作家でごはん!鍛練場
天野雷

探偵そして殺し屋

第一章 探偵 不吉なベル
そもそもの始まりは雨の日だった。雨が降りしきる町を1人の探偵が歩いている。
周りが傘を差す中、探偵は傘を差さずにポケットに両手を入れ不機嫌な顔をしている。
その理由は探偵の目前を歩く一人の男にある。
探偵はその男を尾行していた。
その男には重度の女癖があり、妻がいるにもかかわらず他の女を見つけては遊び回っていた。
男の妻は旦那の様子がおかしいと、探偵に調査を依頼したのだった。
だが男は予想に反して、妻が想像しているような粗相は行っていなかった。
「このままいけば報酬は無しだな」
探偵は目を閉じながら、独り言をつぶやいた。
そして男が帰宅したことを見届け、探偵は自身の事務所へと帰ることにした。
歩きながら探偵は、コートの内ポケットから煙草を出し、ライターで火をつける。
その瞬間、前を見ていなかった探偵は一人の男とぶつかった。
「失礼」
探偵は煙草をくわえたまま、男に謝罪した。
「こちらこそ」
顔色があまりよくない男は探偵を見ずに歩き続けた。
その時、探偵の足元に何かがが映る。
探偵はかがんで、あるものを拾い上げた。それは茶色の財布だった。
「おい、落としたぞ」
探偵は男が歩き去った歩行へ声をかける、しかし男はこちらに気をとめる様子もなく歩き去ってしまう。
探偵は男を追いかけるか迷ったが、その財布をポケットに仕舞う。
その罪悪感からか、探偵は加えていた煙草を水たまりに捨て、事務所への帰路を急いだ。
雨で濡れた服が不快に感じ始めたころ、探偵は自分の事務所へ到着した。
ドアの前に立った探偵はポケットから鍵を出し、鍵口へ差し込んだ。
不快な音を立てながら、木製のドアは探偵を出迎える。
探偵は慣れた手つきで事務所の電気を点けた。
来客用の椅子に腰を掛けた探偵は濡れた帽子を机に置き、コートを脱いだ。
傘を持っていけばこんな目には合わなかった、探偵は濡れて色が変わったコートを見ながらそう思った。
探偵はコートを椅子に掛け、同じように濡れて不快な感触を持つ靴下を脱いだ。
シャツとズボンだけになった探偵の前には、以前の依頼人が報酬の代わりに置いていったウイスキーの瓶が映る。
酒をコップに注ぎ流し込みたい衝動に探偵は駆られたが、探偵にはまだやるべきことがあった。
探偵は電話機の前へ立ち、今回の調査の依頼人である女の電話番号へ掛けた。
「もしもし、どなたかしら?」
女の声は少し警戒した様子だった。
「俺だ、無実の旦那の調査を頼まれた探偵だよ」
探偵は煙草を探して、ズボンのポケットに手を入れながら答えた。
女は無言だった。
「近くに旦那がいるから聞かれたくないのか」
探偵は、煙草はコートの内ポケットであることを思い出した。
「ええ、そうしてもらえると、とても助かります」
女はやけによそよそしかったが、探偵は特に気にしなかった。依頼人は往々にして、探偵にこのような態度をとる。
「なら明日にでも調査結果を伝えに行く、報酬の話もその時に」
探偵は女の返事を待たず、電話を切った。
その後、コートの内ポケットから煙草を取り出す。
煙草に火を点け、煙を吐き出す。
雨が打ち付ける窓を眺めながら、探偵は煙草を味わった。
探偵は明日には女の家に行き、報酬の事で揉める事が安易に想像できた、そして気が重くなった。
「今日の仕事は終わりだな」
探偵がウイスキーの瓶を手に取ったところで玄関ベルの音が鳴り響く。
しばらく探偵は思案した、あまり良くないタイミングだ。
厄介事でないことを祈り、探偵は瓶を元の場所へ戻すと、ドアへと向かった。

第二章 殺し屋 最悪な仕事
殺し屋は憂鬱な気分でベットに座っている。
昨夜降っていた雨は既に上がっていた。
殺し屋が気がかりなのは昨夜落とした財布の事だった。
おそらく、昨夜男とぶつかった際に落としたのだろう。
「最悪だ」
探偵はまだ暗い部屋の中で呟いた。
財布を落としたことが原因なのか、昨夜の仕事はひどいものだった。
殺し屋は昨夜の仕事を思い出す。
標的はある男だった、妻がいるにも関わらず女遊びをやめることができないどこにでもいるような男だ。
それだけならば、殺し屋の仕事の標的にはならないが手を出した女の1人がまずかった。
哀れな男が手を出した女は、俗にいう権力者の妻であった。
妻の不貞に気付いた権力者は殺し屋の組織に依頼をしたのだ、殺し屋の仕事を。
無機質なベルの音が部屋に鳴り響く、殺し屋は静かに受話器をとる。
「詳細を」
電話口から標的の情報を聞いた殺し屋は、仕事の準備に取り掛かった。
仕事用の引きだしから、銃を取り出しメンテンナスを行う。
殺し屋は慎重だった。それはこの仕事をする人間なら当然のように思えるがそうでもない。
「準備だ、この仕事でそれが最も重要だ」
殺し屋は師匠から昔教えられたことを復唱し、銃を組み立てる。
銃を握り、スライドを引く。金属がこすれる音が部屋に響き渡る。
ワルサーPPK、ドイツ製のセミオートマチックだ。サイズ、性能共に殺し屋の好みだった。
殺し屋は弾倉を取り出し、銃へ装填する。
何もない空間へ銃を構え、脇のホルスターへしまう動作を何度か繰り返す。
これまでに何度も繰り返した動作に狂いはない。
殺し屋は脇のホルスターに銃を収め、クローゼットからジャケットを取り出し袖を通す。
ネクタイを結び、鏡で確認をする。財布をポケットに入れ、腕時計の文字盤を見る。
殺し屋は時を待った。銃、財布、仕事に必要な物は揃った。
時間だ、殺し屋は玄関のドアを開け、仕事へ向かった。
ドアを開けると雨が降っていた。この仕事にとって雨は好都合だった。
殺し屋は雨も気にせず、標的の自宅へと足を進めた。
殺し屋は傘を持たずに町を歩く。
その目前に、彼と同じく傘をささずに歩く男の姿を捕らえる。
男の茶色いコートは雨に濡れ、一段と色が深くなっている。
殺し屋がその男とすれ違おうとした際に、煙草をくわえた男と肩がぶつかる。
「失礼」
男は不愛想に煙草をくわえたまま、殺し屋の顔を見た。
「こちらこそ」
殺し屋は顔を見られたことを不快に思い、男の元を足早に立ち去った。
標的の自宅が近くなり、殺し屋の意識は仕事だけに集中する。
無駄な情報は一切排除され、殺し屋の五感は仕事を果たすためだけに機能していた。
殺し屋は標的の元へと到着する。
見上げると、かすかに窓から明かりが漏れている。
殺し屋は玄関のベルを鳴らした。
 
第三章 探偵 雨中の依頼人
探偵がドアを開けると、そこには1人の女がずぶ濡れで立っていた。
「中に入れてくれないかしら」
女は濡れた髪をかき上げながら、探偵を見据えてそう言った。
「そこで待ってろ、タオルを取ってくる」
女の髪から垂れた水滴が、カーペットを濡らすことに探偵は耐えられなかった。
「髪を拭いてからこっちへ来てくれ」
探偵は女にタオルを投げ渡し、椅子に座った。
しばらくしてから、探偵は髪を拭いた女と向かい合って座った。
「コーヒーでも出した方がいいかな」
探偵は煙草に火を点けながら、女を見据えた。
「助けてほしいの、あなた探偵でしょ?」
これはまた面倒な事じゃないかと疑った。
「問題なら警察か教会に行くべきだ、こんな探偵のところではなく」
「警察は信用できないし、私は宗教は信じない」
「宗教はともかく、警察を信用できないとはな、どんなトラブルなんだ」
女は神妙な顔つきで話し始めた。
「私も、いまだにこれが本当の事だなんて信じられない」
重たい沈黙が流れる。
「私の彼が殺されたの」
探偵の疑惑は確証に変わった。
「なおさら警察の元へ行くべきだ」
「ただの強盗や人殺しじゃないのよ、あれはそう、殺し屋よ」
ずぶ濡れの依頼人に今度は殺し屋、探偵は自分の耳を疑った。
「あんたの言うことが本当なら、彼の死体がどっかに転がってるわけだ」
「信用できないなら、住所を教えるわ」
女は机の上にあったペンを掴み、積まれていた書類をメモがわりに住所を書いた。
「ここよ、ここで彼は殺されたし、私も危険な目にあった」
探偵は女が書いた住所を見る。驚きを隠しながら問いかける。
「お前の彼はダニエルか?」
探偵の脳内に危険信号が灯る、ただ同時に抑えられぬ自分の性分が顔を出す。
「そうよ、何であなたが彼の名前を知ってるの?」
探偵は長くなった煙草の灰に気づく、そしてそれをそのまま机に落とした。
あの女癖が悪いだけの男が殺された、それも殺し屋に。
「確かめてみなくては、何とも言えないな」
探偵は椅子から立ち上がり、濡れたコートを羽織った。
「案内するわ」
女が立ち上がった際に、机の上の書類の山が崩れた。
「ここで待ってろ、1時間もしないで戻る」
探偵は、クローゼットの棚を開ける。
そこには白い布に包まれた、拳銃が1丁鎮座している。
マグナム44、世界最大の威力を持つと言われるリボルバー。
探偵はシリンダーに弾丸が装填されていることを確認し、コートのポケットへ入れる。
「机を片付けておいてくれ」
探偵は呼吸を整え、ドアを開ける。

第四章 殺し屋 いつも通りに
「誰かしら」
殺し屋を出迎えたのは不愛想な女だった。
「こんな時間に申し訳ない、私はダニエルの知り合いでして」
殺し屋は女が開けたドアに手をかけ、続けた。
「ダニエルと話したいことがあるですが、呼んでいただけますか?」
「わかったわ、ここで待っていて」
女は怪訝そうな表情をしながら殺し屋の方を見もせずに言った。
女が階段の上へ視点を向けたその瞬間、殺し屋は女の首へ手を伸ばす。
女はひどく驚愕したが、なす術はない。
しかし、殺し屋が力を籠めれば籠めるほど、女の反応は弱弱しくなる。
女の意識がないことを確認した殺し屋は階段を上がり、2階へと向かう。
脇のホルスターからワルサーを引き抜く。
そして、ドアから光が漏れている部屋の前へ立ち、ノックする。
慌ただしい足音が、鳴り響いた後にドアは開いた。
汗ばんだ男が上半身に何も着けず、そこに立っている。
「誰だお前」
男が行動を起こすよりも早く、銃弾は眉間を貫いた。
白だった部屋の壁紙は、一瞬で血で染まる。。
殺し屋は、倒れた男の胸部に立て続けに銃弾を放つ。
仕事は終わった。
殺し屋は一階で気絶している男の妻を殺すために階段を下りる。
仰向けに倒れる女の前に立ち、殺し屋は銃弾を放つ。
女の体がかすかに跳ねる。殺し屋はホルスターにワルサーを収めた。
殺し屋は、女の死体をまたぐとリビングへと向かった。硝煙の香りがほのかに鼻腔を擽る。
殺し屋の目に、受話器が外れている電話機が映る。
受話器に耳を近づけたが、聞こえるのは通話終了の音のみだった。
殺し屋は受話器を掴み、電話機へ戻した。
溜息をつくと、殺し屋は掃除屋へ連絡するため、ポケットから携帯電話を取り出す。
掃除屋の電話番号を打ち込み、通話ボタンを押す。
殺し屋と同じ組織に属する掃除屋の役目は殺し屋の仕事の後始末をすることだ。
死体の回収から痕跡の削除を行う。
殺し屋が仕事を終えた後に掃除屋に引継ぎをするのが組織のルールだ。
「終わったのか?」
掃除屋はこもった声で問いかけた。
「あぁ、後は頼む」
殺し屋はそれだけを告げると通話を切った。
携帯電話をポケットにしまうと、殺し屋は外に出るため玄関へ向かう。
そこで殺し屋は違和感を覚えた。
ポケットに入れたはずの財布がないことに殺し屋は気づく。
この仕事にミスは許されない、殺し屋は激しく動揺した。
自身に冷静になれと言い聞かせる。そして男とぶつかったことを思い出す。
あの男を探さなくては、茶色いコートの男を。
殺し屋は家の外へ出て、携帯電話を取り出すと電話を掛けた。
相手の応答を携帯電話を耳に当て待っていると、家の中から物音が聞こえたような気がした。
殺し屋は自身が冷静でないことを悟り、雨の中傘もささず電話先の応答を待った。

第五章 殺しの現場
探偵は小降りになった雨の中を歩いていた。
銃を携帯するのはいつぶりだろうか、少なくとも最後に銃を使ったのは5年前になる。
探偵の脳裏に忌々しい記憶が蘇る。
殺し屋、探偵はその存在が映画や小説の中だけのものだとばかり思っていた。
あの事件が全てを変えてしまった。探偵の頭に重たい霧がかかる。
そんなことを考えていると、探偵はダニエルの自宅へと到着した。
家の外には明かりが漏れている。
この中で人が殺されているなど考えたくもなかった。
探偵はドアをノックする、だが中から応答はない。
どうせ寝ているだけだろう、探偵は鍵がかかっていることを望み、ドアノブを回した。
弱くなりつつある雨音の中、ドアは甲高い音を立てながら開かれた。
1階は明かりが点いておらず、暗闇だった。
「誰かいないか」
探偵の呼びかけは暗闇に虚しく響くだけだった。
探偵は電気のスイッチを探すため、ライターの火をつける。
そのまま、長い廊下を抜け探偵はリビングへと向かった。
リビングの入り口で電気のスイッチを見つけ、それを押す。
部屋に明かりが点く、そこは何の変哲もないリビングであり、そこに荒らされた形跡はなかった。
探偵は玄関に戻り、2階へと向かう。
階段に配置されているカーペットに濡れた足跡が残る。
階段を上がった探偵は、家の外から確認できた明かりの正体に気づく。
ドアの下部から光が漏れている。
探偵はポケットの中でリボルバーを取り出し、ドアを開けた。
探偵の目前に血しぶきによって染められた壁が映る。
探偵が唖然としていると、後頭部に冷たく固いものが押し当てられる。
「動くな」
ひどくくぐもった声は探偵の危険信号を強く鳴らす。
これは普通の事件じゃないな。
探偵は両手を挙げながら自分の性分を恨んだ。

第六章 女 最悪の火遊び
それは地獄のような風景だった。
女はベッドの下で必死に息を殺していた。
ベッドの下からでも、赤く染まった壁や、絶命した男の死体を確認できる。
これは悪夢以外の何物でもない。
それは一瞬の出来事だった。
男は一夜の関係の為に女を自宅へ招いたのだ。
男の容姿は女の好みであったため。女はその誘いを受けた。
1階にいる妻に悟られないように、行為に及ぶのは思いのほかスリリングな体験だった。
行為が終わり、着替えも済んだ後、男女の耳に階段を上がる音が聞こえた。
隠れろ、男の声を聞き、女はベッドの下に身を隠した。
女がベッドの下に入り、呼吸を整えていると男はドアを開けた。
「誰だお前」
それが男の最後の言葉だった。
銃声が響き、男の体は倒れた。
地面に倒れた男の体に2発、3発と銃弾が浴びせられる。
女はその光景が現実のものだとは思えなかった。
ただ掌で口を押え、目をきつく閉じる。
しばらくすると男を殺した侵侵入者が階段を下りる音が聞こえる。
女は静かにベッドの下から這い出た。
その際に男の体から流れた血が顔や手につき、女はひどく動揺した。
早くここから逃げ出さなくては、女は部屋の窓の鍵を慎重に開けた。
窓の外には雨が降っていた。
女は逃げる為に窓の外に頭を突きだすが、その時この部屋が2階であることを思い出した。
しかし、飛ぶ以外にこの地獄から抜け出す方法はない。
1階から聞こえた銃声が女の決意を後押しした。
女は窓枠から体を乗り出し、斜めになった屋根に足を掛ける。
雨の性で女の体はひどく冷たくなっていく。
窓枠から手を放した瞬間、女の体はバランスを失った。
倒れた矢先、女の体はコントロールを失い、斜面を降下する。
女は必死に掌に力を籠め、屋根の出っ張りに捕まることに成功する。
しかし、女の握力は体を長時間支えられるほど、強くはなかった。
落ちる瞬間に、男の死に顔が脳裏によぎる。
視界が暗闇に包まれる。
だがそれは長くは続かず、女は目覚める。
落ちる際に、減速したおかげで体はまだ動く。
女は雨のおかげか頭は冷静だった。
行先は決まっていた、この町には探偵がいる、頼れるのはあの男しかいない。
女の体についていた血は雨によって洗い流された。

第七章 殺し屋 逃げるか死ぬか
組織への報告が終わり殺し屋は携帯電話をポケットへしまった。
そして帰宅し、服を着替えることもなく、ベットへと沈んで行った。
翌朝、目覚めた殺し屋は、自身の財布へと意識を巡らした。
第一あの財布には殺し屋へと繋がるものは一つとしてない、中に入っているIDも身分証も偽造されたものだ。
確か職業は獣医、妻と二人の息子がいる平凡な男と言ったところか。
ただ、財布には殺し屋の行きつけの店の名刺が入っていることを思い出す。
しばらくはあの店には行けないな、そう呟くと殺し屋はシャワーを浴びるためベットから立ち上がった。
昨日の雨に打たれ、冷たくなった体がシャワーを浴びることで蘇る。
殺し屋の脳は緊張から解放された。
シャワーを浴び、体をタオルで拭いていると電話のベルが鳴る。
殺し屋の体が一瞬こわばる。
体を拭き、下着を身に付けた殺し屋は慎重に受話器をとった。
「失敗したな」
重たい声が、再び殺し屋の脳を緊張させる。殺し屋は目の焦点が合わなくなる。
「どうゆうことだ」
殺し屋は毅然とした態度をとった。
「掃除屋が殺された」
掃除屋だと、あいつを呼んだのは仕事が済んだ後のはず。
そこまで思い返して、殺し屋は一つの音を思い出す。
財布のことばかりが気がかりで、忘れていた懸念。
報告の電話の際に、わずかに聞こえた異音。
あそこにはまだ誰かがいた、殺し屋が見落とした誰かが。
電話口から流れる音声はもはや聞こえない。
探し当てて殺さなくては、仕事を全うするために。
「まさか貴様がこんなミスをするとはな」
電話口に意識を戻した際に辛うじて聞き取れた。
「仕事はやり遂げる、チャンスをくれ」
「貴様には失望した、あいつと同じように死んでもらう」
あいつのように?殺し屋の頭に疑問が生じる。
ただ大音量で鳴り響く危険信号だけが、殺し屋の体を動かした。
お前には死んでもらう、それならば別の殺し屋が来ていてもおかしくない。
机に置かれた銃を手にとり、薬室に弾が装填されていることを確認する。
もし来るならば玄関、もしくは窓か。殺し屋は拳銃一丁では心許なく感じた。
殺し屋がもう一丁の銃を取り出そうとしたその瞬間、銃声が鳴り響いた。
殺し屋は近くにあったテーブルを倒し、それを背に銃を構えた。
銃声が止む、微かに聞こえる足音から人数はおよそ3人だと殺し屋は推測した。
「出てきやがれ」
侵入者の内の一人が声を荒げる。
割れたガラスを踏み締める音を頼りに殺し屋は位置を探る。
「まさかあれで死んだのか?」
侵入者の注意が薄れたことを見計らい、殺し屋はテーブルから身を出し銃を構えた。
殺し屋の目に躊躇いはない。
銃声が響く、男がガラスの上に倒れる。
その音を聞きつけた二人がこちらに向かってくる足音が聞こえる。
こちらが完全に不利。殺し屋は小さく息をこぼした。
ここから逃げなくては。
しかし、殺し屋の行き先からは2つの足音が近づく。
廊下の曲がり角から男が姿を現した瞬間、殺し屋は足に向かって2回、発砲した。
1発が男の太腿を貫いた。倒れた男は苦しみに悶えうめき声をあげた。そこを撃たれればまず助からない。
2人目の男は倒れている仲間には目もくれず、曲がり角から体を出した。
男は矢鱈滅法に銃を撃つ。
殺し屋は静かに相手の弾切れを待つ。
男の銃から、銃声ではない空虚な音がしたことを確認する。
相手の練度が低いことを殺し屋は悟る。
殺し屋は男の頭を撃ち抜いた。
血飛沫が廊下を染め上げる。殺し屋は地面に倒れ、太腿から血を流している男が握っている銃を蹴飛ばす。
そしてその男を見下ろし、銃を構える。
「誰の命令だ」
「知るかよ」
殺し屋は男の眉間に銃弾を打ち込んだ。
頭蓋から溢れ出た脳が床に溢れる。このままでは自分がこうなる。
あの音がなんだったのか、何故掃除屋が殺されたのか。
殺し屋には銃と強い酒が必要だった。

