友達ランク改稿
浩平編
小学六年生のある真冬の時期。教室で、凍えるような寒さの中、担任教師が言った。
「友達は二種いる。遊び友達と本当の友達だよ。遊び友達はただ遊んで楽しむだけの友達。本当の友達は、本当に困っている時に助けてくれる友達だよ。それは、本当に困っている時。自力でなんとか出来る時に助けてくれる友達じゃなくて、自力ではどうしようも出来ない本当に困っている時に助けてくれる友達の事を指す。君達は三國志の劉備、関羽、張飛のように、桃園の誓いを交わせるような友達を作りなさい。でも、殺してはいけませんよ」
桃園の誓いというのは、三國志の武将、劉備、関羽、張飛が交わしたとされる契りだ。でも、それは史実ではないらしい。そう、担任教師に教わった。担任教師は三國志の事が好きで、事ある毎に三國志の話しをした。俺も含め、クラスメートのほとんどの人間は三國志の世界にどっぷりと浸かり混んでいた。
お前は裏切りばかりする呂布みたいな奴だなとか、劉備みたいに民を救おうとするような奴だなとか、そんな話しで、湯気が立つような熱気で俺もクラスメート達と会話をした。
卒業式の日、運動場の校門の近くで、誠と桃園の誓いをアレンジして契る事にした。雪が降っていた。俺はかじかむ両手を擦り合わせた。俺達は言い合ったのだ。
「我ら二人、生まれし日は違えども兄弟の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、困窮する者たちを救わん。上は国家に報い、下は民を安んずることを誓う。同月同日に生まれることを得ずとも、同月同日に死せん事を願わん。皇天后土よ、実にこの心を鑑みよ。義に背き恩を忘るれば、天人共に戮(りく)すべし」
誠は嬉しそうにしている。戮すという言葉は、罪ある者を殺すという意味である。殺しはしないが、叩き伏せてやろうと思った。誠を守ろう。俺には腕力がある。もしも、誠がいじめを受けていたら、守ってやろうと思った。担任教師も誠を守ってやれと言っていた。誠はいじめを受けていた事がある。その状況を一度ばかりか、何度も助けてやった事がある。腕力がある俺には容易かった。
中学生になると、俺より運動神経や腕力がある奴がクラスメートになった。今まで、俺の言う事を聞いていたクラスメート達は、俺よりそいつの言う事を聞くようになった。気にくわなくて俺は一度、そいつに喧嘩を売って、ボロ雑巾のようにされた。歯が三本折れて、痛みでのたうち回った。俺より遥かに強く、一度も殴る事が出来なくて、悔しかった。
中学二年生になって、そいつはいじめをし始めた。次々とターゲットを変えて。桃園の誓いまでした誠はいじめるなよと思った。もしも、誠をいじめたら、その時は身の保身の為に逃げようと思った。
誠編
中学二年生のある夏の朝、下駄箱から僕の上履きがなくなっていた。
僕の番なんだなと思った。
困っていると、浩平が不思議そうにどうしたの? と、話しかけてきた。事情を話したら、浩平の顔が青ざめた。理由は察しがついた。清二を恐れているのだ。
「頑張れよ」
浩平はそう言い残して去っていった。
仕方なく僕は上履きを探す事にした。上履きがもう処分されているとは考えていなかった。清二は二日前クラスメートの三浦の上履きを教室の掃除用具入れの中に隠していた。
その時、僕を含め多くのクラスメートがいた。
「三浦にはどこに隠したか言うなよ。これは、ゲーム。三浦に自力で探させるゲーム。でも、三浦にはゲームの内容は伝えておく。自力で探せってね。もしも、三浦に上履きの場所をばらしたら、殺すからな」
三浦は結局の所、上履きを見つける事が出来ず親に新しい上履きを買ってもらった。
清二のゲーム、つまり、僕へのいじめも負けるに違いないと思っていた。
でも。
それでも、僕はいろいろなとこを探して回り、上履きを探す事にした。
その前に用をたすか。
そう思って、トイレに入る。用をたしていると、義人が話しかけてきた。
「清二だけどな、誠の上履き体育館の跳び箱の中に隠してたぜ。よく、探してみろよ」
「どうして教えてくれるんだ?」
「友達だからだよ」
浩平も友達だ。よく遊んでいる。それも、桃園の誓いをアレンジして契った友達だった。一体あの桃園の誓いは何だったんだろうか。僕もいじめから他のクラスメートを助けた事が一度もなかった。
体育館に行き、跳び箱の中を一つ一つ開けていった。僕の上履きがあった。
義人編
