作家でごはん!鍛練場
青木 航

下天の夢 Ⅲ

 世間からは蝮と呼ばれる斉藤道三。うつけと評判の織田信長に娘を嫁がせたのも、隙を見て弾正忠家《だんじょうのちゅうけ》を乗っ取ろうと図っているのだろうというのが、世間の噂であった。
 ところが道三は、娘婿・信長を宜しく頼むと各方面に働き掛けていた。それは、娘・帰蝶が、“信長は決してうつけなどではない” と再三知らせて来ていたからである。道三も人の子の親であったと言うことか。
 ところが、長年争って来た相手ではあるが、その力を認めていた信秀が急死した。急に後ろ盾を失った信長が、果たして弾正忠家を纏めて行けるのかと言う不安が生じた。
 帰蝶は、信長は先を見通す目を持っていると言って来ていたが、うつけであると言う評判は広まっている。ひょっとして、帰蝶の見る目が狂って来ているのではないかと言う疑いを持った。しっかりした娘ではあるが、男としての信長に惚れてしまい、見る目が曇ってしまったということも考えられる。

 道三は、信長と言う男の実態を、己の目で確かめてみようと思い、早速、会見したい旨の書状を信長に送った。場所は、美濃、尾張の国境であるが、双方から税を免じられている謂わば中立地帯と言える富田に在る正徳寺を指定した。

 会見当日、道三は正徳寺近くの藪に人数を隠し、例え姑に会う為と言えど、無防備にのこのこ出掛けて来るようなうつけなら、帰蝶がどう思っていようと討ってしまおうと思った。そして、帰蝶を強引にでも連れ戻そうと考えた。
 もし、世間の言う通りのうつけなら、自分が討たずともいずれ誰かに討たれてしまう。そうなれば、帰蝶も巻き込まれて死ぬことになる。その前に信長を討って帰蝶を取り戻すことが最善の策であると思った。

 早めに富田に着いた道三は、兵達を藪に隠した後、街道の見える場所に有る物置小屋のような場所に潜んで様子を見ることにした。様子を見るだけなら物見の者を配せば良いのだが、自分の目で信長と言う男を見極めた上で、討ってしまうかどうかを判断したかったのだ。その上で、討つと決心が着いたら、藪に潜んでいる兵達に伝令を出し、会見している間に寺を包囲するよう段取りするつもりだった。

 約束の刻限が近付いた頃、尾張の方角から来る一団を見て、道三は驚愕した。
 先頭の馬に乗る男は、確かに世間の噂通りの格好をしたうつけ信長に違いないのだが、その後に長々と続いているのは、朱の長槍を立てた数百の足軽隊。その後には、弓・鉄砲を持たせた足軽隊が、また長々と続いている。美濃と一戦をも交えられる数の軍団である。とても、道三が率いて来た手勢で討てる数ではない。逆に、信長がその気であれば、その率いて来た手勢を使って、道三を討ち取れる数ではないか。うつけは世間を謀る為の姿。先を見通せる男と言う帰蝶の報告に間違いはなかった。

 道三が手勢を潜ませているだろうこと。信長を値踏みしようとしていることは、素破《すつぱ》からの報告により信長は把握していた。
 彼の知る歴史とは違い、弾正忠家を掌握する前に信秀が急死してしまい窮地に陥っていた真人であるが、信秀の代わりに道三を後ろ盾とすることを考えた。その為には道三を驚愕させ、世間の噂に逆らっても信長を認め、そればかりではなく、美濃の安泰の為にも信長と組む必要が有るとまで思わせなければと考えた。
 そして、真人が居た元の世界の史書に書かれていた、那古野城下での軍の行進を道三に見せ付けることを思い付いたのだ。
 信長自身がうつけの姿のままだったのは、その姿が世間を欺く為のものであったと知らしめる為だ。

 一瞬道三は、信長の方こそ、この機会に道三を討ってしまおうとして軍勢を率いて来たのかと思った。もしそうであるならば、手勢を纏めて、一刻も早く美濃に逃げ帰る必要が有る。
 だが考えてみれば、今の信長は四面楚歌の状態にあるのだ。味方に取り込める可能性の有る相手は自分を置いて他に無いだろう。とすれば、信長が力を見せ付けようとするのは、組むに足る相手であることを道三に認めさせる為に違いないと思うに至った。

 正徳寺での会見の席、信長は正装に身を正して道三と面会した。
 道三は、信長が長槍、弓、鉄砲を持った八百ほどの足軽隊を含む軍勢を率いて来ていることを、納谷に隠れて見ていたのだが、何も知らない振りをして、悠然と上座に着いた。
 直垂《ひたたれ》姿で背筋を伸ばし正面を見据えて座していた信長は、道三が入って来ると折り目正しく頭を下げて礼をする。
「始めてお目に掛かります。弾正忠・織田三郎信長に御座います」
と挨拶する信長に、
「斎藤山城じゃ。婿殿、良う参られた」
と道三が返す。
「義父上《ちちうえ》にはご挨拶が遅くなり申し訳無いと思うておりましたところ、図らずも書状を頂き早速参上致しました。帰蝶もつつがなく過ごしております」
「そうか。それは何より。信秀殿、急な事であったな。立派な男であった。長く争った相手ではあるが、何故か友を亡くしたかのような気分になっておる」
「恐れ入ります。かつては相争った間柄とは言え、帰蝶を妻に迎えた今は身内に御座います。父亡き今、道三様を父と思い、孝行させて頂きたいと思うております」
 納谷から軍勢を目にしていた道三は、無言の圧力を掛けながら、下手に出て同盟を持ち掛けている信長の策士としての器量を見せ付けられた想いがした。我が子達が到底太刀打ち出来る相手では無いと思った。
 信長に取って、尾張国内を平定する為に道三と組むことは必須の事なのであろうが、信長にこれほどの器量が有るなら、美濃に取っても自分に取っても、損な同盟では無いと認識した。

 道三との会見を終え戻る時信長は、もはや奇矯な風体には戻らず、直垂のまま、威儀を正した姿で軍を率いて那古野城下に入った。
 うつけの殿が、いきなり軍勢を催して出陣した時、突然何処を攻めるつもりかと民達は驚き、もし負けて逃げ帰って来るようなことが有ったら大変なことになると案じていた。
 信長が凛々しく変身したことに何よりも驚いたのだが、同時に、無傷の軍を従えて入城して行く隊列を見てほっと胸を撫で下ろしたのだ。

 驚きが収まると、何が有ったのか当て推量、憶測のたぐいが飛び交う。
 たまたま、美濃方面に出掛けていた者が軍勢を見たと言いふらす。そして、美濃の斎藤道三と会ったのではないかと言う噂が飛び交う。しかし、何故、武装した数百の兵を引き連れて行ったのかと言う詳しい事情に付いては、暫く判明しなかった。やがて、信長がうつけではなく、敵を謀る為にやっていた策であったと言う噂は、あっという間に城下に広まった。

 旅の商人だと言う口の達者な男が居た。若いくせにひたいに皺の多い男で、猿のような顔をしていた。
「袖なし湯帷子《ゆかたびら》、半袴《はんばかま》に荒縄の帯を巻いた姿。みんなそれが誰か知ってるだろう。ところが、衝立の陰で直垂姿に着替えた殿様は、柱に寄りかかって道三を待っていたんだ。そこへ道三が入って来る。殿様は、慌てる事なく下座に座って丁寧に礼をした。そんな殿様を見て、道三は驚いた。なんでだと思う。うつけの格好のまま馬に乗っている殿様を、道三は陰に隠れて見ていたんだよ。そんで、策を考えたんだ。その格好が無礼だと言い掛かりを付けて、殿様を討ってしまおうと思ったんだな。だから、直垂姿で座っている殿様を見た時、びっくりしたって分けよ。だってこれでは、無礼ととがめる訳にはいかねえからな。な、そうだろう」
 そんな風に滑舌良く語る物売りの男の周りに集まった民達は、道三を手玉に取る信長の姿に胸すく想いとなり、大笑いし拍手を送った。

