作家でごはん!鍛練場
三語即興文有志

三語即興文  24/9/30

【形式】
 (1)前の方の作品に批評・感想を書く。
 (2)出されたお題で50字~1000字程度の文章を作る。
     ※三語を使用した小説であること。三語は順不同で使用可。
     ※漢字(ひらがな・カタカナ)は変えないこと。
 (3)次のお題(三語と課題)を出す。三語は名詞が基本、各語の関係が遠いほど望ましい。


【ルール】
 ・第一目的は文章と発想の瞬発力、及びショートショートの構成鍛練です。
 ・同じ方の書き込みは一日一回です。言いかえれば毎日でもどうぞ。
 ・同じお題の投稿が重なった場合、最初の投稿者のお題が次に継続されます。
 ・上記の場合、後の方の作品は残します。事故と見なしますので謝罪などは不要です(執筆の遅い投稿者保護)。
 ・感想のみのレスはご遠慮ください。
 ・事故作品にもできれば感想を書いてあげてください。また、他の作品に感想を書くのは自由です。
 ・何事も故意の場合は釈明必須ですが、多少の遊び心は至極結構です。ただし、基礎の未熟な方の遊びはお断わりいたします。
 ・課題は強制ではなく、努力目標です。お互い無理のないようお願いします。
     例)「主人公の性別は○○で」「ハードボイルドっぽくお願いします」「三人称で書いてください」

 ・三語即興文の新スレッドは参加者皆さんによって立ててください。
 ・フォーマット・ルールなどの改正は必ず伝言板で意見を募ってください。
 ・重複スレッドが立った場合は運営に削除依頼を出してください。

三語即興文  24/9/30

執筆の狙い

作者 三語即興文有志
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感想レスを使ったやりとりです。
興味のある方は参加してください。初めてのみなさんも歓迎します。
前の方の作品に感想を書くのを忘れずにお願いします。

コメント

三語即興文有志
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現在最終面にある「三語即興文」の夜の雨さんの感想と作品をこちらにあげます。

雨音さんの「お話の裏で」読みました。

お題 「雷」「蜃気楼」「最速の時の流れ」
ジャンルは「童話」。

「ヘルメス」は冒険していることになっている「旅人の守護神」なんですね。
それで「赤ずきん」と豪雨のなか洞窟で遭遇したのですが、彼女に「ささやかな加護を与えた」。
この加護を与えるエピソードは具体的に描いておいたほうがよいですね。「まじないとかの儀式です、簡単なのでよいので」。
あと御作は、人物やら周囲の地形などの説明とか描写をしておくと、ワクワク感が味わえるのではないかと思いました。物語の背景に広がりがあるので。
洞窟での赤ずきんの可愛さとかは伝わってきます。
>「あ 見て!! 向こうの山蜃気楼が起こってる!ハートみたいに見えるよ! 」<
このエピソードは、心があたたかくなりよいですね、なので、これをヘルメスが赤ずきんに与えた加護にすればいかがですか。
ヘルメスが心の中でまじないの儀式をしてハートの蜃気楼を出した。
赤ずきんはまさか洞窟に一緒にいるおじさんが「旅人の守護神」でハートを蜃気楼で出したなどとは思わない。
だからハートを見てヘルメスと一緒に喜びたかった、ということにすれば赤ずきんの可愛さが表現されます。

話の外枠の作り方はよいのではありませんかね。

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私の作品です。
>次のお題 「鏡 整頓 わたあめ」
>テーマ 「テスト前の学生」

『凛子の日常』

凛子は期末テストが始まるというのに朝ぱらから椅子にもたれて煙草を吹かしていた。
机にはノートパソコンがありワードが開いている。
ドアがノックされた。
「凛子、早くご飯を食べなさいよね、学校に遅れるわよ」
「うん、わかったぁ~」といいながら煙草の煙を口から吐き出し輪っかをいくつも作る。
その輪っかの中に指を入れて「グチュグチュ~」と卑猥な言葉を並び立て何やらひらめいたのか前のめりになるとパソコンに向かった。
キーボードを高速で叩く。
一気に原稿用紙10枚分の小説を書きあげると出版社の編集担当にメールで送った。
凛子は煙にむせながら、煙草をもみ消す。
鏡に向かってウィンクすると、セーラー服に花の香水をスプレーし、鞄を持って部屋を出た。
居間では父親が食事をしていた。
頭の上にピンクの花を咲かせた父親に向かって「パパおはよう!」と声を掛ける。
ギャグ漫画家の平太郎は自分の漫画が掲載されている青年誌「あんぽんたん」を凛子の前に広げて「見よ見よ! 俺の漫画の『お気楽家族』最高の出来だなぁ、てへへ」と、自画自賛。
朝食はご飯に納豆、具だくさんの味噌汁に秋刀魚の尾頭付き。
食べていると「部屋は片付いているでしょうね、整理整頓しっかりしないとね女の子なんだから」と母が言う。
「うん、タバコの火はちゃんと消しといたから」
「未成年だから執筆の参考に吸うといってもね」
「ギャルが登場している場面を書いているのだからリアルティが必要なのよ」
「そうそう、リアルティが必要」と平太郎は先日100円ショップで買った頭の上の花を触りながら「イメージが湧いた!」と奇声をあげて仕事部屋へと直行。
凛子が食事を終わり歯を磨いているとスマホがピコピコとメールの着信を知らせた。
メールを開けると編集者から「読みました」と速攻の連絡が。
恐るべきことに、詳しい感想が添付されていた。
出版社にメールで小説を送ってから10分少々しか経っていない。
ラストまで感想に目を通すと「テストがんばれ! 君ならできる。高校生で日本文学賞受賞しているのだから」との励ましが。
口をすすぎ終わると鏡を見てニッカッと笑い、「目指すぞ世界!」と自分を叱咤する。
「なにをしているの、学校に遅れるわよ」と母の声。
カバンを持って玄関から出ると二階の仕事部屋から平太郎が窓を開けて声を掛けてきた。
「あしたから秋祭りだから一緒に行こうな、わたあめを買ってやるよ」
「うん、わたあめ大好き!」凛子は子供の時から家族で祭りに出かけると、両親にはさまれてわたあめを食べていたのを思い出した。
これで今日の期末テスト最終日もバッチグーだわ。

了。


次のお題
「二刀流、おむすび、暴落」
課題 「覗く」

それではよろしく。

夜の雨
ai200249.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

『凛子の日常』の感想。
自分の作品なので簡単に書きます。
一見ぶっ飛んだ家族の物語を展開させておいて、ラストで「わたあめ」を使って夏祭りとかを読み手にイメージしてもらい、そこに家族の温かさを表現しました。

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私の作品。
お題「二刀流、おむすび、暴落」
課題 「覗く」

『巌流島の決闘』

「そろそろ巌流島へ到着しますよ」と船頭が言う。
宮本武蔵はおむすびを食べながらスマホで見逃し配信サービスのドラマを観て、笑い転げていた。
「船頭さん、この女優さん橋本とか言うんだけれど、なかなかの美人だし愛嬌はあるしでいいね」
「あの波打ち際にいるのは小次郎では」といっても、武蔵はドラマに夢中。
小舟はどんどん波打ち際に進み、やがて……。
「遅いぞ武蔵!」という声に反応して、武蔵はスマホへドラマの感想を書いていた手を止めた。
「しまった、いまからでは櫓を削る時間がない。流派、「二天一流」が使えない。小次郎とまともに戦ったら、長刀を使った「燕返し」で一瞬にして殺される!」
武蔵は思わず天を仰いだ。
小舟が巌流島の砂地に近ずくと小次郎が長刀を頭上に振り上げながら走ってきた。
「武蔵敗れたり!」
武蔵は小舟を飛び降りるとスマホをもって小次郎から逃げるように砂地を走る。
「待てぃ~武蔵ぃ~!」
そのとき松の木の下に陣取っていた目付け役の侍がスマホで日経平均を見ていたのか、「ぼうらくだぁ、株が暴落したぁ!」との叫び声。
武蔵は小次郎との戦いを忘れてスマホで日経平均をチェックした。
「ああ、なんだこうりゃ!」
その声に慌てたのは小次郎であった。
長刀を投げ捨てて武蔵のスマホを覗く。
ちょっと貸してくれ、というなり小次郎は武蔵からスマホを取り上げると必死になって自分の買っている銘柄をチェックする。
小次郎は購入している銘柄を見つけて「ああぁ……」と情けない声を出し「人生終わった、俺は全財産を信用取引で買っていたんだ!」
小次郎がゆびを指している銘柄を見て、武蔵は高笑いをした。
「小次郎敗れたなり! その銘柄を空売りしていたんだ。全財産でもって。値が高い時に売って、安くなると買い戻し、その差額が儲けになる。うはははは! これで一生遊んで暮らせるぞ!」
ニュースで新内閣の支持率が50%になっているのを見て小次郎は水平線に目をやった。
「他人が持っているスマホを覗くのは、人生の闇を覗くようなものだ……」


了。


解説。
スマホを覗いたがために、それぞれの人生の悲喜こもごもが
武蔵と小次郎の巌流島の決闘をスマホという現代のアイテムと、株という人生一発逆転の要素を混ぜつつ、オチを付けました。もちろん楽しめるように大げさに書いています。

次のお題と課題。
お題 支持率、猛獣、症状

課題 再会


それではよろしく。

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「三語即興文です」

『巌流島の決闘』の感想

現代病の"ながらスマホ"を、生死のかかる巌流島の決闘に持ってきたのが斬新ですね。

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私の作品。
お題 「支持率、猛獣、症状」
課題 「再会」



『とにかく二人は出会ったのだ』

とにかくあの二人は出会ったのだ、あの紳士(燕尾服のようなものを着ていた)とホームレス(こちらは見るも無惨なボロボロのコートを身体に巻きつけ、顔は毛むくじゃらだ)の邂逅を、いや邂逅といったら大袈裟か、まあ簡単に言えば二人は出会ったのだ、その坂(紳士が足元をふらふらさせながら、いや急な下り坂だから転ばぬよう気をつけていたのかもしれない)の西側から(私は真南の岩陰に隠れて存在を消すことに人生の全てをかけていた)紳士が、東側からホームレスがゴロゴロと転がり落ちながら(先に坂の下へ辿り着くのはホームレスのほうだろうと私は予想していた)、紳士の視線は自らに向かってくる相手を捉えていたのだろう、少し下るペースが速くなり、あたかもホームレスを思いやるようだった、その様子を見て私の目から涙が零れ落ちた、理由は分からない、この症状の理由は分からない、誰に聞いても、いや誰もいないのだ(私は一人でここまでやってきており、それまでのいきさつも、いま現在の私が誰なのか、どういう存在なのかすら分かりかねるのだ)、そんなことはどうでもいい、二人の邂逅が迫っているところで、ちょうど、もしもし、もしもし、あなた、と話しかけられた(もちろん最初は幻聴か何かだと疑わなかった)、私はまさかとは思ったが後ろを振り向いた瞬間、何十人もの警官が立っていた(すでに裁判所からの逮捕状は満票の支持率をもって発行済み、おまけにドーベルマンのような猛獣を従えていた)、すぐに手足を捕まえられ、覆い被さられ、押しつぶされ、何も分からぬまま、包帯のようなものを身体を巻かれた(口が塞がれる瞬間、私は、私にはこれから予定があるんだ、と叫んだが、それなら指名手配しますよと反論され、その声は私の抵抗があたかも無力で嘲笑に値するような響きさえ含まれていた)、しかし幸いにも私の目だけは、未だにこの世を映していた、あの坂の下り坂と下り坂がぶつかるところで、二人がとても近い距離で何かを、何かを話していたのか分からない(なんせ紳士は背筋をピンとはっているにもかかわらず、ホームレスは寝転がったままだったから)、でもとにかく、とにかく二人は出会ったのだ。



次のお題
「千日手」「埃」「息子」
課題
「語り手が犯人」

よろしくお願いします。

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「再会」になってないな…

fj168.net112140023.thn.ne.jp

「三語即興文です」

『とにかく二人は出会ったのだ』の感想

人生足を踏み外した先には何が待ち受けているかわからないものです。
ドーンッ!👀👉️(笑)

――――――――――――

私の作品。
お題
「千日手」「埃」「息子」
課題
「語り手が犯人」


『千日手の男』

夕暮れの神楽坂。
ノスタルジックな想いに耽りながら男は古びた書店の奥で一冊の古書を手に取った。赤い表紙は擦り切れ、文字はかすれていて題名は分からなかったが、なぜだか妙な懐かしさとともに特別な何かを感じた。ページをめくると、そこには「千日手」と記された第一章があった。
千日手とは、将棋の対局において同じ局面が繰り返されることを指す。
冒頭には、『この物語は、終わりのない戦いを象徴するものである』とあった。男はその言葉に引き込まれさらに読み進めた。小説家を志す青年の物語だが、本は一章で終わっていた。続編が無いかと周りを探していると背後から声がした。
「お困りのようですな。私が塵埃を払ってさしあげましょう」
振り返ると通路のほの暗い場所に山高帽をかぶった老人が立っていた。老人の容姿から男は、まるでこの書店の一部でもあるかのような煤けた感じを受けた。
「あなたは」
おずおずと尋ねた。
「私ですか、お気づきになりませんか」
その言葉に、男は老人の顔をじっと見つめた。すると老人は左頬をひきつらせ妙笑を浮かべた。
「あなたは……」
言葉が喉に詰まった。
「私はこの書店の守護者です。ここで繰り返される物語を見守っているのです、終わりのない物語をね。あなたもその物語の一部です」
男は何も言えなかった。ただ、老人の目の奥にある深い闇を見つけることはできた。
「私がここにあなたを招待したのですよ」
老人が言い終わると書店の扉が音もなく閉じた。外の世界との繋がりが断たれ、男はこの場所に囚われたのだ。
「一章は読み上げたのでしょ、さあ、物語を続けましょう」
老人はそう言って男に本を差し出した。
男は震える手でそれを受け取り、ページをめくった。そこには新たな章が始まっていた。第二章 は「千日手の男とその後継者」と題されている。しかし白紙があるだけだった。
「後継者……」
「はい、あなたは私の息子なのです、私があなたを創造した」
「おとう……さん?」
「そうです。何を隠そう私がこの物語の執者なのですから。さあ一緒に物語を紡いでいきましょう」
「しかし、千日手では袋小路だ」
「その通り、もの書きなどは皆その繰り返しです、都度、駒を並べ直すのです」
「なんだか空しいですね、漂白を行くようで」
「そうですか。なんなら、主役を降りても良いのですよ」

――――――――――――

次のお題
「蝿」「人柱」「窓」
課題
「季節感を出す」

よろしくお願いします。

sp49-98-13-85.msb.spmode.ne.jp

誤字発見
漂白→漂泊
失礼しました。

sp49-98-15-247.msb.spmode.ne.jp

《言い訳》
最後の一文
『主役を降りても良いのですよ』
は、投稿ギリギリまで
『投了しても良いのですよ』
と迷ったことをお伝えしておかなければいけません。
後者にすると世界観を損なうようでやめました。

夜の雨
ai200235.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

ゐさんの『とにかく二人は出会ったのだ』の感想です。

お題 「支持率、猛獣、症状」
課題 「再会」

ホームレスと紳士が偶然出会った、それを偶然見ていた主人公の「私」と言ったところでしょうか。
だとしたら課題の「再会」とは違うような気がするので、「ホームレスと紳士」の二人はお互いに知らなかったが、「私」はこの二人が以前「出会っていたことを知っていた」。
という流れにするとある意味「再会」だし、他人同士の偶然を赤の他人の主人公だけが知っていたという面白さがあるかも。
人生って一歩間違える『他人同士の知らなかった、再会』で「幸福にも不幸にもなる」というお話。

お疲れさまでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

凪さんの『千日手の男』の感想です。

お題「千日手」「埃」「息子」
課題「語り手が犯人」

なかなか雰囲気がある作品でした。
文体と内容が合っていました。
>「私がここにあなたを招待したのですよ」<
このセリフの内容に、主人公が最近読んだ小説を関連させておくとよいかも。
その小説にこの古書店に近い情報がエピソードで擦りこまれていた。
なので、主人公は気になって探し求めて古書店に誘い込まれ、出られなくなった。

ラストのセリフ「そうですか。なんなら、主役を降りても良いのですよ」
もよかったです。
主役を降りたらとんでもないことになるか、それともそのあとの人生を後悔するのか。

お疲れさまでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私の作品です。

お題 「蝿」「人柱」「窓」
課題 「季節感を出す」

『革命家と蠅』

ラコッタは鉄格子を手で握り、その窓から広場にある人柱を見ていた。
2週間前に処刑されたまま人柱の少女は降ろされずに磔(はりつけ)にされたままだ。
処刑された当日は広場に大勢の庶民が集まりジョアンナを助けてやれとか、まだほんの子供じゃないか、16の子供だろう。見せしめにするのもええ加減にしろなどと奇声をあげていたが、銃剣をもった兵士が発砲するとたちどころに庶民の輪はくずれた。
「ジョアンナ許してくれふがいない父さんを。おれが革命を叫んで国民をまとめようとしたからお前は犠牲になった。お前には何の落ち度もない……」

「おい、飯だぞ」という声が背後で聞こえた。
ラコッタは振り向きもせずに人柱になった娘のジョアンナを見続ける、彼女は16歳で殺されている。
「ははは、そこからはよく見えるだろう広場の処刑場所が。あの人柱はお前の娘だよな、かわいそうに。お前さえ革命ごっこをしていなければ、娘は幸せな人生を送れていたものを、何しろあの美貌の持ち主だからな、まったくおしいぜ。まあ、おまえがいつまでも嘆き悲しむようにと、ここから見える場所で娘が処刑されたわけだ」
「もうよさないか、あんたはそれでも人間か」と、振り向きもせずに声をあげた。
「ああ、悪い悪い、さっきバクチで大負けしたものでな、許せよ。そういえば先日近くで人柱を見ると、お前の娘は腐っていてな、蛆が湧き蠅がたかっていた。かなりの悪臭を放っていたぜ。何しろこの気候だからな暑くてやりきれん。あまりの悪臭にカラスも近寄らん」
 太陽が天上に登り広場の背景には、ひまわりが黄色い大輪を咲かせていた。
ラコッタは娘が幼いころにあのひまわり畑でかくれんぼをしたことがあったが、「パパ、パパ」と泣きながら探している声が聞こえ、ラコッタはその声に『ここにいるよ』とすぐに顔を出したものだった。
可愛かった、美しかった娘のジョアンナ、その彼女が腐って蠅がたかっているって。蛆虫が湧いているって、想像すると胸が押しつぶされそうだった。
鉄格子から手を離してふり向くとそこには看守はいなくて、鉄の皿に飯が盛ってあった。小魚の焼いたのと具のないスープの皿がある。
家族で食事をしていた時の風景が目に浮かび涙が出た。
妻は行方不明になっているらしいが、森にでも連れていかれて暴行を受けているのかもしれない。
そんなことを考えながら鉄の皿とスプーンを手に持った。
鉄格子の窓からブ~ンと羽音を立てながら蠅が入ってくると、飯の上に留まった。
ラコッタはその蠅をじっと見て「ジョアンナ……ゆっくりとお食べ。人柱として磔にされたままで、さぞ、おなかが減っただろうに……」
すると蠅はしばらくのあいだ飯の上で手足を擦っていたが羽音をさせてラコッタの耳元にやってくると「心配するな、広場で磔にされているのはあんたの娘さんではない、人形に豚の血を塗りたくったものだ」と言った。
「なんだって?」
「あんたの娘は母親と森を抜けて隣国へ逃げおおせたよ。そこで王子に見初められて、お城で、母親ともども幸せに暮らしている」
「嘘だろう、処刑の日に群衆が騒いでいたではないか。あの騒ぎでジョアンナと俺の娘の名前を呼ぶものさえいた。俺は確かに聞いたぞ」
「あの群衆の一部はお前の天敵である王族が雇ったものだ。おまえは彼らの演出にまんまと騙されたのだ」
「そうなのか、よかった。それじゃあ俺の妻と娘は無事に隣国へと逃げおおせたわけだ。だったら、隣国が軍隊を編成して俺を助けに来るとかの話はないのか」
「そんな話はない。あんたの嫁も娘も幸せの絶頂だからあんたの事なんか忘れているぜ」
「なんだと、このやろう」
ラコッタは怒り狂って蠅を両の掌で叩き潰した。


了。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次のお題
「愛情」「チューナーレスTV」「呼び鈴」
課題
「狸を主人公にする」


それではよろしくお願いします。

夜の雨
ai193224.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

『革命家と蠅』の感想です。
わりとしっかり物語を創ったのではないのかと。
広場に磔にされている娘か人形かにたかっていた蠅がラストで叩き潰されるところのオチが決まりました。
それにしても人間の怖さがといったところでしょうか。

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私の作品です。

お題
「愛情」「チューナーレスTV」「呼び鈴」
課題
「狸を主人公にする」


雑木林の中に一軒家というか掘っ建て小屋が、周囲の森に溶け込むようにあった。
木の板をペシペシと張り巡らし雨風はしのげるような作り。
森の獣たちは興味津々で近くをうろうろしていたが、そのうち忘れられた存在になっていった。

だが狸はほかの獣たちとは違っていた。
家の周囲にある板の節穴に目ん玉を押し付けると、じっと中の様子をうかがった。
中には老人がいて、一人で歌を唄っている。
へたくそな歌だったが、哀愁を誘う。狸も思わず口ずさんだ。
哀愁の町に霧が降る~♪ と唄う。
なかなかのもんだな……。
どうも老人はカラオケというハイカラな楽団をもっていて、唄っているらしい。
タヌキは毎日のように老人の小屋を節穴から窺っては老人の歌を真似て口ずさんでいたが。
とうとう自分もカラオケを唄いたくなって呼び鈴の代わりに戸を叩いた。
コンコン!
「なんだべな?」と老人は疑いもせずに戸を開けた。
「国営テレビです、テレビをお持ちのようで集金に来ました」
「はぁ、テレビなぞ、持っていないが」
そこにある大きな画面がある機械はテレビという魔法のガラス板ではありませんかね」
「ああ、あれは『チューナーレスTV』といって、国営テレビなどは観られないんだ」
「それはどうも失礼しました」狸は集金などはどうでもよかったのでというか、カラオケで遊びたいだけだったので笑ってごまかした。
「せっかく遠いところからやってきたのだから、お茶でも一杯飲んでいったらどうかね」
狸は待ってましたとばかりに、小屋の中に入った。
壁を見て驚く。
アイドルのポスターがところ狭しと張ってある。節穴から見たときには興味はなかったが、まじかで見ると興奮する。
「これはいいですね、なんか気持ちが昂るよ」
「あはは、どの女の子が好みじゃ」
狸は「七変化狸御殿」のポスターを指さした。
「おおこれは……、美空ひばりという天才歌手の映画だよ」
狸は喜んで、それからは毎日のように老人の小屋を訪れた。
老人も寂しかったのか濁酒(どぶろく)を用意して狸を歓迎した。
そのうち狐やらイタチも参加して毎日ドンジャン騒ぎ。
すると老人が蓄えていた濁酒も無くなってしまった。
しかし狸と狐が瓢箪(ひょうたん)に酒を入れたものを持参するようになりコップ酒でうめぇうめぇと飲んだ。
「あらぁ、えっさっさぁ~♪」
いつの間にか部屋中に張ってあるポスターから美人がわんさかと出て来て獣たちとチークダンスを踊り出す。
老人は喜んでわしにも若いころがあってのう、愛情をそそいだおなごもいっぱいいたよ」
そういうと狸や狐が笑った。
「いやいや、愛情を注ぐのは一人だけにしておいたほうがよかったのじゃないの」
「うんだうんだ」周囲の獣やらポスターから出てきた美人がうなずいた。
瓢箪の酒が無くなると「ちょっくら酒を用意してくるわ」と小屋から出ると雑木林の陰で小便を瓢箪に注いだ。
「よしよし」そういって狸は老人やポスターから出てきた妖怪変化が待つ小屋に戻っていった。


了。


次のお題と課題。

お題 口笛、やかん、人工知能
課題 宇宙人が登場するエピソードを入れる。

よろしく。

夜の雨
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「三語即興文」です。

『狸と老人』の感想です。
お題「愛情」「チューナーレスTV」「呼び鈴」
課題「狸を主人公にする」
自分の作品の感想ばかり書いていますが(笑)。

山の中にある小屋の節穴から覗くとカラオケを楽しんでいる老人がいて、自分も楽しみたいと「話を作って」小屋の中に入り込み、カラオケを楽しむことに成功する狸。
そのうち山の獣たちも含めて人間も獣も、みんな兄弟というような流れです。
後半では小屋の中の壁に貼ってあるポスターの美女までが出て来て「あらぁ、えっさっさ」状態。
カラオケを唄ったりで楽しい時間を過ごし酒も入り、というような展開で……。
こんなことをやっているので、とんでもないラストが待ち受けている。

「三語即興文」は何でもできるからいいよね。

●みなさんも「三語即興文」に参加して、どんどんぶっ飛んだ作品を作ってください。

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それでは、私の作品です。

お題 口笛、やかん、人工知能
課題 宇宙人が登場するエピソードを入れる。

『恋人』

 黒い山肌を這うように曲がりくねる観光道路の表面が白く染まり始めた。昼すぎからチラついていた小雪が本降りになる。蝦夷松(エゾマツ)の黒い樹林が次第に雪の霞に覆われて、墨絵の世界が広がっていく。
「なぁ容子、君の家族は僕を受け入れてくれるだろうか」
「大丈夫よ、外見からだとわからないのだから」
「たしかに……」
ワイパーがフロントウインドウの雪をかきわけるのがだんだんと速くなる。
「今頃お父さんは囲炉裏に薪をくべているわ。あなたが来るのを楽しみにしているはずよ」
車は雪に覆われた山と山のあいだを走り抜け、町を駆け抜けた。
やがて、田畑のあいだの道路を速度を落としながら、茅葺屋根の一軒家の前にクルーザーを停めた。
二人して車から降りると容子が玄関先に立ち、戸に手をかけた。鍵はかかっておらずするすると開いた。
「ただいまぁ~」と容子が明るい声で呼びかける。
廊下をやってきた容子の母が「お帰り、待っていたよ。東京の方は大変だったでしょう」と言いながら、隣に立っている青年をちらりと見て頭を下げる。
「俊彦さんよ」と容子が紹介する。
ボストンバックを持った俊彦は容子の母に笑顔を向けた。
家の中に通されると父は大型画面のテレビを観ていた。
「よう無事に帰ってこれたな」と険しい顔をする。
「車の中では彼をお父さんにあわすときのことを考えていたから、スマホは見ていなかったの」
「東京で展開していた自衛隊は壊滅したらしい」とテレビの方を見る。
テレビ画面には焦土化した東京のあちらこちらで火と煙がくすぶっていたりする。
壊れた車や焦げて動かない死体がごろごろ転がっているのが見える。
「それにしても宇宙人はとんでもない奴らだな。目の前にいたら猟銃でぶち殺してやる!」
囲炉裏端のやかんが蒸気をあげていた。
容子は「お父さん、怖いこと言わないでよ」と苦笑いする。
「いや、マジだ!」と肩をゆすって立ち上がると、隣部屋に行き猟銃をとってきて座る。
食事のだんどりをしていたのか母が部屋に入ってきた。
「あなた、頼もしいわよ。宇宙人が現れたら遠慮しなくていいのよ。家族を守るためだもの」
俊彦は気まずそうに口笛を吹きつつ、部屋の中を見回した。
そこに犬が入ってきた。
柴犬だが妙になれなれしい、俊彦のそばに行き鼻面を押し付けて匂いを嗅いでいる。
「ああ、そいつはロボット犬なんだ、優秀な人工知能が入っていて自分で状況を判断するらしい」
「なあ、タロウ」とロボット犬の名前を呼ぶと「ワン」と吠えた。
「なら、安心ですね、私が宇宙人だとはばれないよなぁ」と俊彦は笑った。
「そうかそうか」と父親は笑いながら猟銃を手元に引き寄せた。

