作家でごはん!鍛練場
日乃万里永

神守島

― 第一部 ―



 瀬戸の海は、真夏の焼け付くような日差しを煌々と照り返していた。
 だが龍一にとってその光景は今、先ほどまで見慣れたものとは違っていた。
 つい先ほどまで、穏やかに見えていたはずの波が、急に荒々しくさえ見えた。
 わずかな願望と失望への恐れが入り混じった、その名のように鋭い眼光から望む紺碧の海は、まるで黒い靄に覆われているかのようだった――。

 龍一は、早朝より叔父と同い年の従兄弟とともに沖へ漁に出ていたが、無線で、ある知らせを受けたのだ。
 十六年前、終戦翌年の夏、突然家族を置いたきりずっと行方不明だった父が急に帰って来たと言う。
 
 龍一は当時、六歳の誕生日を迎えたばかりだった。
 十六年前の記憶に残る父は、叱る時こそ厳しかったが普段は優しい父であった。
 よく一緒に釣りをしたり、村の祭りなどに連れて行ってもらったことは、今でもおぼろげに記憶に残っている。
 幼い頃から器用で飲み込みが早く、すべての物事に対して正面から向き合う龍一を、父は自慢の息子だと村中に触れ回らんばかりだった。
 だが、父は突然出て行った。
 なんの前触れもなく突然。
 そして追い打ちをかけるように、父がいなくなってから間もなく、女と駆け落ちしたのではという噂を耳にした。
 決して信じたくはなかったが、もしや父は家族を見捨てたのでは、という疑念は心の片隅から片時も離れなかった。
 今日帰って来るのか明日なのか。
 日を追うごとに、誰よりも信じていた父に裏切られたかもしれないという想いばかりが、自身の中で徐々に膨らんでいった。
 もし、それが事実ならば絶対に許すわけにはいかない。
 しかし……その歳の誕生日にもらった龍の首飾りだけは、何度もはずそうと思ったが、その度にどうしてもはずせなかった。
 どうしても、どうしても断ち切りたくても断ち切れなかったのだ。

 叔父は即、漁を取り止め港へと引き返した。
 船着場に到着するなり、龍一は叔父にことわり、船を飛び降りるやいなや即座に駆け出して行った。
 途中一度も止まることなく走り続ける。
 龍一の家は代々続く漁師の家系で、海岸沿いに軒を連ねる家々の一角にある、木造の古い家屋であった。
 家の奥へ進んで行くと、奥の間の襖戸が音もなく開き、祖母が泣きはらした顔で出て来た。
「龍一……」
 祖母は瞳を潤ませ、なにかを訴えるように見つめる。
 龍一は黙ってその脇を通り、襖戸をさらに開いた。
 薄暗がりの中、目にしたのは一人の男であった。その髪や髭は伸び放題でかろうじて目の周りだけのぞかせている。
 ちゃぶ台を挟んで向かいに座る祖父が、怒りに顔を歪めていた。
 龍一は立ち尽くしたまま、その男に父の面影を見つけようとしていた。
 目の前にいる人物が父であるはずなのに、龍一はどうしてよいかわからなかった。
 積年の思いをぶつけようにも、昔の面影を微かに記憶するだけの今となっては、本当に父であるのかさえおぼつかないのだ。
 その時、今まで押し黙っていた男が口を開いた。
「龍一、すまんかった……」
 その声に微かな聞き覚えがあった。途端に、堪え切れないものが込み上げた。
「なんで、家族を置いて、出て行ったんじゃっ」
「悪かったと……思っとる。どこにいようとお前のことは、一日も、一時も忘れたことはなかった」
 苦しげに声を発する父に、龍一は長年の疑問をぶつけた。
「今まで、どこにおったんじゃ」
「それは、言えん」
 父は口を固く結んだ。
 祖父はぎろりと父を睨みつける。
「まさか女と、暮らしとったんか」
 その言葉に龍一は固唾を飲んだ。
 父が出て行った日、同時に地主の若妻が生まれてまもない赤ん坊とともに姿を消した。
 二人がともにいたという姿を目撃した人物もおり、その後村中に、駆け落ちしたという噂が広まった。
 そのせいで母親は居たたまれずに出て行った。もしも事実なら絶対に許すことなど出来ない。
「そうじゃ」
 だが父はそれをあっさりと認めたのだ。
 瞬間、龍一の体中から怒りが込み上がった。
「家族を、裏切ったんかっ」
 殴りかからん勢いで怒鳴りつけた。両手のこぶしを固く握り締め、怒りにうち震える。
 父は項垂れ、情けない声を発した。
「ずっと、龍一に謝りたかった。謝っても許してもらえんと思ったがせめてひとこ……」
「今更遅いっ」
 最後まで言い終わらぬうちに、龍一は怒鳴りつけた。
 祖父は龍一に代わって言う。
「一番信頼しとった父親に、突然出て行かれ、龍一が今までどんな思いで生きてきたかわかるか?」
 龍一はうつむいたまま、眼だけを父に向けた。
「また、その女のところに戻るつもりか」
 ぎりっと歯を食いしばりつつ言葉を絞り出す。
「いや、おれはもう年じゃ。この頃では、このまま二人を守り通す自信ものうなって来た。今ではもう、村の様子もいろいろと変わっとる。それでこの際、戻って来ようと思うたんじゃ」
 弱弱しく答える。
「まさか、その女と、ここで一緒に暮らすつもりか」
 龍一は膝を乗り出し詰め寄った。
「いや、ここへ戻って来てまで、そんなことが許されるとは思うとらん。しかるべき場所に帰すつもりじゃ」
 この辺り一帯の土地を仕切る地主の宮前は、若妻が出て行ってからまもなく、体裁が悪いと思ったのか数年後に後妻をもうけていた。
 村人に散々陰口を叩かれ、居たたまれなくなったようだ。
 しかるべき場所というのはわかるが、十六年もともに暮らして来ておいて、それほど簡単に別れられるというのか。
 龍一はふと、顔を上げた。
「いや、あんたの言葉を鵜呑みにはできん。あんたをこのまま、その女のところに戻らせるわけにはいかん」
 父の言葉を、にわかに信じることが出来なかった。女のもとへ戻り、また再びこの家に帰って来るなど、簡単には信じられなかったのだ。
「そうか……」
 父はしばらく黙り込んだ後、言葉を発した。
「ならおまえにも、付いて来て欲しい」



 その島は「神守島」といった。
 瀬戸内に点在する島のひとつで、古くから神域として崇められている島である。
 決して人の手で犯してはならないと。
 遠い昔から、島に渡ろうとする者には必ず災いが降りかかるといわれてきた。
 渡り住むものはないといわれていたが、その島にまさか父が暮らしていようとは思いもしなかった。
 父一人ならともかく、当時生まれたばかりの赤ん坊も同時にいなくなったと言い、無人島である可能性は考えられなかったのだ。 
 それは……まったくの盲点だった。
 しかも真面目一筋で誰よりも信心深かった父が、まさか神域を侵すはずがないと誰もが思っていたのだ。
 だが実のところは龍一の叔父が、父をずっと手助けしていたという。
 叔父はその秘密を頑に守り通して来たのだ。
 叔父は長年父の助けになり、捜索の手がこの島に及んだ時も、三人が決して見つからないよう裏で手を回し、村の様子などもその都度父に報告していたということだった。
 地主の宮前が後妻をむかえた時、それを期に叔父は父に村へ戻るよう話したそうだが、前妻である由紀乃は頑として拒んだと言う。
 自分と娘だけでもこの島で暮らしたいと。
 そこで父は、ともにこの島に留まることにしたのだそうだが歳には逆らえず、時とともに次第に二人を守り通すことに限界を感じ、また由紀乃も、娘の将来を思うといつまでも島に籠ってばかりはいられないと思い、意を決して戻って来ることにしたらしい。

 父は砂浜に舟を引き上げ、そばにあった杭にくくりつけた。
 島には、沢山の木々が生い茂り、人が住む気配は感じられなかった。
 だが視界の中に、人が一人通れるくらいの小路がとらえられ、龍一は父の後に続いた。  
 道なりに坂を上り、森の茂みをしばらく歩いて行くと、微かに水音が聞こえた。
 奥へ進むにつれその音はだんだん大きくなり、森を抜けると突然、さあっと吹き抜ける風が頬を撫で、目の前が急に開けた。
 足元には大小の石がころがり、その合間にさらさらと清らかな沢が流れていた。
 水面は日の光を受けてきらきらと輝き、底が見渡せるほどに透き通っている。
 その後方では滝の音が厳かに響き渡っていた。
 その奥に、丸太を組み合わせた、見た目には簡素な、家らしきものがあった。
 龍一がそばまで近づくと、目の前の戸が急に勢いよく開いた。
 次いで、一人の髪の長い少女が飛び出して来た。
 そでのない羽織を帯で留めているだけの質素な身なりである。
 この少女は多分、十六年前、まだ生まれたばかりだったという赤ん坊だろうと思われた。
 少女は、父の後ろに立つ龍一の姿を見ると、はたと立ち止まり、驚いた様子で目を見開いた。
「誰?」
 一歩、後ずさる。
 その時、後ろから由紀乃と思われる女が現れた。
 由紀乃は龍一を見るや、
「あなたは……もしや、龍一……さん?」
 黙って頷くと、由紀乃は次の瞬間顔を歪め、急に膝を折り地面に手をついた。
「申しわけありませんっ」
 目の前で深く頭を下げる。
 突然のことに戸惑っていると、父が由紀乃の背に手を触れた。
「おまえが頭をさげることはない。悪いんはおれじゃ」
 由紀乃が顔を上げるや、父は龍一に訴え掛けた。
「龍一、この人はずっとおれに、おまえのところに帰るよう言うとったんじゃ。それを、おれが拒んどった。じゃけえこの人はなんも悪くないんじゃ」
 由紀乃が即座にそれを否定する。
「いいえ、違います。私がこの島を出る勇気がなかったけえ、一朗さんを今までずっと引き止めてしもうたんです。悪いのは私です」
 お互い庇いあう。
 由紀乃をよく見ると、真白い肌にほんのりと唇は紅く、慈悲に溢れた眼差しはどこか憂いを帯びている。
 少なくとも男を誘惑し、たぶらかすような女には見えなかった。
 父は再び口を開いた。
「龍一、おれはこの二人を守りたかったんじゃ。じゃけえ頼む。おれへの恨みを、この二人にだけはぶつけんで欲しい」
 龍一は由紀乃を責めるつもりなど毛頭なかった。目的はただひとつだけだ。
「おれは、この人に対してなんとも思うとらん。ただあんたと、この人の仲だけは、絶対に認めるわけにはいかん」
「それはわかっとる」
 父は頼りなげに言葉を発した。



 一人、崖の上に佇む龍一は、唇を強く噛み締めた。
 過去にどんな事情があろうとも、やはり父は家族より由紀乃を選んだのだ。
 あらためてそう思うと、怒りよりもはや、絶望が込み上げて来た。
 胸の首飾りに手をやり、ぐっと握り締める。
 子どもの頃、一度海へ投げ捨てようとしたが、叔父の説得で、かろうじて留まったことがあった。
 
 かつて、村中に父の噂が流れ、いた堪れなくなって浜を訪れ、海に向かって放り投げようとした時、
「龍一、なにしとるんじゃ?」
 叔父に呼び止められた。
 龍一はびくっとして振り返った。
「なんもしとらん」
 目を背けると、叔父は龍一の右手に目をやった。
「その手に持っとるんは、何じゃ?」
 龍一はそれをさっと後ろに隠した。
 叔父は即座に感づいた様子で、
「それは、お父さんがくれたものじゃないんか?」
 龍一は答えなかった。
「大切にせんといかんぞ」
 叔父の言葉に、それを思い切り地面に叩きつけた。
「こんなもん、いらんっ」
 拳を強く握り締めた。叔父は黙ってそれを拾い上げると、
「龍一、お父さんはきっと、どこにいようと、今でもおまえのことを思っとるに違いない。お父さんは誰よりも一番、おまえを大切に思うとったんじゃ。なにがあってもそれだけは信じて欲しい。これは唯一、おまえとお父さんを繋ぐものじゃ。絶対に、手放したらいかん」
 龍一の手にそれを握らせ、両肩に手を置き、力のこもった声で言った。
 しばらくはじっと、返された首飾りを眺めていたが、やがて顔を上げ、真剣に問い掛けた。
「叔父さん、お父さんは、女の人と一緒に出て行ったんか?」
 叔父は正面から、龍一の目を見つめた。
「人はいろいろ言うが、すべてはただの噂に過ぎん。誰も確かめてもおらんことをただ真に受けてはいかん。もし仮にお父さんが女の人と一緒にいなくなったんじゃとしても、ここを出て行ったんはきっと、なにかわけがあったんに違いないんじゃ。なんもわからんのに人が言うことだけを信じて、お父さんのことを疑うてはいかんぞ」

 その言葉をひたすら信じ、龍一は唯一心の拠りどころとしていたのであった。
 かろうじて道を外すことなく今まで生きてこられたのは、叔父や祖父母の支えと、父を信じたいというひたすらな想いだけであった。
 だが今となってはもう、その証である首飾りを首に下げている意味もなくなってしまった。
 もうなんの躊躇いも未練もない。
 龍一は出来るだけ遠くに投げ飛ばそうとした。
 その時、
「待ってっ」
 背後から声がした。振り向くと少女が立っていた。
「それを、どうか捨てないで、お願い」
「放っといてくれ」
 構わず海に投げようとすると、
「待って、それならどうか、私にくれん?」
 あまりに真剣な眼差しに、どうせ捨てるならと、少女に向かって放り投げた。
 慌てた様子でそれを空中で受け止めた少女は、ほっとしたように安堵の表情を浮かべた。
「あなたに、どうしても見せたい物があるんじゃけど」 
 少女は龍一を見上げた。
「なんじゃ?」
「こっちじゃけえ、付いて来て」
 こちらの返事も待たずに駆け出して行った。
 しかたなく後を付いて行くと、少女は龍一に構わず島の奥へと進んで行った。
 龍一がふと辺りを見回すと、豊富な樹木の数々、たわわに実る木の実や果物、太く雄々しい樹木の合間には、龍一もよく知る薬草などもあった。
 そこここに咲乱れる草花などは、いったいどのくらい種類があるのか数えたらきりがない。
 更に、無数の鳥や虫たちが安心して羽を休め、ここはまさに楽園そのものであった。
 急な坂道に差し掛かるが、慣れた様子で登って行く少女に追い付くと、一瞬、蝉時雨さえも深緑の中に溶け込むような、重々しい雰囲気の漂う空間があった。
 そこを抜け、さらに奥へ進んで行くと、路が少し平らになったところに、目の前に大きな岩が現れた。
 その岩と岩の間から、なんともいえない神々しさで七色に輝く光が幾重にも降り注ぐ。
 光のそばまで近寄ると、ちょろちょろと岩から染み出た水が流れ込む、透明で清らかな泉が姿を見せた。
 厳かで神聖な空気が漂い、周りを取り囲む岩々が、まるでその場所を護っているかのようであった。
 泉の中を、一匹の白い蛇がすうっと泳いで行く姿が見えた。
 龍一はその雰囲気に呑まれ、しばらく魅入られていた。
 この島は人を選ぶといわれている……。
 信じられないが父と由紀乃は、この少女ともども、今までなにごともなく無事に、この島で暮らして来たのだ。
 龍一が複雑な思いでいると、
「見て」
 少女がある方向を指差した。
 龍一が顔を上げると、岩の窪みの部分がまるで祠のようになっており、その中に、多分父が彫ったのだと思われる仏の像と、自分が首に下げていた物と同じ、龍の彫り物が置かれてあった。
「この彫り物は、龍と言うんじゃろう?」
 龍一が、答えずにそれをじっと見つめていると、少女は言葉を続けた。
「おじさんは、毎日ここに来て、これを眺めとったんよ。きっとこれを通して、遠くにいるあなたのことを見ていたんじゃと思う。私は小さい時から、おじさんにとってこの龍というものが、とても特別なものじゃって思うとったけえ、これと同じ首飾りを持つあなたが目の前に現れた時、本当に驚いたんよ。まるでここにある龍が、形を変えて、会いに来てくれたんかと思った」
 龍一は、目の前にある龍の彫り物に目を向けた。
 父は毎日ここへ来ていたと言う。あの時「おまえのことは、一日たりとも忘れたことはなかった」と言っていたことだけは、嘘ではないのかもしれない。だがそれとこれとは別だ。
 黙っていると、少女はなおも話し掛けて来た。
「龍一さん、一朗おじさんは、どんなに遠く離れていても、いつもあなたを思い続けとった。そしてきっと今も、あなたのことを想っているはずじゃ。それだけは嘘じゃない。それだけはわかって欲しいんよ。じゃけえ、どうかこれを簡単に手放したりせんで、お願い」
 首飾りを両手に持ち、せつなく訴え掛ける。
「いや、それだけはもう二度と手にするつもりはない」
 だが、少女は引き下がらなかった。
「おじさんは、私のためにいろいろなものを作ってくれたんじゃけど、唯一こうして身につけるものだけはくれんかった。じゃってこれは、離れとっても常に寄り添っていたいからじゃろう。おじさんの気持ちを、どうか簡単に投げ捨てたりせんで」
「何度言われても、おれの気持ちは変わらん」
 断言すると、少女は困っている様子だったが、
「それなら、いつか龍一さんが再び手にしてもええと思うまで、私か持っとってもいい?」
 そう言って、こちらの目をじっと見つめた。龍一はもう二度と手にする気はなかったが、少女があまりにも必死なのでしかたなく、
「それは、別にかまわん」
 と答えた。
 すると少女は、
「ありがとう」
 と首飾りを固く握り締めた。
 少女のほっとした表情が合図のように、鳥や小動物たちが集まって来た。 
 少女は名をナギといった。
 明るい陽射しの下で見るナギは、少し癖のある長い髪に小麦色の肌、きゃしゃで細長い手足をした可憐な少女であった。
 その瞳は心の奥底まで見透かされてしまいそうなほど透明で、きっと邪心というものがないから動物たちが何の警戒心もなく寄ってくるのだろう。
 言葉もなく見つめながら、きっとナギは、父と母親の愛情を一身に受けて育ったのだろうと思った。
 世の中の汚さなどなにも知らずに生きてきたのだろうと。
 だが、これからは……。
 世の中のことをなにも知らずにこの年まで生きてきたナギが、今後、今までとは掛け離れた世界で、きっと様々な苦難を乗り越えて行くことになるだろう。
 その過程で、透明で曇りのない瞳がいつか陰りを帯びる日が来ようと、自分には関係のないことである。
 龍一はこれ以上ナギを直視出来ず、さっと目を逸らした。

