作家でごはん!鍛練場
アイス

なろう小説なんてクソ食らえ

「……うっわ……」
 夜も深まった時間帯。一瞬にして膨れ上がる困惑の感情は眠気すら吹き飛ばした。突然の出来事が胸の内を乱し、この有様に当の本人は、ただただ言葉を失っていた。

 せめて後悔の矛先を向けるとしたら、それはきっと俺の運、運命にだろう。簡単に自分のせいだと割り切ることなど、心の弱い俺には到底できなかった。

「……全部消えちゃった……」

 幸福の裏には不幸が潜んでいて、だいたいその不幸の方が往々にして残酷だ。
 目の前のディスプレイに映るは、タイトル以外消えた真っ白の更地。『やって後悔した方が辛い』俺の生き様を綴った小説は、応募期限二日前に消えてしまった。

 静かで冷たい部屋。俺はPCを閉じてベッドに転がる。
 「あぁー……つまんな」
 『良いことが起きれば反動に悪いことが起きる』 ヘーゲル的弁証法、カルマとでも言うべき現象に期待しても、もはや期待しきれない絶望。

 こんな形の不幸がどう幸運に転じるのか――。
 タイトル以外何も残らなかった俺の心は、ぽっかりと穴が開いてしまったようで、残った喪失感は、もう当分は埋まる気配が無かった。


 ――それは授業すらも手が付かないほどで。
 せっせと板書を取るこの状況に俺は太々しく腕を組んでボーっと座っていた。

「なぁ? 落ち込んでるだろ」
 隣から囁く友達。俺の取り繕った不満げな顔から何かを察したのか、付け込むように竿を垂らして、ニヤニヤとこちらの情緒を伺っている。
「……昨日、賞に応募する予定の小説間違って消しちゃったんだよ」
「っなわけ」
 その言葉には漏れる吐息には含み笑いが混じっていた。まるで信じていない。
「……あらすじと本編別で送れってやつでさ、イジってたら全部消えたんスよ」
 俺は授業中と弁えつつも、最大限の後悔の度合いを見せる。

 別に、将来入賞するかも分からない小説にここまで執着するのは自分でもおかしいと思う。けど、だからといってこの気持ちを簡単に切り替えられるほど熱意を持て余していたわけじゃない。
 と言うか、今まで積み上げた努力が一瞬で泡になったことが辛くて――。

「そういえばお前が小説書いてるのって私以外知ってる人いたっけ?」
 他人の不幸を共有する気か?
「誰も。高校生が小説書いてるなんてイメージ悪いしな、オタクみたいで」
 《《なろう系》》。転生が主な異世界系の小説が存在する限りこのイメージは払拭できないだろう。ラノベも大概だが、書店に並ぶタイトルから程度が知れてる。
「人なんかに言えないだろ?」
「否定はできないがお前はオタクだ。……けどまぁ、見たかったな~お前の小説」
「……俺も」
 余計に後悔を煽られるばかりで、話は一段落着いた。
 俺は姿勢を直し、板書を取るこの状況に太々しく腕を組む。


 ――何となく見る黒板と書かれた日付。
 ……一週間、そうか今日で一週間経ったのか。

 今思えばコイツが来てから調子が狂った気がする。
 コイツが俺の運を吸い取っていてもなんらおかしくない。
 むしろコイツに神経すり減らしてたせいで……。

 俺の視線は宙を舞う。

 こいつが日常化していることは悍ましいことだろう。コイツは何者で、なぜ俺の前に現れたのか――。ぶっきらぼうなその顔が歪むほどに問い詰めてやりたい。

 ――それは空中を浮いている。いや、泳いでいるのだろうか。
 ユニークな形状と、ゆっくりした泳ぎ。円盤のような形は――。

 ……マンボウだ。 
 ……やはりマンボウだ。

 いつからか俺の目の前には空を泳ぐマンボウが現れた。特に喋る訳でも、魔法の力を与える訳でも無く――ただ空に浮いている。
 なぜ急に俺の日常に溶け込んで来たのか、当てがないのが一番怖い所だ。
「田野《たの》~ご飯食いに行こうぜ~」
 隣から聞こえるその声は、依然宙に浮いたその違和感に声を上げない。
 ――その姿は、俺以外誰にも見えていないらしい。
  

 向かいで座る学食、俺はカレーを食べながらもそのことに頭を悩ませていた。そしてその疑問は、脳内に収まらず、向かいに座る友達にまで投げかける。
「なぁ、マンボウの対処方法とかって分かる?」
「……マンボウかぁ。ストレスに弱いとか聞いたことあるけどー……どうだろ?」
「ストレスって、窮屈な奴なんだな。広い海でストレスの何を感じるんだ」
 ――なんて、匂うセリフに向かいの友達は箸を突きつける。
「マンボウに文句言ってるお前も大概だぞ? ……死ねよ」
「そんなに!?」
 激しめのボケとツッコミ、友達は薄笑いを浮かべる。これが俺の日常だ。何がどう間違っても俺の周りをマンボウが泳ぐなんてあるはずない。
「……」
 改めて宙を漂うマンボウを眺めるが、やはり俺の前に現れた理由が分からない。
 幻覚だとしても薬も葉っぱも当てはないぞ……ギリ。

