作家でごはん!鍛練場
三語即興文有志

三語即興文  24/9/30

【形式】
 (1)前の方の作品に批評・感想を書く。
 (2)出されたお題で50字~1000字程度の文章を作る。
     ※三語を使用した小説であること。三語は順不同で使用可。
     ※漢字(ひらがな・カタカナ)は変えないこと。
 (3)次のお題(三語と課題)を出す。三語は名詞が基本、各語の関係が遠いほど望ましい。


【ルール】
 ・第一目的は文章と発想の瞬発力、及びショートショートの構成鍛練です。
 ・同じ方の書き込みは一日一回です。言いかえれば毎日でもどうぞ。
 ・同じお題の投稿が重なった場合、最初の投稿者のお題が次に継続されます。
 ・上記の場合、後の方の作品は残します。事故と見なしますので謝罪などは不要です(執筆の遅い投稿者保護)。
 ・感想のみのレスはご遠慮ください。
 ・事故作品にもできれば感想を書いてあげてください。また、他の作品に感想を書くのは自由です。
 ・何事も故意の場合は釈明必須ですが、多少の遊び心は至極結構です。ただし、基礎の未熟な方の遊びはお断わりいたします。
 ・課題は強制ではなく、努力目標です。お互い無理のないようお願いします。
     例)「主人公の性別は○○で」「ハードボイルドっぽくお願いします」「三人称で書いてください」

 ・三語即興文の新スレッドは参加者皆さんによって立ててください。
 ・フォーマット・ルールなどの改正は必ず伝言板で意見を募ってください。
 ・重複スレッドが立った場合は運営に削除依頼を出してください。

三語即興文  24/9/30

執筆の狙い

作者 三語即興文有志
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感想レスを使ったやりとりです。
興味のある方は参加してください。初めてのみなさんも歓迎します。
前の方の作品に感想を書くのを忘れずにお願いします。

コメント

三語即興文有志
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現在最終面にある「三語即興文」の夜の雨さんの感想と作品をこちらにあげます。

雨音さんの「お話の裏で」読みました。

お題 「雷」「蜃気楼」「最速の時の流れ」
ジャンルは「童話」。

「ヘルメス」は冒険していることになっている「旅人の守護神」なんですね。
それで「赤ずきん」と豪雨のなか洞窟で遭遇したのですが、彼女に「ささやかな加護を与えた」。
この加護を与えるエピソードは具体的に描いておいたほうがよいですね。「まじないとかの儀式です、簡単なのでよいので」。
あと御作は、人物やら周囲の地形などの説明とか描写をしておくと、ワクワク感が味わえるのではないかと思いました。物語の背景に広がりがあるので。
洞窟での赤ずきんの可愛さとかは伝わってきます。
>「あ 見て!! 向こうの山蜃気楼が起こってる!ハートみたいに見えるよ! 」<
このエピソードは、心があたたかくなりよいですね、なので、これをヘルメスが赤ずきんに与えた加護にすればいかがですか。
ヘルメスが心の中でまじないの儀式をしてハートの蜃気楼を出した。
赤ずきんはまさか洞窟に一緒にいるおじさんが「旅人の守護神」でハートを蜃気楼で出したなどとは思わない。
だからハートを見てヘルメスと一緒に喜びたかった、ということにすれば赤ずきんの可愛さが表現されます。

話の外枠の作り方はよいのではありませんかね。

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私の作品です。
>次のお題 「鏡 整頓 わたあめ」
>テーマ 「テスト前の学生」

『凛子の日常』

凛子は期末テストが始まるというのに朝ぱらから椅子にもたれて煙草を吹かしていた。
机にはノートパソコンがありワードが開いている。
ドアがノックされた。
「凛子、早くご飯を食べなさいよね、学校に遅れるわよ」
「うん、わかったぁ~」といいながら煙草の煙を口から吐き出し輪っかをいくつも作る。
その輪っかの中に指を入れて「グチュグチュ~」と卑猥な言葉を並び立て何やらひらめいたのか前のめりになるとパソコンに向かった。
キーボードを高速で叩く。
一気に原稿用紙10枚分の小説を書きあげると出版社の編集担当にメールで送った。
凛子は煙にむせながら、煙草をもみ消す。
鏡に向かってウィンクすると、セーラー服に花の香水をスプレーし、鞄を持って部屋を出た。
居間では父親が食事をしていた。
頭の上にピンクの花を咲かせた父親に向かって「パパおはよう!」と声を掛ける。
ギャグ漫画家の平太郎は自分の漫画が掲載されている青年誌「あんぽんたん」を凛子の前に広げて「見よ見よ! 俺の漫画の『お気楽家族』最高の出来だなぁ、てへへ」と、自画自賛。
朝食はご飯に納豆、具だくさんの味噌汁に秋刀魚の尾頭付き。
食べていると「部屋は片付いているでしょうね、整理整頓しっかりしないとね女の子なんだから」と母が言う。
「うん、タバコの火はちゃんと消しといたから」
「未成年だから執筆の参考に吸うといってもね」
「ギャルが登場している場面を書いているのだからリアルティが必要なのよ」
「そうそう、リアルティが必要」と平太郎は先日100円ショップで買った頭の上の花を触りながら「イメージが湧いた!」と奇声をあげて仕事部屋へと直行。
凛子が食事を終わり歯を磨いているとスマホがピコピコとメールの着信を知らせた。
メールを開けると編集者から「読みました」と速攻の連絡が。
恐るべきことに、詳しい感想が添付されていた。
出版社にメールで小説を送ってから10分少々しか経っていない。
ラストまで感想に目を通すと「テストがんばれ! 君ならできる。高校生で日本文学賞受賞しているのだから」との励ましが。
口をすすぎ終わると鏡を見てニッカッと笑い、「目指すぞ世界!」と自分を叱咤する。
「なにをしているの、学校に遅れるわよ」と母の声。
カバンを持って玄関から出ると二階の仕事部屋から平太郎が窓を開けて声を掛けてきた。
「あしたから秋祭りだから一緒に行こうな、わたあめを買ってやるよ」
「うん、わたあめ大好き!」凛子は子供の時から家族で祭りに出かけると、両親にはさまれてわたあめを食べていたのを思い出した。
これで今日の期末テスト最終日もバッチグーだわ。

了。


次のお題
「二刀流、おむすび、暴落」
課題 「覗く」

それではよろしく。

夜の雨
ai200249.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

『凛子の日常』の感想。
自分の作品なので簡単に書きます。
一見ぶっ飛んだ家族の物語を展開させておいて、ラストで「わたあめ」を使って夏祭りとかを読み手にイメージしてもらい、そこに家族の温かさを表現しました。

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私の作品。
お題「二刀流、おむすび、暴落」
課題 「覗く」

『巌流島の決闘』

「そろそろ巌流島へ到着しますよ」と船頭が言う。
宮本武蔵はおむすびを食べながらスマホで見逃し配信サービスのドラマを観て、笑い転げていた。
「船頭さん、この女優さん橋本とか言うんだけれど、なかなかの美人だし愛嬌はあるしでいいね」
「あの波打ち際にいるのは小次郎では」といっても、武蔵はドラマに夢中。
小舟はどんどん波打ち際に進み、やがて……。
「遅いぞ武蔵!」という声に反応して、武蔵はスマホへドラマの感想を書いていた手を止めた。
「しまった、いまからでは櫓を削る時間がない。流派、「二天一流」が使えない。小次郎とまともに戦ったら、長刀を使った「燕返し」で一瞬にして殺される!」
武蔵は思わず天を仰いだ。
小舟が巌流島の砂地に近ずくと小次郎が長刀を頭上に振り上げながら走ってきた。
「武蔵敗れたり!」
武蔵は小舟を飛び降りるとスマホをもって小次郎から逃げるように砂地を走る。
「待てぃ~武蔵ぃ~!」
そのとき松の木の下に陣取っていた目付け役の侍がスマホで日経平均を見ていたのか、「ぼうらくだぁ、株が暴落したぁ!」との叫び声。
武蔵は小次郎との戦いを忘れてスマホで日経平均をチェックした。
「ああ、なんだこうりゃ!」
その声に慌てたのは小次郎であった。
長刀を投げ捨てて武蔵のスマホを覗く。
ちょっと貸してくれ、というなり小次郎は武蔵からスマホを取り上げると必死になって自分の買っている銘柄をチェックする。
小次郎は購入している銘柄を見つけて「ああぁ……」と情けない声を出し「人生終わった、俺は全財産を信用取引で買っていたんだ!」
小次郎がゆびを指している銘柄を見て、武蔵は高笑いをした。
「小次郎敗れたなり! その銘柄を空売りしていたんだ。全財産でもって。値が高い時に売って、安くなると買い戻し、その差額が儲けになる。うはははは! これで一生遊んで暮らせるぞ!」
ニュースで新内閣の支持率が50%になっているのを見て小次郎は水平線に目をやった。
「他人が持っているスマホを覗くのは、人生の闇を覗くようなものだ……」


