作家でごはん!鍛練場
m.s

【Strick!!】タイニーグリーン〈個守り 簒奪ver.〉

 ある日のこときみは声を落としてしまう。それはサイフやケータイを無くしてしまうようになんの予兆もなくふいに訪れた災禍のようなものではあったが、孤独ではない、静寂ではない。
 声は失われておらず、他人にむいて外むきにでる代わりにきみのうちがわにのみ聞こえるようになっただけなのだから。あの誰にも聴かれることのないほんとうに秘密の独り言を子どものころの通りに取り戻しただけなんだ。まだきみときみの内面が語らいあえていたあの日の回想のように。

 きみは、じぶんが容れ物であることまた、そこに出口のないことを思い出すようにしてもう一度知るだろう。内面の驟雨のような独り言に喘ぐようにして二十年ぶりにぼくの名を呼んで名づけることだろう、涙に溺れたアリス・リデルが危険な食べものを一も二もなく口にせざるを得なかったように。食べものが『わたしをお食べ』とそそのかしてくるなんて恐ろしいよな。それをじっさいに食べちゃうなんて、狂っている。そう子どもは狂っている。そうして狂ったきみはふたたびあの日のように、ぼくの名に口をつける、きみにしか聴こえない、きみによるきみのための、きみに届くためだけのことばを。

 家族いがいの他人にたいしてとつぜん緘黙した幼いきみについて、その医師は「まあ珍しくもないかな」と診断したという。
「アイデンティティが外界と折り合いをつけてゆくうえでの対人モデルの構築に際して現実の他者よりも内面のモデルの側の比重が顕著になるという、いわゆる『空想のお友達』ですね」
「はあ」ときみの母は言った。
「まあ女の子だとそう珍しくもない、たいていは思春期のはじめには消えます。つまりねお嬢さんにはお嬢さんにしかわからない『空想のお友達』がいるんだな。幼稚園になってあたらしいお友達が沢山できたのでいま、そちらとの折り合いを付けている最中らしい」
「それで、どうしたら」
「どうしようも無いし、どうもしなくていいですよ。たいていは自然に消えますから。ただし成人しても消えないというケースはたしかにありますし、万一そのときは、解離や離人といった病態になりますから投薬でーー」
 医師は口を閉ざす、大人ふたりがじぶんについて語らっているという状況に子どもながら居た堪れずにいたきみが顔をあげると、母親は俯いて嗚咽していた。
 あああ、と母の肩にすがりつくきみへ、医師は見飽きた風景の一部を目にながすようにして言った。
「ねえわかったろうお母さんは、自分にはみえない、子どもにしか見えないものがあるとひどく不安になるんだ。まあたぶん、きみにもいずれ分かるさ。大人になりきれなかったときにまたおいで」
 

“マッチングアプリで知り合ったカルテ2との相性を教えて下さい”
どうぞどうぞ宜しければなんでも望みのとおりに鑑定お応えします。きみといえば数ヶ月まえからそうした商売をはじめたらしいね。つまり、チャット占い師? さて呼び名は易でも卜占でもホロスコープでもなんでも良いが結局は拝み屋じゃあないか。そういうのの結果にはほんとうの大当たりか大外れかの二つしかないんだぜ。宝くじや賭け事と同様にしてな。ちょっとだけ小声で補足するがつまり「少しだけ外れた」とか「ちょっとだけ当たった」というのが感想ならその遊びをじゅうぶんに楽しめたとは言えないのだし、二度、三度と繰り返してもそんな曖昧な手応えしかかえって来ないのならば、向いていないのでもう関わらないほうが良いんだ。たぶんおたがいに。
『しょっぱなから縁起の悪いこというなし』
もちろんきみだってプロの端くれなのだから客に面とむかってそのような本音をいったりはしないだろう、けれど。

“須田真紀子、37歳主婦、夫、娘一人。カルテ1、元職場の上司。カルテ2、気になる人”

