作家でごはん!鍛練場
490

バチャ豚で何が悪い 2

「アリス!結局あきとはどんな関係なの?彼氏?彼氏なんでしょ!」

 「ちっ違うし!あき君はいわゆるパートナーだから!決っしてそんな関係じゃなから!」

 湯けむり漂う温泉浴場。竹の壁一枚挟んだ向こうで、秋津さんが俺の事を話しているらしい。まあどうしてこんな状況にあるのか、それは秋津さんと一緒に誓ったあの日の少し後まで遡ることになる。





『桜庭アリスさんがライブ配信を始めます』



 家で何気なくスマホをいじっていたらWetubeから通知が届いた。どうやら久々の復帰配信を行うらしい。しばらくやらないって言ってたのに、まあそれはともあれ運営と相談して気でも変わったのか?まあ、久々の配信だから嬉しいのだが。



 『復帰配信!』と書かれたシンプルなサムネイルをタップし配信を見ていく。

 「こんばん桜〜、エクスペリエンス所属二期生桜庭アリスです。今日は久々の復帰配信!後、今日は大事な発表があるよ〜最後まで楽しみにしてね〜」

 『発表!? 』『何々』『楽しみ〜』

 様々なコメントがものすごい勢いで流れていく。恐らく発表は昨日録ったボイスの発売決定とかだろうか。数十分配信した頃、桜庭アリスが



 「所で最近二期生の皆と旅行に行くことになったんだよね〜」

 『どこ?』『旅行楽しそう』『旅行羨ましい〜』

 旅行か・・・。そんな素振り一切見せてなかったのに、いつの間に旅行なんて企画してたんだろう。

 「でしょ〜。場所は流石に言えないけど行くところは温泉だよ温泉!」

 旅行か・・・。今回の件もあったし気分転換には丁度良いかもしれない。

 「今回の配信は終了です。それじゃあおつ桜〜」

 そうして無事に配信が終わり、俺は早速久しぶりの桜庭アリスの切り抜き動画作成にとりかかる。



 『ちょっと良いかな?』

 配信時間たった頃、秋津さんがDiscordからメッセージが送られてきた。

 『何だ?今お前の切り抜き動画を作ってたんだが』

 『お〜、流石私の専属切抜き師』

 『専属切抜き師とか聞いたこと無いな・・・』

 『所であき君少し相談したいことがあるんだけど良いかな・・・』

 相談と言われると少し身構えてしまう。

 『もしかして、またストーカー関係か?』

 少しタイピングする指が震え、緊張して返信を待つ。

 『いや別に違うよ!今回の相談は完全に別件』

 その返信がきて安心した。これ以上秋津さんが傷つくところを、見たくなかったからだ。

 『まあ今日の配信見てたよね。それで私温泉旅行に行くって言ってたじゃない?』

 『言ってたな。楽しんでこいよ』

 『それなんだけど、あき君一緒に来てくれないかな?』



 『は?』



 『詳しい事はまた明日学校で話すから!』



 「は?」

 パソコンデスクの前で一人唖然としたのだった。





 「で、昨日のメッセージは何なんだ?」

 場所は学校の廃教室、俺は昨日の事を秋津さんに問い詰めている。

 「いや〜それがね、今回の旅行さ、タレントと社員の慰安旅行なんだけど、二期生とそのマネージャーと一緒に行く事になってたんだけど、私のマネージャーの瀧川さんって言う人がいるんだけど。その人が急遽行けなくなっちゃったんだよね」



 瀧川さん・・・。確か収録現場で俺を案内してくれた、真面目そうな人か。

 「それで旅館キャンセルするともうキャンセル料取られちゃうから、私の友人枠として一緒に来てほしいんだけど良いかな?」

 「事情は分かったんだが、部外者の俺を入れていいのか?流石に女旅に一人男が交じるのもどうかと思うのだが・・・」

 「そこはもう二期生の皆と運営さんに許可は取れたから一緒に行けるよ。勿論お金は会社持ちだから大丈夫だよ」

 すぐに『行きたい』、という言葉が口から飛び出そうになったが流石に、タダ乗り&女旅に水を差す行為は流石に俺の理性が止める。

 「いや・・・、流石に会社の慰安旅行にタダ乗りするのはちょっとな・・・」

 ここは世間体を考えて、断ることにする。

 「あき君。昨日私のこと守ってくれるって言ってくれたよね・・・」

 秋津さんは上目遣いで頼み始めた。



 「それはズルいだろー」

 俺は机に突っ伏して降参を宣言するしかなかった。あんなに可愛く言われたら、そりゃ了承するしか無いだろう。

 「それじゃあ、決定だね!」

 「待て!一つ条件だ。このままじゃ俺の沽券に関わるからな・・・。ホテルの宿泊費以外は俺が払う、これが俺の条件だからな」

 最大限に譲歩し、俺の許す範囲ではこれが限界だ。

 「別にそれぐらい運営さんが用意してくれるのに・・・」

 「これぐらいは俺に用意させてくれ」

 「やった〜、約束だよ。絶対に絶対にだからね!」

 子供のように喜ぶ秋津さんを見ながら、俺は少し複雑な心でいた。

 「所で何だがその旅行ってのは、いつやるんだ?」



 「明日だよ〜」

 「は?ちょっともう一回言ってくれないか」

 「だから明日だって。この旅行が決まったのは二週間前ぐらいだけど、私のマネージャーが昨日急に行けなくなったって言うから、急になっちゃったけどね。あっ!この旅行1泊2日になるから、今日一緒に職員室に行って先生に2日間休みますって言ってくるよ」

 「唐突すぎるだろ・・・」

 突然降って湧いてきたこの旅行。本当にどうなるかは神のみぞ知るってことですか?


朝方、これから仕事へ向かうであろうスーツ姿の人々が行き交う東京駅。俺はそこに普段着とリュックを背負って立っていた。昨日集合時間と集合場所を言われ、急いで準備をした俺を褒めてほしいものだ。集合時間は六時半、ここ東京駅だ、しかし周りを見渡してもいるのはサラリーマンと隣にいる、まるで人形のような小さく可憐な少女ぐらいだ。



