傀儡師
【序章】
「畜生! 何が立身出世だ! ふざけやがって!」
日吉丸は畦道で被っていた笠を投げ捨て毒づいた。今川義元の足軽として着任したものの、虫けら同然の扱いに僅かばかりの給金。これでは武将になるなんて夢のまた夢だと逃げ帰ってきたところだ。
「親父、一体俺はどうしたらいい?」
天に向かって語りかけるが無論答えなどない。
亡き父の弥右衛門は搾取され続けるだけの農民であることに限界を感じ足軽となった。しかし字も読めず教養もないため出世などできず、結局足軽と農民の二足の草鞋を履いたまま生涯を終えた。
「いいか、お前たちは俺と同じ轍を踏むな。成り上がるなら知識は必要不可欠だ」
日吉丸と弟の小一郎は幼い頃よりその教えの元育てられた。寺通いをして学問を修め、満を持して足軽に仕官したものの、その目に映る景色も、鼓膜を揺らす蛙の鳴き声も、踏みしめる土の固さにもなんら違いはなかった。
「蛙の子はかえるか。いやまだだ。まだ俺は終わっちゃいねぇ。必ず天下を取ってやる」
その声に道端の蛙がポチャンと音を立てる。日吉丸は自分を奮い立たせ、力強い足取りで歩き出した。
【青天の霹靂】
「ちょいとそこの猿。お主に話がある」
「ああ? もういっぺん言ってみろ! 俺を猿呼ばわりする奴は例え女だろうと容赦しねぇぞ!」
野原で稽古している秀吉は顔を真っ赤にして声の主を見た。
今にも手に持つ刀で切り掛かってきそうな気迫にお付きのものが間に入る。
「これは無礼であった。堪忍してはくれまいか?」
その女性は付き人を制し、深々と頭を下げた。怒り収まらない日吉丸ではあったが、武家の娘が自分のような低い身分のものに謝罪するとあっては矛を収めるしかなかった。
「それで? 杉原家のお姫様が俺なんかに何の用だ?」
「妾を知っておるのか?」
「同じ村に暮らしてるんだ。ねね様のことはよく知ってる」
「ほう、やはり主は興味深い。じゃが、ここではなんじゃ。そこの桜の木の下で一服進ぜよう」
日吉丸は、ねねに言われるまま後に続いた。
「姫、茶器の準備が整いました」
「ご苦労、下がって良いぞ」
「しかしこのような者と姫を二人きりには……」
「要らぬ世話じゃ」
ねねは渋る付き人を追い払った。
「そこに座るが良い」
日吉丸が近くの切り株に腰掛けると、ねねは見事な手つきで茶を立てた。
「俺は茶の心得など持っておらん」
「作法など気にせず飲まれよ。誰も見ておらぬ」
日吉丸は乱暴に茶碗を掴むとグイッと飲み干した。
「どうじゃ?」
「にげぇ。だが、……悪くねぇもんだな。だけどな、茶を飲みにきたわけじゃねぇ。俺は忙しいんだ。そろそろ本題を聞かせてくれ」
「何をそうも慌てておる」
「人生五十年、俺はその間に天下を獲る。時間はいくら合っても足りねぇんだ」
ぶっきらぼうな日吉丸の態度に、ねねは微笑を浮かべる。
「笑うか? この俺を」
「そうではない。やはりそなたは妾の思った通りの男じゃ」
「一体何が言いたい」
日吉丸が苛立ったように語気を荒らげると、ねねは神妙な面持ちで口を開いた。
「単刀直入に言う。妾を嫁に貰ってはくれまいか?」
それはあまりに突拍子もない申し出だった。足軽崩れの農夫が地元名家の姫から求婚されている。日吉丸の驚きは言うまでもない。
「馬鹿を抜かすな」
「妾は真剣に申しておる」
堰を切ったように想いのたけを打ち明けるねねに日吉丸はただただ圧倒された。
「お主、本気で言っているのか? 俺なんかに嫁いで野垂れ死にするかもしれんのだぞ!」
「これは異なことを。そなたは天下を獲る男であろう。それに……」
ねねが空を見上げると突風に桜の花びらが一斉に舞った。
「その時はそなたと共に散りましょう」
日吉丸はねねの決意が嘘や冗談ではないと認めざるを得なかった。
【木下藤吉郎】
ねねの申し出を受けた日吉丸ではあったが未だ信じられぬ想いがあった。あれからねねとの密会は続いているが、結婚するには越えねばならない障害がある。ねねの両親、特に母の朝日殿から猛反対を受けている。武家の娘が下賎な農民に惚れ込んで嫁ぐなど名家の名折れ。到底許される行為ではない。そんな折、ねねは浅野長勝の家に養女として送り出されることになった。
「やはりそんな簡単にはいかないか」
日吉丸は路傍の石を田んぼに向かって投げた。
「お主、日吉丸と言ったな」
突然声をかけられて振り向くとそこに立っていたのは一人の武士。ねねの兄、家定である。
