作家でごはん!鍛練場
いかめんたい

丘の上の女

1
「同棲中の彼女が夕べ、僕のこと『許せない』って言ったんですよ。寝る前にぼそっと」
 工藤は佐山と2人でいつもの居酒屋で飲んでいた。夕方になってとつぜん誘いのメールを送ったのは工藤の方だった。この春に部署異動となってから無暗やたらと忙しい日が続いていたが、今日は最後の会議が急遽延期になり、久しぶりに早く帰れそうになったのだ。
「僕は特に思い当たる節もなくて、ひどく疲れてもいたから無視して寝ようとしたんです。そしたら眠りに落ちそうになった瞬間に、彼女が笑顔で覆い被さってきて」
「お、やる気だね?」
 楽しそうにそう言いながら佐山は取り皿を手に持ってサラダをかき込む。いかつい見た目からは想像しづらいが、彼は居酒屋でつまみを注文する順番にやたらと細かかった。油物は当然最後で、まず生野菜それから刺身などの生物という基本ルールを、同席した相手にも決して崩させないスタイル。やむを得ず工藤も付き合って、シーザーサラダをむしゃむしゃ頬張りながら喋り続ける。
「そんな話じゃないんです。彼女ははじめ両手で僕の頬を挟んで、軽くキスをしてきました。僕が疲れてるのになんて考えていたら、いきなり『あなたのこと殺すね』って言って、僕の首に手をかけ、2本の親指でのどぼとけを潰そうとしてきたんです」
 工藤は取り皿をテーブルにおいた。思い出しただけで背筋に悪寒が走る。
「叫び声を上げて飛び起きちゃいましたよ。そしたら彼女は、壁際を向いていびきをかいて寝てました」
 佐山は黙って聞いている。
「全身の力がどっと抜けました。ただ夢だと認識した後も、闇の中で動悸と冷や汗がおさまらなくて。のどぼとけに押し付けられた指の感触もはっきり残っています。きっとあそこで目を覚まさなければ、あのまま本当に彼女に殺されていたんじゃないかって気が今もするんです」
「亮ちゃんいったいなにやったのよ」
 ジョッキのビールをグビグビと飲み干しながら佐山が言う。
「なんにもしてませんよ。ただこの間の話の後味が悪すぎて、あと最近は疲れてたのもあってそれであんな夢をみたのかなって」
「いや自分で気づいてないか忘れてるだけで、彼女に対してなにかよっぽど後ろめたいまねしたんだよね。じゃなきゃ普通はそんな夢見ないでしょ。まあその夢もたぶん、一種の『呪い』みたいなもんだよ」
「僕の彼女は別に、呪術師とかではないですけれど」
 工藤は肩をすくめると、手にしていたジョッキをテーブルにごそりと置いた。
「生きてる普通の人間が、誰かを呪うことだってあるよ。ときには無意識にね。そのせいで実際に人が死ぬことだってさ」
 佐山がタブレットのドリンクメニューを眺めながら言う。
「またそんな。本当ならそれはそれで怖いですけどね」

 お互いに2杯目の生ビールを頼んだところで、「そういえば去年こんなことがあったんだよね」と佐山が切り出した。どうやら調子が出てきたらしいのが、工藤は嬉しくてたまらない。こうした話が聞きたいから彼と飲み続けている節すらあった。
「ある無名の画家がさ、結構大きな公募展で入賞したんだ。でもその半年後くらいに自殺しちゃってね。この男、ある病気にかかっていたんだけどさ」
「まさか誰かの呪いで病気になったっていうんですか?」
「ばかだな。そんな非科学的な話あるわけないよ」
 それはそうだと思うけれども、佐山に言われるとなんだか腹が立つ。
「事情はもうちょっと複雑さ。実は俺、生前にその画家に会ったことがあるんだよね。正確には画家と奥さんと息子、あとはその不倫相手の4人といっぺんにね」
「どんなシチュエーションですかそれ」
 いったいこの男は、普段は何をしているのだろうと工藤はあらためて疑問に思う。

 佐山は職場のかつての先輩だ。5年ほど前に彼が会社を辞めてからは長いこと会っていなかった。それが去年の秋に偶然再開して以来、月に1度くらいの頻度で2人で会っては酒を飲むようになった。佐山はあれから就職はしていないというが、かといって金に困っている様子もない。すこし怪しい気もするが、 工藤はそんな彼のことを、「昔から変わった人だったな」くらいに気楽に考えている。