 これは、うつけ信長の評判を払拭し、新しい信長の姿を臣下たちや民達に知らしめる為に取られた策だった。
 信長の筆頭家老・林秀貞の与力に前田利昌と言う男が居た。その子・孫四郎は派手な格好をして歩くのが好きな暴れ者だと聞いた信長は、その若者が気に入って直臣とした。そして、犬千代の名を与えて小姓としていた。

 これを機会にうつけの噂を払拭し、新たな信長像を作り上げようとしていた信長が、小姓達に妙案は無いかと尋ねたところ、この犬千代が、
「それなら、使える男を知っております。口先三寸で生まれて来たような男で、人たらしに掛けては天下一ではないかと思われる男です。この男に噂を流させましょう」
「そうか。では、やらせてみよ。働きに寄っては小者として使ってやると餌を投げておけ」
「ははっ。お任せ下さい」

 そんな経緯つが有って、見て来たような噂を振りまいているのが、この物売りに扮した男・藤吉郎だった。

 当時の信長を巡る尾張国の状況は複雑で分かりにくい。わずらわしいと感じるかも知れないが、簡単に背景を述べておこう。

 室町中期までに、幕府における守護大名の権能が肥大化し、幕府はいわば守護大名の連合政権の様相を呈するようになった。
 守護大名とは幕府の守護職から発しているものだから、幕府の要職と言う事で、当主は京に滞在することが多くなる。その為、守護代を置いて地元の経営を行わせるようになったのだが、やがてその守護代の中から、守護の権力を凌ぐ力を持つ者が現れて来る。更に、配下の国人領主の中から、守護代の権力を分割行使する者も現われ、権力の構造が多層化して行き、主家の権力を奪う形で戦国大名と言う存在が生まれて来たのだ。


 尾張国の守護は斯波氏である。織田氏はその守護代として実力を持つようになる。ところが応仁の乱の発生で守護代・織田家は二つに分裂する。戦後、東軍についた大和守家(清洲織田氏)と西軍についた伊勢守家(岩倉織田氏)が尾張支配を巡って抗争状態となった。
  守護である斯波氏は両者を巧みに操って権力を維持しようとしたのだが、やがて実力を失った。
 織田大和守家(清洲織田氏)に仕える清洲三奉行の1つで、分家の家系となる織田弾正忠家の当主。勝幡城城主・織田信定は、中島郡・海西郡に勢力を広げて津島の港を手中に収め、この港から得た経済力が戦国大名としての織田氏の発展の基礎を築いた。

 そんな中、駿府の今川氏が東尾張に侵攻し、那古野城は今川家の保有となった。
 信定の跡を継いだ信秀は、今川氏から那古野城を取り戻し、信長を城主に据えていた。これが、当時の信長を巡る周辺状況と経緯である。

 うつけの皮を脱いだ信長は家中の引き締めに掛かっていたが、既にほころびが始まっていた。信秀に従っていた鳴海城主山口教継・教吉父子が駿河の今川義元に寝返ったのだ。
 報せを受けた信長は早速に兵800余りを率いて出陣した。もちろん、その姿はうつけではなく若く凛々しい武将のそれである。そして、800の兵と言うのは、道三との会見の時に引き連れて行った兵達である。
 うつけの振りをして、敵をあざむきながら長槍や鉄砲などの軍備を揃えていた信長だが、同時に人も集めていたのだ。
 野駆けと称して、小姓達のみを連れて城を出た信長は、武家・農家を問わず、次男坊以下の若者達を狩り集めていた。犬千代に目を着けたのもそんな中での事であったが、信長は、彼らに禄を与える事を約束して、親衛隊と少数ながら常備軍をも作り上げていた。
 後に信長軍が始めてとされる兵農分離の常備軍の萌芽がここに既に表れていたのだ。戦うと決まってから農民を徴発して足軽隊を作るのが普通だった時代に、農家の次男三男を集めて日頃から訓練しているので、すぐに出陣出来たのだ。
 真人の発想が、この時代の人の考えを超えていた結果だ。

 赤塚の合戦と呼ばれるこの戦いは信長が将として指揮を執った最初の戦いである。
 敵となった山口勢は兵力約1,500人、対する信長勢は約800人ほどで人数は半分ほどでしかなかった。にも関わらず、従来の家臣団とは別に急遽作られたばかりの信長軍は、負けなかっただけでなく僅か30人ほどの死者を出しただけで、1500人の敵と引き分けたのだ。
 その後、教継は織田方の大高城、沓掛城を調略を用いて奪い取るなど反信長の姿勢を貫いていたが、突然、駿河へ呼び寄せられて、親子共ども切腹させられてしまった。信長を見限って今川に寝返った親子の末路は悲惨であった。頼った今川に詰め腹を切らされたと言うことなのだ。

 既に述べた通り、戦国時代の権力の構造は重層的であり複雑であり、且つ、刻々と変わる。
 守護・斯波氏の代理である守護代の織田氏も伊勢織田家と清洲織田家に分かれて争っている。弾正忠家の主筋となる清洲織田家も当主は織田信友なのだが、代理の更に代理と言う立場の坂井大膳らに実権を握られてしまっていた。
 この坂井大膳らは、信秀の生前、信秀が美濃攻めをしている留守を突いて古渡城を攻撃して来たりしていたのだが、平手政秀が交渉を繰り返し、和睦にこぎ着けていた。

 平手政秀が自刃し信秀も死に信長が跡を継ぐと、この坂井大膳も和睦を破棄し、信長の配下となっている松葉城の織田伊賀守と深田城主である信長の叔父・織田信次を人質に取って反旗を翻した。
 この報せを聞いた信長は、8月16日早朝に那古野城を出陣すると、庄内川付近で、守山城から駆けつけて来た信次の兄・織田信光と合流。兵を分け信長自らは、叔父・信光と共に庄内川を越し萱津へと移動した。
 信長の側には、小姓になったばかりの14歳の前田犬千代が着いていた。派手な格好をして街をほっつき歩き、喧嘩ばかりしている傾奇者で、親も手を焼いていたのだが、その噂を聞いた信長が面白がって、陪臣の子ながら召し出して直臣とし、小姓に取り立てていた。
「初陣だな。怖くはないか?」
と信長が聞く。
「喧嘩だって、一つ間違えば死ぬことは有ります。死ぬのが怖くては、喧嘩も出来ませんよ」
 恐れ気も無く犬千代はそう答えた。
「口の減らぬ奴め。ならば、先陣に混じって行って来い。運が悪くとも、一度死ねば二度とは死なぬ。安心せよ」
「なんですか? それ。死にはしませんよ。敵の首取って帰って来ます。褒美でも考えといて下さい」
 信長にこんな口を効く者は他にいない。辰の刻(午前8時ごろ)に戦端が切られた。
「行けー!」
と言う信長の号令と共に、先鋒が押し出し、その中に混じって、犬千代も駆け出して行った。
 数刻交戦の末に信長方は、坂井甚介を討ち取った他、清洲方の50の首を取って勝利した。前田犬千代は、髷《まげ》を掴んで敵将の一人の首をぶら下げて戻って来た。
 手を分けた他の隊も圧勝し、信長は余勢を駆って清洲の田畑を薙ぎ払った。
 しかし、敗北し坂井甚介亡き後も、清洲方は信長への敵対関係を解くことはなかった。

