作家でごはん!鍛練場
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舌に傷を持つ少女と、寝心地の良い黒猫の話

舌に傷を持つ少女と、寝心地の良い黒猫の話
-COMPLEX NEVER LAND-



〈一、殺人鬼の神父と舌に傷を持つ少女の話〉




 そこは想像力の掃き溜めの町だった。


 あらゆる情念が氾濫し、複雑に絡み合った現代社会において、必要でなくなったり、忘れられてしまった想像の産物はたくさん存在する。
 イマジナリーフレンドと呼ばれる概念はその代表例である。
 子どもが空想上の友だちとして、あるいは稚拙な欲求の捌け口として頭の中で生み出し、主の成長と共に忘れられ消えていく存在。
 そんな、不要になったイマジナリーフレンドたちが、捨てられ、彷徨った末に行き着く町があった。
 人間の集合的無意識の辺境──人の意識など届かない奥地。
 そこに追いやられたイマジナリーフレンドたちは自然に住み着き、少しずつ発展させて小さな町が生まれたのだ。
 この想像力の掃き溜めの町に、一人の孤独なイマジナリーフレンドがいた。
 この男は、名を『殺人神父』といい、周りからは『神父』で通っている。
 ホラーマニアの男子中学生から生み出された彼は、身長が二メートルに達し、醜い十字傷が刻まれた隈の浮いた顔に、神父服を纏い、巨大な十字架を模した武器で悪人を殺す殺人鬼、ということになっている。外見の設定や、何故殺す対象が悪人のみなのかということには大した意味はない。ただ単にその男子中学生はそういうものが好きだった、というだけだ。
 神父は男子中学生の頭の中で、主の想像力に従いながら想像上の悪人を殺し続けた。
 やがて男子中学生は子どもではなくなり、彼の心は成長し、もう神父の存在は必要ではなくなった。
 そして神父はこの町に追いやられた。
 とはいっても、環境が変わっても彼のやることは変わらない。来る日も来る日も、町に住む悪人のイマジナリーフレンドを殺すだけの日々。『そういうもの』として生み出されたというだけの理由で、彼は『そういうもの』として在り続けた──『悪人を殺す殺人鬼』として。それがイマジナリーフレンドとしての彼の”性(さが)”だったからだ。
 神父は労働をすることはなかったが、生活費は殺した悪人たちから奪い取っていた。
 そのため周りからの心象も悪く、当然、神父は町の嫌われものだった。
 

 その日、アメコミのスーパーヒーローものに出てくる悪役(ヴィラン)の何番煎じのような格好の悪人イマジナリーフレンドたちが、街を荒らしていた。
 弱いイマジナリーフレンドが虫けらのようになぶり殺されているという噂を聞いた神父はすかさずその場に駆けつけ、きちんと殺人鬼風のおどろおどろしいマスクを被り、手持ちの凶器によって悪人イマジナリーフレンドたちを皆殺しにした。
 その結果として神父は、殺される寸前だった少女のイマジナリーフレンドを、意図せず助けた形になってしまった。


 助けられた少女は何故か神父の後をつけ回し、ついには彼の家にまで入ってきていた。
「……何でいるんだ」
 この町の至るところにあるスラム街とは月とすっぽんの高級住宅街の一角、神父の住む立派な民家の内装は外観に反して散らかっている。その玄関で、巨体の神父は小さな侵入者に対して、不満げに尋ねていた。
「お礼させてほしいの」
 淡々と答える少女は、見た目からは中学生くらいに見える。神父は、彼女の返答に眉を潜めた。
「お前みたいなガキに何ができる?」
「お掃除やお洗濯……それに、ご飯が作れるわ」
「全部いらねぇ」
 とりつく島もないとばかりに、ぴしゃりと断る神父。
「……家事、全部やってあげられるんだよ?」
「いらねぇ」
 神父が家の奥に進むと、少女もついてきた。手で払うように追い返そうとするも、彼女は応じない。
「ご飯も、いらないの?」
「いらねぇ。何度も言わせるな」
「とっても美味しいのよ」
「出てけ」
「……ところで、掃除用具はどこ?」
「オイこら、勝手に漁るな」
「散らかり放題ね、この家」
 少女は神父の拒絶を無視して部屋の掃除をし始めた。
「こんなに立派なお家があるのに、普段からだらしない生活を送ってるんでしょ? ……そういうのって、すっごくダメなんだよ?」
「うるせぇ、とっとと出てけ」
 神父は鬱陶しそうに、手近にあったグラスを少女の方へ投げつけた。それは少女に当たることはなかったが、彼女の足元の埃まみれの床に激突して割れた。
 少女は派手な破砕音にとても驚いた様子だったが、すぐにグラスの破片を片付け始めた。
 二、三度同じことをしてみたが少女の反応は変わることがなく、あまりの不毛さにさすがの神父も諦めた。彼はテレビを点けると、放送していた陳腐なホラー映画を何も考えず眺め始める。
 そうこうしている間も少女は居座り続け、掃除の他に洗濯や洗いものをした。そして夜になると彼女は神父に夕食を作った。
 神父はそれを迷惑に思ったが捨てるようなことはせず、黙々と食べた。先ほどの出来事から拒んだ方がかえって面倒なことになるのを学習していたからだ。
 神父が食事に手をつけ始めたのを認めるや、少女がすかさず尋ねてきた。
「どう?」
「どうって?」
「味よ。美味しい?」
「どっちでも良いだろ。飯なんて腹に入れば全部同じだ」
 神父がそう答えると、少女はどこか不満げな表情をしていた。
「何だよ」
「別にっ!」
 そう答える少女の口の中を偶然目を留めた神父は、彼女の舌に刃物で切られたような傷跡があるのに気付いた。ほんの少しだけ気になったけれど、すぐに自分の顔の傷と同じように、どうせ大した意味もないのだろうと、何となく決めつけて気にしないようにした。
 イマジナリーフレンドなんて、どいつもこいつも、どうせそんなものだ。
「俺がこれを食い終わったら出ていけよ」
「嫌よ。お皿も洗わせてもらうわ」
「……なら、洗い終わったら出てけ」

 やがて神父が食事を終え、少女が食器を洗い終わる頃になると、外は酷い雨が降っていた。
「この雨じゃ、とても外には出られないわね」
 少女は勝ち誇ったような表情で言った。
「何だそのツラは? 俺が雨くらいで追い出すのを躊躇するとでも?」
「ええ、神父様。あなたはわたしを追い出すことはできないわ」
「どうして?」
 神父が尋ねると、少女は得意気に説明を始めた。
「街のイマジナリーフレンドたちが言っていたの。あなたは悪い人専門の殺人鬼だって。つまりそれ以外は殺せない。わたしは悪い人じゃない。けれどこんな雨の中外に出されたら、きっと肺炎か何かで死んでしまうわ。そうなったら間接的にあなたがわたしを殺したことになるんじゃないかしら?」
「俺にそんな理屈が通用するとでも?」
「この雨はきっと、神様が『この家で神父様のお世話をしなさい』、と言っているようなものなのね」
「聞けよ」
 少女は聞いちゃいなかった。
「これも、神様のおめしぼし、というやつかしら」
「……それ言うなら、思し召し、だ」
「……え? おぼめし、し……?」
「思し召しだよ」
「おぼめしめ、し……?」
「思し召し」
「おし、おめし…………」
 少女の言い間違いとその訂正にはまるでキリがない。神父はひときわ大きな声で言ってやった。
「お、ぼ、し、め、し!」
「おぼ、おし……おしめ…………、おしぼり……?」
「……もう良いよそれで」
 ため息一つ。神父は何だか毒気を抜かれてしまい、脱力した。
 少女は得意気に微笑んでいた。

 それから数日が過ぎ、何度出ていくように言っても少女は神父の家に居座り続けた。神父はやがて諦め、『野良猫が住み着いた程度に思えば良いか』と、放っておくことにした。


 神父は毎日昼間は悪人殺しに出掛けていて、夜になると少女の待つ家に帰ってきた。そしてそこでは頼みもしないのに、毎日彼女と彼女の作った夕飯が出迎えてくれる。
「毎回毎回、いらないっつってんだろ」
「だってわたし、これくらいしかできないから」
 少女ははにかんだように笑いながら、神父が座れるようにダイニングチェアを少し後ろに引いた。
「神父様はわたしの恩人なんだもの」
 神父は文句を言いつつも、黙々と少女の作った料理を食べ始める。
 以前は市場で適当な弁当を買ってきて食べるようにしていたが、家に帰ると少女が料理を作っていることが分かっていたので、ここ最近はその習慣がなくなっていた。
 神父は少女の食費として家にいくらかのお金を置くようにしていたが、彼女はそれを自分のためだけではなく、料理の食材に使っているようであった。かつてはガラガラだったこの家の冷蔵庫は今ではギュウギュウ詰めになっている。
 少女は神父が食事をする様をニコニコしながら眺める。やがて神父が食べ終えると、いつもと同じ質問をする。
「美味しかった?」
「何度も言うが、俺は味というものに興味がねぇ」
 少女は残念そうに食器を片付け、洗い始めた。
「……何でそんなに味を気にするんだ?」
「だって神父様のために作ったんだもの。せっかくだから美味しく食べてもらいたいじゃない。料理って、美味しく食べてこそでしょ?」
 神父は「下らない」と鼻で笑い、少女は悲しそうに微笑んだ。
 そして言った。
「わたしにはもう、美味しいご飯なんて食べれないから。せめて誰かに与えてあげたいの」


 少女は神父と一緒に食事をすることがなく、いつも彼が寝静まった深夜にリビングに行き、一人で食事をしているようだった。
『わたし、ご飯は独りで食べるのが好きなの』
 あるとき神父は夜中にトイレに目覚め、少女の食事を目撃してしまった。
 少女はリビングで、泣きながら、自分の涙や鼻水や唾液や胃液でグチャグチャになった料理を頬張っては吐き出し、それを繰り返した後、どうにか飲み込んでいた。それが彼女にとっての『食事』だった。
 神父には何が何だか分からなかったけれど、とにかく少女は自分で作った美味しそうな料理を自分では美味しく食べられない、ということは理解した。
 そして、それが少女が神父と一緒に夕飯を食べたがらない理由だということも。
 翌朝目覚めると、いつものようにテーブルには少女の作った朝食が置いてあった。昨夜天板にぶちまけられていた汚物は綺麗に掃除されていた。
 神父はいつも通り、黙々と料理を食べ始める。やがて食べ終えると、彼はちょっとした気まぐれで、こんなことを言ってみた。
「……味自体は悪くないが、薄味すぎる」
 すると少女は──たったそれだけの感想で──跳び跳ねるように喜び、その日一日中上機嫌だった。
「夜は気を付けて作るからねっ!」

 ──そして夜。
「……今度は濃すぎる。一か百かしかないのか、お前は」

 
 神父は乱暴な男だった。家の前に野良猫や野良犬が寝ていると怒鳴りつけ、道端にいる物乞いが近付いてくると蹴り飛ばし、すれ違い様誰かがぶつかると相手が誰だろうとぶん殴り、しかもドアの明け閉めや道具の扱いに至るまで全ての所作が粗暴だった。悪人と戦うときなんて、軽機関銃を内蔵した巨大な十字架を振り回し、乱射するのだ。
「どうして神父様ってそんなに乱暴者なの?」
「それは俺が非道い奴だからだ」
 ある日のこと。少女の問いに、神父はそう即答した。
「非道い奴として生み出されたから、『そういう風に』在らなければならないんだ。俺だけじゃなく、イマジナリーフレンドはみんな、生みの親である”想い主”の設定した”性(さが)”に従って、生み出されたままに生きてる。お前もそうなんじゃないのか?」
「……そうね。わたしも、人のお世話をするために生み出されたから」
「へえ。だからお前、あんなに家事がうまいんだな。料理以外は」
「そうよ。褒めてくれてありがとう」
 鼻白む様子もなくお礼を言う少女。彼女に嫌味は通じなかったらしい。毒気を抜かれながらも、神父は話を続ける。
「……世話をさせるために生み出したなんて、お前の”想い主”は、さぞかし寂しがり屋だったんだろうな」
「寂しがりっていうか、甘えん坊さんだったの」
 少女はどこか懐かしむような口調で答えた。
「お前も『卒業』されたクチか?」
「違うわ。彼は、わたしのことを考えるのが苦しくなっちゃったの」
「……『そっち』か」
 神父には心当たりがあった。前にも別のイマジナリーフレンドから、同じようなパターンの話を聞いたことがあるのだ。
「うん。わたしの想い主は、わたしのオリジナルの女の子に恋してた。それで、その子にたくさんたくさん甘えたかったみたい。彼は頭の中で、その欲望を満たしていたわ。わたしに身の回りのお世話をたくさんさせていたの。……その日が来るまで」
「振られて、お前を思い浮かべるのが苦痛になったと」
「そうなの。誕生日にお菓子をプレゼントしようとして、酷い言い方で断られたんだって。彼のオリジナルへの感情は恋から憎しみに変わったわ。最後に『おれのあげたものが食べられないような舌なんていらないだろ』って、わたしの舌に仕返しして、それっきり」
 言い終えると、少女はべえっと舌を見せる。そこには醜い傷跡が刻まれている。
「そのときの傷だったのか」
「ええ。この傷のせいで、わたしの味覚はおかしくなって何を食べても美味しく感じられなく──むしろ物凄く不味く感じられるように──なった。現実じゃ傷がついたくらいでそうはならないのかもしれないけれど、これは彼からの呪いのようなものなのかも。……それで、とにかくその日から、わたしは『いらない子』になってしまったの。わたしはオリジナルとは違って、彼のことが大好きだったのに……」
 少女の言葉には皮肉が混じっていた。それは彼女には珍しいことだった。
「お前、自分にそんな仕打ちをした想い主を好きだったのか?」
「好きだったわ。神父様は、自分の想い主のこと嫌いなの?」
「俺はお前とは違って、想い主と直接対面するようなことがなかったからな。そういう『捨てられた』みたいな感覚はない。奴の頭の中にいたときも、この町に追いやられてからも、やることは変わらないしな」
「そっか。神父様はわたしとは違うのね」
「ああ。だから悪いけど、お前の気持ちは分からないな」
 すると、少女は悲しそうな表情を浮かべ、気まずい沈黙が流れるようになってしまった。神父は何だかバツの悪い気分になった。
「その、何だ…………俺はお前の気持ちは分からないが……お前はいらない子なんかじゃねえよ。現にこうして俺の世話をしてくれてるわけだし……」
 頭をガリガリと掻きながら、口下手の神父がどうにか絞り出した言葉に、少女は嬉しそうな表情を浮かべたかと思うと、可笑しそうに笑いだした。
 その様子にムッとした神父は、少女に厳しく問いただした。すると、
「だってあなた、自分のこと『非道い非道い』って言いながら……わたしには凄く優しくしてくれるんだもの。それはどうしてなの?」
 少女がそう言うと、神父はしばらく困ったような顔をした後、急に眉間にシワを寄せたかと思うと、彼女を突き飛ばした。
「きゃっ────」
 あまり強い力で押したつもりはなかったが、少女は簡単に転び、よく磨かれた床に尻餅をついてしまう。神父はそのことに、自分でやっておいて、不意を突かれたように驚いた。
「……やっぱり、非道い人だね」
 彼女にそう言われると、神父はさっきよりもバツの悪そうな表情になった。
 すると少女は少し口許を綻ばせ、添えるようにもう一言。
「でも、気付いてる? 悪い人を殺しに行く前のあなたって、少し辛そうな顔してるんだよ」
 言われたことを理解した途端、神父の胸を、微かな痛みが過ったような気がした。


