作家でごはん!鍛練場

終天の朔

9月22日 諏訪湖にて

漆黒のヴェールを幾重にも織り込み、形成された一夜という現象の一刻は、それぞれが同じように見えて、ひとつとして同じものなどない。
水面を照らす月の名を知らぬ……
五日目の月にはなぜそれに、上弦やら下弦、小望やら十六夜、立待やら寝待などの、別の呼び名が無いのかを私は訝った。その月は荘厳なる闇を、湖畔の静寂をもって見事な迄に演出していた。

明けるのだろう、

そうとも……

明けぬことはなかろう。


~新見啓一郎
『事件簿 回想録』より~





 さくのよに
 ひかりはあるの
 わたしにはわかる

 しんじつだけを
 てらしだす
 みえないひかりが
 あなたをいぬき
 そこに おちるかげ

 ほのぐらい
 そのかげが

 わたしのすべて



「被害者のノートパソコンに書かれていた、最後の日記です。サイトへの投稿は確認出来ていません」

 大木からの報告を受け、新見はこの事件に底知れぬ闇を見た気がした。
 あなたと書かれた人物が真犯人だと仮定した場合、今までの捜査方針が、全く意味を持たなくなる。

「過去の日記をすべて、プリントアウトしてくれないか、これがダイイングメッセージだとしたら……」
(被害者は、犯人を擁護している)と、後に続く言葉を呑み込んだ。
 なぜそう感じたのかは解らない。只漠然と、この日記には、惻隠の情があるように思えた。

『真由理』殺されることを覚悟して書いたもの、いや望んでいたのか……

「ダイイングメッセージ……なんですか」
 大木は訝しげに新見を見つめた。

「それと、日記サイトに書かれた過去のコメントも合わせて調べてくれ。そのコメントから、ガイ者の人間関係が見えて来るはずだ」


 事件は三日前に起こった。
 静岡県JR三島駅南口前に建つ、地上六階建てビルの屋上で、絞殺された女性の死体が発見された。

 発見日時は、9月18日午前2時10分。
 夜間清掃員二名が、休憩をとるために屋上に上がると、フェンス角に設置された街灯の下、北西に頭を向け、右横臥位で女性が倒れているのに気が付いた。
 清掃員の一人が声を掛けたが反応が無い為、近づき見ると眠っている様子である。
「ここで寝たら風邪をひきますよ」と、話し掛けても起きないので左肩を揺すったその時に、死んでいるのが解ったと供述している。
 
 絞首痕があることから殺人事件と判断。検視官による現場検証及び、遺留品からの身元確認後、所轄の病院に搬送され司法解剖が行われた。
 被害者の側に落ちていたショルダーバッグ内の運転免許証から、市内在住、天野礼子38才、女性と判明。
 死亡推定時間は、発見時刻の被害者体温34.5℃、その一時間後に測った体温33.9℃、外気温20℃、生きていた時の体温が36.5℃として計算され、経過時間は3時間。即ち、前日17日の23時頃と算定された。裏付けは司法解剖の結果待ちとなる。
 死因は絞首痕から、正面から両手で首を絞められたことによる窒息死と判定。発見後間も無く三島警察署に捜査本部が設置され、直ちに捜査が開始された。
 
 三島警察署長からの要請もあり、捜査本部長に県警の新見 啓一郎警部が任命され、着任迄は、副本部長に任命された所轄の川村 修警部補が指揮をとった。




 高速道路沼津インターを降り、伊豆縦貫道から三島市街に入ったのは、午前8時を少し回った頃だ。三島警察署の駐車場に車を止め、残暑の日差しが未だ眩しい秋晴れの空に目をやると、番いの白鶺鴒が、チュチチ、チチと鳴きながら飛び交っている。
(古巣に帰ったか……)
 署の玄関前で旭日章を見上げ敬礼した後、ロビーに入ると、所轄の川村警部補が出迎えてくれた。
 身長は新見とそう変わらない。角刈りの短いもみあげに、白髪が目立ち始めた55歳のベテラン係長。高卒で機動隊から叩き上げ、来年は、警部への昇進が決まっている稀有な逸材と言える。

「川村さん、ご無沙汰しております」
 新見は曽ての上司に再逅の念を込め、深く頭を下げると、川村の右掌を両手で掴んだ。

「警部、こちらこそ。この度はよろしくお願い致します」
 新見の手の甲に左掌を添え、力強く握り返した温もりと、真っ直ぐ見つめる笑顔に、20の歳の差への蟠りは無かった。

「早速で恐縮ですが、10時から捜査本部会議が開かれます。只今、署長は外出中で留守にしておりますが、会議迄には戻られるそうです。これまでの捜査資料を纏めておきましたのでお読み下さい」
 と、カウンターに置かれていたA4ファイルを手渡した。
 新見は、時系列にファイリングされた資料にざっと目を通した。
(これだけの資料を短時間で……)
「川村さん目が赤いですね、ご苦労様です。会議の前に現場を見ておきたいのですが」

「解りました。私は9時に司法解剖の結果報告を聞くことになっていますので、代わりの者に案内させましょう」
 と言うと、内線電話で巡査長を呼び出した。
 程無く2階から、足早に階段を降りて来る青年が目に映った。年齢は30前か、身長は165㎝前後、細身だが肩幅が広く、体育会系であることが伺える。もみあげを長く残した、五分刈りのスッキリした坊主頭がよく似合っている。
 10㎝程の身長差がある新見を見上げると、白い歯を見せながら、蟀谷に素早く右手を添え、
「巡査長の大木 颯人であります。お勤めご苦労様でございます。わたくしが、現場迄ご案内させて頂きます」
 と、少し緊張した面持ちで挨拶をしてきた。
 新見は少し口角を上げ、優しい目をむけて、
「正装ではないから、畏まる必要はないよ」
 一瞬、大木の頬に赤みが差すのを認知して、
「よろしく頼む」
 と、笑顔で答えた。チラリと川村に視線をやると微笑んでいる。
 制服制帽の場合は敬礼を要すが、それ以外は普通に頭を下げる挨拶が一般的だ。

 三島警察署から駅前の現場迄は、車で15分程の距離だ。大木が運転するパトカーの後部座席に座った新見は、すぐさまファイルに目を通した。
 発見からの捜査状況が時系列で克明に書かれており、被害者の運転免許証のコピー、バッグとその中身等の遺留品のカラー写真も添付してある。被害者の背景詳細に関しては捜査会議の中で明らかになるだろう。
(ガイ者のことで解っているのは、家族、親族等の身寄りが皆無だということだけか……)
 5分程読み、頭の中を整理しようと顔を上げると、懐かしい景色が目に飛び込んだ。

 署から箱根に向かう国道一号線を横断し、市街を目指す旧下田街道を走ると、神前結婚式で全国的にも知名度が高い三嶋大社がある。
「三嶋」とは「御島」。即ち伊豆大島、三宅島等から成る伊豆諸島を意味するとされ、古代には、伊豆諸島の噴火を免れた人々から崇敬を集め、中世には、伊豆国一宮として、源 頼朝始め多くの武家から篤く崇拝された。近世以降は、安藤広重の東海道五十三次の三島宿として描かれた、三島の中心部に鎮座することから、世間一般に広く知られる様になる。
 境内の金木犀は樹齢1200年を越える巨木で、昭和9年、国の天然記念物の指定を受けた。円形に広がり、地面に届くほど垂れている枝先が、この木の生きた歳月の長さを物語っている。
 新見はサイドガラスを半分程開け、外気を吸い込んだ。
 陽光をたっぷりと浴びた二度咲きの金木犀は、1回目の満開を迎えていた。例年9月上旬より中旬にかけ黄金色の花を全枝につけ、再び、9月下旬より10月上旬にかけて満開になる。
 ほんのり甘い香りが、緊張を和らげてくれた気がした。

「警部が三島署に赴任されたのは、10年前とお聞きしていますが」

「ああそうだ、君と同じ巡査長刑事として初めて入署した。あの頃川村さんは刑事《デカ》長で、随分とお世話になったな」

「難事件を解決したと聞きましたが」

「私が解決した訳ではないよ。協力してくれた一市民のアドバイスがきっかけで、たまたま犯人を割り出すことが出来た程度のことだ。それに……、誇れることでもない……」

 一市民。新見の瞼に忘れることの出来ない女性の姿が浮かんだ。彼女がいなければ、あの事件で警察は、冤罪の不幸を生んでいたかも知れない。
 麻生 真由理 ……
 文学部出身で、市立図書館の受付をしながら、小説家を志していた彼女の洞察と聡明さに、憧れ以上の感情を抱いていた。
 あの事件以降、新見の思考回路には『真由理の部屋』が存在し、彼女の思念と照らし合わせることで、事件の[不条理な闇]ともいえる刹那を、平明に捉えることが出来るようになる。
 そのきっかけとなるエピソードは、又、別の物語と共に語らねばなるまい。

 駅前のロータリーが混雑していたこともあり、東側駐車場にパトカーを入れたのは8時40分頃であった。駐車場に接するスクランブル交差点を渡った所に建つビルが、事件の発見現場である。
 築30年以上。六階建ビルの一階には最近出来たのか、建物のわりにそこだけ華やいで見える、24時間営業のコンビニエンスストアが入っている。早朝から続いたマスコミ関係の取材合戦は、落ち着いた様子であった。
 Keep Outと張られた隣ビルとの間は4尺程あり、制服警官に手帳を見せた後、腕章と白手袋をつけて路地を抜けて行くと、奥裏手には非常階段があった。階段は、各階毎ビルの中央に踊場が設置され、ジグザグに屋上まで繋がっている。
 二階は24時間体制の警備会社、三階は不動産会社のオフィス、四階は司法書士事務所、五階は音楽教室、六階は空き事務所で、駅側から見える窓には入居募集のポスターが貼られていた。六階まで各階の踊場に非常ドアが設置されており、内側から施錠されている為、外から入ることは出来ない。屋上のみ解放されている。

 屋上に上がる頃には二人とも息を切らしていた。
「……ふたり掛かりならまだしも、一人で上げるにはキツいか。……複数犯と仮定すると、目撃リスクが高くなる……」

「……はい、そうですね」

 両手で膝に手をあて息を調えた後、周囲を見渡すと、北西のフェンス越しからは秋晴れの富士山が綺麗に見え、下方に目をやると三島駅とロータリー式のバス停留所が見える。新見はその景観に息を飲んだとともに、このロケーションで六階エリアが空いていることに少し疑念を抱いた。

 被害者が倒れていた所は、人型に白く縁取りされている。
(夜景を観るには絶好の場所だな)
 ふと思えた。

 非常階段が設置されている南東側に隣接するビルは、地上五階建てであるため屋上の日当たりは良い。四方を見渡し視界を遮る建物はほとんど見当たらなかった。
「外からの目撃者は期待出来そうにないな。ん、これは……」
 新見は、被害者が倒れていた場所から5メートル程先のフェンス脇に、小さく光る物を見つけた。

「100円玉ですね。鑑識が見落としましたか、回しておきます」
 大木は念のため、スマホで写真を撮ってから100円玉を拾い上げた後、腕時計に目をやり、
「警部、そろそろお時間です」
 と、新見に声を掛けながら左手を見せた。
「おっ、いかん」
 見ると9時15分を回っている。二人は足早に現場を後にした。




 捜査本部会議の前に署長室に出向いた。
 山崎署長は昨年の4月迄、静岡県警本部で副署長を務めていた。56歳、階級は警視。新見とは2年程県警で仕事をし、彼の明晰さを高く評価するひとりである。

「新見警部、今回は私から君を指名させて頂きました。ここの大石警部は来年1月に定年を迎える。このような事件なので外れて貰いました」

「存じ上げております。ご期待に応えられるよう最善を尽くします」
 二人は固く握手をし、二階の会議室に向かった。

 今捜査の編成は総勢七十三名
 捜査本部長 新見 啓一郎警部を筆頭に、副本部長 川村 修警部補、事件主任 早川 洋一巡査部長、広報担当 三浦 彩美巡査長、捜査班運営主任 大木 颯人巡査長、その他に鑑識課から二名、捜査班長六名とその配下に各十名、計六十名の捜査員が就く。