 了。

次のお題と課題

お題
アルバイト、宮沢賢治、画家
課題
人生を思わせるようなエピソード


それではよろしくお願いします。

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「三語即興文です」

『恋人』の感想

東京が宇宙人によって壊滅させられた設定や、最後に父が笑いながら猟銃を手にしたところで締めたのは良かったのですが、なぜ容子は宇宙人を夫にしようとしたのか、疑問が残りました。宇宙人もそれぞれ性格が違うとか、そういう設定も加えたら良いと思います。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私の作品

お題
アルバイト、宮沢賢治、画家
課題
人生を思わせるようなエピソード


『一夜にして』


涙色の山肌をつたう、九十九折が白く何かを訴え始めた。夜半から大雪警報が発令されていたが待てど待てど一向に降る気配もないので、とうとうしびれをきらしてしまったのだろうか。しかしこのナレーションは何だ、と私は夢の中でぼやき始めた。視覚情報と言語体系が繋がっていないのは今に始まったわけではないが、山肌は褐色、九十九折は真っ黒ではないか。おそらく、いや、あの毎日のように鳴らされる三振率の非常に高い地震警報が夢の中まで侵食しだしたに違いない、としたら大変だ。いまや小雪がチラつき始め、とのナレーションを挟み、あっという間に吹雪となったからだ。目覚めるときはいつもそうだが、映像は動きをじょじょに止めパンフォーカスの静止画に切り替わり、蝦夷松の樹林が次第に雪の霞に覆われ葛飾北斎の水墨画のように滲んでゆくところでアラームではない音がずいぶん前から聴覚に響いていることに気づき、古アパートの四方の部屋から輪唱となって身体を揺らしてきたときにはもう遅かった、宮沢賢治に触発されていたせいか謎の自己犠牲精神が走り隣の老婆を救いに行ってしまったときにアパートもろとも崩壊してしまったのだ……と三途の川を渡りながら涙を流す私は、円安増税、物価高に備えて休みの日もアルバイトを入れ貯金に明け暮れていた日々を、奪衣婆や懸衣翁にその金をちょびちょび支払いながら後悔もしていた。了


次のお題と課題

お題
煙草、誕生日、即興
課題
人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる


よろしくお願いします。

夜の雨
ai193205.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

「ゐ」さんの作品の感想からです。
お題 アルバイト、宮沢賢治、画家
課題 人生を思わせるようなエピソード

『一夜にして』

主人公が入居しているアパートが大雪の重みでつぶれたという事ですが。
隣の老婆を助けにいったのが宮沢賢治の思想に関係しているとかは結構深いと思いました。
三途の川を渡りながら生活苦の原因を並べるあたりはよいですね。
もう少し長くするとよいかも。
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私の作品です。
お題  煙草、誕生日、即興
課題  人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる


『人生の重み』

缶ビールをコップに入れると細かい泡がはじけてやがて消えるのははかない人生に似ている。
誕生日を迎えたおまえは先日会社を定年退職した。その日に妻から離婚を言い渡された。おまえは残った人生何をなすべきかと考える。
そうだとおまえは思う。
旅行はどうだろうか、いや旅に出るのもよかろう。
そうすると、どこがよいかなとおまえは思う……。
やはり高齢になってからの旅となると深い思い出になるであろう、三途の川あたりはどうだろうかと、頭によぎる。
三途の川を渡ると昔の知り合いが何人かいる。
わたしもそんな年齢かとおまえは苦笑いして煙草をくわえ火をつける。
煙草を持つ手が小刻みに震えるのは人生をあいつらのために酷使した証だ。おまえは自分の子供と女房の顔を思い浮かべながら、ゆっくりと肺から煙を吐き出す。

ちょっと待てよとわたしは考えた。
旅の行き先を三途の川などにしたら帰ってこられなくなるのでは、それはまずい。
わたしはコップのビールを一気に飲み、電子レンジで温めた焼き鳥の串を掴んで食べる。
「うめぇ~」まさに生きているという実感がわく。
やはりこれだよな、生きている証は。
さて、旅で三途の川に行きどうやって戻るかだな、そこまで考えてから行かなければ。

おまえは三途の川からどうやって戻るかを考えようとしたが所詮は人間。神様でも仏様でもないおまえに死後の世界から帰還する方法などわかるはずがない。
とりあえず死んでみたらどうだと、おまえの耳元でささやいてやった。

もう酔ったのか、誰かが耳元でささやいたような気がしたが。わたしは部屋の中を見回してみた。もちろん誰もいない、空耳か、私も年だな……。人生の終末が近づいているのか。
ビールが無くなったので冷蔵庫から缶酎ハイを取り出してきてタップルを取りそのまま飲んだ。
「うめぇ~、これが人生だ。死んで花実が咲くものかぁと来たもんだ!」マグロの刺身にワサビ醤油をつけて口に放り込む。
「いけるなぁ~マグロの刺身と缶酎ハイ、バッチリだぜ、うはははは」思わず笑い声が出てしまったところを見るとわたしは一人芝居をしているのかも。なにしろ勤続45年会社で働いて子供を育て女房に尻を叩かれてやっと楽になれると思ったところが、電話一本子供はよこさないし、女房は財産を半分よこせとかで離婚だし。なんかつまらんよな、あとは三途の川の旅ぐらいしか楽しみは。これじゃ、完全にわたしの人生は終わったようなもんだ。

おまえは能書きを垂れながらアルコールを飲んでいたがたどり着くところは三途の川だよな。
ははは、眠たのか……。
ねたのか……。
ネタノカ……。
俺はじっとおまえの顔を覗き込んだ。
ありゃま、息をしていない。
死んじゃったのか。
ははは、おい、死んじゃったのか。
俺の出番か、仕事だな三途の川へと連れて行かなければな。

背後から見ていると、死神は神妙な顔をして亡くなった高齢の男の身体をチェックをし始めた。

だれだ、背中から気配がするが、俺が振り向くとそこには仏様がたたずんでいた。
「死神よ、結構丁重に仕事をするではないか」
「なんかその言い方だとふだんは即興で死人を三途の川へ運んでいるみたいに聞こえますぞ」
「なあ死神よ、人生って重いよなぁ」
「たしかにこの男は、働きづめでやっと仕事を終えたと思ったらアルコールを飲みすぎて心臓マヒを起こしたらしいですが、何か楽しいことでも人生であったのですかね」

死神と仏様は亡くなった男にゆっくりと手を合わせて肉体から離れた魂を連れて冥界へと向かった。


了。


>人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる<
これがむつかしかった、というか意味が理解できなかった。
それで死神を使った「おまえ視点」の「二人称」と主人公の「わたし視点」の「一人称」最後に仏様からの三人称視点を混合させてみました。
ひとつの物語の中に「三つの視点」を使いましたが。
「視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる」これができていたのかは、わかりません。


ということで、次の課題も同じでよろしく。

お題
納豆、サソリ、不倫
課題
人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる

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「三語即興文」です。
今回は夜の雨さんに遅れをとりました。

ゐさんの『一夜にして』は、今晩屋さんの情景描写から捻ってますね。「雪国」のテイストを混ぜ混むあたり、ニヤッとしてしまいました。

夜の雨さんは、予想通り二人称を描いてきましたね。面白かったです。
一応つけ合わせ程度に私のも載せておきます。

お題  煙草、誕生日、即興
課題  人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる


『曖昧な記憶』

「昨日は僕の誕生日だった、いや、正確には一昨日だったっけかな、時間の感覚がちょっと曖昧でね、もしかしたらそれはただの錯覚だったのかもしれない」
「そうですか、それで?」
「結局、僕の誕生日がどう過ぎたのか、誰が来たのか、何が本当だったのか、すべてが曖昧で、掴みどころがないんだ」
「もう少し話してください」
「即興で誕生パーティーをしようと言っていたが、実際に来たのは誰だったのか……ジョンは確かに来ていた、フランクも居たような気がする、あのケーキの味は最高だった」
「では、誕生日会は実施されたのですね」
「その日は煙草をふかしていた、煙草の煙は部屋中に漂っていた、誰かにもらった特別な煙草だよ、それは普通の煙草とは違ってやたらと甘い香りがした、その煙草を吸った後、友人たちが笑っている声が聞こえたが、幻聴だったのかもしれない」
「誕生会は、実はマリファナパーティーだったのではないですか?」
「ああ、頭が痛い、痛いよっ!」
「君……」
「ドクター、手術の準備はととのっています。すぐにでも」
「しかし、まだ手立てが……」
「仕方がありません。これだけ頻度の高い症例は初めてです」
「……出来れば避けたかった」

「あぁ全ての記憶が鮮明に蘇った!」
「なんと」
「気が付いたんだ。頭の中の同居人の誕生日なんて知らないし、誰も煙草を吸ったことなど一度もなかった、私はエディだ、あのローストチキンの味も、最高だった」

「ドクター、これ以上は無理でしょう。ジョン氏の、ロボトミー手術の準備はととのっております」



ということで、次は夜の雨さんのお題でよろしくお願いいたします。

お題
納豆、サソリ、不倫
課題
人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる

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夜の雨さん『人生の重み』の感想です。

*取り急ぎ、夜の雨さんの感想のみになります。

前置きとして、人称ないしは視点のゆらぎという分かりにくいことを説明するために、下記の文を引用します。

「みんなが雨の音を聞いていた。/シャチにも聞こえてるかな。水の中にいるシャチにはわからへんかな。こんなにええ音やのに。でも聞こえてるな。(1行アキ)シャチにも聞こえていた」。
山下澄人『コルバトントリ』から引用

こういった、あれっと思う文章を、ゆらぎと私は表現しています。ただ、ゆらぎとはあくまでも数多くの小説と比較しての表現であって、ゆらぎはあっても小説は十分に成立することを山下澄人さんは証明しています(上の文章も成立している)。本来、小説とは、作者、語り手、作中人物、時間軸などを含んだ複雑な構造をなしているもので、「私は昨日学校に行った」と書いても、そこには「私」を俯瞰している「私」がいて、純粋な一人称とは言えない、つまり、ゆらぎが生じないほうがおかしいといったほうが適切なのかもしれません。

さて、本題に入ります。
『人生の重み』
御作は非常に工夫をこらしてありました。ただ、初読では、人称のゆらぎとはちょっと違うかなと思いました。
何故ならば御作、人称ミックス(一人称・二人称・三人称)と見せかけておいて、
おまえ(わたし)→男(わたし)
俺→死神(俺)
と変換して読むと、三人称多視点となるからです。
ところが下記の文、加筆しないと成り立たないことに気がつきました。

>とりあえず死んでみたらどうだと、おまえの耳元でささやいてやった。

とりあえず死んでみたらどうだと、男の耳元で"死神は"ささやいてやった。

>おまえは能書きを垂れながらアルコールを飲んでいたがたどり着くところは三途の川だよな。

男は能書きを垂れながらアルコールを飲んでいたがたどり着くところは三途の川だよな"と死神は思った"。

この二つの文において(従前の文)、人称代名詞を置き換えるだけでは三人称小説に直すことは微妙に難しく、人称ないしは視点のゆらぎが(少しではありますが)生じていると、私は思いました。

改めて簡略化すると、死神の一人称と男の一人称(死神視点では二人称となる)が並行的に綴られ更に仏様の一人称が加わり(ここまでは一人称多視点)、最後は三人称となる。
言い換えると、死神の視点と男の視点に仏様の視点が加わり、最後は俯瞰的視点となる。


夜の雨さん、私の勝手な無理難題に付き合ってくださり、ありがとうございました。

お疲れ様です。

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凪さん『曖昧な記憶』の感想です。

「私はエディだ、」と言っている人物の頭がおかしいだけ、というふうにしか捉えられず、ゆらぎは感じられませんでした。信頼のおけない語り手に属するものでしょうか。
今回は申し訳ないですが、夜の雨さんに軍配を上げさせて頂きます。
とはいえ、ご参加頂きありがとうございます。
お疲れ様でした。

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私の作品

お題
納豆、サソリ、不倫
課題
人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる



『逃避』

雨が降っていたが関係なかった。雨は其れを許さないらしい。走りだしてから間も無く靴を履いていないことにも気がついたがそれも関係なかった。玄関先で妻は其れに気づいていたが関係なかった。橋を渡り近くの公園まで走り、目の前に、普段はブランコがある場所に池がとってかわって現れた。頭上、はるか上空で灰白色の雲の間を縫ってドローンが絶え間なく監視している。朝食べた納豆ご飯と卵焼きの味がまだ舌に感じられる。まだあそこまでは良かった。問題は食器を運んだあとだ。大量のサソリがシンクに現れた。疑念が生じている妻の不倫問題よりも現実的かつ切実な問題だった。実際に見たのは初めてかもしれないが、あれはサソリとしか言えないようなサソリだった。ザ、サソリ。舌を舐めまわし卵焼きの最後の余韻を味わっていたら遠くの山の雑木林の中で鶏が卵を産み落とした。蛇に狙われぬよう鶏は用心深く周りを見渡す。池の水面を打つ雨粒がアメンボの激しめのダンスように見えているのは私だけではないはずで、当然深くから水面を見上げる鯉や鱒も気になって仕方がなかった。気にならない鯉は生殖行為に集中していた。突然ぬらりと顔をのぞかせた太々しい鯉は私ではなくドローンに興味があったが自分の視力では確認すらできない。背後でどんどん増水していく川の轟音に恐怖を感じた私は突き動かされるように再び走り出した。突き当たり、T字路の左側から幼なじみの健吾も走ってきていた。このままではぶつかってしまうと思い、走るのをやめたとたん、健吾も同じことを考えていて二人とも立ち往生してしまった。なんせ逃げ出してきた二人だ、出会ってしまったら面倒になるに違いない。この梅雨の長雨がやむまでの二日と四時間少々をどうしようかと途方に暮れている二人をドローンは流石に見逃さなかった。了


次のお題
夕刊、遊撃手、風呂敷
課題
早朝を舞台にして書く

よろしくお願いします。

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これって勝敗をつけられてしまうんですか?
伝言板を見て場を盛り上げようと、軽い気持ちで書いたらなんだか地雷を踏んだ気分です。

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軽い気持ちで軍配を上げたらなんだか地雷を踏んだ気分です。まさか私の主観による勝ち負けが凪さんにとってそこまで重要だとは思いませんでした。

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最初から勝負するつもりはありませんよ。賑やかしです。
>一応つけ合わせ程度に私のも載せておきます。
と書いてあります。
ゐさんの伝言板に応えてあげただけでした。
>私の主観による勝ち負けが凪さんにとってそこまで重要だとは思いませんでした。
意地が悪いですね。

夜の雨
ai203228.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

「三語即興文」は勝負をするために書いているのではありません。
>第一目的は文章と発想の瞬発力、及びショートショートの構成鍛練です。<
というルールがあります。


凪さんの作品の感想から。
お題  煙草、誕生日、即興
課題  人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる

『曖昧な記憶』

ネタはよいのですがね。
精神障害の患者から話を展開させているので、課題の「人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる」には、もってこいのネタだと思いました。
しかしあまりにも正攻法で話を作り、視点等の「ゆらぎ」が描かれていなかったですね。
ドクターが獣医で猿の前頭葉を手術したことはあるという業界紙の記事でも挟めば面白くなるかも。または猿のドクターだったとか。


ゐさんの『逃避』の感想です。

お題 納豆、サソリ、不倫
課題 人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる

● 課題になっている「人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる」の説明だと「物語というか、話の設定部分のエピソードに違和感があるようにすればよいわけですね。
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「みんなが雨の音を聞いていた。/シャチにも聞こえてるかな。水の中にいるシャチにはわからへんかな。こんなにええ音やのに。でも聞こえてるな。(1行アキ)シャチにも聞こえていた」。
山下澄人『コルバトントリ』から引用
ーーーーーーーーーー
ここでは「シャチにも聞こえていた」ということで、海中深くにいるシャチに聞こえるはずがない雨音が聞こえていたという設定になっているので。
一見問題がありそうな文章ですが、物語の流れから「違和感がない文章」になって、というか、こういった陸地での雨音が深海にいるシャチに聞こえているというところが面白いのでは。
童話とかファンタジーの世界にありそうです。

で、御作ですが、
>舌を舐めまわし卵焼きの最後の余韻を味わっていたら遠くの山の雑木林の中で鶏が卵を産み落とした。蛇に狙われぬよう鶏は用心深く周りを見渡す。<
この文章が一番「視点の揺らぎではわかりやすい」。
卵焼きを味わっている主人公には遠くの地にいる鶏の行動はわからないですよね。
「舌を舐めまわし」って妖怪ですか(W)。相手がいての舌なら普通ですが。

>この梅雨の長雨がやむまでの二日と四時間少々をどうしようか<
この雨がやむまでの時間も確実にわかる事はないので違和感を感じますが、これも「視点のゆらぎ」という解釈だとそれほど問題があるとは思えない。
御作は「主人公」と「幼なじみの健吾」が逃げ出したということでそれをドローンが上空から追っていたというお話ですね。
何が原因かは描かれてはいませんが。

ということで、「人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる」という意味が分かりました。


感想等が長くなりましたので、私の作品と分けて投稿します。

夜の雨
ai192019.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

私の作品です。

お題 夕刊、遊撃手、風呂敷
課題 早朝を舞台にして書く


『谷崎先生』

谷崎の屋敷には結構な庭があり彼は徹夜で文筆活動をしたときなどはそこでラジオ体操をして眠気を飛ばしている。
垣根の向こうを新聞配達の少年が通りがかり「おはようございます」と垣根越しに谷崎へと朝刊を手渡しした。
「おはよう」と谷崎も機嫌よく笑顔で挨拶をしたいところだがあいにく書き上げた小説で登場人物たちがうまく立ち回ってくれなくてむっつりとしていた。
「先生、阪神が巨人に勝ちましたよ、朝刊には阪神の特集があります」
そうすると谷崎は両手を広げ「ぶ~ん」と庭を飛んでいる戦闘機の真似をして、遊撃手が機銃掃射のごとくに「ダダダダダーー!」と声をあげた。
少年は「やられたぁ!」と叫ぶとそのまま走っていった。
その後ろ姿を見送った谷崎は、満足気に「さて、原稿を風呂敷に包んで午前中に出版社へ届けるか、『徹夜で書いたと言って、あくびの一つもすれば』あんがい編集の川端は気に入るかもしれないぞ」
機嫌を直した谷崎は居間に戻り、昨夜の夕刊に目を通して論評に自分のことが書いてあるのを見て読むと「あほか……」と言葉少な気に笑った。
「パパ、食事ができましたよ」いつの間に来たのか少女のような妻の奈緒美が笑顔で谷崎を見ていた。
「よっこらしょ」と谷崎は夕刊をおいて立ち上がろうとしたがふらつき奈緒美に抱き着いたので「いいこいいこ」と奈緒美に頭を撫でられた。
それをよいことに谷崎は奈緒美から離れようとはしない。

了。

次のお題と課題

お題 遺伝子、芸能人、生意気
課題 失言の顛末を描く

よろしくお願いします。

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>しかしあまりにも正攻法で話を作り、視点等の「ゆらぎ」が描かれていなかったですね。

確かに、投稿してから書き方が弱かった(これでは伝わらないな)と思い、すぐに推敲したのですがこちらにはアップしませんでした。が、せっかくですから載せておきます。

『曖昧な記憶(推敲後)』

「昨日は僕の誕生日だった、いや、正確には一昨日だったっけかな、時間の感覚がちょっと曖昧でね、もしかしたらそれはただの錯覚だったのかもしれない」
「そうですか、それで?」
「結局、僕の誕生日がどう過ぎたのか、誰が来たのか、何が本当だったのか、すべてが曖昧で、掴みどころがないんだ」
「もう少し話してください」
「私が即興で誕生パーティーをしようと言ったが、実際に来たのは誰だったのか……ジョンは確かに来ていた、フランクも居たような気がする、あのケーキの味は最高だった」
「では、誕生日会は実施されたのですね」
「俺は煙草をふかしていた、煙草の煙は部屋中に漂っていた、誰かにもらった特別な煙草だよ、それは普通の煙草とは違ってやたらと甘い香りがした、その煙草を吸った後、エディが笑っている声が聞こえたが、幻聴だったのかもしれない」
「誕生会は、実はマリファナパーティーだったのではないですか?」
「ああ、頭が痛い、痛いよっ!」
「君……」
「ドクター、準備はととのっております。すぐにでも」
「しかし、まだ手立てが……」
「仕方がありません。これだけ頻度の高い症例は初めてです」
「……出来れば避けたかった」

「あぁ、全ての記憶が鮮明に蘇った!」
「おお……」
「気が付いたんだ。頭の中の同居人の誕生日なんて知らないし、フランクは煙草を吸ったことなど一度もなかった、私はエディだ、あのローストチキンの味も、最高だった」
「うっ………」
「ドクター、やはりこれ以上は無理でしょう。ジョン氏の、ロボトミー手術を一刻も早く」

「三人の、人格……」


失礼しました。

夜の雨
ai224124.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

凪さんの作品の感想から。
『曖昧な記憶(推敲後)』読みました。

ラストの「三人の、人格……」ということで、作者が何を狙ったのかがわかりましたが。
推敲前の作品と読み比べてみてもラストの違いぐらいしかわかりません。
しかしこの「三人の、人格……」の一言で、御作が何であったのかがよくわかります。
で、御作は先の作品でも書きましたがネタはよいと思うのですよね。
それで推敲後の作品を読むとラストの一言で意味はよく伝わりましたが、それなら、どうして冒頭からオチまでの設定を面白くしないのだと思いましたが。

つまりネタは面白いので冒頭から「三人の、人格……」が入っている患者を前にして医療スタッフが対応を迷っている、という展開にすればよいと思うのですが。

そうすれば冒頭からラストまで面白くなる。

現状の御作はラストの一言で御作の意味がわかるように設定しました。
それまでは読んでいても面白いとは思えない。
なぜかというと、設定を読まされているからです。

御作を面白くするには冒頭から「三人の、人格……」が入っている患者を前にして対応に追われている医療スタッフにすればよい。

お疲れさまでした。

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私が書いた『谷崎先生』の感想です。
お題 夕刊、遊撃手、風呂敷
課題 早朝を舞台にして書く

これは書いていて面白かったですね。
エピソードを笑えるものにしたからかもしれない。
谷崎が登場人物の立ち回りが悪いと思っていても、
「さて、原稿を風呂敷に包んで午前中に出版社へ届けるか、『徹夜で書いたと言って、あくびの一つもすれば』あんがい編集の川端は気に入るかもしれないぞ」
と思うあたり、人間の面白みが出ているなぁと。
夕刊で自分のことが書いていある論評を読み「あほか……」と言葉少な気に笑った。
とか。
ラストも結構面白いのでは。
こちらの作品は短編にでもしたらよいかも。


私の作品です。
お題 遺伝子、芸能人、生意気
課題 失言の顛末を描く

『伝説の誕生』

ミューは美形の少女で歌などもそれなりにうまいのだがどうも生意気なのだ。
しかし周囲の大人たちは彼女に気を使ってというか父親が元アイドルで現在は大物の俳優だから引いてしまっている。
ネットなどでは彼女のことを裸の王様、いや裸の姫君とか言って笑いものにしていた。

ある日のこと歌番組で先輩歌手の吉田に「あんたが芸能人としてやっていけるのは父親の七光りだからだよ」と言われてしまったが。
「遺伝子が一流だからね私は」と返す始末である。
吉田は「あほかガキのくせして」と完全に上から目線で罵った。
そうするとミューの歌う順番が回って来て彼女は突然「〇〇を歌います」と、予定されていた持ち歌をうたうのではなくて吉田が若いころ歌って名をはせた名曲をあげた。

番組担当者は凍りついた。
生番組だったのでミューと吉田のやり取りが視聴者に筒抜けだったし、大御所にたてつくとち狂った生意気な親の七光りの歌手はつぶれるのかと。
吉田も手を叩き、笑いながら「やってみろよ」と険しい顔をした。
司会者がとんだハプニングだと焦ったが、指揮者が楽団を見回して指揮棒を振り上げた。
そして吉田が一世風靡した曲が流れだす。
ミューは物おじせずに歌う。
テレビカメラはミューの顔を表情を、そして吉田の顔を表情を見比べるように映し出す。
一番が終わり間奏に入ったときに吉田がミューのとなりに並んだ。
そして二番を歌い出した。
もちろんミューは吉田の意図を知り二番を歌うのを控えた。ミューは顔色一つ変えずにいや微笑みさえ浮かべていた。
そして三番は一緒に歌った。
歌い終わると、お互いに顔を見合わせた。
もちろん吉田も微笑んでいる、そしてミューも。
そのあとネット民は大騒ぎになった。
「さすがわミューだ」
「吉田もすごいじゃん」
こうして伝説が生まれた。


了。


次のお題と課題
お題、選挙、芋、素人
課題、文学を感じさせる

それではよろしくお願いします。

きさと
p97230-ipoefx.ipoe.ocn.ne.jp

夜の雨さん『伝説の誕生』の感想です。

楽団がいきなり演奏できたということは、一連のやり取りは予め決められた台本通りだった可能性もありますが、視聴者にとってはエンタメとして楽しめれば十分で、それが庶民的な「伝説」のあるべき姿なんでしょう。


お題、選挙、芋、素人
課題、文学を感じさせる

『美しい芋』

 その村は湾曲した芋すら獲れないほどに果てていたが、村人たちは喜んでいた。有名な例の海に沿って歩いて、向こうの小島が岩壁に隠れて見えなくなったところで左に曲がると少し先にある、新しい村である。地面は白く、周囲の広葉樹林は雄大で、人々は未熟だった。皆閉じた世界の一角にひっそりと生きるのが窮屈だったのである。したがって彼らは、精神的に完璧な解放を求めなければならなかった。村ぐるみの集団自殺である。多くの読者は、どうしてそんなことをするのか意味が分からない。しかし村人たちにとっては深刻な事情があり、我々は彼らの哀れなる意志を、それでも尊重してあげるしかないのである。
 ある木のほとりに座りこんだ二人の男女が、死ぬ前の会話を楽しんでいる。
「やったね。これで農作物は全滅したし、水は汚れに汚れて虫と菌がわいてる。餓死できるね」
 すっぴんの女が、低血糖で眠たい目を力みながら、臭い男に笑った。女も男も、今や服を洗う手段がなかったが、それでも最も汚れが少なくお洒落な服を選んで着ている。臭い男がすっぴんの女に土ぼこりをかけて笑った。
「村長選挙でダミさんを選んで正解だったよね。前の村長は村人全員で毒物を飲んで死のうとか言い出したけど、結局怖くて五、六人しか死ねなかったからね。でもこの方法なら、いくら怖くてももう死ぬしかない。ダミさんは偉いよ」
 臭い男はそう言ったようだが、息が絶え絶えでよくは聞こえなかった。すっぴんの女が男にかけられた土ぼこりを払って笑った。
「私たち、前はみんな自殺に関しては素人だったけど、ぐんぐん自殺のプロに近づいてる気がする。もし他の村に自殺したい人がいたら、やり方を教えに行ってあげようよ」
「そうだね。それから死のう」
「うん」
 男女は、ははは、ふふふ、ははは、ふふふ、と笑い合って、各々の今までの人生を思い出した。村の空は毎日清純で、特にこの日の昼の空は一層明るかった。ただし実際には、二人を含め村人の八割が数週間以内に餓死する運命が待っている。しかし我々はどうすることもできない。


次のお題……山・鉄・感情
課題……人間を含む生物を一切登場させない

よろしくお願いします。

fj168.net112140023.thn.ne.jp

きさとさん、『美しい芋』読みました。お題と課題は消化されていましたが、何を言いたいのかわからず、気持ちの悪い感覚だけが残りコメントの付けようがありません。という感想でした。すみません。


