作家でごはん!鍛練場
野葡萄

こどもがえり

小学五年生の夏休み、幼稚園時代の親友と再会した。最後に会った卒園式から五年、当時の私たちにとっては実に人生の半分もの時間がたっていた。
お互いにもう全くの別人のようだった。名前は憶えている、容姿や雰囲気に面影もある。よく遊んでいたのも、一番の親友だったことも記憶にある。しかし、”楽しかった”という感覚がそこにうまく結びつかない。幼い心は過去に置き去りにされている。

「カナミちゃんって覚えてる?カナミちゃんママとこないだメールしてね…」
こんな場をセッティングした母親に私は恨めしさすら感じていた。親友がすっかり知らない子になってしまっているのがショックだった。自分だってあの頃と同じようには振舞えない。だから同じ失望を向けられるのを恐れていたのかもしれなかった。
『思い出は思い出のままにしておきたかった』
再会を喜ぶフリをしつつ、私は親子が何時まで我が家に滞在する予定なのかばかりを気にしていた。

不安感と奇妙な恥ずかしさが混ざっている。初対面の子に馴れ馴れしく話しかけるのと、すっかり気の知れた人の目の前で猫かぶりをするのを同時にやるみたいだった。
うちの小学校じゃ算数はどこまでやったとか、担任は男性だとか、ポケモンより妖怪ウォッチ派だとか、小学生の世間話のレパートリーが尽きて私たちは一層ぎこちなくなくなる。
沈黙が増えてもじもじとしだした私たちを母親がからかおうとするのがわかった。私たちはリビングから抜け出して子供部屋に向かった。

自分から連れ出したくせ私はその先のことなんて考えていなかった。二人きりになって余計に沈黙が耳に痛かった。
私のテリトリーの中できっと彼女のほうがずっと緊張していたはずだ。しかし、気まずい沈黙を破ってくれたのは彼女のほうだった。
彼女は唐突にしゃがみ込んで床にハンカチを広げて見せた。私もそれにならって座り込む。園にいたころは「私がお母さんね?」なんて確認はしなかった。「このハンカチはテーブルだから」なんて言わずとも伝わった。おままごとのママゴトだった。
さっきよりもずっと恥ずかしかった。ただ、私たちは確かに過去に戻っていた。すっかり忘れていた無邪気さを拾って二人はまた親友になった。

それから私たちの交流は中学卒業まで続いた。年に一度の再開の度に私たちは親友ごっこをした。ある時は砂場でトンネルを作り、ある時はシール帳を見せあった。開いてしまった時間を埋めて何度でも親友に、子供に戻ることができた。

彼女と最後に会ってから今年で四年になる。二度の進学経て、成人さえした私たちは四年前とは別の人間になっているだろう。
おもちゃやシールは捨ててしまった。公園に行くこともなくなった。今、私はかつての宝物を、子供時代を手放す度に少し大人になったような気になっている。次の再会の日、私は彼女の親友に戻ることができるだろうか。

こどもがえり

執筆の狙い

作者 野葡萄
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過去を振り返る形の文章が苦手なのであえて挑戦してみました。
過去形にすべきタイミングが掴めておらず読みずらい文章かもしれません。
人名を繰り返すのにも抵抗があり彼女、親友といった呼称を使いましたがくどい気もしています。
1200字程度の駄文ですがよろしくお願いします。

コメント

偏差値45
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>過去形にすべきタイミングが掴めておらず読みずらい文章かもしれません。

読みにくい印象はなかったです。

>人名を繰り返すのにも抵抗があり彼女、親友といった呼称を使いましたがくどい気もしています。

作り手としては悩むところですね。
とはいえ、一読者としては何も気になりませんでした。

>次の再会の日、私は彼女の親友に戻ることができるだろうか。

戻る? 戻る必要はない気がしましたね。
「あるがまま、そのまま」が重要なのですから。
言ってしまえば、人間関係の再構築でしょうか。
場合によっては、切ることも必要かもしれませんね。
それこそが大人であり、自由なのです。

総じて、いろいろ考えさせられる内容ですね。
園児の頃は、どちらかと言えば、同盟のようなもので必要不可欠。
でも、今はそうではない。どうでもいい人。
その違いは大きいような気がしますね。

ドリーム
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拝読いたしました。

幼稚園児の頃は友達は自然と出来ると思いますが時を経て小学高学年ともなれば、
彼女とは親しかったけど、今どうしているか懐かしむ時もあるでしょう。
それが何年ぶりかの対面、やや緊張するも彼女は変わっていなかったと安堵感。
更に大人になって、どう二人は友人として親友として付き合いつづけるのか夢がありますね。
ただ主人公が男か女か書いていませんが、親友と言うからには女性だと推測しました。

幼き日の思い出、純粋で汚なき世界。
いいですね。大人になってもその心を貫いて欲しいですね。
お疲れ様でした。

野葡萄
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偏差値45 様

読みにくい印象はなかった、と言っていただけて安心しました。

ラストについては、童心に帰りたい心を出そうか、すっかり大人になった主人公の達観を見せようか、悩んだ末どっちつかずとなってしまいました。

自分としてはこのどっちつかずも大人になりかけた学生の心情としてアリかな、と思っていましたが白黒つけた方が読み物として良かったかもしれませんね。

お読みいただきありがとうございます。

野葡萄
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ドリーム 様

幼児期の親友(大過去)、小学生になって再開した際の思い出(過去)、それらを思い返している学生(現在)をできるだけ滑らかに接続することが今回の目標でした。
さらに先の未来まで意識していただけたとのことで大変嬉しいです。

読み手の性別が分からないことから主人公の性別はあえて書きませんでした。
しかし具体的な遊び(おままごと)を入れる必要があり、結果的に親友は女性だと明記することになってしまいました。
主人公にも詳細があった方が読みやすかったかしれませんね。

お読みいただきありがとうございました。

大丘 忍
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本作の場合に、登場人物は女性であることは推察できましたが、通常は登場人物の性別、年齢などは推察しなくてもわかるようにさりげなく明記すべきだと思います。と考えて私はそのようにしておりますが。

凡人
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 誇張も無く自然で、すらっと読めました。心理描写お上手ですね。
 批評ではなく、自分の感覚との対比に過ぎないんですが、小学校四年の時点なら“親友”という言葉がフィットしますが、幼稚園時代のこととなると、“仲良し”の方がしっくり来るかなと私的には思います。
 
 作者さんの年齢が気になるところですが(かなりお若いという感じはします)、最後の言葉、

>次の再会の日、私は彼女の親友に戻ることができるだろうか。

何処から出て来るのか、そう思う心情の原点の説明が少し有ってもいいかなと言う感じですね。

野葡萄
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大丘 忍 様

自分で読み返してみて、「この主人公どんな人なんだ?」とずっと気になっていては確かに読みずらいかもなと思いました。

ご意見ありがとうございます。

野葡萄
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凡人 様

お褒めいただき恐縮です。

ご指摘の2点について、特にラストの心情の根拠の弱さについてはその通りだと思いました。
時間の‘’流れ”を書きたいがために各時代事の描写に甘さがあったなと反省しています。

お読みいただきありがとうございました。

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