宇宙人二世 マリア 前編
弟一章 飛行物体
二千三十二年七月七日の事だ。東野佐希子(とうのさきこ)二十七歳は一週間の休暇を取り一人旅をしていた。現在、佐希子は東京の奥多摩に住んで居る。そこから愛車ランドクルーザーに乗って首都高から東関東道を抜け潮来から鹿島灘を右に茨城の大洗港に到着。大洗港から十九時四十五分発フエリーで十八時間掛けて翌日の十三時三十分苫小牧港へ、そこから室蘭にある地球岬を訪れていた。今から一千万年前の火山活動で出来た高さ百メートル前後の断崖絶壁が十四キロも続く観光名所でもある。
空は夕焼けからやがて日が沈み、もう上空は星が見え始めていた。天の川を撮ろうと佐希子は高感度カメラをセットし星空を眺めていた。
その時だった。上空で見た事もない強い光を放ち、飛行物体が飛んで来た。流れ星かいやそれにしてはおかしい。その飛行物体が近づいて来る。しかも佐希子に狙いを定めたように飛来してくる。そのまま地面に衝突するかと思ったら急激にスピードを落とし、そのままフワリと浮かび制止した。UFOか? 良く分からないが謎の飛行物体だ。佐希子の目の前に音もなく着地した。大きさは大型トラック十台分を合わせた程の大きさで長方形だ。まるで戦艦のようだ。しかも空を飛ぶ宇宙船は地球上には存在しない。アニメなら宇宙戦艦ヤマトと言う物があるが、そんな感じだ。まさか宇宙船? UFOなら円盤型と思ったら細長い。つまり戦艦だ。驚いた佐希子は写真を撮るどころか命が危うい。カメラと三脚を持って逃げようとしたが、腰が抜けて動けなくなった。沙季子は助けを求めようとしたが周りには誰も居ない。自分に狙いを定めて飛来したのか。
『宇宙人が地球の人間を誘拐しに来たの? 私が一番先に狙われたのだろうか。それなら何処かの国の拉致より質が悪い。宇宙の彼方に連れて行かれ解剖されるかも冗談じゃない』
佐希子は意味もなくほざく。暫くすると長方形の飛行物体の横扉が開き、誰かが一人だけ出て来た。宇宙人? 佐希子が思わず口に出した。
「あっ私を捕まえに来たのね。私だって負けてないわよ。学生時代柔道やっていたんだから投げ飛ばすぞ。寄るな! 蛸!」
宇宙人なら蛸のような生き物が出てくるかと思ったが、それは人間の姿をしていた。何故かフラフラと出て来た。大きな旅行カバンのような物を引き摺っている。
「蛸じゃない。宇宙人でもない? では宇宙飛行士? まさかこんな場所に着陸する筈がない。とにかくそれ以上そばに来ないで。本当は空手もやっていたのよ。それと合気道も更に剣道も、それで足りなければ書道二段、更に英語検定一級よ」
その謎の人間みたい宇宙人に、子犬が吠えるように佐希子は吠え捲くったが怖くて動けず倒れこんだ。だが佐希子の前で勝手に相手が倒れた。柔道技で投げ飛ばしても居ないのに? 本当を言うと英語検定一級意外持っていない。私が吠え捲って勝手に倒れたのか?
もしかしたら病気なのだろうか。怖いが弱っている者を見過ごし訳にも行かない。しかしどう見ても人間のようだ。年齢は三十歳くらいか。人間と分かった以上安心すると、佐希子はやっと起き上がる事が出来た。
「もしもし? 大丈夫ですか?」
どう見ても東洋人には見えない。西洋人なのか分からない。しかし男である事は間違いない。沙季子の声に反応したのか男はカバンを開け金属製の注射器のような物を取り出し、それを首に当てると赤い光を放った。暫くするとフーと溜め息を漏らした。なんと! しっかりした日本語でこう話した。
「驚かせてすまん。君に危害を加えるものではない。安心してくれ」
「…………」
安心しろと言われても得体の知れない人物、そして奇妙な形をした飛行物体から出て来た者に警戒せざるを得なかった。
「貴方は地球の人……それとも宇宙から来た人? 他の人も居るでしょう何故出て来ないの」
「訳は言えないが地球を調査に来た。私はアルタイル星から来た。アルタイル星は日本では彦星と呼ばれ、ベガ星は織姫星と言われているようだが。その調査船の乗組員だ。どうやら地球の細菌にやられたようだ。幸い他の乗組員は感染していなくて無事だが、自分だけが地球の細菌に感染したようだ。このままで一緒に乗れば全員が感染する。仕方なく私だけが船から降りる事になった。他の者は、まもなく地球を離れ離陸する。私は細菌に感染し仲間ともう一緒に帰る事は出来ない。だから一人地球に残るように指令を受けた。助けて欲しい」
そう言葉を発すると同時にその宇宙船は音もなく浮かびあがり、やがて星空の中に消えて行った。どうやら見捨てられたようだ。無理に連れて帰れば全員感染し全滅する仕方がない処置なのだろう。
「ちょっと! 待って。アルタイル星人って人間じゃなく宇宙人のこと。それで……私にどうしろと?」
「もう私は、私の星に帰る事は出来ない。あの飛行船も二度と地球には立ち寄らないだろう。だから私はこの地球という星で死ぬか生きて行くしかないのだ。ちなみに私をドリューンと呼んでくれ」
「でも地球の細菌にやられたのでしょう。私は医者じゃないし助ける事は出来ないわ」
