作家でごはん!鍛練場
夜の雨

永遠が見える島

 健太が駄菓子屋から帰って来ると、奥の六畳の部屋で姉の美月がテーブルに図面を広げて、なにやら工作をしていた。
 彼女は細い木で出来た長方形の型枠に和紙を張っている。
 健太は銀玉ピストルで 美月の腕を狙って撃った。
 粘土で出来た小さな銀玉が 美月の腕に弾けた。
「何すんの、この子は」美月がにらむ。
「えへへ……」健太は笑ってごまかした。
「冷蔵庫に冷えたラムネがあるよ、のどが渇いていたら、飲んどき」
 美月はまた、工作に打ち込む。
 健太は急いで冷蔵庫まで行き、ラムネを取り出した。栓抜きで、シュポンとビーダマを抜き、細かい泡がパチパチとはじけるのを見ながら飲んだ。
 ラムネを飲みながら、再び美月のところに戻った。
「それなんや」と、訊ねた。
「回り灯籠や。中の蝋燭に火をつけると、内枠が炎のぬくもりで回って外枠に影絵が映るのや」
「なんや、意味がようわからんわ」
「わからんかてええ、あとで、見せたるさかい、夏休みの宿題でもしとき」
 そう美月は言ったきり、黙ってしまった。
 小学六年生にもなると、難しい工作が出来るようになるのだなと健太は感心した。まだ二年生の自分から見れば、姉の美月は大人のように思えた。だからつい甘えてしまい、駄菓子屋で手に入れた銀玉ピストルを試したくなったのだ。
 健太は所在なさそうに、しばらくは美月の器用な手先を見ていたが、やがて子供部屋に行き、夏休みの宿題をし始めた。
 窓枠に吊るした、風鈴が涼しげな音を鳴らした――。
 朝顔のつるが、窓枠に立てかけた竹の棒に絡みついて上に登っている。
 健太は夏休みの宿題を机の上に広げてはいたが、鉛筆を鼻の下に挟んでぼんやりとしており、さっぱりやる気がない。
「夕食の買い物に行ってくるさかい、留守番頼むよ」
  美月の声が聞こえた。
 窓枠の朝顔の隙間から、美月がすたすたと歩く姿が見えたので、銀玉ピストルでパンパン撃った。すると 美月は振り向くとアカンベーをした。
 健太は鼻の下に鉛筆を挟んでいたので、アカンベーをしそこなった。
 それから美月が何を作っていたのか興味がわき、六畳の部屋に行った。回り灯籠が完成してあった。
 健太はしばらく回り灯籠を見ていたが、要領がわかったのか中の蝋燭に火をつけてみた。すると、中枠が回転しだして影絵が動き出した。健太はそれを持って押入れに入った。
 押入れの中は、樟脳の匂いがする。障子を閉めると、むんとする空気のよどみが肌にまとわりついてきた。回り灯籠を見ると、中枠がゆっくりと回転しており、外枠の和紙に影絵がぼんやりと映っていた。それは、線香花火をしている、家族の影絵らしかった。父親と母親それに子供が二人……。姉と弟らしかった。
 幻想のような世界に、「おかあちゃん……」と、健太は思わずつぶやいていた。
 健太の母親は彼を交通事故から守ろうとして亡くなったのだ。
 回り灯籠はぼんやりとした明かりの中で、幸せそうな四人家族を映し出して、回転していた。

 その夜、健太は美月とふたりで遅い夕飯を食べていた。
 父親の直樹は妻が亡くなってから、帰りが遅くなっていた。いつも飲み屋で酔っ払って、帰ってくる。
 美月はそれをわかっていたが、父親の食卓には料理をおいていた。母親がいなくなってから、彼女の作っていた手作りのレシピを見て、美月は料理を作った。父親の食卓には子供たちが食べる料理のほかに一品よけいに刺身が添えられていた。それは美月が、母親のいつもしていたのを覚えていたからだった。
 健太は銀玉ピストルをいじりながら食事をしている。
「あんた、ええオモチャ手に入れたな。よう、そんなもの買うお金があったな」
「こうたんちゃう、これ、もろたんや」
「もろた?」美月が訊ねた。
「駄菓子屋のおばちゃんや」
「なんで、くれるんや?」
「戦争で死んだと思っていた息子さんが帰ってきたとか言うてたで。そのお祝いらしい」
「ああ、そうか、あのおばちゃん、息子さんが南方で亡くなったと役所から連絡があっても、嘘やとか言うて、神社でお百度参りしていたな。そしたら、帰ってきたとか言うて大騒ぎになった」
「ぼくらのお母ちゃんも、お百度参りしたら帰ってけえへんかな」
「お母ちゃんは、うちらの目の前で死んだからな……」
 美月はそういって、父親の料理を二人でわけた。いつものことで、直樹は飲み屋で夕食も済ましてくるのだろうと思った。
 しばらくすると、電話がかかった。
 飲み屋からだった。そこのママが電話をかけてきたのだ。父親を、迎えに来てほしいとのことであった。もう何回も、迎えにいったことがある。
 その瓢箪(ひょうたん)という店に行くには、神社の横を通り抜けていかねばならなかった。
 神社の通りには露店が並んでいた。いっぱいの人たちの中を二人で手をつないで、かいくぐるように歩いた。
 この界隈で祭りが行われていたのだ。裸電球に照らされて、金魚すくいや射的、綿菓子と店が並んでいる。りんご飴を売っているのを見て「お姉ちゃん、あれおいしそうやで」健太は言ってみた。しかし、美月は返事をしなかった。弟の手をしっかり握って、先を急いでいた。
 神社の前まで来た。
「ちょっと、よっていこ」美月が言った。
 姉に手を引かれて、神社に入った。美月は賽銭箱の前まで来ると、小銭を中に放り込んで、拍手を打った。健太はお稲荷さんと目が合って、あわてて目をそらした。姉の横顔をみて、母親を思い出した。
「おかあちゃん帰ってけえへんかな……」健太はつぶやいていた。
 母親が死んでしばらくは彼女に似た人が、この神社の付近をふわふわと歩いていたと、近所のおばさんが言っていたのを思い出した。きっと幼い子ども達を残して死んだのが心残りだったので、成仏出来ないでこの界隈をさまよっていたのだろうという話が誠しなやかに流れた。
 美月は合掌していたが、「お母さんきっと幸せすぎたんや」といった。
「幸せすぎたから、お稲荷さんに召されたんや」
 健太はそんな姉の横顔をじっと見た。

 飲み屋に着くと、父親は酔って寝ていた。
「ごめんね、こんなに飲ませて」
 ママが申し訳なさそうに言った。
「お父ちゃん帰えろ」
 美月が父親の背中をなでた。
「ああ、お前らか、迎えに来てくれたんか」
 直樹はうれしそうに言った。赤い顔をしていたが、酔いつぶれてはいなかった。
 店を出ようとすると、ママが西瓜を持っていきといって、大きな西瓜を持ってきた。
 直樹が毎日のようにこの店に来ているので、子供たちに悪いと思ったのだろう。
 店を出ると、直樹は工場までの通勤に使っている自転車の荷台に西瓜をくくりつけた。直樹が自転車を押し、子供たちが並んで帰り道を歩く。
 りんご飴を売っている露店の所まで来ると直樹が健太の視線に気づいて、りんご飴を買ってくれた。
「ふたつください」直樹が言うと、うちいらんわと美月が言った。
 美月は直樹の前で自分は子どもではないと言うことを、アピールしたかったのかも知れない。
「なんでや、けったいなやつやな」
 直樹は笑った。
「お姉ちゃんがいらんねんやったら、僕が二つ食べるわ」
「あほ」美月に笑われた。
 直樹も笑って意味がわからないのは、健太だけとなった。
「そうや河童の腕でも見ていこか」直樹が言った。
「河童の腕って?」
「神社の裏で見せ物小屋をやっているやろ、あそこでな、いろいろとけったいな物を見せ物にしているんや。その中に河童の腕があるのや」
 飲み屋で聞いた話を、直樹は子ども達に話した。
「わあ、うち見たいわ」
 美月が、直樹に甘えるように歓声を上げた。健太は美月が喜ぶ顔を見るのは久しぶりだった。健太は河童の腕と聞くだけでなんか気持ちが悪くなったので、本当は見たくなかったが、姉の喜ぶ顔を見ていやだとは言えなかった。
 神社の裏に行くと、紫色の大きなテントが一張りあった。
 テントの前の看板には『本物の河童の腕・展示』とあり、極彩色に彩られた地獄絵図に河童と鬼、伸ばした口髭を固めて左右を上へ跳ね上げて逆"へ"の字にしたカイゼル髭の男との壮絶なる捕り物劇が描かれていた。
 料金を払って中にはいると、赤い電球のついた通路が続いていた。見る物すべてを赤いセロハンを通して見ているようで不気味だった。健太には、直樹も美月もまるで知らない人に見えた。通路の途中にへこんだ場所があり、そこには鯰(なまず)女がいた。しばらく行くと、サソリ男がいたが、それらは人間が着ぐるみを着た物だということがわかる、ちゃちな代物だった。
「子供だましだね、あの、なまず女とサソリ男は」
 美月が笑いながら言ったが、結構気に入っているようだった。それは健太にとっても同じだった。人間が着ぐるみを着ているのがすぐにわかったが、どことなく滑稽だったからである。愛嬌があった。
 通路を通り抜けると小さな舞台が設えてあり、燕尾服を着たカイゼル髭の香具師が水槽の横に立っていた。水槽は薄紫色の光でライトアップされており、その中には人間の腕よりも遥かに大きな化け物の腕があった。全体が緑色をしており、見るからにヌルヌルとしている。掌はグローブの様に大きくて、指は間接が太くごつごつしていた。爪は刃物のように尖っていた。健太はそれを見てごくりと生つばを飲み込んだ。
『三途の川の河童の腕』と書いて、展示してある。
「お客さんこれは本物だよ。正真正銘の河童の腕だ。それも三途の川にいた河童だ」
 カイゼル髭が自慢げに言った。
 たしかに良くできた腕だった。なまず女やサソリ男のような、ええ加減な作り物ではなくて凄くリアルに出来ていた。それに指先が時々ぴくぴくと動いているように思えた。
 カイゼル髭は、ここぞと、地獄での捕り物劇を講談師のごとく熱弁をふるった。寝ていると賽の河原の夢を見て、そこで傍若無人に暴れ回る河童を見つけ、獄卒(地獄にいる鬼)の協力を得て河童を捕らえたが、河童はトカゲのように腕を切り離して逃げたというのだった。河童を退治するのに協力したということで、お礼に腕をもらった。夢から覚めてみると枕元に河童の腕があったという。
 感心して男をよく見ると彼は義足をしていた。男は健太が義足に気が付いたことを知り、これは河童に喰われたのではない。私はそんなへまはしない、と自嘲気味に言った。そして、いかに自分が勇敢であったかを付け加えた。
 健太はその男の良く動く赤い唇を見ていた。

