限りなく未知なシェアハウス
考えてみれば意味のないことなど一つもないのかもしれない。
夕食時に誰も話さなければ家族仲が悪いと分かる。
恋人の二人がソファに座っていて、女が黙ってテレビを見ていたり男が携帯を触っていたりするとうまくいってないと分かる。
何かしてやりたいと思いながら通り過ぎる友人がいれば、彼には優しい心が残っているかもしれない。
狭い物置だ。テーブルの端に指を擦り付けて傾ければ床が開いて階段が現れる。友人はそこで四六時中レーザーやらロボットやらをいじくっている。夕食だから呼んでこいと言われた。そういうことはいつでも自分の役目だ。
降りていくといつものように背中を丸めたスーツ姿が座っている。
少し待ってみる。話しかけてくる様子もない。階段を降りる音で気付かないものかな。
「なあ。乃賀原」
「ん?」
野太く低い声。首あたりまで伸びた茶色い襟足が横を向くことはなく目も合わせずない。
「夕飯」
「そうか」
よっぽどのことがない限りここから会話が続くことはない。だが今はちょっとした「こと」だった。
「あの、ちょっと相談したいことがあって」
「なんだ」
「向き合って話したいんだけど」
乃賀原は上を向いてため息をついてこっちを向く。ジャケットとベストのボタンは全て外れている。家でも外でもスーツを着ている。遅れたが彼は相変わっている。
「仏坂。私は顔を見て話すということに慣れてる。普通、に……なんだっけあの言葉」
「人間?」
この言葉を忘れるなんて。
「そう! 人間は普通は人間の顔を見て過ごす。私は人間だけでなく宇宙人の顔も見慣れている。だからわざわざ訊くな」
この男は一々論理的に説明しないと気が済まない病気にかかっている。
「あぁ、ごめん……」
「それで、話っていうのは」
仏坂は足元の大きなエンジンに腰掛ける。
「気付いてたかもしれないけど……最近美桜と、その……」
「うまくいってないのか」
「いや、そういうわけじゃないけどなんていうかさその……距離を感じるんだよ……」
「ん?」
乃賀原が左右を見て眉をひそめる。
「お前……奴とどれくらいだ」
「え、一年ちょっと……」
「はっ!」
乃賀原が顔を明るくして両手を上げる。ドライバーが吹っ飛んでいく。
「それ、倦怠期じゃないか」
「倦怠期?」
「お前は中三の夏に国潤と付き合った。それで誰より勉強が嫌いだったお前が彼女と同じ学校に行くために誰よりも勉強する男になった。愛は人を愚かにする。お前に国潤を想って、全力で努力した経験があっても奴にはない」
「ああ……つまり?」
乃賀原の顔が曇りに戻る。
「相手にお前といるメリットがなくなりつつあるってことだ。それはお互いが次のステップに進むための停止期間なのか、それとも別れの兆候かだ」
「次のステップって?」
「お前ら今までせいぜい、手繋ぐとか、そんなことしかしてこなかったろ。できる奴っていうのはある程度のとこで度量を見せるもんだ」
「度量っていうのはなんなの」
「セックスだ」
「え?」
「セックス」
「そんなの解決にならないでしょ! それにまだ高校生だし……」
「それがなんだというんだ。高校生でもやってる奴はいる」
何をそんなに驚いているのかという表情で仏坂を見てくる。
「それは問題じゃないでしょ、彼女そういうこと一ミリも知らないんだよ」
「はっ! 世の清楚系の九割はどすけべっていう研究があるし、セックスは悪いことじゃない。オーガズムが相手への愛に変換されるし倦怠期ならなおさらだ。いいか? 一時間の話し合いよりも三十分のセックスだ。テストに出るぞ。覚えとけ」
椅子から立ち上がってのびをする。うまいこといったつもりでニヤニヤしている。
「でも……そんなことできる関係じゃない。特に今は誘えないよ」
「はっ! 学校一美人の女を勝ち取ったくせに」
「そういういいかたは差別的だよ。よくないよ」
「はいはい、いい奴いい奴」
階段を上がって地上に出る。物置を出て右に曲がったらすぐの食卓ではすでに三人が席についていた。
「夕食に間に合わないなら追い出すわよ」
テーブルの一番端に座るのはショートカットの国潤、その向かいが仏坂。固定の席だ。
「あいよ家長」
ふざけた調子で幕皆の隣に座る。向かいの緑川が待ちくたびれたという様子で皿を見つめている。
乃賀原はこいつと向かい合うのだけは嫌だと思っているが国潤が頑なに順番を変えないのだ。
「ではみんな揃ったので手を合わせて」
四人が手を合わせる。幕皆は先に白飯をかきこんでいた。
「あなたの親友は本当行儀が悪いわね」
国潤がくるみ色の目を細めて乃賀原に詰め寄る。
「おい、おい拓波。お前のせいで家長が御立腹だ。とばっちりで追い出されたらどう責任をとる」
小声で乃賀原がいう。
「君もいつもいってるだろ。形だけの通過儀礼にはなんの意味もない。効率だけを求めれば人生はつまらないものになるが最低限のコスト削減は不可欠だって」