するとドリューンは海外旅行などに使われる大型のカバンからパソコンのような物を取り出した。だがキーボードは付いていない。十七インチ程度の画面のような物があるだけだ。どうやらタッチパネルのようになっているらしい。だが画像がパネルの中ではなく放射状に淡い緑色の光が浮かび空間に画像が浮かび上がった。文字のようで絵のような物が見える。それを操作している。
「地球には風邪という菌がある事が分かった。我々の星にはない菌だ。この菌の一種が私の体を脅かしているようだ。この菌を取り除く方法はないのか?」
「風邪? そんな菌なら風邪薬で治るわよ。それなら持っているわよ。でも人間じゃないから……効くかどうか」
「それがあるなら見せてくれ」
佐希子は旅行中いつも最低限の常備薬は持ち歩いている。風邪薬もそのひとつだ。
「はい、どうぞ」
ドリューンはそのカプセルに入った風邪薬を開け、掌に載せるとそれを眺めた。なんとその眼からは青白い光が放射状に薬を照らし始めた。
佐希子は流石に後ずさりした。安心しろと言われても人間じゃない事が改めて思い知らされ。どうやらドリューンは薬の分析をしているようだ。
「驚かしてすまない。このカプセルは私を助けてくれそうだ。貰っていいかな」
「いいわよ……そんな物で治るの?」
「分析の結果、有効のようだ。人間そっくりに改造した肉体だからね」
「改造? じゃあ元の形はどんな風なの?」
「形はない。我々生物は目に見えないような粒子で出来ている。その粒子の集合体が有機物となり脳が出来、身体が出来上がって行くが体力がない。しかし脳だけは発達して脳が指令を出し色んな物体に形を変える事が出来るのだ。だから風邪という細菌は我々には脅威だ」
「じゃあ貴方は粒子と有機物の塊なの?」
「それを言うなら元を正せば人間も同じだ。だが私は地球に取り残された粒子の塊、地球に住む以上は人間としての肉体を作り上げないと生きて行けない。我々は学習する能力がある。だから風邪に対して免疫が出来ればもう大丈夫だ」
佐希子は言っている事を理解しようとするが、粒子の塊がこのドリューンだとは理解を超えていた。しかし何処から見ても人間そのものだ。眼はやや青く髪は茶毛のような妙な色だった。ただ人前で眼から光を放ったら誰もが驚き人とは思わないだろう。
「でも地球で生きて行く為には沢山の菌があるのよ。それに一人では生きて行けないわよ」
「君だけが頼りだ。だから助けて欲しい。その代わり君の為なら何でもする。そして人間になりきる事を誓うよ」
助けて欲しいというから佐希子は助けたが相手は宇宙人、心配は大いにある。佐希子は人間ならともかく宇宙人を助ける意志があるないに関わらず、既に脳はコントロールされていて断る事も出来なかった。ただコントロールされたと言っても、ある程度は佐希子の心は残っている。佐希子はドリューンに言った。
「ねぇ私の助けが必要なら私をコントロールするのは止めて。そして人間として生きて行くなら完璧とまでとは言わないが、人間になりきって生活するのよ。それと私の名は東野佐希子。では貴方をこれからドリューンと呼ぶわね」
「分った、誓うよ。ただ一度人間に作り上げたら二度と戻し事が出来ない。細胞が分裂すれば私は死ぬ。だから君だけが頼りだ。私もこれから佐希子と呼ばせて貰う」
「分ったわ。協力しましょう。でも特殊な能力は残るでしょう」
「それは制御出来るが消すことが出来ない。さっき約束した通り佐希子の心は支配しないと約束する」
佐希子はドリューンをこのまま人に合わせる訳には行かないと思い、今日から暫く泊まる予定だった友人から借りた別荘に連れて行く事にした。幸いこの別荘は電気ガス水道Wi-Fiの設備も整っていて生活するには問題ない。途中スーパーに寄り食料など必要な物を買った。その間ドリューンは車の中で待たせた。もし居なくなるならそれでいい。何も宇宙人の面倒を無理にみる必要がない。だがドリューンは大人しく車の中で待っていた。本当に私だけが頼りなのだろう。仕方がない面倒見る事にした。車は友人から借りた別荘に到着した。
「ねぇドリューン、貴方の星ではどんな生活をしていたの。貴方はこれから此処で暫く暮らすのよ。地球で生きて行く為には人間を理解し人間に溶け込まなくてはいけない」
「ああ、ドリューンは咄嗟に思いついた名前だ。人類には名前があると調べてあるから。佐希子の言う通りにする。これから何をすれば良いのか教えてくれ」 「いいわ。処で貴方は、食事はどうするの。人間は食べて栄養を蓄え身体を保っているの」
「食べ物? 私は食べる習慣はない。元は粒子の集合体だから」 「えっしかし今は人間になったのでしょう。何も食べないと栄養失調で死んでしまうのよ」
「ふ~ん。身体が受け付けるか分からない?」
「人間は食べて飲んで生きて行くの。それと食べるのは楽しみでもあるのよ」
「楽しみ? 楽しみとは何のこと」 「もう一から説明するのは大変だわ。人間には喜怒哀楽というモノがあるの。ドリューンは意志と言うものはないの」
「まてまて、佐希子の言っている事は理解し難い。まず食べる事と喜怒哀楽について調べて見よう」
「ええ人間になるのだから、なんでも吸収してね。私は二階を掃除してくるからね」
