弱者男性の夢
「はあ……明日も休日出勤か」
俺、太田正人はため息をついた。
ブラック企業で4時間も残業後、その帰り道。
毎日のパワハラと残業で、心身共にボロボロ。
「俺の人生、いいことなかったな」
貧乏な毒親家庭に生まれ、
学生時代はデブでいじめられ、
社会に出たら低賃金のブラック労働。
当然、彼女なしで29歳になった。
「そういえば、明日、俺の誕生日か」
仕事のことばかり考えていたから、明日が誕生日だと忘れていた。
「このまま俺、30歳になるのか……」
と思った矢先。
目の前に、トラックが。
これ、死ぬやつだ——
★
「アルバート様、おはようございます♡」
「セリス、おはよう!」
メイドのセリスに朝の挨拶。
——俺は異世界に転生したらしい。
「朝ごはんですよー!」
焼きたてのパン、新鮮なサラダ、ソーセージに卵に、オレンジジュース。
どれもうまい。かなりの高級品だ。
「アルバート様は【貴重な】男の子ですから、たくさん食べてくださいね」
この世界では、男は【貴重】な存在だ。
最初は気づかなったが、この世界は男が極端に少ないようだ。
実際、俺は父さんの男性と会ったことがない。
俺は【アメトリス王国】のマクタロード公爵家の長男、アルバート・フォン・マクタロードに転生した。
で、今、アルバートは9歳の男の子。
ありがたいことに貴族の家だから、前世と違って裕福な生活を送っている。
「ふふふ……今日は私がアルバート様に本を読んで差し上げる係です」
「今日はセリスなんだ」
「やっと私の番になりましたっ! あぁ……アルバート様を膝に乗せて本を読む……至福ですっ!」
「あはは……ありがとう……」
セリスは俺の手を握った。
食事中も、頭を撫でたり肩を触ったり……この世界の女たちは男に【スキンシップ】したがる。
「昔々……この世界は魔物に支配されていました。人間たちは毎日魔物に怯えながら暮らしていました。哀れんだ女神【アイリーン】は、人間たちに【スキル】を授けました……」
セリスの膝の上で、本を読んでもらう。
子ども向けに書かれた、【世界の始まり】と呼ばれる世界史の教科書。
「むう……アルバート様、ちゃんと聞いてますか?」
「ごめん。ちょっとぼうっとしてた」
「真面目にお勉強しないと【めっ】ですよっ!」
俺が集中できないのは理由がある。
背中に当たりまくる、セリスの大きな胸のせいだ……
「じゃあ……続きを読みますね」
耳にふうっと暖かい息がかかる。
ぴったりとセリスが、俺の背中にくっついている。
「スキルは魔物と戦うための異能です。ただし、誰でも授かることはできません。女神アイリーンは、女性にのみスキルを授けたのです……」
「男はスキルをもらえないの?」
「【希少種】はスキルをもらえません。スキルを使って魔物と戦えるのは、女だけです」
この世界では、男は【希少種】と呼ばれる。
少しややこしいが……この世界で【人間】は、【女】だけを指す。
男は【希少種】として、【人間】より上位の、尊い種族だとされている。
「続きです……古代の四聖女たちは、女に【希少種】を守る役目を与えました。女にとって男を守るのは、最高の名誉なのです」
「大変だね、女の人って」
「いいえっ! 女にとって【希少種】のために尽くすのが最高の幸せですっ! かわいいアルバート様のためなら何でもしますっ……!」
ぎゅうと後ろから抱きしめられて。
胸が強く押しつけられる……
これはいろいろヤバいって……!
「はい。続きです。……人間は10歳になれば、スキルが発現します。どのスキルを得るかで、人間の一生は大きく左右されます」
「セリスのスキルは何?」
「私のスキルは【ヒーラー】です。回復魔法を得意にしてしてます」
「いいなあ……僕もスキルがほしいよ」
「残念ですけど、【希少種】(男)のアルバート様は、スキルを授かることができません」
男はスキルを得られないから、女に守られる。
そして、男の数は極端に少ない。
だからこの世界の男たちは、女に養ってもらいながら暮らしている。
「……女神アイリーンに感謝を捧げる【女神祭】で、スキルを授かる儀式が行われます。そこで10歳の女の子が、スキルを聖女様から授かるのです」
「女神祭っていつやるの?」
「1週間後ですね」
「なら、ぼくの誕生日と同じ日だね」
「アルバート様は女神祭と同じ日に生まれた【希少種】……きっと特別な子なんだと思いますよ」
あと1週間で、この世界で俺は10歳になる。
ちなみに【希少種】が10歳になると……
「10歳になったら、アルバート様は【奴隷】を所有できます。素敵な奴隷を選んでくださいね」
奴隷を選べと言われてもな……
別にほしいと思わないし。
「はいっ! お勉強はおしまいですっ! おやつの時間にしましょう!」
「ふう。終わった……」
セリスの膝から降りようとすると、
「あ、ダメですっ! ここで食べてください」
「でも、セリスの膝の上だし……」
「大丈夫です。私が食べさせてあけます♡」
「いいよ。普通に座って食べるから……」
「ダメですっ! お膝のほうが、椅子より柔らかいですからっ!」
たしかにセリスの膝は、柔らかくて座り心地がすごくいい……っ!
