作家でごはん!鍛練場
南の風

ダウ船が運ぶもの

 空は青く晴れているが、うねりがある。
 二本マストの帆船が、山に登り谷に落ちる。
 舳先がしぶきで包まれ、真っ白になる。
 船体は大きく右に傾き、それに抗うために男たちが左舷から身を乗り出す。それでも船は強風に押されて右へ右へと滑っていく。
「左だー、左ー」
 船長が大声で叫ぶ。男たちが帆から伸びたロープを引くと、ふたつの大きな三角形の帆がグググーと音をたてて、右から船の真ん中を通り左に動く。タイミングを合わせて数人が左から右に動いて、今度は右舷から海の方に体を伸ばす。
「ここを抜けるとうねりはなくなる。もう少しの辛抱だ。頑張れ!」
 ペルシャ湾からアラビア海に出る海域はいつも風が強い。ここを切り抜けるとおだやかになる。
 この海の男たちはオマール人。港町マスカットから出帆したこの帆船の名前はナージー号。ナージーとは難を逃れる、生き残るという意味だ。
 しばらくするとうねりが小さくなってきた。
「ここまで来れば大丈夫だ。強風域は抜けたぞ」
 この二本マストの三角形の帆が特徴的な帆船はダウ船と呼ばれている。現代のヨットの原型で右、左と斜めに進むことで向かい風でも前に進むことができる。
「お前たちも少し休め」
 船長が若いふたりに声をかけた。船長の名前はアバス。年齢は四十代半ば。上半身は裸で、潮焼けした赤銅色の肌が輝いている。着ているものは薄汚れた白い腰巻のみ。
 若者の内、ひとりは船長の息子のカシム。年齢は十四歳。カシムの肌は他のアラブ人に比べてやや白い。もうひとりはファハド。船長の甥になる十八歳。ファハドの肌色はやや黒い。中東の人の肌色は親兄弟でもずいぶん違う。色の白い人も黒い人もいる。
 この船には他に七人。全部で十人が乗り込んでいる。
「カシム。これがアラビア海だ、どうだ」
 カシムはこれが初めての遠出だ。
「あの海域は風が強かったね。それに比べてアラビア海は静かだね」
「そうだ、あっという間にザンジバルに到着するさ」
 このナージー号が運んでいるのは木綿の布だ。インドからマスカットに運ばれて、ダウ船でザンジバルに運ぶ。ザンジバルから最終的にはヨーロッパまで行く。
「カシム」
 父親の声だ。何? と言いかけてカシムはやめた。ここでは船長なのだ。
「お前の爺さんもこうやってあの海域を通って荷を運んだ。その時は海賊が出て大変だったんだぞ」
「海賊!」カシムはびっくりした。
「今は?」
「いるかもな」
 ファハドがカシムをおどかす。カシムが父親の顔を見ると、船長ではない顔で笑っている。
 いつの間にか夕方になり、西の方が赤く色づいてきた。
「あれは?」
 水平線を見ていたカシムが指さす方向に鋭い三角のシルエットが見える。
「たぶん、カティーサークだな。あれだけ高い三本マストの船は他にない」
 答えたのは船長のアバスだ。
「カティーサーク?」
「イギリスのものすごく速い船だ。インドからイギリスまでお茶の葉を運ぶ。お茶の葉は早く到着すればするほど高値で売れる。だからあの船はとにかく速い。この船がトビウオならあの船はカジキだ」
 アバスが三角のシルエットを見ながら言うと
「俺はトビウオでいいや」
 とむじゃきに笑う。アバスはカシムをやさしく見つめている。
 十九世紀の半ばのこの時期、大型の蒸気汽船が外洋を運行する前の時代で、大型の高速帆船がそのスピードを競っていた。スエズ運河が開通したが、風が無い運河では帆船は動けない。まだまだダウ船が引っ張りだこの時代だった。
 満天の星空になり、カシムの最初の日が終わった。
 翌日から、海の男たちは、昼は輝く太陽、夜は徐々に満ちてくる月をながめながらゆっくり過ごした。途中、アラビア半島の小さな港に何回か立ち寄って、三角の帆のナージー号は出発から十五日たった朝、ザンジバル島に到着した。

 ザンジバルでは一か月ほど、帰りの荷を探しながら風を待つ。この時期の季節風はザンジバルからオマーンに向けて吹いている。だから帰りは順風だ。問題は風の強弱。あまり風が強いと、ナージー号は流されるどころか、バラバラになって海の藻屑と化す。
「象牙を運ぶと金になるんだが、こんな小さな船にそんな高価な品物を頼む荷主はいないよ」
 ファラドが初めてザンジバルに来たカシムに、帰り荷について知識を披露する。
 カシムはまだ象の口から切り離されたばかりの象牙を見たことがない。想像するばかりだ。
「象牙は中国まで行って指輪になるんだ」
 カシムはファラドの話にびっくりして
「象牙が指輪になるなんて、すげーな。どれだけ高価な指輪なんだ」
「中国の王様が血がこびりついた象牙から指輪を作って女に渡すんだよ」
 カシムは血のついた象牙を思って顔をしかめた。
「じゃ、象牙を運ぶ奴は女のために命をかけて運んでいるのか。そういうことだよね」
「しようがねえよ、金になるんだから、何事も金、金の時代になった。心配するな俺たちには象牙なんて回ってこねえよ」
 ファラドには夢があった。もう二十歳だ。金を貯めて自分のダウ船を作る。そしてザンジバルにもインドにも何回も行って、稼いだ金でもっと大きな船を作る。そして象牙を運ぶんだ。象牙は金になる。こんな小さなダウ船なんか早く卒業したい。
 ファラドは自分の夢を人に語ることはなかった。そんなことより今日の飯だ、と笑われるに決まっている。このままじゃだめなんだ。何か人のやらないことをしないと、いつまで経っても夢が夢で終わってしまう……。