第八章 探偵 好奇心は探偵を殺す
「お前は何者だ」
探偵は背後から銃を突きつける男に向かいそう言った。
部屋の中には窓を打ち付ける雨音だけが響く。
「それはこちらの台詞だ」
男の声は低く、マスクか何かでくぐもっているせいで聴き取りにくい。
「俺はただの探偵だ、依頼人に報酬の話をしに来た」
探偵は男を刺激しないよう、静かにそう答えた。
すると男は片手で探偵の脇腹に触れた。
「今時の探偵は銃を携帯するのか?」
男の銃が鈍い音を立てる、探偵にはそれが銃のハンマーを下ろした音だとすぐにわかった。
「間違っても引き金を引くなよ」
探偵は静かに窓を眺めながらそう言った。
「俺を殺せば厄介なことになる、後悔するぞ」
「知ったことか」
窓を打ち付ける雨はその勢いを増していく。
男のマスクから漏れる呼吸音が次第に激しくなる。
探偵は両手をあげたまま静かに呼吸をする。
二人の男の呼吸音だけの部屋の中に、予期せぬ来訪者が現れた。
それは激しい音と閃光を伴った。
雷だ。それも相当近くに落ちた。
男の意識が一瞬自身から途切れたことを探偵は見逃さなかった。
素早く振り返ると男の銃を掴み、手首を捻った。
男は銃を落とすまいと力を込める。その腹を目掛けて探偵は膝蹴りを放つ。
男は銃を落とし、前屈みの体勢で倒れる。
探偵は男の髪を掴み、上を向かせる。
「形勢逆転だな」
男の呼吸音がさらに激しくなる。
探偵は男を立ち上がらせ、壁に押し当てる。
「ダニエルも夫人もお前がやったのか?」
男は吐き出すように言った。
「やれよ」
探偵は男がつけていたマスクを引き剥がす。
防塵マスクのようだが、男の吐瀉物のせいでもはや使い物にならない。
「お前まさか殺し屋か?」
探偵の問いに対し、男は大声で笑いだす。
探偵は男の顔を殴りつける。
鈍い音が部屋中に響く。マスクごと殴りつけた為、拳が痛む。
「これで少しは話す気になったか?」
男は探偵を見据えたまま、気色の悪い笑みを浮かべる。
まるでトランプのジョーカーだな。探偵は薄気味悪いものを感じた。
男が一瞬顔をしかめる。
探偵は何かを噛み砕く音を聞き逃さなかった。
こいつは秘密を守るために死ぬ気だ。
探偵が男の口を開こうと手を伸ばした時には男の口脇から茶色い泡が飛び出す。
男の目はすでに探偵を見ていなかった。
探偵が手を離すと、男は糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
これはまともな事件じゃない、探偵は自分の突飛な思考があながち間違いじゃないことを悟った。
男の持ち物を探っても、財布以外は薬品や掃除用の道具だけだった。
しかし探偵の目にその財布が止まる。
これと似たものをどこかで見たことがある。
顔色の悪い男。
まだ朧ながら点と点が繋がる。
探偵は、ポケットから電話を取り出し、一件電話をかける。
「お前から電話なんて珍しいな」
電話先の男は、機嫌よくそう言った。
「力を貸してくれ、俺の目の前に死体がある」
男は少しの間無言だった。
「すぐに行く、場所は?」
探偵は住所を電話口で教える。
「一人で来てくれないか?」
「わかってる」
電話口から車のドアを勢いよく閉める音がし、電話が切れる。
探偵は電話をポケットにしまうと、窓を眺めた。
この雨はいつ止むのだろう、探偵はそう思った。
探偵の目はそこで、窓枠がかすかに湿っていることを見過ごさなかった。
探偵は窓を開け、庭を見下ろす。
そこには真っ赤なドレスを着た女が横たわっていた。自身の血で赤く染め上げたドレスを。
死体が二つになったな。その後探偵は気づく。
依頼人の女は一体何者だ?
雨のせいか、探偵の古傷が痛む。
探偵には時間と、強い酒が必要だった。

第九章 掃除屋 狂気と隣り合わせ
男は電話を待っていた。
仕事用のバンの運転席で腕を組み、目を瞑っていた。
今回の現場は一軒家、外装を見るに随分と金を持ってそうだ。
ただ、この家の中で行われていることを想像すると嫌になってしまう。
男は左腕につけた腕時計に目をやる。
「そろそろだな」
助手席に置いてあった仕事用の携帯電話を拾い上げ液晶を眺めていた。
それと同時に画面に着信が入る。
「終わったのか」
男の声はマスクをつけているせいで、自分でも聞き取れる自信がない。
「あぁ、後は頼む」
電話口の男は静かにそう言い電話を切った。
さて仕事の時間だ。男はバンを降り、助手席から荷物を取り出す。
男の仕事は後始末、電話口の男が殺し屋なら自分は掃除屋だ。
裏口に止めたバンの鍵を閉める。
あまり派手にやらかしてないといいが。
掃除屋は庭を抜け、裏口から家へと入った。
左手に持った掃除道具も重いが、それ以上に懐中の銃が重い。
掃除屋の仕事で使う機会はないが、仕事中は携帯する決まりだ。
リビングを抜け、階段下に倒れている死体が目に入る。
女か、掃除屋はため息をついた、
今回の死体は一つのはずだが、これじゃ道具が足りないな。
掃除屋は死体袋を取り出すとジッパーを開け、死体をその中にいれる。
死体の胴体には穴が二つ、そこから出血もしていた。
死体袋のジッパーを閉じると、道具を使い、血を丁寧に拭き取り、その上から薬品をかける。
床にも穴が開いている。
これは車に一度戻らないとな。掃除屋は代わりのカーペットをかけ応急措置とした。
肝心の男の死体を探すため、掃除屋が階段を上がろうとしたその時庭から何かが落ちたような音がした。
掃除屋は階段から降り、リビングの窓から庭を見る。
何も見えない、いや女だ、女が倒れている。
これは緊急事態だ。
掃除屋は、迷う。
これまでの仕事は血を拭き取るだけで済んでいた。
これは指示を仰がねばならない。
しかし女は今にも立ち上がりそうだ。
目撃者は消す、これが原則だ。
掃除屋は、懐中から銃を取り出す。
確か名前はグロックだったか、スライドを後退させ、銃弾が装填されていることを確認する。
女はふらふらと立ち上がり、歩き出した。
迷っている時間はない、掃除屋は裏口の戸を開け外に出る。
「足幅は肩幅、両手でしっかりと握り、標準機は標的の動きを予測する」
掃除屋は、組織から教えられた内容を復唱した。
幸い落ちた衝撃のせいか女の動きは酷くゆっくりだった。
女の頭に標準を合わせ、引き金を引いた。
映画で聴くような、風船が弾ける音ではなかった。
トマトが潰れるような、鈍い音とともに女は再び倒れた。
掃除屋は銃を持ったまま、女の元へ向かう。
右耳の上部に穴が開き、血が噴き出ている。
掃除屋は吐き気を抑えた、死体が増えてしまった。
自分が掃除すればいい、自分の始末は自分でつければいい。
歯を食いしばりたくなったが、それはできなかった。
掃除屋の奥歯に仕込まれた自殺用の薬、それがこの仕事の異常性を物語る。
掃除屋は家へと戻り、二階へ上がった。
半開きのドアの前に立ち、ドアを開ける。
掃除屋の目前に口を開け倒れた男の死体が映る。
死体の眉間には生々しい穴がぽっかりと開いている。
これが本来の標的だったのか、掃除屋は死体から視線を外し壁を見る。
壁一面に広がった血飛沫、これの処理は骨が折れる。
死体袋に男の死体を入れ、玄関まで運ぶ。
男と女の死体袋を引きずり、バンまで歩く。
掃除屋は酷く冷静だった。異常なことには早く慣れてしまった方が楽だった。
バンのトランクに死体袋を2つ積み込むと、壁の掃除の為の道具を持ち、家へ戻る。
血飛沫が張り付いた壁の前に立つと、掃除屋の耳に男の声が聞こえる。
「誰かいないのか」
掃除屋の身が強張る、銃声が誰かに聞こえたのか?
一階を歩く音がかすかに聞こえる。
まずい、誰にも見られずに処理することがこの仕事の絶対条件だ。
しかし、掃除屋にそれ以上のことを考える時間はなかった。
足音が階段を上がる。
掃除屋はドアの裏に隠れ、銃を取り出す。
足音が次第に近づく。
掃除屋は自身のマスクのせいで呼吸が酷く困難になる。
茶色いコートを着た男が部屋に入る。
掃除屋は覚悟を決めた。
銃を男の後頭部に構え、尋ねた。
「お前は何者だ」
掃除屋は自身が仕事の異常性に飲まれたことを悟った。

第十章 女 それはまるで煙のように
女は誰もいなくなった事務所のドアに腰をおろし、机の書類を調べていた。
まさかここまでうまく行くとは想定外だった。
あの探偵は厄介ごとに首を突っ込むことが好きらしい。
ただ女の目当ての品は見つからない。
その時女の携帯電話が振動した。
携帯電話を取り出し、応答ボタンを押す。
「緊急事態だ」
「一体何があったのかしら」
女は電話越しに男が酷く焦っていると推察した。
「ヘマをした、あんたに厄介をかけるかもしれない」
「何があったの」
男は極めて完結に自身の置かれた状況を説明した。
「つまり、あなたは何者かに陥れられたってことかしら」
女は肩と首で電話を固定し、机の上の書類を整理していた。
「多分な、あんたの助けが欲しい」
この男は酷く優秀だ、だからこそ自分が目をつけていた。
「いいわ、今すぐと言いたいところだけど、生憎今仕事中なの明日の夜でいいかしら?」
書類を整理していた女の手が止まる。
そこに茶色い財布が一つ。見つけた。
「俺がそれまで生きていれば天国に行く、あんたも来てくれ」
天国、一見男がジョークを言ったように聞こえるが、それは男の行きつけのバーの名前だった。
「あなたは死んでも地獄行きだものね、わかったわ」
女は一呼吸おき、呟くように言った。
「私に会う前に死なないでね」
「祈っててくれ」
電話が切れる。
女の目前には電話中に目に入った財布が置かれている。
この財布に刻まれた烙印は組織のものだ。
女は組織の人間ではない、ただこの烙印は幼い日から頭に刻まれたものだ。
女は財布をポケットにしまい、事務所を後にする。
どこかで雷が落ちる音が聞こえる。
一瞬の光が女の影をより一層濃く変えた。

第十一章 探偵 灯台はどこへ
探偵はこの異常な事態を理解するため、必死で頭を動かしていた。
そこにブレーキ音を響かせ、一台の車が止まる。
男が車を降り、探偵の前に歩み寄る。
「お前から連絡が来る時はいつも最悪な状況だな」
冗談を言うような口調で、男は言った。
「お前の仕事を増やして悪かったな」
探偵はタバコに火をつけ、煙を吐き出しながら煙草の箱を男へ差し出す。
「一本吸うか?迷惑料だ」
「タバコはやめたんだ、それに迷惑だなんて思っちゃいないさ」
探偵は差し出した煙草をポケットに戻した。
「状況を教えてくれ」
スーツ姿の男の顔は警官の顔になっている。
「死体が2つ、本来なら4つないと勘定が合わない」
「なぜわかる?」
「ここは俺の依頼人の家なんだ」
警官はため息をつき、探偵を見据える。
「お前は本当面倒ごとに首を突っ込むのが好きなんだな」
「俺の性分なんだよ、お前も知ってるだろ」
探偵は煙草を投げ捨てる、火種は路上の水溜まりですぐに消えた。
「2回で死んでるマスクの男、あいつはまともじゃない」
探偵の脳裏に泡を吹き死んだ男の顔がよぎる。
「死体の調査をしてほしい、頼めるか?」
「あぁ、友人の頼みだからな」
警官は手袋をはめ、うなづいた。
「俺は確かめなくてはいけないことがある、ここは任せる」
探偵は、女の正体を確かめるため、事務所へと急いだ。
警官が呼んだであろう、パトカーのサイレンが遠くで聞こえる。
探偵は事務所のドアを開ける。中は無人だった。
女がつけていた香水の匂いがかすかに臭う。
机の上の書類は不気味なほど綺麗に整頓されていた。
探偵は椅子に腰掛け、煙草に火をつけ頭を回転させる。
女に騙されたことは1度や2度じゃない、探偵の脳裏に嫌な記憶がよぎる。
ただあの女はあの家で起きた惨劇のことを知っていた。
依頼人すら普通じゃないのか。
探偵は自身の持っている情報を整理する。
死んでいたはずの依頼人、自殺したマスクの男、財布を落とした顔色の悪い男。
探偵はハッとし、机を見渡す。
整理された書類の山を崩し、あるはずの財布を探す。
やられた、財布がない。唯一の繋がりを奪われた。
残りの煙草を机に押しつけ消す。
探偵は頭を抱えた。
銃を置き、コートを脱ぎ捨て探偵はウイスキーを煽った。
探偵の意識はアルコールの海へと沈んでいく。
探偵には進めべき道を示す灯台が必要だった。

第十二章 殺し屋 誇り無き者
今朝の急襲を切り抜け、殺し屋は町を歩いていた。
殺し屋の精神は異常なまでに昂っている。
本来であれば、気にすることもない通行人の視点、手の動きに注意が向く。
殺し屋はある場所へと向かっていた。天国へ。
そこは今の殺し屋にとって、最も天国に近かった。
殺し屋にはホルスターに収まったワルサーPPKと腰へ収めた襲撃者が持っていた銃の重さだけが確かだった。
奴らが持っていた銃はベレッタ92F 、アメリカ陸軍のサイドアームにも選ばれたイタリア製の自動拳銃だ。
もちろん殺し屋も扱いには慣れている。
幸いシャワーを浴びれたことで、殺し屋の頭はまだ動いている。
裏路地へと入り、尾行がいないことを確認する。
尾行はいない。
安堵した矢先、殺し屋は異様な気配を察知する。
同業者だ、殺しの匂いが鼻腔に届き、反射的に殺し屋は脇のホルスターから銃を抜く。
男は悠然と歩きながら殺し屋の前へ姿を現した。
腰には二丁の拳銃が刺されている。
「よぉ、人気者」
男は銃に手をかけず、殺し屋を見据える。
殺し屋は返事をすることなく、引き金を引こうとした。
「やめておけ、まだ撃鉄を起こす時じゃない」
その男の一言は、殺し屋の指を止めた。
「俺を殺しに来たんじゃないのか」
殺し屋は男から標準を離さずに言った。
「あぁ、確かにそうだ、あんたを殺しにきた」そして男は続ける。
「今は品定め中だ、俺の銃であんたを殺す価値があるかどうかな」
男は口元を歪めて笑うと、胸ポケットから煙草を取り出し火をつけた。
殺し屋はこのような男を知っていた、この業界では自身の絶対的な掟に従う者がいる。
かつて師匠がそうだった。
男は白髪まじりの髪をかき揚げ、無精髭を撫でながら話を続けた。
「コードネームはジョン、あまり大きな仕事はやらないが、腕には定評があったみたいだな」
「あった」その一言が殺し屋は気に入らなかった。
「どうすれば、あんたは俺を殺すんだ?」
殺し屋は男の目を見てそう言った。
瞬間、殺し屋の右耳を破裂音が襲う。
振り返ると、殺し屋の後ろにあった壁に銃弾の後が付いている。
「集中を途切れさせるなよ、それとお前の質問など聞いていない」
男の腰の銃はすでに抜かれていた、細い硝煙がそれを物語る。
早撃ち、殺し屋の神経が研ぎ澄まされる。
「お前がいい女なら、この先のバーで一杯おごるんだがな」
男は咥えていた煙草を落とすと、足で踏みつけ火を消した。
「よし決めた、お前もあの男の弟子なら殺す甲斐があるってもんだ」
「できんだろ?早撃ち」
殺し屋は師匠から多くのことを教わった、早撃ちもその一つであり、その技術は何度も殺し屋の命を救ってきた。
「俺の銃と、あんたのリボルバーじゃ勝負にならないな」
リボルバーを携帯する殺し屋はほぼいない、理由は明白だ、装弾数、連射速度そのどれをとっても自動拳銃が上回るからだ。
しかし、唯一リボルバーが勝る点があるとすれば、早撃ちだろう。
「それもそうだ、そのワルサーじゃ相手にならんな」
「腰に入れてるのを合わせてもだ」
撃つしかない、殺し屋の指に力が籠る。
「ただ、こんな状況でお前を殺して何になる?俺がほしいのは名誉だ」
男は腰の左右のホルスターから銃を引き抜き、スピンさせる。
「右の銃はジョンドゥ、左の銃はメアリードゥどちらも名もなき死人だ」
「お前はどっちを選ぶ?」
殺し屋はこの男が銃に小細工をするような男ではないと確信していた。
「ジョンだ」
男は銃のスピンをやめ、右手を殺し屋の方へ差し出す。
「そうだ、お前はジョンだな」
殺し屋は、ワルサーをホルスターへと戻し、男の右腕から銃を受け取る。
SAA、通称ピースメーカー。
西部開拓時代に保安官が平和を作ったと言われる銃で、殺し屋同士が殺しあうなど皮肉な話だ。
「ガンベルトまでは貸してやれねぇな」
殺し屋は男を一瞥し、リボルバーのハンマーを半分倒し、シリンダーに弾が込められていることを確認した。
ハンマーに指をかけながら、ハンマーを元の場所へ戻す。
右腕を腰まで伸ばし、肘を若干曲げ構える。
「立ち方は完璧だな」
殺し屋と男は向き合う。
神経が逆立つ、開始の合図はなく、立会人もいない。
耳には自身の心臓が脈打つ音だけが聞こえる。まだこれを止めるわけにはいかない。
二人の男を包む静寂を1発の爆発音が引き裂いた。
今だ。
殺し屋は左手でハンマーを倒し、引き金を引く。
男も同様に引き金を引いた。
銃声が響き、再び静寂が訪れる。
男が銃を落とし、膝から崩れ落ちる。
「やるじゃねぇか」
殺し屋は標準を男の頭に合わせる。
「お前の負けだ、カウボーイ」
男はそれを聞くと大声で笑い始めた。
「見事な早撃ちだったぜ」
男の頭は殺し屋の放った銃弾で地面へと倒れた。
殺し屋は男の死体に近づき、借りた銃を足下へ置いた。
自分にこのような高貴な銃は似合わない。
殺し屋は自身の失った誇りを取り戻すべく天国へと歩き始めた。

第十三章 探偵 そして火種は燃え盛る
探偵はノックの音で目が覚める。
昨晩探偵を飲み込んだアルコールの海はとっくに干上がっていた。
「入ってくれ」
煙草を咥え、ライターで火をつけながら探偵はドアに向かって叫んだ。
自身の声で、脳にヒビが入るほど激痛が走る。
「よう、相変わらず酷い事務所だな」
警官は探偵の姿を一瞥し、言い放った。
「昨晩の件で話がある」
探偵が吐く煙を手で払いながら、警官は椅子に座る。
「その前に、コーヒーでもどうだ?」
探偵の脳はカフェインを欲していた。
「もう昼だぞ、それにコーヒーも辞めてるんだ。長く生きたいからな」
探偵は目の前の男が一体何で動いてるのか心底疑問に思った。
「それは悪かった、ただ俺は煙草とコーヒーがないと動けないもんでね」
探偵は立ち上がり、台所のポッドを火にかける。
何日前のものかわからない黒い液体が呼吸をするかのように泡を吐き出す。
探偵はその黒い液体をコップへと移し、机に置いた。
「よくそんなものが飲めるな、そりゃコーヒーってよりはタールだな」
警官の小言をよそに、探偵は胃袋へコーヒーを流し込む。
一息つくと、探偵は警官の方を向いた。
「仕事の話をしにきたんだろ?さっさと話せよ」
警官は真剣な顔をし、息を吐く。
「お前が昨日見つけた遺体だが身元がわかった」
警官は胸ポケット4枚写真を取り出すと机の上へ並べた。
「まず庭の死体だが、彼女の名前はケイシー、職業は娼婦だったようだな」
「両親とも絶縁、身寄りは無い」
警官が持っていた写真の彼女は笑顔だった。
「もう2人、ダニエルとその妻だが、死体は裏に止めてあったバンの中に隠されていた」
「そしてそのバンの所有者であり、お前が話したマスクの男だが、こいつに関するは情報が一切ない」
探偵はうなづきながら、2本目の煙草に火をつける。
「情報がないだと?一体どうゆうことだ」
「指紋もDNAも警察のデータベースには存在しなかった」
「そんなことありえるのか?」
「普通の人間ならあり得ない」
警官は首をふった。
「マスクの男は財布を持ってなかったか?」
「銃に薬品、もちろん財布も持ってたさ」
「その財布を見せてくれないか、引っかかるものがあるんだ」
探偵は警官を見据え、前屈姿勢になる。
警官は瞬く考えると、ため息をつく。
「これ以上この事件に首を突っ込むな、これは友人としての警告だ」
「俺の性格は知ってるだろ、今更引き下がれない」
探偵の咥えていた煙草が、灰となって床に落ちる。
ずいぶんと長い時間、探偵は男を見据える。観念したように警官は両手を上げる。
「お手上げだ、署の証拠品係に俺の名前を出せ」
「恩に着る」
「なぁこれは一般人が手を出す事件じゃない、俺にだって手を引くように上から指示が来てるんだ」
探偵は立ち上がりながら灰を踏みつけた。
「だったら俺みたいな男が必要だろ」
警官も立ち上がり、探偵の顔をみる。
「いいか、何かあっても助けられるとは限らないぞ」
「あぁわかってる」
警官は笑うと、玄関へと向かった。
探偵はクローゼットを開け、新しいシャツに着替える。
玄関が閉まる音、その後車の走り去る音が聞こえる。
瞬間、探偵の耳を劈く音の衝撃が響く。
探偵は思わず身をかがめると、頭の中に最悪のシナリオが読み上げられる。
シャツのボタンも閉じずに、玄関を開け外に出ると、一台の車が火をあげている。
それは紛れもなく、先ほどまで話していた警官のものだ。
通行人の喧騒をかき分け、車に近づこうとするが、火の勢いが強くこれ以上は近づくことができない。
サイレンや悲鳴がどこからともなく聞こえる。
人混みが激しさを増し、探偵の居場所を奪う。
探偵は事務所へと戻ると煙草に火をつけようとしたが、手が震えライターにうまく火がつかない。
ライターを床に投げつけ、煙草のフィルターを強く噛んだ。
口内に鉛のような不快感が広がる。
長く生きたいからな、そう言っていた警官の顔を思い出す。
死ぬべきは自分だ、常にそうだった。
自分だけが生き延びてしまう。
探偵の肩にまた、何かがのしかかる。
「まだやるべきことが残っている」
探偵はコートを羽織り、ポケットに銃を入れる。
謎の男、友人の死、消えた依頼人、全てが繋がっているはずだ。
探偵はドアを開け、町へと出る。
警察が現場を確保し、野次馬の数はずいぶんと減った。
探偵はそれを視界に入れないよう意識しながら、警察署を目指す。
探偵の心臓は熱く、そして大きく心音を奏でた。