 客の相談内容をみて、
『穴が。足るを知れ。』とさっそく都丸はそう毒づくのだった。手近なペットボトルを手にとってくちに含むとちょっとヘンなとろみと酸味がする。まさかな、まだ封をあけたばっかだ。それともストゼロとスナック菓子ばっかで舌が反乱を起こしたのかな。
 きみがもう四日も風呂に入ってないからだ、歯も磨いていないからだ、しょうじき臭くて不味くてしかたがないけれどきみが知らんぷりを決め込んでいるからぼくもそれに付き合っているわけで。ぼくがそう指摘すると、
 都丸はひたいやあごの皮脂に指で触れてその身体のにおいに絶望した様子で、深夜だというのに街灯のこもれびを気にするようにカーテンを締め直した。
 しかしまあ気にすんなよ、他人なんて会わなきゃどこにも居ないんだからさ、占い師だろう? 占い師は客のまえではあいての匂いになんて気づかない、じぶんの匂いにだって気づかない、そーいうものさ。だってお前がクサいかどうかなんてわざわざネットで占い師に金をはらって確かめなくたっていまからこのまま外へ出てコンビニのレジの店員の表情を確認すればすぐに知れるはなしだ。わざわざそれを拝み屋にたずねたりはしないさ。
 しかしハラが減ったなどこか食べもんは無いか。明かりもない夜の締め切った室内にきみの手がさぐるとくにゃと湿気たポテチのかけらとかカピカピに乾いた肉まんの生地などが埃と髪の毛といっしょに手のひらに集まってくる。
 だいじょうぶだよきみの方が臭くて汚いんだからもぐもぐゴックンしてきちんとトイレにいってからじっくりと、この客から稼ごうね。
 便座に立ったきみは試しにえづいてみるが水分の足りないせいで髪の毛の数本しかもどせない。

 さて占いは統計学だよ。きみのお腹をさすりながらぼくが言う。しかしみな大抵はひどくいやな顔をする。だれしも抱いた悩みを固有のものだとおもっているのでそれを相談に来たくせにフローチャートで簡単に解かれてしまうのも癪にさわるのだなー。そこできみは嫌なやつにならなきゃあいけない。つまりはさ
“相性はサイアクです。諦められますか?”
 都丸がチャットに煽ってみると
“は? いい加減過ぎませんか”


 ほらほら客はみんな大それたことに、他のだれでもない自分じしんの問題についての唯一の答えをもとめている。
 そのくせ詳細な条件についての打合せもなしに人生の渡航図に目ばなを付けて欲しいというのだから、処方箋はおのずと類型化されざるを得ないんだ。ま、ゆるせよな。


“いいえ、あなたの気持ちについて言ってます。わかりますか?”

“?”

 そうかそーか分からないかなら、このタイニーグリーンが応じよう。
 ぼくはまだ自分のなまえを辞書に引いたことなんて一度もないんだ。そういうのをほんとうに自由って言うんだ。ねえ、知ってた? このペラペラのセーラー服を着た本物の海豹が語る一世一代のホラ話をおまえだけがウソだと言うのなら一面がほんとうの血に染まるぜ。もちろんウソだけどな。だけどこの胸のからっぽだけ、法螺貝にかけてこっからさきの話だけ本物だ。さあ覚悟をあらたに応えるんだ。生か、死か。

“相性が気になってしまう理由、ということです”

“よくわかりませんが”



 分かれよつまり、おまえのことじゃん、日本語下手か。
 都丸はもうすっかり退屈そうに、お尻に食い込んだパンツの裾に指先を滑り込ませ、整える。
「タイニーグリーンの言っていること、やっぱり他人には分からないってさー」
 ちがうね。そうしてまたきょとんとわからないフリをしたってうそだ、情報がありすぎて、現実が見えすぎているから決められないというだけで本当は取りうる選択肢はさいしょからそう多くはない。
 どうしたら良いのか。穴の現実は穴の方がよくご存じでしょう? まあしかしきみは穴の現実を知らない代わりに運命を描くことができます。写真のうえにクレヨンでどの下地より明瞭な線を牽くようにして。
 しかもきみは穴に提示した運命について、なんら責任を負うところはない。なぜならそれはタロットの差配という偶然性によって導かれたものであってきみの意志は介在しないからだ。という建前において。
 さてここからが鑑定においてだいじなところだよ。プロフィールを再確認してみようじゃあないか。まず生年月日でいえば今では産まれた日付けを十二分割に古代ギリシャ神話にもとづく星座になぞらえて占うことが一般的だがさらに細かく分類してみたりほかにも血液の遺伝のABO式で四分類してみたりもする。しかしなぜ赤血球抗原にこだわるのかといえばD抗原では二種しかなく少なすぎるし白血球抗原では種類が多すぎてたいへんだというただ便宜上のりゆうに依るのではないのか。なら人間に運命を割り振るならタロットの大アルカナくらいがちょうど良い種類数でないかな。とも思うのだ。かように確率にそれらしい説得力があるので信頼できるのだとすれば占いというものはまったく統計的な学問であるということになる。
「やっぱワケがわかんないなー」そう俯いた都丸の目にチャットのテキストがちろちろシパシパする。
たしかに血液型の同じ人間が、生年月日の同じ人間が、性別の同じ人間が、これだけ無数にいても自分と他人の見分けがつかなくなったりはしないのだ。ふつうは。

