作家でごはん!鍛練場
大歳士人

神物語 つまり私が本当の神様になった世界でのお話

第1章 魔法と剣の世界

   Ⅰ 想像の世界に降り立つ

 意識を漂わせる。ただ自由に——

 こうしていると想像の世界が広がる。うすぼんやりとした不安から解放される。ゆえに、この〈想像の世界〉では、すべてが自由だ。

 そう、私にとって。

 だからここでは私が〈創造神〉となる。ただ、語るだけでいい。この語りによって、私のリアルな意識世界が構築されていく。

 そうだ、私は私自身にたいして語ろう。それこそがまた自由の源でもあるのだから。私は誰にも支配されない。されていない。私の支配者はつねに私自身、自分自身である。

 さあ、これから、どこに行こうか——

 ふと見やると、草原の大地に人がいる。上空から私はそれを発見した。体格のよい男が二人と華奢な少女が一人。三人が歩いている。フード付きのマントで身をつつんでいる装いから察するに、旅をしているのか。

 しかしどうにも薄汚れている。長いこと旅をしてきたのだろうか。足取りはしっかりと力強いがどこか疲れているようすも垣間見える。

 私は先回りをして彼らがやってくるであろう場所に降り立った。その姿は、人の形。青年の〈器〉だ。麻の質素な衣をまとい、この世界のどこにでもいるふうの純朴な若い男の格好をした。

 この世界には男女の差はあっても人種の差はない。後天的に日に焼けていれば肌は黒くなっていくだろうし、そうでなければ青白くなる。勇ましければ骨格も太くなり、人によっては彫りが深く、または張り出してもくるだろうし、気が弱ければ平らな、貧弱な体つきにもなる。

 私はこれといった特徴のない中肉中背の見た目あまり強そうでない男の体をつくりあげた。相手の警戒心を解くためである。

 すでに私はこの世界の人間には〈魔力〉を与えていた。いや、それは、人間ばかりではない。この世の生きとし生けるものすべてにそのチャンスを与えておいた。

 うまく魔力を扱える者は知性や自由を勝ち取ることに成功しているようだった。

 たとえ腕力の劣る女性や子どもでも、魔力によっては屈強な男性と対等もしくはそれ以上に、戦える。筋力を鍛えるように魔力を鍛えれば、その体格差など容易に補える。ここはそんな世界となっていた。

 さっそく彼らは、かなり遠くから目視で私を発見し、〈探知〉の魔法を仕掛けてきた。

 魔力とは、生命体から発せられる〈意識〉そのものだ。それは人の目には見えない霧状のようなもので、その強さによっては、まるで生き物が這いずるが如く、どこまでも広がる。数百メートル先からそれが届いたということは、探知にかけては相当の使い手である。

 私はこちらの〈力〉を気取られぬよう、あふれんばかりの魔力を抑えていた。この〈器〉から外に広がっていかぬよう押しとどめて、そのあいだ、この空っぽの器の中に濃厚な意識を流し込みかき混ぜていた。

 そうやって〈記憶〉を捏造し、固有の人格を形成した。するとその記憶はすぐさまこの世界の時空をねじ曲げ、その瞬間に、この世界の事実となる。

 個々の放つ魔力には、個別の種は当然のこと、質の差もあった。いま探りを入れんがため、私の肉体にからみついている者の魔力は、とても良質なものであった。透明感がありほとんど気配を感じさせない。これならおいそれとは気づかれないであろう。私以外になら。

 良質の魔力を放つ者は善人である。意識に穢れがないから、それは透明感を保つことができる。そもそも魔力とは、魔の力であり、基本は、我欲、強欲、——ようはつまり、〈欲〉を満たすための野性的な生命力でもある。だからその力ゆえに、人は得てして、悪の道に走りやすい。

 「敵意はない」

 手のひらを見せるように彼らは右手を軽く挙げながら近寄ってきた。あいさつの仕草というより、武器を手にしていない、攻撃するつもりはない、という意思表示でもあるのだろう。

 二人の男は同時に手を挙げていたが、後ろの少女は、男たちの仕草に気づいて慌てて手を挙げた。私はマントをはおっていないので、まさに明らかな丸腰ではあったが、私もゆるりと右手を挙げた。すると、

 「近くに村か町があるのだろうか?」

 いかつい大男は聞いてきた。

 「あなた方はなんだろう? ただの旅人か、それとも、移民難民のたぐいか。もしくは、魔物を狩るハンター、冒険者か?」

 私はすべてを知っている。知っているうえでそう聞き返した。彼らがどう反応するのか、それを見るのは自分でも思いがけなく、想像以上に新鮮で、楽しいのだ。

 「ああ、我々は……」

 大男は言いよどみ、隣の背の高い男を一瞥してから、

 「移民だ。生活の拠点となる場所を探している」

 と、私の質問に答えた。

   Ⅱ 念話術を使いこなしている者たち

 彼らは私を発見してから、私のもとに来るまでのあいだ、〈念話術〉を使って会話をしていた。どうやら突っ立ったままの微動だにしない男を不審に思っていたようだ。

 念話術も魔力を利用したものである。発した魔力をからめあうことで、秘密裏に互いの脳内に声を響かせることができるのだ。

 もっとも魔力は目には見えない。だからそれを感覚的におこなう。難しくはない。相手を意識し、無言の声掛けをする感じだ。

 しかし、魔力をつなげることによって、知られたくない本音までも拾われてしまうことがある。魔力の強い者からはなかば強制的にプライベートな思考を探られたりすることさえある。それゆえに魔力操作に自信のない者、未熟な者は、とにかくいっさいを遮断する。魔力で安易に他者とつながることを拒む。

 また、念話術によって、一方的に話しかけることができても、相手側も意図的につなげていないとそれは周囲に漏れてしまう。つまり外部に漏れないよう魔力をつなげて会話をするのには、それなりの信頼関係が必要となってくる。

 私は〈探知〉の魔法で彼らの魔力によってとらえられたとき、気づかれぬよう彼らの魔力をからめとっていた。だから私には彼らの念話は丸聞こえだった。むろんこの世界でそんなことができるのは私くらいだから彼らもまったくの無警戒だった。

 (なんだ、あれは。ほんとうに生き物なのか)

 ガンゾーイがつぶやくようにいう。大男のガンゾーイの身長はゆうに2メートルはあり、元はリーダー格の勇ましい騎士団長であった。その顔や体格に似合わず繊細で、自制のきく心優しき人格者でもあった。

 (カカシではあるまい)

 隣を歩く魔導師のソニンが応える。彼も同じく背の高い男だ。ガタイはいいが、ただし肉付きの乏しい骨太の体躯だ。サイドシールドのある丸ぶちサングラスをかけ、日の光を極力避けていた。

 念話中は、念話をしていることを悟られないよう、素知らぬ顔をしているのがつねである。はたから見ると三人はただ歩いているようにしか見えない。

 (生きています。人間です。魔力はとらえきれないですが、悪意や悪感情といったものは感じ取れません)

 二人の後方をうつむきかげんに歩く少女ミリフィアが、自身の仕掛けた探知の魔法から、知り得た情報を伝える。

 (高度な魔力の使い手ならば、悪意を隠すことくらいたやすい)

 宮廷魔導師であり、ミリフィアの魔法の師でもあったソニンが、諭すように言い放つ。

 (相手の魔力を完全にとらえることができないのであれば、そういった判断は誤った先入観となっていずれ命取りとなる)

 (はい)

 焦ったミリフィアは即座に返事をした。

 ミリフィアは末娘の王女であった。だがそれは半年ほど前までの話だ。敵国(魔族が治める国)に攻められて王国が滅びてしまってからは、その身分には何の保障もない。ましてやまだ14歳の子どもだった。気丈にふるまってはいたが、いつ裏切るともしれない二人の従者に内心おびえていた。

 「ガンゾーイだ」

 「ソニン」

 「ミリフィア……」

 私を目の前にして察したのか、ガンゾーイが唐突に名乗り、二人があとにつづいた。名乗ることは一つの信頼の証となる。

 「私は——、アトマ。旅人だ」

 互いに名乗り合ったがその名前自体にはあまり意味がない。ただの〈通り名〉にすぎない。だから私はいっそのこと「悪魔」とでも言っておこうかと一瞬気まぐれを起こした。なぜなら地上に堕ちた神は、ややもすると、悪魔でしかないのだから。

 この世界には、真実の名前〈真名《まな》〉という概念がある。彼ら三人にもおのおの真名があった。しかし「真名を知られることは恐怖だ」というのがある。悪い魔法使いが真名を使って、自分のあずかり知らぬところで呪いをかける、という子ども向けの物語があるからだ。おとぎ話にすぎないのだがそこには道理があった。

 魔力は魔導具によって測定することができる。魔力には、それを構成する因子に個人特有の形状があり、それがまた一生涯、唯一無二のものであるため、誕生とともに識別番号が割り振られているようなものである。そこに真名を加えて登録すると、たとえば魔力の痕跡から、それを誰が使用したのかがわかってしまう。

