作家でごはん!鍛練場
飼い猫ちゃりりん

夢の傷あと

 東京五輪、高度経済成長、ビートルズの来日。よど号、浅間山荘、三島の自決……
 狂った光に満ち溢れた時代だった。誰もが恍惚として生きていたような気がする。私自身、大切なものを見失っていたような気がする。

 私の両親は、豊かなら幸せだと信じて疑わない人たちであり、人の価値を学歴で計る人たちでもあった。だから、先々私の首にぶら下がる「値札」のことばかり気にしていた。
 私は親の望む大学へ進学するため、高校生活の全てを受験に費やした。女子との恋愛なんて夢のまた夢だったし、男子の友達さえいなかったのだ。

 東京の大学に進学し、緑に包まれたキャンパスを歩いていると、「新入生の方ですか?」と女性に声を掛けられた。
 小百合は三年生で、溌剌とした若さに満ち溢れていた。
 恋愛経験のない私は、自分にも青春がやって来たと思わずにはいられなかった。

 私は小百合たちに誘われるまま、学生集会や反戦デモに参加するようになった。
 左翼思想に傾倒していたわけじゃないが、守るべきものは確かにあった。同志たちは、それを守るためにベトナム戦争に反対し、安保闘争を繰り広げていると思っていた。
 しかし今思えば、当時の若者を突き動かしていたのは、救いようのない虚しさだったような気がする。

 私は講義にも出ず、大学から歩いてすぐの所にあるアジトにいつも籠もっていた。アジトとは、神田川沿いにある借家の二階の六畳間のことだ。古びた木造家屋の前には舗装された道路が通っていたが、当時は車も少なく、その界隈は情緒を湛える下町だった。

 アジトで「革命戦士」らがしていたことは、闘争の準備と言いたいところだが、昼間は麻雀と煙草、夜はスルメと熱かんだった。
 同志たちは酒が入ると、革命にはゲバルト(暴力)が必要なんだと熱く語った。私は自分の思いを隠して相槌を打っていた。
 同志たちは酔っ払うと、プロレタリアートを鼓舞する古典『同志は倒れぬ』を合唱することもあった。
 私は復讐を誓うその歌詞を好きになれなかったが、悲壮なメロディーはいつも心に響いた。

 私は一人で神田川の土手をよく散歩していたが、幹部の連中が顔を出すときだけは、真剣な面持ちで議論に加わった。
 幹部と一緒に訪れる小百合に良いところを見せたかったのだ。
 大学二年の秋の日のことである。
 小百合とその同志たちが昼にアジトに顔を出すと、私は食料の調達を先輩の同志から頼まれた。
 私が買い出しに出掛けると、小百合が、「一人じゃ大変でしょ」と言ってついてきてくれた。
 食料はいつも近所の八百屋で買っていた。大型店舗の脅威に晒されていたその八百屋の店主は、学生運動を影で応援してくれていたのだ。
 八百屋に着くと、小百合は同志たちの食料の他に、自分の金で棒の付いた飴玉を数本買った。
 革命家が飴玉?
 私が、「それも必要なんですか?」と聞くと、彼女は、「これは違うのよ」と言って笑った。

 食料をリュックに詰めて川沿いの道を歩いていると、小百合が、「土手で休憩しない? たまには息抜きも必要よ」と言った。
 私は胸が高鳴った。それはまさに、私が待ち望んでいた機会だったのだ。
 二人で土手に腰を下ろして景色を眺めていると、彼女は、「紅葉が綺麗ね……」と嘆声を漏らした。
 ひんやりとした川風に彼女の黒髪が揺れていた。
「でも神田川の景色はどんどん破壊されています。大切なものが失われているのに、世間はへっちゃらなんです」
 私は、彼女が強引な開発に反対していることを知っていたから、そう言って見せたのだ。
「真剣なんだね。高橋君は」
 小百合は真剣な面持ちで私を見つめた。その凜とした表情に私は一瞬たじろぎ、上手く運びすぎる展開に戸惑った。
 と、そのとき、カランコロンという下駄の音が響き、「お姉ちゃん!」と子供の声が遠くから聞こえた。
 みすぼらしい格好をした女の子と一匹の猫が、こちらに向かって走ってくる姿が見えた。
「かよちゃん! 元気?」
「うん!」
「タマは?」
「タマも元気!」
「これ、かよちゃんに買ってきたから」
「やったー!」
 小百合から棒の付いた飴玉をもらった女の子は、満面の笑みを浮かべた。
「このおじちゃん、誰?」
「お姉さんのお友達よ」
 小百合はお姉ちゃんで、私はおじちゃんだった。
 私が、かよちゃんのことを小百合に聞くと、「この近くに住んでいるの。いつも一人ぼっちだから、たまに遊んであげるの」と教えてくれた。

