作家でごはん!鍛練場
中仁花生

ン・モナムール

悪を避け、善を行いたまえ。さすればとこしえに住むことができ
よう。

                           
   旧聖書 詩篇三十七章二十七節

 
 
 
          
 


 人間の社会にはそれぞれの役割がある。皆、大きな社会を回す
ための小さな歯車として働いている。その働きが誰かのためにな
っている。誰かの生活を助けている。誰かの心の支えになってい
るかもしれない。憎き相手に制裁を加えたいか、誰かを殺したい
か、人生を破壊されて報復をしたいか、それが叶えば自分の欲求
が満たされ、いくばくかの幸せと充足感が得られるか。それなら
多額を出す価値がある。誰かの死を以て誰かの心と体が癒され
る。死が良薬となり、深い傷がふさがる。殺しとは死へのプロセ
ス。つまりいうならば殺しこそ良薬を作る材料にして一番の方法
ということになる。それでいくと殺し屋は薬剤師で、四五口径の
ピストルは薬局であるということだ。
「日本でマリファナが合法になる日ってくるのかね」
 桜木陽平は陽気に話しかける。
「いきなりなんだよ……マリファナが合法になっても僕たちには
関係ないでしょ」
 里中幸助は顔をしかめながら自分より十センチほど高い桜木に
いう。
 二人は全く同じ服装だった。焦茶のブレザーにスラックス。ワ
イシャツという出立ちだ。学校の制服だった。いつもの商売服は
ワイシャツに黒のジャケット、スラックス、革靴といったところ
だが今はスニーカーを履いている。
「どうしてだよ。今でも俺たちの顧客にとってマリファナは強力
な通貨だよ」
 桜木はブレザーの襟に指をそわせて足元の小石を蹴る。
「僕たちまだ十八だよ。マリファナが合法になったってどうせ使
えない。それより……いつ着くんだい。例の家には」
「もうちょっとのはずだ。車で来るんだったな」
「あのオンボロで……?」
「オンボロとはなんだ! お前が世間体を気にして学校に行きた
いって言うからこうして歩いて登校してんだろ」
「登校はしてないでしょ……」
「いやいや、学校行く前にちゃちゃっと仕事するだけだ。これも
登校のうちに入るぜ」
「分かったよ……」
「向こうのアパートだ。信号を渡ろう」
 信号が点滅し始めたところで小走りに渡る。
 目的地のアパートは依頼主の話によるよ元々赤い壁だったそう
だが公害や自然災害によって汚く剥がれている。ベランダの鉄柵
はさび放題にさびつき、窓ガラスはくもって中の様子は何も見え
ない。雨戸も防犯カメラもない。好都合だ。
 二人はエントランスに入って階段を上がる。
「なぁ、あの件はごまかせたのかよ」 
 桜木はうっそうとした廊下を歩きながら小さい声で言う。
「どの件? 色々ありすぎて分かんないよ」
「あれだよ、お前の彼女の件。この前の仕事帰り車を運転してる
ところ見られちまって色々勘ぐってるって件だよ。おまけにお前
そん時着てたシャツに返り血がついてたろ」
 里中は色黒の肌を少し赤くして言い返す。
「あぁ、解決してると思うの? 彼女のことは巻き込みたくな
い。だからって嘘つくのも嫌だし」
「だったら血のついたシャツは現場に置いてこいよ。常識だろう
が」
 お目当ての部屋のついた。
「いつもの手順でいくぞ。お前がノック、俺が半分とあと二人、
お前がもう半分。終わったら梅花に連絡。俺らはスクールにゴ
ー。相手はゴミクズ。さぁ仕事だ」
「分かってるよ」
 里中は少し緊張を滲ませ、扉をノックする。中で「お前が出ろ
よ」という声が聞こえた。足音が近づいてくる。
「はい……」
 出っ歯のアホ面の若者がドアを開ける。少し驚いたような表情
をしている。二メートル近くある男と百八十センチの男が二人立
っていたら普通の反応だ。
 桜木が大きな手でドアを押しやり、靴のまま中に入り、居間に
 押し入る。
「ちょっと…………」
 部屋に入った瞬間むっとこもった熱気が鼻をつく。生気が全く
感じられない。
 中にいたのは覇気のない二十代前半の若者が二人。ドアを開け
た奴を含めて三人。ちょろいな。
 ドアを開けた奴が桜木の後ろで警戒する。
 恐怖の方が顔に滲み出ている。一人が徐に席を立つ。部屋には
擦り切れた床にテーブルが一つ。椅子が二つ。本棚の一番上には
アダルトビデオが見える。
「よぉ、やってっか? うん? あぁ、そのままでいいぞ、座っててくれ」
 桜木が調子良く話しかけながら手で静止する。里中はずんずん
と部屋の奥に進んで窓の前に立つ。ブレザーの前をとめて手を組
む。
「あの、あんたら誰だよ、俺たちゃなんもしてねえぞ」
 紺のジャージを着た一人が唇を震わせながら強がる。
「いやいや、楽にしててくれ。てめぇ一人のために来たわけじゃ
ねえからな。えーと、あのAVのタイトルは……」
 桜木が目を細める。
「はぁ、最近視力が落ちちまってな。すまぁん里中。読み上げて
くれ」
 里中は目を細めて隣の本棚を見やる。
「超ぞっこん、田舎の小〇生の姪と近親相姦。止まらぬ中出しにご懐妊」
「はっはっはっはっは! いやぁ」
 桜木が低く大笑いを始める。若者たちの額から冷や汗が流れ
る。
「ははは、なんで俺たちがここに来たか合点がいったって顔して
やがる。特にこいつ、見てくれよこのおめめ。一応罪悪感は持ち
合わせてるようだなぁえぇ?」
 紺のジャージが立ち上がる。
「あの! ちゃんと反省してる、もう、小学生に手は出さない、
ご家族とも良好な関係を保ってるし、何もあ、あ、あんたたちみ
たいな人が来るいわれは……」
「座れぇ」
 桜木の顔つきが豹変する。目の中の炎がいっそう高く燃え上が
る。背中から素早く銃を抜く。銃口にサプレッサーが捩じ込まれ
ている。わずかに入ってくる光を受けて邪悪な黒い輝きを放って
いる。
「ひっ……」 
 逃げようとする出っ歯の肩を掴んで居間に放り投げる。
「いちっ……」
 全員が恐れをなして肩を震わせる。
「は……それ本物……」
 里中も漆黒の銃を抜き、右手を上にして膝の前で組む。
「俺がどうするかじゃない……問題は、お前たちが何者かだ」
 三人がごくりと唾を飲む。
 桜木の脅し声がどんどんドスを帯びていく。
「お前たちは小学生の女の子を、数の暴力と男の力で欲望の、ま
まに、レイプした」
「だから、ちゃんと、反省してる」
 里中はポケットからサプレッサーを取り出し、ゆっくりと取り
付ける。
「そう、そう、ご家族ともちゃんとした関係を……」
「そうそう! そのご家族が、俺たちを呼びつけた。てめぇらの
息の根をド派手に止めてくれってなあぁ。でぇ? どんな風にとめ
るかっていうと」
 全員が立ち上がる。出っ歯は失禁した。紺のジャージは椅子か
ら転げ落ちて床に頭を打ちつけた。
 後退りのあまり里中の靴にぶつかった。
「法が許してもぉ? 俺たちのような者は許さない。被害者の父
親もな、正直、お前らはヘドロより汚い。ヘドロ以下の分際で権
利を主張しやがる。では、てめぇらに、ありがたく、権利を、頂
戴してやろうじゃあ、ねぇか。一発で死ぬ権利だ」
 桜木と里中はゆっくりと銃口を上げる。
 三人は死の恐怖に怯え、まだ訪れないはずだったそれが今背中
に迫って自分を連れて行こうとしているという事実を噛み締めてい
た。もう何もできなくなる。もう誰にも会えない。もうどんな感情
ももう二度と味わうことはできない。走馬灯のようなものが涙に
にじんで回り始める。ろくでもない人生でも終わる時には愛おし
く思うものだ。まだ続けていたいと思うものだ。
「ああああぁあああっあああっ!」
 里中は心臓のど真ん中に照準を合わせる。
 重い引き金とスライドが連続して前後する。こもった銃声と空
薬莢が美しいマレットの音色を奏で始める。血の泡と血の煙、硝
煙の匂い、悶え苦しみながら体に赤い穴を増やしていく三人の息
の根がぱったり止まっても撃ち続ける。くすんだ床がみるみる鮮
血で染まっていく。
 ある意味美しい。
 最初に里中が撃つのをやめる。ゆっくりと銃を腰に収める。
 桜木はまだ撃ち続ける。紺のジャージはもはや原型を留めず、
赤い水溜りに浮かぶボロ切れになってしまった。よく見ると骨や
肉の塊、筋肉の破片が、ポコポコと鳴る血の泡の上に浮いてい
る。おしまいに、本棚のアダルトビデオに三発撃ち込む。本棚が
くずれ、木材が茶色の煙の中を滑り落ちていく。
「……は! 面白いね。幼児レイプ犯が肉の塊だ。見てみろ」
 桜木が笑いながら銃で死体を指す。
「何を」
「血をだよ。血なんてみんな赤色だって思ってるだろ。でもそれ
は違う。クズであればクズであるほど、どこか汚く、ドス黒い輝
きを放ってやがる。皮肉なものだ。クズほど死んだ後は美しいん
だ」
「そろそろ行かないと、あと十五分で校門通過しなきゃ遅刻だ」
 桜木はサプレッサーを外してポケットに入れる。銃を背中に戻
す。
「それよりも、この武器は最低だな! 米倉に文句をいってやら
ぁ…………おいおいおいおい、お前、シャツの襟に血がついてる
じゃねえか」
「えぇー? 嘘だろ、ちょっと待ってくれよ、なぁ、困るよ、今
から学校だっていうのに、ど、ど、どうしよう。洗って落ちるかな
あ……?」
 里中が顔をこわばらせて狼狽える。
「ちょっと待ってろ。梅花に連絡してシャツを持ってきてもらお
う」
 桜木がプリペイド携帯を出してダイヤルする。
「そぉんな時間ないよぉ、わぁどうしよう、桜木。このシャツ、
みずきが見たらまた口きいてくれなくなっちゃうよ……」
 血相変えて狼狽する。
「あぁ、梅夏、悪い仕事だ。住所をメールする。変えのシャツも
持ってきてくれ。タイムリミットは十五分。できれば三十二秒以
内に来て欲しいが……まあ無理はいわない。せめて一分以内に来
てくれ」




 