 その日、神父と少女は一緒に買い出しに行くことになった。少女がしつこく誘ったからだった。
 外に出ると、どんよりとした空気が二人を包み込む。イマジナリーフレンドの町には霧が立ち込めており、それは外周部に近付くにつれ濃くなっている。空は基本的に曇っており、現実より高い確率で雨が降る。道は舗装されているものの整備が行き届いておらず荒れている箇所が多く、町の半分弱は生活能力のないイマジナリーフレンドが住むスラムになっている。
 彼らはそんな道を歩いていく。
 市場までの道中、転がっていた石をずっと蹴りながら歩いている神父に、見かねた少女が注意をした。
「神父様って本当に子どもね。いい加減そんなことやめなさいよ」
「何言ってんだ? 子どもも何も、そもそも俺たちイマジナリーフレンドは大人になんかなれないんだぞ」
「えっ、そうなの?」
 少女は意外そうに目をしばたたかせ、素直に驚いている様子だった。
 神父が説明を加える。
「俺たちは元々子どもの心の一部だったんだ。そして奴らは大人になる過程で俺たちを切り離す(パージする)。残った俺たちは成長なんてしようがない。大人になんてなれない。この町に住む奴らはずーっと子どものままなのさ」
「そうだったの、はじめて知ったわ」
 少女は感心したように息をついた。
「……まるでピーターパンの世界ね」
「何だよ、それ?」
 神父の問いに、少女は再び表情を驚きに染めることとなった。
「ピーターパンのお話を知らないの?」
「知らないね」
「有名な童話よ?」
「童話ねぇ……多分、俺の想い主がそういうのに興味なかったんだろう」
 神父はどうでも良さそうに自己完結する。
 そうこう話しているうちに、彼らは目抜通りから一本外れたところにある、大きめの市場に到着していた。そこでは子どもたちの欲望や執着、不安などを体現した、多様な住人たちが行き交っている。
 ピエロや魔法使いなどの奇抜な衣装を着けた者、人と他の動物が合わさったような身体をした者、道具や概念を擬人化したような外見の者……色んな姿のイマジナリーフレンドたちがいるのだ。
「そのピーター何とかさんがどうだかは知らんがな、コイツらは見た目はともかく、どいつもこいつも中身はガキなんだよ。……ほら、見な」
 神父が指差した先では値切りに失敗したらしき客と店主がもめていたり、商品に勝手なことをしようとして怒られた客が逆上して店を荒らしていたり……ということが方々で起きていた。
「思い通りにならないことがあるとキレるわ泣くわ、そんな奴らばっかさ。まあ俺もその中の一人なんだがね……」
「そうね、神父様は人一倍子どもだものね」
「おめーもな」
 神父はちらりと少女に目をやって言い返すと、小バカにするような笑顔を浮かべて町の住人たちに視線を戻した。
「ここには成熟という概念がない、子どもの町さ。自治体みたいなものはあるにはあるが、ソイツらの政治とやらも割りと滅茶苦茶だ。ガキがいくら集まってもまともな社会なんざできるはずもなく、この町の半分くらいはスラムみてーな有り様だ。労働の概念を理解していない奴すらいるくらいだからな」
「正直荒れ果ててる場所が多くて、どこまでかスラムか分からないわよね」
「インフラ整備も行き届いてねぇ。この辺はマシだが、お前の言う通り酷いところは本当に酷い」
 二人は話しながら市場を廻る。
 その途中、神父が誰かと肩をぶつけた。
「おい、どこ見て歩いてやがる」
「おっと、すまないな。おや、君は──」
「てめえは……」
 相手は、昔の漫画に出てくる未来人のような全身タイツ風の服装に、背中には純白のマントを羽織った少年だった。瞳は赤く、髪は白い。
「殺人神父か。こんなところで何をしている?」
 少年が、訝しむような口調で神父に問うた。
「何って、買い物だよ。悪党が買い物をしちゃ悪いのか?」
「いや、当然そんなことを咎めるつもりはないが……それより、その女の子は何だ?」
 少年が少女の方に目をやる。
「何でもねぇよ。ただの連れだ」
「ほう? 君が誰かと一緒に街を歩くなんて随分と珍しいな」
 ますます訝しげに眉をひそめた少年を、神父が睨み付けた。
「悪いか?」
「いや……どうやら嘘ではなさそうだな。君は顔に出さずに嘘をつけるほど器用な奴じゃないだろうしし……。まあいい、悪事を働いているようではないみたいだし、今日のところは見逃してやろう」
 そう言い残すと、白髪の少年は去っていった。
 神父は舌打ちひとつ。
「今の人知り合いなの?」
「あぁ。俺の対極にいる男だよ……」
「?」
 と。
 不思議そうに小首を傾げている少女の前を、一匹の黒猫が横切った。
「あら、可愛らしい」
「黒猫が目の前を横切るって、あんまり縁起の良いことじゃ──ん?」
「どうしたの?」
 そのとき、神父は眉をひそめて、呟くように言った。
「なんか今一瞬、妙に血の匂いがしたような……気のせいか?」
 彼の言葉に、少女は再度首を傾げることになった。


 数分後。
「野菜なんてどれを買っても同じだろ?」
「そんなことないわ。素材の重要性を分かってないなんて、神父様、やっぱり子どもね。ほら、例えばこれとこれ、触ってみて? 同じにんじんでもね……」
「俺、にんじん嫌いだって、何度も言ってるだろうが」
「こっちの台詞よ。何度も言ってるでしょ? 好き嫌いって、すっごくダメなんだよ?」
「まあ別に、食おうと思えば食えないことはねえが……」
「ていうか、神父様……よく考えたら話が矛盾してるじゃない。食べ物の味なんてどうでも良いんじゃなかったの?」
「……………………うるせぇ。……何ニヤニヤしてやがる?」

 やがて、二人は目当ての食材を買い終え、最後の屋台で会計をしていた。
 コインの中央に人面があり、その四方から白い四肢の伸びている店主は、明らかに神父に対して怯えを抱いていた。
 彼が震える手でようやくおつりを数え終え、少女に渡そうとしたその時、
 それは起こった。
 背後からの、空を切る音。
 突如襲来したそれに対応できたのは、その場で神父ただ一人だった。
 神父は外を出歩く際、常に巨大な十字架型の武器を持ち歩いている。
 彼が右の手首を後ろに返すことで、十字の鉄塊が重厚な軋みをあげて上を向いた。
 瞬間、鋭い衝突音が響く。
 神父が振り返ると、忍者風の戦隊ヒーローのようなスーツとヘルメットを身につけた男が、十字架を日本刀のような武器で斬りつけているところだった。
「──誰だ、お前は?」
 日本刀の刀身が本来、神父そのものを狙っていたことは考えるまでもない。
 神父は身体の向きを男に対面させる。
 男は質問に答えることなく、日本刀にかける力を強めた。けれど十字架はピクリとも動くことはなく、彼の両足は地面に強く押し付けられる。膂力では勝てぬと瞬時に判断したらしき男は十字架の上に躍り上がると、風のような俊敏さで数手の突きを放った。
 ──が、神父はそのいずれをも紙一重の動作でかわすと、男が乗ったままの十字架を薙ぎ払う。
「ッ!!」
 男の身体は軽々と吹き飛ばされ、向かいの屋台の屋根を突き破って落下した。悲鳴が響き、側にいた人々が散っていった。
 男は怯むことなく素早く身を起こすと、神父に向けて叫んだ。
「殺人神父! 貴様の悪行は私の耳にも届いているぞ!! ここで会ったからには正義の名の元に成敗してやる!!」
「……いや、誰だ、お前は? と俺は訊いているんだが」
 神父が再度問うと、相手は誰もが知っているようなヒーローのものをもじったような名前を名乗った。
「ふぅん。……そんで? そのヒーローくんが俺に何のご用だ?」
「貴様、そこの屋台の店主を襲って金でも巻き上げていたのだろう!? 許せん!」
「いや、そりゃお前さんの思い込みだ」
「ほざけぇ!」
 ヒーロー男は日本刀を神父に突き付けるようにして、叫んだ。
「神父様はそんなことしないわ!」
 少女が神父の無実を訴えるも、ヒーロー男の耳には届かない様子で、
「き、貴様さては、そのいたいけな少女を騙して……洗脳などして、言うことを聞かせているのだな!? ますます許せん!!」
「だから、お前の思い込みだと言ってるだろうが」 
 ヒーロー男は相変わらず聞く耳を持たず、日本刀を構えた。
「やめときな。お前さんじゃ俺には勝てねぇよ」
 とは言うものの、相手方に戦意を沈める気がないのを分かっていた神父は、両の十字架を構える。
「俺が手にしてる十字型のコレには、軽機関銃が内蔵されている。弾薬もフル装填済みだ」
 神父とヒーロー男を中心に、緊張が厭な脂汗のように広がっていく……。
「だが、今回はコイツをぶっ放す必要はないだろうさ」
 神父がそう、言い終わるや否やといったところで。
 どちらからともなく、駆け出し、躍り上がる──両者は空中で、凄まじい速度で数手交わす。ほぼ一つに集約された巨大な金属音が空間に広がると、直後、彼らは最初とは逆の位置で着地した。
 二人は同時に振り返る。どちらにも怪我はないようだったが、勝敗は明らかだった。ヒーロー男の日本刀の刀身が鍔のあたりから折れていたのだ。
「……くぅっ!!」
 それに気付いたヒーロー男の表情が悔しさに歪む。
「俺なんかと戦ってる暇あったら、かわいそうな恵まれないイマジナリーフレンドの一人や二人でも助けてやれよ。ヒーローならよ」
「お、覚えていろよっ!! 悪に明日はないっ!!」
 当たり障りのない捨て台詞を吐いて、ヒーロー男は走り去っていった。
 それからしばらく、その場はどこか気まずい沈黙に支配されることとなった。
「……面倒くせぇ」
 やがて、神父がしぶしぶといった具合に動き出す。
「修理代だ。……元はといえば俺の金じゃねぇけどな」
 神父は財布から出した数枚の紙幣をその場に投げ落とすと、少女を連れて去っていった。


 帰路を歩く途中、神父は愚痴を吐き出すように言った。
「今さっきのヒーローくんもガキだ。こんな場所で戦えば周りを巻き込むのなんざ分かりきってるのに、独善的な、子どもじみた正義感の衝動に抗えない……。証拠もないことを思い込みで決めつける……。ガキそのものだ」
「その通りだわ」
 少女は何だか、さっきのヒーローのイマジナリーフレンドに腹が立っていた。ありもしないことを決めつけて、神父を悪者にしたからだ。
「まあそれでも、悪人じゃないから殺せないんだがな」
「やっぱり神父様っていい人ね」
「何でだよ?」
 神父は眉をひそめ、不愉快そうに尋ねた。
「襲われたのに、相手をやっつけなかっただけじゃなくて、周りのことまで考えるなんて」
 少女が得意気に返答する。
「お前のそういう視野が狭いところも、本当にガキっぽいよ。見た目も中身も、俺より遥かにガキだ」
「あら、神父様の方が子どもよ。思ったことすぐ口に出したり、かと思えば素直じゃなかったり」
「……お互い様だな。皆違って、皆ガキ」


