将棋
二人の王様が口喧嘩をしていた。
「『天に二日なく、地に二王なし』という言葉があるじゃないか。今日こそはどちらが真の「王様」か、決めようではないか」
「いやいや、すでにどちらが王なのかは決まっている。我が名は王将。おまえは玉将。王という漢字が使われている俺様こそが、真の王だ。お前は『おう』でなく、『たま』だ」
「失礼な。『ぎょく』と呼べ。棋譜では玉と記すだろ。つまり、将棋の世界では玉が正式名称だ。よって、玉将こそが真の王である」
「玉が正式名称だと? そんなはずはない。王手という言葉はあるが、玉手なんて言葉はあるのか? 浦島太郎かよ。よって、真の王は王将である」
「おまえは餃子屋でもやっていればいいのだ。玉こそが王なのだ」
「言っていることがおかしい。王こそが王。これで議論は終了。実に簡単な話だ。玉などという鼻くそがついたやつは、王としては認められぬのだ」
「よろしい、ならば戦争だ」
「受けて立とう」
こうして、「王」と「玉」が戦う「将棋」という戦争が始まった。
最前線に布陣したのは、数で勝る「歩」の兵隊たちだった。
彼らは訓練された動きで隊列を組み、敵の猛攻を受け止める。
ひとりひとりは小さくとも、彼らが力を合わせることで強固な壁となる。
しかし、彼らは決して縦に並ぶことはない。
「香車」の部隊は、鋭い槍を構え、一直線に敵陣へと突き進む。
彼らの突撃はまさに一直線の稲妻。敵の分厚い陣形を次々と貫き、突破口を開いていく。
しかし、弱点もある。後ろに下がれぬのだ。
その時、敵の歩の頭上を跳び越して、騎兵が襲撃してきた。「桂馬」である。
彼らは高い壁をも跳び越えて進撃してくる。
戦況を見極め、的確な指示を出すのは「金」と「銀」の将校たちだ。
彼らは王の盾となり、矛となり、前線と後方を繋ぐ重要な役割を担っていた。
「金」の将校は矢倉を組んで守りを固め、「銀」の将校は攻撃の機会を探る。
そして、上空からはジェット戦闘機の「飛車」が、圧倒的な攻撃力を発揮していた。
歩兵や槍、騎馬の戦いに、戦闘機を使うのはもはやチートである。
さらには、「角」レーザーが、うっかり射程に入った敵を容赦なく撃退する。
戦いは熾烈を極めた。
盤上世界の軍勢は一丸となって戦い、文字通り一進一退であった。
敵の猛攻をかいくぐり、幾人かの「歩」は、勇敢にも敵陣深くまで突撃、そこでまばゆい光を放ちながら「金」の将校へと昇格した。
新たな力を得て、さらに強力な攻撃を仕掛け、敵を追い詰めていく。
まさに勝利が目前に迫ったその時だった。メタ世界の敵司令官はこう言った。
「待った!」
次の瞬間、時が巻き戻された。
なんというファンタジー。そんなのありかよ。
盤上の兵士たちの間に、動揺が広がった。
再び猛攻を仕掛け、ついに敵の一人を捕らえることに成功した。
捕らえた敵兵は、あっさりとこちらの味方となった。
まるで、第二次世界大戦で、ドイツと同盟を組んで戦っていたはずのイタリアが、降伏した途端、連合国側について、ドイツに宣戦布告したかのようだった。
敵は驚いた。
「おまえ、さっきまでこっち側の兵士だっただろ。寝返るとは卑怯者!」
「ルールだから仕方ないだろ。所詮、俺達は『駒』なんだ」
< 了 >
執筆の狙い
将棋を題材にしたコメディです。
即興で書いたので荒いですが^^;
あと、王サイドで書いているのか玉サイドで書いているかを明らかにしていないのは
「どっちでも同じじゃん」という意味です。
(実際の将棋では、格上が「王将」を使うというマナーがあるようです)