佐希子が二階行って居る間にドリューンはまたパソコンのような物を取り出し何やら調べ始めた。例によって空中に絵や文字が浮かび上がる。それから色んな食べ物が浮かび、その料理に手を伸ばして、なんと料理を取り出したではないか。次から次と料理を取り出し二十種類をテーブルに並べた。勿論パソコンで注文しても取り寄せなくてはならないがドリューンの機械は出来た食べ物を分解し空中を飛んで目の前に出て来た。その不思議な機械は元の食べ物が出てくるという事らしい。
「あれ~なんかいい匂いして来たね。出前でも頼んだ……んな訳ないよね。出前の仕方も分からないのに」
佐希子が下に降りて来ると沢山の料理が並べられていた。それをドリューンは試食を始めた。ドリューンは自分の体は食べても、問題ない事を知った。
「なっ! なにこの料理どこから来たの。いつの間に出前の取り方を覚えたの」
「嗚呼、佐希子。確かに食べると美味しいね。これが食べる楽しみか」
佐希子は茫然と立ち尽くし料理を眺めた。驚く佐希子を気にする事もなく次々と食べ続けて居る。
「一体どうなっているの? ドリューン。もう食べられるようになったの。ねぇこの料理は何処から来たの」
ドリューンは食べるのに夢中になっていたが、やっと驚く佐希子に微笑んだ。
「ああこれは、あの機械から出したんだよ」
「あのパソコンのようなもので」
「そうだよ。必要なら他にも取り出しみようか」
「駄目よ。そんなズルしては人間社会にはルールというものがあるの。苦労しないで手に入れるのもルール違反。人間は働いてお金を手に入れて、そのお金で物を買ったり食べたり遊んだりするの」
佐希子は頭を抱えた。やはり人間の姿をしていても人間を理解させるのは難しいのか。なんとかして特殊能力を消せないだろうか。この調子なら家に居ながらなんでも手に入れてしまうだろう。金が必要と言ったら、あの不思議な機械で好きなだけ取り出しかもしれない。
「あのね。ドリューン人間として生きて行くなら、その機械を処分して。そうしないと私は貴方を面倒見切れない。私は帰るわ。あとは一人で生きて行きなさい」
「佐希子そんなに怒るなよ。人間になる為に学習しなくてはならない。その為にこの機械は必要なんだよ」
「それならその機械で人間社会を勉強して。一週間だけ待ってやる。その間に全てを吸収して宇宙人なのだから一週間あれば充分でしょう。それで地球のパソコンの操作も学んで出来るようになったら次からパソコンを使って、そしてその機械は処分して便利過ぎると努力をしなくなるから」
佐希子の凄い剣幕にドリューンはシュンとなった。意外と素直で可愛いところがある。
「分った。一週間でマスターするよ。その後はこの機械を処分する」
「約束よ。破ったらもう面倒見ないからね」
納得した佐希子は機械から取り出した料理を摘まんでみた。普通の料理だ。何処かのレストランから出来た物を電送したのだろうか。理解出来ないが捨てる訳にも行かず二人で食べ捲った。残った物は冷蔵庫に入れ、佐希子はワインを持って来た。
「それは何、食べ物にしては液体のようだが」
「人間は飲み物も必要なの。これはワイン。アルコールが入っているの。ドリューンは馴れてから飲ませてあげる」
「ふ~ん人間って面白い生物だね。私も早く本当の人間になれるように努力するよ」
「そうして、じゃあ今日は色々あったから疲れた。寝ましょう。と言ってもドリューンは寝る事が出来るの。ベッドで寝るのよ」
「私は寝る事は知らない。だから立ったままでいい」
「立ったまま? ああ疲れる。人間は睡眠が必要なの。寝るとは横になって目と閉じて寝るの。ドリューンが立ったままで居たら私が落ち着いて眠れないわよ」
「分かった。それなら僕は隣の部屋で地球人やあらゆる生物、人間の習慣とか調べて見るわ」
それから三日が過ぎた。その間ドリューンは不思議な機械で地球や人間の事を学んでいるようだ。人間なら三年は掛かる事をたった三日間で学んだ。その証拠に料理を作るようになり掃除も始めた。恐ろしいほどの吸収力だ。それから更に二日が過ぎ休暇は無くなった。仕方なく体調壊したと三日間有給休暇を使わせて貰った。取り敢えずドリューンを車に乗せ家に帰る事した。
佐希子は車の中で自分の家族に合わせるからドリューンにイタリア人になり切るように伝えた。それと苗字も決めなくてはならない。イタリア人は何故かアで始まる苗字で始まると言ってよいほどアで始まる。そこでドリューン・アンドレと決めた。
「今から貴方はドリューン。アンドレよ。そうそう私は佐希子・東野。ただ日本では苗字が先読みだからトウノ・サキコが正しい呼びかたよ」
「良く分かった。それから君の家族に会う時の挨拶も覚えたよ。初めまして私はドリューン・アンドレです。イタリア人で日本を旅行中に佐希子さんとお友だちになりました。よろしくお願いいたします。どうこれで」
「お~流石、もう完璧よ。それとこれからどうするの。日本で働かなくてはならないのよ。仕事は出来るの」
「大丈夫、パソコンもマスターしたし車も運転出来るよ。料理も力仕事でもなんでも出来る」
「知っているわ。別荘で私の車を勝手にキーもないのに車を動かしていたものね。また特殊能力を使ったのね」
「ごめん、便利だからつい」