了。


解説。
スマホを覗いたがために、それぞれの人生の悲喜こもごもが
武蔵と小次郎の巌流島の決闘をスマホという現代のアイテムと、株という人生一発逆転の要素を混ぜつつ、オチを付けました。もちろん楽しめるように大げさに書いています。

次のお題と課題。
お題 支持率、猛獣、症状

課題 再会


それではよろしく。

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「三語即興文です」

『巌流島の決闘』の感想

現代病の"ながらスマホ"を、生死のかかる巌流島の決闘に持ってきたのが斬新ですね。

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私の作品。
お題 「支持率、猛獣、症状」
課題 「再会」



『とにかく二人は出会ったのだ』

とにかくあの二人は出会ったのだ、あの紳士(燕尾服のようなものを着ていた)とホームレス(こちらは見るも無惨なボロボロのコートを身体に巻きつけ、顔は毛むくじゃらだ)の邂逅を、いや邂逅といったら大袈裟か、まあ簡単に言えば二人は出会ったのだ、その坂(紳士が足元をふらふらさせながら、いや急な下り坂だから転ばぬよう気をつけていたのかもしれない)の西側から(私は真南の岩陰に隠れて存在を消すことに人生の全てをかけていた)紳士が、東側からホームレスがゴロゴロと転がり落ちながら(先に坂の下へ辿り着くのはホームレスのほうだろうと私は予想していた)、紳士の視線は自らに向かってくる相手を捉えていたのだろう、少し下るペースが速くなり、あたかもホームレスを思いやるようだった、その様子を見て私の目から涙が零れ落ちた、理由は分からない、この症状の理由は分からない、誰に聞いても、いや誰もいないのだ(私は一人でここまでやってきており、それまでのいきさつも、いま現在の私が誰なのか、どういう存在なのかすら分かりかねるのだ)、そんなことはどうでもいい、二人の邂逅が迫っているところで、ちょうど、もしもし、もしもし、あなた、と話しかけられた(もちろん最初は幻聴か何かだと疑わなかった)、私はまさかとは思ったが後ろを振り向いた瞬間、何十人もの警官が立っていた(すでに裁判所からの逮捕状は満票の支持率をもって発行済み、おまけにドーベルマンのような猛獣を従えていた)、すぐに手足を捕まえられ、覆い被さられ、押しつぶされ、何も分からぬまま、包帯のようなものを身体を巻かれた(口が塞がれる瞬間、私は、私にはこれから予定があるんだ、と叫んだが、それなら指名手配しますよと反論され、その声は私の抵抗があたかも無力で嘲笑に値するような響きさえ含まれていた)、しかし幸いにも私の目だけは、未だにこの世を映していた、あの坂の下り坂と下り坂がぶつかるところで、二人がとても近い距離で何かを、何かを話していたのか分からない(なんせ紳士は背筋をピンとはっているにもかかわらず、ホームレスは寝転がったままだったから)、でもとにかく、とにかく二人は出会ったのだ。



次のお題
「千日手」「埃」「息子」
課題
「語り手が犯人」

よろしくお願いします。

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「再会」になってないな…

fj168.net112140023.thn.ne.jp

「三語即興文です」

『とにかく二人は出会ったのだ』の感想

人生足を踏み外した先には何が待ち受けているかわからないものです。
ドーンッ!👀👉️(笑)

――――――――――――

私の作品。
お題
「千日手」「埃」「息子」
課題
「語り手が犯人」


『千日手の男』

夕暮れの神楽坂。
ノスタルジックな想いに耽りながら男は古びた書店の奥で一冊の古書を手に取った。赤い表紙は擦り切れ、文字はかすれていて題名は分からなかったが、なぜだか妙な懐かしさとともに特別な何かを感じた。ページをめくると、そこには「千日手」と記された第一章があった。
千日手とは、将棋の対局において同じ局面が繰り返されることを指す。
冒頭には、『この物語は、終わりのない戦いを象徴するものである』とあった。男はその言葉に引き込まれさらに読み進めた。小説家を志す青年の物語だが、本は一章で終わっていた。続編が無いかと周りを探していると背後から声がした。
「お困りのようですな。私が塵埃を払ってさしあげましょう」
振り返ると通路のほの暗い場所に山高帽をかぶった老人が立っていた。老人の容姿から男は、まるでこの書店の一部でもあるかのような煤けた感じを受けた。
「あなたは」
おずおずと尋ねた。
「私ですか、お気づきになりませんか」
その言葉に、男は老人の顔をじっと見つめた。すると老人は左頬をひきつらせ妙笑を浮かべた。
「あなたは……」
言葉が喉に詰まった。
「私はこの書店の守護者です。ここで繰り返される物語を見守っているのです、終わりのない物語をね。あなたもその物語の一部です」
男は何も言えなかった。ただ、老人の目の奥にある深い闇を見つけることはできた。
「私がここにあなたを招待したのですよ」
老人が言い終わると書店の扉が音もなく閉じた。外の世界との繋がりが断たれ、男はこの場所に囚われたのだ。
「一章は読み上げたのでしょ、さあ、物語を続けましょう」
老人はそう言って男に本を差し出した。
男は震える手でそれを受け取り、ページをめくった。そこには新たな章が始まっていた。第二章 は「千日手の男とその後継者」と題されている。しかし白紙があるだけだった。
「後継者……」
「はい、あなたは私の息子なのです、私があなたを創造した」
「おとう……さん?」
「そうです。何を隠そう私がこの物語の執者なのですから。さあ一緒に物語を紡いでいきましょう」
「しかし、千日手では袋小路だ」
「その通り、もの書きなどは皆その繰り返しです、都度、駒を並べ直すのです」
「なんだか空しいですね、漂白を行くようで」
「そうですか。なんなら、主役を降りても良いのですよ」

――――――――――――

次のお題
「蝿」「人柱」「窓」
課題
「季節感を出す」

よろしくお願いします。

sp49-98-13-85.msb.spmode.ne.jp

誤字発見
漂白→漂泊
失礼しました。

sp49-98-15-247.msb.spmode.ne.jp

《言い訳》
最後の一文
『主役を降りても良いのですよ』
は、投稿ギリギリまで
『投了しても良いのですよ』
と迷ったことをお伝えしておかなければいけません。
後者にすると世界観を損なうようでやめました。

夜の雨
ai200235.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

ゐさんの『とにかく二人は出会ったのだ』の感想です。

お題 「支持率、猛獣、症状」
課題 「再会」

ホームレスと紳士が偶然出会った、それを偶然見ていた主人公の「私」と言ったところでしょうか。
だとしたら課題の「再会」とは違うような気がするので、「ホームレスと紳士」の二人はお互いに知らなかったが、「私」はこの二人が以前「出会っていたことを知っていた」。
という流れにするとある意味「再会」だし、他人同士の偶然を赤の他人の主人公だけが知っていたという面白さがあるかも。
人生って一歩間違える『他人同士の知らなかった、再会』で「幸福にも不幸にもなる」というお話。