 ザンジバルにやってきたダウ船の乗組員は他の船の荷の積み降ろしをして日銭を稼いだ。国際色豊かなザンジバルには仕事はいくらでもある。
 岩場を利用した波止場、海に伸びた木製の桟橋にたくさんのダウ船が繋がれている。
 ダウ船には幅が三十センチほどの板が掛けてあって、荷の積み下ろしはすべてこの板を渡って行われる。
 今、フォラドが肩に載せて運んでいるのはマングローブの木材。マングローブの木は油を多く含んでいるので腐りにくいので船材にする。薪にも最適だ。
 ファラドは波止場に積み上げられているマングローブを三本肩に載せた。ダウ船にかけてある板を踏んで進む。真ん中あたりになると板は大きくたるむ。
 足を踏みはずすと丸太ごと海に落ちる。最悪の場合は波止場の岩に頭を打って死ぬ。ファラドは慣れてはいるが一歩ごとにたわむ板に足取りが慎重になる。
 船に乗り移ると安心だ。指定された場所に丸太を投げ下ろす。一山積めば椰子の繊維でできたロープで締める。
 このロープの締め方は船によって異なる。効率よく締めて、決してほどけない結び方が一番いいのだ。丸太を運び入れるだけなら難しくはないが、このロープの締め方と結ぶ方にはコツがある。海の上でロープがゆるみ丸太が上下左右に動き出すと、ダウ船はすぐにバランスを失い、船材のタガがゆるみバラバラになる。このロープの扱い方こそがダウ船の乗組員の腕の見せ所なのだ。
「なるほどね、これだと仕事も楽だし、結び方もしっかりしている」
 他の船の手伝いをする時は、その船のやり方を盗むチャンスでもある。
 いままでファラドがナージー号でやっていた締め方は、ロープを丸太の山に回して一回一回きつく引っ張る必要がある。だがこの船のやり方はロープを最後までゆるめておいて、最後にそのゆるめたロープにもう一度ロープを掛けて最後にぐぐぐっと全部のロープを締め上げる。そして最後にゆるまないような特殊な結び方をしていた。
 たかだがマングローブの丸太だ、ナージー号でやっているような馬鹿丁寧なやり方をしなくてもいいんじゃないのか。問題は最後にどうやってゆるまないようにロープを結ぶかだ。
 ファラドは丸太を運び入れるたびに、乗組員のロープの締め方と結び方をじっと見ていた。
「何だ、人のやり方を盗みに来たのか!」
 男が大声を出した。びっくりしたファラドは逃げるように船から下りた。
 翌日は別のダウ船でマングローブの丸太を積み込んだ。船と波止場の間の幅三十センチの板を行ったり来たりしながら、ファラドはあの締め方と結び方が気になってしかたがなかった。思い出してみても結び方があいまいだ。何回も何回も頭の中でロープを結んでみる。
「あっ、危ない!」
 カシオが声をかけなければ、ファラドは丸太と一緒に海に落ちていた。

「帰りの荷が決まったぞ。丸太だ。積んだらすぐに出発するぞ」
 ファラドとカシムは顔を見合わせて喜んだ。やはり家に帰れるのはうれしい。
 早速、他の船の乗組員も手伝って、ナージー号への丸太の積み込みが始まった。波止場に大量に積んである丸太を肩に載せて幅三十センチの板を渡る。船底に運ばれた丸太は動かないように組み合わせを考えながら、椰子のロープで締め上げ、結ぶ。
 ファラドは荷物を運ばず、この締め上げの作業についた。どうしてもあのダウ船でやっていた締め方と結ぶ方をやってみたかったのだ。
 しっかり覚えていない方法でやって大丈夫か、いやいや、ここだけ、ここだけやるんだ。全部じゃない。試験的にやってみるんだ。だれにも分からない……
 いや、危ねえぞ、帰りの風が弱ければいいが、強風が吹き始めると、しっかり結んでねえと危ねえ……
 ファラドはロープの準備をしながら、頭の中で考えが行ったり来たりした。
「ファラド、はやく締めねえか、遅いぞ」
 他の船乗りから催促されて、ファラドは、急がなくちゃと思った。それにはあの船でやった締め方が一番はやい。
 ファラドは、やってみる、と決めた。
 いつもよりロープをゆっくり締め、後でロープをたぐり寄せて一気に締め直して、ほどけないように結ぶ……。
 しかし実際にやってみると最後の結び方がうまくいかない。気が急いているので思い出せないのだ。何回か結んではほどき、また結び直していると
「ファラド、何をやってる。次の丸太が並んで待っているぞ。遊んでる暇はねえぞ」
 と、背中から急かされる。
 ファラドは、ゆるんだままの結び目を丸太の下に隠して立ち上がった。
 そこに、肩に丸太をのせて待っていた船乗りたちが、ゴロゴロと丸太を投げ下ろした。
 結び目が隠れた。もう見えない。これで安心だ。あとはほどけないことを祈るしかない。ファラドはナージー号から逃げるように波止場に下りた。
 その時、ファラドの後ろから船長が声をかけた。
「ファラド、ちゃんと締めたか。荷が崩れたら俺たち全員の命はないんだぞ」
 ファラドは船長の言葉に体が震えた。
「しっ、締めました。分かってます。大丈夫です」
「そうか、それならいい。そろそろ昼だ。これでカシムと一緒に飯でも食ってこい」
 船長は汚れた紙幣を渡した。
「あっ、有難うございます」
 ファラドはお金を受け取り
「カシムー」
 と叫びながら船長の前から逃げ去った。
 ファラドはカシムと昼飯を食っている間も不安でいっぱいだった。
 大丈夫だ。心配ない……。いや、あれはゆるい、あれはゆるい、ほどける……
「ファラド。全然食べてないよ。どこか悪いの?」
 ぼうっとしているファラドを心配して、カシムが声をかけた。ファラドはあわてて、炒めた米粒と揚げた魚の切り身を水といっしょに流し込んだ。

 船に戻るとファラドをカシムは狭い板を往復して、何回か丸太を運んだ。
「一段落したから、昼飯がまだの者は行ってこい。今日は俺のおごりだ」
 と船長が一人に金を渡した。
「わー、有難うございます」
 ファラドとカシム以外の乗組員は飛ぶように板を渡って波止場へ下りていった。
 フォラドは丸太の締め具合を確認した。ゆるいと思った箇所は船の一番奥だ。その上には無数の丸太が、船底から半分くらいの高さまで積み込まれている。上の丸太はきちんとナージー号のやり方で結んであり、ゆるい結び目は完全に隠れている。これなら大丈夫だ、とファラドは安心した。
 だが考えはすぐに変わり、風が強くなったらどうなる、船が激しく揺れたらどうなる、と考えると、停まっている船がまるで嵐で
 激しく揺れる船に乗っている感覚になり、体がふあっと浮いた感じになって、頭から血がすっと引いて、ファラドの体は冷たくなった。
「ふー」
 もうこうなったら神に祈るしかない。ファラドは周りに誰もいないことを確かめた後、眼を閉じて、どうか無事に帰れますようにと真剣に祈った。
 昼食に行っていた男たちがもどってきて、すべての丸太を運び入れた。最後に船長がピンと張ったロープを確認していた時
「船長、積みすぎじゃないですか。これだと喫水が下がり過ぎです」
 一人のベテランの乗組員が船長に文句を言った。船長も少し積み込みすぎだとは思ったが、丸太の運賃は安い、帰りは順風になる、風が強くなければそう心配することはないだろうと判断していた。
 船長はベテランの男に
「そう、心配ばかりするな。前途は洋々だ」
 自分を納得させるように文句を言った男に答えた。
 ファラドは船底のゆるい結び目が心配だった。しかし、誰も見ていないはずだ。新しい結び方をしたのは一部だけで、その他はナージー号のやり方でしっかりと締めてやる。これなら大丈夫だと思い直して空を見上げると、雲の動きが早いようにも感じた。ファラドは心配になった。心配しても仕方がない。ゆるまないように、みんなが無事でありますようにと祈りながら、いつもより速い雲の流れを見つめていた。

