作家でごはん!鍛練場
白炭

鴉の公園

 約一年ぶりに見た写真の中の翔一はあどけない笑顔を和樹と大輔に向けていた。二本の八重歯が可愛らしい。和樹には九年前の輝くような翔一の笑い声が聞こえていた。温かみが波となって伝わってくるような笑い声。そして最期の微かに漏れでた声、息の音。
 二本の線香の煙が昇っていく。
 写真の横に翔一が死ぬ前に履いていた、小さい黄色い靴が置かれていた。和樹はおりんをならし、大輔とともに手を合わせる。
 があー、くわー。どこかで、鴉が鳴いている。
 静寂を感じさせる、おりんの音は居間の壁や畳に染みるように消えた。
「ありがとう。翔一も喜んでいるとおもうわ」
 テーブルに座っている、翔一の母である昭恵がゆっくりと微笑んでいた。
 和樹と大輔もテーブルにつくと、昭恵は緑茶を注いだ。お茶の香りがうすく漂う。
「二人とも高校卒業おめでとう」
 軽く頭を下げる。
「これからは、どうするの。和樹君は進学だっけ」
「はい、A大学の工学部に進学します」
「おめでとう。A大学合格したのね。受験勉強お疲れ様。これから大学生活楽しみね」
「ありがとうございます」
 昭恵は微笑みながら、何度か小さくうなずいた。その顔にできた皺は、一年前よりも少し深くなっていた。肩の高さで切られた髪は、丁寧に染めているのか、全く白髪は見当たらなかった。
「大輔君はたしか、就職だったかしら」
「はい、工場で働くことになりました」
 大輔は背筋を伸ばして答えた。
「何の工場なの」
「機械の製造をするところです」
「小さい頃から機械好きだったものね。頑張ってね。二人とも進路が決まって、良かった」
 昭恵は和樹と大輔のことをよく覚えているようだった。中学生のとき、大輔がテニスの市の大会で優勝して新聞に小さく載ったことがあった。その翌年の命日に半年以上も前の新聞の切り抜きを見せてくれた。
 対して、和樹は翔一の家族にどこか馴染めなさを感じていた。いつも三人で遊んでいたのに、翔一は亡くなり、二人は生きているということを翔一の家族が本当はどう感じているのか、微笑みの下にどんな色が渦巻いているのか、知ることはできず、深い霧の中を歩いているように感じていた。
 和樹と大輔は翔一の命日の四月二十四日に毎年線香をあげていたが、地元を離れることになり、命日に翔一の家に行くことが難しくなった。
「これからは、毎年じゃなくて、たまに思い出した時に来てくれればいいからね。あの子は本当にいい友達を持ったみたいね。たった十年間しか生きてなかったけど、その間にあなた達に会えたのは翔一にとっても幸せなことよ。毎年ありがとうね」
 昭恵は柔らかい笑顔を浮かべて、手を温めるように湯飲みを両手で握っていた。
 和樹は言葉を返そうとしたが、何も出てこなかった。線香の煙のように、言おうとしていることが浮かんでも言葉になる前に消えてしまう。ちゃんと見なくても、大輔も言葉を絞り出そうとしているのが伝わってきた。
 手前の二つの湯飲みから湯気がのぼりすぐに消えていく。ちらと横を見ると、交通安全ボランティアの蛍光色のジャンパーがかけられていた。
 また、近くで鴉が鳴いた。
 玄関のドアが開く音がして、しばらくすると灰色のスーツを着た、翔一の父の浩二が居間に入ってきた。和樹と大輔はほとんど同時に立ち上がった。
「お邪魔してます」
「ああ、今日来るって聞いていたよ。もう高校卒業だってな。おめでとう」
「ありがとうございます」
 和樹たちは同じように卒業後の進路の話をすると、浩二は「よかった、よかった」と笑顔でうなずいた。髪が後退した額が油で光っていた。
「大輔君は、社会人になってもテニスをするのか」
「テニス仲間ができれば、したいなって思います」
「運動は若いうちにやっておかないと、年取るとあちこち体が痛くなって、できなくなるからな。運動の習慣がないと、おじさんみたいに太ってくるから」
 浩二は自分のお腹をさすって、自虐的に笑った。空間の緊張が解けて、靄が少し晴れた感じがした。
 玄関で昭恵と浩二から「元気で」と挨拶を受けた。外に出ると、すでに一番星が光っていた。和樹の頬と手に冷気の棘が刺さる。三月の中旬で冬本番は過ぎたものの、日が落ちた後は空気がぴんと張るように冷えていた。
 二人ともジャンバーのポケットに手を入れて並んで歩いた。翔一の家から帰るときは毎回ゆっくりと歩いてしまう。
「そうか」
 和樹の口から白い息が漏れた。
「毎年四月の終わり頃に行っていたから、夕方でもこれほど寒くはなかったよな」
「その頃にはもう桜は散って、春のピークが過ぎたくらいだから」
 それから二人の会話は止まった。毎年、帰りは、取るに足らない内容の会話をぽつぽつとして、別れ道で「じゃあ」と別れる。翔一が生きていた頃、笑いながら一緒に歩いていたのが嘘だったように感じる。
 電線に止まった五匹ほどの鴉が喧しく鳴いている。和樹は、その内のやけに静かな一匹がじっと自分を見ているような感じがした。
 五分ほど歩いて、寒さで耳がぴりりと痛んできた。一羽の鴉が鳴きながら、後ろから耳をかすめて、飛んでいった。
 毎年別れていた交差点に着いたとき、和樹は問いかけた。
「なあ、公園行かないか」
 大輔の返事はなく、俯いて白い息をふうっと出した。和樹は背中を押すようにもう一度尋ねた。
「公園に行かないか」
「……うん」
 和樹は大輔の力無い返事を聞いて、帰る方とは逆の、翔一の死んだ公園へ歩き出した。