 「あっ・・・あの・・・すみません」

 そんな事を考えていたら隣の少女と目が合った。そう思ったらその少女が気弱そうに話しかけてきた。       

 「えっと・・・、どうしたんですか」



 「あの・・・」

 目の前の少女はおどおどしており、気弱な印象を受ける。

 「何か聞きたい事があるんですか?」

 「あのお・・・」

 話せば話すほど気弱な印象を受ける少女だ、まあろくに話せていないが。さっきから目をそらし気味でまともに会話が成立してないしな。



 「あき君〜。お〜は〜よ〜う〜」

 元気な挨拶が俺達の拙い会話を遮った。

 「って、お前か・・・。遅いぞ、もう一五分も遅れてるし」

 「いや〜、少し電車が遅れちゃってね」

 遅刻したことを悪びれた様子も無いようだ。

 「お〜、カノッチ!おはよ〜」

 「おはようございます、サラちゃん」

 「カノっチ?」

 秋津さんが挨拶したのは、さっきまで俺が話していた少女だった。



 「ああ、紹介するね。この子は鹿野彩由美かのあゆみちゃん、私の同期の狐子千冬このちふゆちゃんだよ〜!」

 「ちょっと!サラちゃん抱きつかないで〜」

 秋津さんが鹿野さんの紹介をした後に抱きつき始めた。まるで姉妹のような仲の良さだ。

 「さらっと流したけど、その子があの狐野千冬か?」

 「そうだよ〜」

 「あ〜、お前の同期が来ることは予想してたが、その・・・幼すぎないか?」

 俺の見立てでは鹿野さんは十歳位に見える。

 「えっと・・・、私一応今年で一二歳です・・・」

 俺の声が漏れていたのか鹿野さんが自分の年齢を明かしてくれた。

 「若いな・・・。じゃあデビューの時は十一歳か」

 「コノっチは凄いんだよ!うちの事務所で最年少なんだよ」

 「なんでお前が自慢気なんだ・・・」



 狐野千冬《このちふゆ》、桜庭アリスと同じ二期生で、舌足らずな声と愛くるしい見た目でロリコn・・・、小さなお子様が好きなリスナーに熱烈な人気を誇る。二期生では妹キャラとして定着しており、一期生からも愛されている。狐野千冬は自然すぎる幼声で魂は一体どんな人なのかとネット上で予想されていたが、まさかこんなに幼く見える少女がやっているとは予想できなかった。確かに夜十時以降の配信がなかったのがヒントになっていたかもしれない。



 「サラちゃんからあなたの事は聞いています。1泊2日間よろしくお願いします」



 礼儀正しく礼をされ、俺もつられて礼をする。

 「こちらこそよろしくな、俺の自己紹介がまだだったな。俺の名前は織本明、秋津さんから聞いているかもしれないけど切り抜き師のakiとしても活動させてもらってるよ」

 「あなたがakiさんですか!いつもありがとうございます!」

 「えっと・・・、それはどうも・・・」

 さっきとは打って変わって、目を輝かせていっきに好意的な態度を取り始めた。俺は鹿野さんの唐突な態度の変化に戸惑いを隠せずにいた。



 「あはは、これもあき君のせいかもね?」

 「俺のせい?」

 「実は、あき君のお陰で今のカノっチがいるんだよ」

 「そうなんです!あきさんのお陰で、今の私がいると言っても過言じゃありません!」

 「まあ、私があき君の切り抜き動画を見たの、カノっチが見せてくれたんだよね。だからカノっチの方がファン歴が長がったりするんだけどね・・・」

 何故か少し悔しような顔を浮かべているが、まさか狐野千冬が俺の切り抜き動画を見ていたと驚きだ。     

 「ここで話すのもなんですが・・・」



 そして、鹿野さんは自分がこうなった経緯を話し始めた。

 「私はデビュー当初、まだ配信経験がほとんど無くて右も左も分からなくて配信が配信としてギリギリの所を辛うじて保っていました」



 確か、狐野千冬《このちふゆ》のデビュー当初はとてもじゃないがうまい配信とは言えなかった。そして最初はまだ今のように、幼声を用いた配信は無かったのだ。当初は高校生ぐらいの万人受けするような声だったのだが、ある日を境に今の、幼声を用いた配信が行われるようになったのだ。



 「それでエゴサーチをしても心無い言葉が多くて、一時期は辞めようと思ったこともありました。でもそんな状況であきさんの切り抜き動画を見たんです。私はその動画を見た時感動しました。あんなに面白くも無かった私の配信が、こんなにも面白くなるんだと。私は感動しました、そして私の配信はここまで面白くなる可能性があるとも思いました。そして自分のキャラの研究や企画を考えたりして、今の私がいるというわけです」



 そう熱烈と鹿野さんは話してくれた。

 「狐野さんの活動に貢献できたようで本当に良かったよ。こっちも動画を作った甲斐があったよ」

 狐野千冬の配信背景に俺が関わり、それが一人のvtuberの原動力になっていたとは切り抜き師冥利に尽きると言うものだ

「よーす!アリス、千冬」

「ごめんなさい、茜さんを待っていたら遅れてしまいました」

三人して少ししんみりとした空気になっていた所に、快活な挨拶が空気を壊してきた。何事かと思い、声のする方へ視線を向けると高校生ぐらいの女子が二人立っていた。片方はスポーツをしているのだろうか?肌は日焼けをしておりとても健康的に見える。もう片方は長身で、肌は透き通るように白い。秋田美人を彷彿とさせる。



 「よーす!にんにん、ゆりゆり」

「おはようございます。新美さん、百合草さん」

どうやら、知り合いらしい。最早誰かは分かりきった事だけどな・・・。

「お~、君が例のアリスの彼氏君かな?」

「はい!?全く違いますけど!?」

遅れて来た褐色少女の爆弾発言に、初対面なのに醜態をさらしてしまった。

「だって、アリスがウキウキで君の事を喋るんだよ?しかも君アリスのストーカー事件を解決したって火夜ねえから聞いたよ。アリスの頭を撫でたり抱きついたりしたんでしょ?そんなのもう彼氏じゃん!」

頬に手を当て、年相応の反応を見せている。

  ひよまゆみぃ・・・。

俺は今ここにいない、彼女らの先輩を恨んだ。



「こら、いきなりのそんなデリカシーの無いことを言っては駄目ですよ茜さん。困っているじゃないですか」

「ちぇ~、つまんないの…」

反応に困っていたら、もう一人の長身の方の女子が褐色少女の暴走を止めてくれた。

「突然すみません。茜さんはちょっと恋愛絡みの話になると歯止めが効かなくなるので・・・」

「は、はぁ・・・」

またあいつとは違うタイプの奴が来たな・・・。

新たな頭痛の種を抱える事に落胆していると。



「所で君は私達が誰なのか分かるかな?」

私達が誰なのか?その一見奇妙に聞こえる質問に対する俺の答えは決まっている。



「二期生の服部綾花と藤原リタだろ?」

「お、流石だね。流石、私達の黎明期を支えた切り抜き師なことはあるよ」 俺の勘は鈍っていなかったようだ。

「それじゃあ自己紹介とでもいこうかな、花!」

「綾!」

褐色少女の問いかけに俺はお決まりの返しをする。



 「エクスペリエンス所属、二期生服部綾花だよ!本名は新実茜。二日間よろしくね」



 服部綾花、服部の名を関している通り忍者をモチーフにした vtuber だ。配信内の話ではあるが時折、忍者顔負けの運動神経の高さが垣間見えるエピソードが出てきたりと、奇想天外な話しぶりが人気だ。二期生内ではムードメーカー的な存在であり、良く二期生と一緒にオフコラボを行なったりと二期生の仲を深めている一因となっている。



「同じくエクスペリエンス所属、二期生藤原リタです。本名の方は百合草美香と言います。短い間ですがよろしくお願いします」



 藤原リタ、異世界からやって来た魔法使いという設定で活動しており、一言で彼女を表すとするなら『ママ』だ。彼女の包容力はエクスペリエンスの中でも秀でており、その声は一言発するだけで心が暖かく包み込まれるような気分になれる。配信ではそののんびりとした声で癒やし系 vtuber として名を馳せている。

