日常
ひなた:「佳乃、おっはよー!」
元気な声が聞こえて、辻佳乃(つじよしの)は振り返った。そこには、福岡ひなた(ふくおかひなた)が太陽をかき集めたように明るく笑っていた。
佳乃:「……、夢華」
佳乃が黙っていたところに、今野夢華(こんのゆめか)が立っていた。その後ろには夢華の姉、今野愛華(こんのあいか)がいる。
夢華:「おはよう」
愛華:「よっちゃん、ひなちゃん、おは!」
ひなた:「おはよう!」
三人が挨拶を交わす中、佳乃は逃げるように沼山紗奈(ぬまやまさな)と櫻井心音(さくらいことね)の元へ向かう。
ひなた:「ちょっと、無視しないでよー」
不満そうに口を尖らせ、佳乃の元に駆けてくるひなた。
佳乃:「……ごめんね」
あの時から三年、佳乃は同じ所でスマホをいじりながら『ある人』を待っていた。
ひなた:「佳乃、おっはよー!」
元気な声が聞こえて、佳乃は振り返った。そこには、ひなたが、三年前と同じように明るく笑っていた。
佳乃:「おはよう。あ、夢華と愛華……」
夢華:「おはよう」
愛華:「よっちゃん、ひなちゃん、おは!」
ひなた:「おはよう!」
佳乃:「心音と紗奈も。おはよう」
心音:「うん〜」
紗奈:「おはよ」
穏やかな夏の風が吹いて、佳乃は足取りが軽くなった。
三年前の中学一年生だったあの春が懐かしく思えて、あの頃が恋しく思える。
心音:「佳乃ぉ、暑いからアイス奢ってくんな〜い」
佳乃:「やだよ。自分で買え」
心音:「けち」
佳乃は苦笑を溢すと、少し考えた顔になり、
佳乃:「……たまにはいいか」
と独り言。
心音:「え、いいの!?やったぁ!!」
佳乃:「いいけど、次は買ってあげないから」
ひなた:「佳乃、『次』は私も……」
佳乃:「無理です」
ひなた:「なんで!?」
紗奈:「ひなた、あなたうるさいですわよ」
夢華:「なんかおねえいる」
愛華:「ふふ」
いつも通りだけど、いつもより、幸せに感じた青春の1ページ。
夏の記憶に切り取られた、一枚の、夏の青春が、そこにはあった。
執筆の狙い
普通の『日常』が、本当は命の次に大切なものだと伝えたかったのでこの小説を書きました。それと、少しでも、日常は変化することもこの小説に込めました。