作家でごはん!鍛練場
ヘツポツ斎

漠北雙妃伝

はじめまして、妾のいとしい姪御さん。

涙で化粧が崩れるくらいのほうが、かわいげもあろうというものよ。ようこそ、この漠北(ばくほく)の地に。まずは長旅、おつかれさま。

妾は漢姫(かんき)――そう名乗ると、あなたと同じになってしまうのよね。では、寧子(ねいし)、と呼んでくれればいいわ。大丈夫、ここでは漢土と違い、名をことさらに避けようとはしません、慣れるためにも、今からでも妾のことを、寧子とお呼びになってみなさいな。

あなたはここからフンナ(匈奴(きょうど))を統べる王、大いなるルジャンク(老上単于(ろうじょうぜんう))の宗族となります。フンナは血筋を重んじこそしますが、それ以上に重んじるのは、手腕。あなたがこの異国で生き延びられるよう、手助けをできれば、と思います。そのためにも、少しばかりの昔話に付き合ってもらえるかしら。


 ○  ○  ○


改めて名乗りましょう。私は劉寧子(りゅうねいし)。あなたのお父上、つまり、いまのみかどの姉にあたります。あの引っ込み思案な恒(こう)坊がみかどになるなんて、めぐり合わせの不思議を感じるのだけど――まぁ、それは余計なことね。

漢(かん)帝国を打ち立てたわが父、高皇帝(こうこうてい)。

内外をその闊達さで取りまとめたとは言われていますが、私にとっては、ただの恐ろしき存在でしかありませんでした。臣下を見るときの輝かしいまなざしが、子どもたち、ことに娘たちを見るときには、無となるのです。まともに言葉をかわした記憶もありません。ですので、何をお考えなのかもわからなかった。
その高帝のまなざしに、一度だけ、色を感じたことがあります。漢軍がフンナの先代王、大いなるバータル(冒頓単于(ぼくとつぜんう))との戦いにて敗北を喫したあとです。

あなたも知っての通り、漢は敗北後、フンナを兄と仰ぐよう強いられた。そして妾やあなたのような、確かな血筋の娘を嫁に出すよう命ぜられました。

妾のときには、誰を嫁に出すかで大いにもめた、と聞きます。そして最終的に妾を出す、と決まったとき、高帝は、さも妾こそが憎き敵そのものであるかのようなまなざしを向けてこられたのです。

故郷に未練がなかった、といえばうそになります。けれど、それ以上に高帝より離れたかった。だから妾はさほど迷わず、フンナ入りを受け入れました。妾の抵抗を予想したのでしょうね、高帝は肩透かしを受けたかのような面持ちとなり、それからすぐに無の笑顔をお浮かべになりました。

「そうか、そうか! おまえならうまくやれようさ!」

それが高帝より賜った、唯一のお声がけらしきお声がけです。


 ○  ○  ○


高帝が、「兄」のもとに娘を嫁がせる。

まがりなりにも天下の主が、その上座に在る者に対して礼を尽くすのです。ならばその輿入れには、多くの財貨と人員とが費やされました。妾の北土入りを目の当たりとし、大いなるバータルは苦笑なされたと聞いています。そして輿入れの品の多くは臣下への下賜品となったのだとか。

私たちを出迎えた天幕「ゲル」の数々には、何よりもその彩りの鮮やかさに驚かされたもの。そして何よりも圧倒させられたのは、王が住まうゲルの壮麗さ。もっともあなたが見た、大いなるルジャンクのものに比べれば慎ましやかではあったのですけどね。いま思えば、先王は、質実を重んじる方でいらっしゃったから。

フンナの男は、強さを尊ぶ、そう耳にしておりました。なので先王を初めて目の当たりとしたときには驚いたものです。真っ先に思ってしまったのが、美しい、だったのでね。

それは孤高の狼が備えるようなものだったのでしょう。ひとたび眼光に射られでもすれば、それだけで殺されてしまったかのよう。立ちすくみかけましたが、けれど妾は「弟」の名代として寄越されたようなもの。気を取り直し、あいさつをなしました。

両手を前に、手のひらをこちらに向け、握りこむ。
額の高さにまであげて拱手し、深く頭を垂れる。

「沛郡(はいぐん)の劉邦(りゅうほう)が娘、劉寧子と申します。兄たるフンナのもとに身を寄せる光栄を賜りましたことを歓びつつ、フンナと漢家とをこの身一つにて繋ぎ上げる大任を、いかほど勤め上げられますやら。この不明の身、お導きくださりましたら幸いです」

「子をなせ。交わる血が、絆を繋ごう」

先王より賜りましたお言葉は、これのみ。侍従らはその無礼に立腹こそしておりましたが、妾としてはこの位だろう、と感じておりました。
生まれが生まれです。高帝の臣下よりかしづかれるのが常ではありますが、「上の者」より粗末に扱われるのなど、今に始まったことでもありません。

それに、ここから妾が仕えるのは、先王ではありませんでしたから。
色濃くお父上の面影を残されるものの、北地には見合わぬ優美さをまとわれたお方が、先王のそばより進み出られました。

「美しき漢の姫よ。よくぞ遠方までお越しくださった。大いなるバータルの子、メドレグと言う。この縁をきっかけとし、より漢土の友を知れればと思う。またあなたにも我らを知っていただければ、これにまさる喜びはない」