 川村による編成紹介の後、新見が挨拶をした。

「昨夜、38歳の女性が何者かにより殺害された、善良な市民だ。我々は皆等しく、死に向かって生きている。しかし、ひとりとして自身の死を願う者などいない。予期せぬ突然の死、その恐怖、その無念は被害者以外知ることは出来ない。警察官の正義とは何か、それは被害者の無念を晴らすことだ。早期解決犯人逮捕が無念への鎮魂となることを願う。捜査員全員の活躍を期待する」

「はい」という返事が会議室に轟いた。


「これまでの捜査報告を早川事件主任より」
 川村の紹介で早川より事件の経過報告が行われ、死体発見現場の状況がスライドで照会。第一発見者とその供述及び、被害者の詳細が報告された。

 発見場所 三島市一番町◯◯-◯カワネビル屋上
 発見時間 9月18日午前2時10分
 第一発見者 吉田 栄一 25歳 (株)アースクリーン清掃員及び同僚 下田 義郎 52歳
 前日17日午後9時より、アースクリーン清掃員4名で、2階から6階迄の廊下及び階段のワックス清掃業務を開始。18日午前2時から2名ずつ一時間の休憩の際、先に休憩に入った上記2名が屋上で発見。死亡を確認した第一発見者 吉田が、清掃作業をしていた清掃リーダー 山口 尚吾 32歳に報告し、その後2時18分山口の携帯電話より110番通報された。
 通報後、駅前派出所から木下巡査が現場に急行し、現場保全作業及び、第一発見者の聞き取りを開始。2時40分三島警察署から到着した早川巡査部長及び、大木巡査長に引き継がれた。

 被害者 天野 礼子 女性 38歳 独身
 住所 静岡県三島市◯◯町3-36コーポ境202号室
 本籍 山梨県南都留郡 富士河口湖町字......
 家族 なし、親族 なし

「戸籍上の両親は、被害者が2歳の時に交通事故で死亡。両親に兄弟姉妹は無く、その後父方の祖父の戸籍に移動、しかし、被害者が14歳の時に祖父が絞首自殺、その半年後に祖母も病で亡くなっています。母親が孤児院出身の為、母方の親族は皆無。最終学歴は中学卒です」

「職業サービス業。現住所から歩いて15分程の◯◯町スーパー大川に、今年の6月からパートとして働いております。社会保険の適用はありません」

「続いて鑑識から報告をお願いします」

「はい、検視も含め報告致します。 被害者の身長158cm、体重48.5kg中肉中背、血液型AB」

「死因 、真正面或いはやや上方から両手での絞首による窒息死。特に被害者の首頚右側に強く絞めた痕が残ること、及び、犯人の右手親指痕が頚部上方に残ることから、右利きの者による犯行だと推測されます」

「特徴、親指から掌を経て中指先端迄の長さは20~22cm、平均より指が長いか、掌全体が大きい人物。また、被害者が直立で首を絞められたと仮定した場合、犯人の身長は170cm以上であると考えられます」

「続いて死亡推定時刻ですが、司法解剖による直腸温度検査及び、死後硬直が下顎を過ぎ上頚迄達していたことからも、 発見当初の計算と同時間の17日23時頃と推測されます。尚、胃の残留物は殆んどありませんでした。背中に古い傷痕がある以外、その他の外傷はありません」

「目撃者についてですが、今のところ報告はありません。尚、清掃員の話では、夜間作業中に、ビル内の階段及びエレベーターを使用した者は居なかったそうです。屋上への侵入経路は、外の非常階段に絞《しぼ》られるかと思われます」

「次に、被害者近くに落ちていたショルダーバッグ等の遺留品について報告します」

 エルメスバーキンタイプ牛本革オーストリッチ型押ショルダーバッグ(こげ茶)、長財布 (黄)、小銭入れ(黒)、銀行キャッシュカード、運転免許証、国民健康保険証、ハンドタオル、ポケットティッシュ、化粧ポーチ、ハンドブラシ、ハンドミラー、各種ポイントカード(スーパー、レンタルビデオ、リラクゼーション、雑貨店他)、コンサートチケット(半券)一枚

「長財布の中身は現金1万6千円と、運転免許証、保険証、各種カード。小銭入れに65円。クレジットカード及び買い物等のレシート類は見当たりません。それと、先程警部が見つけられた、被害者近くに落ちていた100円玉一枚も合わせて報告させて頂きます」

「コンサートチケットは、当日19時から三島市民文化会館小ホールで行われた'Wolfgang'コンサートのものです。各種ポイントカード使用状況の中で最近使われた物は、9月16日に沼津市リラクゼーション施設'楽もみ' を一時間利用しているようです」

「携帯電話がないのが気になりますが、遺留品全てに本人以外の指紋が検出されていないことからも、ものとりの犯行の可能性は薄いと思われます」

「ん、被害者は時計をしていましたか」
 新見が質問をした

「いいえ。腕時計はしていませんでした」

「それはおかしいな。それならば携帯電話を持っているだろう。忘れたのか、或いは犯人が持ち去ったのか……その線で捜索してください」

「はい。わかりました」

「コンサート及び楽もみには同伴者は居なかったのか」
 川村からの質問に、

「只今、市民文化会館の防犯カメラを確認しております。楽もみに関しても営業時間が午前11時からの為、現在捜査員が聞き取りに出ています」
《《<-》》
大木が答えた。

「他に現在調査中の案件及び進捗状況を、各班班長より報告をお願いします」

 1 被害者の住居アパートの捜索及び、アパート住民と近隣住民への聞き取り捜査

 2 被害者就業先への聞き取り捜査及び、以前の就業先への聞き込み捜査

 3 発見現場の目撃者情報の収集及び、防犯カメラの確認(被害者足取り含む)捜査

 4 現在の被害者本籍状況及び、当時の生活状況確認捜査(山梨県警依頼)

 5 携帯電話所在の有無確認及び、使用状況の確認捜査

 6 銀行キャッシュカードの使用状況及び、その他金融機関取引状況捜査

 等を中心に捜査状況の報告が行われたが、その中で気になる報告については今のところ無かった。引き続き捜査継続ということで会議は終了した。

(第一発見者の供述では、被害者は眠っている様子だったと...抵抗しなかったのか……顔見知りの反抗か、いやしかし、それにしても……)
 新見は被害者天野 礼子の人物像と、これ迄の人生について考えていた。

 幼少から続いた悲劇、天涯孤独となってからの生き方、殺される直前の想い。
 常人では理解出来ない程、厳しく悲嘆に暮れた人生を歩んだのであろうか、その中で幸せな時間を過ごせたのか……

 ふと、彼女の嗚咽が聞こえた気がした。

『真由理』との静かな対話の中で、礼子の想いに寄り添わなければ、事件解決はないと確信した。




・・・・・・

 放課後は嫌いだ。
 クラスの掃除委員に多数決とは言え、殆んど強制的に任命された礼子は、曜日每決められた掃除担当者の、やり残した後片付けをするのが日課のようになっていた。クラスメイトは部活動があるからと言って、礼子に残りを押し付けるのだ。
 部活動をしていない礼子は、楽しそうに向かうクラスメイトにひきつる頬を隠しながら、「行ってらっしゃい、頑張ってね」
 と、無理やりの笑顔で見送る。そんな自分が嫌で堪らない。
 祖父母は二人とも御光(みひかり)の家で働いていたので、家事や夕食の支度は礼子の仕事なのだ。

 その日も部活動で賑わうグラウンドの横を、下を向きながら、足早に通り過ぎ自宅に向かう。
 ポツリと冷たい雫が額に落ちた。見上げると、秋晴れの空に、いつしかどんよりとした分厚い雲が現れ、みるみるうちに辺りが暗くなりかけている。知らずと早足が駆け足になった。
 息を切らし、家の玄関前でドア鍵をポケットから出しながら、郵便受けを覗くと空であった。何時もこの時間には、新聞の夕刊が差し込まれているのにそれが無い。おかしいなと思いながら、引き戸に手を掛けると、カラカラとドアが動いた。祖母が早く帰ったのかと、ドアを開けて、家に入ると人の気配は無かった。
「ただいま。誰かいるの」
 と、声を掛けても返事はない。
 靴をぬぎ、三和土から8畳の居間に上がり隣の台所で手を洗う。うがいをしながら窓に目をやり裏庭を視ると、土塀脇の柿の木の下で祖父が倒れていた。慌てて勝手口から裏庭に出て、
「おじいちゃん 大丈夫!」
 と、側まで駆け寄り覗き見る。

「うっ!……」

 そこには、喉にロープが差し込み舌を出し、目を見開いたまま曇天を睨み付ける、祖父の歪んだ顔があった。横には倒れた脚立があり、ロープが巻かれた柿の木の枝が折れて落ちている。
 瞬間的に死んでいるのが解ったが、声を掛けてみた。やはり反応はない。

 思えば不思議なのだが、初めて見る、人の死に顔。しかも、尋常では無いその顔つきを見ても、後の対応は自分でも驚く程冷静だった。

 幼少から、喜怒哀楽を表に出さない子であった。
 両親の顔は遺影でしか知らぬ、思い出もない。 幼稚園や保育園に通わなかった為、同じ年頃の子供と遊んだことがない。
 祖母に手を引かれ御光の家に行く。祖父母が仕事をしている最中は、鶏小屋や豚小屋の薄汚れた動物達を眺めたり、本堂の広い畳部屋で、ひとり絵本を見ながら過ごしていた。
 人との関わりが希薄だと目を合わせるのが怖くなり、いつしか下ばかり見るのが癖になった。たまに口角を上げぎこちない笑顔をみせるが、それは、不安を隠す本能的な対応術で心など無い。

 小学校に入学すると、教育下積みの無い礼子は、他の子供達に学力で差をつけられた。人見知りで、うまく皆の中に溶け込むことが出来ない為、教室ではいつもひとりぼっちでいた。容姿は二重で美人だが、無口で人相が暗く、人を寄せ付けない雰囲気がある。いつしか男子生徒を中心に、
「礼子のれいは ゆうれいのれいだ。ゆうれいが来た、ゆうれいが来た」
 と、虐められるようになった。
 学力面では、2年生になる頃には、他の生徒と大差がない程度まで回復したが、性格は変わらない為、虐めは続いていた。
 そんな礼子にも楽しかった思い出がある。
 4年生の時に、父母参観日に初めて来てくれた祖母の目の前で、『わたしの家族』という作文を発表した際、他の親たちから自分と祖母に対し拍手を貰った。亡くなった両親に代わり、自分を一生懸命育ててくれている祖父母の様子を綴った作文だったが、教室にいた皆が感動してくれた。そのことがきっかけで、以降、虐めは日に日に少なくなって行った。
 書く楽しみを見出だした礼子は、以後日記を毎日綴るようになる。書くことで、今の自分と向き合うようになると、これ迄無意識に押さえられてきた感情が徐々に解き放たれ、日記の世界に没入していった。
 5年生の時に、『わたしの夢』という、中学進学への憧れを書いた作文が、県のコンクールで入賞した時の感動は、何よりも自身の励みになった。しかし、中学に進学してからの現実は厳しく、いつしか日記を綴る手も止まってしまった。

 警察の調べで自宅から遺書が発見され、祖父は自殺と判定された。
 葬儀は御光の家の流儀にのっとり、粛々と執り行われ、葬儀後、教祖である大原 光洋(こうよう)と祖母は、1時間程本堂の離れで話し込んでいた。その後礼子が呼ばれ、正式に御光の家の信者となる。
「心配なことがあったら何でも相談に乗りますよ。遠慮せず修行に励んで下さい」
 同席した光洋の息子 天子(てんし)に笑みを投げ掛けながら言われた。その視線に一瞬、悪寒のような身震いに近い感覚が礼子の全身に走った。
 視線を逸らし、小さな声で「はい」とだけ答える。
 礼子、14歳の中秋であった。