 家に帰ると、特にすることもなかったので、何となく少女はテレビをつけてみた。どこの誰が生み出したのかわからないが、電波搭のイマジナリーフレンドがいるおかげで現実世界の電波を受信して、普通に番組を視聴することができるのだ。
 画面には先ほどの話題になっていた人物が映っていた。
「ほら、これがピーターパンよ」
「何だこりゃ、皆して躍り回って、とち狂ってんのか?」
「ミュージカルを知らないの?」
 少女が不思議なものを見るような目をする。神父はどうでも良さげに答えた。
「知らんね」
 そのとき、家のインターホンが鳴った。
「あら、誰か訪ねてくるなんて珍しいわね」
「本当にな」
「誰か仕返しに来たのかしら……」
 想像して、少女は少し不安な気持ちになる。だが神父はあまり気にしていないようだ。
「あり得なくはないが……しかしだとしたらわざわざチャイムなんか鳴らさないだろう」
「それもそうね」
 とはいうものの、警戒心を抱きながら二人は玄関に向かう。神父は武器である十字架を持っていくのを忘れずに。
 神父がチェーンをつけたまま扉を開けた。
 するとそこには、土下座をした状態のヒーロー男が佇んでいたのである。
「……何でいるんだ」
 これにはさすがに二人とも驚いていた。だが、ヒーロー男はそれに構わず、物凄い勢いで話し始めた。
「神父殿ぉ! 拙者はそなたのことを誤解しておった!! 今しがた街で聞いたのだ……そなたが悪人のみを殺す所謂『だーくひーろー』というものであることを!!」
「……お前、さてはガキなだけじゃなくアホだろ」
 呆れ顔の神父。そして、罪悪感と敬愛の混ざった眼差しを彼に向けるヒーロー男。
「光と闇の違いはあれど、同じ正義を志す者であったというのに……拙者は……拙者は……!」
「違ぇって。俺はただの悪い奴だよ」
「そうではないだろう!? 神父殿の心には揺るぎなき善が確かに宿っておる!! 拙者はそれを感じている!!」
 ヒーロー男の力強い声が遠慮なく住宅街に響き渡る。そしてそれに被せるように少女も、
「その通りよ、神父様は本当はとってもいい人なのよ!!」
「何でお前も参加してくるんだよ」
 神父は両方向から聞こえてくる騒音に辟易した。
「おぉ! お嬢もそう思うでござろう!?」
「……お嬢?」
「つーかお前何か口調変わってね?」
「忍の道の原点に立ち返ったのでござるよ!!」
「意味わからんけど」
 得意気に宣言するヒーロー男を前に、神父はもう彼の発言内容を気にしないことにした。面倒くさいからだ。
「……ねえ、お嬢って何?」
 一方で少女は初めて向けられた謎の呼び名に困惑していた。
「とにかく!! そなたは立派なひーろーでござる!!」
「何でわたしは無視するのよ?」
「先の戦いもそうでござろう!? 不意打ちという卑怯な手を使った拙者を、傷ひとつなく打ち負かして見せた!! 力と優しさを併せ持った素晴らしき戦士っ!!」
「戦士なのかヒーローなのかハッキリしろよ」
 ヒーロー男は勢いを止めることを知らずにまくし立て続ける。
「しかも!! 身寄りのない少女を保護して面倒を見ているという!! 神々しさすら感じられる、保母さんがごとき慈愛!!」
「多分保母さんってそんな神々しくはねーよ」
「そうでござろう!? お嬢!?」
「あなたがどういうジャンルの人なのかもう全然分からないんだけど……あとわたしのこと何だと思ってるの?」
 神父は話の通じないヒーロー男に苛立ってきていた。早く会話を打ち切りたかったので、舌打ち混じりに、話の核心を簡潔に尋ねる。
「……それで、結局俺に何の用なんだよ?」
「弟子にしてほしいので候!!」
「口調統一しろよ」
「お願いでござる!! 良いでござろう!? 師匠!!」
「誰が師匠だ。弟子なんか取ってねぇんだよ」
「そんなぁ!? 弟子にしてくれるまで、拙者ここを動かないでござるよぉぉ!!」
 ヒーロー男はそう言いながら神父に詰め寄ってきた。
「現在進行形で動きまくってんじゃねぇか」
「ごさるぅぅううう!!!!」
「それ一語だと何て返しゃ良いか分かんねぇよ。感嘆符か?」
「えぇい!! うるせぇ弟子にしろぉぉ!!」
 そう言ってヒーロー男は突然躍り上がると、扉にかかったチェーンごと神父に日本刀で斬りかかってきた。神父はそれを紙一重でかわす。
「うぉぉ!? 危ねぇぞこいつ! やっぱ悪人認定して殺しちまった方が良いんじゃねえかもう!!」
「ふはは! 拙者を追い出したくば、拙者を倒してからにしろぉぉ!!」
「趣旨変わってきてんじゃねぇか! お前は俺を一体どうしたいんだよ!?」
「二人とも! 家の中が滅茶苦茶になっちゃうわ!! 遊ぶなら外で遊んでよ!」
「お前には今の光景がそんな平和的なものに見えてんのかよ!?」

 それからしばらく家の中で暴れて複数の家具を破壊したヒーロー男は数分を経てどうにか落ち着き、神父によって外へ引きずり出された。そしてなし崩し的に、勢いに任せるまま戦いの稽古をするような流れになってしまった。
「お前は、動きのスジは良いくせに考えなしに突っ込み過ぎなんだよ」
「うぉぉ!? 確かにそうでござった! さすが師匠!!」
「もっと相手の目線や気配で出方を読め。それと、自分の次の動きを極力相手に読ませるな」
「確かにそれは大事でござるな!! 気を付けるでござる!!」
(大したこと言ってるわけでもないのに、死ぬほど素直な人ね……)
 少女は二人の様子を覚めた気持ちで見ていた。
「でやぁぁああああああああ!! 師匠覚悟ぉぉ!!」
「お前、人の話聞いてないだろ」

 そうこうしている内に時刻は夕方になった。
「師匠ー! お嬢ー! さよならー! 夕焼けチャイムが鳴ったので帰るでござるー!! また明日も来るでござるよー!!」
 ヒーロー男は、神父たちに向けて手を激しく振りながら走り去っていった。
「二度と来るんじゃねぇ!!」
「嵐のように来て嵐のように去っていったわね」
「まったくだ……」
「神父様、何か珍しく充実感のある表情をしてるわね」
「…………そうか?」
「あのヒーローさんと遊ぶのが、わたしといるより楽しい?」
「そんなわけねぇだろうが。大体遊びじゃねぇし」
「ふぅん……」
 少女は、自分だけ男の子同士の遊びにいれてもらえないようで、何だかモヤモヤした気持ちだった。


 やがて夜になった。
 先刻、ヒーロー男が暴れた際に少女の分のベッドが大破したため、今日の彼らは同じベッドで同じ毛布にくるまって眠ることになった。少女はそれに対して、少し気恥ずかしいような、胸がドキドキするような不思議な感覚を覚えていたが、神父の方は特に気にしていないようだった。
(ようやく、本当の意味でわたしが神父様を独り占めできる時間がきたわね……)
 などとベッドのなかで少女が考えていると。
 神父はふと気になって、少女に訊いてみた。
「そういえばお前、誰かの世話をするために生み出されたんだよな? ってことは、この町に来て、俺と会う前にも誰かの世話をしてたのか?」
 少女にとって、それは愚問だった。彼女は飄々とした様子で答える。
「ううん。神父様に会ったあの日は、まだこの町に来て間もない頃だったから、そんなことなかったわ。わたしには神父様だけよ」
「何だ、そうだったのか」
「右も左も分からないっていうのに、誰も助けても話しかけてもくれないし…………神父様だけよ、わたしに良くしてくれたのは」
「……まあ、どいつもこいつもガキだからな」
 神父の返答は素っ気なくて、少女にはそれは不満だった。けれど彼と話していると楽しくて、自分が少しでも興味を持たれていると思うとそれだけで嬉しかった。
「神父様はこの町に来てどれくらいなの?」
「十年は経つな」
「そんなに? 長いのね」
「あぁ、長いな」
 十年──自分にとっては途方もない時間を思って、ふと、疑問と不安が少女の胸をよぎった。
「──ってことは、その間もずっと悪い人たちと喧嘩してたんだよね?」
「そりゃな」
「じゃあ……これからも、続けるんだよね?」
「もちろんだ」
 神父は何でもないことのように即答した。その答えが少女の胸の不安を深めていく。彼女は溜まらず、重ねて質問をしていた。
「……でもそれって、とっても危ないことでしょ?」
「あぁ、まあ……そうだな。たまにだけど、強い奴もいるしな」
 その返答はさらに少女の中の不安を刺激した。 僅かな間が空いてから、少女はまた神父に訊いた。
「神父様は……死んだりしないよね? 明日もちゃんと、帰ってきてくれるよね?」
 すると、神父はすぐに答えた。
「当たり前だ。俺は非道い奴だからな。世の中、非道い奴ほど簡単には死なないものさ」
 それを聞くと、少女は安心することができた。だから、また別の疑問を胸に抱く余裕も、生まれた。
「ねぇ、神父様はどうして、悪い人を殺したがるの?」
「前にも言っただろう。それは俺が『そういう風に作られた』からだ。それ以上でも以下でもねぇよ」
「それだけ?」
「そうだ。イマジナリーフレンドってのはみんな、そういうもんだろうが」
「わたしは違うけどなぁ」
「何だと?」
「わたしは、確かに『そういう風に作られた』からっていうのもあるけど……神父様のお世話をするのは、『自分が楽しいから』っていう気持ちも大きいよ」
「……フン」
 神父は鼻をならした。心なしか少し嬉しそうに。
「わたしは、もう自分が感じられなくなってしまった『美味しい』っていう宝物を、自分の代わりに誰かに与えたい。その相手は、他でもない、わたしを助けてくれたあなたが良いの。これは想い主なんて関係ない、わたし自身の意思なのよ」


 その日、神父はいつもより早く悪人殺しから帰ってきたので、珍しく二人で一緒に昼食をとることになった。
 そこにちょうど、少女にとっては招かれざる客であるヒーロー男がやって来た。
「いやぁ、すまんでござるなぁ、お嬢。ごちそうになってしまって……」
「お構いなく……」
 不満げな顔ながらも口ではそう言う少女。
「いやぁ、ありがたい!」
 と、美味しそうに食事を進めるヒーロー男。さすがに今はスーツのヘルメットを脱いでおり、素顔は普通の青年だった。
「ところでお嬢、このご飯、味は大変美味しいのでござるが、味が少々薄いというか……」
 その言葉に、神父は意地悪くにやりと笑った。
「そうか、お前もそう思うか。はは、コイツ、いくら指摘しても味が薄すぎたり、濃すぎたり、行ったり来たりしてるんだよ。微妙な調節ができねぇでやんの」
 よってたかって料理の味の批判をされる少女。いつもはそんなことは決してないのだが、今日は何だか自分だけが不利な立場に立たされているような気がして腹立たしくなり、神父の脛を無言で蹴ってやった。
「いってぇ!? 何しやがるクソガキ!!」
「ふん、あなたたちの方がよっぽどガキよ!!」
「ところで師匠、今日はどのような稽古をしてくれるでござるか?」
 一方、目の前で起きている小さな騒動を意に返すことなく関係ないことを問うてくるヒーロー男。
「はぁ? お前、人の家で飯たかった上にまた鍛えてくれなんて言うのかよ」
 呆れ顔の神父──しかし結局、この後二人は先日と同じように外で稽古を始めたのだった。

「うるさい野良猫が一匹増えたな……」
「誰が野良猫よ!」


 数週間が経った。
 神父とヒーロー男の稽古は毎日のように続いている。最近だと神父は悪人殺しの時間をずれ込ませてヒーロー男に会うことすらあるほどだ。
「ヒーローさんのお稽古、どうなの?」
 少女が何の気なしに聞いてみると、少しだけ得意気な顔を浮かべた神父が答える。きっと自分の表情には気づいていないのだろう。
「やっぱりアイツは筋が良いよ。初めて会ったときは弱っちいわ人の話聞かないわでダメだと思ったけど、飲み込みが早いから──」
「友達ができて良かったわね、神父様」
 遮るように言ってやる。
「はぁ? アイツが? いや、そんなんじゃねぇよ」
 口ではそう言うものの、稽古をするときの彼らの表情は、友達と全力で遊ぶ年頃の少年たちのものだった。
(あの人が神父様の友達だとすれば、わたしとこの人の関係は、一体何なのかしら……?)
 朝食を運びながら、少女はそんなことを考えた。そして口では別のことを言う。
「わたし、これからもあの人の分のご飯を作らなきゃならないのね……日によっては」
「何だよ、嫌なのか? お前は『人の世話をする』イマジナリーフレンドだろ?」
「何度も言わせないで。わたしは、神父様のお世話がしたくてここにいるの」


 ある日の昼食の時間。そのときもヒーロー男は神父たちの家に来ていた。
「師匠はなぜ、ヒーローであることを口では否定しているのに、悪人を殺し続けるのでござるか?」
 ふと、ヒーロー男がそう言った。その質問は、少し前に少女がしたものと同じだったので、彼女は何だか、自分の方が神父を知っている気になって、少しだけ誇らしい気分になった。
「そりゃ、俺が『そういう風に作られた』からだ。それ以上でも以下でもねぇ」
 回答は同じものだった。
「そう言うでござるが……でも拙者にはやはり、師匠の根本には正義の心がしっかりとあるように思うんでござるが……」
「……お前、分かってんのか? 殺人鬼に向かって『正義の心』だなんて、最大限の侮辱だぞ? 次言ったら殺すからな?」
「うーむ……そうは言ってもやはり、拙者にとってこの町で一番のヒーローは、他でもない師匠ということになっているでござるから……」
 そう言って浮かべたヒーロー男の笑顔は、混じりけのない、ひた向きに何かを信じるような、愚かで純粋無垢で、綺麗なものだった。
 それを見て、少女はあることに気付いた。
(そうか……わたしもこの人も、神父様に抱いている感情は、きっととても似ているんだ…………)


 そうして時間は過ぎ、ヒーロー男の実力も上がっていき、いつしか二人は一緒に悪人退治をするようになり。
 そして、そんなことが何度か繰り返された、ある日。
 それは、起こった。






 その日、悪人殺しから帰ってきた神父は傷だらけだった。そのことに気付いた途端、少女は大急ぎで部屋の奥へ救急セットを取りに走った。
「落ち着け、大丈夫だ。見た目ほどひどい怪我じゃない」
 神父の言葉通り、彼の傷は見た目ほどの重症ではなかった。手当てをしながら少女はそっと胸を撫で下ろし、そして訊いた。
「神父様、今日は悪い人との喧嘩、負けちゃったの?」
 少女は心配であると同時に不思議に思っていた。今まで彼が怪我をして帰ることなんて一度もなかったのに……。
「俺は……負けちゃいねぇ。せいぜい引き分けってとこだ。でも……アイツは、負けた」
「アイツ? もしかして──」
「例のヒーローくんだ。奴は殺されたよ」
 少女は息を飲んだ。
 今にも泣き出しそうな顔をした神父は、今日戦った相手について話し始めた。

 相手のイマジナリーフレンドは、この間市場で神父とぶつかった、あの白髪の少年だった。少年は表向きはヒーローのように振る舞っているものの、裏ではコソコソと悪どいことをしているという。そしてその
悪事を神父に見咎められたことにより、彼らの標的とされたのだ。
 だが、偽ヒーローはかなり強いことが伺えた。 
 『一度出直そう』と言う神父の言葉を聞かず、ヒーロー男はその愚直な性格にしたがって、偽ヒーローが許せず、戦力差も考えずに飛びかかった。そして──

