作家でごはん!鍛練場
昼野陽平

公園にて

 サドを読んだと彼女は言った。うら淋しい公園でだった。
 彼女とは就労支援B型作業所で出会った。あの憂鬱な場所。作業所を退所して就職をしてから何年か経つ。僕も彼女も幾分か頭がおかしかった。僕は三十男だが、彼女は二十代だ。彼女も僕も小説が好きなので話が合った。それで会話をするようになった。
 彼女は不細工なうえ、スタイルも悪かったので、性的な対象とは見ていなかった。友人というのも違って、ただ互いに共通する話題を持っていたというだけの関係だった。
 彼女はサドの影響で、熱心に神を蔑するので、僕は言った。

「神を罵倒し、その存在を否定するなど、却って神の存在を浮き彫りにするものだ。神を殺害する真の戦略とは、神に対して無関心である事だ。ところで神に無関心である事など可能な事だろうか。否だ。我々が自分の力では到底対処できない悲劇に見舞われた時には当然、祈る。祈らないのは相当な馬鹿だけだ。そして何に対して祈っているのだろうか。当然、神にだ。神が仮に存在せず、人間の妄想に過ぎないとしても、神の存在は必要だ。祈りの対象として、あるいは憎悪の対象として……。」

 そう僕は言うと、彼女は目を丸くして言った。

「憎悪の対象として?」

「そう。憎悪だ。この世に産まれるという悲劇を被った人間が、呪いの対象として最も適切な存在は、両親ではない、神だ。両親だって祖父母が産んだ悲劇的な産物だからね。神だ、全てはこの世を創造した神が悪い」

「あなたは神を憎んでいるの?」

「僕は憎んではいない。そういう人間も居るというだけの話だ。しかし僕にもそういう時期があった。何度、縊死しようかと思ったか……しかし僕は乗り越えた、いや、諦めた」

「諦めた?」

「生まれながらに人は己が全能の神のようであろうとする。俗にいう厨二病だかで神や独裁者であろうとする、しかし勿論、公園で鳩に餌をやっている哀切なおじさん程度の能力しかない事に気付く。そこまではいかなくても悲劇的な凡夫である事に気付く。就職して職場のしょうもない人間関係に苦悩する惨めな存在だ。人生というものの実体とは、諦めていく過程に他ならない」

「悲しい?」

「凡夫なりの楽しみや享楽や歓喜が、世界のそこら中にある。一生かかっても享受できないほどにね」

「何だか惨めね。何一つ諦めないで、それでいて縊死もせず、戦い続けるという選択はなかったの?」

「僕にはそういう生き方は辛すぎる」

「そういう、弱い奴はさっさと死んだ方がいいわ。目障りだもの。あたしは何一つ諦めないわ」

 彼女はそう言って去っていった。その後ろ姿は、スタイルの悪さもあって、禍々しい美しさがあった。眩しかった。
 僕はおもむろにバッグからパンを出してナイフで削って鳩に与えた。毒入りのパンだった。
 鳩たちは次々と、口から血を吐いて死んでいった。

公園にて

執筆の狙い

作者 昼野陽平
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ありがとうございます。
よろしくお願いします。

コメント

えんがわ
KD106154140252.au-net.ne.jp

昼野さん、お久しぶりです。

「作風変わった?」と思いつつ、そう思わせるからこその、見事な着地点に惹かれます。
愛する彼女も、この後に結局はヤラレルノカというちょっと不穏な空気。
ここら辺、語り過ぎちゃうと何か野暮ったくなる寸前で、ムードを残しつつ締めてますよね。ねっ?

昼野さんは、ゴキブリとかSEXとか強烈な単語で攻める時もありますけど、そういうの無しでも魅せれるってのは。
文才があるからだと思います。いや、才能と言うより文章や人生に真っ向からぶつかっている生き様と言うか。それは自分の妄想ですけど。
もちろん、昼野節の狂気っぽい話も好きだから。そういうのも読んでみたいんですけど。
今回のも、凄くイイ感じに枯れているというか。日本庭園と言うか。
何といえば良いんだろう。好きです。

真面目に語っちゃうと。
自分は神に祈っちゃう方だけど、憎むための神っていうのは、何か現代的と言うか。
結局、人は何か、人を超えた大きなものが無いと生きていけないのかなとか。
けっこう、考えたんだけど。
「神無き世界」と思ってしまう自分は、責めて宇宙人やバーチャルリアリティを信じようかなとか。
色々、考えました。ははは……

ありがとでしたー。

ラピス
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昼野さん作は醜い男女が出るけど、美しく感じる。小説においては、美しさとは言葉であり、行動であり、人物の意思の強さにかかっています。
単に造形が良いだけでは形骸に過ぎない。

今作はセックスがないだけに言語としての美が際立ちました。とはいえ、話が中途で終わった物足りなさがあります。
問題提起したら、帰結すべきではないでしょうか。

森嶋
om126179109020.19.openmobile.ne.jp

昼野さんの作風にしてはあっさりとした文体でしたね。
ドストエフスキーの哲学と村上春樹の軽快さを併せ持ったような作品で、自分は結構楽しめました。

でも、もっと何時ものようにぶっ飛んだ内容の物語が読みたかってです。

秋田寒男
133-106-95-53.mvno.rakuten.jp

よみました。

不細工でスタイルの悪い女の人は、なんか美しさを感じました。

程よい不細工が逆に性的興奮を覚えるような感じとはまた違う。なんだか清々しい美しさです。

いつも気持ち悪い(失礼!)話ですが、この話は読めました。

茅場義彦
133.106.57.58

相変わらず良い。自分を信じて

夜の雨
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「公園にて」読みました。

こちらの作品は登場人物が主人公の「僕」という三十男と、就労支援B型作業所で出会った二十代の「女」の二人だけですよね。
女はサドを読んでいて、神の存在を否定しているし罵倒している。
男は、神を「憎悪の対象としている」どうしてかというと、悲劇の根源である自分の存在をこの世に作ったのは両親ではなくて「神だ、全てはこの世を創造した神が悪い」という発想からになっている。
そこから主人公の男は神を無視して生きる、というところへ向かった。
「憎悪」とかだと、神の存在を認めるという事になるということになる。