「なるほど、妹の結婚をとりやめさせようってお兄様の登場か。安心しな、養女に出されたとあっちゃどうしようもねぇ」
「早まるでない。お主にとって悪い話ではないと思うぞ」
予想外の言葉に日吉丸は声を失い次の言葉を待つ。
「織田信長に仕官しろ」
うつけ者と蔑まれながらも、天下統一の有力候補とみなされていた今川義元を桶狭間で破った男。その臣下となれば夢に向かって大きな一歩を踏み出すことになる。
「しかし、どうやって?」
「ねねの養父は信長の弓頭だ。根回しは済んでいる。それとこれはねねからの書簡だ。目を通しておけ」
「待て待て! なんであんたらは俺にそこまでする? 何を企んでる?」
用件を済ませて去ろうとする家定に日吉丸はくってかかる。
その言葉に足をとめた家定はしばしの沈黙のあと、口元を緩めて答えた。
「そうだな、かわいい妹の願いを聞くことが兄の勤めだとでもしておこうか」
訝る気持ちはあったが日吉丸は家定の提案を受け入れた。元よりなんの損もない話。その上、家定は秀吉と養子縁組をした。日吉丸に家柄を与えるためだ。とはいえそれは形ばかりの物。本家に知らぬところで行われた密約に過ぎない。
成り上がりを目指すものに名字がないのではしまらない。かつて足軽の父が武将気取りで使っていた木下の姓を受け継ぎ、日吉丸の名も併せて木下藤吉郎と改めた。
「天が与えしこの好機。決して無駄にはしない。杉原であろうと浅野であろうと、たとえ信長であろうとも、とことん利用してやる」
藤吉郎の目が野心に燃えた。
【青雲之志】
ねねの口添えと家定の後押しもあり藤吉郎は長勝率いる弓部隊に入隊した。武の才と天性の人たらしぶりを発揮し頭角を表すようになった。そうして長勝の信頼を得た藤吉郎は、ついにねねと祝言をあげる。婚礼の儀と言えど、それはみすぼらしいものであった。
祝言だけではない。暮らしは正に赤貧洗うが如し。泥水を啜って生きるような日々に大方すぐに逃げ出すだろうと藤吉郎は踏んでいたが、ねねは文句の一つも言わず妻の勤めを果たした。
「なんと見上げた女だ。苦労を知らぬお姫様がなぜ逃げ出さない? なぜ涙の一つも流さない?」
ただ利用するだけの存在としか見ていなかった藤吉郎の中で何かが変わった。必ずやねねに天下を捧げようと。
「猿、何をしておる?」
小雪舞い散る冬の朝、庭先で佇む藤吉郎に信長が問いかける。
「今朝は冷えますゆえ、殿の草鞋を温めておりました」
藤吉郎は懐中から取り出した草履を信長の足元に置いた。
「うつけが、そのようなことで温まるものか。いつからそうしておる」
「半刻ほど前からでございます」
底冷えのする雪の日に草履を温めるためにそこまでする藤吉郎に信長は驚きを禁じ得なかった。
「温いな」
「左様でございますか」
「草履ではない。主の心配りだ」
「勿体ないお言葉」
その言葉とは裏腹に藤吉郎は狙い通りだとほくそ笑んだ。
この後も藤吉郎は人の心を掌握し、次々と功績を上げていく。美濃を制す者は天下を制す。信長が稲葉山城を攻め落とそうとすれば、先回りし、得意の話術で周辺の有力大名を抱え込む。斎藤道三から家督を継いだ孫の斎藤龍興《さいとうたつおき》を孤立させていく。そうは言っても稲葉山城は難攻不落の城簡単に落とせるものではない。
そこで信長が計画していたのは長良川下流の西岸に兵糧をはじめとする物資の集積所を築くことである。敵の領地にそのような物を建設することは容易ではない。家臣の誰もが失敗し信長は苛立ちを募らせていく。
「殿、それがしにお任せいただきたく存じます。必ずやその地に城を建てて見せましょう」
半信半疑ではあったがこれまでの功績から、信長は藤吉郎なら成しえるかもしれぬとその言葉に賭けた。
実際それは城と呼ぶにはあまりにも簡素な物ではあったが、ともあれ藤吉郎は公約通り墨俣城《すのまたじょう》を築城した。後詰めの要地としては十分である。何より自分の領地に城を建てられた龍興からすれば面目丸潰れ、その精神的圧力は相当なものである。
藤吉郎の働きもあり、信長は稲葉山城を攻略しその名を岐阜城と改めた。
「猿、あっぱれな働きであった」
この一件で藤吉郎はその地位を確かなものにした。
「そのようなお言葉、身に余る光栄にございまする」
今のうちに猿、猿いっていろと藤吉郎は湧き上がる怒りを飲み込み、その先を見据えた。
【快進撃】