お題……山・鉄・感情
課題……人間を含む生物を一切登場させない


『沈黙の番人』

山の頂上にそびえる古びた鉄塔は、長い年月を経て、風雨にさらされながらも静かに立ち続けていた。鉄塔が自分の存在意義について考え始めたのはいつ頃からだったのか。かつては通信の要として重要な役割を果たしていた自分も、今では新しい技術に取って代わられ、役目を終えたかのようになって久しい。山の静寂の中で錆びついた体を感じながら、思い出すのは過去の栄光の日々ばかりだ。
ある夜、満月が山を照らし、鉄塔の影が長く伸びた。その影を見つめながら、鉄塔は自分が山の一部であり、山の風景に溶け込んでいることに気づいた。役目を終えたとしても、かたちあるものとして存在し続けることに意味があるのだと思った。単にそれが孤独を慰める言い訳に過ぎなかったとしても、確かに鉄塔は、山の静寂と共に新たな感情を抱き始めた。過去の栄光に囚われることなく、今この瞬間を受け入れるという感情だった。そう思えば思うほど、朽ちゆくこの錆び果てた体が愛おしく感じられた。
その日、激しい風と雷が山を襲った。鉄塔はその強風に耐えながらも、錆びついた体が軋む音を感じた。雷が鉄塔に直撃し、閃光と共に鉄塔は大きく揺れた。
翌朝、嵐が過ぎ去った後、山は再び静寂に包まれていた。しかし、鉄塔はその頂上から姿を消していた。嵐の力に耐えきれず、ついに倒れてしまったのだ。山の麓には鉄塔の一部が散らばっていた。その残骸の中には、かつての栄光を思い出させる一片が残っていた。それは鉄塔が通信の要として活躍していた頃の名残であり、今もなおその存在を証明していた。
プレートにはこう刻まれていた。

“Here is the Guardian God of the Mountains, Silent Sentinel, since 1940 by Tesla World system”

「山の守護神、サイレント・センチネルここにありき。1940年テスラワールドシステム製造」


次のお題「海月」「虹」「道化」
課題 未来の日本のすがた

夜の雨
ai202012.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

お二人の作品を読んでインパクトがあり驚きました、いやぁ三語即興文でもなかなか凄いものが書けるのだと。

きさとさんの作品の感想です。
お題、選挙、芋、素人
課題、文学を感じさせる

『美しい芋』

なかなか強烈ですね。
ちょっと毒の部分がきつすぎて、笑う作品なのか御作の闇の部分を探求する作品なのかしばらく考える必要があります。
しばらく考えても闇が深くて底が見えませんが。
一度希望が見えるところから、暗転するところがツボかも。

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凪さんの作品『沈黙の番人』の感想です。
お題……山・鉄・感情
課題……人間を含む生物を一切登場させない

本文の終わりに「英文」の文章があり、意味が深そうなので調べてみると「テスラワールドシステム」というのが、「ウォーデンクリフ・タワー」からとったものであるのではと思いました。
>アメリカ合衆国ニューヨーク州ロングアイランドのショアハムにかつて存在した高さ57メートルの電波塔である。1905年に電波による通信、送電の実験を目的として建設された。<
ニコラ・テスラ1856年7月10日 - 1943年1月7日)が建てた。
で、この電波塔は着工1901年、竣工1905年、で解体が1917年。
どうして解体されたかというと第一次世界大戦にアメリカが参戦すると攻撃の標的になるとされるのではということから。
御作では「1940年テスラワールドシステム製造」とあるので、これは「第一次世界大戦にアメリカが参戦」とするところを、第二次世界大戦に置き換えて話を作ったのだろうと思いました。
「1940年」は日本が終戦した年なので、原爆投下後のソ連とかの冷戦時代から第三次世界大戦への恐怖が背景にあるのかもしれません。

またネット検索では、
>サイレント・センティネルズ(自由の守護者)は、アリス・ポールと全米女性党が組織した、女性参政権を支持する2,000人以上の女性グループであり、 1917年1月10日からウッドロウ・ウィルソン大統領の任期中にホワイトハウス前で非暴力的な抗議活動を行った。約500人が逮捕され、168人が投獄された。<
ということも出てきましたので、鉄塔はかっての自由の守護者の役目をしていたのかもしれません。
しかしそのあと忘れられた存在になったという事でしょう。
そう読むと、御作は意味が深い作品では。

●結論
鉄塔はかっての自由の守護者の役目をしていたのだが、人間たちはその鉄塔の存在すら忘れてしまった。
●だから現在、世界は闇の淵で混沌としている。

●御作はもう少し背景部分を書き込むと、読み手をもっと楽しませることができると思います。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私の作品です。

お題「海月」「虹」「道化」
課題 未来の日本のすがた

『知られざるもの』

「電波塔の話を知っているか?」と小学生の孫に尋ねた。
「知っているよ、童話で読んだもん」と言って、死に蜘蛛という死神の話をする。
死者の魂の記憶にある愛する女をターゲットにする、二人称視点で書いた話だった。
死神の蜘蛛は最後に電波塔に登ってそこから風に乗り死者の記憶の底の女を探しにいく。
「違う違う、山の守護神、サイレントセンチネルの事だよ」と私は言う。
「それは知らないなぁ」と孫は言いながら水槽の海月をじっと見ている。
「凪という作家が書いた隠れた名作なんだ、ネットで探してごらん見つかるから」
「面白いの?」と言って道化の真似をした。
孫がふざけてピエロのまねごとをしているので彼にはまだ早いか『沈黙の番人』は、と思ったが、「ノーベル賞作家のナギが書いた『沈黙の番人』なら知っているよ、彼の掌編の一つだよ」と笑った。
「えっ? そうなの」と思い、日本では川端康成と大江健三郎、それにカズオ・イシグロのほかにいないと思ったので、外国の受賞者なのかと勉強不足の自分を笑った。
「『沈黙の番人』って、どんな掌編なの」とたずねると、作家でごはん! というサイトの『三語即興文』にあるよ」
そういいながら「雨はやんだみたい」と孫が窓を開けると、虹が出ていた。

未来の日本は、自由な発想をする子供たちのすがたに明るいのではと、七色の虹を見て私は微笑んだ。


了。

次のお題と課題。
お題、ナマズ、バッタ、女の子
課題、男の子の視点で。

それではよろしくお願いします。

夜の雨
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失礼しました第二次世界大戦の終戦は「1945年」です。

本文の感想は基本的には変わりません。

雨音
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「知られざるもの」拝読しました。
孫とすごい話ししてるなあと思って最初は読んでいたのですが、まさかの三語即興文に話しが持っていかれるとは思っていませんでした。最後はなんだかほっこりしますね。そんな本があるのかあと興味も持ったので今度読んでみたいと思います。

お題、ナマズ、バッタ、女の子
課題、男の子の視点で。

「ちいさな願い」

たったったった
「お〜い! みなみ〜! 遊びに行こーぜぇ!」
広い、田んぼのあぜ道を駆け抜けていく。
「おお、こけんなよぉ!坊主!」
「こけねえよ!」
「今日もげんきじゃなあ!」
「おう!山田んとこのおっちゃんもな!」
田んぼや畑で作業をしている人と言葉を交わしながら目的の畑へと向かう。
俺の声に、畑の手伝いをしていた美波が振り向く。タオルで汗を拭いながら笑顔を向けてくるその表情はとても爽やかだ。
「太陽! ちょっとまっててね! この茄子収穫したら行くから!」
「ああ!」
俺は周辺に広がる美しい緑のじゅうたんを眺める。風が吹いて、波のように動く田んぼを見て今年の米もうまくできるといいなと思う。
「おまたせ! いこっか」
「おお!」
俺と美波は昔から仲が良くて、よく一緒に遊んでいた。いわゆる幼馴染だ。
遊ぶとは言っても、ここはど居中なので、下にある河原に行って水遊びか畑や田んぼの周りをかけっこしたり、探検したりするのだ。
「今年のナス、大きいんだ!後で持ってってあげるよ!」
「マジ!? じゃあ俺は取れすぎて困っているトマトをやろう」
「もう…、トマトってどうしてそんなに取れちゃうんだろうね、取れすぎてみんな夏は毎日トマトが出るんだから」
「よかったな、これからしばらくはトマトにこまらねえぞ」
「もう十分だよ! まあ、太陽のとこのトマトは美味しいからいっか!」
そんな話をしながらあぜ道をゆっくり歩いていく。なにげに俺はこの時間が好きだったりする。ふと田んぼの方をみたら、田んぼの水の中にナマズがいるのを発見した。
今日は河原に行くことにした。
「ああ〜 きもちー」
川の水に足をつけて涼む。小さな魚がキラキラと光りで光ってきれいだ。
「わあ! くすぐったい!」
美波も白い足に小魚が集まってツンツンしている。こういう魚たちは白いものに集まってくるからよくあることだ。
「おまえ、畑仕事手伝ってるのになんでそんなに白いんだよ」
「日焼け止め!」
「それでも限界があるだろ」
「ううん、じゃあ体質だ!そういう太陽はすっかり焼けちゃったね!」
「うるせえ、こんくらいがちょうどいいんだよ!」

あぜ道をまた歩いていく。息とは違って、岩野の爺さんがいる広い田んぼの畦道を抜ける。
「あ、バッタ!」
「え!捕まえる!」
美波はバッと素早く動き、バッタをあっという間に捕まえてしまった。
「結構でけえな、」
「稲を食べに今年も来るかも!遠いとこにやそう」
「たった一匹じゃ変わんねえよ」

俺達は田舎ということもあり、小学校は汽車に乗って行っている。そこで驚いたのは、学校の女の子たちが虫嫌いということだ。たかだかハエくらいでキャーキャー言うし、バッタとかが入ってきたらそりゃあもう追い出してくれってうるさい。でもソレはソレで可愛いいと思う。頼りにされてちょっと嬉しいし、そこで女の子の救世主になるのはなんだか気持ちがいい。
だが、美波は。素手で余裕で掴むし、虫なんてどうってことない。そりゃ畑やってるんだから当然だ。でも、こいつにもそうやって頼ってもらってみてえなと小さく思う。
ポイッとバッタを遠いとこに移動させてきたらしい美波はたくましい。
「お前って強い女になりそうだよな」
白いのに、爽やかできれいなのに、どこかそういうたくましさがあって、俺は一生なんか、そういうことできない気がする。
「そう? そういう太陽は凛としたかっこいい人になりそうだよね!」
終えは顔がめちゃくちゃ暑くなるのを感じて、やっぱかまわねえと思った。


次のお題 「桃 サングラス おじいさん」
課題 「親友との絆」

雨音
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すみません訂正が
物語最後の一文 
終え → 俺
です。すみません

夜の雨
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「三語即興文」です。

雨音さんの感想から。

>お題、ナマズ、バッタ、女の子
>課題、男の子の視点で。

「ちいさな願い」

なんか朝ドラの冒頭みたいで好感が持てます。
田舎での少年と少女の物語がこれから始まりますよ、という感じ。
少年と少女の世界には田んぼとか小動物とかもいて、これから楽しいことが始まるというワクワク感がありました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私の作品です。
お題 「桃 サングラス おじいさん」
課題 「親友との絆」

桃太郎は鬼ヶ島での出来事以来、鬼と仲良くなった。
「まあ、この桃を食べてよ」と桃太郎は鬼に桃を勧める。
「いやぁ悪いなぁ、いつももらってばかりで」
「いや犬さんやキジさんは仲間だとは思うが、桃は食べないのでそれ以上の友情は芽生えないんだよ」
「でも、猿さんがいるんじゃないの」
「いや、近ごろは猿さんも不良になって」と、桃太郎は顎をしゃくる。
その向こうにはサングラスをかけた猿がタバコを吹かしていた。おまけに両脇にはかわいこちゃんをはびこらしている。
「なるほど、だったら、おじいさんに説教してもらったら、どうなの」
「だめだめ、鬼退治で自信をつけたのか、聞き耳を持たぬといったところなんだよ」
「わかった」と鬼は言うと、それじゃあ、座敷を一席もたしてもらうよ、という事になった。


桃太郎から鬼が座敷を一席もつという話を聞いた猿はそれはそれは喜んだ。
かわいこちゃんが「かっぽれかっぽれ」と唄い、猿は桶を持ち、腹を出して踊った。
「あらぁ、えっさっさ~」
徳利をもって真っ赤な顔の猿が尻まで真っ赤にして踊り狂っていた。
それを見ていた犬とキジが言った。
「去る者は追わず」
「えっ?」と、桃太郎が犬とキジを見て「猿ものは追わず?」
鬼が笑いながら言った。
「いいじゃないですか、去る者は追わずで。これからは桃太郎さんと犬さんとキジさん、それに鬼のわたし目がいっしょに悪者の退治に行きましょう。それがやがて伝説になり、むかし話やら童話になるのでは」
酒が入っている場である、新しい「親友との絆」は、チーム桃太郎になり、ここに結ばれた。

了。

次のお題と課題

お題 締め切り、京都、けもの
課題 歴史を感じさせる


それではよろしくお願いします。

謎に包まれたののあファンP
113x38x59x234.ap113.ftth.ucom.ne.jp

三語即興文であります。
「ちいさな願い」の感想から。
文章がしっかりしていて読みやすい。田舎の雰囲気が伝わる、ほのぼの感が良いと思います。

次に「親友との絆」です。
桃太郎後日談ですね、鬼と仲良くなった一方で猿が去るという禍福得喪的なお話に意外性があったのでわ。

んでわ、お題いただきます。

お題 締め切り、京都、けもの
課題 歴史を感じさせる



『閉ざされた蔵』

 僕のおじいちゃん家には蔵があるんだ。それは僕の高祖父、つまりおじいちゃんのおじいちゃんが建てた物らしい。高祖父はその蔵の扉というとびらを厳重に締め切り、おじいちゃん達家族に、決して立ち入ったり、覗いたりしてはいけないと言い聞かしてたんだって。
 京都といえば幽霊や、ばけものの話題は事欠かない。おじいちゃんはある日怖いもの見たさにこっそり蔵に近づいてみたんだって。そしたら中から高祖父の呻き声が聞こえてきて怖くなって逃げたと言っていたよ。そんなことがあったもんだから、お父さんもおじいちゃんからのいいつけを守り、以来蔵は閉ざされたままになってたんだよ。
 だけど、おじいちゃんが亡くなって土地を引き払うことになってね、高名なお坊さん呼んでお祓いしたんだ。そしてついに固く閉ざされた扉が開けられた。そしたら!




中から春画がいっぱい出てきてね、あれは恥ずかしかったな。




次のお題は
【笛】【カバ】【彷徨】
課題: ぼっちなヒーローが主人公

紅戸ベニ
KD106137132016.ppp-bb.dion.ne.jp

 紅戸ベニ(べにとべに)ともうします。

 九月からカクヨムで書き始めました。(6000文字の短いものを自己紹介がわりにhttps://kakuyomu.jp/works/16818093086403744864)

 三語即興文、参加させていただきます。
 
●感想 

◯夜の雨さん 親友の側に鬼が入っているのが、愉快な逆転でした。短い文字で語られる中、盛り込める内容は限られるのに、猿の放縦、平和な別れが描かれていました。終わったあとも、「もしかしたら猿が善人側にいるままの『ももたろう』は、猿が語った内容かも……」という歴史改変まで想像して楽しみました!

◯謎に包まれたののあファンPさん 文字列をべつの意味を持たせて使う遊びが、楽しいと感じます。そして短いからこそ引き立つ「落ち」がまさに「落ち」てがっくり、というおもしろさがいいですね。もしかしたら、私たちの知る風習やタブーのなかにも、「おじいちゃん」みたいな人が作ったものがあったのかも!


 では、

 三語:【笛】【カバ】【彷徨】 
 課題: ぼっちなヒーローが主人公
 
 で書かせていただきました。



 『一日博物館でカバが走る』


 ――学校に「一日博物館」が来る!
 田舎の、小中学校をまとめて十五名の学校に、移動式の博物館がやってくることになりました。
 コノマ先生は十五名に説明します。
「そこまですごいのはないけど! でも備前長船は展示されるって」
「なにそれ? 戦闘中に使うと炎とか出るやつ?」
 児童生徒は、よくわからないまま盛り上がっています。
 コノマ先生は社会科の教員。背は大人の男にしては低い。丸い瓶底めがね。髪の毛はいつもボサボサ。趣味は夜中に一人でゲームをすること。あまり人気はありません。
 中学生の川名セアサ、菱田レコの二人は「おまじないあそび」のいたずらを相談しています。
「サービス終了したときにもらったレア呪文、あれ試してみようよ。カメが生き返ったっていう都市伝説あったよね。」
「むひー、なんだっけ。ドラゴン復活の呪文? 手に入れたところでサ終しちゃったよね、残念だったわ」
「それそれ。材料はドラゴンの骨、五十キロの生肉、あとハーブ、魔法陣がわりのスマホ」
「リアルでやるって? それやるってこと? ハーブはともかく生肉ないよ?」
「いいんだよ、雰囲気で。カルパス持ってく?」
「うん。じゃあカルパスで」
 一日博物館のトラックとバスが到着しました。スタッフが学校の庭に大きなテントを設営しています。開演は明日。どうやら大テントの中にお化け屋敷みたいな通路型の展示をするみたいです。
 コノマ先生が設営を手伝っていました。
「ひとつ残らず見せるには通路型がいいってことですねえ」
 とスタッフと会話しています。
 二人はテントをぐるっと回って裏手に移動しました。荷物がたくさん置かれている中に、大きな骨がありました。
「セアサ、見て。骨あったよ。なんだこれ、ほんとにドラゴン?」
 表示を見ました。カバの標本なのだそうです。
 二人はまわりに人がいないことを見て、スマホを置いて呪文を唱えました。
 骨が、消えました。
「なに? あんな大きい骨が消えた? レコ、骨どこいったかわかる?」
 セアサが呼びかけたとき、レコの声がありません。姿もありません。レコは消えてしまいました。
 つぎの瞬間、セアサの姿も消えました。
 夜中の学校に「彷徨するカバ」という怪異が出現したのはその日のことでした。
 設営スタッフが、夜の廊下を走り回るカバを見つけたのです。そして声も聞きました。
「こんな……姿……生きられない……屋上……」
 カバは人の声でしゃべっていたと言います。そして学校のドアを体当たりで壊して上に上にと突進していきます。
 校舎に百人以上の子どもがいたころ、たくさんの足音が廊下に響いていたことでしょう。今は一匹のカバの駆ける音です。
 三階から屋上に出るとき、一人の男が立ちはだかりました。
「カッターシャツマン、登場。若者を救うぞ!」
 目出し帽を覆面にした男が、カバに飛びかかりました。そして跳ね飛ばされました。
 消化器に頭をぶつけて動かなくなった男。カバは屋上に出ました。
 そしてそのまま「死んでやるーっ」と叫んで空中に飛び出しました。
 後ろから同じように空に飛び出した者がいます。
「カッターシャツマン、ジャンプ! 君たち、ソシャゲを最後までクリアしなかっただろう。元に戻る呪文を知らないんだな」
 彼は自分のスマホをカバの前にかざします。カバは暴れて、カッターシャツをびりびりに引き裂いてしまいました。けれどもスマホがピカーっと光を放つと、動きが止まります。
 真夜中の校庭に、二人の女子中学生と、一人の男が降り立ちました。満月の青い光に照らされて、二人を抱きかかえた男が両足で着地して、そして「グギッ」となにかが砕ける音がしました。
「クリア報酬の超人化って、かなり手抜きじゃないか、これ……」
 男は片足を骨折し、ケンケンの動きで去っていきました。
 翌日。一日博物館が無事に開催されました。
「コノマ先生、ジャージ姿で松葉杖? ダサッ」
 と児童生徒に言われながら、コノマ先生は入り口で案内を手伝っています。地域の大人もやってきて大賑わいです。
 展示を見終わったセアサとレコは缶ジュースをコノマ先生に差し入れました。
「ん? 君たちにおごってもらう理由はないけど……」
 と言う先生を二人は「いいからいいから」とジュースを押し付けて「さよなら」しました。
 二人は今もお守りにして大切に持っています。昨夜びりびりに破れてしまった彼女たちのヒーローのシャツの切れ端を。
 
 おわり
 


 次のお題は【兵器】【ドラゴン】【指切り】で
 課題:地球ではない場所のお話
 
 でお願いします。
 

紅戸ベニ
KD106137132016.ppp-bb.dion.ne.jp

すみません紅戸です。「三階から屋上に出るとき」と「一人の男が立ちはだかりました」の間にで「下手な口笛の音色とともに」を追加させてください。文字数を削って笛までなくなっていました。ぼっちなヒーローは、見た目がとてもダサダサだといいな、と思って。

謎の物書きP
softbank060117225123.bbtec.net

【三語即興文】です。
元、謎に包まれたののあファンPです。考えてみればそれほどファンでもなかったので名前変えました。アク禁になってしまうかもなので素性は明かせません。

紅戸ベニさまの
『一日博物館でカバが走る』の感想です。
絡めづらいお題だったと思いますが問題なく回収されていると思います。
黒魔術的なものでカバになってしまうという発想と冴えない先生が活躍し、ラストのほんわかした感じが良いのでは。
若い方なのですかね、最近は「サ終」と言うんですね。女の子の名前が特殊なのは気になったというか、特に意味ないなら普通の名前の方が良いかなとは思いました。

んでわ、お題いただきます。
【兵器】【ドラゴン】【指切り】
 課題:地球ではない場所のお話


『100匹のドラゴン』

「なぁノボル、異世界って信じるか?」
「信じるも何も俺、前世異世界だし。って、何だその顔?」
「その返しは予想外すぎて、お前との距離感を見直し中の顔だ」
「本当だって、信じてないのか? 指切りしてもいい」
「1ミリも信ぴょう性増さないのだが」
「とりあえず、まぁ聞け。『100匹のドラゴン』に出てくる旅人っているだろ? あれが俺の前世だ」
「いきなり『100匹のドラゴン』がわからんのだが」
「お前、あの有名な論理問題を知らないのか? まぁいいおいおい話すから、黙って聞け」


 俺はあっちでは考古学者で世界中を飛び回っていた。そしてたどり着いたのが世界最強の王国だ。そこは古来より緑色の瞳をしたドラゴンを使役していてな、通常の兵器しか持たない他国では歯が立たなかったんだ。

 ドラゴンは全部で100匹。通常は近くの小島で暮らしてた。知能は高く、人間の言葉を理解する。俺は王国にある石碑を調べた。古代文字で書かれていたから、王国では読めるものがいなかったけど、考古学者の俺には読めた。

 その内容は、ドラゴンは自分の目が緑色だと知ると消えてしまうそうだ。ドラゴン同士がそれを教えることもなければ、鏡や水面を見ることもないと言う。

 本当に消えるのか試してみたかったが、もし消えたら旅人の俺が疑われる。でも好奇心が勝った俺はドラゴンたちにこう告げた。


「この島には少なくとも1匹、緑色の目をしたドラゴンがいる」



「それでだ。一体どうなったと思う?」
「どうって、ドラゴン同士で相手の目の色を教えられなくて、鏡の類とか使えないんだよな」
「そうだ、だけどドラゴン同士で教えると言うことは、相手を消すということになるから普通しないだろ」
「それじゃ結局1匹も消えないんじゃないか?」
「そうじゃないんだ。論理的に考えてみろ」
「さっぱりわからん」
「結論100日で全部いなくなった」
「マジか? 何で?」
「ここで説明するのも冗長だ。『ドラゴン』『論理』で検索すれば出てくるだろうからググってくれ」
「Pの都合か」
「誰だPって? まぁいい。結局俺の仕業とバレて、何だかよく分からん魔法かけられて異世界転生さ。そんなの知らんし〜」



次のお題は
【探偵】【石】【扇風機】
課題:謎解き

でお願いします。

謎の物書きP
pw126035055118.25.panda-world.ne.jp

【三語即興文】である。
【兵器】【ドラゴン】【指切り】
 課題:地球ではない場所のお話
のセルフ感想である。
有名な論理問題。それ以上でも以下でもない。
以上

論理問題というのは面白いものである。ネットで調べれば「幼女」シリーズ(ネーミングセンス怖ひ)が引っかかるので興味あればどぞ。
超難問論理クイズ「2人の幼女とチェス盤の部屋」は果たして解ける人いるのかレベルである。

話がそれた。私は正体バレるとアク禁にされかねないから無駄話できないというのに。

しまった。セルフ回収する可能性考えずにお題決めてしまった!ストック作から適当にお題抜き出したと思われてしまうが、もはや後のフェスティバルだ。

んでわお題回収。

【探偵】【石】【扇風機】
課題:謎解き

『ハルとナツ』

 私の名前は春奈。今日は妹の夏美がくるから部屋を片付けているところ。

 ピンポーン

「はい」
「私ー」
 夏美だった。1時間後のはずだったのにとため息がもれる。
「早すぎでしょ。散らかってるからね」
「気にしない気にしない、身内なんだし。バイトが暇すぎ死にそう地獄だったからさ。ケーキ買ってきたよ」
「紅茶でいい? その辺適当に座ってて」
「なんでもー」

「それで? バイトってまだあの探偵事務所行ってるの?」
「そうそう、この前なんて蜂の巣駆除よ」
「探偵関係ないじゃない」
「んー、そうなんだけどね、でもね、ちょっと推理力ついたみたい。これってダージリンでしょ?」
「限りなく信憑性ないんだけど。アールグレイよ。いい加減なこと言うのやめなさい」
「待って待って、ほらそこ、扇風機の箱の上にお米の袋が乗ってるでしょ。なんでか当ててみようか」
「やめなさい」
「お姉ちゃんは、きっと今日まで扇風機を出しっぱなしにしてたんだわ。それで私がくるからって慌ててかたづけたのよ」
 夏美は推理ドラマのようにジリジリ迫ってくる。
「お姉ちゃんは意外と大雑把だから、扇風機を適当に詰めて蓋がうまく閉められなかった。それでせっかちなお姉ちゃんは手近にあったお米を重石にしたのよ。でもそんなんじゃ閉まらないよ」
「言葉の暴力やめなさい」



次のお題は鍛錬場作品上から
【愛】【違反者講習】【死体】
課題:二人称

でお願いします。

夜の雨
ai225247.d.west.v6connect.net

三語即興文です。よろしく。

謎の物書きPさんの感想から。


【兵器】【ドラゴン】【指切り】
 課題:地球ではない場所のお話

『100匹のドラゴン』

こちらは論理が破綻しているようで。
かなりご都合にできてしまっています。
しかし世界観は面白かったですね。
この話はしっかりと練り込むと楽しめると思いますが。


【探偵】【石】【扇風機】
課題:謎解き

『ハルとナツ』

オチが「言葉の暴力やめなさい」ですが。
たしかに言葉の暴力ですね、妹のナツは探偵事務所で推理力が付いたとか言っていますが、的外れな推理なんだと思います、ハルの返答から察すると。
ということでテーマを「言葉の暴力」として御作を読むと筋が通っています。

筋は通っていますが、話が破綻している『100匹のドラゴン』の方に、面白みと可能性を感じました。
世界観が楽しめるのでは。



それでは私の作品です。

お題【愛】【違反者講習】【死体】
課題:二人称

『そこに愛はあるのかい』

 夜と闇の隙間に死体が転がった。
「だから困るんだよねぇ、こういうことをされると」
 ということであんたは違反切符を切られて「違反者講習」を受けることになった。
 あんたはその死体を見詰めながら「イタチをひき殺しただけですが、急に飛び出してきたものだから」
「そこに愛はあるのかい、問題はそこだよ」
「あい?」
「そうだよ、勘違いしたらだめだよ、交通事故でイタチをひき殺したからダメとか言っているのじゃないからさ」
「えっ?」
 おまえは、理解できない。
「事故というものはちょいと油断すると起きるもので。おれはそこを責めていない。イタチと言えども命のあるものだ。お前は単純にひき殺したから違反者講習を受なければならないとか思っていないかい」
「思っていますが」
「ばかたれめ、『違反者講習』というのは、相手に対して『愛』があるのかどうかということを学ぶところだよ」
 そういって鬼は人間の頭でも入るような大きな口を開けてうなずいてみせた。
 おまえは、とんでもない世界に迷い込んだと思ったが、おまえ自身、事故で亡くなったのだからどんな世界に迷い込んでも文句は言えない。
「これでいいですかね、神様」
 鬼が返答を求めたので、うなずいた。