 神父は今にも泣き出しそうな顔のまま事の顛末を話し終えた。少女は、神父のこんな表情を見るのは初めてだった。彼が悪人殺しに向かう前に浮かべるのと同じ系統のものではあるが、それより遥かに途方もない感情が伺えた。
 少女も胸が張り裂けそうだった──嫉妬こそ抱いていたものの、死んでほしかったわけじゃない──が、きっと神父はそれ以上に悲しいはずだ。ヒーロー男と過ごしていた時間は少女の比ではないのだ。
 自分には彼に言ってあげなければならないことがある。少女はそう思った。すると自然、彼女の口は動いていた。
「あのね、神父様……わたし、あなたの気持ちがとってもよく分かるの」
「……何が分かるっていうんだ?」
 萎んでしまったように、神父の問いには力がない。
「お友だちがいなくなっちゃったら、すごく悲しいわよね」
「……友だちなんかじゃなかったよ」
 台本を読み上げるような口調で、けれど悲壮感の滲んだ声で否定する神父。
「でも、二人ともとっても仲が良かったわ。わたしが羨ましくなっちゃうくらいに」
「そんなことはねぇよ。俺は非道い奴だから、そういう風に生み出されたから……友だちなんか作っちゃいけないんだ」
 神父はことこの話題に関して、本当に同じ文言しか返さないのだ。少女は、彼の頑固っぷりに思わず関心しそうになった。
「神父様って子どもなのに、すごく真面目な人よね」
「意味が分からねぇよ」
「でもね、神父様。あなたは非道い奴なんかじゃなくって良いのよ。わたしがわたしで、ヒーローさんがヒーローさんであったように、あなたはただ、あなたなのよ」
 少女は必死に説得を続ける──だが、
「そういうわけにはいかないさ」
 返ってくる言葉は変わることがない。
「……とんだ頑固者ね」
 思わずそう愚痴るように言うと、神父がとても大きな溜め息を吐いた。少女はその声にちょっとビックリする。
「……そういうわけにいかない、はずなのになぁ…………俺は殺人鬼だから、こんな気持ちになっちゃいけないのにな……これじゃ、非道い奴失格だ」
「なら失格で良いじゃない。神父様は神父様なんだから……きっと、誰かに決められたように生きなきゃいけないなんてこと、ないのよ」
「……そんな、ことは…………」
 神父が言葉に詰まる。少女はここぞとばかりに、先ほどよりも力強く、言ってやった。
「ねぇ、それならいっそ、殺人鬼なんて、やめちゃいなさいよ!」
「……………………」
 神父は何も答えなかった。彼は泣きそうな顔のまま、黙り込んでしまった。
「わたしたち、ずっと子どもなんでしょ? 子どもなら我慢なんかしなくって良いじゃない。自分に嘘なんかつかなくて良いじゃない」
「……………………」
 神父は答えない。
「…………ねえ、神父様。自分を偽るのって、すっごくダメなのよ?」
「……………………」
 神父は答えない。泣きそうな顔はどんどん崩れていき、今にも感情が爆発しそうなのに、それでも何も言おうとしない。彼は少女に、自分の心を見せようとはしない。 ……やはり自分では、ダメなのだろうか? 心を開いてはくれないのだろうか? 少女の胸に不安が広がっていく。
「ねぇ、わたしじゃ力不足かしら? まだ、わたしじゃあなたに、届かないのかしら?」
 少女が言うと、また、しばらく沈黙が降りた。
 けれど今度は、返答があった。消え入りそうな声ではあったけれど。
「………………そんなこと、ねぇよ」
 そして、
 神父はその日、生まれてはじめて泣いた。
 泣いて少女に飛びついた。
「よしよし……」
 彼は泣きながら懇願した。
「…………なあ、頼むよ……お前は、ずっと、俺と一緒にいてくれよ! じゃないと、俺……もう、ダメになっちまうよぉ……!!」
 彼はとめどない涙を、少女の小さな胸に流すこととなった。
「もちろんよ」
 少女は神父の頭を優しく撫でてやる。
「俺、もう非道い殺人鬼なんて、やめちまいてぇよ……」
「なら、やめちゃえばいいわ」
「でも、今さら、そんな生き方が許されるのかな……」
「今さらとか関係ないわ。好きなように生きればいいのよ」
「でもなぁ……」
 神父の声は相変わらず消え入りそうで、ひどく弱々しい。
「今まで大勢、恨みもないのに殺してきて……その揚げ句、友達まで巻き込んじまったんだ……バカだよなぁ……非道いどころか、最悪だなぁ、俺……」
「ねえ。それなら、もう悪いことはやめて、今までそうしてきた分、今度は良いことをしていくのは、どう?」
 弱気な台詞を止めどなく流していく神父に、少女はそう提案した。
「でも、そんなことしたってとても許されねぇよ」
「確かに許されないかもしれないけど、だからって、ずっと悪いままでいることはないでしょ? 変わることを怖がっちゃダメ」
「そうかなぁ……」
 神父は尚も不安げな様子である。
「あなたにはわたしが付いてるのよ。大丈夫よ」
 少女は神父の服のポケットからマスクを探し出すと、ゴミ箱に投げ捨てた。
「ね?」
 神父はしばらく押し黙ったかと思うと、少女の肩に置いていた手に力を込め、頷いた。そして、

 堰を切ったようだった。
 神父は再度、堰を切ったように泣いた。この世の悲しみを全て使い果たしてしまうんじゃないかと思えるくらいの、滝のような慟哭だった。
 少女の胸に顔を密着させる。みっともなく、すがり付くように。
 悲しみ、悔しさ、怒り──哀しみ。神父は初めて本当の感情を全力で誰かにぶつけていた。
「……よしよし」
 少女はそれを受け止めた。


 その夜。彼らは数日前からの習慣に従って、二人で一緒に寝ていた。
 ふと、神父が溢すように呟いた。
「……俺は確かに、今まで真面目すぎたのかもしれねぇ」
「きっとそうよ」
 少女がそう応じる。
「俺はもう、自分を偽らないことにした」
「えぇ、それが良いわ」
「これからは、俺は俺の好きなようにするし、自分が思ったことを言う。”性(さが)”なんか知ったことか」
 神父はそう言って少女を抱き締めた。
「俺はお前が大好きだ」
 少女は一瞬言葉に詰まるも、数秒後、どうにか返事を絞り出した。
「……わたしも、神父様が好きよ」
「今まで、本当にありがとうな」
「こちらこそよ。…………今まで、だけじゃなくて、これからも、でしょ?」
「あぁ、そうだな」
 一瞬、沈黙が降りる。
「俺は明日、またあの偽ヒーローを殺しに行く。それは俺が非道い殺人鬼だからじゃなく、友達の敵を討つためだ」
 神父は決意を新たにしたように宣言した。
「……やっぱり、行っちゃうのね」
「あぁ。明日はどうしても行かなきゃならない。これだけは譲れないんだ。……けど、必ず帰ってくる。約束するよ」
「……約束よ」
「うん。……きっと明日が、俺の最後の殺しになるはすだ」
「きっとそうね。それが良いわ」
 神父は少女を抱き締める力を強めた。
「俺はお前のことが好きで好きで仕方がなかったんだ。でも、今まではどうすれば良いのか分からなくてな……こういう風にすれば良かったんだな」
「……神父様ったら、急に素直になったのね」
「本当はもう少し前から、お前にこういう風にしてやりたかったんだ」
「わたしももう少し前から、神父様にこういう風にしてもらいたかったな」
 少女はおかしいやら嬉しいやらで、思わず笑い転げてしまいそうになった。
(……お友達が死んだ後なのに。
 わたしって、罪深いのね。
 でも嬉しいものは嬉しいのだから、どうしようもないわ。
 わたし、こんなに幸せで良いのかしら?
 もう、幸せすぎてダメになってしまいそう……)

「もっと前にお前と出会いたかったなぁ……もっと前から、こういう生き方ができてれば良かったのになぁ……」
「うん、その通りね」
「そうすればアイツとも、もっと色んな話ができたのかなぁ…………もっと色んなこと、言ってやれば良かったなぁ……悪いことしたなぁ……残念だなぁ…………」
 それから、神父がまためそめそと泣き始めてしまったので、少女は黙って、彼を抱き締めたまま、優しく頭を撫でてあげた。
 やがて二人は眠りについた。




 翌朝。心なしかいつもよりずっと温かい気がする部屋で目を覚ました少女は、神父が朝御飯を食べ終えると、こう言った。
「ねぇ、神父様。キスしましょうよ」
 神父はすぐに反応することができず、たっぷり十秒ほど目を白黒させた後、瞬時に顔を赤らめて、吐き出すように言った。
「はぁ!? おまっ……突然何を言ってやがる!?」
「突然じゃないわ。昨日、わたしのこと『大好き』って言ってくれたじゃない。わたしもあなたのことが好きなんだから、キスくらいしたって良いでしょう?」
 少女は毅然と反論するものの、神父はというと、
「いや、うーん……確かにそうだが、しかし」
 などとうだうだ言っている様子。対する少女の態度は真剣だった。
「神父様のいくじなしっ! 肝心なときにお茶を濁そうとするのって、すっっっごく、ダメなんだよ!?」
「いや、その……そういうわけじゃないんだが……しかし…………俺とお前だと、絵面的に何かこう、まずいだろう……?」
「何を言ってるの? お互い子ども同士なんだから、何もまずくないじゃない。ご託は良いから、早くキスしましょうよ」
 少女は強気で、けれど内心おっかなびっくりを悟られないように、神父に詰め寄る。
 神父はまだ顔を赤らめながら、往生際悪くグチグチと何か言い訳のようなものをして、
「あ、そうだ! き、今日の朝飯な……また少し、味が薄かったぞ!? 晩飯のときは気を付けろよ!?」
 強引に話題を逸らしてきた。
「えっ、あ……ごめんなさい……」
 唐突に責められたことで咄嗟に少女が謝ると、神父はその隙をついて、さっさと準備をして出掛けていってしまった。
「じゃあな、行ってくる! 晩飯、期待してるからな!!」
 かなりの大勝負をするはずだが、神父はまるで学校や職場にでも行くような気楽さで、ちゃんとしたお見送りもできなかった。
「神父様ー! 絶対、帰ってきてねー!!」
 せめてそう、大きく声をかけると、既に家からかなり離れていた神父は立ち止まった。先ほどの慌てふためいた様子はどこにもない。彼は何かを決意するような硬質な空気を漂わせて、言い切った。
「……当たり前だ。昨日、約束したからな」
 そして、勢いよく駆け出す。神父の足は速く、彼の姿はすぐに見えなくなった。
 一人になってからも、けれど少女は不安になるようなことはなかった。彼のことを心から信じていたからだ。
 約束したのだから。
 彼は絶対、帰ってくるはずだ。
 少女は、彼が帰宅する前に夕食を作らなければならないことや、彼が帰宅してから返り血にまみれた衣服を洗うこと……そしてキスの約束に想いを馳せた。
(また味が薄いって言われちゃったから、今度こそ気を付けないと)
 そう思いながら少女は黙々と、一生懸命料理を作った。
(ヒーローさんには申し訳ないけど、わたしなんだか、これからもっともっと幸せになってしまいそう……。
 あの人が帰ってきたら、今度こそ────)





 ●◯●



 スラム街の一角。積み上げられたイマジナリーフレンドの死体の上に、白髪の少年は座っていた。空虚な赤い瞳には何も映っておらず、手は血で染まっている。
 彼は、近付いてくる者の気配に気付いていた。
「やはり来たか、殺人神父」
 廃墟の影から、神父は姿を現した。
「当たり前だ」
「……おや、今日はマスクを持ってきていないのか?」
「今日は殺人鬼としてここに来たわけじゃないからな」
 一人の殺人鬼と、一人の元殺人鬼の対面。
 少年は神父の返答に眉を潜めた。
「ほう? では何の用で来たというんだ?」
「今の俺は、友達の敵を取りに来た奴だよ」
 神父は、あくまで堂々とした口調で言い切る。
「友達? あのバカな忍者のことか?」
「そうだ。悪いか?」
「まさか貴様の口からそんな単語が飛び出すとはな……」
 少年は呆れと驚きを混ぜたような表情で、いぶかしげに呟いた。
「それに、敵を取るだと? 『そういう風に作られたから』という理由でしか存在できないイマジナリーフレンドが、そんな明確な個人的理由で行動しようなどと──」
「俺は、俺がお前を憎いから殺すんだ。どういう風に作られたからなんて、もう関係ねえ」
 神父は少年を遮って、彼の発言を否定した。対する少年は眉間の皺を深める。
「何を馬鹿なことを……子どもの残りカスでしかない我々に、そんな自主性があるものか……」
「うるせぇな、そんなのテメェが決めることじゃないだろうが。それより、早く始めようぜ。こっちはとっととテメェをぶち殺して、家に帰りたいんだよ。連れも待ってるんだ」
「連れだと? この間一緒に歩いていた娘か? ……あれはお前の何なんだ?」
「一言じゃ言い表せねぇくらい大切な奴さ」
 キッパリと言い切る神父。
「曖昧な答えだな。もしかして自分でもよく分かっていないんじゃないか?」
「……かもな。だが、それを考えていく時間は、これから先たくさんある」
「ほざけ。貴様に残された時間はあと僅かだよ」
 少年は死体の山から飛び降り、空中で一度跳ねるようにしてから着地した。
 一度に三回まで、宙を跳ねることができる──少年の足に内在する能力だった。
「こっちの台詞だ、白髪野郎」
 そうして両者は、同時に駆け出した。片やいつもと同じ、自分の”性(さが)”という流れに押され、身を任せるように。
 片や、確かな重みを持った、彼自身の意思で。










〈二、偽物のヒーローと寝心地の良い黒猫の話〉




 その白髪の少年は紅い瞳を持ち、昔の漫画に出てくる未来人のような全身タイツ風の服装で、背中には純白のマントを羽織っていた。
 彼はいつものように街で悪事を働くイマジナリーフレンドをこらしめて周りから喝采されたあと、野次馬の中からなるべく善良で、帰りに人気のない道を通る者を見出だし──この辺りの善良なイマジナリーフレンドの住居の多くは頭に入っている──そのあとをつけた。
「おい、アンタ……ヒーローのイマジナリーフレンドだろう!? なんで、こんな……!?」
 裏路地に男の声が響く。
「悪いが、俺の『性(さが)』には二面性があるんだ。いつもアンタたちに見せているのは表向きの顔でしかないのさ」
 少年は表向きには街を守るヒーロー。しかし裏の顔は、善人専門の殺人鬼だった。
 彼の両手には銃剣が装着された自動拳銃が一丁ずつ握られ、その刃先はいずれも目の前の善良なイマジナリーフレンドの急所へと向けられている。
「よ、よせ!! やめ──」
 二つの銃剣がイマジナリーフレンドの胸部に吸い込まれる。
 路地裏に断末魔が響き渡った。

 少年の想い主は周りの大人に常に良い顔を向けているのに疲れていた。それでいつしか少年のようなひねくれた性質を持つイマジナリーフレンドを生み出し、想像の中で鬱憤を晴らしていたのだ。

