作家でごはん!鍛練場
文原ひろと

貯まらないポイント(改訂)

ひま。暇。ヒマ。夜のコンビニバイトはとにかく暇だ。やるべき業務も一通り終え、バックヤードで座りながら意味もなくケータイをいじっていると、入店音が鳴った。防犯カメラで見てみると一人のおじいさんが店に入ってくるところだった。
「いらしゃっせー」俺は脱ぎ散らかしていた制服を着ながら店内へと出る。そのおじいさんは酒で酔っているのか、ふらふらとおぼつかない足取りだった。このご時世にもかかわらずマスクをしていない顔はほんのりと赤い。

しばらくはレジに来なさそうだったので、暇つぶしがてら店内を一周回って、商品をきれいに並べなおす。新発売のスイーツが目に飛び込んできた。廃棄の弁当を食べてから一時間半ほど、デザートにはちょうどいいタイミングだった。コンビニには誘惑が多い。いつもバイト終わりに、廃棄の商品をカバンに詰め込み、さらにはデザートとアイスミルクティーを買って帰る西村という男子大学生は、見た目でわかるくらいブクブクと太っていった。気持ちはわかるが、俺はああいう風にはなりたくない。そんなことを思いながら手に取っていた新発売のスイーツを棚に戻すと、さっきのおじいさんがレジの前に立っていたのが見えた。慌ててレジに戻る。

「お待たせしました」と一応申し訳なさそうな顔をつくり、謝罪の言葉を述べてから、カウンターに置かれた缶ビール3本と焼酎のボトルをスキャンした。
「お会計1620円です」まだ飲むのかよ。俺は心の中でそうつぶやきながら、お金を受け取り、おつりとレシートをトレイに乗せて返した。おじいさんはそれをまとめて財布に入れ、自動ドアの方へと歩いて行った。が、ドアの手前でUターンをして再びレジの方へと向かってくる。タバコでも買い忘れたのだろうと俺は思ったが、そうではなかった。

「ポイントカード出し忘れたわ」おじいさんはそう言いながら財布からポイントカードを出した。当然お会計を済ませた後だとポイントはつけられない。そのことを伝えると、老人は急に血相を変え怒鳴り始めた。酒で酔った赤い顔がさらに赤くなる。こういうやつにはとにかく謝罪の言葉を連呼し、頭を下げ続けることが肝心だ。感情と行動を切り離し、ふてぶてしさが出ないよう気を付けながら、怒鳴られ役に徹する。
数ポイントでなに必死になってるんだ。かわいそうなやつだ。そう思っても決してそれを悟られてはいけない。

「申し訳ございません。一度返品の手続きを取ってから、もう一度お会計させていただいてもよろしいですか?」俺が丁寧にそう言ってやると、酔っ払いのじじいは
「なんでそんなめんどくさいことしなあかんねん。普通ポイントカードありますかって聞くやろ」とさらに大きな声で怒鳴ってきた。カウンターと感染防止のためにレジに設置された透明のシートには、目の前の老害がまき散らしたたくさんの唾がついていた。俺は舌打ちとため息を必死の思いで飲み込み、バックヤードにある自分の財布から100円玉を取り出して、その老害くそ野郎に渡した。貧乏な俺にとっては100円でも貴重なお金だったが、とっとと帰ってほしいがための決断だった。老害くそ野郎は100円玉を奪うように取り、それから俺の胸についている名札を見て、「米田って言うんか、名前覚えたからな」と言い残し帰っていった。



一度寝るとあの時のイライラは見事に収まっていた。名前を見られたからクレームでも入れられているのかと思い、少し憂鬱な気持ちで出勤したが、店長や社員の方からは特に何も言われなかった。今日は友達の松永も出勤のため、二人仲良くバックヤードでさぼっていた。
「うわ、客来たわ」松永が防犯カメラを見ながらそう言った。
「だるっ。年末やねんから家おっとけよ」実際はたいしてだるくないが、そう言いながら俺も防犯カメラを覗く。
前言撤回。俺にとってそれは、とてつもなくだるい状況になってしまった。
防犯カメラに映るだだっ広い駐車場には昨日の老害の姿があった。
「わるい、松永。レジ行ってくれへん?」俺は右手を掲げ、すまんのポーズをとりながら言った。
「ええけど、なんでなん?」
「またあとで話すわ」