― 第二部 ― 

 一

 朝陽が顔を覗かせてまだ間もない頃、庭を掃除していたナギは顔を上げ、ふと辺りを見渡した。
 この村に来て、初めは島とはまるで違う世界に、毎日が驚くことばかりだった。
 島にはなかった、電気というものが夜中でも部屋を明るくし、ナギはランプの妖艶な灯りを、まるで吸い込まれそうになりながら、ほうっと眺めていた。
 車、バス、列車、それらを利用し、祖父はいろいろなところに連れて行ってくれた。
 その中でも特に気に入ったのはガラス窓であった。
 向こうが透けているのにそこに存在している。
 恐る恐る手を触れると向こう側にまで手が届かない。
 それが不思議でたまらなくて、空いた時間はいつでもそれに触れていた。
 それになにより、世の中にこれほど多くの人がいるとは思わなかった。それが一番の驚きだった。
 だが、一歩外に出ると周りの人々の目は皆冷たいものだった。
 人々にとって母は、佐伯一朗という男を誘惑し、その一家を不幸に導いた人間であり、招かざる客であった。
 父が世間にそう言いふらしたのだと祖父が言った。
 それに反し、一朗が村の人々に、地主の言うことは間違いだと必死に説得してくれたというが、権力の前にはなす術がないようだった。
 当然、娘であるナギも受け入れられるわけがなく、近所の人々とはまともに挨拶も交わすことが出来なかった。
 一朗は心配し、会いに来てくれたのだが、母がきっぱりと、もうこれ以上世話になるわけにはいかないと告げた。
 それでも一朗は時折、心配げに様子を見に来てくれるが、状況は変わらなかった。
 母は、村に来てから時折体調を崩すことが多くなり、今も自室に臥せていた。
 
 庭を掃き終え、力なく縁側に座り込み、肩を落とすと、障子の向こうから祖父が顔を出した。
「ナギ、ご苦労じゃったな」
 上がるように言われ、履物を脱ぐ。
「なんじゃ、元気がないのう」
 祖父は心配げに声を掛けた。居間のちゃぶ台の前に腰を下ろすと祖母が冷たい麦茶を運んで来た。
 一口飲んでひと息つくと、祖父が穏やかな口調で問い掛けて来た。
「ナギ、この村の暮らしには、もう慣れたか?」
「うん、だいぶ慣れて来た。でもなかなか村の人とは仲良くなれんで」
 目を伏せると、祖父は大きく溜息をついた。
「そうじゃなあ。おまえの母親とナギを受け入れてもらえるよう、皆に話をしとるんじゃがなかなか聞き入れてもらえんでな。それでもおまえの母親を昔から知っとる人や、ほかにも理解を示してくれる人は何人かおるんじゃけど、村人の多くは聞き入れてくれんのが現状じゃ。ナギには辛い思いばかりさせてしまうが、もうしばらく、堪えてくれんか」
 労わるように声を掛けられると、張り詰めていた心が急にもろくなる。
「私、一体どうしたらええかわからん。近所の人に話し掛けても、誰も顔も合わせてくれんかったり、私がまるでいないみたいに無視されて」
 祖父は困った様子で、
「そうじゃなあ……わしもどうしてええか、ええ方法がなかなか浮かばんで」
 ともに項垂れていた。
 だが急に、なにか思い出したように「ああ、そうじゃ」顔を上げた。
「ナギ、あそこはどうじゃろう? 佐々木さんの家じゃ。あの人は変わり者と言われとるが、おまえの母親のことを昔からかわいがってくれた人じゃ。ついさっきも野菜を届けてくれた。あそこのおばあさんは一人暮らしじゃけえいろいろと大変らしい。じゃけえ畑の手伝いでもさせてもろうたらどうじゃ」
「佐々木さん?」
 ナギは、その人の家もなにも知らなかった。
「少し遠いんじゃが……」
 祖父は、丁寧に道を教えてくれた。
「私、今すぐ行って来る」
 ナギは逸る気持ちを抑えきれず、駆け出して行った。

「ここ……かなあ?」
 ナギは、集落からだいぶ離れたところに、一軒だけぽつんと取り残されたかのように建つ、古ぼけた木造の家屋を見つけた。
 教えてくれた場所に違いないと思うのだが、家の周りを草花が生い茂り、どうにも入口が見つからない。
 しばらく家の前でうろうろ歩き回っていると、
「あんた、だれじゃ?」
 白髪の老婆が草むらから現れ、訝しげにナギを見据えた。
「あ、私ナギというものです。祖父から、ここで畑のお手伝いをさせてもろうてはどうかと言われて来たんですが……」
 祖父の名を告げたが、断わられるかと思いつつおそるおそる返事を待っていると、老婆はにーっと微笑んだ。
「おやまあそうかい、畑を手伝いに来てくれたんかい。遠いのに、すまないねえ」
 老婆はくるっと背を向けた。
「まずはこっちに、来てくれんかな?」
「はい!」
 やっと村人と接する機会が出来たナギは、喜んで後に付いて行った。
「まずは、ここなんじゃけどなあ……」
 老婆が案内した先には、なんとかかろうじて玄関だとわかる扉が、うっそうと茂った草むらの中に埋もれていた。
 僅かな範囲に草が踏みしめられた跡があり、そこから出入りしているのだとわかるが、とにかく家の周り中、草だらけであった。
「あの……これ」
「ああ、見ての通り、これじゃあ家に入りにくうてなあ、年寄りじゃけえ、草刈もおっくうで、まあ、一日やることと言ったら畑仕事くらいじゃけど、それも最近じゃ体がもたんでなあ。畑もお願いしたいんじゃが、その前に、この辺りを刈ってくれんかのう」
 ナギが畑? はどこかと思いながら草むらを見渡すと、一帯が緑一色に覆われた景色の中に、唯一トマト……らしき赤い物が垣間見える。
「手伝ってくれる人はおらんのですか?」
「家族はもう、だーれもおりゃせん。村のもんは皆、自分の家のことが忙しいけえなあ、無理には頼めん」
「そうですか」
「あんた、手伝うてくれるか?」
 ナギは、これは大変な作業だと思いながら、
「わかりました。頑張ってみます」
 とても一日では終わらないだろうと思いつつ答えた。
 予想していた通り、作業は思いのほか時間を要し、陽が落ちる頃まで頑張ったが半分も出来なかった。
 だがかろうじて玄関の周りが開けたことで老婆はとても喜び、お礼にと、採れたての野菜をわけてくれた。
 畑のある場所に育成する野菜は、すべてみずみずしく、たわわに実っていた。
 老婆は畑を見回しながら、
「花も草も野菜も一緒じゃ。人間が下手に手を加えんでも、強いものは育ち、弱い者は枯れる。そうして自然に大きく育ったもんが残るんじゃ。草じゃって無駄に生えとるわけじゃない。草があるお蔭で、無駄に野菜が虫に食われることもない。じゃけえ私は必要なこと以外なんもせん。ただ見守っとるだけじゃ。なんでもね、自然に任せるのが一番なんじゃよ」
 老婆の言葉はナギの心に染みた。
 その畑で採れたトマトは、一口で力が漲ってくるような感じを覚えた。それはまるで島の植物たちを思い起こさせる味だった。

 日の暮れかけた道を、野菜がたくさん入った籠を両手で抱えながら歩いていると、小さい子どもたちが数人、走りながら後ろから追い抜いて行った。
 その姿をぼんやり見送っていると、急にどんっと背中を押された。
 ふらっとよろめいた瞬間、籠が傾き野菜が転がり落ちてしまった。
 慌てて腰を屈め、拾おうとすると、ぶつかった子どもは一度こちらを振り返ったが、そのまま走り去ってしまった。
 ひとつひとつ拾い集めていると、
「はい、これ」
 一人の少年がトマトをこちらに手渡してくれた。
「ありがとう」
 受け取ると、少年はなおも手伝ってくれた。
 歳の頃はわからないが、立ち上がるとナギの肩ぐらいまでの背の丈である。
 すべて拾い終え、あらためて礼を言うとナギは、
「これ、もろうたもんじゃけど。食べて」
 トマトを一つ差し出した。
 少年は黙って受け取ると、なにも言わず駆けて行ってしまった。
 ナギはほんの少し心が温まった気がして、家路を行く足取りも、心なしか軽くなった。


 早朝、家畜に餌を与えていたナギは、にわとりに混じって小鳥が餌をついばむ姿を微笑みながら見つめていた。
 いつしかナギの両肩や周囲にはたくさんの小鳥たちが集まって来た。
 一日のうちで最も心癒されるひと時である。
 指に小鳥を乗せ、時を忘れて戯れていると、
「ねえちゃん」
 振り向くと昨日出会った少年が立っていた。
「その鳥、なんでそんなに懐いとるんじゃ?」
「皆、友だちじゃけえ」
「友だち?」
「そうじゃ。島におる時から、ずっと友だちじゃったんよ」
 少年は理解できない様子で首を傾げていたが、
「おれが近づいたら、絶対逃げるじゃろう?」
 少年は自分が近づいた途端、小鳥が一斉に飛んで行ってしまうと思っているのか、こちらに来ようとせずその場から尋ねた。
「大丈夫じゃきっと」
「本当か?」
 ナギが小鳥を乗せた指を差し伸べると、少年は恐る恐る近づいて来た。
「ほら」
 肩に乗せてやると、少年は一瞬肩を竦めたが、少しして、小鳥が飛び立つ様子がないことがわかるとほっと肩の力を緩めた。
 するとしだいに、先ほどまで強張っていた少年の顔がしだいに緩んで行った。
「ねえちゃん、おれ、昨日もらったトマトの礼を言いに来たんじゃ」
 鳥と触れ合いながら、明らかに先ほどとは違い、口調まで明るくなっている。
「あら、お礼を言うのは私のほうじゃ。落ちた野菜を拾ってもろうて、とても助かったんよ」
 ナギは少年がわざわざそれを言いに来てくれたことが嬉しかった。
「おれ、昨日はろくに礼も言わんで帰ってしもうたけえ、悪かったと思うて」
「ええんよ。そんなこと気にせんでも、それよりトマト、美味しかったじゃろう?」
 少年は笑顔で頷いた。
「それなら、今日これからまた、そのトマトをくれた人の家に行くつもりじゃけえ、一緒に行かん?」
 少年は少し躊躇っていたが、
「おれが行ってもええんか?」
 と不安げに言った。
「やることが一杯あるけえ、人の手が欲しいと思っとったんよ」
 少年は、
「それじゃあ、ちょっとだけ」
 と遠慮がちに答えた。
 
 その日、ナギが少年をともない佐々木老婆の家を訪れると、一人でやるより、かなり作業がはかどった。
 老婆は大変喜び、少年にもと、礼に野菜を持たせた。
 翌日少年は村の子どもたちを引き連れて来た。
 そして皆で庭の雑草をすべて刈り取った。
 見違えるようにすっきりとした庭を見て、佐々木老婆は満面の笑みで、
「おやまあ、みんなありがとうよ」
 礼を述べ、子どもたちにもまた自慢の野菜を配った。

 後に、それを食した母親たちが野菜の味に驚き、老婆のもとに集うようになった。
 そうしてその栽培方法を学び、自家の畑に取り入れるようになった。
 次第に、そこに通うナギも、少しずつ、村の人々の中に溶け込むことが出来るようになって行った――。


 ナギは毎日のように、独り暮らしの佐々木老婆の家を訪れ、家の手伝いをするようになった。
 老婆の家はほとんどが自給自足で、野菜以外の食物などは、老婆の弟やその息子夫婦などが届けに来ていた。
 そこでナギも、老婆の負担にならないよう自宅で老婆の分の弁当を拵え、ともに昼に食したりしていた。
 畑仕事を終え、二人で昼食をとっていると、老婆はいろいろな話を聞かせてくれた。
 島に於いて、ナギは母親や一朗から読み書きを習い、書物などはボロボロになるまで読みつくした。だが書物に書かれていないことに関してまだまだ知らないことが多く、祖父母の話をはじめ、こうして老婆の話を聞くことは、なににも代えがたい貴重な体験であった。
 老婆はとくに多くの昔話を多く語り聞かせてくれ、毎日のようにいろいろな物語を語ってくれた。またその語り口が絶妙で、怖い話などは本当にどこかになにかが潜んでいそうで、ナギは思わず震えながら辺りを恐る恐る見回してしまうほどだった。
 その日、近所の子どもたちが訪れる時間に合わせ、ナギがトウモロコシをふかしていると、やがて、
「こんにちわー」
 と、学校を終えた子どもたちが家の手伝いを終え、数人揃ってやって来た。
 子どもや孫のいない老婆が寂しくないよう、毎日のように顔を見せに来てくれるのだ。
 老婆は顔をしわくちゃにして、
「おお、おお、よう来たなあ。ほれ、トウモロコシじゃ、たくさんお食べ」
 と、子どもたちに振舞う。
「ばあちゃんちの野菜は、ほんまにうまいのう」
 子どもたちは「うまい、うまい」と口一杯に頬張る。
 その姿を見て、益々老婆が目を細めた。
 子どもたちも老婆の昔話をとても楽しみにしているのだ。
 ナギにとっても老婆の語りは、何度聞いても聞き足りないほどであった。
 そのうちに、
「おばあちゃん、こんにちわ」
 幼い姉弟を連れた女の子たちがやって来た。
小さな子たちは、大きい子たちと遊んでいるうちに、時折迷子になってしまうことがある。
 ナギはその姿を度々見掛け、小さい子たちをまとめて遊ばせたりしていた。
 兄弟姉妹のいないナギにとっては、こうして沢山の子どもたちと触れ合えることはなにより幸せだった。
 だが……ナギはそれを心から喜ぶことなどは出来なかった。
 自分のせいで犠牲になった龍一のことを思うと、決して笑ってはならないと思うのだった――。
 