美濃を掌握した信長は近江にその手を伸ばす。妹のお市を浅井長政に嫁がせ親戚関係を結び上洛を果たす。続き朝倉義景の領国越前に侵攻すると、浅井長政は関わりの深い朝倉家の忠義から義景につき信長と対峙することになる。世にいう姉川の戦いである。
挟撃を受け撤退を余儀なくされた信長は体勢を整えると反撃に打って出た。織田・徳川連合軍で朝倉・浅井と衝突する。これまでの功績を認められた藤吉郎は明智光秀と共に戦の最前線を任された。
「この光秀という男、できる。いずれ俺の邪魔になるやもしれん。策を練っておかねばならぬな」
人を見る才に長けていた藤吉郎は、光秀の脅威を肌で感じ取っていた。
怒りに燃える信長は決してその手を緩めることはない。朝倉義景に加担したという理由から比叡山焼き討ちを行い、女子供とて容赦せず皆殺しである。
その凶行に光秀の表情が曇る。信仰心と人道に厚い光秀にとって信長の蛮行は神への冒涜に他ならない。
藤吉郎はそれを見逃さなかった。
「甘いな。こいつには脆さがある。そこに付け込めばいずれ利用できるかもしれん」
だが今はまだその段階ではないと共に刃を振るう。藤吉郎は浅井長政の居城小谷城に睨みを効かせるように横山城を築城し北近江を制圧。光秀との包囲網を狭めていき、ついに小谷城を落とした。
「此度の働き誠にご苦労であった。褒美をとらわす。なんでも望みの物を言うが良い」
武勲を上げた秀吉に上機嫌で信長が尋ねる。
「ならばそれがしは、名前をいただきたく存じます」
「名前だと? そのような物で良いと言うのか」
「はっ、恐れ多くも柴田勝家殿と丹羽長秀殿から一字ずつ頂戴し、羽柴秀吉と改めとうございます」
藤吉郎は畳に額を擦り付けるように頭を下げた。
信長の右腕左腕とも言える二人から名前をとる。目上の者を立てる上に、どちらにつくこともなく中立的な立場であることを主張する意図であることは明白だった。一角の武将となった藤吉郎をどちらかが引き入れれば力の均衡が崩れていらぬ衝突を招く恐れもある。信長にとっても願ってもいない申し出だった。
「よかろう。面をあげい。だが名前だけとあっては儂の名がすたる。主に長浜城城主の座を与えよう。長浜の地を治めるがよい」
「ははー、この羽柴秀吉。必ずや殿を天下一に導きまする」
再び頭を下げた秀吉は、こうも容易くいくとはと堪えきれぬ笑いを押し殺し体を震わせた。
【中国侵攻】
城を与えられた秀吉は母、仲を呼び寄せねねとともに生活の基盤を長浜へと移した。嫁姑という間柄でありながら意気投合した二人は実の親子のように良好な関係を築いた。
同じく功績を認められた光秀は、琵琶湖に面した要衝坂本城の城主を任せられた。比叡山焼き討ちの件もあり統治の難しい土地。光秀にかける信頼の厚さの表れである。
この後も秀吉は着々と功績を上げていき天正四年、信長は毛利討伐を見据え中国侵攻を命ぜられる。手始めに秀吉は姫路城を拠点とし播磨攻めに着手した。
秀吉は得意の話術で周辺大名を次々と調略していく。
「今や最も勢いのある武将は、毛利でも長宗我部でもない。我が殿織田信長にあらせられる。殿は残酷なお方、刃向かえばただでは済まぬ。早く軍門に下るのが得策ぞ」
美濃や近江を次々と落とし、比叡山焼き討ちでは女子供であろうと容赦なく皆殺しにした鬼神。それがもう眼前に迫っている。左前になるのも当然と言える。
最初に引き入れたのが別所長治。才気に溢れ、一国を背負い信長と対峙してきた若き獅子。秀吉は長治に特別目をかけた。
戦況は逐一報告している。ある日秀吉の元に書簡が届けられた。
「情を捨て鬼となれ。いかなる者にも心を許してはならぬ。戦において武将など玉を守る駒に過ぎぬことをゆめゆめ忘れるでないぞ」
秀吉は読み終えた書簡を篝火に放り込む。秀吉は人を見る目に自信があった。長治はこの先、自分の右腕になる男だと。
しかし翌年、毛利ゆかりの寺や大名からの圧力が強まり、長治は反旗を翻す。秀吉の失望と落胆は計り知れない。あの日の書簡の言葉が頭に浮かぶ。
「あ奴の言う通りだったということか……」
秀吉は長治の居城である三木城を完全包囲。兵糧攻めをかける。途中毛利の援軍が送られてきたが、鬼神と化した秀吉の前に歯が立たない。
兵糧攻めとは血を流さない穏やかな戦いに見えるが、これほど苛烈な戦術はない。兵糧はいずれ尽き、敗北が訪れる。だが投降したところでどうなるかわからない。
食料が無くなれば、米糠、紙、草を食べ尽くし、やがて犬猫を食す。最終的に口にするのが屍肉。その様はまさに地獄絵図。