 青白い満月に照らされて、虫が鳴く、夜の底のような帰り道を歩く。遠くに祭り囃子が聞こえていた。
 美月がぽつりと言った。
「お母さんもあの河童のいた三途の川をわたったんだ。怖くなかったのかしら……」
「あほやな……、あれは作り話だよ。河童の腕も作り物」
 直樹が美月に、そういって笑った。
「でも、良くできていたよ」
「たしかに」と直樹は言ったきり、黙ってしまった。妻のことを思い出したのかも知れない。
 健太は河童の指先がぴくぴく動いていたのを思い出して、夢に出て来ないだろうなぁと心配していた。

 自宅に着くと縁側に腰を下ろし、西瓜を切って食べた。
 直樹を挟んで庭木に飛び交う蛍を見ていると、美月が、回り灯籠を持ってきた。
「どないしたんや、それ」
 直樹が訊ねた。
「うちがこさえたんや」
 美月が回り灯籠の蝋燭に火をつけた。ゆっくり、影絵が回りだした。
 家族四人が幸せそうに線香花火をしている、影絵。
 直樹がそれをじっと見ていると。
「あのひときっと幸せすぎたんや」美月が言う。
 直樹はそれには答えず、子供たち二人を抱きしめた。
 あまりにも強く抱きしめられたので、健太は痛かったが、痛いとはいってはいけないような気がした。あのとき自分が、子犬を見て道路に飛び出さなければ、お母ちゃんは車にはねられて亡くならなかった。
 どこかの子犬が足がすくんだのか、道路で動けなくなっていたので健太は助けようとして自分が車にはねられそうになり、母親に助けられたのだ。母親はその犠牲になった。健太は自分にも責任があるような気がして、それが心にわだかまりとして残っていた。
 健太は、明日は朝早くに起きてお稲荷さんに、お母ちゃんを返してもらうようにお祈りをしに行こうと思った。
 死んだ母親が戻ってくるわけでもなかったが、健太はなぜか母親が生き返っても不思議ではないような気がした。亡くなったと通知があった駄菓子屋の息子が戦地から帰ってきたのは、お稲荷さんの神通力かもしれない。それに「あのひときっと幸せすぎたんや」と、姉が言うように、幸せすぎたから死んだという、死に方があまりにも理不尽だったからかも知れない。

 朝靄のなかで、健太は石畳の上を何度も往復した。
 ラジオドラマで、主人公の女の子が願いを叶えるため、神社の石畳を何度も往復していたのを思い出したからだった。
 賽銭箱の前まで行くと、昨日美月がやっていたように目を閉じて手を合わせた。
「お母ちゃんが帰ってきますように、お母ちゃんが帰ってきますように……」
 そう祈ると健太は心が安まるのだった。
 
 そんな早朝のお祈りが、五日、六日、そして七日続いた。
 糸のような雨に境内の玉砂利も濡れて辺りは深閑としていた。健太は傘もささずに石畳の上を往復していた。
 いつものように賽銭箱の前で何度目かの手を合わせたときだった。
 かたりという音が聞こえて、音のしたほうを見ると狐がいた。いや、狐の面をした健太と同じ年ぐらいの少女と目があった。
「おまえ真面目じゃのう。毎日願掛けか。きょうで七日目じゃ」
 健太は急に恥ずかしくなった。毎日の願掛けが人に見られていたと思ったからだ。
「ああ、心配するな。うちは人間ではない。この稲荷神社の主の娘じゃ。あまりにもおまえが真面目だから願い事を叶えてやろうと思って出てきたのじゃ」
 少女はそういうとへらへらと笑った。
 彼女は芒(すすき)の柄をあしらった薄紫の浴衣を着ていた。
 じゃりじゃりと雨に濡れた玉砂利を赤い鼻緒の下駄を鳴らして近づいてきた。
「ほんまか、ほんまに願い事を叶えてくれるのか?」
 健太の目の前までやってきて、顔と顔がぶつかりそうになった。おしろいの匂いが少女からした。
「おまえ、今朝はまだ、歯を磨いていないだろう。口臭がするわ」
 だが、健太はそんなことにはおかまいなしに少女に訊ねた。
「お母ちゃんいつ、返してくれるんや」
「盂蘭盆(うらぼん)の夜に灯籠流しをしたら、すぐに返したる」
「うらぼん?」
「今夜や。今夜が盂蘭盆と言って、死んだ人が帰ってくる日や。その日に三途の川で灯籠を流すのじゃ」
「さんずの、かわ……?」
 健太は何やら不吉な物を感じた。
「死者の霊魂が渡る川じゃ」
「じゃあ、ぼく死んじゃうの?」
「死ぬもんか、うちが着いておるからの」
「よかった、ぼく死ななきゃならないのかと思った」
 健太が一安心して笑顔を浮かべると、「その代わり……」と、少女は言った。
「灯籠が必要じゃ」
「とうろうって、あの回り灯籠のこと?」
「そうだ、このあいだ庭でスイカを食べながら、回り灯籠を見ていただろう。家族四人が幸せそうに線香花火をしている回り灯籠だ」
「えっ? どうしてそんな事まで知っているの?」
「おまえ達の周りに蛍が飛んでいただろう」
 そういって、少女はくすくすと笑った。
 健太が驚いて、少女を見ていると、彼女は「あと、一つ必要な物がある」と、言った。
「なに?」
「写真が必要だ。亡くなった人が大事に思っている人の写真だ……」
「じゃあ、僕か、お姉ちゃんか、お父ちゃんの写真だ」
「うん、どれでもいいが、おまえは幼いから姉か父親の写真がいいかな」
 狐の面をかぶった少女とも年齢は変わらず、その彼女から幼いと言われてむっとしたのが顔に出たが、相手は気にしていないようだった。
「どうして写真がいるの?」
「亡くなった人を迎えに行く使者が必要だろう。写真の人はその役目をする」
 写真の人は使者の役目をするのか、自分は幼すぎるので、それは無理だろうと健太は思った。
「今夜ここで待っている、灯籠と写真を持ってくるように」と少女は言った。
 健太は大きくうなずいた。
 少女は「こんこん」と、狐のように啼くと雨の中に溶けるように消えたかと思うと、その空間に一匹の蛍が現れた。蛍は小雨のなかで光っているようには見えなかったが、ゆるゆると神社の陰に飛んでいくと、ぼんやりと黄色く発光しているのがわかった。
 やがて蛍は神社の裏に入り見えなくなった。

 庭の方にある裏の戸を開けて健太は部屋に戻った。
 タオルで体を拭きもせずに寝床に潜り込み、稲荷神社の少女の言った事を考えていた。いつもなら神社から戻って布団の中にはいると眠くなり寝てしまうのに、今朝は目がさえて眠くはならなかった。
 台所の方で人の気配がして、忙しげに働く音が聞こえた。美月が朝食の準備をしているのだ。健太はその音をずっと聞いていた。

 健太が茶碗をテーブルに置いた。
「どうしたん、もう、いらんのか?」
 美月が心配そうに訊ねた。
 直樹も健太の顔を覗き込む。
「うん、ちょっとしんどい」
「どれどれ……」直樹が健太の額に手を置いた。
「ちょっと熱があるみたいやな」
「夏風邪か……、日頃悪さばかりしているさかい、お稲荷さんが怒ったのかも知れんな」美月が難しい顔をして言う。
「そらいえるな」直樹が笑った。

 食事が終わった後、健太は庭が見える風通しの良い部屋で神妙に寝ていた。
 洗面器に水を入れて美月がやってくると、タオルを濡らして絞り健太の額に置いた。
 団扇を持つとゆっくりと健太を仰ぎながら言う。
「この間の河童の腕、あれほんま物やと思うか?」
「さあ、わからへん」
「うちな、あれほんま物やと思う」
「どうして?」
 健太の問いに、美月は何かしゃべりそうなそぶりを見せたが、黙り込んだまま、「なんでかわからん」と言った。
「ぼくな、もうすぐ死ぬような気がするわ……」
 唐突に言った健太の言葉に、美月は団扇を仰ぐ手を止めて健太の顔を覗き込んだ。
「なんでや?」
「なんでかわからん」と、健太は言った。
「調子にのんな!」
 美月は先ほどの自分が言った言葉をそのまま健太がまねをしたと解釈したので、団扇で健太の顔をはたいた。健太は美月に顔をはたかれなぜかうれしかった。美月も健太の気持ちがわかっているのか、にやにやしながら、「死ぬんならもっと早いとこ死に。あんたのおかげでお母ちゃんが死んだんやで」と言った。もちろんこれは美月の冗談だったのだが、健太の顔色が変わった。しかし美月はそれには気が付かずに立ち上がって庭に出ると「雨が上がったな」と、空を仰いだ。
 健太は美月の後ろ姿を見ていた。
「あれっ、朝からこんな所で蛍がいるわ。健太蛍がいるよ」と、美月は鬼灯(ほおづき)の方を指さした。

 夕方になると健太の熱は下がっていた。健太が仏壇の置いてある部屋に行くと、胡瓜にわりばしで四肢を造り馬の形にした物と、茄子も同じようにして牛を造り、仏壇の所に置いてあった。
「熱下がったんか?」直樹が聞いてきた。
 健太が「うん、下がった」と言うと、直樹は見ていた夕刊を手元に置いて、健太の額に手をおいて「下がったな……」と独り言のようにつぶやいた。
 健太は胡瓜の馬と茄子の牛を見て、「お父ちゃんこれ何や」と訊ねた。直樹はお盆の日に亡くなった人が、胡瓜の馬に乗って冥界から早く帰ってこられるように、仏壇に祀てあると言った。茄子の牛はこちらに来た人が、冥界に帰るときに乗る。牛は歩くのが遅いので、帰ってきた人が少しでも長くこちらの世界に居れる、という意味だと説明した。
 健太が胡瓜の馬と茄子の牛を見ていると、直樹に「ビールを持ってきて」と言われた。
 台所に行くと美月がビールのあてを作っていた。
 健太は冷蔵庫から瓶ビールを取り出した。
「お父ちゃんビールすきやな」健太が言うと、「外で飲むよりはましや」と、美月が笑った。
 二人して部屋に戻ると直樹は横になって寝ていた。
「ビールもってきたで」
 健太が直樹を起こそうとすると美月が「寝かしといたり」と言ってとめた。
 ヒュ――と音が鳴り、見ると、神社の方で花火が次々と打ち上げられていた。個人が打ち上げている花火らしく小さな華しか咲かないが、健太は心が締め付けられそうな気がした。それはわずかな時間しか命を持たない花火と、自分たちの運命を重ねたのかも知れなかった。
「花火って綺麗けど、はかないね……」美月がつぶやくのが聞こえた。