お疲れさまでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

凪さんの『千日手の男』の感想です。

お題「千日手」「埃」「息子」
課題「語り手が犯人」

なかなか雰囲気がある作品でした。
文体と内容が合っていました。
>「私がここにあなたを招待したのですよ」<
このセリフの内容に、主人公が最近読んだ小説を関連させておくとよいかも。
その小説にこの古書店に近い情報がエピソードで擦りこまれていた。
なので、主人公は気になって探し求めて古書店に誘い込まれ、出られなくなった。

ラストのセリフ「そうですか。なんなら、主役を降りても良いのですよ」
もよかったです。
主役を降りたらとんでもないことになるか、それともそのあとの人生を後悔するのか。

お疲れさまでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私の作品です。

お題 「蝿」「人柱」「窓」
課題 「季節感を出す」

『革命家と蠅』

ラコッタは鉄格子を手で握り、その窓から広場にある人柱を見ていた。
2週間前に処刑されたまま人柱の少女は降ろされずに磔(はりつけ)にされたままだ。
処刑された当日は広場に大勢の庶民が集まりジョアンナを助けてやれとか、まだほんの子供じゃないか、16の子供だろう。見せしめにするのもええ加減にしろなどと奇声をあげていたが、銃剣をもった兵士が発砲するとたちどころに庶民の輪はくずれた。
「ジョアンナ許してくれふがいない父さんを。おれが革命を叫んで国民をまとめようとしたからお前は犠牲になった。お前には何の落ち度もない……」

「おい、飯だぞ」という声が背後で聞こえた。
ラコッタは振り向きもせずに人柱になった娘のジョアンナを見続ける、彼女は16歳で殺されている。
「ははは、そこからはよく見えるだろう広場の処刑場所が。あの人柱はお前の娘だよな、かわいそうに。お前さえ革命ごっこをしていなければ、娘は幸せな人生を送れていたものを、何しろあの美貌の持ち主だからな、まったくおしいぜ。まあ、おまえがいつまでも嘆き悲しむようにと、ここから見える場所で娘が処刑されたわけだ」
「もうよさないか、あんたはそれでも人間か」と、振り向きもせずに声をあげた。
「ああ、悪い悪い、さっきバクチで大負けしたものでな、許せよ。そういえば先日近くで人柱を見ると、お前の娘は腐っていてな、蛆が湧き蠅がたかっていた。かなりの悪臭を放っていたぜ。何しろこの気候だからな暑くてやりきれん。あまりの悪臭にカラスも近寄らん」
 太陽が天上に登り広場の背景には、ひまわりが黄色い大輪を咲かせていた。
ラコッタは娘が幼いころにあのひまわり畑でかくれんぼをしたことがあったが、「パパ、パパ」と泣きながら探している声が聞こえ、ラコッタはその声に『ここにいるよ』とすぐに顔を出したものだった。
可愛かった、美しかった娘のジョアンナ、その彼女が腐って蠅がたかっているって。蛆虫が湧いているって、想像すると胸が押しつぶされそうだった。
鉄格子から手を離してふり向くとそこには看守はいなくて、鉄の皿に飯が盛ってあった。小魚の焼いたのと具のないスープの皿がある。
家族で食事をしていた時の風景が目に浮かび涙が出た。
妻は行方不明になっているらしいが、森にでも連れていかれて暴行を受けているのかもしれない。
そんなことを考えながら鉄の皿とスプーンを手に持った。
鉄格子の窓からブ~ンと羽音を立てながら蠅が入ってくると、飯の上に留まった。
ラコッタはその蠅をじっと見て「ジョアンナ……ゆっくりとお食べ。人柱として磔にされたままで、さぞ、おなかが減っただろうに……」
すると蠅はしばらくのあいだ飯の上で手足を擦っていたが羽音をさせてラコッタの耳元にやってくると「心配するな、広場で磔にされているのはあんたの娘さんではない、人形に豚の血を塗りたくったものだ」と言った。
「なんだって?」
「あんたの娘は母親と森を抜けて隣国へ逃げおおせたよ。そこで王子に見初められて、お城で、母親ともども幸せに暮らしている」
「嘘だろう、処刑の日に群衆が騒いでいたではないか。あの騒ぎでジョアンナと俺の娘の名前を呼ぶものさえいた。俺は確かに聞いたぞ」
「あの群衆の一部はお前の天敵である王族が雇ったものだ。おまえは彼らの演出にまんまと騙されたのだ」
「そうなのか、よかった。それじゃあ俺の妻と娘は無事に隣国へと逃げおおせたわけだ。だったら、隣国が軍隊を編成して俺を助けに来るとかの話はないのか」
「そんな話はない。あんたの嫁も娘も幸せの絶頂だからあんたの事なんか忘れているぜ」
「なんだと、このやろう」
ラコッタは怒り狂って蠅を両の掌で叩き潰した。


了。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次のお題
「愛情」「チューナーレスTV」「呼び鈴」
課題
「狸を主人公にする」


それではよろしくお願いします。

夜の雨
ai193224.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

『革命家と蠅』の感想です。
わりとしっかり物語を創ったのではないのかと。
広場に磔にされている娘か人形かにたかっていた蠅がラストで叩き潰されるところのオチが決まりました。
それにしても人間の怖さがといったところでしょうか。

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私の作品です。

お題
「愛情」「チューナーレスTV」「呼び鈴」
課題
「狸を主人公にする」


雑木林の中に一軒家というか掘っ建て小屋が、周囲の森に溶け込むようにあった。
木の板をペシペシと張り巡らし雨風はしのげるような作り。
森の獣たちは興味津々で近くをうろうろしていたが、そのうち忘れられた存在になっていった。

だが狸はほかの獣たちとは違っていた。
家の周囲にある板の節穴に目ん玉を押し付けると、じっと中の様子をうかがった。
中には老人がいて、一人で歌を唄っている。
へたくそな歌だったが、哀愁を誘う。狸も思わず口ずさんだ。
哀愁の町に霧が降る~♪ と唄う。
なかなかのもんだな……。
どうも老人はカラオケというハイカラな楽団をもっていて、唄っているらしい。
タヌキは毎日のように老人の小屋を節穴から窺っては老人の歌を真似て口ずさんでいたが。
とうとう自分もカラオケを唄いたくなって呼び鈴の代わりに戸を叩いた。
コンコン!
「なんだべな?」と老人は疑いもせずに戸を開けた。
「国営テレビです、テレビをお持ちのようで集金に来ました」
「はぁ、テレビなぞ、持っていないが」
そこにある大きな画面がある機械はテレビという魔法のガラス板ではありませんかね」
「ああ、あれは『チューナーレスTV』といって、国営テレビなどは観られないんだ」
「それはどうも失礼しました」狸は集金などはどうでもよかったのでというか、カラオケで遊びたいだけだったので笑ってごまかした。
「せっかく遠いところからやってきたのだから、お茶でも一杯飲んでいったらどうかね」
狸は待ってましたとばかりに、小屋の中に入った。
壁を見て驚く。
アイドルのポスターがところ狭しと張ってある。節穴から見たときには興味はなかったが、まじかで見ると興奮する。
「これはいいですね、なんか気持ちが昂るよ」
「あはは、どの女の子が好みじゃ」
狸は「七変化狸御殿」のポスターを指さした。
「おおこれは……、美空ひばりという天才歌手の映画だよ」
狸は喜んで、それからは毎日のように老人の小屋を訪れた。
老人も寂しかったのか濁酒(どぶろく)を用意して狸を歓迎した。
そのうち狐やらイタチも参加して毎日ドンジャン騒ぎ。
すると老人が蓄えていた濁酒も無くなってしまった。
しかし狸と狐が瓢箪(ひょうたん)に酒を入れたものを持参するようになりコップ酒でうめぇうめぇと飲んだ。
「あらぁ、えっさっさぁ~♪」
いつの間にか部屋中に張ってあるポスターから美人がわんさかと出て来て獣たちとチークダンスを踊り出す。
老人は喜んでわしにも若いころがあってのう、愛情をそそいだおなごもいっぱいいたよ」
そういうと狸や狐が笑った。
「いやいや、愛情を注ぐのは一人だけにしておいたほうがよかったのじゃないの」
「うんだうんだ」周囲の獣やらポスターから出てきた美人がうなずいた。
瓢箪の酒が無くなると「ちょっくら酒を用意してくるわ」と小屋から出ると雑木林の陰で小便を瓢箪に注いだ。
「よしよし」そういって狸は老人やポスターから出てきた妖怪変化が待つ小屋に戻っていった。


