作家でごはん!鍛練場

なろう小説なんてクソ食らえ

 俺の人生は運命という海の上に漂うマンボウだ。

 何十年もある人生。人生に起こる大半の事象は上手く行かない。
 それは、俺の若い十七年の人生が何よりを証明している。

 それでも、この世界には《《個体差》》というものがあって――上手く行く人間はとことん上手く行って、ダメな人間はどこまでも堕ちる。その中も俺はダメな部類だ。
 この差はきっと性格とか――人間としての《《器》》が起因していると思う。
 俺の場合は……過度に期待する性格故だろう。
 
 それを人は妄想癖と言う。

 単純な失敗は目を瞑るとしても、俺は妄想の果てに期待を持つことで、何事も失敗と感じてしまうのだ。
 だが、今回ばかりは妄想で片づけられる事案では無い。ふて寝を強いられる程だ。
「……うっわ……」
 その有様に当の本人も言葉を失う。
 せめて後悔の矛先を向けるとしたら、それはきっと俺の運。運命にだろう。
「……全部消えちゃった……」
 幸福の裏には不幸が潜んでいて、だいたいその不幸の方が往々にして残酷だ。
 目の前のディスプレイに映るは、タイトル以外消えた真っ白の更地。『やって後悔した方が辛い』なんて俺の生き様を綴った小説は、応募期限二日前に消えた。
 今回、俺に降りかかった幸福は――きっと目に見えるものじゃなかったのだろう。 
 タイトル以外何も残らなかった俺の心は、ぽっかりと開いてしまったようで――残った喪失感は、もう当分は埋まる気配が無かった。

 それは授業すらも手が付かないほどで。

 せっせと板書を取るこの状況に、俺は腕を組んでボーっと座っていた。
「なぁ? 落ち込んでる?」
 隣から囁く友達。
「……昨日応募する予定の小説間違って消しちゃったんだよね」
「っなわけ」
 その言葉から漏れる吐息には、微かに含み笑いが混じっていて――。
 俺だってまだ現実で起こったことだって信じたくないってかまだ信じてないよ!
「……あらすじと本編別で送れってやつでさ、イジってたら全部消えたんスよ」
 別に将来入賞するかも分からない小説をここまで執着するのは自分でもおかしいと思うときがある。だからと言って瞬時に切り替えれる訳でも無いし――。

 モヤモヤした気持ちは一層鬱々とさせる。
 何となく見る黒板に書かれた日付。一週間、そうか今日で一週間。
 今思えばコイツが来てから調子が狂った。コイツが俺の運を吸い取っていてもなんらおかしくない。むしろコイツに神経すり減らしてたせいで――。

 俺の視線は宙を舞う。

 こいつが日常化しているこの事態を悍ましいことだ。
 コイツは何者でなぜ俺の前に現れたのか――ぶっきらぼうなその顔が歪むぐらい問い詰めてやりたい。

 それは空中を浮いている。いや、泳いでいるのだろうか。
 ユニークな形状と、ゆっくりした泳ぎ。円盤のような形は……やはりマンボウだ。 

 いつからか俺の目の前には空を泳ぐマンボウが現れた。特に喋る訳でも、魔法の力を与える訳でも無く――ただ空に浮いている。
 なぜ急に俺の日常に溶け込んで来たのか、当てがないのが一番怖い所だ。
「田野《たの》~ご飯食いに行こうぜ~」
 隣から聞こえるその声は、依然宙に浮いたその違和感に声を上げない。

 ――その姿は俺以外誰にも見えていないらしい。
  
 向かいで座る学食、俺はカレーを食べながらもそのことに頭を悩ませていた。
 そしてその疑問は、脳内に収まらず、向かいに座る友達にまで投げかける。
「なぁ、マンボウの対処方法とか分かる?」
「……マンボウかぁ。ストレスに弱いとか聞いたことあるけどー……」
「……窮屈な奴なんだな。広い海でストレスなんて感じるか?」
 匂う俺のセリフに向かいの友達は俺に向かって箸を突きつける。
「マンボウにまで文句言うなんてお前も対外だぞ? 死ねよ」
「そんなに!?」
 激しめのボケとツッコミ、友達は薄笑いを浮かべる。これが俺の日常だ。何がどう間違っても俺の周りをマンボウ泳ぐなんてあるはずない。
 改めて宙を漂うマンボウを眺めるが、やはり俺の前に現れる理由が分からない。
 幻覚? 薬も葉っぱも当てはないぞ? やっぱ……なんで付いて来てんだろな。