第十四章 女 季節外れのサンタクロース
女はカフェのラウンジで熱いコーヒーをすすっている。
女が座っているのはカフェの中で最も奥の手洗い場の近くだった。
ここからは客の動きがよく見える。
本来であれば夜までは寝ていたかったが、今日は約束がある、それもとても重要な約束が。
昨夜、探偵の事務所から盗み出した財布が女の目前に置かれている。
一見すると茶色い革製のそれの唯一の特徴は表面に押された烙印だ。
十字架を中心に羽が描かれたそのエンブレムにたどり着くために女は相応の時間を強いられた。
煙草が吸いたくなり、女は手持ちの鞄からシガレットケースを取り出し、その中から1本を取り出した。
そこで女の目には禁煙の張り紙が映る。
女は煙草を咥えたまま、呆然とする。
いったいいつからこんな生きづらい世の中になったのだろう。
女は咥えていた煙草をケースに戻すと、ふと煙草の匂いが立ちこもっていた探偵の事務所を思い出す。
ジャック、あの探偵の名前だ。
女はカバンからファイルを取り出と、そこに書かれた内容に目を通す。
警察官でありながら、ある事件がきっかけでその職を自ら辞退した男。
所詮身勝手な正義感に駆られたのだろう、私にはそんなことはあり得ない。
自身の目的のためであれば、悪にだって染まって見せる。女にはその覚悟があった。
そんなことを考えていると、女の右斜め前に座っていた老夫婦がカフェに置かれたテレビから流れたニュースについて話ているのが聞こえる。
「平和な昼下がりの中、1台の車が爆発し街はパニックになっています」
顔も知らぬ親戚の葬式に出るような顔で、ニュースキャスターが原稿を読み上げる。
ちょうどこのカフェから歩いて15分程度の場所で車の爆発があったらしい。
「犠牲になったのは男性の身柄は現在調査中です」
なんとも悲惨な事件だろうと思い、女の目は炎上している車体に向けられた。
運転席から出火し、車の前面は原型を留めていない。
これは本当にただの事故なのだろうか。
女の脳裏にどうも引っかかるものがある。車に爆発物が敷けられていたら?
そんな事件をいくつも女は見てきた。
ただ今は自身の問題に向き合う方が先だった。
残っていたコーヒーを胃袋に流し込むと、女は立ち上がり会計を済ませる。
日が落ち始めた黄昏の中をサングラスをかけ、目的地へ向かう。
街を抜け、裏路地に入ると不自然なまでに清掃されたアスファルトが目に入る。
まるでここに見てはいけない何かがあったような、そんな気配が漂う。
その後何本が道を奥に進んだところで、女の目的地が見える。
天国、このバーの通称だ。
正直、こんな場所へ足を運びたくはないのだが、目的のためならば仕方がない。
女はドアを開け、中へと入る。
その瞬間、自身が引き返せない領域へ侵入したことを感じた。
薄暗く、客は自身を含め3人だけ。
一人は後頭部しか見えないが、煙草を剃っていることがわかる。彼は煙草を吸わない。
その中でカウンターに座り、両手を祈るように組んでいる男の隣へと座る。
「ジョン、ずいぶんと久しぶりね」
女は男の方を見ずに言う。
顔色の悪い男は、祈りをやめ、女の方をむく。
「急に呼び出してすまなかった、助けがいる」
「その話の前に、あなたにはこれが必要じゃない?」
女は茶色の財布をカウンターへ置く。
「どこで手に入れた?」
男はすぐに財布を受け取らず、問いかける。
「それは企業秘密よ」
男は財布を受け取り、中身を改める。
「プレゼントをもらって嬉しいのはわかるけど、あなたには時間がないんじゃないの?」
そうだ、この男は勝手の同僚に命を狙われている。
「単刀直入に聞く、誰が俺を嵌めた?」
女はそれを待ってとばかりに、ある人物の名前を口に出そうとする。
「随分と興味深い話だな」
その男は血に濡れたコートのポケットに手を入れたまま2人を見据えている。
紛れもなく、それは昨夜の探偵であった。
女は自身の計画に罅が入る音が確かに聞こえた。

第十五章 探偵 汚れた正義
探偵はかつては正義の執行人であり、法の守護者である警官だった。
だが今となってはそのことを知る人間は少ない。
慣れた足取りで警察署を歩き、証拠品保管室へ向かう。
鉄格子で囲まれた窓からヘッドフォンをつけ、ラジオを聞いている男の姿が見える。
探偵は窓を叩くが、男は一向に気づく気配がない。
力任せに探偵が窓を叩くと、その衝撃で鉄条網が揺れる。
それでやっと男はヘッドフォンを外し、探偵の方を訝しむ。
「部外者は立ち入り禁止だ」
部外者、探偵は常にそうだ。
「俺はマーカスの友人だ、昨夜の事件の遺留品がみたい」
「マーカスなんてやつはここにはいない」
探偵は、このようなやりとりが起こることは想定していた。
しかし、現状こんなやりとりで時間を使っている暇はない。
「知らないのか?今朝、車が爆発して死んだマーカスだ」
探偵は男の目を見据える。
「お前記者かなんかか?だったらこんな場所じゃなくて他を当れよ」
男も負けじと探偵を見据える。
「俺は記者じゃない、探偵だ」
男はそれを聞くと大笑いし、膝を叩く。
「そりゃ傑作だな、あんた大真面目な顔でジョークを言うんだな」
探偵はかつては自分がこの男と同じ警官であったことを恥じた。
「いったい何をしてるんだ」
初老の男が探偵の肩を掴む。
探偵はその腕を掴み、後ろを振り返る。
「お前、ジャックじゃないか」
その男の顔を探偵は知っている、まだ現役だったとは。
「こんなところであんたに会いたくはなかったな」
探偵は掴んだ腕を離す。
「何か入用か?」
「自分の仕事をしにきたんだがこいつが口を開いてくれなくてね」
「彼は仕事を果たしてる、部外者には情報は渡せない、わかるだろ?」
2人の男が部外者を睨む。そうか自分は既に部外者か。探偵はその響きが気に入らない。
「そうだな、確かに俺は部外者だ」
睨む男に背を向け、探偵は歩き始める。
「待て、仕事なんだろ。俺の部屋に来い、話は聞いてやる」
男は探偵の肩を掴み、そう言うと歩き始めた。
証拠品係の男はヘッドフォンをつけ直し、ラジオを聞き直す。
しばらく建物内を歩き、目的の部屋にたどり着く。
途中で何人かの警官とすれ違ったが、皆探偵に怪訝な視線を向ける。
「ここだ」
男は足を止め、ドアを開ける。
随分と立派な部屋だと探偵は思わず口に出す。
「随分と金の入りがいいようだな」
探偵はこの男が嫌いだ。組織で生きるために上に媚を売る姿勢が気に入らなかった。
「あの事件からもう5年か、お前は変わらないな」
わかったような口を聞くな、探偵の拳に力が入る。
「わざわざこんなところに呼び出したのは昔話をするためか?」
探偵は椅子に座った男を見下ろし、睨む。
「マーカスはいい警官だった。愛する家族のため職務を全うした」
男は探偵ではなく、床を見ている。
床に水滴が垂れれば感動のストーリーの出来上がりだ。
「だが行きすぎた正義感は身を滅ぼす」
男は探偵を見上げる。
思わず探偵の体に力が入る。
「過去のお前と同じだな」
男の手にはマスクの男が持っていた財布が握られている。
「今回は正義感だけではどうにもならんぞ」
探偵が声を上げようとした瞬間、ドアを開け2人の男が部屋に入ってくる。
体格もよく、その目には敵意が込められている。
「抵抗するなよ、部屋が散らかる」
探偵の前へ2人の男が立ちはだかる。
「随分な歓迎だな、コーヒーでも持ってきてくれたのか?」
探偵の右腕を男の一人が掴む。
「生憎だが、コーヒーはお預けだ」
もう一人の男が探偵の顔面めがけて拳をふるった。
探偵の頭が揺れ、倒れそうになるが、男に腕を掴まれてる際で倒れることができない。
「軽いな、こんなんじゃ眠気覚ましにもならないぞ」
探偵は床に血が混じった唾を吐くと、殴った男を見据えた。
男が拳を振り上げるのと同時に、探偵は掴まれた腕を引き寄せ、頭突きを男の鼻めがけて放った。
痛みに顔を歪め、思わず腕を離し、男は地面に倒れる。
掴まれた右腕が自由になると同時に、振り下ろされた拳を左手で交わし、右の拳を顎目掛けて振り切る。
もう一人の男は床に倒れる。
一人は鼻から血を流し悶えている、一人は完全に気を失っている。
探偵は鼻血を出している男の頭部を蹴り上げる。
男は気を失った。
「次はあんたがやるのか?」
探偵が近づくと、男は胸ポケットから財布を取り出した。
「こんなものが欲しければくれてやる、だがお前は誰を敵に回したのかわかっていない」
探偵は財布を受け取ると、それをコートへしまった。
「あんたは戦わないのか?」
「ふざけるな」
そう言いかけた男の腹部を探偵は殴る。
「あんたは警官でも男でもないな」
腹を抑え、床をのたうちまわる男を見下ろし探偵はそう呟いた。
それは自分も同じだろうと、探偵は自嘲した。
すっかり荒れ果てたデスクのドアを開け、探偵は警察署を後にする。
しばらく歩き、探偵が気に入っている喫茶店へと向かう。
この店は昼は喫茶店、夜はバーとして開いている。
探偵は腕時計を確認する。15時。まだ喫茶店だ。
ドアを開けるとマスターがこちらを見る。
「あんたか、しばらくだな」
「まぁな」
探偵はカウンターへと座り、皮が剥け血が出ている拳をさする。
「また厄介事に首を突っ込んでるのか?お前さんも好きだな」
「俺も好きで関わってるわけじゃないだがな」
探偵はポケットから煙草を取り出し、口に咥える。
珈琲と煙草の組み合わせは何者にも勝る。
ライターを探して、ポケットを弄っているとマスターがわざとらしく咳払いをする。
ポケットの探索をやめ、マスターの方を見ると張り紙を手に持っている。
「禁煙だ」
探偵は煙草を咥えたまましばらく固まっていた。
「とうとうボケたのか?煙草無しじゃ、あんたの珈琲の魅力は無いも等しいぞ」
「知るか、煙草なんざ慢性的な自殺じゃ無いか」
納得のいかない探偵を他所目にマスターは珈琲の準備を始める。
「お前もマーカスを見習って煙草をやめて家庭を持つような人間らしい生き方をしたらどうだ?」
探偵は思わず息が詰まる。
「そうだな、あんなにいいやつは他にいないさ」
探偵は咥えていた煙草を箱に戻す。
沈黙が流れる。
正確に言えばマスターが仕事をする音だけが店内に響いている。
探偵はポケットから戦利品である財布を取り出し、中身を改める。
警察のデータベースに登録されていない男だ。中の身分書は役に立たないだろう。
危険物の取り扱いに関する資格証明書が何枚か折り畳まれて入っている。
名称は全てジョンドゥ。これは何かのジョークか?
そこで思わず探偵の手が止まる。
店の会員証。店名は天国。
ジョンドゥが持っている天国の会員証。見た目以上に意味があると探偵は睨む。
そこでマスターが探偵の前に珈琲を置く。
「今度は探偵じゃなくてスリにでもなったのか?」
「これも仕事だ」
探偵はコップを持ち上げ、湯気を立てる珈琲をすする。
事務所で飲んだタールのような飲み物とは風味が違う。
「なぁマスター、あんた天国って聞いて何か思い当たることは無いか?」
マスターは怪訝な表情を探偵に向ける。
「なんだ藪から棒に、俺に早くくたばれって言ってるのか?」
「そうゆうことじゃ無い」
探偵の顔から質の悪いジョークじゃ無いことを察知したマスターがしばらく顎髭をいじりながらしばらく考える。
その間に探偵は2口目の珈琲をすする。やはりうまい、しかし煙草の味が足りない。
「天国か、そんな名前のバーがあることは知ってるが、名前だけだ」
探偵は会員証をマスターに渡す。
しばらくマスターがそれを観察すると探偵へ投げて横した。
「住所が書いてあるじゃ無いか、お前はいつも全体をみて細部を見ないな」
探偵は頭をかきながら、もう一度会員証を見る。小文字で住所が記載されている。
「どんな事件であっても細部まで観察するんだ、若造」
過去に上司から叱咤されたことが頭によぎる。
俺はまだまだ若造か。
探偵は財布をポケットに戻すと、珈琲の代金をカウンターへ置く。
「そろそろ出る」
マスターは代金を受け取ると探偵の飲んだコップを片付け始めた。
「マーカスにも顔を見せるように言っておいてくれ」
「あぁ伝えておくよ」
探偵はドアを開け、店を出る。時計の針はそんなには進んでいない。
書かれていた住所はそう遠く無い、探偵は口に残った珈琲の風味を味わいながら煙草に火をつけた。

第十六章 マーカス 死体は一つ 
組織の中で生きるためには綺麗事だけでは生きていけない。
それは自分の人生で学んだことの数少ない教訓の1つだった。
子供の頃に夢見たような正義の味方はこの世界にいないことは既に知っていた。
それでも自分は誇りある警官なのだ。
バッチをつけている間だけは自分は正義の味方だった。
「この件はこちらで処理をする」
目の前の男は室内であるのにサングラスをつけていた。
古い友人からの一本の電話、それが自分の人生を変えようとしていた。
「おいそれと納得できないな」
マーカスは目の男の威圧を物ともせず、一歩前に進んだ。
しばらくの沈黙。部屋に重たい沈黙が流れる。
ある一家から回収された4体の死体。ただの事件ではないことはマーカスがよくわかっていた。
「少なくともこれは上層部の決定だ、これ以上踏み込むな」
男はそう言い放つと、後ろを振り返り遺体安置所から出ていく。
やれきれない思いでマーカスは拳を強く握った。
大声で叫びたい気分だったが、それを理性が必死に抑えている。
「死者が目を覚ますぞ、用が済んだのならさっさと出て行ってくれ」
マスクにゴーグル、布の帽子をつけた係員が用具を片付けながら、自分を見据える。
「悪かった」
マーカスは謝罪し、ドアを開け遺体安置所を後にする。
外は暗闇に包まれている。
マーカスは胸ポケットを弄る、ただそこに煙草はない。
煙草はやめたはずだった。
マーカスは車に乗り込み、署へと向かった。
さっきまで降っていた雨が病んだおかげか、人通りが増えている。
出歩く人間が増えれば、その分トラブルの数も多くなる。
それをうんざり思い始めたのはいつからだろうか。
この世界にはそんなトラブルが可愛く見えるような巨悪が潜んでいる。
ただそれはコミックの悪役のような姿はしていない。
そんなことを思っていると、車は警察署の前へたどり着く。
エンジンを切り、車を降りる。
そのままの足で、警官は上司のオフィスを訪ねる。
ドアをノックし、返事を待つ。
「入っていいぞ」
その声と同時にドアが開く。
体格のいい二人の若い警察官が横を通り過ぎる。
会釈の一つぐらいしたらどうかと思ったが、そんな小言を行っている暇はない。
「失礼します」
マーカスは整理されたオフィスのソファに腰を下ろす上司の前に立つ。
「用件はなんだ?」
「先ほどの殺害事件についてです」
その後の言葉を上司が遮る。
「あぁ、あれは事件ではない」
マーカスはいよいよ自分が立っている地面の脆さに気付いた。
「それはどうゆうことでしょうか」
上司は自分の目を見ずに続ける。
「そのままの意味だ。事件でないなら君が捜査する必要もない」
「あれは明らかに殺人でしょう」
身を乗り出し抗議の姿勢を示す。
水面の様に落ち着いた様子で上司は続ける。
「いいか、これは命令だ。この件には関わるな」
上司はそう言い放つ。
警官は背後に冷たいものを感じた。
「承知しました、確認ですがこれは事件ではないんですね」
「そうとも」
こんな禅問答を繰り返しても意味がない。
警官は振り返り、ドアノブに手をかける。
その背後から上司が言葉を投げかける。
「君は嫁さんも可愛い娘もいるのだろう?今日はもう帰ったほうがいい」
明らかに言葉以上の意味を含んでいることをマーカスは悟った。
後ろ手でドアを閉める。警官の覚悟はもう決まっていた。
警察署を後にし、車のシーツに体を沈める。
ポケットから携帯を取り出し、液晶で微笑む妻と娘の顔を見る。
ここで折れてしまったら、二人に合わす顔がない。
マーカスは車のエンジンをかけた。
行き先は決まっている、遺体安置所だ。
マーカスは車を飛ばした、あのサングラスの男が既に調査している可能性がある。
遺体安置所の前に車を止め、マーカスは再び、そこへと足を踏み入れる。
ドアを開けると、職員がまたかといった視線をマーカスへ向ける。
「何か忘れ物でもしたのか?」
「あぁそうだ」
マーカスはろくに目も合わせずに、職員の横を通り過ぎる。
遺体はまだそこにあった。
後ろからついてきた職員にマーカスは質問する。
「この男の身柄は?」
「まだ何も、ただ普通の死体じゃないな」
「男の所有物が見たい」
職員は警官に財布を投げて寄越した。
マーカスはそれを受け取り、しばらく観察する。
なんの変哲もない財布に見えるが、意味深な刻印が押されている。
中身を調べようとしたところで、マーカスはある気配を感じた。
「関わるなと言ったはずだ」
サングラスをかけた男がそこに立っていた。
「すまないが、身元も明かさない奴の命令は聞けないな」
サングラスの男が警官に近づく。
「警告はしたぞ」
サングラスの性で男の目線が見えない。
「あぁ確かに聞いた」
男が腰に手をかけたその瞬間、反射的にマーカスの体が動く。
腰のホススターに手を掛ける。
しかし、マーカスの眼前には銃口が向けられている。
死体を挟み、二人の男が睨み合う。
「2度目はないぞ」
男の指がトリガーにかかる。
マーカスの額に汗がにじむ。
その刹那、警官は死体のキャスターを蹴り上げる。
甲高い金属音をあげ、キャスターが男の下半身へ激突する。
男の体制が崩れる、マーカスはそれを見逃さず男の腕を掴み捻りあげる。
その体制のまま、マーカスは男の顎へ拳を振るう。
男の手から銃が転がり、地面に崩れ落ちた。
もう後戻りはできない。
死体を調査している時間はない、マーカスは死体を抱き抱えるとそのまま出口へ向かった。
「あんた一体何をしてるんだ」
後ろで職員が叫ぶ。
「きっと正しいことだ」
誰にも聞こえない声で、そう呟いた。
男の死体を車に乗せた際に、ポケットから財布が落ちる。
なんの変哲もない茶色い皮の財布だ。
マーカスはそれを拾い上げると、自身のポケットへそれをしまった。
車に乗り込みエンジンをかける。
死体とのドライブなどしたこともなかった。
マーカスは夜が明けた空の下、車を走らせる。
この財布は必ず事件の真相へ繋がるはずだ。自分はそう確信していた。
警察署へはもう戻れない、マーカスは唯一信用ができる友の元へと向かった。