背中の丸まった幕皆が暗く反論する。
「まあいいわ。食べましょう」
呆れた国潤が箸を取る。仏坂は卵焼きから食べ始める。卵焼きは国潤の得意料理だ。
「それで? 今週はどんな週だったかしら」
国潤が話題を提示する。
仏坂が一番に答える。
「部活の練習試合で勝った。来週は地区大会キックオフが楽しみ」
「そう」
なるほど。乃賀原は思った。確かに国潤はそっけない。しかも気にもしていない。仏坂に目も合わせやしない。仏坂が少し悲しそうな顔をしているが気付かない。
「天の川銀河を征服した」
乃賀原が味噌汁の器を置きながら言う。
「正確には反乱分子を一掃した」
幕皆が補足する。
「あなたたちの宇宙を股に掛ける仕事のことは訊いてないわ」
「なんだと? 週末に今週あったことを話すのはこの家の宗教だろ。お前が始めたんたぞ」
「はいはい。でも前みたいにどうやって宇宙人を殺したかとかはやめてね」
「もちろんだ。なあ拓波」
「常識だろ。人の嫌がることはいわない。だがクルンハットカルテルは違った。あいつらは俺たちの会社の人員を買い叩いて黒リサ銀河に物を売っていた。奴らの事務所を襲撃して三つに分かれていた組織を統一した」
「儲けは二倍。敵は半分。これぞまさに理想のビジネスモデルだ」
「相変わらず他人を攻撃して利益を得てるのね」
緑川が厳しい視線を向けながら呟く。
「なんだよ、もう謝っただろ。おい国潤、お前の親友が過ぎたことをいってくるぞ」
乃賀原がサラダ用のスプーンで緑川の顔を指す。
「やめてあげて! 夢奈は十分傷ついたわ」
「彼女は十分立ち直ってるさ。もう一度傷つくのが怖いだけだ」
「黙って」
「だけど物鬱気な目をした美人の地球人はよく売れたよ。今でも年末セールに売り出してる」
「クローンを作ってラブドールとして売るために私と付き合ったの」
緑川の目に涙が滲む。
「そうだが?」
「ちょっと……」
国潤が両目を押さえる、
「なんだなんだ。嘘は人を傷つけるんだろ? 正直にいったんだが……傷ついたか?」
緑川は泣き出して立ち上がり、二階へ駆け上がってしまった。仏坂は苦い顔をして三人の顔を交互に見る。
国潤は乃賀原を睨みつける。幕皆は気にせず食べ続ける。乃賀原は唇を歪ませて国潤を見る。
「謝ってきてよ!」
「どうして! いいか、あのラブドールは傑作だ。記録的な利益を計上した。今でも売上の三分の一はそれだし」
「あなたのよく分からない仕事に普通の人を巻き込むのはやめて」
「よく分からないだと? この宇宙は私の帝国だ。脅かす者は許さないし売れるものは何だって売る。何でも作れるし何でもできる。科学万歳」
「この宇宙にはちゃんとした政府があるんじゃないの」
「連邦政府とは名ばかりの独裁国家だ。加盟してないから知らないだろうが奴らは少しでも異議を唱える者がいれば指名手配リストに載せる。おかげで私はテロリストだ」
「あなたが犯罪組織を率いてるからでしょ」
「そんなことはどうでもいい! とにかく謝らないぞ! 取り分が少ないのが不満ならあいつからいうべきだ」
「彼女と話してくる」
国潤が席を立つ。二階へ上がったのを確認して乃賀原が言う。
「よし、邪魔者は消えた」
「え?」
仏坂が狐につままれる。幕皆は黙って鮭をつつきまわす。
「作戦会議だ。お前らが別れたら今の倍以上問題が増える。拓波、バルバロスに連絡してアポを取れ」
幕皆がガラケーをプッシュしながら席を立つ。
「さて仏坂。明日は土曜日。国潤は買い物にいって午前中はいない。緑川は塾で夜まで帰ってこない。つまりこの家に残るのはお前と天才とその助手ってことになる」
乃賀原が不敵な笑みを浮かべる。
「あー……つまり?」
「やりたい放題ってことだ! さて楽しくなってきたぞ。こういう大きな仕事は家でやるに限る」
いつも通りの土曜日が訪れる。気まずい朝食の後、各々部屋に閉じこもるか掃除でもするかだが今日は男三人でトランプをしていた。緑川はさっさと塾へ行ってしまった。
「乃賀原。買い物行くから送って」
来た来た。
「あいよ」
二人は地下に降りる。
「私の仕事を侮辱したくせに私の車に乗せてほしいんだな」
「仕方ないでしょ。遠い所の方が安いんだから」
乃賀原が作業台のボタンを叩くと右側のシャッターが開く。宇宙船は自家用車のような見た目だがタイヤは下を向いているし大量に武器を積んでいるし、ドアの少し後ろに細長いエンジンがついている。自家用車ほど平和的ではない。
二人が乗り込むと天井が開いて飛び立つ。
ガタガタと揺れる車中。空には信号も道路も向かってくる車両もない。自由に飛び回れるしただでさえ速い。自転車で十五分のところを一、二分の距離にしてくれる。
「最近どうなんだ」
珍しく乃賀原が話しかけてくる。