 佐山がその絵描きと出会ったきっかけは、「けんいち」という人物のポストをXで見たことだったという。

――この絵のモデルになった女性を探しています。

 その下には女性を描いた絵画の画像が添付されていた。
「その画像がさ、例の入賞作品の一部分だったんだよね」
「よく色んなことに気がつきますね。もう驚きませんけど」
「これは本当にたまたまさ。俺実はさ、以前からちょくちょく彼女を電車で見かけていて、それで印象に残ってたんだよね。その絵も彼女のことも。別に知り合いってわけじゃないんだけどさ」
 佐山の説明によると、初めてその女性を見かけたのは、ポストを見たさらに半年くらい前のことらしかった。
「17時過ぎの下り電車で、車窓からオレンジの夕日が差し込んでたよ。帰宅ラッシュよりは前だからまだそれほど混み合っていない。俺は座席に座りたいから、いつも出来るだけ一番端の車両のさらに端っこに乗るんだよね。それでふと見ると、ボックス席の通路側に、地味な服装に似合わない丸型レンズのサングラスをかけた腹の出たおっさんが座ってたんだ。なんの気なしに眺めていると、次の駅から乗ってきたショートカットの女がその直ぐ傍に立った。おっさんは携帯に何かを打ち込みながら、画面を少しだけ女の方に傾ける。女は素知らぬふりをしているが、さりげなく折った首筋や、落ち着かない足元の様子で、何か文字を読んでいるのがわかるんだ。お互いに言葉は一言も交わさない。女はそのまま1つ先の駅で降りていった。残されたおっさんの口元には笑みが浮かんでいたよ」
「あやしいですね」
「でしょ? それが一回だけじゃないんだよ。翌月にたまたま同じような時間の電車に乗ったんだけど、そしたらまた見たんだよその2人を。その後も何度か見かけたけど、毎回サングラスのおっさんの直ぐ脇に女が立って、しばらく何かをじっと眺めてから、何も言わずに降りていくんだ。だから俺もずっと気になってて、それでその『けんいち』っていうXのアカウントにDMしてあげたんだよ。ちょっとこの男女2人に興味もあったしね」
 話しながら佐山がスマホをスクロールする。
「そしたらすぐにその『けんいち』から返信がきたんだ。女を見つけに行きたいんだけれど、できれば俺にも一緒にきてほしいって。それで彼とやりとりしだんだけどさ」
 そういって自分のスマホを差し出してきた。
「『けんいち』はその絵を描いた人物の息子でね」
 スマホを受け取り佐山のアカウントを見ると、タバコをくわえたガラの悪そうな佐山の写真の下に「SAGAWA牛乳瓶」と表示されている。
「前から思ってたんですけど、なんなんですかこの佐山さんの表示名」
「なぜか昔からよく、佐山を佐川と間違えられるんだよね。それはともかく、これを読んでくれよ」
 佐山がDMの画面を開いてスクロールする。相手はその「けんいち」という人物だ。

 ――これは父が描いた絵で、モデルはどうやら父の長年の不倫相手らしいんです

 ――なんでわかるんですか

 ――父がここ数年、誰かと不倫をしているのはふだんの様子から明らかでした

 ――お父さんは画家ですか?

 ――絵はただの趣味で、本業は高校教師です。それなのに母にアトリエまで作らせて

「まあ、たいがいそんなもんだよね。アーティスト一本で食べて行ける人なんてほんの一握りでしょ」
 佐山が一緒に画面をのぞきこみながら補足する。

 ――でもあの絵は家のアトリエでは見たことありません。だから僕ら家族も彼女がどこの誰なのかわからない。父は僕らにその絵も彼女のことも隠してたんです。ただその絵がたまたま入賞してしまって、僕らもようやく気が付きました

「それでXで情報を募ったんだってさ」
 工藤は黙ってうなずいた。

 ――DMをいただいたとき最初はいたずらかとも思いました。この絵はあれから専門誌やウェブサイトなんかにも掲載されて、目にした人もそれなりにいるはずですから。

「確かにその心配はわかる。しょせんネットだし」
 佐山がそう言いながらテーブルの端を叩く。

 ――ただ、SAGAWA牛乳瓶さんのDMに書かれていたJRの路線がまさに父が通勤に使っているものだったのと、あとは男性の様子も父とよく似ているようなので、信憑性が高いと判断しました、もちろん謝礼はお支払します

「謝礼は最初断ったけど、結局5万円を受けとることにしたよ。ただ働きさせるんじゃ向こうも心苦しいだろうからさ」
 まさか佐山は、日頃からこんなことをして稼いでいるのだろうか? そんな疑問が工藤の頭に浮かぶ。
「でも何でわざわざ佐山さんについてきてほしいなんて言うんでしょう」
 工藤ははやくも2杯目を飲み干す寸前だった。溜まったストレスのせいかペースが速い。そろそろ次を頼もうかとタブレットを手に取った。
「だってさ、そもそも親父さんと不倫相手が密かに連絡を取り合っている現場に家族が乗り込んだんじゃ、すぐに気づかれてお終いじゃん。それじゃ尻尾を押さえられないよ。それにいざという時のために証人もほしかったんだと思うよ。ほら、不倫相手とのいざこざなんて訴訟沙汰になるかもしれないし。でもこんな話、誰か知り合いに頼むのもちょっと気まずいじゃない?」
「それはそうかもしれません」
 自分のために熱燗を注文してから、佐山にタブレットを手渡した。
「それで俺のXのアカウントを見て、協力を頼むことを思いついたらしい。俺って気になることはすぐ現地に調べに行ったりして行動力はあるほうだし、きっと悪い人間にも見えなかったんじゃないかな。言いたいことは言うからトラブルも多いけど、自慢じゃないけど卑怯な真似とかはしないしね」
 佐山は短くなったタバコをくわえたままタブレットを操作する。
「それか、佐山さんのいかついプロフィール写真をみて、いざというときの用心棒代わりになると踏んだんじゃないですかね」
「言えた」
 佐山は陽気に答えると、新しいタバコに火をつけた。