 あたしはあたしでしかない、ほかの誰ともちがう。胸のうちにいつからか巣くったそんな呪いが予感もなく開花したのは何気無く通勤とちゅうで寄ったコンビニで、きみはふいにきみらしい振る舞いかたをすべて忘れてしまう。ずらりと断面をさらして陳列された食材たちや、日付と文字に封入されたパンや紙パックやペットボトルたちとの付き合いかたの一切を。いったいなにを食べたかったっけ。そもそもなんで好きなものを食べなくてはならないのか、あえて嫌いなものを食べるのすら自由なのにこれまで一つの疑問ももたずに。きみは、ずっと、
 そんな色の洪水にスリップして店内の通路に尻もちをついたとたん、腰のしたで小動物ををつぶしてしまったようなぬるく湿った感触があり、慌てて身を起こし、失禁していることに気がついたのだ。
 周りからちらちらとした視線を感じるのに、気づかうような気配もあるのに、だれも視線を合わせてくれない。
 なにが起きたのか、まだ良くわからないまま急いでトイレに入ったあと、個室が空いていてよかった、と安堵した。
 一人になってあらためてみてとても、出勤できる状態ではなかったので職場に電話をかけた、じぶんのこえが出なくなっていることに気づいたのはそのときだ。
 聞いた話しによればパニックで過呼吸を起こして卒倒したらしい。そこから半日ほど記憶が飛ぶ。きっとかんたんな健忘が起きたのだろう。そうしたかんたんな事情が、ごくわかりやすい恥辱がしごく平凡な日常を壊しただけなんだ。だけどそんな陳腐な平穏をそれまできみがどれだけ必死になって守っていたのか、ぼくやきみの他にはだれも知らないだろう。これはそんな理不尽なゲームなんだ。
「まだやってるの」鑑定中のドアをおともせずそ、と開いた武見がそう言うのだが、都丸は意に介さない。
「牛丼あっため直す?」
 カカカカカ熱中したきみが怖いことにそうのどだけを鳴らすがやはりそれは無音だ。
 じゃましないで。背後に伝えたくてきみは振り向くだけど、やはり声はでない。しかたない
『ごめんいまはいい』テーブルの下から筆談でそう告げる。『気にせず寝てて』
 いま追いこみ中ドット、ドット、ドットまる。とちゃんと口の形でいってそう幾つもよぶんに句読点をつけた。きみはただ喋れないだけで、言葉を惜しんでいるつもりはないんだ。惜しみなく尽くしているつもり。でも伝わるかな。だいたいまだ一度しかセックスしていないのはアレどういうつもりだったんだろうか、おたがいに。とか、考えつつ。
『だってきょうは稼げそうなのな。』早口で、雰囲気だけそう伝える。
「わかった」
『愛してるよ』
「はいはい、」まあ聞こえないよねだけど、口もとくらいは見といてよ

“気になってしまうあなたということ。あなたの話をしてるんです”
“諦めきれない恋ですか?”
 まだそんなコトを言っているのか。そう見かねて言ってしまう。相談の内容からして依頼者はなにかあたらしい指針が欲しいわけではない。結論からいえば妻であり、母であり、愛人であることを保ったまんまもう一つ新しい恋愛をはじめたいという大変に実直な吐露だ。ただ問題があるとすればそんなわかりやすい欲望についてこうしてわざわざ占いに諮ったこと。つまり客はその欲望について良心に痛痒をいだいており、きみに金を払ってそれを幾分なりとでも紛らわせたいのだ。わかったかい。せめてこの翌朝だけでも怒りが自身ときみへと向くように、今夜はおもうまま浪費させてやりなさい。
 あい、わかりまぢた。
“相手はどう思ってますか”
“お悩みのご様子ですね。ネガティブな印象は受けません”

 そうだ。さあさもっと語って予算なんて気にせずにきみだけに。その悩みを委ねてくれたらいい。なにせぼくはタイニーグリーン。ほんらい他者の相談に乗ってしまっては訴訟法上のグレーゾーンに乗ってしまうかも知れない話題についても気さくに応えるよ。でないときみはもっと早いスピードで過ぎ去ってしまうだろうから。
 さてカメラをオンにしたタブレットの画面で、テーブル上できみがスプレッドを展開する。このサービスの見せ場である。こうしてタロットで行っている占いというものの起源を遡ればそれは占星術であり、なので星や月や太陽など空についてのアルカナが多くある。また占星術の起源を遡れば月をアルテミス火星をアレスといったように神の神格を星に託すいわゆる星辰の信仰にまで果ては行きつく。しかしそれもこのぼくタイニーグリーンまでは至らないだろう。
 つまりきみがいまやっている巫術というのはそれとは関係しない、ただのカードあそびだ。

“あなたの気持ちを汲んでくれる方ですね、優しい方”タイニーグリーンがそう指で返信しているのを目にながしながら。
 
“はい。何だか波長が合うというか”
 