・・・・・・

 午後から捜査本部に新しい捜査報告が入った。

 アパートの大家兼管理人からの情報によると、天野 礼子は最近3ヶ月程アパートを留守にしがちだと言う。
 大家の家はアパートの直ぐ裏手にあり、ほぼ毎日、アパート前の駐車場のはき掃除や、花壇の手入れをしているので、住人との挨拶などのコミュニケーションはよくとれている。
 礼子とは週に何回か挨拶を交わしていたが、ここ3ヶ月の間は3~4度しか見かけておらず、最近会ったのは1週間以上前になる。

「家賃は口座引き落としになっていますが、今まで滞納はありません。202号室の室内は、生活感が無い程よく片付けられています。 ポストに郵便物が残されていないことから、帰って来ているのは確かなようです」

「室内から、指紋は採取出来ましたか」
 新見が川村に尋ねた。

「本人以外のものは検出されていません。大家の証言では、来客は見たことが無いと」

「携帯電話はありましたか」

「ありませんでした。部屋を調べましたが、電話会社からの請求書は見当たりません。口座からの引き落としの履歴も確認出来ませんでした」

(コンビニ払いか……、請求書を処分したのか……)

「大手3社には、ガイ者との契約が無かったか調べているところです」


 就業先スーパー大川での報告。
 仕事は加工食品や菓子の品だし担当で、月曜日から金曜日の9時から16時迄勤務し、途中1時間の休憩をとっている。勤務態度は真面目で、欠勤、遅刻、早退は一度もない。
 職場での人間関係は良好であるが、口数は少なく、同僚に対して、積極的に自分から話し掛ける方ではなかったようだ。入社して3ヶ月程だが、プライベートで交流のある同僚は居ない。
 入社時の履歴書から、前職は接客業とあるが、詳しい企業名は記載されておらず、面接官がメモしたような斜め書きで、『アルカディア』とボールペンで書かれていた。

「理想郷ですか……」

「採用担当に確認すると、三島市内の飲み屋と言うだけで……調べると市内にアルカディアという店は2軒あり、1軒は喫茶店で礼子の就業記録はありません。もう1軒は会員制のカラオケパブですが、7月に閉店していた為、現在詳細を確認しております」


 16日に利用した、沼津市下香貫のリラクゼーション施設『楽もみ』の報告では、パソコンの顧客管理情報から、21時から22時の施術利用が確認出来た。男の同伴者がおり、ペア予約を、当日19時頃、同伴者の携帯電話からされている。
 履歴によると、1年程前から二人で来店するようになり、過去10回の利用が確認出来た。顧客管理名簿には住所の記載は無く、氏名、生年月日、携帯電話番号のみ記されていた。男は斎藤 政志52歳。施術担当の指名は無く、その時その時で、空いているスタッフが担当している。
 施術をしたスタッフの話では、身長170cm以上で筋肉質のがっちりした体格。施術中は寝てしまう為、会話は殆んど無かった。礼子とは親しい様子であったと言うが、ふたりとも店内では寡黙で、スタッフとは、体のコリ具合程度の話しかしていなかったと言う。
 レジ真上、天井にカメラが設置されているが、これはスタッフの不正防犯用のもので店内は撮られていない。レジ精算は、客の待つテーブルで行われていたので、カメラに映っているのは、金銭の出し入れと、レジ周辺を往来するスタッフの行動だけであった。

「携帯番号から住所は」

「はい、沼津市在住です。現在捜査員二名が斎藤の自宅に向かっております」

 Wolfgangコンサートが開催された、三島市民文化会館小ホール会場入り口防犯カメラを調べた結果、天野 礼子らしき人物が映っていたのが確認出来た。
 入場時間が混雑していた為、同伴者がいたかどうかは定かではないが、文化会館窓口でコンサート2週間前に、礼子の席と合わせ隣の席が一緒に購入されていた履歴が残っている。どのような人物が買ったかは不明であるが、全席指定の入場券の半券は、2枚とも確認出来ているので、来館したことに間違いはない。
 コンサート終了後の防犯カメラも同様に、混雑の為同伴者は特定出来ていない。

「会場内のカメラはどうなんでしょうか」

「前方天井から1台、後方天井から1台の計2台のカメラには、ガイ者の隣席に同伴者らしい男性が映っていました。遠目で人相がぼやけていた為、現在鑑識による解析処理が行われています」


「いろいろと進展がありましたね。ところで、ビルの防犯カメラと周辺の聞き込みはどうですか」

「はい、コンビニ入り口にカメラが設置されていますが、隣ビルとの路地は死角になっていて、確認が出来ませんでした」

「他にカメラは無いんですか」

「ビル裏手、非常階段の前が、2階に入っている警備会社の駐車場になっています。非常階段から駐車場に向けているカメラが一台ありますが、駐車場側の道路から制服を着た警備員以外、人が入った形跡は映っていませんでした」

「そうですか……」

 ふたりが会話をしていると、先程まで捜査員からの電話を受けていた大木から報告が入った。

「只今、コンビニ店員への聞き込み報告がありました。ガイ者らしき人物が、男性と一緒に買い物をしている様子が、店内の防犯カメラに映っていたそうです。時間は21時35分、コンサート終了後です」

「文化会館からビルのコンビニ迄は、歩いて10分程です。コンサートの終了が21時なので時間的には合致しますな」
 川村が新見に耳打ちした。

「ガイ者は買い物はせず、男性だけがレジで精算しています。ペットボトルコーヒー飲料1本、ミネラルウォーター1本と週刊紙1冊です。21時42分に店内を出て、駅方面に歩いて行く様子も、入り口のカメラに映っていました」

「至急、コンサート会場の男との照らし合わせを」

「はい、そのように指示を出しました。防犯カメラの映像を持って、署に向かっております」

「ご苦労、現在解析中の画像と確認するように」

「はい」

 会話の直後 、鑑識課担当が会議室に入ると、足早に新見の前に駆け寄った。

「申し訳ございません、司法解剖にひとつ見落としがありました。天野 礼子に右の卵巣がありませんでした。随分昔に摘出された手術痕があります。左側は、早発卵巣不全でした」

(不妊症……)
 新見はその報告に一瞬言葉を失った。

「そうはつ……卵巣不全とは、どんな病気なんだ」
 川村が眉をひそめながら確認した。

「40歳前の早い時期に卵巣機能が低下するもので、天野 礼子の場合は早発閉経。卵胞が枯渇して、永久に月経が停止するタイプです」

「卵巣が死んでる……それじゃあ、こどもが出来ないって事なのか。いつ頃からなんでしょうなぁ」
 川村は、眉間に皺を寄せたまま視線を落とした。

「一般的に片方の卵巣が失われても、もう片方が機能していれば妊娠は可能だ。早発卵巣不全であっても不妊治療の方法はある。だが……」
 新見も又、川村と同じように、いつから閉経したかということに拘った。




 沼津市上香貫の斎藤 政志宅は、150坪程の敷地に建つ切妻屋根の二階建てで、門構えの立派な邸宅である。
 自宅には予め在宅確認の電話をしたが出なかった。
 表札を見ると斎藤と木板に行書で書かれている。門に設置してあるドアホンを鳴らすと応答があった。

「三島警察署から参りました。恐れ入りますが政志さんはご在宅でしょうか」

「あ、あいにく留守にしております」
 枯れた女性の声で返答があった。少し慌てた様子である。

「政志さんのことでお話を伺いたいのですが」

「……はい、少々お待ち下さい」

 暫くすると老婦人がドアから出てきた。
 歳は80近くか、小綺麗な服装で髪もセットしてある。聞くと斎藤の母親だと言う。

「ここでは何ですから……、玄関の方へどうぞ」
 捜査員二人の警察手帳を確認すると、玄関の中に案内した。

「今日は仕事に出ております」

「お仕事はどちらですか」

「今日は多分、清水町の方だと思いますが」

「ん、と言いますと」

「飲食のお店を3軒やっておりまして。今日は沼津港で仕入れをしてから清水町の店に行くと、朝早く出かけて行きました」

「なんというお店ですか」

「アルカディアというパスタ専門店です。あの……、政志がなにか」

「いえ、ある事件で少しお話をお伺い出来ればと思いまして。お店の電話番号を教えて頂けますか」

 母親から番号を聞き捜査員の一人が携帯で店に電話を入れる。もう一人の捜査員が他の2軒を母親に確認すると、三島市と沼津市に同名で喫茶店を経営していた。

 パスタ店に電話をしたところ、今日は一度も見ていないと言う。ただ、斉藤が仕入れた魚介類は冷蔵庫に保冷されていたことから、仕入れ後店に寄ったことは確かなようだ。
 いつもなら社員が来るまでに定番メニューの仕込をするそうだが、今日に限ってされていなかった為、朝から厨房はてんやわんやだったと言う。
 その後斎藤からの連絡も無く、店から電話をしても繋がらない状態らしい。
 他の2軒も同様に、斉藤との連絡がとれずにいた。

 捜査員はすぐさま捜査本部に携帯で報告をした後、斎藤の写真を母親から借り、携帯で撮った数枚を署に送信した。

 捜査本部では持ち込まれたコンビニの映像と、コンサート会場で映っていた男が同一人物であると確認出来た。斉藤とは違う人物であった。

 その後新たな情報が入り、現場ビルの六階空きフロアには、7月まで会員制のカラオケパブ『アルカディア』が入居していたことが判明。更にコンビニ店長からの証言で、カメラに映っていた天野 礼子が、アルカディアのホステスだったことが明らかになった。仕事帰りによく買い物をしていたと言う。
 カラオケパブ『アルカディア』の経営者は斎藤 政志である。

 本部が一気に動いた。

 川村副本部長の指示の元、重要参考人として斉藤 政志と、コンサートに同伴した男の足取り捜査に、集中的に捜査員が動員された。

 時間は16時を少し回っていた。

「任意同行しか求められないが、今のところ斉藤とコンサートの男が、被疑者に一番近い存在ですな」
 川村は鼻を荒くして新見に目配せし、笑ってみせた。

「今のところ、そのようですね……」
(川村さんは変わってないな)
 新見は10年前に刑事として、初めて入署した三島警察署時代の初日を思い出していた。

 大学卒業後警察学校の研修を終え、派出所での勤務を1年勤めた新見は、2年目から三島署の巡査長刑事として配属された。
 ノンキャリア組としては2年目で巡査長は異例であった。 巡査から巡査長への昇進は、大卒なら最短で巡査歴2年を経て指導力を有する者に対し、高卒なら10年目で自動的に与えられる。
 新見のそれは、派出所時代の功労が大きく影響していた。

 ・・・・

 沼津駅前派出所に勤務して半年後、駅近くの仲見世商店街の居酒屋で事件が起こった。
 酒に酔った中年男性客が隣席の若いカップルとトラブルを起こし、持っていた登山ナイフでカップルの男性を威嚇した。
 110番を受けた派出所から急行すると、止めに入った店員の大腿部を刺し、出血を見て動転した男がナイフを他の客に向けている。
 新見は瞬間的に、「いかん!」と声を張り上げ中年男と客の間に入り、自らの左上腕を切りつけられながらも、ナイフを持った腕を掴み背負いで投げ倒した。倒れた男の右手に素早く手錠をし後ろ手にしてから、左手首にも手錠をかけ男が身動き出来ないのを確認した後、刺された店員を仰向けにして、大腿傷の状態を目視しながら三和土上にあった座布団を二つ折りにすると、止血の為店員の膝の下に当てた。
 一瞬の出来事に、周りの客達は身動ぎひとつ出来ず呆然と立ち尽くしている。
「店員さんタオルとビニール袋を速く!」
 との呼び掛けに、ようやく辺りを囲う客達が我に返った。
 新見は中年男に睨みを利かせながら、店員の股下足のつけね部分をタオルできつく縛り、傷口に三つ折りにしたフェイスタオルを二枚重ねた後、感染防止の為、ビニール袋で自身の手を覆いタオルの上から傷口を押さえ、出血具合を確認しながら近くに居た客に座布団を要求し、足を更に高く上げた。他の客達は不安な目で見守っている。
 暫くして救急車と所轄の刑事が現場に到着し、負傷者は処置後直ちに病院に搬送され、犯人は逮捕された。
 自身の上腕の傷にタオルを当てながら肩口で頬の汗を拭った瞬間、客達は新見の背中に向かい一斉に拍手を贈った。
 振り返りその状況に唖然とした新見であったが、直ぐ様背筋を伸ばし腰を折り、頭を深く下げた。
 拍手は暫く鳴りやまなかった。
 翌日の各社新聞には事件の記事が一斉に載り、地元のメディアで大きく取り上げられ報道されると、新見は一躍『時の人』となった。
 その後、警察官として人身を守る勇気ある行動と負傷者への適切な応急処置、何よりも、警察に対する市民への印象向上に貢献したとして、静岡県警から表彰を受けている。

