作家でごはん!鍛練場
夜の雨

何かがいる

 大衆食堂でおまえはビールをグラスに注ぐ。
 コップの中で小さな気泡がはじけて消えるのは、何やら人生のささやかな思い出が一つ一つ消えていくような気がする。視線を上げると目の前には薄飴色した合板の壁にビール会社のポスターが貼ってある。赤い洋服を着た端正な顔立ちの女優が、にっこりと微笑み瓶ビールを差し出している。
 まるでおまえに「どうぞ」とでもいっているように思える。
 葉子のどこか母性を含んだ優しげな顔が女優の顔とだぶり、おまえの脳裏を横切った。
 同棲生活から夫婦になって、さほど月日が流れていない。
 携帯電話をポケットから出して彼女から届いている『帰ってきてほしい……』というメールを見る。
 小さなため息をおまえはついた。
 夜も遅く閉店間際のこの食堂にはお客はおまえ一人だけで、亭主は仕事が終わり厨房から出てきてテーブルでたばこを吹かしながら新聞を読んでいる。女将は厨房の中で洗い物を終えて後かたづけをしている。おまえは冷えたビールをグラスに入れたと思ったがぬるくなっていることに気がつく。時間の感覚が麻痺しているのだろうか……。生ぬるいビールの入ったグラスを見ているおまえの横顔を、扇風機のどんよりとした風が撫でてゆく。
 おまえは亭主に声をかけた。
「今夜、泊まれるところはありませんかね?」
 亭主が新聞から顔を上げると「いまからですか?」と言った。
 キューピーのような童顔だが、目は糸のように細い男であった。体は小学生の高学年ほどしかない。厨房にいる女房の方は頬の肉がだぶり、顔はブルドックに似ていた。体も普通の男よりも大きく蚤の夫婦といったところか。
 亭主が女房にいう。
「姫菊はいまからでも大丈夫かな」
「電話をかけてみたら」
 亭主は頷きながらおまえを見て、ばあさんが一人でやっている旅館なもので、といいながら電話をかけてくれた。何やら会話がはずんでいる。
 おまえは立ち上がると窓辺に行った。窓外に目をやると灰白色の満月が鈍く輝いている。視線を落とすと、この村に、バスでやってきた道を眺めた。
 どこまでも暗い道がおまえの目に映った。
 この月ヶ村というところは山深いところにあり、周りは山と畑、田んぼだけの村で、陽が沈むとひっそりと明かりが点在する。それはまるで湖の底にいるような雰囲気であり、月の静かな光に抱かれている孤独な魂のように思える。
 姫菊は今からでも泊まれるというので行くことにした。亭主が送っていくよというので、おまえは会計で旅館の紹介料に札を一枚余計に渡した。