そして、三木城でも飢饉が始まった。飢えに苦しみ次々と人々が倒れていく。だが長治にはどうすることも出来ない。このままではやがて訪れる死をただ待つだけだ。そして長治は投降を決め「三木の干殺し」は終焉を迎える。
「この首は差し出す。だからどうか、どうか我が民と兵の命を救ってはくれまいか」
秀吉はこの申し出を快く受け入れた。長治らに最後の宴を贈ったあと、妻子弟ともども自害させた。三木城は秀吉に明け渡され中国制覇はもう目の前にある。
「長治め、あれほど目をかけてやったのになぜ……」
盃に映り込む月を眺め秀吉はやりきれなさから唇を噛む。書簡の言葉が再び頭の中を駆け巡る。
——情を捨て鬼となれ。武将は玉を守る駒に過ぎぬ。
見上げた月にねねの顔が浮かぶ。秀吉は意を決したように盃を傾けた。
【饗応役解任事件】
秀吉だけでなく、光秀もまたその地位を確固たるものにしていた。徳川家康を労う接待を執り行う饗応役《きょうおうやく》に任命されたのである。山海の珍味を取り集め、万全の体制でその日に臨んだ。
そこで事件が起きる。手際の悪さ、用意していた魚が腐っていたことから信長の逆鱗に触れ、結果光秀は大勢の家臣たちの目の前で厳しい叱責を受け、饗応役を解任されることとなる。
一人絶望に打ちひしがれ佇む光秀に秀吉は歩み寄る。
「よぉ、散々だったな。景気付けに一杯どうだ?」
秀吉が盃を差し出すが、光秀は眼光鋭く秀吉を睨みつけた。
「貴様、なぜここにいる? 中国を攻めていたのではないのか?」
「信長様の密命でな。ちょっくら戻ってきたとこだ」
そのような密命などない、口から出まかせだが、光秀にはそれを確かめる術はない。
「何の用だ? 俺を笑いにでも来たのか?」
しばしの沈黙の後、秀吉は酒を注ぐと一気に呷った。
光秀は家柄もあり気位の高い男。下賎な身分から成り上がった自分を見下していることを秀吉は重々承知していた。
空になった盃に再び酒を注ぎ光秀の前に置き言葉を繋ぐ。
「近頃の殿はどこかおかしいと思わんか? 比叡山焼き討ちにしたってそうだった。女子供であろうと全く容赦しねぇ。まさに鬼神の如き所業だ」
信仰心に厚い光秀の心に揺さぶりをかける。
「浅井長政もな。自分の妹と結婚させて同盟を築いておきながら朝倉義景に弓を引いた。そりゃ浅井も朝倉につかざるを得ない。お市様がどうなるかなんて考えちゃいねぇんだ」
秀吉は光秀の表情の機微を確認しながらゆっくりと続ける。
「そこに来て今日の一件だ。たかが魚が腐っていたくらいでおかしいと思わんか? あの場で主をあれほど辱めることはないだろう」
「何が言いたい!」
光秀が苛立ちを募らせ声を荒らげる。
「信長様が天下を獲れば俺らもどうなるかわかったもんじゃねぇ。あまり大きな声では言えねぇが俺は信長様よりお前の方が天下人に相応しいと思っている」
「貴様、何を企んでいる!」
「落ち着け。ただの独り言だ。俺は毛利と一戦交えに中国へと戻る。信長様は本能寺で無防備だ。またとない機会だ」
光秀はしばし逡巡したのち重々しく口を開く。
「何が望みだ?」
「一緒に天下を獲ろうぜ。俺は二番でいい。お前が大将だ」
光秀は何も言わず、ゆっくりと息を吐き出すと盃を手に取り一気に飲み干した。
その様子に秀吉は満足そうな笑みを浮かべ、踵を返した。
【本能寺の変】
信長の命で秀吉は毛利元就を討伐の名目のもと、備中へと向かう。信長は本能寺で無防備な状態。揺さぶりはかけておいた。必ず光秀は動く。秀吉は確信して進軍する。
高松城を水攻めにし、城主清水宗治を自刃へと追い込むも、まだ光秀は動かないかと徐々に焦りが滲む。
「いや、大丈夫だ。これまでの采配も全てうまくいった。もう少し、もう少しだ」
その想いに応えるように、狼煙が上がった。
信長本能寺にて最期を迎える。
「これで、俺のことを猿と呼ぶやつは誰もいなくなった。あばよ信長ぁ。今まで世話になったな」
秀吉の顔が醜く歪む。
本陣で待機していた秀吉は少数の部隊を引き連れ本能寺へと向かう。既に毛利と和睦の密約は交わしてある。あとは一番に駆けつけて光秀を討つだけだ。
後に中国大返しとして知られる強行軍を実行し、ついに光秀と対面を果たす。
「謀反人明智光秀め。この羽柴秀吉が殿に代わって成敗いたす!」
「秀吉? 貴様備中にいたのではないのか! おのれ謀ったな!」
「今頃気づいてももう遅い。邪魔なんだよ。信長もお前もな」
「傀儡師にでもなったつもりか。よくも私を傀儡に仕立て上げてくれたな。許さん!」