 三人はいつも近所の、中央に大きな桜が植えられている公園で遊んでいた。住宅街の中にあって、明るい時間には、多くの子供たちが集まる賑やかで広い公園だが、夕方のチャイムがなると、子供たちは遊びの余韻を引きずりながら家に帰り、公園は墓場のように静かになる。
「久しぶりだな」
 公園の入り口に着いて、和樹は独り言のように呟いた。公園はすでに電灯が点いていて、子供たちは一人もいない。光を受けている枝だけの桜は砂漠に立っている枯れた木のようであった。
「いつぶりだろうな、ここに来たの」
 大輔も独り言のように呟いた。
「中学に入ってからは一回も来てないな」
「じゃあ、六年ぶりってことか」
 翔一がこの公園で死んでから、和樹は一年くらい、この公園で遊ぶことはなかった。入り口の看板にボール遊び禁止と書かれていた。和樹たちが遊んでいた頃は、こういった看板は無く、ドッジボールやサッカーや野球をして遊んだこともあった。
 数秒の沈黙と二つの白い息が冬の空気に消えていく。
「六年の間に俺たち大きくなったんだな、公園が小さく見える。昔はとても広く感じたのに」
「うん」
 和樹は公園の中へと歩き出し、大輔もそれに続いた。向かう場所は決まっていた。和樹は公園全体を見渡した。赤、青、緑、黄などで彩られた遊具は所々色が剥がれて、白い部分が見えていた。夜に佇む、子供のいない遊具は金属の冷たさを放ち、これが冬の寒さのもとになっているようだった。和樹は三角ジャングルジムの前に立つと、その一番上を見上げた。ジャングルジムが昔より小さく見えた。数匹の真っ黒な鴉がジャングルジムの上をぐるぐると飛んでいる。
 ふうと息を吐いてから、隣にいる大輔に切り出した。
「けじめをつけるべきじゃないかな」
 大輔は黙って和樹の顔を見た。
「話すべきじゃないかな、あのことを」
 大輔は分かっていたような目をして、ただ前を向いていた。