 波止場から店長を呼ぶ声がする。
 船長は狭い板を走って渡って行き、男と話している。
 船長がもどって来て
「もう少し荷が増える」
 と言った。船長の言葉を聞いて、さっき荷が多すぎるといった男が顔をしかめた。
 ファラドもこれ以上荷が増えると心配だ。
「船長、こんなに喫水が下がっているよ」
 と、喫水線を指差しながら、船長に文句を言った
 甥と叔父の仲だ。他の船乗りと違って少しは強く言える。
「分かってる。分かっているが、金になる」
「金になるって、象牙でも積むんですか」
「まあ、そんなもんだ」
 ファラドは今から象牙を積むなんてことはないと思った。船長は何を積むのだろう。象牙みたいなものって何だ? ファラドには分からなかった。
「俺たちが寝るところがなくなるー」
 船長に少し甘えた声で文句を言ったのは息子のカシムだ。
「カシム寝るところなんてどうでもいい、丸太の上で寝ればいいんだよ。丸太の上で」
 カシムもそんなこと分かってるよと、ちょこっと舌を出した。
 ファラドはそんなのんきな気分にはなれない。
 もし、追加される荷が高価な象牙だとすると、とんでもないことになる。象牙は沈む。象牙が沈んだら俺の一生はもう終わりだ。
 再度男から呼ばれて船長が下りて行った。しばらくして波止場に止まった馬車の荷車から現れたのは、なんと黒人の奴隷だった。
 男が二人、女が二人。計四人の真っ黒い奴隷が重そうな足取りで船に近づいてくる。両方の足首には鎖でつながっていて、両手にも鎖がある。
「えっ、黒人の奴隷をこの船に載せるのか!」
 ファラドは思わず叫んだ。
 他の乗組員も立ったままで黒人たちを見ている。
 ファラドは自分がやった新しい結び方が、もうすでに船底でゆるみ始めているのではないかとびくびくしているのだ。この上に足に鎖がついた奴隷なんか乗せたら、万が一の時……。頭の中には丸太がゆるみ、船がバラバラになって黒人の奴隷たちが荒海に投げ出され、鎖ので結ばれた両手を上げて「助けてくれ!」と叫んでいる様子が目に浮かんだ。しかし、そんなことはないと思い直して、船に乗り込んできた船長に
「船長、象牙かと思ったら黒んぼだったですね」
 と冗談とも皮肉ともとれる言い方をして、ひとりで笑った。
「冗談なんか言ってないで、出発の準備だ。ロープはちゃんと締めたんだろうな」
「はい、船長、すべて俺にお任せください」
「そうか、それなら安心だ。さあ、みんな出発だ。家に帰るぞ」
 船長は乗組員全員に気合を入れた。 帰りは順風だから問題はないだろう。来るときは十五日かかったが、十日で帰れる。心配はない、船長はそう考えていた。

 ザンジバルの港を出たのは昼過ぎ。夜は星を確認しながら航海できるので方向を見失うことはない。北極星が自然に帰る道を教えてくれる。
 夜になると満天の星だ。ファラドはわざわざカシムのそばにやってきて
「満天の星だなあ。ザンジバルは南にあるから、俺たちがマスカットで日頃見ているの空とはずいぶん違うなあ」
 と、妙ににこやかに、そして感慨深げに話した。久しぶりに家に帰れるからうれしいのだろうと、カシムは別に不思議には思わなかった。
 しかし、ファラドの心の中は胸をかきむしりたくなるくらい痛くなっていた。俺はどうしてあんな締め方をしたんだ。あれは締めていないのと同じだ。もう船底にある丸太を締め直すことはできない。ゆるくなったままでマスカットまで帰るしかない。お願いだから静かな海でいてくれよ。ファラドは祈るしかなかった。
 ザンジバルを離れて三日目の夜、急に風が強くなってきた。この時期の季節風は南西の風が吹く。だから風の方向は良いが、風が強くなるとうねりが出て小さなダウ船は危険だ。特に荷が多いとちょっとしたバランスの違いで船のタガがはずれてバラバラに壊れてしまう。
「風が出てきたぞ! 全員注意しろ。帆を下げろ! 半分だ、半分だけ下げろ!」
 船長が叫ぶ。男達は帆を引っ張っていたロープをゆるめて大きな三角形の帆を半分だけ下げる。小さくなった帆が大きくふくれる。
「これ以上風が強くなったら、帆は全部下ろすぞ! 流されるままになるが、心配するな。風に乗れば北に向かう。北には陸地がある。心配するな」
 船長は危険を避けるために帆をすべて下ろし、漂流することにした。心配ない、一日二日のことだ。船長は強い風が長くは続かないことを知っている。
 今まで陽気だったファラドの顔が厳しくなってきた。
 ファラドは、あの結び目は完全にゆるんでいるだろうと思った。どうしよう、どうしようもない。あの自分がやった新しい結び目と一緒に海の底に沈むしかない。
 ファラドは船尾の丸太の上で、何もせずに座っている黒人の奴隷たちを見た。乗組員全員が帆を下ろしたり荷の心配をしている時に、ただうずくまって震えている奴隷を見た。見たというより憎しみに満ちた狼のような目でにらんだ。その時、一人の男の目が暗闇の中で光っているように見えた。ファラドは船尾に走って行き、平手で頭を叩き、足で腹を蹴った。それから船長の所に行って、船尾にいる黒人たちを指差しながら
「船長! あの黒人たちのせいで荷が崩れたらどうしますか」
 と、声を荒げた。その時、ファラドの頭に針で突いたような痛みが走った。そうだ、あいつらのせいにすればいいのだ。俺の結び目がゆるかったことが原因だと言われないようにするためには、そうだ、あの黒人の奴隷たちが悪いことにすればいい。あいつらが乗ってきたからだ。あいつらが原因だ。ロープがゆるいのも、こんなに風が吹くのもあいつらのせいだ。ファラドの心の中の狼が真っ赤な口を大きく開けた。
「ファラド、そんなことは気にするな」
 船長から強い口調で言われ、ムッとしたファラドは、今後はカシムに声をかけた。
「カシム、そうだよな。こいつら何もしねえんだよ。手伝いひとつしないよな」
 ここ数日、ファラドは妙に突っかかって来るので
「船長の言うとおりだよ。そんなこと言ってもしょうがないだろう」
 と、カシムは軽くいなした。
 その時、船が大きなうねりに乗り上げた。船首が真上を向き、しばらくして、足元がふわっと浮いて、それから頭から突っ込むように谷底に落ちる。船首から真っ白いしぶきが上がる。
 連続して大きなうねりに乗り上げ船体がギシギシときしむ。
 経験豊かな男たちでさえ、思わずロープを握りしめるほど荒れている。
 船がうねりに突っ込むと、船の前の三分の一ぐらいは見えなくなるくらいしぶきが上がる。そして、今度は船首が大きく浮き上がるとたちまち叩き付けられる、横ゆれも激しい。マストが折れたら終わりだ。男たちは祈るように、空中で上下左右に大きく揺れるマストを見上げた。
「やい、お前たちのせいだぞ」
 ファラドはひとりの黒人を足で蹴った。
「ファラド、やめろ!」
 船長がファラドをしかる。
 ファラドは今度はおびえている女を蹴ろうとした。
「やめろと言っているんだ!」
 船長はファラドの頬を平手で打った。
「ファラドお前は何か隠してることがあるんじゃないのか。そのことがいつも頭の心の中にあって、胸がかきむしりたくなるほど痛くなる。だからこの黒人たちに、いや、それだけじゃねえ、他の男たちにも当たり散らすようになる。この嵐はこの黒人たちのせいだとお前が言ったが、そんなことは絶対にない。あえてこの嵐の原因を言えば、お前だよ。お前の心にある悪魔が言葉になって行動になってこの嵐になったんだ。心を鎮めろ。そうすれば嵐も静かになる。丸太の上に静かに座っていろ。船のこと俺たちに任せろ。お前は何もせんでいい」
 ファラドは顔を上げられず、船長から一番遠くの丸太の上に小さくなって座った。
 それから強風は一昼夜吹き荒れたが、次の日の夜、星がまたたく頃になると嘘のように静かになった。
「さあ、帆を上げろ。いい風になった。まっすぐ帰れるぞ」
 みんなはほっとした顔で三角形の二本の大きな帆を上げた。帆は大きくふくらみ、風をいっぱいに受けて、まっすぐに爽やかに進み出した。