歓迎の宴が始まれば、そこで奏でられる音楽、披露される歌や踊り、提供される酒や食事に至るまで、全てが目新しいものばかりでした。ここはぜひ、あなたにも楽しんでほしいものです。

その中にあり、妾とメドレグ様は大いに話し、笑いました。人々の目をはばかることなく楽しめることの、なんとも心地よきこと! あわせてメドレグ様がどれだけ妾を大切にしたいか、の思いをも受け取るのです。

宴が進むと、酒の回ったメドレグ様が妾の目を見つつ、仰りました。

「漢姫、いや、寧子どの。われらは南北の雄がために結び付けられる仲。睦まじくあるべきでこそあるが、それが叶うかどうかは当人同士の性状にもよろう」

そこで言葉を切られると、メドレグ様は目線をそらされます。

「……こ、こう。その、この先。ね、寧子どのとであれば、私もうまく暮らせるのではないか――と」

先ほどまでの、堂々としたふるまいはどこへやら。
もっとも、メドレグ様は妾より年少であらせられました。ならば、むしろ妾が導くべきなのでは、とも思わずにおれず。なので真正面より、自らになせる、いちばんのほほ笑みを浮かべます。

メドレグ様は顔を真っ赤にこそなされましたが、咳払いを一つ、きり、とそのお顔を引き締められました。

「ならば、この身にて証してみせよう。いかほど私が、あなたを求めているのかを」

ひとたび言い切れば、先程までの狼狽はどこへやら。
立ち上がるメドレグ様を、楽士らがはやし立てます。参列者が歌い、楽士らはその演奏をますます盛んなものとされる。

宴の場、その中心に進み出、メドレグ様は巧みなる足踏みを、楽師らの奏でる音に合わせてまいりました。

「アッ!」

その、ただ一言が。
ややまちまちであった奏者たちの音を、ひとつに束ねた。

フンナの踊りは、よくわかりませんでした。けれども妾はメドレグ様の一挙一投足から目が離せなくなってしまいました。
おそらく、ああいったときの気持ちを、いにしえの人は「君子にまみえ、どうして心穏やかでおれようか」と歌ったのでしょうね。

メドレグ様の踊りが終われば、場内からは万雷の拍手が響き渡るのです。

額に汗を浮かべ、息を切らせ、目前に歩み寄られるメドレグ様。思わず妾は顔を伏せてしまいました。なぜでしょうか、見せるわけにはゆかぬ、と思ってしまったのです。

「つれなくなさるものだ。いや、それも漢土なりの駆け引きでおられるのかな」
「いえ、そんな……」

そう口ごもる妾に、メドレグ様は盃を差し出してこられました。
顔は見れずとも、盃ならば。手近なところにあった酒壺を取り、注いでみせれば、辺りがわっと歓声を上げました。

その一杯をぐいと飲み干され、どっかと隣にお座りになる。ちらとお顔をのぞき見れば、口元には、笑みが浮かんでおられる。

「思いがけず、熱がこもってしまった。いま少し泰然としたところをお目にかけたく思ったのだが」
「とんでもないこと。見とれてしまいましたわ」

間髪をおかず返した、その言葉。
メドレグ様以上に、他ならぬ妾自身が驚いたもの。

そこにフンナの貴人らがわっと押し寄せ、妾に、メドレグ様に、次々と酌を進めてまいりました。
戸惑いこそしたのですけれど、向けられる笑顔のどれもに、かげりがない。
ふしぎなものです。フンナの地よりもはるかに暖かいはずの漢土にて、あれほどひとの笑みに温かみを感じたことがあったでしょうか。

「后どのの舞も見てみたいものですな!」

それを、どなたが仰ったのでしょうね。
盛り上がった場での、何気ない一言。今にして思えば、それに応じることもなかったのでしょう。けれど、座にいながらにして舞い上がっていたのか、妾は立ち上がりました。

宴の場にて鳴らされていた鼓や鐘のうち、漢土の舞楽にもなじみそうなものを借り受けました。
側仕えに演目を伝えます。螽斯(しゅうし)、子や孫の繁栄を願う曲。

妾がひととおりを歌うと、側仕えらが調子を合わせてきます。もう一回りを歌い、その後は側仕えらに歌ってもらいながら、妾は、踊る。

メドレグ様の踊りを拝見し、思ったのです。どう受け入れられるか、は、後でもよい。フンナの前で漢の踊りを見せるのであれば、自らに示しうる最上のものであらねばならない、と。

ひとしきりを踊りきり、これまでにない疲れと、やり切れたという自負を懐きながら――けれど、それがフンナに届ききれなかったことを、いたく感じるのです。

メドレグ様の踊りに、あれだけ惜しみなき拍手を送っていた方々が妾に向けてこられたのは、ごくごくまばらなもの。

仕方のないことだ、とは思っておりました。妾がフンナの踊りを受け入れきれなかったのに、どうしてフンナに妾の踊りを受け入れてもらえましょう。
三連からなる歌を妾が歌い切り、借り受けた鐘の音を合わせてゆきます。そしていま一度、側仕えとともに、歌う。