 翔一が死んだ九年前の四月二十四日、桜はすでに若葉が開いていて、桃色と若葉色を混ぜたような奇妙な色合いをしていた。夕方の五時のチャイムが鳴って、他の友達が帰った後も、和樹たち三人は遊んでいた。その三人で、ジャングルジム鬼ごっこをしていて、公園の白色電灯が点いたときに鬼だった翔一が罰ゲームを受けることになった。
 三角ジャングルジム鬼ごっこ、電灯が点いたら本当に終わり、罰ゲームはジャングルジムに登ったままくすぐりの刑三十秒、これがいつもの遊びだった。和樹も大輔もこの罰ゲームを受けたことがあった。落ちるかも知れない怖さを楽しさと勘違いしていた時期だった。
「今日の罰ゲームは翔一な」
 翔一は「えー」と言いながら、二人のいる上辺近くまで斜面の内側を登ってきた。大輔は嬉しそうに、
「じゃあ、始めるぞ。せーの、いーち、にー」
 とカウントしながらくすぐりを始めた。斜面の外側から、大輔は翔一の左側の脇や首を、和樹はその右側をくすぐった。
「ぎゃああ」
 翔一は上体を捩ったり、頭を振ったりして二人のくすぐりに耐えていた。
「ぎゃああ、ううう、はやく、きゃきゃ、はやく、おわって」
「じゅーいち、じゅー」
 翔一の手が棒から離れた。和樹は翔一と目が合った。翔一の笑顔はさっと消えた。驚いたような目。そして声は出ずに息だけが出たような音。翔一が伸ばした腕を和樹と大輔は掴むことができなかった。翔一の手は空を握って、落ちていく。硬い地面に落ちる瞬間を和樹は見ることができなかった。ぎゅっと目をつぶると鈍い音が聞こえた。ゆっくりと目を開けると動かない翔一が見えた。
 二人は急いで降りて翔一のもとに駆け寄った。翔一の目は半開きになっていた。
「おい、おい、翔一、おい、翔一」
 大輔が揺さぶっても、翔一は凍ったように表情が変化しなかった。
「これって……俺たちが殺したことになるのか」
 殺した。どうすればいい。捕まる。手錠。母の顔。冷たく暗い牢屋。死刑。先生の怒った顔と怒鳴った声。嫌だ。嫌だ。嫌だ。生き返ってくれ。返事してくれ。笑ってくれ。呼吸が浅くなって、鼓動が叩かれているように強くなって、体の内側がぐっと熱くなって、それでいて皮膚はさらりと冷えていて、視界がぼやけていく。
「ま、まだ、死んだか分からないだろ! 早く救急車を呼ぼう」
 和樹の声は震えていた。一番近くの家に走り出そうとして腕を掴まれた。
「翔一が手を滑らせたんだ」
 和樹は、大輔に肩を掴まれ、ぐっと押さえつけられた。
「本当のことは二人の一生の秘密だ。俺たちは罰ゲームなんかしてない。ジャングルジムで遊んでいる時に翔一がただ、手を滑らせたんだ。いいか」
 低くて、震えた声だった。
 肩に感じる強さで、スーパーボールのように慌ただしい頭の中がだんだんと落ち着いてきた。和樹に残ったのは、翔一が死んだかも知れない悲しみと、このこと一切隠そうとする大きな邪心と、隠すことに対する少しの罪悪感だった。和樹は大輔の目を見て黙って頷き、それから泣きながら、公園のすぐ近くの家に走って、「友達が落ちて、動かない」と大人に伝えた。
 翔一はすぐに救急車に運ばれたが死んだ。落下したときに頭を強く打ち付けたことが原因だった。三人の中で一番元気だった翔一は、死ぬ瞬間は今まで一度も見たことがないくらい静かだった。

