作家でごはん!鍛練場

紅月ノ契

第一章 : 盈月(えいげつ)のみぞ知る

──序──

 武蔵野の深き夜の奥底には神格が息づいている。
 大口真神(おおくちまかみ)──今は記憶の彼方に忘れ去られし神の名だが、かつて、白狼の神威を畏怖した者たちの崇める主であった。人祖神、日本武尊(やまとたける)の精神を宿したる聖なる狼。闇夜の中、日本列島の守護者として君臨せし者とされる。人々は、武蔵野坐令和神社(むさしのにますうるわしきやまとのみやしろ)の境内に響く白狼神楽舞を目の当たりにして初めて、大口真神の姿とその由縁を知るという。

 ♢

 一九四二年、十五夜の黄昏時である。武蔵野、御岳山の麓に佇む古びた一軒家。軒先には、夕陽に照らされた男女の影が長く伸びている。
「なぜ、今日に限って正装を?」
 秋風に白銀の髪を靡かせて、女が静かに問う。歳の頃は三十路手前だろうか──その含みを込めた口元に、人間のそれとは異なる鋭い鬼歯が見え隠れした。が、軍服を纏った武官・佐伯恭介は一歩も引こうとしない。視線はまっすぐ女を捉えている。
 女、紫園朱里(しおんあかり)は人ではない。佐伯が一年を掛けて密かに調査をしてきた人狼である。彼は軍部──大日本帝国陸軍防疫研究室──より、その個体を生物兵器として利用すべしとの密命を受けていた。しかし、今や任務への忠誠は消えている。
 今宵は満月。しかも年に一度の十五夜ともなれば、朱里の秘めたる魔性が遺憾無く発揮される。既に彼女の瞳は紅月の如く染まり始め、異形の使者としての威厳を放っていた。かたや表情には、なんともいえない憂いが漂っている。
「あなた様が帝国陸軍の密偵でいらっしゃること、わたくし、以前より気づいておりましたのよ」
 朱里はそっと告げる。
「それでもこれまであなた様を容認してきたのは、信頼できると感じていたからこそ。しかしながら、そのような身なりでわたくしの前に現れるとは、何かしらの企てがあってのことか?」
 朱里の問いに、佐伯は暮れかけた空を見上げながら言う。
「私は知っています。あなたは千年ものあいだ人を模倣し、精神を真似ながらひっそりと生きてきた。私が心に映るのはあなたの真の姿のみ。武蔵野の地に独り暮らし、月を見つめ、愛でる健気な振る舞い。その心根こそが私を惹きつける」
 佐伯が軍部の任務を無視し、これまで何度も朱里を守ろうとした理由はそこにある。
「しかして今宵すべてが決まる。間もなく空には、黄金の月が悠然と昇るのだから」
「覚悟はおありか?」
 朱里が問いかける。
「わたくしが完全に野獣となれば、この理性など当てにはならぬ。あなた様を傷つけてしまう、命を奪うやも知れません」
 狼としての本能が覚醒しつつあるのか、彼女の瞳が赤みを増し、鋭さを帯びる。
「月が綺麗とだけ言っておきましょう」
 佐伯の答えは完結だった。
「なんと……」
 朱里は驚き目を見開いたあと、微かな笑みを讃えたまま彼方を見つめた。
 佐伯は偲ぶ──朱里の心が数多の戦いや逃亡の日々、孤独と寂しさとで削られてきたことを。月影を仰ぐ彼女の横顔を彼は心底美しいと思った。
「これが私の覚悟だ」
「……お戯れを。後戻りはできないのですよ。あなた様は、わたくしの本当の姿を知ることになるのです」
 朱里の声は、感情の高ぶりとともに徐々に大きくなっていく。
「そう、大口真神より血を分けた白狼の末裔、神に見捨てられし人外の浅ましい痴態を。それでも良いとおっしゃるか!」
「やれやれ、嚇しにもならない。戯れ事なのか、それとも本気かは今にわかるでしょう。あなたを受け入れることこそが、今宵、私の唯一の望みなのだから」
 赤い瞳を見返し佐伯は微笑んだ。
 咄嗟に朱里は目を逸らす。
「あぁどうか、どうかこちらを見ないで下さい……」
 恥じらいながら、崩れるように彼の胸に顔をうずめた。
「だとしても……それでも、変身する際の醜い姿だけは、やはりあなた様には見せられませぬ」
 もはやそれは、一人の女の切なる願いと言えよう。
「ああ、どうか……」
 朱里が溜息を漏らしたのと同時に、その姿は徐々に変わり始めた。目の赤みが深まり、口角が耳元まで達し、鬼歯が延びる。
 胸内に眠る狼の本能が完全に目覚める前のほんの一瞬、彼女は佐伯の頸静脈に牙を立てた。それは古よりの理、存続の本能。
 静寂が互いを包む。朱里の目から一筋の涙が零れ落ち、そのまま佐伯の喉元を伝っていく。
「赦して……」
 彼女は躊躇いを伴った噛み跡を残したまま後ずさり、目を伏せた。佐伯はその場に倒れ込んだものの、息はまだ浅く続いている。
「殺しはしません、できるものですか……。望み通り、これからはずっとわたくしの横に居ていただきまする。それが、あなた様を人ざる者に変えてしまった自身への誓い」
 朱里が告げた刹那、佐伯が新たな姿で目を覚ました。その瞳は、紅月の如く妄りがましい光を宿していた。