了。



次のお題と課題。
現在最終面の通りすがりさんの三語から。
お題「土」「見返り」「平日昼間」
課題「悲恋」


それではよろしく。

枝豆
KD106154157156.au-net.ne.jp

初参加失礼します。よろしくお願いします。

夜の雨様
『そこに愛はあるのかい』読ませていただきました。
御作では愛の定義を学ぶ場所として『違反者講習』という言葉が使われており、ただ轢き殺してしまっただけという、ひとつの人間の傲慢さが表されてるなと思いました。
私自身二人称という作品を初めて読みましたがこちらに語りかけてると思いきや最後に神様が出てくるあたり、上手くオチがついてるのでは思いました。
また、夜と闇の隙間に死体が転がったという一文は最後まで読むとイタチと人間のことなんじゃないかなと思わせる手腕も巧みでした。

お題「土」「見返り」「平日昼間」
課題「悲恋」

覚えていらっしゃいますか?茹だるような暑い日、あなたは学校から一緒に逃げ出そうと私を誘ってくれましたね。
その言葉に返答できずにいるとあなたは、私の手を取って「一緒にいこう」って。
平日昼間の空はとても青くて広くて澄んでいて、普段では味わえない新鮮感に胸が躍ったりしました。

電車に乗って隣町に行って買い物したのも記憶に新しいです。似合わないサングラスで笑わそうとするあなたに自然と頬が緩んだり。
その後、カラオケに行ってたくさん歌を歌ったりしましたね。
あなたの歌声は私の鼓膜に今でも残ってます。とても優しくて思いやりのこもった声。
オレンジ色が世界を彩り始めた時、駅のホームで帰りたくないと私が言うと、少し困った顔であなたは「どこに行きたい?」と質問しました。
私が指差すとその方向に目を軽く見開いてから、微笑んで「いいよ」と言ってくれました。
蝉の声がジリジリと雑踏に紛れて木霊して、遠くから近づくレールを走る電車が私たちを迎えにきて、お互い手を繋いで最後まで離さずに、駅のホームを蹴って。

最後まで見返りを求めなかったあなた。あなたの棺に土がかけられる。もう片方の目しか映らない世界でその最後を見届ける。
眩しくてどこまでも暖かかった温もりはもう何処にもない。

夜の雨
ai203184.d.west.v6connect.net

枝豆さんへ。

次の「お題」と「課題」をお願いします。

謎の物書きP
softbank060117225123.bbtec.net

【三語即興文】業務連絡です。枝豆さまお題プリーズです。次のお題結構書き忘れやすいので、本文書く前に書くと良いですよ。

枝豆様の感想です。
短くまとめるのは結構難しいのですが、コンパクトな中にお題も問題なく消化されていて、課題の悲恋もうまくクリアしてると思います。

ついでに、事故物件(※ノーカウント)で書いときます。


お題「土」「見返り」「平日昼間」
課題「悲恋」


『見返り美人』

「唐揚げ弁当一つ」
「あいよ、雅美ちゃん、唐揚げ一丁」
「はい、ありがとうございます」
 レジのおばちゃんが奥の厨房で調理している女性に注文を通す。
 オフィス街の平日昼間はどこの飲食店も混んでいるけど、ここの弁当屋は比較的スムーズに買えて重宝している。もう一つの目当ては雅美ちゃんと呼ばれる女性。いつも背中しか見えないけど、見返り美人というのか時折見せる横顔にドキッとする。
「唐揚げあがりました」
「はい、お兄ちゃんお待たせ」
 雅美さんは土日休みなんだろうか? 思い切ってデートに誘ってみるか。
「あ、あの、雅美さん」
「はい?」僕の声に雅美さんが振り返る。いつもの横顔からこちらを見る。その一瞬の出来事がまるでスローモーションのようだ。

 あれ?

「何か?」
「あ、いえ、いつもお弁当美味しいです。それだけ伝えたくて」
「ありがとうございます」雅美さんは軽くお辞儀をすると調理に戻った。


 正面から見るとあんなヒラメ顔だったのか……。雅美さんへの想いのように唐揚げが冷めてしまわないようオフィスへと歩き出した。

枝豆
KD106154144108.au-net.ne.jp

夜の雨様、謎の物書きP様
お題を書き忘れて申し訳ありません。

『見返り美人』読ませていただきました。
見返り美人という言葉をうまく使って主人公に幻想を抱かせて最後に落とすのはとても上手いのではと思いました。

三語:『夜の砂漠』『ペーパーナイフ』『嗅ぐ』
お題:『呪い』
でお願いします。

夜の雨
ai225099.d.west.v6connect.net

三語即興文です。(現在四面の後ろから三つ目です。)

枝豆さんと謎の物書きPさんへ、感想を書きました。そのあとに私の作品です。

「枝豆」さんの作品は主人公のわがままを彼が「察してくれた」というような展開よりも、主人公が彼の気持ちを察して学校から一緒に逃げた、としたほうがよいのではと思いましたが。
つまり彼は少年ながらも寿命が近づいていた、というような設定なので。
彼が主人公の少女のわがままを聞いて付き合ったとするよりも。
主人公の少女が彼に付き合って学校から逃げて「夕暮れの時間に永遠を見た」というような展開の方が、「一緒に時間を共有」したという事になるので、奥行きが出るのではないかと。
御作の場合もですが、私の今回のアイデアの部分も「彼には死の自覚はなかったが、それが迫っていたのは確かで『その迫りくる時間の動きを描写しておくと、深くなるのでは』と思ったりしました。
そのためにも「夕暮れは、少年の人生が差し迫ったものであると思わせる」「もので」、あるので、死を匂わすようなイメージは必要であるのでは。


謎の物書きPさんの『見返り美人』

ショートショートの醍醐味ですね。
雅美さんという弁当屋の看板むすめにドキドキしながらデートに誘おうと声を掛けたところ。
それまでは緊張して正面から顔を見ることがなかったが、実際「真正面から顔を拝むと」「普通のひらめ顔だった」ということで「さいならー!!」という主人公(笑)。
なかなか、現実的でよいのでは。


それでは私の作品です。

三語:『夜の砂漠』『ペーパーナイフ』『嗅ぐ』
お題:『呪い』
●これって
お題『夜の砂漠』『ペーパーナイフ』『嗅ぐ』
課題『呪い』
という事ですよね。

まん丸の大きな月が砂漠の天空に上がっている。
その夜の砂漠のオアシスにあるサボテンの陰で、小石がことりと動く音がして「ああ……、なっとうが、くいてぇ!」という声が。
大きな鋏をパチパチと鳴らしながら月に向かって背伸びをするサソリ。

月からブランコを垂らしてとんがり帽をかぶった少年の妖精が「恋をしたいよなぁ……」とつぶやいている。
「不倫をしたいとかの間違いじゃないの?」
サソリが月の妖精に向かって声をあげる。
「そういえば昼間の男、どうなったの?」と妖精がブランコを揺らしながら。
「あの日本人なら太陽に焼かれて死んだのでは、何しろ真昼間の暑い盛りにラクダのコブから降りて上司の嫁とにゃんにゃんして人生が終わったとか言っていたなぁ。最後になっとうが喰いてえとかも言っていた」
「不倫になっとうかぁ」と妖精は、憧れの声をあげる。
「あんたさぁ、月からのブランコを揺らしながらで、いいねぇ。世界の童話愛好家の子供たちからお手紙などももらうんだろう」
「ああ、先ほどもペーパーナイフで封書を切ったろころだよ。日本の女の子らしい」
「童話の世界は夢があるから少年少女は憧れるんじゃないの。月からのブランコでゆらゆらやっているあんたに」
「それよりかさぁ、不倫と納豆って、おいしそうだね、ぜひとも日本へ行ってみたいよ」
「日本の夜空で月からブランコをたらして、漕ぐのかぁ」
「それはだめ、だめ。月は、かぐや姫の呪いがかかっている」
「呪い、こわいね、不倫と納豆は。こちらの砂漠で夜の匂いを嗅いでいるのが、無難だよ」
そういって静まり返った、砂漠の匂いを嗅ぐ。
さらさらと、風が砂漠に波紋を作ってひと時の夢を見る。


了。

次のお題と課題。

お題=クリスマス、正月、詐欺
課題=年を越すために苦労をしている、何者か。


それではよろしく。

謎の物書きP
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【三語即興文】五面です。
誰でもお気軽に参加したら良いですよ。
慌てなくてもOK
書いてる途中で先を越されても同じお題で事故作品としての投稿が可能です。

夜の雨様の作品感想です。

日本人の男が死んでいると言うシリアスな設定ながら今際の際の言葉が「なっとうくいてぇ」というのと、蠍や妖精といった登場人物の働きで、どこかメルヘンなほのぼの感が良かったと思います。
んでわ、お題いただきます。

お題=クリスマス、正月、詐欺
課題=年を越すために苦労をしている、何者か。

『恩返し』

「あんた! どこほっつき歩いてたんだい! クリスマスに朝帰りなんてたいそうなご身分ね!」
 妻から浴びせられる罵声が胸を締め付ける。長年妻に隠し通してきたがそろそろ潮時か。
「それに何さ! こんな借金こさえて! これじゃ正月どころじゃないよ。あんたまさかいい年してロマンス詐欺にでも引っかかったんじゃないの?」
「そんなんじゃない」私は妻から逃げるように自室のドアを閉めた。
 妻が怒るのも無理はない。他所で散財して家庭を蔑ろにしてるんだからな。私のやってきたことは間違いだったんだろうか。
「ごめんください」
「はいはい、どちらさんだい?」
 訪問客に妻が応対する声が聞こえてきた。
「ちょっと! あんた早くきておくれ!」
 妻のただならぬ声に私は玄関へと駆けつける。
「キミたちは?」
「サンタさん! 僕たちはサンタさんからプレゼントを貰って育ちました。僕たちからのお礼です。受け取ってください」
 かつて私がプレゼントを配った子供達がすっかり見違えて恩返しに来てくれた。
「あんた、サンタクロースだったのかい? 水臭いじゃないか、なんで私に黙ってたんだい」
「すまない」私は妻を抱き寄せた。

Merry Christmas & Happy New Year




次のお題は鍛錬場上より
【冬】【牛】【リーズン】
課題: 叙述トリック

謎の物書きP
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【三語即興文】五面
こちらは事故作品なのでノーカン、感想も不要である。

一応前回のセルフ感想である。
割とタイムリーで良い話になったのではなかろうか。知らんけど。

お題=クリスマス、正月、詐欺
課題=年を越すために苦労をしている、何者か


『恐怖の大王』

「『鯉のぼり 眺めて決める 晩御飯 おかずはやっぱ ししゃものフライ』 ねぇみなさん、吾輩から一ついいですか? ここは歌人を志す人たちの集まりだから、当然『恐怖の大王』くらい知ってますよね」狂歌クラブの古株夏目が唐突に口を開く。

「なんですかそれ?」別のメンバーが尋ねる。

「2024年10月に空から恐怖の大王が降りてくる予言があるんです」

「何だよ陰謀論じゃねーか」

「予言を馬鹿にするんじゃねーぞ! 何も起きないと思っているなら洗脳されてます」

「そうね、未だに安全だと思っているのは日本人くらい。海外によく行く知り合いの弁護士は『日本人は馬鹿だからさ』って言ってたわ。この馬鹿には深い意味があります」20年選手の女性石田が夏目を支える。

「そもそも何だよ大王って、いるわけないじゃん」

「それは比喩よ。巨大な彗星が地球の軌道に乗って、見たら死ぬのよ! 見た者は死の吐息を出し続けて、それを吸い込んだ人も同様の体になってしまうの! 心臓に影が映るの、シェーディングよ! シェーディング!」

「石田さん、それって本当ですか? 巨大ってどれくらい?」

「のぼるより大きいの」

「何ですかノボルって?」

「あなたそんなことも知らないの? のぼるって言ったら、アマチュア天文家の小林隆雄さんが1991年に発見した星に決まってるじゃない! あんた何想像してるのよ!」

「そんなの知らんし〜」

「熱帯雨林の観測所から送られてきたデータによるの1.5倍よ!1.5!」

「何でそこ強調するんですか。凄さが伝わらないんですけどテレビでそんな危険説流れてないですよ」

「羊脳の日本人はすぐテレビを信用してしまうんだ。間違いなく洗脳されてます。だからオレオレ詐欺で騙すなんて朝飯前。吾輩は研ぎ澄まされた感覚で一発でわかります」

「私も、そんなこともわからないのかと、マスコミに踊らされているみなさんを眺めていましたよ」別の古株も同調する。

「元気だった顧客や、知り合いの同僚の友達の娘さんも、恐怖の大王の写真を見た直後に心臓に影が写ったの! 知り合いの医師もそれがシェーディングだと言ってるわ!」

「それは間違いなくシェーディングです。お花畑さんは早く気づいてください」

「心臓に影が写ったら恐怖の大王だなんていえないですよ。それは逆です」

「本田! またあんた私の邪魔する気? とにかくシェーディングなのよ! キーッ!」

 本田とは狂歌クラブの新参メンバーである。ハンサムな一方で面倒くさそうな人を見つけると、理詰めでネチネチ絡みつくまともじゃない面がある。そのため相手にする人はほとんどおらず、同クラブの片隅でいつも独り言を言っている危ない人だ。

「恐怖の大王はヤバいな。みなサンチュういしてください」


 数ヶ月後


「とうとう天体ショーで4000人の参加者が恐怖の大王を見てしまった。もう見なかった体には戻れない。見た人はそんなことあるわけないと信じることしか出来ないんだ。見るなら無人島で見ろ」

「そう! そうよね! 見た人にはGPSつけて欲しいわ。。避けるから。私が行ってるエステは見た人お断りの危機管理できているところよ」

「でも、シェーディングが本当なら、僕たちが見なくても意味なくないですか? 見た人から移るんでしょ? 見た人お断りにして何の意味があるんですか?」

「キーッ! 本田! あんたまた足引っ張る気? あんたも他人事じゃない。巡り巡って死の吐息を吸い込んだらクリスマスなんて過ごせないわ!」

「どうせ石田さん一緒に過ごす相手いないじゃないですか」

「何ですって! キーッ! 正月、そう新年も迎えられなくなるのよ!」

「えー、夏目さんに石田さん。あなたたちは本当に無自覚! ここは狂歌クラブですよ。それなのにあなたたちは延々と恐怖の大王の話に花を咲かせてるんです。何ヶ月も。それに石田さん、あなた性格悪すぎ。あなたは海外旅行やエステに飲み会っておひとり様満喫してるって聞いてもないことを語っていることに気づいてください。陰謀論にまみれて頭がおかしくなってしまう? あなたの作品と同じで頭からっぽなんです。そんなあなたに私は酷いこと言われたんです。影で。そこに油を注いでるのが本田さんですね。自分で気づいてないんでしょうか。本当うざい。もうねばいいのに」
 長いセリフで捲し立てるのは、お人形さんのような格好の乃亜。その乃亜の言葉に火がついた石田と取っ組み合いが始まる。


 翌月


「うそ!」健診の結果にある「心臓要精密」の文字に石田は思わず声を漏らす。課長のデスクにあった同僚の結果が入った封筒を片っ端から開封して確認すると全員同じだ。
「これは、シェーディングよ。間違いないわ。私が感染したのは女だからね。私も男に生まれてみたかったな。他の女の分まで仕事させられた。こうなったら、エステに飲み会に海外旅行よ! とりあえず博多の屋台を梯子して、みんな道連れにしてやるわ! おーほっほっほっほ!」

 その後、古代の予言に翻訳ミスが見つかり、新しい解釈が発表された。


“博多の程近くから恐怖のおヒスが死の吐息を撒き散らす”

夜の雨
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三語即興文です。現在五面です。
頭の体操に、みなさんもどうぞ。

謎の物書きPさんの作品の感想から。

サンタクロースの内幕が(笑)。
なかなか結構ですね、エピソードが現代的なロマンス詐欺とかを思わせる構成で。この短さなので仕方がありませんが、このロマンス詐欺を言葉のやり取りだけではなくて、具体的なエピソードがあれば御作に厚みが出るのですが。相手とのやりとりのメールとか。
オチは主人公はサンタクロースということで、世話になった元子供たちがお礼に来て、妻に正体がわかるというあたりもよかったです。

ちょうどクリスマスのシーズンでよいタイミングの作品でした。


それでは、私の作品です。
【冬】【牛】【リーズン】
課題: 叙述トリック

『殺しました』

「刑事さん、私は確かに殺しましたよ」
「おまえなぁ、いいかげんにしろよ。殺すという事がどういう意味なのか、分かっているのか?」
「だってこの冬のさなかに現れるんだもの」
「だからって、殺してよいというものでもなかろう。でっ、凶器はなんだ?」
「スリッパで、バチコンと!」
「おまえ、いいかげんにしろよ、スリッパで殺したと」
「うん、牛(ぎゅう)のすき焼きを食べようと、ぐつぐつと鍋のなかで肉やら野菜やらが煮えたぎりおいしそうと思っていたところに、こそこそと出てくるんだもの。誘い込んで、バチコンと!」
「ひでぇ話だな、確かに奴にも問題はあるかもしれんが。殺したとなると……」
「殺しはダメですか?」
「日常の中に奴が現れたからッと言っても、殺したとなると正当防衛はどうだろうなぁ」
「ゴキブリを殺したらダメなのですか? スリッパでバチコンと!」
「たとえ相手がゴキブリでもな」
「私はどうなるんでしょう」
とりあえずリーズン(理由)を深く考えないとな、それから下手したら裁判かも」
「相手はゴキブリですよ!」
「ゴキブリのような人間でもお前さんは、執拗にスリッパとはいえ、相手が死ぬまで顔面に叩きつけた。ふつうはスリッパなどでは死なないぞ」
「抵抗できないようにして顔面を1000発ぐらいしばきました」
「道理で検視の結果内出血で首から上の血管がずたずたになっていたはずだ」
「さあてと、一人殺すも二人殺すも同じようなものだから、こいつもやっちまうかな」
「おい、刑事を殺すと罪が重いぞ」
「ばれなきゃあ、いいのですよね」
「ああ、たしかにばれなきゃなぁ」
いきなり刑事の頬に蠅たたきがバチコンと。
「いてぇ、何をするんだ」
しかし刑事は縛られていて抵抗できない。
「あの変態も体の色気を使ってSMごっこをするかのようにと油断をさせて縛り上げ、いたぶったのよ。刑事さんもドエムだったのね。縛られていたら空手三段でも、どうにもできないわね」
「ま、まて、蠅たたきで俺を殺す気か」
「一万発ぐらい顔面を集中的に叩けば殺せるのじゃないの」


了。


次のお題と課題
お題
タクシー、防衛費、ハクビシン
課題
近未来の身近なお話で。


よろしくお願いします。

fj168.net112140023.thn.ne.jp

●三語即興文

《夜の雨さんへの感想》
チョップと思いきや踵落とし的なショートショート。面白かったです~(笑)

お題
タクシー、防衛費、ハクビシン
課題
近未来の身近なお話で。

「松山の夜に」

 出張先である愛媛県松山の夜の街は、LEDライトの灯りで静かに輝いていた。田中は仕事の疲れを癒すため、滞在しているビジネスホテルから、無人タクシーで居酒屋に足を運んだ。
 紹介してくれたフロントの話では、古風な佇まいを残す百年続いた老舗らしく、店の名は『白美人(はくびじん)』だと言う。由来は、初代女将が色白の男好きのする美人だったらしく、代々その名に相応しい看板娘が店を切り盛りしているらしい。

「いらっしゃいませ」
 店内に入ると、和服を着た噂どおりの白美人(はくびじん)が笑顔で迎えた。
「おひとりさまですね、こちらへどうぞ」
 カウンターから見渡すと、昭和の香りが漂う木造の内装、店内を静かに流れるジャズは正にこの白美人に相応しく、それだけで癒される気分である。
「中ジョッキ」
 田中は白美人の横顔を肴に、キンキンに冷えた生ビールを一気に煽った。
「クゥー! 癒される。もう一杯」
 白美人は慣れた手つきでサーバーからジョッキにビールを注ぎ、田中に渡した。
「ありがとう」
「政府は防衛費を大幅に増額し、最新の防衛システムを導入することを決定しました」
 田中がビールを口にした瞬間、白美人が真顔で告げる。
「プッ……、はぁ?」
 突然なにを言いだすのかと、田中は飲みかけのビールを吹いた。と、その時、店の奥から小さな影が素早く動くのが見えた。田中が目を凝らして見ると、それは動物のようだった。
「ほら、あれですよ。また出てきたのね。あのハクビシン、最近よく見かけるのよ」
「ハク……ビシン。どうして、ここにいるんですか?」
 田中は興味をそそられ、白美人に尋ねた。
「実は、このハクビシンは近未来の防衛システムの一部なんです。政府が新しい防衛費を使って開発した、街の安全を守るための生体ドローンなんですよ」
 白美人は無表情で答えた。
「生体ドローン? ハクビシンが……」
 白美人はうなずき、
「ええ、松山ではよく見かける夜行性のね。彼らは街の隅々まで巡回して、不審な動きを察知すると警報を発するんです。見た目は普通のハクビシンですが、中には最新のテクノロジーが詰まっているんですよ」
 田中はその話に感心しながらも、少し不安を感じた。
「でも、そんなに防衛費をかけてまで必要なんでしょうか?」
 白美人の表情が動いた。
 冷ややかな笑みをたたえながら、「それは国民が安心して暮らせるための投資ですからね。インバウンドなど、グローバル化時代が進むにつれて、生活も変わっていくんです」と答えた。
 田中は白美人の言葉に納得しつつも、どこか腑に落ちない気持ちを抱えていた。彼はもう一杯ビールを注文し、再び白美人に話しかけた。
「でも、あなたはどうしてそんなに浮かない顔をしているの、何か理由があるんでしょうか?」
 白美人は目を伏せ、そして再び田中を見つめた。その瞳には一瞬の悲しみが宿っているように見えた。
「実は、私はこの店の最新の接客ロボットなんです。初代女将の姿を模して作られたAIなんですよ」
「エーアイて……」
 田中は驚きのあまり言葉を失った。白美人は続けた。
「私の役目は、お客様に最高のサービスを提供すること。そして、街の安全を守るために、一見様を監視することなのです。でも、その役目をハクビシンなんかにとられるなんて……」
 田中は心の中で「はくびじんがハクビシンにとって変わるって……」と苦笑した。が、同時にこの居酒屋を紹介したフロントの男を怪しんだ。
「では、俺は不審者扱いなのか? あれれ……」

 白美人は田中に背を向け、無表情で次のお客様を迎える準備をしていた。



次のお題と課題

「橋」「工務店」「サンタクロース」

ファンタジーはNG。

謎の物書きP
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【三語即興文】である。
夜の雨さまの『殺しました』の感想から。
普通にゴキブリかと思いきや、ゴキブリのような人間というところに捻りがあったのでわ。浅野先生マニアの私としては、ハエ叩きで、ビシーン、ビシーンとやってほしかったところではありますが。

凪さまの『松山の夜に』
ちょっとSFテイストの近未来感。一時期自販機に監視カメラ付けるというのを問題視するってのありましたけど、こういう人型、動物型の方が抵抗少ないですね。気づかぬうちに監視されてるというホラーな感じが良かったのでわ。

んでわ、お題いただきます。

「橋」「工務店」「サンタクロース」

ファンタジーはNG。


『サンタクロースにハラミ』

 どこの街にも工務店の一つやふたつあるものだけど、それが何かと聞かれて答えられる人は少ないんじゃないかな。実際、厳密な定義はないけど、大抵は建築関係で設計施工をしている。ゼネコンから仕事を請け負い、そこから俺たち”鍛冶屋”に回してくれることもある。もちろん鍛冶屋と言っても、刀や包丁をトンテンカンと打つわけじゃない。鉄骨を切ったり、穴を空けたり、溶接したりと、いわゆる鉄工所のことだ。

 今月の物件は橋。H鋼、あの断面がHになっているいかにも鉄骨という感じのアレとスプライスを切って連結用に穴を抜く。スプライスというのは、線路でいうとレール同士を繋ぐ板。穴が合わないとボルトが通せずガスで穴を焼き広げる羽目になる。当初よく親方に穴が悪いと叱られたっけ。そりゃ、クレーンで鉄骨吊って連結しようとしたらボルト入りませんじゃ話にならない。

 寒風吹き荒ぶ中でも寒いなんて言っていられない。着膨れすると作業がやりにくいのでダウンベストを着込んで、ハイテンションボルト、略してハイテンを締め上げる。適正トルクに達すると先端がポキッと折れるボルトだ。

「あ! サンタクロース!」

 声のする方を見ると、幼い女の子が俺を指差していた。赤いベストでそう思ったのかな。母親らしき女の人が、仕事中にすいませんといった面持ちで軽く会釈する。

「ご苦労様です。ここに橋がかかると助かります。寒いですけど頑張ってください」

 不意の労いに俺は言葉が出てこず頭を下げた。俺たちは普段顧客と接点がない。感謝されることが嬉しかった。

 仕事を終えて、焼肉屋の暖簾をくぐる。

「一名様ですね。3番テーブルにどうぞ」
「とりあえず生と、タン塩、カルビ、枝豆」

 何とか工期通りに終えることができた。「お疲れ様、俺」とジョッキを傾ける。

「三卓ロースにハラミをサービスしといて!」

 声の主は昼間に見た母親。

「サンタさんどうぞ」
「ありがとう」
 俺は女の子の頭を撫でた。



次のお題は伝言板の上から抜き出し。
【ドラキュラ】【弁当】【正月】
課題: 現実感のある話


しまった! 俺はアキタから狙われているというのに、執筆意欲が抑えきれず鍛練場に出てきてしまった。だがまだ誰にも正体はバレていないはずだ! そろそろズラかる。じゃあな。
ヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3=3

夜の雨
ai194059.d.west.v6connect.net

三語即興文です。みなさんの参加をお待ちしています。

凪さんの作品の感想です。

お題 タクシー、防衛費、ハクビシン
課題 近未来の身近なお話で。

「松山の夜に」

なかなか奥が深いところを描いているかなと。
居酒屋の美人AIに監視されていた主人公。
町の安全を守るためにも国防費が使われているとは。
しかし国民の生活を守るという意味では他国から国土を守るも町の安全を守るも同じかも。
御作の良いところは、町の安全を守るためにも国防費が使われているというあたりに、国民へ目が向いているのではないかというところですかね。
基本は身近なところからなので。
御作の美人AIが人間らしいところに親近感がわきました。

ちなみにホテルマンがAIの美人女将がいる店を紹介したのは、安全がどうたらではなくて、単純にほかの店よりもAIの女将の店の方が主人公が癒されるだろうと思ったからだろうと思いますが。


謎の物書きPさんの作品の感想です。


>「橋」「工務店」「サンタクロース」
>ファンタジーはNG。

『サンタクロースにハラミ』

なかなか良いですね、現実的なお話の中で職人さんの苦労と、それに感謝の女の子の母親のエピソードがうまく絡みました。
感心したのは何といっても細部のリアル感ですが。
よくご存じで。