 日の暮れかけた岩場で腰を下ろし、海風を頬に受けながら、ナギの口から漏れるのはまた、溜息ばかりであった。
 時折見かける龍一の横顔が以前にも増して暗く沈み、声を掛けようにもなんと言っていいかわからないのだ。
 なにか自分に出来ることはないのだろうか、考えることはそればかりであったが、答えはなかなか見つからなかった。
 その時、
「ナギはよく、ここへ来とるんじゃな」
 ふいに男に声を掛けられ、ナギは驚いて振り向いた。
 人の気配にも気づかないほど、深く考え込んでしまっていた。
「隆生《たかお》さん?」
 龍一と同い年の従兄弟であった。
「なにか、考え事でもしとったんか?」
 彼はゆっくり歩み寄って来ると、ナギの横に腰を下ろした。
 彼とは最近、この浜に来るようになってから知り合った。
 人懐こい笑顔が印象的で、誰にも心を開かない龍一が唯一心を許せる存在であった。
 ナギは、毎日龍一と顔を合わせている彼なら、きっと相談に乗ってくれるかもしれないと思った。
「龍一さんのこと、どうしたらええかわからんの。私には、なにもしてあげることが出来んで……」
 隆生は少し考えている様子だったが、やがて口を開いた。
「ナギの気持ちはようわかるが、こればかりは誰にもどうすることもできん。ナギがいくら悩んでも解決にはならん。それよりもナギが、そのことを気に病んどると、龍一はかえって心配するじゃろう。気持ちを切り替えて、自分の幸せだけを考えればええんじゃ。龍一もきっとそれを望んどるはずじゃけえ」
「でも……」
 ナギには、その言葉を受け入れられなかった。
 出口はどこまでも先が見えない闇に覆われ、ただ暗闇の中を必死に手を伸ばして探っているようである。
 いつかわずかな隙間に光が差し込む日がくるのだろうか。
 今のナギは、ただそれを願うしかなかった……。


 村で夏祭りが行われることになり、ナギは隆生から、気分転換にどうかと誘われた。
 だがとても出掛ける気分になれないと断った。だがそこに龍一も現れると聞くと、それならばと誘いを受けた。
 彼が自分に話したいことがあると言うのだ。
 藍地に色とりどりの朝顔が描かれた浴衣は、祖母がわざわざ反物から仕立ててくれたものだった。
 人の優しさに触れるたび、ナギは心に染みて胸が温かくなる。
 神社に向かうあぜ道を、隆生の少し後ろから歩きながら暗い足元に目を向けると、初めて履く下駄がカランコロンと音を立てて夜道に鳴り響く。
 小気味良い下駄の音に、ふと島での生活が懐かしく思い起こされた。
 島では一朗が、ナギのためにいつも草履を編んでくれた。
 ナギはすぐに草履をすりへらしてしまったが、一朗はその都度、ナギの足に合わせて一生懸命編んでくれた。
 いつも自分のために文句一つ言わず草履を編んでくれるその姿を見て、ナギはもう、すぐにすり減らすような歩きかたはしまいと心に決めた。
 その日から、歩く時には草履を気にしながら歩くようになった。
 ナギは、自分が身に付けるものや口にするもの、その他すべてのものから絶えず恩恵を受けているのだと幼い頃から感じていた。
 どんなものでも大切に扱わなければならないのだと思い、日々感謝の心を失ってはいけないと思っていた。
 今、一朗の作った草履をなつかしく思い、血のつながらない自分のためにいろいろなことをしてくれたことを思い出し胸が熱くなった。
 だがそれは、本来自分が受けるべき愛情ではなかったのだということも決して忘れてはならないと心に留めながら。
 
 提灯の明かりの下、村人が輪になって踊っていた。
 所々に出店が並ぶ参道の端で、龍一が杉の木にもたれて立っていた。
 隆生は駆け寄って行き、手の甲で軽く額の汗を拭いながらほっとしたように声を掛けた。
「龍一、待たせて悪かったな」
 日が暮れてから時折風も吹きはじめ、真昼よりは多少過ごしやすいが、少し動くと汗が滲んでくるほど、いまだ夏の盛りである。
 龍一は顔を上げるとナギに向かい、暗く沈んだ表情で言った。
「ナギ、おれが今日ここへ来たんは、おまえがおれに遠慮して、祭りにも来られんと聞いたけえじゃ」
「龍一さん……」
 龍一は一呼吸おいて、再び口を開いた。
「もう、おれのことは一切構わんで欲しい、おれに遠慮されても、かえって迷惑なんじゃ」
 彼が自分に言いたいことがあるとは、こういうことだったのだ。あまりにも冷たく突き放した言いかたであった。
 隆生が見かねたように口を挟んだ。
「そんな風に言わんでくれ龍一、おれもナギちゃんも、おまえのことが心配なんじゃ」
「それがかえって迷惑なんじゃ」
 龍一は語気を強めた。
 隆生はなにも言い返せず押し黙ってしまった。
 龍一は、再び顔の向きを変え、立ち竦むナギに向かって言った。
「ナギ、過去のことは、おまえにはなんの関わりもない。おれとおまえはもともとお互い存在さえ知らんかった仲じゃ。じゃけえ、もとからおれたちは会わんかったんじゃと思うて、もうおれのことはもう気にせんで欲しい。そして今後一切、おれのことは忘れて欲しい」
「でも……」
「おれは、自分のために誰かが苦しんだり、犠牲になったりすることを望んではおらん。そんな思いはおれだけで十分じゃ」
 龍一は忌々しげに言葉を吐いた。
「龍一さん」
 目を逸らし、言いたいことはそれだけだとばかりに背を向けた。
 背後からナギは訴え掛けた。
「忘れることなんて出来ん。会わんかったことになんて思えるわけがない。龍一さんのせいで苦しむ人なんて誰一人おらんの。みんなあなたを心配しとる、じゃけえ、そんな風に言わんといて」
 龍一は、つと足を止めた。
「おれのためを思うてくれるんじゃったら、おれの望むように、このまま放っておいてくれんか」
「龍一さん」
 彼は二度と振り返らなかった。



 夕日の傾きかけた海辺で、濡れた髪からしたたり落ちる雫をそのままに、ナギはいつものように岩場に腰掛け、揺れる波を見つめていた。
 龍一はあれから益々表情が固くなり、隆生でさえもはや遠慮がちになるほど近寄りがたくなってしまった。
ナギは酷く後悔していた。
 自分のせいで、龍一は自身の存在さえ消し去ろうと更に心を閉ざし、叔父以外、一切の関わりを絶ってしまったのだ。
 まさか自分が、更に龍一を追い詰めてしまうなど、思い図ることさえ出来なかった。
 ナギは自分の愚かさを呪った。
 いっそ自分がこの村からいなくなってしまったほうがよいのだと思った。
 だがそれをすれば、母や祖父母、一朗に申しわけが立たない。
 どれだけの深い愛情を注いでくれたか計り知れない、そんな人たちを裏切ることだけはできない。
 なにかしたいのに、なにもすることが出来ない。
 ナギは必死に、龍一の凍った心を溶かず術はないのか考えた。
 だがいくら考えても考えても、やはり答えは出なかった。
 
 やがて日が沈み、大きく溜息をつきながら立ち上がると、気づかぬうちに後ろに人が立っていた。
 隆生かと思いきやそこにいたのは、ナギの父親であった。
「あなたは……」
 父は、母がナギと実家に身を寄せるようになってまもなく、一度だけ会いに来たのだ。
 その時の、人を射竦めるような眼光は、村に来て初めて人間に対する恐れを抱かせるものだった。
「ここにおったんか」
 威圧するように鋭い眼差しを向けた。
「な、なんでしょうか」
 その眼に捉えられ、怯えつつ尋ねると、父は急に声色を変えた。
「そんなに、怖がらんでええ、おれはおまえを引き取りに来ただけじゃ」
 少しだけ表情を緩めた。
「え? どういうことですか?」
 父にはもう家族がいる。そこに自分を引き取るとは……。
 理解出来ずにいると、
「おれはな、おまえの母親を許してやってもええと思うとるんじゃ。昔のことを水に流してやってもええと思ってな。ほんで、おまえの母親が戻って来る気になれば、今おる家族を追い出してもええと思うとるんじゃ」
「え?」
 驚くナギに構わず、父は言葉を続けた。
「それを、さっきおまえの母親に伝えに行ったんじゃ。そうしたら、戻る気はないと言いよった。おれが折角出向いてやったんに。おれはな、今まで欲しいものはなんでも手に入れてきた。村一番の器量よしと言われたおまえの母親もそうじゃ。それなんに、おまえの爺さんときたら、こぶつきの出戻りじゃが誰かもろうてくれんかと村のもんにふれ回っとったそうじゃ。それを聞いておれは黙っておられんでな。誰かほかの奴んところにいかせるくらいなら、おれがまたあいつをもろうてやろうと思うたんじゃ。それに、おれには娘のおまえに対して、親としての責任がある。じゃけえ、まずはおまえだけでもおれの家に戻ってもらおうと思うてな。そんでおまえがまず、母親を説得するんじゃ」
 口調は優しいが、目付きは相変わらず鋭かった。
「でも……御家族が」
 父は平然とした顔で答えた。
「今の家族など、体裁を取り繕うだけの存在じゃ。未練なんぞないわ」
「そん……な」
 ナギは絶句した。家族を追い出すなどとんでもないことだ。ナギははっきり告げた。
「私は、あなたのところには行きません」
「まあ、なにも今すぐにとは言っとらん。取り合えずおまえには、母親を説得してもらおうと思うたんじゃ。おまえも、今のような貧乏暮らしより、おれの家で暮らしたほうがええに決まっとる。一度来てみればそれがようわかるはずじゃ。一度試しにおれの家に来てみい。おまえもおれの娘なら、すぐにおれが言っとることがわかるじゃろう。それからおまえが、母親を呼び寄せればええんじゃ」
 ナギに反論する間も与えず父は、
「今日はそれを伝えに来ただけじゃ。よう考えておけ」
 終始高圧的な態度で、背を向け立ち去って行った。

 家に戻り、ナギが父の言葉を伝えると、母はやはりとんでもないとばかりに大きく首を横に振った。
 母は父に見初められて嫁いだそうだが、当時女は自由に結婚相手を選ぶことは出来ず、親の決めた相手と結ばれることが当たり前であったらしい。
 父は気に入らないことがあると、毎晩のように酔って暴れたのだそうだ。
 母は結婚前、既に自分を身篭っていたという。
 長い間、母が島を出る決心がつかなかったのは、娘である自分を生涯安住の地で、誰の手によっても穢されることなく自分の手で守り通したかったのだという。
 だがそれが最善の道ではないことも承知しており、そのことで母は随分悩んだのだと言った。
 それになにより、なにも言わずにいなくなったことで長年心配しているであろう、村の両親のことが気がかりでならなかったと。
 だが、父が再婚し子どもをもうけたことを知り、ようやく島をでる決心をしたそうだが、その結果まさかこんなことになるとは思わなかったと嘆いた。

 ナギは、母が嫌がるとわかっていて父に従う意志はなく、翌日自分から父にその申し出を丁重に断りに行った。
 父は苦々しげに顔を歪めていたが、その夜になり、急に大声で「戸を開けろ」と怒鳴り込んで来た。
 鬼のように顔を真っ赤にしており、吐いた息からぷんと酒の匂いが漂ってきた。
 かなり酔いが回った様子であった。
 戸を開けるなり、父はよろめきながら居間に上がりこみ、ナギの手を掴むや、強引に連れ出そうとした。
 祖父や、騒ぎを聞いて駆けつけた近所の村人に助けてもらわなければ、どうなっていたかわからなかった。


 その日から、毎晩のように父は酒に酔って現れるようになった。
 用心して家の戸をすべて締め切り、決して中に入れることはなかったが、門の外で大きな声で喚くのだ。
 それが積み重なるにつれ、母は昼間も外に出られなくなり、日に日に衰弱して行った。
 ナギはとても母を見ていられず、何度も父のもとへ行くといったが、母はそれだけは絶対に駄目だと譲らなかった。

 ある夜、家の人が皆寝静まった頃、ナギは突然母に揺り起こされた。
 眠い目をこすりながら起き上がると母は小声で、
「ナギ、今すぐここを出るんよ」
 耳元で囁いた。
「え?」
 驚いて声をあげるナギに、
「お願い、大きな声を出さんで。なにも言わんでお母さんに付いて来て」
 有無を言わせず手を掴み、強引に立ち上がらせた。
 勢いに逆らえず母に従い、連れて行かれるままにやがて浜に出ると、ナギはやっと口を開いた。
「お母さん、いったいどこへ行くつもりなん?」
 だが母は足を止める気配はない。
「とにかくここを離れるんよ、出来るだけ遠くに。あの人が追って来れんところまで」
 ひたすら先へ進む。
 ナギは母の剣幕に押され付き従うしかなかったが、歩きながら、本当にこれでいいのだろうかと思案していた。
 このまま逃げることしか出来ないのだろうかと。
 逃げたところで、いつか見つかるかもしれない不安に怯えて暮らすことになるのではないか。
 それに母と二人、見知らぬ土地でどうやって暮らして行こうというのか。
 島では一朗がいた。
 それだけで十分安心して暮らせた。母がどれほど彼を想い慕っているか、ナギは痛いほど感じていた。
 だがこのままでは、自分のせいで母は一朗のそばからも遠く離れることになってしまう。
「私、行かん」
 ナギは、足を止めた。
「なにを言うとるん。もう、こうするしかないんよ」
 母は聞き入れずナギの手を引っ張り先に進もうとする。ナギはそれでも決して動かず、
「私、お父さんのところに行く」
 はっきりそう口にした。だが母は間髪入れず、
「いかんっ。それだけは絶対にいかん」
 声を荒げた。だがナギは一歩も引く意志はなかった。
「逃げても、なんの解決にもならんと思うんよ。それに、あの人は私の父親じゃろう。真剣に頼めばきっと聞いてくれるはずじゃ。話してわからん人なんておらんと思うんよ。私、お父さんの言う通りあの家に行く。そしてどうするんがええか、答えを探したい」
「いかん、絶対にいかん」
 母は頑として聞き入れようとしない。だがナギはもう心を決めた。
「心配せんで。必ずお母さんのところに戻って来るけえ」
 母の手を振り切り、来た道を戻って行った。
 