だけど、食べる時ぐらいは降りたいというか。
「はーい。クッキー、食べさせてあげますね」
セリスはクッキーをひとつ、俺の口へ持ってくる。
「自分で食べられるよ……」
「またそんなことおっしゃって! アルバート様に、自分で食べさせるわけにはいきませんっ!」
この世界では男は自分で食べない。
女に食べさせてもらうのが【普通】らしい……
この風習に慣れないから、俺は自分で食べるようにしているが——
「今日こそ【普通に】食べてもらいますっ! あーんしてくださいっ!」
セリスの真剣な表情。
もうこれは、逃げられない。
「あーん……」
俺は口を開けるが。
「あっ……忘れていました」
セリスは自分で、クッキーを食べてしまう。
「……?」
俺は理解できず、戸惑っていたが——
「柔らかーくしてあげました」
俺の頬を両手で掴んで、
「うっ……!」
俺に、口づけした——
「じゅりゅるるるるるるっ……」
甘く溶けたクッキーが、口の中へ流れてくる。
セリスの唾液もたくさん……
「ぷはっ。おいしいですか?」
「……おいしい」
セリスは顔を赤くして、熱ぽっく俺を見つめる。
「ふふ……とっても嬉しいです。もっと食べさせてあげますね♡」
セリスはクッキーを口に入れて、
「ぐしゅぐしゅぐしゅしゅしゅゅ……」
ゆっくり咀嚼した後、
「じゅりゅりゅりゅ……」
ゆっくり、口移し。
俺の中身がおっさんじゃなかったら、
確実に性癖が、歪みまくってる——
「おはようございます! 今日は女神祭ですね」
朝、セリスが起こしてくれた。
「おはよう。セリス。そっか。もう女神祭か……」
「アルバート様のお誕生日でもありますねっ! 10歳おめでとうございます♡」
「うっ……!」
セリスにぎゅうと、抱きしめられる。
大きな胸に顔が埋められて。
「今日は奴隷を選ぶ儀式があります。下に奴隷候補たちが来てますから、すぐ来てください」
「うん……」
「……? どうされました?」
「セリス……ぼく、奴隷は要らないよ」
「そんな! 奴隷を選ぶのは【希少種】の義務ですよ」
「奴隷なんていなくても、困らないし……」
中身が日本人の俺は、やっぱり人間を奴隷にするのは抵抗がある。
「アルバート様……」
セリスは俺の頬を優しく撫でる。
「お考えはわかりました。でも、女にとって【希少種】の奴隷になるのは、最高の名誉です。アルバート様が拒否すれば、彼女たちの名誉を汚してしまうことになります……」
「そうなんだ……」
「彼女たちは自分で望んで、アルバート様の奴隷になることを選んだのです。だから彼女たちの気持ちに、応えてあげてくださいっ!」
俺が拒否することで、奴隷候補たちを逆に傷つけることになるのか……
奴隷を選んでも、奴隷として扱わないならいい。
ちゃんと人間として扱えば、きっと大丈夫だ。
「わかった。奴隷、ひとり選ぼうかな」
「いい子ですね。とってもえらいです♡」
「ぶはっ……!」
再びセリスの胸に埋められて——
★
下のホールに、奴隷候補たちが並んでいる。
上の階から、俺は彼女たちを見下ろして。
「アルバート様、奴隷候補たちは100人います」
メイド長のアルウィンさんが、俺のところへやって来た。
黒いおさげ髪に、メガネ。
真面目なメイドさんだ。
この人もセリスと同じく、胸が大きくて。
「アルバート様の好きな子を選んでください」
人間の女の子だけじゃなくて、エルフに獣人にドワーフもいる……
いきなり選べと言われても、誰にすべきか。
「アルバート様!」
下から聞き覚えのある声がする——
「リンフィア……っ!」
リンフィア・フォン・クラスフォード。
王国の第三王女だ。
そして、俺の幼馴染でもある。
「どうしてここに?」
「もちろん、アルバート様の奴隷になりたくて……っ」
リンフィアの首には、奴隷候補の証——銀の鈴がついた首輪が。
「いや、でも……リンフィアを、奴隷にするのんて」
「どうしてもアルバート様の奴隷なりたくて。アルバード様の奴隷なるのがずっと夢でした……っ」
「リンフィアは王女だろ。国王陛下が許すわけ……」
「いえ、お父様は二つ返事でお許しくださいました! 【立派な奴隷になってきなさい】と、送り出してくれたんですっ!」