 魔力と真名の登録は犯罪抑止につながる。ゆえに貴族社会ではそれが義務付けられていた。幼い時分にその王国の第三者機関である〈教会〉に登録される。

 この世界のおもな宗教は一神教であった。もちろん私とは関係がない。宗教は人々の信仰心によって勝手につくられていくものなのだから。

 私はガンゾーイの最初の質問に答えた。

 「——この近くに村はある。だけど、よそ者をひどく警戒しているし、あなた方の生活の拠点には、ならないだろう。あなた方は、戦士、だろう?」

 「たしかに我々は戦士だ。村や町の一つくらい守ることはできるぞ」

 ガンゾーイは胸を張ったが、大型の武器のたぐいは携えていない。

 「〈収納魔法〉かな?」

 私がそっけなく言うと、

 「貴殿もそうではないか?」

 ソニンが口をはさみ、つづける。

 「——まるで村人のようだ。しかし、いつでも武器は取り出せると?」

 「武器は持ってない。できれば戦いたくないし。ただ、そうやって警戒し敵意を向けられると、……どうしようか」

 私はソニンの物言いを不快に思い、その後、彼の体から漏れ出す魔力から悪意を感じとったこともあって、がぜん彼を痛めつけたくなった。

 見苦しく弁明すれば、このとき私が冷静さを欠いたのは、私自身この地への初めての降臨にやはり少なからず気分が高揚していたからかもしれない。

   Ⅲ 魔眼の魔導師の挑発

 敵意は漏れる、——というのは、闘争心とともに全身から魔力があふれ出し、わずかではあるが、制御できずにいる悪意のある魔力が、無意識に漏れ出してしまうからだ。

 もとより魔物が跋扈するこの世界では、都市や集落を出て野を歩く者はみな全身に魔力をまとっている。魔力をまとうことで、それが身体を守るバンパーやクッションといったものになる。

 そのため突然の襲撃や猛攻からも身を守ることができ、そのおかげで、もし一定以上の魔力さえあれば、安心して大陸間をも渡り歩くことができるのだ。

 個人的なスキルや体力、たとえば魔力制御や魔力量、そして魔力の強さによっても差が出るが、基本的に魔力をまとっていると、吹き飛ばされて激しく大地に体を打ちつけることになっても、怪我ひとつしない。

 むろん衝撃やそれにともなう精神的ダメージは負う。が、たとえ銃で撃たれても痛みを覚えるだけで、弾が肉体を貫通することはない。致命傷にはならないのだ。

 「待て待て。我々には敵意がない」

 ガンゾーイが声を上げる。それからやや威厳をもって、

 「彼の態度を不愉快に思われたのなら謝罪しよう」

 しかし当の本人、ソニンは、じっとこちらを見ているだけであった。——いや、挑発もしくは脅しのためか、私に向かってなおも殺気を出している。黒眼鏡で視線がどこにあるのかわからないが、私を小者扱いしているのが見てとれた。

 ——ああ、魔眼か。

 私はソニンの強気の理由に勘づいた。

 狂人的な魔導師のなかには、片方の眼球をえぐり出し、魔眼を埋め込む者がいる。魔眼は高性能な魔導具の一種で、本来なら見えないはずの魔力が見える。擬似的に色をつけて魔力を可視化することができるのだ。

 だがまあ、しかし、ほとんどが黒色の闇。しょせん作り物の魔眼では視覚的な濃淡しか判別できない。だから見誤る。

 ソニンの了見は、私のまとっている魔力から私の能力を測り、「取るに足らない者」として、このへんに住む者たちがいったいどういった戦い方をするのか、——ちょいと腕試しでもしてみよう、といったところか。笑える。

 「貴殿の強さを知りたい。どれほどのものか……」

 ソニンが、ガンゾーイの言ったことなど無視して、小声でつぶやく。

 彼が小声にしたのは、私に戦いの意志がなければたんなる弱い者いじめになってしまうため、私に選択権を与えたのだろう。自信もなく戦いたくなければ聞こえないふりでもして話題を変え、へつらうような態度をとればいい、と。

 魔力に依拠しているこの世界においては、魔力を測ることでその者の性格も性質も、はたまたその生活や人生観といったものさえも、おおよそ推し量れる。それゆえに他人の魔力を見ることのできるソニンには、確固たる自信があり、選民意識にあふれている。

 それで、どうやら自分に物怖じしない平民というものがお気に召さないらしい。魔力に関していえば、総じて平民は、貴族より劣る。というよりも逆に、魔力レベルが特別に高い血統だからこそ貴族になれる、といったほうが話は早いか。

 私が見たところ、ソニンの魔力の強さからは、彼がこれまで一度も戦闘で負けたことがないことがうかがえた。それは魔力の様相から判断できる。傲慢な態度ではあったが、きれいすぎる。まだ負けを知らない、本当の悔しさを知らない、大人の、純真さ、稚拙さといったものがそこにはあった。

 だからこそ彼は、私と戦っても万が一にも負けることはない、と確信しているのだろう。まぬけな勘違いをしてるのだろう。——この愚か者が。

 まあそんなソニンを痛めつけてやろうというのは、私が神ゆえの、戒めの感情か。いや、違う。そうではない。理由がなんであれ、もしもこれが〈感情〉といったものであるならば、私は悪魔だ。悪魔に支配されている。

 ——だが、そうだ、違う。感情ではなく、ただの〈戒め〉だ。これは彼をおもんぱかってのこと。

 (ソニン、自重しろ。よけいな揉め事を起こすな)

 念話で釘を刺すガンゾーイの声が聞こえてきた。だがソニンは、

 (こやつは平民だ。見たところ、魔力レベルもせいぜい並程度にすぎん。これはたんなるお遊びだよ。はなから勝負にはならん。——魔力を見ると、そうだな、強者と戦ったことがない、といえるだろう。だから強者に対しへりくだることを知らぬ)

 (魔眼でそんなこともわかるのか?)

 ガンゾーイはソニンが魔眼の持ち主だということは知っていたが、その能力については半信半疑だった。

 (——ああ、魔力の影が薄い。幼い貴族の子どものようだ。ま、平民にしてはいいほうだろうが、まったく恐るるに足りんよ。それに、このあたりの情報を聞き出すうえでも、ここは多少脅しておいたほうのがよい。だいたい我々を舐めきっているこやつの態度が許せぬ。この村人風情が)

 (なにをバカな! ここは王国とは違う。大陸を越えてきたんだ。おまえのことを知らなくて当然だし、ここでは一般的な応対だろ。縁もゆかりもない、平民を従わせようとする我々貴族の感覚がおかしいのだ)

 じつにうまいものだ。まったく表情に出さず彼らは感情的に念話をしている。半年もの旅のあいだずっと念話で会話をし、訓練に訓練を重ねてきたのだろうか。

 ——と、隙をついてミリフィアが私に〈拘束魔法〉を仕掛けてきた。

 私のまわりに魔力を張り巡らせる。ある程度距離をおくことで、まだ私の体や私のこの体の表層的な魔力にも触れてはいない。が、なにかことがあれば、これで彼女はいつでも私を拘束できる状態にある。彼女の性格からして、ソニンと私が対決になった場合の「念の為」だろう。

 ——しかし! 私はミリフィアの目前に〈縮地〉し、彼女の腹に拳を打ちつけるようにして彼女の体を後方へと吹き飛ばしてやる。殴打ではなく正確には〈風魔法〉だ。

 マントにつつまれたミリフィアの体がふわり浮き上がり、7〜8メートル勢いよく飛んで、地面に転がった。彼らにとってはまさにあっという間に。

 「——おっ、おい! おまえ、なにをォ!」

 ガンゾーイは私がミリフィアを殴り飛ばしたと見るやいなや大声を張り上げた。

 彼はすかさず戦闘モードに入る。その手には大剣が握られていた。それは彼自身の〈収納魔法〉によって亜空間に仕舞われていた〈ミスリルの剣〉であった。

   Ⅳ ミスリルの剣を恐れる理由

 魔力をまとった魔物や敵を倒すには、〈魔力を帯びた武器〉が必要となってくる。端的にいえば〈ミスリルの剣〉には、殺傷能力がある。

 もしもそれが国宝級のものであろうものなら、非常に強固な魔力をまとった〈無敵の人〉でさえ一刀で殺めることができる。

 むろん魔力を通す〈魔鉱石〉でつくられたこの世界の一般的な武器にも殺傷能力はあるが、その性能はミスリルと比べると格段に低い。

 いや、ミスリルがあまりにも特別だった。

 ミスリルの剣は、魔力を込めれば込めるほど攻撃力が上がり、またひとたび魔力を帯びるとその持続時間が年単位と長いため「世界最強の武器」と称されていた。

 さらにミスリルの純度が高くなればなるほど、使い手の能力値も向上するという不可解な特性をももつ。それゆえもしも競売に出されたならば、その希少価値も相まって、天井知らずの落札価格にもなるだろう。

 そんなミスリルの剣——それも大剣をもち、ガンゾーイが、構えている。

 これが国宝級とまではわからないとしても、尋常ならざる禍々しさから、平民でも察しがつくかもしれない、とガンゾーイは考える。

 つまりあれは、私にたいしてへの、彼流の脅しであり、警告だ。よほど戦いたくないのだろう。いや、ソニンに、私と戦わせたくないのだろう。

 この世界には魔力があるためか、みな野に出るとやたら好戦的になる。戦いたくてしょうがないある種の高揚感と解放感にとらわれる。そう、それは魔力による業《ごう》の影響でもある。

 そして手練れともなると、あまりにも魔力が万能であるため、無意識のうちに「魔力をまとってさえいれば命に関わることはない」と決め込んで、さらに気が大きくなる。

 だがしかし、ミスリルの剣とわかるものを向けられると、たいていは緊張感が走り、冷や汗がでる。

 (ガンゾーイ。なぜその剣を出した?)

