作家でごはん!鍛練場
そらまめ

おしまい



妻「空、高くなったね」

僕「だね」

――うろこ雲。

飛行機雲を見なくなって久しい。

マンションの最上階。

眼下に町なみ、遠くに山なみ。頭上に広がる青い空。

西向きの大きな窓に向かって並んで座っている。

目の前にどっしりとしたコーヒーテーブル。

座っているソファはふかふかだ。

妻「お腹すいた?」

僕「そうでもない。でも、ナッツでもつまんで、ビールでも飲むかな」

妻「まずくないの? 冷えてないビールって」

僕「まずくないよ。ベルギービールだから――。シメイの青は常温でもおいしい」

妻「備蓄、まだぜんぜんあるんだよね?」

僕「うん。死ぬまでのぶんがあるよ」

そう言ってから立ち上がり、キッチンに歩んだ。

スクールモン修道院で醸造されたビールを、丸いグラスに注ぎ、ミックスナッツの袋を開けて、中身を皿に盛った。

僕「君は? 何かつまむ?」

リビングに向かって尋ねた。

妻「いらない」

僕「飲み物は?」

妻「よく冷えた麦茶が飲みたい」

僕「そんなものはない」

ビールとナッツを手にソファに戻った。

妻の横に座り、また外を眺めた。

妻「スクールモン修道院のことだけど……」

シメイのグラスを見ながら妻が言った。

僕「修道院」

妻「まだやってるのかな?」

僕「やってる?」

妻「うん」

僕「何を?」

グラスを傾けながら尋ねた。

甘い香りが広がる。花が咲いたみたいだ、と思う。

妻「……祈ったり、あと、掃除したり――。あ、聖書読んだり、してるのかな?」

僕「どうなんだろね?」

妻「今さら、だよね。だけど……」

僕「だけど?」

妻「神に仕えるお仕事なんだからさ」

僕「ん」

妻「こんなときこそ祈ってくれなきゃ」

僕「祈ってたんじゃないかな? ――半年くらい前までは」

烏がなん羽か、なかよくつるんで西へ帰っていった。

僕「陽が傾いてきたね」

妻「また、真っ暗な夜が来るんだね」

僕「電池もたんまり、死ぬまでのぶんがあるよ」

そう言って僕は、乾電池式のランタンのスイッチを押した――。



巨大隕石は恐竜を絶滅させた。6500万年ほど前のことだ。

今度は人類を滅亡させようとしている。

軌道が急に変わった――との報道があった。航空宇宙局は前から知っていた――との噂も立った。

今となってはどちらでもいい。

確かなことは「不可避である」こと。

人類は滅亡する。

この地域は直撃ゾーンとされている。

一瞬で消える。

――逃げる?

――どこへ?

――逃げ場はない。

地球の裏側に行って、直撃を免れたところで死滅は免れ得ない。

苦しんで死ぬことになる。それだけだ。

だから、国を出ようとする人間はほとんどいなかった。

どうせ死ぬなら生まれ故郷で死にたいのかもしれない。

妻「お墓のこと、考えなくてよくなっちゃったね」

僕「そうだね。宗派についても、戒名についても、墓石についても――、なあんにも考えなくてよくなった」

僕も妻も、親の墓に入るつもりはなかった。どこかに死に場所を定めなくてはいけない――と漠然と考えていた。

が、衝突後の地球は地形を留めまい。

墓のことは考えなくてよくなった。

子供のいない僕らだから、家を遺すだの、その他の財産を遺すだの、そんなことはもとより考えないで済んでいたわけだが、こうなるともう、DNAはおろか、名前も、骨さえも遺さないわけで、きれいさっぱりただナッシングになるだけだ。