「どうってどういうこと」
「うまくいってるのか」
クラッチを切る。
「いってるわよ」
「あのな、私はお前のことをお節介だし口うるさい奴だと思ってる。だから友人だとは思ってない。だが仏坂は違う。中学で嫌われてた私を唯一打ち上げに誘ってくれた。だからあいつがお前を愛するなら私もお前を愛するつもりだ」
「教室で寄生生物を繁殖させたらそりゃ嫌われるわよ。あの打ち上げだってめちゃくちゃにしたんでしょ」
「ははっ、今となっては良い思い出だ」
車を駐車場の一番端に停める。この辺りでは二番目に大きなスーパーマーケットで、休日だから車は多い。宇宙船は一台しかないが。
ドアスイッチで助手席のドアを開ける。
「なあ」
「何?」
「お前が今のままで良いなら私も過度に干渉しようとは思わない。だが私自身のためにもお前らのためにも今のままではいかんだろうと思うからこうして話すだけだ。別に、深い意味はない」
「気にしてないわよ。あなたってそういう人だから」
こいつは時々含んだようなものを言う。しかし考えても無駄なこと。小さな背中が店内に消えるのを待ってドアを閉めて離陸した。別に降ろしたらすぐに帰ってもいい。だが駐車場から店に入るまでに強盗と出くわす確率は〇・〇二七八パーセント。宇宙的な見方をすれば飛行中に隕石に当たるのと同じ確率だ。あいつが大事なわけではない。死んだ者は決して生き返らない。仏坂が泣きはらす横で慰めるのが嫌なだけだ。
家へ戻り庭を開き、格納する。
結局のところ何が重要か何が重要でないかはその時の感情で決まるのだ。だからそれらは問題ではない。大事なのは未知か既知かだ。
「よーし、拓波。バルバロスはどこだ」
「一分後に到着」
リビングのテーブルで書類を広げながらパソコンを触っている幕皆が答える。
「ありがとう。おお? その書類はあれか?
骨董品の処理が滞ってるのか?」
幕皆が暗く答える。
「いかにも。ロッキー山脈の中継所は切った方が良いかも」
「はっ! 縛首にしてやる! いや、そんなことはどうでも良い。仕事道具を片付けろ。仏坂ー! ふーつーさーかー」
「大声出さなくてもここにいるよ」
仏坂はすぐ後ろのソファで漫画を見ていた。
「確かに。準備するぞ」
「よー、乃賀原。元気だったか」
その時勢いよくドアが開き、頭がワニの宇宙人が入ってきた。
「なに、この人たち誰?」
仏坂は腰を抜かす。
「バルバロス、来たなー?」
「ははは!」
二人は抱擁を交わし、握手をする。仏坂は「解せん」という顔でその光景を見る。
「よし、仕事だ。君んとこのメイドや給仕係を集めろ」
テーブルを囲む。
「あんたの言う通り空間遮断機二つ、業務用掃除機六つ、隔離式空間調整器と資材の諸々を持ってきた。今運び込んでるところだ」
バルバロスと呼ばれる宇宙人たちが玄関に物を運んでいる。
「ありがとう、セッティングはこっちでやる。拓波!」
マスクをつけた幕皆が機械の乗った荷台を押してくる。
「空間再設定デバイスは手配できた。問題は動くかどうかだ」
「壊れていれば治す。よし道具は揃った」
乃賀原はジャケットから折り畳み携帯を取り出して唇を曲げながらプッシュする。
「んん、スプリング・ローブド・シューター! 飛び起きてペンを持て。住所を送るから今すぐチームと一緒に来てくれ」
携帯をパタンと閉じると
「諸君! 始めよう」
その声で人が動き出した。仏坂はいそいそと動き回るエイリアンのインパクトから抜け出せずに肝心な質問も忘れて彼らの行く方へついて行った。
乃賀原は幕皆とバルバロス、「メイド、給仕係」と呼ばれる異星人をつれて二階へ上がる。何やら楽しそうだが怖い。こんなこと美桜が知ったらなんと言うか……
廊下のコンセントに拡張プラグをつけてさらにプラグを差し込んで機械を起動する。よく分からない用語や宇宙人の言葉が飛び交う中、作業は着々と進んでいる。廊下の壁全体の図面が貼られ、電子的に書き込んだり印を付けたりしている。
「ちょっと!」
仏坂が思わず声をあげる。
みながこちらを向く。
「そこは緑川の部屋だ」
「そうだよ」
乃賀原はそれこそ「解せん」という顔で仏坂を見る。
「何をする気なのさ。それだけ教えてよ。別にちくったりしないからさ」
「それはお楽しみというものだ。さあ始めてくれ」
「なんだこのいかにもあまちゃんのセンター分け野郎は」
「ちょっと……」
「ああ、落ち着けバルバロス。軟弱者が嫌いなのは私も同じだがこいつは友人だ。口には気をつけろ」
「すまなかった。乃賀原の友人」
「あー……いいよ」
何かごまかされた気がするのは気のせいか。
バルバロスと呼ばれた宇宙人は配線が剥き出しの大きな機械を緑川の部屋に運び込む。乃賀原はポケットから四つのデバイスを取り出し、壁につける。スイッチを入れると青色の長方形のポータルが出現する。