 海を臨む高台に、古くからまつられている神社がある。
 その階段を降りた通りの角に、ナギの父親の屋敷があった。
 ざっと見ただけで周りの家の三軒分ほどの広さがある。
 玄関の前でしばし立ち尽くしたナギは、大きく息を吐くと覚悟を決め、呼び鈴を押した。
 ほどなくして、父の後妻が訝しげに現れた。
「なにか、御用ですか?」
 無表情に瞬きもせずに問う。
「あ、あの私、父に、会いに来ました」
 後妻はナギを上から下まで見下ろした後、
「お待ち下さい」
 と、奥へと消えて行った。
 しばらくして後妻が顔を出し、
「お入り下さい」
 と中へ招いた。
 庭に面した長い廊下を渡ると、ガラス越しに見える庭木は一様に丸く刈り込まれ、自由に枝を伸ばす木など一つとしてなかった。
 広い庭には大きな池があり、ひとところに鯉が群れていた。
 後妻は突き当たりの部屋の前で立ち止まった。
「お客様をお連れしました」
 すっと障子戸を開ける。
 和室の奥では床の間を背に、父が胡坐をかいていた。
「よう来たな、ナギ」
 父は煙草を吸いながら、そこへ座れと指の先で指し示した。
 ナギは目の前に座し、深いお辞儀をした後、ゆっくり顔を上げた。
「お願いがあって来ました」
 父を正面から見つめた。
「なんじゃ」
 煙を吐き出し、斜めからこちらを見据える。
「もうあの家に、怒鳴り込んで来たりせんで欲しいんです」
「それはおまえしだいじゃと言うとろうが」
 父は即座に言葉を返した。
 ほかに道はないのだと言わんばかりである。
「では、私がこの家に来たら、言うことを聞いてくれるんですか?」
「じゃけえ、最初からそう言うとろうが」
 父は面倒くさそうに言った。
 ナギは父のことをなにも知らない。
 だからまず父を知りたいと思った。知った上で解決の方法が見つからないなら、自分に出来ることはもう一つしかない。
 今はただ、父を知ることでなにかが変わることを信じたかった。

 その日の夕食は、今までに見たこともない豪華な料理が並んでいた。
「ナギ、この家におったらな、こんなもん毎日食べて暮らせるぞ」
 父は腹をさすりながら上機嫌であった。
 父の両親や、傍らに座る後妻は誰とも目を合わせなかった。
 五歳の義妹と、その一つ下の義弟は母親と同じようにただ、黙々と食べ物を口に運んでいた。
 会話は一切なく、ナギは子どもたちに積極的に話し掛けるが、聞こえていないかのように俯いたままだった。

 夕食後、与えられた部屋に戻ると、戸を閉めるなりナギは膝から崩れ落ちた。
 床には既に布団が敷かれている。
 ナギは持参して来た荷物を開け、その中からある物を取り出した。
 龍の首飾りである。
 それを躊躇いながらもそっと自分の首に下げ、強く握り締めた。


 翌朝、鳥の鳴き声で目を覚ましたナギは、早速家の手伝いをしようと起き上がり布団をたたんだ。
 台所に向かうと、野菜を刻む音が聞こえ、魚介の出汁の香りが漂って来た。
 父の後妻がせわしく朝食の用意をしているところへ声を掛けた。
「私も手伝います」
「あなたは、そんなことせんでええんです。仕度ができたら呼びに行きますけえ、部屋で待っとってください」
 こちらへ顔を合わせる余裕もない様子で、湯気が噴出す鍋の蓋を開ける。
 魚の焼け具合が気になったナギが菜箸を手に取り、確認しようとすると、
「やめて下さい。私が主人に叱られるんです」
 後妻は慌てて菜箸を取り上げた。
「でも……」
 ナギがそれでも手伝いたくてうずうずしていると、
「早う、部屋へ戻ってください」
 後妻はきっと睨み付けて来た。
 ナギがそれでも立ち去る気になれず留まっていると後妻は、
「わからんのですか。なにもせんでください。私が怒られるけえ、言うとるんです」
 激しい剣幕で怒鳴られた。
 ナギはなにも言い返せず後ろ髪引かれる思いで、すごすごと部屋へ下がって行った。
 手持ち無沙汰で部屋に戻ると、ほどなくして後妻が呼びに来た。
 朝食もやはり、父以外は皆静かだった。父も夕べのように酒を飲んで上機嫌な時とは違い、朝はあまりしゃべらなかった。
 食事時はいつも、皆と語らうことが楽しみであったナギにとって重苦しい雰囲気であった。
 ナギは父親に、この家で世話になる以上、家の手伝いはさせて欲しいと願った。
 父はそんなことは必要ないと言うが、どうしてもと頼むと、勝手にしろと言った。
 すると父は、そんなことより身の回りの物を揃えようと言い、ナギは買い物に誘われた。
 だが、必要なものは持参して来たのでいらないと言うと、
「ええけえ、黙って付いてくればええんじゃ」
 凄んだ眼で睨み付けられた。
 だがナギは怯むことなく言い返した。
「私のためじゃったら、いらんと言うとるんです」
「おまえ、親に歯向かうつもりか」
 気が付くと周りの者は皆、黙ってこちらの様子をうかがっている。
「歯向かっとるわけじゃありません。おことわりしとるだけです」
 きっぱり言い切ると父は、
「おまえのために言うとるのに。なんで言うことを聞かんのじゃ」
 バンっとテーブルを叩く。
「聞けんものは、なにを言われても聞けんのです」
 怯むことなく訴えると、父は再びなにか言いかけた。
 が、次の瞬間思いがけず肩の力を抜き、呆れた様子で、
「まあええ、おまえにはここを気に入ってもらわんといかんからな」
 そう言うとおもむろに立ち上がった。
 去り際に、
「その言いかた、まるでおまえの母親にそっくりじゃ」
 呟いて自室に戻って行った。
 
 だがことわったにも関わらず、父はその日、大量に服や靴、その他身の回りの物を買って来た。
 ナギはいらないと言ったが、強引に部屋の中に運び込まれてしまった。
 だがナギは、その一切に手を触れる気はなかった。


 この家で暮らすようになって数日が経過した。
 相変わらず後妻は、必要なこと以外口をきいてはくれず、祖父母はまるで、そこに存在していないかのように存在していた。
 宮前は余計な出費を嫌い、使用人は一切雇わず、家のことは父母や妻子にやらせていた。
 ナギは日中、やりたいことは自由にやらせてもらえたが、家のことは、後妻になに一つやらせてもらえなかった。
 そんな中、早朝、ナギが皆に気付かれないよう戸外で庭の草むしりをしていると、背後に気配を感じ振り返った。
 そこには義弟が、ナギをこれでもかと睨みつけていた。
 いけないことをしてしまったとナギが立ち上がり、
「ごめんなさい。余計なことをしてしもうて」
 謝ると、義弟はふんっと鼻息を荒げ、草をむしりはじめた。
 ナギは恐る恐る、
「ちょっとだけ、手伝うてはだめ?」
 問うが、更にきつく睨まれ、しかたなく部屋に戻らざるを得なかった。
 ナギは、当然だと思った。
 自分にとって義弟は、後妻や義妹ともども、その身を脅かすだけの存在なのだ。
 勿論ナギにそのつもりなどなかったが、この先どうすべきか、突破口がなに一つ見つからない今、無力さを悔やむばかりだった。

 その日、日暮れ時になり、ナギが佐々木老婆の家の手伝いを終えて帰宅すると、宮前の屋敷の手前辺りで義弟が立ち往生していた。
 見ると、向かい側で一匹の黒い中型犬が、義弟に向けて牙を剥き出し、低い唸り声をあげている。
 この辺りでは見掛けたことのない犬で、毛並みは荒れ、所々毛が剥げ落ちている箇所もある。
 何処かから行き場を失い、この土地に辿り着いて来たのだろうか。
 犬は、義弟が一歩でも近づけば、即座に襲いかからん勢いであった。
 ナギはなぜこんなにも犬が怒っているのだろうと不思議に思った。
 だが、よくよく目を凝らすと、犬の額に僅かに血が滲んでいた。
 そして義弟の右手には、掌からはみ出すくらいの石が握られている。
 ナギが、
「もしかして、石を投げたん?」
 囁くように言葉を掛けると、義弟は小さく頷いた。
 それによく見ると、犬の右足が僅かに曲がっている。
「あの足も? あなたが?」
 問うと義弟は、
「あれは父さんが」
 そう答えた。
 ナギは愕然とした。
「なんてこと……」
「じゃって、この間も、家の残飯をあさっとんじゃ」
 義弟は犬を痛めつけるのは当然だと言わんばかりにそう言った。
「きっとお腹が空いとっただけじゃ。なにも痛めつけることはないじゃろう」
 ナギの言葉に、義弟はなにも答えなかった。
 犬の怒りは当然であった。
 ナギはゆっくりと、犬の動きをうかがいつつ、義弟の前に歩み寄った。
 そして腰を落とし、右手をそっと差し出した。
「ごめんなさい。私の父と弟が、あなたに酷いことをしてしもうて。許してなんて言わん。代わりに、あなたの受けたその痛みを、私にぶつけて」
 犬の目を見つめ、そう語り掛けた。
 犬は尚も攻撃の姿勢をやめず、唸りながらナギを睨みつけている。
「さあ」
 ナギが右手を更に伸ばすと、犬は躊躇なくナギに襲い掛かって来た。
 ナギは、犬を丸ごと受け止める覚悟で、微動だにしなかった。
 犬は容赦なくナギに牙を剥く。
 義弟が、
「ねえちゃん、避けろ」
 叫ぶがナギはピクリとも動かなかった。
 犬の鋭い牙が、ナギの右手をまるごと噛みちぎろうと大きく牙を立てた。
 ナギの右手から、つうっと一筋の血が流れ落ちる。
 ナギがその痛みに顔を歪めた時。
 急にぴたり……と犬の動きが止まった。
 そしてしだいに攻撃の姿勢をやめ、ナギの傷をペロペロと舐め始めたのだ。
 ナギは、
「ごめんね。本当にごめんなさい」
 なんども犬に謝った。
 義弟は、
「ねえちゃん……」
 呟くと、しばらく犬を眺めていたが、
 やがて犬に向かい、
「おれも……」
 そう言って頭を下げた。 
 
 その後、犬はナギの母親の家で飼うことになった。
 義弟は時折、犬を訪ねて行くようになった。
 もともと犬が欲しかったようで、一旦犬と戯れると、日暮れまで帰らないこともあった――。


 ナギは、宮前の家で暮らしていくうちに、この家族について不思議に思うようになった。
 父の妻子は皆おとなしく、ナギのように逆らうことなど決してない。
 父も子どもに対しては、逆らいさえしなければ普通に接し、毎日が穏やかに過ぎ、父が家族を追い出す必要などどこにもないのではと思われた。
 ナギは父のいる部屋を訪れ、その疑問を投げ掛けた。
「おまえは、おれが幸せに見えるか?」
「はい、十分幸せに見えます。なんの問題もなく毎日が平穏に感じます。それなのに、なぜ、大切な家族を追い出してまで、この家に来ることを嫌がる母を、わざわざ呼び寄せようとするんか、私にはわからんのですが」
 父は少し間を置いた。
「おれは、今まで欲しいものはなんでも手に入れて来たと言うたじゃろう。おまえの母親をもろうた時、誰もがおれを羨んだんじゃ。なんといっても村一番じゃけえな。じゃけえほかの誰かに盗られるんは、絶対に嫌なんじゃ」
 拳を強く握り締めた。
「でも……」
 ナギにはその理由が理解出来なかった。器量がどうこう言うなら父の後妻も決して周囲に引けを取らない。本当にそれだけが理由なのだろうか。どうもそれだけではない気がしてナギが納得出来ずにいると、父は少しだけ口調が穏やかになった。
「まあ、また逃げられても面倒じゃけえ、今度はおれも少しはあいつの言うことを聞いてやってもええと思うとる。あいつだけじゃったんじゃ。おれに唯一逆ろうたんは」
 ふっと煙を吐き出した。
 そのひと言に、ナギは少しだけ、父の心を垣間見た気がした。
 父の周りには誰も逆らうものはいない。誰もが父を恐れ、本気で向かおうとしないのだ。
 そう思うと、父には心から打ち解けられる相手がいないように思えた。祖父母でさえ父には遠慮がちである。
 誰も寄り付かない父は常に孤独なのではないか。
 父自身がそういう現状を作り出してしまったこともあるが、逆らわないのはそのほうが楽だからだ。
 ナギも出来るなら波風立てず穏やかにやり過ごしたい。
 だが、受け入れられないものは頑として無理なのだ。
 父を説得したいのではない。ただわかって欲しいだけだ。
 母もきっとそうだろうと思った。逆らっているわけではなく、自の主張を訴えているだけだと。
 父とわかり合うことは難しいのかもしれない。
 だがナギは、そのことを父にわかってもらえなければ、現状は変わらないのだと思った。
 

 父は相変わらず、毎日ナギになんらかの贈り物を用意した。
 いらないと言っても強引に部屋に運ばせるのだった。
 そんなある夜、ナギの持参してきた荷物がすべてなくなっていた。 
 驚いて父に尋ねると、
「ああ、あれは全部捨ててやった」
 ことも無げに言った。
 言葉も出ず、唖然とするナギに、父は服の内ポケットからあるものを取り出した。
「ネックレスじゃ。おまえの持って来た物はもうそれだけじゃな。そんなもんみすぼらしゅうてかなわん。代わりにこれを着けろ」
「いりません」
 ナギは隠すように、胸の首飾りを握り締めた。
 不安で押しつぶされそうな時、この首飾りを身に付けることが唯一の慰めだったのだ。
 父は、ナギがあまりにも、その好意を受け取ろうとしないことに、とうとう苛立ちを募らせたのか、
「ええけえ、おれの言う通りにするんじゃ」
 この時ばかりは引き下がろうとしなかった。
 それでもナギが拒否しつづけると、父は声を荒げた。
「黙っておれの言うことを聞くんじゃ」
 ナギの首もとに手を伸ばし、首飾りの鎖を握り締め、ぐいとそのまま力任せに引きちぎったのだ。
「あっ」
 驚くナギを尻目に、父はそのまま庭に面した渡り廊下に出ると、池に向かってそれを放り投げた。
「なんてことをっ」
 あわてて庭に下り、裸足のまま池に飛び込むナギに、父は威圧的に言い放った。
「おまえが言うことを聞かんけえじゃ。あんなもんじゃのうて、これからはこの家にふさわしい物を身に付けるんじゃ。そうすれば、おまえにも少しずつその良さがわかるはずじゃ」
 暗闇の中、ナギは池の底を探り、必死で首飾りを探した。
 だが、なかなか見つからなかった。
 散々探した挙句、もう空が明るくなってからでなければ難しいだろうと一旦諦めた。
 夜が明けたらすぐにでも探そうと思い、しかたなく部屋に戻ることにした。
 だが、玄関を開けようとすると、なぜか鍵が掛かっていた。
 不思議に思い、窓に向かうがどこも開かない。
 入り口はすべて確かめたが、どこからも入ることが出来なかった。 
 戸を叩き、大声で叫んでみるが反応はない。
 父がそうさせたのかと思ったその時、障子戸がすっと開き、後妻が顔を出した。
「あ、開けてください」
 頼むと、無表情のままさっと閉められた。
 ナギは愕然とし、これが答えなのだと思った。
 父の家族がナギの存在を快く思っていないことはよくわかっていたが、やはり本心ではここにいて欲しくはないのだろうと。
 ナギはその夜、明け方まで納屋で過ごさなければならなかった。

 
 時折生暖かい風と冷たい風が入り混じる。ふと、どこかから一片の花びらが風に運ばれ、足元へと舞い落ちた。
 ナギはそれをそっと拾い上げた。
 家の裏手で汗を流しながら薪を割っている龍一のもとに、この花びらのように自然に近づくことが出来たら、と思いつつ家の影からそっと眺めるしかなかった。
 夜の冷え込みは思った以上にきつく、昨夜一晩中外にいたせいか身体が少し熱かった。
 明け方ようやく首飾りを探し出し、中に入れてもらえたが、濡れた衣服を見て父は、
「なんじゃ、まだ探しとったのか」
 と呆れ顔であった。
 ナギはもうあの家にはいられないと思った。かといって母のもとへ戻ることも出来ない。
 戻ればまた、父が毎晩騒ぎ立てるだろうし、ほかに頼れる当てはない。
 そうなれば結論は一つしかなかった。
 自分さえいなければ父は母の前に現れることはない。
 ならば行くところはひとつしかない。幾度も帰りたいと願った、あの島である。
 父が必ず連れ戻しに来るかもしれないが、頑として拒む覚悟だった。
 それでも父のことだ、強引に連れ戻されてしまうかもしれない。
 もし、抵抗虚しく再び連れ戻されたなら、精一杯の抗議をするつもりだった。
 要求が受け入れられるまで、食事など一切口にするつもりはなかった。
 