 学校の門の前には大きな梅の花と桜の花が咲いている。車道に
は桜の葉がたくさん落ちている。
「なんとかなったな。え?」
「まぁ、そうだけど、これからが大変だよ。みずきに事情を説明しないと」
「まぁ一応いっとくと俺は付き合うことに反対だった。ずっと
な」
 結局掃除屋は十分後に到着した。里中は変えのシャツをもらっ
て掃除屋の車で学校の近くまで行き、さも門まで歩いてきたかの
ように見せた。
 門に立っていた教師が
「おいお前たち遅いぞ」
「すみません。先生」
 里中が律儀にお辞儀をして謝る。
「そうそう、今朝お片付けしてて。派手に」
 桜木が余計なことを言う。
「いいから早く教室に入りなさい。ホームルームが始まるぞ」
「すみません」
 里中がまた謝る。
「学校っていいよな。金属探知機も非常通報装置もない」
「それよりみずきになんて説明するか考えるの手伝ってよ」
「あぁ、俺たちの教室はそっちじゃない。こっちだ」
 桜木はふらふらとグラウンドに歩いていく里中の腕を掴む。
「お前、完全に魂抜けちまってるな」
「仕方ないよ。僕は今まで愛っていうものを知らずに育ったん
だ。だけど彼女を見た時、僕は……それこそ魂抜かれたね。彼女
と別れるなんて考えられない」
「分かった。分かった。落ち着いてくれ。多分ホームルームに遅
れてる。細ネクタイ締めたうるさ型の先公に見つかったらトイレ
の掃除とか、グラウンド十周とかさせられちまうよ」
 廊下はがらんとしている。トイレや水道にも誰もいない。
「そんなことどうでもいい! とりあえずホームルームで彼女に
話す。だってホームルームってそういう時間でしょ。分かんないけ
ど」
「ああ、分かった、分かった。じゃあ家に戻ったらみずきとお前
がいちゃついてるのを見なくて済むように大きい衝立を買ってや
ろう。それでいいか? ほら教室は多分そこだ」
 1ー6と札が下がった教室の前に来た。
「こんな落ち込んだ顔でみんなの前に行きたくないよ」
 里中はいじけた顔でドアを開ける。
「おはようございます! 少し遅れました。すみません先生!」
 里中は先ほどの意気消沈を思わせない、笑顔で元気すぎる挨拶
をした。座っている生徒は奇異の目で二人を見る。
 桜木はため息をついて後に続く。
「おはようございます。先生、世界を綺麗にしてて遅れました」
 桜木は女の教師にいった。
「桜木くん。その態度を改めなさい。進級してしばらくしないう
ちに退学になっても知らないわよ」
 教師も言い返す。
「それって脅迫ですか。それにしてはパンチが効いてなさすぎ
る。人を脅すときはこおんな風に……」
「桜木!」
 里中が静止する。
「高須先生、すみません。桜木は幼い頃のトラウマがありまし
て、時々本人が意図しないことを口走ってしまうんです」
「そうそう、俺のトラウマはあんたの授業」 
 桜木は気まずそうな里中の後ろに座る。里中の隣は中本みず
き。黒髪お団子ヘア、くりくりした目、色白の肌とかわいげのある
口。美少女の典型。みずきは里中と目が合うなり
「で? 今日はどうして遅れちゃったの。車がエンストしちゃったの」
 小声で冗談ぽくいう。
「あとで、話そう。ちなみにそれは誤解だから」
 里中が言い終わる前にみずきはそっぽを向いてしまった。
「お、お、おぉー?」
 桜木が変な声を出す。
「ではホームルームを始めましょう。今日は金曜日なので……班ごとに一週間の感想と来週の目標を話し合いましょう」
 先生の掛け声でみな内側を向いて話し出した。
 桜木は一番後ろの列のはみだした席なので隣はいない。そのた
め前の二人に混ざって話さなければならない。桜木は興味津々に
前の二人に体を近づける。
「みずき、あの、誤解を解いておきたいんだけど君がこの前見た
ものは、あぁ……君が思ってるようなことじゃないんだ」
 里中がしどろもどろに説明しだす。
 みずきはわざとらしく唇を突き出して
「じゃあなんなの? タクシー運転手でもしてたの」
「いや……実は、そうなんだ」
 里中は苦しい返しをして笑った。
 桜木は笑い出す。皮肉たっぷりの手拍子と笑顔で。
「ははははは! お前ら本当面白いよ。三年前の朝ドラより悪い
意味で面白い」
 みずきは顔色を変えて桜木を睨みつける。
「あんたは黙っててよ。だって私見ちゃったもん。ゴミ出そうと
思って外にでたら車に二人が乗ってて幸助が運転してるし、あん
たは助手席で偉そうにしてるし」
 みずきは桜木を睨む。
「それに幸助のシャツには……赤い、血みたいなものがついてた
じゃん」
 桜木と里中は黙りこむ。確かにここから全てなかったことにす
るのは難しい。ごまかすのも至難だ。
「図星なんでしょ、何も言えないってことは」
 みずきの猛攻は続く。
「悪いことなんでしょ。私にも教えてくれないし」
 少し寂しそうな顔をする。友達にはいえて自分には隠すことが
ある。しかもその友達と自分は仲が悪い。みずきの心を考えると
かわいそうだが、首を突っ込むことで受ける皺寄せを鑑みると正
直なことを言えないのは妥当だ。
「……あぁ、本当のこというと……」
 里中の目に真実が宿る。桜木はそれを見逃さなかった。
すかさず桜木が口を挟む。
「本当のことっていうのは実はウーバーで働いてるってことだ」
「どういうこと?」
 みずきが顔をしかめる。
「ウーバーを知らないのか。送迎サービスだよ。キャバ嬢や風俗
嬢、それにやばいのも何人か送った。そうだよな?」
 桜木が里中に目で圧をかける。
「そ、そうそう。襟についてたのは絵の具。ほら、美術の教師を乗せたことがあったろ」
「そうそう。ありゃあひどかったなぁ錯乱状態だった。きっと生
徒に悪口いわれたんだろうなぁ」
「二人ともやめてよ」
 みずきが悲しそうな声でいう。里中は光の速さでみずきに向き
直り
「ごめん、ごめん、ごめん。みずき、これはほんの行き違いなん
だよ」
「それではみなさん前を向いてください」
 教師が声をかける。最低のタイミングだった。
「なんだよ、つまらねぇ、ほぉんと、三年前の朝ドラみたいだ」桜木が教師に聞こえる声で嫌味をいう。




        








     明日の仕事




「はい、そうです。はい、我々に任せていただければあなたとご
家族を怨嗟から解放することができます。はい、はい、ええ、そ
うです。いえ、あぁ、はい。その通りです。ご注文次第でいかよう
にも料理できます。はい。分かりました。一人を生け捕り。その
他皆殺しですね。はい。お代金は本日夕方の面会時にいただきま
す。それでは」
 桜木はプリペイド携帯をしまう。新しい仕事の依頼だった。観
光地として整備された綺麗な湖の側に大きなホテルがある。そこ
で明日の土曜日、悪徳政治家たちの会食がある。依頼主によると
政治家の一人が不正を隠そうとしたために夫が殺されたという。夫の仇をとるために復讐したいのだそうだ。明日は大事な仕事
だ。相場より二倍近い値段が動く。絶対に失敗できない。桜木の
方は全く問題ないが里中が心配だ。
「ちょっと? 背の高いの」
 学食の太った女が声をかけてきた。
「なんです?」 
「注文のしっぽくうどん二人分できたよ。早く食べないと冷めるよ」
 桜木は縁が欠けた器の中を覗き込む。七味がかすかに浮いてい
る。
「うーん。この肉はなに?」
「豚肉だよ」
「豚? 豚だって? 除いてくれ」
「どうしてよ? 好き嫌いは良くないよ」
「好き嫌いじゃねぇよ。豚はてめえのくそを喰らう。汚れた動物
だ。食えない。除いてくれ」
「ちょっと、命に失礼だよ! なんてこというの!」
「命に失礼だ? 笑わせるね、命は平等なんかじゃない。クズで
あればクズであるほど心臓は小さいんだ」
 桜木はこれ以上の会話をしようとせず、しっぽくうどんの器を両手に持ってしょぼくれた顔の里中まで運ぶ。
「ほら、食料だ」
「何も喉を通らないよ、絶対嫌われた。別れようって言われたら
どうしようっ!」
 里中は金属張りの机につっぷす。
 桜木は耐えかねた様子で上を向き、背中の銃を抜きかけてやめ
る。
「なぁ、明日の仕事は重要だ。本当に。報酬も二倍だ。恨みも倍
だが、それはいい。注文通りクライアントに届けてやればいいだ
けだ」
「届ける?」
 つっぷした里中からこもった声が聞こえてくる。
「そう、今回のオーダーは一人を生け捕りにして他を全部始末す
るってのだ」
 桜木が割り箸をつまむ。
「明日は出られそうもない」
 里中は腕の中から器の中のうどんを見る。食欲が湧いたらしく
割り箸で麺を挟む。ふーふーと冷ましてからすする。
「ホテルで面会して金をうけとる。それはいつも通りお前の仕事
だ。俺はねぐらで武器を用意して、ガソリンを満タンにして、七時
にそっちへいくからその時までに金をもらっておいてくれ」
「あぁ、いつもの手順でしょ。分かってる。分かってる。分かっ
てるけどできない。彼女との問題を放り出して自分は好きに人を
殺せるかって? 無理だよ。君ならどうする。こういう面倒な問
題が起こってやらなきゃいけないことができなくなったらどうす
る?」
「俺なら相手を殺すね。ロマンチックに」
「君に聞いたのが間違いだ……このうどん美味しいね。ちょっと元気出てきたよ」
「そうだろ? いけるか」
「うん、うじうじしてても仕方ないよ。まぁ、問題はそのままだけど体を動かしてれば……少しはましだろうからさ」
「そうだよ、難しい顔しててもなんにもかわりゃしないんだか
ら。とりあえず明日は頑張ろうぜ」
「分かった。じゃあ、詳しい流れ説明してよ」
「やる気出してくれてよかった」
 桜木は本物の笑顔を滲ませ、箸を置く。
「いいか。お前は学校が終わったらねぐらに戻って服やら用意し
てホテルに直行してくれ。これがルームキー」
 桜木がジップロックに入ったカードキーを内ポケットから取り
出す。
「無くすなよ」
「分かってるよ」
「お前は今日の夕方、面会を済ませたらその部屋へ泊まってろ。
貰った金は大事に持ってろよ」
「六時半だよね」
「そうだ。明日一番でそっちへいく。そっから仕事を始めよう。流れは頭に入ったな?」
「あぁ、入ってる。いつもの手順だ。いつもやってるし」
「油断するなよ。何があるか分かったもんじゃねぇ、特にお前
は、今不安定だから」
「分かってるよ、自分の面倒ぐらい自分で見られる」
「本当かよ……」



        


     面会






「主人が亡くなってからというもの……もう生きているっていう
実感がないんです。ごはん食べても土を噛んでるみたいに味気な
くて、つまづいて転んでも、痛いとかそういう感情よりも、主人
はもっと痛い思いをしたのかなとかそういう風に考えちゃうんで
す……さよならもいえずに別れるってことがこんなに辛いと思い
ませんでした。病気や老衰で袂を分つとばかり思っていましたの
で……」
「そうですよね……お辛い心中お察しします」
「主人は……本当に……ほんとうに……菜の花みたいな人でし
た……いつでも笑って……私が少しでも沈んだ顔をしているとすぐ
に気がついて…………愛とか、団結とかそういうものを何よりも
大事にする人でした……」
 金光夫人はそこまでいうと、両手で手を覆って泣き出した。テ
レビの政党演説会で夫の隣で笑顔を振り撒く姿とは一変してその
印象はまさに人生の敗北者、負け組だった。眉間のしわはこく、
目に覇気はなく、ほうれいせんや唇のシワも一層深いものになっ
ていた。夫が突然死んだというだけならばここまでの落胆はない
だろう。しかし彼女は夫が死んだ理由を知っている。同じ政党で
国を良くしていこうと同じ信念を持った者に裏切られたと知って
いるのだ。その結果夫が命を落とした。残された者にとってそれ
がどのような暴虐か、罪を犯した者には露ほども想像できまい。里中は沈痛な面持ちで組んでいた指をほどく。
「あなたのお気持ちは本当に、痛いほどよく分かります。あなた
はよく耐えていらっしゃる。それで、オーダーの方なんですが一人
を生け捕りということでしたよね」
「はい、そうです。自分の手で……恐ろしいことだとは分かって
いるのですが、主人との人生にけじめをつけたいんです」
「分かりました。必ず成功させます。ご主人は本当に残念でし
た。僕も今愛する人と別れてしまいそうで悩んでいるところなん
です。まだ袂を分かったわけじゃないのにへこたれてしまって……
でも、あなたは十分強い。僕たちに頼らずとも決着をつけること
ができる。でも縁あって僕たちを頼ってくれた。あなたの誠意に
必ず、お応えしましょう」
 里中は優しく、丁寧な言葉遣いで夫人をの手をとった。夫人は
肩を震わせて泣き出してしまった。
「う……う……ありがとうございます……ほんとうに……よろし
くおねがいいたします…………」
 夫人は喪服のポケットからハンカチを取り出した。そのハンカ
チはすでに涙でしわしわになっていた。喪服も、葬儀から着がえ
ていないようだった。人間の別れ、特に愛する者との別れに立ち
会った時の服をそのままいつまでも着ている場合は少なくない。しかしこの夫人の場合、よほど応えたのだろう。仕事を受け
る際、桜木が彼女の人物像を推しはかれる取材物や出版物、ネッ
ト記事など全てに目を通して結論づけていた。「彼女はとても几
帳面で政職で忙しく、身なりに気を遣う余裕のない夫のかわりに
家事や整えは喜んでやっている」その彼女が! 
 里中は拳を握りしめた。愛する者との別れは慣れるものではな
い。いつまでも深く根を下ろし続ける。そしていつかその生涯を
閉じる時、また、悲しい気持ちになる。その悲しみを殺しという
形であれ少しでも和らげることができるのなら、この仕事にも意
義がある。 
「これ…………」
 夫人は椅子の横のボストンバッグを丸机におく。
 あたりを憚るようにして音をたてないようにしてファスナーを開
ける。
 現金一千万円。きっちり耳を揃えて収められていた。
「依頼料、確かに受け取りました。これであなたと私どもとの関
係は一旦の終了を見ます。しかしあなたは私に主犯の配達を頼ま
れました。私どもは責任を持って届けるつもりです。しかしそれ
からはあなた次第です。もし、踏みとどまって、別の方法で憎し
みを消化しようと考えればまた連絡してください。いつでもあ
なたの代わりに引き金を引きます」
「お気遣いありがとうございます。でも、私はやります。主人が受
けた苦しみをそっくりそのまま、返してやるつもりです」
 里中は不本意ながら萎縮した。なぜなら夫人の目の中には、自
分の目の中にある炎とそっくりな輝きが宿っていたからだ。小さ
いが、そのゆらめきと力強い炎色からして、消えることはないだ
ろうと分かった。