第十七章 殺し屋 行き止まり
殺し屋は背中の拳銃に手をかける。
目の前の男が何者なのか見当がつかなかったが、その目に敵意があるのは間違いなかった。
横に座っていた女からは明らかな動揺が見て取れる。
だがこのバーにはルールがあった。
この中での殺し、つまりは仕事は禁止されている。
しかし、男のポケットのふくらみを見る限り、拳銃が握られているのは間違いなかった。
バーのマスターがこちらを睨む。膠着状態が続く。
「あんたらここのルールを知らないのか?」
バーのマスターがこちらに向け声を上げる。
男はバーの入り口にかけてある看板に目を向ける。
「汝殺すなかれ、か」
そう呟くと男は女の隣の椅子に腰をかけ、バーボンを注文した。
マスターは訝しんだ様子で瓶からバーボンを注ぐ。
3人の間に重たい沈黙がのしかかる。
「それで、話の続きは?」
男が沈黙を破った。
「あなたには関係ない、部外者よ」
女は男の顔を見ずに答える。
殺し屋の神経は昂っていた、常に男の一挙一足を観察する。
男はコップを一口で空にすると、机に拳を叩きつけた。
「部外者だと?ふざけるなよ」
男は勢いよく、立ち上がると女が座っていた椅子を勢いよく蹴り上げた。
殺し屋はホルスターから拳銃を抜く、だが構えるよりも早く、マスターが男に向け拳銃を放った。
男はそのまま横むけに倒れた。だが出血はしていない。
「ゴム弾だ、これ以上はこの店の気品に関わる」
そう言ったマスターの横から黒服の男が2人現れ、男を担ぎ店の裏へと連れて行く。
マスターはこちらを睨む、しかしそれを尻目に殺し屋は倒れている女に手を差し出す。
「平気か?」
女はその手を払うと自分で立ち上がった。
「この店を出ましょう」
「同感だ」
女には聞きたいことが山ほどあった。
ドアを開けると夜風が殺し屋の顔を撫でる。
周りを確認するが、敵の気配はない。
2人は夜の街を歩き始める。
「あの男は何者だ」
「部外者、そう言ったでしょ?」
女は殺し屋に目を合わせずに答えた。
それはあまりにも不自然だった。
殺し屋は立ち止まり、先を歩く女に向かいもう一度問いかける。
「ただの部外者ではないな」
「5年前、あの事件が私の人生を変えた」
5年前、殺し屋の脳裏に封印したはずの記憶が蘇る。
「それならあの男は」
殺し屋は目を見開き、女の背中を見る。
その瞬間、銃声と共に女の体が倒れる。
女の胸部を銃弾が貫いた。
殺し屋は倒れた女に近づき抱き抱える。
そこに黒いスーツに身を包み、小機関銃を構えた男たちが現れる。
その中心には、夜であるにもかかわらず、サングラスをかけた男が立っていた。
「お前がジョンだな」
殺し屋は男に銃口を向ける、しかし周りを囲んだ男たちの多数の銃口が殺し屋を狙っている。
「目標は俺のはずだ、何故彼女を巻き込んだ」
女の体から血が流れる、このままでは持たない。
「お前は知らなくていい、どうせ2人共ここで終わりだ」
しばらくの沈黙、殺し屋は今までの経験から自分が助からないことを悟っていた。
周りの男たちの立ち振る舞いからして、相当熟練度の高いことが見受けられる。
ここで終わる、殺し屋は静かに絶望した。
この仕事を始めた時から、常に死は覚悟していた。しかし実際にそれを突きつけられると覚悟など意味がなかったことを悟る
沈黙を破るように、サングラスの男の携帯が振動する。
サングラスの男は携帯を取り出すと、殺し屋に背を向け電話に出た。
殺し屋には男が何を話しているのか聞き取ることはできない。
男は2、3個の言葉を交わすと電話を切り再び殺し屋の方へ顔を向ける。
「悪運が強いな、まだお前には生きてもらう」
その瞬間、殺し屋の後頭部に鈍い衝撃が走る。
殺し屋は薄れゆく意識の中で、わずかに残った女の体温を感じていた。

第十八章 探偵 痛みを伴う記憶
おぼろげな意識が痛みを伴い戻ってくる。
ひどい二日酔いのような頭痛を探偵は感じている。
まるで割れた酒瓶を頭に刺されたかのような痛みだった。
「ここはどこだ」
探偵は自分が置かれた状況を理解することができない。
そして自分の手に手錠がかけられていることに気づく。
壁に背を預け立ち上がろうとするが、両足に力が入らない。
八方塞がり、そんな言葉が探偵の頭に過ぎる。
そこに足音が近づいてくる。
「目が覚めたか探偵さん」
「無理に動かない方がいい、頭に強い衝撃を受けてる、しばらくは身体が自由には動かない」
初め、話している相手が誰だか探偵にはわからなかったが、頭痛と共に思い出す。
バーのマスター。そいつが目の前にいる。
「どうして俺が探偵だとわかる」
探偵は必死に頭痛を抑えながら問いかける。
「あんたの持ち物を確かめさせてもらった、そこで一つ聞きたいことがある」
「一体なんだ」
「どうしてお前のような人間が俺のバーに入り込んだ?おまけに暴れて店の風紀を見出した」
マスターの声が頭に響く、もう少し声のトーンを落として欲しいと探偵は願った。
「酒で酔うのに理由がいちいち必要なのか?」
探偵は床に唾を吐き、答える。
マスターはため息をつき、探偵に背を向ける。
「確かに酒を飲むのに理由はいらないな、だがこれに関してはどうしても理由が必要だ」
マスターは探偵の眼前へ財布を突き出す。
この財布が火種になり、自分がこんな場所でボロ布のような扱いを受けている。
「死体の持ち物だ、俺のじゃない」
「そんなことはわかっている」
「ただあんたには答えて貰わなきゃ困る」
マスターは懐から拳銃を取り出す。
「こいつはあんたの頭に打ち込んだ特別製のゴム弾だ」
スライドを後退させると、鈍い金属の音が探偵の耳に響く。
「そんな玩具で俺の口を割らせるのか?」
探偵は問いかける、しかしその威力は探偵がその身をもって知っている。
マスターは銃口を探偵の胸部に向け、引き金を引いた。
鈍い音が響き、探偵は自らの骨が軋む音を聞いた。
「どうだ?玩具のわりには随分と効くだろ」
マスターは探偵に問う。
探偵は痛みで呼吸ができなくなり、地面をのたうちまわる。
それが答えだった。
「さっさと答えた方が身のためだろ」
探偵は必死に痛みに耐える。
しかし肺が思ったように呼吸を取り込むことができない。
「それは事件の現場で拾ったものだ」
探偵は一言ごとゆっくりと答えた。
「現場の死体が持っていた、だからあんたは無関係だと」
「そりゃ随分と哀れな探偵だな」
確かにこの状況は哀れだ、しかしこの痛みの中ではまともに言い返すこともできない。
「なら、哀れな探偵はなんでこの事件に踏み込んだんだ?」
友人の車が焼ける光景が頭に過ぎる。
「お前には関係ない」
「まだ減らず口は聴けるようだな」
マスターは鼻で笑った。
「ならついでにもう一つ質問だ」
マスターは探偵の髪を掴み強引に上をむかせる。
「この写真の男を知っているか?」
探偵の目前に一枚の写真が突きつけられる。
カメラに向かい鋭い視線を投げかける初老の男。
「知らないな、あんたの旦那か?」
髪を掴む力が強くなる。
「ふざけるな、もう1発打ち込んでやってもいいんだぞ」
マスターの舌打ちが聞こえる。
写真の男と目が合う、その瞬間探偵の体が震える。
俺はこの男を知っている。
「何か思い出したか?」
「デイブ、だいぶ歳をとったようだな」
マスターはその名を聞き、初めて動揺を見せた。
探偵は掴まれていた髪を急に離され、地面に崩れる。
マスター後ろを向き、電話をかけているようだった。
「例の探偵ですが…」
それ以上を探偵は聞き取ることができなかった。
電話を切ると、マスターは再び探偵の方へ振り向いた。
「運が尽きたな探偵」
銃口が探偵の頭部へ向けられる。
しかし探偵は諦めていなかった、デイブ、奴がまだ生きているとしたら俺には役目がある。
発砲音と共に探偵の意識は再び、闇へと引きずられる。

第十九章 殺し屋 心臓が動く限り
1発、2発と部屋中に人間を殴打する音が響く。
サングラスの男が椅子に腰をかけ、その様子を眺めている。
振り上げられた拳には血が滲んでいる。
3発目の拳が殺し屋の顔面を殴打する。
殺し屋は並大抵の痛みには耐える訓練を受けていた、ここで何発殴られようと意識は冷静だった。
しかし強く沸き立つ感情は怒りだった。
彼女が巻き込まれた、ただそれだけだ。
師匠の言葉を思い出す、怒りは人間が持つ感情であり、仕事をする上では不要な感情だ。
4発目が殺し屋を頭部を揺さぶる。
思えば、何故自分がこんな場所でこんな目に合っているのか、殺し屋には理解できなかった。
銃口が向けられたあの瞬間、自分は終わっていたはずだった。
殺し屋を殴っていた男は肩で呼吸をしている。
ステンドグラスから差し込んだ光が時間の経過を物語る。
サングラスの男が立ち上がり、息をあげている男の肩に手をかける。
「流石だな、表情一つ変えないとは」
「こんな事は無意味だ、さっさと殺せ」
殺し屋は血が混じった唾を床に吐く。
「まだ殺すわけには行かない、お前もまだ死ぬわけには行かないだろ?」
サングラスの男は言った。
「お前たちとバーで一悶着あった男が面白いことを話してな」
サングラスの男が机の上から1枚の写真を取り出す、そしてそれを殺し屋に向ける。
「お前も知っているな」
サングラスの性で男の表情が読めない。
「そいつは」
殺し屋はその男を知っている、師匠との最後の仕事のことを思い出す。
「やっと人間らしい顔になったな」
その男は筋金入りの悪人だった、そしてそれと同時にその悪意と同等の権力を持っていた。
その力はいかなる組織にも及んでいた。
殺し屋は過去にこの男に会った事がある、この男はただならぬ悪そのものだ。
ただ同時にその男は死んだはずだった、少なくとも殺し屋はそう認識していた。
「ボスがもう一度会いたいそうだ、探偵ももうじきここに来る」
殺し屋は自身の手首を眺める、プラスチック製の手錠、どうやら腕力だけでは引き千切れない。
あの男がまだ生きているのなら、俺には果たすべき仕事が残っている。
「しばらくの余生を楽しめ」
サングラスの男が部下を連れ部屋を出て行った。
殺し屋は項垂れる、師匠の顔が鮮明に思い出せる。
こんなにも鮮明に思い出すのは久々だった。
あたりを見渡す、ここはどこかの廃屋か。
しかしステンドグラスの装飾を見るに昔は教会だったのだろうか。
殺し屋の最後には贅沢すぎる。
そんな取り止めのない思考に耽っていると遠くから足音が聞こえる。
正面の扉が開くと、ボロ布のようなコートを着た男が男たちに囲まれている。あいつが探偵だったのか。
サングラスの男がその後ろから姿を現した。
「懺悔は済んだか?」
そんな言葉は意味がない、自分の過去は懺悔するには長すぎる。
探偵は殺し屋の顔を見据える。
殺し屋も探偵の顔を見る。
傷ついた男が2人。
周りを黒服の男たちが囲っている。
探偵が譫言のように呟く。
「デイブがまだ生きている」
殺し屋はうなづく。
だがこんな有様の2人で何ができるというのだ。
これはハリウッド映画ではなく、紛れもない現実だ。
サングラスの男が腕時計を仕切に確認している。
ボスはまだ訪れない。
静寂、だが探偵は今にも崩れ落ちそうだ。
その時だった。
部屋に差し込む明かりが急に強くなった、そして同時に銃声が部屋に響く。
周りを囲んでいた男の一人が後方に吹き飛ぶ。
サングラスの男が叫ぶ、探偵は両腕を高く掲げた。
次の瞬間、探偵の手錠が撃ち抜かれる。
殺し屋は撃ち抜かれた男の懐からナイフを取り出し、手錠を切り取る。
探偵と目が合う、思えばこのような男の目を過去に見たことがある。
しかし今は感傷に額っている場合ではない。
これは現実だ、だからこそ心臓が動く限り戦わなければならない。

第二十章 ジャック 燃え上がる正義
ジャックは自身の仕事を誇りに思っていた。
正義、それが男がこの世界で信じられるものであり、自身の役目だった。
幼少期から警察官だった父の背中を見て育った影響はもちろん大きいだろう。
そして殉職した父の棺桶にすがり泣き叫ぶ母の背中を見たときに、ジャックの生き方は決まった。
この世から犯罪を無くすため、これ以上父や母のような人間を減らすため、いかなる訓練にも耐えた。
だがこの世では正義なんてものは大した力を持たないことを思い知った。
正義が勝つのは映画やコミックの中の話であり、だからこの世には悪が蔓延る。
「ふざけるな、ここであいつを逃せば新たな犯罪が生まれる」
上長のデスクを殴り、前屈みになりながら男は叫んだ。
後ろに立つマーカスがジャックの肩に手をかける。
「おい、落ち着け」
ジャックはかけられた手を払い上長を睨む。
「お前の言いたいこともわかる、しかし証拠がないだろう」
「この殺しは明らかにあいつが部下に指示を出している」
5時間前、海岸にて若い男の死体が発見された。
ジャックはマーカスと共に現場に向かい、魚に食い荒らされた男の死体と対面した。
死体は若い政治家であった、正義を信じこの街から犯罪を無くすための政策を掲げていた。
彼が当選した途端、彼は自慢の笑顔も演説もできない死体となって目の前で死体袋に入れらた。
「何故正義を叫んだだけで殺されなくちゃならないんだ」
ジャックはマーカスと共に煙草に火をつけ、死体袋のチャックが閉められる様子を見ていた。
「もどかしいな」
マーカスは顔をしかめる。
「デイブ、あいつしかこんな事はできない」
ジャックは煙を吐きながら、死体をのせた車両が遠ざかって行く様子を見つめた。
「こんな時にあの人が現役ならな」
マーカスは半分になった煙草を地面に落とし、靴底で火を消した。
あの人とは新人だったジャックとマーカスを警察官へ育て上げた上司だった。
実の父を幼い頃に亡くしていたジャックは上司を父のように慕っていた。
だが若い頃から犯罪と戦い続けた体は定年前に上司の体を蝕んだ。
2人が1人前になるのと同時に引退し、今では隠遁生活を送っている。
「だったら俺たちが捕まえればいい」
ジャックはフィルターまで焼けた煙草を地面に投げ、振り返りパトカーに戻った。
そして警察署に戻ると現在の上司から捜査中止の命令を受けた。
そしてマーカスの制圧も聞かず、怒鳴り散らした。
退室を命じられた後、マーカスは男を説得し警察署の外に連れ出した。
「お前はすぐに熱くなるな、いいかげんその性格直したらどうだ」
「警察がこんなんじゃ、この世から犯罪がなくならない」
マーカスは頭をかきながら、諭すように男に言った。
「この世界はコミックじゃないんだ、いい加減それに気付いたらどうだ」
マーカスが警察官を目指した理由がコミックのヒーローに憧れたからということをジャックは知っていた。
だが今目前にいる男はそれを否定している。
「俺は俺の役目を果たすだけだ」
男が歩き始めると、しばらくしてマーカスが追いかけてくる。
「珈琲でもどうだ、お互い熱くなりすぎた」
「やる気になったのか?」
ジャックが問いかけると、マーカスはため息をつき答えた。
「付き合えるのは俺ぐらいしかいないだろ」
2人は肩を揃え、行きつけの喫茶店へ歩き始めた。
大通りに面した木造の建物のドアを開けると、カウンターの裏からマスターが歩いてくる。
「よく来たな」
この店は以前の上司が懇意にしていた店であり、新米の頃から世話になっている。
「珈琲と灰皿を頼む」
2人は並んで、カウンターに座ると灰皿が来るのを待たず煙草に火をつけた。
煙を吐き出すと、マーカスがジャックに問いかける。
「さっきの話の続きだが、何かアテはあるのか?」
ジャックは制服の胸ポケットから1枚の写真を取り出した。
「こいつならデイブの居場所を知っているはずだ」
写真には眼鏡をかけた人の良さそうな男性が車から降りる様子が写っている。
「ジャッカルか、だがこいつと取引するのは些か危険すぎやしないか?」
この男の名はジャッカル、本名ではない。
こいつは情報屋で警官だろうと悪党だろうと金さえ払えば情報を売るような男だ。
「危険は承知だろ」
ジャックが咥えた煙草から灰が落ちる寸前で、マスターが机の上に灰皿を置いた。
「流石だなマスター」
マーカスは灰皿からたなびく煙を眺めて言った。
「また2人で馬鹿なことをやるのか?」
ここのマスターの前では隠し事はできない。
「馬鹿をやるのはこいつだ、俺はその付き添い」
マーカスは煙草を消すと、男の方を向き答える。
「俺から見れば2人共馬鹿だな」
マスターは珈琲の入ったカップをカウンターに出す。
ジャックはそれを一口啜る。
「あの人が現役なら3人でやってたさ」
ジャックは2本目の煙草に火をつけ、煙を吸い込む。
ここの珈琲と煙草の組み合わせは無類だ。
仕事が終わるとマスターは裏へとはけて行った、基本的に客がいなければ、この店のマスターは表にはいない。
「今夜あいつのところへ行くぞ」
ジャックはマーカスの方を向く。
「となると用意が必要だな」
マーカスは答えた。
2人は珈琲を胃に流し込むと、勘定を払い店を後にした。

第二十一章 ジョン 殺し屋という仕事
呼吸を整え、標準を合わせる。
本来であれば狙うのは人間の頭部だが、レティクルの中心には赤く熟れた林檎が一つ置かれている。
「合図と同時に撃て」
後ろで冷たく師匠が言い放つ。
自分の心臓の音が聞こえる、それすら雑音だ。
合図はまだか、引き金にかけた指に力が籠る。
心音が早くなり、体が強張る。
早くしてくれ。
上がってきた胃液をなんとか押さえ込む。
「撃て」
合図と同時に引き金を絞る。
銃声と共に林檎は四方へ飛び散った。
「一瞬遅れたなジョン、これが仕事なら失敗だ」
立ち上がり、構えていたライフルを地面に置くとジョンは師匠の元へ向かって歩いた。
無残にも撃ち抜かれた林檎の甘い匂いをかすかに感じる。
「お前は臆病だ、だがそれはこの仕事において悪いことではない」
師匠は歩いてきたジョンを見据えて言った。
「これを持て」
そう言った師匠の手にはベレッタが握られている。
ジョンはそれを受け取ると、マガジンを引き抜き、チャンバーが空であることを確認する。
その後、マガジンを装填した。
そしてスライドを前進させる。
「慎重さはこの仕事で大事なことだ、例えそれが怯えからくるものでもな」
師匠は腕を広げ、手に何も持っていないことを示すとこう言った。
「俺を撃てジョン」
銃を構え、引き金を引く、ただその2アクションだけだ。
この距離なら外しようがない、しかしジョンは予想外のことに戸惑った。
「早くしろ」
師匠の言葉が冷たく突き刺さる。
ジョンは銃口を師匠へ向け、引き金を引いた。
銃声が響く。
それと同時にジョンは銃を落とした。
師匠の体には傷一つ付いていない。
ジョンは手を抑え、膝をつく。
落ちたベレッタからスライドが分離している。
「何故、銃口を確認しなかった」
師匠はジョンを見下ろす。
銃口に何かが詰まっていれば銃は暴発する、それは常識だ。
師匠は氷が入った袋をジョンに投げると、後ろを向き、片付けを始める。
「準備だ、ジョンこの仕事では準備が何よりも大事だ」
ジョンは手を冷やしながら黙ってうなづいた。
片付けが終わると、2人は車に乗り込み、帰路へついた。
都会の喧騒から離れた山道を進むと、木造の建物が見える。
ジョンは師匠に命を救われてから、3年間行動を共にしている。
車を止め、玄関へと上がる。
師匠は戸棚から缶詰を2個取り出すと、それを机に置いた。
そして近くの椅子へと腰を下ろした。
「明日の仕事はお前が引き金を引け」
師匠は缶詰を開けながら、ジョンへ言った。
これまで師匠の仕事に同行したことはあったが、直接手を下すのは初めてだった。
ジョンは驚きながらも、うなづき返事をした。
2人は缶詰を平らげると、机の上へ資料を並べた。
「今回の標的はこの男だ」
そう言うと師匠は1枚の写真を机に並べる。
人当たりが良さそうな笑顔を浮かべる若い男性がこちらを見つめている。
ジョンはその顔を覚える。
「明日、標的は船で自身の当選パーティを行う予定だ」
そう言うと想定される船のルートを指でなぞった。
標的が1人になったところを見計らい、このポイントから狙撃する。
距離はおよそ500m、ジョンは今日の訓練を思い出す。
このための狙撃訓練だったのかと負に落ちた。
ジョンは狙撃があまり得意ではないことを自負している、それよりも拳銃での戦闘が得意だった。
しかし、スーツを着て船の上でパーティに潜入するなど殺し屋のすることではない、映画の中なら別だが。
「ライフルの準備をしておけ、銃口まで隅々とな」
そう言うと師匠は椅子から立ち上がり、ベットへと転がり込んだ。
ジョンは食べ終えた缶詰をゴミ箱へ捨てるとケースからライフルを取り出し、点検を始めた。
銃口まで隅々と、今度はヘマはしない。

