作家でごはん!鍛練場
夢楽咲

またな。

「だから…行かないでほしいの。」
彼女は懇願するように私にそう言った。
上目遣いに手を握ってくるのはいつものこと。今日はそれに瞳から溢れんばかりの涙という追加オプションがついている。
「お願い…私は南のこと大切に思ってるんだよ…?」
彼女の瞳からついにつぅっと一筋の光が零れ落ちた。夕闇の中でそれは綺麗に輝きながら柔らかい頬を滑る。
「南…行かないで、お願いだから、行かないでよ…」
彼女は同じ台詞ばかりを繰り返しながら私に縋り付いてくる。
私は極めて冷徹に、
「もう決まったことだから。離してくれ。」
と言って、彼女の手を振りほどいた。
「待ってよ南…!」
強引に歩き出した私に走り寄ってくる彼女。もう、うんざりだ。
私はちらりと横目遣いで彼女を見た。
覚悟は、決めてある。
終電間近の駅のホーム。2分後にこの駅の今日の営業は終了する。
それまでに、どうにかしなければ。
今日中にはここを出なければ、覚悟が揺らぐ。
彼女と離れると決めた、生まれ育った故郷を捨てると決めた、私の覚悟の意味がなくなる。
電車が終わってしまったら、今日中の出立は出来なくなる。
それでも彼女は、まだ私に歩み寄る。
「ねえ、一緒に帰ろう。」
「まだ言うのか、お前は。」
出立してしまったら私はもうここには戻って来ない。
そして彼女とは一生の別れになる。
「行くって決めたんだ。だから、もうお前も帰れよ。」
「嫌だ…!絶対、帰らないよ…南が帰るって言うまで絶対に帰らない…!」
また彼女は私の手を握り、上目遣いに頼み込んでくる。
彼女は背が低いからいつも見下げる形になる。
いつも私のことを見上げる彼女の喉の曲線が、今日はやけに眩く感じられる。
あぁ、電車が来てしまう。
駅に到着してしまってからでは遅いのだ。
その、前に。
「じゃあな。雪。元気にしてろよ。」
ホームの端ギリギリに立つ。
彼女の手を優しく離し、意を決してそこから一歩を踏み出す。
まだ電車はない。私が踏み込んだ先にあるのは、剥き出しの線路。
「南ィッ…!」 
彼女が叫んだ。
電車がいいタイミングでやってくる。
ライトが夜を照らし、私は目を開けていられない。
私はホームを見上げた。遥か上に感じられるそこには泣き叫ぶ彼女の顔があった。
見上げるのは、初めてだ。
最期に見るのが、彼女の顔で良かった。
私はきっと聞こえないことを承知で叫ぶ。
「またな。」
絶対に果たされることのない約束をして、私は生を終える。
車両があっという間に近づいてきて、私を呑み込んだ。
自分の目が最期に見たのは彼女の顔。
自分の口が最期に発したのは彼女への果たせない誓い。
自分の鼻が最期に嗅いだのは彼女のつける香水の匂い。
自分の耳が最期に聞いたのは、私が死に行くことを嘆く彼女の断末魔の様な悲鳴。

またな。

執筆の狙い

作者 夢楽咲
KD106155007250.au-net.ne.jp

初めて投稿する中学生です。
五感で感じたものの描写に力を入れてみました。
文章も拙いし、話の展開も下手だと思いますが、読んでみてアドバイスが欲しいです。
よろしくおねがいします。

コメント

夜の雨
ai203015.d.west.v6connect.net

「またな。」読みました。

なるほど、そういう展開でしたか。
これはラストまで読んでみないことには、何が起ころうとしているのかがわかりませんでした。
男女ふたりの会話(やりとり)からだと男(私)が電車で遠くへ旅立つというように解釈しながら読んでいたのですが、ちょっと違う方向へと展開しました。
と言って、オチが特別インパクトがあるかというと、そうでもなかったです。
流れが自然な感じでエピソードとしては、よくできていると思いましたが。

作者さんとしては男女ふたりの会話(やりとり)の「正体を隠して」おいて、ラストで意外な展開というオチ付けしようと考えたのでしょうね。

>五感で感じたものの描写に力を入れてみました。<
五感の描写は手抜きだと感じました。というのは、ラストにとってつけたような感じでした。
御作でこの「五感」を作品の狙いにそって、しっかりと描写していれば、オチはかなりインパクトを持った終わり方になると思います。
そういう意味では作者さんの「五感で感じたものの描写に力を入れようとした」という意気込みはよかったのではないかと。

● 御作での五感の入れ方について。
導入部から季節感を描写する。
たとえば雪が降っているとか(雨でもよい)。それもいろいろな降り方を演出できると思います。その雪が顔や手に当たり冷たさを感じるとか。(触覚の描写)。
彼女を抱きしめたときの触覚の描写やら、「におい」とかの嗅覚の描写もできるし、そこから愛情表現もできる。
風の音とか電車の汽笛とか彼女の声とかの「聴覚」の描写。耳から入る音で悲しみとかを描写する。
主人公たちは夜の駅舎からホームへ出るので、そのあたりの周囲の描写。「私」が見る「視覚の描写」でいろいろと表現できる。
「夜のにおい」とかも描写できるのでは。そこから彼女が主人公の私に近づくので、そのときに彼女のにおい、香水とかの香りがするわけですが、夜のにおいから彼女の香水へと変化する描写。
そして以前デートしたときに「彼女が作った弁当とかサンドイッチ」とかの味の描写。から、彼女との思い出がよみがえる。
五感で、多方面の演出ができると思います。