     道具は大切






「あんたが自信持って勧めてきた得物使って仕事したが……最悪
だったね!」
 桜木は椅子から転げ落ちる勢いで両手を振った。
 向かいに座る恰幅の良い男はサスペンダーをいじくっていた手を机に叩きつける。床と壁にオークの木が散りばめられた上品な
部屋で品性の欠片もない喧嘩が勃発していた。
「私のチョイスにケチをつける気かね? 君とは古い付き合い
だ。いつも君たちに破格でサービスを提供してきたんだ。その態
度は受け入れ難い!」
 米倉公乃武は怒った時にいつもやるように口髭を撫でてからメ
ガネを外した。
 桜木はベストの襟に指をそわせて言い返す。
「M8000クーガーGにぃ? コルトウッズマンだと? はっき
りいって、現場の人間をなめてるとしか思えねぇね。あのグズグ
ズのかっるいトリガーのせいでマズルフラッシュは鈍いしチャンバ
ーは擦り切れるし、コルトに関しちゃもう言葉のかけようがな
い。俺がイタリアの武器が嫌いだって知ってるくせにベレッタ系
の武器を渡しやがって、俺はこの会社の上客だぜ? 少しは仕事
人に対する礼儀を弁えてもらったってばちはあたらねぇだろう
よ」
「だ、か、ら、君のことを尊重していないわけではない。我々は
お得意様である君に対して敬意を表した上でリスペクトを込めて
あれらを貸し出したんだ」
「そもそも、そっちの貸し出しサービスを使うはめになったの
はあのドイツ人のせいだ。あんなドイツ女の仕事を受けちまっ
たせいで、俺たちゃ、銃を緊急整備するようなことになったん
だ。そんでもってあの女に紹介したのはあんただ!」
「我々の仕事は君たちの銃を整備し、シャツにアイロンをかけた
り、万年筆のペン先をやすりがけするみたいにちゃんとしておく
ことだ。君たちだけじゃない。我々は世界中に顧客がいる。君た
ちだけのことは考えていられん」
「だがあんたは俺の担当だ」
「そうだが、他の業務もある。悪いなスリジエ。今低血糖だ。そ
このキリン堂でポカリを買ってきてくれんか」
「人の忍耐力を試すな! なぁ、米倉さん。明日も仕事があるん
だ。一番重要な仕事なんだよ。それで……頼んでたモノはもう出
来上がってるんだろうな」
 米倉は机の上のたばこの煙の染み付いた書類を摘み上げる。
「昨日の記録によると、あんたの分のサプレッサーとホワイトグ
リップの調整がまだ終わってないらしい」
「なにぃ? あれだけ時間があってか? おいおい、勘弁してく
れよ。最低なモノを掴まされて次はこれかよ」
「こっちも精一杯なんだ! 相棒の分は大丈夫なんだろうな」
「あぁ、相棒の方はもうこっちの倉庫に届いてる。持ってこさせる
よ」
「そうしろ。ちっ、たくっ、君が素晴らしいガンスミスでなかっ
たら撃ち殺してるところだぞ。大体なんだっていつも俺のを待たせ
るんだ。仕事は明日だっていってんだろう? なんとかならない
のかよ」
「そういわれても、しょうがないんだよ。あんたは確かに腕の良
いヒットマンだ。相棒のことは……どうかと思うが裏社会ではあ
んたの名は、スリジエの名は轟いてる。そんなあんたから大切な
銃を任されてるのは良い気分だ。だけどな、他の仕事だってあ
る。そこは理解してくれよ。頼む」
「俺のCZ75は特別なんだ。この世界で最も美しい職人が一か
ら錬成したんだ。その凄さといったら、北極の海に一つだけさっ
そうとそびえたつユニコーンのつのだ。美しいものには美しいも
のなりの穢らわしさってのがある。俺の銃はまさにそういうもん
なんだよ」
「そんなこといわれても来週まで待ってくれ」
 米倉は軽はずみに言葉を発した。
「来週! だから次の仕事は明日っていってるだろう!」
 桜木は机の上の書類とリボルバーの模型を叩き落とす。
「ベーコンの食い過ぎで頭いかれちまったんじゃねぇのか。え
ぇ? 銃は、なんとしてでも、明日だ! 明日一番にここにとり
にくる。相棒の分と俺の分だ。分かったらとっととオイルを塗り
たくってもなんでもしてくれ! 明日一番だ。分かったな!」
 米倉は驚いたような顔で桜木を見る。
「これは返す! 史上最低の得物だ」
 桜木は立ち上がり、背中からクーガーを抜いて机に投げる。は
ずみで一発暴発して窓に穴が空いた。桜木はさっさと出ていく。
音が聞こえたはずだが戻ってこなかった。






     職業倫理






「じゃあ、最初から説明するよ? 大丈夫?」
「大丈夫だけど……それ全部本当なの? ほんと映画みたいで全
然信じらんないんだけど……」
「証拠だって見せたろ? 銃に、スーツに、車の鍵。それにかば
んいっぱいのお金」
「分かった、じゃあ説明して、ゆっくりね」
「おっけい……まず、僕たちは殺し屋だ。日本の殺し屋ってのは少
なくて、まぁ僕らは海外の仕事も受けるけど、とにかく日本での
商売は繁盛してる。殺しの種類も色々で、復讐代行や、単に邪魔
な人間を消すためだったり、まちまちだけど。で、相棒の桜木の
殺しの腕は一級品だ。業界でもピカイチ。独自のネットワーク
で、市場を独占してる。業界ではスリジエって呼ばれてる。フラン
ス語で桜の木って意味らしい」
「そんなのがどうしてあなたと友達なのよ」
「僕は孤児で、放浪してたときにあいつと会って、生きるために殺
しを叩き込まれた。おそらくあいつは特殊部隊が何かに育てられ
たんだと思う。まぁ、それはいいけど、とにかく、僕らは世間体
を気にして、学校に通い始めたんだ。僕と彼はそこで出会った。
あぁ、そのぉ、今のは説明がまずかったね、彼はまだ一人だっ
た時に世間体を気にして中学校に通い始めた。高校に通ってるの
は、僕たち二人で決めたことなんだけど、それは置いといて僕は
中学に、保護観察付きで通ってたんだ。桜木と出会った時は不安
定で、彼のひょうひょうとした感じに腹が立ったけど、初めて人
を殺した時、これはなんだと思った。これはどうやらおかしいぞ
と」
「………………何がおかしいの」
「僕は思ったんだ。みな命を大事なもので、みなに平等に与えら
れているものだと思っている。尊くて、美して、そういう高貴なも
のとして見てる。だけどそれは単なる……なんていうか、思い込
みじゃないけど、美化に過ぎないって気づいた。世の中の法では
裁けなくても自分たちが裁けて、それが誰かの救いになってるな
ら、こんな素晴らしいことはないんじゃないかって気づいたん
だ」
「……………………」
「ごめんよ、怖がらせるつもりはなかったんだ。だけど、そうい
うことなんだ。君が見たのは。僕が車を運転してて、桜木が隣に
乗ってて、僕のシャツに血がついてた。それは、人を殺して、その
帰りに君の家の前に通ったらたまたま、君が家の前にいて、僕た
ちを見ちゃったってことなんだよ」
「分かった。だけど……そんなの聞いたら、これからどうやって
あなたや桜木と付き合っていけばいいか分からないわ。私、前に
もいったけどお父さんが警察で働いてるの。だから私が…………
殺人者と付き合ってるって知ったらきっと総力を上げてあなたた
ちを捕まえに来るわ」
「分かってる。分かってるよ。だからさしたあたってご家族には
君と付き合ってるってことはいわないでおこう」
「うん……私もあなたのこと好きだから離れたくない……だけど
桜木と関わってたら、危なくない? だってあなたの話を聞く限
り、彼はすっごく腕の立つ殺し屋で冷酷無情。いざというところ
であなたが見捨てられないとは限らないわ」
「その点は大丈夫だと思うよ。今までもピンチになったことはあ
ったけど、僕を見捨てたことはなかった。いつも助けてくれた」
「ならいいけど…………前にこの話したっけ? 卒業式がぶち壊
しになった話。体育館の天井がすごく騒がしくて、様子を見に行
った先生は誰一人帰ってこなかった。みんなの一生に一度の思い
出がぶち壊しよ。合唱も中止になって、巣立ちは結局行われなか
った。今そんな気分。なんていうか、すっごい虚しい…………」
「そんなことがあったんだね……君の中学ってどこだっけ」
「公立第二中学」
「あぁ……」
「なんなの」
「この際だからいっちゃうんだけど、多分僕らのせい……」
「はい?」
「その日は……第二中学の体育館の上で銃撃戦をして
た………………」
「あのビー玉が落ちるみたいな音は弾が落ちる音だったわけ?」
「正しくは空薬莢だけど……ほんとにごめんね。悪かった。ごめ
ん」
「もういいわ、ほんと、疲れちゃった。もう寝たいわ」
「そうだね、シャワー先浴びる?」
「後でいいよ。先どうぞ。そうだ、明日また仕事があるから……
その、七時にはここを出るようにしといてね」
「仕事ね…………頑張って……………………」






     仕事



 


 桜木は「上白石質店」の大きなフロントに入る。右手に二十万
円の札束と鹿野ファームのベーコン六百グラム。受付で「米倉」
をお願いすると少し待つよういわれ、大きなカウチに案内され
た。受付の女たちのヒソヒソ話が気になった。小耳に挟んだ感じ
だと、自分が誰だか分かっているようだった。
「間違いなくあの人だ……」
 いや、今まで何度も来てるんだからそこまで驚かなくてもいい
だろう。桜木は奥の金時計を見やる。午前五時十一分だ。こんな
早い時間に来たのは初めてだったが。しばらくしないうちにここ
も大きくなったものだ。初めて銃を預けたのは二年前、あの頃は
まだオフィスビルの一角での営業だった。だが、「あの桜木陽平
が銃を任せてる会社」ということで一躍有名になった。(おかげ
で経営陣からは救世主扱いされ、やたらクーポンやら一回無料券
やらが送られてくる)数ヶ月後には依頼料が七倍に増え、現在で
は地下社会トップクラスの銃のオールラウンド会社。銃の整備に
調節、手配から貸し出し(二度と使わないが)まで手広く請け負
う。その整備、調節という観点では米倉は抜群の腕前だった。し
かし営業のセンスはまるでない。あの男のセールストークだけ
は、聞いているだけで眠気が襲ってくる。何かにつけては髪のこ
とを指摘してくるのもいただけない。特にこだわりはない。ただ
床屋の親父に、短くしてくれっていったら前髪をバッサリ切り落
としやがった。おかげでワックスというものを使って後ろまで上
げる羽目になった。そのせいで、似合わないだの、温和に見える
だのと色々いわれる。
「スリジエ様。米倉様の準備が整いました」
 桜木は立ち上がってフロントで番号を受け取る。
 用紙を受け取る時、受付の女が少し体をこわばらせる。
「あのさぁ……」
「はいっ、なんでしょうか……」
「あのぉ、別にさ、名前呼ぶ時はコードネームじゃなくて桜木で
いいからさ。そんな変な気遣わないでもらえる? 逆にしんどい
からさ」
「あ、あ、申し訳ございません」
「いや、だから、そんな過剰に謝らなくていいからさ」
「あ、その、な……あの、申し訳ありません」
 