 三角ジャングルジムに鴉が集まっている。冷える公園の中で、このジャングルジムだけは生暖かい感じがした。
「これまでの九年間、翔一の命日が来るたびに、あの家族に話した方がいいんじゃないかって考えた」
 ランプの光を受けたジャングルジムの影が鴉の黒と溶け合っている。
「テレビで人を殺して逃げている奴のニュースを見ると、自分が追われているような気分になった。僕らも一緒だよな。友達を殺して逃げている。殺してない、逃げてないって顔をして生きている」
「でも、もう今更」
 十数匹の鴉がジャングルジム下で、人間の死体らしい何かを啄んでいる。鴉の鳴き声、羽ばたく音が感覚のほとんどを占める。
「九年も経つと翔一のこと思い出すことも少なくなった。次第に命日が近づくまで翔一のことを思い出さなくなった。思い出すのは弔問に行く前から後までの数日くらい。おかしいだろ、殺した僕でも記憶が薄れていってる。ついには殺した記憶さえもなくしてしまうんじゃないかって思う。でも罪悪感はずっとずっと増してる」
 二人で約束した、あの時の悲しみは小さくなって、邪心と罪悪感は膨張し続けていた。
 電灯が二人の影をジャングルジムに向かって伸ばす。次々に鴉が集まる。死体を喰う鴉の黒い塊が徐々に大きくなる。ジャングルジムの外に、黒い塊から黄色い靴が吐き出された。翔一の靴だった。
「もう、遅いだろう。今更『本当は僕たちが殺しました』って、言っても誰が納得するんだよ。それに、そもそも俺らは遊んでただけだろう。殺したんじゃなくて、遊んでいたときに起きた事故だ。あの罰ゲームは俺らだってやられたことあっただろう。俺が死ぬか、和樹が死ぬか、翔一が死ぬかは同じ確率だった。その一つが起こったんだ。もし俺が、あの罰ゲームで同じように死んだとしても、絶対に翔一と和樹を恨まない。和樹もそうだろう」
 大輔の声は小さいながらも重さがあった。
「故意じゃなくても人を殺したら許されないんだ。僕らがちゃんと考えていれば、あんなところで罰ゲームなんてしようとしなければ翔一は死ななかった」
「だから、あれは事故だって」
「じゃあ、なんで二人の秘密にしたの。悪くないと思っているなら、本当のことを言ってもよかったじゃん。僕らには罪の意識があった。秘密を九年間守ってきた。もう、遅いかも知れないけどさ、罪を償おうよ」
 蠢く鴉の黒い塊は心臓の鼓動のように膨らんでは萎んでを繰り返している。その塊の下にはみ出ている翔一の小さな手に光が当たっている。
 大輔は、目を瞑って下を向いている。
「……翔一の母さん、父さんも前より笑顔が増えてたじゃないか。気付いていただろう。翔一の家族は一生埋まらない穴を持ちながらでも、前に進んでいるんだよ。翔一が死んで三年目のとき、翔一のお母さんが『悲しい思い出にして、ごめんね』って言ったこと覚えてるだろう。さっきも進路の報告した時も喜んでくれたじゃないか。和樹、必ずしも真実が救いになるとは限らないよ。知らないことで救われることだってある」
 ふわりと冷たい風が吹いた。白い息がかき消された。電灯がちかちかし始めた。
「俺だって、限界なんだ。自分の行動が翔一を殺してしまったことなんて分かってるんだ。でも、あれは事故だって、何も悪くないって、百パーセントで自分を正当化しないと、本当のことを言ってしまいそうになるんだ。でも、それで誰が幸せになるんだ。俺は、嘘をついて良かったと思ってる。翔一の家族が憎しみを持たずに前を向けたなら、それでよかったと思ってる。俺らが巨大な罪悪感を抱えていれば、翔一の家族は前をむけるんだ」
 数回の点滅の後、光は消えた。二人とジャングルジムと鴉は暗闇で一つになった。
 和樹は鼓動する鴉の塊に向かって走り出した。三歩目で足が地面から離れた。次第に体が前傾になり、やがて水平になった。空気の上を滑るように進む。前後に振っていた腕は黒い翼となり上下に振っている。黒い塊に飛び込んで、塊の一部となって翔一を啄む。ただ、ひたすらに、善も悪も罪も一緒に。
 肉が無くなって、骨だけになっても鴉たちは骨をつつき続けた。たちまちに、骨は白い粉となった。黒い塊が破裂した。白い粉は舞い上がり、消えた。鴉たちはジャングルジムの周りを飛んでいる。鴉は叫び続けている。大群の鴉がジャングルジムを覆って、誰も外から見ることはできなくなった。
 和樹は鴉となって群れの中を飛び続けた。その中に、大輔と同じ目をした鴉がいた気がした。

鴉の公園

執筆の狙い

作者 白炭
M014012006098.v4.enabler.ne.jp

印象に残るような文章表現やストーリーを目指しました。
作者としては、登場人物の感情がうまく表現できていない、セリフがぎこちないように感じています。
忌憚のないご意見、ご感想をよろしくお願いいたします。

コメント

夜の雨
ai192054.d.west.v6connect.net

「鴉の公園」読みました。

たしかに「印象に残るような文章表現やストーリー」になっていました。
「翔一」がジャングルジムで落ちた件ですが、罰ゲームが原因でというようなことを明かしても、誰も喜ばないと思いますが。それに9年も経っているし。
危険行為といえば危険行為かもしれませんが、脚や体の一部がどのていどジャングルジムの鉄パイプに絡んでいるかでしょうかね。
そのあたりが描かれていないので判断できませんが。
たとえばくすぐり行為をしたときに、体がゆらいで落ちそうになったことがあるにもかかわらず、続行したとか。そうなると、危険を察知できるので、「やばい」という事になりますが。
子供はある程度の冒険をしないと成長しないしね。

