愛を取りもどせ
ラビスは静かな町の片隅に住んでいた。彼女の唯一の友は飼い猫のタマで、タマはいつもラビスのそばに寄り添っていた。ラビスは陰謀論や反ワクチンの話に夢中になっていたが、それは彼女の孤独を埋めるための手段だった。インターネットで新しい陰謀論を見つけては、それに没頭するようになった。彼女が最新の陰謀論をタマに語りかけると、タマは嬉しそうに髭をピンと伸ばした。次第にラビスは周囲の人々との関係を断ち切り、ますます孤独になっていった。
そんなある日、ラビスは町の図書館で偶然、昔の友人であるノアと再会した。女子高時代からの憧れの先輩である。
ノアはラビスの変わり果てた姿に驚き、彼女に声をかけた。「ラビス、久しぶりね。元気にしてた?」
ラビスは一瞬戸惑いドキドキを隠せずにいたが、ノアの優しい笑顔に心を開き始めた。ラビスは自分の孤独と、陰謀論にのめり込んでしまったことを打ち明けた。ノアは静かに彼女の話を聞き、こう言った。「ラビス、孤独は誰にでも訪れるもの。でも、それを乗り越えるためには、誰かと繋がることが大切なのよ」
その言葉にラビスはハッとし、ノアと再び友人としての関係を築くことを決意した。
(やがてそれは、友人という一線を越えてしまう関係に発展することとなるのだが)
ラビスは少しずつ陰謀論から距離を置き、現実の世界に目を向けるようになった。
「私はやっと真実を見つけたよ」
ラビスはタマに嬉しそうに言った。
「人と繋がることが、心を癒す鍵だったの」
その日からタマは行方知れずとなった。
が、ラビスにはタマを探す気など微塵も起きなかった。
タマは孤独となった。
唯一の友人だと信じていたラビスの心変わりを目の当たりした彼はその後、傷心を癒す為、あてもない旅に出たのだ。
ある日、ドヤ街の片隅でタマは奇妙な男に拾われた。男の名前はジョン、彼は信じられないような陰謀論を信じていた。ジョンはタマに「君は宇宙からのメッセンジャーだ」と言い聞かせ、タマを自分の家に連れて帰った。
ジョンの家は奇妙な装置や書物で溢れていた。タマは最初、戸惑いながらもジョンの優しさに触れ、少しずつ心を開いていった。しかし、ジョンの奇妙な行動や話に次第に不安を感じるようになった。ある夜、ジョンが「政府が君を狙っている」と言い出したとき、タマは家を出る決意をした。
次にタマが出会ったのは、陰謀論者の女性、リサだった。リサは「世界は巨大なコンピュータシミュレーションだ」と信じており、タマを「システムのバグ」として扱った。リサの家での生活は、ジョンの家とはまた違った奇妙さがあったが、タマはリサの優しさにも触れた。しかし、リサの過剰な監視と奇妙な実験に耐えられなくなり、再び家を出ることにした。
タマは次々と異なる陰謀論者に拾われ、そのたびに新しい奇妙な世界を経験した。ある者は「タマは古代エジプトの神の生まれ変わりだ」と信じ、またある者は「タマは未来からのタイムトラベラーだ」と信じた。タマはそれぞれの家で異なる愛情と奇妙さを経験しながらも、次第に自分自身の力で生きる術を学んでいった。
タマは百年生き、百人もの陰謀論者に飼われた。その間に第三次世界大戦が勃発し、世はまさに世紀末……
結局タマは自分の居場所を見つけることは出来なかった。しかし彼はもう孤独ではなかった。さまざまな経験を通じて自立し、強くなったタマは、どんな困難にも立ち向かうことができると感じていた。そしてある境地に達しこう叫んだ。「百年生きた自分こそが神なのである、私は猫神様なのだ!」と。
「ふっふっふっ……」