 *

 放課後の昼とも夕方とも取れない時間。磯のような独特の匂いがする濁った川を渡って駅に着く。ガヤガヤとした喧騒に包まれた駅前。そこから続くのは歓楽街。
 私服に着替えては、霞がたなびくような薄暗い裏路地を抜け、俺は壁にもたれかかる黒ずくめの男の前に立つ。
「ファンタジーは好きかい?」
「物によるな。なろう系とか主人公の器が足りない話は嫌いだ」
 思想を押し付ける話は好きだが、一辺倒な妄想を押し付ける話は受け付けてない。小説を書くようになって中の人間を容易く想像できるようになってしまってからはさらになろう嫌いが酷くなった。
「いくら嫌いだからって、客相手にそんなこと言うなよ?」
 胸に押し付けられる茶色の紙袋。それもちょうど本一冊入りそうな。
「分かってるよ。これは?」
「欲望の塊。城北高校《じょうほくこうこう》第二図書室に客がいるはずだ」
「……分かった」

 俺のバイトは欲望を売ることだ。原理なんて知らない、ただ人は心を満たし、現実から逃れるために金を払う。そして俺はそれを運ぶ、それだけの話で――。
 今回の品物、『欲望の塊』なんて適当な隠語で繕ったこの紙袋の中身は、十中八九なろう小説だろう。転生やらチートやら大した重みもない、やっすい欲望に量産された小説の何がおもしろいのか。
 
 web小説のランキングに蔓延る《《なろう》》と押しのけられた俺の作品への不当な価値。
 バカみたいに似たような話ばっかでどうして俺の小説が……つまんねーの。

なろう小説なんてクソ食らえ

執筆の狙い

作者 アイス
126.248.183.58.megaegg.ne.jp

投稿した作品は1話になります。現在カクヨムで6話ほど書いたのですが低迷しており、このサイトに投稿しました。
1話目ではそんな感じることがないと良いのですが、ストーリーが単調だったりする気がしてなりません。

・1話のストーリーの評価。
・もし1話を見て気になってくださったら6話見ていただいて全体のストーリーの感想が欲しいです。

コメント

謎の物書きP
softbank060117225123.bbtec.net

拝読しました。
文章は読みやすいと思います。とはいえ、これだけでは正直なところそれ以上の感想ないです。
気になったところで言えば、友達の「私」
男なのか、男のように乱暴な言葉遣いの女なのかと。友達との会話で自分のこと私という男の人をみたことないです。
もしかして最初は女子に設定してたけど、途中で男に変えたのだろうかと思ったり。
さて、続きは他所でというのは、余程興味持った人しか読まないと思います。謎のマンボウの正体がなんなのかと、続きが気にさせるほどの存在ではないのでは。
それなら、初めから全部こっちに載せた方が、具体的なアドバイスもらえるチャンスがあると思います。

アイス
126.248.183.58.megaegg.ne.jp

謎の物書きPさん
読んでいただきありがとうございます!

自分自身、このサイトに投稿することに慣れてなくこのような強行をとってしまいました。
次回、二週間後にまた機会があったら、全部どしんと投稿してみようと思います!

「私」はあえて詳しいことは省きました。
結構女よりに書いているんですけど、男か女か分からない方が叙述トリックっぽくておもしろいかなって……。

夜の雨
ai193169.d.west.v6connect.net

現在3面にある
佐 「なろう小説なんてクソ食らえ」
なら、感想「2024-11-14 21:05」「2024-11-16 20:44」ふたつ入れてあるけれど。
返信がない。

それと「カクヨムの6話」なら、すでに取り込んであります。

感想とか返信などはキャッチボールのようにやり取りしないと、作品の本質を知り掘り下げることはできないと思いますがね。

ここは「鍛練場」で小説を鍛練していくところなので。
カクヨムに書かれている感想とは狙いが違う。

夜の雨
ai193169.d.west.v6connect.net

ちなみに、作品の一部しか投稿しないと感想も的外れになる可能性もあります。
ラストまで読まないと理解できないものが結構ありますので。
何しろ、他人の人格が書いているので、冒頭だけでの感想は無理がある。


上の書き込みの修正。
二回の書き込みは日時は下記です。

>2024-11-16 20:08

>2024-11-16 20:44

以上です。

アイス
126.248.183.58.megaegg.ne.jp

夜の雨さん。
読んでいただきありがとうございます。

まずは色々すいませんでした。自分自身忙しくて返信が出来ない状態が多いのがあります。
スクロールして返信しにいけって話ですけど、そればっかりはすいませんと。
これって名前固定じゃないといけないんですかね。