 その年の冬、私は多くの同志たちと共にある学生集会に参加した。その集会には有名な作家が招かれていた。
 社会主義に夢を馳せる学生たちは、皇国を愛するその作家を敵視し、論破して壇上で切腹させると気炎をあげていた。
 作家はそれを承知の上で、千人を超す学生が待ち受けるなか、単身で乗り込んできたのだ。
 彼は天皇制や自衛隊について持論を展開し、全共闘のリーダーが反論しても、笑みを浮かべて紫煙をくゆらせていた。
 討論は白熱したが、私は何も頭に入らなかった。当然のことだ。隣にいる小百合の横顔だけを見ていたのだから。
 私はペンの後ろで彼女の二の腕をついた。
「小百合さん。今度映画でも行きませんか?」
「聡(さとし)君。真面目に聞かなきゃだめよ」
 その頃にはもう、彼女は私を下の名で呼ぶようになっていた。
「小百合さんって化粧しないの?」
「ばーか」
「紅を引くって言葉を知ってますか? 紅を引いた小百合さんを見てみたいな」
「革命に化粧は必要ないの」
「なら映画はいいですか?」
「大事な訓練があるから、だーめ」
「ならそれが終わったら良いですよね?」
 彼女はついに笑みをこぼした。

 最後に作家が言った。
「私は君たちを認めない。君たちとは敵同士だ。しかし、君たちが闘っているということだけは認めよう」
 そこにいる学生のほとんどが闘ってなどいなかった。遊んでいただけだ。でも小百合は違った。彼女はある過激な分派の訓練に参加したのだ。
 そのメンバーは後に社会を震撼させる大事件を起こし、その直後に彼女は消えた。彼女もその事件に関与しており、公安の追跡をかわすために潜伏したとの噂もあった。
 私は何人かの同志に聞いてみたが、消息を知る者は誰一人いなかった。同志たちは公安のスパイ活動を警戒し、情報共有には極めて慎重だったのだ。

 小百合がいなくなると、私は段々と無気力になり、学生運動も面倒になっていった。
 やがて私は役立たずとみなされ、時間を持て余すようになった。私はそれを良いことに、神田川を眺めながら無為な日々を送っていたのだ。

 真っ昼間に二階の窓から顔を出して煙草を吹かしていると、近所の交番の若い巡査が、自転車で通り過ぎることがあった。
 お疲れ様と上から声を掛けると、彼は顔を上げて、「こんちわ!」といつも挨拶してくれた。
 颯爽と自転車を漕ぐその姿は、数少ない美しい思い出の一つだ。
 
 その頃にはもう、私の相手をしてくれる人間は、その巡査と、かよちゃんくらいだった。
 窓から顔を出して煙草を吹かしていると、かよちゃんはいつも、「おじちゃん!」と言って笑顔を見せてくれた。
 彼女はいつも下駄を履いていたから、借家の前を通ればすぐに分かった。カランコロンという音が響いて来れば、「はーるよこい、はーやくこい」と唄声が聞こえた。
 彼女が通るたびに二階の窓から声を掛けた。
「かよちゃん。今日は学校でなにをしたの?」
「そろばん!」
「そろばんができるんだ! すごいね」
「三たす三は、えっと……ろく!」
「すごい!」
 彼女は満面の笑みを浮かべた。
「おじちゃん! お姉ちゃんは、いつ帰ってくるの?」
 かよちゃんには、お姉ちゃんは旅行をしていると言ってあったのだ。
「たぶん、もうすぐ帰ってくるから」
「わかった!」
「車に気をつけて帰るんだよ」
「うん!」
 彼女は手を振りながらタマと一緒に帰っていった。
 タマは彼女に追いつくとその場で止まり、彼女が振り向いてくれるのを待っていた。
 彼女が構わず歩き続ければ、タマは又追いついてはそこで止まった。
 彼女が振り向いて両手を広げると、タマは彼女に駆け寄って膝に飛び乗った。彼女はタマを抱きしめて頬ずりをしていた。