 ソニンがガンゾーイに念話で話しかける。

 (そんなもの最初から出したら、平民がビビってしまって勝負にならないだろうが)

 (戦わないで済むのならそれに越したことはない)

 ガンゾーイは私をにらみつけながら念話でソニンに答える。

 (とことん甘い奴だ)

 ソニンが呆れたように返す。

 (いや甘いのは、おまえのほうかもしれんぞ。先ほどの彼の〈縮地〉、私には見えなかった。あれは——)

 (——念話に気を取られていたからであろう)

 話し終わらないうちに言葉をかぶせたソニンの言葉には怒気が感じられる。

 「ではこれは戦闘開始の合図だと見ていいな!」

 ソニンが、平静を装いながら一歩踏み出し、私に向かって声を張り上げた。

 「かまわないが、先に仕掛けてきたのは、そっちだから」

 「なに? どういうことだ!」

 ガンゾーイは問うたが、すぐにはっと気づいてミリフィアに視線を移す。

 (すみません……)

 立ちあがろうとしているミリフィアの念話が脳裏に響く。

 (さきほどあの者の周囲に〈拘束魔法〉を仕掛けました)

 (へたくそが)

 とソニン。

 「——いや、もし先に仕掛けたのなら、ミリフィアが悪い」

 ガンゾーイはそれを声に出して言った。が、

 「それでは、ひとつ、手合わせを願おうか」

 そう言いながらソニンは私に顔を向け、ニヤつく。

 「やめろ! ソニン!」

 ガンゾーイが怒鳴り、さっとあいだに入る。私に背を向けて、ソニンの前に立ちはだかった。

 そのとき私はふと(神様助けてください)という小さなつぶやきを拾った。「神」というので、自分にたいしてのことかと一瞬勘違いしたが、違った。ミリフィアが、ただ心の奥深くで念仏のように何度もくり返している。

 (神様助けてください神様助けてください神様助けてください……)

 それは、ガンゾーイやソニンには聞こえていない。

 (いちいちわずらわしいやつめ。いいかげんこいつとも手を切るべきか)

 というソニンの、ガンゾーイへ向けた本音のほうが大きかった。もちろんそれもほかの二人には聞こえていない。私だからこそ聞き取れ、読み取れる次元のものであった。

 (私は本気だ、ソニン)

 ふたたび念話が始まった。ガンゾーイはソニンに対峙しながら、

 (彼は強い。たぶん我々と同じく上級戦士だ。だから負けないことはあっても勝つことはできないだろう)

 (ハッ、なにを呆けたことを——)

 ソニンはいったん脱力してから、

 (——言うに事欠いて、ハッハハハ、平民の上級戦士ってか! あやつの魔力は、まだ実戦経験すらないようなレベルだ。戦わずして上級戦士になれるとは、それはそれは、恐れ入る!)

 (それだ、ソニン。おまえには魔力が見えるから、おまえは、魔力しか見ていない——。な……なにか、見逃してないか……)

 ガンゾーイは冷や汗を滲ませながら、まるで自分に言い聞かせるように話す。

 きっとガンゾーイ自身にも確信はなかったが、強者なりに私になにか感じるものがあったのだろう。私としては、そのこと、ガンゾーイに少しでも勘づかれたことに、こちらの負けを感じさせられていた。

 (いいか、彼は、ミリフィアの拘束魔法を事前に見破り、一瞬にして相手の懐に入ることができる得体の知れない奴だ。それに、荒くれ者ではないんだ。非はこちらにある——あった。そしてなによりミスリルの剣にもまったく動じていない。見てろ——)

 背を向けていたガンゾーイが振り返り、

 「アトマ……といったかな。君にはこれが何かわかるか?」

 片手で真上から大仰に大剣を振り下ろし、刃先を私の胸元に、ぴたりと止める。

 「ミスリルだろ?」

 私は平然と答える。

 「(ビビらないか)——ああ、国宝級の代物だ。ちょっと振ってみるかい?」

 ガンゾーイは剣の柄を下から押し上げるようにして、いかにも重そうな剣を私に向かって放り投げた。

 それを私は片手でつかみ取り、腕を引っ張られてややバランスを崩し、大剣の重みを感じとり、やや体を傾ける。

 その後、すぐに重さに慣れたふりをしてから、両手持ちをし、格好をつけながら、しばらく適当に振り回す。

 「こんなものを振り回していたら、何かを斬りたくなってくるのもわかるな」

 いちど止める。

 剣の重心にブレはない。良品。また振り回しながら、

 「勘違いをして、いますぐにでも天下を獲れるような気分にもなってくる」

 そう言いながらそのうちにわずかに脚をふらつかせる。

 で、もう十分と、頃合いを見て私は、離れた位置にいるミリフィアに向かって、思わせぶりに剣を振り止めた。

 剣先越しに、彼女を見た。彼女はおびえてはいない。意に介するそぶりすら見せない。無表情。ただ相変わらず心の奥底で静かに(神様助けてください神様助けてください)をくり返している。

 なかば無意識の独り言、いや念仏か、あれは。もはや私の興味はソニンではなくミリフィアへと移っていた。

   Ⅴ 身体強化と連続魔法について

 ガンゾーイが私に大剣を放り投げた瞬間、ソニンは心臓が止まってしまうと思えるほどに驚愕していた。それで、私が剣を振っているあいだ、ガンゾーイとソニンは激しい念話のやり取りをしていた。

 (どうだ、驚いたか!)

 ガンゾーイは大きく念話を飛ばす。その声は興奮のあまりうわずっていた。が、やや落ち着き、

 (——しかし、こうもやすやすと俺の大剣を使いこなすとは……。凡庸な平民には無理だろ? やはりな、奴はな、正体を隠しているんだ)

 (ま、まぬけがっ。驚いたのは、貴様が奴にミスリルの剣を渡したことだ! もしあの刃がこちらに向かってきたら我々は大怪我じゃ済まないんだぞ!)

 言いながらソニンは前のめりで、ミスリルの剣を振り回している私の動きを凝視している。魔眼で私の魔力の流れを見逃さないよう必死になっていたのだ。

 (いやまさに、おまえが彼に戦いを挑むということは、そういうことなんだよ)

 ガンゾーイ自身、最初はソニンを止めるための方便でもあったが自慢げに、

 (——魔眼がなくともわかる。彼の動きはいたずらに〈身体強化〉に頼ったものではない。なにより彼は剣に彼自身の魔力を込めて振っているわけでもない。そんなことをしたら私の剣に激しくはじかれるからな。魔力を帯びている私のミスリルの剣に、だ)

 (なにをおめでたいことを!)

 ソニンは口惜しそうに、

 (こっちは能天気なおまえのせいで——)

 (そんなに心配する必要はない)

 ガンゾーイはまた自分にも言い聞かせるように言葉をつなげる。

 (ミリフィアが最初に探知した通り、彼には悪意や悪感情といったものがない。それに、あの剣がなくても強いんだよ、彼は。へたをすれば私たちより……)

 (——ふざけるな!)

 勝手なことをぬかすガンゾーイにソニンは腹が立つ。

 (いや、ふざけていない……。はじめは脅すつもりでミスリルを出したが、彼に向けて剣を構えたとき、正直、俺自身がぞっとした。奴からは殺気すら感じられないのにだ。それで確信したんだ。彼との戦闘は避けるべきだと)

 ミリフィアは、ガンゾーイより、狼狽したままのソニンの横顔を覗き見た。そして何かを察してか、口を挟む。

 (——殴り飛ばされましたが、痛みは残ってません。私は……そんなに強いとは思えません)

 (そうだ)

 ソニンは答え、すぐに、

 (ガンゾーイの買いかぶりだ)

 と鼻で笑い、背筋を伸ばした。晴れやかな気分になる。 

 そのときソニンは、ミリフィアの言葉に気分をよくしたのではなく、大剣を振る私の脚がわずかにふらついたのを見てとったのだ。

 が、ソニンは同時にいぶかり、考える——。奴は拳闘士というやつか……。武器を持ってないと言っていたし、剣に魔力を込めることすらできていない……。ガンゾーイのいうとおり、ミスリルの剣にはじかれていないから、それは間違いないだろう。能力を偽るために、さしずめ筋力のみを身体強化した武闘家のたぐいか。武闘家……あやつらの戦闘スタイルは……体の内側に魔力を溜め、それを瞬間的に殴打とともに放つタイプ……だったな。

 ——それに見たところ魔力は強くはない。よくいるスピード重視タイプ、なのか。必死で隠しているのだろうが、先ほどから目に見えて足元がふらつきだした。そうだ、奴の殴打はミリフィアにも効いてなかったんだ。これなら楽に勝てる。——しかしではなぜ、ガンゾーイはそれほどまでに奴を恐れる? 剣士ならば、奴みたいなのが戦士としては、いちばん非力なことくらいわかりそうなものだろ。

 ガンゾーイは、ソニンへの念話を外し、ミリフィアだけに語りかけていた。

 (痛みは残ってないと言ったが、彼に腹を殴られたのか? もしかしたら、殴られたのではなく、風魔法じゃなかったか?)

 (——えっ、あ、そういえば……、いえ、わかりません)

 しかしミリフィアは自分の体を見て、

 (そういえばたしかに殴られたような衝撃は、なかったです)

 そう答えながらも、詠唱なしに魔法なんてあり得ないと決めつけていたので、はっとする。風魔法で吹き飛ばされたのなら痛みがなくて当然だ。

 さらにガンゾーイは、

 (もし風魔法だったら、連続して魔法を使っていることになる。あの〈縮地〉は、魔力による身体強化というより、〈転移魔法〉じゃないか? 私には彼の移動の軌跡が見えなかった。もし魔法なら、そんなことが可能だと思うか?)

 ミリフィアは考え込む。〈縮地〉とは一瞬にして相手との距離を縮める行為だ。縮め方には二通りある。魔力によって自己の筋力を寸時に限界まで高めての高速移動。そしてもう一つは、魔法による瞬間移動、つまり〈転移〉の魔法。

 (転移魔法というのなら、無理です。通常、短いあいだに連続して魔法は使えません。そもそも〈詠唱をしない魔法〉自体が難しいんです。それができないと瞬時に連続して魔法なんて、絶対にできません)

 (無詠唱というやつか。ソニンにならできるか?)

 ミリフィアは沈黙のあと、

 (わかりません。いえ、でもあんなに早くはできないと思います。あ、いえ。私がソニンの連続魔法をまだ見せてもらってないだけかもしれません)

 ミリフィアは、たしかに瞬く間の出来事だった、と思い出す。目の前にあの者の顔があったと気づいたら自分の体は宙を舞っていた。

 (——ほんとうに転移魔法と風魔法だったのでしょうか?)