 だが……その前にひと目龍一に会いたいと思った。
 声を掛けようと思ったが、やはり出来ないと諦めて帰りかけた時、ふいにさあっと、舞い上げるような強い風が吹いた。  
 そのせいで、龍一が首に掛けていた手拭いが地面に落ちてしまった。
 拾い上げ、少し汚れてしまった部分を軽く払っている姿を見て、ナギは懐から自分の手拭いを取り出し、そっと近づいて行った。
「龍一さんこれ、代わりに使うて」
 振り向いた龍一は、
「いや、かまわんでくれ、どうせ汚れるもんじゃ」
 再び肩にかけ、また作業に戻ってしまった。
 ナギはさりげなく、手拭いをそばの木の枝に掛けた。
「さよう…なら」
 震える声でつぶやく。
 龍一はそのまま作業を続けている。
 その凛々しい横顔を見つめながら、ナギは絶対にここで泣くわけにはいかないと必死に堪えた。
 だが、自分の意志と裏腹に込み上げるものは止められず、それを見せまいと顔を背けた。
 別れる間際になって、初めて自分の気持ちに気がついた。
 ナギは幼い頃から一朗を父のように慕っていた。
 その面影を持つ龍一に初めて出会った時、胸が騒ぐのを感じた。
 また、その悲しみと怒りに満ちた瞳の奥にさえ、永年ともに暮らしてきた一朗と同じ誠実さと深い思いやりが溢れていた。
 それはどんな境遇にあっても本質は揺らぐことになかった証であり、その厚い壁を取り除けば本当の素顔が見られるのではないかと思った。
 それに彼は、ナギを突き放す言いかたをして、負い目から解放してくれようとした。
 だが願っても叶わず、彼の心を開けぬままに突然別れはやって来てしまった。
 そのことは一番の心残りである。と同時に、二度とその姿を見られないのだと思うと、悲しみが込み上げ、自然に涙が溢れてくるのだ。
 親切で優しく、笑顔で接してくれる隆生よりも、なぜこれほど龍一に気持ちが傾くのか自分でもわからなかった。
 だがその気持ちは永遠に胸の中に留めておくことになるのだろう。
 彼に聞こえないよう風の音に紛らせ再び「さようなら」とつぶやくと、ナギは下を向いたまま走り去って行った。
 首飾りを返さなければ、そう思いつつ、また放り投げられてしまうかと思うとやはり出来なかった。
 いや本心ではこれだけが今、唯一の心の支えであり手放すことが出来なかった。
 
― 第三部 ―



 夕方から降り出した雨は、夜になり、しだいに激しさを増していた。
 祖父の用事で出掛けていた龍一は、家に戻るや軒下で傘のしずくを払った。
 ふと人の気配を感じ顔を上げると、暗闇の中から誰かがこちらに近づいて来るのがわかった。
 やがて玄関の明かりの下、照らし出された人物はナギの父親、宮前であった。彼は渋い顔をしながら尋ねて来た。
「ナギが、ここに来とらんか」
「ナギが?」
 龍一は玄関を開けて祖母を呼び、彼女が来ているかと訊いた。だが来ていないと言う。
「来とらんようじゃが」
「そうか」
「実はな、夜飯の時間になってもまだ帰って来んのじゃ。母親のところにもおらんで、思いつく場所はすべて手当たり次第に捜し尽くしたんじゃが、もう残る場所はここしかのうてな」
 龍一はふと、日暮れ前に現れたナギを思い出した。思い返せば様子がおかしかった。
「なにがあったんじゃ」
「いや、なんでもないんじゃ。おらんのならしかたない。ほかを探す」 
 龍一はなにか嫌な予感がした。宮前本人が探し歩くなどよっぽどのことがあったに違いない。
 龍一はすぐさま彼の横を通り過ぎ、降りしきる雨の中、飛び出して行った。
 その後ナギを見かけたという情報もあり、一朗や漁師仲間なども加わり、大規模な捜索がはじまった。
 だが、皆総出で探し回ったがどこを探しても見つからなかった。
 龍一はもしやと思いながら船着場へ向かった。
 舟が一艘なくなっていた――。
 すぐさま船に乗り込みいち早く出立したが、風雨によって波は荒れ、視界は最悪の状態であった。
 龍一はもしかしたら、ナギは島に向かったのではないかと思った。
 ナギが父親のもとで暮らし始めたということは知っていた。
 だがそれが彼女の意思だと聞き、それならしかたがないと思っていた。
 その先のことまで思い図る気持ちの余裕はなかったのだ。
 だが日暮れ前に現れたナギはどことなく思い煩った様子で、なにか人に言えない苦しみを内に秘めた様子であった。
 ナギは自分に別れを告げに来たのだ。
 そして彼女が行こうとする先は……。
 

 ようやく島に辿り着くと、舟が一艘打ち上げられていた。
 龍一はすぐさま船を飛び降り、即座に走り寄って行った。
 すると舟のすぐそばに、ナギが倒れ込んでいたのだ。
 龍一はすぐさまナギを抱え上げ、一刻も早く医者のもとへ連れて行こうと船へ向かった。 
 その時、
「待つんじゃ、龍一」
 父の一朗が立っていた。
「父さん」
「これ以上船を出すんは危険じゃ。村のもんにも、おれと龍一だけで行くと伝えて来た。ここはおれを信じて、この島にあるおれの家にナギを運んでくれんか?」
「じゃが……」
 龍一が躊躇っていると、
「おれと由紀乃とナギが、十六年間この島から一歩も出ずにやってこれたんは、なぜかわかるか?」
「…………」
「頼む。とにかくここはおれの言うことを黙って聞いてくれ。わけは後で話す」
 龍一は父の真剣さに押され、言う通りナギを家へと運ぶことにした。
 家の中に運び込み、取り敢えず早急に濡れた衣服を着替えさせると、ナギは荒い息を繰り返し、呼び掛けても応える気力さえもう残っていないようだった。
 あの時、ナギの顔は少し赤く心なしか息遣いも多少荒かったように感じたが、もしそのような状態でしかも雨の中、雨から身を守るための術をなにも持たず、ずっとあの浜で雨に打たれていたのだとしたら相当危険な状態である。
 やはりすぐにでも医者に連れて行くべきだと思うが頼みの父は「すぐに戻る」と言い残し、夜の暗闇の中に消えてしまった。
 なにもしてやることも出来ずただ、ナギの流れでる汗を拭き続けていると、しばらく経って、
「すまん、遅くなった」
 父がようやく戻ってきた。
 その手には木製の水入れがあり、蓋を開け、
「これを、ナギに飲ませるんじゃ」
 と差し出した。
「これを?」
「ああ、おれを信じて、飲ませてやってくれ」
 龍一はとにかくここは父の言うことを信じ、ナギを少し抱き起こした状態で、それを口に含ませた。
 だが口の端から零れ落ちるばかりで喉の動きが僅かにも認められない。
 龍一は今度は自分がそれを口に含み、口移しにナギに与えた。
 すると今度は零れ落ちることなく受け入れたようだった。
「これはなんじゃ?」
 少し口に苦味を覚えつつ父に尋ねると、
「薬草を煎じたもんじゃ。ここに来てどんなに酷く体調を崩しても、これで大概はようなったんじゃ」
「薬草……」
「ああそれにな。なんといってもここの水じゃ。ここの水はな、特別なんじゃ。多少の切り傷なら数日水で傷口を洗うだけでいつの間にかなにもなかったかのようにようなってしまう。ここで三人で暮らしてこられたんも、ここの水のお蔭なんじゃ」
「水の……」
 そういえば、と龍一はこの島にきてナギに島の奥に案内された時、促されて泉の水を口に含むと、なんとも言えず精気が漲るような心地がしたことを思い出した。
 ナギは、しばらく苦し気に顔を歪めていたが、そのうちに気を失うかのように眠りについてしまった。


 小鳥のさえずりに目を覚ました龍一は、傍らに眠るナギの顔色をうかがった。
 開けた窓から差し込む日差しは、ナギの体を少しずつ暖めていくようだった。
 ナギはもう高い熱にうなされている様子はなく、だいぶ呼吸も整い落ち着いて眠っていた。
 龍一は……ただただ驚きを隠せなかった。
 たった一夜でここまで回復するものかと。
 始めは父の言うことが信じられず、ナギの容態が悪化するようならすぐにでも村へ連れて行こうと思ったが、あれからナギは危険な状態に陥ることもなく、かえって容態は徐々に安定していったのだった。
「ナギ、大丈夫か?」
 呼び掛けると、わずかに目を開けた。
「龍一……さん」 
 龍一は安堵しつつ、水を汲みに行っている父に、ナギが目を覚ましたことを伝えに行こうとすると、入口の扉がそっと開き、由紀乃が顔を出した。
「ナギっ」
 由紀乃は娘の姿を確認するや、すぐさま駆け寄ってきた。
 叔父が連れてきたようで、叔父は家の外からこちらに目くばせした。
 由紀乃はナギの顔や体に手を触れ、ほっとした様子で、
「良かった、無事で……本当に、良かった」
 涙交じりに呟いた。
「お……母さん。ごめんなさい」
 ナギが謝ると、
「謝らんといかんのはお母さんのほうじゃ。ごめんねナギ、本当にごめんね」
 ナギの手を、由紀乃は強く握りしめた。
「お母さん、私」
 ナギがなにか言い掛けた時、バンっと荒々しく戸が開き、宮前が現れた。
 地元の漁師に大金でも渡し、連れて来させたのだろう。
 宮前はどかどかと家の中へ押し入ると、
「帰るぞ、ナギ」
 遮る由紀乃を振り払い、ナギの腕を掴んだ。
 すかさず龍一が、
「あんた、なにしとるんじゃっ」
 一喝すると、
「おれが娘になにをしようと、おまえに関係ないじゃろう」
 宮前はナギを強引に立たせようとした。
「やめるんじゃ。ナギはまだ、安静が必要な状態なんじゃ」
 そう言うと由紀乃がナギに覆いかぶさり、
「もう、止めて下さい」
 懇願した。
 ナギはその様子を見て、辛そうにその身を起こした。
「お父さん、やめて。私はもう、あの家には戻りません」
 だが宮前は聞き入れようとしない。
「どこへ逃げても無駄じゃ。おまえの帰る場所は、ひとつしかねえんじゃ」
「それでも出て行きます。何度でも」
 そばにいた由紀乃も訴えた。
「お願いです。もう、私たちのことは放っておいてください。この子が、自分からあなたのところに行くと言うた時、本当は強引にでも引き止めるべきじゃったと今は後悔しとります。あなたのことを知れば、この子もきっと私のところに戻って来ると思うとりました。そうなればまた、どんなことをしても、あなたから遠く離れた場所に逃げるつもりでした。この子をこんな目に合わせたんは私のせいです。あなたを僅かでも父親として信用した私が間違うとりました。もう、娘はあなたとは暮らせんと言うとるんです。じゃけえもう本当に、本当に関わらんで下さい。お願いです」
 必死に訴える。
「なんども言わせるな、逃げても無駄じゃと言うとろうが。それにな。お前がおれのところに戻りさえすればすべてが解決するんじゃ。おまえはもう、おれからは逃げられんのじゃ。どこへ逃げても必ず見つけだしてやる。じゃけえもう諦めて、二人でおれのところに戻って来い」
 吐き気がするほどのしつこさだった。
 だが龍一は、ナギと由紀乃を苦しめているのは、この自分でもあると思った。
 ナギをここまで追い込んでしまったのは、この自分であると……。
 三人が、お互い一歩も引かず睨みあっているところへ、龍一は堪らなくなり、宮前に詰め寄った。
「あんた、いい加減にせんか。こんなに二人が嫌がっとるのに、どこまで苦しめる気じゃっ」
「おれはおまえにそんなことを言われる筋合いはない。引っ込んどれ」
 まるで虫でも追い払うような言いかたであった。
 だが龍一は引き下がるつもりはなかった。
 そして、宮前に対してというより、自分自身に対して声を発した。
「おれは、まさかナギがこんなことになるとは思わんかったんじゃ」
 そこまで言うと、
「この責任はおれにある。じゃけえこれ以上二人を、おれのせいで苦しめるわけにはいかんのじゃ」
 鋭く宮前を睨みつけた。
「はあ? おまえになにが出来る。この二人をどうしようと言うんじゃ。また、どこぞの島へでも連れて行くとでも言うんか? じゃが、どこに行こうともう……」
「違う、二人を守るんはおれだけじゃない」
 龍一は次の言葉を一瞬飲み込んだ。
 由紀乃とナギを救えるのはたった一人、永年ともに暮らした父だけである。
 二人が互いに抱く感情など龍一はすでに見抜いていた。
 だが父を許すことはその過去を受け入れることになる。
 それだけはどうしても踏み切れずにいたのだ。
 だがそのせいで犠牲になったのはなんの罪もないナギであった。 
 自分が父と由紀乃の仲を認めてさえいれば、こんなことにはならなかった。
 だが怯える二人を見るほどに、もう言わざるを得なかった。
「おれの、父親じゃ」
 由紀乃が驚いた表情でこちらを見る。
 すると、父の一朗が戻ってきたようすで、
「龍一……」
 信じられないような顔で呟いた。 
 龍一は、
「そう言うことじゃ。じゃけえ、もう二人には構うな」
 だが宮前は、龍一を睨み返しながら凄む。
「この二人はおれのもんじゃ。誰にも渡さん」
「あんたにはもう、それを言う資格はない」
「おれは諦めんぞ、絶対に」
 この期に及んでまだ諦める素振りさえ見せない。
 だが龍一は、更に語気を強めた。
「あんたがそう言うなら、おれも黙っちゃいない」
「おまえになにが出来る」
「おれがこの二人に、絶対に手出しさせん」
 二人押し黙ったまま睨みあっていると、ナギが間に割って入った。
「あの……」
 宮前は顔つきを変えることなく、鋭い眼を向けた。
「なんじゃ」
 ナギは少々怯えながらも口を開いた。
「あの、私、もうあの家に行くつもりはありません。でも、お父さんには、時々会いたいと思うとるんです」
 思いがけないひと言であった。すると宮前はおろか、由紀乃も驚いた様子で、
「なにを言うとるん、ナギ」
 娘を咎めた。
 だがナギは臆せず続けた。
「じゃって、お父さんはこの世でたった一人しかおらん。じゃけえこれっきりにしとうないけえ」
「本当……か?」
 拒絶されるとばかり思っていたのだろう、宮前は疑わしげに問い掛けた。
「おまえはおれを、嫌うとらんのか?」
 ナギは真顔で答えた。
「嫌ってなんかいません」
 宮前はナギの顔を、しばらくじっと見つめた。
 だが龍一も、ナギの言葉が信じられなかった。あれだけのことをされて、どうして憎まずにいられるのだろうかと。
 自分ならとても許すことなど出来ない。
 だがナギは嫌うどころか会いたいとさえ言っている。
 龍一には信じられなかったが、その言葉が、宮前の心に変化を生じさせたことは確かだろうと思えた。
 それに宮前にも、この状況が不利であることをわからないわけではないだろう。
 龍一がこの親子を父親に任せると言った以上、由紀乃もナギもこの先、一朗のもとへ行くことになる。
 それを宮前にはもう、阻止することなどできないのだ。
 誰かのものになる前に由紀乃を取り戻したかったようだが、こうなってしまった以上、もう手出しは出来ないことは宮前にもわかっているはずだ。
 わかっていながらどうしても諦められなかったようだが、娘のナギは宮前のところへは行かないというが、会いには行くと言っている。
 宮前はしばし黙り込んでいた。
 が、やがて呟くように言った。
「おまえの部屋はいつまでもあのままじゃけえ。いつ来ようと構わん」
 次いで、由紀乃に顔を向けた。
「おまえもおれのところに来んか。おまえのために、おれも少しは変わろうと思うとったんじゃ」
 だが由紀乃は首を横に振った。
「今の御家族を、どうか大切になさって下さい。ナギがあなたを訪ねたいというのなら敢えて止めはしませんが、娘を辛い目に合わせることだけはもう絶対にしないと約束してください。あなたが求める幸せは、必ずしも私や娘が望むものではないと、娘と暮らしていてわかったはずです。あなたが今、手にしているものがいかに尊いものであるか、もっと素直に見つめなおしてください」
 宮前はただ、ただ深く項垂れた。