  信長の苦境はまだまだ続いた。織田方だった寺本城が今川方に寝返り、その軍勢が信長の居城・那古野城と緒川城の間の道を塞いだのだ。
 信長は寺本城を避け船で渡海して、今川方が築いた村木砦を背後から攻撃しようと考えた。
 ただ、清洲方との争いも終わってはいない今、信長の留守中に那古野城が攻撃されることが予想された。
「今、城を留守にするのは危のう御座います。寺本城を攻めるのは、今少し様子を見られてからにした方が宜しゅう御座います」
 林秀貞らは、信長にそう進言した。
「いや、すぐに対応する必要が有る。まだまだ様子見をしている者は他にもおるに違いない。わしがすぐに手を打てぬと見れば、寄らば大樹の陰とばかりに、今川方に寝返る者が続出することになる。わしを裏切れば報いを受ける事を骨の髄まで分からせねばならん」
 信長は不退転の決意を示した。しかし家老達は、
「清須に隙を見せては、逆に我等が滅ぶことにもなりかねませんぞ。ここは、どうぞお止まり下さい」
と反対した。
「留守に城を守る者はおる」
 信長は平然とそう言う。
「えっ、何処に?」
 林秀貞が聞く。
「美濃のおやじ殿に兵を貸してもらう」
と信長が答えると、家老達は一樣に驚き、
「そんな無茶な……。お方様の父上とは言え、相手は、美濃一国を乗っ取った蝮の道三ですぞ。美濃の兵をこの城に入れたりすれば、これ幸いとばかり乗っ取られるに違いありません。それは、余りに危ういお考えです」
と必死で止めに掛かった。

 村木砦を攻めるに際して、留守となる那古野城を守る為に、美濃の斎藤道三の兵を城に入れようと考えていると信長が言い出した時、重臣達は一樣にとんでもないと思った。
 斎藤道三と言えば、長年の宿敵であり、同時に最も油断のならない相手であるというのが、彼らの共通の認識であったのだから無理も無い。
 しかし、信長の道三に対する見方は正徳寺の会見以来変わっていたのだ。
『父亡き今、道三様を父と思い、孝行させて頂きたいと思うております』
と言ったのは、お世辞でも油断させる為の甘言でもなかった。相対した時、道三が信長を見込んだと同時に、信長の方にも道三を信じようと言う気持ちが湧いていたのだ。
 理屈で言えば、道三も美濃国内に不安定要素を抱えていたし、信長に至っては内外共に敵ばかりであったから、お互いが結び付く利点は確かに有ったのだが、そうした不安定な利害以外に対面して見詰め合った時、強く感ずるモノが有ったと言うのが、正確なところだろう。
 道三と言う男、単に相手が自分の力にすがって来ていると感じたら、騙して踏み潰してやろうと考える男だ。信長のモノを見る目、先を見る目を感じ取り認めた上の事であり、それを信長自身も感じたからこそ、道三を信じ、頼りにしようと思ったのだ。
 これは、信長と道三の間に生まれた感覚であるから、当然、重臣達に理解出来るものでは無かった。

 信長の要請に応えて、道三はすぐに西美濃三人衆の一人安藤守就に1000人の兵を付けて送って来た。
 安藤は那古野城には入らず、那古野城の近く、志賀・田幡に布陣し、攻め寄せて来る敵がいれば、ここで防ぐと信長に伝えて来た。那古野城に入れば、信長はともかく家臣達の不安を招くだろうと考えた道三の配慮からであった。信長はすぐに陣に出向き、安藤に礼を述べた。

 信長軍は翌日に出陣するはずだったが、林秀貞・通具の兄弟が不服を言い、帰ってしまった。道三を簡単に信じている信長に不安を持ったのだ。
 一般に知られている信長の性格であればこんな態度を取られれば激昂し、下手をすれば成敗と言う事態に至ってもおかしくない。だが、この時代の信長の力はそんなに強くなかった。ここで内輪もめを起こしては、家中が割れる恐れがあった。
 信長である真人は、林兄弟の造反を無視した。気にする様子も見せず、そのまま出陣したのだ。

 1月21日、織田軍は熱田に至り宿泊した。翌日川を渡る予定であったが、非常な強風だったため船頭・水夫たちが船を出すことに反対した。
「船出すれば、必ず沈没するのか?」
 信長は船頭にそう尋ねた。
「いえ、必ずひっくり返るっちゅう分けではありゃあしませんが、よほど腕の有る船頭でなければ危のう御座いますし、まあ、舟を出す者は居りませんでしょう」
「お前は腕が無いのか?」
と聞いた。
「いえ、そんなことはありませんが、女房、子供も居りますし……」
「三倍払おう。舟を出してくれ」
 船頭は他の者達とコソコソと相談を始めた。
「大丈夫で御座いましょうか?」
と家臣の中に不安がる者も居たが、
「船頭がああ言うなら、敵は、我等が足止めを食っていると思うに違いない。沈まぬ運があれば、いくさにも勝てる。我等に運が無ければそれまでじゃ」
 そう言って信長は、無理に船を出させた。村木砦は南に当たり、冬の強い北風に乗って舟は進む。岸や浅瀬に舟が当たらぬよう、また、転覆しないように、船頭達は必死で竿を刺して舟を操る。その結果、上流から下流への移動ということもあり、舟は20里(約80キロ)の道程を僅か一時《いっとき》(30分)で走り抜けた。


 その晩は緒川城に泊まり、24日払暁、辰の刻(8時)から村木砦に攻撃を開始した。
 砦には3つの狭間が有り、信長は鉄砲隊の者達にそれぞれ持ち場を割り振って担当させ、鉄砲を取り替えては撃たせて牽制しながら、手勢に堀の堤を登らせた。
 織田軍が攻め続けたことで村木砦側は負傷者・死者が増え、ついに降伏したいと伝えて来た。
 味方にも多数の死者が出ており、薄暗くなって来ていたので、信長は降伏を受け入れ、後の始末は水野忠分に任せて引き上げた。
 勝ち戦とは言え、信長が常にそばに置いて近習として使っていた小姓達の中にも、何人もの死者を出してしまったことが悔いられた。

 信長の小姓のうち、一郎太、世之介の二人が村木砦の攻撃の際に死んだ。いつも身近に侍らせて、鉄砲買い取りの手配なども密かにさせていた者達だ。父・信秀の死を聞いた時も平手政秀の自刃に際しても流さなかった涙が溢れた。
 姿は織田信長であっても、意識の殆どの部分は織田真人である。時折、信長としての感情が肥大化して来ることは有るのだが、いつどんな時にそうなるのか、真人には分からないし、制御することも出来ない。

 信秀や平手の死は、真人に取っては歴史的出来事であった。悲しみが湧き上がって来ることは無かった。
 しかし、真人達の世界で記録されていた歴史より1年半も早く信秀が亡くなり、それが為に、信秀の生前にうつけの評判を消すことが出来なくなったことは真人を慌てさせた。
 信秀の前で、親衛隊、常備軍の行軍を見せ、うつけの評判を払拭し、弾正の忠家を一つにし、周辺諸国に対する備えを完了することが出来るはずだった。信秀の死が、真人の知る歴史より、1年半も早かったことにより、うつけ評判のまま窮地に追い込まれることになったのだ。
 信秀と言う後ろ盾を失った信長、いや、真人の心には、歴史とは違うことが起こった不条理に対する怒りが湧き上がっただけで、平手の自刃に心動かす余裕さえなかったのだ。