 三島署の皆が、派出所時代の武勇伝を知っていただけに、入署初日から視線がやたらと気になる。署長にも「期待しています」と言われた。
(特別扱いだけは勘弁してくれよ)
 二階の刑事課に入り、川村巡査部長に挨拶に行くと、
「噂は聞いているお手柄だったね。しかし特別扱いはしないよ、やりにくいだろうからね」
 川村は嫌味のない気さくな笑顔を向けた。

 新見はその言葉に救われた思いがした。

「本日より配属になります、新見 啓一郎です。よろしくお願いします」
 蟀谷に素早く掌を当て敬礼をすると川村は、
「私服だから、畏《かしこ》まらなくていい。よろしく頼みます」
 と 、笑ってみせた。
 思わず新見もつられて微笑した。
 川村からは、刑事のイロハを叩き込まれた。

 ・・・・

「そろそろ交代の時間です。ここは私と早川巡査部長で見ますから休まれてください」
 仮眠休憩から戻って来た早川を確認すると、新見は川村に声を掛けた。
「もうそんな時間ですか……。解りました」

 川村は早川に現状を引き継いだ後、
「警部は今夜はどうされますか」
 と、新見に尋ねた。

「私は警察公舎に泊まる予定でいます。大木刑事が準備してくれたようです」

「大木からは聞いています。あそこじゃ余り休まれんでしょう……。どうですか、良かったら我が家で過ごしませんか」

「ありがとうございます。しかし……」
(それでは川村さんが休めない。大木の面目もある)

 察した川村は、
「解りました。では後程、七海に手料理でも持たせましょう。警部が来ることは伝えてありますので」
 と、ニコッと笑った。

「それはありがたい。七海さんの料理は格別ですからね」
 川村の娘のつくる肉じゃがが、大のお気に入りだ。

 三島署時代独身寮に入っていた新見は、川村家の夕食によく招待された。
 当時地元の短大に通っていた七海は、派出所での活躍を知っていて新見のファンである。早くに母親を亡くし父と二人で生活をしていただけに料理はお手のもので、新見のリクエストに応えるのが嬉しくてたまらない。
 そんな七海を妹のように思い、川村家では楽しいひとときを過ごさせてもらった。




 夜7時を回ったが、新たな報告は上がって来なかった。新見は、何かやり残した気分で公舎に向かう。重要参考人二人の足取りもそうだが、山梨県警に依頼した、礼子の過去状況を知りたかったのだ。

 公舎に着いて、ロビーのエレベーターを待ちながら、山梨県警には、明日一番で問い合わせてみようと考えていると、
「啓一郎さん」
 後ろから、声を掛けられた。
 不意を突かれ振り返ると、胸の辺りで、鮮やかな薄桃色の風呂敷包みを抱えた、若い女性が微笑んでいる。七分袖の淡い水色のワンピースに、軽くニットを羽織った清楚な美女である。

 一瞬、慎ましやかな公舎のロビーに、華を見た気がした。

「七海です……、忘れちゃいましたか?」

「ななちゃん……い、いや、雰囲気が変わってて。お久しぶり」

「こんばんは、見違えたのぉ? なんてね、ふふっ……父から啓一郎さんが来ると聞いて嬉しくて。はいこれ」

 風呂敷で、綺麗に花包みされた三段重を受け取りながら、
「ああ、川村さんからは聞いているよ。僕もななちゃんの料理が食べられると聞いて嬉しくて、ありがとう」

「私の味、覚えていてくれたんだ。そうそう、肉じゃがも入れときましたからね」
 二人は、ロビーにある待ち合い用のソファーに座った。

「川村さんは休まれているかな、昨夜から署に詰め通しだったから」

「父は今、イビキをかいてます。大きな事件だから気が張ってたみたい」
 笑みをこぼした後、
「なんだか最近は胃の調子が悪いようで……、少食なんです」
 と言うと、七海は軽く目を伏せた。

「そうなんだ。署ではそんな様子見せなかったけど、潰瘍でもあるのかな……、病院には行ってるの」

「診てもらいなさいって言っても、自分の体は、自分が一番よく解ってるって。……ちょっと心配」
 新見に目をやり、気がきでない表情をみせた。

「そうだったのか……」

 コツコツ……
 後方から、足音が聞こえた。公舎に入る若い制服警官である。
 咄嗟に七海は、
「あっ、私そろそろ帰りますね。ここ男子棟だから、誰かに見られたら、啓一郎さん困るでしょ」
 と言って、立ち上がる。

「いや、そんなことは……。ななちゃん車で来たのかい」

「ううん、歩いて15分だから」

「それでは送って行こう、もう暗いしね。部屋にこれを置いてくるから、少し待っていてくれるかい」
 座るよう促すと、エレベーターに向かった。

 部屋に荷物を置いて一階に戻ると、ソファーの横に立って七海が待っていた。背筋を伸ばし、真っ直ぐ新見を見つめている。

 車まで案内すると、
「夜風が気持ちいいから、歩きたいな」
 緩やかに揺れる髪を片手で押さえ、上目づかいで微笑んだ。

「ああ、そうしよう」
 七海の提案に、新見も笑顔で応える。

 二人は並んで、ゆっくりと歩き始めた。

「啓一郎さん、LINEしてますか? 良かったら交換しません」
 七海は、スマートフォンを軽く振ってみせた。

「仕事の邪魔はしませんから、ねっ」

 新見は立ち止まり、内ポケットからスマホを取り出すと、七海に言われるまま、LINEの交換をした。

 七海はスマホに向かったまま、
「啓一郎さんは、まだお独りなんですか」
 と尋ねた。

 突然の問いに焦りながらも、
「ああ、仕事尽くめでね。ハハッ……婚期を逃したようだ」
 と、少しおちゃらけて言った。

「あの方のことを、忘れられないのかな」
 七海は真顔で返した。

 新見は、彼女の不安げな瞳の奥に微かな眩耀を見た。何かを確かめたいという思いが込められている。

 真由理とのことは、七海も承知している。

 少しのあいだ、会話が途切れた。

 沈黙に堪えきれなくなった七海は
「啓一郎さんに送って貰って良かった。いつもはあの山の上に月が見えるのに、今夜は新月かしら、少し暗いわね。でも代わりに星があんなに綺麗。……生まれたてのお月様って可愛い」
 と、山を指差し笑った。

 見ると、月の上弦に、僅かな光が漏れている。

(朔月……、昨夜は暗闇だったのか)

 新見の脳裏に、現場の様子が浮かんだ。

 七海は、遠くを見据えるような新見の横顔を覗き込むと、直ぐに、事件のことを考えていると察した。それは、子供の頃から見慣れた父と同じ顔つきだった。

「啓一郎さんありがとう、此処でいいわ。明日も早いでしょ、ゆっくり休んでね」

「えっ、ああ でも……」

「事件のことを考えているんでしょ、解るわよ」

(思ったことはズバリ言ってくる。昔と変わらない)

「またお弁当作るね、お父さんに持たせるから食べてね。お休みなさい」
 と言うと、セミロングの髪をなびかせて軽やかに走って行った。

 新見は後ろ姿を目で追いながら、なぜだか七海の、甘いリンスの残り香を惜しむ気持ちに駈られた。

 公舎に引き返そうと向きを変えると同時に、胸ポケットのスマホが振動した。見ると七海からのLINEの着信だった。

『今日はお話出来て嬉しかった😊
お仕事応援してます。頑張ってね🍀』

 新見は振り返り、七海の帰った道に目をやりながら笑みを浮かべた。

(念う新月、裏を返せば朔……失意の暗闇か)
 誰かが笑い誰かが泣く、そんな夜がまたやって来る 。
 月のない夜はやけに星が近い。一筋の流れ星を合図に、満天の星々が歌い出す。
 脳内に静かに響くのは、
 ペールギュント『ソルヴェイグの歌』

 冬が過ぎると 春は急ぎ足で去り
 夏が行けば 年の終わりを迎えるだけ
 でも私は信じている
 いつか あなたは私の胸に帰ってくると
 私は待ち続ける
 約束したから......

(流れた星は、誰の涙か)

「幸せにお成りなさいな」
 ふと、真由理の呟きが聞こえた気がした。


 朝7時に署に着くと、一番で大木から報告を受けた。
「おはようございます。斎藤宅を張り込んでいた捜査員から報告がありました。昨晩は自宅に帰っておりません」

 斎藤の母親から聞き取りをした捜査員二名は、その後斎藤宅近くに車を停めそのまま張り込みをしていた。 斎藤は、妻と離婚しており、子供もいない。大きな家で母親と二人で暮らしている。母親は、昨日は一歩も外に出ていなかった。引き続き捜査員交代後任務は継続されている。

「3軒の店の方はどうなんだ」

「各店舗にそれぞれ二名づつ就いておりますが、こちらも動きはありません。引き続き張り込みを継続しております」

「はい解った」

「それと、コンサートに同伴した男の足取りですが、三島駅東側の駐車場出入口の防犯カメラに、駐車場内に歩いて行く二人の姿が映っておりまして、その後、車が一台駐車場から出ております。ガイ者が同乗したかは解りません。時間は21時55分、ナンバーは解析出来ませんでした」

「ナンバー確認が出来なかったのは痛いな。車種と色は」

「それが珍しい車でして、赤のランチアデルタインテグラーレ、92年から95年製のエヴォルツィオーネⅡというモデルだそうです」

「イタリアのラリーカーだな……。生産台数が少ない上に日本での流通は絞られるはずだ」

「へー、警部お詳しいですね」

「あぁイタリア車は好きなんだよ、特にデルタはね。希少価値が上がり、中古市場での取引は高値で売買されている。車に何か特徴はないか、ラリーカーだけに泥除けが大きいだとか、ステッカーが貼ってあるとか」

「はい。車体の上面に、青と黄色のストライプが」

「それならば95年製造の最終ロット、日本市場向けのものだな。限定で200台かそこらだろう。ただデルタの場合、塗装を変えたり、ストライプをあと描きする場合もあるが」

「うひょー、お見逸れしました。先程デルタの情報をググってましたが、仰る通り。その線で所有者をあたっているところです」
 大木は握り拳を胸の前で踊らせ、子供のような眼差しで新見を見つめた。

「ところで、川村さんが見えないが何処へ」
 新見の問いかけに、

「はい。実は午前4時から勤務に戻りましたが、5時過ぎに急に胃の痛みを訴え倒れ込みまして、少し血を吐いて……そのまま救急車で病院のほうに」
 大木はすまなそうな顔をして答えた。

「それを早く言えっ!……血を吐いたのか」

「申し訳ありません。病院からの連絡では胃潰瘍で穿孔《せんこう》の危険が懸念される為、そのまま明日迄検査入院となりました」

「穿孔……酷いな。それで川村さんはどうなんだ」

「先程娘さんから連絡があり、明日には署に戻ると。それまでは、私と早川さんで代行を務めます」

「いや、1日では済まないだろう……。後で病院に行ってくる」
(七海の心配事が現実になってしまった。彼女はどうしているか)