 岩場に向かうと、潮はしだいに引いていき、だいぶ遠くのほうまで足を延ばすことが出来た。
 あらためて龍一は、こんなにたくさんの魚介類を今まで目にしたことがあっただろうかと目を見開いた。
 まさにここは海の宝庫と呼べるものであった。
 あれから父は「すまない」と何度も頭を下げたが、龍一はまだはっきりとは自分の気持ちに区切りをつけることはできなかった。
 先ほどからしばし、澄み渡った海原を眺めていると、ナギが岩と岩の間の大きな窪みを見つけ、そのまま海の中へ頭からすうっと飛び込み、波しぶきさえ上げずに海の底へと消えていった。
 龍一がしばらく待っていると、やがて穏やかな波間にパシャっと顔を出し、片手を上げた。その手には大きな貝が握られている。
 龍一は上着を脱ぎ捨て海へ飛び込んだ。
 やがて岩場の魚を掴み海面から顔を出すと、ナギは再び海へ潜り魚を獲り始めた。
 そこへ龍一が近づき、今度はともに魚を捕まえた。
 ひとしきり収穫した後、龍一とナギは岩場に腰掛け、濡れた体を乾かしていた。
 そばに置いたかごにはたくさんの魚や貝、海藻などが溢れるほどにある。
 龍一はいつの間にか自分が笑っていたことに気付き、驚いていた。
 ナギは衣を羽織り、濡れた髪をほどいた。
「ありがとう、龍一さん」
 澄んだ瞳を向ける。
 村の生活で、様々な辛い思いをしたにも関わらず、彼女の瞳が曇ることはなかった。
 それは龍一にとって唯一の救いでもあった。
「この島で暮らすんは難しいが、またいつか一緒に渡ろう」
「ええの?」
「おまえが望むなら」
 ナギは再び
「ありがとう」
 とはにかんだ。
 ふいに、彼女はなにか思い出したように懐に右手を伸ばした。
 龍一の目の前に、ある物を差し出す。
「それは……」
 かつて手放した、龍の首飾りであった。
「これ、やっぱりこれは龍一さんのもんじゃけえ、どうかまた身につけて欲しいんよ」
「いや、もうおまえにあげたもんじゃけえ、ええんじゃ」
「これは、私じゃのうて龍一さんが持つべきじゃと思うんよ」
 強く言われると、龍一はそれ以上ことわる理由が浮かばなかった。 
 拒めば、彼女は再び落胆するだろうと、黙ってそれを受け取った。
 一度は手放したものだ。それにもうこれからの自分にはもう必要のないものかもしれない。
 だがこれは、やはり自分が持つべきものなのだと思った。
 父の過去は決して今でも割り切ってしまえるものではない。
 一生許すことは出来ないのかもしれないが、父が息子である自分のために、失われた時間を取り戻そうとしてくれていたのはわかっていた。
 それに、かつて由紀乃とナギを連れて島へ渡ったのは、二人を宮前から遠ざけるためだったことも承知している。
 父の額には、戦争で負った深い傷跡が残っていたが、それ以外にも、体の至る所に無数の傷跡があった。
 あの時、父がこの島で二人を守り通す自信がなくなったというのは、多分、そういうことだろう。
 由紀乃を愛していながら、それを決して表に出すことはなく、ひたすらに自分以外の人の幸せを優先している。
 その姿に龍一は、自分の中で徐々に感情が揺れ動いているような気がしていた。
 
 龍一の母は、父とはもともと親同士が決めた仲だったというが、それでもそれなりに幸せな結婚生活を送っていたという。
 実際、龍一も申し分のない家族だと思っていた。
 だが、父が由紀乃と駆け落ちをする以前に、母は父の心の変化に薄々気づいていたらしい。
 父が出て行った後、とうに心通わぬ夫をいつまでも待ち続けることなど耐えがたく、その後、龍一を連れて出て行くと言ったのだ。
 だが、龍一は母について行くと言わなかった。
 父の帰りを待ちたいと言い、あの家にとどまったのだ。
 それゆえに、母は父に恨みを抱いてはいないようだが、そんな裏の事情などなにも知らずに生きて来た龍一は、この十六年の間、心休まる日など一日もなかった。
 だが……この先自分の心にどんな変化が生じるかわからない。
 こうして少しずつ自分は変わってゆけるのかもしれない。ただ、ナギの笑顔だけはいつまでも絶やしたくはないと心から思う。
 この先、ナギはたくさんの人間と出会い、恋をし、様々な経験を積み重ねて行くであろう。その果てに彼女がどんな男を選ぼうと、彼女が笑顔でいてくれたらそれでいい。
 ナギを想うこの気持ちはまだはっきりしないが、今は純粋にそばにいて欲しいと思う。いつもその癒される笑顔を見ていたい……。
 龍一は、まるでこの心のように揺れ動く波を、いつまでも見つめていた。
 

神守島

執筆の狙い

作者 日乃万里永
KD106160080156.ppp-bb.dion.ne.jp

 二回に分けて投稿させていただきたいと思います。
 
 ひとこと紹介文
 
――神域を侵してまで父が守りたかったものとは。人を愛することしか知らない少女に、やがて襲い来る悲劇……。その 
  時龍一は。――

作品紹介

――十六年前、急に姿を消した父親が、ある日突然戻ってきた。
  当時、赤ん坊を抱えた人妻も同時に失踪しており、二人は駆け落ちしたのではという噂が流れ、龍一は父を信じ切れ  
  ずにいた。
  過去の真実とは一体……。
  果たして龍一は、『神守島』でナギという少女と出会う。――

 後半部分はエブリスタに掲載しておりますが、二週間後、後半部分を投稿いたします。
 
 なかなかアクセスが伸びません。設定が古いということはわかりますが、多くの方に読んでいただくために、どのように改善したらよいのか、アドバイスをいただきたく、よろしくお願いいたします。

コメント

10月はたそがれの国
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ざざーっと斜め見たんですが、
(目についた途中んところから、UP分のしまいまでさーっと流し見て、そっから冒頭へ戻って、流し見)

一郎・ナギ・ナギ母が、「16年こもっていた島を出て、実家に戻ってきた理由」がもやっとしてて、

『ナギが15〜16になったからか?』と淡く思いつつも、
ハッキリ示唆されてはいなかったんで、もやもやする。


全体にさらっと書かれていて、読みやすいんだけども、
さらっと軽く流しすぎ・・な気も。。


「独占欲・パワハラ男」な実の父も、、、予想してたより全然「普通」ですし(現在のところまでは)、
もっと悲惨で陰惨な展開(も)覚悟してた身としては、
すごい拍子抜け。

ごめんなさい。

「何の話なのかの、方向性」がわかんなかったんです。


それは、今日は朝から、ここのサイトにUPされてる長編『神の生まれる場所』を一気見したところで、

この話の設定:
瀬戸内海、神守島、龍の首飾り・・

で、「村上水軍」とか、平家とか、壇ノ浦とか、安徳天皇とか、神器とか、
村上海賊の娘の生まれ変わり〜 とか、

つい「そっち方面」妄想(ってか、覚悟??)してしまう脳みそになっちゃってるから。。


そういう脳みそになってると、
この話は、ストーリーが平板に流れてて「まだ特段何も起きていない」「凪の状態」に思えてしまって、、、


『神の生まれる場所』見る前だったら、また違った第一印象だったのかも??

10月はたそがれの国
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「新生児からずーっと孤島暮らしだった15・16の少女」ってーと、

海外文学『緑の館』のリーマ(蜘蛛の巣でドレス作って着てた不思議少女)とか、

『すべてはFになる』の真賀田四季博士の、島脱出の手段として惨殺されちゃった可哀想な娘とか、

江戸川乱歩『孤島の鬼』の双子の片割れで美人な……ユキちゃん(だっけ?)とか、


そういう子らを連想する。


それからすると、本作のナギは、「島外から来た龍一との出会い」も「祖母の村に暮らすことになって……」も、

えらい普通に、難なく「完全順応」してて、

あまりの適応力の高さに、『嘘ぉー……』って思ってしまった。



現代日本の女子中高生が普通に転校したって、もっとナイーブに悩むでしょう??

『千と千尋』の冒頭でも、千尋はブルーになりまくってたじゃん??


「戸惑い、不安」とか「周囲との軋轢、摩擦。そこから受ける傷」が、もっと「ざらっと、生々しく」あるもんなんじゃないかなー???

10月はたそがれの国
n219100086113.nct9.ne.jp

連投して申し訳ないんだけど・・


「無人島」で、ヒロインの名前が「ナギ」で、横暴権力者の娘だと、
なんか

『テンペスト』連想させられるんじゃないだろうか??


シェイクスピアのそれは読んだことない。読者家じゃないから。
単純に「凪」の反対が「嵐」でテンペスト、っつー 安直ベタ連想なだけ。



なんだけど、いちおう、『テンペスト』ってどんな話?? とググった。

wiki

〔ナポリ王アロンゾー、ミラノ大公アントーニオらを乗せた船が大嵐に遭い難破、一行は絶海の孤島に漂着する。その島には12年前にアントーニオによって大公の地位を追われ追放された兄プロスペローとその娘ミランダが魔法と学問を研究して[8]暮らしていた。船を襲った嵐はプロスペローが復讐のため手下の妖精エアリエルに命じて用いた魔法(歌[9])の力によるものだった。
王の一行と離れ離れになったナポリ王子ファーディナンドは、プロスペローの思惑どおりミランダに出会い、2人は一目で恋に落ちる。プロスペローに課された試練を勝ち抜いたファーディナンドはミランダとの結婚を許される。
一方、更なる出世を目論むアントーニオはナポリ王の弟を唆して王殺害を計り、また島に棲む怪物キャリバンは漂着したナポリ王の執事と道化師を味方につけプロスペローを殺そうとする。しかし、いずれの計画もエアリエルの力によって未遂に終わる。
魔法によって錯乱状態となるアロンゾー一行。だが、プロスペローは更なる復讐を思いとどまり、過去の罪を悔い改めさせて赦すことを決意する。和解する一同。王らをナポリに送り、そこで結婚式を執り行うことになる。
魔法の力を捨てエアリエルを自由の身にしたプロスペローは最後に観客に語りかける。「自分を島にとどめるのもナポリに帰すのも観客の気持ち次第。どうか拍手によっていましめを解き、自由にしてくれ」と。〕

自分らしく
FL1-125-193-90-246.szo.mesh.ad.jp

佐々木というおばあさんのところに手伝いに行って、村の子供たちとの交流が出来た……あたりで、ちゃんと読むのを断念しました。
あとは斜め読みです。

10月はたそがれの国様もコメントしていらっしゃいますが、『方向性』が分からない。
余計なことを書きすぎて、読み手に与える情報が『無駄』なことが多いのではという印象を受けます。

ほのぼのとした、人物交流はほどほどに、実父との接触展開をもっと早くに持って来るべきなのではと思います。
展開が早けりゃいいというものでもないとは思いますが、それにしても、長ったらしく感じました。
後半部分を読まないと分からないのかもしれませんが、佐々木のおばあさんを出すことに、何か意味があったのでしょうか?
ナギが手伝いをして帰るとき、背中を押したのは誰?
何処かに書いてあったのかもしれませんが、斜め読み故、分かりませんでした。
すみません。
それと、ナギの人物像がいまいち、良く掴めない。
作品の世界観がぼんやりしていて、浸ることが出来ない。

『神守島』というタイトルに見合う、神聖で、かつ荘厳で、神域を犯す怖さや恐ろしさなどを盛り込んだ、神秘的で不思議な雰囲気の作品なのかと思いきや……
今のところ皆無ですよね?
ナギが龍一を連れて行った場所は、確かに神聖な感じがありましたが、それだけですよね?
ナギ本人には、何の神秘的要素もありませんし……

後半部分にいろいろと詰め込まれてあるのかもしれませんが、前半部分の構成に、そこまで読み手を引っ張るだけの力が感じられません。

設定の時代が少し古いだけの、よくあるヒューマンドラマ的な印象です。

斜め読みの感想で申し訳ありません。

では・・・

アン・カルネ
219-100-28-29.osa.wi-gate.net

うーん…。
一読で、読みながら、はてなと思った事を。
まず主人公は龍一と思って読み進めていたら、村に来たらいきなり主人公はナギに?
と思ってしまいました。

次に「上守島」
『瀬戸内に点在する島のひとつで、古くから神域として崇められている島である。決して人の手で犯してはならないと。遠い昔から、島に渡ろうとする者には必ず災いが降りかかるといわれてきた』割には、あっさり一朗&由紀乃&ナギは島にゆき、ついでに叔父さんも行き来していた模様。勿論、作者的にはこれを謎として物語引っ張るつもりなのかもしれませんが、そんなことは作者だけが知っている事で、読者の私としては『』の部分を読んだ時点で、ちょっとシラケ気味になります。だって、現実には一朗&赤ちゃん連れの由紀乃、叔父も禁忌を恐れることなくその島に渡り、一朗&由紀乃&ナギは恐れることも悪びれることもなくそこで暮らし続けてたわけだし、と。実際、村人たちも彼らが戻って来た時、駆け落ち者、恥知らずと嫌っても、神域犯しは気にしてない模様、これはどうしたことかと、神域犯しより、駆け落ちの方が重罪ですか? とちょっと白けてしまいます。っていうか、この段階で、もしかしたら、これから物語が進んでゆくと、上守島の祟り事件が起こるのかもしれないけど、これだけ前半に軽んじられて扱われては、この先起こる災いが、神災だろうと、人災(神を恐れる人の心がもたらしたもの)だろうと、もうどっちでもいいわ、という心構えに移行してしまいます…。

駆け落ち問題。
これも駆け落ちではないという真実を知っているのは前半では一朗、由紀乃、ナギ、叔父のようであると想像しながら読む事になるのですが、そこがちょっと気になるところ。
これが作者と一部の登場人物だけが知っている、という具合に読み手である私には思えますが、それは読む側としては面白い立場とは言い難いです。私はあまりミステリーを読みませんけど、主役が名探偵の場合にはなるほど、主役は読者の半歩先をゆき、作者は他の登場人物をちょっと鈍感に描き、その二つを巧く混ぜて読者に提示する事によって、読者は鈍感な登場人物よりは先に真実(答)を頭に思い浮かべることになり、その時にまた、物語の中でも真実が主役によって語られる、という手法がとられているように思います。しかし、そうでない場合は、読者は主人公の肩越しに、主人公の語る世界を見つめ、主人公とともに謎を解明しようと物語を読み進めることになると思うんですね。ところがここでは、龍一が主人公のように思える章では、彼はこの駆け落ちの謎を解明しようという意思を持っているようにはあまり見えず、真実を知っている叔父さんから諭され、ナギの純真さに、なんかよく分からないけど、何かの事情でしかたなかったんだ、と納得してしまっているように思えて、そこがまた、シラケた気持ちにさせられるのです。そしてナギ主人公編ではもう彼女は本当の事を知ってる状態で実父と対峙しているように思えます。では由紀乃は島暮らしをナギになんと説明していたのでしょう。実父の事はどこまで教えていたのでしょう。そこもどうやらそれを知っているのは由紀乃とナギ(ひょっとすると一朗、叔父も?)達だけのように思え、この駆け落ち真相問題も相変わらず、読み手である私は蚊帳の外状態です。これもここまで引っ張れてしまうと、なんかこちらもこの謎には疲れて来て、もうこのなんちゃって駆け落ちは強欲な地主から逃れる為だけのことだったのかもね、に落ち着いてしまうのです。
そうなるとこれも後半に、実は、という思いがけない事情、つまりクソ地主問題だけじゃない、一朗がこの母子をどうしても島に連れてゆかねばならなかったというミラクルな事情が提示されても、それはもう後付けじゃね? と、そういう気持ちになってしまいます。
と、スラスラ一読しながら、大きく気になったのはそんなところでした。