「これからは人の前では使わないでね。怖がって誰も貴方に寄り付かなくなるわよ」
「分った。これからは人間として生きて行くのだから全て佐希子に従うよ」
最近のドリューンはやけに素直で可愛い。つい母性本能がくすぐられる。いやいや宇宙人に惚れる訳には行かないと否定したが、否定しても惹かれて行くことにはどうにもならない。佐希子はドリューンの持っているパソコンのような機械を処分すると言って預かっているが本当に処分していいか迷っている。何かあった時の為に隠してある。
やがて佐希子の実家に到着した。実家は東京といっても山郷にある奥多摩だ。周りは山ばかりでとても東京とは思えない。家族は両親で三人人暮らし、近くに祖父母が経営する民宿がある。
佐希子は両親に友人を連れて帰ると伝えてあった。ただ外国人とは伝えていないから驚くかも知れない。
「ただいま~いま帰りました。お土産沢山買って来たからね」
すると近くで育てていた野菜を持って母が笑顔でお帰りと言った。
「あらお友だちって外国の方なの」
「そうよ、旅先で仲良くなって暫く泊めるからね。お父さんは?」
「ああ間もなく帰って来るよ。佐希子が帰って来るというので仕事の帰りに肉を買ってくると言っていた」
「へぇ~じゃ今夜はスキヤキかな」
佐希子が食べたいならスキヤキにしょうかね。そちらの外人さん口に合うかな」
「ああ紹介するね。イタリアの人、日本で働きたいそうよ」
「初めまして私はドリューン・アンドレです。宜しくお願いします」
「あれまぁ日本語が上手なこと。日本語が話せるなら仕事もすぐ見つかるさ」
それから間もなく父が帰って来た。ドリューンを見て少し驚いているが歓迎してくれた。その夜はスキヤキ歓迎パーティとなった。ドリューンは何処から見ても不思議なところはない。素直で冗談まで覚えて両親を笑わせてくれた。思いのほか好かれているようだ。ドリューンは食べる事の喜びを覚えた。いまでは問題なくなんでも食べられるようになった。そしてアルコールも飲めるようになった。なんという吸収力の高さか。もうどこから見ても普通の人間だ。
翌日から仕事探しを始めた。雑誌で探しのではなくパソコンで探した。ドリューンはコンピューター関係の仕事がいいと奥多摩町にある会社があった。ゲームソフト開発会社のようだ。日本人スタッフだけのようだがイタリア人の発想も面白いと採用になった。佐希子は父が勤める役場で働いている。ドリューンをいつまでも家に泊めて行く訳にも行かない。佐希子は近くにアパートを借りてあげた。しかし外国人という設定だが一人で暮らせるか心配だ。佐希子は仕事が終わると毎日ドリューンのアパートを訪れ何かと面倒を見てやった。それから休みの日などはピクニックにも行くようになった。半分は両親も参加して、そんな日々が一年続いた。この頃になると両親を含め誰もが認める恋人同士となっていた。佐希子も宇宙人という事はもはや頭になかった。こうして二人は結婚した。結婚式にはドリューンの親は出席しなかった。そなんものは最初から居ないのだから病気で海外に出る事は出来ないという事になっている。その代わり電話や手紙は両親の元に届く。勿論、音声も作られたもので手紙も同じだ。
ドリューンは既に人間になりきっていた。ただ困った時だけ佐希子の許しを得て特殊な機能を発揮した。例えば戸籍の取得を役所のコンピューターへハッカーして勝手に戸籍を作ったりもする。勿論パスポートも取得、更に車の免許に特殊技師として日本で働ける就業ビザまで作った。佐希子の両親もイタリア人として疑う事はなかった。
第二章 宇宙人二世マリア誕生
やがて二人の間に女の子が生まれた。二人は真理亜(マリア)と名づけた。聖母マリアのご加護かありますようにと名付けた。
だが母の佐希子は内心穏やかではなかった。なにせドリューンは宇宙人なのだ。その宇宙人との間に生まれた子供だ。いつ細かい粒子となって消えるかも知れないと思った。だが父のドリューンはマリアが生まれてから驚くほどマリアの愛情を注ぎ可愛がった。宇宙人でもやはり我が子は可愛いいのだろう。
ただマリアには不思議な物がいくつかあった。瞳は日本人と同じ黒だが眉毛に隠れてな黒子のような物がある。しかも両眉毛にあるが普段は分からないが何を意味するか分からない。更に中指の付け根にも小さな穴のような物がある。これも同じく両手にある。場所が場所だけに両親しか知らない。まだ小さいのでそれだけだったが後に、これが人間にない能力を発揮する事になる。
ドリューンはまったく普通の人間として働き、ただのイタリア人になりきった。やがて何事もなく月日が過ぎて、マリアが大学生になった二〇五一年七月七日の事であった。そうドリューンと佐希子が会った記念すべき日にあたる。
マリアもまた、一人で大学の夏休みを利用して八ケ岳の高原に立っている時の事だ。マリアの眼が青白く輝き、星にでも届くような強烈な光を放ったのだった。
やはり宇宙人二世は特殊な物を身に付けている事が判明された。だがマリアは父が宇宙人だとも両親からは知らされていなかった。しかし己の体が普通の人間と違う事を感じ始めていたマリアは自分の秘められた能力を試していたのだった。この後マリアの運命はどう変わって行くのか?