第二十二章 ジャック 捜査の始まり
ジャックとマーカスの前には多くの銃が並べられている。
ここはマーカスのガレージの中だ、締め切っているため中は酷く蒸し暑い。
ジャックは壁に架けられているコルトガバメントを手に取り、何度かスライドを引く。
「ここまでくるとお前の銃好きは病気だな」
マーカスはジャックの言葉に笑顔で返すと、棚から銃弾とマガジンを取り出す。
「だがここまでの装備は警察署には置いてないぞ」
「お前は何を持っていくんだ?」
ジャックの言葉を尻目に、マーカスは壁からグロックをとる。
グロック34、通常のグロックシリーズとは違い、銃身が長く、安定した命中率を誇る自動拳銃だ。
「そんな銃は女、子供が使うものだろ」
「ならお前のそれは、第二次世界大戦中の兵士が使う古い銃だ、最新のものには勝てないよ」
しばらく、2人は無言でマガジンに弾を込める。
そして、マガジンを差し込むと、スライドを後退させ、弾を装填する。
ホルスターに銃を納め、2人はガレージを後にした。
パトカーでジャッカルの元へ行く訳には行かないので、マーカスの車に乗り込む。
ハンドルを握るマーカスはひどく緊張しているようで、脇の下には汗が滲んでいた。
「緊張しているのか?」
ジャックが尋ねると、マーカスは静かに首を縦にふった。
「あの人が引退してから、無茶なんかしてなかったからな、緊張もするさ」
「お前なら平気だ、射撃の腕は俺が知る中でお前が一番だからな」
「その腕が鈍ってないことを祈るよ」
そう言うとマーカスは緊張が溶けたのか、少し笑った。
しばらくすると、都会の闇に埋もれてしまいそうな薄汚れたビルが視界に入る。
ジャッカルはここにいる、同僚は路肩に車を寄せると、エンジンを切り、ゆっくりと呼吸をする。
「本当にやるんだな」
ジャックは、ホルスターから拳銃を取り出し、ハンマーを下ろす。
「後戻りはできない」
ジャックは静かにそう呟いた。
2人は車を降りると、入り口の前に立った。
辺りには通行人の影はない。悪党が隠れるにはうってつけの場所だ。
ジャックは、開かなくなった自動ドアを手で開けると、中へと入っていく。
その後ろにマーカスが続く。
目前にエレベーターが見えるが、自動ドアすら動いていないビルだ、おそらく動かないだろう。
2人はエレベータ横の非常階段から上へと上がっていく。
このビルは5階建てで、ジャッカルは3階にいるはずだ。
2人が階段を上がる音だけが、響く。
その音はビルの壁に吸収されていく。
そして3階にたどり着くと、ジャッカルがいるであろう部屋の前に2人は並んでいた。
その時、2人の耳に男の怒鳴り声のようなものが聞こえた。
ジャックは間髪入れずにドアを蹴破ると、銃を構え中へと入っていく。
2人が廊下を進んでいき、明かりが漏れるドアを開けるとそこには3人の男がいた。
一人は椅子に座り、両腕を天に突き出している。
そして二人はその男に向かい銃を構えている。
「これは随分と愉快な状況だな」
ジャックは3人の男の顔を見ながらそう言った。
「お前ら一体誰なんだ」
今にも泣き出しそうな男はジャックに向かい訪ねた。
それと同時に2人の男がジャック達に敵意を向ける。
「部外者は出て行ってもらおうか」
返答の代わりに、ジャックは向かってきた男の顎に拳を振るう。
倒れた男の後ろから、もう一人が銃を構えようとするが間に入ったマーカスがその男の腹に蹴りを入れる。
情けない声を出しながら、2人の男は地面に這いつくばる。
それは一瞬の出来事だった。
「お前がジャッカルだな?」
ジャックはそう尋ねる。
ひどく驚いた顔をした男は腕を下ろし答えた。
「確かにそうだ、助かったよ」
「お前に聞きたいことがある」
ジャックは懐から1枚の写真を取り出し、ジャッカルへ突きつける。
「この男を知っているか?」
ジャッカルは壊れた扇風機のように首を横に振る。
「知らない、本当だ」
ジャックは呆れた様子で、マーカスを呼びつけ耳元でささやく。
「外を見張っててくれ、俺はこいつとじっくり話合わなきゃいけない」
「あまり時間をかけるなよ、こいつら2人の身元もわからないんだ」
そう言うとマーカスは地面に横たわる2人の男に目を向ける。この様子じゃ当分目は覚まさないだろう。
「時間がかかるかどうかはあいつ次第だ」
それを聞くとマーカスはジャックの肩を叩き、玄関へ向かった。
室内には男が2人、正確に言えば4人だが意識がない2人は勘定には入らない。
「いいか、もう一度聞く、この男を知っているな」
「助けてくれたことには感謝してる、だが俺も無い袖は触れないぜ」
ジャックはジャッカルの髪を掴むと、机に叩きつけた。
「本当に知らないないのか」
その手は後頭部を掴んだままだ。
机の上に点々と血が垂れる、鼻を強く打った性だ。
「そいつのことを話したら殺される、あの2人も俺を口止めにきたんだ」
必死にジャッカルは秘密を守ろうとする。
「政治家が殺されてる、それについてはどうだ?」
「政治家なんて殺されて然るべきだ」
ジャックは掴んでいた手を離すと、そのまま拳を振り下ろした。
「お前の考えを聞いてるんじゃない、質問に答えろ」
「頼む、俺は死にたくねぇんだ」
鼻と口から血を流しながら、ジャッカルは必死になっている。
しばらくジャックは動きを止めた。
「自分で選んで情報屋をやっていたんだろ、それくらい覚悟の上で」
血が混じった茶色い涙を流しながら、ジャッカルが口を開こうとした。
その時、マーカスがドアを開け、ジャックに近づく。
「おい、緊急事態だ」
ジャックはホルスターから拳銃を抜き、答える。
「なんだ?」
「誰かがこっちに来るぞ」
マーカスも同じく銃を構える。
そこでジャッカルが口を開いた。
「終わりだ、組織の奴らがきやがった」
組織、その言葉が妙に引っかかる。
だが時計の針は止まらない。
「こいつを連れてここから出るぞ」
「わかった」
そう言うとマーカスはジャッカルの肩に手を回し立たせる。
「妙なことは考えるなよ」
ジャックが先導し、玄関を出ようとしたその時足元に廊下の影から銃声が響く。
すかさず、ジャックも応戦するが、敵の姿が見えない。
「強行突破しかないな」
マーカスはうなづくと、ジャックの肩に回した手にいっそう力を込めた。
3人は非常階段を目指して走る、だがそううまくは行かない。
前方からスーツの男があらわれこちらに向かい発砲する。
弾丸がジャックの肩をかすめる。
ジャックは反射的に男の膝に向け、発砲した。
発砲音ののち、男は足から崩れ落ちる。
倒れた男の頭をジャックは蹴り飛ばした。
「平気か?」
マーカスが肩の傷を気遣う。
「かすり傷だ、さっさとここを出るぞ」
ジャックの上着に血が滲んでいる。
それを物ともせず、ジャックは先行して非常階段へたどり着いた。
ジャックが階段を降りようとした時、下の階から男がジャックへ向け発砲した。
しかし弾丸はジャックの頭上の蛍光灯を撃ち抜いた。
既に薄暗かった階段から光が奪われる。
ジャックは身をかがめ、相手の出方をみる。
ライトは携帯しているが、使えばこちらの居場所を悟られる。
後ろを見ると、マーカスが銃を構えている。
「俺に任せろ」
マーカスはそう言うと、ジャックの前に立ち、階下を見下ろした。
男がさらに発砲したその時、同僚はそのマズルフラッシュを見逃さなかった。
マーカスが発砲すると、暗闇の中から呻き声が聞こえる。
どうやら命中したらしい。
ジャックは下に降り、呻き声のする方へライトを点ける。
男は肩を撃ち抜かれ、銃を落としている。
3人はその男を尻目にエントランスへ降りて行った。
そして車に乗り込む、マーカスが運転席に座り、ジャックとジャッカルは後部座席へと座った。
「どこに向かえばいい?」
「署に向かえ」
それを聞くとマーカスはアクセルを踏み込んだ。
3人はマンションを後にする。
ジャックはしばらく後ろを眺めている、追手が来ていないことを確認すると、息を吐いた。
「質問に答えれば証人として保護してやる」
ジャッカルはしばらく考える表情をし、何も答えない。
「組織が来たんじゃ俺の寿命もそろそろだな」
「その組織とはなんだ」
「権力者のためにどんな汚れ仕事でも受ける人間の集まりだ、犯罪者や元軍人の集まりだと言われてる、身寄りのない子供を拾って仕事をさせるなんて話も聞いたことがある」
「何故、お前がそんな奴らに狙われるんだ」
「知りすぎたのさ、色々とな」
ジャックは煙草を取り出し火をつけた、車内に煙が立ち込める。
「一本もらえないか?」
無言で煙草とライターを差し出すと、ジャッカルは煙草を咥え火をつけた。
「組織は常に権力者の意向に従って仕事する、今1番の権力者はデイブだ」
ジャッカルは大きく煙を吐いた。
「あの殺しはデイブの指示で組織が実行したってことか」
組織、そんなものがこの世に存在していることを今知った。
自分が今まで戦ってきた犯罪者とは訳が違う。
「俺も終わりだ」
ジャッカルの煙草を持つ手が震えている。
「おい、検問だ」
煙たい沈黙をかき消すようにマーカスが口を開くと、ジャッカルは前に乗り出す。
パトカーが1台、警官が路上に立ちこちらに止まるよう指示を出している。
マーカスが車を停め、窓を開けるとサングラスをかけた警官がこちらに近づいてくる。
「すみません、一度車から降りてもらえますか?」
「勘弁してくれよ」
マーカスがバッチを取り出そうとダッシュボードに手をかけたその時、男が銃を構えた。
「車を出せ!」
ジャックが叫ぶと、マーカスは反射的にアクセルを踏み込んだ。
男が車に向け、何発か発砲する。
ジャックの耳元で窓が割れる音が響く。
加速する車は停車していたパトカーのサイドミラーを折った。
「どうなってる!」
マーカスが狼狽する。
「分からないが、署には向かうな」
ジャックはホルスターから銃を抜く。
「お前は無事か?」
ジャカルの方を向くと、ジャッカルは肺を撃ち抜かれ、浅い呼吸を繰り返している。
「嘘だろ」
マーカスはバックミラーからその様子を眺めている。
ジャッカルは口から血を吐き出し、空な目をしている。
「おい、デイブはどこにいるんだ。答えろ!」
ジャックが叫ぶ、傷に手を当てて止血を試みるが、明らかに手遅れだった。
「明日の朝、港の倉庫で奴が娘と会う」
ジャッカルは途切れ途切れに言葉を吐く。
「おい、まだ死ぬな」
だがジャックの言葉は既に届いていない。既に男の目は光を失っていた。
「なんてことだ」
マーカスは片手で額を抑えている。
「撃ったのは警官だったぞ」
マーカスは理解ができない様子だったが、ジャックには考えがあった。
組織はチンケな犯罪集団ではない、警察内部にも潜んでいる。
「下ろしてくれ、ここから先は俺一人で方を付ける」
「ここまで付き合ったんだ、最後まで一緒だ」
マーカスはジャックの目を見る。しかし答えは決まっていた。
「いいか、これ以上踏み込めば警察ですら敵に回すことになる、そんな役目は俺一人で十分だ」
ジャックの考えは変わらない。マーカスもそれを知っていた。
車はゆっくりと路肩に止まる。
「何かあったらすぐに呼べ、必ず助けに行く」
車を降りるジャックの背中に向け、マーカスは叫んだ。
「じゃあな」
最後の挨拶にしては幾分淡白だったが、2人の間ではこれで十分だった。
ジャックは車を見送ると煙草に火をつけ歩き始めた。
尾行はいない。
港の倉庫、デイブはそこに現れる。
これ以上奴の好きにはさせられない。
夜の闇の中を煙草の火種を頼りに進む、この事件もそうだった。

第二十三章 ジョン 深淵に踏み込む意思
ライフルを打った時の感覚が指にかすかに残る中、2人は歩いている。
「見事な射撃だった」
師匠はジョンを貶すことはあっても褒めることはあまりしない。
「ありがとうございます」
ジョンは前を歩く師匠の背中に向かって淡々と答えた。
自画自賛になるが、あの射撃は自分でも高評価だった、例え苦手だとしても訓練次第でどうにでもなるものだ。
3年の訓練は無駄ではなかった。
師匠は、玄関の扉を開け中に入る、ジャックも続けて入った。
師匠はそのまま今回の仕事に使用した資料を暖炉に投げ入れて燃やした。
「時が立つのはは早いな」
ジャックは独り言かと思ったが、しばらくしてそれが自分に向けて話していることに気づいた。
「お前を訓練し、武器を与えた」
「師匠、今日は随分と饒舌ですね」
ジャックは師匠から多くのことを学んだ、あらゆる武器の扱い、仕事のやり方を。
「俺からお前に教えることはもう無い」
突然のことに面をくらったジョンが返す言葉を探している時に、2人の間に置かれた電話が音を立てた。
「お前が出ろ、ただ出るなら覚悟しろ」
師匠の様子からして、それがただの連絡では無いことをジャックは知った。
「拒否権は無い、違いますか」
ジョンは電話を手に取る。
しばらくは無言だった、しかしそれは答えるべき言葉を見つけられなかったからだ。
「ジョン様でお間違い無いでしょうか」
交換手の女は落ち着いたトーンで語りかける、自分の名前が呼ばれているのにのにもかかわらず、現実味がなかった。
「はい」
絞り出せたのは一言だけだった、手に持っている電話機がひどく重たく感じる。
「現職の工作員1名の推薦を持って、あなたをコードネームジョンとして任命します、よろしいですか?」
この状況に置いて沈黙は肯定だった。
「明日、任命の式をとり行います、推薦者とともにこちらの住所へいらしてください」
ジョンは言われた住所を頭に叩き込む。
「それではジョン、幸運を」
一方的に電話が切れた。
ジョンはしばらく電話を持ったまま放心状態だった。
不思議なことに喜びの感情が湧かない、この世界に入ることは待ち望んでいたことではなかったのか。
自分一人でこの先の仕事をやっていけるのか。
不安が煙のように体にまとわりつく。
「これでお前も一人前だ、任命が済んだら自分一人でやっていくんだ」
その言葉からはひどく冷たいものを感じる。
「俺にはまだ無理です、それは師匠もご存知のはずだ」
「お前には全てをたたき込んだ、後はお前の意思の問題だ」
意思、そんなものは師匠から教わっていない。
ただ機械のように仕事をこなしていただけだ。
ただジョンはその言葉を飲み込んだ。
「もう寝ろ、考えたって答えが出ない問題は世の中に多くある」
ジョンはうなづき、自分のベットへ潜り込んだ。
普段なら仕事の後は深い眠りにつけるが、今日ばかりは目前に広がる暗闇を見つめることしかできなかった。
窓から日差しが差し込み、朝になったことを知る。
結局一睡もできず、ジョンは静かに体を起こした。
頭が鉛のように重い、手元にある拳銃で自分を撃ち抜けたらどれほど楽になるだろうか。
だが、そんなことをする勇気などない。
手早く着替えを済ませると、玄関をノックする音が聞こえる。
ここに来客が来たことなど一度してなかった。
背中に拳銃を差し、ジョンは玄関へと向かう。
注意深くドアを開けると、そこにはスキンヘッドにスーツ姿の男が立っていた。
「ジョン様でお間違えないですか?」
ジョンはうなづいた。
「本日の任命式には是非ともこちらのスーツでいらしてください」
ジョンの格好はTシャツにジーンズと、式にはいささか似合わない。
受け取ったスーツケースはずっしりと重い。
「何か入り用のものがありましたらこちらにご連絡を」
そう言うと男は名刺を差し出した。
名刺には男の名前と、電話番号が記載されている。
男は一礼すると、ドアを閉め、ジョンの視界から消えた。
ジョンは名刺をポケットにしまうとスーツケースをリビングへ運んだ。
中には男の言った通りスーツが上下セットで入っている、ただ普通のスーツではないことは確かだ。
ジョンは本日2度目の着替えを終えた、だがひどく落ち着かない。
いつの間にか師匠が自分の後ろに立っていることに気付く。
「まだ慣れないか?」
ジョンは肯定した。
「ひどく重く感じます」
「防弾加工が施されてる、当たり前だ」
やはり普通のスーツではなかったか。
「そろそろ出発だ、準備は済んでいるのか?」
机の上のベレッタにマガジンを差し込み、スライドを引く。
そしてそれを腰に挿した。
「準備はできています」
「置いていけ、そんなもの必要ない」
それを聞き、渋々ジョンはベレッタを机の上に戻した。
3年間訓練を共にした銃だ、そんなものではないのだが。
「行くぞ」
そう言うと師匠は玄関を開け、車に乗り込む。
ジョンは助手席に座ると、目を閉じた。
これから自身を待ち受けるものを直視したくはなかった。

二十四章 ジャック 託された物
ジャックは街を歩いている、雲が月を隠し、わずかに灯る電灯だけが点滅を繰り返している。
煙草の火がフィルターを焼き尽くしたところでそれを路上へ捨て、靴で火を消した。
夜が明ける前に行かなくてはいけない場所がジャックにはあった。
自分が死ぬのだとしたら、あの人にだけは伝えなくてはいけない。
ただの若造から自分を警官にしてくれた2人目の父親に。
ピアース、その名を聞けば犯罪者は震え上がる、根っからの警官で、決して悪を許さなかった。
周りが管理職になり、社内政治に性を出す中でも、決して現場から離れることはしなかった。
その姿はまさしくマーカスが憧れるコミックのヒーローであり、ジャックもその姿に憧れ警官を目指した。
彼の家の前に立つ、以前訪れた時とは打って変わって、荒れ果てた庭が彼を出迎えた。
ドアをノックする、一回、二回。
しかし、家の中から音はしない。
ジャックがドアノブに手をかけた時、ドアの中から声がした。
「こんな夜更けに何のようだ」
彼の声を久々に聞いた、最後に聞いたのはいつだったか。
「俺です、ピアース捜査官」
少し間が空いて、ドアが開いた。
「ジャックか?」
ピアースの手には杖が握られている。しかし立ち振る舞いは以前と変わっていなかった。
「お久しぶりです」
緊張しているのか、それ以上の言葉を絞り出せなかった。
ピアースは目を見開き、ジャックを抱擁した。
「本当に久しぶりだな」
ピアースは手を離すとジャックを招き入れた。
「入れ、何か用があってきたんだろ?」
ジャックは玄関に上がり、ピアースの後を歩きリビングへと向かった。
中央に置かれたソファにピアースが腰を下ろすと、その対面にジャックも座った。
座ったはいいが、ジャックは言葉を探しかねていた。
「煙草はまだやるのか?俺に構わず吸っていいぞ」
ピアースはこちらに空の灰皿を寄越した、ジャックはピアースが肺を悪くしたことを知っていた。
「いえ結構です」
ジャックは掌を合わせ、自らの靴を眺めながら話し始めた。
「デイブを知っていますか?」
「あぁ知っている、奴に手を出すのか?」
ピアースは知っている、まだ彼が現役なら確実にやりあっている相手だ。
「もう手は出しました、そのことについて話に来たんです」
しばらくの沈黙の後、ピアースは口を開いた。
「それで?死ぬかもしれないから俺の所に来たと?」
ジャックは途端に自分が責められている様な感覚を覚えた。
ピアースは席から立ち上がった。
「俺が現役の頃にそんなことを気にしていたと思うか?」
ジャックは記憶を辿った、犯罪者との銃撃戦、違法な取引現場への追い込み、時にはカーチェイスまでやってのけた。
彼は常に自分の部下の安否を気遣った、おかげで自分と同僚は大きな怪我をすることはなかった。
しかし、それ以上に彼の体が傷ついていることをジャックは知っていた。
「いえ、あなたは英雄だ、自分の死など気にしていなかったでしょう」
するとピアースは笑った。
「若造が、俺が引退してから何も成長してないのか?」
笑った後、ピアースは続けた。
「俺は英雄じゃない、ただの警官だ、お前らの前じゃカッコつけていたが、怖かったに決まってるだろ。だがな、誰かがやらなきゃいけなかった、それが俺の役割だった」
ピアースはジャックを見つめている。
「お前の役割は何だ?昔の上司の家で弱音を吐くことか?」
同僚の前では強気で入れたが、この人の前ではそうは行かないなと思った。
ジャックは、静かに答えた。
「デイブに、いや悪党に法の裁きを受けさせるそれが俺の役割です」
ピアースはうなづいた。
「俺が現役なら、いやそうじゃなくともお前らがいるなら心配はなさそうだな」
ピアースはジャックを見つめる。
「必ずだ、必ずデイブにしかるべき裁きを与えろ」
そう言うと、ピアースは布に包まれた重たいものを机に置いた。
ジャックはそれを受け取り、布を解いた。
44マグナム、ピアースは周りから装備を変えろと言われても頑なにリボルバーを携帯した。
ジャックはリボルバーを握り、弾倉を確認する。
「お前にやる、後これを着ていけ、お前だいぶ酷い格好をしてるぞ」
ピアースは茶色のコートを投げて寄越した。
ジャックは立ち上がり、弾が切れたコルトガバメントをホルスターから抜き、新たに44マグナムを指した。
ずっしりと重たく感じる。
血で汚れた上着を脱ぎ、コートを羽織る。
「立派だよ、若造にしてはな」
ジャックは着心地を確かめる。
「重たく感じます」
「じきに慣れるさ」
ジャックは時計を見る、そろそろ夜が明ける。
「行くのか?」
「お世話になりました」
2人は短い言葉を交わした。
ジャックは玄関に向かう、ピアースは再び席に座る。
「頑張れよ、若造」
ピアースはジャックに聞こえない声量でそう言った。
玄関を出て、白焼けした空を眺める。
もう夜の闇は無くなった。
役割を果たす、託された火種が激しく燃え上がる。
もはや迷いはなかった。