 食堂の駐車場には軽四自動車が停めてあった。
「これで送っていきますよ」
 亭主はそういいながら、軽四をじっと見ている。それにおまえは気がついた。
 まだ新しい軽四で買ったばかりかもしれない。亭主は誇らしげな気持ちになり自慢したいのかも知れないとおまえは思った。
「いい車ですね」おまえはお愛想をいった。
 しかし亭主はむっつりと運転席に乗り込んだ。おまえもあわてて助手席に乗り、着替えと洗面具を入れた鞄を足下に置いた。ノートパソコンが入った鞄はひざの上だ。
 暗い夜道にライトを照らしながら車は走る。
 おまえはライトが当たっている土くれだった一本の道をぼんやりと見ていた。
 何やらどこかで見たような道だった。
 ああそうか、夢の中で見た道かもしれない。子供のころ見た夢……。
 その夢の終わりは何やら哀しい結末が待っていたような気がする。
 今の自分はどうだろうかとおまえは思う。
 おまえの職業は一応作家だが創作の泉の蓄えが枯渇してしまったのか、書けなくなった。そんなときのおまえはあてもなくだらだらとネットを見る。そうすると思わぬ発見をすることがある。珍しいというか変わったホームページにいきつくときがあるのだ。今までにもそういったところからアイデアをもらい小説を書いたことがあった。今回「月ヶ村」に来たのも、ネットでマウスを漠然と動かしていてこの村を見つけた。
 畑とひょろりとした一本道が夜のしじまのなかに続いていた。中天には先ほど食堂の窓から見た満月の他に、覆い被さってくるほど多くの星がある。バスでこの村にやってきた道は、深い闇のトンネルのようだった。いま見ている月と星が見える光景が、なんとも不思議に思えた。
 しばらく行くと道が大きく左に曲がり、畑が途絶えて柳が枝葉を垂れさせているのが目に入った。柳が何本も並んでおり、柳と柳の間から池が見えた。水面は鏡のようで満月が映っていた。
「月ヶ池ですよ」
 押し黙っていた亭主が独り言のようにしゃべった。
 月ヶ池は野球場ぐらいの広さがあった。池の対岸にうっそうと茂った雑木林があり、何やら緑色に光るものがちらちらしていた。おまえは何だろうかと思った。
「大きな池ですね。あの池の向こうに緑色に光るものは何ですか?」
 だれかが緑色のセロハンでも貼り付けた懐中電灯を点けているのだろうか。それとも動物の目が光っているのだろうか。おまえが訊ねても、亭主はヌラリとした赤い唇を舌で湿らせているだけだった。やがてその緑色に光るものは雑木林に消えた。
 そしてしばらくすると「ヒーヒョー、ヒーヒョー」と陰気な口笛のような音がしてきた。あれは風の叫びなのかそれとも獣の啼き声なのか、おまえはいろいろと想像してしまう。
「あれ、何ですかね?」おまえは再び亭主に訊ねた。
「お客さん、この村に何をしに来たのですか?」と、ぼそぼそした声が返ってきた。
「別に目的は無いのですがね、ぶらりと来ただけです」
 おまえは亭主にネットがどうのこうのといってもしかたがないだろうと思った。自分が売れない作家だと話すのも何やらお笑いのようだった。
「ぶらりと来た……。そうですか、この村にはシニグモがいますよ」
「しにぐも、ですか?」
 おまえは訊ね返したが、亭主は何やら独り言のようにぼそぼそしゃべるだけで、はっきりとした言葉は聞こえなかった。そして先ほどの雑木林の奥から「ヒーヒョー、ヒーヒョー」と陰気臭い音が再び聞こえて、おまえは不安になった。
 やがて車のライトの先に明かりの灯った屋敷が見えた。
「ほら、あれですよ。あれが旅館の姫菊です」
 櫟(くぬぎ)林に囲まれた二階建ての屋敷の頂には、望楼がある。変わった作りだなとおまえは思った。
「洋館ですよ」と亭主が言った。
「昔、西洋かぶれだった大名が、この近在で狩りをするときに休憩処として造ったのです。明治になり火事で焼失したんですが株の相場で儲けた人物が買い取って、建て替えましてね。その相場師はあとで大損して家族を道連れに自殺しました。それにしてもなぁ、子供まで道連れにする必要はないと思うがなぁ……」
 亭主は独り言のようにつぶやいている。
「そのひと、子供まで一緒に連れて行ったのですか?」
「ああ、そうです。十歳の女の子と六歳の男の子です。毒を盛って死んだらしい」
 その洋館が月明かりに照らされて青白く見えていた。
 洋館の下まで行き、誰かに見られているような気がして、ふと見上げると望楼の窓で人影らしいものが動いて消えた。
 中に入ると老婆が出てきた。
「お客さんを連れてきましたよ」
「ああ、これはありがてえな」
 老婆は食堂の亭主ににっと笑いかけた。顔の皮膚が乾燥していて、笑うと皮膚が引っ張られるのか、顔中がしわだらけになる。腕にも肉がほとんど付いていなくて、ひからびた棒のようだった。
「あとで、一杯飲んでいくかえ」
「いや、やめておくよ。酒を飲むと背が伸びねぇ気がするんだな。それに車で来ているからな」
 亭主がそういうと、老婆は「ふぇふぇふぇ、この野郎、ウワバミの癖しやがって――」と笑った。
 亭主が帰って、おまえは二階の部屋に案内された。階段そして廊下を歩くと、ぎしぎしときしんだ。床が腐っているのか、かなり緩い。
「この上に望楼がありますが、あそこには登れるのですか?」
「登れるけど、普段は上に行くドアを閉めているよ」
「そうですか、さっき人影を見た物ですから」
 老婆は目尻を下げた。
「鍵を持っているのはわしだけじゃよ」
 首にかけている鍵の束をじゃらじゃらさせながら、取り出して見せた。
 だけどおまえはあまり深くは考えなかった。他に気になることがあったからだ。
「しにぐもって、何ですかね?」
「しにぐも? ああっ、死者に張り付いている蜘蛛のことじゃよ」
「脚がたくさんある蜘蛛のことですか?」
「陰気な眼が八つあって、いつも死者を見つめている蜘蛛のことじゃ」
 老婆は言いながら、天井を見て、にたぁ、と表情をくずしたので、おまえはぞくぞくとして、天井を見たが、そこには何もいなかった。
「死者に蜘蛛が張り付くって、どういう事なのですか?」
「おまえさんはなんにも知らないんだな。死んだ人間が、自分の死を理解するまで張り付くんだよ」
「死んだ人間が、自分の死を理解するまでですか……」おまえはちょっと考えて、「死んだ者が、自分の死を理解しなかったらどうなるのですか?」と訊ねた。
「いつまでも、死に蜘蛛は、そいつに張り付いているよ。死に蜘蛛様もご苦労さんだと思うよ」
「本当ですね」
 おまえは死に蜘蛛に興味を持った。しかし考えてみれば不思議である。この村は偶然ネットで見つけたのだが、ホームページには「死に蜘蛛」というキーワードはなかったはずであった。
 部屋に案内され、風呂は夜中でも入れると説明を受けた。老婆が去ると、おまえはベットに寝ころんだ。
 どうも、この村は変わっているなと思ったが、おまえにはそれが好都合だった。いいしれぬ不安が心を満たしていくが、何やら創作意欲も湧いてきた。この村にしばらくいると、不思議な物語が書けるような気がしてきた。とりあえずは風呂にでもゆっくりと入って、構想でも練るか。それから「死に蜘蛛」に付いても、ネットで調べなければならないな。そう思うとおまえはビニールケースに入っている、部屋の配置図を見て風呂場の位置を確かめた。
 タオルを持って風呂場に行く。
 ガラス戸をガラガラと開けて更衣室に入る。服を脱いでいる間も腐った木の床が踏みしめられてみしみしと鳴る。
 湯殿は結構広いが、この洋館同様痛みが激しい。壁はところどころひび割れペンキがペロンと剥がれている。あちらこちらに黒っぽい黴(かび)のようなものがびっしりと密生している。正面は硝子張りで庭の燈籠が闇の中に見えていた。湯船に浸かりながら、硝子の向こうの闇をぼんやり見ていると、闇の層が幾重にも重なり葉子の顔のように見えた。
 葉子との同棲生活のことが頭をよぎる。二十五歳の時に、居酒屋でのアルバイトで知り合い、付き合うようになった。同棲をするのに時間はかからなかった。三畳一間のアパートにいたおまえは、彼女のマンションに転がり込んだ。親が援助している彼女は、二間にキッチンが付いたマンションに住んでいたのだ。程なくおまえは、趣味で書いていた小説が出版社の公募に入選して、小説家として出発することが出来た。中学生の時から何となく小説家になりたいと思っていた夢が、叶った瞬間だった。高校を卒業してからいろいろな職業を転々として、様々な人間を見てきたことが功を奏したのか、青春のけだるさが描かれているとかの評価を得た。だが、受けたのはその一作だけで、後は先細りになっていった。このままでは駄目になると思い、おまえは出版社を駆け回り営業努力した。そして依頼があればどんな仕事でもした。エロ雑誌の雑文書きから、タレントのゴシップまで書いた。あるとき将棋を題材にした三十枚の短編を書いてくれないかと仕事が入り、将棋のことなど何も知らなかったのに引き受けた。そしてその仕事をわずか五日で書き上げた。そのときは書店に行き、将棋の本を何冊も買って、駒の動かし方や、勝負師の考え方を勉強したものだった。
 しかしそういう努力はしていたが、おまえは心の隅でむなしさを感じていた。自分の好きな物を書いて金を稼げるのなら良いのだが、いまやっていることはそうではなかった。ただ、日々を流されているだけだった。
 葉子の両親にも同棲生活が知られることになり、結婚して、安定した収入のある職業に就いてくださいと泣いて頼まれた。それはおまえの両親からもいわれたことだった。
 三十路を目前にしたおまえは、このあたりが潮時かもしれないと思った。親族だけのささやかな式を挙げておまえたちは新婚生活に入った。おまえはがんばらなければならないと思った。だが、気持ちは空回りするだけだった。それで働き口の面接を次々と受けたが、おまえにやる気が失せているのが見えるのか、色よい返事がなかった。おまえは葉子のことを考え、生活のことを考え、地に足を付けなければならないのに、ふわふわと歩いていた。そして、横断歩道を渡っていたときに強い衝撃を感じた。気が付くと、病院のベットの上だった。葉子が肩を落としている。泣いているのか……。それをおまえの両親が慰めているように思えるが、朦朧(もうろう)としているおまえは、考えようとすれば意識が混沌とするだけだった。