 深夜になり、健太は自分の部屋で回り灯籠を見ていた。仏壇の所に置いてあったのだが、夜自分の部屋で見たいからと言って持ってきておいたのだ。台所に行って、備え付けの懐中電灯をもってきた段階で、健太は自分がへまをしていたことに気が付いた。アルバムが直樹のいる部屋の袋戸棚にあることを思い出したのだ。アルバムから写真を一葉取り出すのは直樹の部屋に行って、直樹に袋戸棚からアルバムを取ってもらわなければならない。子どもの健太では一人で戸棚から取るのは不可能に近かった。健太はどうしょうかと考えた。そして自分の勉強机の引き出しに美月と一緒に写っている写真があることに気が付いた。健太は引き出しを開けると美月と自分が写っている写真を見つけて、ほっとした。写真を段取りすると、ポケットに入れた。
 回り灯籠と写真、そして懐中電灯を持つと、健太は裏の戸を開けて稲荷神社へ向かった。
 神社では祭りごとが終わっており、夜道は深閑としていた。聞こえるのは虫の音だけである。健太の持つ懐中電灯の明かりが暗い夜道をぼんやりと照らしていた。
 神社に着き、狐の面をした少女を捜していると、石畳に下駄の音が聞こえた。音のする方を見ると、今朝の少女が小さな灯籠舟を持って近づいてきた。
「約束を守ったな」
「うん……」健太はうなずいた。
「じゃあ、三途の川に案内するぞ」
 健太がもう一度うなずくと、少女はへらへらと笑った。
「うちに着いておいで」
 そういうと少女は神社の裏に向かって歩き始めた。
 少女の後を着いていくと、神社の裏には石で出来た、苔むした古い井戸があった。
「ここが、冥土の世界につながっている」
 少女は竹で出来た井戸の蓋を取ると、中にはいるように勧めた。健太が渋っていると「こわいんか、おまえ弱虫だな」と、笑った。
「怖いことなんかない、ここから飛び降りたら、灯籠が壊れてしまうと思っていたんや」
「ゆっくりと落ちるから大丈夫や、灯籠は壊れないからここから飛び降りろ」
 健太はそういわれて、井戸の中を覗き込んでいると、少女に背中を押された。
 不思議な感覚で健太は井戸の中を落ちていった。
 ゆっくりと闇の底に魂が沈んでいくような重い気持ちがした。

 目の前には異様な光景が広がっていた。
 乾ききった砂と小石の河原があり、その前には暗く沈んだ黄色の水面が果てしなく広がっていた。湾曲して膨らんだ深い紫の空。これらの風景はまるで健太の心を投影しているかのようだった。
 そして河原にはぽつぽつと人が出ており、灯籠を小さな舟に乗せて流していた。
 健太が少女と河原に降りていくと、老人が灯籠舟に写真を載せているところだった。少女が小舟を賽の河原に置くと、健太は小舟の中央に灯籠を載せた。
 老人は灯籠舟を流すと手を合わせた。その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。健太が気になって老人の顔を見ていると、相手も気が付いたのか、健太の方を見た。
「孫が死んだので、生き返らせようと思ってここに来たのです」
 健太はどういって良いのやらわからなかったので、老人の顔を見ていた。
「私は老人でこれから生きても長くはないので、私の代わりに孫が生き返るのなら、私にはこれ以上の幸せはありません……」
 健太は老人が言っている意味がもう一つわからないので、老人の顔を見て首をかしげていた。老人は健太の持っている写真を見て少し驚いた表情をした。
「あなたは誰を生き返らせるのですか?」
「お母さんです」
「そうですか、しかしお母さんは悲しむかも知れませんね。だってお母さんが生き返っても、あなたがいないとお母さん寂しいと思いますよ。おまけにあなた一人と違って、その写真にはもう一人写っているではありませんか」
 健太は自分が持っている写真を改めてみた。確かに自分と姉の美月が写真にある。それが何か問題なんだろうか。健太がそんなことを思っていると、老人が言葉を紡ぐのを忘れたかのようにぼんやりと自分が流した灯籠舟を眺めた。
 少女は健太に舟へ写真を載せるように言った。健太は灯籠舟の先端に写真を載せた。
「早く灯籠舟をおしなよ」少女が促した。
 健太はうなずくと舟を指先で押した。
 灯籠舟はゆっくりと黄色い川面に流れ出した。
 そのとき健太は周りの様子がおかしいことに気が付いた。
 灯籠舟を流した人たちが、次々と消えていくのだ。 健太がその不思議な光景に驚いていると、隣の老人も色彩が淡泊になり始めていた。
「ど、どうしたの? おじいちゃん」
 健太は老人に呼びかけたが、彼は再びしゃべることはなかった。
「灯籠舟に乗せた写真は生き返らせる人の身代わりになり、この賽の河原の小石になる。それもおまえ達の運命だ」
 少女が神妙な顔つきで言う。
 健太が驚いたのは言うまでもない。まさかそんなことは信じられなかった。しかし周りの人々は灯籠舟を出した後に次々と消えている。小石になっているのかも知れないと健太は思った。
「おまえと美月は母親を生き返らせるための身代わりだ」
 健太はそれを聞いて、あわてて舟に載っている写真を取り戻そうとして、三途の川に脚を踏み入れた。しかし、黄色い水に足を取られて前に進むことは出来なかった。黄色い水からいくつもの人の手のような物が生えてきて、その手に健太は脚を取られていたのだった。
 灯籠と二人の写真を載せた舟が河原から離れて健太の手の届かない所まで出ると、水面から生えた手は姿を消した。健太はよろめきながら灯籠舟を見るしかなかった。
 健太は狐の面をした少女につかみかかろうとしたが、頭がぼんやりしてきて出来なかった。

 黄色い水面を灯籠舟は穏やかに進んでいた。
 その舟の先端に一葉の写真がある。美月と健太の二人が神妙な顔つきで写っている写真だ。その写真が風もないのに動いた。写真の美月が、まわりの様子をうかがっている。そして腕を前に突き出した。すると腕が写真から飛び出した。そのまま写真を押さえた。すると上半身が写真から抜け出した。美月は両手で写真を踏ん張り、すらりとした脚も引っ張り出す。片っ方、そして両足を引っ張り出した。
 立ち上がると大きく伸びをする。
 彼女はまわりを見渡し紫の空に出ている月を見た。その隣に冷たく輝くもう一つの月があるのを見て顔をしかめた。そのとき、「姉ちゃん!」という声が聞こえ、写真から健太が抜け出そうとしているのに気が付いた。美月が手を貸して健太を引っ張り出す。
 健太も写真から出るとまわりを見渡した。海原のように広い川面には灯籠を載せた小舟が沢山浮かんでいた。それぞれが明かりを灯しながら川面を進んでいく。
「河原があんなに遠くになったよ……」
 美月は何もかも悟っているようだった。
 美月の声を聞いて健太が振り返ると、先ほど出発した河原が離れていくのが見えた。そこには自分が立っていた。ぼんやりとしてこちらを見ている。まるで魂が抜けたようにこの灯籠舟を見ている。狐の面をした少女までがぼんやりとしているようだった。
 やがてその姿も見えなくなった。河原も遠くかすんでいるだけだった。目の前にたくさんあった灯籠舟もちりぢりになり始めていた。この先僕たちはどこへ行くのだろうかと健太は思った。
「お父さん私たちいなくなって寂しがるかしら……。お母さんが帰ってくるから大丈夫だよね。お酒を沢山飲み過ぎたらお母さんが叱ってくれるよね」
 美月はまるでこうなるのがわかっていたかのようなしゃべり方だった。家で寝ていて、何もかも悟った夢の中で、そのままこちらに来たのかも知れない。
 健太は美月の事を考えようとしたが、いまはそのことを考えるのが怖かった。
「僕たちのことを忘れないでほしい……」
 健太は美月の言葉に添えた。自然に出た言葉だった。
 前方の灯籠舟の横の水面に波紋が出来て、何やら得体の知れない化け物が頭を出した。健太が驚いていると、その化け物は灯籠舟を次々と覗き込みながら、こちらに近づいてきた。
 それは大きな河童だった。河童が灯籠舟を覗き込みながらこちらに近づいてくるのだ。
「何やろ……?」
「わからへん、でも、舟を沈めたりの悪さはしていないみたいやな」
 泳いでくる河童を見て、片腕がないことに気が付いた。
「あの河童片腕がない」
 美月が言っていることを聞いて、健太は祭りの夜に見せ物小屋で見た人間の腕よりも大きな河童の腕を見たのを思い出した。カイゼル髭に燕尾服を着た香具師がこの河童の腕は本物で、三途の川にいた河童と格闘の末持ち帰った物だと言っていた。
 その河童がこちらに近づいてくる。河童は何をしているのだろうかと健太は思う。
 穏やかな水面が、河童の泳ぐ波でふくらみ健太と美月が乗った小舟が揺れ始めた。健太と美月は舟から落ちないように縁に捕まった。
 河童は小舟の横まで来ると上から灯籠舟の中を覗き込んだ。
「おまえ達二人だけか?」
「そうよ」
 河童は舟の隅々まで見ると「そうか」と一言だけ言った。
「もしかしたら人捜しをしているの?」
 美月が健気に河童を相手にしていた。
「そうだ、俺から腕を盗んだ奴を探している」
 健太と美月は顔を見合わせた。
「おまえ達知っているのか?」
「見つけたらどうするつもり?」
「礼を言うつもりだ」
 意外な答えに健太と美月は驚いた。
「自分の腕を取られたのに、礼を言うの?」
「あの腕は悪さをする腕でな。その腕を奴は取ってくれた。おかげで俺は悪さをしないですむようになった。あのまま放っておいたら、俺は地獄めぐりをしなければならないところだった」
「どんな悪さをしていたの?」
 美月のその言葉に、河童はもう片一方の手を水面から出して見せた。やはりあの見せ物小屋で見た河童の腕と同じで、鬼の首でも一ひねりでへし折る迫力があった。
「この三途の川を渡る、亡くなった人の魂をあの右腕で捕まえて喰らっていた。あの腕を取られてから魂を喰らいたいとは思わなくなった」
 それを聞いて健太は安心して、見せ物小屋で見た河童の腕のことを話した。すると河童はその男に間違いないと言って笑った。
「しかしおれも奴には悪いことしたよ。なにしろ腕を取られるときに奴の片足を食いちぎったのだからな」
 河童は自嘲気味にいうと「ところでおまえ達はなぜ、こんな所にいるのだ? 灯籠舟に乗せられるような恨みでも受けたのか?」と訊ねた。
 健太が事情を話すと、河童はうなずきながら稲荷狐に騙されたのか、とつぶやいた。
「それにしても変だな……稲荷神社の狐は人間を守るものだろう。なぜ、人間を不幸にするようなことをするのだ」
 そういわれてみると確かにそうであった。あの狐の少女はどうして自分たちをこんなひどい目に遭わしたのだろう。健太は不思議だった。
「そうか、稲荷神社の狐と言っても、おまえの話だと相手も子供のお稲荷様だ。何か、失敗をやらかしたのかもしれんな……」
「失敗ですか?」
「失敗だとしたら、おまえ達は三途の川の夢を見ているだけではないのか?」
「夢? これが夢だというの?」
「そうだ、夢だ? 目覚めれば元の世界に戻れる」
「どうやったら目覚めるの?」
 河童は紫色の空を仰ぎ見た。健太も美月も河童につられて空を見た。
「どうだ、死星は見えるか?」
「死星?」
「死星は普通の人間の目では見られない。それが見られるのは死んでいる人間だけだ。どうだ、この紫の空に冷たく輝いている死星は見られるか? もし見られたら、月の隣に出ているはずだ」
 河童はそういって、空を指さした。
 健太は河童の指先を見てみた。そこには月は出ていたが、死星は見られなかった。
「見えないよ、あるのはお月さんだけだ」
「そうか、だったら、これは夢だ。おまえが見ている夢だ。おまえはそのうちに目覚めるよ」
 河童はそういって笑った。
「おまえの方はどうだ?」
 河童は美月に訊ねた。
 美月も空を見ていたが、「うちにも月が見えるだけや……」とつぶやいた。
「だったら、おまえ達二人は、そのうち目覚めるだろうよ」
 河童はそういうとしばらく考えている風だった。
「どうしたの?」健太が訪ねた。
「いやぁ、俺の目的は達せられた。俺が探していた人物がどこにいるかがわかったからな」
「そうなんだ、よかったじゃない」
「うん、よかった……あとは永遠が見える島に行き着くだけだ」
「永遠が見える島?」美月が訪ねた。
「そうだ、この三途の川には永遠が見える島がある……」
「何なの、その永遠が見える島って?」
「ここから、帰れなくなった魂だけが行ける島なんだ」
「そんな島があるんだ、三途の川には?」
「いや、俺もあんまり詳しくはないんだがな。ただ、それまでの人生で一番楽しかった時を永遠に過ごせるらしい……」
 河童はそういうと、健太達が乗っている灯籠舟から離れていった。水面が大きく揺らぎ、健太と美月は落とされないように舟縁をつかんだ。