 このビルの各階のレイアウトは全く同じだが、米倉の部屋があ
る四階だけは隅々まで掃除が行き届いている。米倉は厳格で綺麗
好きな男だから、清掃人には完璧な仕事を求める。米倉の部屋は
エレベーターから出て右、一番奥から二番目だ。ドアが開け放し
てある。桜木は遠慮がちにドアをノックする。
「なぁ、あの、よう」
 ぎこちない挨拶だが仕方ない。桜木はこういう場合の挨拶の仕
方を弁えていなかった。中に入る。
 いつもと同じ光景だ。おしゃれな本棚にターンテーブル、コー
ヒーマシン。割れた窓はシャッターが下ろされてガムテープがされ
ていた。
「なんだ。カニボーイ」
 米倉のしわがれているがはっきり通る声が聞こえてくる。
「カニボーイってなんだよ」
「いや、今日の星座占いだよ君はカニ座だったろ。散々だった
ぞ? なんかが爆発するかもって」
「なんだそれ、嘘だろ」
「いぃや、ほんとさ。私が君に嘘をいったことがあるか?」
「…………ないね」
 実際はある。
 以前社交場に潜入する際プレッツェルかブレッツェルかどっち
が正しいかはっきりさせないといけなくなって聞いてみたらプレ
ッツェルだというから、意気揚々とそういったら変な顔をされ
た。普通オフィシャルな場所ではブレッツェルというんだと。知
らんが。
「なあ、昨日のこと……悪かったな。割れた窓はこれで直してく
れ」
 桜木は二十万円の札束を投げずに、机にそっと置く。
「あぁ、気にするな……」
「それと……これ」
 桜木はベーコンを見せる。すると米倉はメガネを外してしげし
げとそれを眺める。
「こいつぁ……すごいな。最高級のベーコンじゃないか。はは
は、ありがとう」
「いや、こいつでお詫びにならねぇかなと思って」
「…………いいってことよ。確かに、あんたの銃をないがしろに
してた部分はあったかもしれない。最近色々忙しくてな」
「いや、悪かった」
「そういえばこれ。あんたのCZ、相棒の分」
 米倉は机の下から木箱を取り出して開ける。
「すませてくれたのか、助かるよ」
「いいってことだ。これからもよろしくな」
「恩に切るよ。米倉」
「これから仕事だな」
「そうだ」
「気をつけろよ、爆発するかも」
「…………」
 桜木は得物の入った木箱を脇に抱えて貨物用エレベーターで地
下駐車場まで降りる。緑のスターレットが停めてあるBブロック
の25まで歩く。タバコと排煙の匂いでとてもまともに息をして
いられない。桜木は育ち故郷の広大な緑と新鮮な空気を思い出
す。
 車に乗り込んで木箱を開ける。少量の光でも容赦なく反射す
る、美しい金属。少しく青みを帯びて黒光する生涯のパートナ
ー。
 持ち上げる。
 いつも通りの重さ。初めて好きになった女と撮った写真を見る
ような感覚だ。どれだけ汚れ仕事を続けても、どれだけ腕を上げ
ても、この白いグリップを握ると初心に戻してくれる。マガジン
を装填し、コッキングする。かすかに硝煙の匂いがする。比較的
真新しいサプレッサーを掴む。木箱を後部座席に置いて助手席に
放り出していた黒いボストンバッグを開けてサプレッサーをしま
う。 
 このかばんには常に銃に弾薬、多少の金、ショットガン、SM
Gが入っている。いつ追われる身になって逃げることになるか分
からないからな。CZを背中に挿し、エンジンをかける。堺の高
速に乗れればホテルまではすぐだ。
桜木はこの愛すべきオンボロにずっと乗ってきた。桜木も里中
も身長が周りの大人よりも高いために、運転中に止められたこと
は一度もない。見た目は……確かにひどいかもしれない。もう何
十年も前の車だし、殺し稼業を始めた時に足が必要だからと即席
、激安で用意してもらったものだからだ。
 ちゃんと走るし、ライトは点滅したりしないし、車特有のあの
嫌な匂いもない。ただ、もう少しトランクや車内が広ければと思
う。遠距離から狙う仕事ではスナイパーライフルが必要になる。
他にも、ちょっとばかり複雑なオーダーの時は荷物が多い。この
非常用持ち出しバッグだけというわけにはいかない。ライフルを
しまい込むには少し幅が足りない。だから後部座席に立てかける
かたちで持っていくしかないのだが、そんな怪しい雰囲気を出し
ていたらたまたま通りかかった警官に止められるかもしれない。
そうすると偽造の免許証を出すことになり、もしかすると車の中
を調べられることになるかもしれない。となると面倒だ。だが、
桜木は日本で殺しを初めて三年ちょっと、警察や捜査機関に顔や
存在を知られたことはない。これは大きなステータスだった。特
に日本の殺し市場というものでは大きなアドバンテージになる。
以前に逮捕歴があったりすると顧客はもちろん嫌な顔をする。ま
してや捜査機関が指名手配でもしていれば、余計に仕事を頼みに
くくなる。殺しを依頼する一番のメリットは、依頼する側に手が
のびないということだ。だからこそ、どこにも顔が割れていない
というのは大きな強みだ。
 インターチェンジを抜けて、橋を渡る。大きな橋だった。朝の
光が反射して、赤色の金属部分がオレンジに見える。
 橋を出ると、「湖の里」と書かれた木の看板が見えた。一目で
ポプラの木だと分かった。故郷に多く植わっていた街路樹だ。嫌
というほど見た木。太く育つポプラは、切り取りに手間がかか
る。機械で切ってしまうと繊細な部分が全部だめになって素材と
しての味が全部死ぬ。だから一枚一枚手作業で切っていく。ノコ
ギリを使うと、刃の目が残る。あの看板にはもろに残っている。
湖の里という文字も手で描かれている。この看板を作った人間は
誇りを持っていた。看板を手作りし、文字も手描き、きっと尊敬
すべき職人だったのだろう。ここのリゾート開発の話は、提携し
ているホテルのコンシェルジェから聞いている。桜木が日本に来
た三年前に開発が始まった。元々は水田稲作地帯だったが、度重
なる豪雨などにより、農業的価値がなくなると三つの会社が土地
の争奪戦を始めた。(この辺りの話はつまらなくて、一階のレス
トランのでかいケーキを食べようとか考えて適当に聞き流してい
た)
 結局、最後に土地を手にした会社がとんとん拍子に事業を進
め、「湖の里」という名前と看板は残して日本有数の観光リゾー
トに仕立て上げた。
「堺 松坂ホテル」
 ここだ。桜木は地下駐車場へ走らせていつもの場所に停める。
両角に近くない、真ん中あたり。いつでも逃げられる位置だ。他
の車両に紛れて見えづらくもなる。車の色が深いグリーンで目立
たないがこういう商売の場合、目立たなければ目立たないほどい
い。桜木は黒のスーツジャケットに腕を通し、ボストンバッグを
引っ掴んで降りる。
 エレベーターに乗って五階まで行く。エレベーターの壁はガラ
ス張りで外が見えるようになっている。いやぁ、この光景には慣
れないねぇ。閉所恐怖症とか高所恐怖症とかじゃなく湖畔やプー
ルが朝陽が良い具合に反射してとても美しい。何度見ても飽きな
いこの光景が好きだ。夜はもっと綺麗らしいが、桜木も里中も夜
通し泊まったことはないから分からない。あえて泊まってみよう
とも思わないのできっと一生分かることはないだろう。
 五階だ。
 ロビーの赤い模様の床を歩く。こういうものには美しさは感じ
られる。

 507
 
 合図のノックをする。
 
 トン トン トトトン トトン トン

「……………………」
 返事がないな。
 桜木はかばんを放し、音の速さで銃を抜く。
 調整したてのスライドが明かりを反射して邪悪に黒光りする。
 魔物が食事を前によだれを垂らしている。
 革靴でドアを蹴破る。中に入って壁に背中をつける。人が見え
るとすぐに照準のど真ん中に脳天を合わせる。里中、無事だった
か。
「…………」
 裸の里中が呆気に取られて一つ目の言い訳と次の言い訳を考え
ている。 
 ベッドにいるのは間違いなく中本みずきだ。くそったれあの野
郎、女を連れ込んでこんなでかいホテルで何してやがった。あい
つらのいちゃこらは想像するだけで気持ち悪りぃ、いやいや今は
そんなことはくそっほどどうでもいい。俺は銃を突きつけてる。
商売用の恐ろしい、野獣の顔してるに違いない。それを奴は見
た。くそっ、始末するか。
「てめぇら何してやがる!」
 桜木は銃を下ろして怒号をあげる。
 里中は苦い顔をしながらドアを閉める。
「これには、ちゃんとした理由があるんだ。あの、桜木、怒るの
は分かるけど、まず話を聞いてくれないか?」
 みずきは桜木を睨みつけてシーツを首まで上げる。髪は乱れ
て、肌に汗が滲んでいる。ったく気持ち悪りぃ!
「桜木……」
 里中は手をこまねいて部屋に隅に桜木を呼ぶ。
 桜木は殺意に満ちた顔で里中を睨む。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおい、おおい、おい。これ
は一体どういうことですかい。里中幸助さんよぉ」
「いや、違うんだよぉ、ぼかぁもうみずきに嘘をついて二重生活
するのに疲れたんだ。嘘ついてるのも本当に嫌だ。それで、君に
は申し訳ないけど、その……全部話すことにした」
「ははははは、笑えるぜ、その冗談! はははははははははは
は! いやぁ、お前史上一番面白い冗談だよ、ほんとに、笑えた
よ。ははははははははははは!」
「…………冗談じゃないんだ」
「はは……は……ははは……何だって?」
「……………………冗談じゃないんだよ…………」
「………………なぁ、待て待て待て、とするとお前は、このホテ
ルに昨日からあいつとしけこんであんなことこんなことしなが
ら、俺たちの商売のことやら何やら全部話しちまったってこと
か?」
「……そう…………」
「………………コンシェルジェ、猪崎だ。あいつから何の連絡を
受けてない。知らない奴がいたら連絡するはずだろ」
「あぁ、お金を渡して……黙っててもらった………………」
「あのやろぉ……………俺を裏切りやがって」
「待って、猪崎さんに危害を加えないでよ、絶対、あの人は僕の
ためにやってくれたんだから」
「おうおうおうおう、じゃああのクソッタレ女の土手っ腹に三つ
ほどでかい穴を開けてぶっといポンプで血を全部抜いてやらぁ、
それでパプアニューギニアの小便台に生首晒してやる。それでいい
か? え?」
「いいわけないでしょ! 彼女にもし指一本でも触れたら、い、
い、いくら君でも許さないからな」
「状況を理解してねぇようだな。てめぇは絶対にいっちゃいけね
ぇことをよりによってあのクソ女にいっちまったんだ。何を言っ
た! えぇ? 俺とお前が殺し屋で、口ではいえねぇぐらい残酷
なことをしょっちゅうしてるって言っちまったんだろ!」
「そうだよ!」
「………………………………」
 桜木は銃を中本に向ける。
「だめだ!」
 里中は中本の前に立って守る。
「ちょっと何よ! 私のこと殺すわけ?」
「ああ、そういうことになる。てめぇは知っちゃあいけねぇこと
を知っちまった。主義としててめぇを殺す!」
 発砲する。里中はみずきを抱えてベッドサイトテーブルにつっ
こむ。
 薬莢が落ちて、シーツに穴が開いて硝煙が漂う。テーブルはバラ
バラになる。
「きゃあ、あああぁあぁあ、ぁあ!」
 みずきが涙流して恐怖に叫ぶ。
「どけ里中! てめぇの責任だ。てめぇが喋ったんだ! 例外は
なしだ。知るのは俺とお前だけ、あの日誓ったろうが!」
 もう一度引き金を引く。薬莢、硝煙、悲鳴、里中はみずきを抱
えたまま横に逃げる。壁に9mmの弾丸がめり込む。
「お願いだから待って!  話を聞いてくれ!」
「話は後だ! 二人とも服を着て車に乗れい! まずは仕事だ。
このくそったれのことはその後で考える。顧客の信用を失うわけ
にはいかねぇ、頼むから早く服を着ろ!」
 里中はみずきの手を握って、金の入ったバッグと服を手に取
る。