 (戦士である私には魔法のことは詳しくわからない。むろん物理的な移動だったなら絶対に見落とすはずがないんだが……。しかし、なんにしろ、相手の懐に瞬間移動できて、間髪入れずに魔法が使えるとしたら……我々には、なすすべがないだろう。まあ、死にはしないだろうが……。あ、これはソニンには黙っててくれ。いろいろと意地になるだろうからな)

   Ⅵ 世界の理と婚姻のススメ

 ——魔法では死にはしない。そう、魔力を扱える者は〈魔力をまとう〉こと、つまり自身の地肌から放出される魔力で全身をつつみ込むことによって、ほとんどの攻撃魔法にたいして耐性をもち、相手の魔法攻撃だけで事尽きてしまうことはない。

 むろん、魔力の強い魔法の使い手は、攻撃対象者に著しい衝撃を与え、戦意喪失などの精神的なダメージをもってして相手を屈服させることができるし、究極的には相手の意識を飛ばし、戦闘不能にすることも可能だ。が、それだけだ。

 人間にしろ、魔物にしろ、魔力をまとっているものを死に至らしめるには、まとった魔力を打ち消すほどの〈魔力を帯びた剣〉が必要となってくる。

 すなわち、剣によって、命を断つ。これがこの世界——魔法と剣の世界——の理《ことわり》である。

 ミリフィアは秘密裏に仕掛けた自分の拘束魔法がバレたことにも驚いていた。戦闘訓練は数えるほどだったが、いままで一度たりとも気づかれたことはなかった。本気でやれば魔法の師でもあるソニンにすら見抜かれることはなかったのだ。——それが、どうしてバレたのだろう? やっぱり自分は使えない人間なんだ、と自己嫌悪に陥る。

 (なにをコソコソとやっている!)

 ソニンが強引に二人の念話の中に入ってくる。二人が自分を外して念話をしていたことに気づき腹を立てていた。すかさずガンゾーイが、

 (——俺がミリフィアに絶対に戦うなと注意をした。ソニン、おまえが戦おうとしたら私たち二人が全力で止めることになる)

 (よけいなことを……)

 そのソニンの声のトーンからは、どこか嫉妬染みた感情が読み取れた。ソニンは戦いを止められたことよりも、自分がのけ者にされたことに、いたく傷ついていたようだった。そして小さく、

 「……俺がミリフィアに……か……」

 声にしてつぶやく。

 (なんだ?)

 ガンゾーイがそう聞いた刹那、しかしソニンの脳裏には一つの奸計がひらめいた。それですぐさま、

 (ガンゾーイ。——それほどまでに、奴が恐い、いや、強いと?)

 厳しく冷たい口調で問いただした。

 (あ、ああ。絶対に戦いたくない。なんなら死を覚悟しなければならないほどだからな)

 (この私でもか?)

 (ああ、そうだ。彼は強い)

 (——っはは……)

 ソニンは堪えようとしていたが、あまりにも自信たっぷりにいうガンゾーイの醸し出す場の緊張感が、しらじらしく思えて、抑えきれなかった。

 (おい、ガンゾーイ。確認のためにもう一度聞く。誓え。嘘はつくな。——奴は、おまえよりも強いのか?)

 (そうだ。彼は私よりも強い。誓う。何度でも誓ってやるぞ)

 ガンゾーイは、ソニンに眼差しを向けながら、自身の胸に手をおく。

 ガンゾーイの誓いのポーズにうなずいたあと、ソニンの態度は一変する。剣を振り終えた私のもとへと恭しく歩み寄ってくると、かぶりを下げた。

 「申し訳なかった。国宝級のミスリルの大剣を、そうもいともたやすく扱えるとは。いやはやお見それした。もしや貴殿もどこぞの高貴な貴族なのではないのだろうか? それで身分を隠して旅をしておられるのでは? たとえばお相手を探して——」

 ソニンの物言いは私にはあからさまな演技に見えていた。が、ほかの二人も、ソニン同様、私にたいして真面目に対応している、と決め込んでいる。

 「ならば、ここにいる、我らが仕えていた王国の姫、王女ミリフィアはどうだろう。貴殿の花嫁として迎え入れてはくれまいか」

 「ソニン! おい! なにを馬鹿なことを言っている! ——おまえっ、気でも狂ったか!」

 突然、ガンゾーイががなり立てて狼狽する。

 が、ソニンはそれにはお構いなしに私に、

 「もちろん花嫁といってもすぐにではない。ミリフィアは14歳のまだ子どもだ。成人の儀までは婚姻を待ってほしい」

 慇懃ではあるが、黒眼鏡の奥でソニンの目が笑っている。私にはそれがわかる。

 「待て待て。勝手なことはさせないぞ、ソニン! ほんとうにおまえ、自分が何を言っているのかわかっているのか!」

 ガンゾーイを完全に無視してソニンは私の返答を待っているようなので、私はしかたなく軽い気持ちで、

 「まあ、いいけど、王女ミリフィアの気持ちはどうでもいいのかな?」

 そう言ってから私はすぐに察した。この世界の彼らにはまだ個人の恋愛感情といった価値観はないのかもしれないと。とくに王族にいたっては、王家や王族の血脈を維持するのが最優先。そこには魔力に長けた一族の強固なつながりがあるだけだ。

 「ハッハ。そこまでの心遣い、痛み入る。しかしこちらのガンゾーイは他人の能力を見抜くことにかけては天下一品。そして、このわが王国の騎士団長ガンゾーイによると、貴殿には何かしらのやむにやまれぬ事情があって、韜晦しておられるだけとのこと。ならば安心してミリフィアを任せられる。そうだろう? ガンゾーイ」

 「な、何を……」

 ——いや、しかし、たしかに自分はソニンにはそう告げていたと、ガンゾーイは思い起こす。戦闘を止めたい一心ではあったが、あやつは凡庸な平民ではなく正体を隠している、と。が、はっとして、

 「いや、——そうか、ソニン! これは意趣返しか! 俺に当てつけているのだろう!」

 なんのことだと言わんばかりにソニンはわざとらしく肩をすくめる。

 ガンゾーイにはソニンの行為が、自分を恨んでのことだと思われた。断りもなく勝手にミスリルの剣を相手に手渡し、恐怖に陥れたその仕返しに、勝手にミリフィアを相手に授けると言っているのだ、と。

   Ⅶ 成人の儀と人間の寿命

 実際のところ私は「花嫁」と聞いて、内心ワクワクとしており、それが自分でも存外だった。創り上げた世界の人間に恋をすることなどあり得ないし、端っからそんな関係は不毛と心得ている。

 だからいま私が衝撃的にミリフィアに対し恋に落ちたというわけでもないし、これから邪な気持ちで彼女に何かをしようというつもりも絶無だった。だいたい神は人間などに恋をしないものだ。

 ——だがふと思う。ただし、私が自覚のないままに悪魔と化していたなら、話は別なのかもしれない、と。

 ガンゾーイとソニンは私から離れたところで何やら言い争いをしていた。話の内容はおおよそ見当がつく。なので私は、私と目を合わせたくないためか、突っ立ったままそっぽを向いているミリフィアのところに歩を進める。

 「君はいいの? 嫌じゃないのかな? これから花嫁になるために売られるんだ。まるで物や家畜みたいに」

 私の声を聞いてようやくミリフィアは私に顔を向けるも、私の真意がわからないといったようすでキョトンとしていた。

 「あ、自分がないのか……。——いや、そうか。じゃ、いま、どんな気持ち?」

 「…………。気持ちと言われても……。とくに何も。もしそう決まったのなら、あなたのところに行くってことになるだけですよね? あなたはこの国の貴族なのですか?」

 「いや、ま、なんというか、それは教えられないけど。——あ、そうだ、もし僕が貴族じゃないとしたら、どうする? どんな気持ちになる?」

 「私は、私自身がもう王族ではありませんので……。国が魔族に攻められて、たぶんいまはもう滅んでいますから」

 「へえ、そうなんだ。そっか……、けど、王族の血を引く者であることには変わらないだろ? なぜ王族や貴族が高い地位にあるのかわかる?」

 「平民より圧倒的に魔力を使いこなせるから。我々は神に選ばれし存在。ソニンがよく言ってました」

 「なら——」

 「——そういうの関係ないんです。私の魔力は最弱でしたから。だから私は一度も戦いに参加できず、ここまで逃げてきました。けど兄や姉たちは……」

 そういうことか、と、私は即座に理解する。度重なる魔族との抗戦において、ミリフィアを逃す時のために、みんなして幼い頃からミリフィアに「おまえの魔力は最弱」と思い込ませていたのだと。

 が、実態は、彼女、ミリフィアは、とんでもない魔力量と強い魔力の持ち主である。私も無意識だったがその魔力に導かれてここに降臨したといってもいい。

 そのうちにソニンがうつむいたガンゾーイを従えるようにやって来た。

 「ミリフィア。ガンゾーイも納得した」

 ソニンがそう言うとミリフィアは返事もせずに、ただうなずいた。

 「ああ、ところでアトマ。貴殿の年齢は? もう成人の儀は済ませてあるのだろう?」

 ソニンがやっと私の存在に気づいたていで聞く。

 「25。成人の儀は済ませたばかりだ」

 「ほう、ずいぶんと幼く、いや若く見えるな……」

 ソニンは私を見て言ってはいたが、そのときもどこか心あらずだった。他人に興味はなく、私にたいしてもあまり重要視していないのだろう。

 「……成人の儀が25歳とは——。この国の人間の寿命は120歳か……」

 ソニンがつぶやく。

 「なに? それは本当か?」

 ガンゾーイがその話に飛びつく。

 「——いや、待て待て。そうであるならば、そうだな、婚姻は48歳までとなるのか? 私はいま37だが、それならまだあと11年あることになる」

 この世界では魔力〈回復魔法〉で病気を治癒できるため、人間の限界寿命が長くなる。その寿命を基準として5つに区分して、下から、少年期、青年期、中年期、高年期、老年期、となる。