「永遠が見える島か……」美月が何やら神妙に考え事をしている。
「僕たちには関係がないよ、だって、夢から目覚めると元の世界に帰れるんだから」
 健太がいうと美月が憂いのある表情でうなずいた。
「どうしたん、姉ちゃん?」
 だが、美月は返事をしなかった。そして、広々とした黄色い水面を見た。
 空は紫色で湾曲している。
「いつ、僕たちは目覚めるんだろうね?」
 灯籠舟はゆっくりとした流れに乗りどこかに流されていく。
 時間の概念のない世界。
 まるで時が止まっているようにも思える。
 すでにほかの灯籠舟は見えなくなっていて、音もなく舟は流されていく。
「ぴちゃ――」
 健太が音のする方を見ると美月が黄色い川面の水を手ですくっていた。
 そして不思議なことを言った。
「手の中の水にお母さんの顔が見えた。」
 健太も黄色い水を手にすくってみたが、母親の顔は見えなかった。

 それからどれほどの時間が経ったかはわからない。
「あれ、なんやろ」という美月の声に気づいて指をさす方向を見ると、そこには何やらぼんやりとするものが浮かんでいた。
 どうやら、灯籠舟はそちらの方に流されているらしい。
 だんだんとぼんやりしていた物がはっきりとわかるようになってきた。
 それは芒が見渡す限りに群生している島だった。
 灯籠舟が島の入り江に入った。
 なぎさに着き、二人が灯籠舟を降りると、風に乗り、どこからか歌声が聞こえてくる。
 それも懐かしい歌声である……、それもそのはず、母親が歌っていたものだった。
 二人は銀色に輝く芒をかき分けて歌声のする方に走った。
 しばらく駆けると、芒が開けてそこに懐かしい我が家があった。
 健太と美月が驚いた顔をしていると家の中から母親が出てきて、「どうしたん、そんな驚いた顔をして……」
 二人は母親に抱きついた。
「あらあら、小さい子供に戻ったみたいやなぁ」
 母親が笑いながら言った。しかし、母親は二人をしっかりと抱きしめた。
 しばらくすると父親が自転車で戻ってきた。
「きょうは半ドン(半日仕事)やからな、仕事も楽や。明日は日曜日やし、みんなでどこかに行くか」
 健太も美月も久しぶりに笑った。
 ほんとうに、久しぶりに心の中から笑った気がした。
 家族四人でゆっくりしていると時間が経つのが早かった。
 夕食時には明日は動物園にいくかという話になった。
 健太はうれしくて仕方がなかった、早く眠ると、次起きたときは明日になっている。そう思うと、風呂から出るともう、布団の中に潜り込んでいた。
 目を閉じてじっとしていると本当に眠くなってきた。
 隣の部屋では両親と美月の笑い声がしていた。



 蝉が驟雨のように鳴き出した。
 健太はその鳴き声に目を覚ました。朝が早いというのに蝉が活動に入ったみたいだ。庭を見るとヒマワリの大輪の周りに蜂が飛んでいたが、それが部屋に入ってきた。健太は蜂を手で追い払うと台所に行った。
 そこには母親がいた。
「今朝は起きるのが早いね」
「うん、蝉がうるさくて」
「うふふ、毎日蝉に起こしてもらいたいわね」
 テーブルには朝の食事が段取りしてあった。
「お父さんを起こしてきて」
「うん、わかった」
 健太は直樹を起こしに行った。
 父親を起こして台所に戻り再びテーブルに着き、健太は何かを忘れているような気がした。しかし何を忘れているのかがわからなかった。
 直樹がテーブルに着いた。
 家族三人で朝食を摂った。
「午前中に墓参りに行きましょうか」母親が言った。
「そうだな、あれから二年か、早いものだ……、子犬を助けようとして自分が車にはねられるとは」
「私の目の前ではねられて、なぜ私が身代わりにならなかったのかと悔やまれることがあるわ」
「いや、おれがもっと注意していれば、美月が車にはねられることは、なかっただろうに……」
「私美月が車にはねられた後も、死んだとは思えなかった。だって、体に傷一つなかったんだもの。顔も綺麗なままで……」
 健太も美月が車にはねられたとき、その場にいた。
 姉の美月が死んだとは信じられなかった。眠っているように見えた。

 母親が花を持ち、父親が水桶をもって、前を歩いている。健太は墓石が並ぶ墓地の砂利を踏みしめながら歩いた。
 美月が眠っている墓石を洗うと花を活けた。
 両親が手を合わせているのを見て、健太も合掌した。
 健太は何か心にわだかまりがある様な気がした。自分がここにいるのが不思議な気がした。


 彼岸参りも終わり、ある夕方稲荷神社の近くを通りかかったところ、驟雨のような蜩(ヒグラシ)のなかを下駄の音が聞こえた気がした。健太は気になって、稲荷神社に寄ってみた。
 するとそこには狐の面をした浴衣姿の少女が石像のお稲荷さんの陰に隠れて健太を見ていた。
 健太は彼女をどこかで見たことがあるような気がした。
 健太が近づくと少女は境内にかけて行った。健太も境内に入ると、さい銭箱の前で、手を合わせている女の子がいた。
 振り向くと声をかけてきた。
「健太、こんなところで何しているの」
 美月だった。
「姉ちゃん!」
「何、驚いてんの」と、笑う。
「いや、なんか、頭がぼんやりしていて」
「ぼんやりとしているのは、いつものことやろ」
 健太は、苦笑いした。
「さあ、帰ろか、お母さんに頼まれたお肉や」
 美月が肉屋の袋を突き出した。
「すき焼きかな」
「そうや、すき焼きや」
 神社から自宅に続く芒が両端に群生している道を歩いた。
「姉ちゃん……」
「なんや?」
「手をつなご」
「子供か」
 そういって美月が笑った。
「姉ちゃんも、子供やんか」
「そうやな、うちも子供や」美月が健太の手を握ってきた。
「河童の見世物やっているの知っているか?」と美月が訪ねた。
「河童?」
「そうや、そらぁ大きな河童でな、友達が観てきたとゆうとったけど、三途の河を渡る人の魂を喰らう河童やて。それを捕まえる捕り物劇やて。鬼なども出演しているらしいで。それにカイゼル髭の男が暴れる河童を取り押さえるところが面白いて」
「へぇ、お父ちゃんに頼んでみんなで観に行きたいな」
「そうやな、今夜すき焼きでお酒を飲んでいるときに頼んでみよ」
「うん、わかった」
 二人は顔を合わせて笑った。




   終わり

永遠が見える島

執筆の狙い

作者 夜の雨
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原稿用紙50枚の作品です。

むかしこちらのサイトに投稿しています。
夏向きの作品で、ほぼ完成作です。

昭和時代の幻灯機の世界に近い味付けです。

コメント

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

>夜の雨さん
読ませていただきました。
「駄菓子屋」「銀玉ピストル」などの単語で時代設定を読者にスムーズに伝えることができており、いい書き出しだなと思いました。
ちなみに私は銀玉鉄砲という名前は聞いたことがありますが遊んだことはありません^^;
ラムネも懐かしいです。
私が小学生の頃、学校近くの個人商店で買って飲んでいました。

>栓抜きで、シュポンとビーダマを抜き、細かい泡がパチパチとはじけるのを見ながら飲んだ。

私が幼い頃飲んでいた「ラムネ」はビー玉を押し込むような道具が店先に置いてあって、それを使ってビー玉を瓶の中に押し入れて開栓して飲めるようになるというものでした。
ビー玉を押し込んだ瞬間にラムネが溢れ出てくるので、あわてて瓶に口をつけて飲んだのが懐かしい思い出です。

>シュポンとビーダマを抜き、

ビー玉を押入れ、の方が適切なのでは? と思いながら読みました。
もしビー玉を抜くタイプのラムネがあるのなら大変失礼いたしました。

>回り灯籠

私が子供の頃、祖母の家にお盆で行った時、見た思い出があります。
ろうそくの炎の上昇気流を使って回転させているんですよね。
小学生のときに見たきり、私はずっと回り灯籠は見ていません。

せっかくの機会ですので、重箱の隅をつつくコメントもさせてください^^;