できる限りのことは尽くした。今でもそう思います。しかし、それでもなお、むしろ戸惑いの強い宴席を前に、縮み上がりそうにはなりました。

そこにメドレグ様が、ひとりお立ちになる。

「漢土の舞い、確かに拝見させて頂いた! その一挙投足に込められた深奥を語るだけの見識を持ち合わせぬこと、まこと申し訳なく思う! なれど、漢の姫よ! そなたの意志は頂戴した! いつかはこの舞にも万雷の拍手を示せるよう、南北の兄弟で歩み合おうではないか!」

メドレグ様のそのお言葉に対して、ではありました。けれども皆皆さま方は惑いを振り払い、ひとり、またひとりと立ち、拍手をくださいました。
このとき妾の顔はいたく火照り、どうにもメドレグ様を見ること叶わずにおりました。

フンナの王、大いなるバータルの子。
その時になり、今更のように妾は、どのようなお方のもとに嫁いだのかを識ったのです。

 ○ ○ ○


お姫様には、ここから妾がよき伴侶を得て幸せになった、と語りたいのですけどね。

あなたは、この地に来てしまったのです。ならば、こう言わざるを得ません。妾らの身に、幸せなど来るはずがありません。言い切ります。ここが、妾らの故郷ではないからです。
言い換えましょう。この地にある幸せは、妾らが知る形をしておりません。

メドレグ様は、この地を知らぬ妾に良くしてくださいました。

なれどフンナの王を継ぐお方として、その素質に求められるべきは、まず、強さ。
輿入れして後、幾度となくメドレグ様は出征され、無数の戦功をお挙げになりました。そのたびに先王よりは報賞を賜ったのですが、一方で、戦の主たるはずのメドレグ様が、多くのけがをも負ってこられた。

戦い、勝つことこそが誉れ。それがフンナの習わしであり、けがはむしろ戦勝を彩るもの。そう言い聞かされてしまえば、ゲルで待つしかない妾は飲み込むしかありません。けれどけがの中には、あと指一本ぶん深入りしてしまえば、と思わせるものも少なくはありませんでした。

斯様な懸念ほど、たやすく形を帯びるものです。

漢土よりすれば、フンナは北土の覇者と見えましたでしょう。なれどいざ懐に飛び込めば、その不見識を笑うべきか、嘆くべきなのでしょうか。

なぜ、北土の民が剽悍であるか。
強いるからです。
大地が、戦うことを。

それは、北に向かえば向かうほど、厳しくなる。

フンナは驃騎、それは間違いありません。けれど、厳しき風土をどう生き延びるべきかを考えれば、より厳しき地に住まう者たちが、より刻苦するのは当然のこと。そこを見いだしきれずにいたのは、しょせん妾の目が漢土にしか根ざしていなかったからなのでしょう。

――持って回った言い方をしてしまっているわね、ごめんなさい。今でも、やはりすぐには受け入れきれない傷のようなの。

北土の民との戦いで、メドレグ様は、果てられました。

その頃妾は、メドレグ様のお子をおなかに宿しておりました。いつものように勝ち、お帰りになったメドレグ様を、赤子とともに出迎えられる――そう、考えていたのに。妾がどれだけ取り乱したかは、せっかく授かった子供を流してしまったことこそが、すべてを語るでしょう。

そこから覚えているものは、途切れ途切れです。漢土より付き従ってくれた者たち、フンナの地にて妾を受け入れてくれた方々。そういった中で、なぜかしばしば妾の眼は先王のお姿を認めておりました。

大いなるバータル、フンナを統べるお方。

後に伺えば、先王は妾との接し方にずっと悩んでおられたのだそうです。そう思えば、かわいいお方、とお呼びすべきなのかもしれません。もちろん、それをじかに申し上げることはできませんでしたけどね。

いかほどの時が流れたのか。ふ、と我に返ったとき、妾の頭上に、何一つ遮ることのない星空が広がっていたのを思い出します。

「ようやく落ち着かれたかよ、漢姫」

そこに届くは、メドレグ様の声でありながら、メドレグ様にあらざるもの。

振り向けば、いらっしゃったのはキェツィウ様であらせられました。メドレグ様の弟君として、兄に代わり、大いなるバータルの後継としての指名をお受けになったお方。

その後ろに控えるのは兵士――では、ありませんでした。侍官。すなわち、王の身の回りの世話を取り仕切る者たち。

ずい、とキェツィウ様が進み出られます。

「兄を思い、慟哭を示してくださったこと。尊崇すべきお方を失った輩として嬉しく思う。増して、そなたは漢土より劫略されてこの地に赴かれたにも等しい。ならば、兄をこうも慕ってくださったこと、欣喜余りあると申し上げるべきであろう」

さらに迫るキェツィウ様に、思わず妾は身じろぎします。

「な、何なのです? 妾はあなたの兄上の――」
「兄上の奥方、なればこそよ!」

突然の大喝と、わずかに時をおいてからの、舌打ち。

「思った通りだな。そのご様子では、兄より伺ってはおられぬようだ。われらフンナの習わしよ、父や兄の身罷りし後、寡婦が子をなしえるのであれば、子や弟が引き受けるのだ」
「そんな、まさか!」

あなたには、少し障りの強い話かもしれませんね。
漢土にては、寡婦が同姓の夫の元に嫁ぐことを忌み嫌っておりました。ならば、そもそもにして亡き夫の血族なぞ、問題外にもほどがある。
漢土の礼を学ばんと心していたはずのフンナが、なぜそうもたやすくそれを踏みにじるのか。あの頃の錯綜した思いを言葉にすれば、そうなりますでしょうか。