怒りに打ち震える光秀に対し、秀吉は薄ら笑いを顰めその顔から表情が消える。
「残念だがそいつはちょっと違うぜ。傀儡なのはお前だけじゃねぇ」
光秀が言葉の意味をはかりかねていると、秀吉の背後から甲冑に身を包んだ一人の兵士が現れた。
その兵士は右手でゆっくりと面頬を外す。露わになった素顔を見て光秀は戦慄する。
「そなたは……」
再び秀吉の顔に笑みが溢れる。
「分かっただろう。傀儡なのは俺も同じだ」
もはや理解の追いつかない光秀に秀吉の声は届かない。
「……ねね」
光秀の言葉に、ねねは静かに微笑んだ。
〜 裏語り 〜
【邂逅】
「なぜ妾はおなごとして産まれてしもうたのか」
また始まったと兄家定は、ねねの言葉にため息をつく。
「かようなことを申すな。男には男の、おなごにはおなごの勤めがある」
「不公平じゃ。妾は茶を立てるために生まれてきたわけではござらぬ。おなごと言うだけで天下を諦めねばならぬとは納得いかぬ」
そうは言っても、ねね自身分かっていた。幼いうちは男子と変わらぬ体躯も、いずれ胸は膨らみ丸みを帯びる。力で渡り合えるはずなどないことは百も承知。それでもなお燃え盛る炎は衰えることを知らない。
「なぜ兄上は男に生まれながら戦わぬ」
「私は争いは好まぬ。天下泰平こそ我が夢だ」
その答えに、ねねは高らかに笑い声を上げる。
「兄上ともあろうお方がおかしなことをおっしゃる。戦いなくして天下泰平の世など訪れるはずありませぬ」
誰に似たのか齢十一にしてこの思想。自分ではなく、ねねこそが杉原家の男子として産まれてきたらよかったのではないかと家定は思わずにいられなかった。
ある日、ねねが籠の中から外の景色を眺めていると一人の男に目を奪われた。
「畜生! 何が立身出世だ! ふざけやがって!」
畦道で被っていた笠を投げ捨て毒づく猿のような風貌の男。
「何じゃあれは?」
「大方、根を上げて故郷に逃げ帰ってきた足軽崩れでしょう。姫が関わるような者ではございませぬ」
籠持ちの男が答える。
「余計なことを申すでない。関わるかどうかは妾が決める。あの者を調べろ。よいかこの一件、父上や母上に他言は無用であるぞ」
男の名は日吉丸。農家の生まれながら天下を獲ると豪語する野心家。寺通いで読み書きを習得し、持ち前の話術で人をたらしこむ才に長けている。
「日吉丸は、かような男にございます」
内偵に当たった付き人が報告する。
「……野心家か。なるほど、なかなか面白いではないか」
男に生まれながら家柄を持たぬせいで天下争いに入り込めない日吉丸、かたや名家の血筋を持てど女であることを理由に戦えぬ自分。ねねは日吉丸にある種の共感を覚えた。
【求婚】
「ちょいとそこの猿。お主に話がある」
「ああ? もういっぺん言ってみろ! 俺を猿呼ばわりする奴は例え女だろうと容赦しねぇぞ!」
日吉丸に猿は禁句と聞いてはいたが、ねねは敢えてその禁を犯した。相手が武家の者と見て態度を変えるようではそれまでの男。だが、日吉丸の反応はねねの予想通りだった。
「これは無礼であった。堪忍してはくれまいか?」
その言葉に日吉丸は刀を鞘におさめる。
それもねねの期待通りの行動だった。怒りに我を忘れて暴れるのでは野獣と同じ。勇敢と無謀は違う。退くことをしらぬ者もまた弱き者であると、ねねはそう考えていた。
此奴なら命を賭けることができる。本題を切り出そうと日吉丸を茶でもてなすこととする。
「単刀直入に言う。妾を嫁に貰ってはくれまいか?」
その言葉に日吉丸はしばし言葉を失った。突然現れた武家の娘から求婚されたのだから無理もない。
「馬鹿を抜かすな」
「妾は真剣に申しておる」
ねねは胸に秘めていた計画を初めて口外した。武家の生まれといえど女に天下は取れない。だが、力では男に勝てなくとも策を講じて戦に勝つことは可能ではないのか。ならば自分の手足となり戦うものさえいれば天下統一も夢ではない。野心のない家定では駄目だ。仮に兄妹で天下を獲ったとしても、杉原家定の名が世に轟くだけ。自分の功績を肌で感じることは出来ない。
一方、日吉丸も家柄を持たないままいくらもがいたところで名を上げることなどできるはずもない。結婚により家柄を得れば武士の道が開く。我が采配に従う傀儡になれとねねは迫った。
「お主、本気で言っているのか? 俺なんかに嫁いで野垂れ死にするかもしれんのだぞ!」
「これは異なことを。そなたは天下を獲る男であろう。それに……」
ねねが空を見上げると突風に桜の花びらが一斉に舞った。