 マスカットに帰ったのは、ザンジバルを出て十二日目のことだった。強風を何とか乗り切った後、サージー号はよろこび勇んで家に帰る子どものように、マスカットの港に滑り込んだ。
 ゆるんでいたであろう結び目が崩れずに無事にマスカットに変えることができて、ファラドは大きく息を吐いた。胸に溜まっていた悪い空気が一気に吐き出された感じがした。
 黒人の奴隷たちは鎖のついた足で慎重に狭い板を踏みながら、波止場に下りた。そこで待っていたオマーン人が四人を連れていき、やがて倉庫の角を曲がって見えなくなった。ファラドは荷のロープをほどきながら、黒人たちの様子を見ていた。あんなに憎かった黒人たちはすぐにいなくなってしまった。
「さあ、荷をきちんと波止場に下すまでが仕事だぞー」
 ちょっとだけ休んだ後、船長が声をかけた。そして船乗りたちは疲れた体に鞭打ちながら、丸太を順に運び出し始めた。ファラドも狭い板を踏みしめながら何回も往復して丸太を運んだ。そしてついに船底の丸太の山が見えた時
「これは!」
 ファラドは船底の一山を見て、飛び上がるほどびっくりした。ファラドが新しい方法で締めたロープが、ゆるんでいると思っていた結び目が、ナージー号のやり方できちんと結び直されていたのだ。一本一本のロープがきつく締め直してあった。
 誰が締め直したんだ? 思い返してみると、ファラドがカシムといっしょに昼食を食べに行ってる間しなかい。あの時、ベテランの船乗りたちが総出で締め直したのだろう。これだけの丸太を締め直し結び直すのはあの時しか考えられなかった。そして誰もファラドに一言も言わなかった。あの嵐の最中にもファラドに文句を言う者はひとりもいなかった。俺だけが黒人たちに八つ当たりした。黒人たちの頭を叩き、足で蹴った‥…。
「有難い、有難いことだ」
 ファラドの心の中に根を張っていた悪魔が、すっかりどこかに行ってしまった。ファラドの顔にいつもの明るさが戻ってきた。
「カシム仕事が終わったら、俺がおごるから飯を食いに行こう」
「うん」
 久しぶりに見るファラドの笑顔に、カシムも笑顔で答えた。

 数日後、ファラドとカシムが波止場で他の船の積み荷を運んでいると、ナージー号で運んできた黒人が四人が歩いているのを見た。 なんと両足にも両手にも鎖がない。それに新しい青い上下に分かれた服を着ている。
 ファラドはびっくりして、黒人四人を連れているオマーン人に尋ねた。
「こいつら奴隷じゃないのか、鎖はしなくていいのか?」
「この前、通達が出たんだ。黒人を解放しろとな。この四人はインドのイギリス人の所に行く。特にイギリス人は奴隷解放にうるさいんだ。だから鎖は全部はずして、服も新しいもの着替えてイギリス人に渡すんだ」
「そうか。もうそういう時代になったのか」
「まあ、奴隷と言っても、本当のところは欲求不満のはけ口であったり、八つ当たりの対象だったんだからな。さんざん鞭で打たれ足で蹴られてきたからな。可哀想だよな。お前も黒人たちをいじめたんじゃねえのか。もうそんな時代じゃねえからな。やめとけよ」
 ファラドの心の中の奴隷がようやく解放されたと感じた。今までファラドの足や手、そして首にも、太い鎖があったのだ。

       (了)

ダウ船が運ぶもの

執筆の狙い

作者 南の風
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ダウ船とはアラビア海を往来した三角形の帆の帆船です。一九世紀半ばまで、西はアフリカの南端から、東はインドの南端まで、いわゆる海のシルクロードの一端を担いました。今回は若い船乗りの心の動きを中心に描いてみました。真摯なご意見をよろしくお願いします。

コメント

中小路昌宏
softbank126225081189.bbtec.net

 読みました。

 知らない世界の話なので、どう、展開するのかと思っていましたが無事に帰って来れて、黒人たちも解放されたと聞き、ホッとしました。

 ザンジバルで降ろした荷は最終的にイギリスに・・・・・となっていましたが、それはどういう人たちが運ぶのでしょうか?少しだけその説明があったらスッキリしたと思います。

 あともう一つ、原産地のインドから、途中積み替えなしに直接最終目的地に運ぶ方が効率的だと、思うのですが、それをしない理由についても説明があった方が良かったのではないかと思います。

 全体の流れはよく分かり、興味深い作品でした。
 ご苦労様でした。

青井水脈
om126193190079.23.openmobile.ne.jp

読ませていただきました。
まずはじめに、訂正箇所ですね。終わりかけの段落で。

>マスカットに帰ったのは、ザンジバルを出て十二日目のことだった。強風を何とか乗り切った後、サージー号は〜

ナージー号がサージー号に。

>ゆるんでいたであろう結び目が崩れずに無事にマスカットに変えることができて、ファラドは大きく息を吐いた。

○マスカットに帰ることが


それで感想ですが、今作はこれまでになくボリュームがありますね。とりわけ後半からハラハラするシーンが続いて、私もファラドと同じく、ロープの結び目の真相がわかったときはホッとしました。