生れた時からあった瞳の下に小さな黒子が光った。マリアの放った光は信号となって一直線に伸びて行き、宇宙の彼方にある夏の大三角形にあるアルタイル星まで届いた。アルタイル星は恒星で主に水素、ヘリウムの核融合エネルギーにより自ら輝く天体である。アルタイル星は別名(彦星)とも呼ばれている。父と母が遭遇したのが七月七日であるが、マリアが生まれたのも七月七日である。マリアは自分とその七月七日が何か関係あるのではないかと感じていた。マリアが眼から光を放ったのは今日が初めてではない。やはり昨年の同じ今日七月七日の事だった。
現在、両親の東野佐希子と東野ドリューンは東京奥多摩の奥深い所に住んでいる。
マリアの祖父と祖母はマリアの母佐希子が結婚し間もなく役所を辞め民宿を営んでいた。祖父母の手伝いをして民宿を盛り上げて居たがマリアが中学生になった頃、祖父と祖母は他界し今では父母が祖父母の後を継いで民宿を継いで三人で暮らしている。東京と言えば都会というイメージが濃い。だがここは想像もつかない田舎で周りは山に囲まれた谷の麓にある集落みたいな場所である。マリアは山が好きだ。景色を眺め珍しい草花を探すなど年に五度来ている。今日は八ヶ岳連峰の蓼科山(標高2531M)の頂上付近に登り星を眺める事も多かった。今日もまた蓼科山の山頂付近に来ている。
すると宇宙の彼方から一筋の光がマリアに向かって伸びて来た。マリアはその光に無意識に反応した。その光が自分の脳に何かを働きかけている。それに応えるようにマリアもまた無意識に応答したのだ。その方向はアルタイル星という星だと思われる。どうやらマリアはアルタイル星と交信出来る機能が脳に植え付けられているようだ。その証拠にマリアは眼から光りを放つ事が出来る。それは人には見えない光の交信であった。マリアはその交信で自分の出生の秘密と父が宇宙人、アルタイル星人である事を知った。
「君が我々に光線を送ったのだね。我々は地球で言われる夏の大三角形にあるアルタイル星の者である。信号キャッチをありがとう。日本では七夕と呼ばれ、その彦星(アルタイル星)が我々の住む星なのだ。君の父ドリューンが地球に送り込まれたが、細菌に感染したが奇跡的にも君の母、佐希子に救われた。ただドリューンはもう普通の人間になった。君も薄々感じていたであろう。だからこの交信も驚いた風に見えないのも、その為だ」
「……まさか私を貴方たちの星へ連れて行くと言うんじゃないでしょうね?」
「それは無い。アルタイル星は細胞生物バクテリアでしか生存出来ない。粒子と有機物の集合体で知能を得た。では何故、宇宙船を製造出来たかは、やはり七夕で知られる織姫、ことベガ星とは友好関係にある。そのベガ星に依頼し作られた物である。優れた知能を持ったアルタイル星と物を作れる体力のあるベガ星人と、我々はそうして協力し合い共存共栄しているのだ」
「難しくてよく分らないけど、私とコンタクトを取ったからには、目的があるのでしょう」
「その通りだ。マリアが頼みある。聞いて欲しい」
「一応、聞くだけは聞くけど。地球や私達家族に害にならないのなら」
「それは絶対にない。我々が地球に興味を持ったのは優れた知能と恵まれた身体だ。我々は知能があって物を作る体力がない。だからベガ星人と協力し合って生きているのだ。その両方を持つ合わせた人間が羨ましい。出来れば地球とアルタイル星の血を引く二世である君を通して地球の事をもっと知りたい」
「確かにアルタイル星人は知能が優れているようね。でないと十七光年もある地球に宇宙船に乗ってくるのだから」
「それはありがとう。我々の星は地球のような綺麗な星ではないが太陽の三倍以上もある巨大な星だ。だから資源はあるが物を作る身体がないのだ。だから我が星の建造物は全てベガ星人が作るのだ。逆にベガ星人は知能が低いが物を作る体力を持っている。互いに協力して生きるしかない不思議な関係にある」
「地球を知ってどうするの? まさか地球征服なんて事はないでしょうね」
「まさか我々は友好関係を結びたいだけだ」
「友好関係と言ってもどうして交流するというの。貴方がたが地球に来て誰と会うの」
「いや我々は地球には行けない。地球には我々に有害な細菌が渦巻いているその内のひとつが風邪という恐ろしい細菌だ」
「えっ風邪が恐ろしい細菌なの」
「そうだ君は笑うかも知れないが我々には脅威だ。だから君を通して地球を知りたい。そのお礼として君に贈り物をする」
「贈り物と言ってもどうやって届けるつもり?」
「宇宙船を使って届けることが出来る。大気圏を抜けたら小型無人船から地球の大気圏でカプセルを放出する。それを君が受け取ってくれ。地球に役立ちはずだ」
「それでは私に要求する事はなに? その前に宇宙船で地球まで何年、何百年? 確か十七光年よね。宅急便じゃないんだから」
「宅急便? 地球はそんな宇宙船があるのか。我々の宇宙船は一光年を十二時間つまり一日を二光年移動する。だから約八日間で地球に行ける」
「えっそんなに早いの。人類にはとても無理」
「君にお願いがある。出来るなら君の血液を少し欲しい。それで人間の細胞を調べたい」
「止めてよ。私の血を吸い取るつもり」