 成人の儀は青年期の始まりの年に行われるため、その一年前が一つの期間の長さになる。つまり成人の儀が25歳だと、一つの区切りは24年となり、その5倍がだいたいの寿命だ。

 「ミリフィアの国では成人の儀はいつだった?」

 私はミリフィアに聞く。

 ミリフィは視線を返しただけで、代わりにガンゾーイがやや興奮気味に答える。

 「——19だ。だから人の寿命は90だった。適齢期は36歳までとされていた」

 「その適齢期というのは、青年期のことかな?」

 私は問う。

 「ああ、そうだ。通常はそれまでに相手を見つけて婚姻をしなければならない。この国では違うのか?」

 「まあ、義務や強制ではないけれど、肉体的に望ましい期間ではあるだろうね」

 「ガンゾーイ。おまえが48歳になる頃にはミリフィアは25歳になる。ちょうどこの土地の成人の儀をする年齢だ。猶予はその時の1年。おまえがミリフィアに自分の子を産ませるのはどだい無理な話だ」

 ソニンが冷笑する。

 「なにを馬鹿なことを言ってるんだ!」

 大男のガンゾーイが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 「馬鹿なことではない。先ほどの話と同じだ。かりに適齢期が伸びたとて、おまえがいつまでもミリフィアの面倒を見るという訳にもいかないのだよ。ミリフィアにはおまえより強い男、それもおまえより若い男に任せたほうのがよい」

 私はすべてを察した。ソニンの歳は31。故国にいたら5年後ミリフィアが成人の儀を迎える頃には自分が青年期の終わりの年齢となる。それはミリフィアを得るには、体裁的に不都合ではある。とくにプライドの高いソニンにとっては。

 ようするにソニンは知っていたのだ。大陸を超えたところには長寿の国があると。だからここまでやってきたのだ。

   Ⅷ ガンゾーイの剣技

 言うまでもなく、場所を移したからといってすぐに寿命が伸びるわけではない。その土地の環境で長いこと生活をし、慢性的なストレスを緩和していくことによって、徐々に変化が訪れる。

 しかしそれ以上に、年齢にたいする意識の変革が、長寿となるためのいちばんの肝となる。

 そもそも形式的な成人の儀によって、婚姻や出産が許されるという法や年齢制限といったものがあるわけでもなく、寿命が伸びてくると人々の意識も変わり、世の中全体が、しぜんとそういう傾向になるというだけの話にすぎない。が、現実に子を授かるには適齢期がある。

 「それでは、あの林の付近まで行ってはくれないか」

 ガンゾーイが私に言い、みなを誘導する。

 なぜだかガンゾーイが自身の剣技を見せることとなり、私はおとなしくガンゾーイのあとをついて歩く。

 この茶番の原因は、ミリフィアを私に任せることへの、ガンゾーイの不安の解消、というよりかは、ようは彼自身の力の誇示なのだろう。一縷の望みであったが、私に自分の力を見せることで、私の気の変わることを期待している。

 「あのあたりまで行ってくれ」

 ガンゾーイは立ち止まって、私に先に行くよううながす。

 私は10メートルほど歩き振り返った。すると腰を低く落としガンゾーイがいままさに剣を真横から振らんとして、ミスリルの大剣を後ろに引いた構えで、全身に並々ならぬ魔力をたぎらせている。

 魔力を可視化できるソニンの眼なら、その尋常ではない威圧に気づくのであろうと、目をやると、彼はのんきに餞別の品をミリフィアに手渡している最中だった。

 首飾りのような物であろうか。ガンゾーイの真後ろからやや離れた位置にいたので、ガンゾーイの体が邪魔となって視覚ではとらえきれなかった。が、——まあ、それが何であったにしろ、どうやら、ソニンやミリフィアにとって、このガンゾーイの魔力のお披露目は珍しいものでもないらしい。

 「ゆくぞ!」

 ——と、ガンゾーイが私に向かって剣を大きく、水平に、真一文字に、振る。

 一瞬にして大気が乱れ、風が吹く——

 激しい風音と風圧で、それだけで足腰の弱い者なら転げ回りそうだ。

 私の髪や衣服が風になびき終わる頃に、私の後方で木々の倒れる大きな音、地響きがした。

 どうだ、と言わんばかりにガンゾーイが歩み寄ってくる。驚いて見せるか、それとも偽りなく平然としたものか迷っていると、

 「これさえあれば魔法なんか必要ないだろ」

 とガンゾーイが、白い歯を見せ、破顔する。

 この男、意外と単純で、自分がなぜ剣技を披露したのかも忘れて得意になっている。

 「殺傷力はあるのかい?」

 私は親指を立てて、後方を指し示すように腕を上げた。そのまま見ずに、

 「後ろの倒れた木は魔力をまとってないけど?」

 「ああ、鋭利な魔力の刃が大木を両断したんだ。——あ、いや、むろん魔力をまとった者の体を切断するのだったら難しい。だが、深く切り込んだ衝撃波は骨にまで届く。魔族といえどそれでほとんどが戦闘不能だ」

 「一振りで薙ぎ倒したんだろ? 攻撃対象を選べるのかな?」

 私は知っていて問う。

 「ああ、そうだ。対象を選べる。アトマをあいだに立たせたのは、それも感じてもらいたかったからだ。これは私が上級戦士だからできると言ってもいいだろう。まず剣によって魔力を飛ばすことは訓練をすれば誰にでもできることかもしれないが、その威力も距離によって異なる。魔力は距離があればあるほど、その力は格段に弱まるからな」

 数十メートル先の木々を倒した自分の魔力は相当なもの、ということらしい。

 「そして、攻撃対象を選べるのは、スキルによるものだ。まあ半分はこのミスリルの剣のおかげでもあるのだが、狙ったところ、もしくは外したいところをのぞいて、魔力の刃を飛ばせる。それも一振りのうちにだ」

 いきなりガンゾーイは、また私にミスリルの大剣を放り投げてきた。笑みをこぼしながら。

 私にもやって見せろということだろうが、この人間関係の距離の詰め方に乗ってしまうと、神としては、あとが面倒くさい気がした。

 ガンゾーイは情誼に厚い。ミリフィアにたいする思いも子どもっぽい恋心といったものではなく、じつに大人らしい、庇護者としての純粋な愛情からだろう。彼は、元騎士団長として紳士的で礼儀正しい面もあるが、根っこでは儀礼的なものを嫌い、青くさい友情といったものがたいへん好きそうだ。

 「このあたりでは上級戦士とは呼ばず、まあまれにだけど、上級冒険者という言い方があるかな。戦争もなく、都市が魔族に襲われるといったこともないからだろうけどね。ただし——、上級というのは伝説だ。自称しないほうがいいよ。でもま、上級は上級で同じ意味かな」

 私は言いながらどうすべきか考える。考えているとガンゾーイが問う。

 「そうか。そういや冒険者には、冒険者のランク付けがあると聞く。私のランクはどんなものだ?」

 「冒険者のランクなんてせいぜい中級レベルの話だよ。冒険者ギルドにもよるけど、だいたいがAからFまでかな。上級は……そうだな、特別にSランクなんて呼ばれている。想定外だから正しく裁定もできない」

 ——やるべきことは決まった。

 「明らかなことは、中級は上級には勝てない。理由はガンゾーイが上級ならわかるはず。手を出して」

 さきほどガンゾーイから受け取ったミスリルの剣先を下げて持ち、手を差し出したガンゾーイに近寄ると、

 「いい?」

 ガンゾーイははっとして剣を握る私の手を凝視する。

 私は、剣の中心を軸に剣が回転するよう下から上へと手を素早く振り上げる。プロペラのように回転した剣は一瞬消える。いや、その場で、空中に軸を残して、消えたように見える。空気を切り裂く音だけが周囲に広がり緊張感を高める。

 ガンゾーイが手のひらのすぐ横で高速回転している剣を受け取るには、剣先に、手を斬り飛ばされぬよう、剣の柄が来るタイミングで手を出さなければならない。

 上級戦士および上級冒険者ならば、刹那に意識を高めることによって〈超越域〉という緩やかに流れる時間の中へと入り込める。すなわち究極的には時間が止まった〈神域〉にも身を置くことができる。

 そこは意識のみが入り込める内界。そして意識は働けど己の体を動かすことがままならない。が、魔力の強い者ならばそのレベルに応じて肉体の移動も可能だ。

 ガンゾーイは、完全に時を止めることこそできないだろうが、超越域にて、ゆっくりと回転している剣を見極め、なんとか手のひらを切り飛ばされることなく、剣の柄をとらえることができた。そのときパンっという音があたりに響いた。

   Ⅸ 王国の貨幣経済について

 「ミリフィアのことなら心配しなくていいよ」

 私はガンゾーイを安心させてやる。

 「悪いようにはしないし、取り返したくなったら取り返しに来るといい。たぶんソニンも最初っからそのつもりなんだろう」

 剣を受け取った衝撃で腰を落としたガンゾーイは、首を垂れたままだった。が、しばらくしてようやく私の投げかけた声に反応する。

 「——いや、ソニンは、王国が滅んだのだから、もうミリフィアを解放してやれと……。そればっかりだ」

 ガンゾーイはまだ手のしびれを気にしながら、

 「しかし、あの領域で体を動かそうとすると、ごっそり魔力が奪われ体力が削られるんだが、アトマはどうなんだ? とくに今回はひどかった——」

 「あ、ま、そうだね……」

 能力以上に無理に動こうとしたからだろう。超越域や神域については呼び名だけで、一般的にどういうものかあまり知られていない。場所によっては話すことさえタブーとされている。もし私がこの世界の真理を教えてやると、ガンゾーイはいまよりさらに強くなれる。へんに肩入れしても、と私は返答に窮する。

 「けどまあ、ガンゾーイは、魔力の扱いに、まだ無駄があるんじゃないのかな? たしか王都には顔に覆いをして生活している者たちがいる。視覚に頼らず魔力によって空間認識をしていて、ふだんから効率的な魔力の使い方を覚えようとしているんだろうね」