けれども、キェツィウ様のお言葉は端的で、一切の有無をも言わせぬものでありました。

「構わんぞ。産めぬ女は野に捨てる。それまでだ」

戯言を仰る口ぶりでも、まなざしでもありませんでした。
キェツィウ様もまた、王の器。それ以外のことは思いつきませんでした。あたかも芯棒を抜き去られたかの如き心地の中、キェツィウ様のゲルに運ばれ、「徳を賜り」、あなたの夫を産んだ。

悲しみ、怒り、恥辱に、無力。尊き子の誕生に周囲が湧き上がる中、妾は表向きを取り繕うのが精一杯でした。

重い腹より解き放たれても、間もなくすればさまざまな仕事に追われるのが、フンナの常。とは申せど、さすがにその日の夜はゆっくりと体を休めることが許されました。

ただし何もせぬからこそ、かえって頭は回ってしまう。さまざまなことが頭によぎります。その中には、「あの日、メドレグ様をどうにかして引き止めることができたならば」などという益体のないものまで、ある。それに気付けば、苦笑とともに涙がこぼれ落つのです。

と、にわかにゲルの外が何やら慌ただしくなってまいりました。聞こえてきたのは「漢姫様は未だお休みで……」といった声。しかも、言い終わるよりも早くに、ゲルの入り口の幕が上がりました。

その向こうにいらっしゃったのは、誰あろう。大いなるバータルでありました。

「あっ……」

こちらからは、ろくな言葉も思いつきません。そんな妾の思いを知ってか知らずか、先王は大股で、ずんずんと寝床の側にまでいらっしゃる。側女をすら退出するよう促し、フンナの王が、どっかと妾の横に腰を下ろされました。

「よくぞ産んでくれた。まずは感謝申し上げる」

腰に帯びる剣を外し、妾のそばに置かれます。

「これは?」
「キェツィウにそなたを抱かせたはフンナのしきたりがゆえ。ならば、そなたが憎しみを向けるべきは、予であろう」

にわかには、受け入れがたいお言葉でした。

大いなるバータルといえば、自らのお父上を弑された上でフンナを率い、未曽有の大帝国をお築きになったお方。その烈武、神算、そして果断。いずれを取ってみたところで、およそ人の域にあるとは思われませんでした。
かくも偉大なる王がお掛けになってこられるお言葉とは、どうしても思えなかった。

刀と王とをしばし見比べます。遅まきながら寝崩れを起こしていた髪、着衣を整え、床より降りようといたしました。が、それは王より留められてしまう。

「良い、楽にせよ。王と嫁が話すのではない、フンナと漢人がひとりずつ、ここにあるのみよ」

かしこまり上がり、まともに述べるべき言葉も思いつかず。ただし、身がいまだ重かったのも確か。そのお言葉に甘えさせていただくことにしました。

外の喧騒に耳をそば立たせながら、ふと、王が漢土の唄を口ずさまれます。

「爾を俾て昌んたらしめよ、熾んたらしめよ。爾を俾て壽きたらしめよ、富かたらしめよ。黃髮台背、壽胥と試むべし」
――汝よ、盛んであられよ。豊かであられよ。髪が黄色く、背にふぐのごとき斑紋が浮かぶまでに至った老人らの言葉をよく聞き入れ、祝福し、彼らとともに統治に臨まれよ。
毛詩は、閟宮(ひきゅう)。魯の名君、僖公の施政を称えるに当たり、長寿の賢人を頼って、よりよく政をなすよう願われた歌。

「不思議なものだ。我らに取り、老いは衰え。迫りくる悪夢でしかない。しかし漢土では違うのだな。老人らの導きを得て、より良き道を探るとは。今ならば、父が漢の理に狂った理由もわからぬではない」

そこから、王はとつとつとお語りになりました――


 ○  ○  ○


そなたも知っておろうが、余は父を殺し、王として立った。父が我らを滅ぼしかねぬ、と目した故である。

父、大いなるトゥメンの治世下、漢土では始皇帝を名乗った秦王が死に、各地で戦乱が相次いでいた。これらに捲き込まれることを恐れた漢人らが多く北来し、我らを頼ってきた。南土の異人らは、寄寓の見返りとして財物と、書を我らにもたらした。

はじめは、珍しきもの、としてのみ接しておったのであろう。しかし父はいつしか閟宮のかの箇所を口ずさむようになり始めた。折しもその武幹《ぶかん》に衰えの見え始めた頃合いであった。

意味するところは見えていた。老いてなお、王位にしがみつき続けよう、と心していたのだ。

老いは武のみならず、その目、その耳、その声をも曇らせる。蒙昧なる王に率いられ、フンナは生き延びられようか?
あの折の決断を誤ったとは、今も思ってはおらぬ。ただし、余の心、その片隅には、濯ぎ切れぬ何かが残った。

我らに取り、老いは敵。なれどそなたらは導き手と説く。しかもそれは古よりの伝承。取り受け入れ難き考えでこそあれ、軽々に踏み潰して良い違いではあるまい。

故に余は、漢王より娘を求めた。漢土の儀礼の粋たるそなたを迎え入れることにより、違いの源を求めたく思ったのだ。

メドレグを通じ、漢土の習わしを学んだ。
改めて双方の考え方の違いに驚いたものだが、一方で、こうも考えた。血族を保ち、栄えさせんと願う思いそのものが、フンナと漢人とで違えてこようか、とな。