「山梨県警から、天野 礼子の情報は来てないか」

「はい、午前6時頃所轄より報告がありました。河口湖町の本籍地には当時の家屋がそのまま残っていますが、一部崩壊し手付かずの雨晒し状態だそうです。当時の暮らしについては調査中ですが、祖父母が新興宗教に関わっていたそうで」

「新興宗教に……なんという宗教なのか」

「御光の家と言いまして、今は存在しておりません」

「みひかりのいえ……」

「詳しい情報を集めますか」
 大木が尋ねた。

「いや、この件は私の方で調べてみる。君は現捜査に集中してくれ、セカンドエフォートを忘れるなよ」

 大木は川村から教えられた言葉を思い出した。

 セカンドエフォートとは、アメリカンフットボール用語である。直訳すれば「第二の努力」という、人生訓のようにも聞こえる言葉だ。

 アメリカンフットボールはラグビー同様、陣地とりをめぐる戦いである。 4回の攻撃で合計10ヤード前進しない限り、攻撃権は相手方に奪われるというルールだ。
 ボールを持った選手が敵陣を走るか、パスを通せば陣地が増える。ところが敵は、そうはさせじとタックルをかけてくる。倒され、膝をついた時点で一回の攻撃は終了する。しかしタックルを受け、ああ、もう倒れるといった瞬間に踏ん張り、わずか1歩でも多く走るかジャンプしてボールを遠くに置く。このように、最後の最後、1ヤードでも多く陣地を得るための努力を、セカンドエフォートと呼ぶのである。

 川村警部補は、捜査チームを編成する度によく話してくれた。

「たった1ヤードのゲイン。そんなのが役に立つのかと思われるかもしれないが、この1ヤードのプラスアルファーが何を生み出すか……私はこの言葉に特別の価値を模索する。もう倒れるのは確実なのだ、時間の問題なのだ。しかし、そこでできる何かがあると信じているのである。セカンドエフォートがチームを強くするからだ。余力を残さない、倒れる寸前まで最後の力を使い切る、セカンドエフォートのできるチームは必ず強くなる」


「担当はなんと言う人だ」

「富士吉田署の原田巡査部長です。ベテランの方だと聞いておりますが」

「ありがとう、連絡を入れてみるよ。その後に川村さんの見舞に行くので宜しく頼む」

「承知しました。セカンドエフォート、セカンドエフォート……」
 大木は繰り返し同じ言葉を呟いた。


 富士吉田署に電話をすると担当の原田は非番であり、連絡を取るか確認されたが明日迄待つことにした。
 電話を切ると新見は、すぐさまノートパソコンを開き、御光の家を検索した。

 検索ページの冒頭には、

 宗教法人 御光の家/破産開始決定

 代 表:大原 光洋
 所在地 : 山梨県都留郡富士河口湖町◯◯-◯
 平成11年、同法人は山梨県地裁富士吉田支部より破産手続開始及び解散の決定を受けた。

 負債総額 : 7億8千万円

 新興宗教として、山梨県都留郡富士河口湖町に本部を置く宗教法人御光の家は、平成11年7月、火災により本堂を全焼。死者二名を出し、その後の動向を注目されたが、同年10月に今回の処置となった。
 
 破産管財人は古田 芳郎弁護士
(古田法律事務所、山梨県富士吉田市旭1丁目◯◯-◯ 電話 0555-22-◯◯◯◯)

 との内容があっただけで、それ以外の情報を得ることは出来なかった。




・・・・・・

「まったくこの娘は、使い物にならないねぇ」
 厨房から怒号が響いた。
「これから天子様のお客様が来るっていうのに、これじゃあ間に合わないよ」
 14畳程の厨房は、慌ただしく昼食の準備に追われていた。女性信者のお局様が忙しなく配膳係五名に指示を与えている。その的となっているのが、先日初めて天子からの「御寵愛」を享けた、天野 礼子16歳である。要領の悪い礼子は、額の汗を拭う暇もなく料理を小鉢に盛っていた。

 天子様と呼ばれるのは、新興宗教団体 宗教法人「御光の家」教祖、大原 光洋62歳のひとり息子、大原 愛明(よしあき)のことで、今日は愛明30歳の誕生日を祝う席に、県内の代表信者12名を招いていた。
 御光の家では、「男子30にして神の御こころを知る」という節目の歳として、信者は教祖の「御霊なる言の葉」を賜ることにより、修行から解放され、「教えの徒」とし、布教活動に専念する真の弟子に昇格する。これを「天昇の儀」と呼び、年2回、上半期下半期に分け、6月と12月にこの期間で30歳になる一般信者男子に対し執り行われる。この際、お布施料としてひとり50万円を寄付する事が義務付けられている。
 天子の場合は、天昇の儀により大天子様となり、次期教祖の地位を不動のものとされる。しかし、設立20年そこらの宗教団体にとって、これらはあくまで建前の話で、その目的は布施集めにある。
 代表信者とは、一年間で布施料の多かった信者の中から上位12名を選任し、教祖、天子に次ぐ「使徒」として、団体の中で優遇される。毎年選任と言っても、ここ10年変化なく、不動の代表信者とされている。

 宗教法人「御光の家」は、富士河口湖町に1975年(昭和50年)、大原 光洋により設立された。その前身は、自然農法による農業団体である。

 1968年(昭和43年)光洋は、所有する約5ヘクタール(東京ドーム約1こ分)の農地を改良し、無農薬自然農法をうたい、大根、人参等の根菜やキャベツ、トマトの栽培を始める。
 この頃世間では「紅茶きのこ」を中心に健康食ブームが沸き上がり、光洋の作る野菜は、それに肖り売上を伸ばして行った。その後、近隣の農地を徐々に買い上げ続け、5年後にはその規模を20ヘクタールにまで増やした。
 1970年代はオカルトブームであり、73年に「ノストラダムスの大予言」、小松 左京の「日本沈没」など、世紀末的な退廃を予感させる書物、映画がヒットする。また10月には第四次中東戦争が勃発、これを機に、海外にエネルギー資源を依存していた日本は、原油価格上昇の懸念から、一気にインフレーションが加速された。
 この第一次オイルショックで、スーパーなどではトイレットペーパーや洗剤など、原油価格と直接関係のない物資の買い占めが起こり、世間は一時パニックを起こした。翌年74年の消費者物価指数は23パーセント上昇し、「狂乱物価」なる造語まで生まれている。
 余談だが、紙資源の不足から週刊紙や漫画雑誌の頁数が軒並み削減され、書籍では、文字を小さくし、頁内に多く収める為に行数が増やされる等が行われた。これ以降、漫画の単行本や、小説の文庫本が主流となり現在に至っている。

 混乱を逆手にとり、自然農法に自給自足の概念を導入。畜産にも手を広げ、 農業体験と企業の人材教育を一貫させた光洋の事業は急成長。その形態を、宗教法人に一気に押し上げた。
 以後バブル期に突入すると、山梨県を中心に全国の信者は5万人を超え、東証一部上場企業等も、新入社員教育に御光の家を利用するようになる。

 礼子の祖父は農業を営んでいた。
 交通死亡事故で他界した両親の過失により、被害者へ支払う慰謝料を相続した礼子を戸籍移動する際、任意保険では賄えきれなかった賠償金を返済する為に、所有していた農地を売却し、支払いの一部に充てた。
 残りの慰謝料に関しては、以前から農業で親交のあった光洋に借金をし、なんとか自宅とその土地だけは守る事が出来た。
 光洋への借金返済は、施設での農業体験実習の指導員となり、給与の一部を月々の返済に充てることと、担保として、光洋を受取人とした、生命保険に加入することで承諾してもらっている。

 祖父は、毎日朝から晩まで休む間も無く働いた。事故を起こし死んだ息子の負債を背負うことが、親としての義務であり、孫の将来を見守る責任は、自分にあると考えていた。礼子のこれからの人生、その為だけに生きようと妻と誓った。
 だから、光洋からの申し出はなんとしてでも断るつもりでいた。礼子だけは、御光の家に関わらせたくなかった。

 1986年12月から91年2月迄、51ヶ月に渡るバブル期が崩壊すると、御光の家にも陰りが見え始め、新入社員教育での大手企業の施設利用頻度が年を追う毎に減少。それに合わせ、一般信者数も下降傾向にあった。
 バブル期に拡大した現金資産は、事業拡張時に多額の銀行融資を受けた際の、月々の返済に充てられるようになり年々降下していく。
 農作物は、付加価値の付いた高価なものは敬遠され、安値での販売が続き利益はない。それと共に、所有する農地の資産価値も下落した為、バブル崩壊以後、貸し渋り、貸し剥がしに方向転換した銀行からの融資は、期待出来ない状況が続いた。
 礼子が施設奉仕を強要されたのは、そんな頃である。

 彼女は御光の家が嫌いであった。施設の存在そのものを、憎らしく思っていた。

 1995年(平成7年)中学校に進学すると、土曜日の午後と日曜日の終日は、必ず祖父に連れられ、施設で家畜の餌やりや小屋清掃、汚物処理に従事させられた。
 仕事の後は、天子の説教を聴くのに信者は皆正座をしなくてはならない。足の痺れで、10分とまともに正座が出来ない礼子にとっては、苦痛の時間でしかなかった。
 幼少から、人見知りでいじめられっ子だった彼女にとって、中学校生活は憧れであり、念望であった。新しい友人を沢山つくりたい、部活動を通して集中出来る何かを探したい、今の卑屈な自分を変えるきっかけが、中学に進学することで必ず見付けられる……そう信じていた。しかし、現実は部活動に参加できず、友人と休みの日に会うことも儘ならない。まわりに遠慮しながら、つい人の視線が気になり思ったことも言えなくなる。全てに後退り……以前と少しも変わらない……。礼子が拭い去りたかった過去こそが、今の日常なのだ。
 いつしか、「こんなはずではない」という言葉が、礼子の脳内を呪文のように連呼するようになる。

 中学二年の10月に祖父が自殺をした。
 祖父の死後、その生命保険金で光洋への借金は無くなったものの、祖母は神経衰弱で心身に異常をきたし、日に日に食が落ちると、翌年2月に肺炎を患い、二ヶ月後には帰らぬ人となる。
 天涯孤独となった礼子は、御光の家を頼らざる他生きる術を知らない。光洋に言われるまま、施設で暮らすこととなった。

 中学生の礼子にとって、信者としての勤めは厳しい。
 毎朝5時には起床し、他の信者と共に、御光の家に研修に来ている、各企業新入社員の朝食づくりに追われる。7時に配膳を済ませた後は、自身の中学登校の準備をしなくてはならない。ホームルーム開始直前に、飛び込むように教室に入るのが常であった。
 授業が終わると走って施設に戻り、家畜小屋の清掃と、研修者への夕食準備が日々の役割となっている。夕食の後片付けを済ませ、天子による説教が終わるのが、夜の9時をまわり、その後解放され自分の時間となる。そんな生活が一年続いた。
 薄々は感じていたものの、高校には進学させて貰えなかった。その後の生活は、今まで以上に厳しいものであった。修行の中で、自身を見失って行くのが、解っているうちはまだ良いが、次第にそんな意識も遠ざかり、御光の家という底の見えない沼に、何時しかどっぷりと浸かっていった。

・・・・・・




 午前9時、三島中央病院の病室を見舞うと、ベッドに横になった川村が七海と話をしていた。

「川村さん、大丈夫ですか」

 新見の顔を見た七海は安堵からか、無意識にこぼれ落ちた涙を、照れ隠しの笑みを浮かべながら後ろを向いて人差し指で掬った。川村はそんな娘の様子に、新見を見ながら頭を掻いて苦笑いをした。

「ご心配を掛けて申し訳ありません」
 川村は静かに首を傾けた。

(話が出来るなら……よかった)
 胸を撫で下ろしながら、
「穿孔の疑いと聞き驚きました。それで胃の方は」
 と、川村に尋ねた。

「酷い胃潰瘍でした。ただ、MRI画像からは穴はなかったようで腹は切らずに済みました。点滴と飲み薬でなんとかいけそうです」

 川村の返答に、
「食事も暫くは気を付けないとね、当分はお粥ですよ。全く変な菌を飼っているんだから。ここで一気にピロリ菌を退治してしまえばよいのに」
 と 、七海が付け加えた。