 神田川の桜が散る頃、また彼女に声を掛けた。
「かよちゃん。今日は学校でなにをしたの?」
「習字!」
「習字もできるんだ! すごいね」
「おじちゃん! お姉ちゃん、帰ってきた?」
「それが、まだなんだ。でも、たぶん、もうすぐ帰ってくるから」
「あたし、お姉ちゃんと遊びたい!」
 かよちゃんは、小百合に、神田川の土手で遊んでもらったことがあったのだ。
「なら、お姉ちゃんが帰ってくるまで、おじちゃんが遊んであげる」
「なにして?」
「じゃあ……明日、そこの川原で戦争ごっこをしよう!」
「うん! わかった!」

 翌日、角材を二本持って神田川の川原で待っていると、「おじちゃん!」という声が聞こえ、振り向くと、土手を駆け降りてくる彼女とタマの姿が見えた。
「危ないよ!」と叫んだ矢先に彼女は転んでしまった。
「かよちゃん! 大丈夫!」
 駆け寄って彼女を抱き起すと、彼女は私の腕の中で泣いた。痛い痛いと泣いた。すりむけた膝や肘に血が滲んでいた。タマは心配そうにうろうろとしていた。
「かよちゃん。今日はおうちに帰ろうね」
 彼女は泣きながら首を横に振った。
「でも、帰って傷の手当てをしないと……」
「お母さんが、夕方まで帰っちゃだめって」
「どうして?」
「わかんない」
「じゃあ、また転ぶといけないから、今日は隠れん坊をしよう」
「うん!」
 当時の神田川はまだ整備が行き届いてなくて、川原には草木が生い茂り、大きな岩なども転がっていた。川沿いの道路には既に車が走っていたが、川原に降りれば、水鳥の鳴き声と川のせせらぎしか聞こえなかった。
 私が、「もーいーかい」と声を上げると、草むらの中から、「もーいーよ」と声が聞こえた。
 いくら隠れてもタマの尻尾が見えているのだ。
 私は、「どこにいるのかなぁ」を繰り返した後に、「ここだ!」と言って草むらの中を覗き込んだ。
 彼女が笑いながら草むらから飛び出すと、今度は鬼ごっこが始まった。彼女を追っかける私をタマが追っかけるという珍妙な鬼ごっこだった。
「かよちゃん。じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「もっと遊ぶ!」
「明日は戦争ごっこをしてあげるから、今日は帰ろうね」

 かよちゃんの家は、アジトから歩いてすぐのところにあった。川沿いにぽつんと建つ平屋のバラックが彼女の家だったのだ。
 なぜ子供が夕方まで帰ってはいけないのか、不思議でならなかった私は、彼女を引き戸の前まで送り届けると、遠くからその様子をうかがった。
 彼女が母親を呼んでも引き戸は開かず、五分が過ぎ十分が過ぎた。
 しばらくするとバラックの裏口から、背広を着た中年の男が出てきた。彼は肌けたワイシャツのボタンを止めると、周囲を見渡してからその場を後にした。
 すると、かよちゃんを叱る母親の声が聞こえた。
「夕方まで帰らないでねって言ったじゃない。あら大変。どうしたの? その傷」
「戦争ごっこ、しようとしたら……」
「戦争ごっこ? 仲間に入れてもらえたのね」
 着物姿の母親が、かよちゃんを抱き締めて泣いていた。