俺は松永を生贄にし、防犯カメラでその様子を見ていた。老害は昨日とは打って変わってスタスタとレジに向かって一直線に歩いてきた。人違いか。そう思い、ほっとしていると、
「米田君いてますか?やって。知り合いなん?」松永がバックヤードに来てそう言った。
「まじか、」やっぱりあの客は昨日の老害だった。わざわざ文句でもいいに来たのだろうか。俺が顔をしかめていると
「ごめん、おるって言うてもうた」今度は松永が両手を合わせてすまんのポーズをとった。

「どうされましたか?」俺は何事もなかったかのように平然を装いそう言うと、耳を疑うほど意外な言葉がやつの口から発せられた。
「昨日はすまなかった。酔っぱらっていて、大人げない行動をとってしまった。本当にすまない」
そこに立っていたのは、老害なんて汚い言葉の似合わない、優しいおじいさんだった。そのおじいさんは何やらポケットの中を探っていた。
「昨日兄ちゃんがくれたこれを返したくてな」おじいさんは申し訳なさそうにそう言って、ポケットの中から100円玉を取り出した。しわくちゃだがごつごつとしたおじいさんの手に乗った一枚の銀色の硬貨は、光を反射しキラキラと輝いてみえた。
「いやいや、いいですよ。あれは僕のミスでしたので」そう言ったが老人は、いいからいいから、と俺の手を取り、無理やり100円玉を握らせてきた。
「ありがとうございます」俺は素直に受け取ることにした。
「ちょっと買い物して行ってもええか?」おじいさんの問いかけに
「もちろんです」と俺は頭を下げた。
おじいさんは缶ビール一本だけを取り、すぐにレジに戻て来た。
酒買うんかい。なんてこと俺は思ってはいない。
俺は缶ビールをスキャンし、満を持して言う。
「ポイントカードはお持ちですか?」
おじいさんはニコッと笑ってからポケットの中を探った。なんて平和な物語だろう。ハッピーエンドだ。そんなことを思いながらポイントカードを待っていると、老人は申し訳なさそうにこう言った。


「すまん、ポイントカード忘れてもうた」おじいさんは右手を掲げ、すまんのポーズをとっていた。

貯まらないポイント(改訂)

執筆の狙い

作者 文原ひろと
sp1-72-5-71.msc.spmode.ne.jp

前回投稿したものを改稿しました。
3,4分で読むことができる短編小説です。
ご意見、ご感想いただけると幸いです。

コメント

田毎の月。
n219100086103.nct9.ne.jp

これ、前も見てて、感想も書いてる。

一瞥した感じ、「前より長く、よりまどろっこしくなってる」風。


申し訳ないけど、【ネタそのものが、短編小説になるほどのもんじゃなく、ハナシのキレがない】
つまりは【おもしろくない】んです。


このネタでゆくとしても、「面白くする方法は、いろいろある」(ちょっと考えれば思いつく)んで、、、

>「すまん、ポイントカード忘れてもうた」

↑ ってー、【最も白ける、つまらんオチ】には持って行かない。。



いや、「持って行ってもいい」のです。

《この平平凡、しょうもない低調オチでも、軽妙洒脱にくすりと笑わせるだけの、ペーソス醸し出せる筆力があるのなら》。


この書き用だと、それは余計に無理だから・・


ハナシをひねった方がいいです。

夜の雨
ai225114.d.west.v6connect.net

「貯まらないポイント(改訂)」読みました。

これ、読んで「私(夜の雨)」は、感想を書いていると思いますが。

記憶にはありますが、残念ながら「外付けのHDが故障して」どんな感想を書いたのか、確認ができません。

● 今回の感想です。
なかなか、面白いというか、これ以上に「どうたら」という意見は、ありません。
ただ、以前、「ポイント」で、ひとくされ、能書きを垂れた「ご老人」が、再訪したときが「真昼」なのか「夕方」なのか、「夜か」そのあたりの描写を書いておけば、かなり良かったのではないかと思います。ちなみに推薦は「真昼」です。
夜、酒。昼、しらふ。にも、関わらず、「ぼけた」「老人」の、展開、ということです。