了。


次のお題と課題。

お題 口笛、やかん、人工知能
課題 宇宙人が登場するエピソードを入れる。

よろしく。

夜の雨
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「三語即興文」です。

『狸と老人』の感想です。
お題「愛情」「チューナーレスTV」「呼び鈴」
課題「狸を主人公にする」
自分の作品の感想ばかり書いていますが(笑)。

山の中にある小屋の節穴から覗くとカラオケを楽しんでいる老人がいて、自分も楽しみたいと「話を作って」小屋の中に入り込み、カラオケを楽しむことに成功する狸。
そのうち山の獣たちも含めて人間も獣も、みんな兄弟というような流れです。
後半では小屋の中の壁に貼ってあるポスターの美女までが出て来て「あらぁ、えっさっさ」状態。
カラオケを唄ったりで楽しい時間を過ごし酒も入り、というような展開で……。
こんなことをやっているので、とんでもないラストが待ち受けている。

「三語即興文」は何でもできるからいいよね。

●みなさんも「三語即興文」に参加して、どんどんぶっ飛んだ作品を作ってください。

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それでは、私の作品です。

お題 口笛、やかん、人工知能
課題 宇宙人が登場するエピソードを入れる。

『恋人』

 黒い山肌を這うように曲がりくねる観光道路の表面が白く染まり始めた。昼すぎからチラついていた小雪が本降りになる。蝦夷松(エゾマツ)の黒い樹林が次第に雪の霞に覆われて、墨絵の世界が広がっていく。
「なぁ容子、君の家族は僕を受け入れてくれるだろうか」
「大丈夫よ、外見からだとわからないのだから」
「たしかに……」
ワイパーがフロントウインドウの雪をかきわけるのがだんだんと速くなる。
「今頃お父さんは囲炉裏に薪をくべているわ。あなたが来るのを楽しみにしているはずよ」
車は雪に覆われた山と山のあいだを走り抜け、町を駆け抜けた。
やがて、田畑のあいだの道路を速度を落としながら、茅葺屋根の一軒家の前にクルーザーを停めた。
二人して車から降りると容子が玄関先に立ち、戸に手をかけた。鍵はかかっておらずするすると開いた。
「ただいまぁ~」と容子が明るい声で呼びかける。
廊下をやってきた容子の母が「お帰り、待っていたよ。東京の方は大変だったでしょう」と言いながら、隣に立っている青年をちらりと見て頭を下げる。
「俊彦さんよ」と容子が紹介する。
ボストンバックを持った俊彦は容子の母に笑顔を向けた。
家の中に通されると父は大型画面のテレビを観ていた。
「よう無事に帰ってこれたな」と険しい顔をする。
「車の中では彼をお父さんにあわすときのことを考えていたから、スマホは見ていなかったの」
「東京で展開していた自衛隊は壊滅したらしい」とテレビの方を見る。
テレビ画面には焦土化した東京のあちらこちらで火と煙がくすぶっていたりする。
壊れた車や焦げて動かない死体がごろごろ転がっているのが見える。
「それにしても宇宙人はとんでもない奴らだな。目の前にいたら猟銃でぶち殺してやる!」
囲炉裏端のやかんが蒸気をあげていた。
容子は「お父さん、怖いこと言わないでよ」と苦笑いする。
「いや、マジだ!」と肩をゆすって立ち上がると、隣部屋に行き猟銃をとってきて座る。
食事のだんどりをしていたのか母が部屋に入ってきた。
「あなた、頼もしいわよ。宇宙人が現れたら遠慮しなくていいのよ。家族を守るためだもの」
俊彦は気まずそうに口笛を吹きつつ、部屋の中を見回した。
そこに犬が入ってきた。
柴犬だが妙になれなれしい、俊彦のそばに行き鼻面を押し付けて匂いを嗅いでいる。
「ああ、そいつはロボット犬なんだ、優秀な人工知能が入っていて自分で状況を判断するらしい」
「なあ、タロウ」とロボット犬の名前を呼ぶと「ワン」と吠えた。
「なら、安心ですね、私が宇宙人だとはばれないよなぁ」と俊彦は笑った。
「そうかそうか」と父親は笑いながら猟銃を手元に引き寄せた。

 了。

次のお題と課題

お題
アルバイト、宮沢賢治、画家
課題
人生を思わせるようなエピソード


それではよろしくお願いします。

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「三語即興文です」

『恋人』の感想

東京が宇宙人によって壊滅させられた設定や、最後に父が笑いながら猟銃を手にしたところで締めたのは良かったのですが、なぜ容子は宇宙人を夫にしようとしたのか、疑問が残りました。宇宙人もそれぞれ性格が違うとか、そういう設定も加えたら良いと思います。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私の作品

お題
アルバイト、宮沢賢治、画家
課題
人生を思わせるようなエピソード


『一夜にして』


涙色の山肌をつたう、九十九折が白く何かを訴え始めた。夜半から大雪警報が発令されていたが待てど待てど一向に降る気配もないので、とうとうしびれをきらしてしまったのだろうか。しかしこのナレーションは何だ、と私は夢の中でぼやき始めた。視覚情報と言語体系が繋がっていないのは今に始まったわけではないが、山肌は褐色、九十九折は真っ黒ではないか。おそらく、いや、あの毎日のように鳴らされる三振率の非常に高い地震警報が夢の中まで侵食しだしたに違いない、としたら大変だ。いまや小雪がチラつき始め、とのナレーションを挟み、あっという間に吹雪となったからだ。目覚めるときはいつもそうだが、映像は動きをじょじょに止めパンフォーカスの静止画に切り替わり、蝦夷松の樹林が次第に雪の霞に覆われ葛飾北斎の水墨画のように滲んでゆくところでアラームではない音がずいぶん前から聴覚に響いていることに気づき、古アパートの四方の部屋から輪唱となって身体を揺らしてきたときにはもう遅かった、宮沢賢治に触発されていたせいか謎の自己犠牲精神が走り隣の老婆を救いに行ってしまったときにアパートもろとも崩壊してしまったのだ……と三途の川を渡りながら涙を流す私は、円安増税、物価高に備えて休みの日もアルバイトを入れ貯金に明け暮れていた日々を、奪衣婆や懸衣翁にその金をちょびちょび支払いながら後悔もしていた。了


次のお題と課題

お題
煙草、誕生日、即興
課題
人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる


よろしくお願いします。

夜の雨
ai193205.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

「ゐ」さんの作品の感想からです。
お題 アルバイト、宮沢賢治、画家
課題 人生を思わせるようなエピソード

『一夜にして』

主人公が入居しているアパートが大雪の重みでつぶれたという事ですが。
隣の老婆を助けにいったのが宮沢賢治の思想に関係しているとかは結構深いと思いました。
三途の川を渡りながら生活苦の原因を並べるあたりはよいですね。
もう少し長くするとよいかも。
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私の作品です。
お題  煙草、誕生日、即興
課題  人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる


『人生の重み』

缶ビールをコップに入れると細かい泡がはじけてやがて消えるのははかない人生に似ている。
誕生日を迎えたおまえは先日会社を定年退職した。その日に妻から離婚を言い渡された。おまえは残った人生何をなすべきかと考える。
そうだとおまえは思う。
旅行はどうだろうか、いや旅に出るのもよかろう。
そうすると、どこがよいかなとおまえは思う……。
やはり高齢になってからの旅となると深い思い出になるであろう、三途の川あたりはどうだろうかと、頭によぎる。
三途の川を渡ると昔の知り合いが何人かいる。
わたしもそんな年齢かとおまえは苦笑いして煙草をくわえ火をつける。
煙草を持つ手が小刻みに震えるのは人生をあいつらのために酷使した証だ。おまえは自分の子供と女房の顔を思い浮かべながら、ゆっくりと肺から煙を吐き出す。

ちょっと待てよとわたしは考えた。
旅の行き先を三途の川などにしたら帰ってこられなくなるのでは、それはまずい。
わたしはコップのビールを一気に飲み、電子レンジで温めた焼き鳥の串を掴んで食べる。
「うめぇ~」まさに生きているという実感がわく。
やはりこれだよな、生きている証は。
さて、旅で三途の川に行きどうやって戻るかだな、そこまで考えてから行かなければ。

おまえは三途の川からどうやって戻るかを考えようとしたが所詮は人間。神様でも仏様でもないおまえに死後の世界から帰還する方法などわかるはずがない。
とりあえず死んでみたらどうだと、おまえの耳元でささやいてやった。

もう酔ったのか、誰かが耳元でささやいたような気がしたが。わたしは部屋の中を見回してみた。もちろん誰もいない、空耳か、私も年だな……。人生の終末が近づいているのか。
ビールが無くなったので冷蔵庫から缶酎ハイを取り出してきてタップルを取りそのまま飲んだ。
「うめぇ~、これが人生だ。死んで花実が咲くものかぁと来たもんだ!」マグロの刺身にワサビ醤油をつけて口に放り込む。
「いけるなぁ~マグロの刺身と缶酎ハイ、バッチリだぜ、うはははは」思わず笑い声が出てしまったところを見るとわたしは一人芝居をしているのかも。なにしろ勤続45年会社で働いて子供を育て女房に尻を叩かれてやっと楽になれると思ったところが、電話一本子供はよこさないし、女房は財産を半分よこせとかで離婚だし。なんかつまらんよな、あとは三途の川の旅ぐらいしか楽しみは。これじゃ、完全にわたしの人生は終わったようなもんだ。

おまえは能書きを垂れながらアルコールを飲んでいたがたどり着くところは三途の川だよな。
ははは、眠たのか……。
ねたのか……。
ネタノカ……。
俺はじっとおまえの顔を覗き込んだ。
ありゃま、息をしていない。
死んじゃったのか。
ははは、おい、死んじゃったのか。
俺の出番か、仕事だな三途の川へと連れて行かなければな。

背後から見ていると、死神は神妙な顔をして亡くなった高齢の男の身体をチェックをし始めた。

だれだ、背中から気配がするが、俺が振り向くとそこには仏様がたたずんでいた。
「死神よ、結構丁重に仕事をするではないか」
「なんかその言い方だとふだんは即興で死人を三途の川へ運んでいるみたいに聞こえますぞ」
「なあ死神よ、人生って重いよなぁ」
「たしかにこの男は、働きづめでやっと仕事を終えたと思ったらアルコールを飲みすぎて心臓マヒを起こしたらしいですが、何か楽しいことでも人生であったのですかね」

死神と仏様は亡くなった男にゆっくりと手を合わせて肉体から離れた魂を連れて冥界へと向かった。


了。


>人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる<
これがむつかしかった、というか意味が理解できなかった。
それで死神を使った「おまえ視点」の「二人称」と主人公の「わたし視点」の「一人称」最後に仏様からの三人称視点を混合させてみました。
ひとつの物語の中に「三つの視点」を使いましたが。
「視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる」これができていたのかは、わかりません。


ということで、次の課題も同じでよろしく。

お題
納豆、サソリ、不倫
課題
人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる

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「三語即興文」です。
今回は夜の雨さんに遅れをとりました。

ゐさんの『一夜にして』は、今晩屋さんの情景描写から捻ってますね。「雪国」のテイストを混ぜ混むあたり、ニヤッとしてしまいました。

夜の雨さんは、予想通り二人称を描いてきましたね。面白かったです。
一応つけ合わせ程度に私のも載せておきます。

お題  煙草、誕生日、即興
課題  人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる


『曖昧な記憶』

「昨日は僕の誕生日だった、いや、正確には一昨日だったっけかな、時間の感覚がちょっと曖昧でね、もしかしたらそれはただの錯覚だったのかもしれない」
「そうですか、それで?」
「結局、僕の誕生日がどう過ぎたのか、誰が来たのか、何が本当だったのか、すべてが曖昧で、掴みどころがないんだ」
「もう少し話してください」
「即興で誕生パーティーをしようと言っていたが、実際に来たのは誰だったのか……ジョンは確かに来ていた、フランクも居たような気がする、あのケーキの味は最高だった」
「では、誕生日会は実施されたのですね」
「その日は煙草をふかしていた、煙草の煙は部屋中に漂っていた、誰かにもらった特別な煙草だよ、それは普通の煙草とは違ってやたらと甘い香りがした、その煙草を吸った後、友人たちが笑っている声が聞こえたが、幻聴だったのかもしれない」
「誕生会は、実はマリファナパーティーだったのではないですか?」
「ああ、頭が痛い、痛いよっ!」
「君……」
「ドクター、手術の準備はととのっています。すぐにでも」
「しかし、まだ手立てが……」
「仕方がありません。これだけ頻度の高い症例は初めてです」
「……出来れば避けたかった」

「あぁ全ての記憶が鮮明に蘇った!」
「なんと」
「気が付いたんだ。頭の中の同居人の誕生日なんて知らないし、誰も煙草を吸ったことなど一度もなかった、私はエディだ、あのローストチキンの味も、最高だった」

「ドクター、これ以上は無理でしょう。ジョン氏の、ロボトミー手術の準備はととのっております」



ということで、次は夜の雨さんのお題でよろしくお願いいたします。

お題
納豆、サソリ、不倫
課題
人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる

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夜の雨さん『人生の重み』の感想です。

*取り急ぎ、夜の雨さんの感想のみになります。

前置きとして、人称ないしは視点のゆらぎという分かりにくいことを説明するために、下記の文を引用します。

「みんなが雨の音を聞いていた。/シャチにも聞こえてるかな。水の中にいるシャチにはわからへんかな。こんなにええ音やのに。でも聞こえてるな。(1行アキ)シャチにも聞こえていた」。
山下澄人『コルバトントリ』から引用

こういった、あれっと思う文章を、ゆらぎと私は表現しています。ただ、ゆらぎとはあくまでも数多くの小説と比較しての表現であって、ゆらぎはあっても小説は十分に成立することを山下澄人さんは証明しています(上の文章も成立している)。本来、小説とは、作者、語り手、作中人物、時間軸などを含んだ複雑な構造をなしているもので、「私は昨日学校に行った」と書いても、そこには「私」を俯瞰している「私」がいて、純粋な一人称とは言えない、つまり、ゆらぎが生じないほうがおかしいといったほうが適切なのかもしれません。

さて、本題に入ります。
『人生の重み』
御作は非常に工夫をこらしてありました。ただ、初読では、人称のゆらぎとはちょっと違うかなと思いました。
何故ならば御作、人称ミックス(一人称・二人称・三人称)と見せかけておいて、
おまえ(わたし)→男(わたし)
俺→死神(俺)
と変換して読むと、三人称多視点となるからです。
ところが下記の文、加筆しないと成り立たないことに気がつきました。

>とりあえず死んでみたらどうだと、おまえの耳元でささやいてやった。

とりあえず死んでみたらどうだと、男の耳元で"死神は"ささやいてやった。

>おまえは能書きを垂れながらアルコールを飲んでいたがたどり着くところは三途の川だよな。

男は能書きを垂れながらアルコールを飲んでいたがたどり着くところは三途の川だよな"と死神は思った"。

この二つの文において(従前の文)、人称代名詞を置き換えるだけでは三人称小説に直すことは微妙に難しく、人称ないしは視点のゆらぎが(少しではありますが)生じていると、私は思いました。