 翌日は新たな戦術のことで議論が白熱し、川原に向かったときにはもう夕暮れが近かった。
 二本の角材を持って土手を降りて行くと、うずくまって泣いているかよちゃんの姿が見えた。
「ごめんね。遅くなって」
 すると彼女は大声で泣き始めた。彼女はタマを抱いていた。タマは目を閉じていた。彼女が抱き締めても、泣き叫んでも、タマはぴくりとも動かなかった。
「タマ、どうしたの?」
「車が……」
 川原には冷たい風が吹きすさび、白い桜が雪の如く散っていた。
 私は角材を使って桜の木の根元に穴を掘ると、タマを抱き締めて泣く彼女を説得し、その亡骸を穴の底に寝かせた。
 土を戻す彼女の瞳からは、とめどもなく涙がこぼれ落ちていた。

 それからしばらくすると、かよちゃんは急に姿を見せなくなった。彼女の家を見に行くと、平屋のバラックは跡形も無く消えており、その辺りの土地は全て整地されていた。

 その数日後、幹部の連中がアジトにやって来て、同志たちに大胆な計画の実行を指示をした。交番を襲撃し、拳銃を奪えというのだ。それは私に挨拶をしてくれる巡査がいる交番だった。
 あの純朴そうな青年を、鉄パイプで滅多打ちにするのかと思うとぞっとした。
 結局その計画は、他の闘争が持ち上がったことで実行はされなかったが、もう私は革命ごっこに嫌気が差していたのだ。元々学生運動に熱意があるわけじゃないし、学生を続ける気も失せた。
 小百合のことが心残りではあったが、やはり私と彼女では目指すものが違うと諦めた。
 私は学生課の窓口に退学届を置くと、その足で上野駅に向かったのだ。