御作はこの翔一の死の原因を主人公である和樹が隠しておくことができなくて翔一の両親に吐露したいわけでしょう。
それで大輔は反対している。
このあたりの葛藤はうまく描かれています。
鴉などの生き物を使っての演出も、和樹の内面ということでうまいのではないかと思いますが。

ドラマ的には、ここからミステリーが始まるのですがね(笑)。
ネタは仕込んだので、ここからいかに物語を盛り上げるか。
翔一に生命保険が掛けられていたとか。
それで三人が公園のジャングルジムで遊んでいたことやら罰ゲームのことを翔一の両親は知っていた。
どうして知っていたかというと翔一が両親に話していたから。
両親は経営している会社が傾いていたので、または借金があったので大きな金が欲しかった。
「えっ、翔一、ジャングルジムの上でくすぐりの罰ゲームをしているのかい。じゃあ、そのときに手を滑らせば落ちて死ぬかもな」というようなことを話していた。
翔一は常日頃、家に怪しい男たちが借金返済の話をしに来ていたので、気にしていた。
食べるものも金品の節約で栄養のあるものを取れなくなっていたので、もしかしたらめまいが原因だったのかも。
しかし翔一が亡くなったことで、保険金が入り両親が助かったことは確かだった。

御作は土台部分がしっかりとしているので、妄想を膨らませばいろいろと面白い展開の物語になるのでは。


それでは頑張ってください。


お疲れさまでした。

白炭
M014012006098.v4.enabler.ne.jp

夜の雨様

ご感想ありがとうございます。

>たしかに「印象に残るような文章表現やストーリー」になっていました。

>このあたりの葛藤はうまく描かれています。
 鴉などの生き物を使っての演出も、和樹の内面ということでうまいのではないかと思いますが。

この小説を書くにあたって拘ったところなので、このような感想を頂けて、非常に嬉しく思います。



>ドラマ的には、ここからミステリーが始まるのですがね(笑)。

>御作は土台部分がしっかりとしているので、妄想を膨らませばいろいろと面白い展開の物語になるのでは。

ご感想を受けて、現状の終わり方だと、「不思議な世界だな」くらいの感想で、読後感としてスッキリしないところがあるのだと思いました。充実感のあるストーリーにするために、より深く話の流れや展開を考えなければいけないなと感じました。
また一方で、納得させるだけの筆力があれば、このような終わり方でも受け入れられたのかなと考えさせられました。

ご返信いただけるのであれば、登場人物の感情の表現(和樹以外の人物も含めてどのくらい伝わったかなど)やセリフについて、ご意見、ご感想をいただけたら幸いです。
素敵な感想ありがとうございました。

上松 煌
76.93.0.110.ap.yournet.ne.jp

白炭さん、こんばんは

 テーマとしては、友達の事故死とそれに口裏あわせをした加害者たちの心の葛藤で、真実を言うべきかと懊悩する姿はドラマなどでもよくあるものです。
そして、その告白がなされたかどうかがウヤムヤになる結末も……。

 ただ、この作品の優れたところは作者が真摯に、
『必ずしも真実が救いになるとは限らないよ。知らないことで救われることだってある』
『翔一の家族が憎しみを持たずに前を向けたなら、それでよかったと思ってる。俺らが巨大な罪悪感を抱えていれば、翔一の家族は前をむけるんだ』
という欺瞞に向き合おうとしているところです。

 それによって読者は、
★この加害者が必ず言い訳にする、【真実を言ったら、それはあまりに重いので、被害者の家族はそれを支えきれない】という加害者側の見解は本当にそうなのだろうか?
★被害者側はどんなにつらい事実であっても、真実を知りたいと望むものでは?
という疑問に突き当たっていく。

 そしてそれが解決を見ないままに悪心を象徴する鴉の群れで終わってしまうのが、このお話の限界で残念なところですね。
よくあるテーマを書く場合は、その作者らいい見解・切り取り方・結末で、だれも書けなかった新しい物語を構築しなければいけません。
おれ個人としては反社会的な結末は望みませんが、見解の異なる2人が真実の告白を巡って争い合うような場面もあっていいと思う。
ちょっと厳しく言いましたが、いいお話を上手に書けているので、ついつい高望みをしてしまいました。