「部屋のものはこの中に入れろ」
クリーチャーたちはベッドや本棚を青色のポータルの中に押し込んでいく。一階でドアベルが鳴る。
「スプリング・ローブド・シューターが到着した。拓波! マカダミアナッツを用意してくれ。消化器の中に入れてな。奴はそういうのが好きなんだ」
「了解」
二人は一階へ降りて行ってスプリング・ローブド・シューターを出迎えた。
「来たかローブド。今はいくつめの人格だ」
「乃賀原、今は五つ目。ここでいう八つ目」
「つまりは私の六つ目か」
「そういうことだ。仕事は?」
「二階の一番奥のはすむかい。ただの壁で下にも部屋はない」
「楽勝だ。図面と空間遮断機を」
「よしいこう」
「マカダミアナッツ消化器入り四つ。帰る時にもってけ」
「おおおおおーーーーほほほほほほーさすがはドン乃賀原の一番の側近! よくできる男だー! ナッツをケツの穴に入れてパキッと割ってや……失礼。マカダミアナッツを見ると人格が入れ替わる」
スプリング・ローブド・シューターと乃賀原は騒がしい二階へ行き仕事を始める。
「あーもう、美桜がぶちぎれるのが目に見えるよ……」
「安心しろ仏坂、二人は宇宙でも有数の空間認識科学の天才だ。彼らに任せれば悪いようにはならない」
冷静に幕皆が諭す。優しげな語り口で仏坂の肩に手をのせる。幕皆は乃賀原が唯一信用する人間だ。学校も一緒だった。一緒に遊んだこともある。その時は乃賀原のパートナーじゃなかったはずだ。一体何があったのかは頑なに話そうとしない。
「そう? 前は学校で寄生虫を繁殖させてうまくいくといってた。結果は」
「食物連鎖が崩壊。ついでに学級も。ポリオが再流行した」
「思い出させないでよ! ほんと最悪の二週間だった」
「ここはどっちだ」
「バルバロス! そっちに干渉ジェネレータがある。スパナをとるついでにとってくれ」
「了解。投げるぞ」
「おう」
バルバロスたちは緑川の部屋のものを全て片付け、壁紙から床板にいたるまでの全てを掃除した。ドアや窓も取り外し、きちんと整備した。まさに四角い缶詰。
はすむかいでは壁が切り取られ、ちょうど緑川の部屋と同じサイズの空間が配置された。庭から足場が組まれ、ローブド・シューターのチームが寸法を測っている。
「よしできた。起動しろ」
ローブドが装置のレバーを下ろしコンピューターで調節する。すると今まで足場が構成されていた場所に紫の光で空間が形成され、壁と床と同じ材質、色に変化し、緑川の部屋のはすむかいに「部屋」が完成した。
「よっしゃー! また成功だ」
「ほんと最高の仕事だよ。今日はキリストの生誕祭だ! 今からロフトで香水を箱買いする! すまん、仕事が成功すると人格が入れ替わる」
「ほんとよくやってくれたよ。バルバロスもな」
「いつでもこいだ」
バルバロスが四本指でグッドサインをつくる。
「じゃあ解散とするか」
「またいつでも呼んでくれ」
「みんな! 撤収だ。ゴリンゴリンゴー!」
恐らく今のはバルバロスの言葉で「帰るぞ」って意味だろう。
「仏坂。下準備は整ったぞ。私を尊敬しろ」
「分かったけど……何をしてるのかだけは教えてくれない?」
「あ? だからお楽しみだといっているだろうが」
まるでお前は関係ないみたいな顔で拒絶してくる。
「でもこれって最終的には僕も関わる仕事なんでしょ。だったら僕にも口を出したりあれこれ指示する権利はあるでしょ」
「権利を主張する気か。そういえば今日はキング牧師の誕生日だったな」
「まだ五月でしょ」
「どうでもいい!」
「とにかく教えてよ」
「乃賀原、教えてやれよ。仏坂のいうことももっともだ。常識的なところを見せておかないと国潤にチクられた時厄介だ」
「……分かったよ。お前が私より分別があって良かった。いいか? んん」
もったいつける奴だ。
「この家の図面を調べた。恋愛のハウトゥーをするわけじゃないがカップルにとって一番良い日のあたり方や間取りを研究した。国立女性器愛撫大学によると」
幕皆がためいきをつく。
「太陽の入射角が三十ニ度の部屋が一番恋心が育つらしい。あの部屋は綺麗だし暖かい。ピッタリだ。お前たちの……寝室にな」
「寝室にするの? 緑川の部屋を」
「何のために壁紙を剥がし、窓を洗ったと思う。オフコースの『さよなら』がずっと頭に流れてる緑川への嫌がらせだと?」
「分かったよ。ありがたいけど、人の部屋を一つ奪ってでもこの倦怠期を解消しようと思わないよ」
「黙れ! 自分のためにやってるんだ。もういい」
乃賀原は折りたたみ携帯をプッシュする。
また宇宙人の友達を呼ぶのか。スプリング・ローブド・シューターとかいうのは人間の見た目だったけど。
「萩野。久しぶり、君に頼みたい仕事がある。幕皆が住所を……え? 幕皆はいないよ。いないいない。え? じゃあなんで幕皆に住所を送ってもらう必要があるのかって?