「そうじゃない。試験管一本分だけだ。その血液で人間のような身体が何千年先か作れるのが夢だ。他に地球の植物のあらゆる種類の種が欲しい。なんとか我々の星で育てられないか研究する。成功すれば我々は樹木や野菜、果物など手に入れる事が出来る。それに花を育てられたら地球みたいな楽園が出来る。これから送るカプセルに入れてくれ」
「えっだって貴方達は食べる事が出来るの?」
「いや最初はエキスにして放出させそれを吸収する。我々が欲しいのは人間のような体力かる体を作る事だ。その後は更に研究して君が送ってくれる血液を調べ人間と同じように食べられるような身体を作りたい。地球は食べる楽しみというものがあるらしいね。羨ましい限りだ」
「信用していいのね」
「勿論だ。君は我々の細胞も受けついて居る。我々の星人であるドリューンを悲しませたくないからな。なお君の血液とあらゆる種類の種が準備出来たら知らせてくれ。そのときまたカプセルを送る。カプセルの中に入れたら後は自動的に我々の宇宙船まで戻ってくる仕組みだ」
そんな交信が暫く続いた。やがて蓼科山の上空に光る物があった。宇宙船から更に小型無人船で放出されたカプセルだろう。幸い周りには誰も居ない。怪しまれる事はないだろう。いやそれを計算して放出しのだろうか。そのカプセルは上空から降って来るように落ちて来た。そのまま落下すると思った急速にスピードを緩めフワリとマリアの目の前に着地した。直径一メートル程の球体があった。この球体はどうやって開けるのかと思ったら無意識にマリアの手で触ると上の部分が開いた。四角い金属の箱が二つ入っている。そのうちの一つを開けると、その中からパソコンのような物を取り出した。マリアは見た事ないが父のドリューンが持っている物と似ている。他に注射器のような物と鉄の試験管のような物が入って居る。たぶん血液をこの注射器で取り出し試験管に入れろと言う事だろう。もう一つの箱は帰ってから見る事にした。マリアは近くに停めてあるワンボックスカーに乗って持ち帰った。しかしこのまま家に持って帰れば、それは何かと追及される仕方なくワンボックカーの中に隠してある。頼まれた植物の種はあとで買いに行く予定だ。揃ったらアルタイル星に交信して約束の血液と植物の種を送るつもりだ。家に帰ると母の佐希子が訪ねた。
「お帰りマリア。蓼科山どうだった天気も良くいい写真撮れた」
「うんいい写真撮れたよ。お客さん多いの、手伝おうか」
マリアの両親は祖父母の後を継いで民宿を営んでいる。
「丁度良かった。今から奥多摩駅に三人連れお客さんを迎えに行ってくれる」
奥多摩駅の一日の利用者は八百人に満たない駅だ。その為に平均一時間に一本から三本しか電車が来ない。だから圧倒的に奥多摩に観光に来る人は車が多い。奥多摩の観光と言えば奥多摩湖、日原鍾乳洞、鳩ノ巣渓谷、氷川渓谷、鳩ノ巣渓谷、白丸調整池ダムなどがある。特に夏から秋にかけて観光客が多いが、冬は流石に殆ど観光客が来ない。正月を除き冬場は民宿を休む。
両親はそれを利用して旅行に出かける。とにかく二人は旅行好きだ。二人が知り合ったのも北海道だと聞いている。たが未だに母の佐希子は父のドリューンはイタリア人だと言っている。マリアは父がイタリア人じゃない事を知っていた。マリアに父が宇宙人と聞いたらショックを受けるだろうと気を使っているのは分る。だから当分は父の出生の秘密には触れない事している。
第三章 特殊能力
マリアはその日の夜、アルタイル星からの贈り物を調べる事にした。カプセルから取り出した一個の箱は愛車のワンボックスカーに隠してある。もう一個は部屋に置いてある。父母が営んで居る民宿の駐車場がある。お客様用と兼用で十台ほど停まれるスペースの奥に停めてある。マリアが車に近づいて行くと異変に気付いた。後ろのガラスドアが壊されていた。マリアはアルタイル星人から贈られた箱二個のうち一個が無くなっているのに気づいた。もう一個はパソコンのような機械は家に置いてある。マリアは囁いた。
『やってくれたな。でも盗る車の相手を見誤ったようね』
アルタイル星人から贈られた貴重な物だ。絶対に取り返させねばならない。
マリアは車の周辺を調べた。バイクのタイヤの跡が沢山残されていた。マリアは車の他にバイクも持っている。オフロード用バイクでヤマハTW二百五十だ。ヘルメットを被ると迷うことなく青梅市へ向かった。青梅市を中心に暴れまわっている青梅連合で間違いないと読んだ。奴らの溜まり場は多摩川添えにある青梅リバーサイドパーク周辺にたむろしている。時刻は夜の八時を過ぎたころだ。河川敷に降りると暴走族が二十人ほどいて騒いでいる。
「おいサトル早く開けろよ。きっとお宝が入って居るぞ」
「それがさあ一向に開かないんだよ」
「じゃあハンマーでやって見な」
一人がハンマーで箱を叩いた。ガーンと鈍い音がしたもののビクともしない。マリアは川の上の方にバイクを停めて歩いて来た。服装は皮ジャンにジーンズだ。マリアは大人になって何故か瞳の色が黒から薄い青い色に変わった。マリアは父のドリューンの血を引いているのか目はやや薄い青。髪は黒ではなく少し栗毛色。身長は百七十三センチと大きい。運動神経も優れていてサッカーやテニスも都大会に出るほどだ。それだけじゃなくあらゆるスポーツに対して優れていて大学に入ってからは空手も始めた。マリアは大声で叫んだ。
「こら~泥棒ども人の物を盗んだあげくに壊す気か」