 気まずい沈黙。ただただ、それだけが流れていく。ホテルを出
て湖の里を抜けて橋の上を走っていても三人とも何も喋らない。
 桜木は怒りのままに荒っぽい運転で標的のいる豊中のスカイレ
ストランへ走らせる。
 里中は商売服のスーツに着替え、助手席に。みずきは自分の服
を着て後ろに座らされていた。隣には大きなかばん。みずきから
したら、中身は想像したくもないだろう。
 里中は桜木の肩に手を置く。
「なぁ、落ち着いて、話し合わないか」
 桜木はギアトップにしてアクセルを踏み込む。みずきと里中は
後ろへ倒れそうになる。
「無理だな」
「でも、このままじゃ波長が合わない。仕事に差し支えるよ」
「ほうほうほう、仕事に差し支えるときやがった。てめぇが後ろ
にいるダボカスにゲロったことが一番の支障だろうが。みずきは
殺す。仕方ない」
「やめてよ!」
「うるせぇ!」
 桜木は鬼の形相で怒鳴りつける。
「ちょっと前見てよ前」
 ハンドルを右に回して、橋に激突するのを防ぐ。
「てめぇら絶対許さねぇ」
「まぁ、まぁ、落ち着いて。話を聞いてよ。うまいこといきそうなんだ」
「へぇ何がうまくいくんだ。ノウタリンバカが。バカのせいで秘
密をまともに守ったことなんかねぇんだろうよ」
「あぁ……」
 里中は唇を舐めて後ろにちらっと目をやってから桜木の耳に口
を近づける。ひそひそ話を始める。
「みずきの親父さんは……その……警視正だ。だから、僕らの仕
事にも大いに利用できると思ったんだ。摂関政治って習ったろ? 
ほら、歴史で。自分の娘を天皇の妃にするって奴だよ。これを模
すんだ。警視正は警視庁でもそれなりに偉い人だ。その娘と、殺
し屋である僕がお付き合いしてる」
「ほおおぉぉおう、それの何が都合いいってんだ」
「警視正だよ? 警視正、もしも…………彼らと繋がってた
ら……これからの契約に有利に働くんじゃないかな…………」
 桜木は少し考えるように、左の人差し指を唇に当てる。数秒し
ないうちに舌を鳴らして
「うまく考えたもんだな。確かにそういう観点で見れば、この阿
婆擦れを生かしておく価値ってもんがありそうなもんだ」
「そうでしょ……だからさ、彼女を殺すなんてことはやめ」
「しかぁあし!」
 桜木は得意気に里中へ顔を向ける。横目でチラッとみずきを見
やる。このクソアマ、ムカつくほどに落ち着いてやがる。普通は
悲鳴あげたりするもんだろう。
「問題は、てめぇが情さえ感じればどんなことでもバラしちまう
ってことだよ」
「どんな秘密でもバラすわけじゃないさ……ただ」
「自分と相棒の正体が殺し屋って以上の秘密があるか? あ
ぁ?」
「確かに……だけど」
「もういい! 着くまで黙ってろ。考えるから」
 しばらくしないうちに豊中に入った。豪勢な家が立ち並ぶ駅前
に入る。交通状態に舌打ちしながら向こうの高速道路沿いに走ら
せる。この辺りになると植木が増えてくる。こまめに手入れされ
ている。上級国民や権力を持った人々がよく通るんだろう。植木
が綺麗だなぁと目を輝かせると、その奥にそびえたつ豪華なオフ
ィスビルに目が行く。この上で今度会食でもしようかという話に
なるとレストランに拍がつく。面白い考えだな。
 桜木は車を地下に入れる。さっきと同じようにして停める。
 キーを抜いてハンドルを一回転させる。両手をゆっくり合わせ
て、すぐに放す。
「………………みずき、よく聞け。これから俺たちは……汚職や
ら犯罪行為やらを隠すために仲間をはめて殺したくそ政治家ども
を始末しに行く。ここで一つ頼みがある。てめぇの隣のでっかい
かばんをとれ」
「………………」
 みずきは両手で抱えてカバンを前に渡す。桜木はかばんから木
箱を取り出す。ふたを開けて銀に輝く銃と同じ色のサプレッサー
を持つ。
 桜木は右手で銃をみずきの方に向ける。
「ちょっと何してんの」
 里中が桜木を止めようとするが桜木は左手で自分の銃を抜いて
里中に突きつける。
「うっ…………」
 みずきの心拍数は檻の中で暴れ回る巨人の如く跳ね上がる。
「なんなのよ…………やっぱり私を殺す気になったってわけ?」
「いいや…………」
「…………じゃあ……なんなのよ……」      
「これはスタームルガーP95シルバーモデル。てめぇの彼氏の銃
だ。品があって握りやすい、排英の速度も硝煙の匂いも一級品、
しかし素晴らしいのはなんといってもそのツヤだちだ」
 視線をスライドに移す。
「…………美しい……俺のCZも負けたもんじゃないが、価値基
準が違うんでな。まぁ、それはいい。こいつは」
 桜木は左手の銃を里中の頬につける。
「いっ…………」
「この、大馬鹿野郎は今まで上品な殺し方しかしてこなかっ
た…………なんと、クズ野郎にもちゃんと死ぬ権利があると思っ
てるからだ。だからこいつはこの銃で、心臓しか狙ってこなかっ
た。それも心臓のど真ん中だ」
「……………………」
 みずきは喉の奥に飲み込みがたいものが起き上がってくるのを
感じる。
「上行大動脈と左冠状動脈の真ん中だ。奴はそれを見極める。一
度解剖したことがある。奴の撃った死体をな…………あぁ……ド
ンピシャだった……まぐれだろう。そう思った。その後十人調べ
たが、みな同じところに穴が空いていた」
 里中の額を汗がつたっていく。
「…………一方俺は? 頭、足、腕、肩、心臓、どこでもいい。
クズ野郎が、てめぇの犯した罪を自覚して後悔するほどの苦しみ
を与えれるならそれでいい。そして罪を認めさせてからあっさり
と殺す。しかし、犯した罪以上の苦しみは味合わせない。それが
ポリシーだ」
 みずきは何も喋ることができない。だって目の前に鬼がいる。
下手すると鬼以上の恐ろしさを孕む生き物だ。目頭が強すぎる。
そらしたくってもそらせない、まるで磁石。それも超能力磁石。
こちらはただの石だったはず。磁気を移され、二度と離れなくな
った。
「銃っていうのは注射器みたいなものだ。死刑に使う時の注射
器。中の弾丸は命を停止させる薬剤だ。何の液体かは知らんが、
それを食らったものはみなくたばる。それは注射器も銃も一緒
だ。だれでも撃ちゃ殺せるんだ。だったらこだわるべきはどう撃
つかだ。それにこだわるヒットマンこそ、信用できるヒットマン
だ。だがその信用は完全に打ち壊された。てめぇのせいだ。それ
は分かるな? だから俺はこの引き金を引いてその罪を、てめぇ
に、償わせる権利がある」
「………………………………」
「だが、やめて、おこう」
「………………どうして……」
 みずきは知らないうちに泣いた。声の出せない本能が、頭に叩
きかけてくる恐怖が頬をつたう。
「それはな、里中がてめぇを愛しているからだ」二回瞬く。
「人間の愛はあなどれない。時に銃弾より何よりすごい力を出す
ものだ。だから、いつか里中が窮地に陥った時…………てめぇの
ことを思い出して頑張れるように……生かしておく……フランス
語で愛してるってなんていうか知ってるか? ん?」
「みずきは首を振る」
「ン・モナムールだ」
 桜木はスタームルガーを里中に渡して車を降りる。
「そこにいろよ、ぜってぇ、何もするな、見るな、嗅ぐな、息も
するな。一切何にも触るな。爆発するからな。俺みたいに」
 そう言う頃にはいつもの桜木に戻っていた。おちゃらけている
が、どこかとらえどころのない、ひょうひょうとした学生に戻っ
ていた。
 里中は銃を腰に挿して、気まずそうに車を降りる。
「そこにいてね……なるべく何も触らないように……」
 ウインクして桜木の後に続く。
 みずきは今だけ桜木の言うことを聞くことにした。というより
身体中汗でびっしょりの上、力が抜けて、何もできそうになかっ
た。