 月灯りが武蔵野の大地を照らす中、二体の獣が音もなく草原を走り去って行く。彼らが目指す先が如何なる地獄であろうとも、月はただ、静かに見守ることに徹していた。
 盈月のみぞ知る──
 それは、永遠に語られることのない影の物語。

──破──

 軍部の執拗な追跡は、太平洋戦争終結と共に終わりを迎えたように見えたが、陸軍防疫研究室の情報は戦後の日本を統治したGHQに引き継がれ、秘密裏に継続された。
 二人は敗戦の混乱と貧困の中で生きる術を模索しながら、運命共同体として逃亡を続けた。繰り返される忍び逢いの中で、朱里は白銀の髪を黒く染め、佐伯は髭を蓄えた。しかしそれでも、どちらか一方が動けば、その影響がもう一方に必ず及ぶような状況は変わらなかった。いつしかこの関係を支えることが生きる真意となり、二人は命をかけて互いを守り続けた。
 街そのものも変化した。高度経済成長による環境汚染。高層ビル群が月の光を遮り、街灯の眩しさで自然の闇と灯りが消えた世界。しかし、二人にとって武蔵野の記憶は消えなかった。あの豊かな大自然、草原の広がりや月の美しさは、時代の変化に左右されない風景として、心の拠りどころとなっていった。

