作家でごはん!鍛練場
青井水脈

ミイラ取り、ミイラになる

「アトランティス・ブレイバー〜剣(つるぎ)を持つ勇者たち〜」
 このスマホゲームのタイトルは、従兄弟の陸から引き出した第一声だった。これこそが俺の運命も少しだけ狂わせてしまうとはーー。

 正月休み。母づてに叔母に頼まれ、俺は陸の個室に立ち入った。陸は窓際のベッドに腰掛け、ひたすらスマホの画面を指で器用にはじいていた。
 ベッドの向かい側にあったデスク用の椅子に、俺は遠慮がちに座った。床に散乱するプリント類を踏まないように気をつけながら。
 陸に話しかけても、返事らしい返事は返ってこなかった。イヤホン越しにゲーム内の音楽や効果音が小さく聞こえるくらいで、室内は落ち着かないくらい無音に近かった。
 叔母の話によると、最近は学校に行ったり行かなかったり。高校三年に進級できそうだが、スマホゲームばかりで心配なのだという。

 スマホゲームか。そういえば会社の後輩も、帰宅後や休日はもちろん、通勤電車内でもスマホゲームに夢中だという。俺はちょっと考えられないな。スマホは必要最低限の用途でしか使わないし。
 小学校までは周りの影響でゲームでも遊んだが、それ以降は打ち込めるスポーツを始めて、ゲームは卒業したつもりでいた。
 陸も、他に熱中できるものが見つかるといいのに。叔母もそう言っていた。しかし今は、普通に話しかけても手応えがない。
 俺はスマホの画面を覗き込んでみた。やたら精巧なグラフィック。王道と一言で言えるだろう、勇者らしきキャラの持つ剣。それらが俺の目に映った。
「なんてゲームなの? 面白い?」
 俺が好奇心のままに尋ねると、陸は一瞬手を止めた。
「アトランティス・ブレイバー。面白いよ」
 剣から閃光が放たれるとドドドドドッと効果音が立て続けに鳴り、ドラゴンが倒される。金貨と銀貨の報酬を手に入れ、冒険の書は次のページへと進められるようだ。
「インストールしてみる?」
 陸の問いかけに、俺は画面に釘付けになったまま頷いた。
「そうそう、まず主人公の名前を決めて、最初の武器を選んで。それから……」


 半月後ーー。
「竜平、会社休みだからってずっと寝てるなんて珍しいわね、具合でも悪いの? なんだ、起きてたの」
「話しかけないで、母さん。第二章の山奥の洞窟、探索してるところなんだ。冒険はまだまだこれからなんだよ……」

ミイラ取り、ミイラになる

執筆の狙い

作者 青井水脈
om126179243018.19.openmobile.ne.jp

掌編で、とても短いです。ここ最近思いついたことを書いてみたら、このような形になりました。最後まで読まれずとも、流れがわかってしまう方もおられるかもしれませんが。
感想でも批評でも、なんでも受け付けます。

※本文中のゲーム名などは、実在のものを参考にして付けました。王道というか、ベタなのは否めませんよね。

コメント

佐藤
UQ036011225016.au-net.ne.jp

読ませていただきました。

一度ミイラになった身として、とても良くわかります。ややあってプレイ時間を眺めて「えっ…この時間で執筆できてたら何ができてたの…」って絶望したので逃げ出せましたが笑

この作品であれば、オチの部分で陸とフレンドになって冒険を繰り広げている、とするとより病理が深まったのではないかと思います。スマホゲーの恐ろしさはいくつかありますが(体験談)、「他者に優越する」「仲間と遊べる」この二点が本当に危険でした…

青木 航
sp49-98-217-208.msd.spmode.ne.jp

 青井様、読ませて頂きました。『ミイラ取り、ミイラになる』全く別のケースで私自身が最近使った言葉なので、面白く思いました。

 気取りが無く読み易い文章で、私としては好みです。飽きっぽく、なかなか何かに嵌らない方なので、自分はこうはならないだろうと思うのですが、テーマとしては面白いですね。