● それでは、私の作品です。

お題と課題
【ドラキュラ】【弁当】【正月】
課題: 現実感のある話


『かいぶつ』

「あそこに見えますのは栄華の果てに滅んだドラキュラ伯爵の古城でございます」
老齢の谷本は若いガイドの掌が示す古城を見ていた。
ドラキュラとはなぁ……、まだ古城に陽射しがさしており、現実感のない話に昼の弁当は何を喰ったかなと思い出そうとした。
が、思い出せない。
しかし20日先の正月に親戚一同が自宅に集まるのは想像できるのである。
「じいちゃん、終活はしているのかい?」
ここのところの正月は毎回「終活」の事を尋かれる。
そういうとき谷本は「紅白はおもろうないからなぁ。大みそかは、何を見るかのう……。やっぱり『年忘れにっぽんの歌だにゃぁ!』」と、すでに済んだ、昨夜(大晦日)のことをボケた顔で、声をあげる。

自宅でよだれを垂らしながら、そんな夢ににゃついていたところ。
「じいちゃん!」と、曾孫(ひぃまご)が甲高い声をあげた。
見ると、一緒に生活をしている五歳のあやかが「『歳忘れ』はいいよ」、と『年忘れ』にかけたのか、幼児にしては凄腕ぶりを見せた。

「あやかぁ! 終活の財産はお前にすべてあげるよぉ!」思わず、谷本が曾孫のあやかを抱きしめると「じいちゃん! 口がくさい!」
そこで谷本は言った。「ドラキュラにたかられないように、にんにくをたっぷり喰ったからのう」
そういって、終活がどうたらというドラキュラのような親戚一同の顔やら顔を思い浮かべた。

曾孫は言った。
「じいちゃん、クリスマスのサンタさんが何をくれるかが、問題なんよ」
「何が欲しいんだ?」
「ヒミツのひみつ! サンタさんはおじいちゃんじゃないからさ。パパにはほしいモノを言うけどさ」
谷本は、「あと百年は生きてやるぞ」と心に誓ったが……。
それだとドラキュラなみという事に気が付かなかった。
いや、にたりと笑ったときに見えた歯並びから、牙が二本……。

ボケた老人の谷本が整形で歯並びを変えたのだった。


了。


次のお題と課題。

お題
詐欺電話、北欧、ドン・ファン
課題
一人称のできたら文学作品。


それではよろしくお願いします。

fj168.net112140023.thn.ne.jp

三話即興文です。

Pさん作
『サンタクロースにハラミ』の感想です。

日常の中での小さな感動や人との触れ合いを描いていて、とても心温まる物語ですね。
工務店や鍛冶屋の仕事の厳しさや、寒い中での作業の大変さがリアルに伝わってきます。それに加えて、幼い女の子とその母親とのやり取りが、主人公の心に温かさをもたらしているのが印象的でした。


夜の雨さん作
『かいぶつ』の感想です。

老齢の谷本さんの視点から描かれたユーモラスで少し切ない物語ですね。
冒頭ドラキュラ伯爵の古城が登場し、幻想的な雰囲気を醸し出しています。これが谷本さんの現実感のない思考とリンクしているのが良き。
老いと向き合いながらも、ユーモアを忘れない谷本さんの姿が魅力的に描かれている作品だと思います。


《私の作品》
お題
詐欺電話、北欧、ドン・ファン
課題
一人称のできたら文学作品。

『北欧のドン・ファン』

私の名を知らぬ者はいないだろうね。そう、アラン・ドロン。かつては希代の二枚目と称され、銀幕の中に生きた男だ。だが、私の過去は決して平穏なものではなかった。無名時代の私は、生きるためにパリの暗黒街であらゆる手段を使った。詐欺、強盗、そして時には命を賭けた戦い。だが、その経験が私を強くし、俳優としての成功へと導いたのだ。
今は俳優業を引退して、北欧の静かな町でひっそりと暮らしている。

ある日、電話が鳴った。受話器を取ると、冷たい風のような声が耳に届いた。

「もしもし、アラン・ドロンさんですか? おめでとうございます。あなたは豪華クルーズ旅行に当選しました」

その瞬間、私は詐欺の匂いを感じ取った。声の微妙なトーンから演技だと。これは俳優としての直感と若い頃の経験上わかるのだ。しかし、退屈な日常に飽きていた私は、少し遊んでやろうと思った。

「本当かい、それは素晴らしい。どうすればいい?」

「まずは、手数料として少額を振り込んでいただければ」

私は微笑を浮かべながら、相手の話を聞き続けた。彼の手口は巧妙だったが、私には通用しない。暗黒街での経験が、私を守ってくれたのだ。

「わかった。だが、この話が本物かどうか確かめるために、直接会って話をしようじゃないか」

相手は一瞬戸惑ったが、すぐに了承した。私は北欧の美しい湖畔のカフェを指定した。そこなら、いざというときの逃げ道も多い。

約束の日、私はカフェに向かった。そこには、若い男が一人、緊張した様子で待っていた。私は彼に近づき、微笑んだ。

「君が電話の主かい?」

彼は驚いた顔をしたが、すぐに冷静を取り戻した。

「そうですドロンさん。手数料を……」

「待て、まずは君の話を聞かせてくれ」

彼は詳細を語り始めた。私はその間、彼の動きを細かく観察していた。そして彼の目に、かつての自分を見たような気がした。若く、野心に満ちた目だ。もしや……

私の過去が頭をよぎった。

「君、才能があるな。だが、こんなことを続けていては未来はない」

彼は驚いた顔をした。

「何を言っているんですか?」

「君にはもっと良い道がある。私が教えてやろう」

その日から、私は彼を弟子にした。詐欺師をやめさせ正しい道を歩ませるために。北欧の静かな町で、私たちは新たな人生を始めたのだ。

えっ、なぜ彼を更正させたかって?

簡単な話さ。私の息子だからだよ。が、それ以上は聞くなよ。
なにせ私は、世界一のドン・ファンなのだから。



(文学的ではないかな 笑)


次のお題と課題。

お題
雪だるま、アイドル(偶像)、南の島
課題
一人称のできたら文学作品。

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参考画像 アラン・ドロン

https://youtube.com/shorts/BJ1uSk11wUw?si=8U0Hr67p9uKamgrI

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あらら……
一晩経って読み返したら、言葉の重複など粗が目立ちますね。こんな駄文ですが推敲させていただきます。

『北欧のドン・ファン』

私の名を知らぬ者はいないだろうね。そう、アラン・ドロン。かつては希代の二枚目と称され、銀幕の中に生きた男だ。だが、私の過去は決して平穏なものではなかった。無名時代の私は、生きるためにパリの暗黒街であらゆる手段を使った。詐欺、強盗、そして時には命を賭けた戦い。その経験が私を強くし、俳優としての成功へと導いたのだ。
今は俳優業を引退して、北欧の静かな町でひっそりと暮らしている。

ある日、電話が鳴った。受話器を取ると、冷たい風のような声が耳に届いた。

「もしもし、アラン・ドロンさんですか? おめでとうございます。あなたは豪華クルーズ旅行に当選しました」

私はすぐに詐欺の匂いを感じ取った。声の微妙なトーンから演技だと。これは俳優としての直感と若い頃の経験上わかるのだ。しかし、退屈な日常に飽きていた私は、少し遊んでやろうと思った。

「本当かい、それは素晴らしい。どうすればいい?」

「まずは、手数料として少額を振り込んでいただければ」

私は微笑を浮かべながら、相手の話を聞き続けた。彼の手口は巧妙だったが、私には通用しない。暗黒街での経験が、私を守ってくれたのだ。

「わかった。では、直接会って話をしようじゃないか」

相手は戸惑いながらも了承した。
私は待ち合わせ場所として、北欧の美しい湖畔のカフェを指定した。そこなら、いざというときの逃げ道も多い。

約束の日、私がカフェに着くと、若い男が一人、緊張した面持ちで待っていた。私は背後から彼に近づき声を掛けた。

「君が電話の主かい?」

私の少しドスを効かせた声に背中がビクリと動いた。振り向きざま、彼は一瞬驚いた顔をしたが、私の笑顔を見ると冷静さを取り戻した。

「そうですドロンさん。手数料を……」

「待て、先にもう少し君の話を聞かせてくれ」

彼は詳細を、台本を読むかのような語り口で、いかにも流暢に話し始めた。私はその間、彼の動きを細かく観察していた。そして彼の目にかつての自分を見たような気がした。若く、野心に満ちた目だ。

もしや……

私の過去が頭をよぎった。

「君、才能があるな。しかし、こんなことを続けていては未来はないぞ」

「な、何を言っているんですか?」

私の鋭い視線に彼は目を伏せた。

「君にはもっと違う道があるはずだ。私がそれを教えてやろう」

その日から私は彼を弟子にした。詐欺師をやめさせ、正しい道を歩ませるために。北欧の静かな町で、私たちは新たな人生を始めたのだ。

えっ、なぜ彼を更正させたかって?

簡単な話さ。私の息子だからだよ。が、それ以上は聞くな。

なにせ私は、世界一のドン・ファンなのだから。



失礼しました。

謎の物書きP
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【三語即興文】である。
夜の雨さま『かいぶつ』の感想から。
オカルトに引っ張られがちな【ドラキュラ】ですが、ちゃんと現実のお話になっていました。おじいちゃんが本当にボケているのか考えてみるのも面白そうです。


凪さま『北欧のドン・ファン』の感想です。
名優のダークな過去から、振り込め詐欺を弟子にして改心させるというストーリー展開が良かったのでは。文学の基準はよく知らないのですが、間口の広いライトな文学になっているかと。

んでわ、お題いただきます。


雪だるま、アイドル(偶像)、南の島
課題
一人称のできたら文学作品。


『八丈島の雪』

 元来私は孤独を愛する男だったはずなのに、歳をとるとこうも寂しいものかと思わずにいられない。妻に先立たれ、老いさらばえて息子の厄介になりたくないと思った私はかつて新婚旅行で訪れた八丈島へと移住を決めた。

 憧れの田舎暮らしのはずが、住んでみるとそれは思い描いたものとはずいぶん事情が違った。都会では当たり前だったことが、ここではそうでないと分かる。どんなものでも失って初めてそのありがたさがわかるものだ。口うるさいだけだと思った妻もいなくなると存外に私の心の支えだったのだなと気づく。

 私は妻の遺影を手に取る。不思議なもので、妻の顔はその時々違って見える。アイドルのような可愛らしさなど求めない。かつてのように目尻でも吊り上げてくれれば「うるさい」と毒の一つも吐けるものを、妻の表情は私を心配しているように見える。

「そんな目で見るなよ」

 ふと私は外に目を向けた。妻と違って寒いのが苦手な私に南の島の暮らしは心地よいものであるには違いないが、雪も見られなくなると、それはそれで悲しいものだ。
 神や仏など信じたことはないが、願いのひとつもかけたくなる。妻に雪を見せてやってほしいと。

 その願いを聞き入れてくれたのかどうかはわからないが、チラチラと雪が舞い始めた。八丈島にも降雪記録はある。私はストーブに火をつけ、窓の外を眺める。

 積雪1センチといったところか。私は雪をかき集めて小さな雪だるまをこさえると、妻の遺影の横に置き、そのアイドル(偶像)に手を合わせた。

 妻の目は優しく微笑んでいるように見えた。




次のお題は
【リニア】【戒厳令】【無罪】
課題: 今年っぽいお話


しまった!またアキタに狙われていること忘れて出てきてしまった!
すまないもう行く。じゃあな。
ヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3=3

夜の雨
ai202146.d.west.v6connect.net

三語即興文です。

みなさんも、頭の体操にどうぞ。

凪さんの作品の感想から。

『北欧のドン・ファン』

いやぁ、これは素晴らしい(笑)。
アラン・ドロンが主人公とはイメージの広がりがいいですね。
彼の野心に満ちた瞳に寂しさの陰りが見えるところが「太陽がいっぱい」などの映画から窺えますが。
御作は、そういった背景がある高齢のドロンの第二幕の人生にからんだ若気の至り」が青年に見えました。ところで御作にも書かれているようにアラン・ドロンには俳優になる前から問題を起こすような陰があり、それが幼いころからの育ちによるものらしいのですが33歳の時には殺人事件への関与疑惑まであるのですね、ボディガードが当時のドロンの妻であった「ナタリー・ドロンと不倫関係にあった」とかで、殺されています。

御作はそういったドロンの闇の部分を彷彿とさせるものが背景にあり、詐欺を行おうとした青年とドロンが対峙するところが面白い。
あと、舞台もいいですね。
>私は待ち合わせ場所として、北欧の美しい湖畔のカフェを指定した。<

三語即興文ということで、物語が掘り下げられてはいませんが、構成を練り込んで「作品の中の現在のドロン」と青年の背景部分やらを描くと一本の映画にでもなりそうです。

今年の夏にドロンは亡くなりましたが、映画の中のドロンは永遠に生き続けるでしょう。



謎の物書きPさんの作品の感想です。

『八丈島の雪』

あまりにも書くのがうまいので感心しました。
寒いのが苦手な高齢の主人公が妻も亡くなり息子の世話になるのも嫌だと、八丈島に住むことにしたのだが。
こちらは、妻との人間模様が描かれているのでは、なので文学作品になっていると思いました。
さすがに長年連れ添った妻が亡くなると彼女のことがいろいろと思い出されるものです。
口うるさいと思っていたことなども、懐かしさになったりと、「存外、妻は心の支えになっていた」と気づくときに、主人公は人生の深みがわかるのでしょうね。新婚旅行で来た八丈島に住むというあたりもうまく伏線を回収しているのでは。

もう少し掘り下げるとしたら、妻の出身地が東北とかで雪がよく降り積もるところとか、にしておいて。主人公はそんな東北の地へと会社の仕事の関係でいて、そこで妻と知り合った。
新婚旅行先の八丈島では偶然「旅行中に雪が降った」ので、妻がそれみたことかと主人公に笑ってみせた。
そのあたりの伏線を効かせておいて、御作の後半で八丈島に住む主人公の地に雪が降るエピソードから雪だるまを作るというオチにしておくとさらに締まるのではないかと。



私の作品です。

お題
【リニア】【戒厳令】【無罪】
課題
今年っぽいお話

『世相』

「日本で戒厳令が発令されるようなドラマを制作したいのですが」
テレビ局の制作部で年末年始のテレビ番組について話されていた。
「戒厳令なぁ、今年は韓国では発令されて大事になったが、日本で戒厳令を敷くような下地はあるかな」
「現在の自民党と公明党の政権は砂地の楼閣のようですが、戒厳令というような時代ではないよな。もし、そのようなドラマを作るとなると漫画のような設定になるのでは」
「それじゃ、ドン・ファン事件の無罪判決から、そのあたりのドラマはいかがでしょうか」
「いやぁ、あまりにも最近の話で現実っぽいから、そんなドラマを放送してみろ、苦情が殺到するよ」
「しょうがない、リニア新幹線のドラマとかの未来志向で日本を盛り上げるとかは?」
「ありふれていて、面白くないなぁ……視聴率が取れないよ」
「もう、これしかない。リニア新幹線走行中に自衛隊が車内で暴走して戒厳令を敷くとか、そこに無罪をからめてと」
「どんなドラマにするのだ、制作費がかかりすぎる」
「仕方がない、今年も金のかかるドラマはやめて、歌番組にするか。ドラマを作るには時間も足りないしな」
番組制作部の面々は、お互いにうなずいた、最初から金のかかりそうな大型番組は作る気がなくて、師走が押し迫ってから企画を出していた。
「さあてと、解散してこれから忘年会でも行くか」

了。

次のお題と課題。
お題
年賀状、怪談、出現
課題
魔術師が主人公。(うまい下手は別問題)



よろしくお願いします。

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三話即興文で~す(笑)

夜の雨さん、感想をありがとうございます。
殺人事件は有名な話ですね。知っていてくれて感謝です。
アラン・ドロンは未成年の頃に感化院に入っていたこともあり、我々の知らない一面(黒歴史)は多々あるようです。

『世相』への感想

テレビ局の制作部が年末年始の番組企画について議論する様子。戒厳令やドン・ファン事件、リニア新幹線など、現実の出来事や未来の可能性をテーマにしたドラマのアイデアが飛び交いますが、最終的には予算や時間の制約から歌番組に落ち着くという現実的な結末で締めています。
制作部のメンバーのやり取りがリアルで、インターネットが主流の現在、現実のテレビ業界の苦労や葛藤が感じられます。

私の三題噺

お題: 年賀状、怪談、出現
課題: 魔術師が主人公

『アレクサンダー・ザ・グレート』

魔術師のアレクサンダーは古びた屋敷でひとり静かに新年を迎えた。その屋敷は年の瀬に引っ越してきたばかりで、イワク付きの格安の物件であった。不動産屋の主人は詳しくは話してくれなかったが、価格と屋敷の雰囲気に魅了され、購入したのだ。
アレクサンダーの元には毎年、数多くの年賀状が届くが、今年は新居に越したためか、未だ一通も来ていない。少し寂しさを感じながらも、彼はそこで魔法の研究に没頭していた。

ある晩、アレクサンダーが魔法書を読んでいると、突然、屋敷の中で奇妙な音が響き渡った。音の正体を確かめるために彼は廊下へと向かった。するとそこに、かっぷくのよい老紳士の幽霊が現れた。職業柄怖いとは感じなかったが、イワク付きとはこのことかと、アレクサンダーは即座に納得した。
幽霊はアレクサンダーに向かって語りかけた。

「私はこの屋敷の元の主人だ。お前に伝えたいことがある」

幽霊の話によると、屋敷には古くから伝わる秘宝が隠されており、それを見つけるためには特別な魔法が必要だという。
アレクサンダーは幽霊の指示に従い、屋敷の奥深くにある部屋へと進んだ。そこには古びた小箱があった。箱には「秘宝を見つけた者へ」と書かれた紙が貼られていた。上蓋を微かに開けて中を覗くと、一通の年賀状が入っていた。
彼は年賀状を手に取ると驚いた。宛名には『アレクサンダー様』と明記してある。

「どうして私の名前が……、まるで、私がここに住むことが以前から決まっていたような……ん?」

年賀状には、「アレクサンダー・ザ・グレート」と唱えろと書いてある。
彼は手を広げ、その呪文を一心に叫んだ。
すると突然、箱の中から眩い光が放たれた。目を凝らして見てみると、こぶし大の石が姿を現わした。

「それは、どんな願いも叶えるという魔法の石だ」

幽霊は静かに話しはじめた。

「君がここに住むことは、五百年も前から決まっていたのだよ。ここの当主は代々、この箱を守ることが役目とされてきた」

アレクサンダーは驚きながらもその石を手にとり、幽霊に感謝の意を伝えた。
幽霊は満足そうに微笑みながら「これで私の役目は終わった。お前の未来に幸運を祈る」と言い残し、静かに消えて言った。

今年最初の年賀状は、アレクサンダーを最高の気分にさせてくれたのであった。



https://youtu.be/ugK-O2FU_X8?si=t40Mg6UTq2vB1sxf

次のお題
ネズミ、少年、貧困
課題としては、泣かせる物語を希望します。

謎の物書きP
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【三語即興文】である。

夜の雨さま『世相』の感想から。
今年も色々ありました。番組制作サイドの裏側は案外こんなものかもしれないですね。最後投げ出すところが良かったです。

凪さま
『アレクサンダー・ザ・グレート』
コミカルと思いきや、ちょっとシリアス感ありました。主人公もいずれ霊となって次の家主にバトンを渡すのかなと考えると深いような。
【出現】と【怪談】をお忘れなく。

んでわ、お題いただきます。
ネズミ、少年、貧困
課題としては、泣かせる物語を希望します。


『クリスマスの夜に』

「あなた、また昨日テレビつけっぱなしで出て行ったでしょ!」
「ん? いや、ちゃんと消したよ。トラックの違法無線とかで勝手についたんじゃないかな」僕は妻の刺さるような視線から目を逸らす。
「すぐバレる嘘つかないでよ。あなたはすぐ顔に出るんだから。いい? ちゃんと消して! 嘘も禁止」
「わかったよ」

 辞令でフィリピンに赴任して初めての年末。つくづく日本は恵まれているのだなと思い知らされる。この国では貧富の差が激しい。大学まで行くものもいれば、貧困街で大人数の家族と肩を寄せ合って暮らしている人々も多い。

 クリスマスは家で過ごそうと、レシピを見ながらケーキ作りに挑戦する。日本のようなクリスマスケーキはここでは手に入らないからだ。渋々ながらもこの地についてきてくれた妻にせめてもの感謝の印といったら大袈裟かな。

 なんとか見栄えはする。味はどうだかわからないが。それは今晩のお楽しみだとこれまた手作りの箱にいれる。妻が喜んでくれたら苦労して作った甲斐があるというもの。


 ケーキをリビングに運ぼうとキッチンにくると、テーブルの上に置いてあったはずなのに見当たらない。すると部屋の片隅にケーキの箱を抱えた少年がいた。僕は努めて優しく語りかけたが、通じないようだ。フィリピンの公用語はタガログ語と英語だけど、見るからに貧困街から来たであろう少年は教育を受けていないのだろう。
 僕は震える少年に微笑み勝手口のドアを開けた。少年は御礼らしき言葉を発すると走って出て行った。
 全く、僕はお人よしだな。苦労して作ったのに泣けてくるよ。

「あなたどうしたの?」妻がキッチンに来た。
「あ、ああ、ケーキ作ったんだけどネズミにやられちゃったよ」
「本当に?」妻は僕の目をじっと見つめる。
 目を逸らすわけにはいかない。
「そう、残念ね。さ、食事を続けましょう」
 リビングに戻る妻の背中に僕は呟く。

「頭の黒いネズミにね」



次のお題はmonogatary のお題上から抜き出し
【2時間】【おばけ】【セレブ】
課題:3人称

アキタに見つかる前に出かけてくる!
じゃあな。
ヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3=3

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Pさんへ(素朴な質問)

>【出現】と【怪談】をお忘れなく。

怪談は、一応幽霊を登場させています。

出現は、>こぶし大の石が姿を現わした。
と書いてあります。

これって、【出現】【怪談】と、そのまんまの言葉を使わなければいけないのでしょうか?

謎の物書きP
pw126156009058.29.panda-world.ne.jp

|ू•ω•)チラッ
どうやらアキタはいないようだな。(ニヤリ

凪さん
そうなんです。お題の三語はそのまま使うんですね。連想させるものだったり、ひらがな等に変換するのもNGなのです。ご新規さんも作品冒頭のルールをチェックであります。

は!アキタの視線!
すまないもう行く。じゃあな。
ヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3=3

sp49-98-139-12.msd.spmode.ne.jp

わかりました!
ありがとうござます。

夜の雨
ai226076.d.west.v6connect.net

三語即興文です。


凪さんの作品の感想から。

お題: 年賀状、怪談、出現
課題: 魔術師が主人公

『アレクサンダー・ザ・グレート』

話の展開はすでにあるようなネタなので、ネタの掘り下げが必要ではないかと思います。
>「それは、どんな願いも叶えるという魔法の石だ」<
これだと、ストレートすぎるので。
たとえば「家族ができるとか」。
それでアレクサンダーはいままでに魔術でいろいろなものを手に入れてきたが、「家族ができて」初めて、自分に足りなかったものに気が付いたとか。
それは、家族の愛情。
アレクサンダーは物心がついたときから、ひとりで生きてきたことに気が付く、とか。



謎の物書きPさんの作品の感想です。

ネズミ、少年、貧困
課題としては、泣かせる物語を希望します。

『クリスマスの夜に』

こちらのお話は、何かが足りないなぁ。
続きが必要かも。
現状の御作だと、少年にクリスマスのケーキを盗まれた。
ということで、「渋々ながらもこの地についてきてくれた妻にせめてもの感謝」ができない、ということになります。
なので、続きとして。
妻がこのフィルピンの地で困っているときに「少年」に助けてもらったとか。
それも大げさな手助けではなくて、ちょっとした手助け。
妻が少年との心温まるエピソードを旦那(主人公)に話したことから、主人公はこの間の少年だと、思い当たり。

周りまわって、自分がしたことが少年の心に届いていたんだなと。
なので、少年がよいことをしたのが直接に妻へではなくてもよいわけです。
彼女が少年の行動を見て喜べば。

>アキタに見つかる前に出かけてくる!<
アキタとは誰ですか?
もしかして「物事に『あきた』というような意味ですか(笑)」。

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私の作品です。

お題 【2時間】【おばけ】【セレブ】
課題:3人称

『研究者』

アドソン・タイラーは1832年に東洋文化の研究と称して日本へ渡った。
彼が21歳の時である。
タイラーの父は特殊合金という鉄よりも硬いものを開発して大儲けしていたので息子のタイラーに会社を継がせたかったのだが、東洋文化に興味津々の彼は「人生は一度きりしかない」と父を説得した。
こうして日本へ渡ったタイラーは京都の寺にお参りに来ていた芸者にひとめぼれして彼女を金の力で囲った。
京子はタイラーが事あるごとに「ぼくはセレブなんだ」と言って、金を湯水のごとくに使ったので、西洋の王様かと思った。
タイラーは京子の体に慣れ親しむと、東洋文化の研究ではなくて女の体の研究とばかりに京都の町に出没しては、京女の体をむさぼりつくした。
京子はあきれ返り、別れたいと申し出た。
「あなたは大きな夢をもって日本へ渡ってきたのでは、それがいまでは日本文化の研究ではなくて女体の研究とばかりに女を買いあさり、酒におぼれる毎日」
京子の悲しい表情に「ばかたれー!」とばかりに彼女の顔を殴った。
京子が去った後もタイラーは女遊びに狂っていた。
そんなある夜の事である。
いつもの如く女遊びと酒にうつつを抜かして、女と一緒に京の地獄橋を渡っていたところ、橋のたもとに赤ちょうちんの屋台が目に入った。
「腹が減ったのう……」
そういうと女も「うん……」というので、屋台の暖簾に顔をのぞかせた。
「おやっさん、うどんふたつ」
屋台のおやじはタイラーの顔を見ると、にたぁと笑った。
「へい、なにうどんで」
「そうだな……」と、隣の女のやせこけた顔を見て。
「にくうどんよ」
「あいよ」とおやじは、愛想よく返答した。

アツアツのうどんをすすっていると「おやじ、肉うどん!」という声がするなりタイラーの隣にどかりと男が腰を掛けた。
タイラーが男の顔を見ると、角が頭から二本生えていて顔の造作も大作りな赤鬼が腰を掛けている。
「おやじさん、こいつ人間じゃねぇのか」と、赤鬼が言う。
「ちがうちがう」とおやじが答える。
「そいつはおばけだよ、この界隈でも有名な、西洋から東洋文化の研究に来たといって、女の体の研究を極めたえらぁーいタイラー先生なんだ。ねぇ、旦那さん」
タイラーは驚いたが、赤鬼がじっと顔を見ているので「人間です」とも言えない。
「ははは、そうなんだおれはおばけでね」タイラーは半泣きになりそうなところを笑ってみせた。
「そうかいそうかい」赤鬼はうなずきながら、「それでおとなりのべっぴんを、うどんを喰った後に、喰うとか?」
するとうどんを喰っていた女が「しゃぁー!」と声をあげた。
一同女の方を振り向くと、そこには見事な化け猫が。
「タイラー先生が、女体の研究だと、バカがぁ。日本文化の研究をしているんだよ、だからあたいは付き添っているのさ。あんたらが、ここに存在するのもタイラー先生のおかげだ」

タイラーはとんでもない東洋の地へ来たものだと思ったが「日本放浪記・化け物の研究」という書籍を出した。

タイラーは生活が乱れていたためわずか36歳で亡くなると、三途の川を渡り閻魔大王と話をする機会を得た。タイラーは「あと2時間は生きたかった」と言ったので、閻魔が「その2時間を何に使う気だったのか」と興味深げにたずねた。
「女体の研究」と、タイラー。