「その時はそなたと共に散りましょう」
命懸けなのは男だけではない。たとえ戦わずとも、この天下獲りに命を賭けるという、ねねの決意であった。
【深謀遠慮】
ねねは、たびたび日吉丸の元へと通い、天下統一の夢を馳せた。語るだけでは夢は夢のまま。早く駒を進めなければならない。結婚するとなれば両親の説得は必要不可欠。下賎な身分の男と結婚するなど許すはずがない。まずは外堀から固めようと、家定に協力を持ちかける。
「兄上に茶を馳走いたしとう存じます」
習い事を嫌うねねが自らそのようなことを申し出るのは何かあると家定に緊張が走る。しかし断ったところで手を変えてくるだけだとその手に乗ることにした。
「どうぞ」
家定は茶碗を手に取り茶を含む。
「結婚したい相手がおります」
唐突な切り出しを受け、家定は勢いよくお茶を吹き出した。咳き込む家定をよそに、ねねは淡々と己の野望を語り続けた。
成長につれ、いつか見切りをつけると思っていた天下統一への野望。その計画を前進させようとする妹に、家定は必死に訴える。
「考え直せ! そのような真似をして何かあればお前たちだけで済む話ではない! 一族全体の問題だ」
「その時は、兄上が我ら二人を狼藉者としてその首を刎ねて献上すれば良いではありませんか」
一向に動じるそぶりを見せず、茶の湯を柄杓で注ぎながら言葉を繋ぐ。
「ですので、兄上には父母を説き伏せていただきとうございます」
「しかし……」
「しかし何だというのです? 可愛い妹の願いを聞くことが兄の勤めではありませんか?」
半ば押し切られる形で家定は両親の説得にあたるが、家柄を重んじる母朝日殿は激怒しそれを拒む。程なく、ねねは浅野長勝の養女へと出されることになった。子のいない長勝への養子縁組という名目ではあったが、日吉丸との接触を断つためだとねねは悟った。
しかし、ねねは諦めない。長勝は織田信長の弓頭。今川義元との戦いで多くの兵を失った。しかるに人手不足。長勝を利用して日吉丸を売り込む算段を立てた。ここで功績をあげれば日吉丸との結婚を長勝に認めさせることができるのではないか。それには日吉丸に家柄を与えねばならない。ねねは家定に書簡を送る。日吉丸と養子縁組をして欲しいと。
日吉丸にも計画を知らせた。ねねが描いた絵の通りに事は進み、ついに結婚を果たした。
「これはまだ手始めに過ぎぬ。さぁ天下獲りの始まりぞ」
ねねは野望の炎をさらに激しく燃え上がらせた。
【臥薪嘗胆】
藤吉郎との暮らしは貧困を極める。つぎはぎだらけの着物に、隙間風が吹き込む部屋。お嬢様育ちのねねには辛いものであるには違いなかったが、夢に向かって突き進む日々は、それまでの何一つ不自由ない暮らしよりもかけがえのないものだった。
ねねは日吉丸の母、仲にも全てを打ち明けた。女でありながら天下を狙う気概と、替え玉とはいえ息子を天下統一に導くという、ねねの計画に仲は心底惚れ込んだ。嫁姑という立場でありながら二人の関係は実の親子以上のものになった。
織田信長を祭り上げ天下統一の目前に掠め取る。これがねねの策略。
「よいか、信長は時にそなたを猿と蔑むこともあろう。じゃが、決して怒りを露わにしてはならぬ。受けた屈辱は石に刻み、表向きは忠臣を貫くのじゃ」
ねねの提案を受け、藤吉郎はある雪の日にわざと信長の目につくよう懐中で草履を温めた。その行為に信長の心は間違いなく動くと。
その後も、ねねは信長の心を徐々に掌握していく。稲葉山城攻略の要となる物資集積所の建設に誰もがことごとく失敗していると聞けば、藤吉郎に策を授け志願するよう指示を出した。
「建設中に襲撃を受けるのであれば、敵に気づかれる前に建てれば良いではないか」
雑木林の中心を伐採し、周りの木々に竹を渡して足場を組む。予め作っておいた建材を夜のうちに運び込み現地で組み上げる。完成したら、敢えて周りの木を切り倒す。あたかも一夜にして城を建てたように見せかけるためだ。
藤吉郎はねねの手筈通り建設をすすめ公約は現実のものとなった。
通称一夜城が信長に勝利をもたらすと、藤吉郎の地位は確固たる物となった。
「まだじゃ、こんなものでは足りぬ。三河の狸を超えねば天下統一など絵空事じゃ」
美濃を落としただけではねねは満足しない。次なる策を練ろうと物思いにふけった。
【虎視眈々】
信長の快進撃は止まらない。その手が近江へと伸びる。しかし敵もさるもの、朝倉義景に浅井長政が加勢すると一転して窮地に陥った。まだ信長は利用できる。ここで失うわけにはいかないとねねは先を見据える。