>ファラドの心の中の奴隷がようやく解放されたと感じた。今までファラドの足や手、そして首にも、太い鎖があったのだ。

この書き様が、一番良かったです。制度や法律が変更されるのも変化ですが、人心が変わるのが大事な変化と思うので。

水野洸也
i223-219-23-206.s41.a012.ap.plala.or.jp

お疲れ様です。全体を読んでみて、ひとまず文章に関して気になった箇所を少々。

>もうひとりはファハド。船長の甥になる十八歳。
>ファラドが初めてザンジバルに来たカシムに、帰り荷について知識を披露する。
>今、フォラドが肩に載せて運んでいるのはマングローブの木材。
全員がそれぞれ別の人物であったなら謹んで謝罪しなくてはなりませんが、もし上のお三方が同一人物であったなら、表記ゆれは誤読の原因になるやもしれません。

>まだまだダウ船が引っ張りだこの時代だった。
この一文は物語とは関係なしに面白く感じてしまいました。普通に読めば「引っ張りだこの」「時代だった」となるのですが、見方によっては「引っ張りだ」「この時代だった」とも受け取れるからです。「まだまだ」と「引っ張りだこ」「だった」と、この短い一文に偶然にもたくさんの「だ」が続いていることも見逃せません。

>ファラドが初めてザンジバルに来たカシムに、帰り荷について知識を披露する。
物語りに即して読めば、「初めて」がかかるのはカシムが主体である「来た」になりますが、一見するとファラドが主体である「披露する」にも受け取れます。ファラドがこの時初めて、カシムに対して帰り荷についての知識を披露した、という意味合いにもなりうるということです。

>ファラドには夢があった。もう二十歳だ。
数え年でいえば彼はもう二十歳かもしれませんが、彼はまだ十八歳です。

>船に戻るとファラドをカシムは狭い板を往復して、何回か丸太を運んだ。
「ファラドとカシムは」ですかね。

>だが考えはすぐに変わり、風が強くなったらどうなる、船が激しく揺れたらどうなる、と考えると、停まっている船がまるで嵐で
 激しく揺れる船に乗っている感覚になり、体がふあっと浮いた感じになって、頭から血がすっと引いて、ファラドの体は冷たくなった。
ここ、謎の改行が入っています。しかも「停まっている船がまるで嵐で激しく揺れる船に乗っている感覚になり」と続けてもいまいちリズムがよくありません。また船は動かないように固定されているので、「停まって」は「留まって」の方がいいのかなーとも。「泊まって」が正しいのかもしれませんが。

>ザンジバルは南にあるから、俺たちがマスカットで日頃見ているの空とはずいぶん違うなあ
>船のこと俺たちに任せろ。
>ゆるんでいたであろう結び目が崩れずに無事にマスカットに変えることができて、ファラドは大きく息を吐いた。
>思い返してみると、ファラドがカシムといっしょに昼食を食べに行ってる間しなかい。
>だから鎖は全部はずして、服も新しいもの着替えてイギリス人に渡すんだ
ほか、細かい誤字脱字になります。

といった感じで、文字数で言うとだいたい1万文字、原稿用紙換算で30枚ほどの作品ですが、校正にかけられる時間が少し短かったのかなあと疑ってしまいました。作者さん的には読んでほしいのはそこじゃない!といった感じでしょうが…。


物語的な側面から感想を申し上げると、「よかったねファラドくん。」の一言に集約されるかと思います。この物語の主人公は間違いなくファラドなんですが、彼がとりたてて偉大なことを成し遂げたわけではなく、どちらかといえば主人公の邪魔をする脇役的ポジションです。
最後はいい感じで終わっていますが、彼の何が解放されたんでしょうか。「こいつら奴隷じゃないのか、鎖はしなくていいのか?」とファラドは正直に訊ねていますが、いわゆる黒色人種を見て、「奴隷」だの「鎖」だのと口にすること自体、あり得ないんじゃないかと。
加えてファラドは、彼らに暴力を加えたことを謝っていません。短い間ではありますが船旅を共にした彼らにではなく、よくわからないオマーン人に最初に話しかけてもいます。
私だったら、ファラドにはまず、彼らに話しかけてもらいます。しかし言葉がよく通じない。見かねたオマーン人の方からファラドに話しかけてくる。彼らに聞こえないよう、あの服はどうしたのかとファラドは訊ねる。そうしてイギリスの奴隷解放運動についての話を聞く。
あるいはせっかくカシムが近くにいるのですから、彼に第一声を任せてもよかったのかもしれません。いずれにせよ最後はもう少しやりようがあったと思います。

最初の紹介の仕方もよくないですね。序盤で人物紹介のパートがありますが、ファハドの紹介はアバス、カシムに続いて三番目です。しかもカシムは船長の息子で、立場的には彼が主人公第一候補です。実際、序盤は主にカシム視点から語られています。ファラドが初めてカシムに知識を披露するパートではファラド視点になり、ダブル主人公かな?と胸躍らせていたのですが、以降はファラド視点で統一されています。
ザンジバル島までのパートはまるごとごっそり削って、いっそザンジバルに到着してから物語を始めてもよかったのかも。

ドリーム
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拝読させていただきました。

スケールの大きな作品ですね。
私も船に関する小説を書いた事があります。
処が海賊船の船と調査船の船が遭難、なんとイカダに乗り移ったが海賊と挑戦の男の二人だけ。
ここでは喧嘩している場合ではなく生きるために知恵が必要でした。

こちに10数人の乗組員。いろんな港に立ち寄り買い付けて売りさばく
そんな中の物語は目を引くものがありました。更に奴隷問題も加わり楽しめました。

夜の雨
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「ダウ船が運ぶもの」読みました。


 全体を一言でいうとかなりレベルが高い作品でした。
 ファラドの心中がよく語られています。
>今回は若い船乗りの心の動きを中心に描いてみました。<
という執筆の狙いは成功といえるでしょう。

導入部では船長の息子である「カシム」の人物から話が入っていたので、てっきりカシムが主人公だと思いました。
大きな違和感と言えば、この導入部の「カシム」の人物から話が入っているところぐらいですかね。
「ファラド」から入りましょう。

そのあとはファラドの「夢というか、希望の話」から展開していき、荷造りの結び目のエピソードになりました。
この「荷造りの結び目」の話は伏線が多重に張られていました。
いっけん関係なさそうなベテラン乗組員と船長とのナージー号の喫水の話とかが絡んでいて、この書き手すごいなぁ、ここまで追い込んで書いているのか(設定が深い)と思いました。
まさに名作レベルではないかと。
ファラドが黒人に当たるシーンとかは不安のなせる業だと思いますが、彼らを荷造りした木材がある船底に連れていくとかなども、何か起こるのではと思うのでうまいやり方だと思います。
ほか、不安をあおるような書き方がかなりあり、ファラドの心情がよく伝わった。

カシムが「ファラド」とは年齢が近いので、よい緩衝になっていますね。
心を許しほっとする役目です。

それにしてもカシムとファラドが船を降りて昼食に出かけている間に荷造りの結びを直すとは船長やらベテラン船乗りもやりますね。
また、それをファラドに言わないところが、御作を盛り上げています。
話の盛り上げ方がうまい。
ラストの黒人解放の話も、ファラドの黒人いじめと関連していて、よくできていると思いました。