「なんだオメイ。お前のだという証拠はどこにある。邪魔だから消えろ」
だがマリアは怖じ気づくどころか平気で河川敷に降りて来た。すると暴走族は一斉にマリアを取り囲んだ。二十対一余りにも無謀過ぎる。
「いい根性しているな、ネイちゃん。まさに飛んで火にいる夏の虫だな。調子に乗るなよ。素っ裸にして廻してやるぞ」
「ほう出来るのかな。いまのうちよ、謝ってその金属の箱を返すなら許してあげない事もない」
すると暴走族の連中は腹を抱えて笑いだした。そしてすぐ一人が真顔になりマリアを後ろから羽交い締めにしようとした。だがマリアは其処には居なかった。もはや人間とは思えない、まるで瞬間移動するかのように動いていた。世界で一番早く走る動物ランキングではチーターが時速百十五キロ、海ではバショウカズキ百八キロ、空ではハヤブサ三百八十七キロ。因みに人間は三十三キロだそうだ。一瞬マリアが消えたと思ったらリーダー格の男を見つけると物凄い勢いで跳躍して飛び蹴りを喰らわせた。リーダー格の男はフイを突かれてもんどり打って倒れた。すかさずマリアは男のアゴを強烈に蹴った。男は泡を吹いて伸びてしまった。暴走族達は唖然とする。女だと思って舐めて掛かったのが間違いだった。暴走族達は真剣な表情になりチェーンや木刀を持ち出した。そしてジリジリとマリアを追いつめる。
マリアはそれでも怯むことなく睨みつける。十九対一、一人減ったぐらいでは状況は変わらない。するとマリアの眼差しが変わって行く。そして眼が青白く光り始めた。驚いた暴走族は後ずさりし始めた。次の瞬間その眼は強烈な光を放った。
「なっんだ、あれは人間じゃない」
まともにマリアの眼を見た連中は眼を抑えてのた打ち回る。眼が強烈に痛みだし何も見えない。鼓膜に唐辛子の粉末を入れられたような感じだ。残ったのは三人、何が起きたか分からない。しかし現実にはリーダー格を含め十七人が倒れて戦意喪失状態だ。もはや勝ち目はないと見た三人は逃げようとした。だがマリアは逃がさない。瞬時に移動し三人の前に立ちはだかる。怒りに満ちた眼がまた光はじめた。
「わぁ許してくれ俺達が悪かった。あんたは何者だ。人間かエスパーか」
「宇宙人だとでも言いたいの。見れば分かるでしょう。普通の大学生よ。さああの金属の箱を此処に持って来て」
「分りました。いま持って来ます」
「よし、次は倒れている連中を川の水をぶっかけて目を覚まさせるのよ」
三人の男は慌てて川の水をバケツに入れて次々と水をぶっかけた。なんかと起きた連中を整列させるが完全に怯えている。もはや人間ではない。眼が光りレザー光線のように狙ってくる。マリアの眼を見るように命ずると怯えながら仕方なく見た。次の瞬間またしても眼から強烈な光が放たれた。暴走族の連中は立ったまま金縛りにあったように動けなくなった。
マリアは笑いながら金属の箱をバイクに乗せて走り去って行った。暴走族の連中は暫くして睡眠から覚めたように動き出した。だが金属の箱を盗んだ事もマリアが現れこっぴどく痛めつけられた事も記憶になかった。マリアが記憶を消し去ったのだ。マリアが初めて見せた特殊能力の一部だった。宇宙人の血を受け継いだマリアはエスパーになりつつあるようだ。
ただいまぁ。そう言ってマリアは帰って来た。母の佐希子と父のドリューンはリビングでテレビを見ながら寛いでいた。二人共五十歳を少し超えている。ドリューンはテレビ鑑賞が好きなようで特に漫才のファンのようだ。漫才番組を好んで見て笑い転げている。これが宇宙から来た人とは思えない。顔はイタリア系でも心は完全に日本人だ。もはや佐希子と知り合った当時の特殊能力は消え失せていた。
「お帰り遅かったね。何処に行っていたの」
「ああ大学の友人に誘われてね。くだらない話で盛り上がっていただけよ」
すると父のドリューンがマリアに微笑みながら語りかける。
「マリア大学生活は楽しいかい。友達は沢山いるのかい」
「うんお蔭様で楽しい学生生活を楽しんでいるよ」
「そうかいそれは良かった。処で特に親しい友達というか恋人とはいるのかい」
「ふっふふ、もう二十歳よ。恋人の一人や二人居たっておかしくないでしょう」
「なに? やはり居るのか。どうも最近帰りが遅いと思ったら」
「なぁにお父さん。私に恋人が居るといけないの。それとも心配してくれているの」
「そりゃあ可愛い一人娘だもの。気になるさ」
母の佐希子が笑って二人の会話を楽しんでいる。昔のドリューンと違っていまでは普通の優しい中年のお父さんって感じだった。もはやドリューンは完全にアルタイル星人のカケラも残っていないようだ。結婚した当時は、時おり超能力を発揮して佐希子や周りの人を驚かせたものだ。ドリューンが超能力を使うたび佐希子は激しく叱咤した。人に怪しまれる事をして人間じゃない事が知られるのが怖かったのだ。ドリューンから取り上げた不思議な機械は今でも倉庫の奥にしまってある。しかし未だにどう処分して良いものか困っているらしい。