狙いに思うほどアクセス数が伸びない、とあったので、飽きてしまう側の立場として思った点をあげてみました。

アン・カルネ
219-100-28-29.osa.wi-gate.net

ごめんなさい「神守島」でしたね。

日乃万里永
KD106160080156.ppp-bb.dion.ne.jp

10月はたそがれの国様

お読み下さいまして、ありがとうございました。

島を出た理由についてですが、これは一朗が、島で二人を守ることが出来なくなってきたと感じたからです。
昔は島自体に力があり、人を寄せ付けずにいたのですが、時代とともに海が汚されていき、島も次第に穢されていってしまったがために、その力も衰えていってしまいました。
そして、時代とともに信仰心というものも薄れ、島を恐れなくなった人間が近づいてくるようになり、由紀乃とナギに危害が及ぶことを恐れたからです。
そのことについて、もっと詳しくかきこみたいと思います。

方向性についてですが、それは、困難や苦しみに立ち向かい、やがてそれを乗り越え、気付きを得ることです。
もう少し、情報の出し方について、考え直したいと思います。


ナギが島を出て村へ来たときの描写は、以前は書いていたのですが、もう一度かきなおしたいと思います。


実はこの話は、以前「大蛇島」というタイトルでここのサイトにあげさせていただいたのですが、設定を変えたので、その時の話の展開とまったく違っています。その、書き直す段階でいろいろと端折ってしまったところがあるので、また書き足したいと思います。

テンペストは、知りませんでした。
知っていたのは、リア王、ロミジュリ、ハムレットくらいでした。
今度、是非読んで見たいと思います。

いつも、的確なご指摘をありがとうございます。
本当に心から感謝しております。
ありがとうございました。

日乃万里永
KD106160080156.ppp-bb.dion.ne.jp

自分らしく様

お読み下さいまして、ありがとうございました。

方向性につきましてですが、途中で読まれるのを断念されることのないよう情報を先にだし、構成を変えたいと思います。

「後半部分を読まないと分からないのかもしれませんが、佐々木のおばあさんを出すことに、何か意味があったのでしょうか?」

 佐々木のお婆さんは、後半でも、大いに必要な人物となっております。

「ナギが手伝いをして帰るとき、背中を押したのは誰?」
 
 特定の誰かではなく、普通に村の子どもです。

「それと、ナギの人物像がいまいち、良く掴めない。作品の世界観がぼんやりしていて、浸ることが出来ない。」
 
 ナギが島をでて村にくるところから、描写したいと思います。作品の世界観についても、もっと詳しく書き込みたいと思います。

「『神守島』というタイトルに見合う、神聖で、かつ荘厳で、神域を犯す怖さや恐ろしさなどを盛り込んだ、神秘的で不思議な雰囲気の作品なのかと思いきや……今のところ皆無ですよね?」
 
 タイトルからそのように連想されるのだと分かりました。
 神守島は確かに神秘的な島ですが、神域を侵す怖さというよりは、島自体が人を選ぶということなので、描き方に気を付けようと思います。 

 率直なご意見をくださいまして、ありがとうございます。
 
 本当に参考になりました。
 ありがとうございました。  

日乃万里永
KD106160080156.ppp-bb.dion.ne.jp

アン・カルネ様

 主人公は龍一ですが、ナギの行動までは龍一の視点から描写出来ず、ナギ視点を挟みました。
 
 神守島についてですが、少し描き方が悪かったのだと気付きました。
 神域を侵す……というよりも、近付きたいけれど近付けない。おいそれと立ち入れば、後でとんでもないことになるというところなので、村の人にしてみれば、よくあんな場所で暮らせたと驚いているのです。
 なので、家族を捨てて駆け落ちしたというほうが許せないのです。

 駆け落ちにつきましては、作中でも触れていますが、由紀乃は宮前に犯されています。
 由紀乃は自死を考えるほどに深く傷つきましたが、両親のことを思い、踏みとどまりました。
 そして娘が生まれた後も、宮前との暮らしになじめず、憂いているところを一朗が見かねて声を掛けたのです。
 
 龍一がそれを知った経緯を書いていなかったので、書き込みたいと思います。
 
 ナギも、あの父親から逃れるために島に暮らしていたのだと思っていますが、そのあたりも詳しく書きたいと思います。


 率直なご意見の数々、とても参考になりました。
 
 とても感謝しております。
 ありがとうございました。 

アン・カルネ
219-100-28-11.osa.wi-gate.net

うーん…。しつこく再訪してしまってごめんなさい。
主人公は龍一だけど、ナギの視点が必要なため、というのは作者都合ですよね…。
勿論、読み手も作者視点で物語を読むのであれば、そういう理解をするのでしょうが、私はただの読書好きの読者なので。その上で、今回、読むに当たって私なりに心がけたことは「アクセス数が伸びない」ここでした。とすると、読む気満々の読者ではなく、おそらくタイトルを見て、面白そうかな? と何の気に無しにこれを読み始めるであろう人の気持ちで読みだす事、ここを一番、心がけたんですよ…。そうなると、第一部 龍一。第二部 ナギ。とか、そういう親切心は必要なのでは? と思います。そうでないと、一部の終わりの部分からは、まだ起承転結の「起」の途中という印象なので、ちょっと第二部で、あらら、主人公変わるんだ、と思っちゃうんですよね。

あと神守島。読者は、というか、私はまっさらな状態です。最初に与えられた情報は『瀬戸内に点在する島のひとつで、古くから神域として崇められている島である。決して人の手で犯してはならないと。遠い昔から、島に渡ろうとする者には必ず災いが降りかかるといわれてきた』これです。『決して人の手で犯してはならない』なので、とても領域侵入としての「侵す」感覚には受け取れないんですよね。まさに罪、過ちを「犯す」。そう言うふうに受け取れてしまう。
それに『』内は大きな伏線だろうとも受け取ってしまうので…。
なのに、実は「村の人にしてみれば、よくあんな場所で暮らせたと驚いているのです。」とくるとなると、これはもうちょっと、どうなのかなあ…。

また≪母は父に見初められて嫁いだそうだが、当時女は自由に結婚相手を選ぶことは出来ず、親の決めた相手と結ばれることが当たり前であったらしい≫≪母は結婚前、既に自分を身篭っていたという≫
これが初出しでは? と思ったのですけど、読者としては例え手籠めにされたにしても、「親の決めた相手」なんだから、時代背景と村社会ということを考えれば、それはもうしょうがないよね、と受け取っていました。「由紀乃は宮前に犯されています。」という衝撃的な印象にはなりませんでした。これが幼馴染の許嫁がいたにもかかわらず、横恋慕の地主に手籠めにされ、周りはそれを承知の上で、相手は地主だし、ここはもう、手籠めにした相手と添わせてしまえば、強姦もなかったことになる(明治大正昭和、赤線があった時代までの価値観だよなあ)と、祝言をあげさせられて、しかも結婚してみたら、今度は暴力亭主で、とうとう乳飲み子を抱えて逃げ出さなければ、というのなら分かりますけどね。
「由紀乃は自死を考えるほどに深く傷つきました」という匂わせってありましたか。そこはちょっと読み取れませんでした。
で、駆け落ち問題と思うのはこの≪≫内容をまさかそのままナギに伝えたわけではあるまい、と思ったんですよね。
一応、「家に戻り、ナギが父の言葉を伝えると、母はやはりとんでもないとばかりに大きく首を横に振った。」の後に語られる事ではありましたけど、具体的にどこまでナギが知っているのかってことなんですよ。
えっとね、作者さん、あっさりと「駆け落ちにつきましては、作中でも触れていますが、由紀乃は宮前に犯されています。由紀乃は自死を考えるほどに深く傷つきました」と書かれてますけど、16歳の娘さんですよ。母として、それ娘に言いますかね。私はお父さんに犯されて、あなたを産んだの。これ言えなくないですか? 私だったら、これだけは親として墓場まで持って行かなければならない、決して娘には伝えられない真実で、これこそ娘に問い詰められても、決して教えないです。ってかそもそも父親が誰か、それは絶対に教えないと思う。あなたは私が1人で身ごもって1人で産んだの。どうしてもどうしても欲しい赤ちゃんだったから、で押し切りますわ。隔絶された島で暮らしてきたんだし。例え村に戻ってからでも、周りがどう言おうとも、それこそ、お父さんは旅をしている人だったの、と嘘を教えますわ。真実ばかりが大事じゃないって。将来、娘が大人に成って、誰かと家庭をもって、親になる時が来ることを思えば、猶更です。なので、ナギと龍一に、大人たちはどう説明しているのかというのは結構、気になりました。だから、なんとなく了解事項のように物語が転がる事にちょっと付いて行けないなあ、と思ったのかもしれません。

日乃万里永
KD106160080156.ppp-bb.dion.ne.jp

アン・カルネ様

再訪恐れ入ります。

第一部 龍一
第二部 ナギ
ですね。了解致しました。
早速そのように書き加えたいと思います。


「決して人の手で犯してはならない」
 
 この表現は違う形に変えようと思います。
 誤解を与えてしまう言葉なのだとわかりました。
 ご指摘ありがとうございます。


 由紀乃の心情に関しては、改稿前は多視点でしたので書き込むことができたのですが、今回二視点なので書ききれず、表現しきれませんでしたが、由紀乃は事実をナギに告げたりはしません。そんなことは私でもやりません。
 ナギは、恐ろしい父親から母が逃れたかったのだと理解しています。
 龍一には、そのあたりの事情をはっきり、何らかの形でわからせようと思います。

 本当に真剣に読んでいただいてありがとうございます。
 もう、感謝しきれません。
  
 ありがとうございました。

10月はたそがれの国
n219100086113.nct9.ne.jp

「方向性」と言うのは、

1: 青春ライトミステリ、ぐらいで行ける内容なのか?
2: 横溝『女王蜂』みたく、過去の因果が絡まった暗い話なのか?
3: 江戸川乱歩『孤島の鬼』式に、SF設定も添加したワンダーワールドなのか??
4: 過去の因習や因縁のミステリ、伝奇ファンタジー にゆくことなく「昭和が舞台な一般小説」なのか??

って、カテゴライズ? の話です。



ここのサイトに上がってる『神の生まれる場所』は「2」。
私がちんたら書いてみてて・止まり中な孤島ものは「3」。

「1」は、乙一とか、麻耶雄嵩とか、恩田陸とか……たくさんの人が書いてる。
「4」は、池澤夏樹とかが書いてる。(読書家じゃないんで、ぱっと出て来たのは池澤夏樹)


エブリスタとかカクヨムで小説見てる人らが求めてるのは、多くは「1」だと思う。


「1」なら、冒頭から「1な路線であること」を鮮明にして書く(1に相応しい書きようで行く)ことで、
読者は安心して読み進められるんですが、、、


これは現状だと、「2」をぶちこんで来られそうな気配満々だもんで、読者からしたら気が重たくなるの。。


私、ミステリは好きだけど、「嫌ミス」と「横溝路線」が嫌いで、、、湊かなえとか絶対に読まん。
(嫌だから近づかない)


だから、ここのサイトでも嫌ミスな叶さんは、「読むまでに時間かかる」んですよ。
(斜め読みにしても、時間かかる)

同じ理由で、『神の生まれる場所』は、食指がうごかなくて、、、『よーし、雨で暇んなったから、いっちょ読むぞー!』って決心がなかったら、たぶんいまだに読んでない。



「見ず知らずの人に読んでもらうこと」が、ここのサイトだと「当たり前」のように認識されてんだけど、
それは当たり前なんかじゃないので、
《読んでいただくために》は、「読者への気配り」が必要。

13hPaブロでしょ
KD111239127235.au-net.ne.jp

>なかなかアクセスが伸びません。

というのは単純にアクセスが少ないのか、コメントが付かないということなのか、他のサイトのシステムはよくわからないので勝手な前提で言ってしまうんですけど、個人的には書き出しの時点で読み進めるかどうかの判断としてなら、たぶんやめると思うんですね。

長いのに、表現が怪しい。
そう感じさせられながらも読み進めるにはそれなりの理由が必要になるということなんだと思います。
通り一遍のお客さんにはちょっと届かない気がします。


> 瀬戸の海は、真夏の焼け付くような日差しを煌々と照り返していた。
 だが龍一にとってその光景は今、先ほどまで見慣れたものとは違っていた。
 つい先ほどまで、穏やかに見えていたはずの波が、急に荒々しくさえ見えた。
 わずかな願望と失望への恐れが入り混じった、その名のように鋭い眼光から望む紺碧の海は、まるで黒い靄に覆われているかのようだった――。


厳しいかもしれないですけど、書き出しの段落で個人的にはアウトです。
この先に待つ長いお話の世界に期待を預けられる気がしないです。

文章的に下手なのか、正確ではないのか、未熟なだけなのか、その理由を判断する必要はないとは思うんですけど、単純に野暮ったいという一言で個人的には理由として十分な気がしています。





瀬戸の海は、真夏の焼け付くような日差しを煌々と照り返していた。
そんな景色すらも、瞬く間に豹変した気がした。
穏やかに見えていたはずの波が突如として荒ぶる。
湧き上がるわずかな願望と、失望への恐れに揺れる龍一の目の前で、紺碧の海がとりとめのない黒い靄に瞬く間に覆われた気がしたのだ。




いきなりの改稿ですみません。
あくまでも雰囲気として伝わればと思うんですけど、正しいとか間違ってるとか、良いとか悪いってことを比較したいんじゃないことをまずは理解してもらったうえで、意味とか目的とか繋がりも含めて表現の違いを考えるなり感じるなりしてみて欲しい気がするんですね。
文脈として踏襲してながら、引用しない単語や表現や視点があったり、時制や角度、あまり言い過ぎるとややこしくなってしまうかもしれないんですけど、あらゆる条件を観察してみて欲しい気がします。
つまり文章的、表現的“確度”のようなものにすごくひ弱な印象を受けるんですね個人的には。
書きながら、果たして作者には世界や時間が見えているのか、という率直な疑いを感じます。

> 龍一は、早朝より叔父と同い年の従兄弟とともに沖へ漁に出ていたが、無線で、ある知らせを受けたのだ。
 十六年前、終戦翌年の夏、突然家族を置いたきりずっと行方不明だった父が急に帰って来たと言う。

次の段落も観察に含めるとさらに理解しやすいはずと思うんですけど、これはただの個人的な感覚でしかないのかと言えば、そうではない気がするということですね。


出来るだけ流さないように読ませてもらったつもりでいるんですけど、ズレたこと言ってる気がしたなら気にしないで下さい。
恐らく作者はこの世界を描きながら、書きたいことがわかってないんだと感じさせられました。
舞台に対する表現、構成、設定。
人物の思考、行動、感情の動き。
物語としての設計、配置、俯瞰。
なんだか鬱陶しいことを並べているようでいて実は根拠としては簡単な気がしているんですけど、作者にはこの作品の作為という意味での“ジャンル”という書き進める上での分類が明らかに不明瞭なんだと思うんですね、たぶんなんですけど。

人物の感情の動きはまとも、だけど行動は頓珍漢。
背景の設定や事情はまとも、だけど展開はやっぱり頓珍漢。

伝わりますかね、ヘタクソって言ってるんじゃないです。
作為としての観察がまばらだから、結果として現れるものが曖昧で覚束ないものになってる気がする、ってことです。
それは物語としてのアイデア、展開そのものすらも狭く小さくさせることだと個人的には考えるもので、恐らくこれは作者本人の良く言えば特性、悪く言ってしまえば振り幅の小ささってことだと感じさせられています。

現時点だけの印象で勝手なことを言ったらいけないんですけど、龍一が主人公である必要はないし、ナギから始まる物語でも問題のないハナシを、無駄な配置とごちゃごちゃな感情に迷わせながら目的や背景を一番遠いところに置いて書いている、なんて言い方はあんまりですか、でも何だか察するような気にさせられるんですね、この書き方は書こうとしていること、書きたいと思っているはずの目的に対してきっと正確じゃないのではないか、ってこと。

勝手なこと言ってすみません。
このまま書き進めることはたぶん、この舞台がなくても書けることになってしまう気がするってことなんですけど、伝わりますかね。
もちろん書き進めてたどり着いた結果わかることでも全然問題ないはずなんですけど、それでも気付かない人は普通にいるはずっていうこれはただのお節介のつもりです。

描きながら世界を俯瞰することを進めて、気が付いたなら書きなおすことは面倒だけど価値がある気がします。
機会があったら後半で確認させてもらいたいと思いますけど、どうなんだろ? って感じがしてます個人的には。


感じ悪く伝わってしまったならすみません。
ものすごく作者のクセが出ている気がするってことです。

10月はたそがれの国
n219100086113.nct9.ne.jp

「書き出し」は・・

(一案↓)


 早朝より叔父と同い年の従兄弟とともに沖へ漁に出ていた龍一は、その日、無線で知らせを受けた。
 十六年前、終戦翌年の夏、突如家族を置いて蒸発した父が、帰宅して来たと言う。
 即刻漁を取り止めて、港へ引き返した。船着場に到着するなり飛び降りて、駆け戻った。

 龍一の家は瀬戸内に代々続く漁師の家で、海岸沿いに間口狭く軒を連ねた、古い木造家屋だ。はやる心で駆け込んで奥の間に行くと、祖母が泣きはらした顔で出迎えた。
「龍一……」
 瞳を潤ませ、訴えるように目線を送った先、襖戸奥の薄暗がりの中に父らしき男がいた。
 髪や髭は伸び放題で、……



ってー『父帰る』から始めるパターンで、
ちょっと ドラマ『漂着者』風?