二人の vtuber 名と本名を明かしてくれた。

「切り抜き師 aki として活動させてもらっている。本名は織本明だ、よろしく頼む」

「それじゃあ、あきって呼んでも良い?」

「良いぞ」

「それじゃあ私の事は茜で良いから」

こうしてお互いの自己紹介が済み、俺たちは草津に向けてホームへ向かうのであった。



新幹線に揺られ早四十五分、俺はあの後特に進展は無く、二期生の三人が俺の隣で楽しく遊んでいる所にズケズケと入れるわけもなく、今こうして黄昏れているというわけだ。流石に気まずい・・・。今現状俺が置かれている状況は、同じ班の陽キャグループの話の輪に入れずぽつんと一人陰キャが車窓の外をただ延々と眺めている状態だ。俺を含めもう一人居るがな・・・。



 「あき君の事を呼び捨て言うなんて・・・。まだ私でさえ行ったこと無いのに・・・。

にんにんの奴・・・同期だからって・・・」

茜が俺を呼び捨てし始めたの聞いていてから、露骨に落ち込んでいる。

「おい、そんなに俺の名前を呼び捨てされたのがショックだったのか?」 寂しい気持ちを紛らわせるために、隣に座っている秋津さんに話しかける。

「ん・・・、もしかして聞こえてた?」

「聞こえるも何も呪詛かよ、同期を呪い殺すきか?」

「べっ別に先を越されたからって少し落ち込んでるわけじゃないから・・・」

珍しく拗ねてる様子を見せている。こういう姿は配信でも学校でも見た事が無いので新鮮な感じだ。

「てか良いのか?同期の間に入らなくて」

「そんな気分じゃない・・・」

居眠りをするように背面テーブルに頭と腕を預け、横から顔を覗かせている。

「じゃあさ、頭撫でてくれる?」

「お前も随分神経図太くなったな・・・」

「相棒の願いなんだよ?聞いてはくれないのかな?」 無防備な姿勢からとんでもないことを要求してきた。

「俺はお前の彼氏か・・・」

「お願いだよー、今こそ私達の絆の強さを試すときだよー」

「そんな事をするために俺はお前の相棒になったわけじゃない・・・ぞ」

「やっぱりしたいんじゃん。ほれほれ良いのじゃぞ、今私の頭を好きにできるぞ」

「いや・・・、でもな付き合っても無い男女がこんな事しても良いのかなと・・・」

「初心か!」



「お〜、おっぱじめてるね〜。ヒューヒュー」 通路の方から茜が茶々を入れてきた。

「む〜。にんにん邪魔しないでよ」

「いや〜、彼氏さん初々しいね〜」

「全くだよ本当・・・」

「あきも少しぐらいサービスしたら?アリスは案外寂しがり屋なんだから」

「ちょっとにんにん!?」

同期に秘密をばらされ、少し赤面していた。





「まもなく草津です」

草津に着く旨のアナウンスが流れた。



「それじゃあ、楽しもうね。あき!」 草津旅は茜の一声から始まった。

「うわぁー」



 もうもうと湯気が煙る湯畑を目の前にして、彼女たちは感嘆の声を上げていた。



 駅を降りた後、先に行っていた彼女たちのマネージャーと合流しバスに揺られ草津の観光名所、湯畑に来ている。



 「どこ行こっか?」



 この慰安旅行は特に目的は定まっておらず、宿だけが決まっている状況だ。



 「皆!こことかどう?」



 秋津さんがスマホ画面を差し出して見せてきた。画面を見てみると、お風呂に入り柚子を頭に乗っけているカピパラの姿があった。



 「良いねそこ!」



 「カピパラとか可愛いですね。行ってみましょうか」



 「わ・・・私も行ってみたいです」



 他三人も好意的な反応もあり、俺達はそのカピパラがいる動物園に向かうことになった。



 







 



 十分程歩いた所にその動物園はあった。見た目は古き良き、小さい動物園だ。さっきスマホでこの動物園を調べてみると、どうやら展示室がドーム状になっており、そこに様々な熱帯動物がいるようだ。しかもそのドームは草津温泉の熱で温められている。受付でチケットを買い、中に入るとコブラの骨の標本や蝶の羽が使われた絵などが特に法則無く飾られており、なかなかにカオスな様相になっている。



 そして小さな展示室をでると目の前に猿山が見えてきた。俺たちが近くに寄ると猿たちが上目遣いで俺たちを見つめている。



 「あ、もしかして餌が欲しいのですかね?」



 百合草さんが目を向けた先を見ると、『猿の餌200円』と書かれ机の上にフルーツが入ったバスケットが置いてある。



 「せっかくだし餌上げてみようよ!」



 「いっ良いですね」



 「そうだね!なんか猿の視線が痛いからね・・・」



 そうして俺たちはそれぞれ餌を持ち、猿達に餌を投げ入れ初めた。



 「あき君!あき君!あの猿凄い勢いで跳んでるよ!」



 「何か鬼気迫る物を感じるな・・・。猿界隈も大変そうだな・・・」



 秋津さんがまるで子供のようにはしゃいでいる。猿山の方を見てみると、確かに餌が貰えるのを喜んでいるのか尋常なほどに興奮して跳び回っている猿がいた。他の猿にも目を向けると、二足で立ち祈るように両手を組んで俺たちに餌を乞うような仕草を見せる猿もおり十人十色ならぬ十猿十色だ。



 「まああき君は猿以下な単純な思考してるからあそこにいてもすぐに他の猿に餌を取られそうだけどね」



 「おい誰が猿以下の思考だって?俺だってもう少し上手く生活出来るわ」



 「あの猿を見ても同じこと言える?」



 バスケットに入っているリンゴを投げ込むと少し俺に似ている猿がそのリンゴを取っていった。



 「何だよ?別にあの猿だってしっかりと餌貰えてるじゃねぇか」



 「まだ続きがあるから見てみな?」



 そう言われて改めて俺似の猿を目で追っていると、猿山の端の方に行き座ってリンゴを食べようとしていた。



 「あっ!」



 リンゴを食べようとした瞬間別の猿にリンゴを掠め取ってしまった。



 「いや〜、世知辛い世の中だね〜」



 「不服だ・・・」



 



 餌をやり終わり猿山を後にすると、この動物園の目玉のドーム展示場についた。中に入ると室温と湿度が高く周りには熱帯地方に群生している草木が植えてあり、さながら熱帯雨林にような雰囲気を醸し出している。



