作家でごはん!鍛練場
タンブリンマン

壮絶・島津軍團!

「明治元年は戊辰ノ役が末期、茗荷谷田齋と云う講釈師がおりました。關東人なのですが、かの<人斬り半次郎>こと中村半次郎、のちの陸軍少将・桐野利秋が部隊におりましてオトコ惚れしました。モロチン講釈師ナノで、陣中でせがまれ軍記モノを打っておりまして、とある夜の演目です。

『ええと今宵はだな、[尼子三傑]か[眞田三代記]にしようと思ってたんだけどよ、氣が変わった。で、[島津の退き口]をトクベツに講釈したらぁ。ホントは眞田〈左衛門佐〉信繁公、通称、幸村さんは英傑だから幾ら講釈しても足りねえんだけどよ。お、拍手喝采ありがとうよ。でも座れ、座りやがれ!いいか、テメエらには神さまとおんなし〈鬼島津〉〈左近衛權少将〉義しろ、惟新公がこと講釈するんだからよ、下手打ちゃ脳てんカチ割られても文句は云えねえ、こちとら命がけなんだよ!分かってんのか、この芋兵!文句ある奴ぁかかって來いや!お、素直だなテメエら。よし、講釈してやらあ。ただし、居眠りこいたら張っ倒すからな!

 時は慶長五年長月、夷暦で云うなら九月が半ば、ペンペン、美濃國不破郡関ヶ原だ。知ってるとは思うがな、モロチン〈天下分け目の大いくさ〉、ペンペン、東西が英雄大衝突と來たモンだ。

 東軍が大将は、テメエら芋どもには〈惡の權化〉たれど、ペンペン、関東では古今無双の英雄たる、ペンペン、かの〈駿河大納言〉、神君、家康公たるぞ。お、そこの芋、テメエ顏ゆがめたな!クニに歸って畑耕してろ、この田舎モンが!古今東西、強え奴あ強え、弱え奴あ弱えんだ!ケンカでこの渡世を渡ろうってえ心算ならな、學ぶとこは學ばにゃならねえんだよ!分かったかこの野郞!
 さて西軍が大将は、ペンペン、かの〈中國の虎〉こと毛利〈陸奥守〉元就公が嫡子、もと〈權中納言〉たる輝元公よ。しかしこいつあ單なる神輿でござい、ペンペン、お、笑ってやがるな、そこの芋!歴史ってモンが分かってるな!ソウ、ソレでいい、続けるぜ。

 その實、大将格はかの石田〈治部少輔〉三成公であったこた明らかだ。おっと、拍手と來たな!サルもとい太閤秀吉殿下が腰巾着、子飼いのワン公扱いされるけどよ、ペンペン、所領の近江じゃあ大人氣、仁徳溢るる一等の人物とくらあ。でも不倖なことに、大名からの人望がマツタクなかった、ペンペン、だがよ、その忠臣が島左近清興公、〈治部少に過ぎたるモノがふたつあり佐和山の城に島の左近〉との戯れ歌があらぁな、ペンペン、そういや家康公にもソンな戯れ歌あったな、確か〈家康に過ぎたるモノがふたつあり唐の頭に本多平八〉って。しかしマア、妬み僻みって感情は、ペンペン、むつかしいこた分からねえけど、普遍、ってヤツだな、ペンペン、鶴亀鶴亀。

 もともとな、惟新公は太閤殿下亡き後は、ペンペン、家康公が天下人になるって見抜いてたんだ、ペンペン、ところが三成公、あんまし誉められたことじゃねえが、ペンペン、惟新公の愛妻・お芳の方をしと質にとってたんだから参軍するほかねえよな、それで陣地でも〈動かざること山の如し〉と戰局を見守ってたんだ、ペンペン、臆病じゃねぇ、さすがに文武両道のツワモノだぁな。

 そこで關ヶ原だ。口にするのもムカつくが、あの小早川〈筑前中納言〉しで秋、金吾のクソヤロー、松尾山にこもってたんだが、家康公に鐵砲撃たれて大慌て、ペンペン、寝返りやがって、かの大谷〈刑部少輔〉吉継公の陣地に突っ込み、西軍は大慌てだ。ペンペン、だが吉継公はオトコの中のオトコだぜ、ナンせ病を患って眼も見えず、足も不自由なのに、三成公との友情を大事にし、勝ち眼がねえいくさに身を投じたんだからな、ペンペン、おっと立ち上がったな芋ども!よし、許したる、オレも吉継公びいきだからな。名誉のお討ち死にだ。金吾のクソヤローがその後どうなったかは知ってるだろうが、ペンペン、後で話したる。