さすがに幼馴染で、昔から友達だった女の子を奴隷にするのは抵抗が——
「やっぱりキミを奴隷にするのは……」
「アルバート様の奴隷になれないなら——」
リンフィアはナイフを首に突きつけて、
「あたし、死にます——」
「アルバート様の奴隷になれないなら……生きる意味がありません……」
リンフィアが自分の首に、ナイフを突きつける。
血が少し流れて——
「リンフィアやめて! それ以上やると——」
「あたしを奴隷にしてくれますか?」
「いや、それは……」
「わかりました。死にます」
さらに深く首に、突き刺そうと、
「わかったっ! リンフィアを奴隷にするからっ!」
言ってしまった……
「本当ですか?」
「本当だよ!」
「ありがとうございます♡ 最高に嬉しいですっ!」
リンフィアはナイフを捨てて、
俺に抱きつく。
「すっごく嬉しくて……夢が叶いましたっ!」
リンフィアが泣いている。
「……アルバート様、他の奴隷も選んでください」
アルウィンさんが耳打ちする。
「他はいいよ。リンフィアだけでいい」
「しかし……」
「本当に、ひとりでいいから……」
「……わかりました。では、他の奴隷候補は帰しますね」
「あたしだけを奴隷にしてくれるなんて……一生懸命、アルバート様にご奉仕しますっ!」
アルウィンさんは奴隷候補たちに向かって、
「これにて、奴隷の選定は終わりました。みなさんお帰りください」
『いやよ! 絶対にアルバート様の奴隷になりたい!』
『あたしの胸を見て! こんなに大きいです!』
『奴隷になれるなら、何でもしますわっ!』
奴隷候補たちは叫ぶが——
「すでに決定事項です。速やかにお帰りください。さもないと——」
アルウィンさんの右手に、光輝く剣が——
「【剣聖】の私が、お相手いたします」
剣聖——あらゆる剣技を使いこなす、剣士系の最上級スキルだ。
最低でもA級冒険者ぐらい強くなければ、とても敵う相手じゃない。
不満を言いながらも、しぶしぶ他の奴隷候補たちは屋敷を出て行く。
「では、奴隷契約の儀式に移りましょう」
ふっと剣を消して、淡々と儀式を進めるアルウィンさん。
「お二人とも、右手を出してください」
俺とリンフィアは右手を出す。
「……汝、リンフィア・フォン・クラスフォードは、一生涯、アルバート・フォン・マクタロードの奴隷になることを誓いますか?」
「はい……っ! 誓いますっ!」
「主人の言うことにはどんなことでも、絶対に従うと誓いますか?」
「はい! 喜んでっ!」
「ではここに、誓約の証を刻みます」
二人の青白い光が手の甲に走る。
六芒星のような、誓約の証が刻まれた——
「これでアルウィン王女殿下は、アルバート様の奴隷となりました」
「これでやっと、アルバート様の奴隷に……」
「おめでとうございます。これからはアルバート様に【絶対服従】してください」
「はいっ! アルバート様、どんなことでも命令してくださいね♡」
本当に幼馴染で王女のアルウィンが、俺の奴隷に。
やっぱりしばらくは、かなり抵抗感がありそうだ……
★
「むにゃむにゃ……アルバートしゃまぁ……えっちな命令してくださいしゃい……」
「ね、眠れない……」
深夜。
俺はリンフィアと一緒に寝ている。
奴隷契約の後、奴隷らしい格好をしたいとリンフィアが言い出して、
服を脱ごうとするし、
首輪に鎖をつけようとするし、
床で寝ようとするし、
割と大変だった……
床で寝るは良くないから、仕方なく一緒に寝ることにした。
「……アルバートよ。聞こえるか?」
「……!」
心地の良いきれいな声が、耳に入る。
「誰……?」
「私だ。ここにいる」
声のする窓に、近寄ると、
「私は女神アイリーンだ。今日はお前に、スキルを授けにやってきた……」
緑色の光に包まれた、女の人。
背中に天使みたいな羽根があって、優しげな微笑み俺に向けている。
光で隠しているが、おっぱいが女神級に大きいようた……
「め、女神様……?」
「今日はお前が10歳の日。お前はスキルを授からないといけない」
「でも、スキルを授かるのは女だけじゃ……?」
「お前は転生者だ。転生者は特別に、男でもスキルを授かることができる」
俺が転生者だと知っている……!