 地下鉄の窓の外は暗いので、鏡のように隣の人のスマホ画面が見えてしまう事がままあります。意外なタイプの人が夢中でゲームをやっているのをたまに見てしまう事があり、つい苦笑いしてしまう自分が居ます。

 何かに夢中になると言うのはある意味羨ましいことですか、それで生活を崩してしまうとなると、やはり麻薬みたいに害毒となってしまうものなんですかね。

夜の雨
ai192148.d.west.v6connect.net

「ミイラ取り、ミイラになる」読みました。
そういえば昔はテレビゲームをしましたが、現在はまったくしませんね。
一時的にはまるのではないですかね、脳を刺激するような作りになっているので。
御作の流れというか主人公のオチかたは、よくわかります。
ゲームをやめさせようとして自分が”はまった”というやつですね。
タイトルの「ミイラ取り、ミイラになる」と、導入部を読めばラストは分かりますが、もしかしたら「オチ」に何か仕掛けでもあるのかと邪推しました。

御作の内容についてですが、文章はスムーズに読めるし、引っかからないし内容も。
面白い工夫のところは「これこそが俺の運命も少しだけ狂わせてしまうとはーー。」というところですかね。
ラストまで読むと”俺の運命も少しだけ狂わせてしまうとは”というエピソードが意識的に意味づけられていました。
ここですが、「竜平、会社休みだからってずっと寝てるなんて珍しいわね、具合でも悪いの? なんだ、起きてたの」。
”陸”の場合は「叔母の話によると、最近は学校に行ったり行かなかったり。高校三年に進級できそうだが、スマホゲームばかりで心配なのだという。」ということなので、重症ですよね。

大人の主人公と学生の陸との違いというところが、エピソードに描かれていたのではないでしょうか。
主人公は会社には行っていて、休みの日にはゲームをやっているようですから、まだ軽傷です。
たしかに少しだけ人生が狂ったかも。

お疲れさまでした。

ラピス
sp49-106-202-39.msf.spmode.ne.jp

うーん、オチが今ひとつ決まってませんね。え、これで終わり? っていう。
でも読みやすく、子供が作り物じゃないリアルな子供らしくて上手いと思いました。

青井水脈
om126179243018.19.openmobile.ne.jp

佐藤さん、お読みいただいてありがとうございます。オチの部分でのご意見、ありがたいです。そういう終わり方になると、すごい沼みたいなのを感じますね(笑)

>「えっ…この時間で執筆できてたら何ができてたの…」って絶望したので逃げ出せましたが笑

長編とかだと、それだけで力を使い果たしそうですが、これはわかります。最近は本格PPGなどをやり込むこともないですが、ファイナルファンタジー7は初めてプレイしたとき新鮮でした。

青井水脈
om126179243018.19.openmobile.ne.jp

青木さん、お読みいただいてありがとうございます。描写というか説明を最低限にしたので、足りないところはないかと思っていましたが、読み易いとのことでよかったです。
ミイラ取りがミイラになる、の他の意味に、人探しに行った人が次に探される人になる、もあるそうですが。たまに有りそうな、小噺のネタにもなりそうですね。

青井水脈
om126179243018.19.openmobile.ne.jp

夜の雨さん、お読みいただいて、ご意見もありがとうございます。

>「これこそが俺の運命も少しだけ狂わせてしまうとはーー。」

こちらは単に、主人公の竜平が自分はゲームを卒業したつもりでいたのにうっかりハマってしまった、というのを少しオーバーに書いた節があります。千文字足らずの短さでタイトルそのままのオチなのに、邪推させてしまって。

>一時的にはまるのではないですかね、脳を刺激するような作りになっているので。

なるほど。私は前にキャンディクラッシュ、ソーダのアプリゲームで遊んでいましたが、ステージ数が膨大すぎるので挫折した覚えがあります(笑)それでも、あと1ステージだけ、みたいに続けてしまいましたし。

青井水脈
om126179243018.19.openmobile.ne.jp

ラピスさん、お読みいただいてありがとうございます。今作はまず、タイトルを回収するという考えがあって。何かひとひねり、ひと工夫というのは、これから活かしたいと思います。