 しかしそれも遠い昔のような気がする。いまはこうして片田舎の旅館の風呂で湯船に浸かりながら、ふつふつと小説のイメージが浮かんでくるのを、おまえは待っている。それも何やら面白い物が書けそうな気がした。これを書くと、何もかもがうまくいくのではないか。
 闇の中から蛾が現れて硝子面に留まった。大きな蛾だった。珍しいので、湯船からあがると蛾がいる所まで出向いた。分厚い硝子を隔てて、掌ほどもある、異様に大きな蛾が息づいていた。触角が周りを警戒するようにゆっくりと動いている。その触角の動きが止まった。どうしたんだろうとおまえが思うと、上の方からムカデが降りてきた。それも蛾に負けず劣らず大きなムカデだった。蛾はまるで蛇ににらまれた蛙のように呼吸さえ止めているように見える。刹那、ムカデが蛾に飛びついた。蛾はぱたぱたと大きな翅をはためかせた。鱗粉が辺りにふわふわと漂う。それが風呂場の白熱電球の光で七色の蛍光色にキラキラと輝いた。蛾に飛びついた最初は素早い動きを見せていたムカデだったが、次第に動きが緩慢になってきた。やがてムカデは体を痙攣させて動かなくなった。すると蛾はムカデの上に覆い被さり、口吻をのばしてムカデの体を探り、柔らかそうな肉のところに刺し込んだ。体液を吸収し出した。するとどうだろうか、薄茶色した蛾の色がだんだんと毒々しい緑に変色しだした。やがて体液を吸われたムカデは硝子面からぽとりと落ちると、蛾はぱんぱんに膨らんだ緑色の腹部を息づかせながら、おまえの目の前からばたばたと飛び去った。
 おまえは下に落ちたムカデを見た。ムカデは燐のような青白い炎に包まれながら静かに姿を消していくところだった。不思議な光景をおまえはじっと見ていた。
 すると、背後で音がした。振り返ると、ガラス戸がガラガラと開けられ「お父ちゃんか?」という声が聞こえた。そこには子供が立っていた。六歳ぐらいの男の子である。おまえは何のことかわからずに男の子の顔を見た。そして顔がどことなくおかしいのに気がついた。
 まさか、この男の子は自殺した相場師の息子なのか?
「お父ちゃんか?」男の子はもう一度訪ねた。
 おまえは男の子と話さなければならないと思い近づいたが、喉をついて出た言葉は「いいや、違う。ぼくはおまえの父親ではない」というものだった。
 男の子は白く濁った眼をしばらくおまえの方に向けていたが、ガラス戸を閉めると出て行った。
 しまったと思い、おまえはタオルを腰に巻いているだけの姿で男の子を追いかけたが、もう彼の姿は見えなかった。
 おまえは服を引っかけると、部屋に戻った。
 冷蔵庫にある缶ビールを出してベッドに腰掛けて飲んだ。気持ちの悪い蛾、燐のように燃えるムカデ、そして「お父ちゃんか?」と訊ねに来た幼い男の子。彼は死んだ相場師の息子なのだろうか。眼が白く濁っていたのは毒を呑んで亡くなったからなのだろうと、お前は考えた。
 おまえはこの不思議な村のことを小説に書こうと思い、ノートパソコンを鞄から出した。電源を入れてワードを立ち上げた。キーボードを叩いた。

 ――古い大衆食堂
 ――闇の中に続く古道
 ――灰白色の満月と降るような星々
 ――死に蜘蛛
 ――大きな池と、緑色に光るもの悲しい啼き声を出す得体の知れないモノ
 ――奇怪な洋館
 ――変わった村の住人
 ――体液を吸う大きな蛾と、青白く燃えるムカデ
 ――死を自覚せずに、父親を探していた男の子

 それらのキーワードを見ながら、タイトルを考えた。何がいいだろうか……。そしてふと頭の片隅に浮かんだ言葉を書いてみた「ナニカガイル、なにかがいる、何かがいる」うん、これがいいかな……「何かがいる」というタイトルにした。
 それから「月ヶ村」のホームページを開いた。
「死に蜘蛛」の項目を探してみたが、やはりなかった。ホーム内検索というところに「死に蜘蛛」と入れてエンターを叩いた。
 すると、「死に蜘蛛」それに「死者の記録」と、二つのキーワードが真っ暗な画面に赤い文字で浮き上がった。
 隠されたページが開いたのだ。どうやらミラーになっていたようだ。怪しげなホームページにはこういったミラーサイトがよくある。
 おまえは唇を舐めると、「死に蜘蛛」をクリックした。
 すると「上・ヲ・見・ロ!」とあったので、ドッキとして、天井をゆっくりと見た。しかし、そこには薄暗い漆喰の天井が広がっているだけだった。ほっと息を吐いた。
 次に、「死者の記録」という文字をクリックした。
 「死亡記事」「葬式」という項目があった。
 おまえは「死亡記事」というところを開いた。○月○日午後二時頃、○○の県道で横断歩道を歩いている最中に飲酒運転のトラックに跳ねられ死亡。そしておまえの名前と年齢が書いてあった。おまえの心臓は血液が逆流したかと思うほど、痛くなった。背筋に悪寒が走り、氷の手で撫でられたような気がした。額に汗がにじみ出てきた。頭の中に何かの映像がカットバックした。動悸が一度に激しくなった。そんな馬鹿な……。しかし、思い当たる節があった――。あの横断歩道なのかと思った。おまえは思考停止に成りながらも、震える指先で、次に「葬式」というところをクリックした。そこの祭壇にはおまえの遺影が飾ってあった。家族が哀しんでいる写真もある。両親も妻の葉子も哀しそうな表情で写っていた。おまえは唇が乾いた。そして口の中が粘っこくなったので、唾液を出して口の中を潤し、唇の周りをしきりに舐めた。
 おまえは落ち着こうと思いながら、パソコンの電源を切ると、まぶたの上を指先で押さえるように揉んだ。眼球が温かくなり気持ちが落ち着いたので、寝ころんで天井を見た。とたんにおまえは飛び上がって驚いた。先ほどまでいなかったのに、漆喰の天井に、大きな蜘蛛が張り付いていた。畳半畳ほどもある灰色の蜘蛛で、緑色の単眼にはおまえが映っていた。じっとおまえを見つめている。