夜の雨
ai203126.d.west.v6connect.net

再訪です。

 約一年ぶりに見た写真の中の翔一はあどけない笑顔を和樹と大輔に向けていた。二本の八重歯が可愛らしい。和樹には九年前の輝くような翔一の笑い声が聞こえていた。温かみが波となって伝わってくるような笑い声。そして最期の微かに漏れでた声、息の音。
 二本の線香の煙が昇っていく。
 写真の横に翔一が死ぬ前に履いていた、小さい黄色い靴が置かれていた。和樹はおりんをならし、大輔とともに手を合わせる。
 があー、くわー。どこかで、鴉が鳴いている。
 静寂を感じさせる、おりんの音は居間の壁や畳に染みるように消えた。

冒頭のここ
和樹が主人公で、大輔とは少し「翔一に対する思いの違い」が描かれている。
和樹視点から描かれているからだが、和樹の翔一への想いはあきらかにまだ続いている。
大輔は基本的なことをしているに過ぎない。
このあたりが後半で和樹と大輔の意見の違いへの伏線になっている。

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「ありがとう。翔一も喜んでいるとおもうわ」
 テーブルに座っている、翔一の母である昭恵がゆっくりと微笑んでいた。
 和樹と大輔もテーブルにつくと、昭恵は緑茶を注いだ。お茶の香りがうすく漂う。
「二人とも高校卒業おめでとう」
 軽く頭を下げる。
「これからは、どうするの。和樹君は進学だっけ」
「はい、A大学の工学部に進学します」
「おめでとう。A大学合格したのね。受験勉強お疲れ様。これから大学生活楽しみね」
「ありがとうございます」
 昭恵は微笑みながら、何度か小さくうなずいた。その顔にできた皺は、一年前よりも少し深くなっていた。肩の高さで切られた髪は、丁寧に染めているのか、全く白髪は見当たらなかった。
「大輔君はたしか、就職だったかしら」
「はい、工場で働くことになりました」
 大輔は背筋を伸ばして答えた。
「何の工場なの」
「機械の製造をするところです」
「小さい頃から機械好きだったものね。頑張ってね。二人とも進路が決まって、良かった」
 昭恵は和樹と大輔のことをよく覚えているようだった。中学生のとき、大輔がテニスの市の大会で優勝して新聞に小さく載ったことがあった。その翌年の命日に半年以上も前の新聞の切り抜きを見せてくれた。
 対して、和樹は翔一の家族にどこか馴染めなさを感じていた。いつも三人で遊んでいたのに、翔一は亡くなり、二人は生きているということを翔一の家族が本当はどう感じているのか、微笑みの下にどんな色が渦巻いているのか、知ることはできず、深い霧の中を歩いているように感じていた。

「昭恵」はあからさまには嫌味は言わないが、
 >昭恵は和樹と大輔のことをよく覚えているようだった。中学生のとき、大輔がテニスの市の大会で優勝して新聞に小さく載ったことがあった。その翌年の命日に半年以上も前の新聞の切り抜きを見せてくれた。<
この切り取りの件からして、自分の息子の翔一は10歳で命を阻まれ、一緒に遊んでいた「大輔」などは、新聞に載るほどテニスを元気にしている。
ふつうなら他人の子供の新聞の切り抜きなどはしないが、このあたりに昭恵の執念が見え隠れしている。
大輔はこの昭恵の異常さを敏感に感じ取っているのだろう。だから後半の和樹が「罰ゲーム」で死なせてしまった、ということを吐露したいといったときに、反対した。

>和樹は翔一の家族にどこか馴染めなさを感じていた。いつも三人で遊んでいたのに、翔一は亡くなり、二人は生きているということを翔一の家族が本当はどう感じているのか、微笑みの下にどんな色が渦巻いているのか、知ることはできず、深い霧の中を歩いているように感じていた。<
和樹は昭恵の本心が見えないというよりも、切り抜きの件からして怖さのようなものを感じていたのかもしれない。

怖さを感じていたのなら、罰ゲームのことは黙っていたら良いものを内面の優しさというか弱さから吐露したい、白状したいと思ったのだろう。
大輔は自分の新聞の切り抜きの件からして昭恵の異常さを敏感に感じ取っているので、当然罰ゲームのことは、黙っていたい。

