作家でごはん!鍛練場
糸遊

蝶が羽ばたいて、そして。

 蒼と碧の境界線が混じり合って、ひとつの「あお」になって眼前に悠々と広がっている。雲ひとつ無い快晴、渡り鳥も飛行機すらも渡らずに緩やかに流れる風だけが波と戯れた。時折、飛び跳ねた魚が海面を叩いては水飛沫が真珠のように瞬く。
 ふと、影が差す。それは数刻、ゆらゆらと揺らめいた後に人の形に留まった。私は何も問わず、ただ、蒼碧の世界に沈んだまま。気紛れに吹く風が悪戯に私の髪を撫でて、乱すだけ。心地良い静寂に守れられた死――私の楽園。

 ――本当に?

 白いペンキが所々剥げたフローリングの床に揺蕩っていた影が、真っ直ぐに問う。そして一度、大きく揺らめいて形を変え始めた。翼を大きく広げた鳥に、日向で体を丸める猫に――木の枝をよじ登る芋虫に。私はただ、じっとその変わりゆく様を眺めているばかりだった。私の影ではない、何者かの影が足元で静かに崩壊と再生を延々と繰り返している。

 ざぁ……っ、

 力強い風が一陣、吹き込んだ。蒼碧の世界に真っ白な長方形が、不規則に散らばる。私の濁った眼が藍色の小さな舟を捉えた。それはそれは、小さく歪な舟で――可哀想な舟だった。一瞬、呼吸の仕方を忘れてしまったように息を詰まらせ、咳込む。その間に芋虫だった影が、大きな鯨になって小さな藍色の舟を呑み込んでしまった。
 凪いだ部屋を悠々と泳ぐ鯨に名残り雪のように舞い落ちる紙片が、胎児のように躰を丸めて哭く私を嗤う。冷ややかなフローリングに熱を持った涙が染み込んで、潔白を汚してゆく――もう、限界だった。涙と激情に滲んだ視界で捉えた、鈍色に輝く万年筆のペン先。

『忘れたくない』

 ころん。

 幼子のように泣き喚く私に寄り添うように転がって来た、傷だらけの万年筆。床に散乱する紙片を寄せ集めて、ひとつひとつ丁寧に整えて本来の姿を取り戻してゆく。優雅に泳いでいた鯨はいつの間にか、枝を抱き込んで眠る蛹の形になっていた。私はただ、その蛹を通して蒼碧の世界を眺めては万年筆を奔らせる。もう既に心は凪いでいた。

 蒼天と碧色に輝く海の滲んだ境界線に藍色の小さな舟が一艘、陽炎のように漂う。その幻想舟へ真っ白な蝶が一匹、ゆっくりと羽ばたいてゆく。そして、陽光を浴びて瞬く海面に真っ黒な蝶が墜ちていった。

蝶が羽ばたいて、そして。

執筆の狙い

作者 糸遊
tanet-103-170-124-025.tanet.ne.jp

自身の空想世界をそのままアウトプットした結果。
もっと、美しい表現を目指していきたいです。

コメント

日常莉来
203.78.230.240

読ませていただきました。
すごい、一種の詩の様なお話で、こんな歌の歌詞があったら聞き惚れてしまうだろうな、と思う様な、綺麗な世界が思い浮かぶ、本当に素敵な表現ばかりでした。
それに、よく空想世界をこんなぴったりな表現で表せたな、といい意味で思いました。
次は、このすごい表現力・語彙力を使って、いい物語を書いてみてください!
応援しています!

