クーラーの効いた部屋って、最高だな。
職場の窓からは、通り向かいの古びた小さな雑居ビルが見える。
なにやら内装工事をしているなと思っていたら、1Fにいわゆる「SF商法」と思われる店舗が出来あがっていた。
郵便受けにポスティングされていた、手作り感まるだしのチラシを眺める。
本日OPENとのことで、今日明日のオープニングセールの目玉は『なんと食パン一本¥100!!』らしい。
画像の粗さはさておき、長さが3斤程度はありそうだ。世知辛い近頃の物価からすると破格の安さといえる。
配置と画像の大きさから察するに、次の目玉商品は『水素水500ml¥50/本(1ケース¥1,200)』らしい。
水素水、なんというか「回文だなぁ~」以外の感想が湧かない。
ペットボトルだと水素は抜けちまうだろ? という話はとっくに結論が出ていたようにおもうが。
まぁ、パンを食って喉が詰まったら飲み物は必要だよね? 砂糖入ってないしヘルシーだよね! という一種の抱き合わせと考えるならば妥当と言えないこともない、かもしれない。
それ以外には『健康磁気腰痛ベルト』とか『ダイエットサンダル』なども販売している様子である。
うん、見事にカオス。
ふと窓の外へ目をやると、営業開始時間前だというのに、すでに結構な人が並んでいた。
平均年齢65前後だろうか、ざっと20人はいる。
¥100の格安パンがそんなに欲しいのか……あるいはダイエットサンダルですか?
(余計なお世話である。)
何人家族か知らんが、切り分けるたびにベタベタ触ってたら食い終わる前にカビ生えると思う。
あと今日めっちゃ暑い。
遮る木陰もなく歩道の端で直射日光に焙られてるあなた方、熱中症カウントダウンだから気を付けろ。
今すぐ、少なくとも上着を脱げ。そんな無駄な行為で公共サービス(消防)を使役すんなよな。
ここで私は、悪徳業者から身を守りつつ激安パンだけをせしめる『パンだけ奪取無傷帰還プログラム』を脳内で考案した。
①よれよれのちょろそうな体裁でパン買いに行く。季節感を狂わせる厚着あたりが説得力を増す。
②パンを買ったら、勧誘のお言葉に全て『はぁ? わたしはぁ~耳っがぁ! 遠いので、もういっぺん言ってもらえませんかぁ!!!』と最大音量で叫ぶ。
③相手の話の途中で『薬~飲む時間なんです! どこへやったかなぁ~』と叫んで他の客に絡んだりしながらフロアを奔放にうろつく。
次点:クソデカパンなので、赤子を抱くスタイルで保持して、あやすなどしてもいいかもしれん。
こんなで無事、パン買っただけで帰還できないかしら。どうかしら。
――あとは実行に移すだけだ、と窓の外をもう一度見た。
ちょうど開店時間となり、若くはあるがやや野暮ったいお姉さん二人によって大きく開かれたドアから、並んでいた人たちが我がちに次々と店内へ吸い込まれていく。
開店五秒前まで整然と並んでいた人々が、ドアが開いた途端に戦国時代の雑兵のようである。
彼らが本当に欲しいのは、1本100円のデカ食パンではないのかもしれない。
「あそこに並べば何か良いことがあるかもしれない」というささやかな娯楽や、他者との関わり。
客の背中は存外期待に満ちているように見えた。
私は救急車が来ないことを祈りながら、チラシを廃棄新聞の上に重ね、自分の作業に戻った。
クーラーの効いた部屋って、最高だな。
執筆の狙い
体調が回復してきたので、作文練習をしています。
過去の日記をエッセイにしました。
とはいえ、エッセイ?どんな要件定義??となったので、成立しているかは分かりません。
熱中症は取り返しがつかないので、本当に気をつけてほしいですね。目玉が茹で上がるらしいですよ。