 そもそもに戻ろう。織田真人の居た世界は、我々が今いる、この現代ではない。戦国時代から見れば別の未来である。だから、我々の歴史では、信秀が死んだ時、信長の評判はうつけのままだったのだが、真人の居た世界の歴史での信秀は、信長がうつけの振りをして密かに進めていた軍備の様子を家臣達や民達の前で披露することによって、完全にうつけという評判を払拭した後に病で死んだことになっていた。

 歴史と違うことが起こっていることに真人は驚き、且つ慌てたのだ。
 真人の居た世界。それは我々の世界より遥かに科学が進んだ世界である。しかし、不都合な現実を受け入れなければならない社会ともなっていたのだ。   
 その社会を支配する権力に抵抗する勢力も存在した。
 その組織は秘密研究所を持ち、その研究所の主宰者は、表向きには政府のプロジェクトのアドバイザーともなっている、国立第一大学の橿原教授と幸田美幸助教だった。膨大な研究費を出す複数の事業家も存在した。

 その世界は、民主的な方法や軍事的な方法で、支配している権力を倒すことが不可能な状態にあった。模索しながら辿り着いたのが、戦国時代に戻って、歴史を変えてしまうと言う方法だったのだ。

 どうやってそれを可能にするか。それは、我々の今居る世界では単なる理論に留まっている超光速粒子「タキオン」で過去に情報を送ると言う方法だった。
 戦国時代の人間にその世界の人間の意識を情報として送り、望ましい方向に歴史を変えようというのだ。

 光速に近い速度で飛ぶ宇宙船に信号を送り、ウラシマ効果を利用して、織田真人の意識を信長に植え付ると言うことなのだ。

 具体的には、地球から光速に近い速さで打ち上げた宇宙船にタキオンを使って情報を送ると、超光速で飛ぶタキオンは、すぐに宇宙船に追いつき、その情報が伝えられる。  
 このとき、宇宙船の中の時間は、情報を送った地球の時間よりも大きく遅れているため、送られた情報を送り返すと、打ち上げ前にその情報が地球に届くと言うことが起こる。宇宙船側からは、地球のほうが光速に近い速さで遠ざかっているように見えている。つまり宇宙船からすれば、地球のほうが時間の流れが遅くなっているのである。そして、宇宙船から地球に向けて、先程届いた情報をそのままタキオンで送り返すと、情報は、宇宙船の中の時間よりもさらに過去の地球に送られる。この繰り返しによって情報を持った光子が過去へ旅をするわけだが、残念ながら人そのものを送ることは出来ないので、電磁波として意識のみを送ったのだ。中継点となる多数の宇宙船が、シャトルとして、常に外辺惑星と地球を軸として回っていると言う環境が有った。
 人の脳が発する脳波は微弱電波である。そして、電波と光は実は同一のものであり、周波数などによって区別されるだけで、実体は電磁波と呼ばれるものである。光であるから、タキロンによって過去に送れる。脳波を光として送るタキロンは遺伝子に影響を受けることが分かり、信長の遺伝子を持つ真人《まひと》の意識を信長の脳に送る実験が行われることになったと言う訳だ。

参考:タキロンとは
https://novel.daysneo.com/sp/works/episode/fe4ea1119462bda63a81df1e166bcfe4.html

下天の夢 Ⅲ

執筆の狙い

作者 青木 航
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 真人の居た世界での歴史では、父・信秀や重臣達のまえで、親衛隊や常備軍、そしてその装備を披露した後に信秀が死んだ、事になっていた。うつけの振りをしていたのは、周辺の目を欺き、密かに軍備を整えていたから。そう知らしめる前に信秀が死んだ現実に、真人は慌てた。

コメント

青木 航
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訂正:間違ったリンクを貼り付けてしまいました。

正しくは、

「タキロン」とは

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/70a51a1e20b9fbfc98e25719c93ebf85d6f17d86#:~:text=%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%A6%E3%80%81%E3%81

です。大変失礼しした。

青木 航
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すいません。訂正の訂正です。

-32-26.msd.spmode.ne.jp
訂正:間違ったリンクを貼り付けてしまいました。

正しくは、

「タキオン」とは

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/70a51a1e20b9fbfc98e25719c93ebf85d6f17d86#:~:text=%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%A6%E3%80%81%E3%81

です。大変失礼しました。

青井水脈
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読ませていただきました。

>会見当日、道三は正徳寺近くの藪に人数を隠し、例え姑に会う為と言えど、無防備にのこのこ出掛けて来るようなうつけなら、帰蝶がどう思っていようと討ってしまおうと思った。
>例え姑に会う為〜 こちらは舅(しゅうと)かと。

>そんな経緯つが有って、見て来たような噂を振りまいているのが、この物売りに扮した男・藤吉郎だった。
>そんな経緯つ?

今回で、尾張統一に向けてキーマンも出揃った、というところですね。第1話で行われた実験が、どういった実験なのかも分かってきましたし。
https://eman-physics.net/relativity/tachyon_com.html
記事の見出し「タキオンがあれば過去に情報を送れる」一応リンクを貼っておきます。
しかし、意識だけとはいえ、転送されたのは戦国時代という死と隣り合わせの状況下。真人について第1話から分かるのは、知力体力ともに優れた21才の学生で、信長の子孫の末裔。この辺ですよね。元の世界にいた頃のエピソードというのか、他人の証言というのも大袈裟ですが。実験室の教授らのセリフなどで、普段から物怖じしない、とか、人物について一言あるといいと思いました。

青木 航
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青井水脈様、いつも有難う御座います。

いつもながら酷いですね、私。変換した結果も見ないで次に進んでしまっているんでしょうね。でも、何度も読み返しているつもりがいつもこんなのが残っている情けないです。
 
 読み返しているつもりが、文字を一つ一つ丁寧に追っておらず、実は頭の中に有る文章を読んでいるのかも知れません。

すいません。言い訳にもならない言い訳でした。ご指摘有難う御座いました。

>実験室の教授らのセリフなどで、普段から物怖じしない、とか、人物について一言あるといいと思いました。

なるほどそうですね。アドバイス有難う御座いました。

夢我システム
p982018-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

初めまして。「下天の夢」と「下天の夢 Ⅱ」も読みました。

青木さんの上記以外の「歴史小説に関して」は、一度だけ最後まで読みましたが、ほとんどが冒頭か少し進んだ所で読みを中断しています。しかし、このシリーズは最後まで読めそうです。SFにも織田信長にも関心があるのと、「下天の夢」の執筆の狙いで書かれていた「本能寺の変に於ける三つの謎」をどのように解かれるのか、楽しみにしているからです。文章も以前より、読みやすくなったような気がします。

織田信長に関連する小説は、プロ・アマ含めて数多く書かれているはずですが、今作は誰も描いた事がないような意欲作ではないかと思います。しかし、かなり大胆な基本設定なので、「読者層」が絞られるかもしれないように感じます。(→下記の「■科学の延長線上にある小説かの考察」と「■信長の扱いについて」を参照)


■科学の延長線上にある小説かの考察

>次に意識が回復する時、君の意識は先祖に当たる織田信長の中に有る筈。信長の意識と君の意識がどんな風に入れ替わるか、正直、それは未知です。(←ここは「下天の夢」からの引用)

「下天の夢」の始めの方で、すぐにSF風の場面になりましたが、科学の延長線上にある小説ではない可能性が高いと思いました。技術的に、かなり難しいと考えたからです。そういう小説も一般的にはSFと呼ばれているようですが、私はサイエンス「ファンタジー」と分類しています。

