ニセモノ
最近の俺のビジネスは順調にもうかっている。
俺の仕事を簡単に説明すればゴーストバスター。または霊能者と呼ぶ人もいる。
いずれにせよ、ニセモノであることは間違いない。
実際、俺は除霊も出来ないし浄霊も出来ない。
しかし問題はない。なぜなら幽霊なんて最初から存在しないからだ。
言ってしまえば、ゴミのない部屋を掃除するようなもの。
依頼人宅。
「お疲れ様でした。またお困りの時にはお電話して下さい」と俺。
「ありがとうございます。本当に助かりました」と依頼人の女性。
三万円の報酬を得て、俺は依頼人の家から出た。
俺がしていることは、とても簡単だ。暗示をかける。
そして規則正しい生活をするように言うだけ。
これだけで95%の人たちが解決している。
そもそも幽霊なんて最初から存在しない。人として正常になれば当然見えなくなる。
問題は残りの5%だ。この人たちは重症と言ってもいい。だから本物の霊能者を紹介している。
これで解決率は100%になる。
ところが、大問題が起きた。
提携先の本物の霊能者が危険な状態に陥った。
日本でも数少ない優秀な霊能者である塚原悦子が、ネット上で
「死にたい」と……。
これは余程のことである。
いつもひょうきんで明るい四十代の塚原悦子に何が起きたのか?
その答えを俺は知っている。
それは霊能者殺しと呼ばれる悪霊の存在だ。
悪霊と言っても元々は人間。
生前、とある霊能者に騙されて大きな借金をすることになった。
最終的に経済的に破綻。そして霊能者を呪って自殺をする。
その復讐の為に悪霊となって次々と霊能者を狩っている。
もちろん当初は都市伝説ではあったが、まさか本当に実在するとは思わなかった。
俺は霊能者である塚原悦子の自宅へと行かざるを得なかった。
彼女は、一人で住むには立派なお屋敷に住んでいた。
庭には池があり、ししおどしまである。
その自宅の玄関扉には、彼女の仲間の霊能者とおぼしき男性が心配そうに佇んでいた。
「キミも霊能者だったら知っているだろう? 霊能者殺しがいる」
言って、その男性は俺を見つめた。
「面白い」 俺はそう言い残して玄関扉を開ける。
別に格好をつけて言っているわけではない。
単純に悪霊を見たかっただけ。
強い悪霊は一般人にも見ることが出来るらしい。俺は一度も本物の悪霊を見たことがない。
見ることが出来れば信じてもいいだろう。
塚原悦子の寝室のドアを二回鳴らしたけれども、反応はなかった。
仕方がないのでドアノブを回して、寝室をのぞく。
どうやら彼女はカーテン付きベッドの中で丸くなっている。
俺は彼女のそばまで近づき「もし、もーし」と声を発した。
「生きていますかー」
「うううぅぅぅ……」
重症だな。
これは間違いなく、本物の霊能者に引き継ぐ案件だ。
しかし、その本物の霊能者がこのような状況では……。
もちろん、俺は他にも本物の霊能者を知っている。
だが、彼は現在、東南アジアに旅行中なので応援は期待できない。
さてはて、どうしたものか……。
流石に布団をめくって、「こんにちは」なんてことは出来ない。
だから、背中と思われる場所に手を当ててゆすってみた。
「だいじょうぶですかー」なんて呑気に言ってみたりして……。
「うううぅぅぅ……」と唸って、突然、塚原悦子はベッドから飛び出した。
寝室の真ん中で、おえーー、おえーーと、まるで汚物を吐いているような様子だ。
いつも気丈でマナーにうるさい塚原悦子にしてはあり得ない光景だ。
そして、ゴホゴホと咳き込んだ後で、俺の身体に抱きついて来た。
「うぅぅぅ……。死ぬかと思ったよ。死ぬかと思ったのよ。ありがとね。あなたは命の恩人だわ」
彼女は鼻水をすすり半泣きになっていた。
だから、その鼻水が俺の衣服に触れるのではないかと、とても怖かった。
後日談。
知らぬが仏なんて言葉がある。今回はまさにそれだった。
塚原悦子の説明によれば……。
寝室に入って来た俺の前で悪霊は姿を現し、死ね、殺すぞ、呪ってやる、そんな暴言を
吐いたらしい。またラップ音でその存在を示したが、俺はまったく無視をした。
そもそも気付いていなかった。
そして俺が塚原悦子に間接的ではあるけれど、身体に触れることで悪霊の強力な金縛りから解放されたらしい。その後、悪霊は俺に猛攻撃を仕掛けて来たが、完全にハネ返したそうだ。
一方で塚原悦子は、自分の口から霊能者殺しと呼ばれる悪霊に加勢していた手下の霊を吐き出して、ようやく自分の身体を取り戻した。
とりあえず、提携先の本物の霊能者を失わず、一安心だけはした案件だった。
そうそう。俺は塚原悦子に報酬として三万円を求めたが、悪霊の憎悪が増す行為なので渡せないらしい。無報酬こそ俺にとって一番怖かったことなのに……。 あの感謝の言葉は何だったのだろうか。
執筆の狙い
「★鶏肉の味噌焼の企画の参加作品」 参加することに意義があるらしい。
文字制限があったので、だいぶカットしましたね。
その分、雑になった感は否めないです。
忌憚のないご意見をお持ちしております。