 とたん、コンソールのカーソルが画面の最下段で明滅したあとでまだ文字のない画面がスクロールする。
 ああ相談者がむっちゃ書いているその同期がアプリ上で追いついていないということで、文字数換算の課金はもう五桁を越えている。ひさびさのボーナスステージだな。ハハ、この穴はなぜだかきみを信じて自分の来歴を語り始めてしまったらしい。

 一日の検査入院ののち、MRIといくつかの記述式の心理検査を行ったあとで医師はあたしに診断をつげた。単語の理解にも文章の読解にも難は見られませんので心因性の失語症ということになるかと思います。
 脳の器質的な要因により起こる失語ですとブローカー失語とかウィルニッケ失語だとかありますが、話すのみでなく文章の理解も阻害されることが多いので、まあそれにはあたらないのではないかと。つまり言語野に脳梗塞や損傷があるわけではないので手術の必要やほかの後遺症はありません。その点についてはまずご安心ください。
『それで、あたしはどうすれば』
 ご両親とは同居ですか。
『一人ぐらしです』
 いまの職場では声が出ないと困りますかね。
『たいていの仕事ではそうではありませんか?』
 はは、違いない。医師にこやかにそう言って、院内にケースワーカーの窓口がありますので後ほどそちらでリハビリやお仕事について話をしましょう。不安なときに落ち着くための薬とよく眠るための薬を出しておきますので、今夜はご自宅でゆっくりと休んでください。
『声が出るようになる薬は』
 申し訳ない、医師は真面目なまなざしで言い含めるようにうなずいた。いまのところそう言った薬効のお薬は存在しておりません。

 会計窓口で領収書といっしょに緑いろのビニール袋を渡されたのでなかを見ると洗濯された下着だった。律儀なことだ。それを見ると自分が病人であることが否応なく意識されて頭がくしゃくしゃとしたのでゴミ箱に棄てていってしまおうかとも思ったのだが、それはまだ買って日があさく、今後そうしたものに苦労することになるのかも知れないと、どこか冷静にかんがえて、薬といっしょに手に提げて病院のロータリーでバスをまった。
『それで、あたしはどうすれば』もう一度言ってみたがやはりそれは声にならず応えてくれるだれかも居なかった。
 またタイニーグリーンがでたから約束どおりに、来たんですけど。そんなのやっぱりだれにも、聞こえないよね。

“お話したいことがたくさんあるんですよね”

 穴にそううながす。そう入力したきみはすこし画面から目を離しにひひ、とわらったうえでコンビニの紙パックの白ワインをライオンさんのマグカップに並々とそそいでそれを空けてしまう。きっと相手はもうトリップしているので二、三万の出費はもう意に介さない。良きかな、良きかな。
「よくないよ。近所迷惑」また起きてきた武見がうんざりしたようにタンクトップの脇をバリボリむしる。
 すこしじゃましないで、おいこみなの。
「そういう、はした金は要らないからね」
 え
「むしろ、ちまちました収入があると申告が面倒なんだ」
 はい
「ごめん、責めてるつもりはなくて」
 うん。
「っていうか食べないの、牛丼」
 都丸はチャット画面の最下段に表示されている“入力中……”という文字を食い入るように見つめたきり、答えない。
“何だか安心するんです。受け止めてくれるというか”
“社会的な意識にも優れた方のようですし、様々なお気遣いがおありなのかもしれないですね”
『たべるよ』
「じゃあ、悪くならないうちに食べなよ」
『はい、先生』
「せんせい、って?」
 え、伝わってる? どうせすこし複雑なセリフは伝わらないという前提だったのに。
『もしかしてタイニーグリーンとのはなしも全部筒抜けだったりする』
 武見がなにも言わないので、
 うそだ、そんなはずがあるか。そんな恐怖や安心があるか。
”彼は私とのことをどう考えていますか”チャットがながれる。
『まああいつはヒドイやつだけど本当にヒドいのはあたしで。だって知っているか、このせかいにはあたししか居ないんだから』
 こんなに混み入った話し口読ではぜったいに伝わるはずがないハズなのに武見がウンウン唸って解釈をしている様子なので、ぐ、と覚悟する。じぜんの会話をどこまで把握されていたのかその次第によっては命をうばうべきかも知れんし。しかし武見はじ、と考えあぐねたあとに、
「そのパンツ、可愛いね。牛丼温めたから食べなよ」とまるで見当はずれのことを言うのでなんとなくはぐらかされてしまった。三日履き古したのが白ではなかったという安堵もあった。そしてタイムアップだ “――チャットが終了しました――”途中終了。客はほどほどに納得して去ってしまった。ここからが稼ぎどきだったのに。カネがない。力尽きて、床に大の字で寝転びたくなる。経済的に。しかし実際に寝ころんでみると、気分はそれほど深刻でもないことに呆れるのだった。
 キッチンから伝わるレンジの低く唸る音が鼓膜を揺らし、チーズとタレの温もった香りが掠める予感に鼻さきが凝る。たしかにハラへった。うんでも、
“食えないよ”もう一人きりのチャットにそう書きこんで返り見る。
“だって臭すぎて死ぬ”
「死ぬ前に着替えようよ」
“じゃあまた脱がせて”
 ただ声のでないだけなのに赤ちゃんみたいに手足をゆるく天井にのべる。それで、
 何だか懐かしいものでも見たような気になる。あの病院から戻った日、玄関先で武見と出くわして。それでけっきょくはセックスしてしまった。でも武見はさいていではない。あたしはこの世との収支が見合わなくなったじてんで死ぬべきだと思っている。