 まず最初に目に入るのは成人男性三人分程の体長はありそうなワニが三匹悠々と泳いでおり、上から覗ているだけだが迫力は満点だ。



 他にも微動だにしないハシビロコウやカラフル羽を持っている鳥たち、熱帯に群生している花など様々な動植物が展示されている。







 様々な展示物を見ていき遂に俺たちは念願のものにたどり着いた。



 十匹程度のカピバラが温泉に気持ち良さそうに浸かってところを見ているとこっちも癒されてくる。



「わぁ…」



 立案者の鹿野さんもカピバラの姿に魅了されているのか感嘆の声が少し漏れ、目の前のカピバラと同じように気持ちよさそうな顔をしていて見ている。



 他の面々も同じような気持ちだろうか、皆カピバラの入浴姿に魅了されていた。



 「可愛いね…、何だかこっちまで癒されるね…」



 「それな…」



 一通り動物園を満喫した。その後俺たちは草津の観光名所を巡り、気づいたら旅館のチェックインの一五時を回っていた。



 チェックインはマネージャ達が済ませている間、二期生の皆は旅館の前にいる看板猫と戯れている。







 「え?良いんですか?」



 「こちらの都合で来てもらった訳ですし構いません。それに女子部屋に入れられるの酷でしょう?」



 「ですね、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」



 さっきチェックインを済ませてくれたマネージャーの一人が俺の部屋割について、一人だけ男なのを察してくれ一人部屋を用意してくれた。正直二期生とこうして旅行を共に出来ているだけでも気が狂いそうになるのを必死に堪えているのだが、一緒の部屋にいたら何をしでかすのか分からないからこれは助かる。まあ当たり前と言ったら当たり前の処置なのだが。



 「夕食は十八時ですのでそれまでに新春の間へ来てください。そこで全員で夕食を取りますので」



 「分かりました。わざわざありがとうございます」







 「ふ〜」



 部屋の鍵を渡され、すぐさま部屋に入ると俺はそこらへんに荷物をほっぽり投げ座布団に腰を下ろした。



 草津に着いてから歩きっぱなしで観光中はあまり気にならなかったが座布団に座ると足に溜まっていた乳酸が排出されていくのを感じる。



 机においてあるお茶菓子とお茶で一服した後、そこら辺にほっぽり投げたリュックの中から編集用のノートパソコンとマウスを取り出し編集作業を始める。



 まだ今日の分の切り抜き動画が出来ていないのだ。旅先でも動画編集かと思うが約一年毎日スキマ時間で動画編集をしていると時間を持て余す時に動画編集をしなければ落ち着かない体になってしまった。



 「温泉にでも入るか・・・」



 一時間位が経ち動画編集に一区切りがつき、大きく伸びをした。



 折角草津にも来て一度も温泉に入らないのはどうも味気ない、この温泉も草津に地に建っているので例に漏れず温泉旅館だ。効能もすごく、出発前に調べてみた範囲だと神経痛、筋肉痛、関節痛、冷え性、疲労回復など他にも様々な効能がある。



 早速浴衣に着替え入浴セットを持ち旅館の大浴場に向かった。

 三分程館内を歩くと最初に赤と青の暖簾が見えた。歩みを止めて周りを見ると昔ながらの温泉宿で木製の壁と床、脇を見ると卓球台や牛乳の自動販売機が置いてあり、どこか懐かしさを感じる作りだ。



 青い方の暖簾をくぐりスリッパを靴置きに入れ、脱衣所手早く服を脱ぎようやく温泉とのご対面だ。湯けむりの先には宿泊者が二・三人いるのみだ。大きな内風呂が見え薄いエメラルドグリーン色の温泉に今すぐ入るのぐっとこらえ、まずかけ湯と体を洗い改めて温泉に入っていく。



 



 「あぁ〜」



 



 思わず声も出るくらい気持ち良いお湯だ。



 温泉などは久々に入ったが普通のお湯とは一線を画する。まず体が温まり方がぜんぜん違う体の表面では無く体の芯から温められているかのように体がポカポカしてきた。肌を擦ると肌がすべすべになっている。



 今度近所の温泉銭湯にでも行こうかな・・・・・・。



 そう思う程にこの温泉は気持ちいぃ。



 次に外風呂にくり出していく。外風呂には俺以外の宿泊者はおらず、ひんやりとした外気に肌を刺激されながら石の床を歩くと左手には内風呂とは違い周りが岩で覆われ、床は少し荒く研磨された石がはめられていた。そして何よりも目を引くのは四本の柱で支えられた屋根が大きな存在感を醸し出している。奥の方を見ると成人男性でも余裕をもって入れる程の直径を有する三つ壺風呂が鎮座している。



まずは最初に目についた屋根付きの風呂に入っていく。



 お湯自体は内風呂と大きな違いは無いのだが、柱から香ってくるヒノキの匂いに鼻孔をくすぐられる。さらに壁に背を預けるとゴツゴツとした岩肌が背中に当たり、まるでマッサージのように背中を刺激してくる。吹いてきた風に火照った顔があたり頭だけサウナに入った後のように整った錯覚させ起こさせ、内風呂とはひと味もふた味も違う体験をさせてくれる。



 (後五分・・・・・・)



 少しのぼせ気味になっているがもう少しだけ温泉に入ろうとしていると、隣の女風呂から聞き知った声が聞こえてきた。



 



 「アリス!結局あの人とはどんな関係なの?彼氏?彼氏なんでしょ!」



 「ちっ違うし!あき君はいわゆるパートナーだから!決してそんな関係じゃなから!」



 湯けむり漂う温泉浴場。竹の壁一枚挟んだ向こうで、秋津さんが俺の事を話しているらしい。



 あいつも大変そうだな・・・・・・。



 どうやら茜に俺たち二人の関係を問われているようだ。



 「嘘つけ〜。新幹線とか動物園でアリスとあきを見てたけどすっごく仲良かったじゃん!普段私達にしか見せない顔だってしてたし。火夜ねえに聞いても詳しい事全然話してくれないし。そこんとこ詳しくオナシャス!」



 壁を一枚挟んでいるのにも関わらず隣の男風呂にまで聞こえてくる辺り、相当俺たちの関係が気になるようだ。



「いや〜・・・・・・でもね。話すのに少し時間かかるよ?」



「それでもいいからさ!」



  「それじゃあ話すよ?まあ話と言っても一昨日のにあった出来事なんだけどね・・・・・・」



 それ以降は声を潜めて話しているのだろうか、こちらがいくら耳を澄ましても二人の話し声が聞こえることは無かった。すでに長い時間温泉に入っているので俺は少しのぼせ気味の体を引きずりながら脱衣所へ向かった。







 ポンと音をたてながら瓶から蓋を取り、キンキンに冷えた中身を風呂上がりで乾いた喉に流し込む。甘い牛乳を舌で感じ後追いでほんのり苦いコーヒーの風味が口の中に広がっていく。冷たいコーヒー牛乳が火照った体に染み渡る。



 やっぱり風呂上がりはこの一杯に限る。俺は銭湯や温泉で牛乳の自動販売機を見つけると風呂上がりには必ず飲む程には大好きだ。それで親が連れて行ってくれた時にはよく牛乳を買ってくれとねだったものだ。