 おまえとおれの視線が絡まった。おれは頭胸部にある八つの単眼で、じっとおまえを見つめながら微動だにしなかった。しかし、全身にある産毛でおまえの気配を察知していた。いや、おまえの心の中までおれは観察していたというか、覗いていたのだ。おまえの心の動きの一部始終をおれは見つめていた。おれは愉快になった。こいつにはおれが見えているのだ。それは自分の死を自覚したからに他ならない。もう一息だ。もう一息で、こいつの魂が煩悩から解き放たれる。おれはその魂を糸で包んで繭のようにして、霊界と通じている死神に渡せばよい。それがおれの仕事だ。だけどここからが長い戦いになる場合がある。あの老婆も、大衆食堂の夫婦も、そして先ほどの少年も、いまだに魂は煩悩から解き放たれていない。
 死んでいても成仏できない魂もいる。成仏することよりも生前の世界に未練があり、死にきれないのだ。
 この屋敷にいた幼い少年は自殺した相場師がかわいがっていた息子で、自殺の道連れにされたのだ。彼も成仏できないでいる。それは父親が、一緒に黄泉の世界を渡らなかったからだ。子供は生きているのか死んでいるのかわからなくて、父が帰ってくるのを屋敷で待っている。望楼で誰かが屋敷に近づいてくるたびに父ではないかと探りに行くのだ。その息子にもやはり死に蜘蛛は張り付いている。彼らに付いている死に蜘蛛はただ、黙って張り付いている。いや、最初のうちは本人に自覚させようとしたのだろう。だが、魂に死を自覚させるのは並大抵のことではない。あの時、父親はどうして息子の手を引いて、黄泉の世界にわたらなかったのだろうか。それは自分に深い罪の意識があったからなのかもしれない。だがそのおかげで、幼い息子は、いまだに黄泉の世界に行けないで父親を探している。幼い息子についている死に蜘蛛はある意味、一瞬のチャンスを逃したのかもしれない。一瞬のチャンスを逃せば死に蜘蛛にとって永遠のような時間を無慈悲に過ごさなければならなくなる時もある。
 おれはこの男がおれに気が付いたいまのチャンスを逃してはならないと、鎌状になった口の鋏角(きょうかく)を開けたり閉じたりしながら、蟹の甲羅のような形をした頭胸部をゆっくりと動かし、むっちりとした紡錘形の腹部を震わせて威圧を与えた。
 小心者のおまえは耐えられなくなったのか、急にそわそわしてトイレに立った。おれも八本の脚で天井を這って付いていく。おまえは自分だけトイレに入るとすぐにドアを閉めた。おれは壁を突き抜けてそのままトイレに入り、天井からおまえの小用を見ていた。電灯の上におれが張り付いているので、光が遮られ、おまえの上に暗い影を落としている。先ほどまではおまえにはおれの影などは見えなかった。だが、自分の死を自覚してしまったらおれの存在が見えてしまう。八本の脚の影が動めいているのがおまえには見えている。おまえは緊張して、小用も出来ずに水を流すとトイレから出た。おれも天井を這いながらおまえの後を付いていく。おまえは部屋に戻るとおどおどしながらポケットから携帯電話を取り出した。
 携帯には『帰ってきてほしい……』とメールが届いている。
 これは葉子から来たものだ。
 この「帰ってきて欲しい……」は、生きて自分のところへと戻ってきて欲しいという祈りが込められている。
 おまえは妻の葉子に電話をかける。
 電話はつながり、彼女が出た。
 何やら驚いているのはおまえの携帯電話からかかってきたのがわかったからだろう。
「もしもし――」彼女の驚きと不安に揺れる緊張した声が聞こえる。
 おまえは彼女の優しいまなざしを思い浮かべた。
 おまえは電話が通じたので、安堵し、喜んで返事をした。
「僕だ、僕は生きている――!」
「もしもし……」
「僕だ、葉子、僕は生きている――!」
「もしもし……」
 おまえの電話はつながったが、相手に、通じていないことに気が付いていない。死者と生きている者が、電話など出来るはずがない。電話口から陰気な啼き声が聞こえてきた。
「ヒーヒョー、ヒーヒョー」
 おまえは身震いすると、電話を切った。
 おれはもう一度、啼き声を出してやった。
「ヒーヒョー、ヒーヒョー」
 おまえの顔は恐怖にゆがみ、そして惚けたように表情がなくなった。そのとき、おれの頭の中にものすごい勢いで記憶が流れ込んできた。おれは心の中で笑った。これでこの男の魂はもらった。あとは魂を繭にすれば良いだけであった。男の魂が体から離れて浮遊し始めたので、おれは魂を捕らえると糸を出してくるくると絡めてゆき、魂の繭を作った。それを腹の下に抱え込んだ。
 あとは、月ヶ池の森にいる死神に、魂を渡せばおれの仕事は終わりだ。おれは仕事を成し遂げた充足感に包まれた。部屋を出る前に振り返ると、すでに男の姿はなかった。彼の姿だけでなく持ち物も消えていた。もともと肉体は焼かれて朽ちている。精神の力によりこの闇の地で実体化していただけである。だから死を自覚して、魂が精神から浮遊してしまえば何もかも消滅する。
 おれは姫菊を出ると森に向かった。青白い月光を浴びながら月ヶ池の近くを通りがかると、破損して動けそうもない軽四自動車が停まっていた。ボンネットが浮き上がり運転席はつぶれていた。この車に乗っていたらとてもじゃないが助からないだろう。その横で茣蓙(ござ)を敷いて、食堂の亭主が女房と酒盛りをやっていた。この夫婦は軽四自動車に乗っていて事故を起こし死んだに違いない。たぶん現世では死に物狂いで働いて自分の食堂を持とうとしていたのだろう。それがあだとなって、交通事故を起こしたのかもしれない。そんな彼らに自分の死を自覚して、黄泉の世界に行けというのは、酷というものだろう。彼らの頭の上には、二匹の死に蜘蛛が、ガス風船のようにふわふわと浮かんでいた。ときたま風が吹き柳の枝葉が揺れると、死に蜘蛛もゆらゆら揺れて離れそうになるが、彼らは糸を亭主や女房の首に巻き付けているので、飛ばされる心配はなかった。おれも先ほどまでは男の首に糸を絡めていた。そうしないと見失うときがある。亭主が何やら踊り出すと、上にいる死に蜘蛛までが踊っているように見えた。おれは彼らの真横を通って、月ヶ池を回り込んで森に入っていった。
 深い森を移動していると一角が開けており、そこだけ月光が白くまどろんでいた。
 死神はそこにいた。
 黒いフードに黒マント、底の厚い黒靴を履いている。額は広く、目は充血したように赤い。鷲鼻は死臭を探るためか。口は大きく乱杭歯が覗いている。手が異常に大きくて指先が長いのは魂を捕まえると逃がさないようにするためなのか。
「魂を持ってきた……」おれがいうと、死神はうなづいた。
「首尾良くいったようだな」
「あたりまえだ」
「近頃の人間は煩悩が多すぎてなかなか死にきれない者が多い」
「くだらん愛情と、文明がそうさせているのだろう」
「深夜の二時が近づいて来た。集めた魂を昇華させて、今夜の祭(まつ)りごとは終わりだ」
 死神は静かに言った。
「じゃ、おれは人間社会にいって獲物を見つけてくるよ」
「熱心だな」
「人間の心の中を観察するのが面白くてね」
「生きているうちから、張り付くとは……」
「死神に言われてもな」
「死に蜘蛛とは、よく言ったものだ。生きている人間を死に追いやるとは、無慈悲な奴だ」
「心が弱っている奴が死んだ後に、手を添えて、早く自覚させてやるだけだよ。あんたは、死んでいるんだよとな」
 おれは死神から離れて、森から出ると小高い山の上にある古く使われていない鉄塔へと向かった。やがて鉄塔に着くと登り始めた。一番上まであがると結構な風が吹いていた。おれは尻から糸を吐き出した。糸は風にあおられて上の方にのらりのらりと伸びていった。頃合いを見計らって強い風が吹いたときに、鉄塔から八本の脚を離した。体が風に一気に持ちあげられた。グライダーのように上昇してから、風の流れに乗った。
 そのとき死神がいた森の奥から人間の魂が昇華されて天に昇っていくのが見えた。何千という魂が月明かりに照らされて柱のように天に昇っている様は厳かで神々しくすらあった。
 おれは風の流れに乗り、死神の行った儀式から遠く離れていった。
 夜の世界を飛んでいると、月やら星やらの中に吸い込まれそうな気がする。おれの体は星屑となって飛んでいく――。
 一体いままでに何人の人間に恐怖を与えただろうか。死を自覚しない人間に自覚させるという役目はおれのような者には合っている。
 山を越え村を越え、町を越えた。
 どんどん飛ばされていく――。
 そして大きな街が見えた。
 おれは高度を下げた。
 人々の生活が見えてくる。
 真夜中だというのに、あちらこちらの電灯がともっている。
 おれの頭の中にはあいつの記憶が残っていた。
 おれはにやりとして、ひとりの女を捜した。
 葉子を捜した――。
 絶望している、葉子を捜した――。