 声
 こえが
 家の、アパートのちかくで誰にも聴こえないこえで呻っていたはずなのになぜか武見に気づかれて、この部屋の玄関ぐちにしばらく踞ったあとで成り行きで性交した。
 それで泣いていると
なんで泣いているの
 泣くよ、だって
 世界はきょうも悪化の一途をたどっている。だってもう、
 ふ、ふ、ぎゆ、ううう、
 というあえぎ声のような悲鳴にしかならなかったが。いちおうきみは話したはずだ。きみにもぼくの記録にも残らないハズのそれまでのおはなしを。父はなぜ片方だけサンダルのない男の来訪を許してしまったのか。そのあほうが自分の天敵であるとまで信じて運命のままに破滅を演じたのか。あなたはあのときなぜ、しょんべん塗れの娘のことを抱いたりしたのか。予言も英雄もクソくらえだ。

あ、あ、あー。
 明け方に浴室のまどを開けてみるがやはり外がわに声は出ない
 かといってタイニーグリーンもまだ眠っているようだ、
 もちろんひどく眠いのだが無音のままに、服を着てそそくさと窓辺にいくと武見はやはり目をひらいている。
 ね、舐めてよ。まくり上げながら鼻で吐いたと息でこっそりと下腹をへこませる。あの時のままに下着ははいていない。
 これまでの経緯を考えてみたんだけど、つまり理性をなくした相手としかやれないんじゃないかとか、
 武見は相変わらず聞こえているのか聞こえていないのかがわからない。
 ね、もしかしてあたしのこと、好きだったりする、
 え?
 それまでスカートのうちがわへ呆けたように、それが宿命か義務であるかのように魅入っていた男が
 今さら、そこから? と真顔で問うのできみはその頬からいちばん遠いつま先よりの足裏でそれをはじいて、ついでにもういちど蹴っておく。

 さてこのものがたりはここで終わりだ。
 ぼくの名前はタイニーグリーン。これまでいちども名前を辞書に引いたことなどないんだぜ。

【Strick!!】タイニーグリーン〈個守り 簒奪ver.〉

執筆の狙い

作者 m.s
104.28.83.217

見栄を切れと叱咤されているのをみて、僭越ながら堂々とパクらせていただきました。

しかしこれはたぶん、少し難しすぎますよ。長文問題の質として、一般性が無さすぎるうえにまず長すぎる。少なくともクロスワード気分の息抜きになるような類のものではない。意図は重々承知のうえです。
が、個人的には歯応えがあって楽しめました。

とちゅうから、これ頑張って自前の小説書いているときと変わらないんじゃないか、となったけど。(さてこれどうしたら面白くなる? とうんうん悩むあたりから)。

しかし小説を書くという作法について、なるほどあなたはこうで私はこうなんだな、と一方的にかなり深く語らった気分でおり、満足です。

あのきっとこれ、結構はやめなところで題名決めていませんか?
あと会話の掛け合いのプロットがまずあってあとから地の文で足りない情報を補完していくタイプではないか。

そして私はなぜ占いか、なぜ失語か、とか説明せずにはいられない。まあじぶん、登山のゆめを書くと生と死というテーマがかってに裏打ちしてくるぐらい安直だし。奇妙な鏡をみている気分でした。

コメント

13hPaブロでしょ
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まったく食えないお人ですなあ、相変わらず。

やることがいちいちいかちい。



あたしがなんか言うと台無しにしてしまいそうでヤバいのでまだ書かないし、まだ読ませてもらう時間ないので改めてお邪魔させてもらうかもしれないんですよの印。



Strick!! おつかれっす。

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あまり読解っていう読解は好きではないけど、読解を試みざるを得ないような、読解したくなるような愉しみがあった。つまり今回のは、いつもの切実さを伴ったぐらぐらさせられるホラーテイストな語り(適切な表現が見つからない)自体よりも、語り手の正体のほうに意識が向かわされる作品。もしやクロスワードを解くような感覚に似ているのかもしれない。正しい頭の酷使法。