ほかには。

>ファラドはあの締め方と結び方が気になってしかたがなかった。思い出してみても結び方があいまいだ。何回も何回も頭の中でロープを結んでみる。<

この部分ですが、ふつうは、頭の中ではなくて、ほかの者がやっているところを目で盗んだのなら、あとで、ヒモなりで自分で試してみればよい。
頭の中で試行錯誤するよりも、実地訓練のほうが確かです。
まあ、そういったことをやる時間がなかった、という伏線なり説明をひとこと書いておけばよいのですが。

全体ではよくできていました。
これは肝心なところはエピソードで描かれていたからだろうと思います。
敷いてあげれば、船長がどうして結び目を直したことをファラドに黙っていたのか、またほかの船員も黙っていたのか、そのあたりのことをさりげなく書いておくとよいのでは。

ちなみに、今回の作品が今までに読んだ作者さんの作品のなかでは一番良かった。

それでは頑張ってください。


お疲れさまでした。

南の風
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中小路昌宏様、読んでいただき有り難うございます。
小説のネタを探すのもなかなか大変ですが、正直、チマチマした日常茶飯時を書くことが苦手なので、世界史の中から題材を探しています。 まだまだ面白いことがたくさんありますよ。

>ザンジバルで降ろした荷は最終的にイギリスに・・・・・となっていましたが、それはどういう人たちが運ぶのでしょうか?
この件は、以前に『ライム』いう小説で書いたように、アフリカ東部マダガスカル島の北にある小さな島、ザンジバルまでオマーンの支配地域でした。最後にはイギリスに攻めこまれますが、このザンジバル島までは原則的にはオマーン人が運んだと思われます。ザンジバルからアフリカ南部を通り、イギリスまではイギリスの船が運びました。

>途中積み替えなしに直接最終目的地に運ぶ方が効率的
この小説の中に描写がありますようにカティサークという有名な大型高速帆船が中国から積み替えなしで、イギリスまでお茶の葉を運びました。お茶の葉は鮮度が命ですので、とにかく早く運ぶために作られた船です。100日ちょっとで中国からイギリスまで運んだと言われています。 しかし大型高速帆船には最大の欠点があります。風の少ない港の中では動けないのです。現代の大型ヨットも港では動けないので、エンジンを使ってプロペラを回して運行します。この時代まだ大きな蒸気機関がなかったので、小さな蒸気機関を積んだタグボートが押して大型帆船を桟橋に横付けしました。このタグボートがない港では大型帆船は乗り入れることができなかったのです。ですからこの当時まだダウ船の需要はあったと思われます。

なかなかこのボリュームを2週間に1回書くのは難しいですが、鍛錬の場として続けていきたいと思いますので、よろしくお願い致します。
次作は詐欺師のお話です。クスッと笑えるような作品になればいいなと思っています。次作もよろしくお願いします。

南の風
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青井水脈様、お読みいただき有り難うございます。
校正は何回やってもミスが出ます。まだまだ推敲、校正にかける時間が少ないですね。もっと早めから取り掛かる必要があります。心に余裕がないと、なかなかゆっくり校正できませんから。
最後の文章は
>ファラドの心の中の奴隷がようやく解放されたと感じた
訂正)ファラドは、心の中の奴隷がようやく解放されたと感じた
の方が良いですね。こんなところも推敲が足りないからだと思います。

この作品は正直、ちょっと童話みたいな、真っ当すぎる書き方になりました。もっと複雑な心の動きを書きたいのですが、ストーリーも必要ですし、なかなか難しいところです。まあ、文章の鍛錬と思い、書きまくっているところです。そのうち少しは文章も良くなると思います。

私はこのサイトでいろいろ学ばさせて頂いています。2週間に1回の割合で、このボリュームはなかなか書けませんが、頑張ってみます。
次作は詐欺師の小説です。世界的文豪トーマス・マンの最後の小説は詐欺師の小説だったということで、私も書いてみようと思いました。ユーモアたっぷりで、クスッとする文章を書きたいのですが、これがなかなか難しいです。次作もよろしくお願いいたします

ペーンネームはまだ無い
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拝読させていただきました。

まず全体的なレベルの高さにビックリとしました。
読ませる文章力もさることながら、丸太をダウ船で運ぶという内容でここまで引き込まれるお話が描けるのだなと感心いたしました。

あまり私が読まないジャンルなので的外れな意見であれば恐縮なのですが、
> この二本マストの三角形の帆が特徴的な帆船はダウ船と呼ばれている。現代のヨットの原型で右、左と斜めに進むことで向かい風でも前に進むことができる。
の部分で、「現代の」と出てきたことに戸惑いを感じてしまいました。
まさに十九世紀半ばの世界を想像しようとしているところに、急に「現代の」という言葉が出てきたことで現実に引き戻されてしまいました。

また次回作を楽しみにお待ちしております。

南の風
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水野洸也様、お読みいただきありがとうございます。

おそらくプリントして読んでいただいたのではないでしょうか。作者よりも詳しく考察してあり、びっくりしています。表記ゆれ、一語一語丁寧に書く、修飾語の係り、年齢、リズムなど、確かに校正の時間が短かったと思います。その前に、使っている日本語入力システムの使い方から改善すべき点もあると思っています。

校正の重要性について指摘された後、書店で牟田都子(著)『文にあたる』を購入して読み始めました。

最後のご指摘はそもそも、10枚程度のものが30枚になってしまい、本来なら主人公はファラドではなくてカシムであるべきだと思います。要するに、きちんとした状況、キャラ立て、プロットを作らずに書き進めていますので、今後は注意したいと思います。色々と詳しくありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

南の風
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ドリーム様、お読みいただき有り難うございます。。私は2週間に1回程度、世界、特に南方のネタを探して書いています。世界にはまだまだ面白いことがたくさんあります。次作は詐欺師の物語です。どうぞよろしくお願いいたします。

南の風
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夜の雨様、お読みいただき有り難うございます。
これは書いている途中で、主人公がカシムからファラドに変わってしまったのです。プロットをしっかり考えていなくて、そのまま書き進めましたので、大きな反省点です。書いているとどうしても10枚が20枚になり、30枚になります。このあたりゴールをきちんと決めておく必要があるかもしれません。いつもお読みいただき有り難うございます。次作は詐欺師の物語になります。またご意見をいただけると有難いです。

南の風
softbank060091003055.bbtec.net

ペーンネームはまだ無い様、お読みいただき有り難うございます。
このサイトは文章力を鍛錬するサイトで、2週間に1回投稿できますので、ぜひ、2週間に1回、物語を書いてアップしてみてください。みなさんから貴重な意見がもらえますよ。
ご指摘の点は盲点になっていました。勉強になりました。
次作は詐欺師のお話です。くすっと笑える文章が書ければいいのですが、これが難しいです。今後ともよろしくお願い致します。

上松 煌
207.140.150.119.ap.yournet.ne.jp

南の風さん、こんばんは

 拝見しました。
いつもおれの作品に感想をつけてくださる、数少ない女性読者のあなたに苦言を呈するのは心苦しいのですが、忌憚のないところを書いておきますね。
この作品は残念なことに、執筆の狙いにある『若い船乗りの心の動きを中心に描いてみました』が描ききれていない。
2週間縛りがもったいなくて大急ぎでお話をまとめた感が強く、全体的に浅く、表面を上滑りしているだけなのです。
短い、紋切り型の文体が多いのも、やっつけ仕事的な印象を与えてしまっています。
ヴォジーョレ・ヌーボーで感激しているワイン初心者のようなもので、グラン・クリュの芳醇さこそ、作者の求めるべきものでしょう。
一度、じっくり腰を落ち着けて書く鍛錬をしてみてはいかがでしょうか?