>窓枠に吊るした、風鈴が涼しげな音を鳴らした――。

読点の位置を変えてみてはいかがでしょう。
(校正案)
窓枠に吊るした風鈴が、涼しげな音を鳴らした。

>朝顔のつるが、窓枠に立てかけた竹の棒に絡みついて上に登っている。

上に登る は重複表現ですので、
(校正案)
朝顔のつるが、窓枠に立てかけた竹の棒に絡みついて登っている。

上記2つの場面描写ですが、この物語が三人称視点で書かれていますので、
風鈴の音を聞いていたり、朝顔のつるを見ているのは誰なのか、ということになり、
それは語り手ということなのでしょうけど、
その後の場面が、

> 健太は夏休みの宿題を机の上に広げてはいたが、鉛筆を鼻の下に挟んでぼんやりとしており、さっぱりやる気がない。

となっていますので、健太が聞いたり見たりした記述にしたほうが、宿題に気が向いていないことをより表現できるかなと。



>回り灯籠が完成してあった。

(推敲案)
回り灯籠は完成していた。


>父親と母親それに子供が二人……。姉と弟らしかった。

(校正案)
父親と母親、それに子供が二人。姉と弟のように思えた。



> 幻想のような世界に、「おかあちゃん……」と、健太は思わずつぶやいていた。
> 健太の母親は彼を交通事故から守ろうとして亡くなったのだ。

影絵を見ているのが過去で、母親の死が更に過去ですよね。
英語でいうところの過去形と過去完了形みたいなものでしょうか。

(校正案)
> 幻想のような世界に、「おかあちゃん……」と、健太は思わずつぶやく。
> 健太の母親は、彼を交通事故から守ろうとして亡くなっていたのだった。


>母親がいなくなってから、彼女の作っていた手作りのレシピを見て、美月は料理を作った。

母も美月も女性ですので「彼女の」がどちらを指しているのか迷いました^^;
(校正案)
母親がいなくなってからは、母親が使っていた手作りレシピを見て、美月は料理を作っていた。

> 美月はそういって、父親の料理を二人でわけた。いつものことで、直樹は飲み屋で夕食も済ましてくるのだろうと思った。

前の文で「父親」だったのが、どうして次の文では「直樹」となっているのか、よく分かりません。
ここは父親で統一してよいのでは?

>裸電球に照らされて、金魚すくいや射的、綿菓子と店が並んでいる。

昭和の風情を感じる描写ですね。
こういうの好きです。

飲みつぶれた父親を迎えに行ったあとは「直樹」という表現が頻繁に出てきて、それも戸惑いを感じてしまいました。
前段は子供たちしかいない場面なので「父親」という表現で問題ないのですが、いざ父親が登場してしまうと「直樹」という表現になり……
いっそのこと健太の一人称視点で書いたほうが潔かったのではと思いました。

> 美月は直樹の前で自分は子どもではないと言うことを、アピールしたかったのかも知れない。

語り手は美月の心情を「想像」していますね。
となると神視点ではなさそうです。
かといって一貫して三人称一人称視点で健太側という書き方になっているわけでもないですよね。


怪しい見世物小屋だな、と思って読んでおりましたが、

>感心して男をよく見ると彼は義足をしていた。

なるほど、そういう事情で怪しい商売をしていたのかと、端役にもそれぞれの人生があるのだなと思いました。
こういう細かい設定、いいですね。


>直樹は見ていた夕刊を手元に置いて

夕刊に昭和を感じました。
夕刊は今でもあるのか気になったので、
私が住んでいるところの新聞社を調べてみたところ、
夕刊はもうやっていませんでした。


三途の川のシーンはハラハラしながら読みました。
話が急展開を迎え盛り上がってきました。
ここで河童の片手の伏線が活かされ、なるほど~!
と感動しました。

三途の川のシーンが終わり目が覚めると、
美月が死んだことになっていて母が生きている。
このことに健太が驚くシーンが描写されていないことに違和感がありました。

ラストでは、また美月は生きているわけですが、
となると、どのシーンが真実で、どのシーンが虚構なのか
わかりにくい印象を受けました。
もっとも、その曖昧さが作者様の狙いなのかもしれませんが。

>へぇ、お父ちゃんに頼んでみんなで観に行きたいな

ラストは、見世物小屋に行く前のシーンになっていますが
これは時間が巻き戻ったのか、あるいは、見世物小屋に行く前のシーンを
あえてラストに書いたのか、これまたわかりにくい印象を受けました。

題名になっている「永遠が見える島」の扱いが曖昧であると感じました。
これについても冒頭で伏線を張っておいて、三途の川でこれがその島なのか! となる展開にしてみるか、あるいは、ラストシーンにその島を関わらせるか。

以上、長々と書いてしまいましたが^^;
昭和の風情を感じる作品で、大いに楽しませてもらいました。
私は長い文章を読むのが苦手なのですが^^;
この作品は引き寄せられるようにぐいぐいと読むことができました。

素晴らしい作品を読ませていただきましてありがとうございました。

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

すみません^^;
三人称一人称視点

三人称一元視点
でした

西山鷹志
softbank126077101161.bbtec.net

拝読いたしました。

不思議な物語でありながら、家族の絆(父、美月、健太)が良く伝わって来ます。
母親が健太を助ける為に、交通事故に巻き込まれ亡くなって。それ以降は3人家族。
父の直樹は酒屋で良く飲んで帰りが遅いし、一緒に食事をとらない。
妻が亡くなり酒浸りで子供を虐待するかと思ったらそうてもなく意外と子供思いには救われました。

小学2年生の健太は小学6年生の姉美月が大好き、だが自分のせいで母が犠牲になったとお持っいる。それでもまだ幼い健太は母に逢いたくてたまらない。
父親を飲み屋に迎えに行った帰り神社の裏にテントを張ったお化け屋敷のように所へ
「お客さんこれは本物だよ。正真正銘の河童の腕だ。それも三途の川にいた河童だ」
この辺から話が不思議な世界へ進んで。
狐のお面を被った少女に健太は、母に会いたいなら家族の写真を持ってくるように言われた
最終的には母が亡くなった経緯のような、美月の写真を渡しのが悪かったのか美月が身代りになって死ん母が生き返る?
この辺から、こんがらかって分からなくなりましたが(笑)
おとぎ話りようであり家族の絆が伺えました。
言葉は全面的に関西弁になっていますが夜の雨さんは関西の方ですか?
力作、楽しませて貰いました。

夜の雨
ai195078.d.west.v6connect.net

神楽堂さん、ご感想ありがとうございます。


>「駄菓子屋」「銀玉ピストル」などの単語で時代設定を読者にスムーズに伝えることができており、いい書き出しだなと思いました。
ちなみに私は銀玉鉄砲という名前は聞いたことがありますが遊んだことはありません^^;
ラムネも懐かしいです。
私が小学生の頃、学校近くの個人商店で買って飲んでいました。<

子供のころ近所の駄菓子屋で「銀玉ピストル」を購入して遊んでいました。
マッチ箱などを2メートルほど離れたところに置いて標的にしていました。
店主は下駄屋の隠居のじいさんでいつも碁盤に石を並べて研究しているようでした。


>栓抜きで、シュポンとビーダマを抜き、細かい泡がパチパチとはじけるのを見ながら飲んだ。

私が幼い頃飲んでいた「ラムネ」はビー玉を押し込むような道具が店先に置いてあって、それを使ってビー玉を瓶の中に押し入れて開栓して飲めるようになるというものでした。
ビー玉を押し込んだ瞬間にラムネが溢れ出てくるので、あわてて瓶に口をつけて飲んだのが懐かしい思い出です。

>シュポンとビーダマを抜き、

ビー玉を押入れ、の方が適切なのでは? と思いながら読みました。
もしビー玉を抜くタイプのラムネがあるのなら大変失礼いたしました。

「ラムネ」のビー玉は「抜く」ですね。子供の頃、よく飲んでいました。瓶の造形美は国宝級です。誰があの造形をイメージしたのですかね? 

A>中身を飲む際は、瓶の口を密封しているラムネ玉を瓶内に押し込み、内圧を逃がすことで開栓する。<
調べました。ウィキペディアではAと書いてありますね。
いやぁ、そんなはずはない「絶対ラムネは、抜く!」のはずなので「全国清涼飲料協同組合連合会」の情報を調べてみました。
「第5回ラムネ俳句大賞」というのがありましたので、大量の俳句を見ますと「抜く」がかなりありますね(にんまり)。
ちなみに7年前の情報です。


>回り灯籠

私が子供の頃、祖母の家にお盆で行った時、見た思い出があります。
ろうそくの炎の上昇気流を使って回転させているんですよね。
小学生のときに見たきり、私はずっと回り灯籠は見ていません。

「灯籠」は終戦のニュースなどを見ていても川に流しているのを見かけますが、さすがに「回り灯籠」はないかもと思いましたが、演出上回り灯籠にしました。
「回り灯籠」は自宅にもありましたね、盆とかで見かけていたと思います。
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せっかくの機会ですので、重箱の隅をつつくコメントもさせてください^^;

>問題点の描写等について。<

>窓枠に吊るした、風鈴が涼しげな音を鳴らした――。
●窓枠に吊るした風鈴が、涼しげな音を鳴らした。

>朝顔のつるが、窓枠に立てかけた竹の棒に絡みついて上に登っている。
●朝顔のつるが、窓枠に立てかけた竹の棒に絡みついて登っている。

>回り灯籠が完成してあった。
●回り灯籠は完成していた。


>父親と母親それに子供が二人……。姉と弟らしかった。

(校正案)
父親と母親、それに子供が二人。姉と弟のように思えた。

「……」を入れたのは二人の子供が主人公なので、余韻を出すためでした。


> 幻想のような世界に、「おかあちゃん……」と、健太は思わずつぶやいていた。
> 健太の母親は彼を交通事故から守ろうとして亡くなったのだ。

影絵を見ているのが過去で、母親の死が更に過去ですよね。
英語でいうところの過去形と過去完了形みたいなものでしょうか。

(校正案)
> 幻想のような世界に、「おかあちゃん……」と、健太は思わずつぶやく。
> 健太の母親は、彼を交通事故から守ろうとして亡くなっていたのだった。

ここは、違いがわかりませんが。


>母親がいなくなってから、彼女の作っていた手作りのレシピを見て、美月は料理を作った。

母も美月も女性ですので「彼女の」がどちらを指しているのか迷いました^^;
(校正案)
母親がいなくなってからは、母親が使っていた手作りレシピを見て、美月は料理を作っていた。

ここは、とくに問題がるようには思えませんが。


> 美月はそういって、父親の料理を二人でわけた。いつものことで、直樹は飲み屋で夕食も済ましてくるのだろうと思った。

前の文で「父親」だったのが、どうして次の文では「直樹」となっているのか、よく分かりません。
ここは父親で統一してよいのでは?