語り手らしきタイニーグリーンである「ぼく」は「きみ」が幼いころ身近に存在していたキャラクター。しかしどうやら「きみ」と「ぼく」とは交流可能らしい。つまり「ぼく」は「きみ」が内面に作った虚構なのだろう。

と、思ったら都丸が出てきた。

「きみ」も「ぼく」も本体は都丸なのか?
そういえば内向きの独白相手というのは何も一人だと決まっているわけではない。何人にも分裂することだってあるんだろう。それは本体が肉声を失ったことによってさらに進行したらしい。


しかしだ、そのように埋めたはずのクロスワードがなんだか正解に至っていない気がしてならない。

特にここ、

>でないときみはもっと早いスピードで過ぎ去ってしまうだろうから。

ここで「ぼく」は明らかに「きみ」の意識? の上位に位置している。
「ぼく」は「きみ」とは階層が違う?




鉤括弧なしと「」と『』の使い分けや法則性を見出そうとしたけど、たぶん厳密なそれはないのだと思った。別にどうでもいいのだけど。


>そして私はなぜ占いか、なぜ失語か、とか説明せずにはいられない。

瑣末なことだけど、心因性なら失語症ではなく失声症ではないだろうか? いやはやD抗原や白血球抗原が出てきたところで思わず検査齧ってる同業者かなって思っちゃったんだけど、いやこれは純粋に何かを調べるのがめちゃめちゃ好きなんだよな、自分の生活に関係あろうがなかろうが? そんな特異体質が作品に如実に表れているよな、たしか夢判断?の話とか、さきの山のそれもそうだった。それがm.sさんの現在における創作の源泉のひとつなのだろうと感じました。



参加してもらって嬉しかったです。
おつかれさまでした。

m.s
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ゐ様

まずは愉しんでいただけよかった。
よく誤解されがちなのですが。私にとってはそれが小説の存在価値の第一義であって、だって眉根をよせてウンウン悩むのは現実だけでじゅうぶんだろう? という思いがあります。
いずれもっともっと白痴みたいにひたすら楽しく刹那てきな小説も書いてみたい。

たぶん。分かりづらさというものが面白さというものの重要な一要因ではないかな、とか。
読書というものは砂糖や塩や酢をくちに舐めて確かめるような無味乾燥な識別ではなく、美味しい料理を食べて「あれ、これなんだったっけ?」とその隠し味のゆらいを記憶にたどる所作が楽しいんじゃあないかと。あまりに理想的かもしれないが、できればそうであって欲しい。

恥ずかしながら失声症という概念を知りませんでした。
調べたところこの分野について自身の見識がずいぶんと古びていることがわかったので何冊か読んでアップデートします。まったく知らない事柄については知らないことを知っているので調べて読めばいいのですが、かつて得た知識が古びたことにはなかなか気付けないので助かります。

おっしゃるとおり、私はこの生存にまったく関係のないものを読むのが好きで、日々の暮らしにまったく役に立たないものを好きに調べられるのがいちばんの贅沢だとおもっています。この土地この時代に産まれてよかった。たぶん小説もその一環でして、小説を書くと自分がなにを知らないかが見えるので、それを読んでまた書いて、ということを繰り返しています。

またそんな自己満足に付き合わせるいじょう、私の書くものも出来るだけ面白くあってほしいと願っています。なかなか、うまくはいかないのですが。

お読みいただけましてありがとうございます。

13hPaブロでしょ
KD111239121019.au-net.ne.jp

【Strick!!】を実行するに当たってあたしが要求したかったものは、


1.構想もしくは設計、つまり創作的俯瞰

2.一人称とは? もしくは人称という作用あるいはまぬけさ


についての理解と実践を示す、ということだったわけなんです。
要は創作におけるごく基本的でサービスのある意識の働かせ方を表現して欲しいと思ってたんですね。

しかもこれはまったくのレベル問題でこそあるので、せっかく参加してくれた小難しいお二方にはもはや愚問でしかないことのはずなのでまあ、おつきあいいただいておつかれさん、としか言い様はないんですけど、まったく器用なものですねどいつもこいつも、といったところです。


要求1.について、この作品はものの見事に目的を示してくれているものだと思いました。

都丸、きみ、ぼく、タイニーグリーン。
並走する階層を眺めることは読書脳へのカンナビノール、あたしはえへへってただその理解を正確に得るよりはあたしが考えるそれとの齟齬の理解と積極的解放のようなことを意識するより仕方がない気がしたわけなんです。

ここにあるものは、あたしが欲しいと思うけれどつい諦めがちな、メンドウクサイ楽しみがカジュアルに生息しておる、という器用さに思えるわけです。
そうしてあたしは目指すものをもっと馬鹿げたらしく弱らせるより他にない気がしてるんですけどね。