 *

 放課後の昼とも夕方とも取れない時間。
 磯のような独特の匂いがする川を渡って駅に着く。

 ガヤガヤとした喧騒に包まれた駅前。そこから続くのは歓楽街。霞がたなびくような薄暗い裏路地を抜け、俺は壁にもたれかかる黒ずくめの男の前に立つ。
「ファンタジーは好きかい?」
「……物によるな。なろう系とか主人公の器が足りない話は嫌いだ」
 思想を押し付ける話は好きだが、一辺倒な妄想を押し付ける話は受け付けてない。
 小説を書くようになって中の人間を容易く想像できるようになってしまってからはさらになろう嫌いが酷くなった。
「いくら嫌いだからって客相手にそんなこと言うなよ?」
 胸に押し付けられる茶色の紙袋。それもちょうど本一冊入りそうな――。
「……分かってるよ。これは?」
「欲望の塊。草戸大橋《くさどおおはし》に客がいるはずだ」
「……分かった」
 

なろう小説なんてクソ食らえ

執筆の狙い

作者
154.240.183.58.megaegg.ne.jp

久しぶりにこのサイトに投稿します。いたらぬ点も多いと思いますが、許してください。

なろう系が蔓延っているのでそこら辺に切り込んで行きたく、この1話を書いてみました。
この世界ではなろうを麻薬のように扱っています。

気になる点なのですが、タイトルの伏線が浅く、そこまでが長いことです。
まず、黒づくめの男は欲望を売っており主人公はそれの運び屋です。2話目では主人公は警察に捕まる予定なのですが、その展開を一話目の最初に持ってきて「なろうがどうとか~」を入れても言いと思うのですが、それもあまり納得言ってないのでご教授願います。

コメント

偏差値45
p700092-mobac01.tokyo.ocn.ne.jp

いいね。
とはいえ、結末はよく分からないけど。
この世界観は好きですよ。

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

>佐さん

読ませていただきました。
冒頭から順番に感想を書いていきます。

> 俺の人生は運命という海の上に漂うマンボウだ。

いきなり分かりませんでした^^;
まず、マンボウって海の上に漂うのでしょうか?
海の中を泳ぐ魚だと思いますが。
マンボウに適した表現に変えた方がよいかと。

> この差はきっと性格とか――人間としての《《器》》が起因していると思う。

性格と器とが、あまりピンと結びつきませんでした。
器というのは能力の大きさ、度量などを表現するものであり、
性格とは違うものだと思います。

> 俺の場合は……過度に期待する性格故だろう。
> それを人は妄想癖と言う。

過度に期待する性格のことを、妄想癖って言うのですか???
この2つは別物だと思うのですが。

で、期待する妄想の話が来るのかと思いきや、書きかけの原稿が消えるんですよね。
これ、妄想ではないですよね?

> だが、今回ばかりは妄想で片づけられる事案では無い。ふて寝を強いられる程だ。

となっているので。
冒頭部分でやたらと、「過度に期待してしまう妄想」を説明しているのに、
具体例は妄想ではなく現実的な失敗が出てくるのは、やはりピンときませんでした。

これまでにどんな妄想をして、その期待がどのように砕かれて、その後、どのように思ったのか。

>やって後悔した方が辛い
の具体例でも一つ出したほうが、まだ説得力もありますし、作品もおもしろくなると思います。

そもそも、冒頭部分がぬるくて、ここまでで相当のツッコミどころがあったわけですが、私だったらどう書くのかという案で言うと、
書きかけの原稿が消えてしまった場面からスタートしますね。
その方が、読者も食いついてくると思います。

> 今回、俺に降りかかった幸福は――

なぜ「幸福」なのか、分かりませんでした。
あと、次の場面ですが、

> せっせと板書を取るこの状況に、俺は腕を組んでボーっと座っていた。

他のクラスメイトが板書をせっせとノートに写している中、僕は……

のように書いてみてはいかがでしょうか?


>「なぁ? 落ち込んでる?」

隣の子は、何が起きたのかまだ分からないはずなので、いきなり落ち込んでる? と聞くのは不自然。

どうした? 何か落ち込むようなことでもあったのか?