なるほど父親で統一したほうがよいですね。


>裸電球に照らされて、金魚すくいや射的、綿菓子と店が並んでいる。

昭和の風情を感じる描写ですね。
こういうの好きです。

作品の世界観を出すためには描写が必要でした。
今回投稿して改めて距離をおいて自分の作品を眺めると、もっと描写等をしてもよかったかなと思っています。

夜の雨
ai224018.d.west.v6connect.net

飲みつぶれた父親を迎えに行ったあとは「直樹」という表現が頻繁に出てきて、それも戸惑いを感じてしまいました。
前段は子供たちしかいない場面なので「父親」という表現で問題ないのですが、いざ父親が登場してしまうと「直樹」という表現になり……
いっそのこと健太の一人称視点で書いたほうが潔かったのではと思いました。

このあたりは時間をおいて考えてみます。



> 美月は直樹の前で自分は子どもではないと言うことを、アピールしたかったのかも知れない。

語り手は美月の心情を「想像」していますね。
となると神視点ではなさそうです。
かといって一貫して三人称一人称視点で健太側という書き方になっているわけでもないですよね。

視点についてですか。
私自身は読んでいて特に違和感は感じなかったのですが。


怪しい見世物小屋だな、と思って読んでおりましたが、

>感心して男をよく見ると彼は義足をしていた。

なるほど、そういう事情で怪しい商売をしていたのかと、端役にもそれぞれの人生があるのだなと思いました。
こういう細かい設定、いいですね。

河童が重要な役目をしていますので、その河童と絡んだカイゼル髭の香具師をくせのある人物として描きました。


>直樹は見ていた夕刊を手元に置いて

夕刊に昭和を感じました。
夕刊は今でもあるのか気になったので、
私が住んでいるところの新聞社を調べてみたところ、
夕刊はもうやっていませんでした。

インターネットやスマートフォンの普及により、ニュースの入手方法が多様化したために、地方などの新聞社は採算上の問題もあり、夕刊の発行をやめるところが増えているらしいですね。


三途の川のシーンはハラハラしながら読みました。
話が急展開を迎え盛り上がってきました。
ここで河童の片手の伏線が活かされ、なるほど~!
と感動しました。

河童は準主役みたいなもので、てへへ。
カイゼル髭の香具師とよいコンビかなと。


三途の川のシーンが終わり目が覚めると、
美月が死んだことになっていて母が生きている。
このことに健太が驚くシーンが描写されていないことに違和感がありました。

健太は三途の川で死星を見ていないので、三途の川での出来事は狐面の少女のいたずらで「夢」だったという顛末になっています。
なので、夢から目覚めた健太の日常には姉の美月が亡くなっていたのは過去の出来事なので、驚かなかったということです。
すでに美月には墓があるという設定になっています。
美月は母の身代わりになっているという事です。


ラストでは、また美月は生きているわけですが、
となると、どのシーンが真実で、どのシーンが虚構なのか
わかりにくい印象を受けました。
もっとも、その曖昧さが作者様の狙いなのかもしれませんが。

ラストは美月が「永遠が見える島」の住人になっていたという設定です。ということで、美月が一番しあわせだったころの時間が永遠に流れるという事です。
美月は三途の川で月の隣にある「死星」を見ていたので、元の世界に戻ることはできずに、河童が言っていた「永遠が見える島」へたどり着いていた。


>へぇ、お父ちゃんに頼んでみんなで観に行きたいな

ラストは、見世物小屋に行く前のシーンになっていますが
これは時間が巻き戻ったのか、あるいは、見世物小屋に行く前のシーンを
あえてラストに書いたのか、これまたわかりにくい印象を受けました。

このシーンは美月が三途の川の果てに着いた「永遠が見える島」での出来事です。
したがいまして三途の川で河童も「永遠が見える島」を探していましたが、「ラストの見世物小屋」の話は、河童も「永遠が見える島」で、カイゼル髭の香具師と楽しく芝居をしているという設定です。


題名になっている「永遠が見える島」の扱いが曖昧であると感じました。
これについても冒頭で伏線を張っておいて、三途の川でこれがその島なのか! となる展開にしてみるか、あるいは、ラストシーンにその島を関わらせるか。

ラストでの「永遠が見える島」の場面の設定があまりにも少なかったので、わかりにくくなっていた。
という事になりますね。
神楽堂さんに今回感想をいただいて拙作を検証していろいろなことがわかりました。

この作品、ラスト部分の「永遠が見える島」の場面を膨らましたら、相当面白くなるのではと感じました。


神楽堂さん、ご感想ありがとうございました。

夜の雨
ai203148.d.west.v6connect.net

西山鷹志さん、ご感想ありがとうございます。


こちらの作品は13年ほど前に「灯籠流し」というタイトルで一稿目を書いています。二稿目が7年前で今回のタイトルにしました。そのときに、冒頭とラスト部分を変更しまして『永遠が見える島』という作品にしました。
今回はその冒頭部分を削りラストを少し変更したのですが、西山さんや神楽堂さんの感想を読んでいますと、『永遠が見える島』のエピソードが描かれていないというか、そのあたりの世界を膨らましていな事に気が付きました。
構成に難がありということになります。

西山さんの感想を読むと三途の川にある永遠が見える島に着くまでは問題がないように思うので、
島に着いた後の世界を練り込みたいなぁと思います。


ちなみに私は大阪で育ちです。


お疲れさまでした。

飼い猫ちゃりりん
115-37-227-66.area8a.commufa.jp

夜の雨様
五十枚という長さを感じないほど、美しく流れるようで見事です。
とにかく、言葉の一つ一つが、言葉というより情景描写を描く「絵の具」として機能しており素晴らしい。

細かい点は割愛します。母親彼女美月れぴし問題は特に感じない。普通に読めました。

飼い猫が感じた問題点。
現実路線から不思議路線への切り替えに無理矢理感が微妙に残る。
これはファンタジーの宿命なのかなぁ。それを言っちゃおしまいよ、と言うことで、誰も指摘しないのでしょうか?
飼い猫なりに大胆な改善案はあるのですが、押し付けがましいのでやめておきます。

素晴らしい作品を読ませていただき、ありがとうございました。

夜の雨
ai224184.d.west.v6connect.net

飼い猫ちゃりりんさん、ご感想ありがとうございます。


五十枚という長さを感じないほど、美しく流れるようで見事です。
とにかく、言葉の一つ一つが、言葉というより情景描写を描く「絵の具」として機能しており素晴らしい。

おほめの数々、ありがとうございます(笑)。


飼い猫が感じた問題点。
>現実路線から不思議路線への切り替えに無理矢理感が微妙に残る。
これはファンタジーの宿命なのかなぁ。それを言っちゃおしまいよ、と言うことで、誰も指摘しないのでしょうか?<

「ぶひぶひ」(前作の黄色い牛の真似事)そりゃぁ、マジかぁ。


>現実路線から不思議路線への切り替えに無理矢理感が微妙に残る。<

ここは、かなり重要で。

>飼い猫なりに大胆な改善案はあるのですが、押し付けがましいのでやめておきます。<

「大胆な改善案?」面白そうだなぁ……。そういうのは、結構好きなんだけれど。「改善案」勉強になるので。

>素晴らしい作品を読ませていただき、ありがとうございました。<

お互いに頑張りましょう。

ところで、「改善案」って、なに? 具体的に、よろしく。


右も左も、中道もよろしく。

飼い猫ちゃりりん
14-133-239-190.area5a.commufa.jp

飼い猫の具体案は題名ですよ。
『永遠に見える島』を科学的にイメージすることから始めます。
夜の雨様は「永遠に見える島」を明確にイメージしていますか?

夜の雨
ai193135.d.west.v6connect.net

猫さんへ。

>現実路線から不思議路線への切り替えに無理矢理感が微妙に残る。
これはファンタジーの宿命なのかなぁ。それを言っちゃおしまいよ、と言うことで、誰も指摘しないのでしょうか?<


飼い猫の具体案は題名ですよ。
『永遠に見える島』を科学的にイメージすることから始めます。
夜の雨様は「永遠に見える島」を明確にイメージしていますか?

なるほどなぁ、「『永遠に見える島』を科学的にイメージする」とは。
三途の川の果てにある島をより具体的にという事だと思いますが。

他人様の作品を読んで感想は分析して書く癖がついているので、近ごろはわりと物事がよく見えるようになりました。

今回は拙作を投稿してみなさんから感想をもらい、書けていない部分があるのが見えたので、それを科学的にイメージしたいと思います。

科学的にイメージ=(すなわち)客観的に何が足らないのか、どう膨らますとよいのか、そのあたりを考えたい。

テーマから、作品全体を見直しつつ練り込んだほうがよさそうですね。


猫さん、ありがとう。

飼い猫ちゃりりん
sp49-97-101-164.msc.spmode.ne.jp

夜の雨様。
飼い猫の提案は全然具体的ではないですね。苦笑

『永遠回帰』をテーマにする。
存在が完全消滅することは科学的にあり得ない。その形を変えて永遠に存在する。
ヘラクレイトスとターレスの自然哲学を参考にイメージを膨らませる。
天国と地獄は想像の産物。でも目の前にある世界だけが世界じゃない。
人間の知識は大海の中の一滴にすぎない。未知は必ずある。
例えば、アインシュタインの『愛の力』。宗教でもスピリチュアルでもない。アインシュタインは科学者である。
その科学にハイネの『流浪の神々』のエッセンスを融合する。ハイネは詩人だが『流浪の神々』は歴史哲学という認識もできる。
つまり「古き神々」ヘラクレイトスやターレスが崇拝していた神々、つまり自然が、キリスト教という科学的宗教に迫害されて追放された。
日本でも状況は似ている。日本の古き伝統文化は現代科学に迫害されている。紅麹迫害問題は象徴的。現代科学の罪を、日本の伝統食になすりつける。まさにサタンの所業。
話がそれた。
見せもの小屋の人たちは、科学に迫害された「古き神々の末裔」という設定。河童は精霊という設定。
井戸は別世界、つまり「永遠の島」に通じる道。
主人公はそこで母と再会する。
母は息子に言う。
「私が甦れば、誰かが代わりに眠らなければならないの。それが自然の摂理だから」
「じゃあ、お母さんを轢いた人に眠ってもらえばいいじゃん」
「そんなことをしちゃいけない。あれは避けられない事故だったのよ」
「でも、お母さんと一緒に暮らしたい!」
主人公は泣きじゃくる。
「大丈夫。またいつか必ず会えるから。また一緒に生活できるから」
「いつ?」
「那由多という時を越えて、人はまた巡り会うの。それが自然の摂理だから。そしてそれは永遠に繰り返されるのよ」

小次郎
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うーん。

>健太が駄菓子屋から帰って来ると、奥の六畳の部屋で姉の美月がテーブルに図面を広げて、なにやら工作をしていた。

帰って来ると、この、と、が助詞として不自然かなーって。

この文章、健太が帰ってきた瞬間を描写していますね。

帰って来た時には、や、帰ってきたらの、方が自然ではないでしょうか。

或いは、帰って来た時、とか。

文章の細かいことかもしれませんけど、ね。

では、続き読みますね。

小次郎
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懐かしい昭和感が見えました。

話しが難しい。

健太は騙されたんでしょうか。

写真要るって言われるシーンのところから、嫌な予感がしましたけど。

>直樹がテーブルに着いた。
 家族三人で朝食を摂った。
「午前中に墓参りに行きましょうか」母親が言った。
「そうだな、あれから二年か、早いものだ……、子犬を助けようとして自分が車にはねられるとは」
「私の目の前ではねられて、なぜ私が身代わりにならなかったのかと悔やまれることがあるわ」
「いや、おれがもっと注意していれば、美月が車にはねられることは、なかっただろうに……」
「私美月が車にはねられた後も、死んだとは思えなかった。だって、体に傷一つなかったんだもの。顔も綺麗なままで……」
 健太も美月が車にはねられたとき、その場にいた。
 姉の美月が死んだとは信じられなかった。眠っているように見えた。

美月が亡くなっているということになっている。
たぶん、美月は健太の行いで、母親の身代わりになった?

