれる」
ハルの表情が変わる。
(そういうことか)
「ラベル目当てか」
「察しがいいな」
男たちが距離を詰める。
「全部置いてけ。」
(……ない、が…)
「トライシクルの下だ」
ハルが淡々と言う。
「探せ」
先頭の男が目で合図し、後ろの男が走る。
その瞬間だった。
ハルは足元の石を蹴り飛ばす。
カンッ、と石が木へ当たる。
「何だ!」
「伏せろ!」
男たちの視線が逸れる。
その一瞬で十分だった。
ハルは駆ける。トライシクルへ。
振り向いた男の胸へ飛び蹴りする。
「ぐっ!」
男が吹き飛ぶ。
ハルはそのまま車体へ飛び乗る。
(これならーー逃げ切れる)
そう思った。
「甘ぇ」
鈍い衝撃。
横から拳が飛んできた。
視界が回る。
ハルは地面へ叩きつけられた。
「おいガキ」
男が胸ぐらを掴む。
「大人しくラベル出せ!」
(だからないんだって…)
その時だった。
「待て。」
静かな声。空気が変わる。
全員が振り返る。
青年が、まだ工具箱を持ったまま立っている。
「あぁ?」
男が睨む。
「掃除屋。まだ文句か?」
青年は答えない。
代わりに右手をゆっくり持ち上げる。
「理式——」
空気が震えた。
「整流」
淡い紅い光。
無数の数式。
光る文字列。
それらが絡み合い、一つの円を描く。
巨大な理式陣。
男たちの顔色が変わる。
「お、おい……」
「本物だ」
「理式師……!」
青年は男たちを見ない。
「俺は…」
ただ静かに言う。
「トオミ・サネツグ。ただの、掃除屋だ」
少しだけ笑った。

紅の趣4

執筆の狙い

作者 テル
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頑張って作りました。何度か直したりしました。

しかし、少し急展開ですよね。

コメント

夜の雨
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テルさん「紅の趣4」読みました。

話の大きな流れはわかります。
人物がつぎつぎと登場するので、それらの人物の役目もおおむねわかりました。
それと主人公のハルは京都へ入りますが、そもそも「京都」にする意味はあるのですかね?
京都の町の描写がまったくないので、これだと、どこの町でも同じなのでは。しかし昭和歌謡などで京都が舞台になっている歌を聴いても、京都特有の描写はしているものもあればしていないものもあり、結構ええ加減でも雰囲気が伝わってきているので、歌はメロディーがあるから、主人公の心情が伝わるのかな。という事になれば、小説はメロディーがないので、情景描写と心情で、メロディーの代わりにするしかないかも。
まあ、京都に関する歌でもYou Tudeで、視聴すれば参考になるかもしれませんが。あと、京都を舞台にしているドラマやら映画などもチェックするとよいかも。
どちらにしても御作では京都が舞台になっているので、どうして京都なのかは、一考すればいかがですかね。

作品自体は、普通に読めました。
というか、徐々に、背景の怪しいやつと絡んできているようで、このまま書き込めばよいのではありませんかね。

〇 「紅燐祭」の仕組みはわかりやすく書いておいたほうがよいですね。主人公のハルは参加届を出したようですが。

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「参加希望?」

「はい」

女性は紙を差し出した。  

「名を」

「草薙・ハル」

筆が止まる。
======================

この場面ですが、
女性は紙を差し出した。  ← ハルに名前を書かせるために紙を出したのかと思いました。御作だと、受付の女性が紙に書き込んでいますね。


こんなところです。

テル
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夜の雨様、いつもありがとうございます。
京都を選んだのはいろいろ便利そうだったからです。ふとしたシーンに寺とか神社とか出そうと勝手に妄想しておりました。
ただ、鴨川などはすでに出てないとおかしかったですね。映画なり歌なりyoutubeで引っ張ってみてみます。
大会の詳細とか常識みたいなものは次回以降丁寧に頑張って書こうと思いました。
参加届のシーンは矛盾していました。すみません。

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