 おれが先ず違和感を持ったのは、他の丸太の下敷きになって見えないはずの結び目にベテランの船員がどうやって気づいたのか?
神がかりのだれかが奇跡のように気づいて、丸太の山から掘り出して結びなおしたのでしょうか?
そして緩んだ束が混じっていたという重大事を黙って公表しないままに?
フツー考えられないですよね。

 そして中でも、心の不安から黒人奴隷に当たり散らすファラドの心理をおれは理解できませんでした。
この部分は悪天候を乗り切るシーンとともに作品のハイライおうかトで、作者の力量が発揮されるべきところですが、男には生まれながらにして、女子供・老人・猫様・立場の弱い者などに理不尽に言いがかりをつけたり、暴力を振るったりしないストッパーがついています。
それがない者は人間以下の劣化遺伝子を持つモノで はなはだ恥ずべき輩なのですが、ファラドはそんな人間だったのでしょうか。
黒人がなにもしないで怯えているのがシャクにさわったように描かれていますが、荒海では当然のことで、逆にシロートの奴隷ごときにウロチョロされてはプロの船乗りとしては返って迷惑です。
作者としては「ファラドは自分のせいで船が沈むかもしれない疑心暗鬼に苛まれているのだから仕方ない」という考えなのかも知れませんが、あまり同情できないし快くない。

 この不快感を払拭し読者の共感を得るには、ファラドの心の中にあらかじめ黒人を嫌悪するなにか、たとえば『体は黒いのに手のひらや足の裏は異様に赤い。サルみたいだ』とか、『奴隷は劣った者で物として扱っていい』などの西洋人特有の選民意識があったとすれば、もっと説得力が出てきます。

 さらにせっかくのアクション・シーンの嵐が記述の未熟さのために生かされていない。
帆船時代の話なのですから、烈風による吹き倒しを防ぐために当然帆を降ろし、三角波に向かって常に船首を立てるという困難な作業になります。
どうせ奴隷を積んでいるのなら、彼らに命じて船の水を掻い出したり、たまたま操船の熟練者がいてそれに舵を取らせて、お互いの協力の下、嵐を乗り切るというお話にすればスペクタクルも混じってストーリーが生きてきます。

 ただ単に「うまく嵐を乗り切りました。めでたし、めでたし」では、読者も「あっそ。よかったじゃん、物足りないけど」となって、感動もありません。
また、今のストーリーでは「黒人を蔑視していたけれど、時代が変わった」ので、彼らへの見方が変化したように書かれているのは間違いで、偏見や差別、蔑視はそんな単純なことでは解決しないことは、世界を見てあなたも知っていると思いますよ。
つまり、お話を締めくくるだけの取ってつけたようなラストになっているのです。

 それを避けるために黒人との協力シーンを入れ、意外に有能で分別ある黒人たちの活躍に舌を巻いたファラドの改心でラストを終わらせれば、人道・人間主義を前面に押し出した良作となります。
お話を作ると言うことはそういうことなのです。

 全体に粗けずり、改稿の余地のある作品でした。
今のままでは何作書いてもあまり進歩は見受けられないのでは、と危惧します。
新作を出して感想をもらうのはとても楽しく意義あることですが、厳しくも良い読み手がいないのをいいことに、いい加減にお茶を濁した、ちょっと見イイ作品を出し続けていると、身についたサビのように悪いクセがついてしまいます。
おれなんか4年もごはんにいるうちに10,000字を越えそうになるとソワソワし始め、15,000字を越えると大急ぎでお話を閉めてしまうと言う悪癖が身についてしまい、初心者のころのほうが上手だったという笑えない事態に陥っています。
あなたにはどうか、その轍を踏まないようにと願うばかりです。

凡人
sp49-96-230-70.msd.spmode.ne.jp

読ませて頂きました。

小説本体の感想からは離れてしまうかも知れませんが、執筆の苦労に想いを馳せてしまいます。舞台が海外であるとか、歴史に関するストーリーを書く場合、歴史上の出来事とか、偉人、有名人の事蹟を調べる事はわりと簡単ですが、庶民に付いては、服装一つ習慣ひとつ、所作ひとつさえ調べるのに苦労します。
私など、極端な話、持ち物ひとつ動作ひとつを書く為に筆が止まってしまって、確認するのに数週間も掛かってしまったりすることがあります。

例えば、御作に登場するダウ船。中東で使われていた交易船ですが、運搬物、航路、航海可能な季節…… 確認すべき事は山ほど有ったと思います。今述べた程度の事は、ネットでも簡単に調べられることなので、この辺で手を抜くと、鬼の首でも取ったように間違いを指摘されたりします。だから兎に角、手が抜けないし、現代ものやラノベを書くのに比べて大変な手間を掛けなければなりません。ご苦労お察しします。
ダウ船の操作の描写などは、ヨットの操作を参考にして書いているのでしょうか。それとも、ダウ船そのものの操作に関する資料が有ったとか、誰かの小説を参考にしたとか、何れにしても大変だと思います。

"講釈師見てきたような嘘をつき"と言う言葉がありますが、小説を書くと言う事は天才詐欺師のように(ラノベを除いて)バレない嘘をつかなければならないと言うことですね。

作品への感想でなくてすいません。まず、執筆過程を想像してしまいました。

青井水脈
om126157079039.27.openmobile.ne.jp

再訪失礼します。
まず上松さんの、

>つまり、お話を締めくくるだけの取ってつけたようなラストになっているのです。
>それを避けるために黒人との協力シーンを入れ、意外に有能で分別ある黒人たちの活躍に舌を巻いたファラドの改心でラストを終わらせれば、人道・人間主義を前面に押し出した良作となります。

こちらの指摘もよく分かりますが。取ってつけたようなラスト、つまりご都合主義な展開という見方でしょうか。私は初めて読ませていただいたときから、ラストの2行に熱が入っていると思っていました。


>数日後、ファラドとカシムが波止場で他の船の積み荷を運んでいると、ナージー号で運んできた黒人が四人が歩いているのを見た。 なんと両足にも両手にも鎖がない。それに新しい青い上下に分かれた服を着ている。