 ♢

 二○XX年、待宵。東京都新宿区内のとある病室──
 ここ十年にわたって世界中に猛威を振るった流行り病は、人々の暮らしから生気と希望を奪い去った。新型の呼吸器系ウイルスは変異を繰り返し、各国の対策は常に後手に回り続けていた。感染拡大は幾度となく波のように再燃し止まることがなかった。
「人間はそれでもワクチンなるものを信じて、多くの命を救わんと足掻いてきましたが、どうやらわたくし達には効かぬようでございます。まさか、あなた様までもがかかってしまうとは」
 この日、佐伯が半年に及ぶ慢性化した症状の末に倒れたことは、互いにとって運命を悟らざるを得ない瞬間となった。
 佐伯はただ横たわりながら、半ば閉じた目で天井を見上げている。
 朱里は、彼の痩せ衰えた瞳の奥に最期を覚悟した冷静な光を見つめながら、自らもまた、同じ未来へと向かっていることを予感していた。
「永遠の命と言ったは情けない。砂上の楼閣の如くいとも簡単に……」
 朱里は佐伯の横顔に向かい話した。
「たぶん、あなた様にとっては明日の十五夜が最後の夜になりましょう。変身する際の衝撃にその身では耐えられませぬ。……この、わたくしとても」
 朱里もまた、自身の体に変化を感じていた。もはやあの膨大なる力を支えきれぬことを、彼女は熟知している。
「後悔はありません。永遠の命などただの幻想。人が生きることの意味を、あなた様とともに過ごしたこの百余年で学びました。思えばわたくしの永い人生の中でも、この百年こそが唯一、幸せと呼べる時間でございました」
 佐伯の疲弊し、乾いた口角が微かに動いた。それが微笑みの痕跡であったのかはわからなかったけれど、その横顔に朱里の記憶は遠く武蔵野の月夜へと遡った。暗い空に輝く月が、二人の邂逅を照らしていた。
「わたくしは今でも、月夜を見上げる度に出逢った頃を思い出しまする」
 朱里は、諭すように話し始める。
「黄昏色に染まる高尾山の梺、細く長い坂道。つづら折りの曲がり角に浴衣姿のわたくしはひとり、遠くを見つめ佇んでおりました。藍染めの江戸小紋に半幅博多帯を締め、黒いレース地の日傘を斜にさして。眼下を流るる城山川の清流がキラキラと輝いておりましたっけ」
 佐伯の眉が僅かに動いた。
「あの時あなた様は、ハイキング客を装っていたのでございましたね。そんなことも露知らず、岩間の苔に負い取られ、足を挫いたと言うあなた様をわたくしの別宅までお連れして。肩を貸したわたくしに体重を乗せてくるもので、それは随分と骨をおりました。家につく頃にはどっぷりと日が落ちて、西の空には宵の明星が瞬いて。……刹那、あなた様は顔を出したばかりの上弦の月を見上げながら一言、こう言ったのでございます。『月が綺麗だ』と。……ああ、その時のお美しい横顔に、わたくしもまた見惚れておりました」
 佐伯の閉じた瞼には涙が滲んでいる。
「追っ手から逃れ、戦後の激動の時代を生き抜くことが出来たのは、あなた様が居てくれたから、あなた様のあの十五夜での覚悟があったからこそ。感謝のしようもございませぬ」
 朱里の言葉を聞き終えた佐伯は小さく笑った。朽ちかけた身体に残る最後の力を奮い立たすかのように、ゆっくり起き上がる。骨が軋む音さえ聞こえてきそうな動きでベッドの縁に座ると、片手を朱里の肩に置き、瞳をじっと見据えた。窓辺から射す細い月明かりが、やつれた彼の顔を照らす。
「ありがとう……しかしまだ終わらんよ。月が二人を見守る限り足掻いてみせよう」
 そう言い終えると膝にありったけの力を込め、息を切らしながら立ち上がった。震える背には確たる覚悟が宿っている。
「朱里、私を高尾山まで連れて行ってはくれぬか……そう、君の別宅に」
「あの廃墟に、いったい何があると?」
「希望だ」
「……希望?」
「ああ。君には話せずにいたが、私はあの家をある研究の工房として使っていたのだよ。こんな日が来ることを予測してね」
「研究、いったいどんな……」
「それは、道すがら話すとしよう」
 佐伯は不敵な笑みを浮かべた。
「承知いたしました。しかし今のお体では、高尾山につく頃には命が尽きてしまわれます」
 朱里はうしろ髪を手繰り寄せると、細く白い首筋を佐伯に晒した。

「精気をお分けいたします。どうか、わたくしを噛んでくださいまし」

──急──

 佐伯はタクシーの窓から月を眺め続けていた。朱里の肩を借り、掠れた声で運転手に何度も「早く」と急かしていたが、言葉は風切り音に掻き消され、届いていないようだった。満ちる寸前の月を窓越しから見上げながら、彼は小さく苦笑した。
 月光が佐伯の痩せこけた頬を浮かび上がらせると、朱里はそっと彼の手を握り締めた。
「月は、いつもこうしてわたくし達を照らし、見守ってくださいましたね」
 彼女はそう言いながらも、内心では高鳴る不安に押し潰されそうだった。病に蝕まれた佐伯の体はまるで蝋細工のようで、今にも崩れ落ちそうだ。だが、それでも彼の瞳には確固たる意思が宿り続けている。それを信じる他はなかった。

