作家でごはん!鍛練場
小次郎

復讐

 私達は幼ななじみ。和樹と美沙とは幼稚園で知り合った。三人でおままごとをして、遊ぶのが一番楽しかった。そんな私達も小学校中学年にもなると、当然おままごとなんてしなくなった。でも、休日はよく三人で集まって鬼ごっこやかくれんぼをして遊んだ。美沙は学年一成績が良く、運動神経抜群で、おまけに美しい顔立ちをしていた。和樹は学力でこそ美沙には及ばなかったが、美沙に負けず運動神経抜群で、美しい顔立ちをしていた。そんな二人に紛れている私だったが、突出したものが一つもなかった。成績はほとんどの科目が、五段階中三だったし、運動神経も人並みで、顔立ちは地味だった。私は二人に憧れていた。顔はどうしようもなくても学力やスポーツで二人に追いつきたいと思っていた。
 縁日に三人で集まった。いろいろな屋台を回る。わたあめ屋で私達は足を止めた。屋台のおじさんに色は何にすると言われ、私は赤を美沙は黄を和樹は青をたのんだ。機械の中に飴が投入され、三つの綿飴が作られた。私達は綿飴を食べ終えた、金魚すくい屋に行き和樹が屋台のおじさんにこの金魚全部すくっていいかなと言った。おじさんが笑って、すくえるものならすくってみろと言った。私達はお金を支払い網と皿をもらう。私は金魚をすくおうとした、網がいきなり破れた。美沙と和樹は手早く何匹も金魚をすくい、全体の半数ぐらい金魚を取った。そのせいか、店のおじさんの顔色が青ざめた。そして、二人によって金魚がすべてすくわれた時、おじさんが大きな声で皿をかしなと言うのだ。二人から皿を受け取ったおじさんは、大半の金魚をプールに戻す。これだけしかやれないな、そうおじさんは言って、三つのビニール袋に金魚を五匹づつ入れて私達に渡した。二人が全部取ったのに、そう思ったがおじさんには何も言わない事にした。言っても通じそうになかったからだ。理不尽な仕打ちなのに、二人は笑い合っていた。二人は私とは違う種類の人間なのだと。改めて思った。プールの金魚を全部救うし、おじさんにあんな仕打ちをされたのに笑い合えるからだ。私はそんな二人の事が羨ましかった。自分は小さな存在なのだ、二人にはかなわない。


 そんな、私の劣等感は、次第に大きくなっていく。
 中学になると、和樹は学力でも美沙と並ぶようになった。完璧な人間、二人に囲まれて居心地が悪かったが、私は二人に少しでも追いつこうと必死に頑張る事にした。勉強だけでも勝ちたいと思った、運動では勝つ事をあきらめた。宿題以外で、毎日、三時間勉強した。でも、結局二人には勝てなかった


 高校生になった。私はかろうじて、美沙と和樹と同じ高校に入学できた。高校一年生の二学期、和樹が美沙の事を好きなのだとなんとなく雰囲気で分かるようになった。美沙の事が憎かった。完璧な上に和樹に好かれているのが許せないとまで思うようになった。でも、美沙は完璧な人間ではないのだと私は知った。
 その日、美沙の家に行った。美沙の部屋でビデオを見せられた。エッチなビデオだった。レズビアンが交わっていた。
「ねー、私達も」
 そう美沙は言って、私にキスしようとした。
「冗談でもやめてよね」
 そう私は言って、美沙を軽く突き飛ばす。美沙は笑い、
「ちょっと、からかいたかったの」
 と、言った。夕食を美沙の家族と一緒に食べた後、銭湯に美沙と行く事になった。湯船に充分浸かった。私は美沙に先にあがるよと言い、浴室から出ようとした。その時、美沙が待ってよと言い、後ろから抱きついてきた。美沙の胸が私の背中に当たった。確信した、美沙にも瑕疵があった。彼女はレズビアンだ、ふざけているのではない。そういう事ならと私は思った。


「ねー、あなたに渡したいものがあるの」
「渡したいもの?」
「次の休日、あなたに渡すわ」

 そして、次の休日彼女と公園で会った。私は自分の写真を入れたロケットを彼女に手渡した。美沙の顔から喜びが窺える。私達はベンチに座った。美沙が私の後ろ髪をなでてきた。
「キスしようか?」
「キスはまだ早いよ」
そう、私は言った。
 美沙とカラオケをし、別れた。

 学校で、和樹に伝えた。美沙には好きな人がいるから、諦めた方がいいと。和樹の顔にショックの色が湛えていた。
「誰なんだ?」
「教えない、ねー、私と付き合えばいいよ」
「き、君と」
「うん」
「考えさせてくれ」
 三日後、和樹から返事があって私達は付き合う事になった。学校で私が和樹とキスしている所を美沙にわざと見せた。


「どうして?」
 そう、美沙は言って、走って私達の側から離れていった。

復讐

執筆の狙い

作者 小次郎
121-85-75-244f1.hyg1.eonet.ne.jp

ずいぶん前に書いた物語です。ちょっと、どろっとしています。拙いですが、一生懸命に書いています。

コメント

ドリーム
softbank126077101161.bbtec.net

復讐読ませて頂きました。

仲の良い幼友達でも一人だけ成績について行けないと劣等感を覚えますよね。

男一人に女二人、やはり組み合わせが悪かったですね。
これが全員男か女だったら変わって来たかも知れません。
案の定、和樹と美沙は恋仲になり主人公は追い詰められた感じ。
ところが美紗はレズビアンだった。
それなら何故、和樹と恋仲になったのか? これは私への当てつけか。
そして復讐の決行、私が和樹の恋仲になり美紗に見せつけ復讐は完了