改めて簡略化すると、死神の一人称と男の一人称(死神視点では二人称となる)が並行的に綴られ更に仏様の一人称が加わり(ここまでは一人称多視点)、最後は三人称となる。
言い換えると、死神の視点と男の視点に仏様の視点が加わり、最後は俯瞰的視点となる。


夜の雨さん、私の勝手な無理難題に付き合ってくださり、ありがとうございました。

お疲れ様です。

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凪さん『曖昧な記憶』の感想です。

「私はエディだ、」と言っている人物の頭がおかしいだけ、というふうにしか捉えられず、ゆらぎは感じられませんでした。信頼のおけない語り手に属するものでしょうか。
今回は申し訳ないですが、夜の雨さんに軍配を上げさせて頂きます。
とはいえ、ご参加頂きありがとうございます。
お疲れ様でした。

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私の作品

お題
納豆、サソリ、不倫
課題
人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる



『逃避』

雨が降っていたが関係なかった。雨は其れを許さないらしい。走りだしてから間も無く靴を履いていないことにも気がついたがそれも関係なかった。玄関先で妻は其れに気づいていたが関係なかった。橋を渡り近くの公園まで走り、目の前に、普段はブランコがある場所に池がとってかわって現れた。頭上、はるか上空で灰白色の雲の間を縫ってドローンが絶え間なく監視している。朝食べた納豆ご飯と卵焼きの味がまだ舌に感じられる。まだあそこまでは良かった。問題は食器を運んだあとだ。大量のサソリがシンクに現れた。疑念が生じている妻の不倫問題よりも現実的かつ切実な問題だった。実際に見たのは初めてかもしれないが、あれはサソリとしか言えないようなサソリだった。ザ、サソリ。舌を舐めまわし卵焼きの最後の余韻を味わっていたら遠くの山の雑木林の中で鶏が卵を産み落とした。蛇に狙われぬよう鶏は用心深く周りを見渡す。池の水面を打つ雨粒がアメンボの激しめのダンスように見えているのは私だけではないはずで、当然深くから水面を見上げる鯉や鱒も気になって仕方がなかった。気にならない鯉は生殖行為に集中していた。突然ぬらりと顔をのぞかせた太々しい鯉は私ではなくドローンに興味があったが自分の視力では確認すらできない。背後でどんどん増水していく川の轟音に恐怖を感じた私は突き動かされるように再び走り出した。突き当たり、T字路の左側から幼なじみの健吾も走ってきていた。このままではぶつかってしまうと思い、走るのをやめたとたん、健吾も同じことを考えていて二人とも立ち往生してしまった。なんせ逃げ出してきた二人だ、出会ってしまったら面倒になるに違いない。この梅雨の長雨がやむまでの二日と四時間少々をどうしようかと途方に暮れている二人をドローンは流石に見逃さなかった。了


次のお題
夕刊、遊撃手、風呂敷
課題
早朝を舞台にして書く

よろしくお願いします。

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これって勝敗をつけられてしまうんですか?
伝言板を見て場を盛り上げようと、軽い気持ちで書いたらなんだか地雷を踏んだ気分です。

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軽い気持ちで軍配を上げたらなんだか地雷を踏んだ気分です。まさか私の主観による勝ち負けが凪さんにとってそこまで重要だとは思いませんでした。

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最初から勝負するつもりはありませんよ。賑やかしです。
>一応つけ合わせ程度に私のも載せておきます。
と書いてあります。
ゐさんの伝言板に応えてあげただけでした。
>私の主観による勝ち負けが凪さんにとってそこまで重要だとは思いませんでした。
意地が悪いですね。

夜の雨
ai203228.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

「三語即興文」は勝負をするために書いているのではありません。
>第一目的は文章と発想の瞬発力、及びショートショートの構成鍛練です。<
というルールがあります。


凪さんの作品の感想から。
お題  煙草、誕生日、即興
課題  人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる

『曖昧な記憶』

ネタはよいのですがね。
精神障害の患者から話を展開させているので、課題の「人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる」には、もってこいのネタだと思いました。
しかしあまりにも正攻法で話を作り、視点等の「ゆらぎ」が描かれていなかったですね。
ドクターが獣医で猿の前頭葉を手術したことはあるという業界紙の記事でも挟めば面白くなるかも。または猿のドクターだったとか。


ゐさんの『逃避』の感想です。

お題 納豆、サソリ、不倫
課題 人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる

● 課題になっている「人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる」の説明だと「物語というか、話の設定部分のエピソードに違和感があるようにすればよいわけですね。
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「みんなが雨の音を聞いていた。/シャチにも聞こえてるかな。水の中にいるシャチにはわからへんかな。こんなにええ音やのに。でも聞こえてるな。(1行アキ)シャチにも聞こえていた」。
山下澄人『コルバトントリ』から引用
ーーーーーーーーーー
ここでは「シャチにも聞こえていた」ということで、海中深くにいるシャチに聞こえるはずがない雨音が聞こえていたという設定になっているので。
一見問題がありそうな文章ですが、物語の流れから「違和感がない文章」になって、というか、こういった陸地での雨音が深海にいるシャチに聞こえているというところが面白いのでは。
童話とかファンタジーの世界にありそうです。

で、御作ですが、
>舌を舐めまわし卵焼きの最後の余韻を味わっていたら遠くの山の雑木林の中で鶏が卵を産み落とした。蛇に狙われぬよう鶏は用心深く周りを見渡す。<
この文章が一番「視点の揺らぎではわかりやすい」。
卵焼きを味わっている主人公には遠くの地にいる鶏の行動はわからないですよね。
「舌を舐めまわし」って妖怪ですか(W)。相手がいての舌なら普通ですが。

>この梅雨の長雨がやむまでの二日と四時間少々をどうしようか<
この雨がやむまでの時間も確実にわかる事はないので違和感を感じますが、これも「視点のゆらぎ」という解釈だとそれほど問題があるとは思えない。
御作は「主人公」と「幼なじみの健吾」が逃げ出したということでそれをドローンが上空から追っていたというお話ですね。
何が原因かは描かれてはいませんが。

ということで、「人称ないしは視点にゆらぎ(ブレ)を持たせる」という意味が分かりました。


感想等が長くなりましたので、私の作品と分けて投稿します。

夜の雨
ai192019.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

私の作品です。

お題 夕刊、遊撃手、風呂敷
課題 早朝を舞台にして書く


『谷崎先生』

谷崎の屋敷には結構な庭があり彼は徹夜で文筆活動をしたときなどはそこでラジオ体操をして眠気を飛ばしている。
垣根の向こうを新聞配達の少年が通りがかり「おはようございます」と垣根越しに谷崎へと朝刊を手渡しした。
「おはよう」と谷崎も機嫌よく笑顔で挨拶をしたいところだがあいにく書き上げた小説で登場人物たちがうまく立ち回ってくれなくてむっつりとしていた。
「先生、阪神が巨人に勝ちましたよ、朝刊には阪神の特集があります」
そうすると谷崎は両手を広げ「ぶ~ん」と庭を飛んでいる戦闘機の真似をして、遊撃手が機銃掃射のごとくに「ダダダダダーー!」と声をあげた。
少年は「やられたぁ!」と叫ぶとそのまま走っていった。
その後ろ姿を見送った谷崎は、満足気に「さて、原稿を風呂敷に包んで午前中に出版社へ届けるか、『徹夜で書いたと言って、あくびの一つもすれば』あんがい編集の川端は気に入るかもしれないぞ」
機嫌を直した谷崎は居間に戻り、昨夜の夕刊に目を通して論評に自分のことが書いてあるのを見て読むと「あほか……」と言葉少な気に笑った。
「パパ、食事ができましたよ」いつの間に来たのか少女のような妻の奈緒美が笑顔で谷崎を見ていた。
「よっこらしょ」と谷崎は夕刊をおいて立ち上がろうとしたがふらつき奈緒美に抱き着いたので「いいこいいこ」と奈緒美に頭を撫でられた。
それをよいことに谷崎は奈緒美から離れようとはしない。

