私は目覚めない
アリスティーナ、レモネード。
ああ、その私を呼ぶ声。びろうどのように滑らかで、聞き心地がよく、脳髄を甘く痺れさせる。どこか冷たい場所でしばらく横たわっていた私は、うっすらと瞳を開いた。
真っ黒くて、艶やかな何か。それは、まだ朧げな視界の端に飛び込んでくる。
「アリスティー」
ここはどこ?私を呼んでいるのは、誰なの?
私の名をひっきりなしに呼ぶ声は、どこか懐かしげに響いた。不意に、胸の内がかき混ぜられたように息苦しくなる。
懐かしくて、切なくて。ずっとずっと大切にしていた宝物を、人生の途中で置き去りにしてしまったような感覚。
「アリス」
名前を呼ばれるたび、心臓が大きく飛び跳ねた。どくん、どくんと体の内側から確かに鼓動が聞こえてくる。全身の血が、何かを求めて荒れ狂うかのようだった。
「ティー、もう、目覚めないのか?」
今度は切なげな声。声を掛けてくる誰かさんは悲しんでいるみたいだ。と、私は思う。
なぜそんなにも、私の名を呼んで。
執筆の狙い
美しく幻想的で、でも刹那げな雰囲気を纏う小説を書きたかったからです。