2
 「けんいち」と駅のホームで待ち合わせしたんだけどさ、さすがにこのとき母親まで一緒に来るとは思ってなかったかよ。彼のほうが俺に気づいて声かけてきたんだけど、くるくるパーマで今ふうの若者だった。その直ぐ後ろに背の高い中年女性が立っていて、俺に向かって無言で会釈してきた。それが「けんいち」の母親、例のサングラスのおっさんの奥さんだったんだ。くっきりとした目鼻立ちと長い髪が印象的だったな。
 俺の案内で目当ての電車に3人で乗り込むと、14両目の連結部分あたりから、一番後ろの15両目の様子をうかがった。すでにボックス席に座っていた例のおっさんとは、お互いに姿が見えない位置関係だけど、通路に投げ出された足や靴の様子から、その2人の父にして夫である男性に間違いはないってことだった。
 いつも通りに次の駅で例の女が乗り込んできて、ボックス席の傍らに立ったんだ。俺は声を出さずに2人にその女を指さしてみせた。マンガでどろぼうがお宝を発見した時みたいな大げさな表情と身振りを何度もしてさ。そしたら息子のほうがちょっとやな顔してうなずいたよ。ノリ悪いよね。
「何やってるんですか」
 受けると思ったんだけどな。それで次の駅で女が下りるのはわかってたから、俺たちも急いで電車を降りて改札の外に先回りした。
 改札を抜けた女が足早に歩き去ろうとするところに、ちょっといいですかって、息子が後ろから声をかけたんだ。それじゃまるで宗教の勧誘だよね。女は不審そうに俺たちの方を振り向くと、ぎょっとした顔をしてそのまま立ち去ろうとした。
「そりゃそうなりますって。いきなりこんなでかい男が立ってたら」
 それはしょうがないだろう。そこで息子が追いすがるように言ったんだ。あなたをどうこうするつもりはありません、悪いのはきっとあの男なんですよね、ただね、これ以上母を苦しめないでほしいんですって。
 その言葉になにか思うところがあったのか、女は立ち止まって再び俺たちを振り返ると、奥さんと息子のほうをまじまじと眺めた。でも俺とは目を合わせようとはしなかったな。
 それで女は、洋司さんのご家族の方ですかって尋ねてきて、息子がゆっくりうなずいた。そしたら、よかったらうちまでいらっしゃいませんか? このあと彼も来ますから。私も本当は、もうすべて終わりにしたいんですって。
 俺たちは女の意外な反応に顔を見合わせた。女は茶髪のショートカットで、ちょっと地味目だけどきれいなおばさんって感じだったし、そんな悪い人には見えなかったよ。それで息子と話し合ってとりあえずついていくことにしたんだ。人数も3対1だったから、万が一女と奥さんがとっくみあいとかになっても大丈夫そうだし、俺のGoProで全部撮影もしてたしね。

 駅前のペデストリアンデッキを4人でぞろぞろと渡っていると、左手にはまだ新しそうなマンションが2棟並んで立っていた。窓には正面の商業ビルのネオンが映り込み、パステルカラーに輝いてる。それがなんかブレードランナーみたいで、思わずGoPro向けて撮っちゃったよ。
 しばらく行くとあたりはすっかり暗くなり、俺たちは道幅の狭い歩道を歩いていた。右手は俺の背丈ほどもある塀で、その上には鉄条網が張り巡らされている。変電所みたいだったな。左手は上下4車線のバイパスで、オレンジ色の照明が煌々と照らすなか、暗い色の車が猛スピードで走り抜けていく。その向こうに小高い丘があって、頂上付近には何軒かの家が闇の中にひっそりと佇んでいた。女の家は、その丘の上にあったんだ。
 家は小さな一軒家だった。俺たちは言われるままに上がり込んで、古びたダイニングテーブルの周りに腰を落ち着け、出されたコーヒーを無言で飲んだ。お茶うけのチロルチョコは俺が1人でぼりぼり食べてたけど、ほかには誰も手をつけてなかったっけ。
 俺が率先して話すのも変だから黙ってチョコを食べて続けてたんだけど、そしたらようやく息子が口を開いて、「父とはいつも電車の中で会っているんですか」ってどストレートに切り出した。女のほうも意外と素直に「彼がいつからか着信や通話の履歴が残るのをすごく嫌がるようになったんです。それで待ち合わせの約束なんかをするのに、電車でお互いの移動途中に会うのがいちばん都合がよかったんです、二人とも車の運転もできないから。それに短い時間でも直接顔も見られるし」だってさ。「彼は学校のほかに、最近は遠くの総合病院にも電車で通っていて、あ、ご存知ですよね。それがたまたまですけどどっちも私の通勤経路と同じ路線だったんですよ」なんて、聞いてないことまで話してくれたよ。その間、奥さんはまったく無反応だったな。
 ダイニングの奥の小さな部屋を改装してアトリエにしてるっぽかったよ。ちらっとだけ見えたけど大きなイーゼルがあって、床は一面にブルーシートが敷かれていた。絵の具のあとがたくさん飛び散ってポロックの絵みたいになってたな。

