作家でごはん!鍛練場
月明かりの夜

月色のガラス片

「あぁ、明日なんて来なければ良いのに...」隣のベッドでシャラシャラとガラスの涙を流すのは、私のクラスメイトにして恋人の優月。彼女は父親が魔女の薬草を盗んだ所為で、生まれた時に10歳の誕生日にガラスになる呪いをかけられたらしい。それも風で砕けるほど脆い。それを憐れんだ妖精が、涙がガラスになる代わりに寿命が18まで延びる魔法をかけてくれたんですって。けれど、魔法の効果も後1時間。今は優月の誕生日前日の、午後11時だから。
「ねぇ麗夜。私、屋上に行きたいわ.....」泣き止んだ優月が、静かに私を屋上へ誘った。
「えぇ、わかったわ。行きましょう」屋上に着くと、優月は柵にそっと手を添え、月を眺めた。腰まで伸ばした真っ直ぐな濡羽色の髪、薄紅色の形のいい唇、長い睫毛に縁取られた少し垂れ気味の大きな目、海のような輝きを湛えた群青の瞳、それがよく映える白く滑らかな柔肌。この世の何より美しく、そして儚い彼女の全てが、入学式に初めて逢った瞬間から今までずっと、私のことを魅了している。
「このまま時が止まれば良いのに.....!」再び美しい瞳からガラスを溢しながら、優月は私に抱きついた。優月は泣きながら、死にたくない...!や、まだ麗夜と過ごしたい...!などと叫んだ。その状態で15分ほど経った時、優月が顔をあげた。
「ごめんね、私ったら取り乱しちゃって...」そう言って優月は、悲しそうに目を伏せた。私はそれを見ていられなくて、どうにか話を逸らそうとして言った。
「良いわよ、そんな事くらい。それよりも.....月が...綺麗ね」と、二重の意味でそう言った。優月はもう1つの意味なんて、知らないでしょうけど。
「うん、とても綺麗だわ。だけど、明日はスーパームーンなんでしょう?今日よりずっと、明日の月は綺麗でしょうね...」優月は素直にそう言ったとわかっていながら私は、貴女になら本望だわ、と彼女には聞こえないよう呟いた。その後に、優月に対して返事した。
「そうかもしれないわね、でも私は今日くらいが一番いいわ」
「どうして?」優月が不思議そうに首を傾げた。そんな姿もこの世で一番愛おしい。
「だって、目立ちすぎるとまるで月がメインのようじゃない。その反面これくらいならただの美しい背景という認識になるでしょう?」
「それもそうね、凄いわ、たった一言で私も今日の月の方が好きになっちゃった!」
「私ね、麗夜のふわふわの銀髪も、紫水晶のような神秘的な瞳も、水琴窟のような美しい声も、全部大好きよ!」突然伝えられた愛に驚いた。それと同時に、あぁ、私はなんて幸せなのかしら、大好きな人にこれほど愛されているなんて、そう思った。
「私も、優月の全てがこの世の何より大好きよ。貴女がいるから、毎日が幸せなの」そう言った途端、風が吹いた。優月が寝間着代わりに着ていた純白のワンピースがふわりと揺れる。優月の艶やかな長い黒髪がサラサラと靡く。優月の涙が宙に舞い月明かりで煌めいて、そしてパラパラと落ちる。夢幻のようなその光景に、魅入られてしまう。
「ふふっ、いきなりで驚いちゃった」微笑んだ彼女が口元に当てた手は、既に指先が透明なガラスになっていた。腕時計を見ると、全身がガラスになるまであと15分もない。私は呪いのことを初めて知った時から、ずっと決めていたことを話すことにした。
「ねぇ、優月」
「なぁに?」
「一昨年の冬に、ガラスになる瞬間に口付けすると、その人もガラスになるって言ってたわよね」
「言ってたけど.....まさか...!」
「えぇ、そのまさかよ。私も一緒にガラスになるわ」だってそうすれば離れないで済むもの。
「駄目よっ、そんなの絶対に駄目!」
「嫌よ、もう決めたの」貴女のいない世界で、生きてる意味なんてない。
「でも.....っ」
「嫌?私なんかと死ぬのは」貴女さえいてくれれば、もう何もいらない。
「ううん、ただ貴女に生きていてほしいだけ...」
「ごめんなさい、私は貴女無しでは生きていけないの」だからお願い、一緒にいさせて頂戴。それから1分ほど経って、優月が口を開いた。
「.....わかったわ...」現在時刻は午後11時55分。
「私ね、優月に出逢うまでずっと死にたいと思ってたの。でも貴女を見た瞬間、初めて生きたいと思ったわ。今までありがとう、宇宙で一番愛してるわ」
「ありがとう。私も、宇宙で一番愛してる」
「目を閉じて...」
「えぇ...」頬に手を添え、そっと口付けた。ゆっくりと私達はガラスになっていく。

午前0時0分、風が吹く。月光を浴びて煌めくガラスの欠片は、この世のものとは思えぬほどに美しく、キラキラと人気のない街へ降り注ぐ。

月色のガラス片

執筆の狙い

作者 月明かりの夜
218-251-33-133f1.kyt1.eonet.ne.jp

この小説を書いたのは、ホラーやファンタジーしか考えたことがなかったので、一度恋愛ものを執筆してみたいと思ったからです。経験が無い上にまだ中学生の為、拙い文章ですがアドバイス宜しくお願いします。