おじいさんは缶ビール一本だけを取り、すぐにレジに戻て来た。
>酒買うんかい。なんてこと俺は思ってはいない。<  ← ここの部分ですが、かなり面白いですね。理由は簡単です。この老人は、昨日は「酒を飲んでいて、失敗」しています。
その老人が「今回は主人公に、謝罪したはずなのに」再び、「酒」を買う、すなわち『老人が、失敗した原因』の「酒」を再び、購入するところに、面白さがあります。『また、失敗するんじゃ、ねえの』「その、酒を、自宅で飲んだ後」ということです。

>「ポイントカード出し忘れたわ」おじいさんはそう言いながら財布からポイントカードを出した。<
ここですが、「ポイントカード」を財布から、出していますよね。

ところが、ラスト近くで。

>「ポイントカードはお持ちですか?」
おじいさんはニコッと笑ってからポケットの中を探った。なんて平和な物語だろう。ハッピーエンドだ。そんなことを思いながらポイントカードを待っていると、老人は申し訳なさそうにこう言った。<

老人は、『おじいさんはニコッと笑ってからポケットの中を探った。』ここですが、「ポケットを探っても、もちろんありません。
●「ポイントカード」は財布の中にあります。●

ということなので、老人の『ボケ』具合というか「痴ほう症」が、ちょっとした「笑い」で、描かれているのではないかと思います。

「すまん、ポイントカード忘れてもうた」おじいさんは右手を掲げ、すまんのポーズをとっていた。

このあと、主人公の「俺」は、「にっ!」と、笑顔を見せて、『ポイントカードは、財布のなかに、ありませんか』ここまで、「老人を」追い込むと、かなり、面白いのでは、ないかと思います。


お疲れさまでした。

胡麻味噌
KD106180006039.au-net.ne.jp

初めて、読みました。
もしかしたら、作者様はもっと的確なアドバイスとか
求めているかもしれないですけど、
読んでみて、「いいなぁ」と率直に感じたので、
感想を書きました。
とても好きな短編です。
好きなセリフは、語り手の
「だるっ。年末やねんから家おっとけよ」です笑。
なんでかわからないけど、いいなと思いました。


私自身、コンビニではないですけど、接客業のバイトを経験した
ことがあり、「あー」と、とても共感できるところがありました。
気難しいお客に絡まれると、切り抜けるのが難しいです。

簡潔で、さらっと読めて、
格好つけていない文章に、とても好感持てました。
ポイントカードありますかとか、袋いりますかとか、レジの店員さんとは、
結構コミュニケーションを求められますよね。
客側は、面倒くさいなぁと思ったり。
感染防止のシートに苛立つ人とか、見掛けることがありました。
お客とレジ側との交流の中で、互いの心がざわつく場面、
たくさんあると思います。

私なんか、名前、覚えておくぞと言われると、家に帰っても
びくびくしちゃいます。
昨日の店員への態度を、
「昨日は、悪かったな」という感じで、謝る老人。
老害と決めつけていたけど、
張り詰めていた思いが「あれれ」と解きほぐされる、語り手。
そして、ちょっと買い物して行ってもええか?と聞いて来る老人。
もちろんです、という語り手。
なんてことない、コンビニでの日常の一場面ですが、それがとても
いきいきとえがかれていたと思いました。
次回作も、楽しみにしております!

えんがわ
KD106155001056.au-net.ne.jp

あー、良い味出してます。

最初は重くなっちゃう話かな、と思ったけど。
ふわりと軽いオチで。

老人との和解。
でも缶ビールを一本買っちゃう人間らしさが、ひじょーに好きです。

何よりもオチの一行が、良い意味で予想を裏切って、絶妙にコミカルに物語を締めています。

>「すまん、ポイントカード忘れてもうた」おじいさんは右手を掲げ、すまんのポーズをとっていた。

もうこの行から老人の姿というかコンビニの背景も含めシーンが目に浮かんで、ちょっとにやけてしまいました。

脱力させる隠れた力作だと思います。

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