3
 話も途切れ気まずい時間がしばらく流れてから、とつぜん玄関のチャイムがなった。女がダイニングの扉を後ろ手にしめて出て行った。時計を見ると8時ちょうど。ちょっと何かごそごそやっていたみたいだけれど、すぐに例の丸サングラスのおっさんと連れ立って戻ってきたよ。
「なんでお前たちこんなところにいるんだよ!」
 いきなり怒鳴りつけながらダイニングに大股で入ってきたけど、別に驚いている様子はなかったな。俺たちのことは玄関先で女に聞いてたんだろう。
「彼女はお前たちとはいっさい関係ない。さっさと帰れ!」
 おっさんはまるで俺たちのことをゴミ捨て場のカラスか何かみたいに手振りで追い払おうとしてきた。やなやつだよね。まあそんなことされても帰らないけどさ。
「だいたい誰だお前は」
 俺の鼻先を指差してきたからどんな自己紹介しようかと鼻から息を吸ったところで、
「大声でわめかないで。あなたこそこんなところでなにやっているのよ」
 奥さんがその日はじめて口を開いて、鎌首をもたげたヘビみたいにおっさんを睨みつけたんだ。俺のことは紹介してくれなかったけど、おっかないから黙っといた。
「彼女はかつての教え子だ。旦那を事故で亡くして大変だって聞いたから、いろいろと相談に乗ってただけだ」
 おっさん、このシチュエーションにもぜんぜん悪びれてないっぽく見える。まあそうするしかなかったのかもしれないけど。
「また何かもめごとおこして、示談にしてもらおうとしてるのかと思ったわ。お金ならもう払わないわよ」
 奥さん、過去を根にもつタイプかな。おっさんちょっとむっとする。
「冗談よ。でもよくとっさにそんなウソがつけるわね。さっき玄関で打ち合わせでもしたの? どうしようもない人たち。今さらそんなごまかしが通じるとでも思ってるのかしら」
 奥さんが嫌味っぽくおっさんと女を交互に指さす。おっさんは直ぐに何か言い返しそうになったけどそれを一旦飲み込んで、それから観念したようにつぶやいた。
「まあ、彼女には俺の絵のモデルもやってもらった。例の入選した絵のさ。気づいてるんだろう」
「それだけじゃないでしょう」
 奥さんは口元だけは笑っていたけど、目を見ひらいててハンパなく怖い。
「それは男女2人でずっと一緒にいれば、間違いを犯すことだってないとはいえないけれど」
 最後のほうはやけに小声だ。浮気がバレてる自覚はあったんだな。
「でもそんなのはよくあることだ。お互い別に本気じゃない」
「あらそれを聞いて私も嬉しいわ。2人でさんざんやることやっても、本気じゃなければ問題ないわよねぇ」
 攻め込まれたおっさん、たまらず開き直った。
「いい加減にバカなこと言うのはやめろ。俺は絵を描くことだけが生きがいなんだ。あとは適当さ。どうでもいいんだよ。いつも言ってるだろう。だいたい教師の仕事なんて馬鹿馬鹿しくていつまでもやってられないんだよ。収入だってたかがしれている。どうせこれ以上の出世も望めない」
「それは自分がまいた種だよね」
 今度は息子が声を震わせながら言った。きっとこのシチュエーションに思うことがあったんだよね、いろいろと。
「たかが絵がうまいことがそんなに偉いの? パッとしない高校教師が、まだ世間知らずの教え子をだまして男女の仲になって、あげくに前よりレベルの低い学校に異動させられてさ」
 けしからんよね。腹の出たきたないおっさんが年端もいかないJKと男女の仲なんて。おっと俺の体型のことは言いっこなしだよ。
「それが今度は絵のモデル女性と親密になって、相手の家に入り浸っているなんて。ほんとうにくそだよな!」
 俺はむしろ、JKよりこっちのきれいなおばさんの方がいいなと思ったけれど、どっちにしてもうらやま、じゃなくてけしからん。
「本当にごめんなさい!」
 突然きれいなおばさん――その女――が、両手で顔をおおって頭を下げた。みんなの視線がいっせいに集まる。ドラマかなんかのワンシーンみたいだ。
「最初は彼の絵画教室に、モデルとして呼ばれただけだったんです。そしたら今度は、彼自身の絵のモデルになってほしいって頼まれて」
「あらー、それでいそいそと引き受けて、この男とまんまと親密になっちゃったってわけね」
 女は奥さんの手厳しい煽りをあえて相手にしないで、うつむいたまま静かに話し続けた。煽り運転なんかへの対応としても見習いたいかわし方だね。
「実は私たち、もう別れる約束をしているんです。私は別れたくなはなかったけれども、彼が残りの人生は家で家族と過ごしたいって」
「なに調子のいいこと言ってるのよ」
 奥さんはおっさんに向かって吐き捨てると、今度は女に対して言った。
「あなたは、この人の病気のことは知っているのかしら?」


「病気ってなんですか?」
 工藤が赤ら顔で佐山に尋ねる。さっきからつまみを頼むのを忘れていたので、テーブルにはお互いの飲み物と灰皿くらいしかなくなっていた。
「ああ、網膜色素変性症とかいう難病で、しかもこのおっさんのは進行がはやくて、いずれ完全に失明することがわかっていたんだ。それもあって女のところに入り浸って急いで絵を完成させたらしい。その絵が、公募で入選したんだよ。おっさんにとってはこれが生涯で最後の絵かもしれないっていう、鬼気迫るものがあったのかもね」
 佐山は相変わらず楽しそうだ。
「まあそのせいでちょっと注目を浴びて、家族にもばれちゃった訳だけど」

―――――――

「はい」
 女が奥さんの質問にうなずいた。
「既にだいぶ見えなくなっているとは聞いています。もうあきらめているのか病院にも面倒くさがってあまり行かないみたいだし。それであと数年もすればまったく見えなくなるだろうってことも」
 女が顔をあげる。おとなしそうだけれどどこか芯が通っていて、奥さんにびびっている感じでもなかったな。
「だからこんな男はもういらないってこと? だいたい病院にちゃんと通わないのだって、あなたのところに入り浸っているせいじゃないの」
「それについては、彼に申し訳なく思っています。病院にも行くようにいつも話してはいますけど、でも奥様が見つけてくれたところが遠すぎて通うのがたいへんだって言うからつい私もそこは甘くなって」
 おっさんも女も2人とも運転できないって言ってたからなおさらだよね。
「ただ病気のことを知ってからも、彼が奥様と別れたら、その後は二人きりでこの家で静かに過ごすのもいいかなって本気で考えていたんです。私のモデルや事務のアルバイト収入でなんとかやっていける程度のつつましい範囲内ですけれども」
 サングラスごしだけど、おっさんの表情が少しゆがんだように見えた。奥さんは呆れたように言った。
「こんな男のどこがそんなにいいわけ? 私が言うのもあれだけど」
「奥様には申し訳ないけれど、私はほんとうに彼が欲しかったんです」
 奥さんの顔色が少し変わった。目つきもやばい。
「今にして思えば、死んだ旦那にどことなく似ていたのかもしれません。2年前に自動車事故であっさり逝ってしまって、それから毎日が本当につらくて。だから彼がうちにいてくれるだけで嬉しかった。私も趣味で絵を描くから、私が悩んでるときには彼からアドバイスがもらえればうれしいななんて、そんなことを夢見てました」
 奥さん黙って女をにらみつける。
「ごめんなさい」
 女が再び頭を下げる。息子が何か言おうとしたが、奥さんが腕をつかんでそれを制する。おっさんの目線はサングラスでうかがいしれない。
「でも私、ほんとうに彼を手に入れるためになら、手段を選ばないつもりでした。でも」
 そこで女は言葉を切った。
「それも、もう、どうでもよくなってしまって」
 女は奥さんと息子を交互に見据えた。
「彼は自分がやがて目が見えなくなるとわかってからしばらくすると、とつぜん私とは別れるって言いだしたんです。2人の関係はあの絵が完成するまでだから、その後は連絡をいっさい断つって。ほんとうに一方的に。しかももし言う通りにしなければ私との情事の動画をインターネットでばらまくなんてことまで言い出して」
「くそやろう」と息子。
「それはくそやろうね」と奥さん。
「くそやろうですね」俺も言ってやった。
 息子はうつむき、人差し指と親指で左右のまぶたを押さえていた。おっさんは知らん顔をしてる。女は淡々と話し続ける。
「別に私は、そんなこといまさらたいして気にしやしないし、動画が拡散すればむしろ困るのはこの人のほうだろうとも思いました。でもその時になってようやく気が付いたんです。結局この人は、自分の都合のためには、何か相手にひどいことをして傷つけたり、おどしたりしてもぜんぜん平気で、それで自分の言うことをきかせられればいいって考え方なんだなって。人の好意や優しさにつけこんで、相手を利用するだけ利用して。日頃どんなに立派そうなことを言っていても、中身はそんな人なんだって」
 女はそこで、いったんおっさを見て、それから奥さんのほうに向き直った。
「そうまで言われて私はいったい何をしているんだろうと思ってしまって。ふと我にかえったら、死んだ旦那にも申し訳なくなって」


