ねえ、先輩。
先輩は本が好きだった。
学生時代、先輩は必ずと言っていいほど本を持っていた。
だからか、先輩の両手が空なことに違和感を抱く。
「先輩って友達いないんですか?」
いつだったか、そう尋ねたことがある。
難しそうな題名の文庫本を携えた先輩は、少し悩んだ後こう答えた。
「友達の定義にもよるが、そうだな。新たな価値観を与えてくれるという点で見れば、本が俺の一番の友人といえるかもしれない。」
その時の私は、何と答えただろうか。
可哀想ですね、と嫌味を言ったような気もするし、曖昧に流した気もする。
出会った日から何年もたち、新しい記憶が更新され、古い記憶が消えていく中で、それでも思い浮かぶ先輩は優しかった。
当時は個性的と思っていた先輩の性格も、今は愛しく見える。
振り返れば、常に優しく接してくれた先輩を、好きにならないはずがなかったのだ。
「ねえ、先輩。今の一番の友人は誰ですか?」
とっくに学校を卒業した今でも、私は先輩を「先輩」と呼び、偶に敬語を使う。
昔よりも友人も増え、さらに優しくなった先輩は、振り返ってこう答えた。
「本、だ。」
迷いのない答えに、私は思わず吹き出してしまう。
変わったようで変わらない先輩は、私の笑い声に目を細めた後、空っぽの手を差し出してくれる。
先輩の中で、本と私、どちらが上なのだろうか。
昔はそんなことも思っていた。
けれど今は、私をまっすぐ見てくれる先輩を信じることにした。
髪型も服装も整えた先輩を見つめながら、私は口を開く。
「先輩、タキシード、意外と似合ってますね」
執筆の狙い
趣味で小説を書く中学生です。
人生二作目の短編です。
前作「サイダーと君と。」よりも熱量がこめられなかったのがちょっと残念です。
感想だけでも、(できれば添削、アドバイスも)いただけると嬉しいです。
(セリフ部分の句点はわざと入れてますが、ないほうが良いかも、と悩んでいるのでそこのところ教えていただけるとありがたいです。