 桜木と里中はスカイレストランに続く大きなエスカレーターに
乗った。
 人は全くいない。貸切だからか。裏口に近いからか。
「あーあー、やってくれたなぁ? てめぇほんと調子乗りすぎだ
よ。女一人できたぐらいで」
 桜木はシャツの第二ボタンを開けながらぶうたれる。
「仕方ないでしょ? 嘘つけないんだから」 
 里中はポケットに替えのマガジンが入っているか確認する。
「これは、嘘じゃない。秘密だ」
「だったら、秘密嫌だね」
「生きるための秘密だろう。なぁ、聖書にこういう一説がある。
悪を避けて善行積みたまえ、さすればとこしえにすむことができ
よう。みずきみたいな奴はとこしえにぶちこんでおけばそれで良
いだろう。平和ボケした世の中の渦に飲み込ませて、いつしか全
部忘れちまうまで過ごさせてやれ。それが奴にとっても幸せなん
だ。なぁ、聞いてるのか……」
 桜木が里中の肩を掴んで揺さぶる。
「俺たちがやってるのは愛やら情やらに引っ掻き回されて都合が
悪くならないことじゃねえぇんだよぉ。法を犯す者でも最低限守
るべき行動規範がある。暗殺屋のそれっていうのは、誰にも自分
の正体を明かさないことだ」
「………………あとでまた話し合おう」
 里中は桜木の手を振りほどく。 
 最上階についた。
 二人は同時にポケットからサプレッサーを取り出し銃にねじ込
む。チャンバーチェック、マガジンはフル装填。息ぴったりの道
具チェック。済むと、同時に歩き出す。
「ここだ……」
 ほこり一つない赤い絨毯の上をずかずか歩き、レストランまで
向かう。綺麗なところだ。レストランの入り口には遠くから見て
も分かるぐらいの真珠が埋められてある。階の素材は全て大理石
だ。靴の音をよく反響する。
 周りはカメラだらけだ。確認できるものだけで十七個。
「……ここだ…………」
 天井がガラス張りで空が見えるようになっている。ガラスは紫
外線をカットし、悪天候の時や日が照りすぎている時は綺麗な布
をガラスに敷いて美しい光を入れるそうだ。
 受付のお団子頭の制服女が二人の姿を認める。
「申し訳ありません、本日は貸切となっておりまして……」
 桜木のサプレッサー越しの弾丸が女を殺す。
 中に入る。受付の奥の壁を左に横切る。いったん、銃を収め
る。
「よぉよぉよぉ、よぉよぉよぉ? えぇ?」
 桜木は陽気な声をあげてテーブルを囲む政治家たちの前へ進み
出る。
 里中は桜木の反対側へ立ち、ゆっくりと、前で手を組む。
 老眼の政治家たちは二人の間に視線を行き来させる。
 他の者がみなそうであるように二人の、特に桜木の長身に驚い
ているようだ。
「なんだね……君たちは誰だ? 何の用ですか」
 四番目の席に座る白髪の男が桜木に言う。
「いいや……用はない。ただ、欲しいものがある」
「………………」
「命、ですよ……」
 二人は素早く銃を抜く。刻み良い金属音が政治家たちの中で、
あっという間に恐怖に変換される。
 桜木は席から立とうとする政治家の肩に触れる。
「いっ……! やめろ!」
「座れぇ」
 その声で全員が黙り込む。
「…………素晴らしい。俺たちが来た理由は分かってるな? あ
あ?」
 皆、首を傾げたりメガネを直したりと落ち着きをなくす。
 それを見た桜木は満面の笑みを浮かべる。
「ははははは、なんで俺たちがここに来たか合点がいったって顔
してやがる! 面白いな。全く、てめぇら政治家ってのは、何だぁ
あれか? 議席と金のことしか頭になくて、邪魔する野郎がいた
ら誰でも好きにしてやるって奴なのかい? そうだろ? あ?」
「何の話だかわからない! 早く帰ってくれ! 私たちは忙しいんだ。早く行かないと警備をよ」
 桜木はそう言った政治家を撃つ。豪華なコース料理に顔が落ちる。左右にいた二人に血が飛び散る。
「ひいいぃいぃぃ!」
「やめてくれ! 命だけは、頼む! 金ならやる!」
「金は欲しくない。欲しいのはてめぇらの命だ。二〇二十三年、
六月十四日、テメェらの政党の前期収支決済を調べていた金光幸
之助は不審な点に気がついた。前年度の議席獲得数は二十四、一
議席ごとに配当される金は一千二百万円。つまりてめぇらは二億
八千八百万円を受け取ったことになる。しかぁし、実際の金はそ
れよりも二千万円多かった。約三億円だ。この二千万円の正体を
つきとめた金光は一つのファイルにまとめててめぇらを告発しよ
うとした。てめぇらはその前にそれを阻止した。命を奪い、事故
に見せかけ、そのファイルを焼きつぶした」
「そんなことはしていない!」
 里中は三人撃ち殺す。
 血が吹き飛び、テーブルが汚れる。三人が三人椅子から転げ落
ちる。桜木の靴に一人の頭が当たる。すかさず蹴り上げると、こ
めかみが机の足の角にあたり、新しく出血した。
 残るはあと二人。生け捕りを指示されている髭を生やした小太
りの男。恐らくは党首。もう一人は小便を垂らしてガクガク震え
る若造。桜木はさっさと若造の頭に穴を開ける。若造は党首の
肩に倒れ込む。党首は身震いして声も出ないようだった。
「よし。話は簡単になったな。俺と、てめぇとそこの相棒の三人
きり」
「な……な……何が望みなんだ! 一体、私も……殺すのか!」
「いいや、殺しはしない。ただ、車に乗せる。それであんたに目
の玉飛び出る額を出してでも会いたいって人んところへ連れて行
く。分かるか? うん? てめぇらは金光を跳ね飛ばした瞬間、
残された家族のことを考えたか? 残された、奥さんや小さい娘
がどんな気持ちになるか分かるか? え? 普段は俺が教えてや
る…………俺が……責任持っててめぇに奪ったものの意味を教え
てやる……だが、今回はそれをご夫人がやりたいっていうんで
ね」
 桜木は一発頬に平手打ちする。
「ひいいぃぃぃぃっ!」
 大袈裟に倒れる。面白い奴だ。
「里中」
 里中は銃をしまい、党首の左手首の関節を外す。
「うあああぁぁあっ!」
 また大袈裟に……すぐ治るんだから……
 里中はさらに、右手首の小指を折る。
「あああああああああぁぁっっ!」
「これは流石に痛かったなぁ、まあ仕方ない。ほら車へ行くぞ」
 里中はへたった党首が立つのを手伝ってやり、レストランを出
る。二人は汗びっしょりでネクタイの緩んだ党首を挟む形で駐車
場へ向かう。里中は無意識のうちに党首の上行大動脈を探してい
た。
 来る時とは違って、非常階段で地下駐車場まで降りる。
 他の人間から見て怪しまれないように平然と歩く。緑のスター
レットの中には下を向いているみずきが見える。
 里中はみずきに小さく微笑む。それに気付いたみずきは里中の
姿を認めると微笑み返すが、後ろに歩いている顔面蒼白の男を見
るとすぐに目をそらす。
 桜木はみずきには目もくれず、無表情で車を開ける。桜木は里
中に党首を抑えさせる。助手席のかばんから結束バンドを取り出
そうとする。
「………………」
 桜木が曇った表情でバッグの中をまさぐる。
「…………桜木、どうしたの?」
「ない」
「え…………?」
「ないんだよ」
「うっそ……確かに発注したのに…………」
 桜木はかばんのファスナーを乱暴に閉める。
「くそ……てめぇはほんとダメな野郎だ。くそったれめ」
「ごめん……」
 桜木は里中を睨みながら党首の腕を引っ掴む。
「ひっ…………」
 次は窓越しにみずきを見やる。
「そもそもこんなことになったのはてめぇのせいだ。てめぇの」
 桜木はドアを開ける。みずきがびくついて奥に移動する。
「おい、入れ」
「うっそ…………ダメだよ」
「今からバンド買いに行くか?」
「………………」
 党首の頭にはこれから何が始まるかということしかなかった。
それを考えれば考えるほどそれが恐ろしいことのように思えて頬
をつたう汗と一緒に命が落ちていくようで気が気でなかった。
 それよりもみずきは、顔に脂の浮いた知らないおっさんが隣に
座ってきてもっと気が気でなかった。里中はむっつりして助手席
に座る。
 桜木は里中が抱えたままのバッグからM8000クーガーを取
り出す。散々文句つけた最低の得物だ。コッキングする。みずき
に渡す。
「え?」
「は?」
「これ持って」
「え、やだ、やだ、そんなの触りたくない! やめて!」
「何? 頭にぶっぱなしてほしいって?」
「さくらぎ…………スリジエ! 僕を罰するために僕の大事な人
を傷つけるのはやめてくれ!」
「いいや、傷つけるつもりはない。代償を払わせる。みずき、て
めぇのせいでこっちは多大なる損害を被った。少しは反省している
ふりをしろ」
 何も言えないみずきと里中。みずきは自分のせいでこの男に迷
惑がかかっているとは思いたくなかった。なにせ殺し屋だ。殺し
の業務なんぞない方が良いに決まっている。確かに弱き者のため
に、代わりに復讐を果たしたりするのは……高貴なことなのかも
しれない。だけどまともな人間ならそうは思わないはず。自分に
は愛する人がいて、その人がそれを高貴なことだと思っている。
私は少なくともそうだとはことだとは思わない。当たり前だ。だ
が彼が殺し屋である以上、別れることも考えない以上、尊重しな
ければいけない。だが…………それでも…………銃は触りたくな
い……………………
 みずきはゆっくりと、慣れないグリップを握る。両手でしっか
りと握る。震える。指から見たことのないような色の汗が出てく
る。あそこが痒い。両足の太ももを締めて抑えてみる。意味はな
いと分かっていても手以外に意識を向けたい。銃身に反射した光
が眩しい。薄暗い駐車場のはずなのに、こんなわずかな光でも反
射してしまうのか…………いや、珍しくないことなんだろうけど。
でも自分はここまで反射することのできる物体を見たことはなか
った。それが不思議と恐ろしかった。
「頼む……お嬢さん…………頼むから…………その引き金は引か
ないでくれよ……本当に…………」
「絶対に……引きません…………引きたくありません…………」
 桜木は後部座席の苦痛に満ちた空間を無視してキーを突っ込
み、車を発進させる。
 次の目的地は京都。比叡山付近の倉庫。比叡山の観光地化プロ
ジェクトが立ち上がった際、予期せず付近が倉庫、プレハブ地帯
になった。結局計画していた会社が倒産して、プレハブは撤去され
たが倉庫は三つか四つ残されたままだった。その内の一つを使
う。
 交番を通りすぎて高速に入る。
「今日は仕方ないけど、次からみずきに銃なんて持たせたら本当
承知しないからね」
 里中はバッグの端を力強く握る。
「それは今後のてめぇらの態度次第だなぁ。別れろとはいわな
い。それは無理だって分かってるし、無駄だからなぁ、俺は朝ド
ラで学んだんだ。禁止されると愛はますます燃え上がる。結果第
三者は三年前の朝ドラを見させられてるみたいな気持ちになる
が、それはお約束だ。てめぇらがいちゃついて仕事に支障が出る
たびにてめぇの分まで働くこの俺のご苦労は想像できないね」
「そうやって皮肉ばっかりいってないで少しは今後のことも考えてよ。もうこうなっちゃたものは仕方ないんだからさ」
「は! 『仕方ない』ねぇ。面白い言葉だ。オーニピョアナ。フ
ランス語で『仕方ない』だ」
「なぁ、おっさん。闇政党のクソ野郎さんよ。お前はどう思うん
だ」
「え…………?」
「え? じゃねえぇよ。俺の相棒であるこいつが」
 銃で里中を指す。
「こいつと」
 銃で後ろのみずきを指す。
「付き合ってるらしい。その上、俺たちの正体をバラしやがっ
た。絶対秘密、口外禁止。言い方はいくらでもある。数千個ある
であろう秘密を表す言葉をぜーんぶまとめて蹴っちまった。お前
はその点、どう思う」
「…………確かに……この……二人のこれからの関係は……厳し
いものがある…………が……」
「べぇらべら喋ってんじゃねぇ!」
「ひぃっ………………」 
 理不尽な八つ当たりだと分かっているが、自分が悪いことをしたように肩をすくめる。
「ったく、くそったれめ。あぁー、朝から何にも食べてねぇん
だ。てめぇ、マジでみずきを撃ち殺さなかったことをありがたく
思えよ。おぉいみずきぃ、その引き金、馬鹿みたいにかっるいか
ら気をつけ」
 なんというタイミング。気持ちの良いほど晴天の、嫌というほど
車がいる中で桜木たちのスターレットのリアガラスは党首の腐っ
た脳みそと頭蓋骨、皮膚、血とで真っ黒になった。銃声は車を超
え、外にも轟いた。むろん他の車にも聞こえたろう。里中と桜木
にも血や脳みそが飛び散る。車はもうめちゃめちゃだ。むろんみ
ずきの顔は真っ赤に染まった。顔だけじゃない。服も手も、あそ
こにも少しだけ付いた。次に桜木の、銃声よりも大きい怒声が響
くまで二秒かからなかった。
「なぁあぁああにやってぇぇんだぁぁああ! てめぇ!」
「きゃあああああぁあぁあああぁ!」
 みずきは悲鳴をあげた。不思議と涙は出なかった。本能が止め
たのかと思う。他人の体液と自分のとが混ざるのを拒否したのか
もしれない。
「みずき、みずき、みずき? 大丈夫? 怪我はない?」
「そいつを心配してる場合か? てめぇ、ほんと頭おかしいじゃ
ねぇか、今は俺たちの心配をしろよ! ここは高速だ、さっき交
番が見えた。もし機動隊に見つかりでもしたら…………」
「あの、あの、あの、あの、私、何が起こったのか…………分か
らなくて…………この人、私が殺したんじゃないよね、ね。こう
すけ、違うよね、さくらぎ、ちがうわよね」
「いいや、てめぇが撃った! その指で撃ったんだ!」
「うそうそうそ、うそ、うそ、いやぁっあぁぁぁぁぁぁあっっっ
ぁ!」
「くそっ、後ろ血の海じゃねぇか! 『ゴッサム・シティ』よろ
しくめちゃめちゃだぁ! とにかくどっかに避難しねぇと……」
「『ゴッサム・シティ』って何だよ、うわぁ……髪に脳みそがこ
びりついてるよ…………」
「映画だよ! タランティーノが監督してる奴! くそっ、あいつ
豊中に住んでたかな……]
 桜木は血で汚れた手でジャケットの内ポケットからメモ帳を取
り出し、知り合いの住所を調べる。
「あ、あ、あ、あ、あ、ああ、あぁ、あ」
 みずきは相当ショックを受けているようだった。当然だ。だ
が、こんなことになったのはこのバカ里中がこのクソアマのけつ
を追っかけたせいだ。結束バンドを買い忘れていたせいだ! そ
れよりも何よりも、依頼は失敗だ。初めての……失敗。きっと金
を返せといわれる。配達が済まないと仕事完遂にはならない。
 くそっ……スリジエの名前に傷がついた。しかし何かがおかし
い…………里中がいつもの店で結束バンドを発注しているところ
はこの俺が見ていた。ねぐらに忘れてきた様子もない。いや、今
はそんなことはどうでもいい。さっき交番があった…………今の
音を聞いて駆けつけでもしたらそれこそ、一貫の終わりだ。彼ら
に助けてもらうことはできる。だが一度勾留されるだけでももう
商売はできないだろう。
 サイレンの音が聞こえる。
 くそっ、白バイよりタチが悪いっ、パトカーだ…………
「おい、どうする。警察だ。パトカーがきたぞっ」 
 桜木は車線変更する。
 里中はかばんを開けてスパス12を取り出し、コッキングす
る。
「おい、やめろ、おい、おい」
 桜木は必死に静止する。しかし
 里中は窓を開け、パトカーに向かって、一発、二発、三発と発
砲した。
 パトカーは、ライトが弾け飛びボンネットはぬかるみを思い切
り踏んづけたみたいにへこんでしまった。反動で大きなコンテナ
を運んでいたトラックにぶつかり、トラックは走っていた軽トラ
にぶつかった。軽トラは吹っ飛ばされ、二回転して電灯にぶつか
った。三台とも、もう走れないことは確かだった。
「里中! やめろぉ! そのショットガンをおけ!」
 里中は息切れして窓を閉める。自分でも何をしていたか分かって
いない様子だ。錯乱状態か。
「………………」
「てめぇ、何したか分かってるのか……」
「パトカーに向かってショットガンをぶっ放した…………」
「そのまんまじゃねぇか! もういいっ、これで梅花に電話し
ろ、超特急の緊急事態だといえ」
 桜木はプリペイド携帯を里中に投げる。画面に少しく血がつ
く。
 里中は素早くダイヤルする。番号は登録しない。地下社会の常
識だ。
「あぁ、あぁ、ううんっ、ああ、梅花さんっ、実は今すごく困っ
たことになってて……超特急の緊急事態なんだ…………それで、
避難する場所をさがしてい、ああ、現在地ね、えと、えっと、え
ー……」
 桜木を見る。
「名神高速道路のど真ん中っ」
「名神高速道路のど真ん中、そう。そう。え? いや、いや、そ
れは無理なんだ。リアガラスにべっとり血がついてて…………ま
ともに動けるような状態じゃないんだ…………え? なに? 分
かった、かわるよ」
 里中は重い表情で桜木に電話を渡す。桜木は舌打ちしてひっちゃ
くる。
「あぁ、梅花。…………そうじゃねぇ、ゴタゴタ言わずにとっと
と住所を言ってくれ! とにかくすぐに避難しなきゃならねぇ。
いや、それもできねぇんだ。誰かさんがパトカーに発砲しちまっ
た。応援が来たらおしまいだ。分かった、分かった。オーケー、
ありがとう」
 桜木は携帯をダッシュボードに投げる。
「おい、グローブボックスにでっかい布が入ってる。それでリアガ
ラスを覆え」 
「分かった」
 里中はグローブボックスから黒い布を取り出す。ついでにたまた
ま入っていた消毒用の霧吹きも。二人は後ろを見る。頭のない死
体と失神したみずき、血と脳みそと頭蓋骨、見れたもんじゃな
い。里中は喉に、ホテルで食べた春菊とツナのサラダが戻ってく
るのを感じた。
 里中はべちょり、べちょり、という嫌な音と脳みその感覚を我
慢して後部座席まで這っていってトランクに挟む形で布を張る。
「はぁ……終わったよ!」
「オーケイ、もうすぐ車を捨てる。死体はそのまま置いてく」
「えぇ? 足がついちゃうんじゃない?」
「後でチームに回収させに行く。なぁ、頼むから一々質問せず指
示通り動け! 窓と顔を拭け、みずきの顔もな。かばんにタオル
とウェットティッシュと袋が入ってる。拭き終わったらその袋に
入れろ。絶対忘れるな」
 桜木は高速道路の分かれ目から下に降りて雑草の生い茂った手
入れされていない公園へ入る。錆びついたキリンの遊具にぶつか
った。
「ひとまずはここに止めておこう…………おぉい掃除すんだか?」
「なんとかね……」
 疲れ切った里中の声が聞こえる。布の余った部分でサイドウィ
ンドウも隠す。
 ジャケットの袖で顔の血を拭う。ウェットティッシュを二、三
枚引っ掴んでみずきの顔を拭う。血と脳みそを拭き取ってやる。自分のジャケットをみずきに着せる。黒だから血は目立たな
い。
「ほら、行くぞ」
 桜木はかばんとキーを持って車を降りる。里中はみずきを姫抱
きして、金の入ったかばんを持つ。
「で? どこへ行くの?」
「ちょっとばかし歩く、南の方へな。そこへ古い一軒家がある。そこで梅花が待ってる」
「…………どのくらいでつく?」
「分からん! 十分か、二十分か、それ以上か…………」