閻魔は笑いながら「はい、地獄行!」と、即決した。


   了。


次のお題と課題。
お題 料亭、幼稚園児、刑事。
課題 ユーモアのあるお話。


よろしく。

sp49-98-136-10.msd.spmode.ne.jp

出遅れました。
Pさんの
お題 2時間、おばけ、セレブ
課題 三人称
の私の作品です。

『面影』

ある晩、太宰治と坂口安吾は二時間だけの特別な夜を過ごすために、編集者が用意したセレブリティなサロンに来ていました。
安吾は酒と薬の影響でハイになっており、太宰は女性たちに囲まれてご機嫌でした。
「安吾、君はいつもヒロポンばかりだな。少しは自分を大切にしないといけないよ」
太宰が笑いながら言いました。
安吾は太宰の胸ぐらを掴み、
「べらんめい太宰、てめえこそタラシぐせは一生なおらねぇくせしやがって。少しは落ち着いたらどうだ?」
と返しました。
安吾の怒号と形相に、サロンは一瞬沈黙しました。と、その時、突然部屋の空気が変わったかと思うと、やせっこけた男の幽霊が現れました。女たちはおばけが出たと騒ぎ立ち、その場から逃げてしまいました。
「やあ、元気そうですね」
幽霊が話しかけました。
「君は……」
「てめえは……」
幽霊は二人のかつての友人、織田作之助でした。
作之助は笑顔で二人の前に立ち、
「あなたたちは相変わらずだな」
と言いました。
太宰と安吾は驚きながらも、作之助の登場に喜びました。
「織田作、君が幽霊になって現れるとは思わなかったよ」
太宰が言いました。
作之助は優しい笑みを浮かべて、
「あなたたちのことが気になって、少し様子を見に来たんですよ」
と答えました。
安吾はヒロポンの影響で少しふらつきながらも、
「作之助、てめえがいなくなってから、俺たちはどうも調子が狂ってな」
と言いました。
作之助は微笑みを絶やさず、
「しかし、あなたたちの文学に対する情熱は変わらないですね。何よりです」
と答えました。
太宰は真剣な表情で、
「織田作、君がいた頃のように僕たちは文学を愛している。君のひたむきさがいつも心の支えだった」
と語りました。
作之助は感慨深げに、
「あなたたちの友情と文学への情熱は永遠に続くものです。だからこそ、私は安心して見守っていられる」
と言いました。
作之助の幽霊は、暫し二人の顔を見つめたあと静かに消え去りました。太宰と安吾の心には作之助の言葉が深く刻まれました。
「安吾、君のヒロポンに酔ったのか、僕まで幽霊が見えるようになったのかもしれないな」
と、太宰が無邪気に笑いました。
安吾は、
「べらんめい太宰。ヒロポンだろうが女遊びだろうが幽霊だろうが何だろうが、俺たちの文学は止まらねぇだれが」
と、これまた無邪気に返しました。
二人は作之助の面影を胸に刻みながら、これからも文学の道を歩み続けることを誓い合いました。作之助の幽霊も、どこかで微笑んでいることでしょう。

……めでたしめでたし。

お詫び
坂口安吾は新潟県出身ですが、あえてべらんめい調で描いてみました。

引き続き夜の雨さんのお題と課題でよろしくお願いいたします。
お題 料亭、幼稚園児、刑事。
課題 ユーモアのあるお話。

sp49-98-136-10.msd.spmode.ne.jp

俺たちの文学は止まらねぇだれが

俺たちの文学は止まらねぇだろが

です。

謎の物書きP
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【三語即興文】である。
凪さま夜の雨さまへの感想プリーズです。

夜の雨さま『研究者』の感想から。
真面目な話かと思いきや、京子が出てきたところで、「さぁ色っぽく一枚づつ脱ぐんだ!」と期待してしまいましたが、タイラー先生の女体へのあくなき探究心はまるでお医者さんのようで良かったです。

※アキタとは! 
俺とみるとアク禁攻撃してやろうと最近では投稿内容関係なしに投稿ボタンにアク禁トラップを仕掛けてくる作家でごはん!の運営メンバーである。迷惑をかけるといけないので情報提供者はあかせないが、ごはん20年選手のおヒスな反ワク派とだけ言っておこう。

凪さま『面影』の感想です。
まさかの織田作である最近知った『夫婦善哉』の織田作之助である。
三人の文豪が集まって文学の未来を語るのはユーモアの中にも学生運動のような若者たちの熱さがあったのでわ。


んでわ、お題いただきます。
お題 料亭、幼稚園児、刑事。
課題 ユーモアのあるお話。


『夫婦漫才』

「どうも〜ケンちゃんです〜」
「陽子ちゃんです〜、二人合わせて陽子ちゃんケンちゃんです〜」
「ちょい待ちいや! なんやそれ語呂悪いはホンマ。そこはケンちゃん陽子ちゃんやろ」
「何言うてはるの、力のある方が前に来るのは常識や。スクエアエニクスかてせやろ」
「お前ここでゆーな、そないなこと。って、どっかで聞いたフレーズやな」
「そんなことどうでもええねん、今日も三題噺をやろうと思っとるんですぅ」
「またか、客席からお題三つ出してもろて、即興で小噺考えるっちゅーやつやろ? 無茶振りやめてーな」
「あんたナニの小さいことゆーとらんと、いくで」
「陽子ちゃん、そこはナニやのうて気や。しゃあないなもう。ほなそこの別嬪さんからいこか」
「料亭!」
「ええですわ、ほな次は、……」
「あんた待ちい、別嬪さんばかりやおもろうないで今度は不細工さんでいこか。ほら、見てみい、みんな下向いとるで。ほな前列メガネの姉さんいこか。そう私、私」
「陽子ちゃんお客さんに不細工はアカン」
「かまへん、かまへん、わろうてはる」
「幼稚園児!」
「やっぱりこのチビデブハゲが幼稚園児に見えますぅ? この人いつまで経ってもチビが治らへんのですぅ」
「チビが治るか! まぁええ、ほな最後は、……」
「ちょっとケンちゃん見てみい、あの人カツラずれとるで。そう!今頭確認したそこのおっちゃんいこか」
「陽子ちゃん、騙し討ちで人の秘密暴いたらアカン」
「なんやのん、秘密隠しとる方がタチ悪いわ」
「あかん、アカン、陽子ちゃん、そろそろいくで」
「ほないくで、今回は料亭を舞台にしたサスペンスや。私は刑事やるさかい、あんたは幼稚園児や」
「陽子ちゃん、セリフ一つでお題三枚抜きは雑すぎるで」
「かまへん、かまへん、お題なんてオマケみたいなもんや。ええか? うちはデカ。何で刑事のことデカって呼ぶか知ってはります?」
「確か昔の制服『角袖《かくそで》』の最初と最後とってひっくり返したってやつでないか?」
「せや、あんた不細工な顔しとるくせによう知っとったな」
「顔は関係あらへんやろ」
「でや、あんたは料亭の一室で殺されてんねん」
「いきなり殺すな! どんなシチュエーションやねん。びっくりしたわホンマ」
「あんた細かいわほんま。ノミのタマ玉ちゃうん?」
「陽子ちゃん、そこはタマ玉やのうて心臓や」
「そんなことはどうでもええねん、ほなここで問題や。あんたが殺されとった部屋を当てるねん。選択肢は『桐の間』『藤の間』『楠の間や」
「全然分からへんわ。ヒントありませんの?」
「あんた、先っぽの皮ひん剥いてよう見とき」
「陽子ちゃん、そこは目ん玉や」
「ここで、最初のデカの話や」
「どういうことですの?」
「料亭で女将や中居さんが着とるのは着物やろ? 最初と最後とってひっくり返したら『ノキ』や」
「ほな幼稚園児が着とるものは園児服で『クエ』でっか?」
「ちゃうねん、そこはスモックで『クス』や」
「ノキと合わせて『クスノキ』っちゅーことか」
「せや、うまくできたやろ?」
「陽子ちゃん、でもそんなの現場確認したら一発屋ないか」
「いらん事いうなボケカス。いっぺんほんまに息の根止めたろか?」
「陽子ちゃん勘弁して〜な〜。えー加減にせい!」

「どうもありがとうございましたー」




次のお題もmonogatary から抜き出し
【オアシス】【片道切符】【銀世界】
課題: 考えさせられるお話


は!しまった! 織田作に釣られて身バレに繋がりかねないネタを書いてしまった!前作は他所で書いたものだから大丈夫だと思うが、アキタに感づかれると俺の身が危ない。
もう行く。じゃあな。
ヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3=3

謎の物書きP
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誤字訂正
×一発屋
◯一発や

謎の物書きP
softbank060117225123.bbtec.net

くー不覚
脱字
「なんやのん、秘密隠しとる方がタチ悪いわ」
のあと
「刑事!」

夜の雨
ai225078.d.west.v6connect.net

三語即興文です。
みなさんよろしく、そこのところをよろしく。

謎の物書きPさんの感想から。

お題 料亭、幼稚園児、刑事。
課題 ユーモアのあるお話。

『夫婦漫才』

なかなか洒落っ気が効いていますね。
漫才の部分がなかなか面白かったです。
吉本興業で漫才の台本書けるのと違いまっか(笑)。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私の作品です。
【オアシス】【片道切符】【銀世界】
課題: 考えさせられるお話


『大地と戦争』

世界各地での戦争は昔も今も変わらない。

プータンも高齢と言われる年齢になり大統領として何か仕事を残さなければと思い、連邦から独立した国の領土をかすめ取ろうと、戦争を仕掛けた。
何しろ核をもっている大国なので小国などあっという間に足元で土下座をするものとばかり思っていたところ、さにあらず、近辺諸国が武器などを与えたものだから戦争は長引いた。
プータンは祖国をオアシスのようにして自国民だけと違い世界の国々から尊敬される人物になりたかったが、思うようにはいかない。
「これは、まずい、片道切符のように一方的に戦勝国になると思っていたところが、とんでもなく戦争は長引いて、アメンド国の次期大統領である花札氏にも気を使わせているありさまだ。
「いやぁ、これはありがたい。現在のアメンド国の大統領が長距離ミサイルなどを小国に貸し与えているので、うかつなことはできなかったが、花札氏は小国へ長距離ミサイルは使うなとか言ってくれるので、やりやすい。そのうえ、龍の形に似た国の上の方にある同盟国から軍隊を借り受けた。
ということで、わが国は、戦争が長引き兵隊が足らなくなってきたやばい状況から脱出できそうである。
同盟国に核ミサイルの作り方とかの仕様書などやら食料などを与える話をしたものだから、軍隊を貸してくれた。

ああ、寒いと思えば窓の外は、一面銀世界である。
「大統領、冷えますね」と執事が声を掛けてきた。
窓を閉めているとはいえ、確かに冷える。
「戦争は我々の勝利に傾いてきましたね」
「ああ、そうだね、来年ぐらいには終了するのでは……」
「はい、アメンド国の次期大統領が就任すれば、我が国はかなり有利になるのでは」
「あはははは、これで肩の荷がおりるよ」
「お疲れさまです」
「ふふふ、次があるよ」
「次……?」
「そうだ、次がさ……」そういってプータンはにやりと笑った。


了。


次の課題とお題

お題
審査委員、ギャンブル、昭和歌謡

課題
元アイドルが主人公。

よろしく。

謎の物書きP
pw126156019054.29.panda-world.ne.jp

【三語即興文】である。【企画告知あり】
夜の雨さまの感想です。

考えさせられるお話ということで、シリアスなテーマをユーモアで表現されていたのがいいと思います。プータンとするだけで可愛らしく感じます。
私、国連は何してるんでしょと思わずにいられません。

んでわ、お題いただきます。

お題
審査委員、ギャンブル、昭和歌謡

課題
元アイドルが主人公。


『夢の続き』

 かつて昭和歌謡の女王として君臨した私も今ではただのおばさん。当時、川口千恵の名を知らぬものなどいなかった。望んで入ったはずの芸能界に疲弊し「普通の女性に戻ります」と代表曲『イミテーションダイヤモンド』を歌い終えたあと、文字通りマイクをステージに置いたのがまるで昨日のことみたい。

 一般人の男性と結婚して手に入れた平凡な暮らし、それも数年経てばその色を失った。スポットライトを浴び続けてきた私に普通の生活など満足できるはずないなんてこと初めからわかっていたはずなのに。私は結婚というギャンブルに負けたんだと家事に子育てに奮闘してきた。

 ある日、思いもよらぬ知らせが舞い込んできた。カラオケ番組の審査委員長として出演して欲しいと。なぜ今になって? 理由と出場者を聞いて言葉を失った。娘が、裕美が動画投稿サイトで『イミテーションダイヤモンド』を歌ったことがきっかけで今ちょっとしたブームになっているらしい。番組の最後に母娘でデュエットしてほしいとも。
 意外だった。あの子、芸能界なんて興味ないとばかり思っていたのに。私は賭けに負けたわけじゃない。バトンは次代に繋がった。ありがとう裕美。




さて、企画である。かつてごはん運営により開催された【哲学的な彼女】を

謎の物書きP
pw126156026223.29.panda-world.ne.jp

途中送信しちゃった☆
【哲学的な彼女3】として復刻。
ルールはガチガチ哲学でなくても良い。
哲学っぽいヒロインな感じで、大体こんな感じ
https://web.archive.org/web/20101011080129/http://tetugakunovel.sakura.ne.jp/konn.html

だけど字数は3000字以内
勝ち負け優劣は関係なし
期限は今月12/31まで

鍛練場の通常投稿でも、【三語即興文】を使用してもよし。
三語のルールにある遊び心ある事故作品として、同じお題で何人投稿してもよし。

お題【隣人】【最後】【散歩】
課題:哲学的なヒロインを登場させる

取り急ぎ。気づいたら追加するかも。
む、アキタの気配!さらば!
ヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3=3

夜の雨
ai248252.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

小説の鍛練にいかがですか。


謎の物書きPさんの感想から。

『夢の続き』読みました。

なかなかよいですね。
山口百恵を彷彿とさせるキャラクターでしたが、もちろん、山口百恵をそのままではなくて、設定を変えています。
娘が、自分のヒットさせた歌を唄っていたとか。
芸能界に興味がなさそうだったが、現実は違っていた。
それでカラオケ番組の審査委員長ということで主人公の元アイドルは出演。
ラストは、自分がヒットさせた伝説の曲を娘と一緒に歌う事になるとは、このあたりは余韻がありよいですね。
自分が絶頂期に去った芸能界で娘が活躍していて、その関係で再び脚光をあびることになる元アイドルの主人公とは。

物語になっているのではありませんかね。


それでは、私の作品です。

お題【隣人】【最後】【散歩】
課題:哲学的なヒロインを登場させる

『隣人』

先日まで空いていた隣の部屋に気配が。
誰か、入居したのだろう。
ふふふ……、隣人か。
どんな人物が入居したのか知らないが……。

ドアをノックされて腰を上げた。
ドアを開けると、真面目そうな30代半ばの男が。
「隣に引っ越してきました」という。
「どこから、引っ越してきたのですか」
「東北から」
彼の姿かたちを見ると、頭の上からひょろりとしたアンテナのようなものが。
「東北って、どこの東北で」
「アンドロメダの東北ですが」
「やっぱり、それでどうして引っ越しを」
「散歩していて、偶然地球に立ち寄りまして、何やら生物がいるようなので」
「ほう、アンドロメダの東北といえば、私も同じ地からこの星にやってきたのですが」
「どうですか、住み心地は」
「最後の楽園ですよ、なかなかいいですよ、この星は」
「マジですか?」
そこに大家が夕食のおすそ分けで『タコと小芋の煮っころがし』をもってきた。
三人で、この星は住み心地がよいと、話をして盛り上がる。
そのまま、部屋に上がり、三人で酒を飲みながら昭和歌謡のカラオケを歌ったり。
一息ついて、テレビを観れば、出演しているのはアンドロメダ東北の宇宙人ばかり。
三人で笑い転げ、お互いのアンテナをさわったりしながら「この星は住み心地がよいと」。
「ところで」と大家が言った。
「原住民の地球人は動物園で満足しているだろうか」
「もちろん、していますよ、地球人は誕生から以後、戦争やらのいさかいばかりやっていたのに、動物園の住人になってからは平和に過ごしているし」
「なるほど、『戦争と平和』か、まるで哲学者ですね、あなたは」
そういって、隣人がウィンクしてきた。
もちろん、私はウィンクで返した。
そして次の日曜日は隣人と動物園に地球人がどうしているのか見に行くことになった。

恋は、芽生えるかしら……。


了。

次の課題とお題
お題、トド、インフルエンザ、歴史

課題、探偵が主人公。


よろしく。

謎の物書きP
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【哲学的な彼女3】
【三語即興文】
夜の雨さま『隣人』の感想から。

どのように哲学を絡めるかというところがポイントですが、「戦争と平和」良いのではないでしょうか。東北が青森秋田とかと思いきや、単なる方角という叙述トリック的要素もありました。これはもうちょっと引っ張ってもよかったような。あと、ヒロイン感がちょっと薄かった印象です。

さて、事故作品というていで、【哲学的な彼女3】言い出しっぺが参戦致す⚔️


お題【隣人】【最後】【散歩】
課題:哲学的なヒロインを登場させる


『わたしは模倣』

 女性が一生のうちに引っ越す回数は平均三回だと言う。だけど、私について言えばすでに超えてしまっている。いわゆる相隣問題。よほど運が悪いのか大抵上か隣の部屋にモンスターが住んでいる。深夜であれ明け方であれ構わず騒音を撒き散らす住人に悩まされ続けた。汝の隣人を愛せよなんて私には無理みたい。こういったケースは多くの場合、被害者が別の物件に引っ越す結末になる。早い話泣き寝入り。管理会社に言っても匿名では注意喚起のビラがエレベーターに貼られるくらいだし、管理会社立ち会いのもと話し合いしても解決しないどころか逆恨みされるのがオチ。

 引っ越すのはこれが最後。あ、独身としてって意味ね。駅近とか、スーパー、コンビニとかもう贅沢は言わない。四階建てエレベーターなしの最上階角部屋を契約した。隣も空室だったのが決め手。分かってる、いつまでも空室のままであるわけないと。でもたったひと時でも騒音に悩まされない静かな暮らしを私にください。

 散策がてら散歩に出かけた。よく言えば閑静だけど、はっきり言って何もない。独特の匂いに足を止める。プラタナスの並木道。その香りが遠い記憶を呼び起こす。

「鈴香ちゃん」

 自然とその名前が口からこぼれ落ちた。鈴香ちゃんの家の庭にもあったっけ。気になって聞いたことがある。
「哲学の木よ」と鈴香ちゃんは答えた。

 鈴香ちゃんは可愛くて頭も良かったんだけど、何か欠けていた。感情? 心? ちょっと違うかな。うまく言えないけど、小学生だった私たちとは明らかに違っていた。そんなだからクラスの中でも浮いた存在だったんだけど、私は帰り道が同じだったこともあって興味を持ち、いつからか一緒に帰るようになった。

「イデア論です」
 鈴香ちゃんの話は難しくていつもついていけなかったしどういう話の流れだったかも覚えていないけど、その言葉は印象に残っている。
「何それ?」
「イメージみたいなものです。例えばリンゴと聞くとその映像が頭に浮かびますよね。でも世の中に存在するリンゴはどれも大きさや形、色、全く同じものはありません。全てはイデアの模倣に過ぎないのです」
「イデアは私たちが持っている平均的な形のイメージってこと?」
「そうです。他に洞窟の比喩というものもあります。洞窟の中に囚人が監禁されていて、入り口には焚き火。見張り役が焚き火の前で動物の模型をかざします。するとその影が洞窟に入り込み囚人にはそれが本物の動物であるように見えるのです」
「うーん、そうかなぁ模型って動かないじゃん」
「比喩ですからね。つまり、わたしたちが本物と思って目にしているのは虚像に過ぎず、元となるイデアを目にすることはないのです」

 そうだ、それからしばらくしてからだった。飼っていたコロが死んだのは。

「悲しむことはありません。コロもイデアの模倣なのですから」

 コロの傍で座り込む私の肩に鈴香ちゃんがそっと手を置く。私はその手を払いのけた。

「そんなわけないじゃん! コロはコロだよ! 何でそんなこと言うの? 鈴香ちゃんなんて大っ嫌い!」

 今にして思えば、あれは鈴香ちゃんなりの慰めだったのかも知れない。

「ごめんなさい」

 それだけ言い残し、鈴香ちゃんは去っていった。
 それから何だか気まずくなって、別々に帰るようになった。同じ帰り道、私は鈴香ちゃんの後を離れて歩く。

 一瞬の出来事だった。一時停止を無視した車に鈴香ちゃんが目の前ではねられたんだ。ピクリともしない鈴香ちゃんに駆け寄り必死に呼びかける記憶が脳裏を駆け巡る。

「鈴香ちゃん、鈴香ちゃん! しっかりして!」

 鈴香ちゃんは力を振り絞って右手を私の頬に伸ばして流れる涙を拭った。

「そんな顔……しないで……ください。わたしは模倣……ですか……ら」

 言い終えるとその手は力を失い地に堕ちた。

「ごめんなさーい! 鈴香ちゃん、ごめんなさーい!」

 その声は鈴香ちゃんに届かなかったと思う。私のせいだ、私が鈴香ちゃんと一緒に歩いていたらこんなことにはならなかったんだと自分を責めた。やがて私はその苦しみから逃れようと鈴香ちゃんとの思い出を封印しようと努めた。

 プラタナス並木を抜けるとこじんまりしたかわいいカフェを見つけた。今度お茶しに来よう。

 帰宅すると玄関のポストからビラらしきものが飛び出ていた。すぐ目につくようにだろう。取り出して紙面に視線を落とすと、最初の一行でため息が漏れた。隣に越してくる住人からの手紙だ。不在だったため改めて挨拶にくるらしい。今の時代、わざわざ挨拶にくるなんて律儀な人と思う一方、そこは今風でいいんだけどというのが本音。

「すいません」

 その声に顔を向ける。

「あの、わたし隣に越してきた那須といいます。良かったー、女性の方で。仲良くしてください」

 鈴香ちゃんそっくりな隣人に私は声を失った。

「ごめんなさい」
「え?」
「あ、いえ、留守にしてて」
「なんだー、拒否られちゃったかと、思いましたよー」
「ねぇ、かわいいカフェ見つけたから一緒に行きませんか?」
「いいですね、ちょっと待っててください」
 那須さんは部屋へと戻る。

 あの時鈴香ちゃんに伝えられなかったごめんなさいを届けることができた。そんなわけないことは分かってるけど、少なくとも私にはそう感じた。

謎の物書きP
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【哲学的な彼女3】
【三語即興文】

『わたしは模倣』のセルフ感想から。
とりあえず哲学的にはなったのではなかろうか。ラストの描写は『八丈島の雪』で、ああこうしておけばよかったと思った反省を改善したつもりである。あと、ごめんなさーいは二回繰り返すより最初はごめーんにしておくべきだったのと、回想から戻って気持ちの切り替え早すぎた気がする。と、いつも投稿してから思う。

お題同じなので省略



『メンガーの男』

 住宅街にサイレンがこだまする。マンションの一室で最近世間を騒がせているスポンジ連続殺人事件の新たな犠牲者がでたのだ。
 今回の犠牲者もこれまでと同様、男性。おびただしい数の小さな穴が空けられていた。スポンジとはその穴だらけの遺体の様相からつけられた名前である。
 隣人より異臭がするとの通報があり、付近をパトロール中だった隊員が駆けつけたところ事件が発覚した。最後に目撃されたのは三日前。散歩に行くと妻に言ったまま帰らず、その後家族より捜索願いが出されていた。
 被害者たちに接点はなく、当初無差別連続猟奇殺人と思われたが、捜査を進めていくうちにある共通点が浮かび上がった。

 性的倒錯者

 淫行目的で女性を連れ込み蹂躙するという性癖が証拠品から判明したのである。殺害現場は、男たちがその目的のために用意した物件であることが多く、用途上防音になっており近隣住民にも気づかれにくい。また、普段の生活の中でその性癖を表に出さないため、家族も事件後に身内の裏の顔を知らされるケースがほとんどだった。

 防犯カメラの映像には女性と思しき人物が写っているのだが、身元は判明していない。恐らく被害者たちはその女性をターゲットにしたものの返り討ちにあい、逆に穴だらけにされて殺されたのだろうと捜査本部は推測。その情報が報道されると、ネット上では犯人を切り裂きジャックになぞらえ「穴抜きベティ」と呼ぶようになった、



「おい、お前なんだこれは? 外せ!」
「あら、お目覚め? 何って、それはあなたの持ち物でしょう?」
「ふざけるな! これは僕が奴隷に使うものだ! 僕を拘束するためじゃない!」
「えーと、どれどれ。最上強《もがみつよし》っていうんだ。強そうな名前ね」女は財布から抜き出した免許証を見て微笑む。
「ああ、僕は最強の貴族だっ! 女はみんな僕の奴隷なんだ!」
「そんなことない、あなたはもっと素晴らしくなれるのよ」
「何をする気だ?」
「あなたには無限の可能性が眠ってる。私はそれを引き出すの。これを使ってね!」
 女は傘を手に取りシャフトを引き抜いた。先端の尖った仕込み傘だ。
「お前が、あ、穴抜きベティか?」
 女は笑いながら最上を突き刺した。
「誰か! 誰か助けてくれ!」
「叫んでも無駄だってことはあなたが一番わかってるでしょ」女が引き抜いたシャフトをまた別の場所に突き立てると最上は獣のような声を上げた。
「9の法則って知ってる?」
「し、知らねぇ」
「成人の体表面積の比率よ。頭、腕、大腿部、下腿部はそれぞれ9%、胴体の前面、背面が共に18%、それを足すと99%になるんだけど、ねぇ、残り1%はどこかわかる?」
 最上は苦痛に顔を歪めて首を振る。
「ここよ!」女は最上の股間を思いっきり握った。
「手のひらだけも1%、あなたは標準的な手をしてるから150㎠ってとこかしら。だとすると、その100倍があなたの全体表面積。1.5㎡ということよ」
「さっきから何言ってんだ! 意味わかんねぇよ」
「黙ってて」女は続け様に三回シャフトを降り下ろした。
「メンガーのスポンジよ。スポンジに穴を開けると体積は減るけど、面積は無限に発散する。シャフトの直径は8mm、3センチの深さで100回刺すごとにあなたは1%素晴らしくなるのよ」
「お前狂ってる、マジでイカれてるよ!」
「この前の人は2%くらいだったかな」
 女は高々とシャフトを振り上げる。

「さぁ、あなたはどこまで素晴らしくなるのかしら?」

 外に届かぬ男の叫び声が響き続けた。

謎の物書きP
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【哲学的な彼女3】
【三語即興文】
『メンガーの男』のセルフ感想から。
今回はホラーです。当初刑事とヒロインのWキャスト的なストーリーで書いたのですが、掌編とはいえラストがどうしても都合良すぎになってしまうため、刑事パートをバッサリカット。結果的に前半が長ーい解説になってしまったのが反省点。
「メンガーのスポンジ」は哲学なのか微妙だけど、無限は哲学の永遠のテーマということでご容赦を。
事故作品扱いでお題は同じ。



『ザ・ヴァイオリニスト』

 見慣れない部屋のベッドで私は目を覚ました。不思議とその空間さえも夢だとわかる。これってきっと明晰夢ってやつね。

「ダメ」

 意識はハッキリしているのに、どんなに頑張っても指先一つ動かせない。自由がきくのは首から上だけ。ふと横をみると髪の長い綺麗な女性が眠っている。お人形さんみたい。その左腕には赤いチューブが付いている。チューブの繋がれた先を目で追うと、それは私の右腕に繋がっていた。これってひょっとして輸血ってこと?