二十五章 ジョン 逃れられぬ場所へ
目の前に銃口が突きつけられる。
声を出そうとするが、口は開かない。
視線を銃口から外すことができない、助けてくれ。
考える間もなく、銃口が光る。
意識は暗闇へと落ちていくかと思われた。
「着いたぞ」
師匠の言葉で、ジョンは目覚める、どうやら車の中で眠っていたらしい。
意識がはっきりしない、何度か頭を振る。
車のドアを開け、ジョンは地面に足を下ろした。
「お待ちしておりました。ジョン」
今朝玄関で顔を合わせたスキンヘッドの男が顔に貼り付けたような笑顔を浮かべている。
「こっちだ」
ジョンは師匠の後ろを歩く。
目の前には古めかしい洋館が立っている。
手入れが行き届いているようで、古いながらも威厳を感じさせた。
師匠とジョンが門の前に立つと、門が開かれた。
中にはスーツ姿の男女が並んでいた、殺意ではないが、値踏みするような視線がジョンは気に入らなかった。
すると洋館のドアが開き、一人の女が深々と頭を下げる。
「ジョン、こちらへ」
その女の声をジョンは覚えていた、以前聞いたときは電話越しだった。
「ここから先はお前一人だ」
師匠がジョンへ道を譲った。
ジョンは玄関へ向かい歩いた。
後ろを振り返り、師匠の顔を見たかったが、そうしてしまってはここまで保ってきた意志が揺らぐと感じた。
洋館の中は、外から見るほど広くはなかった。
豪華なシャンデリアが屋上からジョンを見つめている。
「式の準備はできております」
女の示す先には木造のドアが一つ。
ジョンはドアに手をかける。
見た目に反し、開くのに力がいる。
ジョンは力を込め、ドアを開けた。
「ノックも無しか、あいつは君に礼儀を教えなかったのか?」
ジョンの目前には男が2人、一人は真正面の机の横に立っており、一人は椅子に座っている。
ジョンに苦言を呈したのは、椅子に座っている男だろう。
「仕事以外のことは教わっていません」
ジョンは言い放った。
すると、立っていた男は笑いだす。
「若いのにたいしたもんだな、度胸がある」
ジョンは笑っている男を睨み付ける。
「まぁいいだろう、無礼であろうと君はあいつが認めた男だ」
椅子に座っていた男は手を叩き、話を進めた。
「大体のことは聞いていると思うが、これは君の任命式だ」
「君は我々の組織に加わり仕事をすることになる、そこでだ」
すると机の上に一枚の紙が置かれる。
「君は契約を交わしてもらう」
その一言で、部屋の空気が変わった。
「俺に何を求めているんですか」
「忠誠だ、君が使える人間であることを示してもらう」
ジョンはその紙に目を落とす。
そこには自分の名前だけが書かれていた、それ以外は白紙だった。
「君の血盤を推せ」
ジョンは右手の親指の腹を噛みちぎり、血が滴る指を紙に押し当てた。
そして、その紙に着いた血が乾く前に男の方へ紙を向けた。
「これが忠誠ですか?」
男は首を振る。
「これはただの契約だ、だがこれを持って君を組織に迎えよう」
「そして君には仕事をこなしてもらう」
すると、立っていた男がジョンに近づき握手を求める。
「私はデイブ、君の最初のクライアントだ」
ジョンはしばらくデイブの目を見た後、握手に応じた。
「では仕事の話を」
するとデイブは机の上に地図と写真を何枚蚊並べた。
地図が指す場所は、海岸の倉庫だった、依然師匠と共に近くを通ったはずだが、寂れた建物と言う印象しかなかった。
おそらく人など通らないのだろう、仕事をするには好都合だった。
「標的はこの女だ」
すると机の上の写真を滑らせ、ジャックへ寄越した。
ジャックはその写真を取り上げる。
写真に写っていた女はジョンよりも幼く見えた。
「この女を殺してほしい、なるべく苦痛は与えずに」
「それなら問題ない、一瞬で終わらせる」
デイブは口笛を吹き、ジョンを見つめる。
「この女は私の娘なんだ」
その口調は自分のコレクションを自慢するかのようなものだった。
仕事をする際に気を付けることは必要以上の情報を聞かないことだ、特に引き金を引く指が鈍るようなことは。
「あんたは自分の娘の殺しを依頼するのか?」
口に出した後で、ジョンはそれを後悔した、だが既に遅かった。
ジョンの一言で、すでに重たかった部屋の空気がさらに重たくなり、ジョンの肩にのしかかる。
「何か問題があるのか?ジョン」
デイブがジョンを見つめる、その目には明らかな殺意が込められていた。
ジョンは自分が武器を携帯していないことを後悔した。
「気になっただけだ、問題ない」
しばらくの沈黙、首筋に汗が流れる。
「発言には気をつけた方がいい、ジョン、短い寿命がさらに短くなる」
デイブの顔から怒りは既に消えていた。
この男は危険だ、危険信号が最大音量で鳴り響く。
「仕事の話に戻ろう」
するとデイブは腕時計を眺める。
「明日の明朝、この倉庫で娘と会うことになっている、久々の親子の再会だ、君は私の護衛の1人として同行してもらう」
明朝か、すぐにでもここを出て準備に取りかかりたい。
ジョンはうなづき、もう一度標的の写真を見る。
写真の中の標的はカメラに向け、笑顔を浮かべている。
しかしそれが作り笑いだと、ジョンにはわかった。
これ以上この写真を見ると仕事に支障が出る、ジョンは裏を向け机に写真を戻した。
「娘は警戒などしていないだろう、私の合図と共に娘を殺せ、何か質問はあるか?」
「この情報を他に知っている奴はいないか」
この仕事で情報は大きな意味を持つ、以前情報が漏れていたせいで師匠とジョンの計画が狂ったことを思い返していた。
デイブはしばらく考えた後、座っている男に視線を合わせた。
「ロイヤル・ハリヒアは今夜決行される」
男は答えた。
ジャッカル狩りを指す言葉が何故ここで出てくるのか疑問に思ったが、ジョンは以前の仕事で情報を買った男の通り名がジャッカルであったこと思い出した。
あの男は師匠に対し、仕事を引退したいと漏らしていた。どうやら引退は今夜らしい。
「と言うことだ、我々以外にこの情報を知る者はいない」
いなくなるの間違いだろ、と言う言葉をジョンは飲み込んだ。
「こちらから質問はない」
「よろしい、ではよろしく頼む」
そう言うと、デイブは足早に部屋を後にした。
「銃が必要だ」
男に向かいジョンは言った。
「既に手配済みだ」
男の声と共にスキンヘッドの男がドアを開けた。
「ジョン、別室にて装備のご確認を」
ジョンはうなづき部屋を後にする、後ろ手でドアを閉め、目の前の男の後を歩く。
緊張からか、来ていたシャツが汗で濡れている。
するとスキンヘッドの男がドアの前で立ち止まり、ドアの横に手を当てた。
ドアが開き、ジョンは促されるまま中に入った。
部屋の空気がひどく涼しく感じる、それは汗ばんでいるせいではなく、部屋に飾られた銃の冷気によるものだろう。
「ジョン、どうぞこちらへ」
スキンヘッドの男はジョンを部屋の最奥に配置されたカウンターのような場所に案内した。
ジョンは置かれた椅子には座らず、立っていた。
スキンヘッドの男は立っているジョンに何かを言うわけでもなく、カウンターを挟んでジョンの正面に立つ。
「では、必要なものをお申し付けください」
「ハンドガンを一丁、ホルスターと予備のマガジンを3つほしい」
「ハンドガンと言っても様々な種類がございます、どちらになさいますか?」
「任せる」
師匠の元で様々な銃の取り扱いの訓練は受けた。
だが銃のチョイスの仕方は教わっていない。
「今朝お会いした時はベレッタを携帯していらっしゃいましたね、確かにあれはいい銃ですが、今回の仕事には不向きかと」
背中に銃は隠したつもりだった、この男はただの仕立て屋ではないらしい。
「こちらはいかがですか?オーストリア産のグロック34です」
そう言うと、男は壁のから一丁のハンドガンを取り出し、机に置いた。
その手つきはまるで骨董品を扱う商人だ。
ジョンはグリップを握り、構える。
グロックシリーズの中でも34はバレルが長く設計されおり、室内戦、室外戦の両方に対応できる。
だがその長さゆえに携帯性を犠牲にしている。
「携帯性がほしい、もう少し小ぶりな物はないか?」
男はジョンが机に戻したグロックを壁に戻すと、しばらく考えるそ仕草をする。
「ではこれはいかがでしょう」
男はそう言うと、今度は壁からではなく、机の引き出しからハンドガンを取り出した。
ジョンの目の前に置かれたのはワルサーPPK、ドイツ産の自動拳銃。
法務機関用に小型化されたそのフォルムは携帯性に優れている。
そして威力も申し分ない、ジョンはグリップを握り、何度か構え、感覚を確かめる。
「これをもらおう」
男はうなづき、ジョンの腕からワルサーPPKを預かると丁寧に布に包んだ。
「今すぐ欲しいんだが」
ジョンは困惑の表情を浮かべる。
「えぇ本日中にこちらで然るべきメンテナンスを行い、お部屋にお届けいたします」
すると男は机の上に財布と、鍵をおいた。
「頼んだのはホルスターとマガジンだ」
「いえ、こちらはジョン様の仮の身分証になります、仕事の際に必要になるかと」
ジョンは財布を取り中を見る。
中には相当な量の現金が入っている。
「この現金は?」
「仕事の範囲であれば自由にお使いいただいて結構です」
「なら装備の代金はこっから出すべきか?」
「いえ装備にかかる費用はジョン様の報酬から引かせていただきますので結構です」
ジョンはうなづくと財布をポケットにしまい、その場を後にする。
そこに男が声をかける。
「幸運を」
屋敷を出るとすでに師匠の姿は見当たらなかった。
その代わりに1台の車と女がマッジョンを待っていた。
「師匠は?」
「すでにお帰りになられましたよ」
ジョンはもう師匠に会うことはできないと微かに感じた。
「鍵は受け取りになられましたか?」
ジョンは財布と共に受け取った鍵を女に見せる。
「それはジョン様の新しい住居の鍵となりますのでお忘れなきよう」
女は後部座席のドアを開け、ジョンはそこに乗り込む。
女は外からドアを閉めると、運転席に乗り込んだ。
「これから新しい住居にお送りいたします」
音はエンジンをかける。
不思議なことに振動を一切感じない。
女と話す気にもならなかったので、ジョンは外の景色を眺めることにした。
しかし窓はスモーク加工がされており、景色を見ることはできない。
自分が置かれた状況と一緒だなとジョンは鼻で笑った。
「何か言いましたか?」
女はミラー越しにジョンをみた。
「いや、何も」
車は発進した。
新しい役割を果たす、自分の意思で。
ただ自分の意思など、どこにあるのだろうか。
ジョンは見えない景色を想像で補いながらそう思った。

第二十六章 ジャック 因縁の始まり
白焼けの景色の中でジャックは一人海岸に座り、海を眺めていた。
耳には砂浜を流れる波の音だけが聞こえる。
デイブが訪れるであろう倉庫はここから歩いて約5分といったところか。
ここからなら出入りする人間がはっきり見える。
作戦などなかった、ただそこに行き、自分の役目を果たすだけだ。
ジャックの視界に1台の車が映る。
後部座席のガラスはスモーク加工されており、中が見えない。これだな、ジャックの勘がそう告げる。
車は倉庫へ向け走り去っていく。
「いよいよか」
ジャックはそう呟くとその車の後を追うように歩き出した。
倉庫には巨大な出入り口が一つ、そこから以外は出入りができないように見える。
ジャックは見張りが来るよりも早く、出入り口から倉庫の中へと入った。
倉庫の中には無数の積荷やクレーンが置かれており、ジャックはその影に身を隠す。
身をかがめながら、ホルスターからリボルバーを取り出し、引き金に指をかける。
ジャックは静かにデイブが現れるその時を待った。
車から降りる無数の足音がジャックの耳に聞こえてくる。
足音からして、おそらく4人。
2人が出入り口の警備のため、車から早足で歩いていく。
残された2人が何やら会話をしてるが、ここからではよく聞こえない。
ジャックは音を立てぬよう身を起こし、話している2人へ目を向けた。
女だ、その横顔からはまだ幼さを感じる。少女と呼ぶのが適切か。
何やら横の男と話しているがここからではその内容までは聞き取れない。
どうなってる、ジャッカルが最後に嘘をついたとは考えられない。
ここで待つか、それとも出直すか。
血を吐きながら、言葉を絞り出した男の顔を思い出す。
新たに聞こえた車のエンジン音が、ジャックの疑問を打ち消した。
黒のクラウンが倉庫へと入ってくる、ジャックは頭を下げた。
出直す選択肢は無かった、ジャックにはそこにデイブがいるという確信があった。
「会いたかった、愛しの娘よ」
男が発したその声が倉庫内に響く、隠れていたジャックの耳にも聞こえた。
その数秒後、銃声が響き、倉庫内の空気が変わった。
どうやらただの親子の再会ではないらしい。
ジャックは身を乗り出す、中央に立っている男の顔が目に飛び込む。
デイブ、随分と待たせてくれたな。
ジャックは気付くと叫んでいた。
リボルバーの銃口はデイブを捕らえる。
引き金を強く引き絞る。
これで終わる。一人の悪党と自分の役目が。

二十七章 ジョン 自らの意思
時計の針が午前4時を指した。
早朝と呼ぶにはまだ窓から見える空は暗かった。
ここに着いた後に届いた荷物、仕事に使う銃のメンテナンスはとっくに済ませてあった。
今回は銃口のチェックも忘れてはいない。
スーツパンツにシャツの姿で、部屋のソファに腰を下ろしていた。
ジャケットはハンガーにかけたまま玄関に置いてある。
早朝に迎えが来ると、車を降りる際に女が口にしていたことを思い出す。
そろそろだな。
独り言を呟き、目の前の机に並べた銃に目を落とす。
ワルサーを手にとり、3つ並んだマガジンを一つ取り上げると装填する。
何度か室内の暗闇に向け、銃を構える。
そしてホルスターを腰の左右に装着する。
右側にワルサーを挿し、左には2個のマガジンを挿す。
腕時計をつける、4時5分を示している。
その時、ドアをノックする音が部屋に響いた。
時間だ。
財布を手にとり、玄関にかけられたジャケットを羽織る。
そして内ポケットに財布をしまう。
ドアの外には、自分と同じスーツを来た男が立っている。
「下でクライアントがお待ちだ、準備はいいか」
ジョンはうなづき、その男の前を歩く。
黒のクラウンが止まっているのが目に入る

ジョンが近づいたのを確認すると、後部座席のドアが開く。
乗り込むと、奥側に座っていたデイブがこちらを見いている。
「眠れてないようだな」
ジョンはシーツに深く体を沈ませる。
「仕事に支障はない」
「釣れないな、これでも君の体を心配しているんだ」
ジョンは話したくは無かった、首を横にふると目を閉じた。
「まぁ娘を殺してくれるのならば、言うことはない、君のその態度も許そう」
運転手がアクセルを踏み込み、ゆっくりと車は発進した。
しばらくして、ジョンは目を開ける。
目的地に着くまでまだ時間はある。
「前に座ってる2人は誰だ」
「私の部下だ、君と二人と言うのも気が引ける、君は師匠と2人が似合っている」
「あんたが師匠の名を口にするな」
「おい、発言に気を付けろよ」
助手席の男がジョンの方へ顔を向ける。
「やめろ」
デイブが男を制する。
「言ったはずはずだ私は彼の態度を許すとな」
助手席の男は頭を下げると、再び前を向いた。
「すまない、君の師匠のことは口にしない」
デイブは頭を下げる。
ジョンはその発言を無視し続けた。
「前の二人も動くとなると、こっちが動き辛くなる」
「彼らも素人ではない、チンケな犯罪者ではないことは私が保証する」
ジョンはデイブの方へ視線を向ける。
「邪魔になるなら、俺がこいつらを始末する」
デイブは吹き出したように笑うと、懐からナイフを抜き、刃を指でなぞる。
次の瞬間、身を乗り出し、助手席の男の首にナイフを突き立てた。
思わずジョンは目を見開いた。
男は反応することもできず、ただ血を流し、前に倒れた。
運転している男は慣れているのか、車の速度やハンドルに狂いは無かった。
デイブの腕は男の血で赤く染まっている。
それを気にかける様子もなく、ハンカチを取り出しナイフの血を拭き取ると懐へしまった。
「何をやってるんだ」
ジョンは冷静を保ちながら問いかけた。
「ん?あぁナイフに付いた血をそのままにするとすぐダメになってしまうんだ、知らないのか?」
ジョンはこの男の異常さを再認識した。
「あんたの部下じゃないのか」
「もう部下じゃない、悲しいがね」
「娘に怪しまれるぞ、その格好じゃ」
ジョンは血に染まった腕を見ながらそういった。
「慣れているから平気だろう、私の娘だぞ」
そう言うと、デイブは話す気がないようにため息を付いた。
ジョンもそれには同感だった。
しばらく車は道沿いに進み、海岸方面へ出た。
スモーク加工された窓からは空の明るさを正確に知ることはできない。
そろそろ目的地だ。
「私と娘が抱擁を終えたら、仕事を済ませろ」
デイブが独り言のような声量で呟く。
「あぁ」
車は道路を逸れ、倉庫に向け走る。
倉庫の入り口には見張りが2人。
車が止まり、デイブが降りるまで一瞬の間があった。
「幸運を」
そう呟くとデイブはドアを開けた。
ジョンもそれに続けて車から降りた。
倉庫の中は寂れていたが、他に護衛が潜んでいる可能性があるとジョンは感じた。
そして娘が立っていた、写真で見たよりも2、3歳は大人びて見える。
娘の目が自身を見つめていることに気づき、思わず目をそらした。
デイブはまるで舞台上の役者のように娘に歩み寄る。
「会いたかった、愛しの娘よ」
血がついた腕を広げ、娘を抱き寄せた。
娘の横に立っていた護衛が一歩後ろに下がる。
娘はデイブの腕に抱かれ、目を閉じている。
長い抱擁が終わり、デイブは娘の目を見つめながら、何かを呟こうとする。
時間は今だ、ジョンがホルスターから銃を抜いたその時、銃声が響きジョンの腕から銃が弾き飛ばされた。
思わず腕を押さえる、どこから撃たれた?
その時、叫び声を上げながら男が銃を構えているのが目に見える。
銃口はデイブに向いている、ジョンは地面に落ちた銃に目を向ける。
だが間に合わない。
その時娘がデイブに向け飛び込み、デイブを後方に押し飛ばした。
銃弾はデイブの後ろの車に当たり、金属音が響いた。
隠れていた護衛か、ジョンには判断できなかった。
瞬間、男が後方から撃ち抜かれ、うつ伏せに倒れた。
ジョンは左腕で銃を拾い、車の後ろに身を隠した。
倉庫の入り口にいた護衛がこちらに近づくが、2発の銃声で地面に倒れた。
運転手の男がデイブに近づき、前に立ち塞がる。
「誰だ!」
運転手が叫ぶ。
足音と共に、影から一人の男が歩いてきたのが、ジョンの目に映った。
右腕はまだ痺れている。左腕で銃を構える。
だがその男を見て、ジョンの動きは止まった。
銃声と共に、運転手は後方に吹き飛ばされ、車のボンネットに仰向けに倒れた。
デイブは立ち上がると、笑い始める。
「これは何の因果かな」
そこに立っていたのは師匠だった。
ジョンは立ち上がり、銃口を師匠に向ける。
「何であんたがここにいるんだ」
「お前が私に銃を向けている理由と同じだ」
ジョンは指に力を込める。
だがその瞬間、師匠は身をかがめ、ジョンとの距離をつめる。
ジョンが握っている銃に手をかけると、ジョンの足を蹴り飛ばし、体勢を崩した。
「何故仕事を果たさない、お前にはその力があるはずだ」
体勢を崩された際に頭を打った衝撃で、しばらく立ち上がることができない。
ジョンはゆっくりと立ち上がり、師匠の目をみる。
冷たい目だ、いつもそうだった。
拳を振りかぶるが、師匠の前蹴りが胃袋を潰す。
不可能だ、師匠に勝てるわけがない。
そんな考えが頭をよぎる。
「俺には勝てない、そんなことを考えているのか?」
こっちの考えを読まれていては勝負なるわけがない。
「見込み違いだった。お前を育てのは時間の無駄だった、自らの意志も無い者は必要ない」
目の前に銃口が見える、終わりだな。
「悪いが、君たちの感動の再会に付き合っているわけにはいかないんだ」
2人の視点がデイブに向く。
デイブは娘を羽交い締めにし、首に銃を向けている。
師匠は満身創痍の自分を一瞥すると、デイブに銃を向ける。
どうすればいい、自分に何ができる。
立ち尽くしていたところに、銃声が響いた。
どうせ死ぬなら自分でいい、そんな気分だった。