 「なるほど。——いや、まえに一度、ソニンが話していたんだが、あの領域は目で見ているのではなく、魔力で見ていると言っていたんだ。視野がぼやけてたり、物が二重に見えたり、全体に、やや赤っぽかったりするのは、視覚の悪影響ということらしい」

 「私が魔力で何を見ているって?」

 ソニンとミリフィアがやってくる。

 「——ああ、ちょうどよかった」

 私は研究熱心なソニンにさらに魔力について聞かれでもしたら、また厄介だから、先手を打って話題をそらした。

 「ミリフィアを嫁にもらう対価だけど、いくらを希望する? 言い値を払うよ」

 ガンゾーイは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに諦めたようにソニンの顔を見た。

 「そのまえに、ここではこの王国のカネは使えるか?」

 ソニンは親指で金貨をはじく。

 弧を描いたそれを私はキャッチするも、見ずに同じようにはじき返す。

 「使えないよ。知っているとは思うけど、硬貨のたぐいにはその王国の刻印と偽造防止に王家の魔力が込められている。近隣で商業取引があったなら換金できただろうけど、さすがにここは遠すぎる。というか、王国、滅びたんだろ?」

 彼は返ってきた金貨を受け取り、

 「だからもう価値はないと?」

 「そうだね。そのままの金属として引き取ってもらえるだろうけど、ずいぶんと値が落ちるよ」

 「ここの物価はどうなんだ?」

 横からガンゾーイが聞く。

 「ああ、それはあまり変わりないんじゃないかな? 言語同様、離れていても統制がとれているはずだから」

 「そんなことが可能なのか?」

 とソニンが不思議がる。

 「そっちの大陸でも使っていたのは、おもに、金貨、銀貨、銅貨、だろ? だいたい銀貨1枚で1食分の食事が取れる。これが基準なはず。で、冒険者が利用する安宿なら1泊銀貨2枚から5枚、かな。高級な宿になってくると銀貨10枚、つまり金貨1枚。どう?」

 「たしかに、そんな感じではあったろうな。私は冒険者ではないからそういった場所を一度も利用したことはないが……」

 「ああ、なら、金貨を払うときは気をつけて。貴族は釣りを受け取らないのが常識、マナーだから。あと、冒険者の銀貨もそうだね、彼らは金貨と銀貨をよく使うけど気前のいい奴らは銅貨を持たない。平民や貧しい人たちが銅貨やその下の鉄貨までを細かく使ってる」

 「それくらい知っている」

 ソニンは小馬鹿にされたと思い気色ばむ。

 「白金貨はどうなんだ? 数字は刻印されているのか?」

 ガンゾーイが質問する。

 「そうだね。10、100、1000……、10000まであったかな。その数字が金貨の枚数を表している。市井ではあまり流通していないけど。たぶんそれも同じだろ?」

 「ガンゾーイ。おまえがこれまでため込んできた白金貨はすべてがパーだ。刻印が1000だろうが10000だろうがな」

 ソニンが失笑する。

 「で、どうする?」

 私は顎でしゃくってミリフィアの値段を聞く。

 「ならば、そうだな。金貨1000枚、でどうだ?」

 ソニンが言う。

 「——安すぎる! 一国の姫がわずか1000枚だと? ソニン、いったいどういう了見だ!」

 ガンゾーイが大声を出す。

 ソニンはガンゾーイをいったんにらみつけてから、

 「ガンゾーイ。ミリフィアはここでは王族ではないのだよ。またそれゆえにミリフィアにとって金貨1000枚はむしろ高すぎるくらいの大金だ」

 「なにが言いたい?」

 「ミリフィア自身が自由になるための金額なんだよ」

 私がにぶいガンゾーイに教えてやる。

 「たとえばガンゾーイが代わりに金貨1000枚を持ってくれば、そのときのミリフィアの意志にもよるけど、無条件で解放するよ」

 それを聞いてソニンは小さく舌打ちした。ガンゾーイに聞かせたくなかった話だったのだろう。だからそれをごまかすかのように、

 「誰彼なしにその値段でミリフィアを売り渡すつもりなのか?」

 と感情をあらわにする。

 「いやいや、そんなことは絶対にしない——」

 私は目を伏せ、右手を胸に当てる仕草をする。この世界では一般的な誓いのポーズだ。

   Ⅹ 人生を演じる者

 夜空を見上げると綺麗な月が浮かんでいた。ミリフィアに合わせて私も〈収納魔法〉によって亜空間から取り出したフード付きのマントを着ていた。

 私はミリフィアの数歩まえを歩く。

 腰を下ろせそうな場所を探していた。そこは小高い丘になっており、まばらな木々で囲われていた。

 私は振り返ってミリフィアを呼び、大木の下に腰を下ろす。ここが大木を背もたれにした今宵のねぐらだ。

 ミリフィアが黙って私の横に座るのを確認してから、私は立ち上がり、結界石を取り出して彼女に触らせた。

 そしてそれを四方に置き、〈結界〉を張る。この結界は、結界石が認識していない魔力をはじく。つまり魔獣のたぐいに突然襲われることがない。

 それはまた逆に、結界内部からの音や気配といったものを遮断し、外部に漏らさない。まあ内緒話をするなら念話でもよかったが、私はなんとなくミリフィアとは言葉を声に出してしゃべりたかった。

 やや離れた位置に、ガンゾーイやソニンが、それぞれ樹木を背にして腰を下ろしている。彼らは結界を張っていなかった。このあたりは魔物も少ないし、むしろ結界を張ることで〈感知〉や〈探知〉がにぶるので張っていないようだ。

 そもそも彼らは強固な魔力をまとっている。だからよっぽど危険なところでもないかぎり結界など必要ない。また攻撃防御以外にも、魔力をまとうことで体温調節もできるし、体も汚れにくい。なにより樹陰にあっても、虫に刺されたりすることがない。まさしく魔力万能の世だ。

 そして、この虫はまた、悪い虫にも当てはまる。私がミリフィアと二人きりになったとて、ミリフィアが拒みさえすれば操を守ることができる。ソニンやガンゾーイはそう考える。もちろんミリフィア自身も。

 魔力をまとってさえいれば、非力な女性であっても強引に何かをされる心配がない、というのがこの世界の通念でもあった。

 「アトマ様は、戦ったことがないのですか?」

 唐突にミリフィアがつぶやく。内気なぶっきら棒な物言いだが、すぐ隣にいたので声がクリアに聞こえる。

 「どういうこと?」

 「ソニンが言ってました。魔力を見ればまだ誰とも戦ったことがないと」

 ミリフィアの心理を先回りすると、どうやらミリフィアは私に関心をもったのではなく、なぜ自分の拘束魔法が見破られたのかが知りたいらしい。だからそれに答えてやるべきかどうか迷っていると、

 「アトマ様?」

 「え? ああ、君はどう思う?」

 「わかりません。ただ、——あ、いえ、もしかしたら〈無敵の人〉というものですか?」

 「いや、無敵の人というのは、そうだね、強固な魔力の中に閉じこもっている人のことだよ。世界から隔絶して戦わないし、積極的に生きようともしていない。で、敵もいないから無敵、ってことかな。までもそれは、そうだね、自分を求めているからかもしれないね」

 「自分?」

 「自分というか、自我、かな。ようするに、自分って何者?ってことなんだけど、どう思う?」

 私はこの世界の住人がいったいどういう答えを出すのか興味深く思い、面白半分に、純粋でまだうぶだと思われるミリフィアに哲学的難問を投げかけてみた。

 「そういえば、私に自分がないのかって、言ってましたよね? あれはどういうことですか?」

 「自分で考えたら?」

 「え?」

 「あー、つまり、そういうことだよ。他人の頭を使って答えを得るのではなく、自分の頭で考えて答えを出す。少なくともそこには自分というものがあるんだ」

 「私には、自分がない……。じゃあアトマは? アトマには自分があるの?」

 思わず、——おい、「様」が抜けてるよ、とツッコミを入れそうになったが、自制した。それでふと真面目になって考察してみる。

 私がミリフィアを選んだのには、たしかに、理由があった。潜在的な魔力のせいもあったが、私の記憶の中の人とミリフィアは似ているのだ。——しかし、ただ、それだけだ。

 私はなんだか気恥ずかしくなって、話を元に戻す。

 「そんなことより、君は、きっと王女役を演じているだけだろ? 自分というものを意識すると、自分が何者かを演じていることにも、気づけるようになる。たとえば、そうだね、ここへ来てから君は、アトマ様と呼んだ。それはどうして? どうしてそう呼ぶべきだと思った?」

 「え、あ、……そういうものと……。もしかしたら貴族かもしれないので」

 「そう、人は他人との関係性のなかで、自らはほとんど意識することもなく、何かしらの役柄を演じているんだ。大きいところでいえば、貴族は貴族として、平民は平民として、のね」

 「私は、役を、演じているつもりはありません。私は実際に王女でしたから。これは嘘ではありません」

 「うん。でもそういうことじゃないんだ」

 「じゃあ、それじゃあ、ガンゾーイやソニンもそうなんですか? 自分がなくて、役を演じているんですか?」

 「ま、そうだね。ガンゾーイは王国の騎士として、最後に君を逃す任にあたって、ここまで行動してきている。君のこと、ミリフィアのことを愛おしいと思う気持ちを隠し、それを自覚せずにね。ソニンは魔導師として、自分こそがトップレベルの人間、と思っている。で、ミリフィアの潜在的な魔力にも気づいていて、そのために婚姻し、いずれ自分の子を産ませたいと思っている。超一流の魔導師の家系をつくりたいんだろうね」