このあたりの「視覚,聴覚,味覚,嗅(きゆう)覚,触覚」の五つの描写で情景を演出して、作品を盛り上げるとよい。
そうすると、ラストが盛り上がると思います。

それでは頑張ってください。


お疲れさまでした。

夢楽咲
KD106155007250.au-net.ne.jp

夜の雨様。
こんなに的確で沢山のアドバイスありがとうございました。
とても参考になります。
描写や表現が下手だと良く言われるので、これからまた精進していこうと思います。
本当にありがとうございました。

偏差値45
KD111239161199.au-net.ne.jp

読者の予想を裏切る設定ですね。

「行く」と「逝く」の違いですね。音は同じですからね。

一応、小説としてはこれで成立しているので良いと思いますが、
ハッピーエンドではないので、個人的には不満が残ります。

全体的にシリアスなので、「逝く」理由も欲しいところですね。

で、面白いか? と言えば「いいえ」なので、
もう少しひねりが欲しいかな、とは思いましたね。

南の風
softbank060091003055.bbtec.net

読ませていただきました。このふたりの登場人物がどんな人なのかがわからないので、現実感がないですね。背が高いのか低いのか、着ている服は、年齢は……。それに、どのような理由で作品のような展開になっているのかの前提がわからないのが残念です。仏教の言葉で縁起、つまり原因と結果の法則はこの世の仕組みなので、その部分を書いてみると、より一層作品の中に入り込めるかもしれません。頑張ってください。

夢楽咲
dcm2-122-135-186-222.tky.mesh.ad.jp

読んで頂きありがとうございます。
この程度の表現ではまだまだ読んでくださる方には伝わらないのだということを実感致しました。
沢山のアドバイスありがとうございました。

大丘 忍
p4183129-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

このような結末を最初から予想していた読者はあまり居ないと思います。で、その意外性に読者が驚いて感銘したかと言えば、なーんだ、つまらん、と失望したことでしょう。
こんな結末より、奮起して再起する過程を描いてこそ読者を魅すると思います。

飼い猫ちゃりりん
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夢楽咲様
大丘様の、「なーんだ、つまらん」という感想に同意しますが、飼い猫はちょっと視点が違います。

小説は不道徳な内容でも良いのです。読者が暗い気持ちになってもいいのです。
死ネタで書いても結構です。

問題は、死に対峙しているか。
現実に死を体験することは不可能ですが、小説の中では可能です。

「死をオモチャにして戯れているだけ。」

戦争体験があり、医者としても多くの死を見てきた大丘様は、そう感じたのだろうと飼い猫は思います。

夢楽咲
dcm2-133-202-95-2.tky.mesh.ad.jp

コメントありがとうございます。
そうですね。死ときちんと向き合う体制がないのにバッドエンドを書くなんてことをしてはいけなかったと反省しました。
バッドエンドを書くならその結末にきちんと向き合い、考えなくてはならないと改めて解りました。
沢山のアドバイスありがとうございました。

ライシ
203.78.237.135

なんか、感動シーンだけを切り取ったところだけの小説かな?
おらのは妖鬼滅奇譚という小説です
3話まで来ました
1話も是非見てください

夢楽咲
KD106155006046.au-net.ne.jp

ライシ様。コメントありがとうございます。
是非読ませて頂きたいと思います。

通りすがり
119-173-139-201.rev.home.ne.jp

どういう二人がどういう理由で離ればなれになるのかなぁと
読み進めました。
ちあきなおみの名曲「喝采」が、自分の頭の中では
流れていたのですが、!なラストでした。
自ら死を選ぶというのは大変なことです。
人間関係か、完全に夢破れてとか、苦痛すぎる闘病、
金銭、仕事、精神面のこと。
良いパートナーがいても、振り切って、
そっち(死)を選ぶ理由。なんでしょうね。
「出立」という言葉が渋かったので、出征かな、
それとも時代ものなのかなと考えさせられました。

中学生ですか……。レベル高いなぁ。
ネットで、青空文庫などもありますし、
読もうと思ったら、いつどこにいても
文字通り浴びるように読んで、勉強できますね。
やる気と情熱のある人と、ない人の間の目に見えない
格差、自分が中学生の頃よりはるかにすごそうだなと
感じ入りました。

すず
p1838007-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

失礼します。今時の若いカップルらしい会話の部分が、リアリティが感じられていいですね。
死から最も遠い所にいると思われるお年頃の死への美化が感じられました。
その辺りが机上の空想の域を出ていないようにも取られるので、マイナスポイントがつきそうです。
話の流れが単調に感じられて、すらっと読み飛ばされてしまいそうなのは、分厚い描写が少ないからです。
彼女の喉を描写した辺りは若い男性の視線が上手く書かれていました。
こんな感じで、話の流れとは全く関係が無いような些末なことを分厚く描写すると、リアリティが増します。
あまり描写をし過ぎると、全体の流れが遅くなってしまいますのでほどほどがいいですね。
バックグラウンドも全ての謎を読者に説明する必要はありません。
謎や未解決という魅力的な部分を残したほうが、この話の場合はむしろいいでしょう。
あまり小さな批判を気にしないで沢山書いていけば、そのうちにブレイクスルーして上手くなりますよ。
では。

夢楽咲
dcm2-122-133-47-253.tky.mesh.ad.jp

コメントありがとうございます。
やっぱり描写は大切ですよね。これからもっと沢山色々読んで、学んでいきたいと思います。
アドバイスありがとうございました。

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