物語は単純でありながら主人公の逆転勝ちスッキリしました。

夜の雨
ai201016.d.west.v6connect.net

「復讐」読みました。

登場人物は和樹と美沙それに「私」の三人で、主人公の私の一人称で描かれています。
一人称の場合は注意しないと「私」が男か女なのかがわかりません。
御作も途中まで「私」が男だと思って読んでいました。

高校生になったところの話で「私」が「女性」だということがわかりました。
なので早い段階で主人公の情報は書き込んでおいたら良いと思います。

御作は「復讐」というタイトルで、題材は主人公の私の「嫉妬」が膨らんでいく様子が描かれていて面白いです。
和樹と美沙の二人と幼いころから一緒に行動していたが私には相手の二人に対して劣等感があった。
二人とも美男美形でそこに来て頭がよくてスポーツも万能というタイプ。
私は平凡な顔立ちにスポーツも頭も平均で、いつも二人に差をつけられている。
縁日の金魚すくいの場面で私は「ポイ」をすぐに破ってしまったが、和樹と美沙の二人はプールの金魚を全てすくってしまった。
ここで、商売をしている「おじさん」にいいようにあしらわれたが、この二人は怒りをあらわにしなかった。
この場面が「かなり重要だと思います」。
つまり天才的な和樹と美沙がどうして才能を爆発させているのかというと、いかなる場合も冷静沈着で、よけいなことでは動揺しない「無駄なエネルギーは使わない」個性の持ち主という事です。
つまり自分自身をコントロールできるから勉強にしてもスポーツにしても力を発揮できる。

このあたりのことをエピソードでしっかりと読み手にわかるように描いておいたほうがよいですね。
そうすると、「高校生」になってからのエピソードで「私」が「美沙」の持つ性的マイノリティ
に気が付き、「嫉妬」からの「復讐」と称して、わなを仕掛けたときに、また美沙が「私」のわなにかかったと読み手が気が付いたときに、実は「美沙という人物はたいして傷がついていない」ということが、わかると思います。
つまり美沙は少々のことではへこたれない人物で、だからこそ、勉強やらスポーツにおいても集中できるから高いレベルにいることができる。
それに対して主人公は余計なことにストレスを感じているから、美沙に勝つことはできない。

御作は「金魚すくい」の場面で和樹と美沙の二人が冷静沈着に対応したエピソードが重要なっているので、何のための伏線なのかは、しっかりとわかるようにしておいたほうがよい。
和樹と美沙の天才であるが故のエピソードになっています。

ラストまで読んで思ったのは主人公の私は復讐をしたつもりかもしれませんが、あんがい美沙は傷がついていない。たぶんこの失敗を糧にしてこれからも頑張ろうと思っているのでは。

私という主人公側から読み解くと「してやったり、美沙に復讐をした」と、思いあがっているかもしれませんが。
ちなみに「私」が和樹とこのあとうまく行くとも思いませんが、なぜなら、「私」はごく平凡なレベルの女性なので、これからの和樹の人生においてはいくらでも出会える個性の女性になるからです。

「金魚すくい」のルールはその場面のところでしっかりと説明しておいたほうがよいですね。ふつうはすくった金魚は全部もらえないので。御作はすくった金魚を全部もらえるという設定になっています。
ここは大人のおじさんに裏切られても、冷静で無駄なエネルギーを使わない和樹と美沙の二人の個性を描いておけばよいところです。

久しぶりに小次郎さんの作品を読みましたが、いつもながら題材やら話の展開が面白いですね。

それでは頑張ってください。


お疲れさまでした。

小次郎
121-85-75-244f1.hyg1.eonet.ne.jp

ドリーム様。
お読みいただきありがとうございます。
説明させていただくと、和樹と美沙は恋仲ではなくて、和樹が美沙に片思い状態ですね。
それで、美沙は主人公に恋をしています。主人公は美沙に対しては特に劣等感をもっていたため、こういう行動をとりました。どろっとしています、こういう行動とるところが。よい主人公ではありませんね。

小次郎
121-85-75-244f1.hyg1.eonet.ne.jp

夜の雨様。
お読みいただきありがとうございます。
性別に関しては、早く読者がわかる方がよいですね。一番早くわかってもらう方法あるにはあるんですが。
私は十七歳の女子高生だ。
等、説明文を導入部に挿入する方法。でも、こういうやり方は好みじゃなくて。ですが、工夫次第で、もっと早く性別をわかってもらう方法別にあるにはありますね。今思えば。
学力や運動神経に関しては、もって生まれたものかなー。感情の冷静さだけでは、なんともしようのないことかもです。
金魚すくいのエピソードはちょっと面白いかなって挿入したのが、半分と、幼馴染み達が主人公と違って、こういう事に余裕で笑えるそういう感覚の持ち主は、出来た人間だと表現したかったです。
物語その後の主人公達は、いろいろあると思いますが、実はそこまで考えていなくて。
今回もいろいろ教えていだいて、かつ、いろいろ考えるポイントを提示していただき、嬉しく思います。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内