 ソレから戰局だ。オレは薩摩ことばが未だに苦手だから、あづまことばで惟新公と薩摩隼人たちの會話を再現するぜ。
『お館さま!こ、小早川しで秋どのが、東軍に寝返りました!松平〈下野守〉忠吉どの、井伊〈修理大夫〉直政どの配下〈赤備え〉も突入!大谷刑部どの、お討ち死!宇喜多〈權中納言〉しで家どの、小西〈摂津守〉行長どのが軍も敗走!我が軍は囲まれております!』
『おのれ金吾が小わっぱめ!あのようなし怯者の手で死するは業腹じゃが、退いては末代までの恥!死に場はここと定めたり!』
『なりませぬお館さま!島津家は鎌倉殿すなわち頼朝公以來の武家が名門、せめてお館さまだけは!』
『しかし我が手勢は僅かであるぞ!』
『そこは我ら、武勇のほまれ高き薩摩隼人がお館様をお守り致します!』
『は!そなたはま、まさか〈捨て奸〉ステガマリを!』
『是しに及ばず!否、と申されるならば、それがしをお斬り下され!』
『ウム、そなたの覺悟、わしは感服したぞ。では陣を整えい!敵が福島〈侍従〉正則、市松が軍勢に突撃じゃ!』

 捨て奸、てえモンは、ペンペン、テメエら芋はよく知ってるだろうが、なんつうか壮絶な戰法だぜ、ペンペン、本軍が撤退する際にだな、ペンペン、殿〈シンガリ〉の兵の中から小部隊をその場に留まらせてよ、ペンペン、追ってくる敵軍に対して、死ぬまで戰ってだな、足止めをすらあ。ソウして小部隊が全滅するとよ、ペンペン、また新しい足止め隊を逃げ路に残してよ、ソレを繰り返して時閒稼ぎをしている閒に、ペンペン、本隊を逃げ切らせる、ちゅう、地獄の戰法だ。足止め組はまっこと置き捨てで、ペンペン、生きて還れる可能性がほとんど無ぇんだ。マア、壮絶なトカゲの尾っぽ切りだ、ペンペン、云い方は惡ぃけどよ。

 ソモソモだな、ペンペン、シンガリちゅうモンは、ペンペン、もっとも強い兵が任されるとくらあ。なぜかと云うとだな、ペンペン、守りつつ攻め、攻めては逃げる、ペンペン、つまりだ、守りにも攻めにも通じてなきゃならねえ、ペンペン、〈攻撃は最大の防御〉の極め、とでも云おうか、ペンペン。

 ソコで、オレは田舎講釈師だから軍の編成は良く分かんねぇけどよ、ペンペン、惟新公の側近たちが芋どもに怒号をかけるわな。
『我らはまことの薩摩隼人なり!死をも恐れず、じゃ!しかし、そなたらに捨て奸を命ずるのは忍びなき故、我こそが、と云う者は東軍どもをくい止め、お館さまが敵中突破の捨て駒となれい!』
そしたらナント、芋、いやすまなんだ、薩摩隼人どもは我こそはと手を挙げやがった!
『拙者にその誉れをお与え下され!是し!敬愛するお館さまのためならば、この地で身が肥やしになろうと構いませぬ!』
『否、我こそが捨て奸になりまする!あづまサムライの腰抜けどもに、薩摩隼人の強さ恐ろしさを見せつけてやりもうす!』
『その役目、この飯田庄左衛門がお受け致しまする!儀助に与四郞には幼き倅がおるであろう。ならばそれがしが死するぞ!お主らはお館さまが福島軍勢突破の尖兵となるのだ!』
『いいや、わたくしが!』
『おいどんが!』
 てなわけで、兵の数は三百とも一千とも云われてるがな、殆どが捨て奸を熱望したときたモンだ、ペンペン、マアその殺氣に感動した側近、ペンペン、ともかく各組の大将格とその下がお館さまをお守りす、ペンペン、そなたらは存分に戰い、ペンペン、薩摩隼人が武勇を全國に知らしめよ、と捨て奸になることを認めたわけだ。ソレでー』

 と、ハイライトたるトコロは田齋に語らせるべきなのですが、ちょいとケンカ講釈師の眞似が辛くなってきたのと長くなるのでしかえ眼、ダイジエスト版で。申し訳あいもはん。
 まず惟新公の一團が正則公の軍に突撃をかまします。ソレだけで命知らずですねえ。正則公は〈賤ヶ岳の七本槍〉のしとり、かの加藤〈主計頭〉清正公と並ぶ武勇溢るる傑物ですから。それで突っ込み、捨て奸シンガリたちが追撃する本多〈中務大輔〉忠勝公・忠吉公・直政公の軍勢を攻撃し退き、退いては攻撃す、全滅したら新たな組を捨て奸にするっちゅう死闘を演じます。
 その結果、惟新公らは敵中突破に成功し、大和國に逃れ七十日も息をしそめます。仁徳もおありでしたので坊主たちから支援を受け、無事と云っちゃあナンですが薩摩に歸國出來ました。彼の地を踏みしめたのは八十と数名だったソウです。無學なあたしが云うのもナンですが當時〈世界最強の軍團〉だったのではないでしょうか。