 そこで奥さんはイスから腰をあげると、テーブル越しにとつぜん女の頬をひっぱたいた。一瞬の出来事に止める暇もなかったよ。女は「きゃっ」と一声あげると頬をおさえて机に突っ伏した。
 部屋の空気がぴんと張りつめた。女はそのまま動かない。男性陣はびびって身動き取れない。そんななか奥さんはゆっくりと腰をおろすと、大きなため息をついた。
「賢明な判断ね。そうよね。こんな男のために、私もわざわざこんなところまで乗り込んできて、いったい何をやってるっていうの」
 奥さん、痛そうに右手をぷらんぷらんさせていた。表情は一気に気が抜けたみたいだったよ。女は頬をおさえながらゆっくりと体を起こす。
「この男はきっとね、私なら最後まで自分の面倒を見るだろうと考えたのよ。だから急にあなたと別れるって言い出したのよね。結局はただの保身。身勝手」
 おっさんはもはや、寝てるのかと思わせるくらいの無反応っぷりだ。黙ってやり過ごすことに決めたのか。さすがにそれは無理そうだけど。
「確かに病気が発覚した時にはそんなことも言った。たとえ目が見えなくなっても私が一生面倒をみるから、だから浮気相手とは別れてほしいって。ただほかの女に渡したくない一心で」
 奥さん、ちょっと涙を浮かべてたかもしれないな。女のほうは頬が赤く腫れはじめてた。
「でもね、ここであなたと、私の知らない時間を過ごしていたのを目の当たりさせられて、それでこの男の様子を聞いていたらもう、張り合う気持ちもなくなってしまった。きっとこれがあなたのお望みだったのね。叩いたりしてごめんなさい。本当に、なんてくだらない男なのかしら。馬鹿にされているのよね。結局、私たち全員。この男はたぶん、周りの人間を自分に都合のいい道具かなんかとしか思ってない」
「そんなことはない。おれは本当にお前ともう一度やり直したいって」
「そんな言葉もう聞き飽きた」
 おっさんようやく口を開いたけど、奥さんに一喝されてまた顔をそむけて黙り込む。
「なにより健一にまでこんな思いをさせて」
 見ると息子は太ももに両手をついて、涙をこぼしていた。俺だって親父がこんなだったら泣きたくなる。
「それがなにより許せない。自分の父親がこんな男だなんて、健一がかわいそう。あなたのことはもちろん許せないけど」
 そう言って女を指差した。女はまっすぐ奥さんを見返す。
「でもこれでこの男にまだ執着するのなら、私も世間や家族に、それに何より自分自身に顔向けができない」
 奥さんずっと我慢してきて、ようやく踏ん切りがついたんだな。
「いろんな人間の気持ちを踏みにじって生きてきて、それで自分が病気になると、今度は私たち家族を一生の召使にしようとするなんて」
「いやそんなつもりじゃないんだよ」
 おっさんが優しげな声を出す。でももう誰の耳にも心にも何ひとつ届きそうもない。
「だいたい俺は、結婚する前に言ったはずだ。おれは絵を描くことしかできない男なんだって。お前だってそれは納得していただろう」
 今度は一転して大声を出す。この使い分けがいつものパターンなのかな。
「もうやめて。充分よ」
 奥さんの顔、真っ白で表情なくてその日で一番怖かった。
「1人でどこかに消えて。慰謝料なんかいらない。どうせ払えやしないでしょうし。もうあなたに私たち家族の生活をかき乱されたくないの。大好きな絵ももうすぐ描けなくなるなんて、いい気味よね。これから年老いて何も見えなくなって、一生暗闇の中で後悔しながら暮らせばいい」