>光速に近い速度で飛ぶ宇宙船に信号を送り、ウラシマ効果を利用して、織田真人の意識を信長に植え付ると言うことなのだ。

しかし、今回の終わりの方で上記を読んで、サイエンス「ファンタジー」ではなく、現存する「科学技術/理論/仮説」を基に構築された物語世界である可能性を考えました。以下、私の分類するサイエンス「フィクション」なのか考察します。

>つまり宇宙船からすれば、地球のほうが時間の流れが遅くなっているのである。

「地球のほうが時間の流れが遅くなっている」という事ですが、相対性理論によると、その逆の現象が生じる事になっています。光速に近づくと「時間の進み方がゼロ近く」になるのです。1968年の古典的名作SF映画「猿の惑星」では、六か月間の準光速航行の後に帰還した乗組員達が、七百年先の「未来の地球」に降り立つはめになります。

>送られた情報を送り返すと、打ち上げ前にその情報が地球に届くと言うことが起こる。

一つ上の「ウラシマ効果」に関する説明には誤りがありますが、この部分は正しいと思います。青木さんがリンクを張られていた解説記事の中に、更に詳しく解説したサイト(→「タキオンがあれば過去に情報を送れる」)へのリンクがあったので、確認しました。非常に面白い理論だと思います。――注:そこにある図で【「同時刻」線(水色)】が斜めに引かれているのは、知っていて当然の事だと思っているのか説明がされていませんが、「ウラシマ効果」による時間の遅延を表しています。

それらの両方のサイトで、四次元時空連続体の空間座標についての説明が足りないので、下記に捕捉します。銃弾や砲弾の場合は未來位置を予測して発砲しますが、それとは逆になるのが面白いと思います。

                       宇宙船
      ┏━━━━━┓         ┏━━━━━┓
――――――┃過去の位置┃――――――――>┃現在の位置┃
      ┗━━━━━┛         ┗━━━━━┛
         ↑
   地球からのタキオンは、この宇宙空間に送信する。
   タキオンは時間を遡りながら進むので、「過去の宇宙船」で受信される。
   宇宙船はすぐに、「過去の地球の軌道位置」に送信する。
     ↓
     地球(信長の時代の位置)

上記で解決すると、サイエンス「フィクション」となるのですが、まだ問題があります。それは信長が活躍していた頃の地球の位置は、現在と大きく異なり、位置を特定するのが難しいからです。

 ・地球 :自転しながら公転
   ↓
 ・太陽系:銀河系内で公転
   ↓
 ・銀河系:大宇宙の中を秒速約630kmで移動していると推定
   ↓(40億年後には、アンドロメダ銀河と衝突予測)
   ↓
 ・そもそも、信長が尾張のどこに居たのか、時刻を伴ったデータがない

但し、もう少し粘れそうです。信長の精確な位置データ(3次元位置+時刻)が、過去に地球を訪れていた宇宙人によって記録されていたという設定で、なんとかSFとして成立できそうな気がします。

とは言っても、そのタキオンの情報をどのようにして、信長の頭脳で受信させるかという事が、大問題です。何かの装置を頭に装着しないと不可能だと思います。

それに、更に決定的な問題があります。上記の設定で、信長に送信できたとしても、信長の方から返信する手段がありません。一方通行なので、織田真人は「信長の時代の様子を全く知る事ができない」のです。それで結論として、現存する「科学技術/理論/仮説」の拡張/延長線上では、今作のようなストーリー展開にはできないという事になります。

以上の理由で、サイエンス「ファンタジー」であると分類しました。ファンタジーでは、どんな不自然な事でも「作者の魔法の力」で、ほとんど無自覚に解決されている事が普通なので、あまり好きではありません。しかし、最初に書いたように「本能寺の変に於ける三つの謎」がどのように解かれるのか楽しみなので、続編も読み続けるつもりです。

尚、この作品を商業レベルにするには、現状の「説明」は修正した方が良いのではないかと思います。中途半端な詳しい説明は、不要なのかもしれません。多くの読者にはかなり難解に感じられると思うし、解けない方程式(今作の場合、実際に誤り)のように思い、快く思わない読者もいるのではないかと思うからです。但し、昔の哲学書のように、難解だからこそ高度な事が書かれていると錯覚する読者もそれなりに多くいるはずで、書く側としては「読者層」を強く意識する箇所だと思います。

<追記>
ここまで書いて、青木さんが参照している解説記事や、更にその元ネタの解説に冗長さがある事に気が付きました。非常に単純な事で、宇宙船など使わないで、「過去の地球に直接データ送信」をすれば良い、というものです。彼らの盲点の原因は、「天動説」のような発想で考えていた事にあるようです。「地動説」で考えると容易に答えに辿り着きます。

 現在の地球      過去に地球が存在していた宇宙空間
  〇――――――――――>●
     タキオン送信

(続きます)

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(続きです。2頁目)

■信長の扱いについて

本作は、どのような「読者層」に向けて描かれたのでしょうか。本来は「読者層」となる可能性が高い「信長ファン」や「歴史好きの読者」が、好んで読むとは思えません。信長の尊厳を奪うようなストーリー展開になっている、と思うからです。

> 織田真人《おだまひと》は、知能、体力ともに人並み優れた学生である。(←「下天の夢」からの引用)

信長については、好悪が激しく分かれると思いますが、突出した歴史上の人物である事は確かです。その信長に対して上記のように学生にすぎない真人では、あまりにも凡人すぎると思います。その小物が超々大物に寄生して、本人になってしまうという設定に、不自然さを感じます。

真人が信長に関する知識や技能習得の他に、下記の職種に就くか、またはそれに準じる訓練をしていると、読者に対して少し説得力があると思います。

 ・特殊作戦部隊で戦闘(市街戦/山岳戦等)に参加して、多数の敵を殺す
   ↓
 ・情報機関の諜報部門で、工作活動に従事
   ↓
 ・国会議員の秘書として実戦で、政治・経済・外交・安全保障を学ぶ

> そして、真人が居た元の世界の史書に書かれていた、那古野城下での軍の行進を道三に見せ付けることを思い付いたのだ

道三に見せ付けたシーンは、それほど歴史に詳しくない私が、NHKの大河ドラマで観た事もあるぐらい有名な出来事だと思うので、それを行っていなかったという設定には違和感があります。「我々の世界の信長」が放った妙手なのに、それを真人に横取りされたような気分です。

> 後に信長軍が始めてとされる兵農分離の常備軍の萌芽がここに既に表れていたのだ。
> 真人の発想が、この時代の人の考えを超えていた結果だ。

「この時代の人の考えを超えていた」という事ですが、現在人であれば「常備軍」というのは普通の考え方です。「真人の世界の信長」が「兵農分離の常備軍」を持っていた歴史がなく、「歴史改変」の一歩として真人が始めたという事なのでしょうか。そうであれば、信長の先見性を削いで、真人が有能であるとの演出のように見えて、真人の好感度が下がります。

> 姿は織田信長であっても、意識の殆どの部分は織田真人である。時折、信長としての感情が肥大化して来ることは有るのだが、いつどんな時にそうなるのか、真人には分からないし、制御することも出来ない。