 今年の春先に同窓会の案内が届き、四十年ぶりにその地に戻った。
 宴会場は大学のそばの料亭の大広間だった。
 私はその末席から、座敷に現れる同志たちの顔ぶれに注目していた。小百合との再会だけを楽しみにしていたのだ。しかし、彼女が現れることはなかった。
 宴は昼食を兼ねて正午から始まった。
 乾杯をしてビールでのどを潤すと、思い出話に花が咲いた。相変わらず話題はブルジョア批判やあの作家の悪口で、カラオケは『同志は倒れぬ』ときたから、他の客が聞いたらさぞ驚いたことだろう。
 私は小百合のことを当時あまり喋ったことのない連中にまで酒をつぎながら聞いてまわった。しかし、消息を知る者はやはり一人もいなかった。
 自分の座椅子に戻って手酌で飲んでいると、白髪の男性が私に酒をついだ。
「小百合さんのことを知りたいのですか?」
 全く知らない人物だった。
「初対面ですよね?」
「こちらの方々とは共に闘ったことがあるから、今日は呼んでもらえたのです」
「なぜ彼女のことを?」
「小百合さんが例の訓練に参加していたからです」
「あなたも参加していたのですね……」
 私は報道でしかそのことを知らなかったし、警察は関係者の身の安全を確保するため、全てをマスコミに伝えてはいなかったのだ。
 彼の話は報道できる内容ではなく、その実態は凄惨を極めた。
「山岳ベースでの生活は過酷でした。食事は粗末で寝床は寒く、誰もが睡眠不足でした。女性も十人ほど参加していましたが、小百合さんは輝いていましたよ」
「彼女は有能でした」
「いや、そういう意味ではなく、女として輝いていたと言ったのです。要するに美人ですよ。
 最高幹部の男は革命家の子孫を残すべきだとか言って、小百合さんに肉体関係を迫ったのです。でも彼女は拒否しました。あの男はそれを怨んでいましたね。
 もう一人の最高幹部だった女は、女性の美しさは反革命的だと主張し、小百合さんのことを小市民呼ばわりしていました。
 ある日の夕食後のことです。あの女は突然小百合さんの荷物を検査すべきだと言い始めました。同志たちが検査すると、リュックの内ポケットから口紅が見つかったのです」
「口紅が……」
「そうです。理由は分かりませんが、小百合さんは高価な口紅を持っていました。
 女がその理由を問うと、小百合さんは変装するためだと答えました。しかし女は、交際相手を言わせようとしたのです。でも小百合さんは何も答えませんでした。すると女は、『この危険分子め!』と怒鳴り散らし、精神が腐っているから総括をやれと同志たちに命じたのです。
 それは酷いリンチでした。小百合さんの顔はドッジボールのように腫れあがり、さらに木の棒で彼女の局部まで。助ける勇気が、闘う勇気が私にはなかった。そればかりか私は……」
 涙をこぼす彼に、「あなたは何をしたのだ?」と聞く気にはなれなかった。私に彼を責める資格など微塵も無いのだから。
「それで、彼女はどうなったのですか?」
「小百合さんは針金で木に縛られ、雪の降る屋外に放置されました。しかし夜中に脱出し、登山客に保護されたのです」
「なら生きているのですね!」と私が声をあげると、彼はうつむいて黙り込んだ。もう一度、「生きているのですね?」と確かめると、彼は重い口を開いた。
「総括を主導した連中が皆逮捕され、学生運動が収束すると、私は小百合さんの実家を訪ねました。彼女の兄とは大学の同窓生で、仲の良い同志でもあったのです。
 私は彼に全てを話し、玄関の軒先に手をついて謝りました。すると彼は、小百合さんが人里離れた施設で療養していることを教えてくれました。
 私は彼の許しを得て、その施設を訪ねました。小百合さんはトラウマに悩まされていると聞いたので、身分を隠して、ひっそりと訪れたのです。
 その施設は豊かな自然の中にあり、花壇のある広場からは遠くの山々を一望することができました。
 彼女は広場の片隅にあるベンチに座り、ぼんやりと景色を眺めていました。黒髪がそよ風になびき、紅の引かれた唇が綺麗だった。あんな美しい女性を見たことがない。
 それからも私は施設に足を運び続けました。面前で話ができる日が、いつか来ると信じていたからです。しかし、それは叶わぬ夢となってしまいました。
 最後に彼女を見たのは、秋の日の夕暮れでした。夕日を見つめるその横顔を、今も鮮明に憶えています。
 彼女はその秋が過ぎる頃、二十七歳の若さで生涯を終えました。その朝も口紅を引き、それから首を吊ったのだと聞いています」
 そのとき同志たちの声が聞こえた。
「過ぎ去りし青春さ」
「懐かしいなぁ」
「夢だったのさ」
「宴たけなわではございますが、そろそろお開きに。最後は一本締めで」
 拍手が鳴り響いた後も、同志たちの昔話は尽きなかった。
 白髪の男性は、「じゃあ、私はこれで」と言って静かに宴会場を去っていった。私も幹事に一言礼を言い、その場を後にした。
 料亭から出ると青空が広がっていた。私は久しぶりに神田川の土手を歩いてみることにした。
 土手に着くと椿があちこちで花を咲かせており、雪のような枝垂桜が川面(かわも)に触れんばかりだった。
 アジトだった借家は跡形も無く消えており、根元にタマが眠る桜の木も無くなっていた。
 私は水道橋を経て隅田川まで歩き、橋を渡って元の場所まで戻ってきた。
 川沿いはどこも綺麗に整備され、古い景色は全て消えていたが、神田川のせせらぎだけが、当時の面影を偲ばせていた。

 終わり

 ちはやぶる 神田川こそかなしけれ いくよふるともしづまぬ玉の

 あの神田川ほど悲しいものはない。何年たったとて、鎮められない魂が、沈まぬ玉のようにたゆたっているのだ。

『慕尼黑歌集』より

夢の傷あと

執筆の狙い

作者 飼い猫ちゃりりん
dw49-106-192-119.m-zone.jp

 森田瞳子さんの、『みんな夢でありました』って良い曲ですね。
 もしよければ聴いてみてください。

 以前投稿したもののストーリーを変えてみました。
 7500字。
 さらっと読んでください。

コメント

飼い猫ちゃりりん
dw49-106-192-119.m-zone.jp

あ、森田童子さんでした。
ごめんなさい。
変換ミスは怖いですね。

通りすがり
sp1-72-7-229.msc.spmode.ne.jp

これと全く同じ。タイトルまでも。                
                          
                     
                      
                     
                     