「そんな時間はない。明日には署に戻らなければ、俺は死んでも死にきれない。なぁ頼む、事件が解決したら治療に専念するから。ここはひとつ」

「もう解っているわよ、止めたって無理なことは。啓一郎さんにも約束してよ、事件が解決したらちゃんと治すって」
 笑いながら新見を見つめる瞳には、よすがの想いが込められている。

 今ここで、川村が居なくなっては捜査本部に支障をきたす。新見の気持ちを汲んでのふたりの会話なのだ。
 その気持ちが痛い程解るだけに、新見は辛い。

「七海さん、川村さんに無茶はさせません。私が責任を持ちます」
 ふたりに頭を下げた。

「啓一郎さんありがとう。父を慕ってくれて……」
 七海の目頭が潤んだ。


「啓一郎さん」
 帰り際、七海は病院のロビーで新見を呼び止めた。

「父は啓一郎さんを誇りに思っているんです、三島署の時から。彼ならノンキャリアながら警視長迄上り詰める男さって、いつも口癖のように……だから、今回の事件でご一緒出来て幸せだって」

「僕の方こそ、川村さんの指導があったからこそ今の自分があると思っているよ。今回の事でふたりには申し訳なく思ってます。ななちゃん、ありがとう」

「いいえ……。でも ふふっ、父の前では 七海さん だったのに、いつもの啓一郎さんに戻った」
 七海は白い歯を溢しながら、たおやかに笑った。
(この笑顔に救われる)
 新見もつられて笑った。


 午前9時を少し回った頃、斎藤宅から母親が出て行った。張り込みをしていた捜査員の一人が尾行すると、歩いて10分ほどのスーパーマーケットに入った。店内で買い物をする様子に怪しい気配はない。
 母親がレジで会計を始めた頃合いを見計らい、捜査員が自宅前で張り込みをしているもう一人に携帯で連絡を入れたその時、レジ後ろの自動ドアから斎藤らしき男が入店した。
 母親とは申し合わせた様子は無く、会計をしている彼女に気が付くと、周りを見渡し、直ぐにきびすを返して外に出て行った。
 捜査員は、
「斎藤発見。至急◯◯スーパーに急行願います」
 と伝えながら、斎藤の後を追った。母親はその時初めて、尾行された事を知ったと後から供述している。
 捜査員は速歩きで車に向かう斎藤に、
「斎藤 政志さんですね。警察の者ですが、少しお話を聞かせて頂けますか」
 と、後ろから声を掛けた。向こう側の県道からは警察車のサイレン音が徐々に近づいている。斎藤は観念したようにうなだれ、捜査員の指示に従った。

「斎藤 政志さんですね」

「はい、そうですが……」

「三島警察の者です。天野 礼子さんをご存知ですね」

「…………」

「天野さんの事でお伺いしたいことがあるのですが、署までご同行願います」

「天野 礼子さんの事は知ってます。でも……私ではないですよ」

「そうですか、礼子さんが亡くなったのはご存知なんですね」

 斎藤は、しまった という顔をして捜査員から目を逸らした。
「署で詳しいお話をお伺いします。乗車下さい」
 到着した捜査員が車から降りる姿を見た斎藤は、渋々同行に応じる。運転免許証で身元確認すると本人に間違いは無かった。スーパーに車を止め、徒歩で自宅に向かうつもりだったと言う。
 遠くから斎藤の母親が、不安げに見つめていた。


 三島中央病院を出ると、新見はそのまま三島市立図書館に車を走らせた。御光の家の資料を探す為である。
 一階入り口から入ると右手に貸出しカウンターがある。無意識に昔の癖でつい覗いてしまう。
 10年前、捜査資料を調べに来館し真由理と出会った。話し掛けたのは彼女からだ。

・・・・

 捜査に関わる資料を何冊か選別し、カウンターに行くと、
「あなた新見さんでしょ。お巡りさんの」
 と、貸出し担当の女性から声を掛けられた。
 眼鏡をかけた賢そうな顔立ちだが、表情は無く冷たい感じを受けた。歳は新見よりも上か……まばたきをせず、口角が微かに動くような話し方が印象的である。
「知っていますよ、ご活躍はネットニュースで読みました。沼津には立派な図書館があるのにここで借りるんですか」
 新見がまだ、一言も発していないのに話し続ける。
「あぁ、お住まいがこちらなの、今日は非番ですか。でもスーツを着て……そうか、刑事さんになられたのね。三島署ですか」

「ぷっ……」思わず吹き出してしまった。
「いや、失礼。あなたこそ刑事のようだ」

 新見の反応に満足したかのように、真由理の表情から初めて笑みが零れた。そのギャップに、
「素敵な笑顔だ……」
 つい口を滑らすと、

「写真だと堅い印象を受けたけど、結構チャラいのか。ごめんなさい一方的に、麻生と言います」
 と、嫌みの無い笑顔を向けた。

「あらまぁ真由理ちゃん、笑うのね。仕事中に笑うの初めて見た。お知り合いなの」
 隣で事務をしていた中年女性が、目を丸くしてこちらを見つめている。

「麻生 真由理さん……と、仰るんですね」
 笑いながら新見は胸ポケットから万年筆を取り出すと、メモをとるジェスチャーをした。

「ドルチェビータですね。限定品のオーロですか、素敵な色だ」

 イタリア製のお気に入りのオレンジを誉められ、真由理の笑顔にくぎ付けになった。

・・・・

 御光の家としての単独資料は見つからなかったが「新新宗教総論」という、ごく最近設立された宗教団体を紹介した本に御光の家の内容が掲載されていた。初刊発行は平成10年となっている。
(破綻解散の前か……)
 パラパラと捲って行くと何枚かの写真も載っている。本を持って読書の出来るテーブルに向かったところで胸ポケットのスマホが振動した。三島署からの着信であった。
「警部お忙しいところ恐れ入ります。先程、自宅近くのスーパーで斎藤 政志の身柄を確保しました。任意同行で三島署に向かっております」
 大木からの連絡を受け、
「承知した。今から署に戻る」
 と電話を切った後、貸出しカウンターで警察手帳を見せ署名をすると、すぐさま三島署に向かった。




 三島署に戻ると、斎藤 政志の事情聴取の準備ができていた。新見は開始を10分待つように指示を出し、その間に大木から、コンサートに同伴したランチアデルタの男の捜査状況を確認している。
 
 ランチアデルタインテグラーレエボⅡの運輸省登録件数は、静岡県下だけでも35台。その内初年度登録から同モデルを絞り込むと、対象台数は12。県内東部では3台、中部で5台、西部で4台であった。色やラインの振り分けは無いため、1台毎調べる必要がある。
 直ぐ様新見は静岡県警に連絡をとり、各地域所轄への捜査応援の要請をすると共に、改造車だった場合も考え、その後の応援も要請した。大木は重要参考人の車が県外で無いよう祈った。

 斎藤の事情聴取が始まると、新見は大木と共に取調室とは別の部屋に設置された視聴モニターを静かに見守った。
 斎藤 政志は写真よりも大柄に見えた。身長は172cm、体重76kgと自己申告している。年齢は52歳。筋肉質であるが腹の肉厚は脂肪のせいかぽっこりと膨れていた。丸1日髭を剃っていない為、表情にふてぶてしさを感じる。
 事情聴取には早川捜査主任と張り込みをした刑事一名が担当した。大きめの机に斎藤と対峙した形で二人が座っている。

「天野 礼子さんとはどの様な関係ですか」
 捜査員が尋ねた。

「調べはついてるんだろう。カラオケパブの従業員だ」
 肝が据わったのか、先程よりも態度が大きい。

「昨日から自宅に帰られていませんが、なぜですか」

「…………」
 斎藤は捜査員から目を逸らした。

「あなたが天野さんの首を絞めて殺害したのでは、逃げていたんではないですか」

「俺はやってないよ」

「では、17日の夜は何をしていましたか」
 礼子殺害の夜である。

「あの晩は夜釣りに行っていた」

「どちらに、誰かと一緒でしたか」

「獅子浜の静浦漁港の桟橋だ。ひとりで行った。夜の8時頃から夜中の1時迄ねばったが、釣れたのはベラばかりだよ」

「キュウセンか、高級魚じゃないか」
 早川が口を出した。

「バカいってらぁ、あんた地元の人間じゃないだろう、観賞だかなんだか知らないが、こっちじゃ昔から雑魚さ。食うもんじゃねぇ」
(流石に魚介には詳しいようだ)
 沼津にある静浦漁港は、静岡県内でも、青物の回遊が非常に多い堤防として有名な釣り場である。回遊情報が出回ると、朝早くから堤防が埋まるほど沢山の釣り人が訪れる、県内屈指の人気の漁港だ。

「桟橋で誰かに会ったかな。アリバイを証明出来るかね」

「朔の夜だ、釣り客は少なかった。何人かとは挨拶はしたが……でも、俺はやってないよ。アリバイの裏付けはあんた達の仕事だろ」

「それじゃあ昨日はなぜ家に帰らなかった。何か後ろめたい事でもあるんだろ。それを話してくれなくちゃ今日は帰れないよ」

「…………」
 昨日の行動については頑なに話そうとしない。早川は質問を変えた。

「天野さんとは親しいようだったが、いつ頃からなんだ」

「うーん、アルカディアに来てからだから2年位になるかな」

「カラオケパブを閉めてからはどうなんだ」
 早川は、楽もみの件を伏せて斎藤の反応を探った。斎藤は早川の顔色を伺っている。
 暫く沈黙が続いた。

「随分と、深い関係だったようですね」
 横から捜査員が口を出した。早川は机の下で捜査員の足をつついて言葉を制し、渋い顔をした。

「もういいだろう、兎に角俺はやっていない。もう帰るぜ」

「任意とは言え、事情聴取を拒否するとあんたは不利な立場になるよ。やっていないなら堂々と喋ったらどうだ」
 早川は少しイラつき気味で話した。

「後は会社(うち)の顧問弁護士とやってくれ」
 斎藤は怒鳴り声をあげた。

 業を煮やした早川は
「弁護士は関係ない。事情聴取でも、警察は弁護士の立ち入りを拒否出来るのだよ」
 眼光鋭く斎藤を睨みつけた。

「うっ…………」

「あんたとガイ者がただならぬ関係だなんて事はお見通しなんだ。前日の楽もみも裏はとってある。重要参考人としてここに来たんだ。事情聴取次第では、被疑者に成りうる事を忘れてもらっては困る」
 更に睨みを利かせた。

「ちょっと待ってくれ、本当にやってないんだ……」
 斎藤の腰が退けた。何やら考えている様子だ。

「そ、そうだ。22時過ぎかな、タバコがきれたもんだから、近くのドラッグストアに買いに行ったよ。あと、サンドイッチとコーヒーだ。傍の釣り客が大物を釣りやがって、悔しいもんだから気晴らしに歩いて行った」

「何と言うドラッグストアだ」

「サンライズドラッグだよ。漁港の近くだ、県道沿いにあるだろ、確か0時位迄やってる店だ」
 モニターを見ていた大木が直ぐに動いた。静浦漁港から三島の現場迄は、車で早くても30分以上かかる距離だ。殺害時刻は23時前後である為、アリバイはほぼ立証される。

「どうだ、これでアリバイ成立って訳だ。あんたらが調べ終わるまで、俺はもう喋らないぜ。黙秘権行使ってやつさ」
 斎藤はだんまりを決め込んだ。

 早川は、
「後は頼む」
 と捜査員に言うと、取調室を出ていった。

「警部申し訳ありません。奴のペースにはまりました」
 会議室に行くと早川は新見に謝った。

「いや主任はよくやったよ。これで一歩前進した、ひとつひとつ潰して行こう。アリバイが成立したとしても斎藤は何かを隠している。泳がしてみるのもひとつの手だ」
 早川は、新見に一礼すると大木のもとに駆け寄り、今後の捜査確認をした。大木はすでに、ドラッグストアに捜査員を急行させる指示を出していた。早川はそれと共に、コンサートに同行した男の身元確認を急ぐべく、捜査班に連絡をとるよう指示を出す。時間は正午を回っていた。