了。

次のお題と課題

お題 遺伝子、芸能人、生意気
課題 失言の顛末を描く

よろしくお願いします。

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>しかしあまりにも正攻法で話を作り、視点等の「ゆらぎ」が描かれていなかったですね。

確かに、投稿してから書き方が弱かった(これでは伝わらないな)と思い、すぐに推敲したのですがこちらにはアップしませんでした。が、せっかくですから載せておきます。

『曖昧な記憶(推敲後)』

「昨日は僕の誕生日だった、いや、正確には一昨日だったっけかな、時間の感覚がちょっと曖昧でね、もしかしたらそれはただの錯覚だったのかもしれない」
「そうですか、それで?」
「結局、僕の誕生日がどう過ぎたのか、誰が来たのか、何が本当だったのか、すべてが曖昧で、掴みどころがないんだ」
「もう少し話してください」
「私が即興で誕生パーティーをしようと言ったが、実際に来たのは誰だったのか……ジョンは確かに来ていた、フランクも居たような気がする、あのケーキの味は最高だった」
「では、誕生日会は実施されたのですね」
「俺は煙草をふかしていた、煙草の煙は部屋中に漂っていた、誰かにもらった特別な煙草だよ、それは普通の煙草とは違ってやたらと甘い香りがした、その煙草を吸った後、エディが笑っている声が聞こえたが、幻聴だったのかもしれない」
「誕生会は、実はマリファナパーティーだったのではないですか?」
「ああ、頭が痛い、痛いよっ!」
「君……」
「ドクター、準備はととのっております。すぐにでも」
「しかし、まだ手立てが……」
「仕方がありません。これだけ頻度の高い症例は初めてです」
「……出来れば避けたかった」

「あぁ、全ての記憶が鮮明に蘇った!」
「おお……」
「気が付いたんだ。頭の中の同居人の誕生日なんて知らないし、フランクは煙草を吸ったことなど一度もなかった、私はエディだ、あのローストチキンの味も、最高だった」
「うっ………」
「ドクター、やはりこれ以上は無理でしょう。ジョン氏の、ロボトミー手術を一刻も早く」

「三人の、人格……」


失礼しました。

夜の雨
ai224124.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

凪さんの作品の感想から。
『曖昧な記憶(推敲後)』読みました。

ラストの「三人の、人格……」ということで、作者が何を狙ったのかがわかりましたが。
推敲前の作品と読み比べてみてもラストの違いぐらいしかわかりません。
しかしこの「三人の、人格……」の一言で、御作が何であったのかがよくわかります。
で、御作は先の作品でも書きましたがネタはよいと思うのですよね。
それで推敲後の作品を読むとラストの一言で意味はよく伝わりましたが、それなら、どうして冒頭からオチまでの設定を面白くしないのだと思いましたが。

つまりネタは面白いので冒頭から「三人の、人格……」が入っている患者を前にして医療スタッフが対応を迷っている、という展開にすればよいと思うのですが。

そうすれば冒頭からラストまで面白くなる。

現状の御作はラストの一言で御作の意味がわかるように設定しました。
それまでは読んでいても面白いとは思えない。
なぜかというと、設定を読まされているからです。

御作を面白くするには冒頭から「三人の、人格……」が入っている患者を前にして対応に追われている医療スタッフにすればよい。

お疲れさまでした。

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私が書いた『谷崎先生』の感想です。
お題 夕刊、遊撃手、風呂敷
課題 早朝を舞台にして書く

これは書いていて面白かったですね。
エピソードを笑えるものにしたからかもしれない。
谷崎が登場人物の立ち回りが悪いと思っていても、
「さて、原稿を風呂敷に包んで午前中に出版社へ届けるか、『徹夜で書いたと言って、あくびの一つもすれば』あんがい編集の川端は気に入るかもしれないぞ」
と思うあたり、人間の面白みが出ているなぁと。
夕刊で自分のことが書いていある論評を読み「あほか……」と言葉少な気に笑った。
とか。
ラストも結構面白いのでは。
こちらの作品は短編にでもしたらよいかも。


私の作品です。
お題 遺伝子、芸能人、生意気
課題 失言の顛末を描く

『伝説の誕生』

ミューは美形の少女で歌などもそれなりにうまいのだがどうも生意気なのだ。
しかし周囲の大人たちは彼女に気を使ってというか父親が元アイドルで現在は大物の俳優だから引いてしまっている。
ネットなどでは彼女のことを裸の王様、いや裸の姫君とか言って笑いものにしていた。

ある日のこと歌番組で先輩歌手の吉田に「あんたが芸能人としてやっていけるのは父親の七光りだからだよ」と言われてしまったが。
「遺伝子が一流だからね私は」と返す始末である。
吉田は「あほかガキのくせして」と完全に上から目線で罵った。
そうするとミューの歌う順番が回って来て彼女は突然「〇〇を歌います」と、予定されていた持ち歌をうたうのではなくて吉田が若いころ歌って名をはせた名曲をあげた。

番組担当者は凍りついた。
生番組だったのでミューと吉田のやり取りが視聴者に筒抜けだったし、大御所にたてつくとち狂った生意気な親の七光りの歌手はつぶれるのかと。
吉田も手を叩き、笑いながら「やってみろよ」と険しい顔をした。
司会者がとんだハプニングだと焦ったが、指揮者が楽団を見回して指揮棒を振り上げた。
そして吉田が一世風靡した曲が流れだす。
ミューは物おじせずに歌う。
テレビカメラはミューの顔を表情を、そして吉田の顔を表情を見比べるように映し出す。
一番が終わり間奏に入ったときに吉田がミューのとなりに並んだ。
そして二番を歌い出した。
もちろんミューは吉田の意図を知り二番を歌うのを控えた。ミューは顔色一つ変えずにいや微笑みさえ浮かべていた。
そして三番は一緒に歌った。
歌い終わると、お互いに顔を見合わせた。
もちろん吉田も微笑んでいる、そしてミューも。
そのあとネット民は大騒ぎになった。
「さすがわミューだ」
「吉田もすごいじゃん」
こうして伝説が生まれた。


了。


次のお題と課題
お題、選挙、芋、素人
課題、文学を感じさせる

それではよろしくお願いします。

きさと
p97230-ipoefx.ipoe.ocn.ne.jp

夜の雨さん『伝説の誕生』の感想です。

楽団がいきなり演奏できたということは、一連のやり取りは予め決められた台本通りだった可能性もありますが、視聴者にとってはエンタメとして楽しめれば十分で、それが庶民的な「伝説」のあるべき姿なんでしょう。


お題、選挙、芋、素人
課題、文学を感じさせる

『美しい芋』

 その村は湾曲した芋すら獲れないほどに果てていたが、村人たちは喜んでいた。有名な例の海に沿って歩いて、向こうの小島が岩壁に隠れて見えなくなったところで左に曲がると少し先にある、新しい村である。地面は白く、周囲の広葉樹林は雄大で、人々は未熟だった。皆閉じた世界の一角にひっそりと生きるのが窮屈だったのである。したがって彼らは、精神的に完璧な解放を求めなければならなかった。村ぐるみの集団自殺である。多くの読者は、どうしてそんなことをするのか意味が分からない。しかし村人たちにとっては深刻な事情があり、我々は彼らの哀れなる意志を、それでも尊重してあげるしかないのである。
 ある木のほとりに座りこんだ二人の男女が、死ぬ前の会話を楽しんでいる。
「やったね。これで農作物は全滅したし、水は汚れに汚れて虫と菌がわいてる。餓死できるね」
 すっぴんの女が、低血糖で眠たい目を力みながら、臭い男に笑った。女も男も、今や服を洗う手段がなかったが、それでも最も汚れが少なくお洒落な服を選んで着ている。臭い男がすっぴんの女に土ぼこりをかけて笑った。
「村長選挙でダミさんを選んで正解だったよね。前の村長は村人全員で毒物を飲んで死のうとか言い出したけど、結局怖くて五、六人しか死ねなかったからね。でもこの方法なら、いくら怖くてももう死ぬしかない。ダミさんは偉いよ」
 臭い男はそう言ったようだが、息が絶え絶えでよくは聞こえなかった。すっぴんの女が男にかけられた土ぼこりを払って笑った。
「私たち、前はみんな自殺に関しては素人だったけど、ぐんぐん自殺のプロに近づいてる気がする。もし他の村に自殺したい人がいたら、やり方を教えに行ってあげようよ」
「そうだね。それから死のう」
「うん」
 男女は、ははは、ふふふ、ははは、ふふふ、と笑い合って、各々の今までの人生を思い出した。村の空は毎日清純で、特にこの日の昼の空は一層明るかった。ただし実際には、二人を含め村人の八割が数週間以内に餓死する運命が待っている。しかし我々はどうすることもできない。