 幼少期の頃を思い出し自分の成長に少し嬉しさを感じつつ、あの頃はもう戻ってこないことを実感しやけにコーヒーの苦い後味が長く口の中に残った。







温泉で一息ついたところで、マネージャーさんが言っていた通り夕食会場の新春の間へ足を運んでいる。夕食の時間の三十分前にはついたがどうやら先客がいるようだ。



 「明さんこんばんは」



 「あ・・・・・・、こんばんわ・・・・・・」



  靴を脱ぎ、襖を開けると淡い黄色の浴衣を着ている鹿野さんと百合草さんがいた。



百合草さんは駅で茜と一緒にいたり、配信上でも一緒にのことが多いのだが鹿野さんといるのは少し以外な組み合わせだ。



 「こんばんは。なんか来るの早いですね?」



 「驚きました?昔からの癖なんですよね。私いつも集合時間一時間前とかに着いちゃうんですよ。今日は鹿野さんを巻き込んでしまいましたが・・・・・・」



 「いえ・・・・・・、別に迷惑とかではないですよ!久しぶりに対面で会えて嬉しいですしやっぱり対面の方が話が盛り上がりますし!」



 同期と久しぶりに話せたのか鹿野さんの声が少し嬉しそうに聞こえる。



 「そう言ってくれると嬉しいです。また今度コラボ配信しませんか?」



 「良いですね!」



 「親子かな・・・・・・?」



 二人の微笑ましい姿を見ていたらふと思ったことが口からこぼれ落ちてしまった。



 「うぇ?」



 「ふふふ、面白いこと言いますね?」



 「ちょっと二人の姿を見てたらポロッと出たといいますか何というか・・・・・・。二人の姿を見たらそう見えたと言いますか配信で二人のこんな絡みとか見たことなかったのでちょっと意外でした」



 「実は私達配信外では仲が良いんですよ〜。ほら鹿野さん何というか庇護欲を掻き立てるじゃないですか」



 「分かります」



 「まさかの即答!」



  大人しい印象を受けた彼女が言わないような鋭いツッコミが炸裂した。



 「親子ですか・・・・・・、確かに言い得て妙ですね。明さんが言うまで気づきませんでした」



 「私もです」



 「流石切り抜き師さんですね、明さんは。その人も知らない個性でさえも引き出してしまう」



 「そうですか?俺は特に思ったことを言っただけですが・・・・・・」

 「それが明さんの良いところですよ。まだ一日足らずの仲ですがこれだけは言えます。VTuberとして太鼓判押してあげます」



 「私もそう思います。akiさんが切り抜きをあげてくれなかったら今ここ居ないです」



 その人の知らない個性を引き出すか・・・・・・。



 「まだよく分かりませんがありがとうございます。少し自分の可能性に気づきました」



 よく分からない、しかし不快ではない感情がぐるぐると心の中で渦巻いていた。

「だね〜、こっちもそこそこ早く来たのにね」



 温泉から上がったばっかりなのか二人の頬は上気している。他にも淡い桜色の浴衣を着ていて普段見ない姿なのでつい見入ってしまう。



 「ちょっとあき〜?なに私たちのことジロジロ見てるの?えっち〜」



 「ふぇ?あき君・・・?」



 茜が身を捩らせながらわざとらしく照れているのと対照に、秋津さんは周りを全て凍らせるかの如く俺のことを真顔で見ている。



 「誤解だ、俺を嵌めようとするな茜。普段見ない格好だからその・・・少し見入っただけだ」



 「あぅぁ、そっそういうことね」



 言ってみたが案外恥ずいなこれ・・・。



 秋津さんは一瞬にして赤面し、俺も目の行き場所が定まらず下の方へ視線がいってしまう。



 「うわ、言っておいてなんだけど見事なバカップルぶりだねお二人さん。美香も何か言ってやりなよ」



 「大変仲がよくて微笑ましいですね」



 「私もそう思います!」



 「解せぬ・・・」



 先に居た二人は好意的な反応だったが、仕掛けた張本人はどうやら納得していないような表情だった。



 「取り敢えず座って話そうよ。八時の配信の事についても話したいしさ」



 「ちょっと待て?配信するのか、そんなことTwitterに書いてあったか?」



 「ゲリラ配信だよ。せっかくだし今日の事配信で喋りたいしね」



 二人が席につき二期生の皆で配信についての話が行われていた。



 



 ゲリラ配信。



 それは切り抜き師からしたら頭痛の種のようなものだ。ゲリラ配信とはVTuberが気分でする突発的配信であり、事前に予告などせずに始まる。三十分前ぐらいにTwitterで報告などされる場合があるが俺の場合編集に集中していて気づかず、気づいたら配信が終わっていることもしばしばだ。もしその配信で面白い撮れ高があった場合切り抜き師としてとても悔しい事になる。俺もアリスの配信は意地でも録画しているが配信の二割がゲリラ配信を占める服部綾花の配信にはよく煮え湯を飲まされている。



 まじで突発ゲリラは止めてほしい。忍者だからか?忍者だからかなのか?



 しかし今回はゲリラ配信の開始時間を聞けたので抜かりは無い。後は夕食を食べてゲリラ配信を楽しむだけだ。



 その後マネージャーさんたちが着き、川魚料理中心の夕飯をいただき部屋に戻りゲリラ配信を今か今かと待っていた。







 『桜庭アリスさんがライブ配信を始めます』



 通知がきてすぐに配信枠へと移り、すぐにサムネイルからすぐにOPムービーに切り替わる。数分が経ち四人の自己紹介から始まった。



 「こんばん桜〜、桜庭アリスです。花びらの皆〜今日のことどんどん話していくよ〜」



 「こっこんばんは、狐子千冬です。いつも来てくれてありがとうございます。今日も楽しんでって下さい!」



 「花?綾!どーも、服部綾花が参上したぞ〜!今日はアリスの醜態を晒していくぞ〜!」



 「えっ?ちょっと綾どうゆう事?」



 「ふっふっふ。まさかこの服部さまがアリスの醜態を見逃すとでも?それじゃあラストリタどうぞ!」



 「はーい。異界から召喚されし紫電の魔女、藤原リタです。綾花さん?アリスさんを虐めてはいけませんよ。代わりに私が綾花さんの遅刻エピソードを暴露しますので安心してくださいね?」



 「リタさん・・・?ちょっとそれは勘弁してくださりませんか・・・?」



 こうして二期生らしい賑やかなゲリラ配信が始まった。







 「所でさっき調べたんだけどさ〜、この近くに射的があるんだけど後で行かない?」



 ゲリラ配信も終盤に入ってきた所で服部綾花が提案を持ち出してきた。



 「それ良いかも!私射的得意だし!」



 「お〜?この百発百中の銃の腕前で数々の射的屋の店主を泣かせてきた服部さまに勝てるとでも?」



 「やってやろうじゃない!コメント欄の皆どう思う?」







 [どっちも下手そう] [二人共お祭りのくじで全財産はたいて何も出ずに泣くタイプ] [FPSド下手な二人が何か言ってるぞ]