これは、本物の女神かもしれない。
「お前を転生させたのは私だ」
「あなたが俺を……! どうしてだ?」
「この世界に【魔王マグナス】が復活するからだ。お前も【四聖女の予言】を知っておろう」
四聖女の予言——
古代アメトリス時代。
四聖女は自らの命を犠牲にして、魔王マグナスを封印した。
だが、その封印は完璧ではなく、1000年後に封印が解けてしまう。
「封印が解けた魔王マグナスを討伐できるのは……転生者の希少種のみ。それがアルバート、お前だ」
「つまり、スキルを授かって、魔王を倒せってことですか?」
「その通りだ。それが【S級男子】の使命」
「……」
正直言って、魔王討伐なんて嫌だ。
前世でブラック労働してきた俺は、この世界ではまったり平和に暮らしたかったのだが。
「安心しろ。とりあえず後7年間は魔王は眠ったままだ。その間に強くなればいい」
「でもな……」
「前世でお前が苦労してきたのは知っている。それに、この世界の運命をお前に託すのだ。それなりのスキルを授けるから」
「……」
それでも、嫌なものは嫌だなあ……
「で、その【それなりのスキル】とは?」
「これだ……受けとれ」
俺は金色の光に包まれる!
「なんだ……これ?」
「お前に授けたスキルは【全スキル開放】だ。まあ【それなりに強い】スキルだから、使ってみるといい」
「それなりって……あっ! 待って——」
女神は空に上がっていく——
「この世界を頼んだぞっ! わははっ!」
すぐに見えなくなった……
「……なんて無責任な女神なんだ」
しかし、7年後に魔王と戦うことは避けられない運命のようだし……
とりあえず、明日からスキルを使ってみるか。
——俺はこの時、気づいていなかった。
実はとんでもない【チートスキル】を、手に入れてしまったことに……
「セリス……今日は森に行くよ」
「ダメですっ!」
昨日の夜、俺は女神からスキルをもらった。
そして、7年後に俺は魔王と戦う運命にある。
今からモンスターを倒して、レベルを上げないとヤバい。
だから今日、モンスターのいる森へ行こうとしているのだが。
「男がモンスターと戦うなんて……希少種のアルバート様に何かあったら……私、死んでしまいます」
「そうですわ。ご主人様に何かあったら、生きて行けません……」
猛反対するセリスとリンフィア。
この世界の常識から言えば、二人が反対するのは当然だ。
「実は昨日……」
俺は二人に、昨日のことを話した。
「え……っ! 男なのにスキルを授かるなんて……」
「本当ならすごいことですよ! ご主人様っ!」
二人は当然、すごく驚く。
この世界の男は、普通スキルを授からないからだ。
「7年後に魔王と戦うことになるらしいからさ……今から森でモンスターと戦おうと思って」
「そうですね……今から少しでも経験値を貯めておいたほうがいいかもしれません」
「戦うご主人様もステキです♡」
よかった。
二人は納得してくれたようだ。
「でも、アルバード様お一人で森へ行くのは不安です。私もお供します」
「あたしも一緒に行きますっ! アルくんの奴隷だもんっ!」
二人がついてきてくれたら、実際、すごく助かる。
俺は森へ行くのは初めてだし、何が起こるかわからない。
パーティーメンバーは多いほうが安全だしな。
「ありがとう……よしっ! 森へ行こうっ!」
★
マクタロード公爵領の東——
黒き森、ブラック・フォレストがある。
名前は怖そうだが、強いモンスターは出ないらしい。
「あ、スライムがいますっ!」
茂みからスライムが出てきた。
青いプルプルの、Fランクモンスターだ。
……さて、どうやって戦うか?
俺は貴族だから、冒険者みたいに、戦いの訓練を受けていない。
冒険者——危険な迷宮に潜り、モンスターを討伐して金を稼ぐ者たち。
この世界では、冒険者はみんな女だ。
「ふう……こんなところにいましたか……」
背後から声が。
「アルバート様が冒険者の真似事など……あり得ません」
アルウィンさんだ……っ!
聖剣エクスカリバーを手にして。
眉が上がっている……
かなり怒っている、みたいだ。
「究極奥義、光極剣——っ!」
激しい光を放つ、エクスカリバー。
「はああああああああああああああっ!!」
スライムを、一刀両断……っ!