数日前からマリアは両親に頼み離れにある倉庫を改造して自分の部屋にしたいと頼んであった。両親も年頃の娘だしプライバシーも必要だろうと快諾し近くの業者に頼み現在工事中である。マリアは八王子まで買い物に出た。此処には日本だけじゃなく世界中から集めた沢山の種を売っている。マリアは果物の種や野菜などを買いそろえた。種だから大して量にならない。その他に頼まれもしない水を何種類か揃える事にした。井戸水、海水、川の水などを揃えた。それから一週間が過ぎ離れ部屋が完成した。早速マリアはアルタイル星人が送って来た金属の箱から試験管のような物にマリアの血液を採取して入れ、他の管には各種の水を入れた。これで約束の物は揃った。そして楽しみにしていた金属の箱を開けた。ひとつは例のパソコンのような物。もうひとつは金属なのか石なのか分からないが二種類入っているだけだ。マリアは少しガッカリして呟いた。
『私は科学者じゃないのよ。鉱石かただの石か何か分からない物を分析しろと言うの。まさか売って金に替えろというんじゃないでしょうね。もし宇宙からの石として何処で手に入れたと追及されるだけよ』
苦笑いを浮かべてマリアはパソコンのような物を取り出した。十七インチほどの画面だがキーボードは付いていない。電気コードもない。初めて手にするのに慣れた手つきでマリアは画面の上に手を当てた。すると丸い円の輪づくの光が浮かび上がった。なんと其処には立体の画面になっていて空間に日本語と奇妙な絵が浮かび上がった。
『ようこそマリア。私を仮にドレーンと呼んでくれ。君の疑問はここで説明出来る。その鉱石が二個あるはずだが。最初に赤みがかった鉱石はエネルギーを半永久的に産み出す。地球では電気を作る為に石油や原子力発電を使うそうだが石油は無限にある物ではない。原子力発電はある程度無限だが危険が伴う。この鉱石を使って電気を作れば燃料は不要だ。これ一個で原子力発電所に匹敵する電気を作り出せる。地球にない鉱石だが地球にある三つの鉱石を組み合わせる事でほぼ同じ物を作れるはずだ。つまりこれで地球は無限の電力を作り出せる。あとは科学者達で研究すればよい。いずれ無限のエネルギーを得られるだろう』
文字は其処で終わって居る。マリアは空間に浮かぶ文字を払うと次の文字が浮かび上がった。
「なんと凄い贈り物だ。地球に無限のエネルギーが出来る。素晴らしい」
『次の青みがかった鉱石はバクテリアを破壊する強烈な光が一点を攻撃し死滅されるものだ。特に人間にとって癌は治らないと言われているが、この石にはそれを死滅させる効力が含まれている。皮肉だが我々には強力過ぎて身体がもたない。人間なら有効と思う』
更にマリアは画面を払った。すると同じように文字が浮かび上がる。
『最後にあとはどう使うか地球上の学者と相談し活用方法を研究することだ』
確かに素晴らしい贈り物だ。使い方によっては地球のエネルギー問題、地球の汚染浄化、そして医学会にとって正に画期的な代物だ。ただ宇宙からの贈り物だと言って誰も信じないだろう。どう説明しても分って貰えない。出所が何処だろうと無限のエネルギーが得られるなら世界中の学者が集まって考えることだ。余計な詮索するより人類の発展のために世界がひとつになることだ。
「ありがとう。それと貴方達が要望していた私の血液と沢山の種が揃いました。それと地球の水も入れました。何かの役に立てれば」
「ご苦労様、約束を守ってくれてありがとう。それでは数日後、以前と同じ場所にカプセルを届けよう」
翌日の夕方マリアはまた蓼科山に登った。いや正確には車で行ける所まで行き其処から少し歩けば例の場所に辿り着けるのだ。勿論人気がない場所だ。もし他の人が見ても流れ星だろうと思うだろう。暫くすると東の方から流れ星のような物が流れて来る。また例のカプセルが音もなく着地した。ただ前回の物より倍の大きさがあった。マリアはカプセルの上に手を差し出した。するとスーとカプセルの上部が開いた。そこにマリアは血液と水と沢山の種の入った金属の箱を入れた。暫くするとカプセルの上部が閉じられ音もなく浮かび横に流れるよう滑って母船の中に吸い込まれていった。
しばらくすると母船が光帯びた。離陸の準備をしているのだろう。母船が輝きを増して強烈な光と共に上空を登って行き見えなくなった。マリアは溜め息をついた。夢の世界じゃないの?
私は本当に宇宙人と交信していたのか不思議な気持ちだ。それにしてもあの石はとんでもない代物だ。問題は誰にどうやって伝えよう。アルタイル星人からの贈り物だと言ったら笑われてしまう。本当だと言ったら精神鑑定を受けろと言われるに決まっている。信じさせるには私はアルタイル星人二世と言ったら更に気が狂っていると言うだろう。やっと父のドリューンが地球の人間として生きているのに平和な家庭が崩壊し宇宙人と分かってしまう。
こうなったら家の下に埋めてしまおうかとまで思った。あの石の効力は地球を救うことが出来るのに歯痒い話だ。出来るならアルタイル星人が直接来て説明してくれれば良いものを。勿論、記憶を消す事は出来るが相手にもよる。暴走族なら訳はないが、それに国の機関に石を提供し政府用人の記憶を消したとしても宇宙からの贈り物の鉱石の記憶まで消えては意味がない。
次回後編につづく
執筆の狙い
SF映画ETを思わせるような出会いから始まりますが
こちらは子供ではなく大人の女性、宇宙人も人間の姿をした宇宙人
そんな二人が恋仲になり宇宙人二世が誕生、それが主人公マリアです。
皆さんどんな展開になったか想像とあっているかお楽しみ頂ければ幸いです。
尚、3万字超えで長く前編、後編と二回で掲載します。