 コメ欄がすごい辛辣で思わず笑ってしまった。







 「アリス・・・、花びらの間でどんな扱い受けてるんだ・・・。同情するぞ」



 「そっちこそ・・・、服部組に一体どういう教育させてるの・・・?」



 辛辣すぎるコメ欄にダメージを受けているようだ、二人とも痛み分けと言ったところだろうか。



 「まあまあ二人共落ち着きましょうね。ここは後で皆で行って競えばいい話ですからね〜」



 「そっそうですよ。喧嘩はダメです!」



『はーい・・・』



 暴走した二人をもう二人が止める、二期生らしい見ていてどこか安心感がある。



 「それじゃあ後でTwitterに景品あげて一番少ない人は罰ゲームね!」



 「良いよ。アリスに激苦茶を飲ませてあげるよ」



 「まあそれぐらいなら良いでしょう」



 何か俺も連れ出されそうだな・・・。



 一抹の不安が残ったが、ゲリラ配信は順調に進み終了した。











 「あきくん〜、いる〜?」



 ゲリラ配信が終わり、部屋でその切り抜きを作っていると俺の部屋をノックする音と共に秋津さんが俺を呼ぶ声が聞こえた。



 「何だよ・・・、もしかして配信で言ってたこと本当にするのか?」



 「そうだよ!外で皆待ってるから早く行こう!旅館が下駄貸してくれるらしいから浴衣のままで大丈夫だよ!」



 「ああ、分かった。三分ぐらいしたら出るから先行っててくれ」



 「待ってるからね〜」



 秋津さんに言われ急いでスマートフォンと財布以外の貴重品を金庫に入れ、部屋を出る。



 「きゃっ!」



 「あっすみません・・・、てっ茜か?」



 「びっくりした・・・、来るの遅いから来たけど丁度だったね」



 部屋から出て廊下に居た茜にぶつかりそうになったが何とか回避できた。



 「所でさ・・・、アリスの事なんだけどさ・・・。あきはアリスの事をどう思ってるの?」



 唐突に茜が真剣な表情であいつの事を聞いてきた。



 「なっ何なんだよいきなり・・・。あいつの事か、そんなの相棒だと思ってる」



 「相棒ね・・・。アリスにあんな危険な目に合わせたくせに?」



 「は・・・?」



 茜の声がワントーン低くなり目つきも鋭くなった。茜のいきなりの豹変に次の言葉が出てこない。



 「アリスが追い詰められている時に無理やり問題に介入してアリスのこと泣かしたんでしょ!ちょっとアリスと話したけど大体事情は察せたよ。私だってアリスの苦しい姿を見てきた。それなのにどうして・・・

?どうしてあんたみたいな切り抜き師ごときがアリスの問題に介入したの・・・?」



 「おい・・・、ちょっと待てよ・・・」



 我に返り言葉を出そうとするが茜に遮られる。



 「私はあんたのこと認めないから。あんたみたいな部外者が私達の事をかき回さないで」



 そう言い残し茜はその場を後にした。



 その場には静寂に包まれた空間と俺が残された。

「あきくん遅いよ〜。それじゃあ行こうか」



 「おっおう・・・」



 茜の突然の拒絶の言葉を聞いた後、俺は何が分からないまま旅館の前で待っていた秋津さんたちと合流した。視界の先には楽しそうに話している二期生の四人、つまりさっき俺を拒絶した茜も含まれている。



 どういう事だ・・・。俺にあんな事を言ってきて何がしたい・・・?



 茜が言っていた事から推測するに俺が秋津さんと会う前からストーカー被害に悩まされていた。それで俺が割って入って泣かせた?そんなはず無い。あの夜は確かに言い合いになって泣かせてしまったがそれは直接事件には関係ないはずだ。



 何か勘違いをしている・・・?



 この問題について考えれば考えるほど疑問が絶えず消えない。







 「ここだね。私が調べた射的屋さん」



 前方の四人が歩みを止めたので一旦思考を中断させ前を見てみるとコルク銃と射的の文字が書かれた旗がのぼり旗が立っていた。



 「結構雰囲気あるね」



 「そうだね〜、これは取りがいがありそうだよ〜」



 四人の後に続き店に入ると天井には赤ちょうちんが何個もぶら下がっており、店内は地元のお祭りのように賑やかだ。



 「それじゃあお前ら〜!弾は持ったな?命令権を賭けた射的の開催だ〜!」



 『お〜!』



 まだ疑問は解けていないが茜主催の射的大会が始まった。



 



 「はい、二十発千円ね」



 店主から祭りの射的などでよく見るコルク銃とコルク玉を貰う。



 大会のルールとしては、まずこの射的屋ではポイント制を採用しており棚に置いてある人形を倒す事によってポイントが入り景品を受け取れる仕組みだ。人形によってポイントが違い点数が高い程倒すのが難しくなっている。



 そして大会ではこのポイントが一番多い人が優勝という事だ。優勝賞品はゲリラ配信で言っていた時と少し変わり、優勝者は誰か一人に対して命令を出来るというメジャーなものに変更となった。



 銃と弾はあるので早速始めてもよいのだが、先に始めている二期生の様子を見てみることにする。



 「あっ!当たりました!」



 「凄いですよ〜。これで一ポイントゲットですね」



 鹿野さんは小さな体躯であるにも関わらず器用に弾を標的の人形に当てていた。



 百合草さんはこの大会からはすでに降りており鹿野さんのサポートに回っている。



 一方あいつはというと・・・。



 



 「あきくん〜・・・。ヘルプ〜・・・」



 ゲリラ配信ではあんなに射的が得意だと豪語していたのにすでに残弾が半分になっているのにも関わらず、一発も人形に当たっておらずこちらに助けを求める姿があった。



 「何が射的が得意だ・・・。あんなに得意とか息巻いてたくせにこのざまか?」



 「うぅ〜・・・、面目無いです・・・」



 「仕方ないな・・・脇を締めて銃を構えろ、俺が補助してやる」



 俺は秋津さんの後ろに立ち右往左往しているコルク銃を支える。



 「まず引き金は聞き手逆の手でかけろ」



 「逆の手で・・・?どうして?」



 「聞き手でやると逆に力みすぎて発射時に銃口がブレる」



 「へー、そうなんだ」



 「次にストックに頬をつけろ」



 「ん・・・」



 俺の指示通り左頬をコルク銃のウットストック部分にピッタリと付け、正しい射撃姿勢が出来上がった。



 「後は銃口を人形に向ける。この時に人形の眉間辺りを狙え、その方が倒れやすくなる」



 「分かったやってみる」



 ゆっくりとコルク銃の銃口が人形へ向き、後は俺が微調整する。



 引き金が引かれパンとシャンパンの栓を開けるような音が銃口から鳴り、コルク玉は人形の眉間に吸い込まれ呆気なく棚の後ろへと落ちていった。



 「やった!やった!落ちたよ!」



 人形が落ちただけなのにまるで子供のようにはしゃいでいる。



 「ああ良かったな。これも俺の指導のおかげだな」



 「むぅ〜、こう場面では『君が頑張ったからだよ・・・』とか言うのがお決まりだよ?あきくんは本当に着飾らないよね」



 「お前が調子に乗りすぎるのを抑えるのも俺の役目だからな」



 「所でさ。なんでそんなに詳しいの・・・?」



 俺の謎射的知識に疑問を呈してきた。



 「まあ・・・母さんに連れ回された結果だよ・・・。射的とか他にもサバゲーとかもやらされたしな・・・」



 「そんなんだ、お母さん多趣味なんだね。私のお母さんは良く言えば放任主義だからこうゆうの羨ましいよ。あきくんのお母さんに会ってみたいな〜」



 「あっ・・・あぁそうだな・・・。それじゃあ後は一人で頑張れよ」



 「は〜い!」







 下手っぴの補助はこの程度にして恐る恐る茜の方を見てみる。



 「なんであんなんで倒れるんだよ・・・」



 率直な感想が口から漏れ出た。正直に言うと茜の射撃姿勢は酷いものだった。秋津さんよりかは悪くは無いが茜がやっているのは所謂片手打ち。片手打ちは格好はつくが銃口のブレが両手で構えるときの比ではない。それを茜は約一キロはするコルク銃を一切のブレなく人形に当て、次々と人形を倒していっている。