高揚したタマの後ろから笑い声が聞こえた。明らかにそれは嘲笑であった。とっさに振りかえるとタマはその声の主に唖然とした。ボロに身を包み、まるで浮浪者のようなその男のはだけた胸元には七つの傷があったのだ。
「あなたはもしかして、あのレジェンド」
七つの傷の男の話は風の噂で聞いていた。
「たしか、ケンタウロ……ス?」
名前の記憶は曖昧であった。
「おいお前、猫のくせにしゃべるのか」
タマは前足で慌てて口をふさいだ。いつの間にやら人間の言葉を会得し、話をしている自分に驚いた。
「今、よからぬ言葉を叫んでいたな」
七つの傷の男の眼がギラリと光る。
「……」
その鋭さに一瞬タマは声を失った。
「そのての言葉を発するものに、真っ赤な血など通ってはいない。てめえの血は何色だーーーっ!!」
おや? セリフの主が違うのでは、とタマは思った。が、そこをツッこんでしまっては事態がますます危うくなる。タマは己の言葉を呑み込んだ。
「お前さっき、俺の名をなんと呼んだ?」
違ったのだろう。が、タマにはどうしてもこの男の名前を思い出せない。
「俺の名を言ってみろ!」
こっ、このセリフは、またしても……と思ったが声が出ない。
自身を鳥だと錯覚していた妄想拳術士やら、鉄火面を被ってやたらといきがっていた男に飼われていた頃の苦い経験が甦る。果たして今の状況はデジャブなのか? と、タマは怪しんだ。
「俺の名を言えないのか? 言えないのなら三つでボンだ」
タマは心の中で必死に男の名前を思い出そうとしたが、どうしても出てこない。男の鋭い視線は、タマの心の底まで貫くように感じられたが、その目の奥には愁いを秘めた優しさも同居している。タマは覚悟を決め、正直に答えた。
「すみません、名前が思い出せません。でも、あなたがとても強い人だということはわかります」
男は驚いたような表情を見せたあと笑い出した。
「面白い猫だな。俺の名はケンシロウだ」
タマはその名前を聞いてようやく思い出した。
「ああケンシロウさん。そうでした、YOUはSHOCK! 沢山の陰謀を阻止した救世主。あなたの心の中には、これまで闘った強敵(とも)の魂が宿っていると聞きました」
「そこまで知っていたか。お前、やはりただの猫ではないな。何か特別な力を持っているようだ」
タマはラビスに裏切られたことや、自分が百年生き、多くの陰謀論者に飼われた経験を思い出しながら、「そうかもしれません。でも、今はただ平穏な生活を送りたいだけです」とケンシロウの目を見ながら言った。
ケンシロウはタマの胸中を瞬時に悟り、「俺と一緒に来い。俺が守ってやる」と頷いた。
タマはケンシロウの言葉に安心し、彼と共に新たな旅に出ることを決意した。
ケンシロウは歩きながらタマの話を親身に聞き、「しかしこのままでは、お前が陰謀論者になってしまうぞ。現実を見つめ、真実を見極めることが大切だ」と忠告した。
タマはその言葉にハッとし、自分こそが陰謀に囚われていたことを反省した。
「ありがとう、ケンシロウさん。あなたのおかげで目が覚めました」
ケンシロウは微笑みながら言った。
「それでいい。これからは俺と一緒に、真実を追い求める旅をしよう」
「はい」
「愛を取り戻すんだ!」
こうして、タマとケンシロウの奇妙な友情が始まった。
タマはもう孤独ではなかった。彼は新たな友と共に、未知の冒険へと旅立ったのだった。
https://youtu.be/plqvnB8QXd8?si=U3GDr8ccBvOWpzgU
完。
執筆の狙い
夜の雨さん、運営さんごめんなさい。
ついつい伝言板に書いてしまったことをお赦しください。
勢いで書いたものですが、一応こちらで完結しておきますねwww