妻「思い出話も話しつくしちゃったしなあ――」

ランタンが、斜めから妻を照らし出している。

そうだ。僕は妻の、幼少期から僕に出会うまでの日々を、まるで我が事のように知っている。繰り返し聞かされてきたので。

そして妻も、僕の歴史をつぶさに知っている。何度も話して聞かせてきたから。

そんなことして何になる? ――とは思う。

僕だって妻だって消えちゃうんだから。

でも話しておきたかったのだ。生きてきた道筋を。

ナッシングになってしまうからこそ。

聞かせながら反芻していたのだ、人生を。まだ消えてはいない今のために。

ムダであったと、すべてがムダであったと思いたくないんだと思う。



隕石衝突の発表があったのは1年前――。

まだスーパーに普通に品物が並んでいた。通販サイトも物流も機能していた。

備蓄を心掛けた。

大量の水。缶詰。常温保存が可能なレトルト食品。栄養ゼリー。電池。カセットガス。体を清潔に保つための除菌タオル――。

災害に備えるのと同じ。

いや、違う。災害はいつ起こるかわからない。でも衝突は、正確な日時がわかっていた。

備蓄すべき分量を、あらかじめ知ることができた。

すなわち、死ぬまでに必要なぶんだけ。

簡易トイレも用意したし、川の水を浄化できる装置も手に入れた。

夏に停電したら――。エアコンのない暮らしは堪え難いであろうと思われた。ソーラー発電できる扇風機も準備した。

――秋には終わりが来るという。

でも、だからといって熱中症に苦しみたくはない。

そんなふうに思っていた。



山に陽は沈んだ。けれどもまだ微妙に明るい。隕石の影響もあるのかもしれない。

電気が止まってかれこれなので、家の中は暗い。電池式のランタンがぼうっと灯っているだけだ。

コーヒーテーブルの端にあった双眼鏡を掴む。

僕「見る?」

妻は首を横に振る。

双眼鏡で、夕暮れの町をパトロールする。

妻「見たってしょうがないでしょ?」

妻の言うとおり。

見えるものといったらいつものとおり、死体。少し数が増えている。形を崩した残骸も増えている。

僕「誰も片付けなくなったから――」

妻「独り言?」

僕「あ、うん、ごめん。聞きたくないよね――って、あ、あれれ??」

妻「どうしたの?」

僕「女の人が……」

妻「――襲われてるの?」

僕「ん……助けなきゃ」

妻「間に合わないよ」

僕「でも……」

妻「外歩くだなんて、殺してくれって言ってるようなもんだよ」

僕「ん」

妻「感染もしちゃうだろうのに――」

毒性の高い感染症が蔓延していた。



当初は、仲間と飲み明かしていた。人類さよならの宴、だなんて銘打って。

正常性バイアスというのだろうか。滅亡する――ということが理解できていなかった。

桜が散るころ、みな気が付き始めた。――本当に滅びてしまうのだ、と。

略奪や暴動の火の手が上がる一方で、仲間たちとの宴にも熱がこもった。

でも、感染症が流行って――。

集まれなくなった。

いや、集まる連中もいた。

高熱にうなされながらパーティーを続けて、そして旅立っていった。

妻「急がなくてもいいのにね」

僕「どうせ死ぬから、だからこそ自由に生きたいんだろう。つまり、自由に死にたいんだろう」

誰も出社しなくなり、登校もしなくなった。

社会的な機能が急速に失われた。

そんな様子を報道していたテレビも、ラジオも、やがて沈黙した。

ライフラインがストップ――。電気が止まると、外との連絡手段もなくなった。



妻「町なんて見ちゃ駄目だよ。あれを見なよ」

妻の視線に促されて双眼鏡を向けた。

斜め向かいのマンションのアンテナに、鳥が2羽。

丸い視野の中で毛繕いをしている。

僕「野鳥だ。ツグミじゃないかな?」

その瞳を見つめた。

妻「あのコたちは知らないんだね、終わるって」

僕「そうだね。だから通常運転」

人間だけだ。起きてもいないことにやられて自滅するのは――。

双眼鏡の角度を変えると――、輝く光が見えた。

僕「いちばん星だ」

妻「ほんと」

僕「明るいなあ」

妻「輝き続けるんだね、地球がなくなってからも――」

地球がなくなってからも?

そうか。なくなるのか、地球。

46億年の歴史が終わるのだ――。

歴史。

そうだ。1年前の秋に発表があり、みなと同じように呆然として、でも冬に、いくらか元気を取り戻してから僕がしたこと――、それは世界史の教科書を読み直すことだった。

山川書院の青い教科書。高校時代に使っていたものだ。

人類の歴史が終わる――、そう思ったらもう一度丁寧に読み直してみたくなった。



受験のために嫌々学んでいたのが歴史だった。

物理は好きだった。未知を開くための手段に思えたから。物理の教科書には未来が詰まっていたのだ。

でも歴史は苦手だった。終わったことを振り返って何になる?――と、そう感じていたのだと思う。消化試合には興味が持てなかった。

だけど今――。

未来がない。

この秋より先にもう未来はないのだ。

過去しかない。

だから過去を慈しんだ。

人類の歴史をなめるように読んだ。

僕らはいた。い続けた。成果も出した。未来を作り続けてきた――!