 田齋の講釈は終わるのですが、今度は薩摩隼人たちがド興奮します。
『す、素晴らしか!おいがそん頃生まれちょったら、捨て奸になっとった!二、三十ん兵を殺しちょったじゃろう!』
『ないをゆか!わいやったら、いっき腰抜かして首級な取られちょったわい!』
『なんじゃとこんやろう!やったら、わいが本多平八郞になってみせ!おいが叩き斬ってやっわ!』
 などと、血氣溢れる薩摩隼人たちは、いくさ場でもナイのに乱闘を始めました。
『きばれ!惟新公をお守りし、市松が軍勢をやっつけっのも忘れたやいけんぞ!』半次郞さんは微笑み、声援を送りました。
 ちなみにですが、金吾のクソヤローもとい小早川しで秋、合戰後、一六〇二慶長七年にくたばっております。アルコール依存症だったとか、大谷吉継公の祟りとも云われとります。享年二十一。釈迦牟尼」

壮絶・島津軍團!

執筆の狙い

作者 タンブリンマン
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史実ヲ元ニシテ書キマシタ。歴史好キモ、興味ナイヒトタチカラ「面白くない」ト云ワレル
コトハカクゴシテオリマス。

コメント

fj168.net112140023.thn.ne.jp

拝読しました。
随分と乱暴な講釈師で(笑)流石にペンペンの刻みがリズムとなり、読みやすかったです。しかし、聞かせるところ、読ませるところはしっかり語調を変えてある、上手いですね~
楽しませて頂きました。

タンブリンマン
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アリガトウゴザイマス。ソモソモ此レハ、長編ヲクリップシタモノデス。
本編ハ5倍クライデスカ。
主人公タチガ「河童ノ黄金傳説」ヲアカスタメ、肥後熊本ハ球磨川ノゲンリュウマデ旅ヲスル。
オメガノ腕時計マデ売ッテ取材ニデカケタノデスガ、マアサイシュウマデノコリマセンデシタ。

チャカポコ批評家
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タンブリンマン様

読みました。
辛口になりますが、批評させていただきます。

文章には卓越したものを感じた。言葉の色合いやリズム、そこから感ぜられる意識の流れには隙が見当たらなく心地よい。一方、「オタクは専門家にはなれない」なる言葉に屡見出せる空回りの感覚も同時に抱かざるを得ない。蓋し、作者の拘りが外連味に化けるぎりぎりのところを不安定に往復している。すなわち、風変わりな表現は、魅力として働く外連味と助平心が誘う没個性との二側面を持っており、お互い反発しあっている。助平心による没個性とは、風変わりな表現も作品との調和以上に糊塗されるとファッションとしての言葉遣いに堕することを指している。反発による魅力の相殺ということである。

ストーリについては結局読者に何が書きたかったのか判然としない。ストーリではなく、三味線の小気味よいペンペンなるリズムが刻む、全体表現としての文章を伝えたかったのだろうか? 

とまれ、この作品がどうにも不明瞭なのは表現が風変わりであるところに求められるのではく、表現の目的地を見定めてて書かれていないところにあるように感じられる。

タンブリンマン
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チャカポコ批評家サマ

アリガトウゴザイマス。<外連味と助平心が誘う没個性との二側面>トハ、私ニトッテハ褒メ言葉ト
シテウケトリマス。

ソモソモコノ拙文ハ400マイノカキモノカラカット・アップシタモノデ、オリジナルハ熊本ハ球磨ノオクチヘキエタ茗荷谷田齋ヲ陸軍少将・桐野利秋カラ探スヨウニ頼マレタ連中ノ珍道中トイッタシロモノ
デ、コレハタンナル挿話、エピソードナノデ、単なる<講釈師>ト<薩摩隼人>トノヤリトリヲ面白可笑シク記シタノデ、内容は島津軍団ノ勇猛果敢サヲギャグトシテ受ケ取ッテ頂ケタラ幸イデス。

チナミニ、オリジナルハカノ「地獄の黙示録」ノパロヂーデ、コノクダリは夢野久作「ドグラ・マグラ」ニオケル<キチガイ外道地獄祭文>ヲイシキシテ記シマシタ、ハイ。

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