   了

何かがいる

執筆の狙い

作者 夜の雨
ai202121.d.west.v6connect.net

二人称小説です。
この手の小説は珍しいのではないかと思います。
後半で語り手が出てきて一人称になります。
こちらの作品は以前投稿しています。

コメント

小次郎
58-190-89-29f1.hyg1.eonet.ne.jp

すごいですね。
面白い。
二人称書ける人って珍しいのではないでしょうか? 後から、一人称に変わるのも不自然さは全くないし。
すごすぎる。
プロ級だと感じました。
ただ、隠されたページが開いて見えたらミラーサイトって事になるなんでしょうか?

中小路昌宏
softbank060105254233.bbtec.net

 お早うございます。

 目が覚めていちばんに、作家でごはんを覗いてみたら、夜の雨さんのお名前が眼に留まったので、読んでみました。

 確かに2人称で作品を描くというのも一つの試みとして興味深いですが、それよりも死に蜘蛛というものの存在や、登場人物が、成仏出来なくてさまよっている人たちばかりというのも、面白い設定ですね。

 楽しませていただきました。

夜の雨
ai195031.d.west.v6connect.net

小次郎さん、ご感想ありがとうございます。

>二人称書ける人って珍しいのではないでしょうか? 後から、一人称に変わるのも不自然さは全くないし。<
私もプロの方が書いた二人称視点の小説は読んだことがありません。
この作品は一応ホラー系に入ると思いますが、何か面白い方法はないかと題材に合った方法を考えていて、二人称を思いつきました。
途中から一人称に変化するのはホラーらしくてよいのでは。

>ただ、隠されたページが開いて見えたらミラーサイトって事になるなんでしょうか?<
なるほど、これは気が付きませんでした。
このエピソードは掘り下げたら不気味になりそうです。


ありがとうございました。

夜の雨
ai195031.d.west.v6connect.net

中小路昌宏さん、ご感想ありがとうございます。

 >目が覚めていちばんに、作家でごはんを覗いてみたら、夜の雨さんのお名前が眼に留まったので、読んでみました。<
おはようございます、それにしても早起きですね。
それに起きてすぐに「作家でごはんを覗いてみたら」とは、運営さんも喜ぶと思います。

>確かに2人称で作品を描くというのも一つの試みとして興味深いですが、それよりも死に蜘蛛というものの存在や、登場人物が、成仏出来なくてさまよっている人たちばかりというのも、面白い設定ですね。<
二人称は手段です。
内容そのものなら、ほかの視点でも同じ題材のものは書けると思いますが、ただ、二人称で描くのが一番この作品には合っているのではないかと思いました。
「死に蜘蛛というものの存在や、登場人物が、成仏出来なくてさまよっている人たちばかり」「面白い設定ですね」描きたいのは、こちらで、それらを表現するためにそれぞれに個性やら世界観のイメージに合わせた描写等をやりました。