「結局奥さんは、その男に2度と自分たち家族にも女にも近づかないと約束をさせて、そのまま家から追い出したんだ。その日の様子は俺が全部録画してたし、いざとなれば証人にもなるつもりだったから、その旨は俺からおっさんにきちんと伝えたよ。それなりに凄みをきかせてさ。5万円分の働きはしないとね。おっさん、それでもまだ俺に対しては何か言いたそうだったな」
「まあ、自業自得ってやつですよね」
 工藤は熱燗を手酌で飲んでいる。ろれつもかなりあやしい。
「それでこのおっさんは最初に話した通り、その半年後に電車に飛び込んで死んだんだ」
 そう言って佐山は下唇を突き出し、タバコの煙を上に向かって吹き出した。
「最初は新進画家の謎の自殺なんて少し騒がれたけど、やがてその時点でほとんど視力を失っていたことが判明して、将来に絶望して死んだことになったっけ」
 タバコを指にはさんだまま、ウーロンハイのグラスをあおる。溶けかけの氷が音を立てた。
「でも本当はそれだけじゃない。会ってみてわかったんだけど、このおっさんにはそもそも道徳的観念っていうものがまったく欠けていたんだ。ただ人を自分に都合のいいようにあやつりたい。それを当然のことのように思って生きてきた」
 居酒屋のなかはだいぶ静かになっていた。気が付けば閉店時間に近い。
「だから奥さんや息子、さらに不倫相手と、そんな最も身近な人たちに心の底から恨まれて、その恨みによって結局すべてを奪われ死んだんだ。それがこの男の受けた『呪い』だよ。別に彼女たちは物理的に手を下した訳じゃないけれど、おっさんからすれば日に日に目の病が進行するなか、あるとき周囲からいっせいに見捨てられ、ろくに病院に行くことすらできなくなっただろう。視力も段々と失い、生きがいの絵すら描けなくなって、やがて日常生活すらなりたたなくなり、ついには生きていく力を失ってしまった」
 工藤は両肘をテーブルについたまま、とっくりを傾けお猪口に当てて、空なのを確かめてから再びテーブルに置いた。頭の中がぐらぐらしてどうせこれ以上はもう飲めそうにない。
「でも病気になったのはたまたまでしょう? 呪いとは関係ないって最初に言ってたじゃないですか」
「よく覚えてるね。病気自体は遺伝の可能性が高いらしい」
 佐山が腕組みしてうなずく。
「ただね」
 ぐっと身を乗り出して、工藤に顔を近づけてくる。
「この病気は完治こそしないけれど、きちんと治療を受ければ進行を遅らせられる可能性もあると言われている。でも男はそれができなかった。なぜなら病気がわかったときに、奥さんが見つけてきた総合病院が遠すぎたんだよ。電車で片道2時間かかっていたんだ。どんなに優秀な医者か知らないけれどさすがに通うのは厳しいよね」
 ふいに工藤は、のどぼとけに押し付けられた親指の感触を思い出す。
「それわざとだって言うんですか? さんざん嫌な目にあわされてきた奥さんが旦那に復讐するために」
 一瞬、周囲の音が遠のいたように感じられた。
「確かなことはわからないよ。でももしかすると視力を奪ってしまえば、家のなかに閉じ込めておけるくらいのことは考えていたのかもしれないよ。たぶん無意識かもしれないけどね」
 佐山もすでにだいぶ赤くなっている。
「だって奥さんは俺たちに告白してたんだよ。おっさんにたとえ目が見えなくなっても『一生面倒をみる』って言ったのは、『ただほかの女に渡したくない一心』だったって。まあ最後は奥さんもこの男を見捨てたわけだけどさ。あの女の策略にのせられて」
「女の策略ですか?」
 工藤の頭の中がぐるぐると回る。
「だって女が俺たちをわざわざ自分の家に連れ帰ったのはなんでだと思う?」
 佐山の言葉がどこか遠くから聞こえてくる。
「あれはきっとさ、おっさんが自分と別れて家に戻ってしまうくらいなら、いっそ全部ぶち壊してやろうって考えてたんだよ」
 気が付くと、店員がまばらに客の残ったテーブルを、閉店を告げて回っていた。
「結局そうした周りの人たちの思いがすべて、おっさんを自殺に追い込む『呪い』になったんだ」
 工藤はすでに限界だったが、ろれつの回らない口でなんとか佐山に尋ねる。
「それでそんなことになって、男は結局その道徳的観念ってやつを、死ぬ前には手に入れることができたんでしょうか」
「さあね」
 佐山がタバコをふかす。
「ただ根っから悪い人間はね、そう簡単に良い人間になれないと思うよ。俺はね」
 そう言って彼は笑った。それから「だから亮ちゃんも気をつけなよ」と寂しそうに付け加えた。

おわり

丘の上の女

執筆の狙い

作者 いかめんたい
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ぼちぼち書こうとしている連作の中の一話分です。コンパクトにまとめたくて、途中をまるっと登場人物の回想にしてみたのですが、その書き方で悩み、ご意見をうかがってみたくなりました。そのほかどんなことでも構いませんので、何か感想をいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

コメント

神楽堂
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>いかめんたいさん

読ませていただきました。
ほぼ回想シーンということで、その書き方自体はありだとは思います。
ただ、回想シーンにしては長すぎるかな、とも思いました。

内容については、他人の不倫話を延々と聞かされている感じで、
そういう話は、自分の知っている人の話であれば興味もあるかもしれませんが、
読者視点で言わせてもらえば、そこまで興味を持てる内容ではありませんでした。
ただ、視力がだんだんと失われていく、という流れには興味を覚えました。

不倫自体は小説の世界ではありきたりなので、
何か独自性がないと読まれないかな、とは思います。

この作品では「呪い」がテーマになっていますが、
自殺が呪いによるものだったのか
という説得力はないように思いました。
登場人物のセリフ

>「でも病気になったのはたまたまでしょう? 呪いとは関係ないって最初に言ってたじゃないですか」

これは読者の思いを代弁するセリフとなっています。
なので、これに対しての説得力のある展開があるかどうかが、この作品のカギになるように思いました。
で、これが単なる病気ではなく、「呪い」であるという主張の根拠が、

>「この病気は完治こそしないけれど、きちんと治療を受ければ進行を遅らせられる可能性もあると言われている。でも男はそれができなかった。なぜなら病気がわかったときに、奥さんが見つけてきた総合病院が遠すぎたんだよ。電車で片道2時間かかっていたんだ。どんなに優秀な医者か知らないけれどさすがに通うのは厳しいよね」

まとめると、これが単なる病気ではなく「呪い」である根拠は

>奥さんが見つけてきた総合病院が遠すぎたから

ということですが……
呪いのせいで、見つけた病院が遠かった、ということですね。
う~ん……
呪いなのでしょうか???