と聞くのなら分かりますが。


>全部消えたんスよ

今どきの学生の話し言葉は分からないのですが
同級生相手に、~スよ という言葉遣いで会話するのでしょうか?
この言葉遣い、ちょっとだけ上の立場の人に対して使うもののように思えるのですが、
私だけの違和感であればすみません。

>モヤモヤした気持ちは一層鬱々とさせる。

重複表現ですね。


あと、中盤で唐突にマンボウがでてきますが、遅すぎです。
インパクトがあるので、もっと冒頭付近に登場させるべきです。
妄想がどうたらこうたら書くくらいなら、さっさとマンボウを出したほうが面白いですし、わかりやすくなると思います。

ただ、マンボウが見えることと、過度に期待する妄想とは別物だと思います。
設定が拡散しすぎていているので、もっとすっきりさせた方がよいかと。
妄想と幻覚は別物ですが、前半は過度に期待する妄想の話、その後、マンボウが見える幻覚の話になっていて、展開が散らばりすぎています。


誤字の指摘ですが、

>マンボウにまで文句言うなんてお前も対外だぞ?

対外 → 大概

ひらがなでもよいと思います。



>何がどう間違っても俺の周りをマンボウ泳ぐなんてあるはずない。

誰の周りであっても泳がないと思うのですが……

例えばですが、
何がどう間違っても空中をマンボウ泳ぐなんてあるはずない。
としてみてもよいかと。

>黒ずくめの男の前に立つ。
>「ファンタジーは好きかい?」
>「……物によるな。なろう系とか主人公の器が足りない話は嫌いだ」

いきなり会話が成立しているところを見ると、主人公とこの男性は顔見知りということでしょうか?
待ち合わせていたのですか? 偶然会ったのですか?
この男に会いたいという目的意識があって駅に向かっていたのですか?
新キャラが出てきたのですから、もっと丁寧に書かないと。
読者置いてきぼり感が出てしまっています。

執筆の狙いに

>まず、黒づくめの男は欲望を売っており主人公はそれの運び屋です。

とありますが、そういうことは本文中に書きましょう。
この後にそういう記述が出てくるのだとは思いますが。

全体としての感想になりますが、展開がぬるいです。
素材はおもしろいものがたくさんあるのですが、進め方がまずい気がします。
まず、過度に期待する妄想、これは冒頭に書く意味がありません。
マンボウをどうにかしようと悪戦苦闘する場面から始めるなど、もっとマンボウをメインにもってきてよいかと。

あと、小説が消えたのは、マンボウのせいなのかどうか、記述がありません。
小説が消えたのはなぜなのか、読者は気になると思うのですが……
単純ミスなのか、ファンタジー的な力によるものなのか、読者への説明がありません。

設定はいいものがあると思うので、もっと読者を意識して書いてみてはいかがでしょうか。

と、いろいろ指摘してしまいましたが、
読ませていただきましてありがとうございました。

154.240.183.58.megaegg.ne.jp

神楽堂さん、ますは読んでくださりありがとうございました。
修正箇所が多く、端から端まできっちり読んでくださったんだなと、純粋に嬉しかったです。

冒頭の部分はもっとちゃんと書いた方がいいと思いました。他にも気になる箇所は多いのでそこも直しつつ2話につなげれたらいいなと――。誤字は本当に申し訳ないです。

またここに投稿するときがあれば、そのときも是非読んでいただけると嬉しいです!

夜の雨
ai224145.d.west.v6connect.net

「なろう小説なんてクソ食らえ」読みました。

 >それでも、この世界には《《個体差》》というものがあって――上手く行く人間はとことん上手く行って、ダメな人間はどこまでも堕ちる。その中も俺はダメな部類だ。
 この差はきっと性格とか――人間としての《《器》》が起因していると思う。
 俺の場合は……過度に期待する性格故だろう。<
これって、主人公を育てた「両親」の器じゃないのかな。
人間、産まれたときは、みなさんほぼ同じだと思います。
「個体差」が現れるのは、産まれて以後の「育て方」じゃないのかな。
両親が愛情をもって、産まれた子供をしっかりと育てるのかどうか、というあたり。

 >それを人は妄想癖と言う。
 単純な失敗は目を瞑るとしても、俺は妄想の果てに期待を持つことで、何事も失敗と感じてしまうのだ。<
この主人公ですが、小学生とかではないですよね。
つまりすでに人格をもった人物という事だよねと思いますが。