この物語の根幹を否定してしまいますが、私にはあまり良い設定とは思えません。「真人とその組織」に共感できない設定のために、主人公に感情移入して読む事ができないからです。参考になるかもしれないので、青木さんの「想定読者層の完全に外にいる者」として、下記にその理由を書きます。
 ・「信長の何が問題」で行っている作戦なのか、理由が不明
 ・理由が不明なので正当性が見当たらなく、不道徳さ/傲慢さが目立つ
 ・信長と、協調/協力する道を探った形跡がない
 ・信長に対する攻撃が本人も気が付かない程に隠蔽されていて、一方的
 ・信長の扱いが、実験動物/リモコンのロボットと変わらない
 ・精神を徐々に乗っ取るという、残虐な奴隷化/暗殺
 ・真人は自分が暗殺に関わっている事に、葛藤がなく無自覚に見える
 ・信長が偉大な祖先であるという、畏敬の念が感じられない
 ・凡人が突出した人物を操り乗っ取るという、バランスの悪さ
 ・(現実の)信長の天才性を(フィクション中の)凡人が、横取りしている
 ・「歴史的英雄/梟雄」が半殺しでゾンビ化されていて、悲惨すぎ
 ・「敵対していない弱者」に対する科学技術の暴力的な使用が、不快
 ・宇宙人ならぬ未来人の侵略物のようで、侵略されている方に感情移入する

上記のように書きましたが、「信長を害する小説」を完全に否定しているわけではありません。以下のパターンを考えました。下記の場合、主人公の描き方しだいで、感情移入ができると思います。但し、しっかりとした理由(善/悪は不問)は必要です。
 ・信長を(物理的に)暗殺して、信長に成りすます
 ・信長を(物理的に)暗殺して、全く別の人物が天下統一
 ・信長が何かの事故/事件/病気で死んでいる世界で、別人が役割を演じる

<一つのアイデア>
私から見て問題点と思える事柄を書いてきましたが、(それらが問題だとした場合の)解決策を考えました。以下のような小説であれば、政治・経済・外交・安全保障に関心がある私でも、お金を出して買いたいと思います。只、自分の好みのストーリー展開を書いただけですが……。

 ・信長に、「タキオン送信」を行う
   ↓ (発信は機械が行い、オペレーターは真人でなくても良い)
   ↓ (依然としてファンタジーだが、ファンタジー色は薄まる)
   ↓
 ・信長は、「第六天魔王」からの預言だと考える
   ↓ (送信のみで、精神寄生はしない)
   ↓ (信長ファン/歴史好き/SFファンの読者層を取り込める)
   ↓
 ・信長は、預言に従い本能寺の変を避け、天下統一を行う
   ↓ (更に広い読者層を獲得できる可能性が高い)
   ↓
 ・信長が、中国大陸に兵を進め、広大な領土を獲得する
     (これにより、真人の世界で日本を侵略しようとしていた中国軍が消滅)
      ↑     (↑勝手にこの物語での「支配している権力」を捏造)
     (出版されるような事があっても、中国では翻訳禁止が確実ですね)

(続きます)

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(続きです。3頁目)

■その他の詳細な感想

優れた所にも感想を書くべきかもしれませんが、気になる所に絞りました。

> 早めに富田に着いた道三は、兵達を藪に隠した後、街道の見える場所に有る物置小屋のような場所に潜んで様子を見ることにした。
> 先頭の馬に乗る男は、確かに世間の噂通りの格好をしたうつけ信長に違いないのだが、その後に長々と続いているのは、朱の長槍を立てた数百の足軽隊。その後には、弓・鉄砲を持たせた足軽隊が、また長々と続いている。
>とすれば、信長が力を見せ付けようとするのは、組むに足る相手であることを道三に認めさせる為に違いないと思うに至った。

資料を基に描かれた場面なのでしょうが、私には、二人とも「うつけ」に見えてしまいます。
 1)信長の傍に警護の騎馬武者達がいない
  ・信頼に足る部下がいない
   →トップに立つ器ではない
  ・接近戦に備えていない
   →物陰からの急襲の場合、長槍を持つ足軽では防戦が難しい
    (米軍の一般兵士の装備に関してハンドガン不要論が時々でますが、
    特殊作戦部隊に関してはそういう話はありません。
    近接戦闘を行う事がある彼らには、ハンドガンは必須の武器だからです)
  ・「先頭の馬に乗る男」は、真っ先に狙われるので、「うつけ」
   →歴史上の本当の信長は、先頭に影武者を行かせて、自分は騎馬武者の
    一群の中に隠れていた可能性があると思う
 2)「弓・鉄砲」を持たせた足軽隊との距離が遠い
  ・信長の傍には、長槍を持った足軽隊しかいない
   →敵の「弓・鉄砲」での攻撃には、逃げるか隠れるかの防戦一方
 3)信長が斥候を出していない
  ・信長の服装を道三が肉眼で見る事ができる距離にいる
   →信長は、道三に対してわざと隙を作ったようですが、
    道三を「発見」して、警護付きで寺に「案内」する手もある
   →道三の方は、斥候に見つかる事など想定していないので「うつけ」
 4)道三は、上記1),2),3)の欠陥に気が付いていないので「うつけ」

>その結果、上流から下流への移動ということもあり、舟は20里(約80キロ)の道程を僅か一時《いっとき》(30分)で走り抜けた。

「一時」の説明が30分になっていますが、2時間の誤りです。30分だと「時速160キロメートル」で、現代でも存在しない超高速船になってしまいます。日本語大辞典と、ネット上のgooの辞書で、時間の長さを確認しました。

>しかし、真人達の世界で記録されていた歴史より1年半も早く信秀が亡くなり、それが為に、信秀の生前にうつけの評判を消すことが出来なくなったことは真人を慌てさせた。

真人の肉体が存在する宇宙ではなく、別の宇宙(並行世界)の過去を誤ってコントロールしようとしている、という設定なのでしょうか。回答する事により、今後の展開でネタバレが発生する場合は、「ネタバレのため回答不可」という返信内容で結構です。(追記:それとも「敵」の妨害で歴史改変が既に起きている?)

 信長0  真人
――●―――●――>u0(この小説の真人の世界)
      ┃
  ┏━━━┛タキオン送信で、誤ってコントロール
  ↓
――●――――――>u1(並行世界:u0と類似の世界であるが、違いもある)
 信長1


> 真人の居た世界。それは我々の世界より遥かに科学が進んだ世界である。

並行世界なのに技術差があり過ぎで、不自然な設定だと思います。以下のように2024年から見て未来の世界にすれば、「並行世界間の類似性(信長の時代)」と「科学技術の突出した差」の両方が、すっきりと解決できます。

 2024年  科学が飛躍的に進んだ未来(真人が居る時代)
――●―――●――>u0(この小説の真人の世界)
  ↑
 天変地異等が片方だけに起きたような場合以外は、それほど極端な差はない
  ↓
――●――――――>u1(我々の世界)
 2024年

もう一つ、非常に気になる事があります。三人称小説の地の文は普通、正体不明の「語り手」の言葉なのですが、この場合の語り手は青木さんなのでしょうか。SF映画を観ていると突然、監督が顔を出して、映画で描いた世界と現実の世界の差を解説するような感じで、非常に興ざめします。作品世界から現実に、強引に連れ戻されてしまうように感じるからです。

語り手が青木さんだと思うのは、下記の構成図のように、両方の世界に通じているのは青木さんだけだからです。
 ┏━━━━━━━━━━━━━━┓
 ┃現実の世界         ┃
 ┃   ┏━━━━━━━━━┓┃
 ┃   ┃小説の世界    ┃┃
 ┃   ┃         ┃┃
 ┃作者→┃ 語り手←主人公 ┃┃←語り手は現実世界を知らない。
 ┃   ┃ ↓       ┃┃
 ┃   ┗━╋━━━━━━━┛┃
 ┃     ↓        ┃
 ┃     読者       ┃
 ┗━━━━━━━━━━━━━━┛

その情報が読者に必要な場合は、小説本文ではなく別頁を設けて、「解説」として書けばよいのではないかと思います。今回の場合は、真人の居る世界をもう少し詳しく描くか、2234年のように明確に未来世界であると示せば、「我々の世界より遥かに科学が進んだ世界」は不要となります。