それは……とにかくきてくれ」
乱暴に終わらせる。
「はぁ……お前が彼女と喧嘩中なの忘れてたよ」
「萩野か。別にいいさ。あいつの心をずたずたに引き裂いてその上でフォークダンスを踊ってやる」
「分かったから……ちょっと休憩するか」
「朝から何も食べてない」
「幕皆うまそうに目玉焼き食べてたでしょ」
仏坂が眉をひそめる。
「俺は胃袋をブラックホールに直結してる」
三人はソファに座り込んでしばし沈黙していた。
「ねえ」
仏坂が重々しく開口する。
「なんだ」
乃賀原。
「ちょっと真剣な話していい?」
「というと?」
「その……帰ってくる前の話……」
「おーっと」
幕皆が席を立つ。
「俺は退場した方がいいかなー?」
「どうして、お前がいたほうが楽しい」
「俺、余計なこと喋っちゃうかもだから二人で楽しんでー。俺は地下で仕事しとくー」
わざとらしく物置に消える。
「はー……」
乃賀原のため息。
「で、なんだよ」
「いや、いや中二の途中に失踪したと思ったら高校でいきなり現れて、幕皆だって僕の同級生だったのに君の宇宙の犯罪組織の一員だし。わけわかんないよ。これからも一緒に住むんだったら、あ、あ、ある程度の事情は話して欲しいなって思って……美桜と緑川にはいえなくてもさ」
「お前だけには言えって?」
またしても沈黙。何を話そうか迷っているのか。萩野とかいう人が来るのを待っているのか。どっちにしろ話をする気はなさそうだが。
「あのな。私は、あー、家族を愛してはいなかった。家族も私を愛してはいなかったし、だからこそ私は科学に没頭した。この世の真理を追求し、未知を既知に変え、他の人が知らないことを知り、できないことをした。私は人という有機体に愛着を持ったことはない。私は自立したかった。武器とエネルギーを供給し、企業や犯罪者、マフィアと契約を結び、ネットワークを築き上げた。仕事の都合上一人ではできないこともある。拓波は仲間以上の存在だ。お前たちはカスだ。お前がなんと言おうと緑川や国潤はカスだ。お前の価値観が私と違っていたところで私は自分のを押し通す。お前のをカスだと批判し、他人のをゴミとけなす。それ以上でもそれ以下でもない。別に住もうと思えばどこにでも住めるし」
「つまり……僕たちは都合がいいだけってこと?」
「そうはいってない。これは一時的な利害一致に基づいた共存だ。宇宙ではこれを相対性理論と呼んでいる」
「そうなの?」
「あー適当だ。大体分かるだろ」
ドアベルが鳴る。
「来たぞ。萩野だ」
「萩野って」
「最高のインテリアコーディネーターさ」
乃賀原がドアを開ける。白いスーツと青のシャツで着飾ったポニーテールの女がずかずかと入ってくる。
「幕皆とは会わないわよ。前のお見合いでは散々だった」
「まあまあ、そう言わないでくれ。奴はまだ高校生だが大人と変わらない」
「あなたはバスケ選手より高いから大人っていわれても違和感ないけど彼は……もういいわ。それで? 仕事の話ね」
「必要な物はなんでも揃ってる。君のチームは優秀だからな」
「オーケー。猶予は?」
「一時間」
「どこ?」
「二階の廊下の奥の部屋とはす向かい」
「案内して」
乃賀原は仏坂を置いて萩野を二階につれていく。
乃賀原はいつもそうだ。凡人を置いて有能な者とだけ仕事をする。自分も加わりたいとは思わない。エイリアンをぶっ殺したり銀河連邦政府の銀行を強盗したりするのは嫌だ。
かといって組織の運営や人員の派遣もできない。彼は天才だ。間違いない。それはみなが認める。だが彼は幸せだろうか。人にできないことをして、確かに満たされた気持ちにはなるだろう。しかしそこから何かが生まれるのだろうか。彼の心の中の孤独が弾け、愛が生まれ、心底笑顔で幸せになれる日はくるのだろうか。
「床板はオークの二枚目。壁の色は……あー君に任せるがくれぐれも変なのはやめてくれよ。ワックスも頼む」
「分かってるわ。そこ! 結び目が雑よ!」
仕事をしているチームの一人に怒鳴る。一枚の大きな壁紙を部屋全体に貼り付けて余った部分を大きく結んで装飾に利用するのだ。
「すみません。やり直します」
「そうしなさい! ところでこれは誰の部屋なの乃賀原」
「友人の寝室にするつもりだ。倦怠期で居心地が悪い」