真新しい服を着た、鎖を着けていない黒人たちを見かけたファラドが、驚いてオマーン人に尋ねる。通達が出て、インドのイギリス人の元に連れて行くと教えられーー。

>「まあ、奴隷と言っても、本当のところは欲求不満のはけ口であったり、八つ当たりの対象だったんだからな。さんざん鞭で打たれ足で蹴られてきたからな。可哀想だよな。お前も黒人たちをいじめたんじゃねえのか。もうそんな時代じゃねえからな。やめとけよ」

黒人たちに鎖がなくなったことに意識が集中して、上記のセリフは聞こえてはいるけど素通りしているというのか、心ここにあらずの状態。そんなファラドの様子が画(え)として浮かびました。
それから間を置いて、ラスト2行に繋がる。

>「そうか。もうそういう時代になったのか」

ですがイギリス人に渡す、など説明されてすぐにこのセリフでは、もの分かりが良すぎるという印象はあります。何かを考え込むような仕草をしたり、ワンクッションあるのもいいかと。

上松 煌
207.140.150.119.ap.yournet.ne.jp

青井水脈さん、こんばんは

 おれへの質問のようなので、回答いたしますね。

>>取ってつけたようなラスト、つまりご都合主義な展開という見方でしょうか<<
     ↑
 はい、そのとおりです。
このラストは全くいただけません。
上の感想にも書いたとおり、『時代』などという、曖昧で甘ったれた考えで偏見や差別、蔑視が解決しないことは世界を見ればわかることです。
今でも欧米を旅するとアフリカ人やアジア人に対する偏見を感じ取ることがあはずです。
偏見や差別、蔑視はそれほど根強く厄介なものなのです。

 このお話の、
>「まあ、奴隷と言っても、本当のところは欲求不満のはけ口であったり、八つ当たりの対象だったんだからな。さんざん鞭で打たれ足で蹴られてきたからな。可哀想だよな。お前も黒人たちをいじめたんじゃねえのか。もうそんな時代じゃねえからな。やめとけよ」<
は、実に笑止で、当の奴隷黒人たちがコレを聞いたら呆れ返って怒り出すでしょう。
 

上松 煌
207.140.150.119.ap.yournet.ne.jp

ごめ、送っちまった。 

 こんな小学生が書いたような浅薄な理由で奴隷制度が行われ、時代が変わったからなどという言葉で廃止になり、人の気持ちも紙の裏表のようにコロッと変わるなら、だれも苦労はしません。
第一、時代はどんな時代でも人間が作り上げるもので、ある日突然、どこからかやってくるものではありません。
青井水脈さんはよく読める人と思っていましたが、おれの思い込みであったようです。

 この部分は作者の無知・無神経、考えの浅さが如実に現れてしまっているところで、非常に良くない。
だから、こんな部分はカットして黒人との協力シーンを入れ、意外に有能で分別ある黒人たちの活躍に舌を巻いたファラドの改心でラストを終わらせよ、と言っているのです。
そうすれば、あなたが、
   >>私は初めて読ませていただいたときから、ラストの2行に熱が入っていると思っていました<<
   ↑
 と、言っている、
>ファラドの心の中の奴隷がようやく解放されたと感じた。今までファラドの足や手、そして首にも、太い鎖があったのだ<
の一節が真に生きてくるのです。

 おれはこの作品で、期待していた南の風さんに失望し、今、あなたに絶望しています。
ごはんの質はこの4年で本当に堕ちましたね。
おれは今現在、なんとも言えない気持ちで自分自身をぶち殺したくなっています。
他人への怒りもすべて自分に向いてしまう変態上松をあまり落胆させないでいただきたい。

南の風
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上松 煌様、お読みいただきありがとうございます。私の名前の箇所にツイッターをリンクしてありますので、ご参考にしてください。
>短い
確かに一文の長さは平均よりも若干短いですが、当然範囲内に入っています。実は次の次の作品は一文の長さが長い作品に挑戦中です。一文が長くなっても淀みなく読んでもらえるためには、どのような文章を書かなければならないか、少し硬い文章になってしまいますが、ぜひご覧ください。 内容は台湾のお話です。
>紋切り型の文体が多い
これは私も感じるところです。私はまだリアリティのある、誰が読んでも誤解なく読める文章の練習中ですので、全く普通の文章になっています。これからの課題です。
>神がかりのだれかが奇跡のように気づいて
これは、ファラドだけが見えないと思っていたのが、他の人にはちゃんと見えていたということですよ。世の中にたくさんあることです。
>ファラドの心理
この時ファラドの心には狼のような獣がいました。人には確かにストッパーはついているが、「一念三千」という仏語があるように、人は一瞬にして、鬼にもなる仏にもなるものです。
>せっかくのアクション・シーン
これは確かに簡単に済ませてしまいました。反省点です。
>めでたし、めでたし
私はここでは文章力の鍛錬のために書いているので、正直に書くと分かりやすくて臨場感があるという感想が一番なのです。ストーリーについては、ある程度の枚数が必要で、登場人物のキャラ、伏線の貼り方などもっともっと重層的に書かなければならないのですが、私の場合は、その前段階の文章の書き方の勉強中です。
>見イイ作品を出し続けている
私はまず、誤解のない作品を書き続ける、その鍛錬をすることが大事だと思っていますので、文章力の鍛錬をしばらく続けます。

ちなみに、貴殿の作品をプリントして丸一日かけて詳細に検討して、自分なりになるほどと思うところに傍線を引きつつ、コメントを書き入れながら勉強させていただきました。誠にありがとうございました。

南の風
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凡人様、お読みいただきありがとうございました。

私はいろいろと世界を旅行していますので、この小説の、庶民の腰巻の様子、桟橋から船の狭い板、肌の色などは実体験です。

ダウ船の操作についてはヨットレースを参考にしました。この小説を書くまでオリンピックのヨットレースなどを見ることはなかったのですが、この小説のおかげでルールなどがわかり、今は YouTube で毎日見ています。是非ご覧になってみてください。一人乗りのオリンピックの競技から、時速100 km ぐらいで空中を飛ぶように進む最新鋭のヨットレースまで十分楽しめます。

確かに小説に事がらを書き込むと指摘されることがありますが、この鍛錬の場は調査能力や検索方法を競うのではなくて、文章力の鍛練をする場合なのであまり気にすることはないと思いますよ。
私はストーリーの良否や事がらの正誤についてではなく、自分の文章について逆に何も指摘がなければ誤解なく読まれていると安心します。
今後ともよろしくお願いいたします。次作は詐欺師のお話を書いています。

南の風
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青井水脈様、再度コメント頂きありがとうございます。
>もの分かりが良すぎるという印象
小説を書く、特にストーリーを重視して書くのは難しいですね。 正直、長くなると気分も萎えてしまい、無意識のうちに早く終わらせて次のアイデアを書きたいと思うのかもしれません。
私は今はまだ臨場感のある書き方の練習中です。これからもっと行間を読ませる文章や読後感の残る文章の書き方、さらに理想的には、横光利一や川端康成の「新感覚派」(要検索)のような文章を書きたいのです。今後ともよろしくお願い致します。

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