「楽しませていただきました。」こう言っていただけると嬉しいですね。


ありがとうございました。

金木犀
sp49-98-115-67.msd.spmode.ne.jp

面白かったです。

死後の世界かと思ったのですが、最後の描写をよむと、どこかの森に死を自覚できない死者は存在している、みたいな感じですかね。

夜の雨
ai193008.d.west.v6connect.net

金木犀さん、ご感想ありがとうございます。

>面白かったです。
ありがたいお言葉です。

>死後の世界かと思ったのですが、最後の描写をよむと、どこかの森に死を自覚できない死者は存在している、みたいな感じですかね。<
ああ、なるほど。
あまり深く考えないで書いていました。
一応現世と黄泉の世界のあいだのところにある場所というイメージで書いておりましたが、ふつうに読むと「怪しい森」というようなところになってしまいますね。
ということになると、この「怪しい森」に、ふつうに生きている人間が入ったらどうなるのでしょうか。
ということで、またまた、新作ができそうです(笑)。

ちなみに、「現世と黄泉の世界のあいだのところにある場所」こういったところなら、そこから現世にいくとしたら、それなりの描写をしておいたほうがよさそうですね。


ありがとうございました。

ドリーム
softbank126077101161.bbtec.net

拝読いたしました。


これが二人称ですか。
慣れないせいか違和感がありますが、これもひとつの技法ですね
物語も不思議で成仏出来ずに彷徨う魂「お前は死んでいるよ」と自覚させる為でしょうか。
それが死に蜘蛛の役目なのでしょうか。
このような小説を書けるなんて羨ましいです。
お疲れ様でした。

夜の雨
ai203007.d.west.v6connect.net

ドリームさん、ご感想ありがとうございます。

>これが二人称ですか。
慣れないせいか違和感がありますが、これもひとつの技法ですね<
プロが書いた二人称小説を読んだことがないのですが、「一人称」ではないし、さりとて「三人称」とか「神視点」でもないし、他人(語り部)が主人公(標的)をというか、主人公(語り部)が他人(標的)の心(頭)の中を覗き込んでいたり、周囲の状況を説明しているので、二人称だと思いますが。のちに語り部が正体を現して、一人称になりますが。
特殊な視点ですね、どちらにしても。

>物語も不思議で成仏出来ずに彷徨う魂「お前は死んでいるよ」と自覚させる為でしょうか。
それが死に蜘蛛の役目なのでしょうか。<
死に蜘蛛さんも大変な役目ですよね。
死を自覚していない者に張り付いていて、自覚させなければならないので。
まあ、役得として相手の頭の中を覗けるという事になりますが。

>このような小説を書けるなんて羨ましいです。
お疲れ様でした。<
創作しているときは楽しいですがね。
こちらの作品はまだ、方向が単純だったのでお疲れというほどでもないのですが、続きを書こうとすれば、疲れます。
たぶん最初に書いたときに、死に蜘蛛が葉子のところへ飛んでいくというくだりで、ラストとしているので、それでまとまってしまっているのでしょうね。


ありがとうございました。

凡人
sp49-96-242-212.msd.spmode.ne.jp

読ませて頂きました。早々拙作にコメント頂きながら遅くなって申し訳ありません。

 面白かったです。最初は読みにくいと思いました。客の男、その妻、店主、女将その辺の誰が誰でどんな関係なのか若干混乱しました。読み進んでみるとその辺は直ぐに解消しました。そして、誰の視線で書いているかが判明した時点で、二人称の疑問も解消しました。

「笑うセールスマン」とかタモリが進行役を勤めるTV番組「世にも不思議な物語」私好きなんです。「世にも不思議な物語」のエピソードには、面白いと思うものも有れば下らないと思うものも有ります。

 御作のテーマ自体は、死を自覚しない死者にそれを自覚させるという話で、良く有ると言えば良く有るテーマです。もし描写や構成が粗雑だったら、一蹴されるような作品になってしまうと思いますが、描写も構成も巧みなので面白い作品に仕上がっているのだと思いました。

 私は技工に走った文章よりもシンプルな表現を好みます。そういう意味で、上手いとは思いながらも自分の目指す方向とは違うと思うものも有りますが、夜の雨さんの文章は自分の鍛錬に大いに参考とすべきものと思いました。

夜の雨
ai194069.d.west.v6connect.net

凡人さん、ご感想ありがとうございました。

 >面白かったです。最初は読みにくいと思いました。客の男、その妻、店主、女将その辺の誰が誰でどんな関係なのか若干混乱しました。読み進んでみるとその辺は直ぐに解消しました。そして、誰の視線で書いているかが判明した時点で、二人称の疑問も解消しました。<
こちらの作品は5年前に鍛練場に投稿しました。
さらに5年さかのぼり、初投稿です。
ということで三回目が今回という事になります。
初投稿のときにほとんど出来上がっていて、二回目三回目では細かいところを修正しただけですが、それでも皆さんに感想をいただくとなるほどなぁという、新しい発見があります。
このあたりが鍛練場の良いところだと思います。

二人称小説で、そのうえ異界のような世界を描いているので、導入部は戸惑う方がいるようです。
それでも読み進めることができるのは、個性的なキャラクターと怪しい世界観からやばそうという雰囲気が漂っているからなのではと、天上に張り付いている死に蜘蛛が葉子の頭の中を覗き込みながらうなずいております。
ということで、死に蜘蛛が葉子のところにやってきて、彼女を観察していると葉子がこの小説を読んでいる最中だったわけです。
サイドストーリーを即興で書きました(笑)。

>「笑うセールスマン」とかタモリが進行役を勤めるTV番組「世にも不思議な物語」私好きなんです。「世にも不思議な物語」のエピソードには、面白いと思うものも有れば下らないと思うものも有ります。<
「笑うセールスマン」とか「世にも不思議な物語」、これらのドラマはむかし観ていました。
最近も「世にも不思議な物語」をテレビでやっていたので、録画してあります。まだ観ていません。

 >御作のテーマ自体は、死を自覚しない死者にそれを自覚させるという話で、良く有ると言えば良く有るテーマです。もし描写や構成が粗雑だったら、一蹴されるような作品になってしまうと思いますが、描写も構成も巧みなので面白い作品に仕上がっているのだと思いました。<
すでにあらゆる物語が、いままでに小説やらテレビやら映画、演劇等で作られていると思います。したがって、同じような作品でも作り手により、どこまで掘り下げて描くかという事になるのでは。
今回は蠟燭を灯しながら原稿用紙に万年筆で書きましたからね。
その原稿用紙に死に蜘蛛のうごめく脚の影やらが映りこんできて、たいそう描くのがはかどりました。