「なるほど。倦怠期のカップルの寝室? あんなことやこんなことができるような部屋ってことね」
「まあ……そうだな」
「いつから優しくなっちゃったの」
「は!」
心底驚いた様子で目を大きく開く。
「私は優しくなんてなっちゃいない。ただあいつらが気まずい関係を続ければこの家全体に気まずい空気が流れる。そしたら私の仕事に差し支える。それが嫌なだけだ」
「前のあなたなら二人を殺すか家を焼き払っておしまいだった」
「人はそう変わらない。私は信念のもとに行動してる」
「それはどうかしら? あなたの目の奥の炎は燃えたままだけど周りに水が集まって弱まっている」
「なあ、分かりにくい比喩はやめてくれよ。国語は苦手なんだ」
「ねえ、彼女のことは残念だった。あなたが幕皆以外に心を開いたのは彼女だけだったでしょう。でも彼女は……その……」
「彼女のことは君には関係ない。我々は仕事仲間だ。私は君に手伝ってもらうかわりに金を払うし何かあったら助ける。以上でも以下でもない。私は悲しい思い出を引きずるつもりはない」
「確かに……ごめんなさい。少し踏み込みすぎたわね」
「反省しておいてくれ。あと二十分だ」
「分かったわ……」
乃賀原は部屋を出て階段を降りてリビングへ入る。
仏坂は訝しげに二階の様子を窺っていたが乃賀原が降りてくるのに気づいて慌てて漫画を掴んだ。
乃賀原はソファへ倒れ込む。
「どうしたん」
「国潤からの連絡を待ってる。そろそろ迎えに来いっていうメールが来る頃だ」
「なるほど……」
……………………
「ねえほんとにそれだけ?」
「どういう意味だ」
「僕のことが心配なの?」
「どうしてお前を心配する。自殺でもしたいのか? スリーで突き落としてやるぞ」
「セックスのこと。できるのかって思ってるんでしょ」
「別に……お前はやる時はやる男だ」
「実際はよく分かってないんだ。どうやればいいの」
「そんなことかよ。ググれよ」
「嫌だよ。履歴に残したくない」
「相手への愛で体を動かせ。耳を舐めろ。してる最中は頭を撫でてやれ」
「そうじゃなくて……どうやって誘うのさ」
「はぁ? 誘うだと? ノリでいけよ」
「それは不同意性交なんだよ。犯罪だよ」
「この地球ではそうらしいな。だがその法律でいくと手を繋ぐだけで罰金ということになる」
「ああ……分かった……」
乃賀原のポケットが光る。
「お、来た来た」
携帯を取り出して返信する。ソファから飛び起きて物置へ行く。
「仕方ない。お前のために調教をしておいてやる」
「なにを?」
「冗談だ」
国潤がボケーっと突っ立っている。あまりにアホな光景だ。
「おっと」
駐車場のフェンスに突っ込んでしまった。
「ああ」
最近ブレーキの調子が悪い。マシンガンが勝手に出てくるよりマシか。ドアスイッチを乱暴に叩く。
「迎えに来てやったぞ」
「荷物入れるの手伝ってよ」
「私がそんなことするような人間に見えるか?」
「ええ、見えるわ。早く手伝って」
ミネラルウォーターのセット段ボールを二つ車内に運び込む。後ろには爆弾が積んであるから衝撃を与えないようにしないと。
大きなエコバッグは後ろのトランクに詰め込む。
「おらよ。早く乗れチビ」
「はぁ?」
乱暴に離陸する。
「お前、ああ、言いにくいが、そのー」
「今日はやけにおしゃべりね。薬のおかげかしら?」
「今日は一錠も飲んでいない!」
「昨日はどうかしら? 鎮痛剤って本当?」
「うるさい! オレンジのピルボトルを使うのが悪いか? じゃなくて、仏坂は模範人を絵に描いたような奴だ。奴の情熱は科学では計り知れない。特に愛に関してはだ。だから受け入れろ」
「何のこと? 別に彼を突き放してるわけじゃない。ただ……彼との関係を見つめ直してるの。穏やかなところは好きよ。だけど……この家にいると思うの。私たちの関係にゴールってあるの? あなたは天才で、誰のことも尊敬しない」
「尊敬する人はいる。メキシコのシャーマンだ。手を使わないで……」
「だから! 愛って結局何なのかって考えるの。お互いに依存し合うのはオーバードーズと同じ。危険よ」
「国潤。深く考えるな。お前はあいつを愛して、あいつはお前を愛してる。それ以上に大事な物なんてない。ぎゃ、逆に何を望んでるんだ」