 なるほど梅花の奴がここを選ぶわけだ。丘の向こう、人通りは
ないが人の気配は感じられる。古く小さい老人の気配だ。女を抱
いた男と大きなかばんを持った大男が二人並んで歩いている。二
人ともかすかに赤っぽい。朝陽の反射でそれもごまかせた。簡素
で寂れた住宅街、そのほとんどが木造建築、火をつけたらよく燃
えそうだ。三十四ー二十二といっていたな。
 ここか。蜘蛛の巣が貼ってある。窓には白い布がかかってい
る。人が住んでいるとは思えない。だからこそ良い。
「ここだ」
 インターホンを鳴らさず門をくぐる。ドアを拳で二回ノック、
平手で三回ノック。すると声が返ってくる。
「外の花は?」
 透き通った華奢な声だ。
「桜」
 ドアが開く。
「スリジエと言って欲しかったわ」
 ロングのブルネット、おちょぼ口。身長は百六十ぐらい。ただ
の美人だ。袖から布の垂れたローブを着ている。若干紫がかって
いる。
「どっちも一緒だ」
 桜木は梅花を押しのけて中に入る。里中は申し訳なさそうに一
礼してドアを閉め、中へ入る。梅花は顔をしかめる。
「その子は?」
「トラブルの元だよ」
「死んでる?」
「いやぁ、残念ながら生きてる。失神してるだけだ」
「あらそう。待ってて、準備してあるの」
 梅花はバスルームの方へ歩いていく。
 家具は全部埃のついた袋を被ってる。差し押さえの札が貼って
あるものもある。
 桜木はジャケットを脱ぎ捨てる。里中はソファの埃をはらっ
て、みずきを寝かせてやる。
「…………ふぅ…………なんとかなってよかったね」
「なんとかなった? なんとかなっただと? てめぇマジにふざ
けんじゃねぇぞ。あぁ? 全部てめぇのせいだろうが。調子に乗り
やがってぇ、全く」
「お二人さん? 取り込み中だった?」
 梅花が革のダッフルバッグを持ってくる。
「これ、着替えが入ってる。シャワーは使えるようにしてあるか
ら、順番に入って…………その子だけど…………」
 梅花がみずきの方を見る。
「消した方が良いんじゃなぁい?」
 桜木は何も言わず後の壁にかかっている絵を見る。
 フランシス・ベーコン。インノケンティウス十世の肖像画、後の
習作。埃と湿気でだいぶ劣化している。
「ダメだよ!」
 里中が叫ぶ。
「その子ぁ僕の彼女だ」
「じゃあなんで血まみれになってるの」
「……その子が……その子が……あぁ……」
 里中は下を向いて頭をかく。
「その子が撃った」
「そいつが撃った」
 桜木とはもる。
「誤射だ」
「なんで、その女の子が銃を持ってたわけ?」
「俺が持たせた」
「じゃああなたが悪いんじゃあなあい?」
「まあ、聞けよ、梅花ちゃん。今から目の玉飛び出る面白い話をしてやるからさ」
 里中を睨みながらシャツを破り捨てる。
「この、クソッタレ里中が俺たちの正体を女にバラした! その
せいで仕事場へ連れて行くことになって、無事に一人を生捕りに
した。しかしだ。ここで問題が発生。なんと、ななななんと! 
この大馬鹿野郎が結束バンドを発注し忘れていた。それで俺は責
任を取らせようとして女に銃を持たせた。米倉んとこのぐずぐず
の得物だ。スペアを返し忘れてたんだ。引き金が軽いから注意し
ろといっておいたそばから、ぶっ放しやがった。それだけじゃな
い。こいつがパトカーに向かって発砲した。ショットガンで三発
だ。彼らとの契約を忘れちまったらしいぜ、全く。これから大変
だ。何よりも仕事は大失敗だ!」
「気にしないわ、前にも失敗はあった」
「あれは、失敗じゃない! 彼らの自作自演だ。俺を同盟から締
め出そうとした。あれは断じて失敗じゃない!」
「それは後で話し合いましょう。とりあえずシャワー浴びてきて
よ。その子は私が綺麗にするから」
 桜木はバスルームへいく。
「綺麗にするだけだよね。脳みそ綺麗にするとかそんな意味じゃ
ないよね」
 梅花は里中を無視して桜木を追いかける。
「スリジエ」
「なんだ?」
「こんな時に言うのは何だけど…………清光家との取引が無くな
った…………」
「なにぃ? 確かに今言うことじゃねぇな」
「すごくまずい状況よスリジエ。沈みかけた船からねずみが逃げ
出してる」
「その例えはまずいな。俺たちは沈みかけてない。清光の親父と
は近々話す。アポとっといてくれ」
「こういう場合、誰かの故意があるって考える方が建設的ね」
「地下社会では俺の名は轟いてる。裏切ればどういうことになる
か分かってるはずだ」
「あなたよりももっと恐ろしい力が関わってるのかもしれない」
「彼らってことか……なんでもいい。シャワー浴びてくる。」
「なんでもよくないわ。契約が破綻するとそれこそまずいことに
なる。契約内容を見直す。それから情報漏れの原因を見つけて塞
ぐ。さしあたり全ての取引は停止することになるだろうけど、仕
方ないわ」

 
 