俺は友達の誠の為に、情報提供してやった。清二の奴から誠を守ろうと思ったのだ。ただし、守ると言っても自分を犠牲にしてまで守るつもりはない。俺がやるのは情報提供だけ。清二にはばれないだろう。
教室に入った。
清二とその取り巻き達は話しあっていた。
「誠の奴も、他の奴等と同じように親に上履きを買ってもらうだろうな」
取り巻きの一人、三川が言った。
「「ははははは」」
死ね、清二、その取り巻きの三川、井本、貞元と俺は思った。
五分ぐらいして、誠が教室に入ってきた。上履きをしっかり、履いている。
清二とその取り巻き達は、びっくりした表情をしていた。
「お前、その上履き見つけたのか」
清二が激昂した声を出しながら言った。誠の方に、清二は歩いていく。清二が誠の胸倉を掴んだ。怯えた表情をする誠が可哀想に思えてきた。
「おい、誠。お前に次の試練が待っているぞ。というか、お前が折れるまで続けるからな」
こいつ、この清二の野郎。くたばりやがれ。思ったが口には出さなかった。
清二編
むかつく。
誠の野郎上履きを見つけやがって。これじゃ、憂さが晴らせないじゃないか。まあ、いい。今度は誠の教科書を二階トイレの掃除用具入れの中に隠すか。
俺は移動教室で、誠が出て行った隙に、三川、井本、貞元達と誠のバッグから数学の教科書を取り出した。
トイレに行き、掃除用具入れを開いて数学の教科書を投げ入れてやった。
誰かが誠に情報提供している可能性濃厚だが、そいつを見つけたら、ただではすまさない。俺はいつも、クラスメート達にいじめのターゲットに何をするか知らせていた。情報提供する奴がいたら、楽しいからだ。そういう奴を殴ってみたいのだ。誰かを守ろうとする奴は許せない。
父は新しい技の考案と言っては、俺に暴力をふるう。父はプロレスラーで、俺の腕力では太刀打ち出来なかった。母は父を恐れているのか、一度も俺を守ってくれた事はない。
クラスメート達をいじめるのは、この憂さ晴らしの為だ。
鈴江編
「転校生を紹介する。さ、自己紹介して」
「木田鈴江です。趣味は読書。よろしくお願いいたします」
「さ、一番後ろの席が空いている。座りなさい」
私は担任教師に言われ、後ろの席に歩いていった。クラスの雰囲気というか、空気はどんよりしているように思えた。私は第六感が鋭くて、このクラスが抱えている問題がわかった。このクラスにはいじめがはびこっているのだ。
席に着いたら、
「木田さん、よろしく。僕は誠と言います」
と、男子が話しかけてきた。この子だなと思った。この子がいじめられている。でも、まだ心は折れていないようだ。友達運に恵まれていて、誰かがこの子を守っていた。でも、その守りの力は弱い。
「誠君ていじめられてるんじゃない?」
誠君の耳元で、私は言った。彼の顔はひきつっていた。当たり前か、前のクラスでも同じ事をしたら、同じ反応をいじめられっ子はしていた。
「大丈夫、私が守ってあげるよ。私の金科玉条は人を守る事だから」
「金科玉条?」
「金科玉条というのはね、」
「そこ、私語を慎みなさい」
私は黙った。
朝の会を終えて、私は金科玉条の説明をする事にした。
「金科玉条というのはね、金や玉のようなこの上のない立派な法律という意味や転じて、自分の主義や主張、立場の絶対的な拠り所になる思想や信条の事よ。誰かを守りたいの、私は」
「守るって言ったって」
「まかせて」
私はいじめの主犯各を探した。すぐにわかった。右側から、二列目、三番目の席のあの子だなと思った。
私はその子の席に歩いていった。
「あなたね、家庭内で暴力が振るわれているからといって酷いじゃない。即刻いじめはやめなさい」
「どうして、お前そこまでわかる?」
「私、第六感が鋭いから」
「いじめはやめねーよ」
彼はいじめを続けた。
ある時、暴力を誠君がふるわれそうになった。身を挺して守りにいった。
捨て身で彼を守り続けていたら、清二君は根負けしたのか、いじめをやらないようになった。
「実は私も親から虐待を受けていたのよ。もう、終わった事だけどね。私の誕生日、家に来なさい」
「わかった」
清二編
鈴江の誕生日、彼女の家に行った。鈴江の家族は本当に暖く、彼女に愛情を注いでいた。鈴江が虐待のせいで、自殺未遂をしてから彼女の両親は変わったという。俺も両親を変えられるかもしれないと思った。父や母と話し合おう。
話し合いというか、いかに俺が新技の実験体にされるのが嫌なのかや、母が守ってくれない憤りを伝えたら、両親は優しくなった。
馬鹿みたいだ。いじめなんてやらなくてよかったのだ。
執筆の狙い
改稿いたしました。ご指導お願いいたします。