 これは茜が、いや服部綾花が見せる身体能力の高さを物語っている。



 これは負けてられないな・・・。



 久しぶりに俺の闘争心に火が付いた。



 手早くコルク玉を詰め、コルク銃を構える。手始めにこの射的屋で一番ポイントが高い赤人形に照準を合わせ引き金を引く。俺の放ったコルク玉は人形にクリーンヒットし落下した。



 「よしっ」



 まずは一体。



 すぐさま次弾を装填し近くの赤人形に照準を合わせたが隣から飛んできたコルク玉に撃ち抜かれてしまった。



 どうせ茜だろう。俺はすぐさま隣にある三ポイントの緑人形を撃ち抜いた。



 そこからは高得点の赤人形を中心に倒していく、途中で茜の妨害もあったが順調に人形を倒していった。



 時間にして約二分の射撃であったが集中していたせいか体感二倍近くの時間が経っているかの用に感じた。



 隣を見てみると茜もコルク銃を置いている。



 「そ・・・それじゃあ集計いこうか・・・」



 同じく集中していたのか疲れが見て取れる。



 



 大会の結果としては



 



 秋津・・・十七点







 鹿野・・・八点







 新実・・・四十二点







 俺 ・・・四十五点







 「はーい。優勝はオリモトくんでぇーすー」



 「自分が負けた途端に一気にやる気無くすの止めろ」



 とまあ、この大会の優勝者は僅差で俺ということになった。



 「それじゃあユーショーシャは命令を何でも一つ聞かせる権限をゾーテーしまーす。ユーショーシャ、命令は?」



 疲れているのか部屋の前と本当に同じ人とは思えないぐらいに気だるげなっている。



 「う〜ん・・・。取り敢えず命令は明日までに取っておいといていいか?」



 「一番つまらない答えですね・・・。まあそれでも良いですけどねヘタレ野郎」



 「毒舌が酷いな敗北者」



 「はーい!解散ね!かーいーさーんー!」



 旗色が悪くなったの察してか、すぐにお開きの雰囲気になった。



 



 「帰りますか・・・」



 あの後、酷く疲れたので射的屋の前のベンチで休息を取っていた。



 にしても旅館での出来事が嘘のようだ。もしかしたら俺の取り越し苦労だったかもしれない。



 「釘をさしにきたよ。何が言いたいか分かるよね?今日は穏便に済ませてあげるけど、調子に乗るなよ・・・?」



 「おいっ、さっきから俺に恨みでもあるのかよ。さっきもそうだったけど、いきなり言われても何が何だか分かんねぇよ」



 「あんたには分からないさ・・・。でもあたしはあんたの事を許さないから」



 そう吐き捨てまたしても茜は俺の前から消え去った。



 「一体何だっていうんだよ・・・」



 また一人残された俺の心にはやりようのない感情が渦巻いていた。

茜に言われた言葉のショックが抜け放心状態の中、暗い夜道をトボトボと旅館への帰路についていた。







 調子に乗るなよ・・・?







 俺の少しの期待を壊すように茜が放った鋭い言葉が胸に突き刺さる。俺が危惧していた事が実際に起こってしまった。



 だが茜の言っている事は少し引っかる。



 茜が言っている事を思い返すと、まるで俺がアリスを引退させようと策略していた様に聞こえた。



 何か致命的な勘違いが起こっている・・・?



 いくら考えても答えらしい答えが出てこない。そうこうしているうちに旅館から漏れる光が俺の下駄を淡く照らしていた。



 考えても答えが出て来る気がしない。その時俺は一つ茜が言っていた事を思い出した。まずこの問題を広めた張本人に助けを求めることにした。



 



 自分の個室に戻り、件の人物にDiscordで通話をかける。その人物は十秒くらいで繋がった。



「なんや? こんな夜遅くに・・・、確か兄ちゃん二期生のメンツと一緒に旅行に行ってなかったか?」



「すみません。火夜さんに少し相談がありまして・・・」



 俺は茜が火夜さんにアリスのストーカー事件について聞いた事を思い出し直接聞いてみることにする。



「相談? 何や、またアリスと喧嘩したんか?」



「違いますよ・・・。あの・・・、もしかして俺とアリスの喧嘩話を所属ライバーの人たちに広めました・・・?」



「ああそれか、しっかり広めといたで。まあ箝口令を敷いといたから安心しとけ」



 火夜さんは特に悪びれもなく言った。



「なんで広めちゃったんですかね・・・」



「なんでって、そりゃあんな話があったら話さずにはいられないやろ」



「火夜さんが言いふらしたせいでこっちは大変なんですよ? 今回はその事についての相談なんですけど・・・」



「お?言ってみぃ」



 その後、俺は今日あった事を火夜さんに包み隠さず話した



「あー、綾花か。あいつはちょっと仲間思いのところがあるからな、兄ちゃんも配信見てりゃあ何となく分かるやろ」



 茜及び服部綾花は配信で所々仲間思いな一面を見せることがある。彼女の雑談でも二期生が困っている時には相談や、時にはその行動力を持って問題を直接解決していったりと配信で本人や他の二期生が話している事をまとめれば切り抜きが十個ぐらいは作れる。というか俺も実際三個切り抜きを作ったのでそのへんはよく知っている。



「仲間思い? 茜が仲間思いなことは知っていますが、それが今回の件と何か関係が?」



「ホント鈍いなぁ・・・。これは当事者だけで解決してこい、以上」



「えぁ? ちょっと! 火夜さん? 切れてるし・・・」



 火夜さんは俺の疑問にろくに答えず一方的に通話を切ってしまった。 



「んな無茶な・・・」



 元はと言えば火夜さんが喧嘩話を喋ったせいで俺が苦労しているというのに、何とも無責任極まりない対応にこっちはタジタジだ。



 さてどうしようか・・・。当事者だけで解決しろと言われてもな・・・。



 頼みの綱の火夜さんを失い今度こそ打つ手がなくなってしまった。途方に暮れていると携帯のバイブで我に返った。



 スマホ画面を見ると秋津さんから電話がかかってきている。時刻はすでに二十四時をまわっている。



「こんな時間になんだ?」



「ごめん寝てた?」



「いや起きてるよ」



「ちょっとさ・・・、外出ない?」



 