「……そうね」
ハンドルの側面の一番上のボタンで庭を開けて格納する。
「ねえ、今日は話してたから時間が長く感じたわ。これからも話しかけてね。気持ちが楽になった。ありがとう」
「は? 長く感じたのは遠回りしたからだ。それに私はセラピストじゃない。今度からは無視するかなボケ」
「何よ……」
チビと言われると思ったのだがボケだったとは。
「夕食だけど緑川はいないぞ? これはいいのか」
幕皆が反抗する。
「塾なのよ。もうすぐ帰ってくるわ」
「早く食べよう。あんなラブドール待ってられない」
「やめなさい!」
「ただいまー」
ドアが開く。
「くそ。帰ってきたぞ……」
国潤が乃賀原を睨みつける。
「先に食べてていいよ。荷物を置いてくる」
幕皆が三本指を見せる。小さい声で数えながら指を一本ずつ折っていく。
「何なのこれ!」
二階から緑川の金切り声が聞こえる。階段を駆け下りる音も。
「乃賀原でしょ! 何したの。私の部屋が部屋じゃなくなってる! いくら何でもやりすぎでしょ」
「何をしたの!」
「何も」
乃賀原が言う。
国潤が幕皆を睨む。
「何も」
幕皆も言う。
「じゃあどうして私の部屋が……!」
「落ち着け。お前の部屋は無事だ。着いてこい」
乃賀原が二階へ行く。四人が着いていく。
「何これ!」
三人が驚嘆する。
部屋の中は純白の壁紙が貼られ、どんな光も一様に反射し、美しい楽園の模様を呈していた。床はつやのはる濃厚なオークに変えられ、部屋全体から頭がくらくらするほどいい匂いが漂っていた。四隅に置かれたアンティークの棚の上のランプは穏やかな光を放ち天井のファンが暖かみのある風を送っていた。そして中央のダブルベッドのシーツはどんな小さな光さえも完璧に反射し、この上ない高級感を醸し出していた。
「これは……」
「お前らの寝室だよ」
長い乃賀原の両手が仏坂と国潤の肩に置かれる。
「これこそお節介の極みじゃない! こんなことしてなんて誰も頼んでないでしょ! え頼んでないよね光介」
「頼んでないよ……」
「そうだ。頼んでない。私が勝手にやった」
「ふざけないでよ!」
「はいはい、その過激な気持ちは夜にとっておけ」
「私の部屋はどうしたの!」
乃賀原は振り向きもせずに斜向かいを指差す。
三人はその方向を見る。見慣れないドアがついている。
「あれ、ここは壁だったでしょ」
国潤が声をあげる。
「開けろ」
緑川が恐る恐るドアノブをひねる。
「え……」
緑川の部屋だった。それ以外に言いようがない。ポータルの中に押し込んだ物は全てここに移ってきていたのだ。バルバロス・サリンジャーが持ってきた空間生成の機械をスプリング・ローブド・シューターと一緒に使って部屋をもう一つ創った。そこを緑川の部屋として物を配置し、壁紙をあつらえ、電気や窓を整えた。
「な? ちゃんとあるだろ? ほら飯が冷めるぞ」
乃賀原はさっさと下に降りていった。三人は目を点にして、創られた部屋を眺めていた。彼らは簡単に科学だというが、三人には神の所業としか思えなかった。それぐらいにあり得ない技術だった。
「緑川」
幕皆が小さく重く言う。
「君は昨日、彼の君に対する愛情が偽物だと言う口振りで彼を批判した。彼が本当に君をラブドールの版元としか思っていなければ、君の部屋を改造しておしまいだ。わざわざ面倒臭いことをしてまで君の部屋を残した。みなにとって良い結果を作ったんだ。君も彼に対して考えを変えた方が良い」
「でも……私だけ地下へ行かしてくれない」
「それも考えようだ。君を危険へ晒したくないのかも、知らんけど」
終始暗く喋り通して、階段を降りる。
緑川の顔から憂が少し消える。自分が彼を思った時間は、彼も私を思っていた時間と同じだったということか。よく分からないが少し、気持ちが楽になった。仏坂と国潤は気恥ずかしそうにお互いの肩を感じる。
今日という一日は「いつも通り」とは言い難く受け入れ難いこともあったが、楽しく、乃賀原の優しい気持ちを知れた日だった。