戦況は日吉丸から書簡で報告を受けている。そこからねねは明智光秀なる男の働きぶりを知る。家柄もあり武芸にも長けた武将。もしも自分が男に生まれていれば、そのような活躍ができただろうにと妬まずにはいられなかった。
浅井長政の裏切りにあい、信長は野獣と化す。神も仏も恐れぬ比叡山焼き討ち。朝倉家と親交の深い延暦寺に火を放つ。
光秀にまつわる事はどんな些細なことでも報告するよう申し付けてある。信仰心に厚く、義を重んじる光秀が比叡山焼き討ちを快く思うはずはない。日吉丸からの伝達からも見て取れた。
ねねの頭に、天下統一への道が朧げに姿を現す。光秀はこの先柴田勝家、丹羽長政を超える脅威となる。正面からぶつかれば被害は甚大。だが、光秀を操り信長を討たせ、敵討ちの体面で討ちとれば二人を出し抜き織田家臣を丸ごと掌握できる。
「光秀、必ずやそなたを妾の傀儡にしてみせるぞ」
【布石】
浅井、朝倉との戦いで武勲を上げた藤吉郎と光秀に褒美が出ることになった。
「あれだけの働きをしたんだ。城の一つや二つ貰わねぇとな」
上機嫌で言う藤吉郎に、ねねは静かに口を開く。
「早まるでない。褒美は名前が良いと申し出るのじゃ」
あっけに取られる秀吉をよそに、ねねは続ける。
「欲を見せれば野心と取られよう。自らは柴田勝家、丹羽長政の下につく一臣下に過ぎぬと中立を装うのじゃ。その証として羽柴秀吉の名を申し出れば良い」
「名前だけ? いくら何でもそりゃねぇぜ」
「心配には及ばぬ。信長は面子を重んじる男。それだけで済ませば名折れと言うもの。必ずや報奨は得られる」
「確かにそうかも知れねぇな」
「そなたは毛利討伐に向けて中国出兵を言い渡されておろう。ならば遠征に向けて恐らくは長浜城あたりを任されるはずじゃ」
そして、それはねねの読み通りとなった。秀吉は母の仲と、ねねを伴い長浜城に移ると程なく、播磨攻めのため単身姫路城へと移る。離れて暮らせど、密使を使い情報交換は欠かさない。
ねねには懸念があった。近頃秀吉は、別所長治という男に入れ込んでいる。所詮あ奴も人の子かと筆を取る。
「情を捨て鬼となれ。いかなる者にも心を許してはならぬ。戦において武将など玉を守る駒に過ぎぬことをゆめゆめ忘れるでないぞ」
秀吉とのやりとりは外部に漏れぬよう都度処分し、後には残らない。ねねは、この文が秀吉の心に深く刻まれることを祈った。
——その想いとは裏腹に、案の定秀吉は飼い犬に手を噛まれた。
「だから申したであろう」
ねねは独りごちたあと、すぐさま考え直す。むしろこれは好都合ではないか。三木城を奪われ最早毛利は織田と戦っても勝ち目などないことは誰の目にも明らかだ。長治を失い心理的にも追い詰められているに違いない。そこで、和睦の密約を交わす。信長に知られる事なく仲間に引き入れるのだ。それでも手ぶらとあっては格好がつかぬ。和睦の条件として高松城城主清水宗治の首を貰い受ける。
すぐさま書簡にしたため、早馬を立てる。
そんな折、思いがけない報が舞い込む。
——明智光秀饗応役に任命。
ねねにとってそれはまさに瓢箪から駒。ついに機は熟した。これで詰み筋が見えたとほくそ笑む。
「潮時じゃ。ここは妾が役目を果たそうぞ」
【詰み筋】
「なるほど、それは妙案だ。しかしそれでは毛利が宗治を見殺しにした形となり、世の非難を浴びよう。到底受け入れられるまい」
秀吉から送られてきた書簡の結びにはそのように書かれていた。ねねは硯に墨をすると、素早く筆を走らせた。
「高松城は三方を湿地に囲まれた天然の要害。水攻めを行い文字通り浮城にして孤立させればよい。さすれば毛利は救援に駆けつけることができなかったと大義名分が立つ」
ゆっくりと息を吐き出し、筆を墨に浸す。
堤防を決壊させたのちの五月十五日安土城に行くよう指示をした。徳川家康の接待が執り行われる日である。そこで光秀に接触せよと。
—— そして接待当日
ねねは密かに女中を使い、魚の用意が済んだ厨房に細工を施させた。暑気を利用し、腐敗を早める仕掛けを施しておいたのだ。宴の頃には、腐臭を放つだろうと。宴が始まれば、わざと粗相を起こし光秀の手際の悪さを演出した。
信長は怒髪天を衝いた。膳をひっくり返し、光秀に椀を投げつけると執拗に足蹴にした。信長の目的は家康の労いではない。弟分である家康を盛大にもてなす己の器を皆に見せつけたかったのだ。それを台無しにされたと怒りは収まらない。響き渡る怒声は城の裏手で落ち合う秀吉とねねの耳にも届いた。
