嘘つきマリンの一生
びゅっ、と突風が鼻先を掠めた。
風の鋭さに驚いて、ハッと息を呑むみたいにマリンは顔を上げる。
頬の周りで、柔らかな金髪が弧を描く。
あれから数十年、彼女の長かった髪は肩の辺りで切り揃えられていた。
睫毛がふるりと震え、その下から二つのエメラルドグリーンが覗いた。みるみるうちに彼女の瞳に溌剌とした光が宿る。
彼女の目の前には、白亜の建物が整然と立ち並び、青空の下、きらきらと淡い光を放っていた。先程までの黒い森とは一転、外界と隔てられたそこは、桃源郷のようだった。
空を貫く尖塔、目を凝らすとやや煤けて見える灰色の壁。入口の周りを、背の高い鉄柵がぐるりと取り囲んでいる。一見すると、まるで貴族の集合住宅のようである。
ラ・レコレータ墓地。その名を知らぬ者は、ここガザブランカの土地にはいない。
「ここにメアリーハナの眠る墓があるのね」
一言、そう呟いてから再び、墓のある方へと歩みを向けた。
彼女はそっと、石造のひんやりとした壁に指で触れた。
その表面は滑らかでなく、家紋と思しき紋様が刻まれている。
執筆の狙い
アルゼンチンに、世界一美しい墓として名高い「ラ レコレータ墓地」があります。
今回はそこを舞台に執筆しました。
ぜひ文章表現についてアドバイスを頂きたいです。