日乃万里永
KD106160080156.ppp-bb.dion.ne.jp

10月はたそがれの国様

再訪下さいまして、すみません。

方向性につきまして、島の設定が誤解を与えてしまう描き方をしているようなので、訂正したいと思います。

書き出しについて例文を挙げてくださいまして、ありがとうございます。

先ほど娘(24)に、この作品を読んで欲しいと言ったところ、紹介文をもっと工夫しないと駄目だと言われました。
娘は私の小説を読もうとはしないので、紹介文とあらすじだけで判断してもらったのですが、これでは読む気はしないとのことです。

実際エブリスタでは、数人の方がブックマークしてくださり、一話ごとにコメントを下さったかたもいたのですが、完結したあと、ピックアップしていただいたにもかかわらず、まず、あまり誰にも読まれません。

入り口がまず悪いのだと思い、紹介文から替える必要を感じていますが、それよりも内容について、もう少し考え直したいと思います。

いろいろとお手数おかけしまして、もうしわけありません。
ご厚意をとてもありがたく思っております。

ありがとうございました。

日乃万里永
KD106160080156.ppp-bb.dion.ne.jp

13hPaブロでしょ様

お読み下さいまして、ありがとうございました。

冒頭の改稿、恐れ入ります。

以前、他のサイトでお世話になったかたに、この話を少し改稿していただいたことがあるのですが、それはもう、本屋に並んでいてもおかしくないくらいのレベルでした。
文章が拙いのは重々承知しているのですが、こうなれば、小説の学校に通う必要もあるのかなと考えています。
それでも、ネットで添削してくださるサイトがあるので、まずそういったところにお願いするのも一つの方法かとも思います。

話が頓珍漢ということで……。

具体的に教えていただければ嬉しいのですが、アンカルネ様と、自分らしく様、10月はたそがれの国様にいただいた問題点を解決することで解消されるものでしょうか。



この度はご感想くださいましてありがとうございました。
とても親身にお考えくださいまして、本当に心からお礼申し上げます。

ありがとうございました。

sp1-75-3-144.msc.spmode.ne.jp

とても感覚的なことなので、お分かりにならなかったら、適当に読み流してくださいな。



冒頭。

穏やかな波、紺碧の海(真夏、晴れ)❇︎1
荒々しい波、黒い靄に覆われる❇︎2

作中人物の心境の変化が景色の見えかたを、1→2へ変えた。


いっけん、何でもないような文章だ。
ありふれている。
適当に読んでいれば、気にならないかもしれない。
でも、これはよく考えると、驚くべきことだ。尋常ではない。
何かしら尋常なことが起こったから、というのはあまり理由にならない。

いくら心境の変化があろうと、景色の見えかたがリアルタイムで変わることなど、あり得るだろうか?
そんな驚くべきことを、ありふれた文章で済ましてしまっていることで、私は、この筆致の大味ぶりに気持ちが離れてしまった。




蛇足ですが、私は、この場面の空間や距離、作中人物の様子や心境の変化の具合などをいちいち事細かく書かなければいけないと言っているのではないです。

文章は取捨選択の連続なので、別に書かなくてもいい、つまり省いても全然いいのだけど、書き手の頭の中にはある程度まで省かれたという事実があって然るべきで、望ましくはそれが行間なりなんなりから伝わってくるのが良いと私は思う。

日乃万里永
KD106160080156.ppp-bb.dion.ne.jp

ゐ様

お読み下さいまして、ありがとうございました。

冒頭の文章に関しましては、でしょ様が改稿して下さった文章に、私はもう、圧倒されてしまいました。

正直に、敵わないなと思いました。

あのような文章が書きたいと思いながら、それはもう、生まれ持った力量の違いなのだと思います。

ですが、私なりに、もう少し頭を使って、冒頭の文を変えてみたいとも思っております。

ご感想くださいまして、ありがとうございました。

u
opt-220-208-25-236.client.pikara.ne.jp

読みました

なんといったらいいのか 物語はあるとは思うのですが
なんだか お話を急ぎ過ぎかなwww

TV連続ドラマとか(例えばNHK朝ドラwww)あるいは映画のsynopsisとすれば面白いかも(脚本までにはなっていないとあたしは思うwww)

でも本作は小説ですよね
多分 日乃万里永さん(手抜き)かもwww エピを羅列したみたいに感じる

メインキャラ 端役 モブキャラ 全ての心情が描けていない
だから全てのキャラの(行動)が(チグハグ)変www てか読者としては?????なのですよ

1例2例あげれば龍一の父が何故ナギ母と駆け落ち? ナギ実父の執着(彼 現在の家族を捨てるといっている)その他龍一がナギをさける心持とか(彼が父をさけるという気持ちはわかるけどナギを避けるはワカランというかかけてない いうなれば後半へ話を持っていきたい作者の都合)etc
そういった部分を無視して作者さん話をすすめるのでなんだか読者(あたし)としては置いてけぼりwww作者さん!
もう少し登場人物に寄り添ってよwww ミタイナ感じです

まあ 最近このサイトでそこそこ長いものを読めるのは歓迎ですwww
あざ~す


  

 


 

レイス
softbank126241224149.bbtec.net

 度々お名前を拝見していましたが、こうして書き込みをするのは何年かぶりです。また、かつての大蛇島を何度も改稿していることや、その流れを汲んでの本作であることも承知しています。

 先に断っておきますが、本作に目は通していません。かつて私は、同じ内容の文章に何度も目を通すほど酔狂ではないと偉そうに語ったことがありました。ですが、実際そうなのです。再読に足る書籍は気に入ったものか、感銘を受けたものか、特定のシーンに思い入れがあるか、人によって理由は様々です。なぜか分からないが、手放すことができない。仮に手放してもまた買ってしまう。ボロボロになるまで読み込んでしまう。それだけその本の内容に魅了されたということなのでしょう。
 あなたにはそのような物語はありますか? あるのならそれを参考にするべきでしょう。

 コメントが中々つかないことで悩んでいるようですが、好きな作家の作品ならいざ知らず、素人が書いた話を読むのってしんどいです。
 インターネットが普及していなかった時代、小説投稿サイトなんてなかったので書店で売られている小説投稿雑誌を購入して執筆の参考にする。もしくは雑誌に投稿したり文学賞に応募する。友人に読んでもらって感想をもらう。ただし、それなりに精通している人じゃないと客観的な感想は望めません。自身の経験ですが、友人の意見は全く役に立ちません。重箱の隅を楊枝でほじくるようなことばかりで、肝心な部分に全く触れてくれませんでした。
 なにが言いたいかというと、過去にも書きましたが、人のコメントは当てにしないほうがいいです。
 感想を書いてくれた方に失礼なことは承知していますが、振り回されては駄目ってことです。そういう見方もあるのか程度に留めておいたほうが無難です。様々な意見を取り入れた結果、前にも増してちぐはぐになってしまっては元も子もありません。
 ここまで書いて反感もあるでしょうが、色んな方の感想欄を眺めていると、作者が感想を書いてくれた方に忖度しているようなやり取りが散見されます。波風を立てないように流しているのでしょうが、もやもやします。

 作品と関係ないことを書き連ねましたが、最後にもう一つだけ。かつて私が推敲した大蛇島の冒頭部分についてです。勘違いなら恥ずかしいですが、感想欄で触れられていたので。
 あれを書いた経緯は、感想欄であなたとやり取りを繰り返しても私の言葉がうまく伝わらない。だったら実演したほうが伝わるんじゃないかと考えたからです。凹むことを承知で書いた。一つの可能性を示唆したに過ぎない。データが消えてしまって手元に残っていないので確認できませんが、そんなことを書いた記憶があります。
 書き手の中にはこちらの言わんとすることをくみ取り、それを作品に反映させることができる人がいる一方、何度指摘しても作品に反映されずに変化に乏しい人もいる。そんなことも感想で書いた記憶があります。大変失礼ながらあなたは後者に当たります。だから実演しました。ですが、それが活かされたとは言えません。
 同じ作品に何度も手を加えたり、その流れを汲んだ作品を書くことを否定はしません。けれど、読者目線で見ると、まだこの作品に拘っているのかと受け取られたり、全体に目を通した結果、構成や展開に大した変化がなければ次は読んではくれません。
 これが冒頭で述べた『同じ内容の文章に何度も目を通すほど酔狂ではない』ということに繋がります。
 以前、よそのサイトである人に例として書いたことがありますが、体重が500グラム減った程度では見た目に変化がない。見た目に変化がでるくらいに体重を減らせ。例が適切かはさておき、無駄な場面を減らせ、余計な文章を削れという意味合いで書きました。
 感想欄を流し読みしたんですが、似たようなことが散見されたかな。物語に無駄な部分はないと私は考えています。
 もう一度ご自身で決められた枠の中にピースがちゃんと収まっているか、揃っているか、足りていないか、枠の外にはみ出ていないか。などを確認してください。
 それから、文字数の関係で載せられないのであればともかく、前後編じゃなくてまとめたほうがいいかと思います。今回の読者が次に読んでくれる保証はないので。

 読んでもないくせに長々と書きましたが、知ってる方が今も書き続けていることはうれしいです。
 では、失礼します。

日乃万里永
KD106160080156.ppp-bb.dion.ne.jp

u様

お読み下さいまして、ありがとうございました。

ご感想をいただくごとに、いろいろと気付かせていただくことが多く、大変ありがたく思っております。

後日、龍一がナギを避ける理由も、実父が執拗にナギと由紀乃に執着するわけもすべて書き込み、初めから終わりまでまとめて投稿させていただきたいと思います。

ご感想くださいまして、ありがとうございました。
心から、お礼申し上げます。

日乃万里永
KD106160080156.ppp-bb.dion.ne.jp

レイス様

 お立ち寄りくださいまして、ありがとうございます。
 私が、今までに読んだ本は、三浦綾子の氷点。他同作者による作品数作。
 氷室冴子、新井素子の作品を数作。最近では島本理生のレッド。
 西加奈子のしろいしるし。ほかいろいろですが、ボロボロになるまでなんども読み返したのは、主に漫画ですね。
 今はピッコマでいろいろと読み漁っていますが、今嵌っているのは「バキ」です。

 私が初めて小説を書きたいと思ったのが、この作品でした。
 もう、17年前になります。それでももっと遡ると、15の時です。
 始めは大蛇島というタイトルで、神視点という形で書きましたが、主人公がはっきりせず、感情移入出来ないというご意見をいただき、視点を絞りました。
 設定も変え、舞台を村と島のみにしました。島の設定も、もう少し、「ありえる」ものにしました。登場人物も絞りました。
 結果、二視点になりましたが、これ以上あまり視点を多くしないほうが良いようなどうなのか、もう一度神視点に切り替えようかと今考え中ですが、書いてみなければわかりません。
 
 私は、レイス様もお気づきかと思いますが、いや、もう確実に超が付くほどうっかり者です。
 しかも過度のうっかりなので、見落としが多いのです。
 身近にそういうことを指摘してくださる方がいれば良いのですが、なかなかそういう方はいません。
 私もかつて友人に作品を読んでもらったことがありまして、的確なアドバイスをいただきましたが、友人は仕事をしていたり、忙しいかたが多く、なかなかお願いできません。それに、あまり乗り気でないような様子なのに、無理にお願いすることもできませんでした。
 それで、こちらの小説投稿サイトで、読んでくださるかたにお願いして、ご意見をいただくことが、私にはとても重要なことなのです。
 それは本当にありがたいことで、言葉に尽くせません。
 そうしていただいたご意見はすべて貴重なお言葉として受け止めさせていただいています。
 そのご意見のすべてが、私には腑に落ちるものでしたので、素直に聞き入れることが出来ます。
 確か忖度はしていないと思います。そんなに、すべてまるごと聞き入れることはしてはいないので。
 
 
 以前改稿して下さったこと、本当に感謝いたしております。
 その時のデータですが、パソコンに保存していたのですが、熱暴走でパソコンが壊れてしまい、夫に中のデータを復活できないか頼んだのですが、叶いませんでした。
 
 改稿していただいた作品は、本屋にならんでいてもおかしくないくらいの文章でしたが、私の言いたいことから少しづつズレてしまっていたような気がします。
 私の作品は私が書き上げるしかない。そう思っています。
 
 昨夜眠れないくらいに考えて、一番のミスに気付きました。
 これを言ったら本当に皆さんに怒られるので言えませんが、自分を叱りたいくらいにやってはいけないミスです。
 
 これから改稿作業を始めて行こうと思っています。
 本当はアップする前に誰かに読んでいただきたいところですが、納得するまで頑張って自分で書き上げ、後日また、始めから最後まで投稿したいと思います。(二回にわけたのは、すべて乗せようとしたときに、文字数のエラーが出たからです。)
 
 どれだけのかたが読んで下さるかわかりませんが、全力を尽くしたいと思います。

 この度は、お言葉を寄せてくださいまして、ありがとうございました。

 本当に嬉しかったです。

 ありがとうございました。

瀬尾辰治
sp49-98-60-21.mse.spmode.ne.jp

日乃さん、冒頭だけ読みました。

 瀬戸の海は
~「は」←この書き方だと、名詞文か、形容詞文でないと変ですよ。

連体形と、格助詞と、格助詞の意味も覚えるといいと思います。
(本文の動詞の語尾から考えると、という意味です)
瀬戸の海に、瀬戸の海で、瀬戸の海が、瀬戸の海を、他。

以前、電車から旦那さんが降りてくるストーリーを読んだのですが、助詞の間違いが多かった感じでした。
まあ、他人に惑わされず、全て自分で調べて、書きたいように書くのがいいと思います。

日乃万里永
KD106160080156.ppp-bb.dion.ne.jp

瀬尾辰治様

冒頭に関して、ご指摘くださいまして、ありがとうございました。

助詞の間違い、連体形、格助詞について、きちんと学びたいと思います。


ご助言くださいまして、ありがとうございました。

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