けれども――、と思う。地球の、46億年の蓄積が、おそらくは完膚なきまでに粉砕されるのだ。人類の、たかだか数万年の歴史を盾に文句を言ったってどうにもならない。



金星を見ていたら、泣けてきた。

僕らは終わる。人類の主観はなくなる。でも宇宙は終わらない。客観世界は存続し続ける。

腑に落ちた。

よかろう。足掻いても足掻ききれないのなら受け入れよう。これが僕らのさだめだ。



双眼鏡を置いた。

コーヒーテーブルの下から黒いケースを引きずり出し、開けて、中からウクレレを取り出した。

鳴らした。

平和な音が響いた。

妻「すごいね、ウクレレって」

僕「すごい?」

妻「電気もいらないし」

僕「人力だからね」

妻「単純だね」

僕「うん。物理的な形があるだけ。それが振動して音になり、響く――」

妻「音」

僕「ん。音には形がないね。それに鳴ってもすぐに消えちゃうし」

妻「はかないね」

僕「だね。でも無意味じゃない。この音に僕らがどれほど癒されてるか――」

ウクレレを弾いた。

伴奏に合わせて歌も唄った。



ふと気が付いて手を止めた。

僕「なんの歌にしよっか……」

妻「なんの、ってなんのこと?」

僕「いや、ほら、隕石がぶつかったときにさ、なんの歌唄ってよっかなって――」

妻「あれえ?」

僕「なに?」

妻「最後の瞬間はエッチしながら迎えようって言ってなかったっけ?」

僕「――ん。まあ、そう思ってたんだけどさ、エッチはいっぱいやってるじゃん。それに――」

妻「それに?」

僕「ここにこうして座ってさ、見つめてやろうかなって。夕焼け空を見つめるみたいに。最後のありさまってやつをさ」

妻「ウクレレ弾きながら?」

僕「そう。なんなら歌も唄っちゃいながら」

妻「いいんじゃない?」

僕「エッチじゃなくてもいい?」

妻「エッチのあとで唄いなよ」

僕「じゃ、そうしよう。問題は――」

妻「なに?」

僕「最期に何を唄うか、だよ」

妻「最後の晩餐、みたいね?」

僕「うん。――やっぱ、あれかな」

妻「どれかな?」

僕「讃美歌とか」

妻は笑った。

僕「なぜ笑う? 君はクリスチャンではなかったか?」

妻「いかにも私はクリスチャンでござい。でも、最期の歌が讃美歌って生真面目すぎない?」

死ぬときくらいは真面目に死にたく――ん? ないのかな?