 タクシーは高尾山の麓で停まり二人を下ろした。時間は二十二時を回っていた。
「もうケーブルカーは動いていない。ここからは歩くしかないね」
 佐伯が力を振り絞るように言った。体は限界だったが、それでも彼の瞳は健気に前を見据えている。朱里は静かに微笑んだ。
「おぶって差し上げます。なにも、今さら遠慮なさいますこともないでしょ。あなた様は、これまで幾度もわたくしを守ってくださいました」
「いや、自分の足で歩いてみせたい」
 佐伯の声には一点の曇りもなかった。それは、何か重い枷を背負った覚悟のように朱里には響いた。
 二人は夜の闇を抜け、木々が薄くざわめく山道を歩き続けた。息を詰まらせるほどの静寂の中、朱里はただ無言で彼の支えとなり、また、彼の誠心に支えられた。かつてこの山道を肩を寄せ合いながら上った邂逅の思い出が、やがて前に進む原動力となっていった。

「朱里、この流行り病についてひとつ、君に謝らなければいけないことがある」
 長かった道程も終わりに近付いた頃、佐伯は細い息を継ぎながら途切れ途切れに話を始めた。それは、彼がかつて属していた軍の極秘任務に端を発する事柄だった。
「満州の七三一部隊のことを君は知っているだろうか。あの忌まわしい部隊は、私が所属していた軍の防疫研究室。その成れの果てなのだ」
 戦時中に作り上げられた化学兵器。それが戦後の混乱の中で何らかの手違いによって漏洩し、世界中にこの悲劇をもたらした可能性がある、と佐伯は告げた。
「つまり、人類を滅ぼしかねぬウィルスでございますね」
 朱里はその衝撃的な告白を淡々と受け止める風を装った。問い詰めることもせず、彼の手をぎゅっと握りしめ続けた。先ほど感じた佐伯の十字架はこれであろう。今の彼女に出来ることは、彼を苦渋から解放することであった。
「すべてはもう遅い。これ以上はどうすることもできない。たぶん人類の半分は死滅するだろう」
 佐伯は項垂れ己の過去を嘆く。
 朱里は彼を支えながら、ほんの少しだけ歩を緩めた。

 ようやく二人が別宅にたどり着くと、朱里には百年前の情景が鮮やかに頭を過ぎるのを感じた。最後にこの扉をくぐったのは、一体いつのことだったか──
「入る前に、ひとつだけ先に告げておこう」
 佐伯は神妙な面持ちで切り出した。
「私はこの研究に、ある機関の協力のもと、八年の年月をかけて準備を進めてきた。そう、流行り病の発生の真相に気づいた頃からだ。このラボでの開発成果が、私たちの最期の……そして新たな一歩になる」
「ある機関とは?」
「秘密結社、八咫烏。古代より、影となりて日本国を護りし者たち」
「やたがらす……」
「詳しく説明している時間はない。ただ、君の味方であることは確かだ」