鍛錬の機会を与えていただき、ありがとうございました。主人公の描き方や読者層について再考する事ができました。また、タキオンを発端として、宇宙や時間について考える楽しい時間を過ごした事も、付け加えておきます。

次回作も、期待しています。

<追記>
「伝言板」への書き込みも、読ませていただいています。特にAIに関する「紹介/解説(昨年の4月~5月)」はレベルが高く、非常に参考になりました。今年の5月から始まったワクチンに関する論争でも、「歴史的大罪人」を軸にする主張に説得力があります。只、今となっては論争が膠着状態を抜け出す事はないと思うし、「猫に小判」という言葉がぴったりで、貴重な生命ネルギーを注ぎ込む価値があるものなのか、とも思っています。

作品の根幹部分を否定する感想もある上、かなり長くなりました。しっかりとした「同意/反論/疑問/質問」を期待していますが、返信は急いでいません。それにより再訪する必要が生じた場合、五日以上後の投稿となりそうです。

青木 航
sp49-96-25-99.msd.spmode.ne.jp

夢我システム様、有難う御座います。と言いますより、驚き且つ深く感銘を受けております。

驚きと言うのは、嘗て、拙作をこれほど丁寧に読んで頂き、これほど詳細な感想、アドバイスを下さった方は居ません。
また、伝言板のやり取りを含めて見て頂いていた方がいらしたとは、驚き以外にありません。

正直言って、工夫をこらさないシンプルな文章で、ここのメンバーの方々には殆ど感心の無い時代小説を掲載しているので、2〜3人の方に感想を頂ければ上出来な異端者と言う自意識で掲載していました。

伝言板でも、納得いかないことには反論を返していましたが、積極的な同調者は居ないと言う空気を感じながらの投稿でした。

でも、ちゃんと見ていた方がいらしたと言うことを知ると、適当にやっていた自分を恥ずかしく思います。

ハンネに付いては初見の方となりますが、まず深く御礼申し上げます。

内容が深く詳細であるので、さらっと読んで回答させて頂くことは控えさせて頂きます。感想もじっくり読ませて頂いた上でお答させて頂きたいと思いますので、お時間を下さい。

一つ先に申し上げておくとすれば、私は特に科学知識が有る訳では無いので、リンクを張った「タキオン」に関する記事の解説の範囲で話を構築しようとしているだけです。

11/27に次回投稿をさせて頂く予定で、回答させて頂くのは、その後ということになると思います。その展開によっては新たな疑問、ご指摘が生じるかとは思いますが、お時間頂くことご容赦下さい。

まずは、感謝とお礼の気持ちをお伝えするのみとなることご容赦下さい。有難う御座います。

青木 航
sp49-96-30-206.msd.spmode.ne.jp

夢我システム様。十分な回答と言えるかどうか分かりませんが、回答させて頂きます。


>下天の夢」の執筆の狙いで書かれていた「本能寺の変に於ける三つの謎」をどのように解かれるのか、楽しみにしているからです。文章も以前より、読みやすくなったような気がします。

→冒頭からのこのお言葉に付いては、ただただ、ずっしりと重いものを感じるのみです。
“読みやすくなった”と言うことに付いては、素直に嬉しいと思います。このサイトがルビ機能を持っていない為、《》でルビを振る見苦しさを避けようと、読みにくいと感じるであろう漢字は、極力ひらがなとしました。ただ、命令を意味する “命” と言う言葉はひらがなでも漢字でも座りが悪いと思って《》でルビを入れました。そういう工夫を見て頂けたのかなと思います。


>私はサイエンス「ファンタジー」と分類しています。

と言う見方に付いては、依存は有りません。

https://eman-physics.net/relativity/tachyon_com.html

>このようなわけで,もしタキオンが発見されたとしても,過去に情報を送るのは技術的に相当難しくなりそうである.

→というのが結論なのですから、具体的に転送方法の詳細を書けば書くほど嘘っぽくなるのではないかと言うのが私の考えでした。つまり、転送出来たと言う前提を共有して頂ければ良いのかなと思った訳です。

→相対性理論に関してのご指摘は興味深く読ませて頂きました。勉強にはなりましたが、それは私の知識ではないので、受け売りで書き直したとしても、借り物の知識では、すぐに別の何処かで破綻してしまうと思います。

→アドバイスに沿った改変をすればクオリテーは高くなると思いますが、私の手に負えないものとなってしまうと思います。かと言って全てを『無理です』と言って拒否すると言うことではなく、当然取り入れる事が可能な部分も有るので、それに付いては真剣に考えてみたいと思うのですが、そうなると、一旦破棄して、改めて書き直した方が良いのかなど、正直悩んでいます。

                       
>上記の設定で、信長に送信できたとしても、信長の方から返信する手段がありません。

→に付いては、そういう設定です。真人が元の時代と交信し、アドバイスを受けると言う設定にはしていません。真人は学んだ歴史知識を元に、一部共有している信長の意識と併せて状況を判断して行くと言う設定です。

>一方通行なので、織田真人は「信長の時代の様子を全く知る事ができない」のです。

→申し訳有りませんが、このご指摘に付いては、ちょっと理解出来ておりません。

>以上の理由で、サイエンス「ファンタジー」であると分類しました。

→で宜しいかと思います。

>しかし、最初に書いたように「本能寺の変に於ける三つの謎」がどのように解かれるのか楽しみなので、続編も読み続けるつもりです。

→が、ちょっとプレッシャーとなっておりまして、ご納得頂ける結論に持っていけるか、正直悩んでいます。

>尚、この作品を商業レベルにするには、現状の「説明」は修正した方が良いのではないかと思います。中途半端な詳しい説明は、不要なのかもしれません。多くの読者にはかなり難解に感じられると思うし、解けない方程式(今作の場合、実際に誤り)のように思い、快く思わない読者もいるのではないかと思うからです。但し、昔の哲学書のように、難解だからこそ高度な事が書かれていると錯覚する読者もそれなりに多くいるはずで、書く側としては「読者層」を強く意識する箇所だと思います。

→貴重なアドバイスでありがたい限りですが、自分の作品がそんなレベルのものではないと言うことは自覚しています。

>ここまで書いて、青木さんが参照している解説記事や、更にその元ネタの解説に冗長さがある事に気が付きました。非常に単純な事で、宇宙船など使わないで、「過去の地球に直接データ送信」をすれば良い、というものです。彼らの盲点の原因は、「天動説」のような発想で考えていた事にあるようです。「地動説」で考えると容易に答えに辿り着きます。

 現在の地球      過去に地球が存在していた宇宙空間
  〇――――――――――>●

→この辺のところは、ちょっと首を傾げるところです。
     

>本作は、どのような「読者層」に向けて描かれたのでしょうか。

→叱られるかも知れませんが、全く考えておりません。
賞に応募しようと思って書いている訳でもなく、商業ベースに乗せようとして書いたものでもないので、ターゲットを設けてはいません。興味を持って読んで頂ける方が居れば有り難いと言う程度のものです。

>その信長に対して上記のように学生にすぎない真人では、あまりにも凡人すぎると思います。その小物が超々大物に寄生して、本人になってしまうという設定に、不自然さを感じます。

→なるほど、この辺も含めて、一度ガラガラポンして最初から書き直す必要が有るのかななどと思って、先に進められないでいるのが現状です。

>真人が信長に関する知識や技能習得の他に、下記の職種に就くか、またはそれに準じる訓練をしていると、読者に対して少し説得力があると思います。

→考えてみます。

>道三に見せ付けたシーンは、それほど歴史に詳しくない私が、NHKの大河ドラマで観た事もあるぐらい有名な出来事だと思うので、それを行っていなかったという設定には違和感があります。「我々の世界の信長」が放った妙手なのに、それを真人に横取りされたような気分です。