僕「まあきーびーとー、ひーつーうじをーぅ……」

妻「イエスの誕生を、ベツレヘムの星が知らせる歌だね」

僕「ベツレヘムの星?」

妻「ツリーのてっぺんの星」

僕「へえ。まだ知らないことがいっぱいあるんだな、僕には」

知らないままに消えてゆく――。

妻「あれはどう? ちょっと前によく唄ってたじゃん?」

僕「どれ?」

妻「愛は歌、あなたは歌い手――」

僕「ラーヴ、イーズアソーング、エンユーアー、アシンガー……」

妻「それそれ。それ聴いてるとわたし眠くなるんだよね」

僕「ふむ」

妻「最期のときに聴いたら安眠できそう」

僕「なるほど」

子守唄みたいな歌を唄いながら、か。

僕「――にしても、あれだね、最期の1曲を選ぶって、大変だ」

妻「そう?」

僕「選んでるうちに最期の日になっちゃいそう」

妻「そんなもんでしょ?」

僕「かな?」

妻「それが人生、なんじゃない?」

僕「せらび(C'est la vie.)」

――そんなふうにして僕らは、最期の刻(とき)に向けての日々を、ひっそりと、むつまじく過ごした。



僕「いろいろ迷ったんだけど――」

妻「なに?」

僕「最期の歌」

妻「あ。――何にしたの?」

僕「杉の子幼稚園で唄ったのにしよっかな」

妻「どんな歌?」

僕「あのね、あきちにあーめがふりましてー、どんどんどんどんふりましてー、まあるいおいけができましたー……」

妻「あひるはあめのこ」

僕「そう。あひるはあめのこ」

妻「――いいんじゃない?」

僕「いいかな?」

妻「いいと思うよ」

僕「――いっしょに唄ってくれる?」

妻「うん。いいよ」



――ナッシングになる僕ら。

でも、秋の空は高くて、うろこ雲はぽこぽこしていて、そんな空に消えゆく響きはころころしていて――、

僕らは今、そう、ここにいる――。

おしまい。

おしまい

執筆の狙い

作者 そらまめ
KD106154160055.au-net.ne.jp

おしまいについての思考実験です。あなたなら最期に何を唄いますか?

コメント

神楽堂
p3339011-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

>そらまめさん

読ませていただきました。
地球滅亡を扱った作品はたくさんあると思うので、
いかに個性を出すのかが大事かなと思います。

正直、感染症の話題はなくてもよかったかなと思いました。

地球の最期に歴史を勉強してみたくなる、というのはいいですね。

読みながら、自分だったらどう過ごすかな、と考えたのですが、
よくよく考えると、我々だっていつかは死ぬわけですし、
この世とおさらばしなくてはならないわけです。

人生の最期をどう過ごすのか
それは地球が滅亡するかどうかと関係なく、
自分の人生の問題として考えておきたいと思いました。

今日で地球が終わるなら自分は一体何をするのだろうか。

私も、あなたも、これを読んでいる方も、
いつかは死にます。

生きているうちにやりたいことをやれる
そんな人生にしていきたいですね。

そんなことを考えさせられたお話でした。
読ませていただきありがとうございました。

そらまめ
KD106154159076.au-net.ne.jp

神楽堂様

コメントありがとうございます。
隕石衝突――で時間を制限し、感染症――で対人関係を制限し、備蓄――で制限を生きることは可能な設定にし、夫婦という一単位がどう生きてどう死ぬかを思考実験してみました。
エッチしながら最期を迎える、、、という想定から筆が流れたのは、歌を唄う、、、という実験結果でした。
唄う、というのは非常に象徴的な行為であるかと思われます。誰のためにでもなく、自分のために唄うならなおいっそう。
最期の歌をなににするか、、、というのは難しくも、いくらか楽しい迷いでした。
いつかみな死ぬから生きてるうちを(俯瞰して見るなら刹那的に)楽しむ――のではなくて、死ぬことが決定していることを受け入れたとき人はどう生きてどう死ぬのか、またはどう生きるべきでどう死ぬべきかを想像してみたかったのでした。
読んでくださりありがとうございました。

偏差値45
KD059132061172.au-net.ne.jp

うーん、少しだけ、面白さはあるものの……。

冒頭はもう少し考えてもいいかな、という気がしますね。

>妻「空、高くなったね」
僕「だね」
あまり内容のない会話文からのスタートで、読む気持ちを奪いかねない。

>――うろこ雲。
飛行機雲を見なくなって久しい。

いきなりこの文章を読んだ場合、解釈が難しい。
飛行機雲が浮いていて、久しぶりに見たということなのだろうか。
うころ雲と飛行機雲、どう関係があるのだろうか。分からない。

>マンションの最上階。
眼下に町なみ、遠くに山なみ。頭上に広がる青い空。
西向きの大きな窓に向かって並んで座っている。

マンションと言っても、低いものもあれば高いものもあるので、
何階建てなのか、分かるとイメージしやしくなるかも。
それから、こちらの文章を最初にもっていった方が理解しやすいと思う。
冒頭、読む順番は意外に大事です。

>巨大隕石は恐竜を絶滅させた。6500万年ほど前のことだ。
今度は人類を滅亡させようとしている。

この辺以降、興味が少しはわくのですが、
最終的に会話文に流されて、
「あなたなら最期に何を唄いますか?」的な方向性で終了するのは、
残念な感じがする。
個人的に読みたいものは、知りたいことは、そんなことではないですからね。
言わば、サバイバル的な展開ですね。生活インフラがない状態でいかに生活していくか。
必要な物資をどう調達するか。まさに生きるか死ぬか、
その方が刺激があって面白そうです。