「気が付いたかい?」

 いつのまにか白衣の男が部屋にいた。知っている声。

「優斗! ちょっとどういうこと? 私どうなってるの?」
「落ち着きたまえ。君は今、サラに輸血をしているんだ。ただの輸血だから心配する必要などないのだよ」

 姿形は優斗そのものだけど違う、優斗はこんな喋り方はしない。でも、そっか夢だもんね。夢と分かっていても優斗にまた会えたことが嬉しい。別れの言葉もなく突然私の前から去ってしまったけど、何か訳があるのよね? 私、ただの遊び相手なんかじゃないよね?

 聞きたいことはたくさんあるのに、これも夢の中だからかな。思うように言葉が出てこない。

「サラって何者? 何で私が輸血しなきゃいけないのよ!」

「ミク、よく聞くんだ。彼女は世界的に有名なヴァイオリニストで、輸血をしないと死んでしまう状態にある。分かるだろ? 彼女を失うことは世界的に大きな損失なんだ」
「だからって、何で私なのよ! 輸血くらい他にいくらでもいるでしょ!」
「血液型だよ。彼女は世界に50人もいない、黄金の血の持ち主。Rh null《アールエイチヌル》だ。そうミクと同じだ」

 そんなわけない。私はただのO型。全然希少種なんかじゃない。これってきっとこの前テレビで見た話が影響してるのね。仕方ないと私は夢の設定に身を委ねる。

「それで? 私いつまでこうしてなきゃいけないの?」

「9ヶ月だ」

「は? 意味わかんないんだけど。嫌よ私! ヴァイオリニストだか何だか知らないけど何で見ず知らずの女にそこまでしなきゃいけないのよ!」
「最後に聞かせてくれ、本当にそれでいいのかい?」
 無表情な優斗が顔を近づけて尋ねる。その言葉に私はこの夢がとても深刻なものに思えてきた。

 私…….、私、



「ミク、ミク!」

「お、かあ、さん?」
 必死に呼びかける声が、私を夢の中から連れ戻した。
「よかった! 早く先生に!」涙を湛えた瞳でお母さんはナースコールを押した。
 
 診察を終えて朦朧とした頭に、現実の記憶が徐々に流れ込んでくる。
 優斗、クラブで出会い、夜を共にするようになった男。妊娠したことを知らせたあと、まるで煙のように消えた。絶望した私は、……。

 母から聞かされた話では、大きな物音に驚いた隣人が駆けつけて、救急車を呼んでくれたのだと。

「お母さん、ごめんなさい」
「今は喋らなくていいから休みなさい。お母さんは着替えとってくるからね。お願い、もうこんな真似しないと約束して」

「うん」

 妊娠20週。お腹の子も無事であるとお医者さんは言っていた。決断するために必要な時間はいくらも残されていない。産むのか、それとも、……。私は瞳を閉じた。

 明晰夢。私は一人公園を散歩している。暖かな陽だまりのベンチに腰をかけ、空を見上げる。抜けるように青い空。気持ちいい。
 はらり木の葉が膝に舞い落ちる。私は膨らんだお腹に手を添えた。

「サラ」

 一筋の涙が頬を伝う。

謎の物書きP
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【哲学的な彼女3】
【三語即興文】

『ザ・ヴァイオリニスト』のセルフ感想から。
見ず知らずの人の命を救うために長期間輸血で身を捧げるべきかどうかというのが、タイトルと同名の思考実験。
もともと、望まぬ妊娠をした女性が産むか中絶するかどちらがただしいのかというものを例え話。
そのままドラマっぽくしてみた。割とよくできたと手前味噌。
ラストはどちらとも取れるようにしておきました。

引き続き事故作品扱いで

【哲学的な彼女3】
『what we didn’t know (俺たちが知らなかったこと)』

ただの哲学の説明にならないよう極限まで哲学色薄めた。んでもベースは哲学の思考実験。興味ある方は【メアリーの部屋】で🔍
本編だけで3000字くらいなので、この後投稿。

ちなみに通常三語で投稿したい方は
お題、トド、インフルエンザ、歴史

課題、探偵が主人公。

謎の物書きP
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あら、コウくん今日はバイトお休みなの?」
 散歩から帰ってくると隣人のおばさんから声をかけられた。
「とりあえず今年のバイトは昨日で最後です。色々忙しくて」
 本当はバイトリーダーとケンカして辞めたんだけどな。
 俺はおばさんの隣にいるブロンドの女の子に目をやる。誰だろう?
「あ、紹介するわね。メアリーちゃん。コウくんとは学校違うけど、ロンドンから留学に来てて、うちで預かってるの。ホームステイよ」
「へー、僕は幸助かです。コウって呼んでください」
「メアリーです。学校ではマリにしてます」
 青い瞳に白い肌、クラスの女の子とは違う魅力にドキッとした。
「それじゃ」おばさんとマリは頭を下げたあと車に乗り込んだ。


 店長不在で代理を務めるバイトリーダーのやり方にブチ切れちまった。多分クビだろう。新しいバイト探さなきゃだけど、わざわざ繁忙期に新天地に行くこともない。勉強もしておかなきゃだしな。それにしても、マリちゃんか。可愛かったな。


 バイト漬けから一転して勉強漬けの日々。マジ精神的に疲れるな。気分を変えようとスマホをいじりロンドンについて色々調べてみる。マリちゃんと話すきっかけにでもなれば、そんな下心があった。


 部屋にこもって勉強しようとしても気が散ってゲームばっか。参考書片手に図書館へとやってきた。イヴに図書館で勉強ってのも寂しいな。いっそバイトしてる方がマシ。あれ?

「コウ?」
 俺より早くマリちゃんが気づいた。
「えっと、マリ……勉強?」
「ええ、もう帰るところですが」表情はどこか寂しげだ。
「あのさ、ここカフェあるから一緒に行かないか?」
 マリちゃんは予期せぬ提案に少し驚いたようなそぶりを見せたけど、一呼吸おいて答えた。
「ご一緒します」


「マリって、日本語上手だよね」
「独学で勉強しました」
「さっきも一人で勉強してたけど、友達は?」
 その言葉にマリちゃんは俯いた。しまった、デリカシーないことを聞いちまった。
「日本人の友達なんて不要です。勉強なんて、いえ、世の中のことなんて一人で学べます。実際確かめる必要もないの」
「そんなことないよ。机の上だけで全て学べるわけがない。自分の目で確かめることに意味があるんだ」
「いいえ、日本の女子高生なんて排他的で、陰湿。そのままでした。わざわざそれを体験する必要なんてなかったのよ!」
「違う!」
 大声をだす俺に周りの視線が集まる。
「お客様、お静かに願えますか」
「すいません。マリ、行こう」


 帰り道、気まずい沈黙。留学生によくあるホームシックになっているんだろう。慣れない異国での暮らしに加えてコミュニケーションがうまく取れない苛立ち。それに明日はクリスマス。欧米では家族と一緒に家でゆっくり暮らす日。だけど、その家族もここにはいない。
「日本人ってそんなヤなやつばっかじゃないぜ。優しい人だっていっぱいいる。たまたまそうじゃない奴らに囲まれただけさ」
「知ってます。でもそれが何? わざわざ確かめる必要なんてないわ」
「マリは日本のクリスマスって知ってるか?」
「知識として知ってます。お店やイベントもいっぱいやってて、友人や恋人と過ごす日」
「なぁ、明日俺と出かけないか?」
 マリの頬がほのかに赤くなったように見えた。もっとマリと話していたいのに、こんな時に限って信号はずっと青。
「一人称が俺になりましたね」
「ああ、仲いいやつの前ではいつもそうだよ。俺がマリの目を醒まさせてやる」
 マリはそれっきり黙ったまま気づけば家の前。くっそ、そんな赤信号はいらねぇよ。
「何時ですか?」マリは背を向けたまま玄関のドアを開ける。
「昼前10時でどうだ? 遊びに行って飯でも食おう」
「わかりました」
 信号が青に変わった。


「お待たせしました」
 私服のマリは一段と可愛い。俺はマリを水族館に連れて行った。水槽を眺めてまわり、イルカショー。
「今日はクリスマス特別イベントといたしまして、お客様の中からショーに協力頂きたいと思います!」
 突如バックスクリーンに俺とマリが映し出される。
「では、そこのカップル、ステージへどうぞ!」
 カップルという言葉と周りの拍手が気恥ずかしい。マリは耳まで真っ赤だ。
「お二人でこのポールを水平に持ってください。そこをイルカさんたちが飛び越えます。責任重大ですよ〜」
 係員のプレッシャーに負けたんじゃない、マリとのケーキ入刀を想像してしまい、腕がぷるぷるする。
 イルカたちはそんな俺の気など知るはずなく次々と飛び越えていく。
「すごーい」初めてマリの笑顔を見た。
「ありがとうございました。皆様今一度お二人に盛大な拍手を!」
 大歓声の中、恥ずかしさに耐えきれず俺たちはステージを後にし、食事に向かう。クリスマスで小洒落た店はどこも予約でいっぱい。やっと辿り着いたのは行きつけの牛丼チェーン。


「クリスマスだってのに、牛丼でごめんな」
「いいえ、すごく楽しい」
 俺たちの仲を邪魔するかのようにスマホが鳴る。店長からだ。
「すいません店長、俺もうあいつとは無理です。近いうちに手続き行きますんで。それじゃ」俺は一方的に話を終わらせて電話を切る。
「コウ、どうしたの?」
「なんでもない。バイト先、いや“元”バイト先から。先輩と揉めてさ、そんで突然俺が抜けてクリスマスの繁忙期に店は大忙しらしい。ざまみろだ」
「行って、コウ」
「は? やだよ。俺はもうあんなムカつく先輩と一緒にやりたくない」
 テーブルに置いたスマホが再び鳴る。ディスプレイに映る『店長』の文字をマリが見つめる。
「コウ、日本人は勤勉なんでしょ? 目を醒まさせるって、私そんなコウ見たくないよ。私コウを嫌いになりたくないの。お願い!」
 潤む瞳でマリが俺を見る。ああ、くそ! 俺はスマホを乱暴に掴む。
「店長、すいませんでした今から行きます!」それだけ伝えて切った。
「コウ」
「悪いマリ、行ってくる。だけど明日は意地でも休むから、また明日続きってことでいいか?」
「うん」
 良かった、マリに笑顔が戻った。
「マリ、これ大したもんじゃないけど」俺は用意していたプレゼントをマリに手渡した。
「ありがとう、コウ急いで!」
「ああ」


 あー、身体中がいてぇ。昨日は散々だったな。しばらく顔出さない間に店内はひっちゃかめっちゃかだった。バイトリーダーも俺の苦労をわかってくれたみたいで平謝り。そんなだから俺も素直に謝れた。マリの言うこと聞いといてよかったんだよな。今日マリとは外で待ち合わせ。

謎の物書きP
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「コウ! ごめん遅くなっちゃった」
「俺も今来たとこ」本当は30分前からだけどな。
「あれ?」
「へへ、似合う?」
 俺があげたネックレスをしてくれてた。
「うん」
「ありがと、はいこれコウに」
 マリはプレゼントらしき包みの箱を俺にくれた。
「さんきゅ」
「ねぇ、コウは今日がボクシングデーだって知ってる?」マリはふざけてシャドーボクシングの真似をする。
「そのボクシングじゃないよな。クリスマスに休めない労働者が箱《ボックス》入りのプレゼントをもらう日だろ」
「ちぇっ、知ってたかー」
「まぁな」
 マリと仲良くなりたいがために学んだ知識だとは言えない。
「ありがとうコウ、やっぱり知識だけじゃダメね。私、経験が人を成長させることに気づけた。コウのおかげでね」
「俺もマリのおかげでボクシングデーのありがたさが分かったよ」
「ねぇ私のことはポリーって呼んで」
「ポリー?」
「メアリーの愛称よ。仲いい子はみんなそう呼んでる」
「よし! 行くぞポリー!」
「うん」




くっ、不覚。monogatary の文字カウンターで3000字未満まで削ったのに、オーバーしとる。
まぁどちらにせよただの事故作品である。

謎の物書きP
p3422218-ipxg00d01tokaisakaetozai.aichi.ocn.ne.jp

【哲学的な彼女3】
【三語即興文】

『what we didn’t know』の感想から。
色については完全に知識として理解しているが、白黒の家で育ち一切色にふれていないメアリーが外の世界で色に触れたら得るものはあるかという思考実験がテーマ。哲学薄めすぎたかも。

引き続き
【哲学的な彼女3】

『ツンデレ少女ユミの哲学指南』

 ちょっと、何さっきから私のことジロジロ見てるのよ。え? 何を読んでるのかですって? 見たらわかるでしょ『哲学散歩』よ。
 もしかしてあんた哲学も知らないの? ソクラテス、プラトンやアリストテレスくらい知ってるでしょ。
 何か教えてくれ? なんで私があんたなんかに教えてあげなきゃいけないのよ。自分で調べなさい。
 森羅万象、世の中の理を探求する学問よ。科学の土台でもある。覚えておきなさい。
 は? 教えてくれるなんて意外と優しいね? 変な勘違いしないで。ただの隣人愛なんだから。自分を愛するように他人にも接しなさいって哲学、宗教の倫理よ。ちょ、ちょっと何赤くなってるのよ。愛って恋人ってことじゃないんだからね!
 もっと知りたいですって? 図々しいわねあんた。今日はクリスマスだから特別よ。でもあんたのわがままに付き合うのはこれが最後だからね。
 じゃあちょっと面白い話してあげる。最新の研究では、この世は仮想現実だってことが確実視されているの。分かる? 私たちが現実だと思っているこの世界は虚像なのよ。
 VRゴーグルで見る世界のようなものかですって? あんた本当にわかってないわね。シミュレーテッドリアリティっていう現実と全く区別ができないクオリティの世界よ。イーロンマスクが金に物言わせて科学者集めて研究してるわ。それを試している人達の世界さえもシミュレーションの可能性さえあるわ。
 信じられない? いつの時代も最先端な仮説はあなたみたいな凡人には理解できないものよ。地動説だってそうでしょ。ガリレオ? そんなこと知ってるからって得意げな顔しないで! ガリレオは16〜17世紀よ。アリスタルコスなんて紀元前300年に地動説唱えてたんだからね。
 
 え? もっと知りたい? 欲張りね、どれだけ欲しがるのよ。いいわ、最後に私の仮説を特別に教えてあげる。変な勘違いしないでよ、あんたが特別って意味なんかじゃないんだから!

 いい? 私はタイムマシンってあると思うの。この世界にあるかどうかはわからない。タイムマシンで過去に戻っても未来は変えられないというのが定説よ。親殺しのパラドックスね。じゃあその世界はどうなるかというと、そこから別の時代が始まると思うのよ。そうなるといくつもパラレルワールドが存在することになるし、オリジナルの世界とほぼ同じでありながら、ところどころ違うという特徴も当然よ。
 他にも世界5分前創造説なんてものもあるわ。ビッグバンで誕生したというこの世界も、実はたった5分前にできたものかもしれないの。
 そんなはずないですって? みんなそういうは、個人の生い立ちでさえも5分前に設定されて埋め込まれた記憶であれば、私たちはそれを看破することなんてできやしない。
 神がオリジナルの世界をタイムマシン的に色々過去をいじってシミュレートしているなら、正に5分前にできた世界かもしれないわ!

 違う? あんたに何がわかるのよ! 生意気言わないで! え、そんなことが聞きたいんじゃない? ふざけないで! あんたが何と言おうと、この世界は5分前にできたのよ!
 何ですって? そんなことが聞きたいんじゃない? 知りたいのは私のこと? 君への想いは5分前にできたものなんかじゃない? ば、馬鹿じゃないのあんた! 何言ってんのよ!
 あんたどうせこの後ヒマでしょ? いいわ、分からず屋のあんたに特別レッスンよ!

謎の物書きP
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【哲学的な少女3】
【三語即興文】

『ツンデレ少女ユミの哲学指南』のセルフ感想から。
この世がバーチャルではない確率は百万分の一しかないそうな。
あ、あと時間は流れず過去、現在、未来が重ね合わさってるというの入れ忘れちゃった☆
どっかの次元の人がタイムマシンで過去を変えてるとすると、それも矛盾しないような、と独自解釈を入れてみた。知らんけど。
 引き続き


【哲学的な彼女3】
『ピアノ弾きは歌うように』

「茉莉絵、コンクール代表選抜の曲決めた?」
「んー、『木枯らし』にしようかなって思ってる」
「ショパンかー。あ、聞いた? 隼斗くん『鬼火』らしいよ」
 リストの超絶技巧第五番? 世界最高難度と呼ばれる曲なのに。隼斗くんの上達は目覚ましい。腕を上げたと思っていたけど、まさかそこまでだったなんて。
「千尋は?」
「『トロイメライ』どーせあたしに代表なんて無理だし。エキシビジョンみたいなもん。でもさでもさ、茉莉絵は可能性あるんじゃん」
 私にとってこれが最後のチャンス。隼斗くんに負けるわけにはいかない。
「私、帰って練習する」
「そ、じゃあまた明日ね」
 隼斗くんの話を耳にして心がざわつく。私も難易度を上げた方がいいのかな。ショパン最高難易度『12の練習曲 Op.25-6』あたりにするべき? ダメ、冒頭の三度(※二つ隣の白鍵との和音)の連続を弾きこなせる自信がない。隼斗くんは超絶技巧なんて怖くないの?

 私は自室のピアノに向かう。お父さんが隣人に迷惑をかけないようにと防音仕様にしてくれた特別な空間。『木枯らし』の難しさは速い16分音符の連続と指の分離。幸いどちらも私は得意な方なのだけど、やっぱりミスが目立つ。もっと正確に、テンポも強弱も! もっと! もっと! そうだ、AIと一緒に合わせて弾こう。そうすれば、もっと正確に弾けてミスも減らせるはず。

 選抜は明日。やっぱり練習は嘘をつかない。上手くなってる。学校の練習室で千尋に会心の『木枯らし』を披露した。
「すごーい。全然ミスしてないじゃん! でも、……」
「何?」
「んー、なんて言ったらいいかな。あたし茉莉絵の『カンタービレ』の方が好き」
「うそ!」
 こんなに頑張って練習してきたのに、中級レベルの曲に劣るの? 
「そんな、私ちゃんと弾いてるのに」録音した演奏に耳を傾け、その無味乾燥とした旋律に言葉を失った。きっとピアノのせいだと、私は家のピアノに向かう。
 
 どうして? どうして上手く弾けないの? テンポも強弱も音階も何もかも完璧なのに!
 タブレットの自動演奏がリピートを開始する。私は思わず叫んだ。
「同じ! わたしの演奏は機械と全く同じだ! でも正確ならいい演奏じゃないの? 何が足りないの? どうしたらいいのよ!」



「素晴らしいわ茉莉絵、まさにカンタービレ(歌うよう)よ」
 聞き覚えのある声が頭に響く。遠い子供時代の記憶。
 ショパン『カンタービレ 変ロ長調』を弾き終えた私を不二子先生がハグする。
「うーん、いっぱい間違えちゃった」
「いいじゃない、失敗しても。AIじゃないんだから。演奏の上手い人なんていくらでもいる。だけど、自分を表現できるのは一握り。あなたにはそれができてる」
 いつも優しい不二子先生が大好き。そういえば先生のおかげで辛いレッスンも乗り越えて私はピアノを続けられたんだっけ。



「ワン、ワン!」
 ピアノに突っ伏して寝落ちしている私にポメ助がもう待てないと散歩の催促にきた。
「ごめんねポメ助、お散歩行こうね」
 リードを握り私は考える。そう私は選抜を意識しすぎて楽しむことを忘れていた。ただ苦しいだけのピアノを弾いていたんだ。ありがとう不二子先生。

 選抜当日。隼斗くんは素晴らしい演奏を見せた。私は不二子先生の言葉を思い出して、鍵盤の前に座す。
「それでは始めてください」
 もうあれこれ考えるのはおしまい。ミスタッチ、ちょっと走り気味? それでもいいじゃない。楽しまなきゃ、私は歌うようにピアノを奏でる。

謎の物書きP
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【哲学的な彼女3】
【三語即興文】

『ピアノ弾きは歌うように』のセルフ感想から。
なかなか上手く纏まったのではないだろうか。妥協点は「三度」の説明で※をいれたこと。難度の高さから尻込みするのを表現したかったけど、それを説明なしではわかりにくい。登場人物に説明させると読者への説明セリフになりそうだからと考えた結果。もっと自然に表現できるかは今後の課題としておこう。そうしよう。


引き続き【哲学的な彼女3】

『波にさらわれるその日まで』

「ここね」隣人から教えてもらった情報をもとに、私は剥製店へとやってきた。
「いらっしゃいませ」
「あのー、こちらでペットの剥製を作ってもらえるって聞いたんですけど」
「はい剥製葬ですね、わたくし葛西が担当します。おかけください」
 何だか意外。これまで剥製というと、怖い気がして、こう言っちゃうと悪いんだけど、薄気味悪い男の人が怪しげな器具をカチャカチャしている姿をイメージしてた。でも今、目の前にいる店員さんは同性の私からみても思わず見惚れてしまうくらい品の良い美人。
「かわいい猫ちゃんですね。お名前は?」私は机の上に敷かれた座布団の上で丸くなっている猫の背中に手を伸ばそうとしたけど、反射的に手を引っ込めた。息をしていない?
「驚かれましたか? 他のお客様の依頼で作成したものです」
「びっくりしました。私、剥製って博物館のクマとか虎とか、いかにも標本みたいなのしか見たことなくて。なのに、その猫はまるで生きてるみたいで」
「皆さま驚かれます。これは従来の手法とは異なり、フリーズドライという技術を用いています」
「フリーズドライって、あのインスタント食品とかのですか?」
「はい、凍らせて水分を徹底的に排除することで腐敗を防ぎます。皮だけの剥製とは異なり、筋肉も残りますので生前のフォルムを高いレベルで表現できます」
 店内を見渡すと、いろいろなポーズの剥製がある。胡桃を抱えたリス、食事している猫、散歩中の犬。
「あの、この子と同じくらいのサイズなんですけど、おいくらかかるものですか?」私はスマホにレオの画面を表示して差し出す。
「剥製葬でご相談に見える方は大勢いらっしゃいますが、そうですねお話を伺ってお見積もりということになります」
「大体でいいんです」
「相場は20万円以上といったところでしょうか。眼球は保存できませんので、目を開いた状態をお望みでしたら、追加料金でガラス玉を入れることも可能です」
 大きな出費ではあるけども、出せない額じゃない。もうレオは長くない。このままお別れだなんてそんなの嫌。この猫ちゃんみたいに剥製にすれば、これからもずっとレオと一緒にいられる。
「構いません。お願いします」
「それでは、まずはお名前をお聞かせください」
「塚原です」
「猫ちゃんのお名前をお願いできますか」
 葛西さんが微笑みを浮かべる。そっちか。
「レオです」
「男の子ですね。では、レオくんとの出会いから今日までどのように暮らしてきたのか、お聞かせください」
「それって何か関係あるんですか?」
「重要なことですので」
 訝しむ気持ちはあったけど、私はレオを拾った日のこと、脱走して探し回った日のこと、彼氏に振られて悲しみに暮れている時に寄り添ってくれたこと、もう老衰で死期が迫っていること、レオへの想いが堰を切ったように溢れ出した。
「すいません」感極まって泣いてしまった。ハンカチを取り出して涙を拭う。
「レオくんに対するあなたの想いはよくわかりました」
「それで、金額の方は?」
「お受けすることはできません」葛西さんは悲しそうな表情を浮かべて静かに答えた。
「どうしてですか? だって、この子、他のお客さんの依頼は受けたんでしょう?」
「そのお客様にはそれほど愛情を感じませんでした。ブランド物の香水の瓶を飾るような感覚とお見受けしたのでお引き受けした次第です」
「意味がわかりません」
「ご説明します。まず、これから申し上げることは私個人の考えです。剥製葬を望まれる方、それを行う同業者を非難するものではないことをご了承ください」
 私は黙って頷いた。
「こんなお話があります」葛西さんは穏やかな口調で話し始めた。

 あるリゾート地を訪れたピカソ好きな男性が、砂浜に絵を描く老人を目にします。その絵はピカソそのもので、男性はその老人がピカソ本人であると気づきます。放っておけば、その絵は満ちた潮に流されてしまう。そこで男性はカメラに収めたらどうかと思い付きますが、それはただの写真に過ぎません。取りに帰っている間に波にさらわれてしまうかもしれません。それならば、消えてしまうまでのわずかな時間、ピカソの芸術に浸る方が良いのではないかと。

「わたくしがおすすめしたいのは、残されたレオくんとの日々を大切に過ごしていただきたいということです」
 再び涙が溢れ出した。
「死しても共にいたいと剥製葬を望む方、剥製にするのは可哀想と思う方、どちらが正解ということはありません。ですが、わたくしはその愛情を最後まで注いで欲しいと思います。今この時にレオくんのいない未来の自分を慰めることを考えるのではなく」
 私は葛西さんの言葉を噛み締めた。
「剥製葬をする方を白状というつもりはございません。死生観の違いです。どうしてもということであれば、別の剥製店をご紹介いたしますが。いかがなさいますか?」
「ありがとうございます。葛西さん、私剥製葬やめます。レオにいっぱい愛情を注ぎます」
「それがいいと思います」葛西さんは優しく微笑んだ。


「ただいまー」
 私の足音を早くから聞きつけたのだろう。レオが玄関先で待ってくれていた。ひょいと持ち上げて抱きしめる。
「レオ、最後まで一緒にいるからね」

 波にさらわれるその日まで

謎の物書きP
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【哲学的な彼女3】
【三語即興文】
『波にさらわれるその日まで』


思考実験『波打ち際のピカソ』がテーマ。ペットの剥製葬の是非に落とし込むと、より哲学っぽくなったのではと。
剥製葬を否定するつもりはないと、一応断っておきます。
んでわ、引き続き【哲学的な彼女3】



『長南年恵と云ふ女』

「和三郎、おはよっす」
「おう、おはよっす」
「オメェ何難しい顔してんだ?」
「庸三は卵と鶏どっちが先だど思う?」
「わがんね、卵でねぇの」
「んだけんど、卵はどごから来たんだ? 何もねぇのに突然現れだのか?」
「ほだなこどあるわげねだべ」
「ふんだら、どだなことだ?」
「そだなこと、俺が知るわげねだべ。ほれ、この前でぎだ東京大学の学者さんがそのうぢ解明するんでねが?」
「そだな」
「何でほだなこど聞ぐんだ?」
「長南《おさなみ》年恵っておなごいっぺ?」
「鶴岡さんどこの子守りでねぇが?」
「んだ、ちぃと不思議なごどがあっでな」

 和三郎は年恵にまつわる不可解な出来事を庸三に話した。
 年恵は奉公先で予言めいたことを言うようになり、それが評判を呼んで今や隣人はじめ多くの近隣住民が年恵のもとへ相談に訪れると。和三郎の母親もその一人。長年患っていた膝の痛みを訴えたところ、年恵は密封した空の一升瓶を目の前で満たした。神水というその水を飲めば治るという言いつけに従ったところ、嘘のように痛みがとれたと言う。

「おい和三郎、噂ばすればだ」庸三が散歩している年恵を指差す。
「年恵! おがげで、おがぁの膝よぐなっだ。どうもな」
「気にすねぐでいっす」
「なぁ年恵、オメェいぐづだ?」庸三が尋ねる。
「二十二だ」
「俺より年上でねが。15ぐれぇがど思っだ。和三郎から聞いだけんど、オメェなんが不思議な力があるみでぇだな」
「試すてみっかっす?」

 年恵は持っていた麻袋を差し出して二人に引っ張るよう促した。綱引きで力比べをしようということだ。和三郎と庸三が二人がかりで目一杯力を込めるも、びくともせず逆に地べたに倒されてしまった。