でも、ラスト美月出てきますけど、永遠が見える島でのことなのかなとか?

でも、それにしては、ラスト健太の様子おかしいし。一時的に、七夕みたいに、美月と会えるとかですか?

小次郎
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上手だなって思うところですけど、

>団扇で健太の顔をはたいた。健太は美月に顔をはたかれなぜかうれしかった。美月も健太の気持ちがわかっているのか、にやにやしながら、「死ぬんならもっと早いとこ死に。あんたのおかげでお母ちゃんが死んだんやで」と言った。もちろんこれは美月の冗談だったのだが、健太の顔色が変わった。しかし美月はそれには気が付かずに立ち上がって

こういう細やかな心理描写ですよね。三人称の強みが出ていますね。健太の顔色が変わりに、美月はそれに気が付かずという対がなんとも、対比がいいと感じます。

>「永遠が見える島か……」美月が何やら神妙に考え事をしている。
「僕たちには関係がないよ、だって、夢から目覚めると元の世界に帰れるんだから」
 健太がいうと美月が憂いのある表情でうなずいた。

この憂いのある表情はよいですね。なぜ憂いあるのかな? と、想像力湧きますから。

読ませていただきありがとうございます。

では、では。

夜の雨
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猫さん、ありがとうございます。

>『永遠回帰』をテーマにする。<

いや、こんな大それたことは考えていなかったのですが。
雰囲気が伝わればよいなぁという程度で。
しかし「今回の作品」では、「永遠が見える島」という部分(エピソード)をあまり描かなかったし、説明も書いていなかったのでわかりにくい作品になったかも。
ラスト近くで「永遠が見える島」に着くあたりまでは、それなりに描かれていたのではないかと思いますが。
というのも第一稿の「灯籠流し」という13年前に書いたときは、美月のラストでの登場はなくて、母の身代わりになったというお話になっています。
第二稿が7年前の「永遠が見える島」です。
つまり犬を助けようとした最初のお話は「健太」でしたが、それが「母」になり、三途の川へのお話につながるのですが、その「母」の代わりに「美月」が帰らぬ人になるという流れで終了でした。

今回皆様の感想をいただいて「永遠が見える島」という世界の話をしっかりと描く必要があると思いました。

>「那由多という時を越えて、人はまた巡り会うの。それが自然の摂理だから。そしてそれは永遠に繰り返されるのよ」<

「那由多」って、
一般的には無量大数が単位の最大値と理解している人がほとんどだと思いますが、仏教には無量大数よりも大きい数が定められています。
そのなかに「那由多」があり、とんでもない時になりますね。
もちろん「那由多」以上の数字もあるわけですが。


お疲れさまでした。

夜の雨
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小次郎さん、ご感想ありがとうございます。

>帰って来ると、美月が図面を広げて工作をしていた。<

文章を単純化してみました。
とくに、違和感はありませんが。

A>帰って来た時には、美月が図面を広げて工作をしていた。
B>帰ってきたら、美月が図面を広げて工作をしていた。
C>帰って来た時、美月が図面を広げて工作をしていた。

上のなかでは「C」の文章に違和感を感じましたが。
AとBは読んでいても、とくに違和感はありません。
このCの文章は「時間の瞬間」をピンポイントで描いているように思います。
AもCと似た文章なのですが、「には」があるので、柔らかみがありますね「時」に対して。


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懐かしい昭和感が見えました。

話しが難しい。

健太は騙されたんでしょうか。

写真要るって言われるシーンのところから、嫌な予感がしましたけど。

昭和感バリバリの作品です。
健太は「稲荷神社の狐面の少女」に騙されたということです。
設定としては稲荷神社の神さまですが、子供で未熟なので、健太を相手にいたずらをして人生を狂わせた。
健太や美月にとっては偉い災難です。

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>直樹がテーブルに着いた。
 家族三人で朝食を摂った。
「午前中に墓参りに行きましょうか」母親が言った。
「そうだな、あれから二年か、早いものだ……、子犬を助けようとして自分が車にはねられるとは」
「私の目の前ではねられて、なぜ私が身代わりにならなかったのかと悔やまれることがあるわ」
「いや、おれがもっと注意していれば、美月が車にはねられることは、なかっただろうに……」
「私美月が車にはねられた後も、死んだとは思えなかった。だって、体に傷一つなかったんだもの。顔も綺麗なままで……」
 健太も美月が車にはねられたとき、その場にいた。
 姉の美月が死んだとは信じられなかった。眠っているように見えた。

美月が亡くなっているということになっている。
たぶん、美月は健太の行いで、母親の身代わりになった?

でも、ラスト美月出てきますけど、永遠が見える島でのことなのかなとか?
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このエピソードは、健太が三途の川の夢から目覚めた(朝になったので起きた)ので、稲荷神社の狐の少女のいたずらから開放された、という展開です。
三途の川で河童がそのあたりのことを説明しています。
健太の場合は月の横に「死星」を見ていないので。

>>でも、ラスト美月出てきますけど、永遠が見える島でのことなのかなとか?<<
このラストのエピソードは、美月が「永遠が見える島」での生活が始まっている、という意味です。
美月は三途の川で月の横に「死星」を見ていますので、健太のように朝起きることはなくて「永遠が見える島」で自分の一番楽しかったという時間の流れのなかで生きるということです。
それには美月の世界の周囲にいる人物も必要なので、健太も存在しているし、ほかの者もいるという設定です。
もちろん三途の川にいた河童もいます。
拙作では、そのあたりのラストでの「永遠が見える島」でのエピソードをしっかりと描かなかったので、わかりにくくなっています。

作品のタイトルが『永遠が見える島』なので、構成的に島の中でのエピソードを中心にするべきでした。


>>でも、それにしては、ラスト健太の様子おかしいし。一時的に、七夕みたいに、美月と会えるとかですか?<<
面白いところに気が付きましたね。
このラスト部分ですが、健太からエピソードが始まっていますが、「美月」の「心の世界」の物語が『永遠が見える島』では構成されています。
つまりここでは美月が主人公(彼女の幸せな時間の流れの世界が「永遠が見える島」)です。
なのでちょいとずれた世界が描かれています。


上手だなって思うところですけど、

>団扇で健太の顔をはたいた。健太は美月に顔をはたかれなぜかうれしかった。美月も健太の気持ちがわかっているのか、にやにやしながら、「死ぬんならもっと早いとこ死に。あんたのおかげでお母ちゃんが死んだんやで」と言った。もちろんこれは美月の冗談だったのだが、健太の顔色が変わった。しかし美月はそれには気が付かずに立ち上がって

こういう細やかな心理描写ですよね。三人称の強みが出ていますね。健太の顔色が変わりに、美月はそれに気が付かずという対がなんとも、対比がいいと感じます。

こういったエピソードは人物表現の味があり面白いですね。
細部まで読んでいただき作者冥利につきます。


>「永遠が見える島か……」美月が何やら神妙に考え事をしている。
「僕たちには関係がないよ、だって、夢から目覚めると元の世界に帰れるんだから」
 健太がいうと美月が憂いのある表情でうなずいた。

この憂いのある表情はよいですね。なぜ憂いあるのかな? と、想像力湧きますから。

上にも書きましたが健太は三途の川の空では「月」が出ているのは見ていますが、その横の「死星」は見ていません。
美月は健太が、三途の川で灯籠舟に載せた写真から出た後に、月の横にある「死星」を見ています。
河童は「死星」が見えるのは死んでいる人間だけと言っています。
そして「永遠が見える島」のことを「ここから、帰れなくなった魂だけが行ける島なんだ」と。
すなわち美月の魂は「永遠が見える島」へ行くことが許されるということです。

そのあたりのことがあるので美月は健太のことばに対して憂いのある表情になった、ということです。
美月が健太に死星が見えるということを伝えると心配するだろうと思ったので言わなかった。
彼女なりの健太への思いやりです。


細部までの読み込みありがとうございます。


お疲れさまでした。

小次郎
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この作品への感想は、これで最後にしますね。

あまりくると、ご迷惑だと思われるかもしれないので。

>健太が駄菓子屋から帰って来ると、奥の六畳の部屋で姉の美月がテーブルに図面を広げて、なにやら工作をしていた。

この文章を読んだ時、感覚がなんだかはじいたから。

でも、これ僕の感覚だし、文章に自信あるわけじゃないし、とりあえずAIに聞いていたんです。

文法的には正しいそうですよ。

でも、AIもこの文章の不自然な点を上げていました。

僕もAIも完璧ではもちろんありません。

ただ、なんだかしっくりこないと思う人「も」いる文章かな?