中村ノリオ
flh2-122-130-109-65.tky.mesh.ad.jp

読ませていただきました。

楳図かずお先生の訃報に接した後に読んだので、しんみりした気分になってしまいました。

最期に歌う曲。私は音痴なので歌いたくはないですが、人生最後に聴く曲はプリンスにしたいと思っています。

そらまめ
KD106154159076.au-net.ne.jp

偏差値45様
コメントありがとうございます。
「――うろこ雲。
飛行機雲を見なくなって久しい。
いきなりこの文章を読んだ場合、解釈が難しい。
飛行機雲が浮いていて、久しぶりに見たということなのだろうか。
うころ雲と飛行機雲、どう関係があるのだろうか。分からない」について。
冒頭の、なんてことないのんびりとした秋の日常に、しのびこませた「違和感」のつもりでした。
違和を感じてくださりありがとうございます。
そのあと、「巨大隕石は恐竜を絶滅させた。6500万年ほど前のことだ。
今度は人類を滅亡させようとしている」という箇所以降を読み進めると、一年前に隕石衝突のアナウンスがあり、――その後半年は、恒常性バイアスなのか、人類は社会性を維持し、仕事や学業に従事していたが、桜が散る頃から急速に社会性を失い、誰も働かず、インフラもストップしていった――という来し方と現状が明かされるので、そこで読み手は、「そうか、うろこ雲は天然だけど、飛行機雲は飛行機が描く、すなわち人為的なものなので、人間が活動を停止してのちかれこれ半年、語り手は飛行機雲を見ていなかったのだな」と合点し、冒頭の違和に対する答えを得てくださる――と画策していたのですが、書き手の期待通りにはいかないものだと実感できました。
ご指摘、参考になりました。
わざとのんびりほんわかとスタートさせた冒頭からの、人類滅亡の真っ只中――という落差を仕掛けとして狙ったわけですが、こちらも、「冒頭はもう少し考えてもいいかな、という気がしますね」というご感想や、「こちらの文章を最初にもっていった方が理解しやすいと思う。冒頭、読む順番は意外に大事です」というご感想に照らされると、狙いが空振りに終わったことを認識することができました。映画『ザ・ボート』のような導入や展開を不快に思う受け手が存在することは覚悟していたのですが、その域には当然ながらはるかに及ばない段差でさえも、乗り越えていただくには書き手のスキルが必要なのでありますね。
また、「最終的に会話文に流されて、あなたなら最期に何を唄いますか?的な方向性で終了するのは、残念な感じがする」というご感想にも、書き手の実力不足を痛感させられました。「最期に何を唄いますか?」という問いのためだけに全編を編んだのに、「個人的に読みたいものは、知りたいことは、そんなことではないですからね」と感じられてしまうということは、読み手を十分にインビテイションできていなかったということでありますから。――「個人的に」というエクスキューズに救われますけれども。
「サバイバル的な展開ですね。生活インフラがない状態でいかに生活していくか。必要な物資をどう調達するか。まさに生きるか死ぬか、その方が刺激があって面白そうです」というロビンソン・クルーソー的な話を想定する読み手にこそ、もう少し象徴的な面白さに、いえ切実さに、足を踏み入れていただけなければ、この話は独り言で終わってしまいますね。生きるか死ぬかみたいなことは双眼鏡の向こうで起こっていて、語り手夫妻は、鳥や星を眺め、音や歌の響きに身を任せたいと思っているわけで、確かに通常人は双眼鏡の向う側を生きて死ぬわけですが、そうではない孤高なる場に読み手をして立たせたいというのがこの話のミソでありますから、、、。派手な三振を喫してしまいました。
できるだけシンプルな言葉で、わかりやすい体裁を――と心を砕いた(表現も砕いた)つもりだったのですが、さらなるわかりやすさが求められているのか、あるいは単純にエンタメが求められているのか――、いずれにしましても書き手の未熟さとして感受できました。
――こちらで読んでいただけてよかったです。
非常に参考になりました。
読んでくださりありがとうございました。

そらまめ
KD106154159076.au-net.ne.jp

中村ノリオ様
コメントありがとうございます。
グワシ!
先生のご冥福をお祈りいたしましょう。
いた人がいなくなったことも、いる私たちがいなくなることも、実に不思議なことですね。
例えば、
グワシ!
という響きに深いものが宿っている気がしてなりません。
最期の歌はプリンスですか。
悪くないですね!
読んでくださりありがとうございました。

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