「人格をもった人物」という事は、その方に責任能力があるという事ですが。
つまり年齢に関係なく「大人」という事。

>「……全部消えちゃった……」
 幸福の裏には不幸が潜んでいて、だいたいその不幸の方が往々にして残酷だ。
 目の前のディスプレイに映るは、タイトル以外消えた真っ白の更地。『やって後悔した方が辛い』なんて俺の生き様を綴った小説は、応募期限二日前に消えた。<
これって、私(夜の雨)にも経験があります。
パソコンに保存してある情報が「消えちゃっている」という事ですが。
この件についてですが、最近気づいたのですが、windows Updateの更新ではないかと。
更新されたときに、それまでの仕様が無くなり、新しい仕様になっていたりと。
windowsのAIにそのあたりを尋ねると「それは残念でしたね」というような言葉を吐かれました。

という事で、お疲れさまですぅ。
このあたり(大事な情報)は、やはりネット空間で保存しておく必要があるのでは。

こいつという、日常化のマンボウ。

>「……マンボウかぁ。ストレスに弱いとか聞いたことあるけどー……」
「……窮屈な奴なんだな。広い海でストレスなんて感じるか?」<
感じるとか感じないとかではなくて、現実に目の前に浮かんでいるマンボウがいるという事が、ですが。なので友人の言う「ストレス」が正解かも。

「マンボウ」の存在意義ですが、妄想か現実かはわかりませんが、主人公が感じているのは確か。

 >放課後の昼とも夕方とも取れない時間。
 磯のような独特の匂いがする川を渡って駅に着く。<
この表現は面白いですね。
学校から駅までに海の近くを歩くわけですよね。「磯」がどうたらと書いているところにイメージを妄想してしまいます。

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 ガヤガヤとした喧騒に包まれた駅前。そこから続くのは歓楽街。霞がたなびくような薄暗い裏路地を抜け、俺は壁にもたれかかる黒ずくめの男の前に立つ。
「ファンタジーは好きかい?」
「……物によるな。なろう系とか主人公の器が足りない話は嫌いだ」
 思想を押し付ける話は好きだが、一辺倒な妄想を押し付ける話は受け付けてない。
 小説を書くようになって中の人間を容易く想像できるようになってしまってからはさらになろう嫌いが酷くなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
具体的なエピソードで描いているので、読んでいてイメージが広がります。
また、作者の主張があるのではありませんかね。


ということで、お疲れさまでした。

夜の雨
ai224154.d.west.v6connect.net

再訪ですが。

>なろう系が蔓延っているのでそこら辺に切り込んで行きたく、この1話を書いてみました。
この世界ではなろうを麻薬のように扱っています。<
えっ?
「なろう系」がどうたらとかは、どこに書いてあるのですかね?
私が読んだ限りでは、書いていませんが。
書いてはいないが、小説の冒頭である御作には「特別違和感はなくて、楽しめましたが」。

>気になる点なのですが、タイトルの伏線が浅く、そこまでが長いことです。<
だから、上にも書きましたが「なろう系」がどうのとかは、今回の御作には、まったく描かれていません。なので、「タイトルの伏線」などは、ないという事です。
「タイトルの伏線」はなかっても、充分読ませるものでしたが、私には。

>まず、黒づくめの男は欲望を売っており主人公はそれの運び屋です。2話目では主人公は警察に捕まる予定なのですが、その展開を一話目の最初に持ってきて「なろうがどうとか~」を入れても言いと思うのですが、それもあまり納得言ってないのでご教授願います。<
「まず、黒づくめの男は欲望を売っており主人公はそれの運び屋です。」すみません、「主人公は、それの運び屋です。」と言われても、「どこに運び屋の伏線があるの」ですかね。
主人公が「欲望」の運び屋なら、その伏線を今回の冒頭の部分で意味ありげに描いておくとよいのでは。怪しい伏線があれば、読み手は次回(二話)以降を読みたいと思うのでは。

タイトルを変更したらいかがですかね。
というか、タイトルは御作がラストまで出来上がってから、考えるとよいのでは。
ラストまで書いた後に、ご自分で作品を読み返して、テーマにあった、また、インパクトのあるタイトルにすればよいと思います。

「なろう小説なんてクソ食らえ」このタイトルに、どうして、こだわっているのかわかりませんが、ほかにも、御作に合ったタイトルがあるのかもしれないと思いますが。


それでは、頑張ってください。

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