漢姫よ。そなたの故郷におけるならわしに基づけば、キェツィウとつがわせたこと、この上なき辱めとなったであろう。あらかじめ知れておれば、あるいは、とも思う。が、既に取り返しのつかぬこと。

南土は、極めて豊かである。キビやヒエ、コメなぞはこの地では根付くことも許されぬ。故に我らは馬を飼い、羊を飼い、そのまぐさを求め、広く大地をめぐる。
我らが動くは、既にそこにあった者らの居場所を奪うことでもある。あるときは鷹、あるときは狼、虎。そしてあるときは、人。

男は戦う。血族を守り通すことが誇りであり、守れぬことが恥である。また去まし日に振るえた力が振るえなくなり、守れたものを守れなくなることに怯え、戦の中にて果てることを望む。我らが老いを尊ばぬ理由は、そこにあろう。
男は血族を守り、死ぬために生きる。故に女には、産むことを望むのだ。一度迎え入れた女は、我らの新たな血族である。次なる世の血族を生み、導くことは、男では叶わぬゆえに。

寡婦を、子や弟が引き受ける――我らがしきたりの故を求めるは容易きことではない。が、漢土のしきたりと引き比べれば、かく推し量ることは叶うのであろう。

漢姫よ。そなたは我らに漢土の習わしを教えてくれた、のみならず、次なる世の血族をも産んでくれた。どちらとてこの上なき殊勲である。ならば、ここを一つの期となそう。フンナの地にあることが、そなたの意に染まぬのであれば、漢土に戻るもよし。無論、この地に居続けるもよし。どちらに意を定めたとて、我らはそれを重んじよう。


 ○  ○  ○


ひととおりを語られると、先王は静かに退出なされました。後に残された妾は、思いがけぬ長広舌に驚きながらも、いっぽうで、王の深きまなざしに心打たれてもおりました。

そして、ふと過ぎったのは――わが父、高皇帝の凍てつかれたまなざし。

漢土より、父帝より遠く離れたとて、あのまなざしは、常に妾について回っておりました。メドレグ様よりの、キェツィウ様よりの寵を賜ってよりは、思い返すことも少なくなっておりましたのに。

そのまなざしが、大いなるバータルのものに上書きされる。

妾は、いつもの習いで拱手を示そうとし、けれど、ふと思い直すのです。フンナの人々の拝礼は、この形では、ない。

左手を下ろし、右手のみを胸に当て。
すでに去った王に、頭を垂れるのでした。

――時を置かずして、キェツィウ様により、大いなるバータルは討ち果たされました。

ふしぎなことに、妾は深く得心しておりました。
命を賭け、父を超える。強きフンナを統べるとは、万民に自らこそが王たる強さを持つ、と示さねばならぬもの。
こうしてキェツィウ様は王となられ、神霊より大いなるルジャンクの名を賜り――あなたが、この地に招かれた。

姪御どの。フンナは、あなたにどう映っていることでしょうか。

漢の外にはてなく広がる大地のことも知らず、漢のしきたりこそが全てであったはず。そのしきたりが、あなたをここに連れ出した。ここにあるものは、全てが故郷とは違います。そう――幸せの形すら、ね。

妾は、あなたではありません。だからあなたの涙を、どこまで受け止められるかもわからない。

ただし、フンナの人々が、いかなる想いのもとにあるか。何を望みとし、何を幸いとするのか。それを知るよすがを示すことならば、できる。

あなたもまた、この地での生き方を見いだせますように。

漠北雙妃伝

執筆の狙い

作者 ヘツポツ斎
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前漢劉邦が項羽を倒して皇帝になるも、冒頓単于に敗北し、兄弟の契りを結ばねばならなくなった頃の物語です。

コメント

アン・カルネ
KD059132063075.au-net.ne.jp

ものすごく読み応えがありました。
歴史小説を読んだなって思わされました。とはいえ私は歴史物は洋の東西を問わず疎いですけど。中国史もよく知らないし。とりあえず『三国志』と『項羽と劉邦』は読んだことあるよレベルなので。なので、その程度の人というところでの感想です。
文章がとても読み易かったです。そしてその時代の雰囲気を感じさせるものがありました。
どう言えばヘツポツ斎さんに伝わるか分かりませんが、NHKの大河ドラマが現代的感覚で語るもはやコスプレショーなんだよね、と思わされるのに対し、ヘツポツ斎さんの語る登場人物には、この当時の人達の考え方、価値観はきっとこのようであったろうなと思わされる説得力がありました。
「臣下を見るときの輝かしいまなざしが、子どもたち、ことに娘たちを見るときには、無となるのです。」「子をなせ。交わる血が、絆を繋ごう」メドレグの語る価値観、世界観、それを受けて主人公が悟るところ、「強いるからです。大地が、戦うことを。」風土が思想を生むということ。拝礼の仕方をフンナ式に変える事。もうどれもが読んでいてゾクゾクッとしてしまいました。あと女性であることの「宿命」みたいなことも考えさせられました。
で、私はこの後、フンナと言う国がどういう運命を辿ってゆくのか知らないので、ヘツポツ斎さんの書かれたものだけで寧子の置かれた状況に思いを馳せる事しか出来ないのですけど、その後のフンナの歴史を知っていれば、またもっと深くこの作品を読めたかもしれないなあって思いました。ヘツポツ斎さんが小説を書く時、どんなふうに思っているのかは分からないですが、私はどちらかというと海外文学の方が好きで、それは海外ものの方が世界や社会を仮に「正」とするなら主人公はそれに対して「反」であり、「合」は読者の中で作られる、そういう描き方をしているように思えるからです。まさに「作者が筆をおいたところから読者は始める」ということ。ヘツポツ斎さんの作品も私にはそんなふうに思えたので、中国史、よく知っていれば、ヘツポツ斎さんの小説の世界観と、現代の私自身の立ち位置と、それらを照らし合わせてもっと色んなことを考えさせられたかもなあって思いました。