 
 腕と顔に石けんをしっかりつける。血は固まると中々落ちな
い。くそったれめ…………こんなことになって……
 壁を殴りつける。くそ……信用も威厳もあったもんじゃない。
これでおしまいか…………何年もうまくやってきたのに、このザ
マか、梅花の奴のいう通りだ。相棒を取るなんてことがバカだっ
た。しかし自分一人でできないことはある。その点は都合が良
い。だが…………こんなにバカだとは…………俺は、俺は、俺
は……こんなことをしている暇はない…………それより、パトカ
ーに向かって発砲しやがった……これで反対派は勢いづく。契約
は打ち切りになるかもしれない。そうなれば終わりだ。今までの
記録が全て表に出る。不利なものが全部。最低限の対策はしてあ
る。今までのことを全て記録してある。そっちがその気ならこっ
ちもそれをぶちまければ良い。だが彼らの力は強力だ。いくらこ
っちが兵隊を集めて戦ったとて、勝てるかどうか、要は向こうの
決定的な弱みを握ることだ。それ一つで今後の契約はがらっと変
わる。それより今回のことだ。結束バンドはいつもの店で発注し
た。それは俺が見ていた。いくらあいつが間抜けだからといって
後で消しゴムで消したり用紙を提出し忘れたなんてことはないだ
ろう。となるとあの店が裏切ったか。それともあの店を紹介した
奴が裏切ったか…………ここ一つだけの情報漏れではないはず。
ここだけじゃない。他にも絶対に穴は空いてる。一つ目を塞げば
二つ目三つ目が空くなんて、そんなヒュドラみたいにするつもり
はない。苦労して築き上げたネットワークだ。ここで失うわけに
は…………くそっ!
「くそおっ!」
 また壁を殴る。
 水を止める。
 絶対にこの漏れを止めないと。何に変えても。修理したばかり
だと言ってたな。このシャワーヘッド、思い切り水が垂れてきやが
るじゃねぇか。冷たい水がよぉ。今は水漏れどころの話じゃね
ぇ。一刻も早く立て直さないといけない。
 突っ張り棒にかかってあるタオルを引っ掴んで体を拭く。まだ
赤みの残る水滴をきちんと拭き取る。用意してくれた下着を乱暴
にはく。いつもならありえないことだが、カルバンクラインのパ
ンツが少しく濡れた。いつもはちゃんと拭いている。今も拭いた
つもりだった。だが拭けていなかった。足の部分が錆びたアイロ
ン台にグレーのスラックスがかかっていた。しわはない。ベルト
レスボタンが付いている。靴下を履いてから穿く。
 バスルームから出る。里中と梅花が話している。みずきの説明
をしているのか。どうでもいい。
「よし、里中次はお前がシャワーを浴びてこい」
「分かった」
 里中は小走りで、ジャケットとシャツを脱ぎながらバスルーム
へ入る。
「…………」
 梅花は無言でダッフルバッグを渡す。 桜木も無言で受け取る。
ファスナーを開けてシャツを取り出す。汽車の柄だ。
「なぁ、なんだこれ」
「バック・トゥ・ザ・フューチャー2でドックが着てたアロハシ
ャツよ。去年のコミコンにあったの。いいでしょ」
「いいでしょって……こんなの……着れると思うか、まぁ、い
い…………そんなことより……」
 桜木はシャツに腕を通しながらいう。
「紙とペンはあるか」
「えぇ、どうぞ」
 桜木はボールペンを一回ノックして汚い椅子に座る。
「今回の件だが」
 梅花は桜木の隣の椅子を引く。座る前にハンカチを置く。
「うん」
「今回の件は、非常に深刻だ。はっきりいって今後の活動を根底
から揺るがす。そこで」
 桜木はささっと「店」と書く。いつも結束バンドやロープなど
入りようなものを調達してくれる店だ。
 そこから線を引き「水漏れ」と書く。
「この原因だ。誰の仕業かは分かってる。彼らに繋がる業者、二
重契約してるものからあたる。まずは物流関係、卸業からだ。ど
こへ隠れても絶対に見つける。まずは中橋運送の内通者」
「横田光敏ね」
「そう、それに店の担当者、谷口由佳。この二人に揺さぶりをか
けて全容を知る」
「そうね、チームを用意しとく」
「いや、チームはいらない。それより車を回収してくれ汚職政治
家の死体もな。里中ー! もう出て来い! 十五分も入ってる
ぞ」
「待ってよぉ、 もう少しだけ待って!」
「無理だ! みずきと三人で話しがある!」
「はいはいはいはい、ちょっと待って」
 腰にバスタオルまいて全速力で出てきた。梅花がシャツを投げ
る。
「みずきを叩き起こせ」
「分かった、叩かないけど」
 里中はみずきの寝ているソファに座って頬を撫でる。
「みずき、みずき、起きて」
「おい、そんな生ぬるいことしてられるか」
 里中は流しの下のバケツに水を入れる。
「どけ、里中」
「ちょっとなにして」
 水をみずきにぶっかける。
「ぎゃあぁああぁ!」
 一回で跳ね起きる。
「おはようさん。クソガキ」
「ちょっとぉ! 汚さないでよ、掃除するのは私なのよ?」
 梅花が怒る。
「なんなの? ここはどこ、その女の人は? 何がしたいの?」
「次は、『私は誰?」かな? 話し合おう」
 里中はみずきの肩を寄せる。
「お前は今日、決して知ってはいけないことを知ってしまった。こ
の地球上、表社会では誰も知らなかった。いうなればゼロのもの
がプラス一になってしまった。これは非常に、マイナスだ」
「………………」
「分かるな? この梅花は……」
 桜木は梅花の肩に手を置く。梅花は首を傾けてにっこり微笑
む。
「俺のビジネスパートナーで、商売の根幹を担う人物だ。彼女の
意見も聞いてもらおう、なぁ梅花ちゃん。このクソアマが俺たち
の秘密を知っちまった。改めて、どう思う?」
「それは、非常に最低ね。できれば私がこの手でその子を殺した
いところよ」
「それはダメ!」 
 里中が叫ぶ。
「ほぉらなぁ」
 桜木が大袈裟に両手を広げる。
「この調子なんだ。この女を自分達のために消そうとするとこい
つが反対する。で、こいつが反対すると俺はイライラする。で、
商売に影響がでる。この悪循環を断ち切るためには、何度も言う
がこいつを一思いに消しちまうことだ。だが、それはしない。そ
れ以外で解決策を思いついた」
「なんなの…………」
 空気が緊張をまとう。
「……誰にも言わず秘密にすることだ」
 意外と普通だった。
「…………それいいね!」
 里中が笑顔になる。
「調子に乗るな。てめぇが責任を持って、そいつの口を結べ。誰
かにいいでもしたら絶対にこの俺が九ミリの弾丸で頭を撃ち抜く
ことを約束する。そして、首をもぎ取りパプアニューギニアの小便
台に晒す」
「それ好きよねぇ」
 梅花が口を挟む。
「分かったか? くそみずき」
「分かった…………絶対いわない、ていうかいわれなくてもいわ
ない。彼氏とその友達が人殺しなんて絶対人にはいえないじゃ
ん」
「それでいい」
「ふぅ……なんか疲れちゃったね…………」
 里中がいう。
「まだ二人とも朝ごはん食べてないんじゃないの?」
 梅花が訊く。
「いや、僕は食べた。ホテルでみずきと二人で…………」
 桜木が睨む。
「なんでもない……」
「みんなでご飯食べない? ファミレスで」
「あぁ、これだけは二つ返事で賛成だ。ほらいくぞ。荷物を忘れ
るな。あぁ、今日は最低の日だ。占いの結果も最悪だったし」
「ああ、そうだね」「そうしましょう」
「早く車に乗って!」
 桜木は三人がガレージに行った後、紙にボールペンで書いた
「店」ー「水漏れ」を見る。
「ふんっ…………」
 遥か遠くを見る。景色という意味ではない。これから生まれう
る未来、これから起こりうることに思いを馳せた。キッチンの戸
棚からライターを持ち出す。まだオイルがある。火を灯す。
 青白い炎に紙を当てる。みるみる黒くなって、燃えていく。
 桜木は炎を見る。物鬱げな目で、唯一愛した者の死を思い出
す。その思い出は仕事をしている理由とまったく同じだった。
 
 ページをめくるといつもそこに君がいた 
 ノートの落書き
 いつもそこに君がいた
 過ぎゆく時の中で
 あの時の仲間は今何を語ってるだろう

 人を殺した者の目には炎が宿る。
 素人には赤い大きな炎が。
 玄人には青白い小さな炎が。
 桜木には白い大きな炎が。

ン・モナムール

執筆の狙い

作者 中仁花生
bai1b7fb45e.bai.ne.jp

小説家を目指しています。今の自分のレベルがどのくらいのなのか確かめたく、本サイトに作品を掲載しました。
厳しい意見お待ちしております。良いところもたくさん書き込んでいただければ幸いでございます。

コメント

偏差値45
KD059132060231.au-net.ne.jp

>目的地のアパートは依頼主の話によるよ元々赤い壁だったそう
だが公害や自然災害によって汚く剥がれている。
誤字かな。

>中にいたのは覇気のない二十代前半の若者が二人。ドアを開け
た奴を含めて三人。ちょろいな。
状況描写と心理描写があるので改行した方がいいかも。

で、みずきが登場したあたりで挫折しました。

さて感想です。

冒頭で二人の会話があるのだけども、
僕はあまり記憶に留まらないですね。興味がないのかもしれない。
どちらが主役なのだろうか。感情移入ができない。
主役だけ心理描写を付していけばいいのかもしれないですね。
その上で一人だけ(主役だけ)スポットを浴びさせるようなエピソードが最初にあった方が
いいかもしれないですね。その方がキャラクターを深く認識していくので読みやすくなる可能性はありますね。分からないけど。
現状だと、僕は厳しい評価しか出来ないかな。
簡単に言えば、ノリの悪い作品ですね。全然、面白く感じない。
または、一人称で書いてもらった方が視点が定まるので、
ストーリー上、差し支えがなければその方がいい気がしますね。
たぶん、キャラクターごとの差別化かな。そこが重要な気がしますね。
とはいえ、三人称小説は僕は得意ではないので、
間違っているかもしれないのであしからず。

そうそう、最初の聖書のなんたらかんたら……。要らないかな。
あっても三行程に留めた方がいい気がしますね。
気の短い読者は、すぐに逃げてしまうからね。僕のように。

中仁花生
bai1b7fb45e.bai.ne.jp

偏差値45様

ご指摘どうもありがとうございました。
早速書き改めてみます。

一人称というのがどうも難しくて、キャラクターごとに視点が分散してしまいがちです。
そこが課題だとはわかっているのですが、一人を軸に回していくことが少し苦手です。
その点、少しアドバイスいただけないでしょうか。よろしくお願いいたします。

ぷりも
softbank001112121019.bbtec.net

拝読しました。
カウントしたら34,000字くらい。ここでは完読されないレベルです。
改行が独特ですね。字組しているわけでもなさそうですが、ちょっとスマホではみにくかったです。

語り手の言葉遣いがブレる印象。里中の一人称っぽくなったり、どこだったか、みずきみたいな言葉を使ったり。

誤字はそこまで多くないですが、ちょくちょくあります。

>両手で【手】を覆って泣き出した。
>レストランに【拍】がつく
>【変】えのシャツ

あと個人的に言葉のチョイスもちょいちょい気になるとこありました。どこだったかあんま覚えてないですが。

>学校の門の前には大きな梅の花と桜の花が咲いている。車道に
は桜の葉がたくさん落ちている。

学校の門は、校門でいいような。
梅の花と桜の花は、梅と桜の花か、単に梅と桜のほうがすっきりするような。

あと、桜の落葉は秋で梅と桜が咲いてる時期に葉がたくさん落ちていることはないですね。私みたいな人はそういうとこ気になってしまいますので。

ここも
>つまりいうならば殺しこそ良薬を作る材料にして一番の方法
ということになる。それでいくと殺し屋は薬剤師で、四五口径の
ピストルは薬局であるということだ。

薬局ではないような。私なら案ですが、

四五口径のピストルから放たれるのは文字通り”魔法の弾丸(理想的な薬)”ということだ

と医学用語にかけたり。


それと
>「どうしてだよ。今でも俺たちの顧客にとってマリファナは強力
な通貨だよ」

ここはおかしいですね。二人は殺し屋。顧客は殺しの依頼をする人で二人はその人たちからお金をもらう立場。
武器屋にマリファナで払うということなら顧客じゃないですし。

あと銃の名前や用語が飛び交うのはある程度ならプロっぽさの演出として良いですが知識のない読者にはそれだけ負担になるのでもう少し抑えた方がいいような。

桜木はプロ中のプロということだと思うんですが、武器屋の人に銃を投げつけるとこで安全装置をかけてないというのはちょっとあり得ないですね。


>まずは中橋運送の内通者」
「横田光敏ね」

中橋運送も横田も初見で置いてけぼりになりました。

結束バンドの謎が解消されず、依頼人の未亡人とのやりとりというか、ストーリーとして着地していないのが気になるところ。

みずきのキャラにもっと意味を持たせるといいような? ただの怯える少女は演技で、警視正の娘として裏任務を抱えてるとか。

高一で殺しのプロというのは創作ということで不問としたいと思いますが18才という設定は意図したものでしょうか。

苦言が多くなってしまいましたが、文章は読みやすいのと、桜木と里中のキャラ分けも考慮されているところが良いのでは。
あと、意図したものかわかりませんが

>里中幸助は顔をしかめながら自分より十センチほど高い桜木に
いう。

ここは160〜180cmのコンビかと思ったんですが、実はもっと大きい(強そう)というのが叙述トリック的で良いと思います。

ベースとしては悪くないと思います。
お疲れ様でした。

中仁花生
bai1b7fb45e.bai.ne.jp

ぷりも様、非常に詳しく、分かりやすい感想とご指摘ありがとうございました。
そうですね、>里中幸助は顔をしかめながら自分より十センチほど高い桜木に
いう。
ここは意図して書いた部分です。汲んでもらえて嬉しいです。ありがとうございます。
貴重なご指摘を元に、早速改良してみようと思います。 この度はありがとうございました。

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