「すらああああああああっ!」
スライムは一瞬で、消滅。
「剣聖の究極奥義をスライムに使うなんて……オーバーキルすぎます」
セリスが呆れた表情で言うが、
「セリスさん……私たちメイドは、アルバート様を守る【剣】です。眼前の敵を全力で叩き潰すのは、メイドの使命です」
「アルウィンさんは全力すぎますって……」
「ところで、セリスさん。アルバート様を森へ連れ出すとはどういうことで——」
アルウィンさんが言いかけた、その時。
ずどおおおおおおおおおおおんんっ!!
耳をつんざくような地響き。
「おがぁぁぁぁあああ!」
オークが、地面から出現っ!
「お、オーク⁈ Cランクモンスターですっ! どうしてこの森に……」
リンフィアが、俺の手を掴む。
「セリス、アルバート様の側にいて。私がオークを倒します」
アルウィンさんが前に出る。
剣聖のアルウィンさんがなら、オークは倒せそうだが……
俺のスキルを試してみる、チャンスかも。
「全スキル開放……っ!」
俺が強く念じると、
【全スキルを開放します。よろしいですか?】
もちろん、YES。
【全スキルを開放しました。任意のスキルを検索してください】
検索か。
この世界にどんなスキルがあるのか、俺は知らない。
……さっき、アルウィンさんの使った【光極剣】を【検索】しよう。
【検索結果を表示します。剣聖S級スキル:光極剣】
お、光極剣が出てきた。
【関連する結果も表示しますか?】
これも、YESだな。
【剣聖SSS級スキル:煉獄斬】
こっちは【SSS級】じゃん。
けっこう強そうだ。
よし、これにしよっ!
【煉獄斬を習得しました】
あ、忘れるところだった。
こういう強めのスキルは、きっと魔力をたくさん消費する。
俺はレベル1で、魔力は26しかない。
【検索ワード:「魔力 節約」で検索開始】
魔力消費量を0とかにできないかな?
【検索結果を表示します。魔術師SSS級スキル:魔力消費0】
お、よさげなスキルがあった……!
もちろん習得だ。
【魔力消費0を習得しました】
ちゃんと習得できたか、一応確認しよう。
アルバート・フォン・マクタロード
レベル:1
魔力 26/26
筋力 13
防御力 9
魔法攻撃 10
魔法防御 8
敏捷 11
ジョブ:なし
スキル:煉獄斬、魔力消費0
「よし……っ! スキル習得完了っ!」
「はあはあ……このオーガ、なかなか強いです」
「おがあああああっ!」
アルウィンさんが、息を切らしている。
S級剣聖のアルウィンが、苦戦するなんて……
「おそらく、狂乱状態なのでしょう……」
セリスが弱気な表情でつぶやく。
狂乱状態——バーサーカーモードと呼ばれる。
モンスターが完全に理性を失い、死ぬまで周囲を破壊し尽くす呪いだ。
狂乱状態のモンスターは、通常より攻撃力が3倍になる。
「ぐ……っ! このままじゃマズイです。いったん逃げて、冒険者ギルドから応援を——」
「おがああああああああっ!」
オーガがアルウィンさんに向かって、突進!
このままじゃ……っ!
俺はとっさにアルウィンさん前に出て、
聖剣エクスカリバーを握る。
「あ、アルバート様……っ⁉︎」
俺はエクスカリバーを振り上げて——
「煉獄斬……っ!」
どおおおおおおおおおおおおおんっ!!
剣から放たれた、激しい炎——
「おがああああああああああああぁぁぁぁぁ……」
断末魔と共に、オーガは燃え滓となった……
「こ、これは剣聖の最上級スキル、煉獄斬……っ! どうしてアルバート様がこんな強いスキルを……?」
「アルウィンさん、ごめん。驚かせちゃったね。実は僕、スキルを習得しちゃって」
「希少種(男)は、スキルを習得できないはず——」
アルウィンさんが言いかけた時に、
「「アルバート様ああああああああああああっ!」」
「ぶは……っ!」
セリスとリンフィアの胸に挟まれて。
「アルバート様っ! よくご無事でしたっ! 死ぬほど心配しましたよっ!」
「もう! ご主人様が死んだら、あたしも死ぬんだからねっ!」
ぎゅうぎゅう二人に迫られる……!
柔らかな身体が、いろんなところに当たりまくって。
「はあ……とにかく、みんな無事でよかったです。そして私も——」
アルウィンさんが近づいてきて、
「アルバート様成分を、補給させていただきます」
むぎゅううううううううう……っ!
「く、苦しい……っ!」
たわなな胸に埋められる、俺であった——
執筆の狙い
弱者男性の夢wを書きました。よろしくお願いします。