1999-03友へのグリーン・レクイエム
私が、まだ大学生だったころ、一人の友人がおりました。彼は、少し痩せ気味で、そしてちょっとニヒルな表情を好んでしておりました。
そんな彼と知り合ったのは麻雀が切っ掛けでした。ある日、私と悪友は、授業の終わった教室で麻雀のメンバーを募集しました。その時、ニコニコして近づいて来たのが彼でした。
それからは、私は彼のアパートに良く足を運ぶことになります。お目当ては、彼の持っている膨大なクラシックのCDで、その一曲一曲を、私にも解りやすく解説してくれました。
そんなある日……。
彼は、一本のカセットテープを私に聞かせてくれました。それは、新井素子原作のSF小説『グリーン・レクイエム』のラジオドラマでした。その物語の主人公は、明日香と言う『緑色の髪の少女』です。
彼女は宇宙から来た生命体。
その緑色の髪は、太陽のエネルギーで光合成をするための身体の一部。彼女は、その特異体質ゆえに寂しい生活を強いられます。
そこに、一人の普通の男性が現れ、ふたりは恋をします。
しかし、彼女の秘密を暴いた者によって追われ、逃げ惑い、最後に行き場を失います。そして、彼女は愛する彼の目の前で、自らの身体を破壊してしまうのです……。
そのバックに流れていた曲が、ショパンの『夜想曲第一番変ロ短調 作品九の一(ノクターン 作品九の一)』。とても悲しい曲です。
彼は、わけあって大学生活最後の夏に、この世を去りました。でも、私はこの曲を聞く度に思うんです。歳をとっても、ずっと友達でいてほしかった。そう思える彼のことを。
彼の余りにも早い人生の幕を、惜しみます。そして、『グリーン・レクイエム』を、ありがとう……。
執筆の狙い
1999年以前に書いた短い文です。よろしくお願いします。