ヘツポツ斎
133-149-194-131.east.xps.vectant.ne.jp

アン・カルネ様

お読みくださり、ありがとうございます!
あまりにガチで歴史をやりすぎるとフンナ(匈奴)と漢の数百年にわたる対立、みたいな話にもなってしまいますので、そのあたりでは「現代」要素をふりかけました。とはいえ中国史物語を書くにあたっての演出にもこだわりを入れました。そのあたりをアン・カルネ様に拾っていただけましたこと、嬉しく思います。

この話は、一部改変もありますが(本当は劉邦の娘も文帝劉恒の娘も匈奴に出されておらず、親族の娘が出されている)、一応項羽と劉邦の後日譚です。今確認したら、あちらは項羽の敗死で終わるのですね。劉邦は項羽を倒したあと冒頓単于に大敗し、娘を差し出せと命じられる、という形です。もちろん、実際にはこのようにおきれいな話にはならなかったとは思います。そこは小説、ということで!

この物語は、アン・カルネ様よりご指摘いただけましたように「では、寧子が語りかけた少女はその後どのように生きることになるのか」について、大きく余白を設けました。良かったのかも知れないし、悪かったのかも知れない。そこはもちろん、お読みくださった皆様に自由に想像していただきたい点ではあります。個人としては彼女なりの幸せを見つけて生きることができた、と言う結末も望んでいますけど、ただ問題は、史実の老上単于はかなり好戦的なんですなよね。それを知っていると、なかなか楽観もできない、みたいな感じです。

中国の北方騎馬民族と平原部の民との衝突、交流は、調べれば調べるほど「今後否応なく移民を受け入れていかざるを得ない日本人がどう振る舞えるか」について考えるモデルケースとなっているような気もします。そういうつもりで中国史を楽しむつもりもなかったのですが、あまりに様々な事情がかぶりすぎるので参ってしまうことも多く。

現実は現実としてしっかり見据え、それはそれとして小説を読み、書く。そうありたいと思います。改めて、ありがとうございます!

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

教科書レベルの知識しかないのですが、確か教科書では中国史はだいたい「漢民族」の歴史として語られている。ので、この異民族にクローズアップしたのは面白かったです。特に騎馬民族、モンゴル人には自分は興味があり、ゲルの中でなのかな、踊って求愛するシーンは抒情があり、印象に残りました。
ただ、部族が対立するという話にスケールをとどめず、要するに価値観の相克、物の見え方の違いを浮き彫りにすることで話をドラマチックにすると共に。なにか遠い日本の自分の観方というか視点って、自分から見れば全てに近いのだけど、時間的に距離的に見れば本当に小さいものなのだなと悠久の大陸の話を聞いて、なにかスケールにぽつんと佇んでいる自分が見えたのでした。

中国史への深い洞察も窺え、まったく門外漢の自分でも楽しめる間口の広さもあり。
良い作品だと思います。
ありがとでした。

ヘツポツ斎
p1460140-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

えんがわ様

お読みくださり、ありがとうございます!
そうなんですよね、大体の中国史ものって
「漢」側からしか語られませんものね。
なにせ文字史料の量が圧倒的すぎる。

ただ最近は結構遊牧民側に
フォーカスのあたった本も増えています。
古典的な研究者だと杉山正明とか、
最近なら楊海英とか…
いや、このへんは劇薬か笑
白石典之『遊牧王朝興亡史』
松下憲一『中華とは何か』
あたりの、穏当な本を
紹介しておこうと思います笑

遊牧民のスケールはすごいですね。
千年レベルの祭祀を継承していたり、
先祖へのリスペクトが半端なかったり。
「先祖から受け取ったバトンを、
 後世に引き継ぐ」という
目的意識の強さが、
彼らの苛烈さにもつながるのだろうな、と。

近日は、よくも悪くも
「これは明らかに歴史書に乗るんだろうな」
と思わされる事件も多く、
自分たちも歴史のいちパーツなんだな、
と思わされる瞬間が多いです。
そうした部分に、あまり専門的知識なしでも
乗り込めるのが歴史小説の醍醐味だな、と。
改めて、ありがとうございます!

