父がお空にフライアウェイしようとしています
家に帰ると、マイファーザーが自殺を図っていた。
具体的には、ベランダ(マンションの五階)から跳躍するという大変スタンダートな方法で。
「エエェエ!? ちょっ、ストップストップ! 何してんの!?」
私の慌てた声に、父、信夫(45)はベランダの柵に足をかけた状態で振り返った。
「ああ、良江か。おかえり。娘の顔を見るのも、これが最後だなあ」
と、一人悟り顔のお父上殿。いやいや、しばし待たれよ。
「早まりすぎだよ! 一体どうしたの!?」
「実は、母さんがな、浮気してるんじゃないかって言うんだよ。酷いじゃないか、父さん今年は一回も浮気してないのに!」
「いや『今年は』って何だよ!! 去年はしてたのかよ!?」
「ああそうだ。去年の父さんは浮気しまくっていた。もう抱きまくりのヤりまくりで幼女にまで手を出していたようなクズ野郎だ。そういうわけで、良江。父さん今から死ぬから、元気でな」
「マジかいな」
コイツの存在価値は氷点下だ。しかし、こんな父親でも死なれたら困る。主に我が家の金銭的な問題で。
どうにかして止めなくては。
「お父さん、いい!? 死んで良い人間なんていないの! 仮にどんな罪を犯したとして
も、死ななきゃいけないことはないんだよ!?」
「よ、良江…… こんな父さんでも、生きていて良いというのか?」
「あ、当たり前でしょ! さあ、危ないから早く部屋に入って」
「良江エエェエッ!!」
そう言って、死地から帰還してくるお父さん。やれやれ、一件落着────
──したかのように思えたその時、お父さんの足にリモコンがぶつかり、テレビのスイッチが入った。やっていたのはニュース番組のようで、アナウンサーの平坦な声が聞こえてきた。
『交際していた女性の浮気相手五人を殺害したとして、殺人などの罪に問われていた✕✕✕✕被告(36)でしたが、本日の裁判において東京地裁は、求刑通り死刑を言い渡しました』
奇妙な沈黙が起こること数十秒。
それを観たお父さんは、「せっ、説得力がない! この国に死刑制度がある時点でさっき
の言葉に説得力がないよオオォオ!!」と叫んで再びベランダに近づくと、干してあった私の下着類を掴んで顔に押し付けた。
「窒息死だ! 窒息して死んでやるぅ!!」
もういっそのこと、私が殺してしまおうか。
執筆の狙い
ギャグ小説です。
よろしくお願いします。