 少年は赤く湿った銃剣の血振りをし、それらをヒップホルスターへと収めた。
 辺りを見回す──誰にも見られていないことを確認する。
 先ほどの悲鳴を聞き付けて誰かが来ない内に、さっさとこの場から退場しなくてはならない。彼はそそくさとその場から歩き去り──数歩進んだところで何かの気配を察知して振り返った。
「……ナー」
 少年と同じ赤い瞳をした黒猫がいた。いつの間に現れたのだろう。よほど空腹なのか、死体から流れ出た血液を舐めている。
(この町にいるからにはコイツもイマジナリーフレンドなんだろうが……まあ、こんな猫の言うことなど誰も信じないだろう)
 少年は気にせず、家に帰ることにした。


 ヒーローは表向きには質素な生活をしなければならないため、少年の住居は平凡な民家だった。
 その玄関で、彼は侵入者の存在に困惑していた。
「……何でいるんだ」
 先ほどの黒猫が、玄関扉を閉める寸前に隙間から入ってきてしまったのだ。
「出ていけ、ここは俺の家だ」
「ナー」
「何を言ってるのか分からんが……お前もイマジナリーフレンドなら、俺が何を言っているかは分かるだろう? 二度も言わせるな。出ていけ」
「ナー」
 猫は悪びれもせず、何かをねだるような視線を向けてくる。それがしばらく続き、とうとう少年が折れ、冷蔵庫のある台所へと向かっていった。
「まったく……本来の俺は冷酷な殺人鬼でなければならないんだ。だから普通はこんなこと他人にしてやるわけにはいかないんだ」
 ブツブツと文句を言いながら、彼はミルクを入れたボウルを手に戻ってきた。
「いいか? これはほどこしなんかじゃない。お前をとっとと追い出したいから、仕方なくくれてやるんだ。これを飲んだらとっとと出ていけよ?」
 そう言って猫の前にボウルを置いてやるも、猫はそれに手をつけることはなかった。
「……何だ? 俺の入れてやったミルクを飲めんと言うのか?」
 少年が不快感を露にするも、しばらく猫の赤い瞳を見ている内に、先ほど彼女が──おそらくメス猫だろう──血を舐めていたのを思い出した。そしてひとつの仮説に至る。
(なるほどな……血しか飲むことのできない吸血猫か……いかにもダークファンタジーやら何やらが好きな子どもが考えそうなイマジナリーフレンドだな)

 少年はその日、もう一人イマジナリーフレンドを殺すことになった。その死体から血を取り、猫に与えてやると、彼女は今度はうまそうに舐め始めた。
「やはりそうだったか。よし、飲み終わったのならとっとと帰れ。そういう約束だったろう?」
 しかし猫は、ついに少年が就寝する時間になるまで彼の家に居座っていた。
「おい貴様……約束を破る気か?」
「ナー」
「何っ!? 約束などした覚えはないだと!? 貴様、どれだけ偏屈なのだ! 俺より質が悪いぞ、この悪女め……!」
 言葉が分かったわけではないが、声音から何となく心中を察したのだ。そして少年の解釈はあながち間違っていなかった。猫はベッドの上にピョンと上ると、あくびを一つ。図々しくも、緩やかにくつろぎ始めた。
「貴様、分かっているのか!? 俺は冷酷な殺人鬼なんだ。他人に無償で何かしてやったりなど絶対にするわけにはいかない。だから、これ以上貴様が俺に何かを求めるのなら、貴様もこちらに相応のリターンを──」
 少年はベッドに詰め寄り、猫を強引に下ろそうと彼女に触れた。その途端、あまりの衝撃に一瞬、言葉を詰まらせた。
「な、何て触り心地の良い毛並みだ!! その辺の高級寝具など顔負けではないか……!! こんなものを抱きながら寝たら、さぞかし……」
 少年はしばらく感動に身体を震わせると、感服したとばかりに、何かを認めるような微笑みを浮かべて、言った。
「よし、これから貴様が毎晩俺と共に寝るというのなら……ここに居座ることを許可してやろう」
「……ナー?」
 猫は不思議そうに鳴いた。
 ──今まで誰も、わたしのこと『汚い汚い』って触れようともしなかったのに。
 ──自分から触りたがるなんて、おかしな人ねー。
 少年の感性はどこかずれていた。けれどそれが幸いして、猫は食べ物と住みかを確保することができたのだった。


 その夜、少年は宣言通り猫を抱いて眠った。
 彼女は見た目は猫であるが、その意識は想い主のものを引き継いでいる部分がある。イマジナリーフレンドとはそういうものなのだ。
 少年から見れば動物でしかなくても、猫の心は、年頃の女の子だった。故に異性に抱かれて眠るなどというのは、気恥ずかしいというレベルではない。彼女はなかなか寝付けなかった。とはいえ食事を貰って、寝る場所まで提供してもらっている身である。見返りとして寝具の役割に徹していなければ、今度こそ追い出されて、また飢えた毎日を過ごすことになる。人間型イマジナリーフレンドの血しか飲むことができず、大した力もない彼女は、その日食っていくことすらままならず、いつ飢え死にしてもおかしくないのだ。
 眠れない時間が続き、猫の心に不安が陰りだしていく──そんな中。
 隣で眠る少年のうめきが聞こえてきた。見ると、彼はじっとりと汗をかき始め、うなされているようだ。うめき声は徐々に明確な寝言へと変化していき、彼の目からは涙が流れていった。寝言はどんどん大きくなり、謝罪の言葉が滝のごとく溢れだす。
 やがて少年は叫び声をあげながら飛び起きると、トイレに駆け込んで嘔吐した。
 猫はビックリしてトイレの方向に視線を向けている。
 水を流す音が聞こえると、バツの悪そうな顔をした少年が戻ってきた。
「すまないな……起こしてしまったか」
「ナー……?」
 猫の心配そうな声に、少年はハッとする。
「いや、そうだな……今のは聞かなかったことにしてくれ。冷酷な殺人鬼が他人に謝罪など……」
「ナー」
「何? 馬鹿を言うな……俺が泣くわけないだろうが。それは貴様の見間違いだ……
「ナーナー?」
「いや、別にこんなことしょっちゅうあるわけじゃない。今夜はたまたま気分が悪くて……」
「ナー」
「……寝言? そんなもの言った覚えはない。それもきっと、貴様の聞き間違いだ」
 ──頑固な人ねー。
「俺は街の善人たちを欺く冷酷な殺人鬼なんだ。『そういう風に生み出された』から、そう在るだけだ。頑固かどうかは関係ない。イマジナリーフレンドとはそういうものだろう。貴様は違うのか?」
 ──殺人鬼のくせに、真面目な人ねー。
「……フン、そうだったな。貴様はただ血を飲んでれば良いのだから、楽なものだよな。貴様に俺のことは分かるまい」
 ──そんな簡単なものじゃないわよ! わたしには、あなたみたいに力もないんだから!!
 猫の発した不機嫌な抗議の鳴き声は無視し、少年は仕切り直すように再びベッドに横になると、猫を抱いた。
 だが彼はなかなか寝付けないようで、隣で寝苦しそうな気配を放っていた。
 見かねた猫は小さな前足を少年の後頭部に回すと、優しくその頭を撫でてみた。
「な、何をする……!?」
「ナーナーナー」
 小さな声で、即興の子守唄も歌ってやる。
「おい、やめろ……俺を慰めるようなことをするな。俺は冷酷な殺人鬼だぞ?」
「ナー、ナー」
 猫は構わずに少年の頭を撫で続けた。
「いや肉球気持ちいいなオイ…………じゃなくて! ……頭を撫でるのを、やめろ……と、言っている……のだ…………」
 口ではそう言うものの、少年は静かにまどろみ始め、やがて眠った。そこでようやく猫も頭を撫でる前足を止めた。
 安心したように寝息をたてる少年を見ていると猫の方にまでその眠気が移っていったようで、さっきまで固まっていた彼女はすぐに寝息をたて始めた。


 翌日。少年はいつもより遥かに目覚めの良い朝を迎えたが、その理由はきっと素晴らしい寝具を手に入れたからで、それ以上でも以下でもないはずだと自分に言い聞かせた。
 少年は自分の朝食を済ませると冷蔵庫の中に保存しておいた血液の残りを猫に与えた。彼女の食欲は非常に旺盛で、血液はほぼすべて飲み尽くされてしまった。
(何と食い意地の張った奴だ……この分だと今日もまた、殺した奴から血を抜いてこなければならない……)
 しかもこれからは、標的にするイマジナリーフレンドを人間型に限定しなければならないのだ。
 面倒だなー、などと考えていると、猫がそわそわしていることに気づいた。
「……どうしたんだ?」
 猫はトイレの方に歩きだし、扉を爪でカリカリし始めた。
「トイレか?」
 少年が扉を開けてやると、猫は急いで中に入り、便器の上に飛び乗って器用に蓋を開けた。
「おいおい、お前猫の癖に……外の茂みででもしてくれば良いだろうに」
「ナー!」
 猫の抗議するような鳴き声に、少年は仕方なく扉を閉めた。
(まったく、図々しい奴だ……)

 その日も、少年は一日一善と一日一殺をしに街へ出掛けた。

 猫がよく血を飲むため、少年の殺す人数は増えることになった。
(これも、寝覚めの良い朝を迎えるためだ……)


 それからも同じように、彼らの共同生活は続いた。
 少年が寝苦しそうにしていると猫が頭を撫で、猫語の子守唄を歌ってやるのは恒例になっていた。少年は口では『止めろ』と言うものの具体的に抵抗するようなことはなく、また、すぐに眠りにつくことができた。彼の安心したような寝息を聞いていると猫の方まで安眠することができたのでWIN-WINというやつだった。
 やがて少年は猫の寝具の役割を越えた行動に対して文句を言うようなこともなくなっていった。

 少年が殺す人数は、徐々に増えていった。






 ●◯●



 神父は腰だめの姿勢で十字架型軽機関銃を、少年は神父の左側に回り込むようにしながら二丁拳銃を、各々乱射していた。
 神父は右利きなので、相手の利き腕の逆向きに動くという銃撃戦のセオリー通りの立ち回りを、少年はしていた。
(取り回し云々以前に火力と総弾数の差は歴然……時間の問題で向こうが先に押し負けるのは目に見えている)
 少年は障害物の多い場所に逃げ込もうとしているようだが、その前にけりを付けてやる──そう神父が思ったところで、彼はふと疑問を抱いた。
 そもそも、障害物の多い場所で戦いたいのなら、初めからそういう場所で待っていれば良かったのだ。少年も神父が来ることは分かっていただろうに、何もわざわざこんな開けた場所にいなくとも──。
 と。
 不意に、少年が片手で何かを取り出し──器用にも拳銃を持ったまま──それがスモークグレネードだと気付いたときには、ピンは抜かれ、地面に放られていた。
(……ブラフか)
 緑色の煙が拡散し、瞬時に視界が奪われた。同時に発砲音が止む。
 神父は残った感覚を集中させた。目は見えずとも、空間を物体が動くときは必ず気配が発生するはずだ。
 直後──右斜め後方という無茶な角度から、空気の震えを感知した。そちらへ振り向き様、頭部の位置を想定して十字架を凪ぐ。
 しかし、空を裂いた鋼鉄の凶器は如何なる質量も捉えなかった。代わりに直後、上から人間一人分の体重が掛けられる。
 上方に──まるでアクションゲームに出てくる二段ジャンプのように──身をかわした少年が、十字架の上に着地したのだ。
 視線が交錯する間は一刹那もなかった。
 状況は接近戦に移行した──この距離ならお互い、視界が悪くとも戦える。
 神父の切り替えは早かった。十字架から手を離すと、突き出された少年の右手を弾く。同時に、対の手で拳銃の照準が行われていることも察知していたため神父はさらに対応する手でそれを捌くと、彼の真横をフルオートで発射された拳銃弾の列が、両者の立ち位置と平行して擦過し、足元をしっちゃかめっちゃかにした。
 次いで繰り出した中段蹴りは少年の膝頭で防がれる。
 神父は神父服から新たにダガーナイフを取り出すと、続けて応戦。
 少年はそれからも宙を蹴りながら三次元的な移動を繰り返し、二人は幾手か格闘すると、少年は弾切れを契機に斜め上空へと後退した。
 少年が三歩、宙を跳ねる。
 一歩目の段階で既に少年はリロードを終えており、射撃が再開される。しかし移動しながらの拳銃の命中率などあってないようなもので、いずれの弾薬も神父の足元のアスファルトを削るのみだった。
 二歩目でも弾は神父に当たらない。激しい発砲音だけが騒々しく響き渡る。この時、神父は地に落ちた十字架に飛びついていた。
 三歩目の位置で、少年は両の拳銃をホルスターにしまい、背後にある廃ビルの外付け階段の支柱を掴んだ。
 外付け階段は錆びと老朽化でほぼ宙吊り状態だった。少年はその一部を強引に引き剥がすと、外壁を踏ん張りにして神父へと投げつけた。神父に負けず劣らずの、凄まじい怪力である。
 一方、神父が取り直した十字架は既にフルオートで凶弾を吐き出しており、それらは少年ではなくかつて階段だった鉄の構造物を貪欲に食い荒らした。
 神父は破片から逃れるために飛び退く──その場所を目掛けて、既に少年は落下していた。両手に従えたバヨネットの刃で、空を唸らせて。
 十字の鉄塊と一対の刃が、交錯する──。






 ●◯●



「ただいま、ネコ子。帰ったぞ」
 ある日、少年は帰宅した際に耳慣れない呼び名で猫に声をかけてきた。
「……ナー?」
「いつまでも猫と呼ぶのは変だから、名前をつけてやったんだ。猫でメスだからネコ子。分かりやすくて良いだろう?」
「…………ナー……」
「そうかそうか、気に入ったか」
 呆れた溜め息を溢す猫と、的外れな解釈をする少年。彼の感覚はやはり、どこかずれていた。
 ──まったく。センスのないご主人様だわ。
 猫はふてくされたように鼻を鳴らした。けれど、彼女は初めて誰かから名前を呼んでもらったということに奇妙な嬉しさを感じていた。


 あくる日。
「ネコ子、今日は貴様を風呂にいれてやる」
 少年のその言葉に、猫は思わず固まっていた。
「……ナ?」
「綺麗になれば、きっとより一層寝心地の良い毛並みになるだろうからな」
 固まっている内に猫は抱き上げられ、そのまま風呂場に連れて行かれた。
「いいか? 別に貴様のために洗ってやるわけじゃない。俺がより快眠できるようにするためだからな」
 暴れる猫と、それを無理矢理押さえつける少年。
「コラ、暴れるな! シャンプーがそんなに嫌か!?」
「ナ、ナナナナーーーーっ!!」
 ──バカ! 子どもじゃないんだから、シャンプーが嫌なわけじゃないわ! そんなに色んなところ触らないでよ!
「貴様っ! 誰を引っ掻いているのか分かっているのか!? 俺は冷酷な殺人鬼だぞ! 仕返しが怖くないのか!?」
 ──無神経なご主人様ね!! 