 扉の先には佐伯の手により改装された部屋があった。あまりにも近代的なその空間には、二体の人形が台の上に並んで横たわっている。一体は佐伯の姿を写したものらしく、もう一体は朱里を模したもの。どちらも精緻さを纏い、まるでそのもののように見て取れた。
「これが、あなた様の言う『希望』でございますの?」
 朱里は自分を模した人形のそばに近づき手を触れた。ひやりと冷たい質感。その顔立ちは、自身よりも美しく感じられた。
「このAIは、朱里の記憶を納める器となる。そして彼女は、君がこの世で果たせなかった夢や願いの続きを、見届ける存在となるんだ」
 佐伯は細い声で説明した。
「つまりこの二体のAIと申すからくり人形に、わたくし達の思い出が、全て受け継がれるというのですか」
 朱里は他人事のように言葉を紡ぐ。不安げに人形を見つめている。
「気持ちはわかるが私を信じて欲しい。このメインコンピューターに繋がれたインターフェースを被ることにより、我々の命が果てた後でも、AI達は二人の意識と共に生き続ける」
 受け入れなければいけない未来のはずなのに、彼女には、佐伯の言葉がどこか夢物語のように思えてならない。
「そうなのですか……わたくし達の命が尽きた頃に、この人形らが動き出す手筈なのでございますね……」
「その通りだ。どうか信じてくれ」
 暫くの沈黙のあと、朱里は「承知いたしました」と大きく頷き、佐伯に笑顔を向けた。
「ふふっ、しかしまぁ、綺麗につくってくださったこと。わたくしは、この娘人形ほど美しくはございませぬものを。ほら、この胸も、お尻もマシマシでございますよ」
「な、何を……」
 先程までとは打って変わった朱里の変貌ぶりに、佐伯は言葉を詰まらせた。
「あら、あなた様も随分とイケメンにされて、まるで自身の願望を全て形にしたようで!」
「ぷっ……」
 その一言に佐伯は吹き出し、弱々しくも朱里に笑顔を返した。
「もう、そんなに笑わなくとも。わたくしとて、近頃の言葉は知ってございます」
「君という人は……」
「線で繋がれたこの床(とこ)に、横になっていればよいのですね」
「ああ、そうだ」
「ふふっ、これで来世でも一緒でございます。綺麗に作っていただいて、嬉しゅうございます」
「いや、それは違う。模倣しきれてはいない。いくら装飾したところで、まことの美しさには敵わない」
「えっ……」
 張りつめた糸が切れたかのように、朱里の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

「どれほど時が過ぎようと、君の笑顔と武蔵野の月灯りに勝るものなどない。朱里、私はあなたを愛せて幸せでした」

「あぁ、なんと……」

 ♢

 武蔵野は
 月の入るべき山もなし
 草より出でて、草にこそ入れ
「新千載和歌集」より──
 時の流れ、歴史の歩みと共に変化を強いられた武蔵野。その原野の記憶は遠く忘れられて久しい。

 大口の
 真神の原ゆ思びつつ
 還りにし人、家に到りきや
 「万葉集」より──
 このあと二人の運命はどのようなものであっただろうか。

 それはただ、盈月のみぞ知る。



 第一章──了


エンディングイメージ曲
「月光の詠」/月詠み-Tukuyomi
https://youtu.be/_j_iZ0hNUiY?si=OHExp9MkQkcbjrf5

────

《次回予告》

○運命の十五夜が明ける。
○BMI(脳介機装置)による全ての記憶の移植は終了し、AIとして二人は目覚めた。
○完璧に記憶の移植を終えた筈なのに、AIとして目覚めた朱里の記憶はどこか途切れ途切れで曖昧であった。メインコンピューターに異常はない、朱里の千余年の記憶は全て収録しているはずなのだが……
○佐伯は自身に移植された記憶の中に、朱里の幼少時代のそれが混在していたことに気がつく。
○それだけではない。朱里が人狼としての運命を背負った経緯までもが、佐伯の電脳メモリーに記録されていた。
○研究工房に佐伯の陸軍時代の同僚が訪ねて来た。佐伯以上に精巧なAIの躰を持つ彼──コードネーム『盈月』は、これまで佐伯を支え続けた「秘密結社、八咫烏」に所属する技術者である。
第二章 : 幻想と現(うつつ)の狭間で
ウィルス発生の真相が暴かれ、闇の組織が君臨する世界の章。
『盈月』の真の目的とは……
第一章のタイトルはその伏線でした。

紅月ノ契

執筆の狙い

作者
fj168.net112140023.thn.ne.jp

三題噺「使者」「横顔」「真似」──
という企画で創作したSF和風ファンタジーの第一章です。中編小説のプロローグ的に書きました。
全編を貫くテーマは「leap of faith(信念の跳躍)」。
読み解いていただけたら幸いです。

約7000字。
ルビは最小限に留めています。ご容赦ください。

コメント

青井水脈
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読ませていただきました。
まずは序。1942年、太平洋戦争真っ只中の武蔵野。佐伯恭介と、人狼である紫園朱里。満月の下で、佐伯と朱里は忍び会うのだった。
破では、戦後、大きく変化する国内で、二人は運命共同体として生きてきたことが綴られる。時を経て20☓☓年、パンデミックが世界中で猛威を振るっていた。佐伯も病に侵される。
急。佐伯は、戦時中に携わっていた研究、それが悲劇をもたらしたかもしれないと朱里に打ち明ける。二人の目の前には、二人を精巧に模した人形が。人形はAIで彼らの記憶が移植されており、彼らは死後、AIとして蘇る算段だった。