しかし三十男の主人公は、日々の生活に疲れて、のんべんだらりと日常生活を凡人として過ごすことが、一番楽であるという事に気が付いた。

そういう男に対して女は、「弱い奴は死ねばよい、目障りだから」と、「自分は戦う」という前向きな姿勢である。
女が去ったあと、男は凡人であるといっておきながら、毒入りのパンを公園にたむろする鳩に与えて、殺すに至った。

つまり御作に何が書かれているのかというと、この世に生まれてきた主人公の男は自分の存在がこの世にあることを恨んでいる。幸せでないからだ。それは自分をこの世に存在知らしめた両親に根源があるのではなくて、両親を産んだ祖父や祖母でもなくて、この世界を創造した神に原因があると考えている。
しかし男は、凡人の生活も悪くないと考えるようになった。

それに対して、同じく神の存在を信じない女は、世の中に対して戦うという強い生き方をとっている。
女が公園から去ったあと、男は毒入りのパンを鳩に与えて殺した、というラストになった。

これは何を意味するかというと、男は日々の生活に疲れて、その原因は神の存在にあると決めつけ、憎悪を持っていたが、凡人として生きていくと、それなりに楽しい日常があることに気が付いたふりをしていたが、実際は公園で鳩殺しをするという病んだ人格になっていた。

結局は、自分の存在が「全てはこの世を創造した神が悪い」という発想に基づいて、三十歳になるまで悪あがきをしていたが、精神が病んでいるので目立たない鳩殺しに至った主人公。
こちらの作品だと鳩殺しからそれ以上のことをしでかす伏線は描かれていない。
サドを読んだという女は社会に対して戦うという姿勢らしいが、彼女とて、具体的な事柄についての発言はないので、自分にかかる火の粉は振り払うという立場なのだろうと思う。

精神構造が破綻した二人の人物が掌編という短い作品で描かれていました。
日常の破綻から主人公の場合は鳩殺しを行っているので、やばさがありますが。

● 登場人物の精神世界を描くために、公園での風景の描写とか小動物の描写等をするとよいのではありませんかね。

ちなみに私も無神論者です。
「神だ、全てはこの世を創造した神が悪い」 ←主人公の考え。
「この世を創造したのは神ではなくて、自然」というのが、私の考えというか、一般論だと思います。
台風も地震も自然現象です。まあ、人間が山を削ったり埋め立てをしたりの開発した結果、普通なら台風や地震で影響を受けない場所が影響を受けるようになった。
このような場合は人災になります。
台風や地震で影響を受けての原子力発電所の事故なども人災です。

神がどうたらと考えていると、根本的な解決には至りません。

お疲れさまでした。

昼野陽平
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えんがわさん
お久しぶりです、ご感想ありがとうございます。
着地点は自信がない感じでしたが見事とのことで良かったなと思います。
語り過ぎないようにずいぶん文章をけずりましたね。
ずっと強烈な単語に頼りがちだったので今作ではそういうの一切出さないように書きました。ご感想いただいてそれなりにうまくいってるのかなと。
文章や人生に真っ向にぶつかってるとのお言葉ですが僕など逃げてばかりです……。
狂気っぽいぶっ飛んだのもまた書きたいと思います。
宇宙人信じるというのは面白いなと。これだけ宇宙は広いんでどこかしらに居そうです。
ありがとうございました。

昼野陽平
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ラピスさん
ご感想ありがとうございます。
美しいと言っていただけるのが一番嬉しかったりします。ありがとうございます。
物足りないというのは自分でも思います。もうちょっと魂込めて書かないと駄目だなと。
ありがとうございました。

昼野陽平
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森嶋さん
ご感想ありがとうございます。
今作はあっさりしてますね。ちょっと物足りなさがあったかなと。
楽しめたとのお言葉嬉しいです。
ぶっ飛んだものも準備してるのでまた書きます。
ありがとうございました。

昼野陽平
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茅場義彦さん
ご感想ありがとうございます。
良いとのお言葉ありがとうございます。
我が道行こうと思います。
励みになります。
ありがとうございました。

昼野陽平
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夜の雨さん
ご感想ありがとうございます。
詳細な解釈していただいてありがとうございます。
概ね意図した通りの解釈でした。
公園の風景描写とかはもっとやるべきでした。ほぼ会話文ですし。
この世を作ったのは自然ですね。西洋文化に触れてると何となく神とか考えてしまうんですよね。
詳細な感想をありがとうございました。

昼野陽平
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秋田寒男さん
ご感想ありがとうございます。
申し訳ないです。返信の順番が前後してしまいました。
女は外見は醜いですが美しい魂の持ち主として書いた感じです。そこを指摘していただいて嬉しいです。
この作品ではエロもグロもやめようとしました。ここ数年、気持ち悪いのばかり書いてたので……。
ありがとうございました。

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