                   
                  

飼い猫ちゃりりん
sp1-75-248-204.msb.spmode.ne.jp

通りすがり様
すみません。
言っている意味をもう少し解説していただけると助かります。

森嶋
om126179109020.19.openmobile.ne.jp

飼い猫ちゃりりんさんにしては、ハードで暗い作風で驚かされました。
こういった作品も書けるんですね。

いつも童話ばっかり投稿してる気がしますが、今回の作品はいつもより読みごたえがありましたね。

飼い猫ちゃりりん
123-48-54-175.area1b.commufa.jp

森嶋様
 前作は童話で、その前も童話っぽい作品でしたね。
 この作品は実話をモチーフしていますので童話じゃありません……
 森田童子さんって、なんで「童子」? 
 彼女の世界観は、なんか童話っぽい感じが無くもないような……
 童話って、なんか悲しいもんね。

 ありがとうございました。

アン・カルネ
219-100-28-135.osa.wi-gate.net

一見、良く出来ているような気はするんですが…。
とはいえ、私は当時の学生運動を知らないので。聞きかじりとか読みかじりの範疇ですから。
で、一見、と書いてしまう理由は、なんというか、読んでいて、どこかちぐはぐさを感じさせられたから、と言えばいいのでしょうかね。
例えば、学生運動の内容。漠然とですが、彷彿とさせられるのは山岳事件とか浅間山荘事件とか。後は三島と東大全共闘駒場キャンパス討論会。
しかしラストには『慕尼黑歌集』の引用で神田川に沈む魂への鎮魂歌。私は『慕尼黑歌集』を知らないので、この歌が何を指しているのか、分からないのですが、ここにあえて引用しているという事は学生運動関連の歌なのでしょうか。であれば学生運動の流れで神田川で彷彿とさせられてしまうのは神田カルチェラタン闘争? 「鎮められない魂が、沈まぬ玉」それほど凄い闘争だったんでしょうか。
しかしそうなると主人公と小百合は一体、どこの学生だったんだろう、と思ったりして。
それともこの歌はむしろかよちゃんの母の売春を思うと、神田川沿いに形成されていたという城西花街の方面のこと? それとも高度成長期、かつて「死の川」と呼ばれてた事? 多くの犠牲者が出ていたのでしょうか。そちらの方に寄せてあるのかしら、と思ったり。でも「鎮められない魂が、沈まぬ玉」っていうと、なんとなく、東京大空襲を指してるとか? それとも関東大震災? とか、なんかそっちを想像したりして。で、うーん、この歌はいつの時代の何にかかってるんだろう、とそこに引きずられてしまいました。
かつて大丘さんがやはり学生運動の事をちょっと描いていて、あれはもう一つのキャンパス内で昔こういうことがあった、という、天地人がきちんとまとまっていたと思うんですよ。他によそ見をさせないというか。で、やっぱりそういう描き方は大事なんじゃないのかな、と思いました。学生運動をリアルに知らない世代にとっては大丘さん的書き方の方が分かり易いです。時代と場所と登場人物を限定してますから。
人物造形で思った事。
主人公は学生運動、闘争に嫌気がさしているわけですから、人物造形としてはかよちゃんに「戦争ごっこをしよう」と言わない方が良いんじゃないかな、と思いました。学生運動、安保闘争が盛んだった時代でしょうから、時代背景を考えた時、ここで、それこそシロツメクサの冠でも作ってかよちゃんの頭に乗せてあげれば、台詞を出さずとも、彼の人間性を行動によって表現させることが出来ると思うし、そういう使い方をしてみせるシーンだったのではないかな、と思いました。実はノンポリという事が端的に見せられるのかなと。別に小枝で竹とんぼを作って見せる、でも良いんですけどね。小学生の女の子に戦争ごっこをしようと持ち掛ける大学生という設定だと、どちらかというと本質的には好戦的な男子学生なのかな、と思わせられるので。でもこの主人公はそうでは無い方がいいんじゃないのかなあ、と思ったりしたので。
あとは大学を中退して上野から郷里へ帰った主人公が親からそれをどう扱われたのか。主人公のその後の人生にちょっと触れて欲しかったように思います。それがあってから、同窓会で、小百合のその後を聞いた時、二人の人生のコントラストが浮かび上がって、ラストのくだりとなった方が味わい深いかな、と。そんなふうに思いました。