アン・カルネ
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ちょっと再訪です。
「では、寧子が語りかけた少女はその後どのように生きることになるのか」について設けた大きな余白に思うこと。

成功していると思います。
私はこの小説を読んでいて、大きな歴史のうねりがあって、その中での個々の人生を思えば、その激流の中で小さな小舟を漕ぐようなもの、そんなふうに思えていたので、ラスト3行には、ああ、そうかもしれないな、天・地・人は変わっても、人生とはそういうものかもしれない、それは私もまたそうなのだ、と。だからこそ、「あなたもまた、この地での生き方を見いだせますように。」には胸を打つものがありました。「あなた」としたところも巧いなって思いました。

ヘツポツ斎
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アン・カルネ様

ありがとうございます、仰るとおり、
「あなたもまた、この地での生き方を見いだせますように。」
については、多義的な含みがあります。
そこには、それこそ「ここから激動の時代に突入する、我々」
も含んでいます。

どうにか、自分を見失わずにしなやかに生きたいものです。

しまるこ
211.7.110.47

ヘツポツ斎さん こんにちは。

確かに、すごく読み応えがありましたね。最初、読んだときは、漢文調になっているのか、音なども綺麗で、心地よく響いてくるのですが、内容が頭に入ってこなくて、もう一度、頭がスッキリしている朝に読んでみようと思って、翌朝、カフェでアイスコーヒーを飲みながら読んでいたら頭に入ってきました。

すごくアホなことを言わせてもらえば、ローマでいうガリア人みたいな、野蛮な民族たちが組織だった国を滅ぼしたり、滅ぼされたり、といった、かの時代の野蛮な奴らの話が好きで、野蛮な奴らの生活感といいますか、彼らの背景的な部分、生活感が見られた上で物語が始まってほしいなという気持ちはありましたね。でも、そんな昔の時代の野蛮な奴らにも、気品のある言葉を話したり、誇りがあったりして、とくに王の器となるとそれが顕著で、御作にも、王が滔々と語るシーンからそれが見られました。この当時の人達の考え方、価値観も伝わってきて、どちらかというと、テーマが現代的要素に振り分けられていて、そういったシーンを浮き彫りにさせたのかなぁと感じられましたけれども。

ただ、少し、この文章が続くと疲れてしまうところがあって、作品内の雰囲気を二分させてもいいんじゃないかなぁとは思った次第です。状況をわかりやすく説明させるために、地の分のような形で、語り手のキャラクターを用意されてあるけれども、作品内のキャラクターがその時代の話し方で気風を保ったまま話し続けられると、息が休まる場がないといいますか、これに浸れる人はたくさんいるだろうから、それはそれでいいと思うのですが。初心者の私からの視点をお伝えすると、司馬遼太郎は作品の外から自分が飛び出してきて、自分語りを始めるというか、本人がやたらと登場人物に肩入れしながらしゃしゃり出てきてペラペラと読者によくしゃべったものでしたけれども、そのことが、竜馬がゆくを楽しく全巻読めてしまったことにあるのかなぁ、なんて思いますね。完膚なきまでの自分の主観と、歴史小説ぽい文体のシーンとが、交互に絡まって進んでいくような、塩野七生さんもそんな筆致だった気がしますが。物語に挟むような形で、長い説明みたいなものが、途中、途中、挟まれてもいいんじゃないかなとは思いました。それをやると、台無しになってしまうものなのかな🤔 とくに、今作はシーンを浮き彫りのさせるための小説と、その筆致でしたから、外れた見解だと思いますが(笑)ただ単に、初心者の歴史小説に対して感じているという壁というか距離感のようなものをお伝えしたいなと思い、言ってみたくなっただけです。ヘツポツ斎さんのこれからの執筆に役立たせてもらえたらと思った次第です。ありがとうございました!

ヘツポツ斎
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しまるこ様

お読みくださり、ありがとうございます!
「野蛮さ」ってやつはかなり厄介だよなあ、
と思っています。
というのも、今も昔も、みんな
気に食わないやつを悪く言うんですよね。
なので、おっしゃるとおり、
この話のテーマそのものは
現代的価値観にしたがっています。
当時の価値観なら「われわれが最高」
にしかなりませんし。
(実際、王の語りは同じ内容が
 史書にも載りますが、
 あくまで「漢人クソ」の文脈上です)

そして、後半のお話ですが、
とても重要なご指摘と感じています。

ただ、「回答」にしてしまうと
無限に長くなってしまいますので、
こちらごとに引き込ませてください。

まず歴史小説って、ハードルがやばいと思っています。
その中で司馬、塩野の吸引力がやばい。
これは「物語として歴史に導いている」
という確かな手腕であり、仰ぐに足るものです。

一方で、両名って詳しい人からの評価がヤバい。
「最悪」レベルの判が押されたりもします。

ただこのへんって、
役割の違いなんですよね。
基本的な興味をまず喚起することと、
歴史沼に深くはめようとすることと、で。

自分は独自基準で歴史小説沼にはめる目途を
5段階に分けており、本作は2~3です。
これはあくまで深さだけの話であり、
「1」を見事に成し遂げる司馬、塩野は、
とんでもない書き手だと思っています。

ここで、しまるこ様は
「1」の観点で接していただけた。
これはすごい重要で、
「この作品を1の方に向けるなら、
 解説という名の息継ぎが必要になる」
ということになるのだ、と感じました。