次のお題……山・鉄・感情
課題……人間を含む生物を一切登場させない

よろしくお願いします。

fj168.net112140023.thn.ne.jp

きさとさん、『美しい芋』読みました。お題と課題は消化されていましたが、何を言いたいのかわからず、気持ちの悪い感覚だけが残りコメントの付けようがありません。という感想でした。すみません。


お題……山・鉄・感情
課題……人間を含む生物を一切登場させない


『沈黙の番人』

山の頂上にそびえる古びた鉄塔は、長い年月を経て、風雨にさらされながらも静かに立ち続けていた。鉄塔が自分の存在意義について考え始めたのはいつ頃からだったのか。かつては通信の要として重要な役割を果たしていた自分も、今では新しい技術に取って代わられ、役目を終えたかのようになって久しい。山の静寂の中で錆びついた体を感じながら、思い出すのは過去の栄光の日々ばかりだ。
ある夜、満月が山を照らし、鉄塔の影が長く伸びた。その影を見つめながら、鉄塔は自分が山の一部であり、山の風景に溶け込んでいることに気づいた。役目を終えたとしても、かたちあるものとして存在し続けることに意味があるのだと思った。単にそれが孤独を慰める言い訳に過ぎなかったとしても、確かに鉄塔は、山の静寂と共に新たな感情を抱き始めた。過去の栄光に囚われることなく、今この瞬間を受け入れるという感情だった。そう思えば思うほど、朽ちゆくこの錆び果てた体が愛おしく感じられた。
その日、激しい風と雷が山を襲った。鉄塔はその強風に耐えながらも、錆びついた体が軋む音を感じた。雷が鉄塔に直撃し、閃光と共に鉄塔は大きく揺れた。
翌朝、嵐が過ぎ去った後、山は再び静寂に包まれていた。しかし、鉄塔はその頂上から姿を消していた。嵐の力に耐えきれず、ついに倒れてしまったのだ。山の麓には鉄塔の一部が散らばっていた。その残骸の中には、かつての栄光を思い出させる一片が残っていた。それは鉄塔が通信の要として活躍していた頃の名残であり、今もなおその存在を証明していた。
プレートにはこう刻まれていた。

“Here is the Guardian God of the Mountains, Silent Sentinel, since 1940 by Tesla World system”

「山の守護神、サイレント・センチネルここにありき。1940年テスラワールドシステム製造」


次のお題「海月」「虹」「道化」
課題 未来の日本のすがた

夜の雨
ai202012.d.west.v6connect.net

「三語即興文」です。

お二人の作品を読んでインパクトがあり驚きました、いやぁ三語即興文でもなかなか凄いものが書けるのだと。

きさとさんの作品の感想です。
お題、選挙、芋、素人
課題、文学を感じさせる

『美しい芋』

なかなか強烈ですね。
ちょっと毒の部分がきつすぎて、笑う作品なのか御作の闇の部分を探求する作品なのかしばらく考える必要があります。
しばらく考えても闇が深くて底が見えませんが。
一度希望が見えるところから、暗転するところがツボかも。

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凪さんの作品『沈黙の番人』の感想です。
お題……山・鉄・感情
課題……人間を含む生物を一切登場させない

本文の終わりに「英文」の文章があり、意味が深そうなので調べてみると「テスラワールドシステム」というのが、「ウォーデンクリフ・タワー」からとったものであるのではと思いました。
>アメリカ合衆国ニューヨーク州ロングアイランドのショアハムにかつて存在した高さ57メートルの電波塔である。1905年に電波による通信、送電の実験を目的として建設された。<
ニコラ・テスラ1856年7月10日 - 1943年1月7日)が建てた。
で、この電波塔は着工1901年、竣工1905年、で解体が1917年。
どうして解体されたかというと第一次世界大戦にアメリカが参戦すると攻撃の標的になるとされるのではということから。
御作では「1940年テスラワールドシステム製造」とあるので、これは「第一次世界大戦にアメリカが参戦」とするところを、第二次世界大戦に置き換えて話を作ったのだろうと思いました。
「1940年」は日本が終戦した年なので、原爆投下後のソ連とかの冷戦時代から第三次世界大戦への恐怖が背景にあるのかもしれません。

またネット検索では、
>サイレント・センティネルズ(自由の守護者)は、アリス・ポールと全米女性党が組織した、女性参政権を支持する2,000人以上の女性グループであり、 1917年1月10日からウッドロウ・ウィルソン大統領の任期中にホワイトハウス前で非暴力的な抗議活動を行った。約500人が逮捕され、168人が投獄された。<
ということも出てきましたので、鉄塔はかっての自由の守護者の役目をしていたのかもしれません。
しかしそのあと忘れられた存在になったという事でしょう。
そう読むと、御作は意味が深い作品では。

●結論
鉄塔はかっての自由の守護者の役目をしていたのだが、人間たちはその鉄塔の存在すら忘れてしまった。
●だから現在、世界は闇の淵で混沌としている。

●御作はもう少し背景部分を書き込むと、読み手をもっと楽しませることができると思います。

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私の作品です。

お題「海月」「虹」「道化」
課題 未来の日本のすがた

『知られざるもの』

「電波塔の話を知っているか?」と小学生の孫に尋ねた。
「知っているよ、童話で読んだもん」と言って、死に蜘蛛という死神の話をする。
死者の魂の記憶にある愛する女をターゲットにする、二人称視点で書いた話だった。
死神の蜘蛛は最後に電波塔に登ってそこから風に乗り死者の記憶の底の女を探しにいく。
「違う違う、山の守護神、サイレントセンチネルの事だよ」と私は言う。
「それは知らないなぁ」と孫は言いながら水槽の海月をじっと見ている。
「凪という作家が書いた隠れた名作なんだ、ネットで探してごらん見つかるから」
「面白いの?」と言って道化の真似をした。
孫がふざけてピエロのまねごとをしているので彼にはまだ早いか『沈黙の番人』は、と思ったが、「ノーベル賞作家のナギが書いた『沈黙の番人』なら知っているよ、彼の掌編の一つだよ」と笑った。
「えっ? そうなの」と思い、日本では川端康成と大江健三郎、それにカズオ・イシグロのほかにいないと思ったので、外国の受賞者なのかと勉強不足の自分を笑った。
「『沈黙の番人』って、どんな掌編なの」とたずねると、作家でごはん! というサイトの『三語即興文』にあるよ」
そういいながら「雨はやんだみたい」と孫が窓を開けると、虹が出ていた。

未来の日本は、自由な発想をする子供たちのすがたに明るいのではと、七色の虹を見て私は微笑んだ。


了。

次のお題と課題。
お題、ナマズ、バッタ、女の子
課題、男の子の視点で。

それではよろしくお願いします。

夜の雨
ai193177.d.west.v6connect.net

失礼しました第二次世界大戦の終戦は「1945年」です。

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