 新見は斎藤のアリバイ確認の間を利用し、捜査本部に届いた仕出し弁当を食べながら、市立図書館で借りた「新新宗教総論」を開いた。
 農業団体から御光の家宗教法人設立迄の歩みや、設立後の活動内容が時系列で年表掲示され詳しく書かれている。
 教祖 大原 光洋の写真、天子 愛明夫婦と12使徒、それらを囲んでの信者達の写真、農作業に従事する研修者の写真等、掲載も充実していた。
 一通り読んだ後コピーをとっていると、ある一枚に違和感を覚えた。満開の桜の木をバックに、天子 大原 愛明夫婦と、それを囲むように半円を描く信者達の写真である。
 笑顔の愛明が妻の横に寄り添っている。いや、寄り添うと言うよりも、自力で立てない妻を支えている感じだ。その妻の表情はうつむき加減で、どこか暗い雰囲気が漂っている。囲む20名程の信者達が満面の笑みを浮かべているだけに、その表情が際立っているのだ。新見はその写真をカラーで拡大コピーした。

「あっ!」
 新見の声に刑事数人がこちらを向いた。

「警部、どうかしましたか」
 大木が声を掛けた。

「ああ、これを見てくれ」
 新見は大木にコピーした写真を見せると、隅に写るひとりの信者を指差した。覗き込んだ大木は、
「あっ、これはっ!」
 と、驚きの声をあげる。

「そうだ。天野 礼子だよ」
 そこには両手を前で握り、カメラを睨み付けるような表情をした、若き日の礼子が写っていた。
 エンジの上下のジャージに、カーキのMA-1ジャンパーを羽織っている。ジャンパーのサイズが大きいのか……前で握った両手は指先だけしか見えていなかった。新見は隣に写っている男性信者が上着を着用していなかったことから、ジャンパーは彼から借りたものなのかと、ふと思った。
 写真右下には撮影日が記録されている。98.04.02とあった。
(礼子 15歳の春か……)
 本来ならば高校入学式の時期だ。多感なこの歳に高校進学出来ない無念の表情なのか……それとも、別の理由か……

 ……無念……
(警察官の正義……被害者の無念を晴らす)
 自身の言葉が脳内を駆け巡る。
 この本との出会いは何かしら、礼子の無念に導かれた様な、そんな気がしてならない。

(山梨に行かねばなるまい)
 新見はその時、静かに決した。

 午後1時を回った頃、ドラッグストアに急行した捜査員から電話で連絡があった。17日の22時35分に、防犯カメラに、レジで会計をしている斎藤の姿が映っていたという報告である。レシート記録を確認すると斎藤が供述した通り、タバコ、サンドイッチ、缶コーヒーの買い物履歴が記されている。タバコの銘柄も一致していた。レシート記録時間は22時37分である。
 駐車場のカメラには、斎藤が歩いて桟橋方向に行く様子が映っていた。
 報告確認後、斎藤は解放されパトカーで自宅近くのスーパー迄送られた。張り込みの為捜査員二人が乗った普通乗用車は、先にスーパーに到着している。

 14時を回り大木から報告があった。
「警部、ガイ者の携帯が見つかりました。たった今、駅前派出所から電話がありました。これから回収に行きます」

「見つかったか、どこにあったんだ」

 9月18日の早朝、駅前ロータリーのバス乗り場に設置してあるゴミ箱の中にあったスマートフォンを清掃職員が見付け、駅構内の忘れ物預り所に届けたが、翌日になっても落とし主が現れなかった。発見した場所が駅の外だったので、今日になり派出所に届けられたと言う。
 派出所は、スマホ登録されている電話帳のマイプロフィールから天野 礼子のものだと解り、直ぐに三島署に連絡した。

「ゴミ箱、捨てたんだな……誰が、なぜそんなところに……」
 新見にはどうしても腑に落ちて行かない。

「その清掃員に、スマホを見つけた状況を詳しく確認出来ないか」

「えっ、はい。あたってみます」
 大木は答え、自身でも考えてみる。

「あっそうか。警部、私に行かせて下さい」

「はい解った。よろしく頼む」
 新見は大木の反応に満足し、彼に任せることにした。
 大木は、直ぐさま駅前派出所に車を走らせた。




 14時半、早川からランチアについての報告があった。
「年式が同じ県内12件の対象車を調べましたが10件が色ちがい、2件は同じ赤いランチアですがストライプがありませんでした。12件全ての所有者をあたりましたが、皆アリバイがあります。現在、年式違いの県内23件の対象車に移行し、捜査を継続しております」

「そうか……厳しくなってきたな」

「県外のランチアも捜査を始めましょうか」
 早川が尋ねた。

「いや、それは大木の帰りを待ってから考えよう。報告次第では別の切り口が見つかるだろう。通信アプリが全てアンインストールされてなければ、たぶん……」
 早川は、左の口角を少し上げ目を細めながら窓の外を見つめる新見の横顔が、僅かな笑みを湛えたのを見逃さなかった。新見の真意を確かめる為声を掛けようとした時、近くの内線電話が鳴った。一階広報担当の三浦 彩美巡査長からである。
「はい、捜査本部早川です」

「お忙しいところ失礼致します、三浦です。新見警部にお客様です。ロビーに富士吉田署の原田巡査部長がお見えになり、警部との面会を希望されておりますが、会議室の方にご案内してもよろしいでしょうか」

「警部、広報の三浦からで、一階に富士吉田の原田巡査部長が見えているそうですが」

「原田……ん、今日は非番ではないのか、わざわざ……直ぐにお通ししてくれ」

 三浦に案内され原田が会議室に入る。少しくたびれた薄手のハーフコートを纏い、肩から黒いビジネスバッグを提げた、長髪の初老の刑事である。

 新見は会議室の入り口迄歩みより、
「新見です。わざわざ静岡までありがとうございます。今日は非番と聞いておりましたが」
 恐縮すると、

「はじめまして。あなたが新見警部ですか、富士吉田署の原田です。突然すみません」
 白髪混じりの前髪が垂れるのを、手で押さえながら挨拶をしてきた。

「ちょっと因縁てやつですか……退職前に昔の事件に関わるとはね、ついついここまで来てしまいました。うちの署長には許可を得ています。まぁ向こうに居場所が無いってのが、本音ですが」
 原田は飄々と笑ってみせた。

「因縁といいますと……天野 礼子を知っているんですか」

「えぇまあ、祖父の自殺はご存知でしょう。丁度あの頃交番勤めをしておりまして、現場に急行したのは私なんです」

「そうでしたか、ガイ者が中学生の頃ですよね」

「はい。第1発見者は天野 礼子なんですよ」

「…………」
 新見は驚き言葉がみつからない。

「彼女から通報を受けましてね。気丈と言うか何と言うか、発見した状況を、涙ひとつ見せずに淡々と話していました」

 沈黙の後、新見は思い出したかのように、
「それでは一寸これを見て頂けますか」
 と、先程拡大コピーした、御光の家の信者達の写真を原田に見せた。
 信者を指差しながら、
「ここに写っているのは、天野 礼子で間違いないですか」
 と尋ねる。

 原田は胸ポケットから眼鏡を取り出し、
「老眼が進みましてね、失礼します。あぁ確かに天野 礼子ですね。うんうん間違いない、この目付きは確かに彼女だ。しかしこんな古い写真をよく見付けましたね」
 と、驚いた表情で新見を見つめた。

「ええ、この本に」

「新新宗教総論、そうでしたか。いやね、ネットを検索されたかと思いますが、御光の家の情報が少なかったでしょう。こちらで困っているかと思いまして、当時の資料をコピーしてきました。まぁ、ファックスで済む話なんだが……」
 一瞬、原田は遠い目をした。

「なんだか当時のあの娘を想うと……こんな浅学菲才でも、お役にたてるかと思いましてね」

(ここにもひとり、礼子の無念に導かれた男が……)
「こちらに、どうぞ」
 新見は奥の長テーブルに案内した。

 原田は会議室奥にある長テーブルの椅子に座り、
「天野 礼子から通報があったのは午後4時くらいでした。急行すると玄関の三和土に腰かけていて、制服の私を見るなり、無言で仏さんのところ迄案内したんです」
 と、鞄からコピーした書類を取り出しながら話し始めた。

「これが当時の供述書と捜査内容です。あとこちらが、私が調べた御光の家の資料」
 と言うと、黒い綴じ紐で纏められたA4版の二つの資料を新見に渡した。

「ありがとうございます。拝見します」
 両方の資料に目を通していると、

「さて、どちらからお話ししましょうか」
 と原田が尋ねた。

「御光の家と祖父、康夫さんとの関係からお願いします」

「はい。ここにも書かれていますが、康夫さんは御光の家で働いていましてね。元来農業を営んでおりましたが、息子の交通事故で慰謝料を払う際に農地を手離して、それでも払いきれなかった分を、御光の家の教祖 大原 光洋に肩代わりしてもらって」

「それから教団にお世話になったと言うわけですか」

「そうです。農業体験の講師として働きながら借金を返していました。ですが……借金をする際に、光洋を受取人として生命保険に入らされているんです」

「生命保険に……金額は」

「死亡時3千万ですね……その辺が引っ掛かるんだが、まぁ、本人手書きの遺書と現場状況に、おかしな点が無かったもので自殺と判断されました」

「保険金は、支払われたんですね」

「はい」

「康夫さんの検視報告ですが、致命傷は後頭部の打撲傷とありますね。木が折れて落ちた時に頭を打ったもの……とありますが」
 捜査報告書を読みながら原田に尋ねた。

「柿の木の下に、高さ60センチ程の石灯籠がありましてね。落ちた際に後頭部を打ったようです。血痕が付着していました。ロープの絞首圧迫で、既に意識は無かった状態で落ちたようです」

「康夫さんが亡くなってから半年後に、奥さん、礼子のお祖母さんが亡くなられているんですよね。自殺を知った時の様子は、どんなでしたか」

「随分と取り乱していて、泣きながら、なぜ と繰り返し叫んでおりました。見ていて辛かった……」

「天涯孤独となった礼子はその後、御光の家を頼ったということでしょうか」

「詳しい経緯は知りませんが、そうせざるを得なかったんでしょうな」

 新見が捜査資料を読み返していると、早川から報告が入った。

「警部、斎藤が動きました。先回りしていた捜査員からの報告で、車を止めておいたスーパーから自宅には帰らず、そのまま沼津市高島町にあるマンションに入ったそうです」

「高島町のマンション……」

「はい。マンションの管理会社に確認したところ、斎藤名義の部屋がありました。マンション住人への聞き込みでは、中年女性が出入りしていたと……ガサ入れ出来ませんか」

(取調室での早川の無念……)
 新見は瞬時に、
「はい、解った。直ぐに家宅捜索令状を手配する。必ず手掛かりを見つけてこい」
 と、早川に力強く頷いてみせた。

 2時間後、裁判所から捜索差押許可状が発行され、早川と捜査員4名、鑑識課から1名が家宅捜索に出動している。


十一

 駅前派出所の木下巡査は、ビニール袋内に保管された礼子のスマートフォンを大木に手渡した。
「ご苦労様です、被害者のスマホはこちらです。カバーがされていますし、素手で扱っていたので、容疑者の指紋が出てくれるかどうか……」

 デニム生地のカバーからでは、確かに指紋の検出は難しい。ゴミ箱から発見されてから、天野 礼子のものだと確認される迄に何人かの手を渡っていた。

「巡査は、ここから発見現場に急行したんだよな」
 大木が尋ねた。

「はい、目の前のビルだっただけにショックでした。重要参考人の車がそこに駐車されていたとは」
 木下は、派出所から左手に見える駐車場を指差しながら、ため息をついた。