「こんばんは。お話しようよ」



 俺が来た時ポツリと言い、秋津さんはそこに立っていた。



 電話の後、特にやることも無かったので俺は秋津さんの提案通り旅館の外に出ることになった。



「それで何だ?こんな時間に外に連れ出して」



「あきくんさ・・・。ニンニン・・・、茜ちゃんと喧嘩してるでしょ?」



「っつ・・・!」



 核心を突く発言に俺は顔をしかめた。



「あっ? やっぱりね」



 図星とも言える俺の反応に特に驚く様子もない。



「いつから気づいてたんだ・・・?」



「ん〜、新幹線に乗ってから疑問には思ってたけど射的屋で確信したよ」



「は・・・? 新幹線から?」



「そうだね。新幹線に乗っている時にあきくんを見る目つきが悪者をやっつける時の目だったからね。それで射的屋の時とかモロに敵意出してたしね。茜ちゃん感情を隠すの苦手だし。それと一年近く一緒にいるしこれぐらい分かるようになるよ。多分二人も気づいているんじゃないかな?」



 仲間の絆だろうか、どうやら二期生の皆にはバレているようだ。



「てか、悪者をやっつける時の目って何だ?」



「んとね、ちょっとここで話すのなんだから場所変えよう?」



「分かった」 



俺たちは藍色にライトアップされている湯畑に来た。



「せっかくだからここで喋ろう?」



 秋津さんが指し示したのは旅行者用に無料開放されている足湯だ。



「そういえば昼には入らなかったしな」



 下駄を脱ぎ長方形の横に長い浴槽に水深二十センチにはられた湯に足を浸す。熱めのお湯に最初はすぐに湯から出そうと思ったが、徐々に熱さに慣れ足しか使っていないのにも関わらず程なくして全身が温まってきた。



 秋津さんも俺の隣に座り、同じ様に湯に足を浸していた。



 前を見ると商店街の光と藍色にライトアップされた湯畑が幻想的な世界を醸し出していた。



「温かいね〜。昼の時とか観光客でいっぱいだったけど夜だとまた違って良いね」



「そうだな・・・」



「それじゃあ茜ちゃんのことなんだけどね・・・」



「ああ・・・」



 それから少しの間を置いて秋津さんが咳払い一つした後、話し始めた。

それから少しの間を置いて秋津さんが咳払い一つし話をし始めた。

「私が茜ちゃんに最初会った時はね、もうほんとにツンケンしててさ。同期の絆なんて無かったんだよ。でもあの出来事以降本当に仲良くなれんたんだ……」

まだデビューして一年経っていないはずだが、まるで十数年来の友との思い出を語るかの如く懐かしむような声色だ。

「あの出来事?」

「あきくんは、事務所内でセクハラが起きたの知ってる?」

「あれか……。藤原リタセクハラ事件」

この事件は二期生がデビューした二ヶ月後に起きた事件で、俺も当時は衝撃を受けた。事件内容としては事務所の男性のマネージャーが藤原リタに対してセクハラまがいの事をし、その後内部告発されたようで最終的に退職となったがこの事件の影響で所属タレントのマネージャーが全員女性になったりしたりと、 V界隈を大きく震撼させた事件だ。



「そうそれ。あの時の茜ちゃん凄かったんだよ! 茜ちゃんがいなかったら、百合草ちゃん辞めちゃってたかもしれなかったしね」 興奮気味に茜の功績を語り出す。

「あきくん事件の概要は知っていると思うから、ネットでも書かれていない事教えるね。

社外秘だから漏らさないでよ?」

「分かった……」

ネットでは事件の表面しか書かれずその真相までは明らかにならなかった。しかし今日、その事件の真相が今明かされるとなって俺は固唾を飲み耳を傾けた。

バチャ豚で何が悪い 2

執筆の狙い

作者 490
fs76eee56e.stmb206.ap.nuro.jp

下記URL作品の続きです。
まずジャンルはライトノベルです。私はVTuberが好きでこの物語は私の妄想具現化したものです。

見てほしい所
①テニヲハ、又は同じ意味が続いている言葉があるか

②このジャンルに精通していない人でも読みやすいか

③単純にストーリは面白いか

です感想お待ちしております。

コメント

490
fs76eee56e.stmb206.ap.nuro.jp

この作品の前作のURLです。

一陽来復
n219100086103.nct9.ne.jp

ラノベジャンルで、このスカスカ書式〜 なのだったら、
『なろう』とか『カクヨム』とかに持ってって感想聞いた方がいいでしょう。

ここのサイト、長年「一般小説の、公募投稿書式」が基準だし、

このスカスカ書式は まず歓迎されない。

目が滑ってシラケるもんだから、私は「極力見ないようにして、即閉じ」ですし。



あげられてる1つめの要望、

>①テニヲハ、又は同じ意味が続いている言葉があるか

↑ それは、どんなジャンルでも《作者自身がやる、最低限の校正〜推敲箇所》なので、
読者に丸投げしてしまう態度に、好感持てない。



*「・・・」で打たれてるところを、「……」(2倍角リーダー)にする。

*「?」の直後は、全角スペース(1字アキ)を取る。

* 鉤括弧台詞内の「?」と「!」は、ニュアンスをよく考慮して選び、使用箇所を最適化する。

* 見るからに無駄で無意味な、膨大な量の「アキ行」を、普通に詰める。


↑ ってのは、初心者ラノベ書きさんみんなに《まず同じことを指摘せにゃならん》ので、、、

こういう原稿は、感想つける側も「面倒」だし「気が重い」」んで、、、



『なろう』とか『カクヨム』とかに行って・出してみて〜??




でも『なろう』とか『アルファポリス』だと、ここより感想つかない・・だろうと思う。

『なろう』で感想つかなくて、ここに来て「どうして読まれないんでしょう?」と問うのが大多数・お決まりのパターンだもん。。


『ちゃんと読んだ感想がほしい』と思うんであれば、
まず
「上記の4カ条」を 直して〜??

青木 通りすがり
sp49-98-225-64.msd.spmode.ne.jp

>ラノベジャンルで、このスカスカ書式〜 なのだったら、

あんたのスカスカの以前のコメントの書き方見て勉強したんじゃないの?

ごめん、つい言いたくなった。

490
fs76eee56e.stmb206.ap.nuro.jp

>一陽来復

上記の四か条いつか直しますね。
しかし、感想を付けるのが面倒で気が重いのでしたら感想を付けなくて大丈夫です。この作品に感想を付けるのが苦ではない方に付けてもらうので。

偏差値45
KD106154138106.au-net.ne.jp

>①テニヲハ、又は同じ意味が続いている言葉があるか
それは読者のすることではないので。

>②このジャンルに精通していない人でも読みやすいか
分からない。

>③単純にストーリは面白いか
冒頭で挫折しているので分からない。

さて感想です。
先ず、小説でもっとも大切な冒頭で失敗しているように思えます。
作家さんとしては楽に書けているのですが、
読者としては一苦労という感じかな。
一言で言えば「ノリが悪い」
簡単に言えば「理解しにくい」
基本的にプロでもない限り会話文からのスタートはリスクが高いです。
その理由は……。

490
133-32-224-78.east.xps.vectant.ne.jp

>偏差値45

感想ありがとうございます。確かに自分的には書きやすかったですが読者からすれば読みにくいですか……。気をつけます。

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