二十八章 ジョン 最後の銃声
暗闇から痛みを伴い現実に引き戻される。
背中が焼けるように痛む。
だがまだ生きている。
痛みを堪え、立ち上がる。
握られたリボルバーにはまだ弾が残っている。
痛みで視界が霞む、だがデイブが女を盾に立っていることは確認できた。
頭だ、1発打つのが限界だ。
幸いデイブの前に立っている2人は自分に気づいていない。
銃口を定め、引き金を引き絞る。
弾丸はデイブの左耳を撃ち抜いた。
衝撃でデイブは女を離し、地面に倒れる。
背中の痛みで、思わず膝をつく。
まだ終われない、もう1発、それだけでいい。
立ち上がり、ゆっくりとデイブに近づく、だが距離はまだある。
銃声がデイブの方向から聞こえる。
俺の役目なんだ、頼むから動いてくれ。
しかし体からはジャックの意志に反して力が抜けていく。
最後にジャックの視界が捉えたのは、倒れる2人の男の姿だった。

二十九章 ジョン 継承される物
銃弾はデイブの耳を撃ち抜いた。
その衝撃で解放された娘の元へ、師匠が駆け寄り、抱き抱える。
俺は仕事をしなくてはならない。
師匠の銃口がデイブの頭をとらえる。
それと同時にデイブの銃口も娘を捕らえた。
2発の銃声はほぼ同時だった、
銃声の後、デイブは仰向けに倒れた。
だがそれは師匠も同じだった。
ジョンは師匠も元へ駆け寄る。
娘がこちらを睨む、ジョンは手をあげ、戦いの意思がないことを示した。
「俺の師匠なんだ、頼むよ」
そう言うと娘は視線を師匠へ移した。
膝をつき、師匠をみる。
銃弾は胸を貫いていた。
「仕事を全うしろ」
師匠はジョンを睨む。
娘は師匠の体を抱き抱えている。
「俺には自分の意思なんて無かった、ただあんたの背中を見てただけだ」
師匠は口から血を吐く。
もはや長くはない、どうすることもできないのか。
「助けを呼ぶ、組織ならどうにかできるはずだ」
そう言って立ち上がろうとするジョンの肩に師匠は手を置いた。
「やめろ、組織は信用できない」
「じゃあ、どうすればいい」
ジョンは狼狽した。
「お前の意思で動け」
そんなものは持ち合わせていない。
「無いのなら、探せ、自分の意思を」
「あんたは見つけたのか?」
師匠は小さく笑うと、ジョンの目を見た。
「俺の二の舞にはなるなよ」
そう言うと、師匠は目を閉じ、2度と目覚めることは無かった。
「私を殺すの?」
娘は師匠の亡骸を抱えたままジョンを見る。
ジョンは持っていた拳銃を投げ捨てる。
「師匠への依頼は何だったんだ?」
「私の命を守ること」
師匠も自分も殺すばかりで、守るなんて仕事はしたことがなかった。
「逃げろ、俺はあんたを殺せない」
「あなたの仕事は私を殺すことじゃ無いの?」
「クライアントが死んだ、仕事は無効だ」
そう言って動かないデイブに視線を移す。
「あなたの師匠は組織に殺された」
「だろうな、だが俺に復讐する力はない」
どうすることもできない、意思がない自分には。
「私があなたのクライアントになるわ、それで組織を潰せばいい」
ジョンは娘を見つめる。
どうやらこの女も普通じゃない。
「私もあなたもしばらくは動けない、あなたは組織に戻り、私と師匠を殺したことにしなさい」
ジョンはしばらく考えた、師匠の言葉を反芻する。
「わかった、その依頼を引き受けよう」
そして2人は別れた。
師匠を殺した組織を潰す、この仕事は俺の意思でやり遂げる。

第三十章 ジャック 探偵として
目が覚めたのは病室だった。
体からはいくつかの管が伸びており、背中に激しい痛みが伴った。
呼吸を落ち着かせ、体の動きを確かめる。
首から下に順番に動かし、動くことを確認する。
俺は死にぞこなかったのか。
痛みを堪えながら、体を起き上げる。
窓から差し込む月光で、今が夜であることに気づく。
呼吸を整え、立ち上がると管が体から抜けたらしく、枕元のナースコールが音を立てている。
こんなところで寝ているわけにはいかない。
病室のドアを開け、廊下に出たところで、反対側からライトの光がジャックを照らす。
逃げようにも、足に力を入れると痛みが走る。
痛みを堪えながら必死に廊下を走る。
階段を駆け下り、病院のドアを開ける。
外は暗闇だった、大通りを避け、裏道を歩く。
呼吸をするたびに、肺が大きく収縮を繰り返す。
その動きが、自分が生きていることをわからせる。
そこからどう家まで戻ったかは覚えていない。
思い出すのはただ焼けつく様な背中の痛みだけだった。
そこから何週間か、時間が過ぎた。
その間に新しいアパートを見つけ、そこに息を潜めていた。
命令違反に、職権濫用、何故自分を警察が探しにこないのか、ジャックには見当もつかなかった。
この期間で、ジャックの傷は癒、自由に動くことができる様になった。
だがジャックは生きる目標を見失っていた。
考えがまとまらない、目の前のコップには何杯目かわからないウイスキーが薄暗い照明を受け、鈍く輝いている。
山になった灰皿からは、自分の考えの様な煙がたなびいている。
まともでいれば、自分の頭に向け引き金を引いてしまう。
コップを持ち上げ、中の液体を胃に流し込む。
喉が焼ける感覚が心地がいい。
「同じものを」
コップを持ち上げ、バーテンダーに話しかけたことろで、その手が何者かに掴まれた。
「探したぞ、ジャック」
ジャックはその声の主を睨み付ける。
だがその顔を見て、固まった。
「こいつにこれ以上、酒はいらない、水を頼む」
そう言うとマーカスはジャックの隣に腰をかけた。
「随分な有様だな」
隣に座っている同僚が、現実か酒が見せる幻影かどうか区別がつかない。
黒いスーツを着ている、おそらく自分の記憶から這い出た幻影だろう。
「やめてくれ、今は誰の話も聞きたくない」
そう言って幻影から目を逸らす。
無言で同僚は立ち上がると、ジャックの胸ぐらを掴み、席から立たせた。
「酔い醒めだ、ちょっときついぞ」
ジャックの腹に拳がめり込む。
これまで貯めていたものが、口から吐き出される。
同僚が手を離すと、ジャックは床に身をかがめ、吐き続ける。
少なかった周りの客が異常を察知し、店から出ていく。
マーカスはバーテンダーにバッチを見せると、バーテンダーは察した様に店の看板を閉店に変えた。
しばらくジャックは吐き続けた、胃液が枯れ果てると、身を起こし、床に座り込んだ。
「まともに戻ったか?」
マーカスはジャックを見ながらそう言った。
「自分がまともかどうかなんてわかりはしない」
乱れた呼吸を整えながら、ジャックは身を起こした。
席に座ると、バーテンダーが用意した水を飲み込む。
「気分は?」
「最悪だ」
そう言うとマーカスは一呼吸置いて、話を始めた。
「最初に言うと、お前は警察をクビになった、あの件の責任を全て被った形でな」
「俺を捕まえなくていいのか?」
「と言うより関わりたくないのさ、臭いものには蓋だ」
この数週間、逃げ続けた自分の行為がまるで無意味だったと、ジャックは笑った。
酒が必要だった、だが自分の胃はそれを拒否している。
ひどく咳き込むと、ジャックは水を煽る。
咳き込んだ影響で背中の傷が痛む。
「ジャック、お前も随分と傷を負ったな」
それは自身の誇りである警察という職を失ったことか、それともこの体の傷のことか。
「話を聞いてくれるか?」
マーカスが話し始めようとする。
やめてくれ、聞きたくない。
思わずジャックはマーカスの胸元を掴む。
「頼む、聞いてくれ」
マーカスはジャックの腕を掴み、その目を見つめた。
ジャックは観念し、胸ポケットの煙草に手を伸ばす。
だがポケットの中には、煙草の空箱が入っているだけだった。
そこに同僚がジャックに煙草を渡した。
「煙草はやめたんじゃないのか?」
「これは俺のじゃない」
同僚の差し出した煙草を咥え、火をつける。
口の中の不快感が煙とともに吐き出される。
「話してくれ」
マーカスはうなづき、静かに話始めた。
「まず、お前を見つけた現場だが、いくつも死体が転がっていて、最初はお前も死んでるんじゃないかと思ったよ」
ジャックはあの時のことを思い出す、数えきれない量の銃声と血が流れた。
「だが肝心のデイブの死体が見つからなかった」
やはりか、自分の撃った弾は頭には当たっていなかったことを思い出す。
「俺はやつを仕留め損なった」
「お前を責めてるわけじゃない、だがしばらくデイブは姿を現さないだろうな」
ジャックは拳を強く握りしめた。やつはこちらの手が届かない場所へ逃げた。
これで終わり、俺の行動は無意味だった。
「デイブの件はこれ以上話すことはない、強いて言うならお前が生きていたことだけが幸運だ」
「俺みたいのが生きていて何になると言うんだ」
マーカスはため息をつき、ジャックが咥えている煙草を見つめる。
「こんな時に言うことじゃないと思うが、俺、結婚したんだよ」
同僚には以前から気にかけている女性がいることは知っていたが、まさかそこまで進展しているとは。
ジャックは素直に驚いた、2人の間の重苦しい空気が軽くなった様に感じた。
「友人のスピーチってあるだろう?それをお前に頼みたかったんだがな」
「俺はそう言うのは向いていないし、表に姿を出せる人間じゃない」
マーカスは確かになと言って笑った。
「ピアースには教えたのか?」
ジャックはマーカスの顔を見て、何があったのかを悟った。
同僚の着ているスーツは喪服、誰の葬式か、その答えは明白だった。
俺は知らなかった、外部からの情報は遮断していた。
だがその結果、恩人の最期に立ち会う機会を失った。
「死んだんだな」
「お前が見つかったの同じ日にな、持病の発作だそうだ」
ジャックの目が潤む、力を入れなければ溢れてしまう。
ほぼ灰だけになった煙草を灰皿に押し付ける。
「あの人から、預かってるものがあるんだ」
そう言うとマーカスは机に一通の封筒を置いた。
茶封筒の表には震えた文字でこう示されていた。
「愛しい若造2人へ」
ジャックはそれを開け、中身を取り出した。
丁寧に二つ折りされた、1枚の紙だ。
文字が丁寧に記されている。
「読んでくれないか」
マーカスはうなづき、紙を受け取ると静かに読み始めた。
「そろそろ自分が死ぬことがわかった、まぁ好き勝手に生きてきた俺の生涯に今更後悔することなどないが、せめてお前ら2人は一言ぐらい残してやるのが礼儀だろう。ジャック、お前は俺の悪い部分ばかり受け継いだな。正義感は強いがそれ以外のことが目に入らない、自分が死んでもいいと無茶をするがやめておけ、それは俺と同じだ。自分の人生を生きろ。デューク、お前はいつもジャックの後ろにいたな、ブレーキ役であり、いい相棒だ。今後もジャックのことを頼む。」
マーカスは一呼吸置く、お互い残された言葉を反芻している。
「まだ続きがある」
マーカスはそう言うと再び紙に目を落とした。
「ジャック、お前が家に来たときは驚いたよ。どうせでかい失敗をして自暴自棄になっているんだろうな、だがなジャック、生きているなら戦い続けろ、誰かが正義を叫ばなければこの世はもっと悪くなる。後は任せたぞ」
ジャックはそれを聞き、抑えていたものが決壊した。
「あの人には敵わないな」
マーカスは紙を二つ折りにすると、ジャックの胸にそれを押し当てた。
「お前はどうするんだ?」
ジャックは紙を受け取ると立ち上がった。
「戦うさ、生きている限りはな」
その目には確かな力が宿っている。
マーカスも立ち上がり、持っていた紙袋をジャックに渡した。
「こいつは餞別だ」
中にはあの日ジャックが譲り受けたコートとリボルバーが入っていた。
ジャックはコートを羽織り、リボルバーをポケットに入れる。
「まるであの人を見てるみたいだ」
もう借り物の様な重さは感じない。
「今後はどうするんだ?」
ジャックは、静かに答えた。
「探偵でも始めるさ、俺は俺のやり方で戦う」
「ホームズ、それともマーロウか?ホームズならワトスンが必要だと思うんだがな」
マーカスの冗談にジャックは笑った。
「お前は俺の相棒だ、だが四六時中一緒ってわけじゃない」
マーカスはジャックに手を差し出した。
「お前が助けを求めたなら、俺は必ず助けに行く」
ジャックは差し出された手を掴み、マーカスの顔をみる。
そして2人はバーを出た、片方は探偵、片方は警官として歩き始める。

第三十一章 探偵そして殺し屋
激しい銃撃戦だった。
探偵は肩で呼吸し、壁にもたれかかる。
目の前にはスーツの男が立っている。
「あんた警察か?」
「違う、お前が殺し屋なら、俺は探偵だ」
そこにドアを蹴破って多数の足音が探偵達の前に姿を現した。
男たちはヘルメットを被り、防弾装備に身を包んでいる。
殺し屋が集団に向かい、銃を構える。
それに反応し、男たちも銃を構える。
「お前ら、銃を降ろせ、彼らは味方だ」
探偵はその声に聞き覚えがあった。だがその声の主は車の爆発で死んだはずだった。
男たちが道を開けると、声の主が姿を現した。
「ジャック、無事か?」
どうやら亡霊ではないらしい、その姿は紛れもなく相棒だった。
「生きていたのか」
探偵は同僚の肩に手を回す。
「俺はお前の相棒だ、あんなことじゃ死なないさ」
同僚もそれに答える。
「こいつらはお前が呼んだのか?」
「あぁ警察にもまだまともな奴らがいてな、無理な頼みだったが引き受けてくれた」
殺し屋が二人の間に割り込む、握っていた銃はすでに床に置かれていた。
「感動の再会中悪いんだが、デイブの件を片付けるのが先じゃないのか」
三人が向き合う、同僚は部隊に辺りの捜索を命じる。
「こいつは新しい相棒か?」
同僚が殺し屋に目を向け、ジャックに尋ねる。
「こいつは殺し屋だ、だが逮捕は待ってくれ」
「探偵に殺し屋、随分と愉快な状況だな」
すると部隊の一人が叫んだ。
「生存者2名を確保」
三人は声の方へ歩いていく、そこには男女が二人、床に座っている。
「ジェシー、大丈夫か」
そう言うと殺し屋は女へ近づき、胸に目をやる。
そこには銃で受けたであろう痛々しい傷が衣服を血で染めている。
一方男は肩に弾を受けており、痛みに顔を歪めている。
ずれたサングラスを直す余裕もないのか、生きも絶え絶えに叫び始めた。
「ふざけやがって、デイブが黙ってないぞ」
「こっちから会いにいくさ」
探偵はそう言い放つと、同僚は男の手に手錠を掛ける。
「連行しろ」
そう言うと部隊の男に連れられ、男は外へ消えていった。
「問題はあの女だ」
探偵は女に近づき膝をついた。
女の顔は出血の影響か白くなり、呼吸が浅い。
だが探偵はその顔を見て、何かを思い出した。
5年前のあの倉庫、狙われた少女。
「君は5年前の事件で生き残った、違うか?」
女は静かにうなづいた。
殺し屋が静かに口を開く。
「何故知っている、探偵」
「俺もそこにいたんだよ、デイブを殺すことができなかった」
探偵は殺し屋の目を見つめる。
「デイブの耳を削いだ銃弾はあんたが撃ったのか」
「今度は外さない」
そこに医療班が到着し、女性の手当てを始めた。
二人へ同僚が声を掛ける。
「さてこの後はどうする?」
「奴に引導を渡してやる」
サングラスの男が所持していた携帯が震える。
同僚はそれを持ったまま、ジャックを見る。
ジャックは携帯を受け取ると、電話にでた。
「お前の部下は全滅したぞ」
一呼吸おいて、笑い声が携帯から流れる。
「そうか、君らは随分と幸運だな、ジャックにジョン」
「俺を知ってるとは光栄だな」
「忘れはしないさ、まさか探偵になっているとは驚きだがね」
「お前が生きていることに比べたらどうってことはない」
「役者は揃ったわけだな、探偵に殺し屋、そして私の娘」
「お前に残されているのはエンドロールだけだ」
「因縁の場所で君らを待つ、最後に立っているのはどちらかな」
そこで電話は切れた。
探偵は携帯を同僚に返す。
「奴の場所がわかった」
同僚が探偵を見つめる。
「部隊が必要か?」
探偵が首を振る。
「必要なのは銃と車だ、銃を二丁頼む」
探偵は殺し屋を見る。
「また俺をおいてくのか?」
同僚は探偵に詰め寄る。
「これは因縁だ、立ち切れるのは俺とこいつしかいない」
しばらく二人は睨み合う。
「約束しろ、今度はしくじるな」
探偵は目線を逸らさない。
そして探偵に向け、車のキーを投げた。
その後ホルスターから拳銃を引き抜き、殺し屋に渡す。
「こいつを頼んだぞ」
懐からもう一丁の銃を出す。
「ありがとな、相棒」
二人はスライドを後退させ、弾が装填されていることを確認する。
そして建物を出て、同僚が用意した車に乗り込む。
あの場所まではそう遠くない。
エンジンをかけ、探偵は車を走らせる。
タイヤが地面を切りつける音だけが車内に響いている。

