新米のアームズ・ディーラー
【第90話 魁!無明三段突き】
ドオ〜ン、ゴロゴロゴロッ!
「ううっ……」
「大丈夫か、マサぁ〜?」
角刈り副小隊長マサの元へ総子が駆け寄る。
「あ、姐さん、ヤツは普通のゴブリンと違いやすぜっ!」
「違う? 体がデカい分、力が強いとは思うが……」
「そうではありません。なんかこう、こちらの威力が半減されている様な、力が伝わらないという感じです。まともに剣を合わせるのは止めた方が良いですぜ!」
総子が角刈りマサに打ち勝ったデカいゴブリンを見ると、勝ち誇った顔で次の得物を品定めしている。
1番隊もデカいゴブリンを取り囲んではいるが、副小隊長のマサがふっ飛ばされた事で攻撃をためらっている。
そこへ、しびれを切らした1番隊の一人が前に出ようとした。
「待てっ! そいつは私が殺るッ!」
総子が囲みの中に入り一歩前に出ると、デカいゴブリンの顔が好色じみたニヤけ面に変わり、ヨダレを垂らしながら喋りだした。
「|ギヒッ! ギギココギッヒ〜!《おっ、まだキレイな女がいるじゃね〜か!》」
「|ギヒッ! ギギココギッヒ〜!《おっぱいデカい、美味そうだ!》」
「何を言ってるんだ、コイツはぁ?」
だけど、非常に失礼な事を言っているのは分かる。
総子は刀を構えて吐き捨てた。
「かかってこい、このゲス野郎ッ!」
その言葉が試合開始の合図となり、デカいゴブリンが単管を振り上げた。しかし、角刈りマサの時とは違いゆっくりと振り下ろす。
どうやら相手が女と見て、傷付け無いように手加減している様だ。
「バカめっ! 青眼剣ッ!!」
総子は刀で受け止める事なく、見事なタイミングで上段から擦り合わせ、単管の方向をわずかに逸らした。
キャリキャリキャリー!
青眼剣、いわゆる『切り落とし技』。刀で正中線を取って斬り結び、相手の刀を切り落とす天然理心流の上級技である。
方向を逸らされた単管は、総子に当たる事なく、総子の左側の地面を抉った。
対して、総子の刀は平正眼の構えを取る。天然理心流のあらゆる技の初動位置だ。
「ここだぁっ! 奥義、無明三段突きぃぃぃー!!!」
総子の必殺技、三段突きの奥義が、単管を地面にめり込ませたデカいゴブリンに襲いかかった。
ズバッ、ズブッ、ズボボボボッッッ!
最初に単管を持った手に総子の試作日本刀が突き刺さり、ゴブリンが武器を落とす。次に胸を突き、ゴブリンの動きを止める。最後は首を突き刺しゴブリンの息の根を止めた。
しかし、余りにも速い三段突きの動きを、目で追える者は、敵のゴブリンはもちろん、味方の1番隊員ですら誰もおらず、彼らには1段の突きにしか見えないのであった。
無明三段突き、篭手、胴、面と三回に渡って素早い突きを繰り返し、引く度に横に払う技。
引く事によって刀の鎬で相手に深い傷を与える事が出来る。見ている者には、あわせて一つの突きにしか見えないほど素早い。
天然理心流の最大奥義であり、現在この技を使える者は総子しかおらず、過去には江戸時代末期に一人だけ存在したという。
ズズズッ、バタ〜ンッ!
首から刀を引き抜かれ崩れ落ちるデカゴブリン。
しばらくすると、デカゴブリンは一回り大きな魔石に変わり、それを拾い上げた総子は1番隊の隊員達に言った。
「お前達、コイツはお宝だよッ!」
「おおっ、やったるでぇぇ~!!」
実は、GAT隊には特別報酬が通達されており、食堂に価格表が掲示されていた。
『GAT隊員各位
陸上自衛隊 開発本部
ゴブリン、その他の魔物を倒すと魔物は魔石に変わる。その魔石には大きさがあり、現在確認されている物は直径1センチ。しかし、今後はそれを上回る魔石も出て来ると思われるので、必ず回収する様に!
下記に魔石価格表と交換レートを記す
記
1、直径1センチ・・・1万円
2、直径2センチ以上・・・要相談
以上』
1番隊は、これを読んで魔石の回収ルールを決めていた。
魔石は誰が回収しても小隊内で山分け。但し、直径2センチ以上については倒した者の物だ。そして、要相談の値段は100万円になると噂されており、それが総子の手にある事で1番隊の志気が大いに上がった。
「ステージの周りに、100万円が10匹はいるぞぉ〜!」
「おおっ〜!」
「100万円ッ! 100万円ッ!」
皆、現金なものである。
そして、お金に目がくらんだ1番隊は、雑魚ゴブリンを無視して、ステージの周りにいるデカいゴブリン目掛けて突進していった。
一方、ステージ上のゴブリン司祭は、まさかの出来事に動揺していた。しかし、1番隊が突進して来た事で我に返ると、捉えた女達の中からアヤヤを連れ出して、周りのデカゴブリンに呼びかけた。
|「ギヒ〜、ギギギコギギコギココ、」《皆の者、ヤツ等を倒した者には、》
|「ギヒ〜、ギギャギャギャギャア」《一番の上物女をくれてやる、かかれェ〜!》
|「ギャギャッ! ギャギャッ!」《上物女ッ! 上物女ッ!》
ステージの周りにいたデカゴブリン5匹は、それぞれ単管や鉄骨の武器を持つと、突撃する1番隊を迎え討った。
「うぉぉ、100万円!」
|ギャギャッ!《上物女〜!》
ここに、100万円対上物女に引き寄せられた者達の生々しい戦いが始まった。
【第90話 魁!無明三段突き 完】
執筆の狙い
第90話から作品の山場に差し掛かり、新撰組の剣技を使った厨二的なアクションシーンがモリモリに増えていきます。
しかし、アクションシーンの描写が苦手な私は、これで良いのか分かりません。
そこで、90話のアクションシーンの評価と改善点などのアドバイスを頂けないかと思って、投稿させて頂きました。
どうぞ、よろしくお願い致します。