コメント

通りすがり
119-173-139-201.rev.home.ne.jp

ちゅ、中学生……! いやー、上手ですねえ。
自分が中学生の頃を思い出してみると、
いろいろお話を考えたりはしてましたが、
これほどしっかりした文章では書けていませんでした。

百合ものなのでしょうか。
硬質さ、はかなさ、透明感。素敵ですね。

ガラス化しつつある子を助けながら、そして
ある決意を固めながら、屋上へと必死で向かうシーンへ、
読者の共感と応援が集まったら、成功といえましょう。
屋上へついてから会話全開より、慎重に進みながら話し合うと
いいかもしれませんね。
「わたし、決めたの」
「え?」
わたしは、幼いころ祖母にきいた話をした。
そして、それをやってほしいと頼んだ。
「だめ、そんなの」
「もう決めたの、お願い」
「むり」
「いいの。さあ」
わたしが祖母に聞いたのは、ガラスになる瞬間に、
誰かに口づけすると~。ってな感じで。

屋上で、また、イエス、ノー問答をして、
でも、それは仲直り前提の痴話げんかのようなもので、
お互いに、後悔はなしね、本望よ、うれしい、と。

月明かりの夜
218-251-33-133f1.kyt1.eonet.ne.jp

ありがとうございます。アドバイスしてくださった上、褒め言葉までいただけるとは、思ってもみなかったのでとても嬉しいです。次の投稿の際に参考にさせていただきます。

夜の雨
ai203103.d.west.v6connect.net

「月色のガラス片」読みました。

何かしら惹かれるモノはありますね。
それは御作の背景にあるモノだと思います。
ファンタジーの世界での恋愛物であり、それも女性(女の子)同士という設定で現代社会にも通じるものがあります。
ジェンダーとかいって、性別を超えたところにある愛情のお話。

御作ではそのクライマックスがエピソードで描かれています。
かくしてふたりはガラス細工の人形へと変貌を遂げた。というような終わり方。

ヒロインがガラス人形へと変貌せざる得なくなる背景部分は、導入部に簡単に説明されている程度。このあたりに、御作の限界があるようです。
● なので、御作の背景にファンタジー的なリアルティーを持たすとよいと思います。
どうするかというと。

主人公の女性「麗夜」は魔女の娘にする。魔女と人間の男との間にできた一粒種。
その相手の男はヒロインである「優月」の父親。
すなわち、「麗夜」と「優月」は母は違うが姉妹の関係で、二人はそのことを知らない。

魔女がどうして彼と知り合ったのかというと、若かりし頃の魔女が猛獣を魔法で手なずけるときに失敗をして襲われそうになるとかのエピソード。
それを青年が格闘してナイフで猛獣を仕留めた。
これで新米魔女は青年にひとめぼれをした。
そして結ばれた。
その結果の子供が「麗夜」になる。
ところが青年には地主(または上の関係)の娘との縁談が進行する。
青年はその娘と結婚する。
そこで魔女は嫉妬から二人(青年と娘)の間に生まれてくる子供がある年齢(現在の自分の年齢)にたっしたときにガラスになる呪いをかけた。

というような背景。

要するに、魔女と青年との間に乗り越えられなかった壁があった。
それが、嫉妬とかの恨みに向いて、呪いから破綻へと向かった。
というような話で、呪いをかけられて産まれてきた子供は18になるとガラス細工になる。

しかし、「麗夜」と「優月」は、お互いに愛するあまり、自己の犠牲的精神を持ち合わせていたし、相手のそんな気持ちに応える愛情を持っていた。

だから、ラストは愛し合った二人はガラスへと変貌していくが、そのあと月の光に照らされている中で、人間へと戻っていく。
二人は、自分たちがガラス細工ではなくて人間に戻った姿に抱き合うのだった。

● ということで、「麗夜」と「優月」のふたりは、悲しいけれど、人間の青年と魔女とのあいだの心の隙間にできた嫉妬とか勘違いなどから、憎しみを生み、のろいがかけられたが、最後は愛が勝った、というような締め。

ちなみに、「麗夜」の母である魔女はどうなったかというと、自分の嫉妬からの「のろい」が二人の愛情で破られたので、魔法を使えなくなり、ふつうの女性になった。

御作の背景部分を掘り下げてから、盛り上げるとドラマチックになる。

それでは頑張ってください。


お疲れさまでした。

月明かりの夜
218-251-33-133f1.kyt1.eonet.ne.jp

詳しく教えてくださり、誠にありがとうございます。次回からは教わったことを参考に、背景を詳しく考えてみます。

中小路昌宏
124-241-080-016.pool.fctv.ne.jp

 うまいですねえ、これを書いたのが中学生とは? 信じられない‼️

 私は貴方(貴女?)の5倍以上、人間やっていますが、負けそーです。
しかも、謙虚さを忘れないところが素晴らしい!

月明かりの夜
218-251-33-133f1.kyt1.eonet.ne.jp

ありがとうございます。お褒めいただき光栄です。

跳ね鳥
p2712061-omed01.osaka.ocn.ne.jp

拝読しました。言葉の美しさが印象的な小説でした。このガラス細工のような言葉の美しさを大学生くらいまで残せたら良いなと思います。美しい言葉の洗練をいつまでも忘れずに書き続けて下さい。

月明かりの夜
218-251-33-133f1.kyt1.eonet.ne.jp

返信が遅れてしまい、すみません。お褒めいただきとても嬉しいです。ありがとうございます。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内