終日眠りにつく時、今日という一日を惜しみ、明日への希望を持てるというのは実に素晴らしいことなのではないか。死ぬ時に人生を振り返り、夢ならば覚めないでくれと願えれば良い人生だったということだ。結果ではない。過程だ。どんな道を来たかより何をしてきたかが重要なのだ。乃賀原は未知か既知かと口癖のように言うが、結局はそう。それも人によって変わる。
もう皆眠りについた頃だが仏坂は一人乃賀原を探して物置に向かっていた。
「おお、何してる」
キッチンで薬を飲んでいた。
「いや、お礼をいいたくてさ。その、ありがとう。自分一人では多分、克服できなかったから」
「昨日から百回ぐらい言ってると思うが全ては私のためだ。お前らが別れても、この家から出ていくこともないだろう。くっそ気まずい空気が流れたら幕皆が喘息を起こす。そしたら仕事ができない」
「あぁ、そうなの?」
乃賀原は頷き、ガス給湯器の電源の側面のボタンを押す。すると床からマットレスの敷かれた金属板が現れる。
「よいしょ」
乃賀原はそこへ寝転ぶ。
「じゃあ、おやすみ」
「そうだな。お前らはよく眠れ」
「お前らは?」
「私は薬のおかげで睡眠が短時間であれば短時間であるほど上質な睡眠をとれるんだ。私は頭の中で暗殺計画を考えるからお前らは楽しめ。今日はながーい夜になるだろうな……」
「……」
仏坂は無言でリビングを出て二階の寝室へ向かった。ゆっくりとドアを開けて中を見る。すでに国潤はベッドのシーツの質感を楽しみながらファンの回るのに視線を預けていた。
「やあ」
変な挨拶だ。まるで付き合って数日のカップル。
「変な挨拶」
言われると思った。
「あー、入るよ?」
「どうぞ?」
国潤は既に自分の領土を決めていた。掛け布団とシーツはまるで極上のオイルだ。荒れが目立つ手が癒やされていくようだ。
「このシーツすごいね。どこで見つけたんだろう」
「さあね、宇宙人の内臓を加工して手作ったんじゃなきゃいいけど」
「はは……」
ベッドに入る時に掛け布団の中が見えた。
まだ五月で寒さは残っているというのに今まで見たことのないぐらい短いパンツを履いていた。絡ませた両足が妖艶な空気を漂わせていた。
「あー……寒くないの?」
「どうして? この布団最高よ。多分私たちが感じてる温度に合わせて熱を変化させるみたい」
新しいことを発見するのが本当に得意な人だ。
「あの、話し合わない?」
「何を?」
「いや、だから……今の関係のこと」
「そうね……じゃあ話すわ。乃賀原は自分が勝手にやったって言ってたけど、私はそうは思ってない」
バレてた。そのかわいらしいおでこと素晴らしい形の目に見透かせない物はないのか。
「じゃあ……どう思ってるの?」
「とぼけないで」
「分かったよ……確かに僕が話した。でもそれは今の関係を改善したかったからで」
「いいの。私も彼に話そうと思ってた」
「どうして? 君が冷たくしてたから……」
「私はあなたが冷たくしてると思ってた」
「ああ……乃賀原が倦怠期だって言ってた」
「倦怠期なんかじゃないと思うの。お互い親しくなりすぎて、ちょっと距離の取り方を考えたのかも。もしくは今の関係に飽きてきたのか」
「飽きてきた? あーそれはちょっと、寂しい言い方だね」
国潤が仏坂に体を寄せる。仏坂は戸惑いながらも顔に出さないようにして受け入れる。
歯磨き粉のミントがかすかに香る。
「そう? もう今までの愛では足りないぐらいお互いがお互いを好きになってるっていう証拠じゃない? 私たちは乃賀原の作るような機械仕掛けの人形じゃない。そうでしょ?」
「まあ確かに。じゃあ、ほっといても良かったかもね」
国潤がもっと近づいてくる。仏坂の胸に手を当てる。やばい。心臓の高鳴りがバレてしまった。
「……あなたの気持ちを知れて良かった……悔しいけど、乃賀原は天才ね」
ゆっくりと上目遣いで言葉を繋ぐ……
『できる奴っていうのはある程度のところで度量をみせるもんだ』
乃賀原の言葉が蘇る。
破裂しそうな心臓の鼓動を少し離れたところに置いて、仏坂は両腕を国潤の背中に回す。
国潤の頬が一気に紅潮する。ランプの淡い光で気がつかなかったが瞳に優しい炎が燃えている。仏坂は起き上がってくるものを感じながら国潤から視線を外さずに求め合う唇を感じた。
執筆の狙い
ずっと頭の中で考えてきた思想や妄想に体を与えてみました。楽しんでいただけると幸いでございます。