要求2.について、この作品には一人称、二人称、三人称が点在する無法地帯様をしめす節操のなさときております。
あたしの要求にたいしてこいつ真っ逆さまのもん放ってきやがった、ってそのメッセージをあたしなりの理解に照らすことはそれほど難しいことではなかった気がしています。

ここにある真っ逆さまのことを相変わらずあたしは『素断ち』に閉じ込めたわけで、もはやこの世界とあの世界は別物世界、男と女、人間と動物ってことで全く祖語のない分類を経た気がしています。


豊富な理由をこの作品に眺めます。
それにより成り立つ曖昧の正当性をあたしは歓迎しなければならない気がしたということ。
けれどあたしはその真逆に相変わらずこだわって、その反発するべくもないそのただの有効性を受け容れたがらない。

とはいえ、あたしはこの作品を読みながら例えばあたしが人称に対して見過ごせない正確性などというものは、そのまぬけさなどというものは、構造と理由と作用にいとも簡単に溶けて許されるもの、許容されて歓迎されるべきものなのだなあ、というちっとも欲しくなんかない客観のようなものを友好的に思いつかされたわけなのです。


もう少し柔らかくあらねば。


ということはまったく本意などではない本音で、知りながら無視したらいいじゃないのあたしはそんな器用じゃねえ、なんてある種の湿った敷地を自分の腹の中に踏むような譲歩を思いついたりしたらしいです。



男の人は、理由に基づくものらしい。

あたしの都丸はただの感情ばっかのへろへろ。


いろいろお察し頂いたはずのことは、実際にはただの偶然の連なりでしかなくあたしはプロットを一切立てないし、書き出し一行から付け足していくことしか出来ないかなりの無謀馬鹿です。
書き出したら都丸がいて、タロットを展開していて、勝手にしゃべれなくなりました。

あたしは他人に理由や根拠を求めたがる癖に、そういう偶然ばかりでするすると立ち上る指先の世界の生まれ方、その不思議さばかりが大好きで、一切進歩しないばっか。

アホです。


そんなでも成り立つらしい、生まれ得るらしいその理由を当たり前に誰もが認識するらしいことを確かめたかったんですかねえ、知らんけど。



葛ゐもm.sさんもおまえらムズい。
参考にならん。


何考えとんねん、という〆を似て最大級の賛辞といたしながら爆速筆参リアクションにこそ驚嘆を漏らしつつわっかんねんだよちくしょう、なんつってべらぼう晒してお茶濁しとくあたしらしさ。




おつかれっす。

13hPa
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素断ち ×

素絶ち ○




もう死にたい死んだ方がいい

m.s
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13hPaさま

まあ予想どおり身内の飲み会みたいな雰囲気は出てきたな。仕方ない。
いじわるなやり口でごめんなさい。でも合法的に剽窃せよと教唆されたいじょう真剣にやらないのが一番失礼だろうと。時間は短いけどちゃんと本気でやりましたから。
ちなみにこの「タイニーグリーン」はまったき私の作品でありでしょさんとか言う架空の人物とはまったく関係しませんので感想にも罵倒にも今までどおり全て、当社の指針にもとづく回答をすべてにおいて行います。

人称なんて小説において瑣末とまではいわないけれど単なるテクニックだろう、一人称が好きなひとはそれだけやっていたら良いしそれに疑問を感じたらほかのにも手をつけてみたらいい。それは制約ではなく自由度! 小説を書けるということじたいが貴重な才能! とくに、それを書いて晒せるという羞恥心のにぶいあたりがさあ! 好き
晴れた秋の日にこめかみに人差し指あてて空想リヴォルヴするときちゃんと駆動音がするかどうかとか、リアリズムってそういうもんです。じゃあ銃器オタクや殺人鬼に殺戮シーンを書かせてみたらどうかと言えば、小説ならきっと私の方がうまく書けるよ。


性別について

さいしょのころに少女の小学生から高校生くらいまでのクロニクルを300枚くらいで書きました。「まだ若い書き手なのだろうな」と言われた。
それでその次の年のとき根暗な絵描きの女の子のアパートに、頭がすっからかんなアホかわいい女子が転がり込むコメディタッチのものを書いたら「まあ作者はこの中間の人物なんだろうが」と。
それで私は愕然としました。「ちょろいぜ」
どうやら想像していたよりも事態はずっとたんじゅんらしい。

たしかずっと昔にも言ったのだけど、あなたは男性の一人称をいちど書いてみたらいいんじゃないかな。記憶は不確かだけど甘えてんじゃないよ。とだけ

13hPaブロでしょ
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身内の飲み会などと、ずいぶんとらしくないことを軽々しく言い腐ったものではないですからしくもない。