→もちろん、これは『信長公記』の名場面ですが、著者とされる太田牛一はその頃はまだ柴田勝家の足軽であり。直臣となったのは翌年なので、道三との会見には同行していないはずです。”つまり、講釈師見てきたような…… ” なのです。
拙作では、藤吉郎を使って信長うつけ説を払拭するために流した話と言うことにしてあります。
ここは、正に前半の肝なのです。
信長の奇行、道三との会見での胸のすくエピソード、父の葬儀で位牌に抹香を投げ付けた。平手政秀の自刃。
これらのエピソードは、信長の信長たる所以ではあるが、納得行く理由は示されていません。全て当て推量です。

そこで私の考えたストーリーが、
①信長の奇行は、うつけとの評判を立てることによって、敵を油断させ、その間に軍備を整えていた。
②道三との会見は事実であったが、面白可笑しく脚色されており、信長うつけ説を払拭する狙いが有った。

ここで、信秀の死を早めれば、苛立ちにより抹香を投げ付けたことを含めて、全て理由付けが出来ると考えた訳です。(つづく)

青木 航
sp49-96-30-206.msd.spmode.ne.jp

(続き)
>「真人の世界の信長」が「兵農分離の常備軍」を持っていた歴史がなく、

→ここはこの小説の前半の肝の部分になります。
”うつけ信長“は誰もが知る信長らしさであり、信長と言う人物に面白味と神秘性を与える重要な要素です。”だから信長が好き”と言う方も多く、仰る”信長像を汚された“と感じる方も居ると思います。

しかし、信長の狂気、うつけの真意は謎です。
この小説では、周りの敵の目を欺いて密かに軍備を整える為としています。
軍備は、長槍の工夫、鉄砲の調達と併せて人の確保も含まれるはずです。
現に、後年信長の手足となって働く黒母衣衆、赤母衣衆などは主に小姓出身者で構成されていました。初期の構成菌は死んでいるにしても、信長親衛隊の原型はこの時に作られたと言う解釈です。現に、前田利家はこの時に陪臣から直臣に取り立てられています。
工夫した長槍にしても、常備軍として多少なりとも訓練しておかなければ、叩くことさえ出来ないでしょう。

道三との会見に連れて行ったのはこの常備軍と言う決定です。戦いに行ったのではなく道三に見せ付けて、評価させ交渉を思惑通りに運ぶためのパフォーマンスです。『信長公記』に描写が無いので落としてしまいましたが、当然、雑兵だけでなく親衛隊も居ました。

> 姿は織田信長であっても、意識の殆どの部分は織田真人である。時折、信長としての感情が肥大化して来ることは有るのだが、いつどんな時にそうなるのか、真人には分からないし、制御することも出来ない。
この物語の根幹を否定してしまいますが、私にはあまり良い設定とは思えません。「真人とその組織」に共感できない設定のために、主人公に感情移入して読む事ができないからです。

→そうですか、残念ながらそう取られたなら、そのまま受け取るしかないですね。


>「信長の何が問題」で行っている作戦なのか、理由が不明

→ネタバレになるのでは明かせませんでしたが、今回掲載分で答をお示ししているつもりです。
 
→信長と、協調/協力する道を探った形跡がない
 ・信長に対する攻撃が本人も気が付かない程に隠蔽されていて、一方的

→ご批判謙虚に受け止めます。

 ・信長の扱いが、実験動物/リモコンのロボットと変わらない
 ・精神を徐々に乗っ取るという、残虐な奴隷化/暗殺
 ・真人は自分が暗殺に関わっている事に、葛藤がなく無自覚に見える
 ・信長が偉大な祖先であるという、畏敬の念が感じられない
 ・凡人が突出した人物を操り乗っ取るという、バランスの悪さ
 ・(現実の)信長の天才性を(フィクション中の)凡人が、横取りしている
 ・「歴史的英雄/梟雄」が半殺しでゾンビ化されていて、悲惨すぎ
 ・「敵対していない弱者」に対する科学技術の暴力的な使用が、不快
 ・宇宙人ならぬ未来人の侵略物のようで、侵略されている方に感情移入する

→不満爆発と言う感じですね。全否定とも取れますが、にも関わらず詳細な感想、アドバイスを頂けていることに感謝します。
そういう意味で、『書き直したほうがいいかな』と言う考えも有り悩んでいるところです。


優れた所にも感想を書くべきかもしれませんが、気になる所に絞りました。

→了解です。

>その結果、上流から下流への移動ということもあり、舟は20里(約80キロ)の道程を僅か一時《いっとき》(30分)で走り抜けた。

「一時」の説明が30分になっていますが、2時間の誤りです。30分だと「時速160キロメートル」で、現代でも存在しない超高速船になってしまいます。日本語大辞典と、ネット上のgooの辞書で、時間の長さを確認しました。

→ご指摘の通り、これは私の誤りです。


> 真人の居た世界。それは我々の世界より遥かに科学が進んだ世界である。

並行世界なのに技術差があり過ぎで、不自然な設定だと思います。以下のように2024年から見て未来の世界にすれば、「並行世界間の類似性(信長の時代)」と「科学技術の突出した差」の両方が、すっきりと解決できます。

 2024年  科学が飛躍的に進んだ未来(真人が居る時代)
――●―――●――>u0(この小説の真人の世界)
  ↑
 天変地異等が片方だけに起きたような場合以外は、それほど極端な差はない
  ↓
――●――――――>u1(我々の世界)
 2024年

→ご指摘含めて考えます。

もう一つ、非常に気になる事があります。三人称小説の地の文は普通、正体不明の「語り手」の言葉なのですが、この場合の語り手は青木さんなのでしょうか。SF映画を観ていると突然、監督が顔を出して、映画で描いた世界と現実の世界の差を解説するような感じで、非常に興ざめします。作品世界から現実に、強引に連れ戻されてしまうように感じるからです。

語り手が青木さんだと思うのは、下記の構成図のように、両方の世界に通じているのは青木さんだけだからです。
 ┏━━━━━━━━━━━━━━┓
 ┃現実の世界         ┃
 ┃   ┏━━━━━━━━━┓┃
 ┃   ┃小説の世界    ┃┃
 ┃   ┃         ┃┃
 ┃作者→┃ 語り手←主人公 ┃┃←語り手は現実世界を知らない。
 ┃   ┃ ↓       ┃┃
 ┃   ┗━╋━━━━━━━┛┃
 ┃     ↓        ┃
 ┃     読者       ┃
 ┗━━━━━━━━━━━━━━┛

その情報が読者に必要な場合は、小説本文ではなく別頁を設けて、「解説」として書けばよいのではないかと思います。今回の場合は、真人の居る世界をもう少し詳しく描くか、2234年のように明確に未来世界であると示せば、「我々の世界より遥かに科学が進んだ世界」は不要となります。

→視点の問題ですね。神視点。物語としての語り手視点ですね。一人称視点や三人称一元視点では、主人公の知り得ないことは別の視点で書く、とか別項目で解説風に書くとなると煩わしくなると思い、単純に古典的な神視点を取っています。


色々懇切丁寧な感想、アドバイス有難う御座います。
今回掲載分が回答になっている部分も有ると思いますが、回答として不十分かも知れません。色々考えて、失敗なのではないかと言う考えもあり、色々迷って、今は先に進められない状況です。

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