>私は技工に走った文章よりもシンプルな表現を好みます。そういう意味で、上手いとは思いながらも自分の目指す方向とは違うと思うものも有りますが、夜の雨さんの文章は自分の鍛錬に大いに参考とすべきものと思いました。<
凡人さんの「壁に描く」はなかなかよかったですよ。
ラストであのオチになったときは、「うまいこと、やったなぁ」と思いました。


ありがとうございました。

飼い猫ちゃりりん
dw49-106-174-167.m-zone.jp

夜の雨様
いつもながら良く書けていると思うのですが、二人称の狙いってなんですか? 変なこと聞いてすんません。

飼い猫は書いたことないけど、やってみたいような気もする。まあ大失敗すると思いますが。

夜の雨
ai225211.d.west.v6connect.net

飼い猫ちゃりりんさん、ご感想ありがとうございました。

>いつもながら良く書けていると思うのですが、二人称の狙いってなんですか? 変なこと聞いてすんません。<
ホラー系の映画などで、突然オバケや幽霊、怪物のたぐいが出てきて驚かすという場面があるでしょう。
「あれ」と、関係がある演出(テクニック)です。
導入部からの「語り部」が二人称で「おまえ」といっている「態度がでかい奴」が「誰だかわからない」で、話は進んでいきます。
そしてこの物語の世界は「死に蜘蛛」という「死神」の一種がいます。
死を自覚していない者に張り付いていて、自覚したときに「魂を繭にして、死神のところへ持っていく」という仕事人です。
ということで、「死に蜘蛛」が主人公です。
しかし、この死に蜘蛛が最初から「こういうことをやっています」と、読み手に説明していたのでは、演出上、面白くありません。
ミステリーとか刑事ドラマなどでもあるでしょう。
殺人事件が起きた。
しかし、犯人がわからない。
最初から犯人がわかるような演出をする作品もありますが。
たいがいは、後半で犯人がわかります。
これと似たようなものです。
映画であれば視聴者、小説であれば読者を楽しませるために、最初は犯人が誰だかわからないようにしておいて、後半で意外な人物が犯人だったりします。
これが、演出です。
私が書いた作品の場合は、二人称の演出の他に登場人物の個性とか、場面背景の情景とかを少し凝った文章で書いています。風呂での場面を読めばわかると思いますが。

要するに、今回のように、効果的に死に蜘蛛が出てくる演出が、二人称の小説です。
この二人称から、一人称で正体を現すと、効果てきめんです。
ホラーとかミステリー向きの視点だと思います。

文学作品とか恋愛物でも使い方しだいでは、効果が出るかもしれませんね。
今のところ、考えたことはありませんが。
また、機会があれば、プロが書いている「二人称小説」を読んでみたいと思います。
どういった使い方をしているのか。

>飼い猫は書いたことないけど、やってみたいような気もする。まあ大失敗すると思いますが。<
ここは鍛練場なので、冒険は、どんどんやるべきだと思いますが。


ありがとうございました。

小説は自ら書くもの、絵は楽しく見るだけの
softbank060111177183.bbtec.net

以下、ネタバレあり。

二人称作品は、読んだことあるような、ないような。
これといった記憶がないので、本当に読んでないのか、読んだけど忘れたのか。
分からない。
それほど珍しい二人称。だが本作では成功してますね。
内容も面白く、二重にお得感が。星三つです。
蜘蛛はキングの「IT」だったっけ? あれにも出てましたね。
キングの場合もそうだけど、何故、蜘蛛なんだろう?
教えてくれれば嬉しいです。
夜の雨さんの本があれば買いますね。並の作家より面白い。
次を楽しみにしてます。

夜の雨
ai193042.d.west.v6connect.net

小説は自ら書くもの、絵は楽しく見るだけのさん、ご感想ありがとうございます。

>二人称作品は、読んだことあるような、ないような。
これといった記憶がないので、本当に読んでないのか、読んだけど忘れたのか。
分からない。
それほど珍しい二人称。だが本作では成功してますね。<

二人称は私も読んだことはありませんが、こちらの作品では、他人が自分を名乗らないで主人公のことを語っています。
語っているというよりも、頭の中をというか心情を覗いているという感じですが。
死んでいることを自覚してくれないかなぁ、と思っているわけです。
自覚してくれたら、魂が本体を離れるので、それを糸で包んで繭にして、死神のところへと持っていく。
という仕事人の蜘蛛なのですが。

内容も面白く、二重にお得感が。星三つです。
>蜘蛛はキングの「IT」だったっけ? あれにも出てましたね。
キングの場合もそうだけど、何故、蜘蛛なんだろう?
教えてくれれば嬉しいです。<
キングの「IT」は映画を観ていませんね。
小説も読んでいません。
私の作品での「蜘蛛」は、「糸」を出すことができるので、首に巻き付けてどこまでもついて行きます、という事ができるので。ある意味、夫婦よりも木綱がある。風が吹いたらふわふわ揺れて面白いし、絵になる。糸を吐くと、空も飛べるしなぁ。

>夜の雨さんの本があれば買いますね。並の作家より面白い。
次を楽しみにしてます。<
趣味で楽しんでいきたいと思っています。
また、投稿できたらやります。


ありがとうございました。

fj168.net112140023.thn.ne.jp

拝読しました。
秀作ですね。
基本はアンブローズ・ビアスの「アウル・クリーク橋の一事件」系 奇妙な味と言いましょうか。それをモチーフに描かれた映画「ジェイコブス・ラダー」や「ステイ」のテイストもあり、尚「シックスセンス」および「サイレント・ヒル」の一場面も浮かんでくる。
この手の物語は、映像では描き安いが、文章にすると難しいのです。読者がこんがらがってしまう。が、その混乱を作為的に描くのも作家冥利に尽きるところですが……あえて二人称にしたのはその為ですかね。
お疲れ様でした。

夜の雨
ai225136.d.west.v6connect.net

凪さん、ご感想ありがとうございます。

>基本はアンブローズ・ビアスの「アウル・クリーク橋の一事件」系 奇妙な味と言いましょうか。それをモチーフに描かれた映画「ジェイコブス・ラダー」や「ステイ」のテイストもあり、尚「シックスセンス」および「サイレント・ヒル」の一場面も浮かんでくる。<
ビアスはまったく知らなかったのでウィキペディアで調べました。
>代表的な作品に、『悪魔の辞典』(The Devil's Dictionary)、短編小説「アウル・クリーク橋の一事件(英語版)」(An Occurrence at Owl Creek Bridge)がある。人間の本質を冷笑をもって見据え、容赦の無い毒舌をふるったことから、「Bitter Bierce」(「辛辣なビアス」)と渾名された。<
なるほどなぁと思いました。
>人間の本質を冷笑をもって見据え、容赦の無い毒舌をふるったことから、<
これですね、拙作の「何かがいる」もこの手の小説になります。
そうなってくると、エピソードを変えれば、ほかにも二人称で面白そうなものが書けそうです。
「シックスセンス」は前に投稿したときに感想で書かれている方がいました。
今回ご紹介いただいた映画は観ていないので、不思議な気もしましたが、テレビ等の録画をしたままで、埋もれてしまっているようです。何本か録画した記憶があります。