>でも読みやすく、子供が作り物じゃないリアルな子供らしくて上手いと思いました。

こちら、評価いただいてありがたいです。この短さで思いがけませんが、スマホやゲームに夢中の人に話しかけにくい、という点を書くときに思い起こしたりしたので。

えんがわ
p13244-ipngn4301souka.saitama.ocn.ne.jp

スマホゲーム怖い。

基本無料と言いつつ、けっこうなお金を使ってしまうらしいです。

自分はゲームは好きですけど、任天堂switchを買うくらいでしたけれど。
その中の「にゃんこ大戦争」を遊んで、これはヤバいと思って、買わないようにしてます。
猫缶にガチャにお金、怖い……

オチは読めました。タイトルがドストレートなので。
それでも読み進めれるのは、わかりやすく無駄のない文章と、登場人物の「いるいる感」というかリアリティだと思います。
こういう文章には憧れます。

古代ローマ
p1435003-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp

分かりやすくて、面白かったです。

突然なのですが、青井さんの作品に触発されて、ミイラ取りがミイラになるというテーマでこんな話が思い浮かびました。

「ねえ、ミイル。男子があなたのこと腐女子呼ばわりしてるよ」
「だから何よ」
「あなたいつも休み時間にBL小説読んでるから」
「いいでしょ。好きなんだから」
「男同士がキスしたり、あんなことしたり……」
「カモ美。あんた、BL読んだことあるの?」
「ない」
「読んでから言ってよね」
 その日の放課後、カモ美は書店に立ち寄り、BLコーナーの本を立ち読みしてみた。
「す、すごい……」
 カモ美は、小説の内容のきわどさに顔を真っ赤にしながらも、我を忘れて、何時間も夢中で立ち読みしてしまった。
 それどころか、5冊も、BL小説を一度に購入したのである。
「何かが、変わろうとしている。私の中で、何かが……」
 そんな眩暈のような戸惑いを胸に秘めながら、カモ美は家路を急いだ。

 翌日、カモ美はミイルに謝った。
「ミイル、ごめんね。私、無知だったわ。何も知らずにあなたに偉そうにあんなこと言って。昨日、私、生まれて初めてBL小説を読んだの。美しすぎて……もう私、どうしていいか分からなかった」
 そう言って、カモ美は興奮のあまり、爪で自分の顔をかきむしり始めた。頬の皮膚が破けて出血した。
「きゃーっ、カモ美、顔中血だらけーっ!」
 とクラスメートたちがびっくりして、カモ美を至急保健室に運んだ。カモ美は顔を包帯でぐるぐる巻きにされた。
 こうして、ミイル取りはミイラになったのであった。
 カモ美は、そんなミイルをドアの陰から覗き込みながら、
「いいのよ、分かってくれれば」
 と呟いた。

青井水脈
om126179243018.19.openmobile.ne.jp

えんがわさん、読んでいただいてありがとうございます。

>それでも読み進めれるのは、わかりやすく無駄のない文章と、登場人物の「いるいる感」というかリアリティだと思います。

こちら、ありがたいです。憧れなんて私もまだまだですが、嬉しいです。

任天堂switchはあつ森が人気だそうですが、育成ものもハマる要素ありますよね。アイテム集めたり。猫缶…。確かにこれはヤバそう(笑)

青井水脈
om126179243018.19.openmobile.ne.jp

古代ローマさん、読んでいただいてありがとうございます。この短さで、少しでも楽しんでいただけて何より。

と思ったら、今回は即興のカモ美とミイルに軍配かもしれませんね(笑)ミイルで、ミイラ。なるほど(笑)楽しませていただきました。

井坂
KD119105000073.ppp-bb.dion.ne.jp

初めまして

読ませていただきました。

いったいどんなスマホゲームなんでしょうね(笑)
小説としては読みやすかったです。
叔母さんがなぜ主人公に助けを乞うのかもう少し理由があったらもっと良かったかも知れないですね。

ありがとうございました!

青井水脈
om126179240120.19.openmobile.ne.jp

井坂さん、読んでいただいてありがとうございます。
ご意見、盲点でもありました。叔母も主人公の母も、あっさりした出方ですしね。もう少し詰めてみてもいいかもしれませんし、次回で頑張ってみようと思います。

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