 ミリフィアは黙って聞いていたが声を荒げ、

 「それって、自分がないってことなんですか? だいたいなんで、あなたにそんなことがわかるんですか!」

 私は私の役割に気負ってちょっとしゃべりすぎたなと、やや後悔しはじめてきた。

   Ⅺ 生活魔法

 私は結界を一二歩出て、深呼吸をする。思った以上に月があたりを明るく照らしている。私は耳を澄まし、虫の音に感じ入る。葉ずれの音に気持ちのよい肌寒さを感じる。

 視線を移すと木陰の暗がりに隠れているガンゾーイが何やら温かいものを啜っていた。夜目でなおかつ距離はあったが、湯気が立っているのが私の目には見える。

 彼が口にしているのは、収納魔法で亜空間に収納されていたものだ。亜空間においては時間の経過がないので、たとえ数か月前に作り置きしたものであっても、冷めることなく、また腐ることもなく、それを食すことができる。

 魔力による一定の作用は、それを型として、あらかじめ発声音に刻むことで、広く一般に魔法として認知され利用されている。それは魔導具にも転用されている〈魔法陣〉と共に、さまざまな人たちの手によって開発、構築されてきた。

 すなわち、魔力さえあれば、その型を覚え、詠唱することによって、誰もが再現できる。それが〈魔法〉だ。そしてそれは戦闘に使われるものばかりではなく、生活魔法として、庶民のあいだで発達してきたものも多い。

 〈収納魔法〉もその一つで、いまでは長旅に出る冒険者にとっては必須のものであった。使用頻度も高いため、ほとんどの冒険者が詠唱することなく物の出し入れができるようになる。もはやその行為自体、魔法だという感覚さえなくなる。

 というのも、その収納魔法が魔法のイメージとしては、しごく単純なものであったからだ。自身の身体に魔力をまとわせるように、収納すべき物を魔力でつつみ、つつみ込んだままそれを亜空間へと溶け込ます。取り出すときは魔力を放出しながら思い起こせばいい。いちどコツをつかめば小さな子どもでもできるものであった。

 しかしながら収納できるものには制限があり、使用者の魔力や魔力量を超えた大きなものはつつめない。つつめたとしても、対象が、魔力をまとった人や魔物、魔獣であれば、すり抜けてしまう。

 また同時に、一般的に生命力のある(つまり意識をもつ)動的なものは亜空間に落とし込むことができない。

 ちなみに排泄物の処理も、収納魔法の原理を使う。魔力をまとったまま排泄をし、そのまま亜空間へと落とし込む。この場合、魔力でつつまれたものはすぐにも亜空間にて解き放たれて消失する。貴族の子どもらは幼少期にまずこちらを覚える。

 魔力は、非常に便利で、日常生活をも豊かにしてくれる。その利用法は多岐に及ぶが、やはりいちばんは、魔力をまとうことで、身の危険に脅かされずに、安心安全に生きられることだろう。だが、しかし——

 もし、魔力をまとってさえいなければ、いま私がこうして体感している、この世界の自然、または情緒や美しさといったものに、もっと人々の意識が、敏感に、揺れ動いたのかもしれない。良くも悪くも魔力は人々を鈍感にさせる。

 弱さや恐怖が身近にあれば、戦い、つまり、勝ち負け以外の、人生の機微といったものにも、心豊かに触れられるのかもしれない。けっきょく魔力の存在は、便利さや安心安全といったものとを引き換えに、世界を無味乾燥なものへと変えてしまっている。

 「いま、魔力を解いていた?」

 結界の中に戻って私が腰を屈めようとしたところで、ミリフィアが尋ねた。

 「え?」

 「私もたまにやってた。それ」

 「へえ。どうして?」

 私はやや驚いた顔を見せながらミリフィアの隣に腰を下ろす。

 「んー、なんていうか、ハラハラドキドキしてみたかったから? かな?」

 「なんで疑問形? 自分のことなのに?」

 「自分のことだからって何でもわかるわけでないでしょ」

 ぶっきら棒な言い方だが、ミリフィアからは私に対する緊張感がとれていた。さきほど私に感情をぶつけたせいもあるのであろう。

 「あーまあ、そうだね。でも、もう、自分でも、わかってるんだろ?」

 「…………。魔力が最弱だったから……。もし魔力が完全になくなってしまったらどんな感じなんだろうって」

 「どんな感じだった?」

 「どうでもいいやって感じだった……」

 「あ、いや、そうじゃなくて」

 私にはその時のミリフィアの記憶のイメージが見えてくる。

 月夜、城の上階の露台にて立つ長い黒髪の少女ミリフィア。眼下の城壁の向こうには、地平線の山々にまでつながる深い森林が広がっている。

 月光に照らし出されて黒髪が輝き、ミリフィアは身を預けるように瞼をそっと閉じて、かるく両腕を広げる。全身の力が抜けて、覆っていた魔力が皮膚の表面から失われる。急激に体温が奪われて、身を刺す痛みに、生きている実感を得る。

 「あ、そういえばワイバーンが遠くに飛んでいたことがあった」

 ミリフィアが声を上げる。

 「それって、コウモリみたいな羽をもったドラゴンだったっけ?」

 と私は問う。

 「たぶん。よく見えなかったけど、あのとき、恐いというより、なんていうか、一緒というか、一体感を感じた。遠くにいるのに、なんかすぐそばにいて触れられるような……感じ。不思議じゃない?」

 「それは魔素に直接触れていたからだよ」

 「え?」

 ミリフィアはその言葉にはっとしたように関心をもつ。

 「魔素って、魔力の素《もと》のこと? あれってどこにあるの?」

 「おしゃべりになってきたね」

 私が微笑んでミリフィアを見ると、そう言われて急に恥ずかしくなったのか、それから彼女は黙りこんだ。

   Ⅻ 魔素と空中浮遊

 あまりにも長いことミリフィアが黙ったままだったから私はつい、

 「誰にも内緒にしておいてほしいんだけどさ——、まあ……、そうだね、魔素は空気のように、大気のように、この世界を、この星全体を、覆っている。だからそれに気づいてしまえば、空だって飛べる。ワイバーンが飛んでいたようにね」

 「——え! そうなの?」

 ミリフィアはひどくびっくりして私を見る。早口になって、

 「空を飛ぶ魔法って魔力量が多くないと修得が難しいって聞いたけど——? というか、魔力がなくてもいいの?! 魔素さえあれば——」

 「ああ、もちろん魔力は必要さ。だけどコツさえつかめば、魔力量はそんなに必要じゃない。自分の魔力だけを使って飛ぶイメージをもってしまうから、無駄に魔力が必要になるんだよ。しかしそれだと長時間飛んでられないだろうね」

 「私は、高く飛んだり、空中浮遊する人たちを見たことがある」

 「高く飛ぶのは〈身体強化〉かな。魔力で体を強化したもの。透明な足場〈魔力壁〉を利用して飛ぶ。〈空中浮遊〉と思われているのも、多くはそうだね、ジャンプの勢いと〈風魔法〉の応用じゃないかな。たぶんその人たちは自分の魔力を大量に使ってるはずだよ。魔素を認識し理解していない場合だと。ミリフィアは高いところから落ちたらどうなる?」

 「その訓練はした。下に落ちていくスピードはコントロールできても、跳びはねたりはできなかった」

 「まあ、子どもなら……それはたいがい、そうだろうね」

 「…………。でも私以外は、みんなできた。子どもの頃からみんなできていたみたい。王族だからできて当然だった」

 「ミリフィアは、黒髪だろ? そのフードの下。隠しているのかな?」

 私はミリフィアの顔を覗き込むように確認する。

 「黒髪は魔力が強いって話? やっぱりこの国でもあるの? 特別な目で見られる? 髪の色、変えたほうがいい?」

 「それは迷信程度に広まってるだけだから、気にすることはないよ。まあソニンのような魔眼で魔力を見ようとすると、魔力の濃さで、その力を判断するから、そのへんから来た迷信なんじゃないかな。——ソニンはなんて?」

 「関係ないって」

 「あ、そう」

 それからしばらく会話は途絶えた。ミリフィアは考え込んでいた。彼女は内気でおとなしそうに見えるが、いったん気を許すとよくしゃべる。

 私にはすでに彼女とは気がおけない間柄になってしまっているという実感があった。そしてなぜか、神として、ミリフィアとは距離をおこうという気にもなれなかった。先ほども、ただ、ミリフィアの顔をよく見てみたかっただけだ。

 いまミリフィアの視線の先にソニンがいる。ソニンを見やると、頭から大きめの覆いをすっぽりかぶり、何をしているかわからない状態だった。もう眠っているのか、それとも食事をしているのか。ミリフィアとも念話しているわけでもない。ただ彼女は視線をそのままに、

 「さっきソニンのような魔眼で魔力を見ようとすると、って言ってたけど、どうしてソニンが魔眼だってわかったの? ふつうは魔導具で確認したと思いますよね? この国では魔眼って、珍しくないものなんですか?」

 ミリフィアの質問に私が答えないでいると、

 「——それに、どうやって私の拘束魔法を見破ったの? なんで無詠唱で連続魔法が簡単に使えるの?」

 ミリフィアは視線を私に向けて口調を乱し、

 「アトマは何者!? 賢者? どこかの高名な魔導師?」

 そのとき私はミリフィアに興味をもってもらえて、なんだか非常にうれしく思った。正直、ときめいた。ま、だからといってそれで気をよくして正体を明かす小者でもない。でも、もし何者かと問われて自称するなら「悪魔」だろうな——と考える。秩序を壊したいのか。

 「いや、どっちでもないよ。ただの村人で、この世界を旅する旅人さ。けど、王都に着いたら冒険者登録でもしようと思っている。村ではいちばん強かったからね」

 王都までは歩いて数日かかる。いちおうガンゾーイとソニンを王都まで案内することになっていた。そこで彼ら二人とは別れる予定だ。

 「戦ったこともないのに?」

 「ああ、戦ったことはないね。でもそれは、自分の強欲のために戦ったことがないってことだよ」

 「強欲?」

 「人は戦いを繰り返しているうちに、負けたくないという思いが募る。負けたら負けたで悔しい思いや憎悪を募らせてしまう。純粋に戦いを楽しめているのならいいけど、そのうちに勝敗の結果だけを気にするんだ。勝敗の数に、自分や自信といったものを見出し、そこから逃れられなくなる。だからまたよけい、相手を打ち負かさなければならない、となる」