まとめが、

>「結局そうした周りの人たちの思いがすべて、おっさんを自殺に追い込む『呪い』になったんだ」

これで読者が納得すればいいのですが……
私の感想としては、え?
という感じでした。


結末は、

>「ただ根っから悪い人間はね、そう簡単に良い人間になれないと思うよ。俺はね」

これが、この作品で言いたかったこと、ということですね。
う~ん……
なんだか、当たり前というか……
私としては、あまりしっくりいく結末ではない印象を受けました。


飲みながら話す世間話ならこれでいいかも知れませんが、
読者にエンタメとして読ませる「小説」としては、私としてはなんだか物足りない感じがしました。

この話だけではインパクトが弱いのですが、連作の1話分ということで、他の部分はおもしろい展開なのかもしれませんね、

冒頭部分

>「同棲中の彼女が夕べ、僕のこと『許せない』って言ったんですよ。寝る前にぼそっと」

私の読解力不足で、この「許せない」が何だったのか私にはわからなかったのですけど、
ここを展開させればおもしろい展開になりそうだなとも思いました。

作品を読ませていただきありがとうございました。

いかめんたい
sp1-75-252-107.msb.spmode.ne.jp

神楽堂様

お読みいただき、またコメントもいただきましてありがとうございました。

回想シーンの書き方自体はありとのことで、少し安心しました。読みづらいような気もするのですが、自分では判断がつかなくなっていました。

>内容については、他人の不倫話を延々と聞かされている感じで〜

すみません。気がつくとついこんなエピソードを書こうとする私自身の心の闇が一番問題なのかもしれません。

「呪い」の説得力は足りなかったですか。
ちなみにこのお話は、SNSにアップされた「絵」にまつわる出来事を、ホラーちっくに解き明かしていくみたいな連作のうちの一本という位置付けで、その流れで読めばぎりいけるかなくらいには考えていたんですが、いや、足りない感じは自分でもしてたんです。

結末は確かに当たり前なんですけど、辺りを見回すとそうとばかりも言ってられないなみたいなことを、自戒もこめて考えていたところでした。

あと冒頭部分は次のお話への布石なので、そこに関しては申し訳ございませんでした。

ありがとうございました。

えんがわ
M014008022192.v4.enabler.ne.jp

確かにこの書き方は独特ですね。
ただ自分には正直言うと、あいませんでした。

これは浮気物(探偵もの?)として佐山を主人公にして物語を進める。という一つの側面と。
先輩と後輩の酒の席でのぼやき話。というもう一つの側面があります。

それで、不倫とか浮気とかミステリアスにどろどろと書こうとしても。
もう一方で酒のつまみを食べながら、だらだらと二人のおっさんがしゃべっているという。ものすごく弛緩して、個人的にそこまで興味を持てるものではない、酒での席での与太話みたいなところがあります。

だから勿体ないんですよね。
奥さんがどんなに揺れ動いて、醜い部分も含め熱しても。
どこか冷めた目線で、うわさ話として聞いている自分がいる。
そういう物語の構造になっている。

だから、これを崩すにはもう酒の席はすっぱり諦めて、リアルタイムに事件として不倫探偵物語を描く。か。
酒の席での話と見せかけて、その宴会会場にどきりと何かが侵蝕する、要するに100物語の幽霊が降臨するみたいなギミックが必要な気がします。

ちょっとアンバランス。
酒の席の語りとして物語を二重構造にする意味が、あまり見いだせない。
そこに何か効果的なくさびを打ち込めれば、この作品は前進すると思います。

なんか偉そうなこと言ってしまい、すいません。
こんなこといって具体的な解決策はまったく自分には浮かびません。

作品の印象としては孤高の新進気鋭の画家が、どうしようもないクズ野郎だったというオチが、なんか情け容赦ないくらい鮮明に打ち出されていて、ほんとうにダメな人だなーと、でもちょっと人間臭い部分もあるなーと、そういうのはなんか面白かったです。

素材は良いんだと思います。
その出し方というか、お皿の盛り付け方に苦心しているんだと思います。

いかめんたい
M106073000002.v4.enabler.ne.jp

えんがわ様

お読みいただきありがとうございました。
えんがわ様には書き方があわなかったとのことで、残念ですが、ご指摘ありがとうございます。

内容的には、酒の席との二重構造のせいで、読み手が冷めた目線になってしまうし、弛緩して興味を持てるものではなくなっているということですよね。

うーん、確かにそうですね。上で他の方にも指摘されたのですが、そもそもがお話として弱い(呪いに説得力がない)上に、この構造のせいでさらに興味を引きづらくなっているようです。

このれについては、3話構成のうちの真ん中のお話で、コンパクトにまとめる目的であえて佐山の回想(語り)で押し倒すスタイルにしたのですが、もう少し考えてみます。居酒屋ってチョイスも良くなかったのかもしれません。

あともう一つはきっと、語りの部分のまさに「書き方」の問題ですね。語りといいつつ、セリフは鍵カッコでくくり佐山の一人称的みたいにして、しかも意図的にではありますがかなり軽薄な語り口にしたせいで、どろどろとした感じが余計に薄まってしまってます。

いろいろと参考にさせていただきます。
ありがとうございました。

いかめんたい
M106073000002.v4.enabler.ne.jp

すみません。先ほどの返信で書き漏らしていたのですがこのご指摘

>作品の印象としては孤高の新進気鋭の画家が、どうしようもないクズ野郎だったというオチが、なんか情け容赦ないくらい鮮明に打ち出されていて、

これは作者である私の最近の気分がもろに出てしまったせいだと思うのですが、バランス的にはこの男の別な側面みたいなものもきちんと入れてあげる必要があるのかもしれません。

ありがとうございました。

しまるこ
133.106.194.210

これは、読み手の問題でもあることは重々承知なのですが、なるべくなら、読者に頭を使わせないように読ませてもらいたいなぁと思うところであります。私のような、難しいミステリーのような本を読んでいると、すぐにチンプンカンプンになってしまう頭の弱い読者にとっては😭

じつのところ、数日前にこの作品を初めて読んだ時、信頼できそうな書き振りだなと思ったのですが、だんだんと読み進めるがしんどくなってしまって、「けんいち」とか、「牛乳瓶」がどうのこうのといったところまで読んだときに、頭が痛くなってしまって、投げ出してしまいました。