大丘 忍
p4183129-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

 この作品も、言葉の美しさに酔っているだけの文章だと思われます。小説の面白さは、言葉の美しさではなく、そのストーリー展開の面白さにあるのだと私は考えております。
 この文章で、読者をドキドキさせるような、起承転結のあるストーリー、つまり「小説」を書いては如何でしょうか。

えんがわ
p13244-ipngn4301souka.saitama.ocn.ne.jp

奇麗です。

自分はムードと言うか空気と言うかそういうの好きです。

それだけでは小説じゃないという人がいるかもしれませんけど、この絵画のような美しさには「世界観」が込められている気がします。

これから万年筆と紙で、どのような物語を書くのか。
確かにここからが本番なのでしょう……か。
それでも続きを書ききれるだけの、作者さんの力はあると自分は信じます。

傷ついた心を癒してくれる。そういう作品はもっとあっていい。
心地よかったです。
ありがとでした。

糸遊
tanet-103-170-124-025.tanet.ne.jp

日常莉来 様

ご清覧有難うございます。

>すごい、一種の詩の様なお話で、こんな歌の歌詞があったら聞き惚れてしまうだろうな、と思う様な、綺麗な世界が思い浮かぶ、本当に素敵な表現ばかりでした。

小説ではないのだろうなぁと思っていたので、目から鱗でした。
また、私自身が見えた世界に近いもの少しでもお届けできたみたいで、ホッとしております。

糸遊
tanet-103-170-124-025.tanet.ne.jp

大丘 忍 様

ご清覧有難うございます。

>この作品も、言葉の美しさに酔っているだけの文章だと思われます。小説の面白さは、言葉の美しさではなく、そのストーリー展開の面白さにあるのだと私は考えております。

私自身は、言葉や表現の美しさに重きを置いておりますので、大丘様とは「小説の面白さ」に対する解釈が違うのだなぁと勉強になりました。ストーリ展開の面白さ等に重きを置いている読者の心を掴むには、起承転結がしっかりと組み込むように尽力したいと思います。

糸遊
tanet-103-170-124-025.tanet.ne.jp

えんがわ 様

ご清覧有難うございます。

>自分はムードと言うか空気と言うかそういうの好きです。
>それだけでは小説じゃないという人がいるかもしれませんけど、この絵画のような美しさには「世界観」が込められている気がします。
>傷ついた心を癒してくれる。そういう作品はもっとあっていい。
>心地よかったです。

私も世界観やムードの色濃い(絵画みたいな)作品が好きで、理想です。
ほんの少しでも、伝わったようで嬉しかったです。有難うございます。

>これから万年筆と紙で、どのような物語を書くのか。
>確かにここからが本番なのでしょう……か。
>それでも続きを書ききれるだけの、作者さんの力はあると自分は信じます。

残念ながら、これでお終いなのですが。
もし、続きを思い浮かび映像を見ることが出来たら、続きを書いてみたいと思います。

飼い猫ちゃりりん
dw49-106-193-209.m-zone.jp

糸遊様
 初めまして。飼い猫と申します。
 最初に言っておきますが、芸術作品の評価なんて9割9分好き嫌いなんです。
 飼い猫は、数億円の絵画が粗大ゴミにしか思えないこともあります。
 率直な感想を述べますが、個人的? いや個猫的感想なのであまり気にしないでください。

 言葉とは、単語のみでも美しい場合があります。
 太陽。星。空。山。
 しかし、言葉は文章になり、作品になって初めてその機能を全開します。
 冒頭から力み過ぎで、美しい言葉を無理矢理詰め込んだごった煮状態。
「美しい言葉」同士が連携プレーしていなくて、かえって逆効果といった印象。
「ざぁ……っ」「ころん」では、いくらなんでも幼稚かなぁ。
 そこを描写しなきゃ不味くないですか?

 これ以上書くことは辛いのでやめます。

 大切なことは、まず普通の文章、日常会話で使うような普通の表現で、言葉の効果を確かめながら、簡単なストーリーで良いから書いてみることかなと思います。

 偉そうなこと言ってすみませんでした。(ペコリ)

 

糸遊
tanet-103-170-124-025.tanet.ne.jp

飼い猫ちゃりりん 様

ご清覧、そして率直なご感想有難う御座います。

ご利用のブラウザの言語モードを「日本語(ja, ja-JP)」に設定して頂くことで書き込みが可能です。

テクニカルサポート

3,000字以内