二人の性格の違いもあるが、立場の違いもあり、罰ゲームのことを吐露すれば、よけいな詮索を招く恐れがある。

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 和樹と大輔は翔一の命日の四月二十四日に毎年線香をあげていたが、地元を離れることになり、命日に翔一の家に行くことが難しくなった。
「これからは、毎年じゃなくて、たまに思い出した時に来てくれればいいからね。あの子は本当にいい友達を持ったみたいね。たった十年間しか生きてなかったけど、その間にあなた達に会えたのは翔一にとっても幸せなことよ。毎年ありがとうね」

これって、「毎年線香をあげていた」ということで、なにか心やましいことがあるのでは、と、疑われているとも、解釈できる。
子供時代のことなのでふつうは数年すると命日にも線香をあげに行かなくなるものだと思いますが。
ところが来ているので、息子がジャングルジムから落ちた原因が事故ではなくて、二人が絡んでいるのではと疑われていると和樹は思い、追い詰められた可能性がある。
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上に冒頭部の解説を入れさせていただきましたが、御作は結構重い情報を詰め込みながら話が進んでいます。
そのあたりに作者さんの個性があるのかなと思いました。
作品としては立派です。

ちなみに私が続きを書いたのは、常に作品世界を広げることを考えている結果という事です。

御作には問題はありません。

白炭
M014012006098.v4.enabler.ne.jp

上松 煌様

ご感想ありがとうございます。

>テーマとしては、友達の事故死とそれに口裏あわせをした加害者たちの心の葛藤で、真実を言うべきかと懊悩する姿はドラマなどでもよくあるものです。
そして、その告白がなされたかどうかがウヤムヤになる結末も……。

>そしてそれが解決を見ないままに悪心を象徴する鴉の群れで終わってしまうのが、このお話の限界で残念なところですね。
よくあるテーマを書く場合は、その作者らいい見解・切り取り方・結末で、だれも書けなかった新しい物語を構築しなければいけません。

確かに物語のテーマやその結末としてはありふれたものになってしまっていたと思います。
テーマについて深く考察する重要性について改めて気付かされました。文章表現的な新しさだけでなく、ストーリーや表現されている意見など、物語の内面的な新しさも追求していきたいと思いました。

素敵な感想ありがとうございました。

白炭
M014012006098.v4.enabler.ne.jp

夜の雨さん

ご返信ありがとうございます。

和樹の心情を鴉を使って表現することに注力してしまったため、他の登場人物の感情表現が手薄になってしまったと感じていたので、このように心情を考察してくださった夜の雨さんの想像力に感服いたします。

翔一の家族の感情については、和樹と大輔に対するささやかな愛や思いやりのようなものがあるという設定にしていたので、そこを真っ直ぐに伝えられていないのは、やはり記述が足りなかったと痛感しております。

最初のご感想でもそうですが、お褒めの言葉をいただいて、創作を続ける勇気が湧きました。

素敵なご感想ありがとうございました。

アン・カルネ
KD106154136224.au-net.ne.jp

うーん…。
忌憚のない、というところで。
「約一年ぶりに見た写真の中の翔一はあどけない笑顔を和樹と大輔に向けていた。二本の八重歯が可愛らしい。和樹には九年前の輝くような翔一の笑い声が聞こえていた」
映像がないので、読み始めてもしばらく状況がいまひとつ分からないので、できれば「和樹と大輔は翔一の命日の四月二十四日に毎年線香をあげていたが」とあるように、まず四月二十四日であること、翔一の命日に翔一宅に焼香しに来たという状況は冒頭の数行ですぐ分かるようにしてあった方がいいのじゃないかな? と思いました。
四月ですから普通はもう和樹も大輔も新しい環境での生活が始まっているはずなので、「二人とも高校卒業おめでとう」「これからは、どうするの」はどうでしょう。
命日を「三月二十四日」にしたらどうでしょうかね、と思わされたりしました。
で、「登場人物の感情がうまく表現できていない、セリフがぎこちない」と言う件に関して。作者さんは昭恵夫人をどういう人物に設定してるんでしょう。
小学生の一人息子を事故で亡くした。そこへ10年間、毎年毎年、欠かさず命日に息子の友人2人がやって来る。それどんな気持ちになるんでしょう。そこ作り込みましたでしょうか。昭恵夫人の10年をその心情を含めてどれくらい作り込むかで、出てくる台詞がきまってくるような、そんな気がしました。
和樹と大輔の言い争いに、昭恵夫人の振る舞いが影響しているようになっているといいんだろうね、と思ったので、まずは明恵夫人の心情をどこまで掘り下げるかで全てが決まって来るのかな? と思わされたので。
ざっくりとしたところでは和樹と大輔の言い争いとカラスの絡みの形、それ自体は悪くないのかもしれないな、とは思いますが、作者さんの「感情が巧く表現できない」「ぎこちない」というところで考えるのであれば、10年毎年毎年、そこで昭恵夫人とのやりとりがあったわけですから、それらの重み、1年目のやり取り、2年目のやり取り、3年目のやり取り、4年目のやり取り、と9年まで、互いが互いに与え合う影響を具体的に作者さん自身が頭の中で練り上げて、さあ、最後の10年目にきたぞ。この最後の10年目を物語として描きました、というふうになっていたかどうかってところなのかな、と思いました。昭恵夫人の身になれば、彼らと会う事は死んだ息子の歳を数える行為でもあるわけですから。