 少年の殺す人数は、日に日に増えていった。





 ●◯●


 霧に包まれた廃墟。突き刺すように鋭利なマズルフラッシュと銃声、ダイレクトに凶器同士のかち合う金属音が、断続的に、鈍重な空気を蹴散らしていた。
 やがて一際大きな金属音が鳴り響いたかと思うと、両面の壁と天井が崩れて一枚の板ようになった連絡通路を、付け根になっている廃ビル内部から少年が勢い良く後退してきた。
 間を置かず、同じ方向から別の足音が響く。
 猛然と向かってくる神父に、少年は冷静かつ慎重に銃口を定めた。
 マズルフラッシュ──空を裂く無数の異音の重なり。
 一発一発のブランクを極限まで省略し、ほぼ一体化したかのような銃声。少年による正確かつ高速な連射は五度に渡り、何れもが標的の急所へと迷いなく進んでいく。
 だが、神父が振るった十字架は、各々の瞬間において、的確なタイミングで襲い来る凶弾との接触を果たしていた。
 鋭利な金属音が紡がれ、不可逆とさえ思えるほど正確無比だった暴力の直線進行が断絶する。
 銃腔を走る削条の通過と爆燃のもたらす途方もない反作用での圧出──それらによって最適化されていた銃撃の殺傷能力は、乱雑に剥奪されていた。洗練された弾頭たちはかくも無惨に愚鈍なる鉛屑と化し、空気を荒々しく掻き分けながら無作為に四散していった。
「……くぅっ!」
 神父はそのまま、シームレスな動作で自身の凶器を振りかざす。少年の方も、銃撃から白兵戦へと転じる他なかった。
 一対のバヨネットが煌めく。
 漆黒の十字を、銀色の瞬きが迎えうった。




 ●◯●



 その日は二人で市場に買い出しに出掛けた。悠然と歩く少年の後を、最近あまり外に出ていなかった猫が辿々しくついていく。
「おや、こんにちは」
 と。少年が知り合いの初老のイマジナリーフレンドと会ったようで、しばらく立ち話が続くことになった。
「おお、君か。この間は店を荒らす輩を追い出してくれてありがとうね」
「いえいえ、当然のことをしたまでですよ」
 少年は猫には一度も見せたことがないような愛想笑いで相手に応じている。
「猫を飼い始めたのかい?」
「えぇ。道で怪我をしているところにたまたま出くわしましてね。可哀想だったんで家で手当てして、そのまま飼ってやってるんですよ」
「そうかそうか。君のことだからこんなこと言うまでもないだろうが、生き物は大切にしてやるんだぞ」
「もちろんですよ」
 ──調子の良いご主人様だわ。
 珍しくお出掛けに誘われたから、ちょっとはしゃいでついてきたのに。こうやって街の人に良い顔をするためだったのかしら。そう考えると、猫は不機嫌になった。
「名前はあるのかい?」
「ネコ子です」
 少年がそう答えると相手のイマジナリーフレンドは少し引いていたので、猫の腹の虫はちょっとだけ収まった。
「……い、良い名前……じゃないか……?」
「でしょう?」
 自信満々に胸を張る少年。
 この調子で見栄っ張りに利用されるのは癪なので、猫は少し離れて少年についていくことにした。
 そうしていると、やがて少年が誰かとぶつかり、因縁をつけられ始めたので、猫はビックリした。
 相手は身体の大きな神父で、とても怖そうだったが、猫が追い付く頃には揉め事は終わっているようだった。
「ナー?」
 ──あの人、知り合いなの?
「まあな。……俺の対極にいる男だよ」
 ──?
「それにしても、妙だな……。アイツは俺と真逆とはいえ、同じ殺人鬼だぞ? そんな奴があんな少女と行動を共にしているなんて……奴の場合は俺のように、街の人々へ良い顔をする必要などないはずだから、恵まれない少女を保護しているということはあるまい。かといって、まさかあの少女を寝具として抱いて眠っているなんてこともないだろうに……」
 少年は一人で考え込んでいた。
 あの神父も自分も、非道いことをするために生み出されたのだ。そんな性(さが)に逆らう行動をするなんてことがあるはずがない。もしそんな生き方が許されるとするならば、自分が今まで性に従って行ってきた行為は、やらなくても良かったということになってしまうではないか。少年はその考えに行き着き、心の底からゾッとした。だから、それ以上考えないことにした。




 ●◯●



 廃墟の連絡通路にて──ダイレクトに殺意が交錯する、無遠慮な金属音が再開していた。
 幾度も金属が打ち合い、音が、緊張で満たされた空間を、さらに犀利に研いでいくようで──
 やがて、神父の繰り出した大振りな十字架の攻撃によって生じた僅かな隙をついて、少年の下半身が動いた。
 渾身の回し蹴りが神父の右側頭部を襲う。それは空中を跳ねることによって成立した、体格差を無視した無茶なものだった。神父は咄嗟に十字架から離した左腕を振り上げて攻撃の進行を妨げる。衝撃の後、関節の軋みが肉体を震わした。
 幾度目かの交差で両者の武器はそのまま静止を維持していたが──神父が十字架に加えていた力が腕一本分抜けたことで、少年の方も同じだけの自由を得てしまう。
 反対側から、少年の刃による追撃が繰り出される。
 神父は蹴られた勢いを利用して横に倒れ、刃をかわすと空中で仰向けの姿勢に身体を反転させ、床の際スレスレの所でどうにか受け身を取った。
 待ち主の制御を失った十字架は重力に隷属し、傷んだ床にはまりこむように突き立つことになった。
 さらに神父は、倒れる際に少年の足を払い、そして着地後、彼の胴を宙に向けて蹴りだしていた。
 ──しかし、少年の足には能力がある。
 空に投げ出された少年は易々と空中を蹴り、地上に帰還。すかさず不利な姿勢のままだった神父を、報復するように蹴り落とした。
 二人のいた位置は建物の七階に相当する──莫大な位置エネルギーによる冷徹な下降が神父を襲うことになった。
 神父は反射的にに十字架を手に掴んではいたが、その銃口は当然あらぬ方を向いており、今から少年に照準を合わせているような時間はとてもない。そんなことをするより前に彼は路上でアスファルトの染みと化していることだろう。壁を蹴るにも、距離が空きすぎていて足が届かない。あとはただ、死を待つのみ……。
 そう思われたが、神父はそれでも引き金を引いていた。
 ライフル弾の応酬が、神父に近い側のビルの外壁を無数の瓦礫として飛び散らせる。複雑な力学的影響にたらい回しにされた挙げ句に、偶然神父の足元付近に弾き出された石材の欠片の一つを、彼は見逃さなかった。およそ数秒間しか足場として機能し得ないそれを、彼は最善の瞬間(タイミング)に利用することに成功した──ほとんど奇跡だった。
 自身の発生させた強力な反作用の力によって少年のいる位置に向けて飛び上がった神父。滑空の最中、引き金は未だに引かれた状態だった。十字型の大型自動火器は装填された限りの弾頭と薬莢を吐き出し続ける。
 撃発の反動にも助けられながら、神父は十字架を少年に向けて、凪ぎ払った。
 描かれた弧と平行に存在するすべてに、弾丸が叩き込まれていく。
 十字架の残弾が尽きたと同時に、金属同士の接触音が場に波及した。
 少年は神父の反撃に意表を突かれたものの、どうにか右のバヨネットで受け止めていたのだ。だが身体は勢いに飲まれてしまう。
 二人はゼロ距離を維持したまま地面へと落下していった。





 ●◯●




 少年は猫と共に寝るようになってからも、完全にうなされることがなくなったわけではなかった。けれど、その頻度は明らかに以前より少なくなっており、吐くことはほとんどなくなった。悪夢を見る間隔も短くなっている。
 猫の眠りは浅い。少年が悪夢に怯えてうなされ出すと、猫はすかさず起きて少年を慰めた。大切な義務を果たすように丁寧に、優しく彼の頭を撫で、子守唄を歌ってやるのだ。
 猫には、そのような時、眠りを邪魔されたという不満はなかった。一度慰めてやれば少年は翌朝までぐっすり眠り、再度起きることはなかったし、また、うなされているときの彼はいつもより素直になるからだった。
 少年には悪いが、猫は彼を慰めているときの──つまりは彼がうなされている時間が好きだった。

 とある日の深夜、少年が言う。
 普段は憎まれ口ばかり叩いてしまうけれど、自分は本当は猫にとても感謝しているのだと。
 猫は喜びのあまり、逆に胸が張り裂けそうになる。
 彼女はすかさず、自分も同じ気持ちだと答える。
 少年は、『ずっとそばにいてほしい』という旨の言葉を、たどたどしく口にする。『寝具』としてだけでなく、同居人として。
 ──当たり前じゃない。わたしはあなたが居ないと生きていけないんだから。
 その返事には色んな意味が含まれている。
 それを察している少年は深く安堵する。
 少年の眠りが安定すると、猫も安心して眠ることができる。戯れで生み出された自分が誰かに必要とされ、しかも、それに見合う働きができているのがとても嬉しかった。
 けれど翌朝、少年の寝言に言及してみても、彼は頑として認めることはない。
「そんなことを、冷酷な殺人鬼の俺が言うはずないだろう」
 少女はとても悲しくなる。

 少年の睡眠の質は日に日に上昇していった。
 少年は安眠できる時間が増えるのに比例して、殺しを張り切るようになっていく。

 猫はその様子がだんだん心配になってきていた。
 死体の数はうなぎ登りになっていった。




 ●◯●



 落下していく神父と少年。
 神父の足は少年のそれをがっしりと巻き付けており、宙を蹴ることができない。
(どうせ落ちるのなら道連れに、というのか……分からん、何がこの男をそこまでさせる!?)
 二人は何もないはずの空間に挿入された異物として、重力と位置エネルギーの暴挙にさらされ続ける。肉体が空を切る異音がダイレクトに彼らの鼓膜を叩き続ける。
 少年は突発的に発生した危機を理解しながらも、しかしそればかりを考えていることはできなかった。敵の追撃が予測できたからだ。
 先ほどまで十字架に添えられていた神父の左腕が宙を仰いでいるのが視界の端に入っている。その先に握られているのがダガーであることは、直接は見えずとも、刃に反射した日光が教えてくれた。
 少年はほとんど何も思考せず、左手に神経を集中させ、バヨネットを敵の二の腕あたりに乱雑に突き刺した。
 少年の頸動脈を終着点として定めていたナイフの軌道が、使用者の腕が深く傷ついたことにより、僅かに狂った。
 目標を逸れた刃先は少年の左耳を根本から凪いだ。
 今まで聞いたこともないような醜悪な擬音に脳を貫かれる。彼がそれまで聴覚として認識していた感覚には致命的な欠落と歪みが生じ、意識は直ぐに痛みへと到達した。
 頭の奥が焼かれるようだ──否、何も感じてはいけない。意思を集中しろ。神父の骨に食い込んで抜けなくなった武器も今は捨て置く。
 少年は夢中で左手を虚空に伸ばした──その手が何かを掴む。
 先ほどまで彼らがいた連絡通路から見て、斜向かいにある建物に通された配管だった。
 配管はベキベキと引き剥がされていき、その破壊に費やされた分、二人を襲う落下の勢いにブレーキがかけられ、方向もずれた。
 彼らは配管のたるみに合わせて再び宙に投げ出されると、建物の手前にあった、それよりは背の低い立体駐車場の屋上へと転がり込んだ。
 距離を置いて停止した両者はほとんど同時に跳ね起きると、各々に向かって踊り上がった。





 ●◯●



 その日、少年は傷だらけで帰って来た。猫はそれを見ると驚いて、急いで駆け寄った。
「ナー!」
 少年が怪我をして帰ってくることなんてほとんどなかったのに……。猫は戸惑っていた。
「大丈夫、見た目ほど重症じゃない。寝れば治るから、また明日も血を取りに行けるさ。心配するな」
「ナー、ナー!」
 ──違うわよ! わたしは、あなたの身体を心配してるのに!!
 猫は少年の傷口を舐め始めた。
「おいおい、血の蓄えならまだ冷蔵庫の中にあるだろう? ……卑しい奴だなぁ」
「ナー! ナーっ!!」
 ──だから、違うってば! どうして気付かないのよ!? どうしてそんなに頑固なのよ!? ……どうして頑なに、気付かない振りをしてるのよ!?

「──そうだ、ネコ子よ。明日は特に質の良い血液が手に入りそうだから、期待していると良いぞ」
 血だって毎日そんなにたくさん、飲みきれないくらいの量取ってこなくても良いのに。お風呂にも自分で入れるから、入れてくれなくて良いのに。毛並みだって自分で整えられるのに。
 ──それだけたくさん、わたしにしてくれるのに、どうして起きているときのあなたは、言葉では伝えてくれないの!?