第三十二章 殺し屋 嵐を目前に
「俺を信用していいのか」
探偵はハンドルを操作しながら答えた。
「俺を殺すならいくらでもチャンスがあったろ、でもお前は俺を殺さなかった」
確かに殺す機会なら、山ほどあった。しかし自分はこの男を殺せなかった。
「一個聞いていいか、ジョン」
「俺の名前を誰から聞いた」
「電話でデイブがそう呼んでいた」
しばらく無言でいると、探偵は肯定と受け取ったのか、質問を続けた。
「お前は5年前、どうゆう因果であの場にいたんだ」
「俺はジェシーを殺す依頼をデイブから受けていた、だがそこに師匠が現れた」
「殺し屋にも師弟があるのか」
殺し屋の頭にはあの日の忌々しい記憶が蘇る。
「そこで師匠はデイブに殺された、デイブも死んだものだと思っていた」
「だが耳が吹き飛んだだけだった」
探偵が自嘲を持ってそう言った。
「その後、俺は女を逃し、殺し屋として仕事して今に到る」
「お互いあの日に何かを失ったんだな」
殺し屋は師匠の言葉を思い出していた。
そして、意思を奮い立たせた。
「俺とあんた、どっちがデイブを殺すんだ?」
「成り行きに任せるさ」
そう言うと探偵はアクセルを踏み込んだ、次々と車を追い越し海岸沿いを走る。
窓から、あの倉庫が見えてくる。
以前来た時と変わってない様に見える。
探偵は、少し離れた場所で車を止めた。
二人は無言で車を降りる。
そして、倉庫へ向かい歩き始める。
入り口を抜けると、そこに一人の男が立っている。
男は振り返る、その男の右耳は削がれ、無くなっている。
この状況でさえ、男からは焦る様な様子はない。
二人は銃を構える。
「美しい友情だな」
デイブはそう言うと、手を叩き、笑い始めた。
「諦めろ、お前は終わりだ」
ジャックの指に力が籠る。
「本来なら5年前に終わっていた命だ、君たちの前にいるのはその亡霊だよ」
何かがおかしい、デイブ以外が倉庫に隠れている様子もない。
何故この男はここまで余裕なんだ?
「娘はいないのか、まぁそれならそれで構わない」
「幕引きにしようか」
そう言うと、デイブはポケットから何かを取り出した。
ここからではよく見えない。
だが奴が何かをしようとしているのは明白だ。
殺し屋と探偵が引き金を引く、これ以上奴の好きにはさせない。
だが響いたのは、銃声ではなく、爆音だった。
轟音と共に爆風が二人を襲う、探偵は体勢を崩す。
だが意識ははっきりしている。
立ち上がり、周りを確認する。
倉庫は半壊し、周りは火に包まれている。
横には殺し屋が倒れている。
頭を打ったのか、出血している。
「おい、立て」
殺し屋の肩を叩く、薄く目を開き、殺し屋が目を覚ます。
探偵は殺し屋の腕を掴み、立ち上がらせる。
火の回りは早く、呼吸が薄くなる。
だが立ち上がったのは二人だけではなかった。
炎の中に男が立っている。
男の腕が伸びる、その手には銃が握られている。
銃口は自分に向いている。
動け、膝に力が入らない、煙を吸いすぎたか。
だが不意に探偵の体が、横に突き飛ばされる。
銃声が響く、探偵の目には銃弾を受け、倒れる殺し屋の姿が見える。
探偵は腕を伸ばす、銃口が男を捉える。
倉庫の崩れる音に銃声はかき消された。
弾丸は男の肩を打ち抜き、炎の中から男が消えた。
探偵は倒れた殺し屋を抱える。
体からおびただしいほどの出血が確認できる。
シャツは彼の血で赤く染まっている。
「なんで俺を助けた?」
「俺の意思だ、勝手に体が動いただけだ」
殺し屋は血を吐く。
「銃を拾ってくれ」
探偵は殺し屋の足元に転がる銃を拾い上げると、その手に握らせた。
「まだくたばるなよ」
二人の周りはまるで地獄だ、炎が壁の様に、立ちはだかる。
探偵は天井を、見つめる。
劣化し、起動していないスプリンクラーをめがけ、銃を構える。
「一か八かだな」
1発、2発と発砲するが、水が落ちてくることはない。
3発目でスライドは後退し、戻らない。
弾切れだ、これで万事休す。
諦め、地面に突っ伏したところで、頭に何か冷たい感触を覚える。
水だ。
パイプが破裂し、二人の周りに水がばら撒かれる。
炎の勢いが弱まる、今しかない。
「行くぞ」
探偵は殺し屋の肩を抱え、歩き始める。
だが二人の後方で笑い声が響く。
「まだ、幕引きには早い」
探偵の銃は既に撃ち尽くしている。
殺し屋は動ける状況ではない。
探偵は殺し屋の顔を見る、その目には意思が宿っている。
だらりと伸びた殺し屋の腕を探偵は持ち上げる。
蜃気楼の中に見える男は、本物の亡霊の様だった。
「終わりにしよう」
耳元で殺し屋がそう呟くと、引き金が引かれた。
そして、男の頭が後方に吹き飛んだ。
頭部へ1発、男は地獄の中で消えていった。
殺し屋の意識はそこと途切れる。探偵は抱えている腕に一層力を込める。
倉庫を出ると、探偵は膝を下ろした、既に体は限界を超えていた。
燃え盛る倉庫を見ながら、横に倒れている殺し屋に目を向ける。
「これで全て終わったな」
探偵はポケットから煙草を取り出し、咥える。
震えた指では上手く、火をつける事ができない。
「お手伝いしましょうか?ジャック様」
聞いた事がない声に振り返る。
そこにはスキンヘッドにスーツ姿の男が立っている。
男は腰を下ろすと、探偵の煙草に火をつけた。
煙を吸うが、五臓六腑に痛みが走る。
「あんたはこいつの仲間か?」
男は横に首を振る。
「私は誰の味方でもありません、サービスを提供するだけです」
「怪我をしてる、危険な状況だ」
「ジョン様なら心配ありません」
そうか、と探偵は言った。
そこに足音が近づく、
男はそれに気づき、一礼するとその場を離れた。
「君か」
「全て終わった様ね」
女は腕を組んでいるが、その下には血が滲んだ包帯が巻かれている。
「デイブは死んだ、今度こそな」
「あなたはには謝らなきゃいけないわね、ここまで巻き込んでしまった」
探偵は女の顔を見る、その目には涙が滲んでいる。
「謝罪はいらない、君の口から全て話してほしい」
「話せば、あなたの身が危険に晒される」
これ以上の危険があるのか、今日だけで体はボロボロだ。
「君はデイブの娘だろ、5年前に殺されかけていた」
女はしばらく、探偵の目を見つめていた。
「彼は全てを求めた、その結果私が邪魔になったのよ」
ありきたりだな、だがデイブもそれまでの男だったと言うわけか。
「そこでこいつの師匠が君を守った、命を犠牲にして」
「これはその彼の弔い、誇り高い殺し屋のね」
随分と大きな弔いだ、それほどまでに偉大な男だったのか。
「君らは、この後どうするんだ」
「デイブは死んだ、でもその後始末が残ってる」
どうやら俺のまだ知らない世界があるらしい。
「もう行くわ、あなたのお友達もそろそろ着く頃だし」
女は歩き始めた、探偵はそれを追いはしなかった。
何人かの男が、殺し屋を抱え、運んでいく。
探偵の後ろで、車のエンジン音が聞こえる。
その後、訪れた静寂の中で、煙草の焼ける音だけがそこにあった。

最終章 探偵 始まりは雨
それからは随分と慌ただしく時間が過ぎていった。
自分の体を診て、医者は生きている事が不思議だっと言った。
今度は病院を抜け出さず、体を治すことに専念した。
その後何度か、警察が現れ、今回のことについて聞かれたが、何も答えなかった。
話すにはあまりに長すぎる。
そして退院の日、同僚の車に乗り、ある場所へ向かっていた。
「お前が無事でよかった」
「そっちもな、勝手をやり過ぎて随分と肩身が狭いんじゃないか?」
信号で車が止まると、同僚は静かに話し始めた。
「上層部の連中がこの数週間で何人も自殺している、俺の処分などしてる場合じゃないのさ」
後始末、彼女の言葉を思い出す。そう言うことか。
「俺らが関わることじゃない」
信号機が青に変わる。
そうだな、と同僚が言うとアクセルを踏む。
「今度、俺の嫁さんと娘に会ってくれよ、ヒーローに会いたいって娘がはしゃいでる」
「俺はヒーローじゃない、ただの探偵だよ」
同僚は笑う、車はどんどん人気のない場所へと進んでいく。
車が止まると、同僚が探偵を見る。
「一人で行くんだろ?」
うなづくと、探偵は車のドアを開け、道を歩く。
しばらく進むと、探偵の目の前には墓石が一つ佇んでいる。
「終わったよ、ようやくあんたに顔向けできる」
探偵は煙草を取り出し、火をつける。
「一本付き合ってくれ」
もう一本の煙草に火をつけると墓石の上に置いた。
そこはピアースの墓だった。
彼の死を聞いたあの日から5年立ってやっとここに来る事ができた。
「来れずにすまなかった」
探偵はしばらく目を閉じる。
あの人は今の自分を見てなんと言うだろうか。
それは自分が死んだ後に聞けばいい。
探偵は煙草の火を消すと、それを拾いポケットにしまった。
そして、墓に背を向け歩き始めた。
同僚の車へ戻る道を歩いていると、前から男が近づいてくる。
一瞬こちらと目が合う、ひどく顔色が悪い。
探偵は立ち止まる、男は探偵の脇を抜け、後ろで歩みを止めた。
「生きていたんだな」
探偵は決して振り返らなかった。
「あんたのおかげだ」
あの日の記憶を熱さと共に思い出す。
「もう2度と会うことはないだろう」
「そうか」
「さよならだ、探偵」
「じゃあな、殺し屋」
二人は歩き始める。
探偵は振り返らない。
既に殺し屋がそこにいないことを知っていた。
そして同僚の車に戻り、助手席に乗り込んだ。
「あの人は喜んでいたか?」
「さぁな」
同僚はエンジンをかける。
「この後はどうすんだ?」
「探偵を続けるさ、俺みたいな男がこの町には必要だ」
全ての始まりは雨の日だった。
だが長い雨が明け、空には心地の良い快晴が広がっている。
探偵を乗せた車は速度を上げ、走り去っていく。

探偵そして殺し屋

執筆の狙い

作者 天野雷
softbank126218128119.bbtec.net

人生で初めて小説を書く為、まずは自分が好きな物を詰め込めるだけ詰め込みました。
自らの意思で、何かを成し遂げるということをテーマに探偵と殺し屋の物語を構築しました。
文体として、自分が好きな小説を元にできるだけ簡素な文体を目指しました。

コメント

hir
f98-pc101.cty-net.ne.jp

 十章あたりまで読んだ感想です。
 探偵はともかくとして、殺し屋が雑で不用心なところが気になります。ゴロツキに襲撃させるのとあまり変わらない。度胸と運だけでのし上がってきたのかな。
 探偵、殺し屋という記号ではなく、キャラクターを書いてほしいところです。

天野雷
softbank126218128119.bbtec.net

hirさん、お読みいただきありがとうございます。
殺し屋の描写が甘かったこと、登場人物にキャラクター性を持たせられなかったことを反省し、次回の執筆へ生かしたいと思います。

トリコロール
softbank060079254090.bbtec.net

まず最後まで読めませんでした。
余りに長く、引き込まれる事も無く。途中まで頑張りました。舞台設定が日本か外国か分からずやっとキャラクターの名前で外国かと解るが何処の国だろう?長いとキャラクターに感情移入しないと読み進めるのは難しいです。
ハードボイルドでも魅力的なキャラはいっぱいあります。好みが分かれる作品ですね。

天野雷
softbank126218128119.bbtec.net

トリコロールさん、途中までとはいえお読みいただきありがとうございます。
最後までお読みいただくことができなかった自分の力不足を反省し、次の執筆へ活かしたいと思います。
舞台設定があやふやであった点、自分でも痛感しております、次回はプロットの段階でもっと掘り下げるべきだと考えています。
hirさんからいただいたコメントでもありましたが、読者の方がキャラクターに感情移入できるよう、考えを深めます。

夢我システム
p982018-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

初めまして。

このサイトでは非常に珍しいガンアクションを含む小説で、興味深く読ませていただきました。第一章と第二章で、私には疑問に思える記述が連発していて、読みを中断しようかとも思ったのですが、最後まで読みました。他にも疑問がある所があったのですが、全体的には物語世界の構造がしっかりとしていて、渋めのハードボイルド小説に仕上がっていると思います。

上記で「疑問に思える記述が連発」と書いたのは、二人の主人公達が、傘も差さずに雨の中を歩いているという所です。私には下記の理由で、プロらしくない行動だと感じます。しかし、私には考えつかない何かの理由があるのでしょうか。

 [探偵の場合:探偵らしくなく、折り畳み傘を持っていなかっただけ?]
  ・傘を差さないで歩いている人物は目立つ
   →周囲の人々が違和感を覚え、その雰囲気で尾行対象者に気付かれる可能性が増す
   →尾行対象者が後ろを振り向いたりして、探偵の姿を見た時に強く印象に残る
   →自分を強く印象付けてしまったので、その後の尾行や、別の日の尾行にも不利

    <参考>
    一人で尾行を行う時は、途中で服装や帽子等で雰囲気を変える事があっても良い。
    尾行のプロである警視庁公安部では、チームで尾行。それでも変装用具を揃えている

 [殺し屋の場合:家を出る時に雨が降っていたが、傘を使っていない]
  ・傘を差さないで歩いている人物は目立つ
   →見た人の記憶に残りやすいので、事件後に警察の捜査の対象になりやすい
   →要注意人物がいると、通報されてしまう可能性がゼロではない
   →捜査員が通りかかった場合、不審人物として職務質問を受ける可能性が高い

 [両者共通]
  ・体や衣服が濡れて不快なはずで、精神面で、仕事に悪影響
  ・体が冷えて、肉体的にも悪影響。仕事中とその後の健康状態にも良くない
  ・上記の理由で、プロとしての意識が低い。本来は、万全の体勢で戦いに臨むはず

もう一つは、探偵が「このままいけば報酬は無しだな」と「報酬の事で揉める事が安易に想像できた」と思う所です。何のプロでもそうですが、仕事分の報酬を受け取るのが当然の事なのに、意味不明な弱気ぶりです。探偵の仕事は「事実」を調査して報告書を仕上げる事なので、男の浮気の有無は報酬には無関係です。依頼主の「妄想」に付き合う事は、仕事ではないはずです。

更にもう一つ怪しい所があるのですが、この時点ではミスだとは言い切れないと思います。それは、「銃を握り、スライドを引く」という所です。

元々は、あいさつ文だったのですが、読み返してみて「疑問に思える記述が連発」の所の説明をしないと無責任だと思ったので、それに関する詳細な感想も入れました。


■執筆の狙い

>人生で初めて小説を書く為、まずは自分が好きな物を詰め込めるだけ詰め込みました。

初めて書いたという事なのに、安定した文章でストーリー展開に大きな破綻がなく、その上、原稿用紙77枚(59,160字。Wordで確認)もの長さの作品で、驚きました。このサイトに投稿されている、超初心者や初心者の作品とは、格段のレベルの違いを感じます。

「好きな物」で構成した作品――、最良のスタートだと思います。

各種の銃が登場して、銃に関する記憶や知識が、久しぶりに私の頭の中を駆け巡りました。この小説を読んだ後、ガンアクションが出てくる小説に、1年半前に感想を書いた事も想い出しました。私は銃に関してマニア度が高いので、銃が出てくる場面についての「詳細な感想」が必要であれば再訪します。――ついでに書くと、私が「好きな物を詰め込めるだけ詰め込む」と、日米欧中を舞台に描かれたアクション小説で、政治・経済・外交安全保障(外交当局、軍、情報機関、捜査機関)・技術(コンピューターと通信、AI及びAI兵器、バイオ等)が絡んだ物語です。天野雷さんとは、「好きな物」として捜査機関と銃に関して一致しているようです。それと、アメリカも入るかもしれませんね?


>自らの意思で、何かを成し遂げるということをテーマに探偵と殺し屋の物語を構築しました。

天野雷さんのテーマ通り、探偵と殺し屋の二人と「同僚」(私の期待通り戦線復帰。遺体安置所の死体で爆死を偽装か?)が、彼ら個人の「損得」や彼らが所属する「組織の意思」に関係なく突っ走る姿が、よく伝わって来ました。

  天野雷さんが描く「物語世界(4次元時空連続体+人+物+情報)」
   ↓
  文字列(1次元情報)
   ↓
  夢我システムの中で、「物語世界(4次元時空連続体+人+物+情報)」を再構成

しかし、探偵が「薬物中毒者」であるのは、好感が持てませんでした。自分の肉体に日々「拷問」を加え、非常に危険な「副流煙」が傍にいる人々に襲い掛かる事など気にもしていないのが、私から見た彼の姿です。自分も含めて身近な人々を害し続けているのに、「正義」をなしているというストーリー展開は、私には、大きく矛盾する行動に思えます。彼の「正義」とは、単なる「自己満足」の事なのでしょうか。――「煙草」という単語が71回(他の人が吸う場合も含む)も書かれていて、驚きました。

(続きます)

夢我システム
p982018-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

(続きです。2頁目)

探偵と殺し屋の名前については、提示するのが遅すぎると思います。
・ジャック(探偵)の名前の登場:第十四章 女 季節外れのサンタクロース
・ジョン(殺し屋)の名前の登場:第十二章 殺し屋 誇り無き者

現状では、「探偵」や「殺し屋」という「記号に近いイメージの呼称」が冒頭から続き、読者との距離がなかなか縮まらない形になっています。また、彼らの風貌や体格や年齢等の情報がほとんど読者に与えられていないので、更に「記号感」が高まっている状態です。私のように、「最低でも撃ち合いのシーンが現れるまでは読みたい」と思っている読者以外は、物語について来ない可能性が高くなっていると思います。

・プロ作家   :その作家のファンであれば、近寄りがたい描き方で始まっても問題なし。
         そのうちに面白くなる事が十分に期待できるので、普通は読み続ける。
・アマチュア作家:力量が未知数のため、読者不在の描き方だと、いつでも読みを中断される。
         お金を払っていない事も、気軽に読みを中断できる要因の一つ。

主人公達の命名については、「ジャック」と「ジョン」という名前が、私には紛らわしく感じました。探偵なのか殺し屋なのか分からなくなり、確認のために前の頁に戻った事もあります。そもそも、JackはJohnの「短縮形」なので、日本名で「無理やり例える」と、「山田」が二人いるので「山田さん」と「山さん」と呼び分けているような感じです。そのような組み合わせにしたのは、なぜなのでしょうか。もしかしたら、立場は違うが同じ「正義感」で生きる同志という事で、「類似性」を暗に示す効果を狙っているのかもしれない、という可能性を考えました。しかし、明らかに響きが違う名前の方が、読者には優しいと思います。――「我儘(わがまま)な意見」を書くと、「ジョン」と「ポール」にして、ジョンの彼女が日本人で、ポールが左利きというのなら、私には非常に覚えやすい組み合わせです。

<参考情報>
「短縮形」については、ウィキペディアの「英語人名の短縮形 」がお勧めです。尚、「JackはJohnの『短縮形』」だというのは、文字数が同じではないかという疑問が湧くと思いますが、その通りで、珍しいパターンです。アメリカのジョー・バイデン大統領の名前のように、「Joseph→Joe」と普通は短くなります。

余談ですが、「自らの意思」というのは切り口によっては、かなり深いテーマにもなりそうです。「自ら」という言葉の真の意味を理解している人は、現在だけではなく過去においても、数少ないと思うからです。この惑星の住人の「幼年期」は、まだまだ終わりそうもありません。


>文体として、自分が好きな小説を元にできるだけ簡素な文体を目指しました。

読みやすい文章だと思います。「できるだけ簡素な文体」というのは、ハードボイルド小説の文体という事なのでしょうか。

シンプルな文体で可読性が高いのですが、「一段落に一文」という構成がかなり多いのが、気になりました。一つの様式とも言えなくもありませんが、レベルの高い作品を描くアマチュア作家や、プロ作家には普通はない書き方だと思います。複数の文で段落を構成する形になっているのは、「関連する情報」をまとまった形で読者に届けるために、必然的にそういう形になるのではないかと考えます。一文だけの段落が頻発している文章には、情報の構造性が見えません。また、私の感覚にすぎませんが、書かれている内容(文字列)に関係なく、見た目が綺麗ではないと感じます。

その他、「しばらく探偵は思案した、あまり良くないタイミングだ。」というように、「~た、~。」という文章が気になりました。最初は、「~た。~。」と書くところで、「。」を「、」としたタイプミスだと思っていたのですが、全部で70回以上も出て来たので、そういう「文体」なのだと思っています。何かの効果を狙っているのでしょうか。

しかし、この記述方式は日本語としては正しくないし、長い修飾語が前にある場合に一区切りを入れる「~た、」と紛らわしく、可読性が低くなります。例を挙げると、「私が五年前にニューヨークの銃器業者から仕入れた、全長四十センチ近くもある巨大なリボルバーのシリンダー弾倉には、弾丸径が12.7mmもある超強力な.500S&W弾が五発収まっている」というような文章です。――と、調子に乗って書いていた後に、2読目で、作品中に「そこには白い布に包まれた、拳銃が1丁鎮座している」という文章を見つけてしまいました。「可読性」の例としては、作品中にあるのでこちらの方が良いと思いますが、折角書いたのでそのままにしておきます。(←作品中の.44マグナム弾の説明に対して、異論の意味もあります)

今度は、文体ではなく「情報量」の話になりますが、全体的に情景描写がかなり少ないと思います。登場人物達自身や、彼らがいる場所や物のイメージがあまり湧きません。特に、私が期待していたアクション場面では、状況が分からない所が複数あり、そのために面白さがかなり低減してしまっているように感じます(←「詳細な感想」が必要であれば再訪します)。私が物語世界を構築する時、特にアクション場面では頭の中で「画」が先行して、それを「文字列化」するという作業になりますが、天野雷さんの場合は、どうのようにして描かれているのでしょうか。

あいさつ文と「執筆の狙い」についての感想を書いただけで、当初予定していた「感想概要」や「詳細な感想」を書いていないのですが、思ったより長くなったので、ここで終了します。

鍛錬の機会を与えていただき、ありがとうございました。久しぶりに、銃器に関する事を想い出しました。また、「作品の面白さ」や「文体や文章」に関する事について、再考察する良い機会になりました。

次回作も、期待しています。

天野雷
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夢我システムさん、お読みいただきありがとうございます。
多くの感想、ご指摘に感謝いたします。
序盤において、ご指摘を受けてしまうような甘い描写があったことを反省し、勢いだけで文章を組み立てている現状を改善しようと考えています。

夢我システムさんがお好きだと仰っていた中で、自分は特に軍関係に興味を引かれるので、次回の執筆ではそっち方面の話を書こうかなと考えています。

同僚の戦線復帰に関しましては、夢我システムさんの解釈通りです。本来であれば同僚の口から死体を偽造したことを書こうかと考えたのですが、それは野暮だと考えやめました。

煙草に関するご指摘に関しまして、こちらに関しては考え方の違いであり、決して共感はしていただけないとは思えますが、自分の中でフィリップ・マーロウやダーティハリーなどのキャラクターが煙草を吸う描写にカッコよさを覚え、それを表現するために自分の作品のキャラクターにも吸わせていた次第になります。煙草が及ぼす害に関して全く配慮はしていませんでした、もしご不快に思われたなら謝罪させてください。

続きます。

天野雷
softbank126218128119.bbtec.net

続きになります。

探偵、殺し屋という名称に関して、他の方も指摘されております通り読者が話に入り込みにくくする要因になっていると痛感し、反省しています。

キャラの名前に関して、ジャックがジョンの短縮形であることを、ご指摘を受けて初めて知りました。自分の勉強不足を反省しております。
ジャックとジョンという名称をつけた理由に関しては、わかりにくくなっていたことが書いている最中には気づくことができなかったことは申し訳なく思っております。

「~た、~。」という文章に関しまして、無知を晒してしまい大変恥ずかしいのですが、自分はこのような文体が間違いだということを知りませんでした。

また作中での44マグナム弾の説明(おそらく世界最大の威力を持つ〜の件でしょうか)はダーティハリーの作中で使われた台詞をオマージュした物になります。現状で言えば44マグナムは世界最大の威力では無いですね。

またアクションの描写に関して、自分は頭の中で映像を組み立ててしまい、そこから語り手に関するものだけを切り取って文章にしているのですが、読者の方が期待する部分を魅力的に提供できなかったことを反省しています。

最後に
ご感想を読ませていただき、自分に多くの知識が不足していることを知る機会をいただけたことを感謝いたします。次回作に向け、ご指摘いただいた点を克服できるよう精進いたします。

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