白炭
M014012006098.v4.enabler.ne.jp

アン・カルネさん

ご感想ありがとうございます。

作中の日付については、三月中旬として書きました。
作中では
「和樹と大輔は翔一の命日の四月二十四日に毎年線香をあげていたが、地元を離れることになり、命日に翔一の家に行くことが難しくなった。」、
「三月の中旬で冬本番は過ぎたものの、日が落ちた後は空気がぴんと張るように冷えていた。」
の部分で表していたのですが、ご指摘にある通り、状況を早い段階で表しておくべきだと思いました。
命日がいつかというのは、この小説の核のではないので、おっしゃる通り、読みやすいように、書きやすいように変えても良かったと思いました。

昭恵の心情については、確かに作り込みが足りず、それが表現の薄さに繋がってしまったと思います。「作品に書かないところの作り込み」は重要だと気付かせていただき、ありがとうございます。

素敵なご感想ありがとうございました。

飼い猫ちゃりりん
sp1-75-243-224.msb.spmode.ne.jp

白炭様
良い作品とは思うのですが。
最初の一文で「やく一年ぶりに写真を見た」のは二人の友達ですよね。
最初に読者を「ちょっと迷わせる」より、冒頭はスムーズに入った方がいいと思います。

 和樹と大輔は一年ぶりに翔一の家を訪ねた。遺影の中の翔一は、あどけない笑顔をしていた。二人が遺影に手を合わせると、あのときの光景が走馬灯の〜
 昭恵は静かに二人を見つめていた。

まあ文章は好き嫌いが9割なので、答えなんてありません。軽く聞き流して下さい。

飼い猫ちゃりりん
sp49-98-129-253.msd.spmode.ne.jp

あ、ごめんなさい。アンカルネ様も似たようなことを指摘していたんですね。くどくなっちゃったかな。苦笑
それと、この作品は良い作品であることを重ねて言っておきます。
それと、更に良くなる可能性が沢山ある作品です。もっと話を大きくしてもいいですね。罪と罰みたいに。

白炭
M014012006098.v4.enabler.ne.jp

飼い猫ちゃりりん様

ご感想ありがとうございます。

似た内容のご指摘を頂けたことで、今後の執筆で冒頭にこだわろうと、より強く思えました。
作品の内容、設定、世界観が伝わるような冒頭を目指したいと思います。

>それと、この作品は良い作品であることを重ねて言っておきます。
嬉しいです。執筆の意欲が湧きます。

素敵なご感想ありがとうございました。

ラピス
sp49-104-15-76.msf.spmode.ne.jp

執筆の狙いにて、印象に残る文章表現をしたいとお思いのようですが、冒頭だけでもありきたりな言葉が多いですね。

あどけない笑顔、八重歯が可愛らしい。輝くような翔一の笑い声

等等。

推敲の際に、今一度、自分なりの表現はないかと考えられたほうが良いのでは。
うっかりしがちな自分も中々できませんが。個性が強くても凝り過ぎても浮くから、上手く書こうとしないのが意外とミソです。

白炭
M014012006098.v4.enabler.ne.jp

ラピス様

ご感想ありがとうございます。

執筆しながらも語彙力のなさを感じておりました。
月並みな文章ではなく、印象的で読みやすい文章を書けるように精進します。

素敵なご感想ありがとうございました。

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