 ●○●



 銃剣の差し込まれた二挺拳銃と十字の鉄塊に覆われた軽機関銃の攻防。
 莫大な銃声と、金属の衝突音が連続して、スラム街に響き渡る。
(何故だ!? 何故俺が、こんなザコにここまで苦戦している!?)
 戦況はまさしく五分五分というところだった。本来、少年の方が力量は上のはずなのに、極めて不可解だった。一手間違えれば、少年が負けることも有り得るような状況である。
(何だっていうんだ!? 奴と俺の何がそんなに違うというのだ!?)
「絶対、ぶっ殺す……!!」
 神父から発せられる凄まじい殺意。その源流が、もはや『殺人鬼として生み出されたからそう在る』というだけではないことは明白だった。
 まさか、本当だというのだろうか。彼が個人的な理由で自分を殺そうとしているというのは。
 イマジナリーフレンドがその性(さが)に逆らって、自分の意志で行動するなどということが可能なのだろうか。もしそうだとしたら──
 神父にできて、少年にできないなどということはないだろう。
 ならば自分は、性(さが)に逆らうという生き方ができるにも関わらず、それを選択しなかったということになる。目を逸らしていただけだということになる。
 だとしたら、今まで犯してきた罪は、どうなるのだろうか。今まで奪ってきた命を、彼はどう受け入れれば良いというのだろうか。
(み、認めない……! そんなこと、あって良いはずがないのだ……!!)
 神父は足を踏み出し、再び少年へと接近してきた。彼が持つ鉄塊は、その燃え上がる感情を載せたかのように重々しく見えた。
 少年は悟った。きっとこの一擊は今までとは違う。
 これを凌げなければ自分は負ける。そして神父もこの一擊に全力を注ごうとしている──つまりカウンターを打ち込むことができれば、まだ自分にも、巻き返す取っ掛かりができるかもしれない。
 両者の距離が縮まっていく。
 極限まで高まった緊張が空間を震わせているかのようだ。
 衝突の寸前、少年は猫のことを考えた。そして、自分が築き上げてきた死体の山のことも考えた。
(俺は冷酷な殺人鬼だ。誰かのために何かをするなんてことは、あり得ない!! 俺がネコ子を大切にするのも、俺がこの男を殺してアイツにくれてやるのも、寝覚めの良い朝を迎えるためでしかない……!!)
 少年は、自身の中に沈殿した疑念を、感情で殴り付けるように否定する。
 追い詰められたような表情。
 まるでもうそこにしか逃げ場がないかのように、向かってくる神父を強く睨み付ける。
 一際強く、銃のグリップを握りしめ、
 ──一対のバヨネットが瞬いた。

 そうして直後、スラム街に、一際大きな衝突音が響き渡った。










〈三、エピローグ〉




 疲労困憊──ふらふらの身体を引きずって、神父はどうにか家まで帰った。
「お帰りなさい! 神父様!」
「殺人神父っ! 覚悟ぉぉっ!!」
 玄関扉を開けた直後、彼を迎えた声は、予想に反して二つあった。
 突如として襲いかかる斬擊に、神父はとっさに十字架で応じた。
「何だお前!?」
 攻撃の主はヒーロー男と同じような服装をしており、けれど彼より遥かに背が低い子どもだった。
「兄者の敵ぃぃぃぃっ!!」
「その子、ヒーローさんの弟みたいで、あなたがお兄さんを殺したと誤解してるの。何度も違うって説明しても分かってくれなくて……」
「それはまた、面倒な客が来たもんだ……!」
 ヒーロー男の弟は何度も日本刀で斬りつけ、神父の十字架に傷をつけまくっていた。
 少女は困ったように、ぼんやりと小首を傾げている。
「いや、お前は何でまたそんなに平静なんだよ!? 俺今殺されそうになってるんだぞ!?」
 さっきから状況に反して、あまりにも緊張感のない少女の様子に神父は我慢できず突っ込みを入れると、少女は不思議そうに返してきた。
「だって、その子の攻撃なんて、あなたにとっちゃ全然大したことないでしょ?」
「そりゃそうだけど! ……つーかお前さ、俺は今日結構な大勝負に出掛けたつもりだったんだけど……心配とかしてなかったのかよ!?」
「してないわよ」
「何でだよ!?」
「だって、約束したじゃない」
 少女は事も無げに言い切った。
「神父様がちゃんと『帰ってくる』って言ったんだから。約束したのに信じないなんて、すっごくダメなことでしょ? だからわたしはちゃんと信じてたのよ。あなたは、この玄関のドアを潜るまでは何がなんでも死んだりするわけがないって」
 当然のように言ってのける少女に、反論の言葉はどこかにいってしまった。
 自然と、口許に笑みが浮かんでいく。
「確かにな。俺も負けるなんて思って出掛けた訳じゃねぇよ」
 神父はヒーロー少年の日本刀を弾き飛ばすと、彼をヒョイと小脇にかかえて、靴を放っぽって家の中に足を踏み入れた。
「ねぇ……いつも言ってるでしょ? 靴を脱ぎ散らかすのは──」
「すっごくダメなんだろ? 分かってるよ。でも今それどころじゃねぇだろ。こっちが重たい荷物幾つ持ってると思ってんだ」
 神父は面倒くさそうに首を振りながら、ズカズカと廊下を歩いていく。

「おかえりなさい。神父様」
「あぁ、ただいま」






 ●○●


 その晩、少年は帰ってこなかった。
 猫が抱いていた不安はグラデーション状に絶望へと代わっていき、そのうち目の前が真っ暗になった。
 暗闇は容赦がなかった。
 その次も、またその次の日も、少年は帰ってこなかった。
 猫は毎日毛並みを整え、お風呂に入って、少年の帰りを待ち続けた。
 少年と寝るときに感じていたどこか安らかな温もりや、彼が機嫌悪そうに食事を頬張り、その後決まって仕方なさそうに自分に血を与えてくれる様を夢に見て、そして以前より冷たいベッドの中で目が覚める度に少女は静かに絶望した。
 やがて冷蔵庫に保存されていた血は底をついた。自分で食料を得ようと外に出たこともあるが、猫の力では人型のイマジナリーフレンドを狩ることなど到底できず、死体に出くわすなんてこともそうそうあるはずがない。
 歩き回るうち、浮浪者に食糧と見なされて追いかけ回されたり、ストレスの捌け口に暴力を振るわれたりと、毎日散々だった。
 猫は日に日に衰弱していき、それでも毛並みを整えるのを怠ることはなく、毎日自分でお風呂にも入って、綺麗な身体のまま少年を待ち続けた。それ以外に彼女ができることは何もなかった。

 一週間が経っても、少年が彼女の元に帰ってくることはなかった。






 ●○●



 ヒーロー男の弟は、寝室に入るや否や、『刀を振り回しすぎて疲れたでござるぅ……』などとのたまい、ベッドの上で眠ってしまった。
「兄貴に似て図々しい奴だ……」
 呑気な寝顔を前に、神父は呆れ果てて怒る気にもならない。
 そこで彼らを追いかけてきた少女が寝室に入り、疑問とも思っていないことを白々しくも質問の形で口にした。
「……ところで神父様、その人は?」
「ん? あぁ、コイツは……」
 少女は、神父が背負っている人物に視線を向けている。
 対して神父は、バツが悪そうに目をキョロキョロさせながら、言葉を濁す。
「ヒーローさんの敵(かたき)の、偽ヒーローさん……だったかしら」
「あぁ、お前も一度会ってたんだったな……」
 神父は観念したように首を振る。
「やっぱり、殺さなかったのね」
「分かってたみたいな口ぶりだな」
「だって、神父様のことだもの」
 神父は面白くなさそうに鼻を鳴らしながら、傷だらけでのびている少年を、一先ずベッドの――チビヒーローが眠る隣に降ろした。元々、彼を寝かせるために寝室まで来たのだった。
「……まあ、そういうわけだから、この馬鹿のこと手当てしてやってくれ」
「ええ、任せて!」
 少女は意気揚々と応じると、救急箱を取りに走った。


「なんか、ソイツのこと殴ってるうちに馬鹿馬鹿しくなっちまってよ」
 神父は、少女が少年を手当てするのを眺めながら、ぽつりぽつりと語り始める。
「殺されたヒーローくんはアホだったけど、別に、自分の無念晴らすために復讐してくれとか、そういうこと望むタイプでもなかったと思うんだよな」
「……前向きな人だったものね」
「だよな。じゃあ何で俺がこの偽ヒーローを殺したかったかっていうと、完全に自分のためっつーか……単に俺がスッキリしたかったからなんだよな」
「まあ、そうでしょうね」
 少女は、すべてお見通しとばかりに同意する。
「だとすると、今までと何にも変わらないことになる。“性(さが)”の強迫観念に縛られて、モヤモヤを晴らすために悪人をぶっ殺してた頃と同じだ。復讐なんてしても何にもならないどころか……またこの町に一つ、胸糞悪い出来事を増やすだけだ」
 神父は嫌悪感を露に、そう結論付ける。
「そうね。……でも、この人を見逃してあげるっていうのも……良いこととは言えないわよね? また犠牲者が出るから」
 そこで少女は、少し意地悪とも取れる質問をしてみた。純粋に、神父ならどう答えるのか気になったのだ。
「その通りだ。『これからは良いことをする』って、約束したしな」
 神父はこともなげに応じる。
「じゃあそこで、優しい神父様はどうしたの?」
「コイツの両腕、粉々に粉砕してやったよ。……治ったとしてももう、誰一人殺せやしない」
 その露骨な物言いに思わず少女は吹き出し……つい心中とは真逆のことを口にしてしまった。
「非道いことするのね」
「お前の言う通りお咎めなしってわけにもいかねえし、俺なりのケジメだ。というか多分、これが一番マシなけりの付け方だったんだと思う。コイツにとってもな」
「この人は……どんな感じだったの?」
「如何にも『戦いたくありません』って顔で向かってくるんだよ。……多分、コイツも俺と同じだったんだ。俺はたまたま運と巡り合わせで、お前たちと出会って変われたってだけで……もしかしたらコイツも――――」





●○●


 もう何日、血を口にしていないか知れない。
「邪魔だよ、糞猫!」
「――ナァッ!!」
 栄養失調でフラフラと街を彷徨っていた猫は通行人に蹴飛ばされ、路面を転がっていく。誰一人として彼女を気遣う者などおらず、人々は悪意すらなく、衰弱した小さな体の上を踏んずけて通り過ぎていく。
「ナーッ! ナッ……ナァーッ!!」
 ――やめて! 痛い! 痛いわ!! わたしここに居るのに、どうして皆よけてくれないの!?
 必死に痛みを訴えるも、汚い雌猫など相手にする者はおらず、猫は無造作な暴力にしばらく晒され続けた。彼女にはせいぜい、身体を丸めて前足で自分の頭を抱えるようにすることくらいしかできない。
そして数分後、猫は何発もの蹴りを加えられることで少しずつ人通りの少ない安全圏までふっ飛ばされていた。皮肉にも、暴力によってその連鎖から解放されたのだ。
血の混じった唾をせき込みながら吐き出し、身悶えする。全身が痛んだが、特に胸部には激痛が走っていて、尾を引くように収まる気配がなかった。
(すごく痛い……きっとあばらが折れたんだわ)
 猫はさっきよりも痛々しい足取りで、宛もなく歩みを再開した。痛みのあまり涙を流すのを抑えられなかった。
 やがて、林の中央を切り開いたような広場に行き当たった。
(もう体力も限界だし、今夜はここで休ませてもらおうかしら……)
 猫はその広場で一夜明かすことにした。
 身体を丸めると一瞬で眠りがやってきた。芝生は心地良い柔らかさで彼女を包み込み、優しい匂いがしていた。猫はとても久しぶりに、ささやかながら幸せな気持ちになることができた。
 ……しかし、その幸せは本当にすぐ、終わりを告げた。
「てめぇ、誰の場所で寝てやがる」
 野太い声が頭上から聞こえ、猫の意識は現実に引き戻される。見ると、屈強な浮浪者風の男が自分を見下ろしているではないか。
 猫は男の視線に、瞬時に不吉な気配を察知した。
 だがもう遅かった。
 男は相当機嫌が悪いようで、眉がつり上がっていた。
「ナ、ナーッ、ナーナー。ナーナナー」
 ――ご、ごめんなさいっ。あなたの場所だなんて知らなかったの。すぐに出てくわ。
「うるせぇ! 今更謝ったっておせぇんだ。断りもなくひとの場所に入りやがって!!」
「ナッ!? ナナナッ、ナーナナナ――」
 ――ひぃっ!? ご、ごめんなさい、わたしもう何日も何も食べてなくて、体力が限界で――
「黙れ! 俺だってそうだよ!!」
「ナァァッ!?」
 男は猫の胸ぐらを掴むと、乱暴に持ち上げた。
 そして、何の敵意もないその顔面を思いっきり殴り付ける。
「ナぁッ!!」
 ──きゃあっ!!
「クソッたれがァ……!」
 男から与えられた鈍い痛み──そして、もはや殺意と呼ぶに等しいほど激しくなった敵意に、猫は震え上がった。
 ──うぅ……痛いの嫌だよぉ……ご主人様ぁ……! 助けに来てよぉ…………どこに行っちゃったの、ご主人様ぁ……!?)
 猫は痛みと恐怖のあまりすっかり幼児退行してしまい、大粒の涙を溢しながらみじめに泣きじゃくるばかりだ。
 ──ご主人様に会いたいよぉ……! また抱っこしてよぉ……! ぎゅってしてよぉ……! 頭なでなでしてよぉ……! 甘えさせてよぉ……!
 だが、猫の懇願も虚しく、男は再び拳を握りしめる。
 そして、 
「こんなッ!!」
「ナァッ!?」
「汚ねぇ!!」
「ナンっ!?」
「猫までッ!!」
「ナぶゥッ!!」
「俺をッ!!」
「ナァァーーーーっ!!」
「馬鹿にィッ!!」
「――――」
 男は言葉の区切りごとに猫の顔や胴体に容赦なく拳を叩きこんだ。やがて彼が息を切らすころには猫はすっかり伸びていた。
「へっ……くたばったかァ?」
 だが脈を確認してみると、なんとまだ生きている。どうやらこの猫、見た目より頑丈なようである。
 男は猫を小脇に抱え、今後のことを考えた。
 日頃のうっ憤を晴らすための良いはけ口を拾ったのだ。目を覚ましたらまたいたぶって、飽きたら猫鍋にして食ってやろう。
 身も心も浮浪者である男は、数日間何も食べていなかった。その上、周囲からの冷たい対応に精神が限界に達し、激しい怒りに満ちていた。
 貧しい家庭で過ごす子どもを想い主に持った彼は、浮浪者のイマジナリーフレンドとして生み出された。『貧しい生活をすること』が“性”であるため、どんなチャンスがあったとしても、自分から今の生活を抜け出すことができないのだ。
(このクソったれな“性”のせいで、あんまり上等な料理は作れねぇが……食材は食材だ)
 調理道具を調達するため、男は踵を返す――するとそこには絶望があった。
「ひぃ!?」
「やっと見つけたと思ったら……何だこれは?」
 そこに立っているだけで圧を感じさせるほどの巨体。
 聞いただけで背筋が凍るような、ドスの効いた声色。
「なっ、お、お前は……さ、殺人神父!?」
「何だ? 動物に怒りをぶつけるのがてめーの“性”なのか?」
 眉根を吊り上げ、怒りを露わにした神父は、大きな拳を振りかぶる。
「どんな理由があろうとよォ……」
「た、頼むっ……見逃して――」
「動物を虐めたら、すっごくダメだろうがァァ!!」
「うごぉぉっ!!?」
 神父の容赦ない殴打が顔面に命中し、浮浪者男は吹っ飛ばされた。
「ナッ……ナァーーーーッ!?」
 そして、浮浪者男の手から離れた猫も空中へ投げ出され……神父の傍らにいた少女に抱きとめられる。
「猫さん……もう大丈夫よ。帰ったらすぐ手当してあげるからね」
 優しい声が傷ついた猫を包む。だが、彼女は自分が置かれた状況を理解できず、混乱していた。
 突然現れた彼らは何者なのか? 自分はこれからどうなるのか?
 激しい不安に駆られた彼女は、力を振り絞って、ゆっくりと周囲を見回す。
 そこに、
「ねこ子……」
 居るはずのない人物が居た。
「……ナ――?」
 全身に包帯を巻かれ、かつての凛とした雰囲気は萎んでしまったように大人しくなっていたが……それは確かに彼だった。
 ――ご主人……さま……?
「待たせてすまなかった……ねこ子」
 包帯だらけの少年は、少女から猫を受け取る。
 その手は、ロボットのようにゆっくりとした動きで、しかも震えていた。
 少年はその場に座り、猫を自分の膝に乗せた状態で瓶を取り出した。その中は赤い液体で満たされている。
「お腹がすいただろう……さあ、飲んでくれ」
 少年は瓶のふたを開け、猫が飲みやすいように傾けてやる。
 猫はその瞬間、痛みと疲労を上回る勢いで飢餓感を覚え、夢中で血を飲んだ。
「美味しいか? ねこ子……」
「ごくっ、ごくっ……ナーッ!」
 やがて血を飲み干した猫は、一旦安心すると……すぐに再会の嬉しさで泣きじゃくり始め、少年の胸に顔をうずめた。
 少年の手が、ゆっくりと、猫の傷ついた体を撫でる。
 ――今までどこに居たの!? ねこ子、ずっと……ずっと待ってたのよ!?
「すまない、ねこ子…………ところで会ってそうそうだが、悪いニュースがあるんだ」
 ――何よ!?
 少年は申し訳なさそうな口調で話す。
「実は、腕を壊してしまって……これだともう、血を取ってきてやれないんだ……」
 ――血なんて……血なんてどうでも良いわよ! わたしはそれより、あなたのことが……っ!
 猫は泣きながら、少年の的外れな謝罪に怒ったように、乱暴に鼻を擦り付ける。
「……でも、安心してくれ。実はあれから、たくさん友達ができてな……皆の協力で、最低限の血は確保できそうなんだ」
 少年はそう言って、少し誇らしげに神父と少女を見上げる。
 彼らの手首には、少年と同じ位置に包帯が巻いてあった。