それは知らないだけのことで、あたしに言わせればアホな冷やかしすらも寄せつけない硬質な企みという観点において、このたびの“Strick!!”はとても頑丈な気配を貫いて催されたものと我ながらご満悦、つまりは軽々しく触れたら恥かくよな、くらいの敷居は誇れたものではないのかとあたしのこと心底嫌いな連中はイライラして鼻血出そうなほど自惚れたこと当然の如く振舞っておくんですけど実際、適当なレベルの人に口出しできそうな気がするほど簡単なこと弄ったつもりないのでこれって正常な有り様だと、むしろあたしはやっぱりご満悦なんですけど何かおかしなこと言ってますかね。


見えるばっかのこと、やっぱ気にしたいですか。
あたしはそんなこと一番苦手だしつまんないと思っているので、これからも見た目にわかんないこと騒ぎ立てるから気になったらまた挑戦してみて欲しいんですよ、この先にあるこれまで見たことある気がすることなんてこれっぽっちも意味ないし価値ないってこと、何の権威にもぶら下がらずに弄んでやるって、結構本気で思ってるのでつまんないこというやつはこれからもぶっ潰したいし寄せ付けないつもりでいるんです結界張ってくよいちいち触るのもおっかないくらいのな、ってこと。

ひん剥いたと思うんですよ、次元違うとこ楽しんでますから、ってさ。
触れられないなら生意気な口もきくな下手糞どもってさ、言えるくらいのことぶちまけておかないと面倒臭いですし、それだけのことに付き合った身内として身内以外による卑怯自殺みたいなまぬけさこそ一目瞭然ってこと、分かっておいてください。
“Strick!!”に付き合ってくれた人は、その証明にまんまと付き合ってしまったこと、肩で風切って過ごして欲しいんですよね感想をくれただけの人も含めてってことなんですけど、それだけの威力を誇らせるくらいにはあたしは常に戦っているつもりなので、関わってくれた人は片っ端から大したものです、得したと思って次元の違うとこエラそうに歩いて下さいそれがあたしからのこの度のご褒美。

おっかなくてあたしまともに付き合える人なんてそんなにいないでしょ。
その価値をあげますよ、これは本当にただの感謝。



どうもありがとう関係者各位。





追伸


自分じゃないこと、って単純な意味での男一人称に挑むことに、あたしは価値を見出せるんだろか。
問題はただそれだけ。

あたしはあたしのことを書いてきたばっかなのか、って言えばそんなつもりもないんだし。

鍛えるための手段を選ぶ趣味はないタチなので、興味がないと出来そうにないんですよ、正直なところ。
何しろ、知ってるかもしれないけどあたしは男に興味がない。
宿命ですか、これは。
そうだというなら絶望を期待と可能性に化かすばっかりなんですけど、そのために男を書くことが必要と思えたならやってみようと思います。
いつのことなのかは全然わかんないですけどね。

m.s
104.28.83.144

13hPa様

すみません。脱稿ランナーズハイが終わっていなかったこともあってごく素直に軽率なことを言いましたが。この企画の志や敷居の高さを揶揄したり軽んじたりする意図はなく、こんなにも過酷な作業を前提とする馴れ合いなどあっていいわけがない。他の参加者の作品についてはさきに参考として拝読しましたし、かってにしてもう、戦友くらいの気分でおります。さて、

よし書こうと思ったとき、じゃあどうしよう? 真正面から殴る役をだれもやる気配が無いのでそれをやるのがいちばん面白そうか(書くモチベーションまた独立した小説への期待として)と。
そうして内心では格闘や殴り合いの機運があったのにそうしたものがあまり無かったので「居酒屋」などといささか腑抜けた表現が出てしまった。しかしこれはむしろ、私のがわの才覚に起因する問題でしょう。

>らしさ
すがすがしく残酷なことに、人間はときと共に宿命的に変わってゆくものです。避けがたい事実として。
あなたは『火気厳禁 揮発性可燃物』だったころに比べればずいぶんと丸くなりましたが(主観)、小説はそうでないままであることが皮肉でなく少しく羨ましい(主観)。
鏡像のじぶんのコトを疑い続けるかぎり(主観?)、変化を求めつづけるしかありません。なので、

> 自分じゃないこと、って単純な意味での男一人称に挑むことに、あたしは価値を見出せるんだろか。

愚問でした忘れてください。これは単に私じしんの問題意識を投影したものでした。
今回じぶんの内側からの創作意欲からでは決して書かない(書けない)だろうことに手を触れる機会を頂いたのでその意趣返しといいますか。お礼参りというか。なにかこちらからも一つの明確な創作的ディシプリンを提示すべきではないかと思ったのみです。

今後もご健筆のほどお祈り申し上げます。それでは

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