やっぱり全部一気に投稿した方が良さそうですね、二週間後にまたやってみますー

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

>アイスさん

前にもこの作品に感想を入れましたので、再訪となります。
まず、作者名についてですが、
前回は「佐」という名前、
今回は「アイス」という名前、
カクヨムでは「胡」という名前、
バラバラですね^^;
少なくとも、同一サイトでは同一の名前にしましょう。
それがコメントを入れてくれる人への礼儀だと思います。
もし、名前を変える場合は、
前に◯◯という名前で投稿した者です、
などと挨拶を入れると感じが良いと思います。

で、中身についてなのですが、前回の投稿の方でたくさん指摘したので
今回は一点だけ。

「マンボウ」のキャラをもっと立たせる

これに尽きます。
学生がだらだらとしゃべったりなにかに巻き込まれたりする作品はいくつもあり、食傷気味です。

この作品は、自分にだけ見える「マンボウ」というところに個性があるのですから
これを活かす必要があります。
冒頭、書きかけの作品データを失い、ショックを受けるというのは理解できます。
こんなひどいことになったのだから、次はいいことあるのではないか
と考えるのも分からなくはないです。
そこからのマンボウなので、作品の流れとしてちぐはぐな感じがします。

>いつからか俺の目の前には空を泳ぐマンボウが現れた。

いつから、って結構重要な情報だと思うんですよね。
作品データを失った後なのか、前なのか。
少なくともそこは明示すべきでしょう。
で、実際はどのような設定なのか分かりませんが、
例えば、マンボウの出現が作品データ消去後なのであれば、
データを失ったショックでこんなものが見えるようになったのであろうか?
と主人公につぶやかせてもいいですし、
冒頭シーンが、いいことと悪いことは交互に来る、みたいなことを語っているので、

>こんな形の不幸がどう幸運に転じるのか――。

その幸福がマンボウ?
と主人公に考えさせてもいいですよね。
マンボウの登場理由は、真相はこの段階では明かさなくていいのですが、
主人公があれこれ思索するシーンは入れましょう。
なぜって、読者もいきなりマンボウが出てきて戸惑うわけで、
主人公に思索させることで、読者は共感的に読み進めるからです。

この話、マンボウが出てこなければ小説サイトにどこにでもありそうな普通の話として埋もれてしまうと思います。
マンボウの描写メインで進行していく展開で書けば、読者はマンボウに注目して読み進めることでしょう。
カクヨムに飛んで続きを拝見しましたが、
マンボウのキャラが立っていません。

マンボウはただぐるぐる泳いでいるだけですか?
それとも、回りの事態に反応しますか?
反応するのであれば、どんな状況のときにマンボウはどんな反応をするのか
それを細かく書いていくと、読者の脳内にマンボウを生き生きと描くことができます。
例えば、マンボウが意外なものに反応する、ということに主人公が気づくシーンを入れるとか。
そうすれば、マンボウかわいいなと、読者がキャラに思いを乗せて読み進めてくれることでしょう。

最後に、他の方への返信で、

>結構女よりに書いているんですけど、男か女か分からない方が叙述トリックっぽくておもしろいかなって……。

こういうのは叙述トリックとはいいません。
ただの「説明不足」です。
男か女がわからないほうが、なぜおもしろいのでしょうか?
少なくとも、私はおもしろくありません。
マンボウの件もそうですが、読者はあなたが書いた文字のみを手がかりに場面をイメージしていきます。
場面や人物をイメージできない作品は、つまらないです。

もし、叙述トリックを仕掛けたいのであれば、さらに説明がいると思います。
仮に、読者に女だと思わせて実は男だった、としたいのであれば、
女だと思わせる表現をたくさん入れてミスリードさせる必要があります。
説明を省くことで誤認させよう、というのは作者の手抜きです。

長々と書いてしまい、失礼しました。
読ませていただきましてありがとうございました。

アイス
126.248.183.58.megaegg.ne.jp

神楽堂さん
読んでいただきありがとうございます。

名前は気をつけますね、すいませんでした。

マンボウは最初は居ても居なくてもいい存在にしたいと考えています。
徐々にそのマンボウの正体が分かると共に喋ったりしたりしたらおもしろそうじゃないですか?
例の女もそんな感じです。

亜菜
KD118156212143.ppp-bb.dion.ne.jp

タイトルに惹かれて読んだのですが、中身があまりパッとしていないように感じました。
はっきりとした説明がないので、読んだ後に結局何の話だったのか、よく分かりませんでした。主人公のバイト?も謎でしたし。
ただ、タイトルや、本編のなろう系への不満、データが消えた時の絶望感には非常に同感でした。データ誤消去の真の辛さは、創作する側の人間相手にしか伝わらないとは思いますが……

アイス
80.160.183.58.megaegg.ne.jp

亜菜さん。
読んでいただきありがとうございます。
ぱっとしないかー……主人公のバイトは察してほしい所あるのですが……。

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