 浮浪者男は地べたにはいつくばって悶絶しかけながろも、しきりに腹の音を鳴らしている。よほど空腹なのだろう。
 そんな彼に歩み寄り、話しかける者がいた。
 少女である。
「おじさん、そんなにお腹がすいてるなら、うちに来ない? わたし、とっても美味しいご飯が作れるのよ」
「……は、はぁ…………?」
 いきなり現れた連中に殴り飛ばされたと思ったら、今度は食事を振る舞うと言われる。
 意味の分からない展開の連続に、浮浪者男は混乱しながらも、どうにか問いを絞りだした。
「お、お前ら……何なんだよ? な、何が……してぇんだ?」
 それに対し、少女は堂々と答える。
「あのね、わたしたち、今までたくさん悪いことしてきたから……これからはたくさん、良いことしないといけないの。……ね?」
 少女は振り返り、後ろの友人たちに同意を求めた。
 彼らはほとんど同じタイミングで、頷いてくれた。

舌に傷を持つ少女と、寝心地の良い黒猫の話

執筆の狙い

作者 標識
182-50-214-97.cnc.jp

不用になったイマジナリーフレンドたちが、子どもたちから捨てられ、彷徨った末に行き着く町。
そこで、彼らは出会った。
『悪人を殺すこと』を“性(さが)”に生きる、神父の格好をした大男。
正常な味覚を失った世話好きの少女。
『善人を殺すこと』を“性”に生きる、偽物のヒーロー。
『寝心地の良さ』だけが取り柄で、人の血しか飲むことの許されない黒猫。

子ども心の残りカス。
いつまでも大人になれないことが約束された彼ら“イマジナリーフレンド”たちが、出会い、絡み合った先に待つのは、果たして──。

↑あらすじです。

よろしくお願いします。

コメント

浮離
KD111239113145.au-net.ne.jp

“イマジナリーフレンド“っていう露骨さはともかく、そんな彼らが暮らす世界っていうのはとてもいいしテーマとして十分だと思いました。

タッチは軽めですけど寓話とか風刺的なニュアンスのある序盤の雰囲気なんかはテーマとの相性も定石の如くその先の見通しを感じさせられて、期待感もありました。

でも残念、軽めなりにもアニメチックに寄り過ぎて個人的にはアウト。
構成や書き筋、キャラを含めた脚色や体裁という意味での相性も含めて、この世界に相応しく付き合える例えば読者想定だとか、つまりパッケージとして個人的にはすごくアンバランスな印象を受けながら読み進めることはなかなかに苦痛でした。

書き手としてのスタイルなのかよくわからないので前作なども少し眺めさせて頂いたんですけど、なるほど同じような印象を受けました。
書きたがる世界は書き手ぞれぞれのものだからいいんですけど、その精度や比重のようなものはある程度確信的な装いは必要な部分もある気が個人的にはするわけで、そういった意味で書き手に対して個人的には“書く“という機能や労力、つまりコストパフォーマンスとして案外集中が低いというか、水準的訴求力がかなりカジュアルなような印象を受けたわけなんです。

中には文章力を推す感想も見受けたんですけど、個人的にはカジュアルな印象の割に自由度が低いというか、要するに近頃のあらゆるクリエイティブコンテンツに言われがちな“説明しすぎ問題“だとか、ちょっとニュアンスが違うんですけど要するに、書かれていることでしか融通しない“付き合わされ感“みたいなものが書き手の書き筋には強い印象を受けました。

伝わりますかね。

丁寧なんですけど、その丁寧さがクリエイティブの水準をものすごく下げてる気がするんです。
気取った言い方をするなら、“行間“とか“余白“なんて言われがちなことなんですかね、要するに、読めばいいだけのお話ってつまんないでしょ、ってことだと思うんです。

想像する必要がない。

端的な印象なり感想はそれに尽きます個人的には。
物語なんですけど、オリジナルの世界に違いないんですけど、駆動する感情や倫理は全部見たことのあるものだったりするだとか。

勘違いして欲しくないのはそれがいけないって言ってるんじゃなくて、それを世界の根拠として架け替える書き方、あるいは書かない方法みたいなのってあるはずだと個人的には考えさせられるわけなんです。
それって、仕組みとか効果として切り分けるものなんかじゃなくて、その世界の理由や根拠として立脚させる強度みたいなことなんじゃないのかと個人的には思わされるところなんです。

先に言った“読者想定“ってつまりはそういう意味なのかもしれなくて、逆さまに言えばこの書き方が悪いのではなくて、想定と体裁のバランスが適当なものとは考えにくい、ってことなのかもしれません。

このリーダビリティに適切な読者層っておそらくかなり若年層それも小学生だとか、“読む“ことで備わる情報そのものがまずは大切な世代向けの丁寧さに留まっているもののように感じさせられるし、内容も含めた上で果たしてこの文量は伝えたい情報に対して適切か、要点的な観察や機能に優れたものかと考えると、個人的にはあまり適切な表現のバランス、パッケージとは受け止め難いもののように感じさせられたということなんですね。

夜の雨
ai201024.d.west.v6connect.net

「舌に傷を持つ少女と、寝心地の良い黒猫の話」(137枚)について。

10分の4ほど読んで、傾向はわかったので感想を書いておきます。

「イマジナリーフレンド」という興味深いネタ(題材)を描いているので読み始めたのですが、導入部を読んだ段階と半分近く読んだ段階とでも。ほぼ同じように感じました。
この調子でいくとラストまで読んでも、同じような感想を書くだろうなぁということです。

イマジナリーフレンドとは、「 空想 の 友人 」のことであり、 心理学 、 精神医学 における現象名の1つです。
3歳から7歳ごろの自己成長の過程において兄弟とか友人がいないと自己を確立しにくいので「 空想 の 友人(第三者)」を作ることにより、自分の存在を確立していくのが「イマジナリーフレンド」という事になります。
従いまして、成長する過程(小学校に上がる年齢)において「イマジナリーフレンド」は無くなります。

こちらの作品(御作)は、そういった子供たちが成長する過程において、捨てられた「イマジナリーフレンド」たちが、主人公になっています。

3歳から7歳という幼い子供たちが空想で作りあげた自己都合の友人たちがイマジナリーフレンドなので、彼らとて、思考とか行動が未熟で当然です。
その未熟な彼、彼女たちがいる世界のお話です。

それで御作を読んでいて、すぐに気が付くのですが、「誰に対して書いた小説」なのか、という事になります。

この「誰に対して書いている作品」なのか、という事が、御作のすべてに近いです。

ぶっちゃけたお話をすると、子供向けに面白おかしく書いたのではないかと。
だから、大人が読むと、深さというか奥行きが足りないのではとなってしまう。

ほとんど、会話文中心に話が進んでいるとかで、物語の背景(世界)が、見えにくい。
情景(世界観を含む)は必要だと思いますが、御作にはありません。

「イマジナリーフレンド」がいる世界を描く必要がある。
御作を映像化(映画等)した場合を頭の中でシミュレーション するとよい。
一つ一つの場面を頭の中でイメージしてください。
それを文章化して小説にする。
すると御作の世界が広がる。

また、「殺人鬼の神父」とか「味覚がない少女」とか「正義のヒーロー」とか、わかりやすい設定で書いているが、奥行きがないとか。
この奥行きがないというのは、3歳から7歳の幼児としての成長の過程においてイマジナリーフレンドは作られているので、「そこの問題点を描く必要があるのに、描かれていない」。

イマジナリーフレンドがどうして作られたのか、というと、宿主が孤独で自分を確立するために作っているのだから、そこに切り込んでいく必要がある。
宿主(幼児)の母親とか父親がかまいすぎたとか、またはかまわなかったとか、いずれにしても両親の育て方に関係して宿主がイマジナリーフレンドを作った。
しかし小学校にあげるころには、自己が確立しだしたので、イマジナリーフレンドは必要なくなった。
それで彼らは捨てられた、または忘れ去られていった。
その「捨てられた、忘れ去られていった」彼ら事、イマジナリーフレンドが主人公。

それが、御作です。
だから、宿主(幼児から小学生とか思春期)とイマジナリーフレンドとの確執を描く必要があると思いますが、それが御作には描かれていない。半分近く読んだ段階で、そういった話が出てこない。
>>宿主(幼児から小学生とか思春期)とイマジナリーフレンドとの確執を描く必要がある<<
これには、もちろん宿主の父親と母親が関係してくるのは当然だと思いますが。
宿主はその父親と母親との関係において、イマジナリーフレンドを作りそして捨てたのだから。

なので、「イマジナリーフレンド」たちの世界を情景を含めて描きつつ、彼らの問題やら課程を「元、宿主」や「その両親」を含めて、話にするとよいのではありませんかね。

宿主自体が幼いので、イマジナリーフレンドが幼いのは仕方がありません。

だから殺人鬼の神父にしても舌に傷を持つ少女にしても、問題を含んでいても仕方がないというか、問題がある彼ら彼女だからこそ、ある意味「宿主」にも、その父親と母親にもリアルティーがある。
ということで、イマジナリーフレンドと現実世界が絡むと、御作にリアルティーが出てきて、面白くなるのでは。

それでは頑張ってください。

お疲れさまでした。

AfterNotes
pw126254098162.8.panda-world.ne.jp

拝読いたしました。

こういう、世界観から構築されたファンタジー作品が大好物なので楽しく読ませていただきました。特に面白いと感じたのは神父サイドの物語と少年サイドの物語が対極のようで似通っていて、それが交差したところです。群像劇の魅力が引き出されていたと思います。

その上で気になった点といえば、ラストのあたりがハッピーエンドにもっていくために都合のいい展開を用意されている、という印象を抱いてしまったことでしょうか。ハッピーエンドは好きなんですけれど、登場人物たちが自分の思想に従って動いた結果ハッピーエンドになった、というよりハッピーエンドにするために登場人物たちが動かされている、という感じです。あくまで感覚的な話なので、そこまで気にすることではないといえばその通りなのですが。

あとはイマジナリーフレンドを「人」として扱う描写があったことでしょうか。殺人神父だとか、悪人のイマジナリーフレンドだとか。せっかく素敵な世界観を構築されたのですから、イマジナリーフレンドと人間との境界というか、違いが表現できていればもっと良かったかなと思います。

標識
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 夜の雨さん、感想ありがとうございます。返信が遅くなってしまいすみません。

>ほとんど、会話文中心に話が進んでいるとかで、物語の背景(世界)が、見えにくい。
情景(世界観を含む)は必要だと思いますが、御作にはありません。

 確かに地の文でもっと説明すべきところはあったかもしれません。次からはもっと気を配ります。

>だから、宿主(幼児から小学生とか思春期)とイマジナリーフレンドとの確執を描く必要があると思いますが、それが御作には描かれていない。半分近く読んだ段階で、そういった話が出てこない。

 イマジナリーフレンド同志の確執を書いてしまいました。

標識
182-50-214-97.cnc.jp

 AfterNotesさん、感想ありがとうございます。返信が遅くなってしまいすみません。

>こういう、世界観から構築されたファンタジー作品が大好物なので楽しく読ませていただきました。

 ありがとうございます。

>ラストのあたりがハッピーエンドにもっていくために都合のいい展開を用意されている、という印象を抱いてしまったことでしょうか。

 物語にキャラを落とし込めていないのでしょう。もっと精進します。

>あとはイマジナリーフレンドを「人」として扱う描写があったことでしょうか。殺人神父だとか、悪人のイマジナリーフレンドだとか。せっかく素敵な世界観を構築されたのですから、イマジナリーフレンドと人間との境界というか、違いが表現できていればもっと良かったかなと思います。

 設定をもっと深く掘り下げる努力をしていきたいと思います。

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