夜の雨
ai224096.d.west.v6connect.net

「夢の傷あと」読みました。

なかなかよく出てきていると思います。
改稿前の作品(前作)では主人公と小百合との具体的なエピソードがなかったように思いますが、今回はエピソードがあり、主人公の気持ちに寄り添うことができました。
それに「かよちゃん」と「小百合」とのエピソードもあり、主人公とかよちゃんとの橋渡しになっていて、設定と構成がうまくまとまりました。
当時の時代背景などは改稿前の作品と同じで三島とかの使い方もうまいのではないでしょうか。

全体では伏線をうまく張っており、構成がよかったので、題材も浮かびました。
時代と青春が描かれていました。

ちなみに以前「ATG」(日本アート・シアター・ギルド)という映画会社がありました。他の映画会社とは一線を画す非商業主義的な芸術作品を製作・配給していた。
御作はこの「ATG」に向いていますね。
まあ、7500字という短さでは一時間以上の映画の長さにはなりませんが、シナリオを膨らまして肉付けをすると、問題ないと思います。
この「ATG」は当時の世相を鏡で映したような映画をよく配給していました。

お疲れさまでした。

大丘 忍
p0251258-vcngn.oska.nt.ngn.ppp.ocn.ne.jp

あさま山荘事件を知っているものとして、なんとなく身近に感じました。このころの若者も悩んでいたんだろうね。心に残る一編でした。

えんがわ
KD106154140252.au-net.ne.jp

自分はマルキシズムとか学生運動とか知らないけど、体験してないけど、なんとなく雰囲気は感じます。

上層部は極めてシリアスなのに、下部に行くにつれてマージャンと酒に行っちゃう……そこらへんはリアリティーを感じました。

個人的には学生運動の人たちよりも、タマチャンと子供に惹かれました。
どっから来てどうなったのか、どんな風に彼女のいない寂しさを共に埋めようとしていたのかとか。
もうちょっと読んでみたい気もします。

あと、何故かシロクロのテレビ画面とか、浮かびました。


飼い猫さんのようにさらりと読めるけど、もう少しコクがあってもいい気がします。
彼女の最後を知って、主人公がもっと傷ついても良い気がする。

飼い猫ちゃりりん
123-48-54-175.area1b.commufa.jp

アン・カルネ様

 よく勉強なさっていますね。感心しました。

 私もその時代の人間ではありません。だから、森田さんの歌とか聴いて、動画とか映画とか観て、多少文献を漁って書いてみましたが、まだまだ勉強が足りない。

 この作品は事実をモチーフはしていますが、あくまで創作です。

 最後の歌は、神田川の土手に咲いた花くらいに思っていただければ良いかと思います。

 またよろしくお願いします。

飼い猫ちゃりりん
123-48-54-175.area1b.commufa.jp

夜の雨様

いつもありがとうございます。

ATgですか。確かに映画にしてみたい気はあります。

森田童子さんの歌とか、いろいろ良い情報を教えてくれて感謝しております。

またよろしくお願いします。

飼い猫ちゃりりん
123-48-54-175.area1b.commufa.jp

大丘忍様
その時代を知っている人に、心に残ると言って頂けたことは嬉しいです。
ありがとうございます。

飼い猫ちゃりりん
123-48-54-175.area1b.commufa.jp

えんがわ様

 猫としては、タマに注目して頂けて嬉しいです。
 動物殺して、お涙頂戴にしたいわけじゃありません。
「小さな命」が、この作品の隠れたテーマでもあるのです。
 人が幸せになるには、確かに経済発展が必要です。だから、高度経済成長があったわけです。
 野良猫も、神田川の土手に咲く花も、人間に何かをしてくれるわけじゃない。ある意味無駄なものです。
 でも、無駄なものって、実は一番大切だったりするんですよね。
 この宇宙だって、無駄なものですからね。

 ありがとうございました。。

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