ここから、第二章に続きますが。
>「秘密結社、八咫烏。古代より、影となりて日本国を護りし者たち」
次回予告によると、八咫烏のメンバーが佐伯の前に現れる。そもそも作中の世界は、闇の組織に支配されているとか。
これはまた、大きく出たというのか。731部隊もですが、扱うのが難しそうな題材かと思われるので。

今回分だけは、以前にも目にした覚えがあるんですよね。
>「ふふっ、これで来世でも一緒でございます。綺麗に作っていただいて、嬉しゅうございます」
このセリフとか印象的で。

>「つまりこの二体のAIと申すからくり人形に、わたくし達の思い出が、全て受け継がれるというのですか」
これから二人に何が待ち受けるのか考えてみると、朱里はなんだか無邪気な印象を持ちました。

>問い詰めることもせず、彼の手をぎゅっと握りしめ続けた。先ほど感じた佐伯の十字架はこれであろう。今の彼女に出来ることは、彼を苦渋から解放することであった。
しかし、佐伯を信じる気持ちも強く。彼女の行動が先々のストーリーに影響を強く与えそうと思いました。

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青井さん、お読みいただき感謝します。

お察しの通り、この物語を完結させる為には相当細部まで練り込まなければなりません。後の展開は、過去と現在、そして未来をいったり来たりするものとなります。かなり次回予告は大まかに書いていますので。
また、一章での「八咫烏」の登場は少し急ぎ過ぎた感がありますね。

「私はこの研究に、ある機関の協力のもと、八年の年月をかけて準備を進めてきた。そう、流行り病の発生の真相に気づいた頃からだ。このラボでの開発成果が、私たちの最期の……そして新たな一歩になる」
「ある機関とは?」
「秘密結社、八咫烏。古代より、影となりて日本国を護りし者たち」
「やたがらす……」
「詳しく説明している時間はない。ただ、君の味方であることは確かだ」

この部分は、

「私はこの研究に、ある機関の協力のもと、八年の年月をかけて準備を進めてきた。そう、流行り病の発生の真相に気づいた頃からだ。このラボでの開発成果が、私たちの最期の……そして新たな一歩になる」
「ある機関とは?」
「影となりて日本国を護りし者たち。朱里、君の味方であることは確かだ」

に留めておきたいと思います。
カクヨムの方はすでに推敲させていただきました。
あくまでも第一章は「二人の絆」を描くのがメインであるため、変に読者を混乱させることはないですね。

>今回分だけは、以前にも目にした覚えがあるんですよね。

はい、その通りです。
もとネタは『中秋の名月に添えて』になります。
https://kakuyomu.jp/works/16816700427493846358

感想をありがとうございます!

『紅月ノ契』は、全てを完結させてからのお披露目とします。
「月下の囁き」/月詠み-Tukuyomi
https://youtu.be/geOT0l52HVc?si=TaUHognWfJjsMYcU

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今後の展開(修正版)

運命の十五夜が白々と明ける。
窓越しに差し込む荘厳な朝陽が、静寂の研究室内に淡く溶け込むように広がり、台座に横たわる者達の影を無機質なメインフレームに映している。全てのプログラムは完了した。