俺の野望は1〜5の網羅です。
そう考える以上、俺の深さは5です。
対極にある方の観点が、
本当にわからないです。
なので今回のしまるこ様のご指摘は、
「外れた見解」どころか、とても重要な
アドバイスである、と感じました。
ありがたい限りです。

試しに、次回は過去に自分なりに
「1」を目指した作品を
投下してみたいと思いました。

ヘツポツ斎
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ちょっと名前リンクを、上にある
「沼の深さの五段階の話」に切り替えておこう。

久々の男
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どうも、ヘツポツ斎さん、お久しぶりです。久々の男でございます。「漠北雙妃伝」読ませて頂きました。
この作品、アン・カルネさんが熱いコメントを書いているのを見て興味が出ていたのですが、えんがわさんもしまるこさんも絶賛している(!)どげな話もんそかい?(すみません、地元の訛りが出てしまいました)と思い、読んでみると、すんごい大河歴史モノ(!)
他の方々に批評は言い尽された感があるので、あくまで、ボク個人の自分の言葉での感想を幾つか書かせてください。

寧子という匈奴(フンナ)の王の許に嫁いだ女性が、同じく嫁ぐことになった漢の姪っ子に昔話を始めるという体裁ですが、あまりこういった本を読まず、想像力の乏しいボクは、自分の近所のことを思い浮べていました。
ウチ、公営住宅に住んでいて、高齢化が進んでいるんですよ。そこの公園で、よく近所のお婆ちゃんたちが囲戸畑会議をしているんです。時々、ボクも話に加わってアホな話をするんですが、一度、マジなボクの恋愛相談を婆さんたちにしたんです。
「ボク、五十も過ぎているんですが、二十ぐらい年が離れている若い女性と文通しているんです。でも、最近、相手から手紙が来ないんです。どうしたらいいでしょう?」とボク。
「まず、相手を見極めんといかんよ! その女性どんなオンナね?」婆さんA
「そうそう、今のオトコは若い女にホイホイ付いていくから危ないんよ。Aさんの言う通りじゃ」婆さんB
まあ、こんなやり取りでボクはお婆ちゃんの恋の指南を受けたのですが、それは昔の彼女たちの経験に基づく的確なアドバイスでした。作品中の寧子もそんな老婆心から姪っ子に言ったのではないかと、ボクは思うんです。ああっ! 適切な感想ではないかもしれませぬ! フィクションもありますが、寧子のアドバイスは気品がありますよね。リアルな婆さんたちとは全く違うかも……(汗)

ボクは今でも忘れられません。吉川英治の「三国志」の冒頭。若い劉備が老いた母のことを案じながら、海のような対岸が見えない黄河の畔に立っている。そこには大陸という狭い日本列島にはない、広大な舞台がある。
なぜなのでしょう? この作品は寧子というヒロインの一方的な一人称で、状況説明もあくまで彼女の視点なのに、万里の長城の北に広がる広大無辺な砂漠の風景が浮かんでくるのは――

フンナの男どもはイイオトコ! オトコのわてでも惚れてしますようなダンディーばかり!
勝手にキャスティン~~~グ!!!
【大いなるバータル】シブい! 寧子に息子(キェツィウ)のことを詫びる所も魅力的! こんな役を出来るのは佐藤浩市の他にない!
【メドレグ】男のフェロモンぷんぷん💛 胸毛も顔も濃そう! ここは彫りも深い阿部寛!
【キェツィウ】いいねぇ~このニヒリズム! 略奪愛結構! ここは「鎌倉殿の13人」でもクロ義時をやり、「豊臣兄弟!」でもあの信長をやるクロ小栗旬以外にない!

蛇足で寧子とその姪っ子キャスティング!
迷った……この語り部、けっこう陰影がある! こんな役を演じられる女優は誰だろう? 長澤まさみ? 新垣結衣?(←注:久々の男は朝ドラと大河しか観ません)いや! やはりここはベテランの松嶋菜々子!
姪っ子は「べらぼう」で可愛い花魁を演じている福原遥ちゃん。
(欄外)
【劉邦】こんな外道を演じれるのはドラマ版「いけない!ルナ先生」でわたるのオヤジ役の蛭子能収だけじゃ!
【恒坊】若くて初々しい皇帝さま~。こりゃ、蔦十(べらぼう)の弟分役の染谷将太だね!

ヘツポツ斎
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久々の男様

お読みくださり、ありがとうございます!
皆様にはありがたい言葉をいただけ、感謝感謝です。
とはいえ今後も精進を重ねたいところです。

こうした「語りかけ」タイプは、
歴史もの特有なのでしょうね。
確かに通常の小説でやってしまうのは、ちょっと重いかも。
あるいは漫画、とかでしょうか。
そうして考えると、しまるこ様よりの
「語りが二種類あると良かった」という指摘が
ますます重みを増しますね。

中国の物語で、日本人がなかなかピンとこなさそうなのは
やはり久々の男様が仰るように「広さ」でしょう。
この点については、自分もまだまだ作中に取り込み切れておらず、
どうしても読者様の想像力に頼るところが多いな、
と感じました。うまく描写も入れられると良いのですけれど。

各人のキャストについて、興味深く拝見しました。
自分はテレビを全く見ない口なので
それぞれの方がどういった人物なのか存じ上げないのですが、
そうしたイメージに結びついてくださったのであれば、
こちらとしても幸いです。

改めて、ありがとうございます!

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