「しかも、伊豆箱根バス乗り場のゴミ箱とは、派出所の前を、歩いていたかも知れないということなんですよね……」
 50メートル程右側にあるバス停を見つめ、苦虫を噛み潰す。

「気持ちは解る。こいつが突破口になることを祈っていてくれ」
 大木は、スマホを鞄にしまいながら、木下に目配せした。

 署を出る前に連絡しておいた為か、駅内の忘れ物預り所に行くと、発見した清掃員が待っていてくれた。中年女性で、構内の清掃業務が主な仕事だという。田中と名乗った。

「スマートフォンを見つけたのは、何時頃でしたか」

「出勤して直ぐでしたから、7時過ぎ……くらいでした」
 顎に指を当てながら、少し緊張ぎみに話した。

「通常業務は構内の清掃なんですが、出勤時と業務終了時に外のゴミ集めをします」

「外トイレの脇にある、鉄製の丸いゴミ箱ですよね」

「はいそうです」

「ゴミ箱には、どのような感じで捨てられていたんですか」

「どのような、と言われましても……最初はスマホが捨ててあるとは思いませんでした」

「と、言いますと」

「見えてなかったんです。新聞紙やら週刊誌なんかが捨てられていて、それらを持ち上げたら、ぽろっと落ちてきたんです」

「ゴミは多かったんですか」

「いいえ、そんなには。近くにジュースの自販機がありますから、空き缶やペットボトルは、そちらの専用のゴミ箱に捨てられますので」

 少し考えてから、
「間違えて捨ててしまったのかしら……と思ったんです。雑誌や新聞紙に挟んだまま、忘れてしまったのかと。綺麗なカバーもしてあったし」

(確かにそうかも知れない、警部の違和感はそこにあったんだろう。犯人が捨てたのだとしたら、こんな犯行現場の近くには捨てないはずだ。あの時の警部の反応はそれを示唆していた。自分もそれを感じた……だから今、ここにいる)

「週刊誌……」
 大木は呟いた。

「ゴミ箱に入っていた週刊誌を覚えていますか」

「えっ、余り気にしませんでしたが……うーん、たしか、マンガと……女性向けの週刊誌だったかしら」

「覚えていませんか、表紙の写真とか」

「そうねぇ、表紙は誰だったかしら、うーん……誰か女優さんだったような……」

 大木は瞬間的に立ち上がると、
「ちょっとそこのコンビニ迄、一緒に行って頂けますか、お願いします」
 と、田中に頭を下げた。田中は同席した駅員の顔色を伺っている。

「いいですよ田中さん。行ってくれば」
 駅員は促した。

 大木は直ぐに三島署に連絡を入れ、コンサートに同伴した男が購入した週刊誌の名前を確認次第、折り返すよう指示を出した。

 殺人現場一階のコンビニに着くと、入り口右手の雑誌コーナーの前に田中を案内し、
「この中に、捨てられていたものと同じ週刊誌がありますかね」
 と、数冊ある中から、ゴミ箱にあった雑誌を思い出して貰う。

「……あぁ、ごめんなさいね。わからないわ」
 暫く見渡した後、申し訳なさそうに答えた。

 署からの連絡で、購入されたものは女性誌であり、雑誌コーナーにも置かれていた。 田中にそれを見せても確信は持てないと言う。

(これ以上は無理か……)
 田中に礼を言うと三島署に向かった。

(田中の言うように、雑誌にスマホを挟んだまま忘れて捨ててしまった……何時捨てたのか、誰が捨てたのか。犯人が捨てたのなら犯行の前か後か……)

 車中、大木は思いを巡らせていた。

(警部の違和感は、捨てたという表現に疑問符を付けたもの……そうだ、犯人が捨てるなら現場から離れた場所、発見されない海や川、いや、そもそも捨てやしない、捨てたのではない。隠したのか……それでは同じだ。ではなんだ……置いた、置いたのか。誰が、何の為に……)

 車を路肩に止め、鞄から礼子のスマホを取り出すとバッテリー残量を確認した。60%程残っている。
(電源を切ってから置いたのか……そこに何かしらの目的があるとしたら……)
 大木はあらためて、新見の洞察に敬意をはらった。


「なんだかお忙しいようだから、私は一旦引き上げます」
 裁判所に提出するべく、家宅捜索申請書類の作成を終えた新見に、原田が声を掛けた。
「駅前のビジネスホテルに宿をとっていますので、何かあったら連絡を下さい」

 ホテルと自身の携帯電話番号をメモした紙を手渡された新見が、
「すみません、ありがとうございます。後で連絡させて貰います。ホテル迄送らせましょう」
 と言うと、

「いやぁ、ぼちぼち歩いて向かいます。途中の街並みも見てみたいし、三嶋大社にも寄ってみたい。あぁ失礼しました、物見遊山ではなかった」
 原田は屈託なく笑った。

 新見は、会議室を出て行く原田の後ろ姿に、深く頭を下げた。

 原田が出た後直ぐに、大木が会議室に飛び込んで来た。
「今、階段ですれ違った方は」
 新見に尋ねた。

「あぁ、富士吉田署の原田巡査部長だ。わざわざ当時の資料を持って来てくれたんだ」

「そうでしたか、ありがたいですね」
 大木は汗を拭いながら、出入口を向き一礼をした。

「ご苦労様、それでどうだった」

 鞄から携帯電話を出しながら、
「はい、警部の言うように、捨てたという行為そのものに疑問を感じました」と、新美に告げた。

「それは、どういうことだ」

 大木は状況を説明してから、
「これは自分の推測ですが、週刊誌に挟んでゴミ箱の中に置いたのではないかと……誰かにスマホの中身を見せる為に。犯人が置いたのか、礼子が置いたのかは解りませんが、それでバッテリーを残していたのではないかと」
 と、自身の見解を伝える。

 新見は、大木の話を楽しんでいるかのように、目を瞑りながら聞いた後、
「そうだな、目立った所に置いたのでは盗られてしまうものな。では、中身を確かめてみよう」
 と言うと、スマホの電源を入れた。

(シンプルな画面だな)
 スマホを開いた新見はアイコンの少なさに驚いた。ホーム画面に表示されているものを数えると、20しかなかった。
 メイン画面には、グーグル検索の細長い楕円と、その下にカレンダーが表示されている。メモ書き機能のあるカレンダーであるが、使用された様子はない。スライドさせると、サブ画面に20のアイコンがある。電話会社のサービスアプリばかりで、LINE等の通信アプリは皆無であった。
 電話のアイコンを開け通話履歴を確認すると、全て削除されたのか、画面は真っ白である。グーグル検索も履歴が消されていた。
「ロケーション履歴は……オフか」

「こちらはどうでしょうか」
 大木が横から指を出し画面を操作すると、内蔵されている全てのアプリが表示された。

「鑑識に回して、通信アプリの解析をさせましょうか」
 大木が尋ねた。

「こちらにもLINEは無し……いや、ちょっと待て」
 新見は、ショートメールサービスのアプリを見つけ開いてみた。

「あったな」
 画面の最下位には、9月17日付けの通信が残されていた。相手は【山ちゃん】とある。スクロールして初回通信から確認した。

終天の朔

執筆の狙い

作者
fj168.net112140023.thn.ne.jp

長編ミステリー(ホワイダニット、社会派)の序盤です。お読み頂ければ幸いです。

コメント

コウ
p3004-ipngnfx01kouchinwc.kochi.ocn.ne.jp

凪さん
読ませて貰いました。

前回の遠き潮騒のもそうでしたが、長編推理小説の序盤だけで感想をくれとは厚かましい。しかもかなりの分量。食パンの耳だけ出されてこのパンがおいしいかと問われている気分です。笑

しかも前回の作品は、舞台も人物も拡散しすぎてあまり良い印象を持ちませんでした。これじゃ、読む人も少ないだろうなと思いながら、思案すること数十分。意を決して読み始めると、前に比べれば格段にいい。登場人物は重複しますが、話の進め方も謎の広げ方も上手だと思います。

ただ、作品の評価は未知数です。広げた謎を、どれだけ読者が納得する形で収束させられるか。やはりミステリーの肝は、そこに係ってきます。逆に言えば、謎を作ることはそれほど難しくありません。ここから先が勝負です。

長編の冒頭だけで感想を求めるということは、おそらく公募を念頭に書かれているのでしょう。ここからはそれを前提で気になった点をいくつか。
全編を読んでいないので断定はできませんが、書き過ぎの傾向があると思います。どうしても説明的な部分が、多く感じます。知っている、あるいは調べた情報をすべて書くのではなく、この物語に必要なものだけを取捨選択すればすっきりするのではないでしょうか。

あと凪さんはリアルを追求する作風のようなので、疑問に思った点を書いておきます。些細な部分もあるので、参考程度に読んでください。

『死体発見現場は地上6階建ての雑居ビルの屋上。そのフェンスの角に街灯が設置されている。そのビルには外階段があり、外部の者が自由に屋上まで行くことができる。』
まず、この設定に違和感を持ちました。

外階段は、主に防災上の観点から設置されます。私は、外部の者が屋上まで自由に行ける外階段を見たことがありません。もし人が落ちたりしたら、ビルの持ち主が管理責任を問われかねない。

フェンスの角の街灯も、ちょっと変ですね。通常街灯とは、道路等を照らす明かりを示します。しかし6階の屋上だと高すぎて地上を照らすのは無理。ということは、屋上を照らす照明と理解しました。おそらく外部の者に解放しているのなら、夜間は常時点灯して居るのでしょう。各階一フロアの小さなビルで、そんなことが可能でしょうか?

もうひとつ。
嫌疑を掛けていた斉藤には、アリバイがあった。その斉藤が、自宅とは別にマンションを借りていた。それだけで家宅捜索令状が取れるのか?

いずれにしろこの序盤に提示した謎を見事に収束をさせ、推敲を重ねて文章を整えたら秀作となるでしょう。是非最後まで仕上げて、公募に挑戦してください。陰ながら応援しています。

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コウ様へ
お付き合い頂き感謝申し上げます。
ありがとうございます。
既に、なろう、カクヨム等に投稿した作品です。読者様の本音の感想を聞きたく、こちらに出しました。

>そのビルには外階段があり、外部の者が自由に屋上まで行くことができる。
まず、この設定に違和感を持ちました。

指摘を受けた箇所ですが、三島駅前にある実際の雑居ビルのひとつを描写してあります。こなような建物もあるのですよ。築年数は30年以上としていますが、実際は40年以上かと思われます。

森嶋
om126179109020.19.openmobile.ne.jp

地の文の描写が説明的でしたね。
もっと感性をぶちこんだ描写をしても良いと思うんですが、ミステリーって説明的な文章が多いんですかね。
アガサクリスティとコナンドイルくらいしか読んだこと無いので分からないですが。
なんだか設定書を読んでいる気分になりました。

会話文は分かりやすくて良かったです。
でも読み手の興味を引きつけて、最後まで読ませると言われたら微妙なところです。

『被害者近くに落ちていた100円玉』という謎が入ってる点も良かったです。

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森嶋様、お読み頂き感謝申し上げます。

一人称(主人公目線)であれば、情緒溢れる作風は可能でしょうが、三人称で構成した場合は、前半は難しいかも……なんて言い訳ですね。
因みに、
「ミステリーにおいては合理性が尊重されるので、どうしても説明が多くならざるを得ない。密室やアリバイ、その他のトリック、犯罪環境などの絵解きが不正確であれば、ミステリーの合理性が損なわれ、アンフェアとなる。この矛盾をどのように克服すべきか。ミステリー作家の腕のふるいどころである。
(中略)
説明文も情緒的な文章の間にはさみ込むと、より一層効果を引き上げることがある……」
と、森村誠一先生が仰ってます。

このようなテクニックが、私には未だ備わっておりません💦(泣)

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追伸……

尚、この物語はプロローグ時点で物語の途中の描写をしております。構成的には、プロローグ場面にたどり着く迄に約6万文字を要し、その後のエピローグ迄に4万強文字を配しております。
7万文字を越えたところで真犯人を提示した、ホワイダニット系のミステリーに仕上げました。

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