『Program completion. normal end──』

BMI(脳介機装置)による全ての記憶の移植は無事に終了し、AIとして朱里は目覚めた。かたや、佐伯のAIの躰は沈黙したまま微動だにしない。
佐伯のAIの躰を揺り起こすと、朱里はある事実に気がついた。軽いのだ──その中には何も入っていない、それは、ただの空虚なマネキンのように彼女には思えた。
「これは、どういうことなのですか……」
壁際に目を移す。
「ああっ! なんと……」
台座に横たわる過去の佐伯は朽ち果て、その骸は変身過程の半獣という痛ましい姿であった。
「えっ……」
一方、生身の朱里は生きていた。メインフレームを経てAIに記憶を移植したあとの彼女は、なぜか幼き娘(五歳の少女)の姿に変わり、佐伯の骸の隣で眠り続けていた。
AIの朱里は困惑しながらも、必死に記憶を辿る。そしてある事実に気づく。
完璧に記憶の移植を終えた筈なのに、AIとして目覚めた朱里の記憶はどこか途切れ途切れで曖昧であった。メインコンピューターに異常はない、朱里の千余年の記憶は全て収録しているはずなのだが……
刹那、朱里の電脳に佐伯の声が聞こえた。
「アカリ、ワタシハココニイルヨ」
それは、明らかにメインフレームから聞こえていた。

そんな中、研究工房に佐伯の陸軍時代の同僚が訪ねて来た。朱里と同じ精巧なAIの躰を持つ彼──コードネーム『盈月』──は、これまで佐伯を支え続けた「秘密結社、八咫烏」に所属する技術者である──

「幻想ノ檻」/月詠み-Tukuyomi
https://youtu.be/t4FTSnWaNUU?si=4TCwm6uaHePIDuPh

夜の雨
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凪さん、「Midnight Blue Bossa」恋愛、読みました。

御作には三曲の音楽が入っていましたが、動画サイトで曲を聴くと、そちらの方に引っ張られるので、軽く流して聴くぐらいがよいかなと。
作品を読んだ後しっかりと聴いてしまったので、肝心の小説のほうが薄れてしまいました。

作品の内容ですが。
大人の恋愛の予感めいた情景が浮かびますね。
これから二人のお付き合いが始まるのでは。
御作は、その冒頭かな。
今回の部分だけでもまとまっていて単独で作品としては成立していますが。
主人公の椎名さんと女性の村上さんとの人物(人柄)が見えてきました。

よい作品をありがとう。

fj168.net112140023.thn.ne.jp

夜の雨さんありがとうございます!

曲のチョイスはボサノバの初心者にも親しみやすく、また、音楽に詳しい読者に対しても不足感を抱かせない方向で考えました。
「イパネマの娘」はボサノバの定番中の定番であり、「シェガ・ジ・サウダージ」はボサノバを語る上で必須の楽曲であります。「Blue Bossa」という選曲は、ジャズ・ボサノバ(クロスオーバー)としての奥行きを生み出しています。楽曲の解説は専門的すぎず、物語の流れを妨げない程度に書きました。

プロットは極めてシンプルですが、シンプルゆえに日常の小さな風景に焦点を当て、音楽を通じた感情の高まりに焦点を絞った感じです。。
注力したのは、「次第に心を開いていく会話」と村上さんの笑顔の変化の仕方。それに「ボサノバの演奏」がシンクロして進行している点です。このリズム感を出すことにより、読者に「物語が音楽の流れにそっと乗っている」ような錯覚を覚えていただければ、ほぼほぼ成功でした(笑)
ラストは「余韻」を生む形で物語を締めました。

>主人公の椎名さんと女性の村上さんとの人物(人柄)が見えてきました。

ありがとうございます。感情移入しやすいキャラを目指しました。

fj168.net112140023.thn.ne.jp

それと注力したのは、物語のイメージカラーを『blue』で統一したこと。

・ネオンサインの『碧』
・ライブハウス名“Blue Note Alley”の『blue』
・村上さんのオリジナルカクテル「ミッドナイトブルー」の『blue』
・特別な一曲「blue・bossa」の『blue』

てな感じで、お題である「ミッドナイトブルー」の夜の静寂を視覚的に表現しています。

青井水脈
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私も、「Midnight Blue Bossa」読ませていただきました。
洗練されたショートストーリー、お洒落な雰囲気といった印象でした。

>こちらは【『WH-1000XM6』新色発売記念】ミッドナイトブルー×ヘッドホンの専用お題です。
monogataryによると、入選作6作品が、オーディオブックとして公開されるそうで。語感、音感みたいなもの意識して書いてみる必要があるかもと思いました。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

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