「何食ったらほだえ強ぐなるんだ?」
「これと水だけだ」年恵は袋からサツマイモを取り出した。
「芋だげ?」
「んだっす」年恵は生芋を齧った。

 和三郎は、年恵の神秘的な力に興味を持ち、その後も年恵の動向を追うようになった。無から有を生み出すという、常識的に考えてあり得ないことが実際目の前で起きている。これは宇宙誕生の謎を紐解くことにつながるのではないかと考えた。
 明治28年、年恵は無資格で医療行為を行なった容疑をかけられて逮捕された。獄中でも年恵はほとんど食事を摂らないどころか排泄行為さえない。その上、空気中から神水、お守り、経文を作り出し看守たちを驚かせた。
 証拠不十分で釈放されるも、年恵はその後も二度逮捕され、裁判にかけられることになる。

「年恵はなんも悪ぐね。俺が無実を証明してみせるべ。俺、年恵の能力を事実証明書にまとめだべ。これさ、裁判所に送りつけるべや」
「和三郎さん、どうもな」
 面会に駆けつけた和三郎は年恵を励ました。

 そして裁判当日。年恵はその場で神水を作り出すよう命じられる。全裸にされて身体検査を受けさせられたが、見事人々の目の前で実現してみせた。当時の記者は「神水を天よりたまわるなり、とにかく不思議なり」とただ驚くばかりだった。

「良がったな年恵、今回も証拠不十分で無罪になったべ。安心しろ、なんど逮捕されても俺が力になるべ」
「ほだな必要はねっす。これが最後だ。おらは四十三で死ぬ」
「冗談言わねぇでけろ」
「嘘でも冗談でもねっす。おらにはわがるんだ」

 その言葉の通り、年恵は四十三でその人生を終えた。学者となった和三郎は年恵の死後、一つの仮説を立てた。年恵は無からではなく、自らの命を削って生み出していたのではないかと。

謎の物書きP
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【哲学的な彼女3】
【三語即興文】

『長南年恵と云ふ女』
セルフ感想から。
不思議な人がいたものです。哲学というか人物史になった気がするけど、まぁそんなこともある。

引き続き【哲学的な彼女3】

『半地下アイドル』

 朗報である。推しの地下アイドル『下り坂フォールダウン』がついにメジャーデビューを果たしたのである。これはひとえにショッピングセンターや地域のお祭りイベントのステージに足繁く通い、彼女たちの魅力を伝えてきたワイの力によるものが大きいのではないかと考察する。
 だがしかしである。メジャーデビューといえど、まだ半地下なのだ。ほとんどの人からしたら、「は? そいつらアイドルだったの? 全然知らんし〜」と言われるのがオチだろう。これまでワイが推してきた地下アイドルのほとんどは地上にあがるどころか、風俗スレスレのところを低空飛行する地底堕ち。何としても『下り坂フォールダウン』を世に知らしめたいというのがワイの野望。
 下り坂メンバーは実に個性的で良い。その魅力は、トップアイドルとは違い、その辺散歩してたらばったり会うんじゃないかレベルの、一言でいうなら中の下くらい感にある。多分隣人のお姉さんの方がキレイだ。だがそれがいい。こいつらとならリアルな女に免疫がない俺でも何とかなるではないかという気にさせてくれる。
 中でもワイが推すのはボーカルの海野ヒトデではなく、キレい系ならぬキレ系博多弁キャラのスピラでもなく、ダンス担当のNoAである。あの唯一無二のダンスとツンデレ委員長キャラがどストライクなのだ。おっと、その辺のにわかのNoAファンと同じにしてくれるな。ワイは自作のNoA抱き枕を毎晩抱えて愛でている。
 ドプフォwwwついマニアックな性癖が出てしまったwwwワイとしたことが失敬失敬www
 アイドル推しにも金がいる。だが、下り坂はそんなワイらの財布にも優しい、一緒に写真撮る券つきCDやライブも恐ろしくリーズナブルだ。ついついCD買いまくって、増えすぎてしまう。捨てるなどもってのほかなので、ベランダに吊るして、鳥よけとして活躍している。先日日光が反射して眩し! ってなったほどだ。
 本日もライブである。愛しのNoAへの想いが抑えきれないワイは警備を掻い潜り、控室に忍びこんだ。まだ誰もいない。物陰に隠れて下り坂を待つ。足音が聞こえる。来た!
 隙間から覗き、ワイはため息を漏らす。男二人だ。

「いやー、笑いが止まりませんね」
「な、俺のいった通りだろ。あいつらどうしてもアイドルになりたいやつばっかだから、デビューさせてやるといえば低賃金でも二つ返事だ」
「衣装も自前で用意させてますし、住み込みさせてるのも事務所の倉庫だからタダみたいなもんですしね」
「それで、料金を低く抑えれば、オタクどもがバンバン金使ってくれるって寸法よ。その収入はがっぽり俺らの懐だけどな」
「辞めたりしないっすかね?」
「大丈夫、大丈夫、あいつらに帰る場所なんてねぇよ」
「winwinってことですね」
「違ぇねえ」

 なんてことや、ブラックや! 真っ黒くろ助である。ワイはあいつらの金儲けに、虐待に加担してたんや。そうと知っては我慢ならん、今日を最後にワイは下り坂推しを辞める。
 待てよ、でもファンが減ったら下り坂は解散になるかも知れん。それはメジャーデビューの夢を叶えた下り坂にとって幸せなことなのだろうか?
 いくら考えても答えはわからない。ワイはどうしたらいいのであろうか。そんなことを考えながら、手書きのNoAと書かれたロッカーを開ける。ワイは使用済みのNoAパンツをポケットに押し込み部屋を出た。

謎の物書きP
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【哲学的な彼女3】
【三語即興文】

『半地下アイドル』
セルフ感想から。
思考実験【喫茶店に住む人たち】をアイドルにしてみた。ファストファッションを支えている低賃金貧困国の人々について考えるものだそうな。こういうことはよくありそうですな。

引き続き【哲学的な彼女3】

『私を食べてと豚に言われたら』

「ボク、このお家の方かしら?」
「はいそうです」家の前で見たことのないお女の人に声をかけられた。
「突然ごめんね、私たち今日から隣に越してきた佐々木といいます。こっちは娘の伽耶中二よ」
「田中俊です。僕も中二です」
 何かと思ったら隣人の挨拶か。宗教の勧誘かと思った。
「そうなのね、この子ちょっと変わってるけど仲良くしてあげて。ほら、伽耶ご挨拶なさい」
「こんにちは」吸い込まれそうな瞳で見つめられて僕は頬が赤く染まるのを感じた。
「こんにちは」とオウム返し。
「お父さんかお母さんいらっしゃるかしら?」
「今、犬の散歩行ってるとこなんで、20分くらいで戻ってくると思います」
「そう、じゃあ改めてご挨拶伺うわね」
 親子はペコリと頭を下げて戻っていった。これが僕たちの出会い。

 伽耶ちゃんのお母さんが言っていた「変わってる」の意味はすぐに分かった。哲学マニアというのか、答えに困るような質問をするんだ。こんなエピソードがある。

「ねぇ俊、トロッコ問題って知ってる?」

 学校の帰り道に伽耶が僕に聞く。トロッコ問題というのはこんな感じ。

 暴走するトロッコの先に五人いる。このままいけば全員はねられ死亡する。ポイントを切り替えると五人は助かるが、別の一人がはねられ命を落とす。あなたはポイントを切り替えるか? それとも何もしないか?

 叫んで危険を知らせるというようなことはできない。ポイントを切り替えるか否かの二者択一だ。

「うーん、切り替えるかな」
「何で?」
「だって、どっちにしろ誰か死ぬじゃん。それなら犠牲を少なくするしかなくないか? 違う?」
「正解はないよ。敢えて言うならどちらも正解と言っていいかもしれないね。俊は利功主義。結果を優先するってことよ」
「切り替えないのは?」
「義務論に従ってると言えるわね。結果ではなく過程の道徳を重視するの」
「伽耶はどっちなんだ?」
「状況次第」
「それはずるくないか?」
「だって、そうでしょ? そのままの状況なら私は切り替えようと思ったとしても一人を殺すことになると考えたら怖くて実際は何もできないかも」
「それはそうかもだけど」
「でも、これってたとえば何百人も乗った飛行機が海上で操縦不能になったとしてよ、都心に向かって墜落してるってなったらその国のリーダーは撃墜命令を出さざるを得なくない?」
「まぁそうか」

 伽耶の答えは最もだったけど、どっちかに決めないのは釈然としなかった。いつもそうだ。調べてみると哲学とは答えのない問いを探求するようなものみたいだ。それを分かりやすく例に例えたものがこのような二者択一の思考実験。
 僕は思考実験について調べた。これなんてどうだろ? 最後は必ずどちらかに決めるよう条件をつける。


 ベジタリアンの男がいま肉を食べようとしている。1週間前、ブタとニワトリに頼まれたからだ。
 どちらも遺伝子操作されていてブタは話すことができ、食べられることを望んで生きてきたという。
 一方、ニワトリには脳がない。意識も痛みも感情もない。
 彼らを食べることに倫理やモラルといった問題はなく、男は逆に食べないと失礼だとさえ思った。
 いざフォークとナイフを握り、これらの料理を並べられた男は強烈な吐き気をもよおした。四十年間ベジタリアンとして生きてきたことによる拒否反応なのか、それとも精神的苦痛なのだろうか。


「伽耶、答えを聞かせてくれ。『食べる』『食べない』のどちらかだ。いつもみたいに『かも』『もし』は無し」
「食べない」
 悩ませてやろうと思ったのに、伽耶はさらりと答えた。
「なんで?」
「だって私、遺伝子操作された食品やだもん」

「そういうことじゃない」

夜の雨
ai201089.d.west.v6connect.net

謎の物書きPさんへ。

現在5面のラストにある「三語即興文」ですが、どういう現状ですか?

何やら「企画」を立てて、進行させているようですが。



>ちなみに通常三語で投稿したい方は<

お題、トド、インフルエンザ、歴史

課題、探偵が主人公。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

●企画 

お題【隣人】【最後】【散歩】
課題:哲学的なヒロインを登場させる

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これで、進行しているという事ですか?
企画の方は年内〆切とかですかね?


どちらにしろ、あと二日で今年も終わるので、上に書いてあることで問題がなければ、一般の「三語即興文」と「企画」の「三語即興文」の二つを作り、新年は「三語即興文」をひとつにまとめたいと思いますが、それでいいですかね?

つまり「三語即興文」と「企画の三語即興文」の『次のお題と課題をひとつにするという事です』。

私の方で、「年内に」二作品作り、次のお題と課題をまとめますが。

30日の午前中までに返答があれば助かります。


それでは、よろしくお願いします。

謎の物書きP
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【三語即興文】
夜の雨さま

おはようございます。
一応、2024-12-20 17:58〜18:20のところで告知したつもりでいましたが、周知不足だったようです。
2010年ごはん運営様の企画と思しき【哲学的な彼女2】を復刻したものです。
https://web.archive.org/web/20101010141203/http://tetugakunovel.sakura.ne.jp/hottann.html

ルールは、哲学的なヒロインを登場させると云うもの。
期限は明日12/31まで。
通常の作品投稿のみだと、二週間縛り中の方でも参加できないので、【三語即興文】でも参加できるように配慮したものです。

そのお題は【隣人】【散歩】【最後】
課題:哲学的なヒロインを登場させる。

通常の三語のように運用すると、お題の難易度の不公平があるので、三語ルールにある事故作品扱いで、同じお題を継続します。また、通常の三語は参加したいと思っている人も流れの速さに入ってこれないのでは無いかと思う部分がありました。この企画なら10日以上あるのと、使いやすいお題なので参加できるのではないかと思った次第です。

通常の三語は
お題、トド、インフルエンザ、歴史

課題、探偵が主人公。
です。

当初毎日投稿するつもりなかったんですが、参加者伸びないので、自分で賑やかしてました。明日〆切にもう一本投稿して終了します。
お騒がせしました。

夜の雨
ai200212.d.west.v6connect.net

現在六面の「三語即興文」(企画)です。

「三語即興文」
企画。
お題は【隣人】【散歩】【最後】
課題:哲学的なヒロインを登場させる。

『美貌』

「依頼人が失踪しました」
マチ子は部下の重吉にその報をうけて「やっぱり……」とつぶやいた。
重吉は四〇代半ばで頭髪が薄くなりかけた頭を撫でながら困惑を浮かべている。
「それでは、所長は依頼人の河合が姿をくらますことは予想していたのですか」と、自分よりも一回りも若い美貌のマチ子の顔をまぶしそうに見詰める。
「依頼人とて人間、追い詰められて耐え切れなくなり逃げたのでしょうに」
「限界を超えたと」
「追い詰められればその場から離れたくもなるもの、それが人間、いや、馬とて同じだと思うよ」
「馬?」
「ニーチェの馬ですよ」
「あの逸話ですか、限界の重さを越えた荷馬車を引かされ鞭打たれる馬にニーチェが散歩しているときに出会い駆け寄り、馬の首をかき抱いて涙した。ニーチェはそのまま精神が崩壊し、彼の最期は10年間を看取られて穏やかに過ごしたという」
「うむぅ……」と重吉はうなった。
マチ子は「それはそうと、きょうの哲学者レースはソクラテスとマルクスの3-6でいただきかな」と、ゲームの話をする。
「穴があるとすれば太宰治と坂口安吾の線ですかな」と重吉は言うが、マチ子はふふふ、と含みながら、「太宰と安吾は純文学の書き手だけれど哲学者でないからな、それだとかなりな大穴では」
仕事を終えたあとbarで飲みながら、小銭を賭けるのも人生かなと二人は思っている。
そこにドアがノックされた。
重吉が開けてみると隣人の小五郎がいつもの如くスーツ姿で澄ましていた。
「何か?」マチ子が反応する。
「解けない謎なら、相談に乗りますが」
「これは私どもの探偵事務所の問題なので」、
小五郎はマチ子に正面から見つめられて、思わず下を向いてしまう。
マチ子は指先でスカートのすそを掴み上げていく。
むっちりとした白い太ももが下を向いた小五郎の視線に。
「無料で相談に乗りますが」と小五郎。
「男と女か、まさに哲学的ですねぇ」と、マチ子はしたり顔。
小五郎は顔を真っ赤に染めて「人生短いですから……」を最後に、その場を去った。
「所長は美人ですから、いろいろ都合がよいですね」
「たしかに、重吉も安月給でお疲れさまですね」とマチ子が笑う。
「いぇ、無休で結構ですが」
「それじゃあ」と言って、マチ子がスカートのすそをあげると。
「依頼人が失踪した謎が解けました」
 重吉がごくりと喉を鳴らし、マチ子の太ももに釘付けになった視線のまま話す。
「マチ子さんの美しさに耐えられずに失踪したのでは」
「なるほど、これで7人目だわ……。なんの依頼でしたかしら」
「依頼内容は妻の不倫がどうたらとかで、前金をいただいていますが」
「う~ん、何かしら哲学的ですね……。前金でいただいているなら、いいかなと」


了。

>通常の三語<
お題、トド、インフルエンザ、歴史
課題、探偵が主人公。

こちらの三語作品は明日の31日にでも「謎の物書きP」さんの作品の感想に添えて提出します。
●次のお題と課題も、そのときに。

お疲れ様。

謎の物書きP
fs76eed67d.tkyc307.ap.nuro.jp

【哲学的な彼女3】
【三語即興文】

夜の雨さま『美貌』の感想から。
何度か読み返したのですが理解が追いつきませんでした。一応私の解釈ですが

マチ子(探偵事務所所長)
重吉(その部下)
河合(依頼人)
哲学者レースというのは、競馬の話なのかと。
そこへ訪れる
隣人小五郎
「解けない謎なら、相談に乗りますが」これが小五郎のセリフでその名前から同業者の探偵かと。
こっちの問題と断るマチ子。
無料でいいと食い下がる小五郎。
「男と女か、まさに哲学的ですねぇ」というマチ子のセリフの意図がわかりませんでした。で、小五郎を色仕掛けで追い払い、それを見て重吉は河合が失踪したのはマチ子の美貌に耐えられなかったからだと結論。
うーん、ちょっと内容的に物足りなさを感じました。


引き続き【哲学的な彼女3】


『1/3の懸け橋』


 とにかく急いで読んでと、理香からPDFが送られてきたのは今年最後の日、大晦日。隣人は気合いを入れて大掃除真っ最中。騒がしくて落ち着かない。仕方なく散歩がてら近くのカフェに腰を据える。

「ホットコーヒーお待たせしました。砂糖とミルクはご入り用でしょうか?」
「いりません」
「失礼いたしました」

 僕はコーヒーを啜りながら考える。理香のやつ今日は忙しいから夕方まで会えないなんて言ってたけど、何でPDFなんか送ってきてるんだ。考えても仕方ない。どうせ夕方まで暇だとファイルを開いた。最初のページはタイトルと著者。理香と同じ苗字。確か父親が研究者だと言っていたけど、その人が書いたものだろうか。

【Re:Birth】 山中秀樹

 神が人を創造したように、人もまた二足歩行のロボットを作り出そうと研究を進めている。実のところロボットを人型にすることに大した意味はない。二足歩行でなくとも階段は登れるし走るならタイヤの方が速い。これはひとえに人型ロボットを作りたいという飽くなき欲望に他ならない。とはいえ、ロボットは所詮ロボットに過ぎない。真に創造主となるにはクローン技術である。私は今、神の領域に足を踏み入れようとしている。
 そもそものきっかけは妻の死である。私は妻を甦らそうと彼女から未分化細胞を培養して研究を進めている。未分化細胞というのはどのような細胞にも変異可能な細胞である。研究は困難を極めた。10体のクローンを産み出したものの、成長の過程でひとり、また一人と死んでいき、No.7とNo.9の2体になってしまった。全く同じ環境というのは不可能であるが、可能な限り条件を揃えてきたつもりだ。やはりまだまだクローン技術には未知の部分が多い。
 私は二体のクローンをこれまで以上に注意を払い見守ってきたが、不測の事態が発生した。No.7は右脳、No.9は左脳に腫瘍が見つかった。なぜこんなことが? 考えてもわからない。腫瘍は驚くべきスピードで成長している。迷っている時間はない、私はただちに損傷のある脳の半球を摘出した。
 二体は命を取り留めたが、脳の半分を失ってしまえばもうそれは完全なヒトのクローンとはいえない。今議会にも提出されている、ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律によりクローン人間の産生が2000年頃に禁止されるだろう。どちらにせよ裏プロジェクトではあるが、クローン人間の話題に世間が注目するのはよくない。急がなければ。
 そこで私はある可能性にかけた。それは健常なNo.7の左脳、No.9の右脳のクローンを作り移植するというものだ。同じ遺伝子を持つもの同士、拒絶反応のリスクは極めて低い。私は彼女たちに欠けている脳を補った。実験は成功だ。私はNo.7を『祐香』、No.9を『理佐』と名づけ大切に育てた。
 しかし、またしても問題が起きた。二人に癲癇《てんかん》の症状が現れたのだ。それもかなりひどい。ここまで苦労して育ててきたのに最後はあまりにも儚い。理佐が癲癇の発作で命を落とした。このままでは、佑香も同じ末路を辿ると思われる。そこで脳梁離断術に踏み切ることにした。癲癇とは過剰な電気信号が極度の興奮状態を引き起こす。そこで、左右の脳を繋ぐ懸け橋である脳梁を切断し、電気信号の暴走を抑えるのである。完全に切断してしまってもいいかというと、もちろん問題が起きる。左脳は右半身、右脳は左半身を司っていることは多くの人が知るところである。つまり右視野で見たものは左脳で処理される。右視野にコップを置き、何が見えるかと問えばコップと答えることができる。これは言語処理をするのが左脳だからだ。しかし逆で試すと離断者は答えることができない。右脳の情報を言語野に伝達することができないからだ。また、精神が二つになるなどという指摘もあるが、脳梁が分断されても脳幹でつながっている。実際のところはケースバイケースというよりない。そこで、とりあえず脳梁の2/3を切断した。これにより佑香の症状は日常生活を送るのに支障のないレベルまで改善した。私は理佐を忘れないように佑香の名を理香と改めた。


 タブレットを持つ手が震える。理香がクローン? 僕はすっかり冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干す。さっきまで凍えていたのに、額は汗でぐっしょりしている。コーヒー一杯で粘るのも限界と僕は二杯目の注文をして続きを読む。


 脳梁を1/3残したのは正解だった。その後の観察でゲルストマン症候群に似た症状が時折観察される。脳の損傷により現れる症状だ。理香の場合は左右失認。ゴミ箱の蓋を右手で開けようとしているところ左手で締めてしまう。頻度としてはそれほどでもないのが幸いである。
 理香の状態は安定している。完全体とは言えないが、私は神に最も近いところに迫った。だが、疑問は残る。果たして理香は私が求めた妻の分身と言えるのか? それとも理佐なのか佑香なのか? 体は佑香のものとは言え、構成する遺伝子は同じで、そこに違いなどない。あるいは理香という新しい自我なのか。私は答えを出せずにいる。


 読み終えて僕は理香について考える。そういえば、理香は左右を言い間違えたり、みかんの皮を剥いて捨てる時に間違えて実の方を捨ててしまうことがあった。もしかして、それはPDFに書いてある通り、クローンの不完全性が原因の疾患?

「哲也!」
「あれ? 理香。何で?」
「ちょっと待って、走ってきたから喉乾いちゃって。すいませーん、アイスミルクティーひとつ」
 僕は理香を見つめる。クローンと言われても見た目でわかるわけはないのだけど。
「アイスミルクティーお待たせしました」ごゆっくりどうぞと店員は戻っていった。
「早く片付いたからプチドッキリで哲也ん家に行ったんだけど、お母さんから、多分ここにいるんじゃないかって教えてもらったの」ミルクティーで喉を潤し理香が口を開く。
「何してたの?」
「公募に出す小説を印刷して最終チェックと必要書類まとめてたの。あ、読んでくれた?」
「何だ、作り話だったのか。びっくりしたよ」
「さぁ、どうでしょうね?」理香は意味深に右目でウインクした。

 今ウインクしたのは、理香? それとも理佐?

謎の物書きP
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【哲学的な彼女3】おまけ
https://monogatary.com/episode/529688

同じ条件でChatGPTがわずか数秒で書いたものです。
特段面白みがあるわけではないものの、ちゃんと無理のないストーリーになってます。ここまでくると人間が書いたと言われても納得してしまうレベル。
以前知恵袋で見せてもらったChatGPT(旧バージョン)作品は支離滅裂さがありましたが、何ヶ月かでここまで進化していたとは驚きです。
ガチ勢の方々には今後間違いなく脅威となるでしょう。

謎の物書きP
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【哲学的な彼女3】【本日終了】
本日分投稿済みなので私はこれにて終幕です。
夜の雨様ご参加ありがとうございました。
もし書いてるかた見えましたら今日中の投稿はOKです。

なお、こちらが今回の企画のきっかけとなった2010年の鍛練場です。
今とは違いますが、上部に【哲学的な彼女】の告知があります。
https://web.archive.org/web/20101129042316/http://sakka.org/training/?mode=list&pageno=5

夜の雨
ai203153.d.west.v6connect.net

「三語即興文」現在六面です。

長い間続いているなぁ(笑)。
この調子で新年も続けたい。

謎の物書きPさんの作品の感想から。

『私を食べてと豚に言われたら』について。

考えさせられる作品でしたが。
私的には、こういったどちらを選ぶべきかについては、自然の流れですかね。
したがいまして「トロッコ」の問題だと、線路の先には五人がいてポイントを切り変えないと彼らが死ぬ。
切り替えると一人が死ぬ。
この場合は「切り変えない」になりますね。
それが自然の摂理なので。
たまたまポイントのところに状況を察した人物がいたから「悩むのであり」そこにポイントを切り替える人物がいなければ、トロッコはそのまま走ります。
そこに「人間が関わった」ので、死ななくてよい一人が亡くなった。
つまり自然災害みたいなもので、人間がかかわらなければ、五人は亡くなる運命だったという事になります。

>伽耶「だって私、遺伝子操作された食品やだもん」<
したがいまして、この問題の伽耶が答えたのは、上の問題と基本的に同じなので、私は伽耶と同意見という事になります。

ただ現実問題として健康に問題がなければ、金銭的な関係から食べますが。

ということで、考えさせられる作品でした。
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御作、かなり読みやすいので、ほかの作品も正月期間中に機会があれば何作か読んで感想を書くことにします。


お疲れさまでした。

私の作品です。
>通常の「三語即興文」<
お題、トド、インフルエンザ、歴史
課題、探偵が主人公。

『トドの災い』

「漁の間」に通された八島平蔵は女将が運んできたお茶をすすりながら双眼鏡でトド島を見ていた。
依頼主である漁民のいうことには、トドは海のギャングでやつらに漁獲のかなりの部分をもっていかれて偉い災難だわ、との事。
平蔵が探偵の看板を出していたので東京の有名な探偵さんならなんとかしてくれるのではないかと、北海道の小樽くんだりまで呼ばれた。
もちろん最初は平蔵もトドなる海獣は専門外でよいアイデアなど浮かぶはずもないと思っていたが、東京での探偵商売もひまだし女房の目の届かないところで遊覧を兼ねて小遣いを稼げるのではと小樽くんだりまでやってきた。
日も暮れて宿の近くを歩いているとbar「トド」という看板が夜目にキラキラ光っていたので覗いてみることにした。
もしや中のホステスはトドのような女かと思いきや、三十路を越えたばかりの細面の色白の女で、目はひときわ大きく見つめられると危うい。
これはやばいと思ったが、勧められるままにウィスキーやらカクテルを飲んだ。
酔ってきたので平蔵は女に聞かれるままに東京からこの小樽にやってきた理由をしゃべっていた。
すると男が奥の部屋から姿を現したがそれがトドのように大柄で「ゲホゲホ」と声も大きい。
長居をしすぎたとばかりに平蔵は席を立とうとしたが飲みすぎで足元がおぼつかない。
トドは平蔵を上から見下ろしながら、俺の女房の尻を触ったとか胸を揉んだとか、口説いたとか因縁をつけてきた。
平蔵は女に触れたことなどはなかったが、立場が弱いと思って平身低頭、そしてこちらで請け負った仕事の前金以上の金を支払ってbarを出た。
翌日依頼主にトドから漁業を守るにはトドbarの亭主を縛り上げてトド島で晒し者(さらしもの)にしたらよいのではと提案した。
「やっぱりなぁ……」と依頼主はトドにまつわる歴史を語ったが、海獣のトドもbarの亭主のトドも漁師たちにとっては災難でしかないようだった。
東京に帰ってきた平蔵は探偵商売が邪魔くさくなり、看板を下ろした。
「あなたどうしたの?」と女房に尋ねられたので、咳き込みながら、どうもインフルエンザを罹ったかも、北海道くんだりまで仕事に行くんじゃなかったと、今夜の営みのことを考え伏線を張った。
しかしその夜女房の巨体に押しつぶされながら「トドの災難が続いている」と、嘆いた。




『美貌』という作品について。
結論からいうと『男と女の関係が哲学』というようなことを書きたかったわけです。
要するに人間関係が哲学。

ちなみに登場人物は谷崎潤一郎の『痴人の愛』の小説と映画の出演者からとっています。
小五郎は江戸川乱歩の小説からですが。
マチ子(探偵事務所所長)京マチ子(ナオミ役)
重吉(その部下)    宇野重吉(河合役)
河合(依頼人)    小説の痴人の愛の主人公(ナオミに翻弄される男)。
小五郎も痴人の愛の登場人物にすればよかったかなと思いました、あとから。

ちなみに『美貌』も『トドの災い』も書きながら次のエピソードを考えて進めました。
以前は冒頭とラスト(オチ)を考えてから書いていたのですが。


次のお題と課題。
お題、 町内会、航空機、ザル
課題、 俳優(男女どちらでも)視点で犯罪を犯す。


それではよろしくお願いします。

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