「上手くいったようだな」
「当然じゃ。あとはそなたにかかっておる。ぬかるでないぞよ」
「姫様の仰せのままに」
秀吉はおどけて見せた。
【中国大返し】
もはや光秀は我が傀儡と、ねねは布陣を展開していく。毛利との密約は済んだ。信長を抹殺することと、その後の地位を約束したことで今や秀吉の協力者である。つまり毛利との合戦はただの芝居。
光秀が信長を討ったら狼煙で知らせる。もちろん遠く離れた地にいる秀吉には見えない。そこでいくつか中継地点を設けて、次々と狼煙を繋いでいく。誰も光秀の謀反など予期していない。柴田勝家も丹羽長政も完全に出し抜ける。
——そして狼煙が上がった。
中国大返し。本能寺近くに待機させておいた小隊と合流し光秀のもとへと駆けつける。
「謀反人明智光秀め。この羽柴秀吉が殿に代わって成敗いたす!」
仕組まれた一手が、今、盤面をひっくり返す。
【傀儡師】
「秀吉? 貴様備中にいたのではないのか! おのれ謀ったな!」
秀吉の早すぎる到着に光秀は激しく動揺しておる。
「今頃気づいてももう遅い。邪魔なんだよ。信長もお前もな」
妾の声が秀吉と重なり一つとなる瞬間に足が震える。これが武者震いといふものか。
「傀儡師にでもなったつもりか。よくも私を傀儡に仕立て上げてくれたな。許さん!」
傀儡師……妾とて好きでかような真似をするはずもなく。全てはおなごに生まれたがため、武将になれなかったため。その無念、全てを持って産まれたお主にわかるはずもない。
「残念だがそいつはちょっと違うぜ。傀儡なのはお前だけじゃねぇ」
妾は着慣れぬ甲冑の重さをこの身に感じながら秀吉前に出る。
つひに、つひにこの時がやってきた。どれほど待ち侘びたことか。
妾は震える右手をゆっくりと面頬に伸ばし静かに取り外した。
「そなたは……」
光秀の目が驚きに満ちていく。
「分かっただろう。傀儡なのは俺も同じだ」
光秀に秀吉の声は届かぬ。その目に映るのも秀吉ではない、妾じゃ。歓喜に頬が緩んだ。
「……ねね」
「いかにも。信長討伐ご苦労じゃった」
「全てはそなたの采配だったということか」
光秀は右手一本で持った刀を妾へと伸ばす。割って入った秀吉を手で制し、妾は光秀を見据えた。
「おなごとて天下が欲しいものじゃ。とはいへ力で劣るこの体、男子と渡り合へるはずもなひ。そこで一計を案じたのじゃ。己を活かす場所は、己で探そふと」
「光秀、覚悟は決まったか?」
刀を構え迫る秀吉の言葉に、しばし沈黙した後、光秀は刀を鞘に収めた。
「もはやこれまで。ならば潔く散るとしよう。だが忘れるな、私は貴様に敗れたのではない!」
気迫溢れる声に秀吉の動きが止まる。光秀は妾にゆっくりと視線を移し、続けた。
「ねねという、一人の武将に負けたのだ」
その顔は笑っているよふに見へた。
【終章】
謀反人・明智光秀を討ち取った功績により、羽柴秀吉は織田家の後継者として頭角を現す。
その後、柴田勝家を賤ヶ岳の戦いで破り、織田家中における主導権を掌握。
丹羽長秀をはじめとする諸将も次第にこれに従い、秀吉は名実ともに天下取りの道を歩み始める。
宿敵・徳川家康とは小牧・長久手にて一戦を交えるも、和睦によって巧みに対立を回避。
やがて関白・太政大臣の座に昇りつめ、豊臣の名を賜る。
中国、四国、九州と次々に平定し、最後の脅威である北条氏を小田原征伐にて滅ぼす。
こうして、戦国の世に終止符が打たれた。
——秀吉、ついに天下を統一す。
秀吉没後、ねねは剃髪し、高台院と名を改めた。
喧騒を離れた寺院の庭に佇み、過ぎし日の面影を思い出す。
かつて、面頬を外したあの日。
秀吉の言葉が今も胸に残る。
「分かっただろう。傀儡なのは俺も同じだ」
ねねはそっと目を閉じ、呟いた。
「……そなたは、誠に良き男であったぞ」
見上げれば、山の桜が春の風に揺れている。
咲けば散り 散れば咲きぬる 山桜
いやつぎつぎの 花さかりかな
執筆の狙い
苦手ジャンル歴史第三弾。
史実をベースに歴史の空白を創作で埋めた。
例によってChatGPT監修である。したら結構ガセ情報ぶっ込んでくるもんだから手こずった💦
気づく限りは修正、辻褄合わせしといたけどおかしなところはあるかも。
知らんけど。
なおAIとのやりとりはこちら↓
https://monogatary.com/episode/547005
途中書き