でも、文章って自分の勘みたいなのが大事かもしれませんね。夜の雨さんの勘。

あと。

帰って来ると、

こう書く利点もあるそうですよ。AIによれば。

下記、この作品の印象です、僕の。

美月にとっては、ハッピーな世界、残された家族にとっては、残酷な世界。

この作品ではそれが残ります。

でも、テーマがわからないです、どうしても。

僕の読解力不足。

これにて。

神楽堂
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再訪失礼します。


>健太が駄菓子屋から帰って来ると、奥の六畳の部屋で姉の美月がテーブルに図面を広げて、なにやら工作をしていた。

私も、この文には違和感ありました。

この作品の他の箇所でも言えることなのですが、視点があいまいなんですよね。
語り手のポジションが不明確と言うか、三人称の文体なのですが、一元視点なのか神視点なのか、明確になっていません。

で、上の文章の不自然な点は(とはいっても、意味は通じる文ではありますが)

>健太が駄菓子屋から帰って来ると

ここでは、視点は家の中の美月視点の書き方になっています。 帰って「来る」 となっているので。
その後、この文は、

>美月がテーブルに図面を広げて、なにやら工作をしていた。

で終わっていて、美月を見ている視点になっている上に、

>なにやら工作をしていた。

神視点ではないので何を作っているのか、語り手にも分かっていない。
では、語り手は誰? ということになります。

(美月が)なにやら工作をしていた というのは、どちらかというと健太視点の書き方です。
つまり、この文は三人称一元視点で書いていて、その「一元」が文章中に移動してしまっているのです。
文の前半は美月視点、後半で健太視点になってしまっています。

そのため、意味はわかるけれどもどこか違和感のある文となっているように私には思えました。

この作品、ところどころ、地の文で登場人物の心情等を「想像」する記述があるのですが、
それは「誰が」想像しているのか。
語り手の想像なのか、
登場人物の想像なのか、
そのあたりの書き分けがあいまいになっているように感じました。

いろいろ書いてしまい失礼いたしました。

夜の雨
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小次郎さんと神楽堂さんへ。


>健太が駄菓子屋から帰って来ると、奥の六畳の部屋で姉の美月がテーブルに図面を広げて、なにやら工作をしていた。<

「AIに尋ねてみると」下記の返答でしたが。
この文章には特に問題はありません。文法的にも意味的にも正しく、状況が明確に描写されています。健太が駄菓子屋から帰ってきたときの情景がよく伝わってきます。


私の考え。
●この文章が「美月視点」なら、健太が『駄菓子屋』から帰ってきたのか、『ほかのところ』から、帰ってきたのかわかりません。


以上です。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

自分は銀玉鉄砲とか知らない一つ若い世代ですが、それでも郷愁を誘うような「匂い」のある作品でした。
特に前半部分の「匂い」は素敵です。なかなかそういう文章が織りなす空気に漂う色を楽しめるのは貴重です。

中盤部分から幻想に突入するのですが、その加減はちょっと自分のツボから外れました。
必要以上に論理的に説明しようとしていて、で、そういうのは冷めるというか、趣を感じないんです。
辛口になってしまいますが、幻想パートをもっと説明ではなく漂う世界観で説得させてもらったら、ほんとうに素晴らしい作品になったと思います。

夜の雨さんはあんまり突飛な設定に頼らないで、極めて現実路線で話を進めても、良いの書ける気もしますが、んー、こういうのは書く人の嗜好と好みに殉じるのが一番だと思うので、思うだけにします。

夜の雨
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えんがわさん、ご感想ありがとうございます。


>自分は銀玉鉄砲とか知らない一つ若い世代ですが、それでも郷愁を誘うような「匂い」のある作品でした。
特に前半部分の「匂い」は素敵です。なかなかそういう文章が織りなす空気に漂う色を楽しめるのは貴重です。<

こちらの作品は時代の情景を頭の中に浮かべながら書いたものですから、世界観が浮かび上がったのでは。
小説の文章は情報を伝えるだけでなく、「感じさせる」ことも必要なのではと思います。


>中盤部分から幻想に突入するのですが、その加減はちょっと自分のツボから外れました。
必要以上に論理的に説明しようとしていて、で、そういうのは冷めるというか、趣を感じないんです。
辛口になってしまいますが、幻想パートをもっと説明ではなく漂う世界観で説得させてもらったら、ほんとうに素晴らしい作品になったと思います。<

そこなんですよね、あまり頭で考えると説明調になり、それまでの世界観を壊してしまいますよね。


>夜の雨さんはあんまり突飛な設定に頼らないで、極めて現実路線で話を進めても、良いの書ける気もしますが、んー、こういうのは書く人の嗜好と好みに殉じるのが一番だと思うので、思うだけにします。<

たしかに凝ったストーリーというかネタばかり考える癖がついています。
しかしあまり現実路線を書いちゃうと、自分的には楽しみが少ないなぁと思いまして。

まあ、バランスですかね。


お疲れさまでした。

moshiro
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夜の雨さま

先日自身の作品にコメントいただきましたので、夜の雨さまの御作も参考にさせていただきたいと思い来訪しました。

まず、情景描写がとても綺麗だなと思いました。私自身は平成生まれの若造で、見たことあるはずが無い昭和の情景も、なぜか懐かしく感じてしまうのは、まさに夜の雨さまの技術がなせる業であると思いました。私が作品を書くときは基本一人称で、どうしても主人公の心理描写ばかり書いてしまうので、夜の雨さまの書く美しい情景描写はとても参考になるというか、憧れさえ抱くほどです。

唯一気になった点としては、他の読者さまもおっしゃられていますが、ラスト2パートで「美月が死んでしまった世界線」と「美月が生きている世界線」の両方が描かれており、一体どちらが真実なのか分かりづらかったことです。
私としては「美月が死んでしまった世界線」の方が現実のように感じられました。理由としては「身代わりになって事故死したのは母親ではなく美月の方で、健太自身、その事実を頭では分かっているのだけれど、違和感を感じてもいる」という流れに真実味を感じたからです。逆に「美月が生きている世界線」が真実だとしたら、三途の川を渡る描写などはすべて夢オチ(?)になってしまい、読者としては若干拍子抜けの印象を受けてしまう気がします(解釈が間違っていたらスミマセン)。
ラストパートで狐少女になった美月が現れて健太が「姉ちゃん生きていたの?」「やっぱり死んでるの?」という疑問・余韻を持たせつつ、事実をハッキリとは語らないラストが個人的には綺麗な終わり方(もしかすると作者さまもそのように意図されているのでしょうか?)のように思いましたが、最後は死んだはずの美月と健太が手を繋いで家に帰る(?)という展開になっているので、やはり「美月が死んでしまった世界線」と「美月が生きている世界線」のどちらが正しいのか分からない、という印象になってしまった気がします。

また、「自身の命を身代わりに、大切な人を生き返らせる」という設定はとても面白く、長編のアニメ作品にも出来るんじゃないかとさえ思いました。

作品全体としてはとてもレベルが高く、面白く読ませていただきました。自身の執筆活動の参考にさせていただきたいと思います。

稚拙なコメント、失礼しました。

夜の雨
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moshiroさん、ご感想ありがとうございます。

拙作の「永遠が見える島」は以前「灯籠流し」というタイトルの作品でして、そのときのラストは健太と両親が美月の墓参りをするという流れでした。
オチは健太が稲荷神社の前を通りがかったときに狐面の少女が石灯籠の陰から健太をじっと見ているシーンで終わりです。
要するに狐面の少女のいたずらで美月が三途の川から戻れなくなったということになります。
母親の代わりになった、ということです。

今回の「永遠が見える島」がわかりにくいのはラストが二通りあり、それをわかりやすく説明しなかったからだという事になります。

健太と両親が美月の墓参りをするラストは初期の作品(灯籠流し)のパターンです。
で、今回はもう一つのラストを用意しました。
それが「永遠が見える島」のお話で、美月が出て来たのは彼女が「永遠が見える島」という自分が一番幸せだったころの時間が永遠に流れるというような世界にたどり着いた、という事になります。
なので、こちらの世界では健太も美月も両親もみんな生きていて生活をしている。
そして三途の川で出会った河童もこの永遠が見える島にたどり着いて芝居小屋でカイゼル髭の男や獄卒の鬼どもと一緒に楽しく捕り物劇をしているという不思議な世界。

ということで、ラストを二通り(健太が夢から覚めると母の代わりに美月が無くなっていた)(本筋の方は健太も美月もそして両親もみんな幸せに暮らしている。それに河童も活躍している世界)を描いたわけです。
ただ、本筋の美月がいる世界のお話が短すぎて物語を描き切っていなかった、という事になります。
それでわかりにくくなりました。


「初期の作品(灯籠流し)」のラストをいじっただけで「永遠が見える島」を描こうとしたのが間違いでした。
根本から設定と構成を練り直す必要があったみたいです。

ちなみに作品の性質から、世界観の演出するうえで情景描写はしっかりとする必要がありました。



ご感想、ありがとうございました。

黎め
60-57-49-252f1.hyg1.eonet.ne.jp

昭和を象徴するような事象と飾らない関西弁により、ノスタルジックな世界に連れて行かれました。
展開するストーリーを追う中で、ところどころで現れる

>むんとする空気のよどみが肌にまとわりついて
>見る物すべてを赤いセロハンを通して見ているよう
>青白い満月に照らされて、虫が鳴く、夜の底のような帰り道
>わずかな時間しか命を持たない花火

などの描写が素敵で、ハッとさせられました。
登場人物たちの会話がごく自然で、幻想世界へ違和感なく繋がっていったように思います。
ありがとうございました

夜の雨
ai225204.d.west.v6connect.net

黎めさん、ご感想ありがとうございます。

>むんとする空気のよどみが肌にまとわりついて
>見る物すべてを赤いセロハンを通して見ているよう
>青白い満月に照らされて、虫が鳴く、夜の底のような帰り道
>わずかな時間しか命を持たない花火
この、一連の描写ですが、これらは拙作の世界観を出すために意識的に描いています。
なので、気が付かれて、手ごたえを感じます。


ノスタルジックな中にも、幻想的な世界を描こうとしたので、読み取っていただき、ありがとうございます。

小説を書く表現力のなかに、文体が重要な役目をしていますので、そのあたりに注意をしてこれからも書いていけたらなぁと思います。


ご感想、お疲れさまでした。

ブロッコリ
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有難いことに、ここの出禁が解けました。

素晴らしい作品だと思います。
でも、やっぱり分かりにくい部分があります。
誰にでも分かるような流れにはなってないですね。
少しの変更で直ると思うのですが僕も考えてみたいと思います。
有難いアドバイスを沢山頂いてるので。

夜の雨
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ブロッコリさん、ご感想ありがとうございます。

>有難いことに、ここの出禁が解けました。<

おめでとうございます(笑)。

>素晴らしい作品だと思います。
>でも、やっぱり分かりにくい部分があります。
>誰にでも分かるような流れにはなってないですね。
>少しの変更で直ると思うのですが僕も考えてみたいと思います。
>有難いアドバイスを沢山頂いてるので。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
拙作は説明をせずにエピソードで描いているものですから、三途の川の果てで「永遠が見える島」にたどり着いたあとのエピソードが短すぎて、肝心の『永遠が見える島』の世界をほとんど描かなかったところに、問題があります。

また、機会がありましたら、今回の作品を修正するのではなくて「新作」として、根本の設定から練り直して創作したいと思いました。

ちなみに今回の「永遠が見える島」の後半部分を説明しますと、三途の川の果てで「島」にたどり着いたところで、弟の健太は夢から覚めて現実(元)の世界へ戻った。
そこでは、「母親の代わりに姉の美月が亡くなっていた」という流れです。

それで「本筋」の方は、姉の美月が登場しているラストです。
こちらは三途の川の果てで『永遠が見える島』にたどり着いていた。
という展開で、永遠が見える島での家族そろっての平和な生活の日常がある、という流れです。


また、ブロッコリさんの作品読ませてください。


お疲れさまでした。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

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