>この手の物語は、映像では描き安いが、文章にすると難しいのです。読者がこんがらがってしまう。<
たしかに映像と小説の文章では観る側と読む側で、理解度が違ってきます。
映像は音楽やら効果音がありますし情報を伝えるには優位ですよね。

>が、その混乱を作為的に描くのも作家冥利に尽きるところですが……あえて二人称にしたのはその為ですかね。<
たしかに、導入部から中盤は作為的に描いています。
それを過ぎると、読み手の方にもうすうす気が付くだろうとは思いますが。
二人称から一人称に変わるところが面白いと思っています。

凪さん、いろいろと詳しいですね。


ありがとうございました。

fj168.net112140023.thn.ne.jp

夢落ち系の奇妙な味的物語は、「落日の眩耀」という題名で2ヶ月程前にこちらに投稿しているのですが、誰からも感想をもらえませんでした💦4000文字強のショートショートです。よかったら探してみて下さい。

夜の雨
ai226044.d.west.v6connect.net

凪さん。
「落日の眩耀」2022-10-06 04:09
確認しました、あとで感想を書いておきます。

fj168.net112140023.thn.ne.jp

ありがとうございます。
私の場合は、一人称→三人称→一人称
という構成です。

えんがわ
KD106154143211.au-net.ne.jp

飲み込めなかったのは、最初あたりで、主人公(小説家)の性別が良くわからなかったところです。
途中まで「おまえ」は女性なのかな? と思って読んでしまいました。


そこを除けば、とても丁寧に書かれた上手な作品だと思います。

特に途中の、蛾とムカデのシーンが、微妙にグロテスクで、でも美しさも感じて、圧巻でした。

蜘蛛が最期に何者かに捕食されるシーンとか書いても、面白そうですね。蜘蛛目線で捕食されていくむごたらしさとか書いたら。

不気味さとミステリアスさとちょっとした昭和ロマンみたいなのを感じる、すごい雰囲気のある作品だと思います。

最近の夜の雨さん、凄いですね。ほんと。

夜の雨
ai193183.d.west.v6connect.net

えんがわさん、ご感想ありがとうございます。

>飲み込めなかったのは、最初あたりで、主人公(小説家)の性別が良くわからなかったところです。
途中まで「おまえ」は女性なのかな? と思って読んでしまいました。<
最初から正体がわかると、あとの「一人称」の効果がないというか、演出上、導入部は語り手が誰だかわかりにくくしています。

>そこを除けば、とても丁寧に書かれた上手な作品だと思います。<
この導入部、もっとうまく書く方法がないのか考えてみますが、ちょっとむつかしい。

>特に途中の、蛾とムカデのシーンが、微妙にグロテスクで、でも美しさも感じて、圧巻でした。<
このシーンは絵になりますね、作者の私も気に入っています。

>蜘蛛が最期に何者かに捕食されるシーンとか書いても、面白そうですね。蜘蛛目線で捕食されていくむごたらしさとか書いたら。<
やはりこれですよね、死神の代理人である「蜘蛛」がほかのモノに捕食されるというエピソード。
たしかにそれを蜘蛛目線で描くとよいですねぇ。
さすがです、えんがわさんは。
こちらの作品、もし続きを書くとしたら、蜘蛛がほかのモノに捕食されるシーンを描きたい。

>不気味さとミステリアスさとちょっとした昭和ロマンみたいなのを感じる、すごい雰囲気のある作品だと思います。<
うまいこと言いますね、昭和ロマンとは、

>最近の夜の雨さん、凄いですね。ほんと。<
素直にうれしいです。


ありがとうございました。

のべたん。
sp49-104-33-240.msf.spmode.ne.jp

すごく良かったです。

二人称にした理由が分かったとき、衝撃を受けました。

設定や描写などを読みながら、丁寧に作られたことが分かります、どこかのホラー短編集に掲載されていてもおかしくない出来で、とても勉強になりました。

夜の雨
ai193147.d.west.v6connect.net

のべたん。さん、ご感想ありがとうございます。

>二人称にした理由が分かったとき、衝撃を受けました。<
こちらの作品は、二人称から一人称に転換するときが見せ場です。
その前に伏線として背景描写等があります、風呂場のシーンほかです。
書き方(落とし方)にもいろいろありますね。

>設定や描写などを読みながら、丁寧に作られたことが分かります、どこかのホラー短編集に掲載されていてもおかしくない出来で、とても勉強になりました。<
怪しい雰囲気を描きつつ人間ドラマを底のところに置いておき、正体を現すのが、なるほどと思う怪物といったところでしょうか。

私も皆さんの感想を読み、いろいろと勉強になります。


ありがとうございました。

安倍統一
softbank060111189114.bbtec.net

ネタバレあり。

 安倍統一にあるコメントを書いてて気付いた。
 二人称作品は結構ある。
 読者に語りかける形の二人称に限られるが。
 本作品のように、作中人物に仕掛けられた二人称というのは、やっぱり読んだことがない。
 かなり珍しく、その点だけでも評価出来る作品ですね。

夜の雨
ai201036.d.west.v6connect.net

安倍統一さん、ご感想ありがとうございます。

>ネタバレあり。<
ネタばれしていても、かまいませんが。
読むほうは、楽しみが少なくなるかな。  

 >安倍統一にあるコメントを書いてて気付いた。
 二人称作品は結構ある。<
あまり読んだことがなかったので、気が付かなかった。

 >読者に語りかける形の二人称に限られるが。<
あるような気がします。
これは読み手を小説の中に引き込むために、やっているのでしょうね。

 >本作品のように、作中人物に仕掛けられた二人称というのは、やっぱり読んだことがない。
 かなり珍しく、その点だけでも評価出来る作品ですね。<
これは、二人称でなければ書きにくい題材なのですが、描写等で世界観を作ったのもよかったのではないかと思います。


ありがとうございました。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内