君が恋しい
「この子。にゃっ、て短く鳴いて、ひとを呼ぶんですよ」
動物病院の先生が、ぼくにそう言った。
「ふふ。そうですね。にゃっ、てね。来るまで鳴きますね」
トトのあたまを撫でながら、ぼくはそう答えた。
「治って良かったね。家に帰ろう」
トトはカニカマが好きだ。
キッチンから呼びかけると、トトは大急ぎで、ぼくの足元まで来る。ちょうだい。はやく、はやく。夢中で食べる。一心不乱に。食べ終えると、ぼくの傍に来てお座りをする。おいしかった。口の周りを綺麗にしながら、トトはそういう顔をする。
トトは蛇口から出る水が好きだ。
キッチンに行くと、トトがシンクのなかに入って蛇口を覗きこんでいる。少し水を出してあげると、また覗きこんだり、肉球で受けたりして、びしょびしょになってもお構いなしだ。たのしいんだけど。ぼくを振り返って、トトがそういう顔をする。
トトは扇風機の風が好きだ。
夏場、扇風機をつけていると、トトはその前にちょこんと座って、よく風を浴びている。目を細めて、口を開けて、とても気持ち良さそうにしている。しばらくすると、ぼくの傍に来て瞼をぱちぱちさせる。なんか、ねむくなってきた。
トトは抱っこが好きだ。
だっこして。大きいまんまるの目で、トトがぼくを見あげる。お腹をさすって合図して、おしりから抱きあげる。手足を投げ出して腕のなかに収まると、トトはまんまるの目を細めて、ぼくを見つめる。ずっとこうしてて。
トトは撫でられるのが好きだ。
時々、ぼくはトトの躰を撫でてあげる。頭のてっぺんから尻尾の先まで、躰じゅう隈なく撫でる。撫でるのをやめて離れようとすると、にゃっ、て鳴いて、おねだりをする。もっとなでて。もっとなでて。トトは何度も鳴いて、ぼくを離さない。
トトは、ぼくのことが大好きだ。
家にいるとき、トトはぼくの傍を離れない。どこにでもついて来て、すぐに躰をくっつける。寝ているとき、ふっと目を開けると、トトがぼくの顔をじっと見ている。抱き寄せると、目を瞑って、ごろごろと大きな音で喉を鳴らす。
トトが好きなことなんて、いくらでも思いつく。トトのことなら何でも分かる。そう思っていた。
「おしっこ出ないの? だいじょうぶ? また病院に行かなくちゃ。だめだよ」
トト。本当はぼくのこと、どう思っていたの? 夢に出てくれば? それで、一回くらいはしゃべってよ。しゃべってくれないと分からないじゃん。出てきてよ。一回でいいから。何回でもいいから。
君に会いたい。君が恋しい。
(了)
執筆の狙い
新しく書きました。短いので、すぐ読めます。ぜひ読んでみてください。よろしくお願いいたします。