なぜ読むのを断念してしまったのか、 それは私自身もうまく言えないし、言ったところで間違っているかもしれないし、それよりも、読むのを断念してしまったという事実がいちばん、いかめんたいさんにとって価値ある情報かなと思います。

しかし、再び読んで、今度は読了できました。どんなことでも感想が欲しいと作者さんの方で書いてあったので、いろいろ断片的に思ったことを書いてみようと思います。

なんか混みいってるなぁと。情報が渋滞していて、向こうの方で約束されている出来事が当たり前のように話されていて、前提をもって進められている気がするけど、それは、この話がシリーズで構成されていることを考慮しても、ちょっと入っていきにくい気がしましたね。情報の開示が読者の進行速度と合ってないような感じがしました。全体的に、読者に直接語りかけるというよりは、キャラクターたちがキャラクターの置かれている立場を守って話しているような気がしました。それはリアルでいいことだとは思うけど、そういう形をとっていても、読者の枕を抑えるような意識が必要な気はしました。逆に意識しすぎて話しすぎているのかもしれないとも思いました。説明しようと丁寧に盛り込みすぎているのが仇になっている感もありました。

>「それが今度は絵のモデル女性と親密になって、相手の家に入り浸っているなんて。ほんとうにくそだよな!」

この辺りから、登場人物たちが感情的に話し始め、喧嘩でもするかのような感じになってきたので、楽しくなってきたのと、理解が追いついてきたところがありました。背景とか理屈とか説明されるよりも、喧嘩腰にギャンギャン話されていると、それで十分といったらそうではないに違いありませんが、状況が飲み込めてくるところがあって、ここからは混乱せずに読み進めることができました。 個人的には、このあたりの開き具合で、頭から綴ってくれたら嬉しいな、と思いました。

上のお二人方がおっしゃっている通り、キャラクターに魅力が感じないところはあると思います。これが漫画やアニメに置き換えてみた時、脇役らしい脇役たちが集まって何か話しあっていても、それは我々がいつも近所や職場でいつも目にしている光景だから、読書の中でもそれはやりたくないというのは個人的に思ったところであります。

それで、最後まで読んだ感想ですが、ちょっと話が散らかってる感じがあるような気がしました。言うほどには、その呪いだとか、それぞれの登場人物の行動やセリフなどが、オチに堅密に結びついているとは思えませんでした。個人的には、人間が呪いによって殺されるという迷信じみたものは本当にあり得るだろうと思っていて、晩年の木村政彦が、力道山は俺が呪い殺したんだと話していますが、じっさい、彼らのエピソードからはそう思わせるだけのものがあるような気がします。まぁ、それはさておき、こうやって書いていると、酷評のような感じで受け止められてしまったら本意ではないのですが、今回は多分に頭をつかって書いたような、そういった作品が私に合わなかっただけで、作者さんの他の作品を見たら、 また全然違う感想になって、面白いと思って読んでいる自分の気配も感じたのですがね。

いかめんたい
sp1-75-247-244.msb.spmode.ne.jp

しまるこ様

こんばんは。お読みいただきありがとうございました。無理にお願いしたみたいですみません。

>読者に頭を使わせないように

確かにそうですね。お話自体に足りないカタルシスを、ちょっと謎解き風のテイストでごまかそうとしているのは確かです。

最初に読むのを断念された箇所について教えていただき助かります。冒頭のやりとりが終わり、画家のエピソードの説明に入ったところでいきなり、という感じですね。
キャラクターの魅力やストーリーの牽引力自体の問題に加えて、ここではアカウントの表示名とかDMとか少し目先の変わったことしようとして滑った(読み手の「目」も作者の「試み」も)気がします。

それで読後の感想についてですが、情報が混み合ってるというのはそうですね。もともと普通に書いたらもっと長くなりそうな印象だったものを、なんとかコンパクトにまとめたくて男の「語り」風スタイルに押し込んでみたのですが、それによるボリュームに対する情報過多と、あとはこの書き方に起因するごちゃついた感じもあるんでしょうね。

>情報の開示が読者の進行速度と合ってない

これは私がいつもはまってしまうポイントという気がします。私の頭の中でだけ勝手にお話が進んでいって読み手置き去りみたいな。

>そういう形をとっていても、読者の枕を抑えるような意識が必要

そうですね。意識というより単に技術の不足だと思いました。あるいは努力か。

>登場人物たちが感情的に話し始め、喧嘩でもするかのような感じになってきたので、楽しくなってきた
>このあたりの開き具合で、頭から綴ってくれたら嬉しいな

なるほど。ここらでようやくお話が説明や作者の観念を離れて、多少なりとも動きが出てきた感じなんですかね。

>キャラクターに魅力が感じないところはある

これはさっき会社のトイレで考えていたのですが、私が書くものは常にどこか自分自身や自分の経験とつながっているところがあって、それ自体が悪いとは思わないのですが、それが強すぎるとそれこそありふれた

>それは我々がいつも近所や職場でいつも目にしている光景

になってしまうのだなと思いました。100%空想というのも難しいけれども、そこらの塩梅が上手くないんでしょうね。

ラストは、

>言うほどには、その呪いだとか、それぞれの登場人物の行動やセリフなどが、オチに堅密に結びついているとは思えませんでした。

ということで、これは他の方からも同様の感想をいただいていますので、まだまだじっくり考えないといけないところだと思いました。

私はスマホのメモに、思いついたエピソードやセリフなんかをバラバラと書き出していって、あるとき一つの流れに繋がったと思う瞬間が来たら、並べ直して不足部分を足してお話にするみたいな書き方をしているのですが、まだ私が思うほどにはうまくつながってないんでしょうね。

木村政彦と力道山の話はあとでググって参考にします。

いやいろいろと参考になります。
面倒なお話をお読みいただき、また丁寧なコメントもいただきましてありがとうございました。

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