 「それが強欲なの? 負けたくないというのが?」

 「まあね。それでその性質が、個人の魔力に反映されていき、魔眼で魔力を見ると、その思いが強ければ強いほど、色濃く映る。また実際にそういう人ほどそれなりに戦闘に長けているからね、見誤るんだ、魔力の強さというものを」

 「魔獣もそうなんですか? 魔物化した動物。あれも負けたくないと思ってるんですか?」

 「負けたくないというか、ただ人間を襲おうとして向かってくるんだよ、あれは。そういった獣の魔物化は魔族によるものだけどね」

 世界に干渉してはならないと思いつつも口が滑べる。饒舌になってしまう。

 「魔族って……。——魔族ってなんなんですか? なんで、私たちの国ばかり攻めてきたんですか! なんで何年も何年もくり返しくり返し……、なんで……」

 どうやら魔族の話はミリフィアにとって地雷だったようで、「魔族」という言葉に突然感情的になり、ミリフィアは膝を抱え顔を伏せてしまった。

 ※アルファポリスにて連載中 「第2章 王都までの道のり」につづく

神物語 つまり私が本当の神様になった世界でのお話

執筆の狙い

作者 大歳士人
a172-225-122-120.deploy.static.akamaitechnologies.com

次世代のファンタジー小説です。その名を冠した「次世代ファンタジーカップ」という賞レースに参加しています。

アルファポリスでは、他サイトへの重複投稿は禁止しておらず、出版権を供与していなければ規約違反にもならないようで、こういった小説の公募が主流になってくるかもしれません。

ただ、そこで問題となるのは、賞レースに出すだけでは、数多の参加作品に埋もれてしまって、ランキングも上がりようがないということです。まずは独自のコミュニティーをもっていて、そのうえでの参加ならよいのでしょう。つまりすでにある程度のサポーターがいると。

このたび、作家でごはん!を、悪くいうと、利用させてもらって、サポートしてもらいたく、ここに作品を投稿します。本作で、書籍化、コミカライズ、そして2クールくらいのアニメ化までをもくろんでいます。

もちろん、面白くないものを面白いという必要はありません。もし続きが読みたいと思いましたら、アルファポリスにて「神物語」を検索してお読みください。

それでは、どうしたら面白い小説が書けるようになれるのか、語り合いましょう。

コメント

偏差値45
KD059132062200.au-net.ne.jp

冒頭で挫折です。
文章力はあります。比較的に読みやすいですし、分かりやすい。
だが、ストーリー展開という意味では、
読んでみて「つまらなそう」という予感しかないですね。
個人的な好みでしょうけど。
説明が先行タイプですし、その世界観を勉強させられている気がします。
言い換えれば、どうでもいい情報の押し売りのような小説に思えてしまうんですね。
冒頭ではやはりツカミが重要でしょうね。
ショートであれば、つまらなくても我慢してもいいですけど。
現状では厳しいかな。それが正直な感想ですね。

大歳士人
104.28.83.211

偏差値さん、コメントをくださりありがとうございます。

ツカミが重要とのことで、それについてこれからご説明しますが、そちらのインプレッションを否定するわけではないことをご了承ください。またこのようなことを書くと、言い訳ととられかねないと思いつつも、書き手としてこの場にいる鍛錬者を意識し、本来なら書くべきではないことをあえて書いているということもご理解ください。

こちらの意図(ツカミ)としては、冒頭に用意しました。創作者として、想像の世界へと入る、ということです。これは小説を読むことより小説の書き手のが多い時代を鑑み、誰もが自身の世界の「創造神」として世界を構築しているんだということで、そこに書く側の共感を求めた次第です。

またそれを次世代のファンタジー小説としてとらえ、従来の、明確な道理もなく、ただ思いつきで魔法が使えるというのではなく、ある程度、魔法の発動や超人的な身体的能力にちゃんとした理屈があって然るべきと考え、またそれが現代の読者が望んでいるものだろうと感じております。

漫画でもアニメでも理屈っぽいものへの流れがあって、個人的にはたとえば「チ。」や「薬屋のひとりごと」や「フリーレン」など、すかっとしたエンタメではないけれど、じわじわくる感じが現代の流れと考えます。もちろん後追いでは駄目でその先を読む必要はあるでしょう。

説明が先行しているとのご指摘ですが、これは長所と考え、また説明している世界観は、現代の異世界ファンタジーを取りまとめたような形で、その道理を、情報を、提示することで、読者の空想が広がることを期待したものです。

しかし反応があまりよろしくないので検討してみます。ご感想ありがとうございました。

大歳士人
104.28.83.211

前回ここに作品を投稿したときは、173位でしたが、現時点では、146位となっております。賞レースは現実を突きつけられますが、面白くもあります。僭越ながら「作家でごはん!」を目指す人にはこういったものへの参加をお勧めします。

https://www.alphapolis.co.jp/novel/cup/2504?page=3#ranking

それからランキング上げにご協力してくれた人には感謝を申し上げます。

夜の雨
ai226060.d.west.v6connect.net

大歳士人さん「神物語」「Ⅲ 魔眼の魔導師の挑発」まで読みました。

ここまでで感じたことを書いておきます。

御作の世界観は「私」という人物が「神」になったということで、物語が語られているわけですが、具体的に「どういった神なのか」ということが、ここまででは、わかりません。
なので、この神は悪魔かもしれないのです。
現状の御作だと、主人公の神は結構「自我が強くて」上から目線で地上の人間を見ているという感じです。
ただ、そういった個性が悪いというのではありません。

その主人公の神が没落した王族の王女(14歳)ほか家臣二人(戦士と魔法使い)に守られて、旅をしているときに出会ったエピソードが描かれていました。
「ガンゾーイだ」戦士(ガタイが立派)
「ソニン」魔法使い(貴族)
「ミリフィア」王族の王女(14歳)

「アトマ」旅人。(主人公で「神」という事になっているが、本人いわく、「悪魔」にも、なりうるらしい。
ということで、この神が自己中のところがあるのが「ミソ」という事になっています。

話の展開は、背景などを「神」が説明しながら没落した王族関係と出くわして戦闘ムードになる。
というところまでです。

展開的(物語の構成「流れ」)には違和感はありません。
ただ物語が「主人公である『神』視点」なので、一人称で何から何まで説明しているので、違和感があります。
どういうことかというと、「一人称視点」にも関わらず、相手のことが、すべてわかってしまう」という設定なのですよね。
つまり「神」なので、相手のことがすべてわかっている。
そこに主人公である「神」の一人称視点というややっこしい描き方です。

ここは、「主人公寄り」の「三人称視点」で描くと「視点」の違和感は解決するのではないかと思いますが。

文章は「視点」の違和感はありますが、読むのには問題ありません。
作品の完成度としては問題ありです。

ということで、引き続いて、鍛練場に掲載されている作品は今夜中にはラストまで読みます。
アルファポリスに掲載の「神物語」も、確認しましたので、読めたら読みます。

以上です。

それでは頑張ってください。


お疲れさまでした。

夜の雨
ai203086.d.west.v6connect.net

お知らせ

身内に不幸がありましたので、しばらくのあいだ、感想の書き込みをやめます。

大歳士人
104.28.83.211

夜の雨さん、お読みいただきありがとうございます。

どう読むかは読者のご自由で、作者としてそこになんの不満もありません。むしろいろいろな読み方があって、その感想をいただくことで、書き方によってどう読まれるのかを知ることができ、それが今後の書き方の参考となります。どうもありがとうございます。

作品の楽屋裏を話してしまうようで恐縮ですが、この作品は「神視点」の「神」が主人公となっております。小説を書き上げる作者を主人公とした、それが個人的に考えた「次世代のファンタジー小説」という建て付けで、これは、いままでになかったとは言えないと思いますが、あまり一般的ではない新しい発想でありアイディアです。

小説の書き手が増えてきた昨今、その書き手、作者が主人公。それがこの作品の軸となっております。

そのなかで、作者が何の制約もなく好きに書いてしまえば、作品として成立せず、また作者の欲望のままに書いてしまえば、それは悪魔化(低俗化)した俗っぽいものになります。

もちろん書き手であるこの私自身が主人公というわけではありません。ここであえて種明かしをすると、想像の世界を築き上げる「私」つまり小説を書いている「私」がいて、その「私」は、この想像の世界(ファンタジーの世界)の神ですが、第2章から入れ替わります。

最初に小説を書いていた「私」は、リアル世界の病気で亡くなってしまい、第2章からその友人である新たな「私」が、亡くなった友人の未完の小説(残されたプロットを参考に)、その続きを書いているという設定です。

そこでサブタイトルの「つまり私が本当の神様になった世界でのお話」を回収しています。

読者にはその設定を意識することなく、ファンタジーの世界を楽しめるように書いていますが、なぜ「私」が上から目線なのかは、ファンタジー世界のキャラクターを作っているのが「私」だから、という理由もそこにはあります。

それゆえに「私」がファンタジーの世界の中で、作者(神)という役割を果たしながら、その作者「私」自身が成長していくかも(?)という流れもあります。

小説(ライトノベル)やアニメ、マンガでも、自分の作ったキャラクターをまるで現実に生きている人間のように話す作者やファンがいますが、そういった感覚で、「私」はファンタジーの世界の「キャラ」と接しているといったらわかってもらえるでしょうか。

最初にこの小説を書いた「私」がつくったプロットはすでにあって、2番目の作者「私」がそれを踏襲しながら書く、という制約があって成立しているというのありますが、プロット通りに書けないのがつねで、小説の醍醐味、難しさも感じております。

貴重なご意見、ご感想、ありがとうございました。

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